説明

多孔質基材の検査方法

【課題】表面にペースト層を有する多孔質基材におけるペーストの含浸状態の新たな検査手法を提供する。
【解決手段】アノード側ガス拡散層23についてのペーストの含浸状態を検査するに当たり、アノード側MPL23aを表面に備えたアノード側ガス拡散層23の裏面に金属膜KMを接合済みの状態とする。そして、金属膜KMを接合済みのアノード側ガス拡散層23に対して、送信側超音波探触子130からアノード側MPL23aに向けて超音波を送信し、アノード側ガス拡散層23および金属膜KMを透過した超音波を受信側超音波探触子140で受信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペースト層を表面に備える多孔質基材におけるペーストの含浸状態を検査する検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペースト層を表面に備える多孔質基材は、多孔質であるという性質に適った用途、例えば、燃料電池では、プロトン伝導性を有する電解質膜の両膜面の電極へのガス拡散供給を図るガス拡散基材として用いられている(例えば、特許文献1)。この特許文献1では、カーボン繊維等の多孔質基材の表面に、撥水性と導電性とを発揮できる撥水性インク(ペースト)を塗布して拡散層(ペースト層)を形成している。
【0003】
一方、多孔質基材における気孔率等を超音波にて非接触で測定する技術も提案されている(例えば、特許文献2等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−94723号公報
【特許文献2】特開2007−218915号公報
【特許文献3】特表2008−545123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ペースト層の形成に際して塗布等されるペーストは、粘性を有するとはいえ流動することから、塗布等の対象である多孔質基材にその表面(塗布面)の側から染み込み、基材に含浸することがある。ペーストの含浸箇所は多孔質基材の細孔内であることから、乾燥を経て細孔周壁にペーストが凝集して細孔空隙を狭くしたり、閉塞してしまうことが危惧される。また、ペースト塗布に際しては、例えば面積当たりの塗布量が同じとなるようにされるが、上記した含浸の程度が相違すると、ペースト層の厚みが不均一となることも有り得る。このようなペーストの含浸による細孔空隙の狭小化や厚みの不均一化は、電極へのガスの拡散状態、延いては燃料電池の発電性能に影響を及ぼしかねない。しかしながら、多孔質基材の表面にペースト層を形成する際に特有の上記したペーストの含浸に関する検査は行われていなかった。
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、表面にペースト層を有する多孔質基材におけるペースト含浸の状態検査に対処できる新たな手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的の少なくとも一部を達成するために、本発明では、以下の構成を採用した。
【0008】
[適用1:多孔質基材の検査方法]
ペーストを用いて膜状に形成されたペースト層を表面に備える多孔質基材における前記ペーストの含浸状態を検査する方法であって、
前記多孔質基材に対して、前記ペースト層の側から超音波を送信し、
前記多孔質基材を透過する超音波を、前記多孔質基材の裏面に薄葉状の固体薄膜を接合させた状態で前記裏面の側にて受信し、その受信状態により前記含浸状態を検査する
ことを要旨とする。
【0009】
上記手順を備える多孔質基材の検査方法では、ペースト層を表面に備える多孔質基材を透過する超音波の受信を行うに当たり、この多孔質基材の裏面に薄葉状の固体薄膜を接合させ、この固体薄膜接合済みの状態で多孔質基材を透過する超音波を受信する。このため、超音波の受信状態は、次のようになる。
【0010】
多孔質基材表面のペースト層が外部環境に晒される外表界面では、その界面を境にペースト層と外部環境(例えば大気)とにおいて超音波に対する音響インピーダンスが大きく相違する。このため、多孔質基材に対してペースト層の側から送信された超音波は、その多くが上記の外表界面で反射し、ごく一部がペースト層を経て多孔質基材に伝播する。つまり、多孔質基材には、エネルギーを大きく減衰した状態で超音波が伝播する。そして、この多孔質基材にあっては、細孔を空隙としていることから、多孔質基材を伝播する超音波のエネルギーは、多孔質基材における空隙の存在状態に起因して低下する。以下、この現象を多孔質基材へのペーストの含浸と関連付けて説明する。
