説明

多孔質複合構造物の作製方法及びその作製に用いる多孔質微粒子

【課題】微細な連続気孔を持つ構造物あるいは膜を基板上に形成する方法を提供する。
【解決手段】平均微粒子径が0.1μm未満の脆性材料超微粒子を焼成し、これら脆性材料超微粒子同士を一部結合せしめて多孔質微粒子を形成する。次いでこの多孔質微粒子をガス中に分散させてエアロゾルとし、このエアロゾルを基材に向けて吹き付けて多孔質微粒子を衝突させて、基材上に、多孔質微粒子同士が結合して堆積した多孔質構造物を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材表面にセラミックスや半導体などの脆性材料からなる多孔質の構造物を形成した複合構造物の作製方法およびこの作製方法に使用する多孔質微粒子に関する。
本発明に係る複合構造物は、例えば太陽電池の電子伝導膜部、タンパク質やウィルスの吸着膜、触媒膜などとして利用し得る。
【背景技術】
【0002】
セラミックスやガラスなど基材の上に多孔質の被膜を形成させる方法としては、微粒子およびバインダーを溶媒に分散させたスラリーやペーストを基材に塗布し、これを乾燥させて、まず百数十℃で脱バインダー処理を行い、次いで融点以下の数百℃の温度で加熱焼成することにより、微粒子同士の接点において物質移動によるネックを形成させて結合させ、微粒子のネットワークによりある程度強度を保有した膜として得る手法がある。焼成温度や焼成時間を制御することによりネックの強度や多孔度、細孔径を制御できる。焼成温度を高く維持すれば、連続気孔から独立気孔へ、緻密化へと形態を変化させることもできる。
【0003】
また基材表面に金属やセラミックスなどの被膜を形成する方法として、PVDやCVDなどの蒸着法、ゾルゲル法、あるいは溶射法が知られている。PVD、CVD法などは緻密な組織を作製することが得意であり、多孔質構造物を形成させることは困難である。溶液から作製するゾルゲル法も基本的には緻密質を作製する方法であり、またこれらの方法は数μm以上の厚膜を形成させることが困難であることが知られている。溶射法は粒径が数μm〜100μmの粒子を使用する場合が多く、形成される被膜はその手法の特徴として内部に独立気泡が残存することが知られているが、減圧プラズマ溶射などでは、比較的緻密質の被膜を形成させることができる。
【0004】
また、最近では新たな被膜形成方法として、エアロゾルデポジション法があり、
特許第3265481号、国際出願特許WO01/27348A1に開示されるものが知られている。この方法は、脆性材料の微粒子をガス中に分散させたエアロゾルを基板に向けて吹き付け、その衝突エネルギーにより微粒子を破砕・変形させることにより、粒子あるいは破砕断片同士を接合させて、基板上に構造物を形成させる方法で、焼成させることなく焼成体と同等程度の強度を持つ構造物を形成できる手法である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
多孔質の膜を作製する方法として、スラリーやペーストの塗布後の焼成法では焼成温度が数百℃であるためにプラスチック材料や低融点金属などの熱に弱い基材に膜を形成させることが困難である。また数μm以上の厚膜を形成させる場合には、乾燥時や脱バインダー処理時、焼成時に収縮や基材との熱膨張率の差によって膜に大きな亀裂が生じるなどの問題があった。
【0006】
エアロゾルデポジション法は、脆性材料の厚膜を室温付近で形成させるに都合の良い方法であるが、連続気孔を持つような緻密度が低い多孔質の膜を形成させることは困難であった。特許第3265481号においては、使用する超微粒子脆性材料の調製方法として、原料超微粒子脆性材料の仮焼き温度を変えて、数十nm程度の粒径に調整された微細な超微粒子脆性材料を加熱し、粒径で50nm〜1μm程度の2次粒子に凝集させる方法が示唆されているが、これは理論密度が95%以上の緻密質の成形体を作製する方法であり、微細な粒子を接合させることにより、衝撃によりこれらの界面から割れることで粉砕が行われやすい凝集微粒子を作製することに着目されていた。すなわちエアロゾルデポジション法は緻密な膜を形成させる方法としてはこのような工夫が提案されているものの、ナノレベルの細孔径の連続気孔を有する膜を形成させる好適な手法は考案されていなかった。
