説明

多孔質複層中空糸、中空糸膜モジュールおよび濾過装置

【課題】大量の原水の処理を迅速に行えるように、透過流束を高めると共に耐久性に優れた多孔質複層中空糸を提供する。
【解決手段】多孔質チューブからなる濾過層2と、該濾過層の外周に巻き付けて一体化する多孔質シートからなる補強層3とを備え、濾過層2を構成する多孔質チューブの肉厚を100〜800μmとすると共に空孔の大きさは1μm以上とする一方、前記補強層の空孔の大きさは前記濾過層の空孔の大きさ以上としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多孔質複層中空糸、該中空糸からなる中空糸膜モジュール、該中空糸膜モジュールを備えた濾過装置に関し、環境保全分野、医薬・食品分野等の固液分離処理を行う中空糸膜モジュールとして水処理に使用され、特に、バラスト水等の大量の原水を迅速に浄化処理できるようにするものである。
【背景技術】
【0002】
この種の中空糸として、本出願人は、特開2004−141753号公報(特許文献1)において、多孔質複層中空糸を提供している。
該特許文献1の多孔質複層中空糸は、外周面側から内周面側に向けて固液分離処理を行う外圧濾過用であり、肉厚1mm〜10mm程度の多孔質チューブからなる支持層と、該支持層の外周面に肉厚5〜100μmの比較的薄い多孔質シートを巻き付けて一体化した濾過層を備えた複層とし、表面側の濾過層の空孔は内部の支持層の空孔より小さくしている。
【0003】
前記多孔質複層中空糸では、外層を薄い濾過層とし、内層を厚くした支持層とし、外層の濾過層の空孔は捕捉する粒子の粒径に応じて規定し、濾過層の表面で粒子を捕捉している。支持層の空孔は濾過層を透過した透過液の流速を高めるために、濾過層の空孔より大きくしている。
該構成の多孔質複層中空糸では、濾過層の表面で粒子を捕捉し、濾過層および支持層の空孔内への粒子の流入を阻止することにより目詰まりの発生を低減することができ、濾過層の表面で0.1μm程度の粒子まで捕捉でき、透過流束を低下させることなく精密濾過が行えるものである。
【0004】
このように、特許文献1の多孔質複層中空糸は0.1μmの粒子を捕捉できる精密濾過が行えると共に空孔内部の目詰まりを低減できる利点があるが、表面の濾過層は0.1μmの粒子を捕捉するために空孔を微小としているため、濾過層を透過する流速の超高速化を容易に行えず、この点で改良の余地がある。
処理する原水によっては、0.1μmの粒子を捕捉する精密濾過は要求されず、10μm程度の粒子を捕捉すれば良いが、透過流束を上げて大量の原水を迅速に処理しなければならない場合もある。
【0005】
例えば、オイルタンカー等の船舶に大量に貯留されるバラスト水の浄化処理では、出港から入港までの航海中に洋上で、バラスト水を処理水に交換処理しなければならない。 バラスト水タンクの容量が1500トン〜5000トンと大型のタンカーでは、大量のバラスト水を浄化処理するために、膜透過流束を高めることが必須となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−141753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記問題に鑑みてなされたもので、中空糸膜の透過流束を高めて、大量の原水の処理が短時間で出来るようにし、かつ、連続的に使用しても破断や損傷が発生しない耐久性を保持できる中空糸とすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は、多孔質チューブからなる濾過層と、該濾過層の外周に巻き付けて一体化する多孔質シートからなる補強層とを備え、
前記濾過層を構成する多孔質チューブの肉厚を100〜800μmとすると共に空孔の大きさは1μm以上とする一方、前記補強層の空孔の大きさは前記濾過層の空孔の大きさ以上としていることを特徴とする多孔質複層中空糸を提供している。
【0009】
即ち、特許文献1では多孔質チューブの外周に巻き付ける多孔質シートを濾過層とし、多孔質チューブは濾過層を支持補強する支持層としているが、本発明では多孔質チューブを濾過層とし、該多孔質チューブの表面の多孔質シートを補強層とし、特許文献1の多孔質複層中空糸の多孔質チューブと多孔質シートの機能を逆としている。
