多孔質炭素及びその製造方法
【課題】金属粒子が酸化するのを抑制すると共に、金属粒子を十分に分散させることにより、金属粒子の添加効果を長期間に亘って維持することができる多孔質炭素及びその製造方法を提供することを目的としている。
【解決手段】炭素前駆体としてのポリアミック酸樹脂ワニス1と、鋳型粒子としての酸化マグネシウム2と、金属塩としての塩化白金酸6とを混合するステップと、この混合物を窒素雰囲気中1000℃で1時間熱処理を行って、塩化白金酸を白金に還元し、且つ、ポリアミック酸樹脂を熱分解させることにより、白金粒子7を含む炭素3を作製するステップと、得られた炭素3を1mol/lの割合で添加された硫酸溶液で洗浄して、MgOを完全に溶出させるステップと、を有することを特徴とする。
【解決手段】炭素前駆体としてのポリアミック酸樹脂ワニス1と、鋳型粒子としての酸化マグネシウム2と、金属塩としての塩化白金酸6とを混合するステップと、この混合物を窒素雰囲気中1000℃で1時間熱処理を行って、塩化白金酸を白金に還元し、且つ、ポリアミック酸樹脂を熱分解させることにより、白金粒子7を含む炭素3を作製するステップと、得られた炭素3を1mol/lの割合で添加された硫酸溶液で洗浄して、MgOを完全に溶出させるステップと、を有することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質炭素及びその製造方法に関し、特に、内部に金属粒子を含有する多孔質炭素及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属粒子を含有する多孔質炭素は工業的価値の高い触媒であって、例えば、活性炭の高い吸着能を利用して反応物質を吸着させ、触媒である金属粒子で反応させることが可能である。上記金属粒子としては、白金、銀、銅等が知られており、その用途としては、燃料電池用高活性電極、NOx,SOx分解フィルター、リチウムイオン二次電池用電極材料等がある。
ここで、上記金属粒子を含有する多孔質炭素材料としては、炭素担体の表面、及び細孔内部に、金属粒子がナノメートルレベルで微細に分散したものが提案されており、その製造方法としては、金属粒子等と、界面活性剤と、熱硬化性樹脂等と、溶媒とを混合して混合体を加熱して硬化させた後、これを焼成して炭素化させるような方法が提案されている(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−314223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の方法では、炭素担体の表面及び細孔内部に、金属粒子が存在しているので、金属粒子の表面が露出状態にある。したがって、長期間使用した場合等には、金属粒子が酸化して、触媒としての機能が低下する等の課題がある。また、界面活性剤の静電作用の働きによる金属粒子の分散では、金属粒子を十分に分散させることができない場合が生じるという課題もある。
【0005】
そこで本発明は、金属粒子が酸化するのを抑制すると共に、金属粒子を十分に分散させることにより、金属粒子の添加効果を長期間に亘って維持することができる多孔質炭素及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
メソ孔の外郭を構成する炭素質壁が3次元網目構造を成し、上記炭素質壁における上記メソ孔に臨む位置にミクロ孔が形成された多孔質炭素であって、上記炭素質壁内には金属粒子が分散され、且つ、上記金属粒子のうち少なくとも一部の金属粒子は、粒子表面の一部が上記ミクロ孔に露出状態で配置されていることを特徴とする。
上記構成の如く、炭素質壁内に金属粒子が分散されていれば、金属粒子の表面の少なくとも一部分が炭素質により覆われるため、露出状態と較べ金属粒子が酸化するのを抑制できる。したがって、金属粒子の添加効果を長期間に亘って維持することができる。その一方、金属粒子のうち少なくとも一部の金属粒子は、粒子表面の一部がミクロ孔に露出状態で配置されているので、金属粒子の触媒等としての機能を十分に発揮させることができる。
【0007】
また、メソ孔の外郭を構成する炭素質壁が3次元網目構造を成し、且つ、炭素質壁におけるメソ孔に臨む位置にミクロ孔が形成されていれば、単位量あたりの吸着有効面積を大きくする、或いは、細孔における毛管凝集量を増大することができる。加えて、メソ孔の外郭を構成する炭素質壁が3次元網目構造を成していれば、その用途が弾力性を必要とする場合にも適応することができる。
尚、本明細書では、細孔径が2nm未満のものをミクロ孔、細孔径が2〜50nmのものをメソ孔、細孔径が50nmを超えるものをマクロ孔、と称し、またこれらの孔を総称して細孔と称する場合がある。
【0008】
また、上記金属粒子としては、白金、銀、銅、錫、鉄等を用いることができ、白金を用いた場合には、多孔質炭素を燃料電池用高活性電極やNOX,SOX分解フィルター等として用いることができ、銀を用いた場合には、多孔質炭素を自動車の排気ガス中のNOX、SOX等の吸着剤や気体、液体中の殺菌フィルター等として用いることができ、銅を用いた場合には、多孔質炭素をアンモニアガス吸着分解触媒、ブラシ材フィラー等として用いることができ、錫を用いた場合には、多孔質炭素を低融点ハンダ粉末、リチウムイオン二次電池用電極材等として用いることができ、鉄を用いた場合には、多孔質炭素を有機合成用触媒、ブラシ材フィラー等として用いることができる。
【0009】
上記メソ孔の大きさが略同等となるように構成されていることが望ましい。
メソ孔の大きさが略同等となるように構成されていれば、精製や触媒等を目的として使用された場合に、その目的を十分に達成することができる。
【0010】
上記金属粒子の平均粒径が4〜500nmであることが望ましい。
金属粒子の平均粒径が4nm未満の場合には、金属粒子が炭素壁内に埋没し易くなるという不都合と、結晶構造が保てなくなってアモルファス化してしまうため、大きさのばらつき、触媒能力、金属としての特性が発揮できなくなることがある一方、金属粒子の平均粒径が500nmを超えると、炭素質と分離して析出するので、炭素壁に入りきらない状態となり、且つ、金属粒子の比表面積が低下するため、触媒能力が低下することがある。
尚、上記金属粒子の平均粒径は、動的光散乱法により測定した場合の値である。
【0011】
上記炭素質壁を構成する炭素と上記金属粒子との総量に対する上記金属粒子の割合が、0.5〜90重量%であることが望ましい。
金属粒子の割合が0.5質量%未満の場合には、金属粒子の添加効果が十分に発揮されないことがある一方、金属粒子の割合が90質量%を超えるような多孔質炭素の作製は困難だからである。
【0012】
上記メソ孔及びミクロ孔を含む細孔における孔径が0.3〜100nmであることが望ましい。
細孔径が0.3nm未満のものは作製が困難である一方、細孔径が100nmを超えると、単位体積あたりの炭素質壁の量が少なくなって、3次元網目構造を保持できなくなる恐れがある。
【0013】
比表面積が100〜1000m2/gであることが望ましい。
比表面積が100m2/g未満では気孔の形成量が不十分であり三次元網目構造を形成しないという問題がある一方、比表面積が1000m2/gを超えると炭素壁の形状が保てなくなり粒子として崩壊してしまうという問題がある。
【0014】
上記メソ孔は開気孔であって、気孔部分が連続するような構成となっていることが望ましい。
気孔部分が連続するような構成であれば、ガスの流れが円滑になるので、よりガスを補足し易くなる。
【0015】
有機質樹脂を含む流動性材料と、金属粒子と、鋳型粒子とを混合して混合物を作製するステップと、上記混合物を非酸化性雰囲気で加熱焼成して焼成物を作製するステップと、上記焼成物中の上記鋳型粒子を除去するステップと、を有することを特徴とする。
このような方法であれば、上述した多孔質炭素を製造することができる。この場合、混合物を非酸化性雰囲気で加熱焼成して炭素質壁を作成する場合に、後にメソ孔となる部位には鋳型粒子が存在しているので、当該部位に金属粒子が分散されることはない。また、金属粒子として融点の低い金属(加熱焼成時の温度よりも融点の低い金属)を用いたとしても、上記の如く鋳型粒子が存在していれば、流動性材料と共に金属粒子が鋳型粒子間に閉じ込められるため、加熱焼成時に金属粒子が溶解しても、金属粒子が炭素質壁から溶出するのを抑制できる。更に、鋳型粒子が存在していれば、加熱焼成時に炭素質壁の厚みが小さくなるので、炭素質壁内で金属粒子が凝集するのを抑制でき、炭素質壁内に金属粒子をナノ分散できる。
尚、上記作用効果を円滑に得るためには、流動性材料と、金属粒子と、鋳型粒子との総量に対する鋳型粒子の割合は、30〜80wt%であることが望ましい。鋳型粒子の割合が余りに少ないと鋳型粒子の添加効果が十分に発揮されないことがある一方、鋳型粒子の割合が余りに多いと炭素質壁の厚みが小さくなり過ぎる等の問題を生じるからである。
【0016】
有機質樹脂を含む流動性材料と、還元性雰囲気で加熱焼成された場合に金属として析出する金属塩を含む金属成分と、鋳型粒子とを混合して混合物を作製するステップと、上記混合物を還元性雰囲気で加熱焼成して焼成物を作製するステップと、上記焼成物中の上記鋳型粒子を除去するステップと、を有することを特徴とする。