【0011】
多孔質基材表面へのペースト層形成に際して、ペーストが多孔質基材への含浸を起こしていないと仮定する。この際の多孔質基材は、その有する細孔の全てを空隙としていることから、多孔質基材を伝播する超音波のエネルギーは、多孔質基材伝搬により最も大きく低下する。これに対し、ペーストが多孔質基材の厚み方向においてくまなく含浸していると仮定すると、この際の多孔質基材は、その厚み方向において細孔がペーストで閉塞もしくは細孔空隙の狭小化されていることから、多孔質基材を伝播する超音波のエネルギーの低下程度は、最も小さくなる。つまり、多孔質基材を伝播する超音波のエネルギーの低下程度は、多孔質基材へのペースト含浸の状態に基づいて、変わることになる。
【0012】
上記手順を備える多孔質基材の検査方法では、検査対象の多孔質基材の裏面に薄葉状の固体薄膜を接合させているので、多孔質基材と固体薄膜との界面である基材裏面においても、音響インピーダンスの相違により、既述したように超音波の反射と伝播が起きる。この場合、多孔質基材にペーストの含浸程度が小さいために空隙が多いほど、基材裏面における多孔質基材と固体薄膜との音響インピーダンスの相違は大きくなる。このため、基材裏面に到達した超音波は、多孔質基材伝播の際のエネルギーの低下程度が大きいほど、即ち、多孔質基材へのペーストの含浸程度が小さいほど、固体薄膜をより一層と透過できなくなり、多孔質基材裏面の側での超音波の受信状態は低下する。つまり、多孔質基材裏面の固体薄膜が、多孔質基材における超音波の透過状態を顕著化させる。そして、超音波が多孔質基材を伝播する際のエネルギーの低下程度は、既述したように多孔質基材へのペースト含浸が少ないほど大きくなり、ペースト含浸が進むほど小さくなるよう、ペーストの含浸状態に基づいて変化するので、多孔質基材を透過した超音波の受信状態は、多孔質基材へのペーストの含浸状態に依存することになる。よって、上記手順を備える多孔質基材の検査方法によれば、多孔質基材裏面に固体薄膜を接合済みの状態で超音波を受信することにより、多孔質基材における超音波の透過状態を顕著化させて、その受信状態を多孔質基材へのペースト含浸状態と対応付け、当該含浸状態を適切に検査できる。この場合、多孔質基材裏面に接合する固体薄膜としては、金属を膜状に延伸形成した金属膜を採用できるほか、プラスチックの薄膜成型品とすることもできる。
【0013】
この他、上記した検査方法は、次のような態様とすることができる。例えば、検査対象となる前記多孔質基材を、燃料電池に用いられるガス拡散基材であって、その表面に前記ペースト層としての気孔層を備えるものとし、該気孔層を、導電性粒子をプロトン伝導性を有する電解質樹脂に分散させたペーストにて形成し、層において気孔を有するものとする。こうすれば、燃料電池に用いられるガス拡散基材についての気孔層形成用のペーストの含浸状態を適切に検査できる。
【0014】
[適用2:多孔質基材の製造方法]
多孔質基材の製造方法であって、
前記多孔質基材の表裏面の一方の面に、ペーストを用いて膜状のペースト層を形成すると共に、他方の面に、薄葉状の固体薄膜を剥離可能に接合し、
該固体薄膜が接合した状態で、前記ペースト層の側からの前記多孔質基材に対する超音波の送信と、前記固体薄膜の側での多孔質基材透過超音波の受信とを行い、その受信状態により前記多孔質基材へのペーストの含浸状態を検査し、
前記固体薄膜を剥離する
ことを要旨とする。
【0015】
上記手順を備える多孔質基材の製造方法によれば、ペーストの含浸状態の検査を経た多孔質基材を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施例でのペースト含浸検査の対象となるアノード側ガス拡散層23を含む電池セル15の概略構成を分解して斜視にて示す説明図である。
【図2】ペースト含浸検査を組み込んだアノード側ガス拡散層23の製造手順を示すプロセス図である。
【図3】本実施例におけるペースト含浸検査の原理を模式的に示す説明図である。
