説明

多孔質材料とそれを用いた防水性空気透過フィルタ

【課題】従来の、多孔質化されたフッ素樹脂からなる多孔質材料と同等の、高い耐薬品性、化学安定性、撥水性、耐熱性、電気絶縁性、および通気性等を兼ね備える上、前記従来のものに比べて耐熱性や機械的強度に優れた、新規な多孔質材料と、前記多孔質材料を用いた防水性空気透過フィルタとを提供する。
【解決手段】多孔質材料は、カーボンフェルトを構成する少なくとも一部のカーボン繊維の、少なくとも表面を、例えば含フッ素ガスの低温プラズマに曝露させる等してC−F結合を導入した。防水性空気透過フィルタは、前記多孔質材料によって形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンフェルトを基材とした新規な多孔質材料と、前記多孔質材料を用いた防水性空気透過フィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、家屋の外壁や屋根に設置する空気取り入れ口や煙突等に取り付けられて、雨水等の浸入を防止しながら良好な換気性を確保するために、あるいは、空冷を必要とする電子機器類の冷却口等に取り付けられて、水分の浸入による、前記電子機器類の故障等を防止するために、空気の透過は許容するものの、水は通過させない防水性を有する防水性空気透過フィルタを用いることが検討されている。
【0003】
防水性空気透過フィルタは、様々な多孔質材料によって形成されるのが一般的であり、その代表例としては、耐薬品性、化学安定性、撥水性、耐熱性、電気絶縁性等に優れたフッ素樹脂からなり、なおかつ良好な通気性と防水性とを兼ね備えていると共に、膜状等の任意の形状に形成することが容易な多孔質材料〔例えば住友電工ファインポリマー(株)製のポアフロン(登録商標)等〕が挙げられる(特許文献1参照)。しかし、前記フッ素樹脂からなる多孔質材料は、当然ながら、フッ素樹脂の耐熱温度を超える高い耐熱性が得られない上、機械的強度が低いという問題があり、更なる改善が求められている。
【0004】
すなわち、家屋の外壁等の空気取り入れ口等に取り付けられる防水性空気透過フィルタの場合には、鳥類が衝突したり、鼠等の小動物やゴキブリ、アリ等の虫類が食害したりして穴が形成されるのを防止するために、また、電子機器類の冷却口等に取り付けられる防水性空気透過フィルタの場合には、やはり鼠等の小動物やゴキブリ、アリ等の虫類が食害したりして穴が形成されるのを防止するために、高い機械的強度が求められるが、フッ素樹脂からなる多孔質材料では、この要求に十分に対応することができなかった。また、前記フッ素樹脂からなる多孔質材料は、孔径が小さく、通気抵抗が大きいことから、特に、家屋の外壁等の空気取り入れ口等に取り付けられる防水性空気透過フィルタとしては適さないものであった。
【0005】
高い耐熱性と高い機械的強度とを兼ね備えた多孔質材料としては、ニッケル等の金属からなる多孔質材料〔例えば住友電気工業(株)製のセルメット(登録商標)等〕が知られているが、このものは、孔径が50〜1000μmと大きく、水分を容易に通してしまう上、アリや、ハエ、蚊等の小さな虫類が侵入するのを防止することもできないため、防水性空気透過フィルタとしては使用することができなかった。
【特許文献1】特公昭42−13560号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、従来の、多孔質化されたフッ素樹脂からなる多孔質材料と同等の、高い耐薬品性、化学安定性、撥水性、耐熱性、電気絶縁性、および通気性等を兼ね備える上、前記従来のものに比べて耐熱性や機械的強度に優れた、新規な多孔質材料と、前記多孔質材料を用いた防水性空気透過フィルタとを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、カーボンフェルトを備え、前記カーボンフェルトを構成する少なくとも一部のカーボン繊維の、少なくとも表面にC−F結合が導入されていることを特徴とする多孔質材料である。前記本発明の多孔質材料は、従来のフッ素樹脂等に比べて耐熱温度が高い上、機械的強度にも優れたカーボンフェルトを用いて形成されているため、従来の、多孔質化されたフッ素樹脂からなる多孔質材料に比べて耐熱性や機械的強度に優れている。また、カーボンフェルト自体の多孔質構造ゆえに、良好な通気性をも有している。
