説明

多孔質層含有積層体の製造方法

【課題】多孔質層の厚み方向において、多孔質層中における孔の存在状態を異ならせることができる多孔質層含有積層体を提供する。
【解決手段】本発明に係る多孔質層含有積層体の製造方法は、基材2又は多孔質層上に、金属酸化物粒子と消滅性粒子とを含む第1のペーストを塗布し、該基材2又は多孔質層上に第1のペースト層を形成する工程と、上記第1のペースト層中に含まれている上記消滅性粒子の体積を減少させ、第1の多孔質層3を形成する工程と、第1の多孔質層3上に、金属酸化物粒子と消滅性粒子とを含む第2のペーストを塗布し、第1の多孔質層3上に第2のペースト層を形成する工程と、上記第2のペースト層中に含まれている上記消滅性粒子の体積を減少させ、第2の多孔質層4を形成する工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質層を有する多孔質層含有積層体の製造方法であって、多孔質層における多孔質構造を制御する多孔質層含有積層体の製造方法、並びに該多孔質層含有積層体を用いた色素増感太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
色素増感太陽電池は、比較的容易に製造でき、原材料が安く、かつ光電変換効率が高いので、次世代太陽電池の有力候補と考えられている。
【0003】
色素増感太陽電池における光電極は、増感色素が吸着されている半導体層を有する。上記半導体層の材料として、酸化チタン等が用いられている。
【0004】
色素増感太陽電池において、光電極を構成する上記半導体層の役割は、増感色素の吸着、励起した増感色素からの電子注入受け入れ、導電層への電子輸送、ヨウ化物イオンから色素への電子移動(還元)反応場の提供、並びに光散乱及び光閉じこめ等である。
【0005】
これらの役割を上記半導体層が果たすために、上記半導体層に複数の孔を形成して、多孔質構造を制御する必要がある。色素増感太陽電池において、上記半導体層に形成された孔は、光散乱効果を得るために重要な役割を果たし、電解質の拡散経路として機能する。特に、色素増感太陽電池における光電変換効率を十分に高くするためには、上記多孔質構造を高精度に制御する必要がある。
【0006】
上記半導体層に複数の孔を形成する方法が、下記の特許文献1〜3に開示されている。
【0007】
特許文献1には、半導体粒子と有機バインダと溶剤を含むペーストを基材上に塗布し、溶剤を揮発させた後、更に高温にて有機バインダを消失させることにより、多孔質である半導体層を形成する方法が記載されている。
【0008】
また、下記の特許文献2〜3には、有機粒子を含むペーストを用いて、焼成時に分解又は酸化等により有機粒子を消失させて、多孔質である半導体層を形成する方法が開示されている。
【0009】
また、下記の特許文献4には、半導体層である半導体電極の内層と外層とを異ならせる方法が開示されている。ここでは、色素増感太陽電池における光電変換効率を高めるために、内層に用いる半導体粒子と外層に用いる半導体粒子とを異ならせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−261436号公報
【特許文献2】特開2006−324011号公報
【特許文献3】特開2008−010237号公報
【特許文献4】特開2003−142170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に記載のペーストは、粒子ではない有機バインダを用いているため、半導体層に、望ましい大きさ及び分布で、孔を形成できないことがある。
【0012】
さらに、特許文献2〜3に記載のように、有機粒子を含むペーストを基材上に塗布し、半導体層を形成するために焼成して、上記有機粒子を消失させただけでは、得られる半導体層において、色素増感太陽電池に求められる多孔質構造を形成することが困難なことがある。
【0013】
特許文献4では、半導体層の内層と外層とを異ならせている。しかしながら、内層に用いる半導体粒子と外層に用いる半導体粒子とを異ならせただけでは、半導体層に、望ましい大きさ及び分布で、孔を形成することは困難である。なお、上記半導体粒子は、半導体層を構成する材料であり、消滅性粒子とは異なる。
【0014】
本発明の目的は、多孔質層の厚み方向において、多孔質層中における孔の存在状態を異ならせることができる多孔質層含有積層体、並びに該多孔質層含有積層体を用いた色素増感太陽電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の広い局面によれば、基材又は多孔質層上に、半導体粒子と消滅性粒子とを含む第1のペーストを塗布し、上記基材又は上記多孔質層上に第1のペースト層を形成する工程と、上記第1のペースト層中に含まれている上記消滅性粒子の体積を減少させ、第1の多孔質層を形成する工程と、上記第1の多孔質層上に、半導体粒子と消滅性粒子とを含む第2のペーストを塗布し、上記第1の多孔質層上に第2のペースト層を形成する工程と、上記第2のペースト層中に含まれている上記消滅性粒子の体積を減少させ、第2の多孔質層を形成する工程とを備える、多孔質層含有積層体の製造方法が提供される。
【0016】
本発明に係る多孔質層含有積層体の製造方法のある特定の局面では、上記第1のペーストと、上記第2のペーストとの組成が同一である。
【0017】
本発明に係る多孔質層含有積層体の製造方法の他の特定の局面では、上記第1の多孔質層を形成する工程において、上記第1のペースト層を加熱処理することにより、上記第1のペースト層中に含まれている上記消滅性粒子の体積を減少させ、かつ、上記第2の多孔質層を形成する工程において、上記第2のペースト層を加熱処理することにより、上記第2のペースト層中に含まれている上記消滅性粒子の体積を減少させる。
【0018】
本発明に係る多孔質層含有積層体の製造方法の他の特定の局面では、上記第1のペースト層を加熱処理する温度と、上記第2のペースト層を加熱処理する温度とを異ならせる。
【0019】
本発明に係る多孔質層含有積層体の製造方法のさらに他の特定の局面では、上記第1のペースト層を加熱処理する温度を、上記第2のペースト層を加熱処理する温度よりも高くする。
【0020】
本発明に係る多孔質層含有積層体の製造方法の別の特定の局面では、上記第1の多孔質層を加圧処理する工程がさらに備えられる。
【0021】
本発明に係る多孔質層含有積層体の製造方法のさらに別の特定の局面では、上記第2の多孔質層を加圧処理する工程がさらに備えられる。
【0022】
本発明に係る多孔質層含有積層体の製造方法の他の特定の局面では、上記第1の多孔質層を加圧処理する工程と、上記第2の多孔質層を加圧処理する工程とがさらに備えられ、上記第1の多孔質層を加圧処理する際の圧力と、上記第2の多孔質層を加圧処理する際の圧力とを異ならせる。
【0023】
