説明

多孔質静圧気体軸受

【課題】軸受剛性及び負荷容量が大きく、自励振動の発生を効果的に抑制することのできる多孔質静圧気体軸受を提供すること。
【解決手段】多孔質静圧気体軸受20は、円盤状の裏金本体部21と、裏金本体部21の一方の円形の面22の外周縁に立設された円形の環状立壁部23と、環状立壁部23と同心状であって環状立壁部23に囲まれて裏金本体部21の一方の面22に立設された円形の環状突出部24とを一体的に備えたステンレス鋼からなる裏金25を具備しており、環状立壁部23の環状内壁面26に囲まれた円形の凹部27は、環状立壁部23の環状内壁面26及び環状突出部24の環状外壁面28に囲まれた円環状の外側凹部29と環状突出部24の環状内壁面30に囲まれた円形の内側凹部31とに二分されて当該外側凹部29と内側凹部31とを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質静圧気体軸受、とくに自励振動の発生を抑制した多孔質静圧気体軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特公平5−4527号公報
【特許文献2】特開平6−337014号公報
【0003】
静圧気体軸受は、その軸受面で支持する可動体との間に気体膜を形成して、この気体膜を介して可動体を可動に支持するものであるため、摩擦係数が極めて低いこと、高精度な運動形態が容易であること、軸受すきまに潤滑油及び給油を必要としなくクリーンであること、などの特長をもっている反面、圧縮気体の気体膜により可動体を支持するために負荷容量が比較的低いという欠点を有している。
【0004】
この種の静圧気体軸受において、剛性と負荷容量を向上させるために、図6及び図7に示すように、軸受パッド1の下面周部を環状の平坦部2に形成すると共に、平坦部2の内面を凹部(ポケット)3に形成し、さらに凹部3の中央部にオリフィス4を設けたものがある。しかし、この構造の静圧気体軸受は、凹部3の容量が大きいので、剛性は高められる反面、気体の圧縮性に起因する自励振動(ニューマチックハンマ)が発生し易くなるという問題がある(特許文献1の図3及び図4参照)。
【0005】
この自励振動の発生を抑制する手段として、図8及び図9に示すように、軸受パッド1の周部に平坦部2を形成すると共に、平坦部2の内部を凹部3に形成し、凹部3に梨子地状の微細な凸部5を多数密集して形成し、凹部3にオリフィス4を設けた構造の静圧気体軸受が提案されている(特許文献1参照)。この静圧気体軸受では、オリフィス4から供給された圧縮気体は各凸部5、5間の隙間を通って放射状方向に外周部に向かって流れ、気体圧力は中央部より外周部に向かってほぼ同心円状に徐々に低下して大気圧に至るために、圧力変化が急峻でなくなり、自励振動が発生しないというものである。
【0006】
また、自励振動の発生を抑制する他の手段として、図10に示すように、絞り(オリフィス)6を有する軸受部材7のスラスト軸受面8と軸受すきまhを介して対向する相手部材9のスラスト受け面10に窪み11を形成し、この窪み11に平板状の多孔質部材12を埋め込んだ構造の静圧気体軸受が提案されている(特許文献2参照)。この静圧気体軸受では、軸受すきまhに供給された圧縮気体の膨張収縮の挙動がその多孔質部材12自体が持つ通気抵抗や内部に存在する細孔の作用で自励振動を抑制するというものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した静圧気体軸受においては、いずれも圧縮気体をオリフィスを介して軸受すきまに供給するものであり、設計にあたっては、凹部(ポケット)の大きさ、オリフィスの形状及び寸法並びに軸受すきま等を十分検討しなくてはならず、煩雑さを伴うものである。
【0008】