【0010】
本発明の多孔質複層中空糸では、濾過層とする多孔質チューブの肉厚は前記のように100〜800μmとして、特許文献1の肉厚約1000μmの多孔質チューブと比較して薄い肉厚としている。かつ、該濾過層に設ける空孔の平均空孔径は1μm以上として、捕捉粒径を大きくしている。
このように、濾過層の空孔を大きくすると共に肉厚を薄くし、かつ、表面の補強層の空孔は濾過層の空孔以上としているため、膜透過液の流速を高速化できる。
また、多孔質チューブからなる濾過層の肉厚を薄くしているため、表面側に多孔質シートを巻き付けて多孔質チューブを補強し、中空糸全体の強度および耐久性を高めている。これにより、長期間連続可動しても破断や損傷が発生せず、耐久性を保持できる。
【0011】
前記濾過層を構成する多孔質チューブの肉厚は、前記のように100〜800μmとしているが、下限は強度を確保する上で200μm以上が好ましく、上限は透過流束を高速化するために500μm以下とすることが好ましい。
また、該多孔質チューブは内径を0.3mm〜10mmとすることが好ましい。
さらに、該濾過層に設ける平均空孔径は1μm以上としているが、バラスト水の処理用として用いる場合は2μm〜10μmとすることが好ましい。
バラスト水では、海水中に浮遊する生物は細菌等を除いてほぼ10μm以上であり、よって、細菌を除いて海水中に浮遊する生物および無機粒子を捕捉でき、捕捉されなかった10μm以下の細菌は透過液を殺菌処理すればよい。
また、前記濾過層の空孔率は50%〜80%、好ましくは70%以上としている。
【0012】
一方、表面側の補強層とする多孔質シートの厚さは、濾過層の多孔質チューブを補強できる厚さであれば限定されないが、中空糸膜の全体外径を小さくするために、多孔質シートの肉厚は10μm〜100μm程度が好ましい。
また、該補強層の平均空孔径は濾過層の平均空孔径以上としており、濾過層の平均空孔径が1μm以上であるため、補強層の平均空孔径は2μm以上とすることが好ましい。なお、補強層の平均空孔径は濾過層の平均空孔径と同一としても濾過層の透過流束を低下させないため、同一としてもよい。好ましくは、2μm以上10μm以下である。
該補強層の空孔率は50〜90%と、厚さが薄い場合は空孔率を低くして補強機能を損なわないように、厚い場合には空孔率を大きくしている。
【0013】
前記濾過層を構成する多孔質チューブは多孔質延伸PTFE製のチューブとし、補強層を構成する多孔質シートは多孔質延伸PTFE製のシートとすることが好ましい。該多孔質延伸PTFE(四フッ化エチレン樹脂)は、強度、剛性、耐久性、耐薬品性、耐熱性、耐候性、不燃性等、非粘着性、低摩擦係数等の特性を備えているため、広範囲な水処理に好適に用いることができる。特に、強度および耐久性に優れるため、大量の原水を連続的に長時間処理する場合にPTFE製の中空糸を好適に用いることができる。
【0014】
このように、強度を有する多孔質延伸PTFEチューブと多孔質延伸PTFEシートとを用いることにより、前記のように、濾過層の肉厚を薄くし、空孔径を大きくし、かつ、空孔率を大きくした場合においても、耐圧力を0.20MPa以上を有するものとしている。
【0015】
なお、濾過層を構成する多孔質チューブおよび補強層を構成する多孔質シートは、PTFE、PE、PP等のポリオレフィン系樹脂、ポリイミド、ポリ弗化ビニリデン系樹脂から選択される樹脂より形成してもよいが、前記PTFEが最も好適に用いられる。
【0016】
具体的には、濾過層を構成する多孔質延伸PTFEチューブを押し出し成形した後に、前記補強層を構成する多孔質延伸PTFEシートを密着させて巻き付けて、複層化している。
前記濾過層とする多孔質延伸PTFEチューブは軸方向や周方向、径方向等に延伸している。押出成形チューブの場合、軸方向には50%〜700%、周方向には5%〜100%で延伸することが好ましい。
