説明

多孔質繊維ユニットおよびそれを用いたシート

【課題】可変表示機能および/または不可視情報の記録書き換え機能を有する多孔質繊維ユニットおよび該多孔質繊維を使用したシートを提供する。
【解決手段】多数の空隙部12を有する多孔質繊維と、外部からの刺激に応答して可変する表示材料および/または記録材料13を含み、前記表示材料および/または記録材料13を多孔質繊維の空隙部に内包させた多孔質繊維ユニット11、または、多数の空隙部を有し更にその中央部に他の空隙部に比べて大きな中空部分を有する多孔質繊維と、外部からの刺激に応答して可変する表示材料および/または記録材料とを含み、前記表示材料および/または記録材料を多孔質繊維の空隙部と中空部分に内包させた多孔質繊維ユニット11。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示材料および/または記録材料を内包した多孔質繊維ユニットおよびそれを用いたシートに関する。特に、多孔質繊維の空隙部に外部からの刺激に応答して変化する表示材料および/または記録材料を、内包させた繊維状の可変表示材料/または記録材料に関する。
【背景技術】
【0002】
内部に空隙を有する多孔質繊維は、広い応用範囲を有する。これまで、多孔質繊維、または多孔質中空繊維の内部に、何らかの機能性材料が内包されて用いられることがあった。例えば、特許文献1では、フィルムを巻いてストロー状にした中空繊維の内部に、電解質材料、ゾルゲル、セラミックス材料、コラーゲン、尿素、たんぱく質、ゼラチン、デンプンなどを内包させている。また、特許文献2〜6では、繊維表面から中空部への貫通孔を有する多孔質中空繊維を用いて、該多孔質中空繊維の空隙部に、制電剤、たんぱく質、糖類などを内包させている。
【0003】
前記の内包物はいずれも吸湿性や制電性の向上を目的としたものであり、特に外界からの刺激により状態を変化させることを意図したものではない。
また、特許文献7では、中空繊維の空隙部に外部からの刺激に応答して変化する表示材料および/または機能性材料を、内包させたユニットが提案されている。しかし、中空繊維を使用した場合、繊維外膜の透明度を上げて表示色を明瞭にするため、あるいは記録材料をより多く内包させて磁気情報の記録/読み取り感度を上げるためには、中空繊維外膜の膜厚を薄くする必要があるが、膜厚を薄くすると繊維の強度が低下し、加工工程での破損や、耐久性が低下するという問題があった。
本発明における多孔質繊維は、外界からの刺激により物理的および/または化学的に状態を変化させる表示材料や記録材料を内包したものである。繊維内部に保護された状態で、内包させた材料が外界からの刺激により物理的および/または化学的に状態を変化させるので、他の素材と複合化させることで他の素材に新たな機能を付加することができる。
【0004】
例えば、偽造防止用紙の分野において、紙幣、商品券などに蛍光、あるいは着色繊維を混入する偽造防止手段は公知であるが、本発明の外界からの刺激により物理的および/または化学的に状態を変化させる表示材料や記録材料を内包した多孔質繊維ユニットを蛍光繊維などの代わりに商品券などに用いれば、可視情報とともに磁気記録情報などの不可視情報を組み合わせて記録することができ、偽造防止効果が一層高まる。
【0005】
さらに本発明の多孔質繊維ユニットを用いて、内包物質が可変した状態をそのときどきの情報と対応させれば、トレーサビリティの機能も果たすことができる。例えば、ダンボール用紙中に本発明の多孔質繊維を混入させることにより、流通分野におけるトレーサビリティとして用いることもできる。
【0006】
またアミューズメントの分野では、例えばおもちゃや人形の繊維・衣服・髪の毛などに本発明の多孔質繊維ユニットを用いることにより、可変表示材料による視覚効果が発現し、商品としてのアピール度が高まる。
【0007】
さらに、プラスチックフィルムを本発明の多孔質繊維ユニットを抄き込んだシートと貼り合せることにより、可変表示や情報の記録書き換えが可能なカードとして用いることができる。
本発明者等は、このような問題を解決するため鋭意研究の結果、多孔質材料の細かな空隙に外部からの刺激に応答して可変する表示材料および/または記録材料を内包させることによって、外部からの圧力に対し耐久性が高く、且つ明瞭な表示色を持った表示ユニット、あるいは磁性記録/読み取り感度の高い記録ユニットを完成するに至ったのである。