このような方法であれば、上述した多孔質炭素を製造することができる。この場合、混合物を作製するステップ際に、金属成分として金属粒子のみを添加するときには、焼成物を作製するステップにおいて非酸化性雰囲気で加熱焼成すれば足るが、金属成分として金属塩を含むものを添加するときには、焼成物を作製するステップにおいて還元性雰囲気で加熱焼成する必要がある。尚、金属成分には、金属塩の他に金属粒子が含まれていても良い。
尚、上記製造方法の場合において、流動性材料として樹脂ワニスを用いた場合には、図11の概念図に示すように、樹脂ワニスと金属塩との錯体となっている。
【0017】
金属原子を構造中に含む有機質樹脂を備えた含む流動性材料と、鋳型粒子とを混合して混合物を作製するステップと、上記混合物を非酸化性雰囲気で加熱焼成して焼成物を作製するステップと、上記焼成物中の上記鋳型粒子を除去するステップと、を有することを特徴とする。
金属を微粒子として含有させる方法として、上述した方法の他に、金属原子を構造中に含む高分子材料を用いることも可能である。例えばカルボプラチン(図10の概念図参照)のように、高分子材料の構造中に白金を含むものを用いれば、上述した多孔質炭素を得ることができる。
【0018】
上記鋳型粒子には略同径のものを用いることが望ましい。
鋳型粒子に略同径のものを用いると、上述したメソ孔の大きさが略同等となる。
【0019】
上記流動性材料として、200℃以下の温度で流動性を生じる樹脂、又は、ワニス状の高分子樹脂を用いることが望ましい。
流動性材料として、200℃以下の温度で流動性を生じる樹脂、又は、ワニス状の高分子樹脂を用いれば、上述した多孔質炭素炭をより円滑に作製することができる。
但し、流動性材料としては、200℃以下の温度で流動性を生じる樹脂等に限定するものではなく、200℃以下の温度で流動性が生じなくても、水或いは有機溶媒に可溶な高分子材料であれば本発明に使用できる。このような材料としては、PVA(ポリビニルアルコール)、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、イミド系樹脂、フェノール系樹脂等が例示される。
【0020】
(その他の事項)
(1)流動性材料としては、炭素収率が40%以上85%以下のものを用いるのが好ましい。流動性材料の炭素収率が余り小さかったり大きかったりすると(具体的には、流動性材料の炭素収率が40%未満であったり、85%を超えていると)三次元網目構造が保持されない炭素粉末となることがあるが、炭素収率が40%以上85%以下の流動性材料を用いれば、鋳型粒子を除去した後には、鋳型粒子が存在した場所が連続孔となる三次元網目構造を有する多孔質炭素を確実に得ることができるからである。また、鋳型粒子として粒径が略同一のものを用いれば、同一サイズの連続孔が形成されるので、スポンジ状且つ略籠伏の多孔質炭素を作製することができる。
また、流動性材料の炭素収率が上記範囲であれば、ミクロ孔が非常に発達するので、比表面積が大きくなる。但し、流動性材料の炭素収率が上記範囲であっても、鋳型粒子を用いない場合にはミクロ孔は発達しない。
【0021】
(2)鋳型粒子の径や有機質樹脂の種類を変えることによって、細孔の径、多孔質炭素の細孔分布、及び、炭素質壁の厚みを調整することができる。したがって、鋳型粒子の径と有機質樹脂の種類とを適宜選択することによって、より均一な細孔径を有し、より大きな細孔容量を有する多孔質炭素を作製することも可能となる。更に、炭素源に有機質樹脂を含む流動性材料を用い、しかも、賦活処理工程を経ることなく多孔質炭素を作製できるので、得られた多孔質炭素は非常に高純度なものとなる。
【0022】
(3)鋳型粒子としては、アルカリ土類金属化合物を用いることが望ましい。アルカリ土類金属化合物は弱酸或いはお湯により除去することができる(即ち、強酸を用いることなく鋳型粒子を取り除くことができる)ので、鋳型粒子を除去するステップにおいて、多孔質炭素自体の性状が変化するのを抑制することができるからである。尚、弱酸を用いた場合には、除去スピードが早くなるという利点がある一方、お湯を用いた場合には、酸が残留して不純物となるという不都合を防止できるという利点がある。また、鋳型粒子を除去するステップにおいて、溶出した酸化物溶液は再び原料として使用が可能であり、多孔質炭素の製造コストを低減できる。
【0023】
(4)鋳型粒子を除去するステップにおいては、除去後の鋳型粒子の残留率が0.5%以下となるように規制することが望ましい。除去後の鋳型粒子の残留率が0.5%を超えると、メソ孔内に残る鋳型粒子が多くなって、細孔としての役割を発揮できない部位が広く生じるからである。また、金属不純物を忌避する用途への適用が行いにくくなる恐れもある。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、金属粒子が酸化するのを抑制できると共に、金属粒子を十分に分散させることにより、金属粒子の添加効果を長期間に亘って維持することができるといった優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明炭素の製造工程を示す図であって、同図(a)はポリアミック酸樹脂ワニスと酸化マグネシウムと、塩化白金酸とを混合した状態を示す説明図、同図(b)は混合物を熱処理した状態を示す説明図、同図(c)は多孔質炭素を示す説明図である。
【図2】本発明炭素A1のSTEM(走査透過電子顕微鏡)写真。
【図3】本発明炭素A1における酸化マグネシウムを除去する前後のSEM(走査電子顕微鏡)写真であって、同図(a)は酸化マグネシウムを除去する前の写真、同図(b)は酸化マグネシウムを除去した後の写真である。
【図4】本発明炭素の状態を示す説明図。
【図5】本発明炭素A1〜A8及び比較炭素Z1〜Z4における白金の含有量と白金の平均粒子径との関係を示すグラフ。
【図6】本発明炭素Bの外観写真。
【図7】比較炭素Yの外観写真。
【図8】塩酸溶液で洗浄する前の炭素のX線回折グラフ。
【図9】塩酸溶液で洗浄した後の炭素のX線回折グラフ。
【図10】金属原子を構造中に含む高分子材料の状態を示す概念図。
【図11】樹脂ワニスと金属塩との錯体となっている状態を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を以下に説明する。
本発明の炭素化物は、単位構造中に少なくとも一つ以上の窒素もしくはフッ素原子を含むポリイミドもしくは炭素化収率が40wt%を越える樹脂等(例えば、フェノール樹脂やピッチ)と、金属粒子等と、酸化物粒子等と、溶液又は粉末状態において湿式もしくは乾式混合し、混合物を非酸化性雰囲気下、又は、減圧下〔133Pa(1torr)以下〕、或いは、還元性雰囲気下で、500℃以上の温度で炭化し、得られた炭素と酸化物を洗浄処理することで得られ、その炭素質壁内には金属粒子が分散された炭素化物である。
【0027】
ここで、上記単位構造中に少なくとも一つ以上の窒素もしくはフッ素原子を含むポリイミドは、酸成分とジアミン成分との重縮合により得ることができる。但し、この場合、酸成分及びジアミン成分のいずれか一方又は両方に、一つ以上の窒素原子もしくはフッ素原子を含む必要がある。
具体的には、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を成膜し、溶媒を加熱除去することによりポリアミド酸膜を得る。次に、得られたポリアミド酸膜を200℃以上で熱イミド化することによりポリイミドを製造することができる。
【0028】
前記ジアミンとしては、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン〔2,2−Bis(4−aminophenyl)hexafluoropropane〕、2,2−ビス(トリフルオロメチル)−ベンジジン〔2,2’−Bis(trifluoromethyl)−benzidine〕、4,4’−ジアミノオクタフルオロビフェニルや、3,3’−ジフルオロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン,3,3’−ジフルオロ−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジ(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジフルオロ−4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、3,3’−ジフルオロ−4,4’−ジアミノジフェニルヘキサフルオロプロパン、3,3’−ジフルオロ−4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’,5,5’−テトラフルオロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラ(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラフルオロ−4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、3,3’,5,5’−テトラ(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、