一方、多孔質延伸PTFEシートは、延伸により、長手方向には50%〜1000%、横方向には50%〜2500%とすることが好ましい。この多孔質延伸PTFEシートを用いると、横方向の延伸が容易であるため、チューブ状に巻きつけたときに、周方向の強度を向上することができ、散気等による膜の揺れや逆洗浄による圧力負荷に対する耐久性を向上することができる。
【0017】
さらに、多孔質延伸PTFE製のチューブからなる濾過層と補強層とする多孔質延伸PTFEシートは一体化され、互いの空孔が三次元的に連通するため、良好な透過性を得ることができる。
補強層とする多孔質延伸PTFEシートは、濾過層とする多孔質延伸PTFEチューブの外周面全面を覆うように巻着している。該多孔質延伸PTFEシートは1枚でもよいし、複数枚のシートを用いてもよい。
【0018】
前記多孔質延伸PTFEチューブに多孔質延伸PTFEシートを巻き付けて一体化する具体的方法は、多孔質延伸PTFEチューブの外周面上に凹凸を付与した後に、多孔質延伸PTFEシートを巻き付け、該巻き付けと同時あるいは巻き付け後に荷重をかけて上記多孔質延伸PTFEチューブと上記多孔質延伸PTFEシートとを密着させ、上記多孔質延伸PTFEチューブと上記多孔質延伸PTFEシートとを焼結一体化して製造することが好ましい。
【0019】
このように、多孔質延伸PTFEチューブの外周面上に微細な凹凸を付与することで、多孔質延伸PTFEチューブと多孔質延伸PTFEシートとの位置ずれを防止できると共に、シート巻き付け時あるいは巻き付け後に荷重をかけているため、シートの浮きを防止することができるため、両者の密着性を高めることができる。
また、多孔質延伸PTFEチューブと多孔質延伸PTFEシートとは、焼結したものでも良いし、未焼結のものでも良い。各々を完全に焼結させていない場合は、より強固に一体化することができる。良好な密着状態で、部分的に焼結とした両者を一体化して焼結すると良好な密着状態を得ることができる。
前記方法で製造することにより、内外圧、屈曲等に対する十分な耐久性を付与することができる。
また、前記多孔質延伸PTFEチューブ及び多孔質延伸PTFEシートの融点以上の温度で焼結することにより、両者をより強固に融着一体化することができる。
【0020】
前記多孔質延伸PTFEチューブの外周面の微細な凹凸は、火炎処理により施されていることが好ましい。これにより、チューブの性能に影響を及ぼすことなく良好な凹凸状態を得ることができる。その他、レーザー照射やプラズマ照射、PFA,FEP等のフッ素樹脂系ディスパージョンの塗布等の物理的手段、化学的手段を施すことで、密着性を高めても良い。微細な凹凸は多孔質延伸PTFEチューブの外周面全面に施されていることが好ましいが、部分的、断続的に施されていても良く、20〜200μm程度が良い。
【0021】
前記多孔質延伸PTFEシートの巻き付けと同時あるいは巻き付け後に荷重をかける方法としては、シートを巻き付け後、チューブ全体をダイスに通す方法が挙げられ、多孔質延伸PTFEチューブと多孔質延伸PTFEシートとがずれたり破損しないように、均一に適度な荷重をかけることができれば良い。
【0022】
また、本発明は、前記多孔質複層中空糸を複数本束ねた集束体を用いてなり、外圧濾過用あるいは浸漬型外圧吸引濾過用として用いられる中空糸膜モジュールを提供している。
前記中空糸膜モジュールを原水(処理水)が供給される濾過装置の槽中に複数個浸漬配置し、中空糸の多孔質膜を通して、濾過された中空糸内の膜透過液を中空糸膜モジュールに接続した集水管に介設したポンプで吸引して取り出している。また、濾過槽中に散気管を配置し、中空糸膜モジュールの密集した中空糸間および中空糸膜モジュールの外周にバブリングして中空糸の表面に付着する捕捉粒子の付着を抑制している。
【0023】
さらに、本発明は、前記中空糸膜モジュールを用いた濾過装置を提供している。
該濾過装置はバラスト水処理装置として好適に用いられる。
前記中空糸膜モジュールを構成する前記多孔質複層中空糸は濾過層の平均空孔径を2μm以上10μm以下とし、10μm以上の海水中に浮遊する生物および無機粒子を捕捉できるものとし、該濾過装置の下流に電解装置と配管を介して接続し、濾過されずに残存した10μm未満の生物や細菌は前記電解装置へ送給して電解処理して殺菌することが好ましい。