本発明に係る多孔質層含有積層体の製造方法のさらに他の特定の局面では、上記第1の多孔質層を加圧処理する際の圧力を、上記第2の多孔質層を加圧処理する際の圧力よりも高くする。
【0024】
本発明に係る多孔質層含有積層体の製造方法の別の特定の局面では、上記第1,第2のペースト層を形成する工程において、上記第1,第2のペーストの塗布時に加圧処理する。
【0025】
本発明に係る多孔質層含有積層体の製造方法の他の特定の局面では、上記第1,第2のペースト層を形成する工程において、上記第1,第2のペーストをスクリーン印刷により塗布する。
【0026】
本発明に係る多孔質層含有積層体の製造方法の他の特定の局面では、上記第1,第2の多孔質層を形成する工程において、上記消滅性粒子が完全に消滅しないように、上記消滅性粒子の体積を減少させる。
【0027】
本発明に係る多孔質層含有積層体の製造方法のさらに他の特定の局面では、上記消滅性粒子をさらに消滅させるように、上記第1,第2の多孔質層を焼成する工程がさらに備えられる。
【0028】
本発明に係る色素増感太陽電池は、上記多孔質層含有積層体の製造方法により得られた多孔質層含有積層体を、色素増感太陽電池用電極として備える。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係る多孔質層含有積層体は、基材又は多孔質層上に、半導体粒子と消滅性粒子とを含む第1のペーストを塗布し、該基材又は多孔質層上に第1のペースト層を形成した後、上記第1のペースト層中に含まれている上記消滅性粒子の体積を減少させ、第1の多孔質層を形成し、更に上記第1の多孔質層上に、半導体粒子と消滅性粒子とを含む第2のペーストを塗布し、上記第1の多孔質層上に第2のペースト層を形成した後、上記第2のペースト層中に含まれている上記消滅性粒子の体積を減少させ、第2の多孔質層を形成するので、第1の多孔質層と第2の多孔質層との孔の存在状態を異ならせることができる。すなわち、多孔質層全体の厚み方向において、多孔質層中における孔の存在状態を異ならせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る多孔質層含有積層体の製造方法により得られた多孔質層含有積層体の一例を模式的に示す断面図である。
【図2】図2(a)〜(c)は、本発明の一実施形態に係る多孔質層含有積層体の製造方法の各工程を説明するための断面図である。
【図3】図3(a)〜(c)は、本発明の一実施形態に係る多孔質層含有積層体の製造方法の各工程を説明するための断面図である。
【図4】図4は、本発明の他の実施形態に係る多孔質層含有積層体の製造方法により得られた多孔質層含有積層体の一例を模式的に示す断面図である。
【図5】図5は、本発明の一実施形態に係る多孔質層含有積層体の製造方法により得られた多孔質層含有積層体を用いた色素増感太陽電池の一例を模式的に示す断面図である。
【図6】図6は、実施例2で得られた多孔質層含有積層体における多孔質層の断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態及び実施例を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0032】
図1に、本発明の一実施形態に係る多孔質層含有積層体の製造方法により得られた多孔質層含有積層体の一例を模式的に示す。
【0033】
図1に示すように、多孔質層含有積層体1は、基材2と、基材2の表面2aに積層された第1の多孔質層3と、第1の多孔質層3の基材2側とは反対側の表面3aに積層された第2の多孔質層4とを備える。
【0034】
基材2は、基材本体5と、該基材本体5の表面5aに積層された導電層6とを有する。導電層6の基材本体5側とは反対側の表面6aに、第1の多孔質層3が積層されている。
【0035】
第1の多孔質層3は、多孔質であり、複数の孔3bを有する。第2の多孔質層4は、多孔質であり、複数の孔4bを有する。
【0036】
孔3b,4bは、扁平状である。孔3b,4bの扁平面は、第1,第2の多孔質層3,4の主面と略平行に配置されている。すなわち、扁平状の孔3b,4bの長さ方向は、第1,第2の多孔質層3,4の厚み方向と略直交する方向である。孔3bは、孔4bよりも小さい。孔3bの体積は、孔4bの体積よりも小さい。これは、後述する加圧処理において、第1の多孔質層3を形成する際の加圧処理における圧力が、第2の多孔質層4を形成する際の加圧処理における圧力よりも高いことなどによる。第1の多孔質層3の厚み方向における孔3bの寸法は、第2の多孔質層4の厚み方向における孔4bの寸法よりも小さいことが好ましい。
【0037】
多孔質層含有積層体1では、第1の多孔質層3における孔3b内及び第2の多孔質層4における孔4b内には、消滅性粒子は存在していない。
【0038】
多孔質層含有積層体1は、以下のようにして得ることができる。
【0039】
先ず、上述の基材2を用意する。さらに、半導体粒子と消滅性粒子21とを含む第1,第2のペーストを用意する。本実施形態では、第1のペーストと第2のペーストとして、同じペーストを用意する。すなわち、第1のペーストと第2のペーストとの組成は同一である。第1のペーストと第2のペーストとの組成が同一であると、第1の多孔質層と第2の多孔質層との界面で均一に焼結させることができる。ただし、第1のペーストと第2のペーストとの組成は異なっていてもよい。
【0040】
ここでは、消滅性粒子21として、熱が与えられると消滅する性質を有する消滅性粒子が用いられている。消滅性粒子は、消滅する性質を有する。消滅性とは、加熱処理、加圧処理及び焼成処理等の様々な処理により、体積減少することを意味する。
【0041】
次に、図2(a)に示すように、基材2の表面2aに第1のペーストを塗布し、基材2の表面2aに第1のペースト層11を形成する。基材2の表面2aは、基材2の上面である。第1のペースト層11は、複数の消滅性粒子21を含む。第1のペースト層11を形成した段階では、消滅性粒子21は消滅しておらず、消滅性粒子21の体積は全く減少していか、又はほとんど減少していない。
【0042】
その後、図2(b)に示すように、第1のペースト層11中に含まれている消滅性粒子21の体積を減少させる。本実施形態では、第1のペースト層11を加熱処理することに
より、第1のペースト層11中に含まれている消滅性粒子21の体積を減少させている。消滅性粒子21の体積が減少すると、体積減少により消滅した消滅性粒子21部分において、孔12a(空隙)が形成され、第1の多孔質層12Aが形成される。なお、消滅性粒子21の体積を減少させる方法は、加熱処理が好ましいが、加熱処理に限定されない。
【0043】
ここでは、消滅性粒子21Aは、体積減少しているが、完全に消滅していない。孔12a内に、消滅性粒子21Aが残存している。なお、孔12a内に、体積が減少した消滅性粒子21Aが残存しているが、孔12aは空隙を有するため、第1のペースト層を加熱処理した後の層を、多孔質層と呼ぶ。
【0044】