3,3’,5,5’−テトラフルオロ−4,4−ジアミノジフェニルヘキサフルオロプロパン、1,3−ジアミノ−5−(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,3−ジアミノ−4−メチル−5−(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,3−ジアミノ−4−メトキシ−5−(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,3−ジアミノ−2,4,6−トリフロオロ−5−(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,3−ジアミノ−4−クロロ−5−(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,3−ジアミノ−4−プブロモ−5−(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,2−ジアミノ−4−(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,2−ジアミノ−4−メチル−5−(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,2−ジアミノ−4−メトキシ−5−(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,2−ジアミノ−3,4,6−トリフルオロ−5−(パーフルオロノネニルオキシ)ヘンゼン、1,2−ジアミノ−4−クロロ−5−(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,2−ジアミノ−4−ブロモ−5−(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,4−ジアミノ−3−(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,4−ジアミノ−2−メチル−5−(パーフルオロノネニルオキシ)ペンセン、1,4−ジアミノ−2−メトキシ−5−(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,4−ジアミノ−2,3,6−トリフルオロ−5−(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,4−ジアミノ−2−クロロ−5−(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,4−ジアミノ−2−プブロモ−5−(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,3−ジアミノ−5−(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,3−ジアミノ−4−メチル−5−(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,3−ジアミノ−4−メトキシ−5−(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,3−ジアミノ−2,4,6−トリフルオロ−5−(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,3−ジアミノ−4−クロロ−5−(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,3−ジアミノ−4−ブロモ−5−(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,2−ジアミノ−4−(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,2−ジアミノ−4−メチル−5−(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,2−ジアミノ−4−メトキシ−5−(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,2−ジアミノ−3,4,6−トリフルオロ−5−(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,2−ジアミノ−4−クロロ−5−(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,2−ジアミノ−4−ブロモ−5−(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,4−ジアミノ−3−(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,4−ジアミノ−2−メチル−5−(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,4−ジアミノ−2−メトキシ−5−(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,4−ジアミノ−2,3,6−トリフルオロ−5−(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,4−ジアミノ−2−クロロ−5−(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,4−ジアミノ−2−プロモ−5−(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼンやフッ素原子を含まないp−フェニレンジアミン(PPD)、ジオキシジアニリンなどの芳香族ジアミンが例示できる。また、上記ジアミン成分は上記各芳香族ジアミンを2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0029】
一方、酸成分としては、フッ素原子を含む4,4−ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物(6FDA)、及びフッ素原子を含まない3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、ピロメリット酸二無水物(PMDA)等が挙げられる。
また、ポリイミド前駆体の溶媒として用いる有機溶媒は、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
【0030】
イミド化の手法としては公知の方法〔例えば高分子学会編「新高分子実験学」共立出版、1996年3月28日、第3巻高分子の合成・反応(2)158頁参照〕に示されるように、加熱あるいは化学イミド化のどちらの方法に従ってもよく、本発明はこのイミド化の方法には左右されない。
更に、ポリイミド以外の樹脂としては、石油系タールピッチ、アクリル樹脂など40%以上の炭素収率を持つものが使用できる。
【0031】
一方、上記酸化物として用いる原料はアルカリ土類金属酸化物(酸化マグネシウム、酸化カルシウム等の他に、熱処理により熱分解過程で酸化マグネシウムへと状態が変化する、金属有機酸(クエン酸マグネシウム、シュウ酸マグネシウム、クエン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム等)、塩化物、硝酸塩、硫酸塩を使用することもできる。
また、酸化物を取り除く洗浄液としては、塩酸、硫酸、硝酸、クエン酸、酢酸、ギ酸など一般的な無機酸を使用し、2mol/l以下の希酸として用いるのが好ましい。また、80℃以上の熱水を使用することも可能である。
【0032】
更に、本発明の多孔質炭素を得るには、非酸化雰囲気下で、500℃以上、1500℃以下の温度で炭化することが好ましい。高炭素収率の樹脂は高分子であるため、500℃未満では炭素化が不十分で細孔の発達が十分ではない場合がある一方、1500℃以上では収縮が大きく、酸化物が焼結し粗大化するため、細孔サイズが小さくなって比表面積が小さくなるからである。
【実施例】
【0033】
〔第1実施例〕
(実施例)
先ず、図1(a)に示すように、炭素前駆体としてのポリアミック酸樹脂ワニス(イミド系樹脂)1と、鋳型粒子としての酸化マグネシウム(MgO、平均結晶子径は100nm)2と、金属塩としての塩化白金酸6とを、10:5:1の質量比で混合した。この際、ポリアミック酸樹脂ワニスと塩化白金酸6とは金属錯体となっていた。次に、図1(b)に示すように、この混合物を窒素雰囲気中1000℃で1時間熱処理を行って、塩化白金酸6を白金に還元させ、且つ、ポリアミック酸樹脂ワニス1を熱分解させることにより、白金粒子7を含む炭素3を作製した。最後に、図1(c)に示すように、得られた炭素3を1mol/lの割合で添加された硫酸溶液で洗浄して、MgOを完全に溶出させることにより多数の孔4を有する多孔質炭素5を得た。尚、多孔質炭素5において、炭素質壁を構成する炭素と白金粒子7との総量に対する上記白金粒子7の割合は、5質量%であった。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、本発明炭素A1と称する。