【0007】
エアロゾルデポジション法は微粒子の運動エネルギーすなわち基板への衝突の際のエネルギーを構造物形成に利用しているため、微粒子が著しく小さい場合、例えば0.1μm未満の場合においては、質量が小さいために構造物形成が難しいという事実があった。また0.1μm以上の粒子を用いると構造物形成には都合が良いが、この場合にも比較的緻密質の構造物は作製しやすいものの、連続気孔を持ち、十分な強度を持つ(すなわち圧粉体でない)多孔質構造物の形成は困難であったし、たとえ多孔質構造物が形成されても細孔径は使用する微粒子の粒径に依存するため、ナノレベルの微細な孔や大きな比表面積が必要な場合にはこれらの多孔質構造物は最適とは言い難いものである。
【0008】
本件では、特にエアロゾルデポジション法の新しい手法として、従来では困難であった微細な連続気孔を持つ構造物あるいは膜を基板上に形成すること、また望ましくは常温環境下でこれを行うことで、プラスチック材料や低融点金属材料などに適用することを提案するものである。
【0009】
微細な気孔を持つ膜は、例えば前記した色素増感型太陽電池の酸化チタンなどの電子伝導膜部、ハイドロキシアパタイト多孔体を用いたタンパク質やウィルスの吸着膜、あるいは比表面積の大きい多孔体を担体としてその表面に各種触媒を形成させた触媒膜などの利用が考えられ、これを透明なプラスチックフィルム、ガラス、金属などに形成させて使用することが考えられる。ハイドロキシアパタイトなどは加熱により変性を来すことも懸念されるため、常温で膜が形成されることは好適である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明においては、連続気孔が存在する平均粒径が0.1〜50μmの多孔質微粒子を、ガス中に分散させてエアロゾルとし、このエアロゾルを基材に向けて吹き付けて多孔質微粒子を衝突させて、基材上に、多孔質微粒子同士が結合して堆積した多孔質構造物を形成させることを特徴とする、基材と多孔質の構造物からなる多孔質複合構造物の作製方法を提供する。
【0011】
前記多孔質微粒子は、平均微粒子径が0.1μm未満の脆性材料超微粒子を焼成し、これら脆性材料超微粒子同士を一部結合せしめて形成する。
【0012】
平均微粒子径については、超微粒子のSEM観察を行い、像内から任意に最低50ヶ、望ましくは200ヶ以上の微粒子を選び、像面積から円に変換したときの直径を算出し、これらを平均することによって求める。
平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定により測定された値を用いる。本発明においては、島津製作所製レーザー回折式粒度分布測定装置SALD−2000を用いた。
【0013】
脆性材料超微粒子が一部結合しかつ連続気孔が存在する状態の多孔質微粒子については、その気孔(細孔)の分布がシャープで密にパッキングされているほど微粒子同士の結合部分の数が多く、多孔質微粒子の強度も大きいと考えられる。本発明においては、あまりに多孔質微粒子の強度が低い場合には、衝突により容易に破砕してしまい、多孔質の構造物が得られ難くなるため、ある程度密にパッキングされている状態の多孔質微粒子が好適である。この指標として例えば、多孔質微粒子の細孔径、細孔体積を細孔分布測定装置で測定し、平均微粒子径の3倍以上の細孔径を持つ細孔の体積の、全細孔体積に占める割合が、6%以下である状態を用いる。
【0014】
また本発明における多孔質複合構造物作製方法は常温環境で行われることを特徴とする。