【0024】
なお、前記バラスト水処理装置に限定されず、濾過一般に適用することができ、特に濁度の濃い排水処理に有効である。また、油水分離用としても用いられ、特に、油田随伴水の処理用として用いる場合、大量の油田随伴水の処理が必要であるため好適である。
かつ、生物膜処理と組み合わせた膜分離活性汚泥処理装置にも好適に用いられる。
【発明の効果】
【0025】
前述したように、本発明の多孔質複層中空糸は、肉厚を薄くした多孔質チューブからなる濾過層の表面に多孔質シートからなる補強層を設けて濾過層を補強し、かつ、濾過層の空孔の平均空孔径を1μm以上、好ましくは2μm以上10μm以下としているため、大量の原水を超高速で透過させることができる。かつ、濾過層の肉厚を薄くしているが、表面に補強層を設けているため、中空糸の破断や損傷の発生を抑制・防止でき、長時間連続稼働に耐え得る耐久性を有するものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の多孔質複層中空糸の斜視図であり、(A)は部分拡大図、(B)は全体図である。
【図2】前記多孔質複層中空糸の拡大断面図である。
【図3】前記多孔質複層中空糸を集束して形成した中空糸膜モジュールの断面図である。
【図4】前記中空糸膜モジュールを備えた濾過装置を備えたバラスト水処理システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1および図2に本発明の第一実施形態の多孔質複層中空糸を示す。
【0028】
多孔質複層中空糸1は、円筒状の多孔質延伸PTFEチューブからなる濾過層2と、該濾過層2の外周面に密着して巻き付けた多孔質延伸PTFEシートからなる補強層3とを一体化した2層構造である。該多孔質複層中空糸1は補強層3から濾過層2に向けて
原水を透過させて固液分離処理を行うものである。
【0029】
濾過層2び補強層3の両方を延伸PTFEからなる多孔質体としているため、いずれも柔軟な繊維が三次元網目状に連結された微細な繊維状組織を備え、繊維状骨格に囲まれた多数の空孔2aと3aが存在し、補強層3の空孔3aと濾過層2の空孔2aとは三次元的に連通している。
【0030】
前記多孔質延伸PTFEチューブからなる濾過層2の肉厚は200〜500μmとし、内径は1mm〜10mmとしている。
一方、多孔質延伸PTFEシートからなる補強層3の肉厚は10〜100μmとしている。なお、補強層3は隙間を発生させないため、巻き付け時に接合部分を重ねているため、重なり部分では20〜200μmの厚さとなる。なお、ハーフラップ巻きとすると、補強層3の厚さは多孔質延伸PTFEシートの厚さの2倍の厚さとなる。
【0031】
前記濾過層2の空孔2aは平均空孔径を1〜10μmとし、補強層3の空孔3aの平均空孔径は2〜20μmとしている。
また、濾過層2における空孔2aの占有率(気孔率)は70〜80%とし、補強層3における空孔3aの気孔率も70〜80%としている。
【0032】
前記多孔質延伸PTFEチューブからなる濾過層2と、多孔質延伸PTFEシートからなる補強層3とを複層化した多孔質複層中空糸1は耐圧力を0.2MPa以上0.6MPa以下としている。かつ、最大濾過流束を1.0m3/mh以上としている。
【0033】
前記多孔質複層中空糸の製造方法について詳述する。
まず、押出成形により得られた多孔質延伸PTFEチューブを準備する。この多孔質延伸PTFEチューブの外周面を完全に焼成せず、所定の延伸倍率にて延伸する。
次に、延伸した多孔質延伸PTFEチューブの外周面の全面に渡って、例えば、プロパンガス1.2L/min、空気11L/min、スピード1.7m/分の条件で、火炎処理をほどこし、外周面の全面に均等に100μm程度の微細な凹凸を付与する。
一方、多孔質延伸PTFEシートを準備する。多孔質延伸PTFEシートも完全に焼結させずに、所定の延伸倍率で延伸する。多孔質延伸PTFEシートは、例えば、幅10mm、厚み30μmとし、細長い長方形状とする。
【0034】