【0034】
本発明炭素A1のSTEM(走査透過電子顕微鏡)写真を図2に示す。図2から明らかなように、多孔質炭素内で白金粒子がナノオーダーで分散されていることがわかる。また、本発明炭素A1につき、酸化マグネシウムを除去する前後のSEM(走査電子顕微鏡)写真を、各々、図3(a)〔酸化マグネシウムを除去する前〕及び図3(b)〔酸化マグネシウムを除去した後〕に示す。両図から明らかなように、酸化マグネシウムを除去する前には3次元網目構造となっていないが、酸化マグネシウムを除去した後には3次元網目構造(スポンジ状のカーボン形状)となっていることがわかる。より具体的には、図4に示すように、本発明炭素A1の構造は、大きさが略同等である多数のメソ孔10を有しており、炭素質壁12におけるメソ孔10に臨む位置にミクロ孔11が形成され、且つ、炭素質壁12内には白金粒子7が存在し、この白金粒子7の一部は上記ミクロ孔11に露出しているような構造となっている。
また、本発明炭素A1においては、炭素壁全体の体積に対する炭素部分の体積の割合は40%、ミクロ孔の孔径は10nm、比表面積は700m2/gであった。尚、ミクロ孔の孔径はHK法を用いて計算し、メソ孔の孔径はBJH法を用いて計算した。
【0035】
(実施例2〜8)
炭素質壁12を構成する炭素と白金粒子7との総量に対する白金粒子7の割合を、各々、10質量%、15質量%、20質量%、30質量%、35質量%、45質量%、65質量%とした他は、上記実施例1と同様にして多孔質炭素を作製した。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下それぞれ、本発明炭素A2〜A8と称する。
【0036】
(比較例1〜4)
鋳型粒子としての酸化マグネシウムを添加しない他は、上記実施例1〜実施例4と同様にして多孔質炭素を作製した。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下それぞれ、比較炭素Z1〜Z4と称する。
【0037】
(実験)
上記本発明炭素A1〜A8及び比較炭素Z1〜Z4における白金の含有量(炭素質壁12を構成する炭素と白金粒子7との総量に対する白金粒子7の割合)と白金の平均粒子径との関係を調べたので、その結果を図5に示す。
図5から明らかなように、白金含有量が5質量%〜35質量%の本発明炭素A1〜A6では白金粒子径は約5nmと極めて小さく、また、白金含有量が各45質量%、65重量%の本発明炭素A7、A8でも白金粒子径は約17nm以下と小さい。これに対して、比較炭素Z1〜Z4においては、白金含有量が5質量%の比較炭素Z1であっても白金粒子径は約18nmと大きく、白金含有量が10質量%以上の比較炭素Z2〜Z4では白金粒子径が約23nm以上と極めて大きくなっていることが認められる。
【0038】
この理由は完全には明確ではないが、本発明炭素A1〜A8の如く、MgOフィラーを用いた場合には、製造工程の全体においてMgOフィラーにより炭素壁の厚みが白金粒子の凝集を許容しない程度に小さく保持されるため、多孔質炭素の炭素壁内に金属粒子がナノ分散された状態が維持されるためと推定される。これに対して、比較炭素Z1〜Z4では、MgOフィラーを用いていないので、熱処理時にポリアミック酸樹脂ワニス中で白金粒子の凝集が起こり、白金の平均粒子径が大きいものとなったと推定される。
【0039】
〔第2実施例〕
(実施例)
先ず、炭素前駆体としてのポリビニルアルコールと、鋳型粒子としての酸化マグネシウム(MgO、平均結晶子径は100nm)と、金属塩としての酸化錫とを、10:10:5の質量比で混合した。次に、この混合物を窒素雰囲気中1000℃で1時間熱処理を行って、酸化錫を錫に還元し、且つ、ポリビニルアルコールを熱分解させることにより、錫を含む炭素を作製した。最後に、得られた炭素を1mol/lの割合で添加された塩酸溶液で洗浄して、MgOを完全に溶出させることにより多数の孔を有する多孔質炭素を得た。尚、多孔質炭素において、炭素質壁を構成する炭素と錫との総量に対する錫の割合は55wt%であった。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、本発明炭素Bと称する。
本発明炭素Bの外観写真を図6に示す。図6から明らかなように金属の析出が全く見られず、多孔質炭素内で錫粒子がナノオーダーで分散されていることが推測される。
【0040】
(比較例)
鋳型粒子としての酸化マグネシウムを添加しない他は、上記実施例と同様にして多孔質炭素を作製した。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、比較炭素Yと称する。
比較炭素Yの外観写真を図7に示す。写真中の白い粒子は析出した金属であり、図7から明らかなように、錫粒子が凝集して多孔質炭素外に析出してしまっていることがわかる。
【0041】
上述した外観となるのは、本発明炭素Bの如く、MgOフィラーを用いた場合には、多孔質炭素の炭素壁内に金属粒子が包含された状態が加熱焼成中でも維持されるため、多孔質炭素外に金属が析出することがない。即ち、MgOフィラーが存在することにより、メソ孔に金属が溶出するのを抑制できる。これに対して、比較炭素Yでは、MgOフィラーを用いていないので、金属粒子の融点より高温での加熱焼成時に、溶融された金属がメソ孔に溶出することに起因するものと考えられる。
【0042】
(実験)
上記実施例で用いた混合物と同一の混合物を、窒素雰囲気中で、各600℃、700℃、800℃、及び900℃で1時間熱処理を行った後、塩酸溶液で洗浄して、MgOを完全に溶出させた。そして、塩酸溶液で洗浄する前後の炭素のX線回折を行ったので、その結果をそれぞれ図8(塩酸溶液で洗浄する前)及び図9(塩酸溶液で洗浄した後)に示す。
図8及び図9から明らかなように、700℃以下で熱処理を行った場合には、塩酸溶液で洗浄する前後を問わずSnO2が存在していることが認められ、800℃で熱処理を行った場合には、塩酸溶液で洗浄する前にはSnO2が存在していないが、塩酸溶液で洗浄した後にはSnO2が存在していることが認められる。これに対して、900℃以下で熱処理を行った場合には、塩酸溶液で洗浄する前後を問わずSnO2が存在していないことが認められる。したがって、金属塩として酸化錫を用いる場合において、酸化錫の還元処理を確実に行うには、熱処理温度は900℃以上が好ましいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明はガス吸着、分解材料、燃料電池用高活性電極、気体、液体中の殺菌フィルターブラシ材フィラー、低融点ハンダ粉末、リチウムイオン二次電池用電極材等として用いることができる。
【符号の説明】
【0044】
1:ポリアミック酸樹脂ワニス(イミド系樹脂)
2:酸化マグネシウム
3:炭素
4:孔
5:多孔質炭素
6:塩化白金酸
7:白金粒子
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質炭素及びその製造方法に関し、特に、内部に金属粒子を含有する多孔質炭素及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属粒子を含有する多孔質炭素は工業的価値の高い触媒であって、例えば、活性炭の高い吸着能を利用して反応物質を吸着させ、触媒である金属粒子で反応させることが可能である。上記金属粒子としては、白金、銀、銅等が知られており、その用途としては、燃料電池用高活性電極、NOx,SOx分解フィルター、リチウムイオン二次電池用電極材料等がある。
ここで、上記金属粒子を含有する多孔質炭素材料としては、炭素担体の表面、及び細孔内部に、金属粒子がナノメートルレベルで微細に分散したものが提案されており、その製造方法としては、金属粒子等と、界面活性剤と、熱硬化性樹脂等と、溶媒とを混合して混合体を加熱して硬化させた後、これを焼成して炭素化させるような方法が提案されている(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−314223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の方法では、炭素担体の表面及び細孔内部に、金属粒子が存在しているので、金属粒子の表面が露出状態にある。したがって、長期間使用した場合等には、金属粒子が酸化して、触媒としての機能が低下する等の課題がある。また、界面活性剤の静電作用の働きによる金属粒子の分散では、金属粒子を十分に分散させることができない場合が生じるという課題もある。
【0005】
そこで本発明は、金属粒子が酸化するのを抑制すると共に、金属粒子を十分に分散させることにより、金属粒子の添加効果を長期間に亘って維持することができる多孔質炭素及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
メソ孔の外郭を構成する炭素質壁が3次元網目構造を成し、上記炭素質壁における上記メソ孔に臨む位置にミクロ孔が形成された多孔質炭素であって、上記炭素質壁内には金属粒子が分散され、且つ、上記金属粒子のうち少なくとも一部の金属粒子は、粒子表面の一部が上記ミクロ孔に露出状態で配置されていることを特徴とする。