第1のペースト中11に含まれている消滅性粒子21の体積を減少させる際には、消滅性粒子21が完全に消滅しないように、消滅性粒子21の体積を減少させることが好ましい。この場合には、第1,第2の多孔質層3,4を形成した後に、第1,第2の多孔質層3,4を一括して焼成して、消滅性粒子21B,21Dを消滅させることにより、第1の多孔質層3が積層される基材2などが高温条件に複数回又は長時間晒されなくなる。このため、基材2の熱劣化を抑制できる。
【0045】
次に、図2(c)に示すように、第1の多孔質層12Aを加圧処理して、第1の多孔質層12Bを形成する。矢印X1を付して示す方向に、例えば、第1の多孔質層12Aの表面12bを、押圧する。加圧処理によって、第1の多孔質層12Aの厚みが薄くなる。これに伴って、孔12aが扁平状になり、扁平状の孔12aを有する第1の多孔質層12Bが形成される。従って、第1の多孔質層12Aと第1の多孔質層12Bとは、厚み及び孔12aの形状が異なる。ただし、加圧処理は必ずしも行われなくてもよい。また、ここでは、消滅性粒子21Aも圧縮されて、加圧処理後に圧縮した消滅性粒子21Bが存在している。孔12aは、第1の多孔質層12Bの厚み方向における寸法が小さくなるように圧縮されている。さらに、消滅性粒子21Bは、第1の多孔質層12Bの厚み方向における寸法が小さくなるように圧縮されている。 加圧処理の際に、消滅性粒子21Aは圧縮されなくてもよい。
【0046】
次に、図3(a)に示すように、第1の多孔質層12Bの表面12bに、上記第2のペーストを塗布し、第1の多孔質層12Bの表面12bに、第2のペースト層15を形成する。第1の多孔質層12Bの表面12bは上面である。第2のペースト層15は、消滅性粒子21を含む。
【0047】
その後、図3(b)に示すように、第2のペースト層15中に含まれている消滅性粒子21の体積を減少させて、第2の多孔質層16Aを形成する。本実施形態では、第2のペースト層15を加熱処理することにより、第2のペースト層15中に含まれている消滅性粒子の体積を減少させている。さらに、第1のペースト層11を加熱処理する温度と、第2のペースト層15を加熱処理する温度とを異ならせている。具体的には、第1のペースト層11を加熱処理する温度T1を、第2のペースト層15を加熱処理する温度T2よりも高くしている。なお、第2のペースト層15中に含まれている消滅性粒子21の体積を減少させる際にも、加熱処理以外の方法を用いてもよい。
【0048】
第2の多孔質層16Aでは、消滅性粒子21の体積減少により消滅した消滅性粒子21部分において、孔16a(空隙)が形成されている。孔16a内に、体積が減少した消滅性粒子21Cが残存している。なお、孔16aは空隙を有するため、第2のペースト層を加熱処理した後の層を、多孔質層と呼ぶ。
【0049】
第1のペースト層11を加熱処理する温度T1は、第2のペースト層15を加熱処理する際の温度T2と異なることが好ましい。第1のペースト層11を加熱処理する温度T1
は、第2のペースト層15を加熱処理する際の温度T2よりも高いことが好ましい。温度T1と温度T2との差は、10℃以上であることが好ましく、30℃以上であることがより好ましく、50℃以上であることが特に好ましい。温度T1は温度T2よりも、10℃以上高いことが好ましく、30℃以上高いことがより好ましく、50℃以上高いことが特に好ましい。温度T1と温度T2とを異ならせることにより、消滅性粒子21の体積減少の度合いを異ならせることができる。この結果、第1の多孔質層3の孔3bと第2の多孔質層4の孔4bとの存在状態を異ならせることができる。
【0050】
第1のペースト層11及び第2のペースト層15を加熱処理する時間は、30秒〜15分間であることが好ましい。
【0051】
第2のペースト層15を加熱処理する工程は、焼成工程であってもよい。この焼成工程によって、焼結を行い、最終的に多孔質層含有積層体を得てもよい。
【0052】
次に、図3(c)に示すように、第2の多孔質層16Aを加圧処理して、第2の多孔質層16Bを形成する。矢印X2を付して示す方向に、例えば、第2の多孔質層16Aの表面16aを、押圧する。加圧処理によって、第2の多孔質層16Aの厚みが薄くなる。これに伴って、孔16aが扁平状になり、扁平状の孔16aを有する第2の多孔質層16Bが形成される。従って、第2の多孔質層16Aと第2の多孔質層16Bとは、厚み及び孔16aの形状が異なる。ただし、加圧処理は必ずしも行われなくてもよい。また、ここでも、消滅性粒子21Cが圧縮されて、加圧処理後に圧縮した消滅性粒子21Dが存在している。孔16aは、第2の多孔質層16Bの厚み方向における寸法が小さくなるように圧縮されている。さらに、加消滅性粒子21Dは、第1の多孔質層15Bの厚み方向における寸法が小さくなるように圧縮されている。ただし、加圧処理の際に、消滅性粒子21Cは圧縮されなくてもよい。
【0053】
また、本実施形態では、第1の多孔質層12Aを加圧処理する際の圧力P1と、第2の多孔質層16Aを加圧処理する際の圧力P2とを異ならせている。具体的には、第1の多孔質層12Aを加圧処理する際の圧力P1を、第2の多孔質層16Aを加圧処理する際の圧力P2よりも高くしている。
【0054】
第1の多孔質層12Aを加圧処理する際の圧力P1は、第2の多孔質層16Aを加圧処理する際の圧力P2と異なることが好ましい。第1の多孔質層12Aを加圧処理する際の圧力P1は、第2の多孔質層16Aを加圧処理する際の圧力P2よりも高いことが好ましい。圧力P1と圧力P2との差は、1N/cm以上であることが好ましく、10N/cm以上であることがより好ましく、30N/cm以上であることが特に好ましい。圧力P1は圧力P2よりも、1N/cm以上高いことが好ましく、10N/cm以上高いことがより好ましく、30N/cm以上高いことが特に好ましい。圧力P1と圧力P2とを異ならせることにより、孔12a,16aの圧縮度合い又は消滅性粒子21の消滅度合いを異ならせることができる。この結果、第1の多孔質層3の孔3bと第2の多孔質層4の孔4bとの存在状態を異ならせることができる。
【0055】
図3(c)に示す多孔質層含有積層体17では、第1の多孔質層12Bの孔12a、及び第2の多孔質層16Bの孔16a内に消滅性粒子21B,21Dが残存している。残存している消滅性粒子21B,21Dをさらに消滅させるように、第1,第2の多孔質層12B,16Bを焼成することが好ましい(焼成処理)。第1,第2の多孔質層12B,16Bを焼成することにより、消滅性粒子21B,21Dが消滅し、図1に示す多孔質層含有積層体1を得ることができる。
【0056】
上記焼成処理において、消滅性粒子を99重量%以上消失させるように焼成することが好ましく、99.5重量%以上消失させるように焼成することがより好ましく、99.9重量%以上消失させるように焼成することが更に好ましい。
【0057】