【特許文献1】WO00/10938号公報
【特許文献2】特開平5−171571号公報
【特許文献3】特開平5−339878号公報
【特許文献4】特開平6−17372号公報
【特許文献5】特開平6−17373号公報
【特許文献6】特開平9−176969号公報
【特許文献7】特開2007−169842号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、空隙部に外部からの刺激に応答して可変する表示材料および/または記録材料を内包させた多孔質繊維ユニットを提供することにより、可変表示機能および/または不可視情報の記録書き換え機能を有する高付加価値商品の開発を様々な応用分野において容易にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、空隙部内包繊維に、何らかの機能性材料が内包されたユニットにおいて、外部からの刺激に応答して変化する表示材料および/または記録材料を内包物として用いることにより、前記の課題を解決する。すなわち、本発明は以下の(1)〜(7)の構成を含む。
【0010】
(1)多数の空隙部を有する多孔質繊維と、外部からの刺激に応答して可変する表示材料および/または記録材料とを含み、前記表示材料および/または記録材料が多孔質繊維の空隙部に内包されることを特徴とする多孔質繊維ユニット。
(2)多数の空隙部を有し更にその中央部に他の空隙部に比べて大きな中空部分を有する多孔質繊維と、外部からの刺激に応答して可変する表示材料および/または記録材料とを含み、前記表示材料および/または記録材料が多孔質繊維の空隙部と中空部分に内包されることを特徴とする多孔質繊維ユニット。
(3)繊維の長軸方向に対して垂直な断面の形状が楕円形であることを特徴とする(1)または(2)のいずれかに記載の多孔質繊維、または多孔質中空繊維ユニット。
(4)多孔質繊維ユニットの表面が凹凸を有することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の多孔質繊維、または多孔質中空繊維ユニット。
(5)多孔質繊維を形成する材料が実質的に透明であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の多孔質繊維、または多孔質中空繊維ユニット。
(6)前記表示材料および/または記録材料が、磁界や電界などの印加により移動および/または回転する材料を含む(1)〜(5)のいずれかに記載の多孔質繊維、または多孔質中空繊維ユニット。
(7)(1)〜(6)のいずれかに記載の多孔質繊維ユニットを天然繊維および/または人工繊維とともに混抄したことを特徴とするシート。
【発明の効果】
【0011】
本発明の多孔質繊維ユニットは、外部からの刺激に応答して可変する表示材料および/または機能性材料を内包物として用いることにより、セキュリティ、I.D.、トレーサビリティ、アミューズメントなどの分野で、可変表示機能および/または不可視情報の記録書き換え機能を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明の、多孔質繊維ユニットは、多孔質繊維と外部からの刺激に応答して可変する表示材料および/または記録材料から構成され、多孔質繊維の空隙部に表示材料および/または記録材料内包された構造をもつ。
本発明の多孔質繊維ユニットの一例として、多孔質繊維の空隙部に、磁界により移動する磁性粉を内包物したものの概念図を図1に示す。また、図2に多孔質繊維の一例の概念図を示す。図2では繊維の長さ方向に小さな連通孔が複数存在するものを例示したが、孔はどのような状態で存在していてもよい。例えば、繊維を円柱に見立ててれば、円柱の側面から中央に向うような孔であってもよい。あるいは、不連続の細かな空隙部が多数存在していてもよい。
更に多孔質繊維の強度を低下させない範囲の大きさで多孔質繊維の中央部に中空部を設けることには、表示材料および/または記録材料の内包量を増やすことができ、表示色の高濃度化や磁気記録などの記録/読み取り時の高感度化が期待できる好ましい形態の一つである。
【0013】