【0008】
その上、前記本発明の多孔質材料は、カーボンフェルトを構成する少なくとも一部のカーボン繊維の、少なくとも表面に、フッ素樹脂の最小構成単位であるC−F結合が導入されたものであるため、前記従来のものと同等の、高い耐薬品性、化学安定性、撥水性、耐熱性、および電気絶縁性をも兼ね備えている。したがって、本発明によれば、従来の、多孔質化されたフッ素樹脂からなる多孔質材料と同等の、高い耐薬品性、化学安定性、撥水性、耐熱性、電気絶縁性、および通気性等を兼ね備える上、従来のものに比べて耐熱性や機械的強度に優れた、新規な多孔質材料を提供することができる。
【0009】
また、前記本発明の多孔質材料は、カーボンフェルトを構成するカーボン繊維それ自体の、少なくとも表面のCにFを反応させて、前記C−F結合が導入されたものであるため、例えば、前記カーボンフェルトの内部に、フッ素樹脂を含むコーティング材料を含浸させることで、前記カーボンフェルトを形成する個々のカーボン繊維の表面にフッ素樹脂をコーティングして、前記各特性を付与する場合等に比べて、カーボン繊維の持つ弾力性を損なうことなく維持することができるという利点もある。また、コーティングの場合は、剥離によって前記各特性が失われたり、カーボンフェルトが目詰まりを起こして通気性を損なったりするおそれがあるが、本発明の多孔質材料によれば、これらの問題を生じるおそれもない。
【0010】
さらに、フッ素樹脂を含むコーティング材料としては、通常、フッ素樹脂の微粒子を溶媒中に分散させた、いわゆるディスパージョンが用いられ、カーボンフェルトに含浸させるディスパージョンとしては、前記微粒子の径が、カーボンフェルトの孔径よりも小さい、特殊なディスパージョンを使用しなければならないため、多孔質材料の生産性が低下し、製造コストが上昇するといった問題も生じるが、本発明の多孔質材料によれば、これらの問題を生じるおそれもない。
【0011】
前記本発明の多孔質材料は、カーボン繊維の少なくとも表面を、含フッ素ガスの気相プラズマによって気相プラズマ処理して製造するのが好ましい。前記製造方法によれば、カーボンフェルトを構成するカーボン繊維の全体を、含フッ素ガスの気相プラズマと接触させて、その少なくとも表面のCにFを反応させることができるため、前記カーボン繊維の全体の、少なくとも表面に、ほぼ均一に、C−F結合を導入させることができる。また、気相法ゆえに、廃液処理等を必要としないという利点もある。そのため、先に説明した各特性が、その全体に亘ってほぼ均一に付与された多孔質材料を、生産性良く、コスト安価に製造することができる。
【0012】
本発明は、前記本発明の多孔質材料からなることを特徴とする防水性空気透過フィルタである。前記本発明の防水性空気透過フィルタは、先に説明したように、カーボンフェルトを構成する少なくとも一部のカーボン繊維の、少なくとも表面にC−F結合が導入されることによって、本来的に撥水性である通常のカーボン表面よりもさらに高い撥水性を有しているため、例えば、前記カーボンフェルトの目開き等を調整することで、前記撥水性に基づいて、良好な防水性を付与することができる。
【0013】
そのため、前記本発明の防水性空気透過フィルタを、例えば、先に説明した、家屋の外壁等の空気取り入れ口等に取り付けた場合には、雨水等の浸入を防止しながら良好な換気性を確保することができる上、カーボンフェルトの持つ、高い機械的強度ゆえに、鳥類が衝突したり、鼠等の小動物やゴキブリ、アリ等の虫類が食害したりして穴が形成されるのを防止することができ、前記穴から、屋内に鳥類や小動物、虫類等が侵入したり、雨水が浸入したりして様々な障害が発生するのを、これまでよりも大幅に低減することができる。