焼成温度は、上記加熱処理の温度よりも高い方が好ましい。焼成温度は、好ましくは200〜500℃であり、より好ましくは300〜450℃である。焼成時間は、通常10分から10時間、好ましくは30分から3時間である。焼成時間は、1時間以上であることが特に好ましい。
【0058】
図1では、2層の第1,第2の多孔質層3,4を有する多孔質層含有積層体1が示されている。第2の多孔質層4の第1の多孔質層3側とは反対側の表面4aに、さらに1層又は2層以上の多孔質層が積層されていてもよい。
【0059】
図4に、本発明の他の実施形態に係る多孔質層含有積層体の製造方法により得られた多孔質層含有積層体の一例を模式的に示す。
【0060】
図4に示す多孔質層含有積層体31は、図1に示す多孔質層含有積層体1を備える。従って、多孔質層含有積層体31は、基材2と、第1の多孔質層3と、第2の多孔質層4とを備える。多孔質層含有積層体31は、第2の多孔質層4の表面4aに、多孔質層32と、該多孔質層32の第2の多孔質層4側とは反対側の表面32bに多孔質層33とをさらに備える。多孔質層32,33は、多孔質であり、複数の孔32a,33aを有する。多孔質層32,33は、第1,第2の多孔質層3,4と同様にして形成できる。多孔質層32,33は、半導体粒子と消滅性粒子とを含むペーストを用いて、加熱処理により消滅性粒子の体積を減少させた後に、必要に応じて加圧処理及び焼成を行うことにより得ることができる。多孔質層32,33を第1,第2の多孔質層3,4と同様にして形成した場合には、別の見方をすれば、多孔質層含有積層体31において、第2の多孔質層4が、第1の多孔質層であって、多孔質層32が第2の多孔質層であるともいえる。さらに、多孔質層32,33を第1,第2の多孔質層3,4と同様にして形成した場合には、別の見方をすれば、多孔質層含有積層体31において、多孔質層32が第1の多孔質層であって、多孔質層33が第2の多孔質層であるともいえる。
【0061】
(ペースト)
上記第1,第2のペーストは、半導体粒子と、消滅性粒子とを含む。第1,第2のペーストは、有機バインダ樹脂と、溶剤とをさらに含むことが好ましい。
【0062】
(1)半導体粒子
上記半導体粒子は、加熱処理及び焼成により、多孔質である半導体層となる原料である。上記半導体粒子は特に限定されない。上記半導体粒子の材料としては、例えばTiO、MgO、ZnO、SnO、WO、Nb及びTiSrOなどの金属酸化物、並びにこれらの金属酸化物にN又はS等をドープした材料等が挙げられる。上記半導体粒子の材料は、TiOであることが好ましい。上記半導体粒子は、酸化チタン粒子であることが好ましい。
【0063】
上記半導体粒子の形状としては、特に限定されず、球状又はその類似形、正八面体状又はその類似形、星状又はその類似形、針状、板状、並びに繊維状等が挙げられる。
【0064】
第1,第2の多孔質層における表面積を大きくするために、半導体粒子の一次粒径は、3〜500nmであることが好ましく、3〜200nmであることがより好ましい。
【0065】
上記酸化チタン粒子の結晶型として、アナターゼ、ルチル及びブルカイトの3種類が知られている。酸化チタン粒子の結晶型は、アナターゼ型であることが好ましい。アナター
ゼ型酸化チタンはルチル型酸化チタンよりも反応活性が高く、色素からの電子注入が効率的に起こる。このため、色素増感太陽電池用途において、アナターゼ型酸化チタンは好適に用いられる。
【0066】
第1,第2のペースト100重量%中、半導体粒子の含有量は5〜40重量%であることが好ましい。第1,第2のペースト100重量%中、半導体粒子の含有量のより好ましい下限は10重量%、より好ましい上限は30重量%である。半導体粒子の含有量が上記下限を満たすと、適度な膜厚にペーストを塗布でき、また、粘度調整のために有機バインダ樹脂等を過剰に加える必要がなくなる。
【0067】
(2)消滅性粒子
上記消滅性粒子は、消滅する性質を有すれば特に限定されない。消滅性粒子は、熱が与えられると消滅する消滅性粒子であることが好ましい。
【0068】
加熱処理又は焼成により、消滅性粒子を十分に消滅させる観点からは、上記消滅性粒子は、オキシプロピレンユニット及びオキシテトラメチレンユニットの内の少なくとも1種のユニットを有し、かつ重合性不飽和基を2以上有する架橋剤と、重合性不飽和基を有する単量体とを反応させることにより得られる消滅性粒子(以下消滅性粒子Pと記載することがある)であることが好ましい。
【0069】
上記消滅性粒子は、空気下において400℃で1時間熱処理されると粒子の99〜100重量%以上が消滅する消滅性粒子であることが好ましい。
【0070】
上記第1,第2のペーストを得る際に、上記消滅性粒子は、例えば有機バインダ樹脂又は溶剤と混合され、撹拌され、分散される。分散の際に、上記消滅性粒子は半導体粒子等とともに、激しく撹拌される可能性がある。このような撹拌等によって、上記消滅性粒子が膨潤したり、溶解したり、あるいは破砕されたりすると、半導体層に適度な空隙構造を形成することが困難になる傾向がある。また、焼結時に比較的低温で多孔質層の形状が崩れたり、多孔質層が溶融したりしても、多孔質層に適度な空隙構造を形成することが困難になる傾向がある。このため、上記消滅性粒子は、分散の際の撹拌の剪断応力によっても形状が崩れず、更に焼結時に比較的低温の段階で形状が崩れないことが重要である。これに対して、上記消滅性粒子Pを用いれば、該消滅性粒子Pは架橋構造を有する架橋樹脂粒子であるので、剪断応力に対する耐久性を高めることができる。
【0071】
上記単量体は、重合性不飽和基を有すれば特に限定されない。上記単量体は、解重合反応が比較的容易に起こるので、スチレン類及び(メタ)アクリレート類であることが好ましい。上記スチレン類としては、α−メチルスチレン、p−メトキシスチレン及び4−tert−ブチルスチレンが挙げられ、これらが好適に用いられる。上記(メタ)アクリレート類としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート及びフェニル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらが好適に用いられる。
【0072】
上記(メタ)アクリレート類を用いた場合には、上記スチレン類を用いた場合と比較して、解重合と共にランダム結合切断が発生し難くなり、焼結後の多孔質層において残渣が生じ難くなる。側鎖の炭素数が4以下である(メタ)アクリレート類を用いた場合には、解重合以外の反応が進行し難くなり、焼結時に上記消滅性粒子をより一層効果的に消滅させることが可能になる。アクリレートよりもメタクリレートの方が解重合が容易に起こるので、上記単量体は、メタクリレート類であることが好ましい。
【0073】
解重合特性に優れているので、上記単量体における重合性不飽和基は、スチレン性不飽
和基又は(メタ)アクリレート性不飽和基であることが好ましい。解重合特性に優れているので、上記単量体における重合性不飽和基は、(メタ)アクリロイル基であることが好ましく、メタクリロイル基であることがより好ましい。上記単量体は、(メタ)アクリロイル基を有することが好ましく、メタクリロイル基を有することが好ましい。