前記多孔質繊維ユニットの、断面方向からみた形状が、通常は円形であるが、楕円形にしてもよい。フィルムや紙に封入させる場合など、フラットな形状の方が好ましい場合があるからである。楕円形にする方法としては、円形の多孔質繊維を押しつぶしてもよいし、紡糸の段階で楕円状のスリットを用いて、はじめから楕円状の繊維を作ってもよい。
また、前記多孔質繊維の表面には凹凸を設けてもよい。凹凸があることにより物理的なアンカー効果により、複合化させようとする素材に強固に定着した布帛を形成できるからである。なお、布帛とは、織布、不織布などの総称であるが、本発明では広義にとらえ、紙、フィルムなどシート状の物質一般を指すものとする。
【0014】
さらに、多孔質繊維は、表示材料としての機能を発現させる場合には、実質的に透明であることが望ましい。一方、繊維ユニット中に内包させた磁性粉を機器検知する場合には、繊維に透明性は求められていない。布帛中での繊維の位置情報をもって一種の記録情報とする場合など、むしろその位置が目視ではあきらかにならない方がよい場合もある。
【0015】
次に本発明の多孔質繊維ユニットの材料について説明する。
多孔質繊維の材料は、表示材料としての観点からは、前述のように、実質的に表示材料が認識できる程度の透明性があるのが好ましい。透明性の観点から選択できる具体的な材料としては、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系共重合体(ABS系樹脂)、フッ素系樹脂(例えば、4フッ化エチレン樹脂)、シリコーン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、およびレーヨン樹脂などを挙げることができる。
一方、機器検知によって記録情報を引き出すような用途では、前述のように、透明性は必ずしも必要ない。位置情報を潜在的な情報として埋め込む場合には、むしろ目立たない方がよい。このような場合には、酸化チタンなどの顔料を混合し不透明性を付与すれば、前記の透明樹脂を不透明な繊維材料として用いることもできる。
【0016】
多孔質繊維は長さとして0.5mmから50mm程度のものの使用が好ましく、より好ましくは1.0mmから3.0mm、更に好ましくは1.5mmから2.5mmである。0.5mm未満では、表示材料として用いた場合に観察しにくいおそれがある。一方、50mmを超えると、紙や高分子化合物など布帛を形成する際の他の材料との複合化が困難になることがある。また前記多孔質繊維は外径として10μmから500μm程度のものが使用が好ましく、好ましくは20μmから250μm、更に好ましくは30μmから80μmである。10μm未満では、表示材料として用いた場合に観察しにくいおそれがある。一方、500μmを超えると、紙や高分子化合物との複合化が困難なことがある。
【0017】
多孔質繊維に内包させる表示材料や記録材料は、外界からの刺激により物理的および/または化学的に状態を変化させるものであれば、特に制限はない。例えば、図1では、外部刺激、ここでは磁界に応答する表示材料・記録材料として磁性粉が内包されている。
また、外界からの刺激により物理的および/または化学的に状態を変化させる表示材料や記録材料が内包されている限りにおいて、外部刺激に応答しない物質が入っていても何ら問題がない。むしろ、表示性能や記録性能を向上させる目的で、積極的に外部刺激に応答しない物質を入れることもある。図1の磁性粉を内包した中空繊維ユニットを例にすれば、それ自身は外部刺激に応答しないシリコーンオイルのような液体を併用し、磁性粉の移動をスムースにさせることができる。
【0018】
外界からの刺激により物理的および/または化学的に状態を変化させる表示材料、記録材料、および外部刺激に応答しない状態は、固体でも液体でも気体でも、これらの混合物でもよい。