ここで常温とは、脆性材料の融点や前述の熱処理の温度より十分低い温度のことを指し、実質的には200℃以下である。
【0015】
また本発明における多孔質複合構造物の作製方法において、基板におけるエアロゾルが衝突する面に、エアロゾルを斜めに吹き付けることを特徴とする。基板に対してエアロゾルの衝突方向が直角の場合には、圧粉体の堆積が起こりやすいため多孔質構造物の形成は困難である。斜めに吹き付けることで、エアロゾル流が衝突後基板表面に沿って逃げやすくなり、たとえ多孔質構造物形成に弊害となる圧粉体が形成されても、エアロゾルの噴射圧力でこれが吹き飛ばされるため、好適に構造物が形成が行われる。
【0016】
本発明においては多孔質微粒子を作製する方法が、脆性材料超微粒子を溶媒に、あるいは溶媒とバインダーとに、混合させて分散させ、乾燥させて脆性材料超微粒子が密に充填された状態とし、これを焼成して後、粒径を調製して多孔質微粒子を得ることを特徴とする。あるいは、脆性材料超微粒子単独で、もしくは脆性材料超微粒子にバインダーを混合させたものを、プレスして圧密させ、これを焼成して後、粒径を調製して多孔質微粒子を得ることを特徴とする。
【0017】
多孔微粒子が基板に衝突後、容易に破砕してもとの脆性材料超微粒子にもどってしまっては、たとえ構造物が形成されたとしても緻密化が進んでしまい、目的とする多孔質の構造物が得られない。脆性材料超微粒子同士がある程度強固な結合をした多孔質微粒子とするには上述のような工程を採ることが好適である。このようにして多孔質微粒子を作製することは、予めその気孔率、細孔径を所望の値に管理してこれを多孔質の構造物の気孔率、細孔径に反映させることができるため、重要な工程である。
【0018】
ここで施す焼成は、脆性材料超微粒子の材質の融点よりも低い温度で加熱することで、脆性材料超微粒子同士の接点にネックと呼ばれる結合部分を形成してお互いが結合して集合した、ある体積を持つ多孔質材料を形成させる熱処理であり、焼成によって形成された多孔質材料の大きさが50μm以上などある場合には、ミルや乳鉢による解砕を行うことや篩分け、分級を行うことで、大きさを調節し、所望の粒径の多孔質微粒子とする。
【発明の効果】
【0019】
以上に説明したように本発明によれば、エアロゾルデポジション法の材料として、連続気孔が存在し且つ平均粒径が0.1〜50μmの脆性材料多孔質微粒子を用いたので、今までのエアロゾルデポジション法では困難であった微細な連続気孔を持つ構造物あるいは膜を基板上に形成することができる。
また、本発明方法は常温環境下で実施することができるので、プラスチック材料や低融点金属材料などの表面に前記構造物を作製することができる。特に熱により変性しやすい材料を用いる場合には、それを考慮しなくてよいので利用範囲が大幅に拡大する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1に多孔質微粒子をガス中に分散させたエアロゾルを、基材に向けて吹き付けて多孔質微粒子を衝突させて、基材上に多孔質の構造物を形成する工程で使用する、エアロゾルデポジション法を利用した構造物形成装置10の模式図を本発明における実施の一態様として示す。
【0021】
形成装置10は、窒素などのガスボンベ101がガス搬送管102を介して、多孔質微粒子を内蔵するエアロゾル発生器103に接続し、エアロゾル搬送管104を介して形成室105内に設置された、縦0.4mm横10mmの開口を持つノズル106に接続されている。ノズル106の先にはXYステージ107に設置された基板108が配置される。
形成室105は真空ポンプ109に接続されている。
【0022】
