説明

多孔質材料を用いた分子の検出方法ならびに該多孔質材料及び該多孔質材料の製造方法

本発明は、気相または液相中の目的分子を多孔質材料に選択的に吸着させ、吸着された目的分子を検出する検出法に関する。本発明の検出方法は、前記多孔質材料が、ナノサイズの細孔を有し、該細孔が高秩序な周期的細孔構造を有し、且つ、細孔の径、形状および細孔内部の表面の構造、並びに細孔内部の表面の化学的親和性が、目的分子の吸着に適合されていることを特徴とする。本発明はさらに、前記多孔質材料とその製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質材料を用いた分子の検出方法に関する。さらに本発明は、該多孔質材料とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
気体中や液体中に微量に存在する分子を選択的且つ高感度に検出する技術としては、(1)目的分子とのみ選択的に反応する物質を添加し、反応後の生成物を検出する方法、(2)目的分子を含んだ系全体を、クロマトグラフなどの分離装置に導入し、時系列的に検出を行う方法、(3)気化や沈殿などの相変化を用いて分離する方法、(4)目的分子のサイズに合ったゲスト分子や、目的分子を篩い分ける物質を用いて検出する方法、(5)目的分子と親和性の高い置換基を利用して目的分子を吸着させて検出する方法、などがあった(非特許文献1)。
【0003】
この従来の方法を用いた場合、以下のような問題が生じる。
【0004】
上述(1)の方法では、目的とする分子と選択的に反応する物質がない場合、目的分子を検出することができない。さらに、目的分子とのみ反応する物質を添加することによる系への影響が不明確である。
【0005】
上述(2)の方法では、物質の分離は装置や条件によって変化するため、目的とする分子の分離に必要な、種々の特性の参照データを装置や測定条件ごとに求めなければならない。また、分離に時間がかかるので、概して測定自体に時間が必要であり、実時間測定は困難である。
【0006】
上述(3)の方法は、物理化学的な性質のみを用いる分離法のため、物理的および/または化学的性質が似通った分子の分離には適さない。
【0007】
上述(4)の方法は、主に物理的なサイズ効果を利用しているため、イオン等、物質の種類とサイズがほぼ1対1に対応するものや、等方的な形状の物質の分離に適している。しかし、一般の分子に見られるように、大きさは似通っているが、異なる物質が多く存在する系や、異方的な形状の分子においては、物理的なサイズだけでは選択的な分離が困難である。また、目的分子を認識するサイトを有するホスト分子の合成には、複雑な合成プロセスが必要である。これは、サイズの大きな目的分子に対しては、より合成が困難になることに繋がる。
【0008】
(5)の方法の問題点について、図1を用いて説明する。従来は、目的分子と親和性の高い置換基を導入する材料(基材)として、3次元構造を持たない2次元表面(図1のA−2−(a))や、無秩序な3次元構造を持つ材料(図1のA−2−(b)、A−2−(c))などを用いていた。従って、導入した置換基への親和性が類似した物質を分離しようとする場合、選択性が十分でない場合もある。例えば導入した置換基に対する親和性が類似した分子、A、B、C及びDを分離しようとしても、図1の(C−2)の棒グラフで分離後の割合を示したように、分離が不十分でな場合がある。
【0009】
また、無秩序な3次元構造を持つ材料(図1のA−2−(c))では、置換基の種類や密度の制御性が悪いという問題もある。すなわち、図1のB−(a)及びB−(b)に示すように、材料の表面を官能基で修飾する場合、または官能基の密度を変化させる場合、これらを目的にあったものに制御することが困難である。また、官能基を持つ骨格構造を形成する場合(図1のB−(c))も無秩序な表面を有する場合は、その制御が困難である。
【0010】
2次元の均一な表面(図1のA−2−(a))では置換基の種類や密度は比較的良好に制御でき、且つ、電気化学的検出法やプローブ分光法、表面に敏感な電子または光を用いた検出法などの、従来の表面分析法への適用は可能であるが、それ以外の手法による検出、例えばマクロな分光法などには不適切である。さらに、一般に真空条件下での操作が必要であるなど、制限が大きいという問題がある。
【0011】
【特許文献1】米国特許第6600558号明細書(特開2003−021595号公報)
【非特許文献1】新実験化学講座9「分析化学II」社団法人日本化学会編 丸善株式会社
【非特許文献2】Ryoo,R.,Ko,C.H.,Kruk,M.,Antochshuk,V.and Jaroniec,M.,J.Phys.Chem.B,104,11465−11471(2000)
【非特許文献3】A.Stein,B.J.Melde,and R.C.Schroden,Adv.Mater.12(19),1403(2000)
【非特許文献4】S.Inagaki,S.Guan,T.Ohsuna,and O.Terasaki,Nature,vol.416,p.304(2002)
【非特許文献5】R.Ryoo,S.H.Joo,and S.Jun J.Phys.Chem.B,103,p7743−7746(1999)
【発明の開示】
【0012】
本発明は、気体中や液体中に微量に存在する目的分子を選択的に高感度に検出する技術として、目的分子と反応する反応物質を添加することなく、装置や条件に依存する分離法を用いることなく、物理的なサイズ効果だけでは分離不可能な物質にも適用でき、目的分子との親和性を制御する官能基の種類や密度の制御性が高く、且つ、分析手法の制約の少ない検出法を提供することを目的とする。本発明の検出方法は、気体中または液体中に微量に存在する目的分子を選択的に高感度に検出する技術である。
【0013】
本発明はさらに、この検出方法に使用できるする多孔質材料(以下本明細書において検出素子とも称する)、並びに、その多孔質材料の製造方法を提供することを目的とする。
【0014】
本発明の一形態は、多孔質材料を用いた分子の検出方法である。この方法は、気相または液相中の目的分子を多孔質材料に選択的に吸着させ、吸着された目的分子を検出する検出法であり、前記多孔質材料が、ナノサイズの細孔を有し、該細孔が高秩序な周期的細孔構造を有し、且つ、細孔の径、細孔の形状および細孔内部の表面の構造、並びに細孔内部の表面の化学的親和性が、目的分子の吸着に適合されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の他の形態は、上記検出方法に使用する多孔質材料である。この材料は、ナノサイズの細孔を有し、該細孔が高秩序な周期的細孔構造を有し、且つ、細孔の径、細孔の形状および細孔内部の表面の構造、並びに細孔内部の表面の親和性が、目的分子の吸着に適合されていることを特徴とする。