多孔質繊維に内包させる固体のうち、外部からの刺激により物理的に変化する表示材料、記録材料としては、無機系粒子、有機ポリマー粒子、無機・有機複合粒子などが使用されるが、特に、これらに制限されるわけではない。無機系粒子としては、酸化チタン、水酸化チタン、亜鉛華、硫化亜鉛、酸化アンチモン、炭酸カルシウム、鉛白、タルク、シリカ、ケイ酸カルシウム、アルミナホワイト、カドミウムイエロー、カドミウムレッド、カドミウムオレンジ、チタンイエロー、紺青、群青、コバルトブルー、コバルトグリーン、コバルトバイオレット、酸化鉄、カーボンブラック、マンガンフェライトブラック、コバルトフェライトブラック、銅粉、アルミニウム粉などが挙げられる。有機ポリマー粒子としては、ウレタン系、ナイロン系、フッ素系、シリコーン系、メラミン系、フェノール系、スチレン系、スチレン−アクリル系、ウレタン−アクリル系などが挙げられる。また、スチレン−アクリル系から成る中空粒子も挙げられる。これらの粒子は顔料や染料により着色されたものであってもよい。
これらの固体は、例えば、電界、磁界などの外部刺激により物理的に移動、あるいは回転させることができる。
【0019】
多孔質繊維に内包する固体の中でも、特に磁性粉は好適に用いられる。磁性粉は表示材料として働くばかりでなく、機器検知などにより記録材料としての機能を発現するからである。ここで言う磁性粉とは、磁性体単独、或いは2種以上の磁性体の混合、又は磁性体とポリマーからなる混合物などからなり、例えばマグネタイト、フェライトをはじめとする鉄、コバルト、ニッケルなどの強磁性を示す金属、あるいはこれらの元素を含む合金、または化合物(例えば酸化物など)の微粒子が挙げられる。
【0020】
多孔質繊維に内包する固体としては、前記の如く略球形のものばかりでなく、様々な形状のものを用いることができる。これに限定されないが、特にフィラメント上のものは、粒子と異なり、点ではなく線として動くので、視認性向上の効果を期待でき、表示材料として好ましい。
【0021】
多孔質繊維に内包させる固体のうち、外部からの刺激により化学的に変化する表示材料、記録材料の一例として感熱記録材料の分散物が挙げられるが、特に、これに制限されない。
ここで感熱記録材料とは、発色剤となる染料と、染料と反応して発色反応を引き起こす顕色剤を指す。染料としては、電子を供与して、または酸等のプロトンを受容して発色する塩基性染料の公知の化合物の中から適宜選択するのが望ましい。このような化合物は、ラクトン、ラクタム、サルトン、スピロピラン、エステル、アミド等の部分骨格を有し、顕色剤と接触してこれらの部分骨格が開環もしくは開裂するものであり、好ましい化合物としては、例えばトリアリールメタン系化合物、ジフェニルメタン系化合物、キサンテン系化合物、チアジン系化合物、スピロピラン系化合物等を挙げることができる。
【0022】
染料と発色反応を起こす顕色剤は、公知のものの中から適宜使用することができる。例えば、ロイコ染料に対する顕色剤としては、フェノール化合物、含硫フェノール性化合物、カルボン酸系化合物、スルホン酸系化合物、スルホン系化合物、尿素系又はチオ尿素系化合物等が挙げられる。
染料と顕色剤は、熱によって化学的に反応し、発色反応を呈する。
【0023】
また、蛍光発光材料、りん光発光材料などの分散物を用いて、光励起によって蛍光やりん光を発光させてもよい。
蛍光材料としては、BaSi:Pb、Sr:Eu、BaMgAl1627:Eu、MgWO、3Ca(PO・Ca(F,Cl):Sb,Mn、MgGa:Mn、ZnSiO、(Ce,Tb)MgAl1119、YSiO:Ce,Tb、Y:Eu、YVO:Eu、(Sr,Mg,Ba)(PO:Sn、3.5MgO・5MgF・GeO:Mnなどの無機系の蛍光顔料が好適に用いられる。
【0024】
りん光材料としては、CaAl:Eu,Nd、ZnS:Cu、ZnS:Cu,Co、SrAl:Eu,Dy、CaS:Eu,Tm、イリジウム錯体化合物(例えば、fac tris(2−phenypyridine) irdium)、2,3,7,8,12,13,17,18−octaethyl−21H,23H−porphyrin platinum(II)などのりん光材料が挙げられる。
【0025】
多孔質繊維に内包する液体としては、種々の液体が使用され、例えば、シリコーン系オイル、脂肪族炭化水素系オイル、芳香族炭化水素系オイル、脂環式炭化水素系オイル、ハロゲン化炭化水素系オイル、各種エステル類、またはその他の種々の油などを単独、または適宜混合したものが使われる。また、これらの液体は着色して用いることもできる。これらの液体の着色には、アゾ系、ビスアゾ系、トリアゾ系、アントラキノン系、トリフェニルメタン系、スチルベン系、フェロシアン化合物、酸化コバルト化合物、フタロシアニン化合物、イソインドリノン化合物、モリブテン化合物などの各顔料や染料などが挙げられる。