上記構成の如く、炭素質壁内に金属粒子が分散されていれば、金属粒子の表面の少なくとも一部分が炭素質により覆われるため、露出状態と較べ金属粒子が酸化するのを抑制できる。したがって、金属粒子の添加効果を長期間に亘って維持することができる。その一方、金属粒子のうち少なくとも一部の金属粒子は、粒子表面の一部がミクロ孔に露出状態で配置されているので、金属粒子の触媒等としての機能を十分に発揮させることができる。
【0007】
また、メソ孔の外郭を構成する炭素質壁が3次元網目構造を成し、且つ、炭素質壁におけるメソ孔に臨む位置にミクロ孔が形成されていれば、単位量あたりの吸着有効面積を大きくする、或いは、細孔における毛管凝集量を増大することができる。加えて、メソ孔の外郭を構成する炭素質壁が3次元網目構造を成していれば、その用途が弾力性を必要とする場合にも適応することができる。
尚、本明細書では、細孔径が2nm未満のものをミクロ孔、細孔径が2〜50nmのものをメソ孔、細孔径が50nmを超えるものをマクロ孔、と称し、またこれらの孔を総称して細孔と称する場合がある。
【0008】
また、上記金属粒子としては、白金、銀、銅、錫、鉄等を用いることができ、白金を用いた場合には、多孔質炭素を燃料電池用高活性電極やNOX,SOX分解フィルター等として用いることができ、銀を用いた場合には、多孔質炭素を自動車の排気ガス中のNOX、SOX等の吸着剤や気体、液体中の殺菌フィルター等として用いることができ、銅を用いた場合には、多孔質炭素をアンモニアガス吸着分解触媒、ブラシ材フィラー等として用いることができ、錫を用いた場合には、多孔質炭素を低融点ハンダ粉末、リチウムイオン二次電池用電極材等として用いることができ、鉄を用いた場合には、多孔質炭素を有機合成用触媒、ブラシ材フィラー等として用いることができる。
【0009】
上記メソ孔の大きさが略同等となるように構成されていることが望ましい。
メソ孔の大きさが略同等となるように構成されていれば、精製や触媒等を目的として使用された場合に、その目的を十分に達成することができる。
【0010】
上記金属粒子の平均粒径が4〜500nmであることが望ましい。
金属粒子の平均粒径が4nm未満の場合には、金属粒子が炭素壁内に埋没し易くなるという不都合と、結晶構造が保てなくなってアモルファス化してしまうため、大きさのばらつき、触媒能力、金属としての特性が発揮できなくなることがある一方、金属粒子の平均粒径が500nmを超えると、炭素質と分離して析出するので、炭素壁に入りきらない状態となり、且つ、金属粒子の比表面積が低下するため、触媒能力が低下することがある。
尚、上記金属粒子の平均粒径は、動的光散乱法により測定した場合の値である。
【0011】
上記炭素質壁を構成する炭素と上記金属粒子との総量に対する上記金属粒子の割合が、0.5〜90重量%であることが望ましい。
金属粒子の割合が0.5質量%未満の場合には、金属粒子の添加効果が十分に発揮されないことがある一方、金属粒子の割合が90質量%を超えるような多孔質炭素の作製は困難だからである。
【0012】
上記メソ孔及びミクロ孔を含む細孔における孔径が0.3〜100nmであることが望ましい。
細孔径が0.3nm未満のものは作製が困難である一方、細孔径が100nmを超えると、単位体積あたりの炭素質壁の量が少なくなって、3次元網目構造を保持できなくなる恐れがある。
【0013】
比表面積が100〜1000m2/gであることが望ましい。
比表面積が100m2/g未満では気孔の形成量が不十分であり三次元網目構造を形成しないという問題がある一方、比表面積が1000m2/gを超えると炭素壁の形状が保てなくなり粒子として崩壊してしまうという問題がある。
【0014】
上記メソ孔は開気孔であって、気孔部分が連続するような構成となっていることが望ましい。
気孔部分が連続するような構成であれば、ガスの流れが円滑になるので、よりガスを補足し易くなる。
【0015】
有機質樹脂を含む流動性材料と、金属粒子と、鋳型粒子とを混合して混合物を作製するステップと、上記混合物を非酸化性雰囲気で加熱焼成して焼成物を作製するステップと、上記焼成物中の上記鋳型粒子を除去するステップと、を有することを特徴とする。
このような方法であれば、上述した多孔質炭素を製造することができる。この場合、混合物を非酸化性雰囲気で加熱焼成して炭素質壁を作成する場合に、後にメソ孔となる部位には鋳型粒子が存在しているので、当該部位に金属粒子が分散されることはない。また、金属粒子として融点の低い金属(加熱焼成時の温度よりも融点の低い金属)を用いたとしても、上記の如く鋳型粒子が存在していれば、流動性材料と共に金属粒子が鋳型粒子間に閉じ込められるため、加熱焼成時に金属粒子が溶解しても、金属粒子が炭素質壁から溶出するのを抑制できる。更に、鋳型粒子が存在していれば、加熱焼成時に炭素質壁の厚みが小さくなるので、炭素質壁内で金属粒子が凝集するのを抑制でき、炭素質壁内に金属粒子をナノ分散できる。
尚、上記作用効果を円滑に得るためには、流動性材料と、金属粒子と、鋳型粒子との総量に対する鋳型粒子の割合は、30〜80wt%であることが望ましい。鋳型粒子の割合が余りに少ないと鋳型粒子の添加効果が十分に発揮されないことがある一方、鋳型粒子の割合が余りに多いと炭素質壁の厚みが小さくなり過ぎる等の問題を生じるからである。
【0016】
有機質樹脂を含む流動性材料と、還元性雰囲気で加熱焼成された場合に金属として析出する金属塩を含む金属成分と、鋳型粒子とを混合して混合物を作製するステップと、上記混合物を還元性雰囲気で加熱焼成して焼成物を作製するステップと、上記焼成物中の上記鋳型粒子を除去するステップと、を有することを特徴とする。
このような方法であれば、上述した多孔質炭素を製造することができる。この場合、混合物を作製するステップ際に、金属成分として金属粒子のみを添加するときには、焼成物を作製するステップにおいて非酸化性雰囲気で加熱焼成すれば足るが、金属成分として金属塩を含むものを添加するときには、焼成物を作製するステップにおいて還元性雰囲気で加熱焼成する必要がある。尚、金属成分には、金属塩の他に金属粒子が含まれていても良い。
尚、上記製造方法の場合において、流動性材料として樹脂ワニスを用いた場合には、図11の概念図に示すように、樹脂ワニスと金属塩との錯体となっている。
【0017】
金属原子を構造中に含む有機質樹脂を備えた含む流動性材料と、鋳型粒子とを混合して混合物を作製するステップと、上記混合物を非酸化性雰囲気で加熱焼成して焼成物を作製するステップと、上記焼成物中の上記鋳型粒子を除去するステップと、を有することを特徴とする。
金属を微粒子として含有させる方法として、上述した方法の他に、金属原子を構造中に含む高分子材料を用いることも可能である。例えばカルボプラチン(図10の概念図参照)のように、高分子材料の構造中に白金を含むものを用いれば、上述した多孔質炭素を得ることができる。
【0018】
上記鋳型粒子には略同径のものを用いることが望ましい。
鋳型粒子に略同径のものを用いると、上述したメソ孔の大きさが略同等となる。
【0019】
上記流動性材料として、200℃以下の温度で流動性を生じる樹脂、又は、ワニス状の高分子樹脂を用いることが望ましい。
流動性材料として、200℃以下の温度で流動性を生じる樹脂、又は、ワニス状の高分子樹脂を用いれば、上述した多孔質炭素炭をより円滑に作製することができる。
但し、流動性材料としては、200℃以下の温度で流動性を生じる樹脂等に限定するものではなく、200℃以下の温度で流動性が生じなくても、水或いは有機溶媒に可溶な高分子材料であれば本発明に使用できる。このような材料としては、PVA(ポリビニルアルコール)、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、イミド系樹脂、フェノール系樹脂等が例示される。
【0020】
(その他の事項)
(1)流動性材料としては、炭素収率が40%以上85%以下のものを用いるのが好ましい。流動性材料の炭素収率が余り小さかったり大きかったりすると(具体的には、流動性材料の炭素収率が40%未満であったり、85%を超えていると)三次元網目構造が保持されない炭素粉末となることがあるが、炭素収率が40%以上85%以下の流動性材料を用いれば、鋳型粒子を除去した後には、鋳型粒子が存在した場所が連続孔となる三次元網目構造を有する多孔質炭素を確実に得ることができるからである。また、鋳型粒子として粒径が略同一のものを用いれば、同一サイズの連続孔が形成されるので、スポンジ状且つ略籠伏の多孔質炭素を作製することができる。
また、流動性材料の炭素収率が上記範囲であれば、ミクロ孔が非常に発達するので、比表面積が大きくなる。但し、流動性材料の炭素収率が上記範囲であっても、鋳型粒子を用いない場合にはミクロ孔は発達しない。
【0021】
(2)鋳型粒子の径や有機質樹脂の種類を変えることによって、細孔の径、多孔質炭素の細孔分布、及び、炭素質壁の厚みを調整することができる。したがって、鋳型粒子の径と有機質樹脂の種類とを適宜選択することによって、より均一な細孔径を有し、より大きな細孔容量を有する多孔質炭素を作製することも可能となる。更に、炭素源に有機質樹脂を含む流動性材料を用い、しかも、賦活処理工程を経ることなく多孔質炭素を作製できるので、得られた多孔質炭素は非常に高純度なものとなる。
【0022】