【0016】
本発明では、多孔質材料はメソポーラスシリカ材料またはメソポーラスカーボンから選択される。また、多孔質材料の細孔はメソ孔及びマイクロ孔からなり、その径は、メソ孔の直径が2nmから100nmであり、マイクロ孔の直径が0.2から2nmであり、且つその径が均一であることが好ましい。さらに、メソ孔の形状は、六方晶形、立方晶形またはラメラ状から選択されることが好ましい。
【0017】
本発明では、多孔質材料の細孔内部の表面の構造が、細孔内部の表面に置換基を有する構造であり、該置換基の大きさと密度が目的分子に適した構造を有する。また、細孔内部の表面の化学的親和性は、目的分子の吸着に適合した細孔内部の表面の置換基によって提供される。この置換基は水酸基であることが好ましく、この水酸基は、例えば、モノフェニル基、ジフェニル基、トリフェニル基、アゾベンゼン基、ナフチル基などの有機官能基を含む置換基によって修飾されていることが好ましい。さらに有機官能基を含む置換基は、光により異性化し、置換基の細孔内における占有体積が減少するものであってもよい。本発明では、有機官能基は、モノフェニル基、ジフェニル基、トリフェニル基、アゾベンゼン基あるいはナフチル基であることが好ましい。
【0018】
さらに、本発明の検出方法では、多孔質材料に目的分子を選択的に吸着させた後、多孔質材料を加熱して目的分子の濃縮ガスを光学的検出手段に導くことにより検出するか、または、目的分子を吸着した状態のまま光学的手段により検出することができる。
【0019】
本発明の他の形態は、多孔質材料の製造方法である。具体的には、ナノサイズの細孔を有し、該細孔が高秩序な周期的細孔構造を有する多孔質材料の製造方法である。一実施形態では、細孔の鋳型となる物質を含む溶液を30〜130℃の温度に加熱し、これに多孔質材料の前駆体を添加して沈殿を形成させ、前記沈殿を乾燥した後、450〜950℃の温度で焼結することを特徴とする。本発明の他の態様では、焼結して得られた多孔質材料を鋳型として用いる方法である。焼成された多孔質材料を、炭素源となる物質と触媒としての酸を含む溶液に混合し、80〜120℃で6〜12時間反応させ、次いで窒素雰囲気または真空のような無酸素条件下で約700〜1100℃において焼成する。次に、フッ酸または強アルカリで処理する。他の実施形態では、細孔の鋳型となる物質を含む溶液を30〜130℃の温度に加熱し、これに多孔質材料の前駆体を添加して多孔質材料を含む溶液を調製し、基材上に該溶液を塗布して乾燥することを特徴とする。
【0020】
本発明の製造方法で得られる多孔質材料の細孔の径は、本発明では、メソ孔の直径が2nmから100nmであり、マイクロ孔の直径が0.2から2nmであることが好ましい。本発明の製造方法で使用される細孔の鋳型となる物質は、ブロック共重合体、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTMABr)/ドデシルアミン(DDA)、CTMABr、DDAまたはカチオン性界面活性剤(例えば、第4級アンモニウムで長鎖アルキル基を有する物質であれば特に限定されない。)から選択されることが好ましい。また、細孔の鋳型となる物質を含む溶液のpHが、pH1からpH11の範囲であることが好ましい。多孔質材料はメソポーラスシリカ材料またはメソポーラスカーボンから選択されることが好ましい。
【0021】
本発明の製造方法では、多孔質材料はさらに親水性処理されることが好ましい。親水性処理は、多孔質材料を硫酸/過酸化水素水で処理することであり、これにより水酸基を増加させ、親水性を向上させることであることが好ましい。
【0022】
本発明の製造方法では、多孔質材料は細孔内の置換基として水酸基を有し、該多孔質材料を加熱するか、または、中性から酸性の溶液で表面処理することにより、細孔内部の水酸基を減少させ、親水性を低下させることも好ましい。さらに、多孔質材料にカップリング剤を作用させ、細孔内部の表面を有機官能基を有する置換基で修飾することもできる。
【0023】
本発明の多孔質材料は、ナノサイズの高秩序な周期的細孔構造を有し、さらに、細孔の形状及びサイズ、細孔内部の表面の置換基の種類と密度などの細孔内の構造、及び、細孔内表面と目的分子との親和性を制御したものである。これによって細孔の物理的サイズ、細孔内部の表面の立体効果及び目的分子と細孔内表面の化学的相互作用の3つの要因により、気相や液相中の目的分子を選択的に吸着させることができる。この多孔質材料を用いることで、目的分子を高感度且つ選択的に検出する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】目的分子と親和性の高い置換基を利用して目的分子を吸着させて検出する場合の従来技術の問題点を説明する図。
【図2】目的分子と親和性の高い置換基を利用して目的分子を吸着させて検出する場合の本発明の特徴を説明する図。
【図3】本発明の検出素子の特徴を示す図である。
【図4】実施例1において、本発明の効果を説明する図。
【図5】実施例2において、本発明に使用する装置を説明する図。
【図6】実施例3において、本発明の効果を説明する図。
【図7】実施例4において、本発明の効果を説明する図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明は、気体中や液体中に微量に存在する目的分子を選択的に高感度に検出する検出法、この検出方法に使用できるする多孔質材料、並びに、その多孔質材料の製造方法を提供する。以下にこれらの発明について説明する。なお、以下の説明では、適宜図面を参照して説明するが、これらは本発明の例示であり、本発明を制限することを意図するものではない。
【0026】
まず、本発明の検出方法について説明する。
【0027】
本発明の検出方法は、多孔質材料において、(i)該多孔質材料がナノサイズの高秩序な周期的細孔構造を有すること、(ii)細孔の形状及びサイズ、細孔内部の表面の置換基の種類及び密度などの細孔内表面の構造を制御すること、及び、(iii)細孔内表面の置換基を種々選択することにより検出の対象となる分子(以下、目的分子とも称する)との親和性を制御すること、により気相または液相中の目的分子を選択的に吸着させる。次に、吸着された目的分子を適切な分析手段で分析することにより、高感度な選択的検出法を実現する。
【0028】
具体的には、本発明による目的分子の検出法は、例えば図2の(A−1)(a)及び(b)に示されるように、気相または液相中の目的分子を選択的に吸着させるために、3次元的に高秩序の周期的細孔構造を有する多孔質材料を使用する。この多孔質材料は、ナノサイズの細孔の形状、細孔径、及び細孔内部の表面の置換基の種類及び密度を制御し、さらに細孔の表面を種々の置換基により置換して目的分子との親和性を制御したものである(例えば、図2、B(a)、(b)および(c))。