さらに、アクリルオレンジ、9−アミノアクリジン、キナクリン、アリルナフタレンスルホン酸類、アンスロイルオキシステアリン酸、オーラミンO、シアニン色素類、ダンシルクロリド誘導体類、ジフェニルヘキサトリエン、エオシン、ε−アデノシン、エチジウムブロマイド、フルオレセイン系化合物、フォーマイシン、スチルベンジスルホン酸系化合物、NBD−ホスファチジルコリン、オキソノール色素類、パリナリン酸類、ペリレン、ペリレン誘導体、N−フェニル−1−ナフチルアミン、ピレン、ピレン誘導体、サフラニンOなどの有機系の蛍光染料を適当な溶媒に溶かしてもよい。この場合には、光によって、化学的に変化する表示材料として用いることができる。
【0026】
気体としては、空気、窒素などが用いられるが、取り扱いが容易であることなどから、空気が好ましく使用される。
【0027】
次に本発明の多孔質繊維の製造法について説明する。
多孔質繊維および中空繊維の製造法として、公知の溶融紡糸法、湿式紡糸法等の紡糸法があり、これらを用いることができる。
多孔質繊維は、例えば、以下のようにして製造できる。まず、溶融紡糸法などの方法で溶媒に対する溶解性の異なる2種類の樹脂を、同時に押し出すことにより、断面形状が図3のような複合繊維を作製する。この複合繊維を、水、蟻酸水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、エタノールなどの溶媒で処理し、易溶解性の樹脂を溶媒抽出することにより除去し、図4のような多孔質繊維を得る。
溶媒抽出される樹脂としては、ポリエチレングリコールなどの親水性が高い樹脂が一般に選択されるが、これに限定されるものではない例えば、ポリオレフィン樹脂とポリアミド樹脂の複合繊維では、ポリアミド樹脂を蟻酸によって抽出することにより、多孔質繊維を得ることができる。また、例えば、フッ素系樹脂とポリアクリルニトリル樹脂の複合繊維では、ポリアクリルニトリル樹脂をエタノールによって抽出することにより多孔質繊維を得ることができる。
【0028】
中空繊維は、例えば、以下のようにして製造できる。略同心円状の二層構造の繊維を溶融紡糸法などにより製造する。このときに、内層は成形後に水洗や有機溶剤などで溶解する樹脂である。溶解によって内層の樹脂を取り除くことにより、中空繊維を得ることができる。あるいは、内層の溶解性樹脂の代わりに予め流体を導入しておけば、後から樹脂を取り除く必要がなくなり、より簡便に中空繊維を製造することが可能になる。この際導入する流体としては、空気や窒素ガスのような気体が好ましい。
【0029】
中央部に中空部を有する多孔質繊維は、多孔質繊維と中空繊維の製法を取り混ぜて作ることができる。例えば、まず、疎水性、親水性の二成分の樹脂を用いて前述の方法で中空繊維を作製する。その後、親水性樹脂を抽出、除去することにより、多孔質部を形成し、多孔質中空繊維を得る。
【0030】
なお、多孔質繊維は、溶融押出の際のスリットの形状を工夫することにより、断面方向から眺めたときの形状を任意に変えることができる。例えば、図5のようなスリットを用いて空隙部分を楕円形にすることにより、より厚みの薄いシート状の布帛に、多孔質繊維ユニットなどを混入させることが可能になる。
また、多孔質繊維の表面に任意に凹凸を設けることもできる。例えば、図6のようなスリットを用いて、図の斜線部から親水性の樹脂を押出し、後からこれを抽出・除去することにより、表面に凹凸形状のある繊維を得ることができる。図6にはその工程を記載していないが、この凹凸形状は、多孔質繊維の形成後に設けてもよいし、凹凸形状を設けてから、多孔質繊維を形成してもよい。
【0031】
次に、多孔質繊維に表示材料や記録材料(以下、「表示材料など」とする)を内包する方法について説明する。
予め内包させる表示材料などを用意しておき、表示材料などを多孔質繊維に含浸する。具体的には、多孔質繊維を多数本束ねてチャンバー内に置き、チャンバーを真空に引き、続いて、表示材料などをチャンバー内に導入することにより、該表示材料などで多孔質繊維を充満することができる。
【0032】