その後、未焼結の多孔質延伸PTFEシートを、多孔質延伸PTFEチューブの外周面上に螺旋状に重ね合わせながら巻き付ける。その際、多孔質延伸PTFEシートが、多孔質延伸PTFEチューブの外周面の全面を漏れなく覆うように巻着する。
前記多孔質延伸PTFEシートを巻き付け後に、多孔質延伸PTFEチューブと多孔質延伸PTFEシートとの積層体をダイスに通す。該積層体の全周面に均一に、多孔質延伸PTFEチューブの径方向に、例えば0.5kgf程度の荷重をかけ、多孔質延伸PTFEチューブと多孔質延伸PTFEシートとを密着させる。
このように密着した状態で、多孔質延伸PTFEチューブ及び多孔質延伸PTFEシートの融点(PTFEの融点は約327℃)以上の温度である350℃で20分間焼結し、両者を融着一体化する。
【0035】
前記方法で製造すると、多孔質延伸PTFEチューブの外周面に微細な凹凸を施しているため、多孔質延伸PTFEチューブと多孔質延伸PTFEシートとの位置ずれが生じない上に、荷重をかけて密着させているため、多孔質延伸PTFEシートの浮きを防止することができ、良好な密着状態で両者を一体化することができる。
【0036】
なお、多孔質延伸PTFEチューブは、例えば、PTFEファインパウダーにナフサ等の液状潤滑剤をブレンドし、押出成形等によりチューブ状とした後に、液状潤滑剤を除去せずに、あるいは乾燥除去後に、少なくとも1軸方向に延伸する。熱収縮防止状態で焼結温度の約327℃以上に加熱することにより、延伸した構造を焼結固定すると、強度が向上した平均空孔径が1〜10μm程度の多孔質延伸PTFEチューブを得ることができる。多孔質延伸PTFEチューブと多孔質延伸PTFEシートとは焼結させたものを用いても良い。
【0037】
前記多孔質延伸PTFEチューブおよび多孔質延伸PTFEシートを形成するPTFEファインパウダーは、数平均分子量が50万以上、好ましくは200万〜2000万のものが良い。
前記延伸については、シート状あるいはチューブ状の多孔質体を、通常の方法で機械的に引き伸ばして行うことができる。例えば、シートの場合、1つのロールから他のロールへと巻き取る際に、巻き取り速度を送り速度より大きくしたり、あるいはシートの相対する2辺を掴んでその間隔を広げるように引き伸ばす等により延伸することができる。チューブの場合、その長さ方向(軸方向)に引き伸ばすのが容易である。その他、多段延伸、逐次2軸延伸、同時2軸延伸等の各種延伸法により延伸することができる。延伸温度は、通常、焼結体の融点以下の温度(0℃〜300℃程度)で行われる。比較的空孔の孔径が大きく空孔率の高い多孔質体を得るには低温での延伸が良く、比較的空孔の孔径が小さく緻密な多孔質体を得るには高温での延伸が良い。延伸した多孔質体は、そのままで使用しても良いし、高い寸法安定性が要求される場合、延伸した両端を固定等することで延伸した状態を緊張下に保って200℃〜300℃の温度で1〜30分程度熱処理しても良い。また、ファインパウダーの融点以上の温度、例えば350℃から550℃程度に保った加熱炉中で、数10秒から数分程度保持し焼結することにより、さらに寸法安定性を高めることもできる。上記のような延伸温度や、PTFEの結晶化度、延伸倍率等の条件を組み合わせることにより、上記空孔の最大長さ等を調整することができる。
【0038】
前記実施形態では、2枚の多孔質延伸PTFEシートを用いて略半周ずつ巻着しているが、前記シートの枚数は1枚でも良いし、2枚以上でも良い。また、多孔質延伸PTFEシートは多孔質延伸PTFEチューブの外周を略1回巻きあるいは2回巻等としても良い。
【0039】
また、多孔質延伸PTFEシートは多孔質延伸PTFEチューブの軸方向に1軸延伸したものを用いると、前記チューブの外周面に巻つけやすくなる。なお、多孔質延伸PTFEシートの形状も巻き付け状況に応じて設定することができ、多孔質延伸PTFEチューブの軸方向に対してスパイラル状に巻着しても良い。また、本実施形態では、多孔質延伸PTFEシートを巻き付け後に荷重をかけているが、該シートに張力をかけて巻き付けと同時に荷重をかけても良い。
【0040】