以上の構成の作製装置10による多孔質の構造物の作製手順を次に述べる。ガスボンベ101を開栓し、ガスを搬送管102を通じてエアロゾル発生器103に導入させ、多孔質微粒子を含むエアロゾルを発生させる。エアロゾルは搬送管104を通じてノズル106へと送られ、ノズル106の開口より高速で噴出される。このとき真空ポンプ109の作動により、形成室105内は数kPaの減圧環境下に置かれている。ノズル106の開口の先に配置された基板108に多孔質微粒子が衝突し、微粒子がお互いに接合し、基板上に微粒子の材料からなる多孔質の構造物が形成される。基板108はXYステージ107により揺動されており、所望の形状・面積に誘電体の構造物が形成される。以上の操作は常温環境下で行われる。
【0023】
以下多孔質構造物の作製方法として、酸化チタン多孔体を作製する工程につき、実施例として説明する。
【0024】
(実施例1)
・多孔質微粒子を準備する工程
酸化チタン粉末(平均微粒子径:25nm)を水、バインダー(PEG:分子量20000)と分散剤(アセチルアセトン)を重量比でTiO:水:バインダー:分散剤=40:40:8:1で混合し、室温で乾燥固化後、650℃で30分焼成した。その後、乳鉢にて粉砕し、25μmのメッシュを通した。粉砕後の粒子をSEMで観察したところ、平均微粒子径が約25nmの一次粒子からなる多孔質微粒子であることがわかった。また、得られた多孔質微粒子の細孔径をマイクロメリティックス高速比表面積/細孔分布測定装置アサップ2000で調べたところ、細孔径の中心値は約40nmで粉砕後の多孔質微粒子の平均粒径をレーザー回折式粒度分布測定装置にて測定したところ約20μmであった。
【0025】
2.多孔質の構造物を作製する工程
上記多孔質微粒子を150℃で一晩乾燥した後、上述した構造物形成装置10に準ずる構造物形成装置を用い、ガスとしてHeを使用して多孔質微粒子をエアロゾルとし、流量を5L/minにて酸化インジウム−酸化スズ薄膜の透明導電膜付きガラス基板に向けてノズルより噴射させて衝突させ、透明導電膜上に室温で酸化チタンの多孔質の構造物を形成した。このとき基板とノズルから噴射するエアロゾルの角度を60°とした。構造物の厚みは12μmであった。形成された構造物を基板と一緒にエタノール溶液につけ、超音波洗浄機(高周波出力80W)で5分間超音波を照射したところ、特に構造物の崩壊などの変化は見られず、明らかに圧粉体ではないことがわかった。また、この膜はSEM観察から、表面にクラックが無い事、粒子径が約25nmである一次粒子からなる多孔質体であることがわかった。図2にこの多孔質構造物のSEMによる表面観察像を示す。
【0026】
(実施例2)
・多孔質微粒子を準備する工程
酸化チタン粉末(平均1次粒子径:25nm)を水、バインダー(PEG:分子量20000)と分散剤(アセチルアセトン)を重量比でTiO:水:バインダー:分散剤=40:40:8:1で混合し、室温で乾燥固化後、650℃で30分焼成した。その後、乳鉢にて粉砕し、25μmのメッシュを通した。粉砕後の粒子をSEMで観察したところ、平均微粒子径が約25nmの一次粒子からなる多孔質微粒子であることがわかった。また、得られた多孔質微粒子の細孔径をマイクロメリティックス高速比表面積/細孔分布測定装置アサップ2000で調べたところ、細孔径の中心値は約40nmで粉砕後の多孔質微粒子の平均粒径をレーザー回折式粒度分布測定装置にて測定したところ約20μmであった。
【0027】
2.多孔質の構造物を作製する工程
上記多孔質微粒子を150℃で1晩乾燥した後、上述した構造物形成装置10に準ずる構造物形成装置を用い、ガスとしてHeを使用して多孔質微粒子をエアロゾルとし、流量を5L/minにてフッ素をドープした酸化スズ薄膜の透明導電膜付きPETフィルムに向けてノズルより噴射させて衝突させ、透明導電膜上に室温で酸化チタンの多孔質の構造物を形成した。このとき基板とエアロゾルの衝突角度を60°とした。形成された構造物を基板と一緒にエタノール溶液につけ、超音波洗浄機(高周波出力80W)で5分間超音波を照射したところ、特に構造物の崩壊などの変化は見られず、明らかに圧粉体ではないことがわかった。また、この膜はSEM観察から、表面にクラックが無いこと、粒子径が約25nmである一次粒子からなる多孔質体であることがわかった。