内包した表示材料などが漏れたり、あるいは異物が混入したりするおそれのある場合には、繊維末端を封止する必要がある。封止には、接着剤を用いる方法、加熱により繊維材料を溶解させる方法、レーザー光で繊維を断裁すると同時に封止も行う方法などがある。接着剤としては、水系接着剤、エマルジョン系接着剤、溶剤系などの一般に公知の接着剤が適宜使用されるが、溶剤系の接着剤が好ましく用いられる。例えば、ウレタン系、エポキシ系、ポリエステル系、アルキド系、アミド系、アクリル系などの接着剤が使用できる。また、UV硬化樹脂のような特殊な接着剤を用いてもよい。
【0033】
加熱により中空繊維材料を溶解させる方法では、一般にカッターの刃を熱したヒートカッターが用いられる。またレーザー光を用いる方法では、炭酸ガスレーザー(COレーザー)、イットリウム−アルミニウム−ガーネット結晶レーザー(YAGレーザー)、半導体レーザーなどが利用できる。
【0034】
次に、多孔質繊維に、表示材料や記録材料を内包した多孔質繊維ユニットを天然繊維および/または人工繊維とともに混抄する方法について説明する。
天然繊維としては、木材繊維、稲ワラ,パガス,麻などの草本植物繊維、竹、バナナ繊維等の植物繊維を原料とする化学パルプ、機械パルプ、あるいは、これらから得られる古紙パルプ、羊、牛、馬、カシミヤ等の獣毛類、絹等が挙げられる。
人工繊維としては、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、セラミックス繊維等が挙げられる。
多孔質繊維ユニットなどを混合したシートの抄紙方法は、湿式法や乾式法など公知のいずれの方法を使用してもよい。一例を挙げれば、通常の植物繊維紙の製造に用いられる方法の場合、原料濃度を0.01〜5%、好ましくは0.02〜2%の水希薄原料で十分に膨潤させた繊維をよく混練し、スダレ・網目状のワイヤーなどに流して並べて搾水後、加温により水分を蒸発させて作られる。
抄紙後は必要に応じて、クリヤ塗工、ラミネート処理、抄合せなどの処理を施してもよい。
【0035】
このようにして得られた多孔質繊維ユニットなどとシートとの複合物は、オフセット印刷法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、凸版印刷法、凹版印刷法などの印刷法で文字や絵柄を印刷することができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0037】
実施例
<表示材料、記録材料の作製>
磁性粉(商品名:BL−100、チタン工業製、平均粒径0.4μm)12g、酸化チタン(試薬、アルドリッチ社製)8gを乳鉢で物理的に混合した。シリコーンオイル(商品名:TSF−451−10、GE東芝シリコーン製)100gに上記の混合物、界面活性剤(商品名:TSF4700、GE東芝シリコーン製)0.2gを添加し、超音波分散機で10分間分散した。
【0038】
<多孔質繊維の作製>
溶融紡糸法を用いて、楕円形状の押出し部から、ポリアミド樹脂とポリプロピレン樹脂を同時に押出した後、巻き取り、延伸して、図7のようなポリアミド樹脂とポリプロピレンの複合繊維を得た。この複合繊維を蟻酸水溶液溶液処理し、ポリアミド樹脂を抽出、除去して、図8のような断面形状をもつ多孔質繊維を得た。
この多孔質繊維の楕円形状断面の長軸は200μm、短軸は40μmであった。また、多孔質部の楕円形状断面の長軸は10μm、短軸は4μmであった。
続いて、前記多孔質繊維を多数本束ねてチャンバー内に置き、チャンバーを真空に引き、前記磁性粉と酸化チタンをシリコーンオイルに分散させた液をチャンバー内に導入することにより、該分散液で多孔質繊維を充満した。
【0039】
<多孔質繊維の両末端の封止>
前記分散液を内包する多孔質繊維を、刃を熱したカッターを用いて、カット長が概ね15mmになるように切断した。切断時に多孔質繊維の切断面部分が溶かされながら潰れることにより端部はシールされ、内部に磁性粉と酸化チタンを有する多孔質繊維ユニットが形成できた。このとき多孔質繊維ユニットを曲げてみたが、多孔質繊維ユニットが壊れることはなく、したがって内部の分散液が漏れるようなことはなかった。
【0040】
<紙への混入>