【図4】アノード側ガス拡散層23に疎密の差を持たせたサンプル品についてのペースト含浸検査の様子を示す説明図である。
【図5】ステップS140で行うアノード側ガス拡散層23についてのペースト含浸検査の様子を概略的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を燃料電池に適用した実施例について説明する。図1は本実施例でのペースト含浸検査の対象となるアノード側ガス拡散層23を含む電池セル15の概略構成を分解して斜視にて示す説明図である。
【0018】
電池セル15は、電解質膜20の両側にアノード21とカソード22の両電極を備える。このアノード21とカソード22は、電解質膜20の両膜面に形成され膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly/MEA)を形成する。この他、電池セル15は、電極形成済みの電解質膜20を両側から挟持するアノード側ガス拡散層23とカソード側ガス拡散層24とガスセパレーター25,26を備え、両ガス拡散層は、対応する電極に接合されている。ガスセパレーター25は、アノード側ガス拡散層23の側に、水素を含有する燃料ガスを流すセル内燃料ガス流路47を備える。ガスセパレーター26は、カソード側ガス拡散層24の側に、酸素を含有する酸化ガス(本実施例では、空気)を流すセル内酸化ガス流路48を備える。なお、図1〜図2には記載していないが、隣り合う電池セル15間には、例えば、冷媒が流れるセル間冷媒流路を形成することができる。
【0019】
電解質膜20は、固体高分子材料、例えばフッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜であり、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。アノード21およびカソード22は、触媒(例えば白金、あるいは白金合金)を備えており、これらの触媒を、導電性を有する担体(例えば、カーボン粒子)上に担持させることによって形成されている。
【0020】
アノード側ガス拡散層23とカソード側ガス拡散層24は、ガス透過性を有する導電性で多孔質な部材、例えば、カーボンペーパやカーボンクロスを多孔質基材として形成される。アノード側ガス拡散層23は、MEAにおけるアノード21の側の拡散層表面に、アノード側MPL(Micro Porous Layer)23aを有する。このアノード側MPL23aは、導電性の粉体であるカーボン粒子をプロトン伝導性を有する電解質樹脂(本実施例では、電解質膜20を構成するフッ素系樹脂)で保持することで、層において連続気孔を形成する。アノード側MPL23aは、例えば、フッ素系樹脂の溶液にカーボン粒子を分散させたペーストを、アノード側ガス拡散層23の表面に塗布して乾燥することで、薄膜状に形成される。そして、アノード側MPL23aを表面に備えるアノード側ガス拡散層23が、本実施例におけるペースト含浸の検査対象となる。
【0021】
カソード側ガス拡散層24は、MEAにおけるカソード22の側の拡散層表面に、カソード側撥水層24aを有する。このカソード側撥水層24aは、撥水剤をカソード側ガス拡散層24の表面にスプレー塗布し、その乾燥を経て形成される。なお、カソード側撥水層24aを表面に備えるカソード側ガス拡散層24についても、本実施例のペースト含浸の検査対象とすることもできる。
【0022】
ガスセパレーター25,26は、ガス不透過な導電性部材、例えば、カーボンを圧縮してガス不透過とした緻密質カーボンや、焼成カーボン、あるいはステンレス鋼などの金属材料により形成されている。ガスセパレーター25,26は、既述したセル内燃料ガス流路47およびセル内酸化ガス流路48の壁面を成す部材であって、その表面には、ガス流路を形成するための凹凸形状が形成されている。
【0023】
電池セル15は、上記したガスセパレーター25のセル内燃料ガス流路47に水素ガスを流すに当たり、図1における左方側から水素ガスを供給する。また、ガスセパレーター26のセル内酸化ガス流路48に空気を流すに当たり、図1における右方側から空気を供給する。そして、電池セル15は、流入した水素ガスを、アノード側ガス拡散層23で拡散ししつつアノード21に供給する。空気については、水素ガスと逆向きの流れでカソード側ガス拡散層24に流入した空気を、カソード側ガス拡散層24で拡散ししつつカソード22に供給する。