【0029】
本発明による目的分子の検出方法は、まず、多孔質材料に目的分子を吸着させる。本発明では、上記(i)から(iii)に示した多孔性材料の細孔の構造及び細孔内に導入される置換基の種類により気相または液相中の目的分子を選択的に吸着させる。本発明の一の実施形態では、例えば、本発明では、上記(i)及び(ii)の多孔質材料自体の特性に加え、上記(iii)として、細孔内の置換基の密度を適切に選択して目的分子を選択的に吸着させる。
【0030】
別の実施形態では、例えば、本発明では、上記(i)及び(ii)の多孔質材料自体の特性に加え、上記の(iii)として、多孔質材料の細孔内に、光照射によって異性化する官能基を導入し、この異性化によって置換基の、細孔内における占有体積を減少させ(従って、細孔内の体積は置換基の異性構えと比べて増加する)、該多孔質材料に、目的分子を選択的に吸着さる。
【0031】
また、別の実施形態の目的分子の検出方法では、上記(i)及び(ii)の多孔質材料自体の特性に加え、上記の(iii)として、親水性処理をした多孔質材料の表面と疎水性処理をした多孔質材料の表面を交互に形成した多孔質材料を用い、例えば目的分子以外の分子を親水性表面に吸着させ、目的分子を疎水性表面に導いて吸着させる。この手順は、分子サイズが同等の複数の分子を含有する気体または液体から目的分子を吸着する場合に有効である。
【0032】
次に、上記のような多孔質材料に選択的に吸着された目的分子を適切な手段で検出する。一実施形態では、前記多孔質材料に吸着された目的分子を加熱などの手段により取り出し、目的分子の濃縮ガスを光学的に検出する。他の実施形態では、上述のように目的分子以外の分子を多孔質材料の親水性表面に吸着させ、目的分子を多孔質材料の疎水性表面に導き、目的分子が吸着された領域を光学的に測定する。
【0033】
このように、本発明では、高感度な選択的検出法として、ナノサイズの高秩序な周期的細孔構造を有する検出素子において、細孔の形状、半径、細孔内部の表面の置換基の種類と密度などの構造、及び、細孔内表面と目的分子との親和性を制御した多孔質材料を使用し、気相や液相中の目的分子を選択的に吸着させることを特徴とする。
【0034】
また本発明は、検出する目的分子の種類などによって、目的分子を多孔質材料上に吸着濃縮した状態で、あるいは、吸着分子を加熱などにより多孔質材料から脱着させた状態で光学的に検出することができる。
【0035】
本発明の検出方法は、例えば、本発明の多孔質材料を含む、目的分子を選択的に分離するための分離部と、分離部で分離された目的物質を検出するための検出部を少なくとも具備する装置により実施することができる。本発明では、分離部に検出部を組み込むことができる。このような装置を使用して、上述のように分離操作を行い目的分子を検出する。
【0036】
次に、本発明の多孔質材料(検出素子)について説明する。
【0037】
本発明による多孔質材料(検出素子)は、気相あるいは液相中の目的分子を選択的に吸着させるため、3次元的に高秩序な周期的細孔構造を有する。本発明の多孔質材料は、ナノサイズの細孔の孔径及びそのナノサイズの細孔表面の特性を制御したことを特徴とする。
【0038】
なお、本明細書において、「制御」または「制御する」とは、細孔内部の表面の物理的構造、及び細孔内部の表面と目的分子との相互作用(すなわち、細孔内部の表面に適切な置換基を導入すること)を、目的分子を選択的に多孔質材料に吸着できるように適宜選択することを言う。
【0039】
本発明の多孔性材料(検出素子)は、ナノサイズの高秩序な周期的細孔構造を有する多孔質材料において、(i)細孔の形状及びサイズ、(ii)細孔内部の表面の置換基の種類及び密度などの細孔内表面の構造、及び、(iii)細孔内表面の置換基を種々選択することによる検出の対象となる分子(以下、目的分子とも称する)との親和性、を目的分子に適合するように制御したものである。これにより気相や液相中の目的分子を選択的に多孔質材料に吸着させることができる。
【0040】
具体的には、本発明による多孔質材料は、例えば図2の(A−1)(a)及び(b)に示されるように、気相あるいは液相中の目的分子を選択的に吸着させるため、3次元的に高秩序の周期的細孔構造を有する。この多孔質材料は、ナノサイズの細孔の形状及び細孔径、並びに細孔の表面が種々の置換基により制御されたものである(例えば、図2、B(a)、(b)および(c))。
【0041】
本発明による多孔質材料は、図2の(A−1)の(a),(b)に記載した高秩序(たとえば六方晶形、立方晶形、ラメラ状の細孔形状)の細孔(以下メソ孔という)を備えており、このメソ孔には、その壁面に細孔(以下、マイクロ孔という)を形成することもできる。例えば、図3に示すような多孔質材料の場合、メソ孔は細孔32で示されるようなものであり、マイクロ孔は細孔34で示されるようなものである。本発明の多孔質材料は、マイクロ孔を有することが好ましい。
【0042】
この多孔質材料は、所定の孔径を有することが好ましい。本発明では、メソ孔の孔径(直径)が2nmから100nmであり、マイクロ孔の孔径(直径)が0.2から2nmであることが好ましい。なお、本発明の多孔質材料は、メソ孔が周期的構造を有する。マイクロ孔の構造は、周期的である必要はない。したがって、本明細書で使用される「周期的構造」または「3次元的な周期的構造」という用語は、メソ孔を対象とした構造をいう。また、メソ孔及びマイクロ孔は共に径が均一である。
【0043】
本発明では、ナノサイズの高秩序な周期細孔構造を有する多孔質材料として、メソポーラスシリカ材料、メソポーラスカーボンなどの孔径分布の狭い材料を用いることができる。
【0044】
本発明では、上述の材料において、合成時の温度・酸性度・細孔の鋳型となる物質(界面活性剤や自己組織化高分子)・焼成温度、光や熱などの物理的刺激を用いて細孔の形状、サイズ、細孔内部の表面の置換基の種類と密度など、及び、細孔内表面と目的分子との親和性を制御することにより、3次元構造のみ、または表面の親和性のみでは選択的な吸着が困難な分子の選択的濃縮を実現することが可能となる。
【0045】
また、本発明は、上述のナノサイズの高秩序な周期的細孔構造を有する多孔質材料の細孔内部を、原料に有機・無機複合材料を用いることにより、または、合成後に有機官能基を細孔内部に導入したり、または、酸やアルカリなどの化学物質、物理的な酸化還元反応により細孔内表面の置換基の種類や密度を目的分子の吸着に適するように制御することによって分子の選択的濃縮を実現することが可能となる。
【0046】