【0014】
また、本発明の防水性空気透過フィルタを、電子機器類の冷却口等に取り付けた場合には、水分の浸入による故障等を防止しながら、前記電子機器類を、良好に空冷することができる上、やはり鼠等の小動物やゴキブリ、アリ等の虫類が食害したりして穴が形成されるのを防止することができ、前記穴から、電子機器類の内部に小動物や虫類等が侵入したり、水が浸入したりして、電子機器類が故障するといった障害が発生するのを、これまでよりも大幅に低減することができる。
【0015】
先に説明したように、カーボンフェルトの目開きを調整して、良好な防水性を付与することを考慮すると、前記本発明の防水性空気透過フィルタは、平均繊維径が1〜30μmのカーボン繊維からなり、厚み10mmあたりの目付が100〜1200g/m2であるカーボンフェルトを用いて形成されているのが好ましい。また、本発明の防水性空気透過フィルタは、少なくとも表面にフッ素樹脂がコーティングされているのが好ましい。
【0016】
これにより、本発明の防水性空気透過フィルタに、さらに良好な防水性を付与することができる。しかも、前記コーティングは、防水性空気透過フィルタの、少なくとも表面のみに形成されるため、カーボン繊維の持つ弾力性を損なうことなく維持することができる上、カーボンフェルトが目詰まりを起こして通気性を損なったりするおそれもない。しかも、ディスパージョンをカーボンフェルトに含浸させる必要がないので、前記ディスパージョンとしては、通常のものを使用することができる。そのため少なくとも表面にフッ素樹脂がコーティングされた多孔質材料を、生産性良く、コスト安価に製造することもできる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来の、多孔質化されたフッ素樹脂からなる多孔質材料と同等の、高い耐薬品性、化学安定性、撥水性、耐熱性、電気絶縁性、および通気性等を兼ね備える上、従来のものに比べて耐熱性や機械的強度に優れた、新規な多孔質材料と、前記多孔質材料を用いた防水性空気透過フィルタとを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
《多孔質材料》
本発明の多孔質材料は、カーボンフェルトを備え、前記カーボンフェルトを構成する少なくとも一部のカーボン繊維の、少なくとも表面にC−F結合が導入されていることを特徴とするものである。基材となるカーボンフェルトとしては、その出発原料で大別されるPAN(ポリアクリロニトリル)系、ピッチ系、およびレーヨン系のカーボン繊維からなるフェルトが、いずれも使用可能である。
【0019】
また、カーボン繊維は、前記出発原料からなる繊維を焼成して製造され、その焼成温度によって結晶構造が変化して、導電性や熱伝導性等の内部性状、あるいは撥水性等の表面性状が変化することが知られている。すなわち、焼成温度が高いほど、黒鉛化構造の発達によって、導電性や熱伝導性が向上すると共に、表面に存在する親水性基が少なくなって撥水性が高くなる傾向を示す。
【0020】
そのため、多孔質材料に求められる、先に説明した各特性に応じて、任意の焼成温度で焼成されたカーボン繊維を用いてカーボンフェルトを製造することができる。カーボン繊維からカーボンフェルトを製造するためには、従来同様の製造方法を採用することができる。すなわち、短繊維状のカーボン繊維をカーディング等した後、積層し、ニードルパンチ加工等して、前記カーボン繊維を互いに結合させて一体化する方法や、単繊維状のカーボン繊維を湿式または乾式抄紙する方法等によってカーボンフェルトを製造することができる。
【0021】
