説明

多孔質濾過膜用微孔形成剤、これを配合してなる多孔質濾過膜用樹脂組成物、及び多孔質濾過膜の製造方法

【課題】微細で均一な孔径を有し、膜強度と透水性能が高く、生産性に優れた多孔質濾過膜を製造するための微孔形成剤を提供する。
【解決手段】炭酸カルシウム粒子が、界面活性剤(A)と、アルカリ土類金属に対してキレート能を有する化合物(B)とで表面処理された疎水化炭酸カルシウム粒子からなることを特徴とする多孔質濾過膜用微孔形成剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質濾過膜用微孔形成剤、これを配合してなる多孔質濾過膜用樹脂組成物、及び多孔質濾過膜の製造方法に関し、さらに詳しくは、本発明の多孔質濾過膜用微孔形成剤は、極めて分散性に優れた疎水化炭酸カルシウムであることから、多孔質濾過膜用樹脂に配合した場合、強度劣化を起こすような凝集物が生じ難く、また、該樹脂組成物をフィルム化することにより、膜性能、膜強度、生産コストの軽減等、優れた性能及び特徴を有する多孔質濾過膜を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の多孔質濾過膜として、例えばポリフッ化ビニリデン樹脂と有機液状体及び無機系微孔形成剤を混合した後、溶融成形し、次いでかかる成形物より有機液状体及び無機微粉体を抽出することを特徴とする製造方法において、微孔形成剤に疎水性シリカを用いる方法が報告されており、湿式製膜法や親水性無機微粉体を用いたものより機械的強度に優れたものが得られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3−215535号公報
【特許文献2】WO2002/070115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記方法においては、最終工程として疎水性シリカを除去する際に、高温高濃度のアルカリ水溶液に長時間膜を浸漬させる必要があり、また、そのシリカ溶解後の廃液処理の問題もあるため、生産能力は低く、コスト負担が大きいという問題があった。
本発明は、上記問題を解決し、酸で容易に除去でき廃液処理の問題もない多孔質濾過膜用微孔形成剤、該微孔形成剤等を配合した多孔質濾過膜用樹脂組成物、及び樹脂組成物からなる膜から微孔形成剤、又は微孔形成剤と有機液状体を除去することにより、膜性能、膜強度、生産コストの軽減等、優れた性能や特徴を有する多孔質濾過膜を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意研究の結果、炭酸カルシウム粒子に表面処理(被覆)をする際に、表面処理剤として、界面活性剤と、アルカリ土類金属に対してキレート能を有する化合物とを併用することにより極めて分散性の高い疎水化炭酸カルシウム粒子を得ることができ、該疎水化炭酸カルシウム粒子からなる微孔形成剤を用いて製造した多孔質濾過膜は、均一な微孔径を有し、膜強度と透水性能が高く、生産性に優れていることを見出し、本発明を達成するに至った。
【0006】
即ち、本発明の第1の特徴は、炭酸カルシウム粒子が、界面活性剤(A)と、アルカリ土類金属に対してキレート能を有する化合物(B)とで表面処理された疎水化炭酸カルシウム粒子からなる合成樹脂多孔質濾過膜用微孔形成剤である。
【0007】
本発明の第2の特徴は、上記微孔形成剤20〜80重量%と、合成樹脂10〜50重量%と、有機液状体0〜35重量%(三者の合計で100重量%)を含有することを特徴とする多孔質濾過膜用樹脂組成物である。
【0008】
本発明の第3の特徴は、上記合成樹脂がポリフッ化ビニリデン樹脂であることを特徴とする。
【0009】
本発明の第4の特徴は、上記有機液状体がフタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソノニルよりなる群から選ばれる少なくとも1種のフタル酸エステルであることを特徴とする。
【0010】
本発明の第5の特徴は、上記樹脂組成物を溶融成形して膜を得、次いで該膜から微孔形成剤と有機液状体を除去することを特徴とする多孔質濾過膜の製造方法である。
【0011】
本発明の第6の特徴は、上記製造方法において、微孔形成剤を酸で除去することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の多孔質濾過膜用微孔形成剤によれば、微細で均一な孔径を有し、膜強度と透水性能が高く、生産性に優れた濾過用多孔質膜を提供することができる。
また、本発明の多孔質濾過膜用微孔形成剤は、硝酸、塩酸等の酸性水溶液中で短時間で膜から除去できるので、廃液処理等の問題もなく、生産性が良好でコスト的にも有利である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の多孔質濾過膜用微孔形成剤(以下、単に微孔形成剤と記す場合がある。)は、炭酸カルシウム粒子が界面活性剤(A)と、アルカリ土類金属に対してキレート能を有する化合物(B)とで表面処理された疎水化炭酸カルシウム粒子からなることを特徴とする。
【0014】