【0028】
(実施例3)
・多孔質微粒子を準備する工程
酸化チタン粉末(平均1次粒子径:25nm)を水、バインダー(PEG:分子量20000)と分散剤(アセチルアセトン)を重量比でTiO:水:バインダー:分散剤=40:40:8:1で混合し、室温で乾燥固化後、650℃で30分焼成した。その後、乳鉢にて粉砕し、25μmのメッシュを通した。粉砕後の粒子をSEMで観察したところ、平均微粒子径が約25nmの一次粒子からなる多孔質微粒子である事がわかった。また、得られた多孔質微粒子の細孔径をマイクロメリティックス高速比表面積/細孔分布測定装置アサップ2000で調べたところ、細孔径の中心値は約40nmで粉砕後の多孔質微粒子の平均粒径をレーザー回折式粒度分布測定装置にて測定したところ約20μmであった。
【0029】
2.多孔質の構造物を作製する工程
上記多孔質微粒子を150℃で一晩乾燥した後、上述した構造物形成装置10に準ずる構造物形成装置を用い、ガスとしてHeを使用して多孔質微粒子をエアロゾルとし、流量を5L/minにて酸化インジウム−酸化スズ薄膜の透明導電膜付きPETフィルムに向けてノズルより噴射させて衝突させ、透明導電膜上に室温で酸化チタンの多孔質の構造物を形成した。このとき基板とエアロゾルの衝突角度を60°とした。形成された構造物を基板と一緒にエタノール溶液につけ、超音波洗浄機(高周波出力80W)で5分間超音波を照射したところ、特に構造物の崩壊などの変化は見られず、明らかに圧粉体ではないことがわかった。また、この膜はSEM観察から、表面にクラックが無い事、粒子径が約25nmである一次粒子からなる多孔質体であることがわかった。
【0030】
(比較例1)
酸化チタン微粒子(平均1次粒子径:25nm)を150℃で一晩乾燥した後、上述した構造物形成装置10に準ずる構造物形成装置を用い、ガスとしてHeを使用してこの微粒子をエアロゾルとし、流量を6L/minにてフッ素をドープした酸化スズ薄膜の透明導電膜付きガラス基板に向けて噴射角度を直角、60°としてノズルより噴射させて衝突させたところ、基板上に微粒子からなる圧粉体が厚く堆積するのみであった。得られた堆積物を基板と一緒にエタノール溶液につけ、超音波洗浄機(高周波出力80W)で5分間超音波を照射したところ、基板より剥がれ落ちたため、十分な強度を持つ多孔質構造物が形成されていないことがわかった。
【0031】
(実施例4)
所望の細孔径を持つ多孔質構造物を得る場合には、多孔質微粒子の作製工程が重要である。これは超微粒子同士がある程度強固な結合を持った多孔質微粒子を準備することにより構造物そのものができるか否かに影響を与えること、また多孔質微粒子の細孔径をデザインすることが多孔質構造物の細孔径へ反映されることが考えられるからである。ここでは多孔質微粒子の作製工程による多孔質微粒子の細孔径の変化について説明する。
【0032】
微粒子には前述の酸化チタン微粒子(平均一次粒子径(平均微粒子径):25nm)を用い、以下のA、B、Cの3種類の工程にて多孔質微粒子の作製を試みた。
A:酸化チタン微粒子をそのまま550℃にて加熱する工程。
B:酸化チタン微粒子にイオン交換水および分散剤(アセチルアセトン:和光純薬製)を40:40:1の重量比にて混合して分散させた後、室温で乾燥を行い、550℃にて加熱する工程。
C:酸化チタン微粒子にイオン交換水と分散剤(アセチルアセトン:和光純薬製)およびバインダー(ポリエチレングリコール分子量20000:和光純薬製)を40:40:1:4の重量比にて混合して分散させた後、室温にて乾燥を行い、その後550℃で加熱する工程。
【0033】
何れも加熱後はある程度強度を持った凝集体あるいは多孔質の構造物となっており、これをある程度解砕してある粒度の多孔質微粒子に調製して、マイクロメリティックス高速比表面積/細孔分布測定装置アサップ2000にて細孔径とその細孔体積について測定を行った。この結果を図3に示す。図中のA、B、Cについては前述の通りであり、Dは酸化チタン微粒子を加熱する前の多孔質ではない超微粒子の粉体を示している。横軸は多孔質微粒子細孔径あるいは粉体の粒子同士の隙間の大きさを示しており、縦軸はその細孔径における細孔体積量を示している。