【0074】
上記架橋剤は、重合性不飽和基を2以上有する。焼結により上記消滅性粒子が効率的に消失するように、上記架橋剤は、2つの重合性不飽和基の間に、オキシアルキレンユニットが結合していることが好ましい。上記オキシアルキレンユニットとしては、オキシエチレンユニット、オキシプロピレンユニット及びオキシテトラメチレンユニット等が挙げられる。
【0075】
熱分解効率が特に良好であるので、上記架橋剤は、オキシプロピレンユニット及びオキシテトラメチレンユニットの内の少なくとも1種を有することが好ましい。ただし、上記架橋剤は、オキシプロピレンユニット及びオキシテトラメチレンユニット以外のユニットを有していてもよい。オキシプロピレンユニット及びオキシテトラメチレンユニットの内の少なくとも1種を有する架橋剤の使用により、これらのユニットを有さない架橋剤を使用した場合と比べて、上記消滅性粒子の熱分解効率が高くなる。
【0076】
上記架橋剤がオキシプロピレンユニットを有する場合に、オキシプロピレンユニットを有し、かつ重合性不飽和基を2以上有する架橋剤としては、下記式(1)で表される架橋剤が挙げられる。
【0077】
(Rv1)−(CH(CH)CHO)−(CHCH(CH)O)−(Rv2) ・・・式(1)
【0078】
上記式(1)中、Rv1及びRv2はそれぞれ、重合性不飽和基を有する基であり、n+mは1〜20の整数である。nとmとは、合計で1〜20の整数である。上記式(1)で表される架橋剤において、(CH(CH)CHO)のユニット(構造単位)と(CHCH(CH)O)のユニット(構造単位)とは、交互に存在していてもよい。
【0079】
上記架橋剤がオキシテトラメチレンユニットを有する場合に、オキシテトラメチレンユニットを有し、かつ重合性不飽和基を2以上有する架橋剤としては、下記式(2)で表される架橋剤が挙げられる。
【0080】
(Rv3)−(CHCHCHCHO)−(Rv4) ・・・式(2)
【0081】
上記式(2)中、Rv3及びRv4はそれぞれ、重合性不飽和基を有する基であり、pは1〜20の整数である。
【0082】
解重合特性に優れているので、上記架橋剤における重合性不飽和基は、スチレン性不飽和基又は(メタ)アクリレート性不飽和基であることが好ましい。解重合特性に優れているので、上記架橋剤における重合性不飽和基は、(メタ)アクリロイル基であることが好ましく、メタクリロイル基であることがより好ましい。
【0083】
オキシプロピレンユニットを有し、かつ重合性不飽和基を2以上有する架橋剤は市販されており、容易に入手可能である。この架橋剤は、例えば、市販のプロピレングリコール類に対して、(メタ)アクリル酸クロリドとアミン触媒とを反応させることにより得ることができる。
【0084】
オキシテトラメチレンユニットを有し、かつ重合性不飽和基を2以上有する架橋剤は市
販されており、容易に入手可能である。この架橋剤は、例えば、市販の(ポリ)テトラメチレングリコール類に対して、(メタ)アクリル酸クロリドとアミン触媒とを反応させることにより得ることができる。
【0085】
上記消滅性粒子は、上記架橋剤と上記単量体とを重量比で1:99〜50:50で反応させることにより得られる消滅性粒子であることが好ましい。上記架橋剤の比率が低すぎると、上記消滅性粒子の形状安定性が不十分となる傾向がある。上記架橋剤の比率が高すぎると、反応が困難となり、また、上記消滅性粒子が硬くなりすぎて、破壊されやすくなる。
【0086】
上記消滅性粒子の粒径は、10nm〜1μmであることが好ましい。粒径が10nm以上であると、多孔質層における空隙が十分に大きくなり、電解質溶液との接触による反応場提供及び光散乱による光の利用効率向上の効果をより一層十分に得ることができる。粒径が1μm以下であると、空隙が大きくなりすぎず、半導体層の表面積がより一層大きくなる。この結果、半導体層における吸着色素数が増加し、色素増感太陽電池における発電効率が高くなる。さらに、粒径が1μm以下であると、大きすぎる空隙が形成され難くなるため、多孔質層の強度を高くすることができる。上記消滅性粒子の粒径のより好ましい下限は20nm、更に好ましい下限は30nm、より好ましい上限は500nm、更に好ましい上限は300nmである。
【0087】
第1,第2のペースト100重量%中、上記消滅性粒子の含有量は3〜60重量%であることが好ましい。第1,第2のペースト100重量%中、上記消滅性粒子の含有量のより好ましい下限は10重量%、より好ましい上限は40重量%である。上記消滅性粒子の含有量が10〜40重量%であると、上記消滅性粒子の添加による効果が顕著に高くなり、焼成後に得られる多孔質層の表面積が大きくなり、より一層好ましい多孔質構造となり、光電変換効率がより一層高い色素増感太陽電池を提供することが可能になる。
【0088】
(3)有機バインダ樹脂
半導体粒子及び消滅性粒子の分散状態を安定化させるために、第1,第2のペーストは、有機バインダ樹脂を含むことが好ましい。
【0089】
上記有機バインダ樹脂としては、特に限定されず、エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアルコールアセタール変性物、ゼラチン、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド及びデキストリン等が挙げられる。
【0090】
第1,第2のペースト100重量%中、上記有機バインダ樹脂の含有量は3〜30重量%であることが好ましい。上記有機バインダ樹脂の含有量が上記下限を満たすと、ペーストの分散安定性がより一層高くなる。上記有機バインダ樹脂の含有量が上記上限を満たすと、ペーストの粘度が高くなりすぎず、ペーストを基材に容易に塗布できる。
【0091】
(4)溶剤
第1,第2のペーストは溶剤を含むことが好ましい。上記溶剤としては、例えば、アルコール類、アミド類、スルホキシド類、アミン類、環状エーテル類、エステル類、天然アルコール類及び水等が挙げられる。上記アルコール類としては、ブチルアルコール、ベンジルアルコール及びブチルカルビトール等が挙げられる。上記アミド類としては、ジメチルホルムアミド及びジメチルアセトアミド等が挙げられる。上記スルホキシド類としては、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。上記アミン類としては、n−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。上記環状エーテル類としては、ジオキサン等が挙げられる。上記
グリコールエーテル類としては、エチルセロソルブ及びメチルセロソルブ等が挙げられる。上記エステル類としては、ジブチルフタレート等が挙げられる。上記天然アルコール類としては、テルピネオール等が挙げられる。