本発明の微孔形成剤に用いられる炭酸カルシウム粒子としては、合成炭酸カルシウム粒子が好ましい。合成方法としては、炭酸ガス化合法が一般的で、この方法は石灰石を焼成して得た生石灰に水を加えて得られる石灰乳と、焼成時に出る炭酸ガスとを反応させて炭酸カルシウム粒子を得る方法であり、得られる粒子は微細で一次粒子の粒径・形状も均一である。また反応時の条件や反応後の工程によって粒度の調整、粗大粒子の除去も可能であり、得られる粒子の物性及び経済性や環境への負荷の点でも優れており、多孔質濾過膜用に好適である。
また、原料である石灰石においては不純物に留意して選択することが好ましい。従って、焼成時の燃料としては一般にコークスや重油、軽油、灯油等が使用されているが、コスト的に許される限り、不純物が少ないという観点から、焼成には軽油や灯油を使用することが好ましい。
【0015】
また、石灰乳や反応で得られた炭酸カルシウム粒子は、水スラリー形態の時点で、デカンテーションといった重力や遠心力、浮力選鉱等を利用した分級、ならびに篩やフィルター等で不純物および粗大粒子を除去することが好ましい。
【0016】
さらに乾燥・解砕後に得られた炭酸カルシウム粒子または表面処理炭酸カルシウム粒子に対しても、空気分級等の分級操作を行い、乾燥によって生じた凝集体を除去することが好ましい。
なお、空気分級をはじめ、乾燥工程で使用する空気や工程中での空気輸送などにおいて、大気中のホコリや塵(カーボンや微細金属)も、絶縁性を目的とした用途の場合には悪影響を与える要因となるため、各種フィルター等で除去する等の対策を施すことも効果的である。
【0017】
本発明に用いられる界面活性剤(A)としては、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、脂環族カルボン酸、樹脂酸、それらの塩、それらのエステルや、アルコール系界面活性剤、ソルビタン脂肪酸エステル類、アミド系界面活性剤やアミン系界面活性剤、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、長鎖アルキルアミノ酸、アミンオキサイド、アルキルアミン、第四級アンモニウム塩等が例示される。これらは単独で又は必要に応じ2種以上組み合わせて用いられる。
【0018】
飽和脂肪酸としては、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等が挙げられ、不飽和脂肪酸としては、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等が挙げられ、脂環族カルボン酸としては、シクロペンタン環やシクロヘキサン環の末端にカルボキシル基を持つナフテン酸等が挙げられ、樹脂酸としてアビエチン酸、ピマル酸、ネオアビエチン酸等が挙げられる。これらは単独で又は必要に応じ2種以上組み合わせて用いられる。
【0019】
アルコール系界面活性剤としては、アルキル硫酸エステルナトリウム、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム等が挙げられ、ソルビタン脂肪酸エステル類としては、ソルビタンモノラウレートやポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等が挙げられ、アミド系やアミン系界面活性剤としては、脂肪酸アルカノールアミド、アルキルアミンオキシド等が挙げられ、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等が挙げられ、長鎖アルキルアミノ酸としては、ラウリルベタイン、ステアリルベタイン等が挙げられる。これらは単独で又は必要に応じ2種以上組み合わせて用いられる。
【0020】
アミンオキサイドとしては、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、アルキルアミンオキサイド等が挙げられ、アルキルアミンとしては、ステアリルアミンアセテート等が挙げられ、第四級アンモニウム塩としては、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライドや第四級アンモニウムサルフェート等が挙げられる。これらは単独で又は必要に応じ2種以上組み合わせて用いられる。
【0021】
上記の各種酸の塩としては、例えば、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属塩やアンモニウム塩が挙げられ、具体的にはラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の飽和脂肪酸の塩や、オレイン酸等の不飽和脂肪酸の塩が挙げられる。また、ナフテン酸鉛、シクロヘキシル酪酸鉛等の脂環族カルボン酸塩、アビエチン酸塩も使用可能である。これらは単独で又は必要に応じ2種以上組み合わせて用いられる。
【0022】