【0024】
上記した電池セル15のアノード側ガス拡散層23において、アノード側ガス拡散層23の細孔に、アノード側MPL23aの形成の際に塗布したペーストが含浸していないことが望ましい。これは、次の理由による。通常、アノード側MPL23aの形成に際しては、同じ目付け量のペーストをアノード側ガス拡散層23の表面に塗布する。よって、多孔質基材であるアノード側ガス拡散層23の細孔にMPL形成用のペーストが含浸しないとすると、アノード側MPL23aの厚みは均一となるほか、アノード側ガス拡散層23の細孔空隙を狭くしたり閉塞してしまう事態を抑制できる。この結果、アノード側MPL23aを有するアノード側ガス拡散層23でのガス拡散状態の均一化を確保でき、アノード21へのガス供給(空気供給)の安定化や電池セル15での発電能力維持の上で好ましい。
【0025】
その反面、多孔質基材であるアノード側ガス拡散層23の細孔へのMPL形成用のペーストの含浸が起きると、含浸が起きた分だけアノード側MPL23aの厚みが不均一となったり、ペースト乾燥を経て細孔周壁にペーストが凝集して細孔空隙を狭くしたり、閉塞してしまう可能性がある。こうしたアノード側MPL23aの厚みの不均一化や細孔空隙の狭小化は、アノード側MPL23aを有するアノード側ガス拡散層23でのガス拡散状態に乱れを誘発して、アノード21へのガス供給(空気供給)の安定化や電池セル15での発電能力維持に悪影響を及ぼしかねない。このため、アノード側ガス拡散層23へのペースト含浸の状態検査は、製造したアノード側ガス拡散層23の採用可否決定の上で、重要視される。本実施例では、アノード側ガス拡散層23におけるペースト含浸検査を、次のようにしてアノード側ガス拡散層23の製造工程に組み込んで実施する。図2はペースト含浸検査を組み込んだアノード側ガス拡散層23の製造手順を示すプロセス図である。
【0026】
図示するように、アノード側MPL23aの形成のためのペーストを調達する(ステップS100)。ペースト調達に際しては、既に調合済みのペーストを購入等して準備するほか、カーボン粒子を、電解質膜20を構成するフッ素系樹脂(電解質樹脂)と共に、有機溶剤からなる適宜な溶媒に分散配合したペーストを調合するようにすることもできる。本実施例では、アノード側ガス拡散層23におけるペーストの含浸状態を検査することから、ペースト含浸に影響を及ぼすペースト粘度は、ステップS100でのペースト調達に際して所定のものとなるようにされる他、後述の検査結果に応じたペースト粘度調整が必要に応じてなされる。
【0027】
次に、上記のペーストを、アノード側MPL23aの形成対象であるアノード側ガス拡散層23の表面に所定の目付け量で塗布して、アノード側MPL23aを成膜する(ステップS110)。ペーストのアノード側ガス拡散層23への塗布は、例えば、スプレー法や、スクリーン印刷、あるいは、ドクターブレード法や、インクジェット法により行なうこともできる。これらの方法を用いることで、アノード側MPL23aの形成用ペーストを所望の厚みに塗布できる。
【0028】
上記のようにペーストを塗布した後は、塗布したペーストを乾燥させる(ステップS120)。この乾燥により、ペーストに含まれる溶媒は気化して、その気化箇所において微細な細孔が形成され、この乾燥を経てアノード側MPL23aがアノード側ガス拡散層23の表面に形成される。こうして形成されたアノード側MPL23aの層内部は、カーボン粒子がフッ素系樹脂(電解質樹脂)で保持された上で、溶媒気化箇所が連続した連続気孔が形成される。このアノード側MPL23aの乾燥に際しては、ペーストに用いる有機溶媒の性質に応じて乾燥温度を定めたり、乾燥のための昇温速度調整や真空乾燥の採用等することができる。なお、上記したステップS100〜120の手順に代え、アノード側MPL23aを既に表面に形成済みのアノード側ガス拡散層23を購入等して調達するようにすることもできる。
【0029】