なお、後者の製造方法によれば、通常はカーボンペーパーと呼ばれる薄いシート状のものも製造することができるが、本発明で言うところのカーボンフェルトには、かかるカーボンペーパーをも含むこととする。先に説明したように、多孔質材料に防水性等を付与するために、カーボンフェルトの目開きを調整するためには、原料としてのカーボン繊維の平均繊維径を変更したり、前記各製造方法における製造の条件を変更して、製造されるカーボンフェルトの目付を調整したりすればよい。
【0022】
カーボンフェルトを構成する少なくとも一部のカーボン繊維の、少なくとも表面にC−F結合を導入して、本発明の多孔質材料を製造するためには、種々の製造方法を採用することができるが、特に、カーボン繊維の少なくとも表面を、含フッ素ガスの気相プラズマによって処理してフッ素化させる、気相プラズマ処理によって製造するのが好ましい。前記気相プラズマ処理は、例えば半導体素子の製造工程のうち、アッシング工程(洗浄工程)に用いるアッシャ等を用いて実施することができる。前記アッシャとしては、例えばチャンバ内に、一対の平板状の電極を、互いに平行かつほぼ水平に配設した平行平板型プラズマアッシャが挙げられる。
【0023】
前記平行平板型プラズマアッシャを用いて、気相プラズマ処理を実施するためには、まず、あらかじめ所定の多孔質材料の形状に形成したカーボンフェルト、あるいは、複数の、多孔質材料となる領域を内包する原反のカーボンフェルトを用意する。そして、前記カーボンフェルトを、前記アッシャの、通常は、ウエハを保持する保持位置である下側の電極上に保持させた状態で、チャンバ内を、所定の到達真空度まで減圧した後、減圧を続けながら、アッシングガスに代えて、CF4等の含フッ素ガスを、一定の流量でチャンバ内に供給しつつ、一対の電極間に、下側の電極を陰極とする直流電圧、または高周波電圧を印加して、両電極間の空間に、前記含フッ素ガスの低温プラズマを発生させて、カーボンフェルトを、一定時間、前記低温プラズマに曝露させる。
【0024】
そうすると、前記カーボンフェルトを構成するカーボン繊維の全体の、少なくとも表面のCにFを反応させることができため、前記カーボン繊維の全体の、少なくとも表面に、ほぼ均一に、C−F結合を導入させることができる。しかも、気相プラズマ処理は、気相法ゆえに、廃液処理等を必要としない。したがって、気相プラズマ処理によれば、先に説明した各特性が、その全体に亘ってほぼ均一に付与された多孔質材料を、生産性良く、コスト安価に製造することができる。
【0025】
気相プラズマ処理において使用する含フッ素ガスとしては、例えばCF4、C26、C38等のフルオロカーボンガス、三フッ化窒素ガス(NF3)、フッ素ガス(F2)、フッ化水素ガス(HF)等が挙げられ、中でも取り扱いの容易さ等を考慮すると、フルオロカーボンガス、三フッ化窒素ガス(NF3)が好ましい。また、遊離フッ素の残留を防止したり、フッ化水素を分解したりするために、前記含フッ素ガスに、酸素を混合してもよい。
【0026】
気相プラズマ処理以外の多孔質材料の製造方法としては、カーボンフェルトを、フッ素イオンを含む溶融塩電解液に浸漬して電解処理する、溶融塩電解処理による製造方法が挙げられる。前記溶融塩電解処理は、フッ素イオンを含む溶融塩電解液として、例えば微量のフッ化チリウム(LiF)を含むフッ化水素カリウム(KF・HF)等を加熱し、溶融させて得た融液等を用いて実施することができる。すなわち、前記溶融塩電解液に、処理対象であるカーボンフェルトと、対極としての、例えばカーボン電極(カーボンフェルト等)とを浸漬して、前者のカーボンフェルトを陽極、対極を陰極として直流電圧を印加して電解処理すると、前記カーボンフェルトを構成するカーボン繊維の、少なくとも表面のCにFを反応させて、C−F結合を導入させることができる。
【0027】