また、上記の各種酸のエステルとしては、例えば、カプロン酸エチル、カプロン酸ビニル、アジピン酸ジイソプロピル、カプリル酸エチル、カプリン酸アリル、カプリン酸エチル、カプリン酸ビニル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジイソプロピル、イソオクタン酸セチル、ジメチルオクタン酸オクチルドデシル、ラウリン酸メチル、ラウリン酸ブチル、ラウリン酸ラウリル、ミリスチン酸メチル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸セチル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸イソセチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸イソトリデシル、パルミチン酸メチル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸オクチル、パルミチン酸セチル、パルミチン酸イソステアリル、ステアリン酸メチル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸ステアリル、ステアリン酸コレステリル、イソステアリン酸イソセチル、ベヘニン酸メチル、ベヘニン酸ベヘニル等の飽和脂肪酸エステル;オレイン酸メチル、リノール酸エチル、リノール酸イソプロピル、オリーブオレイン酸エチル、エルカ酸メチル等の不飽和脂肪酸エステルが挙げられる。更に、長鎖脂肪酸高級アルコールエステル、ネオペンチルポリオール( 長鎖・中鎖を含む) 脂肪酸系エステルおよび部分エステル化合物、ジペンタエリスリトール長鎖脂肪酸エステル、コンプレックス中鎖脂肪酸エステル、12- ステアロイルステアリン酸イソセチル、12- ステアロイルステアリン酸イソステアリル、12- ステアロイルステアリン酸ステアリル、牛脂脂肪酸オクチルエステル、多価アルコール脂肪酸アルキルグリセリルエーテルの脂肪酸エステル等の耐熱性特殊脂肪酸エステル、安息香酸エステル系に代表される芳香族エステルが挙げられる。これらは単独で又は必要に応じ2種以上組み合わせて用いられる。
【0023】
上述の界面活性剤の中でも飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、脂環族カルボン酸、樹脂酸の各塩で表面処理された微孔形成剤は、樹脂に配合された際に樹脂の絶縁性や耐熱性等を阻害することなく分散性も良好である点で好ましく、とりわけ脂肪酸のアルカリ金属塩の混合物が更に好ましい。
【0024】
上述の直鎖脂肪酸のアルカリ金属塩を界面活性剤(A)として用いる場合、各々の組成の脂肪酸を選択・混合して調整することが好ましいが、本発明の効能を阻害しない範囲で、同等の組成の市販の石鹸等を使用してもよい。市販品として、「マルセル石鹸」(日本油脂製商品名、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸が主成分)、「タンカルパウダー」(ミヨシ油脂製商品名、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸が主成分)、「ノンサールSK−1」(日本油脂製商品名、ステアリン酸が主成分)、「ノンサールLN−1」(日本油脂製商品名、ラウリン酸が主成分)等が好適に使用できる。
【0025】
界面活性剤(A)の使用量は、炭酸カルシウム粒子の比表面積によって変わり、一般に比表面積が大きいほど使用量は大きくなる。しかし、多孔質濾過膜の基材となる樹脂のMI値等の諸物性や、コンパウンド時に添加する滑剤をはじめとする諸条件によって変動するので一概には規定しにくいが、通常、炭酸カルシウム粒子に対して0.1 〜15重量%が好ましい。使用量が0.1 重量%未満では充分な分散効果が得られない傾向があり、一方、15重量%を超えると、多孔質濾過膜のブリードや、強度の低下等が起こる問題が生じやすい傾向がある。
【0026】
本発明に用いられる、アルカリ土類金属に対してキレート能を有する化合物(B)としては、例えばエチレンジアミン四酢酸やニトリロ三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラアミン六酢酸等に代表されるアミノカルボン酸及びその塩類;1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸(HEDP)、アミノトリメチレンホスホン酸(ATMP)等のホスホン酸及びそのカリウム、ナトリウム等のアルカリ金属塩類;ポリ塩化アルミ等のアルミニウム化合物;ポリアクリル酸、ポリマレイン酸等のポリカルボン酸等が例示される。これらは単独、又は必要に応じ2種以上組み合わせて用いられる。
上記酸の塩としては、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属塩やアンモニウム塩が挙げられる。
【0027】
アルカリ土類金属に対してキレート能を有する化合物(B)の使用量は、上記界面活性剤(A)で述べたように微孔形成剤の比表面積や、コンパウンド条件等に応じて変わるので一概には規定しにくいが、通常、炭酸カルシウム粒子に対して0.05〜5重量%が好ましい。使用量が0.05重量%未満では充分な分散効果が得られない傾向があり、一方、5重量%を越えて添加しても効果の更なる向上が認められない傾向がある。
【0028】
また、表面処理方法としては、例えば、スーパーミキサーやヘンシェルミキサー等のミキサーを用い、炭酸カルシウム粒子粉体に直接表面処理剤(A)、(B)を混合し、必要に応じて加熱して表面処理(被覆処理)する一般に乾式処理と呼ばれる方法;例えば、表面処理(A)、(B)を水または湯にて溶解し、攪拌されている炭酸カルシウム粒子水スラリーに添加して表面処理した後、脱水、乾燥する一般に湿式処理と呼ばれる方法;両者を複合した方法;が挙げられるが、炭酸カルシウム粒子への表面処理の度合いと経済性の観点から、湿式処理単独が好ましく用いられる。
【0029】