前記のように、本発明の多孔質複層中空糸1は、薄肉の多孔質延伸PTFEチューブからなる濾過層2の外周に、多孔質延伸PTFEシートからなる補強層3を巻き付けて設けた複層とし、薄肉として膜透過流束を高めて濾過層2を外周の補強層3で補強している。
該多孔質複層中空糸1は、濾過層2の空孔2aの平均空孔径を1〜10μmとしているため、膜透過流束を高速化でき、前記のように、最大濾過流束を1.0m3/mh以上とすることができる。
【0041】
「実施例」
実施例1、2と比較例1、2とを以下の表1に示すように作成し、海水からなる原水を透過させた。
【0042】
【表1】

【0043】
実施例1、2は濾過層2の空孔2aの平均空孔径を2μmとし、補強層3の空孔3aの平均空孔径も2μmとした。実施例1は濾過層2に肉厚を600μm、実施例2では400μmとした。補強層3の厚さは実施例1、2とも50μmとした。
一方、比較例1は濾過層のみとし、該濾過層の肉厚および空孔径は実施例1と同一とした。比較例2は前記特許文献1の構成とし、多孔質延伸PTFEチューブを支持層とし、表面の多孔質延伸PTFEシートを濾過層とした。多孔質延伸PTFEチューブの肉厚および空孔径は実施例1と同一とし、多孔質延伸PTFEシートの肉厚は30μm、平均空孔径は0.2μmとした。
【0044】
表1に示すように、実施例1と実施例2とを比較すると、濾過層の肉厚を薄くした実施例2の最大透過流束が実施例2よりも高く、濾過層の肉厚を薄くすると透過流束を高めることができることを確認できた。
一方、従来の特許文献1に相当する比較例2の最大透過流束は実施例1、2の半分以下であり、大量の原水を処理する場合に適さないことが確認できた。
また、比較例1の補強層を設けていない場合は、耐圧力が実施例1の半分、実施例2の60%であり、補強層を設けることにより、中空糸の耐圧力を高めることができることが確認できた。
また、プランクトン除去に関しては、比較例2の表面濾過層の空孔径を0.2μmとした場合と、実施例1、2の濾過層の空孔径を2μmとした場合とは同等であった。これにより、濾過層の空孔径を比較例2の10倍の大きさとしてもプランクトンの除去率が低下しないことが確認できた。
【0045】
図3に第二実施形態を示す。
前記多孔質複層中空糸1を複数本束ねた集束体を用いてなる第二実施形態は、前記多孔質複層中空糸1を複数本束ねた集束体を用いてなる中空糸膜モジュール10である。
【0046】
前記中空糸膜モジュール10は、外圧濾過用として用いられるものであり、多孔質複層中空糸1を複数本束ねて集束体11を備え、該集束体11を外筒12内に収納している。集束体11は両端11A、11Bの間隙を封止用樹脂13により封止している。また、集束体11の両端11A、11Bと外筒12との間隙も同様に封止用樹脂13により封止している。各多孔質複層中空糸1の両端は開口し、集水管(図示せず)に接続している。
【0047】
固液分離処理される原液は、図中矢印に示すように、外筒12の側面から供給され、多孔質複層中空糸1により膜濾過される。粒子が除去された透過液は多孔質複層中空糸1の中空部を上端11A側及び下端11B側に向かって集水管へと導出される。
【0048】
前記中空糸膜モジュール10により膜濾過すると、複数の本発明の多孔質複層中空糸1を備えているため、非常に高速で膜濾過することができる。
【0049】
図4に第三実施形態を示す。
第三実施形態は中空糸膜モジュール20をバラスト水が供給される濾過層に浸漬したバラスト水処理用の濾過装置30としたものである。
濾過装置30はオイルタンカー等の大型船舶に搭載し、積載したバラスト水に含まれる海性生物等の固形物からなる被除去物の除去処理を航行中に洋上で行うものである。
大型船舶は船底側に複数のバラスト水タンクを備え、バラスト水の総量は、例えば、1500〜100000トン程度である。航海中にバラスト水を処理する際には前記複数のバラスト水タンク21に貯留されたバラスト水を濾過装置30へ送給して、処理水と交換した後に、空きとなったバラスト水タンクに再貯留し、バラスト水を全て処理してバラスト水タンク21に戻して貯留している。
【0050】
前記バラスト水の濾過装置30は、濾過槽31内に複数の中空糸膜モジュール20を吊下してバラスト水中に浸漬している。