(3)鋳型粒子としては、アルカリ土類金属化合物を用いることが望ましい。アルカリ土類金属化合物は弱酸或いはお湯により除去することができる(即ち、強酸を用いることなく鋳型粒子を取り除くことができる)ので、鋳型粒子を除去するステップにおいて、多孔質炭素自体の性状が変化するのを抑制することができるからである。尚、弱酸を用いた場合には、除去スピードが早くなるという利点がある一方、お湯を用いた場合には、酸が残留して不純物となるという不都合を防止できるという利点がある。また、鋳型粒子を除去するステップにおいて、溶出した酸化物溶液は再び原料として使用が可能であり、多孔質炭素の製造コストを低減できる。
【0023】
(4)鋳型粒子を除去するステップにおいては、除去後の鋳型粒子の残留率が0.5%以下となるように規制することが望ましい。除去後の鋳型粒子の残留率が0.5%を超えると、メソ孔内に残る鋳型粒子が多くなって、細孔としての役割を発揮できない部位が広く生じるからである。また、金属不純物を忌避する用途への適用が行いにくくなる恐れもある。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、金属粒子が酸化するのを抑制できると共に、金属粒子を十分に分散させることにより、金属粒子の添加効果を長期間に亘って維持することができるといった優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明炭素の製造工程を示す図であって、同図(a)はポリアミック酸樹脂ワニスと酸化マグネシウムと、塩化白金酸とを混合した状態を示す説明図、同図(b)は混合物を熱処理した状態を示す説明図、同図(c)は多孔質炭素を示す説明図である。
【図2】本発明炭素A1のSTEM(走査透過電子顕微鏡)写真。
【図3】本発明炭素A1における酸化マグネシウムを除去する前後のSEM(走査電子顕微鏡)写真であって、同図(a)は酸化マグネシウムを除去する前の写真、同図(b)は酸化マグネシウムを除去した後の写真である。
【図4】本発明炭素の状態を示す説明図。
【図5】本発明炭素A1〜A8及び比較炭素Z1〜Z4における白金の含有量と白金の平均粒子径との関係を示すグラフ。
【図6】本発明炭素Bの外観写真。
【図7】比較炭素Yの外観写真。
【図8】塩酸溶液で洗浄する前の炭素のX線回折グラフ。
【図9】塩酸溶液で洗浄した後の炭素のX線回折グラフ。
【図10】金属原子を構造中に含む高分子材料の状態を示す概念図。
【図11】樹脂ワニスと金属塩との錯体となっている状態を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を以下に説明する。
本発明の炭素化物は、単位構造中に少なくとも一つ以上の窒素もしくはフッ素原子を含むポリイミドもしくは炭素化収率が40wt%を越える樹脂等(例えば、フェノール樹脂やピッチ)と、金属粒子等と、酸化物粒子等と、溶液又は粉末状態において湿式もしくは乾式混合し、混合物を非酸化性雰囲気下、又は、減圧下〔133Pa(1torr)以下〕、或いは、還元性雰囲気下で、500℃以上の温度で炭化し、得られた炭素と酸化物を洗浄処理することで得られ、その炭素質壁内には金属粒子が分散された炭素化物である。
【0027】
ここで、上記単位構造中に少なくとも一つ以上の窒素もしくはフッ素原子を含むポリイミドは、酸成分とジアミン成分との重縮合により得ることができる。但し、この場合、酸成分及びジアミン成分のいずれか一方又は両方に、一つ以上の窒素原子もしくはフッ素原子を含む必要がある。
具体的には、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を成膜し、溶媒を加熱除去することによりポリアミド酸膜を得る。次に、得られたポリアミド酸膜を200℃以上で熱イミド化することによりポリイミドを製造することができる。
【0028】
前記ジアミンとしては、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン〔2,2−Bis(4−aminophenyl)hexafluoropropane〕、2,2−ビス(トリフルオロメチル)−ベンジジン〔2,2’−Bis(trifluoromethyl)−benzidine〕、4,4’−ジアミノオクタフルオロビフェニルや、3,3’−ジフルオロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン,3,3’−ジフルオロ−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジ(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジフルオロ−4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、3,3’−ジフルオロ−4,4’−ジアミノジフェニルヘキサフルオロプロパン、3,3’−ジフルオロ−4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’,5,5’−テトラフルオロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラ(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラフルオロ−4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、3,3’,5,5’−テトラ(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、3,3’,5,5’−テトラフルオロ−4,4−ジアミノジフェニルヘキサフルオロプロパン、1,3−ジアミノ−5−(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,3−ジアミノ−4−メチル−5−(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,3−ジアミノ−4−メトキシ−5−(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,3−ジアミノ−2,4,6−トリフロオロ−5−(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,3−ジアミノ−4−クロロ−5−(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,3−ジアミノ−4−プブロモ−5−(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,2−ジアミノ−4−(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,2−ジアミノ−4−メチル−5−(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,2−ジアミノ−4−メトキシ−5−(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,2−ジアミノ−3,4,6−トリフルオロ−5−(パーフルオロノネニルオキシ)ヘンゼン、1,2−ジアミノ−4−クロロ−5−(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,2−ジアミノ−4−ブロモ−5−(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,4−ジアミノ−3−(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,4−ジアミノ−2−メチル−5−(パーフルオロノネニルオキシ)ペンセン、1,4−ジアミノ−2−メトキシ−5−(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,4−ジアミノ−2,3,6−トリフルオロ−5−(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,4−ジアミノ−2−クロロ−5−(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,4−ジアミノ−2−プブロモ−5−(パーフルオロノネニルオキシ)ベンゼン、1,3−ジアミノ−5−(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,3−ジアミノ−4−メチル−5−(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,3−ジアミノ−4−メトキシ−5−(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,3−ジアミノ−2,4,6−トリフルオロ−5−(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,3−ジアミノ−4−クロロ−5−(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,3−ジアミノ−4−ブロモ−5−(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