前記溶融塩電解処理においては、カーボンフェルトの全体を、フッ素イオンを含む溶融塩電解液中に浸漬して電解処理することで、カーボンフェルトを構成するカーボン繊維の全体を、前記電解液と接触させて、その少なくとも表面のCにFを反応させることができるため、前記カーボン繊維の全体の、少なくとも表面に、ほぼ均一に、C−F結合を導入させることができる。のみならず、溶融塩電解処理によれば、例えば、カーボンフェルトの一部分のみを溶融塩電解液中に浸漬して電解処理することで、前記カーボンフェルトの、任意の一部分のみの少なくとも表面に、C−F結合を導入させることもできる。
【0028】
《防水性空気透過フィルタ》
本発明の防水性空気透過フィルタは、前記本発明の多孔質材料からなることを特徴とするものである。前記本発明の防水性空気透過フィルタは、先に説明したように、カーボンフェルトを構成する少なくとも一部のカーボン繊維の、少なくとも表面にC−F結合が導入されることによって、本来的に撥水性である通常のカーボン表面よりもさらに高い撥水性を有しているため、例えば、前記カーボンフェルトの目開き等を調整することで、前記撥水性に基づいて、良好な防水性を付与することができる。
【0029】
具体的には、カーボン繊維の平均繊維径と、カーボンフェルトの目付とを調整することで、前記カーボンフェルトに、良好な防水性を付与することができる。前記平均繊維径、および目付の具体的な範囲は、防水性空気透過フィルタに求められる防水性、ガス透過性、機械的強度等の特性に応じて、適宜、調整することができるが、先に説明した自動車の排ガス中に含まれる酸素濃度を測定するための酸素センサに用いる防水性空気透過フィルタの場合は、カーボン繊維の平均繊維径が1〜30μm、特に10〜15μmであるのが好ましく、カーボンフェルトの、厚み10mmあたりの目付が100〜1200g/m2、特に300〜1000g/m2であるのが好ましい。
【0030】
カーボン繊維の平均繊維径が前記範囲未満、またはカーボンフェルトの目付が前記範囲未満では、このいずれの場合にも、カーボンフェルトの目開きが大きくなりすぎるため、前記カーボンフェルトからなる防水性空気透過フィルタに、良好な防水性を付与できないおそれがある上、前記防水性空気透過フィルタの機械的強度が低下して、小石の衝突や昆虫類等の食害によって穴が形成されやすくなるおそれがある。一方、カーボン繊維の平均繊維径が前記範囲を超える場合、またはカーボンフェルトの目付が前記範囲を超える場合には、このいずれの場合にも、カーボンフェルトの目開きが小さくなりすぎるため、前記カーボンフェルトからなる防水性空気透過フィルタに、良好なガス透過性を付与できないおそれがある。
【0031】
なお、前記本発明の防水性空気透過フィルタに、さらに良好な防水性を付与するために、前記防水性空気透過フィルタの、少なくとも表面に、フッ素樹脂等をコーティングしてもよい。前記フッ素樹脂としては、例えばテトラフルオロエチレン(TFE)とパーフルオロプロピルビニルエーテルとの共重合体(PFA)や、前記TFEとパーフルオロメチルビニルエーテルとの共重合体(MFA)等が挙げられる。前記PFAやMFAの分散液を、スプレーコート法等の塗布法によって、防水性空気透過フィルタの少なくとも表面に塗布した後、焼き付けると、前記コーティングを形成して、防水性空気透過フィルタに、さらに良好な防水性を付与することができる。
【0032】
しかも、前記コーティングは、防水性空気透過フィルタの、少なくとも表面のみに形成されるため、カーボン繊維の持つ弾力性を損なうことなく維持することができる上、カーボンフェルトが目詰まりを起こして通気性を損なったりするおそれもない。しかも、ディスパージョンをカーボンフェルトに含浸させる必要がないので、前記ディスパージョンとしては、通常のものを使用することができる。そのため少なくとも表面にフッ素樹脂がコーティングされた多孔質材料を、生産性良く、コスト安価に製造することもできる。
【0033】