検出されるべき目的分子は、一般的にナノメートルあるいは、それ以下のサイズのため、分子サイズより僅かに大きい均一な孔を有するメソポーラスシリカやメソポーラスカーボン材料を使用することが好ましい。内部に目的分子と親和性が高い置換基を固定化すると分子と置換基との相互作用は、2次元表面のような一方向からだけでなく、例えば孔の上下の置換基とも目的分子が相互作用し、これらは3次元的に相互作用することになる。
【0047】
また、置換基の密度や種類を変えると孔の物理的な空間サイズが変化し、目的分子の構造の僅かな違い(直線的か側鎖を有するかどうか、または目的分子の置換基の数の僅かな差、あるいは、剛直性など)により、分子間で立体障害に差が生じることとなる。例えば、置換基の密度や種類を変えて孔の物理的な空間サイズを減少させ、分子の構造の僅かな違い(直線的か側鎖を有するかどうか、または目的分子の置換基の数の僅かな差、あるいは、剛直性など)で生じる立体障害により孔内に目的分子が入り込めないようにすることができる。このようにすることで、仮に孔内の置換基と目的分子の相互作用が大きかったとしても孔内での目的分子の濃縮が起こりにくくなる。また、細孔内の表面に導入された置換基の立体障害を利用して目的分子を選択的に多孔性材料に吸着させる別の例として、置換基が光照射により異性化するものであって、置換基の細孔内における占有体積が減少するような置換基を細孔に導入することが挙げられる。このような置換基を導入した多孔質材料では、光照射前の細孔内の体積は、照射後のそれと比べて小さい。従って、光照射の有無で、目的分子の選別が行える。
【0048】
以上のように、孔のサイズ、孔内の置換基の大きさ、種類、および/または密度を変えることにより、細孔の物理的サイズ及び細孔内部の表面の立体効果(サイズ効果)、並びに化学的な親和性の両方の効果を同時にかつ3次元的に利用することにより、複雑な合成手法を用いることなく高い選択性を実現できる。
【0049】
更に、多孔質材料の広い内部表面を用いて分子を選択的に濃縮する為、高い感度も達成することができる。
【0050】
さらに、本発明においては、このような細孔の表面に置換基を形成することを特徴としている。すなわち、細孔の形状及び径と、細孔の表面状態を制御することによって、目的分子を効率的に選択吸収することができる。この置換基の大きさ、密度を制御することにより、細孔内部表面の物理的構造を制御することができ、この置換基を形成することで目的分子との化学的相互作用を制御することが可能である。
【0051】
本発明では、置換基としては、水酸基をあげることができ、さらに有機官能基でこの水酸基を修飾することができる。修飾する基には、有機官能基として、たとえばモノフェニル基、ジフェニル基、トリフェニル基、アゾベンゼン基あるいはナフチル基を含有する化合物(詳細は実施例参照)などをあげることができる。また、置換基の別の例としては、メソポーラスカーボンでは、例えばカルボン酸(−COOH)、ケトン(C=O)、アルデヒド(CHO)、水酸基(COH)などを挙げることができる。
【0052】
たとえば細孔の表面の水酸基の密度が大きいほどクレゾール、ベンゼンなどに対しては選択吸収性が向上する(実施例1参照)。しかしながら、目的分子を疎水性表面で濃縮測定する場合(実施例4参照)、水酸基を減少させるために多孔質材料を加熱しあるいは中性から酸性溶液で表面処理することもできる。
【0053】
また、モノフェニル基、ジフェニル基、トリフェニル基を導入した場合、フェノールを選択的に捕捉することができる(実施例2)。アゾベンゼン基を導入した場合には、ノニエルフェノールを選択的に捕捉でき、ナフチル基を導入した場合には、アリチアミンを選択的に捕捉することが可能である(実施例4)。
【0054】
次に本発明の多孔質材料の製造方法について説明する。
【0055】
本発明による検出素子の製造方法は、細孔の鋳型となる物質を含む溶液を30〜130℃の温度に加熱し、これに多孔質材料の前駆体を添加して沈殿を形成させ、前記沈殿を乾燥した後、これを450〜950℃の温度で焼結する。このようにすることで、メソポーラスシリカのような多孔質材料を得ることができる。本発明の別の実施形態では、得られた焼結体を、炭素源としてフルフリルアルコールなどのアルコール類、蔗糖などの糖類と触媒としての酸(例えば、硫酸(96%)など)の混合物または水溶液に混合し、応させ、これを約700℃〜約1100℃で窒素雰囲気下または真空下のような無酸素条件下で焼結し、得られた焼結体をフッ酸または強アルカリで処理して、メソポーラスカーボンのような多孔質材料を得ることもできる。次に、細孔内の置換基の構造、濃度などを制御するか、および/または、有機官能基を導入する。これにより、高秩序の周期的細孔構造を3次元的に有するナノサイズの細孔の形状及び孔径及びそのナノサイズの細孔表面の特性を制御した多孔質材料とすることができる。
【0056】
本発明による検出素子の製造方法では、まず、細孔の鋳型となる物質を含む溶液を30〜130℃の温度に加熱し、前駆体を添加して沈殿を形成させる。
【0057】
このような細孔の鋳型となる物質は、細孔を形成する際の鋳型になるものであり、自己組織化的に周期構造を形成させるためのものである。典型的にはブロック共重合体をあげることができ、このようなブロック共重合体の種類によって六方晶、立方晶、ラメラ構造などのメソ孔の周期構造の制御が可能であり、このメソ孔の周期構造及びそれに付随するマイクロ孔の構造を制御することができ、本発明に有用である。ブロック共重合体としては、エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体、たとえばEO20−PO70−EO20(EO:エチレンオキシド、PO:プロピレンオキシドであり、数字はブロックあたりの各分子の数である)、EO100−PO65−EO100、EO5−PO70−EO5などを使用することができる。さらに、CTMABr/DDA,CTMABr,DDA及びカチオン性界面活性剤(例えば、第4級アンモニウムで長鎖アルキル基を有する物質であれば特に限定されない。)などを鋳型として使用することができる。本発明では、マイクロ孔を形成できる鋳型となる物質が好ましい。
【0058】
このような細孔の鋳型となる物質を、たとえば希塩酸に溶解し、この溶液を30〜130℃の温度に加熱した後、多孔質材料の前駆体を添加して沈殿を形成させる。このような前駆体としては、たとえばTEOS(テトラエチルオルトシリケート)を使用することができる。本発明では、反応温度は30〜130℃の範囲であることが好ましい。
【0059】