上記の如くして得られる本発明の多孔質濾過膜用微孔形成剤は、下記の式(a)〜(d)の粉体特性を満足することが好ましい。
(a)0.3≦D50≦1.5(μm)
(b)Da≦20(μm)
(c)3≦Sw≦60(m2 /g )
(d)1≦As≦4(mg/m2
(e)1≦Oa≦4(ml/100 m2)
但し、
D50:レーザー回折式(マイクロトラックFRA)における粒度分布において、大きな粒子側から起算した重量累計50%平均粒子径(μm)
Da :レーザー回折式(マイクロトラックFRA)における粒度分布において、最大粒子径(μm)
Sw :窒素吸着法によるBET比表面積(m2 /g)
As :次式により算出される単位比表面積当たりの熱減量:
{200℃〜500℃の微孔形成剤1g当たりの熱減量(mg/g)}/Sw(g/m2
Oa :次式により算出される吸油率:
{微孔形成剤の吸油量(ml/100 g) }/Sw(m2 /g )
上記(a)、(b)式は、本発明の微孔形成剤の分散状態を知る指標になるものである。
【0030】
(a)式は、マイクロトラックFRAで測定した平均粒子径(D50)で、0.3〜1.5μmであることが好ましい。平均粒子径(D50)を0.3μm未満にすることは技術上可能であるが、コストの点で好ましくなく、1.5μmを超えると、1次粒子の凝集体で構成する2次粒子の凝集力が強く、樹脂中でも2次粒子のままで存在するため本発明の多孔質濾過膜用途には使用できない場合がある。多孔質濾過膜は、空孔率が80%前後と高く、より高圧で、より速い流速が求められているため、樹脂強度もより高強度が必要であることから、より1次粒子に近い分散であることが望ましい。そのため、より好ましくは0.3〜1.0μm、更に好ましくは0.3〜0.8μmである。
【0031】
(b)式は、マイクロトラックFRAで測定した最大粒子径(Da)で、20μm以下であることが好ましい。最大粒子径(Da)が20μmを超えると、目的以上の大きな空孔が形成され、不純物を濾過する性能や樹脂の強度において低下する場合がある。そのため、より好ましくは15μm以下、更に好ましくは10μm以下である。
なお、平均粒子径(D50)及び最大粒子径(Da)の測定方法を下記に示す。
<測定方法>
マイクロトラックFRA(レーザー回折式粒度分布計)を用い、測定に用いる媒体としてメタノールを用いる。測定する前に、本発明の微孔形成剤試料の懸濁化を一定にするため、前処理として超音波分散機(日本精機製作所製)を使用し、300 μAで60秒間の一定条件で予備分散する。
【0032】
(c)式は、本発明の微孔形成剤のBET比表面積(Sw)で、3〜60m2 /gであることが好ましい。比表面積(Sw)が3m2 /g未満の場合、一次粒子が大き過ぎる場合があり、多孔質濾過膜に配合されたとき、目的とする孔径より大きな孔径を形成し易く、60m2 /gを超えると、分散性が低下し目的とする孔径を得るのに問題が生じる場合がある。従って、より好ましくは5〜30m2 /g、更に好ましくは7〜20m2 /gである。
【0033】
(d)式は、本発明の微孔形成剤、即ち、表面処理した炭酸カルシウム粒子の表面処理率(As)である。
前記した如く、表面処理剤量は炭酸カルシウム粒子の比表面積や表面処理剤の種類等によって異なるため、表面処理率(As)も一概に規定できないが、通常、1〜4mg/m2 であることが好ましい。表面処理率(As)が1mg/m2 未満では十分な分散効果が得られない場合があり、一方、4mg/m2 超えても、更なる効果向上が得られにくいばかりか、表面処理剤過多により表面処理剤成分が樹脂成分へ遊離する原因になる場合がある。従って、より好ましくは、1.5〜3.5mg/m2 、更に好ましくは2.0〜3.0mg/m2 である。
なお、表面処理率(As)の測定方法を下記に示す。
<測定方法>
熱天秤(リガク社製TG−8110型)にて、直径10mmで0.5mlの白金製容器に本発明の微孔形成剤試料100mgを入れ、15℃/分の昇温速度で昇温して200℃から500℃までの熱減量を測定し、微孔形成剤、即ち、表面処理した疎水化炭酸カルシウム粒子1g当りの熱減量率(mg/g)を求め、この値をBET比表面積で除して求める。
【0034】
(e)式は、本発明の微孔形成剤の吸油率(Oa)で、微孔形成剤の親水度の指標である。多孔質濾過膜の製造方法は、非溶媒誘起相分離法(NIPS法)や、蒸気誘導相分離法(VIPS法)、熱誘起相分離法(TIPS法)の3種類が一般的であるが、粉体を使用した多孔質濾過膜の製造方法は、最終的に有機液状体や微孔形成剤を除去する熱誘起相分離法が主である。微孔形成剤は合成樹脂との相溶性の面で、疎水性があることが必要であるが、より好ましくは両親媒性である方が、微孔形成剤を塩酸等の酸で除去する際に、除去がし易く、均一な孔や親水性のある膜が得られやすい。また、濾過膜の透過水量や強度、耐久性、耐欠陥性、耐ファウリング性の面でも有効である。通常、吸油率(Oa)は、1〜4ml/100m2 であることが好ましい。吸油率(Oa)が1ml/100m2 未満の場合、親水性が低いため、酸での微孔形成剤の除去が困難になったり、均一な孔径の親水性の膜が得られ難い。一方、4ml/100m2 を超える場合、親水性が高いため、微孔形成剤と樹脂との相溶性の面で問題が生じやすい。従って、より好ましくは1.5〜3.5ml/100m2 である。なお、吸油率(Oa)の測定方法を下記に示す。