用紙の原料としては、水中で濃度が0.45%の針葉樹クラフトパルプ(叩解度:440ccCSF)に紙力増強剤(商品名:AF−255、荒川化学工業製)を絶乾パルプ当り0.09%添加した紙料を用いた。この紙料に、前記の磁性粉と酸化チタンを内包した多孔質繊維ユニットを混入し、実験用手すきマシンで坪量140g/m2のシートを抄紙した。乾燥は回転式ドライヤーを使用し95℃で行った。多孔質繊維ユニットが紙の前面に一様に分散し、該多孔質繊維ユニットが容易には剥離しないシートを得た。紙厚は266μmであった。
【0041】
<表示性能、記録性能の確認>
紙の表面にある多孔質繊維ユニットでは、磁石を当てた部分における磁性粉の集合状況を目視により観察して、物理的に移動することを確認した。さらに、本用紙を350μmのセルギャップのITOガラス電極で挟み、電圧を印加すると、中空繊維ユニットの酸化チタンが、電界の向きに対応して電気泳動する様子も観察され、電圧印加による移動も確認できた。
一方、多孔質繊維ユニットを有するシートでは、磁気センサー(商品名:ST008型、日本シーディーアール製)のヘッドをシート表面に当てながら左右にスライドさせた際、ヘッドがシート内部の多孔質繊維ユニットに近づいた時に、磁気センサーが磁性粉に反応し検知音が発生した。多孔質繊維ユニットの位置と情報を対応させれば、記録材料としての使用が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の多孔質繊維ユニットは、外部からの刺激に応答して可変する表示材料および/または記録材料を内包することにより、セキュリティ、I.D.、トレーサビリティ、アミューズメントなどの分野で利用される既存のシート、カードその他の製品に可変表示機能および/または不可視情報の記録/書き換え機能を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の多孔質繊維ユニットの一例の概念図
【図2】本発明の多孔質繊維の一例の概念図
【図3】本発明の多孔質繊維のもととなる複合繊維の一例の断面図
【図4】本発明の多孔質繊維の一例の断面図
【図5】楕円形状繊維を得るためのスリットの断面図
【図6】表面に凹凸のある繊維を得るためのスリットの断面図
【図7】実施例の多孔質繊維のもととなる複合繊維の断面図
【図8】実施例の多孔質繊維の断面図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の空隙部を有する多孔質繊維と、外部からの刺激に応答して可変する表示材料および/または記録材料とを含み、前記表示材料および/または記録材料が多孔質繊維の空隙部に内包されることを特徴とする多孔質繊維ユニット。
【請求項2】
多数の空隙部を有し更にその中央部に他の空隙部に比べて大きな中空部分を有する多孔質繊維と、外部からの刺激に応答して可変する表示材料および/または記録材料とを含み、前記表示材料および/または記録材料が多孔質繊維の空隙部と中空部分に内包されることを特徴とする多孔質繊維ユニット。
【請求項3】
繊維の長軸方向に対して垂直な断面の形状が楕円形であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の多孔質繊維ユニット。
【請求項4】
多孔質繊維ユニットの表面が凹凸を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の多孔質繊維ユニット。
【請求項5】
多孔質繊維を形成する材料が実質的に透明であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の多孔質繊維ユニット。
【請求項6】
前記表示材料および/または記録材料が、磁界や電界などの印加により移動および/または回転する材料を含む請求項1〜5のいずれかに記載の多孔質繊維ユニット。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の多孔質繊維ユニットを天然繊維および/または人工繊維とともに混抄したことを特徴とするシート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−228172(P2009−228172A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−77230(P2008−77230)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】