本発明においては、TEOSを多孔質材料の前駆体として使用した場合、前記沈殿を乾燥した後、450〜900℃の温度で焼結する。本発明では、この範囲に含まれない焼結温度も使用することができるが、焼結温度が900℃を越えると、結晶化が進み、また細孔が小さくなって、細孔表面の水酸基の密度が減少するとともに、目的分子の選択的な吸着特性が低下する可能性がある。また450℃未満であると、細孔の鋳型となる物質のブロック共重合体などが除去されずに残る可能性がある。このようにして多孔質材料としてのメソポーラスシリカを製造することができる。本発明では、メソポーラスカーボンを作製することもできる。この場合は、先の説明で得られたメソポーラスシリカを鋳型として用いることができる。例えば、上記のようにして得られたメソポーラスシリカを鋳型とし、炭素源としてフルフリルアルコールなどのアルコール類、蔗糖などの糖類を用いればよい。具体的には、メソポーラスシリカを、上記炭素源のいずれかと触媒としての酸(例えば、硫酸(96%)など)の混合物または水溶液(蔗糖、96%硫酸を用いた水溶液では、例えば蔗糖:硫酸:水=1.25:0.16:6.0(非特許文献5))と混合し、80〜160℃で6〜12時間反応させる。これにより、炭素源をメソポーラスシリカのメソ孔およびマイクロ孔に導入する。次いで、これを約700℃〜約1100℃で窒素雰囲気下または真空下のような無酸素条件下で焼結する。得られた焼結体をフッ酸または強アルカリを用いて、室温などでシリカを溶出し、メソポーラスカーボンを得ることができる。
【0060】
本発明では、上述のように前駆体を鋳型の溶液に添加した後、基材(例えば導波路型チップ)上に塗布して薄膜を形成し、鋳型物質を除去して検出素子を形成することもできる。
【0061】
本発明においては、このように形成された多孔質材料に対し、酸処理あるいはアルカリ処理を行うことが可能である。このように酸処理またはアルカリ処理を行うことにより、細孔体積を減少させ、かつ表面水酸基の密度を減少させることができる。酸またはアルカリ処理に使用できる酸またはアルカリは特に限定されない。例えば塩酸、硝酸、硫酸、アルカリ金属水酸化物、弱アルカリ(例えばアンモニア水、アルカリ金属炭酸塩など)等を使用することができる。これらの溶液は、例えばpH1〜11を有することが好ましい。また、本発明では、硫酸と過酸化水素水の混合液(混合割合;例えば、濃硫酸(96%):過酸化水素:水=2:1:1〜3:1:1)のような溶液で表面を処理することにより、細孔表面を親水性にすることができる。
【0062】
選択吸収された目的分子は、たとえば加熱により放出された濃縮ガスを光学的に測定するか、または、検出素子に吸着濃縮された状態で、光学的に測定するなどの方法により、検出できる。光学的測定法は特に限定されないが、例えば紫外光検出器などを用いることができる。
【0063】
以下、図面を参照して本発明の実施例をさらに詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【実施例1】
【0064】
本発明の第1の実施例として、微量なクレゾールガスの選択的な検出を、化学的性質の類似したトルエンを混合した雰囲気中から行った例について図4を用いて説明する。
【0065】
メソポーラスシリカ粉末は、ブロック共重合体を鋳型とした自己組織化法を用いて、以下のように合成した。ブロック共重合体EO20−PO70−EO20(EO:エチレンオキシド、PO:プロピレンオキシド)(P123)を希塩酸に溶解する。Ts=40℃の溶解温度において撹拌し、シリカ前駆体であるTEOS(テトラエチルオルトシリケート)を加えると、沈殿が生成する。
【0066】
この溶液及び沈殿物を80℃で一日静置した後、ろ過し、水で洗浄して室温にて風乾する。最後に穏やかに焼成する。焼成は以下の手順で行った。まず、室温から700℃まで8時間かけて昇温する。次いで、700℃で6時間放置する。さらに、700℃から100℃まで8時間かけて冷却した後、自然冷却によって室温に戻す。
【0067】
以上の方法から、メソ孔直径5.5nm及びマイクロ孔直径0.7nmの2種類の均一な細孔を有するメソポーラスシリカを得た(図4;1−(a))。このときメソ孔は六方晶の周期構造を持つ。この六方晶の形状は図2のA−1−(b)または図4に示されるよう細孔形状を有しており、比較的長い筒状の形状をしており、クレゾールとトルエンを分離するうえで、良好な形状を備えている。
【0068】
さらにこの粉末を、硫酸/過酸化水素水(硫酸と過酸化水素の混合液(比率;濃硫酸(96%):過酸化水素:水=2:1:1〜3:1:1))にて表面を親水性処理した。また、親水性処理後、100℃(図4、1−(b))、400℃(図4、1−(c))、500℃(図4、1−(d))に加熱して、水酸基の密度のみをそれぞれ約90%、70%、30%に減少させた試料を作製した。なお、図4中、OHは水酸基を示す。
【0069】
ここで、クレゾール、トルエン各10ppmの混合ガスからクレゾールの選択的な検出を行った。検出シグナルのクレゾール:トルエンの比は、加熱無=5:1(図4、1−(a))、100℃=4:1(図4、1−(b))、400℃=2:1(図4、1−(c))、500℃=1:1(図4、1−(d))となり、親水性が高いほど混合ガスからのクレゾール選択性が高いことが分かった。
【0070】
また、焼成温度を500℃にして試料を合成した。これにより、メソ孔直径6.0nm及びマイクロ孔直径0.6nmの均一な細孔を有するメソポーラスシリカを得た(図4、2−(a))。以上の2種類の焼成温度を用いて、2種類の上記細孔径を有するメソポーラスシリカを得た。
【0071】
さらに、焼成温度500℃で調製した多孔質材料を、硫酸/過酸化水素水にて表面を親水性処理した。また、親水性処理後、100℃(図4、2−(b))、400℃(図4、2−(c))、500℃(図4、2−(d))に加熱して、水酸基の密度のみをそれぞれ約90%、70%、30%に減少させた試料を作製した。クレゾール、トルエン各10ppmの混合ガスからクレゾールの選択的な検出を行った場合、検出シグナルのクレゾール:トルエンの比は、加熱無=2:1(図4、2−(a))、100℃=3:2(図4、2−(b))、400℃=1:1(図4、2−(c))、500℃=1:1(図4、2−(d))となり、焼成温度が700℃の場合に比べてクレゾール選択比が減少した。
【0072】
これは、表面と分子の親和性に加えて細孔サイズの効果(細孔径及び立体障害)が選択性に影響していることを示すものであり、本発明の効果を用いて、気体中の微量の目的分子を選択的に高感度検出できることが示された。
【0073】
細孔サイズは、合成温度、超分子鋳型の種類、焼成温度、酸性度などの条件によって制御できる(表1〜4)。また、いくつかの例が報告されている(非特許文献2)。表1は、鋳型物質と多孔質材料の前駆体を混合する際の合成温度と、細孔直径の関係を検討した結果である。表2は、鋳型分子を種々変更した場合の細孔直径の変化を検討した結果である。表3は、焼結温度を種々変化させた場合の細孔直径の変化を検討した結果である。表4は、多孔質材料を形成した後に、酸またはアルカリで細孔表面を処理する場合の、酸またはアルカリのpHによる細孔の直径の変化を検討した結果である。なお、表2のカチオン界面活性剤は、セチルトリメチルアンモニウムブロミドである。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【0076】