<測定方法>
本発明の微孔形成剤試料5gを中央がスリガラスになった吸油量測定専用のガラス板上にとり、酸価0.3〜0.6のアマニ油を用いJISK5101−19に準拠して測定する。
アマニ油量の終点は、試料がガラス板に粘りつく直前とし、吸油量は次式で求めることができ、この値を、BET比表面積で除して吸油率(Oa)を求める。
吸油量(ml/100 g) =アマニ油の量(ml)/微孔形成剤試料の質量(g)
【0035】
次に、本発明の多孔質濾過膜用樹脂組成物について説明する。先ず多孔質濾過膜の製造方法において、前記した相分離法の他に、延伸開孔法、溶媒膨潤開孔法の3種類の方法が挙げられるが、その中で相分離法が一般的である。相分離法では、通常、微孔形成剤と有機液状体及び合成樹脂との3成分を混合して樹脂組成物を得、この樹脂組成物を溶融成形して膜を得、次いで、該膜から有機液状体と微孔形成剤を除去する熱誘起相分離法で多孔質濾過膜を製造する。
【0036】
本発明の多孔質濾過膜用樹脂組成物に用いられる合成樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やテフロン(登録商標)(PTFE)で代表されるフッ素系樹脂、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)や超高分子ポリエチレン(UHMW−PE)等のポリオレフィン系樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)、ナイロンやアラミドで代表されるポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリサルフォン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリアクリルニトリル(PAN)、セルロース等が例示できる。
これらの中でもポリフッ化ビニリデンで代表されるフッ素系樹脂が、耐薬品性、耐光性、耐熱性、耐寒性などに優れており好適である。
なお、ポリフッ化ビニリデン樹脂は、フッ化ビニリデン単独重合体及びフッ化ビニリデン共重合体が挙げられる。フッ化ビニリデン共重合体としては、フッ化ビニリデンと四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、三フッ化塩化エチレン、エチレンから選ばれた1種以上との共重合体であるものが用いられる。これらは混合して用いても何ら差し支えないが、好ましくはフッ化ビニリデン単独重合体が用いられる。
【0037】
本発明の多孔質濾過膜用樹脂組成物に用いられる有機液状体は、膜から抽出されて多孔質膜を形成するものであるため、溶融成形時に液体であり、不活性であることが必要であるが、溶融成形後に合成樹脂中で適度に溶解し、冷却ゲル化時に微孔形成剤表面に吸着し、さらには有機溶媒による抽出性があるものが成形性の面で好ましい。これらの観点から、フタル酸ジエチル(DEP)、フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ジオクチル(DOP)、フタル酸ジイソノニル(DINP)等のフタル酸エステルやリン酸エステル、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等が挙げられる。これらは単独又は混合して用いられるが、中でもフタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジイソノニル及びこれらの混合物が好ましい。
【0038】
本発明の多孔質樹脂用組成物3成分の配合量は、通常、微孔形成剤が20〜80重量%、好ましくは40〜80重量%、合成樹脂が10〜50重量%、好ましくは20〜40重量%、有機液状体が0〜35重量%、好ましくは3〜20重量%である。尚、三者の合計で100重量%である。
【0039】
微孔形成剤が20重量%未満であると有機液状体を吸着させるのに十分と言い難く、80重量%を超えると溶融成形時の流動性が悪化するため、好ましくは20〜80重量%である。
【0040】
合成樹脂が10重量%未満であると大きな孔径の多孔質膜が生成し、50重量%を超えると十分な孔径を得ることができないため、好ましくは20〜40重量%である。
【0041】
有機液状体は、用いる樹脂によっては、0%でも多孔性を付与することができるが、成形性や濾過膜強度の面からは、有機液状体を使用した方が好ましい。一方、35重量%を超えると溶融成形時の流動性が問題となり孔径の均一性に問題が生じ、強度低下や膜性能の低下が起こりやすい。従って、好ましくは3〜20重量%である。
【0042】
本発明の多孔質濾過膜用樹脂組成物は、合成樹脂、微孔形成剤の2成分、又はこれらの2成分と有機液状体との3成分で構成されるが、更に、可塑剤、滑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、成形助剤等を必要に応じて添加することは何ら差し支えない。
【0043】
本発明の多孔質濾過膜用樹脂組成物の調整方法は、前記した2成分又は3成分をヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、タンブラーミキサー等の配合機で混合する。混合方法については特に限定されず、全成分を一度に混合しても、又は1成分ずつ混合しても特に問題はないが、3成分の場合は、好ましくは、微孔形成剤と有機液状体の2成分を予め混合した後、合成樹脂を混合する方法が均一な孔径を得るのに適している。