本発明の防水性空気透過フィルタは、先に説明したように、家屋の外壁や屋根に設置する空気取り入れ口や煙突等に取り付けられて、雨水等の浸入を防止しながら良好な換気性を確保するために、あるいは、空冷を必要とする電子機器類の冷却口等に取り付けられて、水分の浸入による、前記電子機器類の故障等を防止するために用いることができるが、その用途は、以上で説明した例には限定されず、防水性と通気性とを兼ね備えると共に、高い耐熱性と機械的強度とが要求される様々な分野のフィルタとして使用することが可能である。
【0034】
また、本発明の多孔質材料の用途は、前記防水性空気透過フィルタには限定されず、先に説明した、従来の、多孔質化されたフッ素樹脂からなる多孔質材料と同等の、高い耐薬品性、化学安定性、撥水性、耐熱性、電気絶縁性、および通気性等を兼ね備える上、前記従来のものに比べて耐熱性や機械的強度に優れることを利用した、様々な用途に使用することができる。そのような用途としては、例えば、自動車用エンジンのインジェクタ用フィルタ(ガソリン中に含まれる硫酸分に対する耐性と、高い耐熱性が要求される)や、電解コンデンサのセパレータ(電解液に対する耐性と、良好な絶縁性が要求される)等が挙げられる。
【実施例】
【0035】
《実施例1》
基材としては、大阪ガスケミカル(株)製のカーボンフェルト〔焼成温度:2000℃、平均繊維径:13μm、厚み10mmあたりの目付:1000g/m2、厚み10mm〕を5cm角の正方形に切り出したものを用いた。前記基材を、平行平板型のプラズマ洗浄装置〔サムコ(株)製のPC−1000〕の、下側の電極上に保持させた状態で、チャンバ内を、到達真空度0.1Paまで減圧した後、減圧を続けながら、CF4ガスを、20sccmの流量でチャンバ内に供給して、前記チャンバ内の内圧を0.15〜0.17Paに維持しつつ、一対の電極間に、下側の電極を陰極とする直流電圧(出力300W)を印加して、両電極間の空間に、前記CF4ガスの低温プラズマを発生させて、カーボンフェルトを2分間、前記低温プラズマに曝露させて気相プラズマ処理した。
【0036】
そして、処理後のカーボンフェルトをチャンバから取り出し、大気中で300℃に加熱して1時間、熱処理した後、前記カーボンフェルトの片面に、MFAの分散液〔ソルベイソレクシス(Solvay Solexis)社製の商品名ハイフロン(Hyflon) D5010X〕をスプレーコートし、320℃で10分間、焼き付けてコーティングを形成して、多孔質材料を製造した。
【0037】
《実施例2》
CF4ガスの流量を40sccmとしたこと以外は実施例1と同様にして、多孔質材料を製造した。この際、チャンバ内の内圧は0.19〜0.20Paであった。
【0038】
《実施例3》
カーボンフェルトを低温プラズマに曝す時間を4分間としたこと以外は実施例1と同様にして、多孔質材料を製造した。
【0039】
《実施例4》
CF4ガスの流量を40sccmとし、かつカーボンフェルトを低温プラズマに曝す時間を4分間としたこと以外は実施例1と同様にして、多孔質材料を製造した。
【0040】
《実施例5〜8》
基材として、大阪ガスケミカル(株)製のカーボンフェルト〔焼成温度:1300℃、平均繊維径:13μm、厚み10mmあたりの目付:500g/m2、厚み10mm〕を5cm角の正方形に切り
出したものを用いたこと以外は実施例1〜4と同様にして、多孔質材料を製造した。
【0041】
《実施例9》
カーボンフェルトの片面にMFA樹脂のコーティングを形成しなかったこと以外は実施例2と同様にして、多孔質材料を製造した。
【0042】
《比較例1》
基材としての、大阪ガスケミカル(株)製のカーボンフェルト〔焼成温度:2000℃、平均繊維径:13μm、厚み10mmあたりの目付:1000g/m2、厚み10mm〕を5cm角の正方形に切り出したものを、低温プラズマ処理、および熱処理せずに多孔質材料とした。
【0043】
《比較例2》
比較例1の基材を、金属製網目ホルダーを用いて、厚み方向に、もとの厚みの約67%まで圧縮したのち、5cm角の正方形に切り出したものを、低温プラズマ処理、および熱処理せずに多孔質材料とした。厚み10mmあたりの目付は約1493g/m2であった。