【表3】

【0077】
【表4】

【実施例2】
【0078】
本発明の第2の実施例として、ガス分光分析用微量フローセル(特許文献1)を検出装置として用いて、微量なベンゼンガスの選択的な検出を、化学的性質の類似したトルエン、o−キシレンを混合した雰囲気中から行った例について説明する。
【0079】
ベンゼンを選択的に高感度検出するために、メソポーラスシリカは、以下のように合成した。セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTMABr)をアンモニウム水に溶解する。ブロック共重合体EO100−PO65−EO100(EO:エチレンオキシド、PO:プロピレンオキシド)を希塩酸に溶解する。Ts=40℃の溶解温度において撹拌し、シリカ前駆体であるTEOS(テトラエチルオルトシリケート)を加えると、沈殿が生成する。この溶液及び沈殿物を80℃で一日静置した後、ろ過し、水で洗浄して室温にて風乾する。最後に塩酸メタノール中で処理し、48時間かけてCTMABrを溶媒抽出する。以上の方法から、メソ孔直径4.3nm及びマイクロ孔直径1.1nmの2種類の均一な細孔を有するメソポーラスシリカを得た。このときメソ孔は六方晶の周期構造を持つ。すなわちベンゼンとトルエン、o−キシレンを分離するうえで、良好な細孔形状を備えている。
【0080】
このメソポーラスシリカにそれぞれシランカップリング剤を用いてモノフェニル、ジフェニル、トリフェニル基の有機官能基を修飾した。この多孔質材料を用いて吸着特性を比較した。メソポーラスシリカの表面は、カップリング剤の選択によって任意の有機官能基で修飾することができ(表5)、またその密度も表面処理によって制御できる(表6)。いくつかの多孔質材料の例が報告されている(非特許文献3)。
【0081】
これを特許文献1に記載の微量フローセル流路内に充填した。装置の見取り図を図5に示す。
【0082】
微量フローセルは、濃縮セル1と測定セル2を備えており、前記濃縮セル1には、測定するガスを流通させるためのガス流路11と、前記ガス流路11に充填された多孔質材料12と、前記多孔質材料12に吸着固定された物質を加熱するための薄膜ヒータ13が備えられている。一方、測定セル2には、前記ガス流路11より、測定されるべき物質のガスを流通させ、かつ測定用の紫外線を通過させる紫外線光路兼ガス流路21が備えられている。さらに、前記ガス流路11と紫外線光路兼ガス流路21とを接続して連通するための接続流路3及び濃縮セル1のガス流路11に測定すべきガスを流入させるガス導入流路14及び測定し終わったガスを排出するガス排出流路22を備えている。なお、4はガス導入流路14にガスを導入するためのポンプ、15は前記薄膜ヒータ13を加熱するための電源、5は前記紫外線光路兼ガス流路21に紫外線を入射するための紫外光源、5aおよび51は紫外線用のレンズ、6は出射した紫外線を検出するための紫外検出器、7はパソコンである。
【0083】
以下に測定の手順を例として説明する。ポンプ4によりベンゼンを含んだ空気を、濃縮セル1のガス導入流路14からガス流路11に導入し、このガス流路11内に充填された多孔質材料12にベンゼンガスを吸着固定する。一定時間通気後、薄膜ヒータ13に電源15より通電して加熱し、多孔質材料12に吸着されたベンゼンガスを加熱脱着温度に昇温してベンゼンを脱着させる。この脱着分離されたガスを接続流路3を介して、測定セル2の紫外線光路兼ガス流路21に導入する。紫外光源5及び紫外検出器6に接続された光ファイバにより、吸収分光による汚染物質の検出を行う。測定後のガスはガス排出流路22から排出される。データはパソコン7により処理される。
【0084】
ここで、ベンゼン、トルエン、o−キシレン各10ppmの混合ガスからベンゼンの選択的な検出を行ったところ、ベンゼンガスの吸収スペクトルと一致するスペクトルが検出された。
【0085】
検出シグナルのベンゼン:トルエン:o−キシレンの比は、有機官能基モノフェニル=5:1:1、ジフェニル=7:1:1、トリフェニル=10:1:1となり、フェニル基の数が多くなるにしたがって混合ガスからのベンゼン選択性が向上することが分かった。高感度検出できることが分かった。以上から、本発明を用いて、気体中の微量の目的分子を選択的に高感度検出できることが示された。
【0086】
また実施例1と同様に試験したところ、水酸基の多いほうがベンゼンの選択吸収性が大きいことがわかった。
【0087】
【表5】

【0088】
【表6】

【実施例3】
【0089】
本発明の第3の実施例として、溶液中の微量なノニルフェノールの高感度な選択的検出を試みた。ノニルフェノールは、他のフェノール類(ビスフェノールAやエストラジオール)などと共に、環境ホルモンである疑いがある。
【0090】
ここで、選択的な濃縮を行うための多孔質材料として、メソポーラスシリカ薄膜の表面にアゾベンゼンを修飾した薄膜を用いた。ブロック共重合体EO100−PO65−EO100(EO:エチレンオキシド、PO:プロピレンオキシド)を希塩酸に溶解する。Ts=40℃の溶解温度において撹拌し、シリカ前駆体であるTEOS(テトラエチルオルトシリケート)を加えた溶液を基板上に塗布し、薄膜を得た。この膜を80℃で一日静置した後、ろ過し、水で洗浄して室温にて風乾する。最後に穏やかに焼成する。焼成は以下の手順で行った。まず、500℃まで8時間かけて昇温する。次いで、500℃で6時間放置する。さらに、500℃から100℃まで8時間かけて冷却した後、自然冷却によって室温に戻す。以上の方法から、直径4.3nm及び1.0nmの2種類の均一な細孔を有するメソポーラスシリカを得た。このときメソ孔は立方晶の周期的構造を持つ。この場合、メソ孔は図2の1−(a)に示すように立方晶形であり、薄膜表面に多くの細孔を備えた形状であり、比較的長い筒状である(六方晶形よりは短いが)。このため、ノニルフェノールを良好に分離できる。
【0091】
このメソポーラスシリカ薄膜にシランカップリング剤を用いて有機官能基としてアゾベンゼン基を有するケイ素化合物で細孔表面を修飾した。この多孔質材料を用いて吸着特性を比較した。ここでメソポーラスシリカ薄膜は、気体との接触面積が大きくなるよう、メソ孔が立方晶の周期的構造を有するものを用いた。置換基として導入したアゾベンゼン誘導体は、紫外線の照射によって光異性化を起こすため、この構造の変化にともなって細孔のサイズが変化する。図6にこのような状況を模式的に示す。
【0092】