その後、アノード側ガス拡散層23の裏面、即ちアノード側MPL23aを形成した表面と逆の面に、薄葉状の金属膜KMを接合させ、この金属膜KMをアノード側ガス拡散層23と一体化する(ステップS130)。金属膜KMの接合・一体化は、後述のペースト含浸検査後に金属膜KMが剥離できるようになされる。この場合、アノード側ガス拡散層23の裏面に金属膜KMがなるべく間隙を残さないように接合できればよく、適宜な接着剤の散点塗布による接着や、金属膜KMにアノード側ガス拡散層23を載置して保持するような手法で、ステップS130にて金属膜KMの接合・一体化がなされる。
【0030】
KMの接合・一体化に続いては、ペースト含浸検査を行う(ステップS140)。このペースト含浸検査は、作製したアノード側ガス拡散層23の全てについて行う必要はなく、定期的或いは不定期に検査対象のアノード側ガス拡散層23を抽出して行うようにできる。そして、抽出したアノード側ガス拡散層23について、ペースト含浸状態を次のようにして検査する。
【0031】
図3は本実施例におけるペースト含浸検査の原理を模式的に示す説明図である。図示するように、ペースト含浸検査には、送信側超音波探触子130と受信側超音波探触子140とを用いる。送信側超音波探触子130は、アノード側ガス拡散層23に対して、その表面のアノード側MPL23aの側から超音波を所定の送信時間に亘って送信する。受信側超音波探触子140は、送信側超音波探触子130と対向配置され、両探触子の間にセットされたアノード側ガス拡散層23を透過する超音波を受信する。こうしたペースト含浸検査に処されるアノード側ガス拡散層23は、既述したステップS130により、その裏面に金属膜KMが接合済みであることから、図3に示すように、アノード側MPL23aを送信側超音波探触子130の側とし、金属膜KMを受信側超音波探触子140の側とする。このため、受信側超音波探触子140は、アノード側ガス拡散層23と金属膜KMを透過した超音波を受信することになる。
【0032】
図3には、アノード側ガス拡散層23におけるアノード側MPL23aの形成用ペーストの含浸程度の相違と、これに伴う超音波の透過の様子、並びに超音波受信の様子が示されている。送信側超音波探触子130の送信した超音波は、アノード側MPL23aに到達した後、このアノード側MPL23a、アノード側ガス拡散層23、金属膜KMの順に伝播し、受信側超音波探触子140で受信される。アノード側MPL23aは、その晒される大気に比して、超音波に対する音響インピーダンスが大きく相違するので、送信側超音波探触子130から送信された超音波は、その多くがアノード側MPL23aの外表面で反射し、ごく一部がアノード側MPL23aを経てアノード側ガス拡散層23に伝播する。つまり、アノード側ガス拡散層23には、エネルギーを大きく減衰した状態で超音波が伝播する。
【0033】
アノード側ガス拡散層23は、ペースト含浸が起きていないほど細孔が空隙のままであるため、疎の状態であり、アノード側ガス拡散層23へのペースト含浸が進むほど、細孔がペーストで狭小となり、密の状態となる。アノード側ガス拡散層23における超音波の伝播状態は、アノード側ガス拡散層23の疎或いは密の状態で相違する。そして、アノード側ガス拡散層23を伝播する超音波のエネルギーの低下程度は、アノード側ガス拡散層23へのペースト含浸の状態に基づく拡散層の疎密に応じて変化し、疎のアノード側ガス拡散層23では、超音波のエネルギーは大きく低下する。つまり、送信側超音波探触子130から送信された超音波は、アノード側MPL23aの外表面での反射とアノード側ガス拡散層23の伝播に伴うエネルギー低下を経て、金属膜KMに到達する。
【0034】
金属膜KMとアノード側ガス拡散層23とは、音響インピーダンスが相違し、アノード側ガス拡散層23へのペーストの含浸程度が小さいために空隙が多い疎の状態ほど、音響インピーダンスの相違は大きくなる。このため、アノード側ガス拡散層23の裏面に到達した超音波は、アノード側ガス拡散層23の伝播の際のエネルギーの低下程度が大きいほど、即ち、アノード側ガス拡散層23へのペーストの含浸程度が小さい疎の状態ほど、金属膜KMをより一層と透過できなくなり、受信側超音波探触子140での超音波の受信状態は低下する。つまり、アノード側ガス拡散層23の裏面に金属膜KMを接合することで、アノード側ガス拡散層23における超音波の透過状態を顕著化できる。