【0044】
本発明の多孔質濾過膜の製造方法については、前記の如くして調整した2成分又は3成分を含有する樹脂組成物を、例えば押出機、2本ロール、ニーダー等の溶融混練装置にて混練した後、T ダイ法、インフレーション法、押出成形法、カレンダー成形法、圧縮成形法、射出成形法等で膜を成形することができる。成形膜の形状としては、中空糸状、チューブ状、平膜状等が挙げられる。
【0045】
次いで、有機液状体が配合されている場合は、得られた成形膜から有機液状体が抽出除去される。有機液状体の抽出除去は有機溶媒を用いて行う。有機溶媒は合成樹脂を溶解させず、有機液状体を溶解するものであり、メタノール、アセトン等でも良いが、特に1,1,1-トリクロロエタン、トリクロロエチレン等のハロゲン系炭化水素が好ましい。
【0046】
次いで、成形膜から微孔形成剤が除去される。微孔形成剤の除去方法については、炭酸カルシウム粒子が溶解し易く、溶解したカルシウム塩が水溶性である酸性物質が用いられる。硝酸、塩酸等が一般的で、これらの酸を用いることにより、微孔形成剤を短時間で容易に除去することができ、廃液処理等の問題もなく、生産性が良好でコスト的にも有利である。
【0047】
以下に実施例、比較例をあげて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
尚、以下の記載において、%、部は特に断らない限り、それぞれ重量%、重量部を意味する。
【実施例1】
【0048】
灯油を熱源に灰色緻密質石灰石を流動槽式キルンで焼成して得られた生石灰を溶解して消石灰スラリーとし、炭酸ガスと反応させ炭酸カルシウムを合成した。該炭酸カルシウム水スラリーを篩で異物、並びに粗大粒子の除去を行った後に、該炭酸カルシウムスラリーをオストワルド熟成により粒子成長を行わせ、BET比表面積13m2 /g の炭酸カルシウム粒子を10%含有する水スラリーを得た。
次に、界面活性剤(A) として脂肪酸石鹸(商品名:ノンサールSK−1;日本油脂社製)と、キレート化合物(B)としてヘキサメタリン酸ナトリウム(太平化学産業製)を、炭酸カルシウム固形分に対して各々3.5 %と1.2 %を表面処理し、表面処理炭酸カルシウムスラリーを得た。
その後、脱水・乾燥・解砕し、更に得られた乾粉を精密空気分級機(ターボクラシファイヤ)で分級を行い、疎水化炭酸カルシウム粒子からなる微孔形成剤を得た。得られた微孔形成剤の物性を表1に示す。
【実施例2】
【0049】
キレート化合物(B)をホスホン酸系キレート化合物(商品名:ケンロックス200 ;ナガセカムテックス社製)0.3%に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、疎水化炭酸カルシウム粒子からなる微孔形成剤を得た。得られた微孔形成剤の各種物性を表1に示す。
【実施例3】
【0050】
界面活性剤(A)の添加量を6%、キレート化合物(B)の添加量を1.5%にそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様に操作を行い、疎水化炭酸カルシウム粒子からなる微孔形成剤を得た。得られた微孔形成剤の各種物性を表1に示す。
【実施例4】
【0051】
精密空気分級機を用いた分級を行わなかった以外は、実施例1と同様に操作を行い、疎水化炭酸カルシウム粒子からなる微孔形成剤を得た。得られた微孔形成剤の各種物性を表1に示す。
【実施例5】
【0052】
界面活性剤(A)の脂肪酸石鹸を、別の脂肪酸石鹸(商品名:ノンサールLN−1;日本油脂社製)に変更する以外は、実施例2と同様の操作を行い、疎水性炭酸カルシウム粒子からなる微孔形成剤を得た。得られた微孔形成剤の各種物性を表1に示す。
【実施例6】
【0053】
界面活性剤(A)の処理量を1.0%に変更した以外は、実施例1と同様に操作を行い、疎水化炭酸カルシウム粒子からなる微孔形成剤を得た。得られた微孔形成剤の各種物性を表1に示す。
【実施例7】
【0054】
実施例1と同様の操作で、オストワルド熟成により、BET比表面積25m2/g の炭酸カルシウムを10%含有する水スラリーを得た。
次に、界面活性剤(A) として脂肪酸石鹸(商品名:ノンサールSK−1;日本油脂社製)と、キレート化合物(B)としてポリカルボン酸系界面活性剤(商品名:AKM−0531;日本油脂社製)を、炭酸カルシウム固形分に対して各々6.0 %と1.5 %を表面処理し、表面処理炭酸カルシウムスラリーを得た。
その後、脱水・乾燥・解砕し、更に得られた乾粉を精密空気分級機(ターボクラシファイヤ)で分級を行い、疎水化炭酸カルシウム粒子からなる微孔形成剤を得た。得られた微孔形成剤の各種物性を表1に示す。
【実施例8】
【0055】
消石灰スラリーと炭酸ガスを反応させ炭酸カルシウムを合成する際に、粒子成長抑制剤であるクエン酸を水酸化カルシウムに対して1.0%添加したことと、界面活性剤(A)とキレート化合物(B)の添加量を、それぞれ10%と2.0%に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、疎水性炭酸カルシウム粒子からなる微孔形成剤を得た。得られた微孔形成剤の各種物性を表1に示す。
【実施例9】
【0056】