図6において、非照射時はノニルフェノール分子41は、棒状のアゾベンゼン分子42に阻まれて、ナノサイズの細孔43内に進入できない(図6(a))。一方、光を照射すると、照射した部分はアゾベンゼン分子42が異性化して曲がった形状を取るため、細孔径が大きくなりノニルフェノール分子41が取り込まれる(図6(b))。このとき、大きな構造をもつビスフェノールAなどのフェノール類は、取り込まれるためにはさらに大きな細孔サイズを要するため、細孔内に進入できず、細孔内で選択的に吸着されない。
【0093】
さらに、アゾベンゼン分子が光異性化した場合は、アゾ基の窒素分子の非共有電子対が細孔内に張り出す。この張り出した非共有電子対とノニルフェノールがブレンステッド酸を生成し、ファンデルワールス結合よりも強固な吸着状態を形成する。これによって、より高い選択性を有する吸着が発現できる。このとき、照射する光源を測定用の光源と兼ねることもできる。このようにして、吸収スペクトルを測定することにより、光の照射している部分に取り込まれたノニルフェノール分子を選択的に測定することが可能となる。光が照射されない部分、すなわちノニルフェノール分子の濃度が低い部分は、測定の対象とはされないため、ノイズとなるパックグラウンドを小さくし、シグナルの感度の増加をはかることが可能となる。
【実施例4】
【0094】
本発明の第4の実施例として、微量なニンニク臭(アリシン)の選択的な検出を、大気雰囲気中から行った例について説明する。
【0095】
アリシン51は、水溶性のビタミンB1(チアミン)52と反応すると、脂溶性の誘導体であるアリチアミン53を生ずる(図7参照)。チアミン52とアリチアミン53の分子サイズはほぼ同等であるため、これらの分子を選択的に吸着する細孔を有する骨格構造のメソポーラスシリカを用いて、他の共存分子を排除することができる。その上で、誘導体のアリチアミン53を多量のチアミン52存在下から選択的に高感度で検出できれば、アリシン51の高感度な検出が可能となる。
【0096】
ここで、吸着分子(アリチアミン)53の拡散係数を〜10−12/s程度と見積もると、1μm移動するために約1秒を必要とする。したがって、サンプリング時間を数分〜1時間程度とした場合、約100μm間隔で親水性表面54と疎水性表面55とを交互に作製すれば、予め導入するチアミン52は親水性表面54に固定されやすく、誘導体であるアリチアミン53は拡散によって、より親和性の高い疎水性表面55に移動することができると考えられる。無機・有機複合原料を用いることにより、任意の有機構造を骨格に持つメソポーラスシリカを合成することができる(表7)。いくつかの多孔質材料の例が報告されている(非特許文献4)。
【0097】
例えば、導波路型のチップ上に、以下のようにメソポーラスシリカ薄膜を作製する。界面活性剤C1225SONaをアンモニウム水に溶解する。Ts=40℃の溶解温度において撹拌し、シリカ前駆体であるTEOS(テトラエチルオルトシリケート)を加えた溶液を基板上に塗布し、薄膜を得た。この膜を80℃で一日静置した後、水で洗浄して室温にて風乾する。最後に塩酸メタノール中で処理し、48時間かけてCTMABrを溶液抽出する。以上の方法から、直径2.8nm及び0.5nmの2種類の均一な細孔を有するメソポーラスシリカを得た。このときメソ孔はラメラ状の周期的構造を持つ。ラメラ状の形状は、層状であり、アリシン51とアリチアミン53を分離するうえで、良好な形状である。
【0098】
この表面を硫酸/過酸化水素水で洗浄し、水酸基を活性化して親水性表面54とする。ブロック共重合ポリマを鋳型としてメソポーラスシリカ薄膜を作製し、表面を硫酸/過酸化水素水で洗浄し、水酸基を活性化して親水性表面54とする。ここに100μm間隔で表面に疎水性の高いナフチル基を修飾し、疎水性表面55とする。親水性表面54の端面に金属などでマスク56を作製しておけば、疎水性表面55にのみ光を導入することができる。
【0099】
疎水性表面55に選択的に吸着されたアリチアミン53を吸収スペクトル測定によって測定し、定量的に検出を行うことが可能となる。予めアリシン濃度との相関を測定しておくことで、アリシン濃度に換算することができる。
【0100】
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0101】
以上のように、ナノサイズの高秩序な周期細孔構造を有する多孔質材料において、細孔の形状、細孔のサイズ、細孔内部の表面の置換基の種類と密度などの多孔質材料の構造、及び、細孔内表面と目的分子との親和性を制御する。これによって細孔の物理的サイズ、細孔内部の表面の立体効果及び目的分子と細孔内表面の化学的相互作用の3つの要因により、気相や液相中の目的分子を選択的に吸着させることができ、目的分子を高感度に選択的に検出する方法が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相または液相中の目的分子を多孔質材料に選択的に吸着させ、吸着された目的分子を検出する検出法であって、前記多孔質材料が、ナノサイズの細孔を有し、該細孔が高秩序な周期的細孔構造を有し、且つ、細孔の径、細孔の形状および細孔内部の表面の構造、並びに細孔内部の表面の目的分子との親和性が、目的分子の吸着に適合されていることを特徴とする検出方法。
【請求項2】
前記多孔質材料はメソポーラスシリカ材料またはメソポーラスカーボンから選択されることを特徴とする請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
前記細孔はメソ孔及びマイクロ孔からなり、これらの孔径はメソ孔の孔径(直径)が2nmから100nmであり、マイクロ孔の孔径(直径)が0.2から2nmであり、且つその径が均一であることを特徴とする請求項1または2に記載の検出方法。
【請求項4】
前記細孔がメソ孔及びマイクロ孔からなり、メソ孔の形状が、六方晶形、立方晶形またはラメラ状から選択されることを特徴とする1から3のいずれか1項に記載の検出方法。
【請求項5】
前記細孔内部の表面の構造が、細孔内部の表面に置換基を有する構造であり、該置換基の大きさと密度が目的分子に適した構造を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の検出方法。
【請求項6】
前記細孔内部の表面の目的分子との親和性が、目的分子の吸着に適合した細孔内部の表面の置換基によって提供されることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の検出方法。
【請求項7】
前記置換基が水酸基であることを特徴とする請求項5または6に記載の検出方法。
【請求項8】
前記水酸基が、有機官能基を含む置換基によって修飾されていることを特徴とする請求項7に記載の検出方法。