該中空糸膜モジュール20に用いる多孔質複層中空糸1は上端は第二実施形態と同様に封止材で固定する一方、下端を2つ折りして、該折り曲げ部を保持枠20aで保持し、多孔質複層中空糸1を揺動しやすくしている。該多孔質複層中空糸1の濾過層の空孔の平均空孔径は2μm以上10μm未満とし、補強層の空孔の平均空孔径は2μm〜10μmとし、濾過層2の肉厚は200μmとし、大量のバラスト水の透過流束を高めている。
【0051】
前記中空糸膜モジュール20の下方側に散水用の空気供給管33を配管し、該空気供給管33に散気用ブロア37から加圧空気を供給している。該空気供給管33に設けた気体噴射穴より空気を噴射し、バラスト水からなる原水Q中にバブリングを発生させ、中空糸1の表面又は膜間に堆積した固形物を剥離除去できるようにしている。
【0052】
前記中空糸膜モジュール20で膜濾過された透過液Q1は集水管34を通して電解装置35に供給している。電解装置35には電解槽内に陰極及び陽極となる白金電極を吊り下げて透過液Q1中に浸漬し、電気分解を行っている。これにより、中空糸膜モジュール20を透過した透過液Q1に含まれる10μm未満〜0.1μmの生物および細菌を殺菌処理している。
【0053】
また、前記電解装置35で電解処理した処理水Q3の一部を定期的に配管36を通して多孔質複層中空糸1内に供給し、前記電解水からなる処理水Q3を逆洗浄水として多孔質複層中空糸1の内周側から噴射している。
このように、電解水を逆圧洗浄で噴射することにより、多孔質複層中空糸1の濾過層および補強層の空孔内に付着する生物や粒子の捕捉物および補強層の表面に付着する捕捉物を分解除去、殺菌している。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の多孔質複層中空糸を用いた中空糸膜モジュールを備えた濾過装置は、バラスト水等の処理のみならず、製紙排水の処理、工場排水(半導体、鉄鋼、食品処理等)の処理、病院の排水処理等の固形物を多く含む工業排水の浄化装置、油田随伴水の油水分離装置として広く用いることができる。さらには、海水淡水化装置の脱塩工程の前処理装置としても有効である。
【符号の説明】
【0055】
1 多孔質複層中空糸
2 濾過層
3 補強層
2a、3a 空孔
10 中空糸膜モジュール
30 濾過装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質チューブからなる濾過層と、該濾過層の外周に巻き付けて一体化する多孔質シートからなる補強層とを備え、
前記濾過層を構成する多孔質チューブの肉厚を100〜800μmとすると共に空孔の大きさは1μm以上とする一方、前記補強層の空孔の大きさは前記濾過層の空孔の大きさ以上としていることを特徴とする多孔質複層中空糸。
【請求項2】
前記濾過層とする多孔質チューブの肉厚を200〜500μmとし、前記補強層とする多孔質シートの肉厚は10μm〜100μmとし、
前記濾過層および補強層の気孔率を50〜90%としている請求項1に記載の多孔質複層中空糸。
【請求項3】
前記濾過層を構成する多孔質チューブは多孔質延伸PTFE製のチューブとし、補強層を構成する多孔質シートは多孔質延伸PTFE製のシートとしている請求項1または請求項2に記載の多孔質複層中空糸。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の多孔質複層中空糸を集束した中空糸膜モジュール。
【請求項5】
請求項4に記載の中空糸膜モジュールを濾過槽に浸漬し、該濾過槽内には前記中空糸膜モジュールの下方に散水手段を設け、
前記多孔質複層中空糸の濾過層の空孔の平均空孔径を2μm以上としているバラスト水処理用の濾過装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−31122(P2011−31122A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−176974(P2009−176974)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】