【0044】
《比較例3》
基材としての、大阪ガスケミカル(株)製のカーボンフェルト〔焼成温度:1300℃、平均繊維径:13μm、厚み10mmあたりの目付:500g/m2、厚み10mm〕を5cm角の正方形に切り出したもの、低温プラズマ処理、および熱処理せずに多孔質材料とした。
【0045】
《撥水性試験》
前記実施例、比較例で製造した多孔質材料を5mm角の正方形に切り出して、長さが、本来の多孔質材料の厚みである10mmで、かつ5mm角の角柱状の防水性空気透過フィルタを作製した。そして、前記防水性空気透過フィルタを、前記角柱の半分の長さ(5mm)まで水に浸漬して水を含ませ、次いで、水から引き上げて3分間、静置した後、秤量して、浸漬前後の重量変化率(%)を求め、下記の基準で撥水性を評価した。
【0046】
◎:重量変化率が1%以下であった。撥水性きわめて良好。
○:重量変化率が1%を超え、かつ3%以下であった。撥水性良好。
△:重量変化率が3%を超え、かつ5%以下であった。撥水性普通。
×:重量変化率が5%を超え、かつ10%以下であった。撥水性不良。
××:重量変化率が10%を超えていた。撥水性きわめて不良。
【0047】
《通気性試験》
実施例、比較例で製造した多孔質材料の、面積6.45cm2の領域に、空気圧力源が1.27kPaである空気100ccを通過させるのに要する時間(通気抵抗R、ガレー秒)を、旭精工(株)製の王研式透気度平滑度試験機KG1−5S型を用いて測定して、下記の基準で通気性を評価した。
◎:通気抵抗Rが1秒未満であった。通気性きわめて良好。
○:通気抵抗Rが1秒以上、5秒未満であった。通気性良好。
×:通気抵抗Rが5秒以上であった。通気性不良。
以上の結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表より、カーボンフェルトを低温プラズマ処理して、前記カーボンフェルトを構成するカーボン繊維の少なくとも表面にC−F結合を導入した実施例1〜8の多孔質材料は、いずれも、未処理のカーボンフェルトである比較例1〜3の多孔質材料に比べて、良好な通気性を維持しつつ、本来的に撥水性であるカーボンよりもさらに撥水性を向上できることが判った。また、各実施例を比較した結果から、カーボンフェルトとしては、焼成温度が高く、黒鉛化構造が発達したものほど、撥水性を向上できること、低温プラズマ処理においてチャンバ内に供給するCF4ガスの濃度が高く、かつ時間が長いほど、撥水性を向上できることが判った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンフェルトを備え、前記カーボンフェルトを構成する少なくとも一部のカーボン繊維の、少なくとも表面にC−F結合が導入されていることを特徴とする多孔質材料。
【請求項2】
カーボン繊維の少なくとも表面を、含フッ素ガスの気相プラズマによって気相プラズマ処理して製造されていることを特徴とする請求項1に記載の多孔質材料。
【請求項3】
請求項1または2に記載の多孔質材料からなることを特徴とする防水性空気透過フィルタ。
【請求項4】
平均繊維径が1〜30μmのカーボン繊維からなり、厚み10mmあたりの目付が100〜1200g/m2であるカーボンフェルトを用いて形成されている請求項3に記載の防水性空気透過フィルタ。
【請求項5】
少なくとも表面にフッ素樹脂がコーティングされている請求項3に記載の防水性空気透過フィルタ。

【公開番号】特開2008−261063(P2008−261063A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−103110(P2007−103110)
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】