粒子成長抑制剤であるクエン酸を3.0%添加したことと、界面活性剤(A)とキレート化合物(B)の添加量を、それぞれ18.5%と2.5%に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、疎水性炭酸カルシウム粒子からなるの微孔形成剤を得た。得られた微孔形成剤の各種物性を表1に示す。
【比較例1】
【0057】
キレート化合物(B)を使わない以外は、実施例1と同様の操作を行い、疎水化炭酸カルシウム粒子からなる微孔形成剤を得た。得られた微孔形成剤の各種物性を表1に示す。
【比較例2】
【0058】
疎水性シリカ(日本アエロジル製、アエロジルR−972)を準備した。
【0059】
【表1】

【実施例10】
【0060】
微孔形成剤として実施例1の微孔形成剤を68%と、有機液状体としてフタル酸ジオクチル(三協化学社製)10%とをヘンシェルミキサーで混合した後、合成樹脂としてポリフッ化ビニリデン樹脂(商品名:クレハKFポリマー#100;株式会社クレハ製)22%を添加して混合し、濾過膜用樹脂組成物を得た。
得られた濾過膜用樹脂組成物を2軸押出機にて中空糸状に成形した後、中空糸状成形物を60℃の1,1,1-トリクロロエタン中に1時間入れ、フタル酸ジオクチルを抽出除去した後、50%のエチルアルコール水溶液に30分入れ、水中に移して30分入れて中空糸状成形物を親水化した。次に、中空糸状成形物を20%の硝酸水溶液に30分入れ微孔形成剤を溶解除去した後、水洗及び乾燥した。得られた中空糸状多孔質濾過膜の物性を表2示す。
【実施例11】
【0061】
微孔形成剤を実施例2の微孔形成剤に変更した以外は実施例10と同様の操作を行い、中空糸状多孔質濾過膜を得た。得られた中空糸状多孔質濾過膜の物性を表2示す。
【実施例12】
【0062】
微孔形成剤を実施例3の微孔形成剤に変更した以外は実施例10と同様の操作を行い、中空糸状多孔質濾過膜を得た。得られた中空糸状多孔質濾過膜の物性を表2示す。
【実施例13】
【0063】
微孔形成剤を実施例4の微孔形成剤に変更した以外は実施例10と同様の操作を行い、中空糸状多孔質濾過膜を得た。得られた中空糸状多孔質濾過膜の物性を表2示す。
【実施例14】
【0064】
微孔形成剤を実施例5の微孔形成剤に変更した以外は実施例10と同様の操作を行い、中空糸状多孔質濾過膜を得た。得られた中空糸状多孔質濾過膜の物性を表2示す。
【実施例15】
【0065】
微孔形成剤を実施例6の微孔形成剤に変更した以外は実施例10と同様の操作を行い、中空糸状多孔質濾過膜を得た。得られた中空糸状多孔質濾過膜の物性を表2示す。
【実施例16】
【0066】
微孔形成剤を実施例7の微孔形成剤に変更した以外は実施例10と同様の操作を行い、中空糸状多孔質濾過膜を得た。得られた中空糸状多孔質濾過膜の物性を表2示す。
【実施例17】
【0067】
微孔形成剤を実施例8の微孔形成剤に変更した以外は実施例10と同様の操作を行い、中空糸状多孔質濾過膜を得た。得られた中空糸状多孔質濾過膜の物性を表2示す。
【実施例18】
【0068】
微孔形成剤を実施例9の微孔形成剤に変更した以外は実施例10と同様の操作を行い、中空糸状多孔質濾過膜を得た。得られた中空糸状多孔質濾過膜の物性を表2示す。
【比較例3】
【0069】
微孔形成剤を比較例1の微孔形成剤に変更した以外は実施例10と同様の操作を行い、中空糸状多孔質濾過膜を得た。得られた中空糸状多孔質濾過膜の物性を表2示す。
【0070】
中空糸状の多孔質膜濾過膜の物性は、下記の測定方法で測定した。
(1)空孔率(%)
空孔率(%)=100×[湿潤膜重量(g)−乾燥膜重量(g)]/ 水比重(g/cm3)/ 膜体積(cm3
膜体積(cm3 )=π×{[外径(cm)/ 2]2 −[内径(cm)/ 2]2 }×膜長(cm)
(2)平均孔径(μm)
ハーフドライ法で測定した。測定条件は、エタノール、25℃環境下、昇圧速度0.001MPa/秒。
平均孔径(μm )=[2860×表面張力(mN/m)]/ ハーフドライ空気圧力(Pa)
エタノール25℃の表面張力=21.97mN/m
(3)最大孔径(μm )
バブルポイント法で測定した。ハーフドライ法での膜から気泡が出てくる時の圧力(気泡発生空気圧力)から求める。
最大孔径(μm )=62834.2/ 気泡発生空気圧力(Pa)
(4)透水率(L/m2・hr)
25℃環境下、0.1MPa の圧力で25℃の純粋を内部に注入し、透過してくる透水量を測定した。
透水率(L/m2・hr)=透水量(L)/ π×膜内径(m)×膜有効長(m)×測定時間(hr)
(5)引張破断強度(MPa)、引張破断伸度(%)
引張試験機(島津製作所:オートグラフAG−I型)を用い、チャック間距離50mm、引張速度200mm/ 分、25℃環境下で測定した。
引張破断強度(MPa)=破断時荷重(N)/ 破断面積(m2)
引張破断伸度(%)=100×破断時変位(mm)/ 50(mm)
濾過膜の用途においては、引張破断強度は大きく、引張破断伸度は膜の孔径の安定性から小さい方が好ましい。
(6)屈曲破断回数
ASTM−D2176の準拠し中空糸状多孔質濾過膜試料を100mmの長さに切り取り、その下端部末端をヒートシールにより約10mmに亘って封止した後、下端部をエポキシ樹脂で浸透硬化させ、下端が10mm×20mm×高さ8mmに亘って硬度が98のエポキ樹脂で固定された屈曲破断試料を得た。この屈曲破断試料について、屈曲試験装置(東洋精機株式会社製,MIT−D)を用い、0.136MPa の一定応力印加下での屈曲破断回数を測定した。濾過膜の性能としては、屈曲破断回数が大きい程耐久性が良好で好ましい。