【0092】
第1,第2のペースト100重量%中、溶剤の含有量は30〜89重量%であることが好ましい。第1,第2のペースト100重量%中、溶剤の含有量のより好ましい上限は85重量%である。溶剤の含有量が上記下限を満たすと、ペーストの流動性が適度になり、基材にペーストを塗布することが容易になる。上記溶剤の含有量が上記上限を満たすと、ペーストの粘度が適度になり、適度な膜厚にペーストを容易に塗布でき、更にペーストの粘度が適度になり、ペーストの分散安定性をより一層高くなる。
【0093】
(5)添加剤
上記第1,第2のペーストは、必要に応じて、半導体粒子、上記消滅性粒子、上記有機バインダ樹脂、及び溶剤以外の添加剤を含んでいてもよい。
【0094】
上記添加剤としては、界面活性剤などの分散剤、分散安定剤、消泡剤、酸化防止剤、着色剤及び粘度調整剤等が挙げられる。上記第1,第2のペーストの安定化させるためには、上記第1,第2のペーストは、分散剤をさらに含むことが好ましい。
【0095】
上記分散剤としては、特に限定されず、例えば、プロピレングリコール脂肪酸エステル類、グリセリン脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸類、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸類、及びポリエチレングリコール脂肪酸エステル類等が挙げられる。
【0096】
(基材)
上記多孔質層含有積層体の有用な用途の1つとして、色素増感太陽電池の光電極が挙げられる。ただし、上記多孔質層含有積層体の用途は特に限定されず、電気化学素子の材料として、上記多孔質層含有積層体は広く用いることができる。
【0097】
上記多孔質酸化チタン積層体を、色素増感太陽電池の光電極として用いる場合、半導体層に可視光が入射する必要がある。このため、多孔質酸化チタン積層体において用いられる基材は、可視光を透過する透明基材であることが好ましい。上記基材の材料は、ガラスであることが好ましく、上記基材はガラス基材であることが好ましい。特に、色素増感太陽電池の光電変換効率を高めるためには、基材の可視光透過率が高いほどよく、基材の可視光透過率は、70%以上であることが好ましい。
【0098】
上記基材の材料は、特に限定されない。上記基材の材料は、可視光を透過する材料であることが好ましい。上記基材の材料としては、プラスチック及びガラス等が挙げられる。
【0099】
上記基材の材料であるプラスチックとしては、特に限定されず、ポリアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂及びポリアミド樹脂等が挙げられる。中でも、ポリエステル樹脂、特にポリエチレンテレフタレート(PET)は、透明耐熱フィルムとして大量に生産及び使用されている。薄く、軽く、かつフレキシブルな色素増感太陽電池を製造する観点からは、上記基材はPETフィルムであることが好ましい。
【0100】
上記基材の材料であるガラスとしては、特に限定されず、ソーダライムガラス、硼珪酸
ガラス、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、バイコールガラス、無アルカリガラス、青板ガラス及び白板ガラスなどの一般的なガラスが挙げられる。
【0101】
上記基材は、導電性を有することが好ましく、導電性基材であることが好ましい。上記多孔質酸化チタン積層体を色素増感太陽電池に用いる場合、光電極材料である半導体層において光反応により生じた電子を外部に取り出すためには、半導体層が導電材料と接しており、この導電材料を通じて電子が外部に取り出されることが必要である。
【0102】
導電性を有するように、上記基材は、表面に導電層を有することが好ましく、基材本体と、該基材本体の表面に積層された導電層とを有することが好ましい。上記基材は、基材本体と、該基材本体の表面に積層された導電層とを有する導電性基材であることが好ましい。半導体層が接する基材の表面層全体が導電性を有すると、内部抵抗が減少し、この結果色素増感太陽電池において、トータルとしての光電変換効率が向上する。
【0103】
上記導電層の材料としては、金属、金属酸化物及び導電性高分子等が挙げられる。上記多孔質酸化チタン積層体を色素増感太陽電池に用いる場合などには、導電層を有する基材は透明であることが好ましい。従って、上記導電層の材料は、金属酸化物又は導電性高分子等の透明導電材料であることが好ましい。上記多孔質酸化チタン積層体を形成する際に、上記第1,第2のペーストを焼成させるため、上記導電層の材料は、金属酸化物であることが好ましい。金属酸化物は、導電性高分子よりも耐熱性が高い。
【0104】
金属酸化物である透明導電材料としてよく知られている材料としては、酸化インジウム/酸化スズ(ITOと呼ぶことがある)、フッ素ドープ酸化スズ(FTOと呼ぶことがある)、酸化亜鉛、酸化スズ、アンチモンドープ酸化スズ(ATOと呼ぶことがある)、酸化インジウム/酸化亜鉛(IZOと呼ぶことがある)、酸化ガリウム/酸化亜鉛(GZOと呼ぶことがある)及び酸化チタン等が挙げられ、これらが好適に用いられる。
【0105】
(色素増感太陽電池)
上記多孔質層含有積層体の有用な用途の1つである色素増感太陽電池について、以下説明する。
【0106】
図5に、本発明の一実施形態に係る多孔質層含有積層体の製造方法により得られた多孔質層含有積層体を用いた色素増感太陽電池の一例を示す。
【0107】
図5に示す色素増感太陽電池51は、多孔質層含有積層体1Aを備える。多孔質酸化チタン積層体1Aは、多孔質酸化チタン積層体1における第1,第2の多孔質層3,4に増感色素を吸着させて、増感色素が吸着された第1,第2の多孔質層3A,4Aを形成した多孔質酸化チタン積層体である。第1,第2の多孔質層3A,4Aは、孔3b,4bを有する。第1,第2の多孔質層3A,4Aは、色素増感太陽電池用電極材料である。また、色素増感太陽電池51は、多孔質層含有積層体1Aを色素増感太陽電池用電極として有する。
【0108】
色素増感太陽電池51は、色素増感太陽電池用電極である多孔質層含有積層体1Aの対向電極として、基材52と、該基材の一方の表面52aに積層された導電層53とを備える積層体を有する。第2の孔質層4Aと、導電層53との間に、電解質溶液54が配置されている。導電層6と導電層53とに、外部の回路に光電変換により生じた電力を供給するためのリード線55が接続されている。
【0109】
色素増感太陽電池51により発電を行う際には、例えば、基材2の第1,第2の多孔質層3A,4A側とは反対側の表面2b側から、図5に矢印Yを付して示すように光が照射
される。
【0110】