そして、超音波がアノード側ガス拡散層23を伝播する際のエネルギーの低下程度は、アノード側ガス拡散層23へのペースト含浸が少ないほど大きくなり、ペースト含浸が進むほど小さくなるよう、ペーストの含浸状態に基づいて変化するので、アノード側ガス拡散層23を透過した超音波の受信側超音波探触子140での受信状態は、アノード側ガス拡散層23へのペーストの含浸状態に依存することになる。このことは、図3において図示されており、受信側超音波探触子140での超音波の受信強度(intensity)は、ペースト含浸が進んでアノード側ガス拡散層23が密の状態で大きく、ペースト含浸が少なくアノード側ガス拡散層23が疎の状態で小さくなる。そして、金属膜KMによる既述した超音波の透過状態の顕著化が受信強度に反映していることが確認できる。なお、受信強度の振れは、送信側超音波探触子130からの超音波送信開始から時間差を持って現れ、この時間差は、超音波が受信側超音波探触子140に到達する時間に相当する。
【0035】
図4はアノード側ガス拡散層23に疎密の差を持たせたサンプル品についてのペースト含浸検査の様子を示す説明図である。図示するように、ペースト含浸が進んで密のアノード側ガス拡散層23を有するサンプルAでは、大きな受信強度が得られ、ペースト含浸が進まずに疎のアノード側ガス拡散層23を有するサンプルBでは、受信強度が大きく低下する。つまりは、大きな受信強度が得られると、その検査対象品、即ち、アノード側MPL23aを表面に備えるアノード側ガス拡散層23では、アノード側ガス拡散層23へのペースト含浸が進んでいることになる。その反面、受信強度が小さいと、ペースト含浸は進んでいないことになり、そのアノード側ガス拡散層23は、アノード側MPL23aの厚みの均一化やアノード側ガス拡散層23における細孔確保がなされたガス拡散層となる。
【0036】
また、アノード側ガス拡散層23へのペースト含浸は、アノード側ガス拡散層23の表面の全域において一律に起きるとは限らず、拡散層表面において点在して起きることもある。図4には、この様子が示されており、受信側超音波探触子140の受信した超音波を画像変換処理に処すると、受信側超音波探触子140の超音波受信領域において、ペースト含浸が進んだ箇所は、他の箇所に比べて黒く表示される。そして、サンプルAでは、ペースト含浸が進んだ箇所は、広範囲に亘って存在すると共に、画像処理後の黒色部位では色が濃くなっている。これに対し、サンプルBでは、画像処理後の黒色部位は僅かであるばかりか、その色も薄いので、ペースト含浸がそれほど起きていないことになる。
【0037】
図5はステップS140で行うアノード側ガス拡散層23についてのペースト含浸検査の様子を概略的に示す説明図である。図示するように、アノード側ガス拡散層23の幅方向に亘って送信側超音波探触子130と受信側超音波探触子140とを並べて配置し、アノード側ガス拡散層23を図示しない駆動治具を用いて一方向に走査する。送信側超音波探触子130のそれぞれは、アノード側ガス拡散層23が通過するまで継続して超音波を送信し、受信側超音波探触子140のそれぞれは、アノード側ガス拡散層23が通過するまで継続して超音波を受信する。それぞれの受信側超音波探触子140での受信超音波は、検査装置200に出力される。
【0038】
検査装置200は、出力処理部210と、対比参照部220と、判定部230とを備え、図2のステップS140とこれに続くステップS150の電池セル組み込み可否決定を行う。対比参照部220は、受信側超音波探触子140の受信超音波を画像変換処理に処して、その結果(変換画像)を対比参照部220に受け渡す。対比参照部220は、ペースト含浸の程度が許容されるアノード側ガス拡散層23についての変換画像を予め記憶しており、その記憶した変換画像と、出力処理部210から取得した変換画像を対比する。判定部230は、この対比結果に基づいて、今般のペースト含浸検査の対象となったアノード側ガス拡散層23の良否を判定する。即ち、この判定部230にて、ステップS150の電池セル組み込み可否決定が行われ、ペースト含浸があまり起きていないアノード側ガス拡散層23については、組み込み可能品とされ、図1に示した電池セル15に組み込まれ、燃料電池を構成する。この場合、組み込み可能品とされたアノード側ガス拡散層23については、その品質が保証されることになる。そして、ステップS150での組み込み可能決定の頻度が高まるよう、アノード側MPL23aの形成用ペーストの粘度を高めて含浸を抑制するようにしたり、アノード側ガス拡散層23をより小さな細孔を有する材料として、ペースト含浸を起きにくくするようにできる。なお、出力処理部210の変換画像を図示しないモニターに表示し、検査要員に、ペースト含浸の程度を示す画像を提示するようにすることもできる。