【実施例19】
【0071】
微孔形成剤を42%に、有機液状体を30%に、ポリフッ化ビニリデン樹脂を28%にそれぞれ変更した以外は、実施例10と同様の操作を行い、濾過膜用樹脂組成物及び中空糸状多孔質濾過膜を得た。得られた中空糸状多孔質濾過膜の物性を表2示す。
【実施例20】
【0072】
強度及び耐久性を向上させる目的で、エチレン−ビニルアルコール共重合体(日本合成化学工業製:ソアールET3803、エチレン含量:38モル%)を、水50%とイソプロピルアルコールの50%の混合溶剤100部に対して3部加熱混合し溶解させ、実施例10で得られた中空糸状多孔質濾過膜を、70℃で5分間浸漬した。次いで、60℃で2時間乾燥、エチレン−ビニルアルコール共重合体で被覆されたポリフッ化ビニルデン中空糸状多孔質濾過膜を得た。得られた中空糸状多孔質濾過膜の物性を表2示す。
【実施例21】
【0073】
微孔形成剤として、実施例1の微孔形成剤を60%と、合成樹脂としてポリオレフィン樹脂(超高分子ポリエチレン、商品名:ハイゼックス3000b;三井化学社製)40%を添加して混合し、濾過膜用樹脂組成物を得た。
得られた濾過膜用樹脂組成物を、2軸押出機にて中空糸状に成形した後、中空糸状成形物を20%の硝酸水溶液に30分入れ微孔形成剤を溶解除去した後、水洗及び乾燥した。得られた中空糸状多孔質濾過膜の物性を表2示す。孔径が小さくなったことによる透水性の低下が見られるが、引張破断強度は大きく、また引張破断伸度は小さくなり、これらの物性の向上が認められる。
【比較例4】
【0074】
微孔形成剤を比較例1の微孔形成剤に変更した以外は実施例21と同様に操作を行い、中空糸状多孔質濾過膜を得た。得られた中空糸状多孔質濾過膜の物性を表2示す。
【比較例5】
【0075】
疎水性シリカ(日本アエロジル製 アエロジルR−972)25%、フタル酸ジオクチル40%をヘンシェルミキサーで混合した後、ポリフッ化ビニリデン樹脂(クレハKFポリマー#100)35%を添加して混合した。この混合物を二軸押出機で混合し、ペレットにした。このペレットを、中空糸状紡糸口を取り付けた二軸押出機にて中空糸状に成形した。成形された中空糸状成形物を60℃の1,1,1-トリクロロエタン中に1時間入れ、フタル酸ジオクチルを抽出し乾燥した後、50%のエチルアルコール水溶液に30分入れ、水中に移して30分入れて中空糸状成形物を親水化した。続いて、親水化した中空糸状成形物を20%の苛性ソーダ水溶液に1時間入れ疎水性シリカを溶解、除去した後、水洗、乾燥させた。得られた中空糸状の多孔質濾過膜は、外径1.25mm、内径0.66mm、空孔率72%、平均孔径0.30μm 、最大孔径0.40μm 、透水率5900L/m2・hr、引張破断強度8.5MPa、引張破断伸度130%、であった。
【0076】
以上の表1、表2の結果より、実施例に代表される本発明の微孔形成剤を用いて得られた多孔質濾過膜は、微孔形成剤が酸性水溶液中で短時間で容易に除去できるとともに、高い透水率だけでなく強度や耐久性の面等においても高い性能を保持した多孔質濾過膜が得られていることが確認された。
【0077】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の多孔質濾過膜用微孔形成剤は、微細で均一な孔径を有し、膜強度と透水性能が高く、生産性に優れた多孔質濾過膜を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸カルシウム粒子が、界面活性剤(A)と、アルカリ土類金属に対してキレート能を有する化合物(B)とで表面処理された疎水化炭酸カルシウム粒子からなることを特徴とする多孔質濾過膜用微孔形成剤。
【請求項2】
請求項1記載の微孔形成剤20〜80重量%と、合成樹脂10〜50重量%と、有機液状体0〜35重量%を含有することを特徴とする多孔質濾過膜用樹脂組成物。
【請求項3】
合成樹脂がポリフッ化ビニリデン樹脂であることを特徴とする請求項2記載の多孔質濾過膜用樹脂組成物。
【請求項4】
有機液状体がフタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソノニルよりなる群から選ばれる少なくとも1種のフタル酸エステルであることを特徴とする請求項2又は3記載の多孔質濾過膜用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項〜4のいずれか1項に記載の樹脂組成物を溶融成形して膜を得、次いで該膜から微孔形成剤と有機液状体を除去することを特徴とする多孔質濾過膜の製造方法。
【請求項6】
微孔形成剤を酸で除去することを特徴とする請求項5記載の多孔質濾過膜の製造方法。

【公開番号】特開2010−23019(P2010−23019A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−17964(P2009−17964)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(390008442)丸尾カルシウム株式会社 (31)
【Fターム(参考)】