上記色素として、一般的に色素増感太陽電池に使用されている色素を用いることができる。上記色素としては、シス−ジ(チオシアナト)−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸)ルテニウム(II)(N3と呼ばれることがある)、該シス−ジ(チオシアナト)−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸)ルテニウムのビス−テトラブチルアンモニウム塩(N719と呼ばれることがある)、トリ(チオシアナト)−(4,4’,4’’−トリカルボキシ−2,2’:6’,2’’−ターピリジン)ルテニウム(ブラックダイと呼ばれることがある)などのルテニウム色素系等が挙げられる。また、上記色素として、クマリン系、ポリエン系、シアニン系、ヘミシアニン系、チオフェン系、インドリン系、キサンテン系、カルバゾール系、ペリレン系、ポルフィリン系、フタロシアニン系、メロシアニン系、カテコール系及びスクアリリウム系等の各種有機色素等が挙げられる。さらに、これらの色素を組み合わせたドナー−アクセプター複合色素等を、上記色素として用いることともできる。
【0111】
上記電解質溶液としては、アセトニトリル又はプロピオニトリルなどの非水系電解質溶剤等が挙げられる。また、上記電解質溶液としては、ヨウ化ジメチルプロピルイミダゾリウム又はヨウ化ブチルメチルイミダゾリウムなどのイオン液体などの液体成分に、ヨウ化リチウム等の支持電解質と、ヨウ素とが混合された溶液等が挙げられる。
【0112】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0113】
(合成例1)加熱消滅性粒子の製造:
モノマー成分として、ポリオキシプロピレンジメタクリレート(ポリオキシプロピレンユニット数=約7;日油社製、ブレンマーPDP−400)10重量部と、メタクリル酸イソブチル(IBM)90重量部とを混合したモノマー成分100重量部全量を、アニオン系界面活性剤ネオゲンS−20F(第一工業製薬社製)1重量%水溶液100重量部中に加え、攪拌分散装置を用いて攪拌し、乳化懸濁液を得た。
【0114】
次に、攪拌機、ジャケット、還流冷却機及び温度計を備えた2リットルの重合器を用意した。この重合器内を減圧し、容器内の脱酸素を行った後、窒素ガスにより圧力を大気圧まで戻し、重合器内を窒素雰囲気とした。この重合器内に、水200重量部を入れ、重合器内の温度を70℃まで昇温した。その後、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.5重量部と上記乳化懸濁液のうち10重量部とをシードモノマーとして、重合器内に添加し、重合を開始した。30分熟成させた後に、残りの乳化懸濁液を2時間かけて滴下した。さらに2時間熟成させた後、重合器内の温度を室温まで冷却して、加熱消滅性粒子を含むスラリーを得た。得られた加熱消滅性粒子の粒径は120nmであった。
【0115】
得られた分散液を遠心分離にて水で5回洗浄した。次いで、分散液の溶剤を、遠心分離機を用いてエタノールに置換し、加熱消滅性粒子を含むエタノール分散液を得た。
【0116】
得られた加熱消滅性粒子は、空気下において350℃で1時間加熱処理したところ、粒子の100重量%が消滅した。
【0117】
(実施例1)
基材本体と、該基材本体の表面に導電層とを有する基材を用意した。また、酸化チタン粒子15重量部と、合成例1で得られた加熱消滅性樹脂粒子5重量部と、有機バインダ樹脂(エチルセルロース)10重量部と、溶剤(ターピネオール)80重量部とを含む1種類のペーストを用意した。
【0118】
上記基材の導電層上に、スクリーン印刷により200N/cmの圧力 で上記ペーストを塗布し、基材上にペースト層Aを形成した。次に、ペースト層Aを400℃で3分間加熱して、消滅性粒子の体積を減少させて、多孔質層Aを形成した。
【0119】
次に、多孔質層A上に、スクリーン印刷により200N/cmの圧力で上記ペーストを塗布し、多孔質層A上にペースト層Bを形成した。次に、ペースト層Bを300℃で3分間加熱して、消滅性粒子の体積を減少させて、多孔質層Bを形成した。
【0120】
次に、多孔質層B上に、スクリーン印刷により200N/cmの圧力で上記ペーストを塗布し、多孔質層B上にペースト層Cを形成した。次に、ペースト層Cを200℃で3分間加熱して、消滅性粒子の体積を減少させて、多孔質層Cを形成した。
【0121】
次に、多孔質層C上に、スクリーン印刷により200N/cmの圧力で上記ペーストを塗布し、多孔質層C上にペースト層Dを形成した。次に、ペースト層Cを120℃で3分間加熱して、消滅性粒子の体積を減少させて、多孔質層Dを形成した。
【0122】
なお、上記圧力は、スクリーン印刷におけるスキージ幅は20cmであり、スキージに加えた力が約20Nであり、接触幅に関しては0.5mmであると仮定して算出した値である。
【0123】
その後、多孔質層A〜Dを400℃で1時間焼成することにより、多孔質層含有積層体を得た。
【0124】
得られた多孔質層含有積層体では、多孔質層全体において、厚み方向における孔の存在状態が異なっており、多孔質層の上層に近づくにつれ、すなわち多孔質層の基材側とは反対側の表面に近づくにつれ、孔が大きく、孔の体積が大きく、かつ多孔質層の厚み方向における孔の寸法が大きくなっていた。
【0125】
(実施例2)
実施例1と同様の基材及び1種類のペーストを用意した。
【0126】
上記基材の導電層上に、スクリーン印刷により200N/cmの圧力で上記ペーストを塗布し、基材上にペースト層Aを形成した。次に、ペースト層Aを120℃で3分間加熱して、消滅性粒子の体積を減少させて、多孔質層Aを形成した。
【0127】
次に、多孔質層A上に、スクリーン印刷により100N/cmの圧力で上記ペーストを塗布し、多孔質層A上にペースト層Bを形成した。次に、ペースト層Bを120℃で3分間加熱して、消滅性粒子の体積を減少させて、多孔質層Bを形成した。
【0128】
次に、多孔質層B上に、スクリーン印刷により60N/cmの圧力で上記ペーストを塗布し、多孔質層B上にペースト層Cを形成した。次に、ペースト層Cを120℃で3分間加熱して、消滅性粒子の体積を減少させて、多孔質層Cを形成した。
【0129】
次に、多孔質層C上に、スクリーン印刷により50N/cmの圧力で上記ペーストを塗布し、多孔質層C上にペースト層Dを形成した。次に、ペースト層Cを120℃で3分間加熱して、消滅性粒子の体積を減少させて、多孔質層Dを形成した。
【0130】
なお、スクリーン印刷におけるスキージ幅は20cmとした。
【0131】
その後、多孔質層A〜Dを500℃で1時間焼成することにより、多孔質層含有積層体を得た。
【0132】
得られた多孔質層含有積層体では、多孔質層全体において、厚み方向における孔の存在状態が異なっており、多孔質層の上層に近づくにつれ、すなわち多孔質層の基材側とは反対側の表面に近づくにつれ、孔が大きく、孔の体積が大きく、かつ多孔質層の厚み方向における孔の寸法が大きく なっていた。
【0133】
また、実施例2で得られた多孔質層含有積層体における多孔質層の断面写真を図6に示した。
【0134】