【0039】
以上説明したように、本実施例によれば、作製したアノード側ガス拡散層23についてのペーストの含浸状態を検査するに当たり、アノード側MPL23aを表面に備えたアノード側ガス拡散層23の裏面に金属膜KMを接合済みの状態とする。そして、金属膜KMを接合済みのアノード側ガス拡散層23に対して、アノード側MPL23aの側から超音波を送信し、アノード側ガス拡散層23および金属膜KMを透過した超音波を受信する。金属膜KMは、既述したように、アノード側ガス拡散層23における超音波の透過状態を顕著化させるので、ペーストの含浸状態を、超音波の受信強度の大小により、適切に且つ簡便に検査できる。しかも、このペースト含浸検査を、電池セル15の発電性能に影響を及ぼすアノード側ガス拡散層23について行って電池セルへの組み込み可否を決定するので、電池セル15の発電能力確保に寄与できる。
【0040】
本発明は上記した実施例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々の態様で実施可能である。例えば、アノード側ガス拡散層23の裏面に、金属膜KMに代わってプラスチックの薄膜成型品を接合することもできる。こうした薄膜成型品であっても、アノード側ガス拡散層23に比べて密な構造であるため、金属膜KMの代用が可能となる。
【0041】
また、カソード側撥水層24aを表面に備えるカソード側ガス拡散層24についても、カソード側撥水層24aの形成の際に用いる撥水剤の含浸状態を検査することもできる。この他、燃料電池の電池セル15に限られるものではなく、表面にペースト層を有する種々の多孔質基材についても、ペースト含浸状態を検査できる。
【符号の説明】
【0042】
15…電池セル
20…電解質膜
21…アノード
22…カソード
23…アノード側ガス拡散層
23a…アノード側MPL
24…カソード側ガス拡散層
24a…カソード側撥水層
25、26…ガスセパレーター
47…セル内燃料ガス流路
48…セル内酸化ガス流路
130…送信側超音波探触子
140…受信側超音波探触子
200…検査装置
210…出力処理部
220…対比参照部
230…判定部
KM…金属膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペーストを用いて膜状に形成されたペースト層を表面に備える多孔質基材における前記ペーストの含浸状態を検査する方法であって、
前記多孔質基材に対して、前記ペースト層の側から超音波を送信し、
前記多孔質基材を透過する超音波を、前記多孔質基材の裏面に薄葉状の固体薄膜を接合させた状態で前記裏面の側にて受信し、その受信状態により前記含浸状態を検査する
多孔質基材の検査方法。
【請求項2】
請求項1に記載の多孔質基材の検査方法であって、
前記多孔質基材は、燃料電池に用いられるガス拡散基材であって、その表面に前記ペースト層としての気孔層を備え、
該気孔層は、導電性粒子をプロトン伝導性を有する電解質樹脂に分散させたペーストにて形成され、層において気孔を有する、多孔質基材の検査方法。
【請求項3】
多孔質基材の製造方法であって、
前記多孔質基材の表裏面の一方の面に、ペーストを用いて膜状のペースト層を形成すると共に、他方の面に、薄葉状の固体薄膜を剥離可能に接合し、
該固体薄膜が接合した状態で、前記ペースト層の側からの前記多孔質基材に対する超音波の送信と、前記固体薄膜の側での多孔質基材透過超音波の受信とを行い、その受信状態により前記多孔質基材へのペーストの含浸状態を検査し、
前記固体薄膜を剥離する
多孔質基材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−173238(P2012−173238A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38022(P2011−38022)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】