,2−ジアミノ−4−(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,2−ジアミノ−4−メチル−5−(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,2−ジアミノ−4−メトキシ−5−(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,2−ジアミノ−3,4,6−トリフルオロ−5−(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,2−ジアミノ−4−クロロ−5−(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,2−ジアミノ−4−ブロモ−5−(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,4−ジアミノ−3−(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,4−ジアミノ−2−メチル−5−(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,4−ジアミノ−2−メトキシ−5−(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,4−ジアミノ−2,3,6−トリフルオロ−5−(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,4−ジアミノ−2−クロロ−5−(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼン、1,4−ジアミノ−2−プロモ−5−(パーフルオロヘキセニルオキシ)ベンゼンやフッ素原子を含まないp−フェニレンジアミン(PPD)、ジオキシジアニリンなどの芳香族ジアミンが例示できる。また、上記ジアミン成分は上記各芳香族ジアミンを2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0029】
一方、酸成分としては、フッ素原子を含む4,4−ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物(6FDA)、及びフッ素原子を含まない3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、ピロメリット酸二無水物(PMDA)等が挙げられる。
また、ポリイミド前駆体の溶媒として用いる有機溶媒は、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
【0030】
イミド化の手法としては公知の方法〔例えば高分子学会編「新高分子実験学」共立出版、1996年3月28日、第3巻高分子の合成・反応(2)158頁参照〕に示されるように、加熱あるいは化学イミド化のどちらの方法に従ってもよく、本発明はこのイミド化の方法には左右されない。
更に、ポリイミド以外の樹脂としては、石油系タールピッチ、アクリル樹脂など40%以上の炭素収率を持つものが使用できる。
【0031】
一方、上記酸化物として用いる原料はアルカリ土類金属酸化物(酸化マグネシウム、酸化カルシウム等の他に、熱処理により熱分解過程で酸化マグネシウムへと状態が変化する、金属有機酸(クエン酸マグネシウム、シュウ酸マグネシウム、クエン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム等)、塩化物、硝酸塩、硫酸塩を使用することもできる。
また、酸化物を取り除く洗浄液としては、塩酸、硫酸、硝酸、クエン酸、酢酸、ギ酸など一般的な無機酸を使用し、2mol/l以下の希酸として用いるのが好ましい。また、80℃以上の熱水を使用することも可能である。
【0032】
更に、本発明の多孔質炭素を得るには、非酸化雰囲気下で、500℃以上、1500℃以下の温度で炭化することが好ましい。高炭素収率の樹脂は高分子であるため、500℃未満では炭素化が不十分で細孔の発達が十分ではない場合がある一方、1500℃以上では収縮が大きく、酸化物が焼結し粗大化するため、細孔サイズが小さくなって比表面積が小さくなるからである。
【実施例】
【0033】
〔第1実施例〕
(実施例)
先ず、図1(a)に示すように、炭素前駆体としてのポリアミック酸樹脂ワニス(イミド系樹脂)1と、鋳型粒子としての酸化マグネシウム(MgO、平均結晶子径は100nm)2と、金属塩としての塩化白金酸6とを、10:5:1の質量比で混合した。この際、ポリアミック酸樹脂ワニスと塩化白金酸6とは金属錯体となっていた。次に、図1(b)に示すように、この混合物を窒素雰囲気中1000℃で1時間熱処理を行って、塩化白金酸6を白金に還元させ、且つ、ポリアミック酸樹脂ワニス1を熱分解させることにより、白金粒子7を含む炭素3を作製した。最後に、図1(c)に示すように、得られた炭素3を1mol/lの割合で添加された硫酸溶液で洗浄して、MgOを完全に溶出させることにより多数の孔4を有する多孔質炭素5を得た。尚、多孔質炭素5において、炭素質壁を構成する炭素と白金粒子7との総量に対する上記白金粒子7の割合は、5質量%であった。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、本発明炭素A1と称する。
【0034】
本発明炭素A1のSTEM(走査透過電子顕微鏡)写真を図2に示す。図2から明らかなように、多孔質炭素内で白金粒子がナノオーダーで分散されていることがわかる。また、本発明炭素A1につき、酸化マグネシウムを除去する前後のSEM(走査電子顕微鏡)写真を、各々、図3(a)〔酸化マグネシウムを除去する前〕及び図3(b)〔酸化マグネシウムを除去した後〕に示す。両図から明らかなように、酸化マグネシウムを除去する前には3次元網目構造となっていないが、酸化マグネシウムを除去した後には3次元網目構造(スポンジ状のカーボン形状)となっていることがわかる。より具体的には、図4に示すように、本発明炭素A1の構造は、大きさが略同等である多数のメソ孔10を有しており、炭素質壁12におけるメソ孔10に臨む位置にミクロ孔11が形成され、且つ、炭素質壁12内には白金粒子7が存在し、この白金粒子7の一部は上記ミクロ孔11に露出しているような構造となっている。
また、本発明炭素A1においては、炭素壁全体の体積に対する炭素部分の体積の割合は40%、ミクロ孔の孔径は10nm、比表面積は700m2/gであった。尚、ミクロ孔の孔径はHK法を用いて計算し、メソ孔の孔径はBJH法を用いて計算した。
【0035】
(実施例2〜8)
炭素質壁12を構成する炭素と白金粒子7との総量に対する白金粒子7の割合を、各々、10質量%、15質量%、20質量%、30質量%、35質量%、45質量%、65質量%とした他は、上記実施例1と同様にして多孔質炭素を作製した。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下それぞれ、本発明炭素A2〜A8と称する。
【0036】
(比較例1〜4)
鋳型粒子としての酸化マグネシウムを添加しない他は、上記実施例1〜実施例4と同様にして多孔質炭素を作製した。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下それぞれ、比較炭素Z1〜Z4と称する。
【0037】
(実験)
上記本発明炭素A1〜A8及び比較炭素Z1〜Z4における白金の含有量(炭素質壁12を構成する炭素と白金粒子7との総量に対する白金粒子7の割合)と白金の平均粒子径との関係を調べたので、その結果を図5に示す。
図5から明らかなように、白金含有量が5質量%〜35質量%の本発明炭素A1〜A6では白金粒子径は約5nmと極めて小さく、また、白金含有量が各45質量%、65重量%の本発明炭素A7、A8でも白金粒子径は約17nm以下と小さい。これに対して、比較炭素Z1〜Z4においては、白金含有量が5質量%の比較炭素Z1であっても白金粒子径は約18nmと大きく、白金含有量が10質量%以上の比較炭素Z2〜Z4では白金粒子径が約23nm以上と極めて大きくなっていることが認められる。
【0038】
この理由は完全には明確ではないが、本発明炭素A1〜A8の如く、MgOフィラーを用いた場合には、製造工程の全体においてMgOフィラーにより炭素壁の厚みが白金粒子の凝集を許容しない程度に小さく保持されるため、多孔質炭素の炭素壁内に金属粒子がナノ分散された状態が維持されるためと推定される。これに対して、比較炭素Z1〜Z4では、MgOフィラーを用いていないので、熱処理時にポリアミック酸樹脂ワニス中で白金粒子の凝集が起こり、白金の平均粒子径が大きいものとなったと推定される。
【0039】
〔第2実施例〕
(実施例)
先ず、炭素前駆体としてのポリビニルアルコールと、鋳型粒子としての酸化マグネシウム(MgO、平均結晶子径は100nm)と、金属塩としての酸化錫とを、10:10:5の質量比で混合した。次に、この混合物を窒素雰囲気中1000℃で1時間熱処理を行って、酸化錫を錫に還元し、且つ、ポリビニルアルコールを熱分解させることにより、錫を含む炭素を作製した。最後に、得られた炭素を1mol/lの割合で添加された塩酸溶液で洗浄して、MgOを完全に溶出させることにより多数の孔を有する多孔質炭素を得た。尚、多孔質炭素において、炭素質壁を構成する炭素と錫との総量に対する錫の割合は55wt%であった。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、本発明炭素Bと称する。