(実施例3)
実施例1と同様の基材及び1種類のペーストを用意した。
【0135】
上記基材の導電層上に、スクリーン印刷により55N/cmの圧力で上記ペーストを塗布し、基材上にペースト層Aを形成した。次に、ペースト層Aを400℃で3分間加熱して、消滅性粒子の体積を減少させて、多孔質層Aを形成した。その後、200N/cmの圧力で、多孔質層Aの上面を押圧し、多孔質層Aの厚みを薄くした。
【0136】
次に、多孔質層A上に、スクリーン印刷により50N/cmの圧力で上記ペーストを塗布し、多孔質層A上にペースト層Bを形成した。次に、ペースト層Bを300℃で3分間加熱して、消滅性粒子の体積を減少させて、多孔質層Bを形成した。その後、100N/cmの圧力で、多孔質層Bの上面を押圧し、多孔質層Bの厚みを薄くした。
【0137】
次に、多孔質層B上に、スクリーン印刷により50N/cmの圧力で上記ペーストを塗布し、多孔質層B上にペースト層Cを形成した。次に、ペースト層Cを200℃で3分間加熱して、消滅性粒子の体積を減少させて、多孔質層Cを形成した。その後、50N/cmの圧力で、多孔質層Cの上面を押圧し、多孔質層Cの厚みを薄くした。
【0138】
次に、多孔質層C上に、スクリーン印刷により50N/cmの圧力で上記ペーストを塗布し、多孔質層C上にペースト層Dを形成した。次に、ペースト層Cを120℃で3分間加熱して、消滅性粒子の体積を減少させて、多孔質層Dを形成した。その後、50N/cmの圧力で、多孔質層Dの上面を押圧し、多孔質層Dの厚みを薄くした。
【0139】
なお、スクリーン印刷におけるスキージ幅は20cmとした。
【0140】
その後、多孔質層A〜Dを400℃で1間焼成することにより、多孔質層含有積層体を得た。
【0141】
得られた多孔質層含有積層体では、多孔質層全体において、厚み方向における孔の存在状態が異なっており、多孔質層の上層に近づくにつれ、すなわち多孔質層の基材側とは反対側の表面に近づくにつれ、孔が大きく、孔の体積が大きく、かつ多孔質層の厚み方向における孔の寸法が大きく なっていた。
【符号の説明】
【0142】
1,1A…多孔質層含有積層体
2…基材
2a,2b…表面
3…第1の多孔質層
3a…表面
3b…孔
4…第2の多孔質層
4a…表面
4b…孔
5…基材本体
5a…表面
6…導電層
6a…表面
11…第1のペースト層
12A,12B…第1の多孔質層
12a…孔
12b…表面
15…第2のペースト層
16A,16B…第2の多孔質層
16a…孔
17…多孔質層含有積層体
21,21A〜21D…消滅性粒子
31…多孔質層含有積層体
32…多孔質層
32a…孔
32b…表面
33…多孔質層
33a…孔
51…色素増感太陽電池
52…基材
52a…表面
53…導電層
54…電解質溶液
55…リード線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材又は多孔質層上に、半導体粒子と消滅性粒子とを含む第1のペーストを塗布し、前記基材又は前記多孔質層上に第1のペースト層を形成する工程と、
前記第1のペースト層中に含まれている前記消滅性粒子の体積を減少させ、第1の多孔質層を形成する工程と、
前記第1の多孔質層上に、半導体粒子と消滅性粒子とを含む第2のペーストを塗布し、前記第1の多孔質層上に第2のペースト層を形成する工程と、
前記第2のペースト層中に含まれている前記消滅性粒子の体積を減少させ、第2の多孔質層を形成する工程とを備える、多孔質層含有積層体の製造方法。
【請求項2】
前記第1のペーストと、前記第2のペーストとの組成が同一である、請求項1に記載の多孔質層含有積層体の製造方法。
【請求項3】
前記第1の多孔質層を形成する工程において、前記第1のペースト層を加熱処理することにより、前記第1のペースト層中に含まれている前記消滅性粒子の体積を減少させ、かつ、
前記第2の多孔質層を形成する工程において、前記第2のペースト層を加熱処理することにより、前記第2のペースト層中に含まれている前記消滅性粒子の体積を減少させる、請求項1又は2に記載の多孔質層含有積層体の製造方法。
【請求項4】
前記第1のペースト層を加熱処理する温度と、前記第2のペースト層を加熱処理する温度とを異ならせる、請求項3に記載の多孔質層含有積層体の製造方法。
【請求項5】
前記第1のペースト層を加熱処理する温度を、前記第2のペースト層を加熱処理する温度よりも高くする、請求項4に記載の多孔質層含有積層体の製造方法。
【請求項6】
前記第1の多孔質層を加圧処理する工程をさらに備える、請求項1〜5のいずれか1項に記載の多孔質層含有積層体の製造方法。
【請求項7】
前記第2の多孔質層を加圧処理する工程をさらに備える、請求項1〜6のいずれか1項に記載の多孔質層含有積層体の製造方法。
【請求項8】
前記第1の多孔質層を加圧処理する工程と、前記第2の多孔質層を加圧処理する工程とをさらに備え、
前記第1の多孔質層を加圧処理する際の圧力と、前記第2の多孔質層を加圧処理する際の圧力とを異ならせる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の多孔質層含有積層体の製造方法。
【請求項9】
前記第1の多孔質層を加圧処理する際の圧力を、前記第2の多孔質層を加圧処理する際の圧力よりも高くする、請求項8に記載の多孔質層含有積層体の製造方法。
【請求項10】
前記第1,第2のペースト層を形成する工程において、前記第1,第2のペーストの塗布時に加圧処理する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の多孔質層含有積層体の製造方法。
【請求項11】
前記第1,第2のペースト層を形成する工程において、前記第1,第2のペーストをスクリーン印刷により塗布する、請求項1〜10のいずれか1項に記載の多孔質層含有積層体の製造方法。
【請求項12】
前記第1,第2の多孔質層を形成する工程において、前記消滅性粒子が完全に消滅しないように、前記消滅性粒子の体積を減少させる、請求項1〜11のいずれか1項に記載の多孔質層含有積層体の製造方法。
【請求項13】
前記消滅性粒子をさらに消滅させるように、前記第1,第2の多孔質層を焼成する工程をさらに備える、請求項1〜12のいずれか1項に記載の多孔質層含有積層体の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の多孔質層含有積層体の製造方法により得られた多孔質層含有積層体を、色素増感太陽電池用電極として備える、色素増感太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−181282(P2011−181282A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43241(P2010−43241)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】