【請求項9】
前記有機官能基が、モノフェニル基、ジフェニル基、トリフェニル基、アゾベンゼン基またはナフチル基から選択されることを特徴とする請求項8記載の検出方法。
【請求項10】
前記多孔質材料に目的分子を選択的に吸着させた後、前記多孔質材料を加熱し、目的分子の濃縮ガスを光学的検出手段に導くことにより、目的分子を光学的に検出することを特徴とする請求項1記載の検出方法。
【請求項11】
前記多孔質材料に目的分子を選択的に吸着させた後、目的分子を吸着した状態のまま光学的手段により検出することを特徴とする請求項1記載の検出方法。
【請求項12】
前記多孔質材料が、光照射により異性化し、占有体積が減少する官能基を含む置換基で修飾されており、前記多孔質材料の光照射された部分に目的分子を選択的に吸着させることを特徴とする請求項1記載の検出方法。
【請求項13】
前記多孔質材料が、親水性処理した細孔内部表面と疎水性処理をした細孔内部表面とを交互に形成したものであり、目的分子を疎水性表面に選択的に吸着し、目的分子を光学的に検出することを特徴とする請求項1記載の検出方法。
【請求項14】
前記目的分子は、クレゾール、ベンゼン、ノニルフェノールまたはアリチアミンから選択されることを特徴とする請求項1から13のいずれか1項に記載の検出方法。
【請求項15】
気相または液相中の目的分子を選択的に吸着させる多孔質材料であって、前記多孔質材料が、ナノサイズの細孔を有し、該細孔が高秩序な周期的細孔構造を有し、且つ、細孔の径、細孔の形状および細孔内部の表面の構造、並びに細孔内部の表面の親和性が、目的分子の吸着に適合されていることを特徴とする多孔質材料。
【請求項16】
前記多孔質材料はメソポーラスシリカ材料またはメソポーラスカーボンから選択されることを特徴とする請求項15に記載の多孔質材料。
【請求項17】
前記細孔はメソ孔及びマイクロ孔からなり、これらの孔径はメソ孔の孔径(直径)が2nmから100nmであり、マイクロ孔の孔径(直径)が0.2から2nmであり、且つその径が均一であることを特徴とする請求項15または16に記載の多孔質材料。
【請求項18】
前記細孔がメソ孔及びマイクロ孔からなり、メソ孔の形状が六方晶形、立方晶形またはラメラ状から選択されることを特徴とする15から17のいずれか1項に記載の多孔質材料。
【請求項19】
前記細孔内部の表面の構造が、細孔内部の表面に置換基を有する構造であり、該置換基の大きさと密度が目的分子に適した構造を有することを特徴とする請求項15から18のいずれか1項に記載の多孔質材料。
【請求項20】
前記細孔内部の表面の目的分子との親和性が、目的分子の吸着に適合した細孔内部の表面の置換基によって提供されることを特徴とする請求項15から19のいずれか1項に記載の多孔質材料。
【請求項21】
前記置換基が水酸基であることを特徴とする請求項19または20に記載の多孔質材料。
【請求項22】
前記水酸基が、有機官能基を含む置換基によって修飾されていることを特徴とする請求項21に記載の多孔質材料。
【請求項23】
前記有機官能基が、モノフェニル基、ジフェニル基、トリフェニル基、アゾベンゼン基またはナフチル基から選択されることを特徴とする請求項22記載の多孔質材料。
【請求項24】
前記有機官能基を含む置換基が、光により異性化し、前記置換基の占有体積を減少させるものであることを特徴とする請求項22に記載の多孔質材料。
【請求項25】
細孔の鋳型となる物質を含む溶液を30〜130℃の温度に加熱し、これに多孔質材料の前駆体を添加して沈殿を形成させ、前記沈殿を乾燥した後、450〜950℃の温度で焼結することを特徴とする、ナノサイズの細孔を有し、該細孔が高秩序な周期的細孔構造を有する多孔質材料の製造方法。
【請求項26】
細孔の鋳型となる物質を含む溶液を30〜130℃の温度に加熱し、これに多孔質材料の前駆体を添加して多孔質材料を含む溶液を調製し、基材上に該溶液を塗布して乾燥することを特徴とする、ナノサイズの細孔を有し、該細孔が高秩序な周期的細孔構造を有する多孔質材料の製造方法。
【請求項27】
前記細孔が0.1〜50nmの範囲の半径を有することを特徴とする請求項25または26に記載の製造方法。
【請求項28】
前記細孔の鋳型となる物質が、ブロック共重合体、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTMABr)/ドデシルアミン(DDA)、CTMABr、DDAまたはカチオン性界面活性剤から選択されることを特徴とする請求項25から27のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項29】
前記細孔の鋳型となる物質を含む溶液のpHが、pH1からpH11の範囲であることを特徴とする請求項25から28のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項30】
前記多孔質材料を、さらに親水性処理することを特徴とする請求項25から29のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項31】
前記親水性処理は、多孔質材料を硫酸/過酸化水素水で処理することであり、これにより水酸基を増加させ、親水性を向上させることを特徴とする請求項30記載の製造方法。
【請求項32】
前記多孔質材料が細孔内の置換基として水酸基を有し、該多孔質材料を加熱するか、または、中性から酸性の溶液で表面処理することにより、細孔内部の水酸基を減少させ、親水性を低下させることを特徴とする請求項25から29のいずれか1項に記載の検出素子の製造方法。
【請求項33】
前記多孔質材料にカップリング剤を作用させ、細孔内部の表面を有機官能基を有する置換基で修飾することを特徴とする請求項25から32のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項34】
前記有機官能基が、モノフェニル基、ジフェニル基、トリフェニル基、アゾベンゼン基またはナフチル基から選択されることを特徴とする請求項33記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【国際公開番号】WO2005/015198
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【発行日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512949(P2005−512949)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011240
【国際出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】