本発明炭素Bの外観写真を図6に示す。図6から明らかなように金属の析出が全く見られず、多孔質炭素内で錫粒子がナノオーダーで分散されていることが推測される。
【0040】
(比較例)
鋳型粒子としての酸化マグネシウムを添加しない他は、上記実施例と同様にして多孔質炭素を作製した。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、比較炭素Yと称する。
比較炭素Yの外観写真を図7に示す。写真中の白い粒子は析出した金属であり、図7から明らかなように、錫粒子が凝集して多孔質炭素外に析出してしまっていることがわかる。
【0041】
上述した外観となるのは、本発明炭素Bの如く、MgOフィラーを用いた場合には、多孔質炭素の炭素壁内に金属粒子が包含された状態が加熱焼成中でも維持されるため、多孔質炭素外に金属が析出することがない。即ち、MgOフィラーが存在することにより、メソ孔に金属が溶出するのを抑制できる。これに対して、比較炭素Yでは、MgOフィラーを用いていないので、金属粒子の融点より高温での加熱焼成時に、溶融された金属がメソ孔に溶出することに起因するものと考えられる。
【0042】
(実験)
上記実施例で用いた混合物と同一の混合物を、窒素雰囲気中で、各600℃、700℃、800℃、及び900℃で1時間熱処理を行った後、塩酸溶液で洗浄して、MgOを完全に溶出させた。そして、塩酸溶液で洗浄する前後の炭素のX線回折を行ったので、その結果をそれぞれ図8(塩酸溶液で洗浄する前)及び図9(塩酸溶液で洗浄した後)に示す。
図8及び図9から明らかなように、700℃以下で熱処理を行った場合には、塩酸溶液で洗浄する前後を問わずSnO2が存在していることが認められ、800℃で熱処理を行った場合には、塩酸溶液で洗浄する前にはSnO2が存在していないが、塩酸溶液で洗浄した後にはSnO2が存在していることが認められる。これに対して、900℃以下で熱処理を行った場合には、塩酸溶液で洗浄する前後を問わずSnO2が存在していないことが認められる。したがって、金属塩として酸化錫を用いる場合において、酸化錫の還元処理を確実に行うには、熱処理温度は900℃以上が好ましいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明はガス吸着、分解材料、燃料電池用高活性電極、気体、液体中の殺菌フィルターブラシ材フィラー、低融点ハンダ粉末、リチウムイオン二次電池用電極材等として用いることができる。
【符号の説明】
【0044】
1:ポリアミック酸樹脂ワニス(イミド系樹脂)
2:酸化マグネシウム
3:炭素
4:孔
5:多孔質炭素
6:塩化白金酸
7:白金粒子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メソ孔の外郭を構成する炭素質壁が3次元網目構造を成し、上記炭素質壁における上記メソ孔に臨む位置にミクロ孔が形成された多孔質炭素であって、
上記炭素質壁内には金属粒子が分散され、且つ、上記金属粒子のうち少なくとも一部の金属粒子は、粒子表面の一部が上記ミクロ孔に露出状態で配置されていることを特徴とする多孔質炭素。
【請求項2】
上記メソ孔の大きさが略同等となるように構成されている、請求項1に記載の多孔質炭素。
【請求項3】
上記金属粒子の平均粒径(動的光散乱法)が4〜500nmである、請求項1又は2に記載の多孔質炭素。
【請求項4】
上記炭素質壁を構成する炭素と上記金属粒子との総量に対する上記金属粒子の割合が、0.5〜90wt%である、請求項1〜3の何れか1項に記載の多孔質炭素。
【請求項5】
上記メソ孔及びミクロ孔を含む細孔における孔径が0.3〜100nmである、請求項1〜4の何れか1項に記載の多孔質炭素。
【請求項6】
比表面積が100〜1000m2/gである、請求項1〜5の何れか1項に記載の多孔質炭素。
【請求項7】
上記メソ孔は開気孔であって、気孔部分が連続するような構成となっている、請求項1〜6の何れか1項に記載の多孔質炭素。
【請求項8】
有機質樹脂を含む流動性材料と、金属粒子と、鋳型粒子とを混合して混合物を作製するステップと、
上記混合物を非酸化性雰囲気で加熱焼成して焼成物を作製するステップと、
上記焼成物中の上記鋳型粒子を除去するステップと、
を有することを特徴とする多孔質炭素の製造方法。
【請求項9】
有機質樹脂を含む流動性材料と、還元性雰囲気で加熱焼成された場合に金属として析出する金属塩を含む金属成分と、鋳型粒子とを混合して混合物を作製するステップと、
上記混合物を還元性雰囲気で加熱焼成して焼成物を作製するステップと、
上記焼成物中の上記鋳型粒子を除去するステップと、
を有することを特徴とする多孔質炭素の製造方法。
【請求項10】
金属原子を構造中に含む有機質樹脂を備えた含む流動性材料と、鋳型粒子とを混合して混合物を作製するステップと、
上記混合物を非酸化性雰囲気で加熱焼成して焼成物を作製するステップと、
上記焼成物中の上記鋳型粒子を除去するステップと、
を有することを特徴とする多孔質炭素の製造方法。
【請求項11】
上記鋳型粒子には略同径のものを用いる、請求項8〜10の何れか1項に記載の多孔質炭素の製造方法。
【請求項12】
上記流動性材料として、200℃以下の温度で流動性を生じる樹脂、又は、ワニス状の高分子樹脂を用いる、請求項8〜11の何れか1項に記載の多孔質炭素の製造方法。
【請求項1】
メソ孔の外郭を構成する炭素質壁が3次元網目構造を成し、上記炭素質壁における上記メソ孔に臨む位置にミクロ孔が形成された多孔質炭素であって、
上記炭素質壁内には金属粒子が分散され、且つ、上記金属粒子のうち少なくとも一部の金属粒子は、粒子表面の一部が上記ミクロ孔に露出状態で配置されていることを特徴とする多孔質炭素。
【請求項2】
上記メソ孔の大きさが略同等となるように構成されている、請求項1に記載の多孔質炭素。
【請求項3】
上記金属粒子の平均粒径(動的光散乱法)が4〜500nmである、請求項1又は2に記載の多孔質炭素。
【請求項4】
上記炭素質壁を構成する炭素と上記金属粒子との総量に対する上記金属粒子の割合が、0.5〜90wt%である、請求項1〜3の何れか1項に記載の多孔質炭素。
【請求項5】
上記メソ孔及びミクロ孔を含む細孔における孔径が0.3〜100nmである、請求項1〜4の何れか1項に記載の多孔質炭素。
【請求項6】
比表面積が100〜1000m2/gである、請求項1〜5の何れか1項に記載の多孔質炭素。
【請求項7】
上記メソ孔は開気孔であって、気孔部分が連続するような構成となっている、請求項1〜6の何れか1項に記載の多孔質炭素。
【請求項8】
有機質樹脂を含む流動性材料と、金属粒子と、鋳型粒子とを混合して混合物を作製するステップと、
上記混合物を非酸化性雰囲気で加熱焼成して焼成物を作製するステップと、
上記焼成物中の上記鋳型粒子を除去するステップと、
を有することを特徴とする多孔質炭素の製造方法。
【請求項9】
有機質樹脂を含む流動性材料と、還元性雰囲気で加熱焼成された場合に金属として析出する金属塩を含む金属成分と、鋳型粒子とを混合して混合物を作製するステップと、
上記混合物を還元性雰囲気で加熱焼成して焼成物を作製するステップと、
上記焼成物中の上記鋳型粒子を除去するステップと、
を有することを特徴とする多孔質炭素の製造方法。
【請求項10】
金属原子を構造中に含む有機質樹脂を備えた含む流動性材料と、鋳型粒子とを混合して混合物を作製するステップと、
上記混合物を非酸化性雰囲気で加熱焼成して焼成物を作製するステップと、
上記焼成物中の上記鋳型粒子を除去するステップと、
を有することを特徴とする多孔質炭素の製造方法。
【請求項11】
上記鋳型粒子には略同径のものを用いる、請求項8〜10の何れか1項に記載の多孔質炭素の製造方法。
【請求項12】
上記流動性材料として、200℃以下の温度で流動性を生じる樹脂、又は、ワニス状の高分子樹脂を用いる、請求項8〜11の何れか1項に記載の多孔質炭素の製造方法。
【図1】
【図4】
【図5】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図6】
【図7】
【図4】
【図5】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2011−1224(P2011−1224A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−145953(P2009−145953)
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【出願人】(000222842)東洋炭素株式会社 (198)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【出願人】(000222842)東洋炭素株式会社 (198)
【Fターム(参考)】
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