【0034】
この結果から、単に超微粒子を加熱したのみでは細孔分布はもともとの粉体のそれと同程度であり、超微粒子に分散処理などを施して粒子同士が密に充填した状態にしたのち加熱することにより、細孔径分布をシャープに揃えることが可能になるということがわかる。
ここで酸化チタン微粒子の平均微粒子径25nmの値の3倍として多孔質微粒子の細孔径75nmという値に注目し、この多孔質微粒子の全細孔体積に占める、細孔径75nm以上の細孔体積の割合を測定したところ、Aにおいて、7.3%、Dにおいて6.7%であり、B、Cでは観測されず、無いに等しい結果となった。細孔径分布が小さくシャープであるほど多孔質微粒子そのものの強度も大きいと考えられる。B、Cの多孔質粒子が多孔質構造物の作製には好適である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】エアロゾルデポジション法を利用した構造物形成装置の模式図
【図2】多孔質構造物のSEM写真
【図3】多孔質微粒子細孔径と細孔体積量との関係を示すグラフ
【符号の説明】
【0036】
10…構造物形成装置、101…窒素ガスボンベ、102…ガス搬送管、103…エアロゾル発生器、104…エアロゾル搬送管、105…形成室、106…ノズル、107…XYステージ、108…基板、109…真空ポンプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脆性材料超微粒子同士が一部結合しかつ連続気孔が存在する平均粒径が0.1〜50μmの多孔質微粒子を、ガス中に分散させてエアロゾルとし、このエアロゾルを基材に向けて吹き付けて前記多孔質微粒子を衝突させて、前記基材上に前記多孔質微粒子同士が結合して堆積した多孔質構造物を形成させることを特徴とする基材と多孔質構造物からなる多孔質複合構造物の作製方法。
【請求項2】
請求項1に記載の多孔質複合構造物の作製方法において、前記脆性材料多孔質微粒子は、平均微粒子径が0.1μm未満の脆性材料超微粒子を焼成して形成したことを特徴とする多孔質複合構造物の作製方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の多孔質複合構造物の作製方法において、前記多孔質構造物の形成が常温環境で行われることを特徴とする多孔質複合構造物の作製方法。
【請求項4】
請求項1乃至3に記載の多孔質複合構造物の作製方法において、前記基板における前記エアロゾルが衝突する面に、前記エアロゾルを斜めに吹き付けることを特徴とする多孔質複合構造物の作製方法。
【請求項5】
微粒子を基材に向けて吹き付けて衝突させ基材と多孔質の構造物からなる多孔質複合構造物を形成する方法において使用される原材料微粒子であって、その平均微粒子径が0.1μm未満の脆性材料超微粒子が集合してその接点で結合した、平均粒径が0.1〜50μmで、内部に連続気孔を有する多孔質微粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−68258(P2008−68258A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−296462(P2007−296462)
【出願日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【分割の表示】特願2002−190835(P2002−190835)の分割
【原出願日】平成14年6月28日(2002.6.28)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】