本発明は前記諸点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、軸受剛性及び負荷容量が大きく、自励振動の発生を効果的に抑制することのできる多孔質静圧気体軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の多孔質静圧気体軸受は、裏金本体部と、該裏金本体部の一方の面の外周縁に立設された環状立壁部と、該環状立壁部に囲まれて裏金本体部の一方の面に立設された環状突出部とを備えた裏金を具備しており、該環状立壁部の環状内壁面に囲まれた凹部は、該環状立壁部の環状内壁面及び環状突出部の環状外壁面に囲まれた外側凹部と、環状突出部の環状内壁面に囲まれた内側凹部とを含んでおり、環状立壁部の環状内壁面と環状突出部の環状外壁面との間における該裏金本体部の一方の面には、少なくとも一つの環状凹溝が当該一方の面で外側凹部に開口して形成されており、該裏金本体部には、当該裏金本体部の外周面からその中央部に向けて伸びていると共に該環状凹溝に連通した流通孔が形成されており、該外側凹部及び内側凹部の夫々には、多孔質金属焼結層が少なくとも裏金本体部の一方の面に接合層を介して接合されて配されており、内側凹部に配された多孔質金属焼結層は、内側凹部において裏金本体部の一方の面からの圧縮気体の供給を受けないようになっている一方、該環状凹溝は、流通孔から外側凹部に配された多孔質金属焼結層への圧縮気体の供給通路となっていることを特徴とする。
【0010】
本発明の多孔質静圧気体軸受によれば、裏金本体部の一方の面からの圧縮気体の供給を受けない内側凹部に配された多孔質金属焼結層が軸受すきま(静圧気体軸受の軸受面と相手材との間)において気体膜を形成した圧縮気体に対してダンパのような減衰効果を果たすことにより、自励振動の発生が抑制される。具体的には、自励振動が生じようとするときに、軸受すきまに存在する圧縮気体が内側凹部に配された多孔質金属焼結層の露出表面の多数の微小開口を通じて当該多孔質金属焼結層の内部の多数の細孔に出入りし、この出入において内側凹部に配された当該多孔質金属焼結層の細孔で圧縮気体に対して流体粘性摩擦が生じることにより自励振動が抑制されることになる。
【0011】
好ましい例では、外側凹部に配された多孔質金属焼結層において支持すべき相手材に対面して露出する露出表面と内側凹部に配された多孔質金属焼結層において支持すべき相手材に対面して露出する露出表面との面積比率は、1:0.2〜0.5であり、面積比率が斯かる範囲の値であると、自励振動を好ましく抑制することができる。
【0012】
内側凹部及び外側凹部のうちの少なくとも一方に配された多孔質金属焼結層は、好ましい例では、4重量%以上10重量%以下の錫と、10重量%以上40重量%以下のニッケルと、0.1重量%以上0.5重量%未満の燐と、2重量%以上10重量%以下の無機物質粒子と、残部が銅からなる。
【0013】
この例の多孔質静圧気体軸受では、焼結過程において液相のNiPを発生する成分の燐成分が0.1重量%以上0.5重量%未満の含有量であるために、液相のNiPの発生量が少なくなり、焼結時に液相のNiPが流れ出すことがないために、裏金本体部の一方の面に形成された環状凹溝を塞ぐことがなく、多孔質金属焼結層を接合層に接合するのに必要な量の液相のNiPとなり、接合層を介する多孔質金属焼結層と裏金本体部の一方の面との接合力が高められ、しかも、液相のNiPの発生量が少ないことにより焼結後の冷却(放冷)時の多孔質金属焼結層の収縮量が少ないので、多孔質金属焼結層の収縮に起因する裏金本体部の一方の面と多孔質金属焼結層との接合層を介する接合面での多孔質金属焼結層の剥離を生じることがない。斯かる利点は、多孔質金属焼結層と環状立壁部の環状内壁面及び環状突出部の環状外壁面との接合並びに多孔質金属焼結層と環状突出部の環状内壁面との接合に対しても生じ得る。
【0014】
多孔質金属焼結層に分散含有される無機物質粒子は、好ましくは、黒鉛、窒化ホウ素、フッ化黒鉛、フッ化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化珪素及び炭化珪素のうちの少なくとも一つが選択されて使用される。
【0015】
多孔質金属焼結層に分散含有された斯かる無機物質粒子は、このもの自体が機械加工によって塑性変形することがなく、加えて多孔質金属焼結層の素地の金属部分の塑性変形を分断して軽減する働きにより、軸受面(露出表面)の形成のための切削加工又は研削加工等の機械加工における多孔質金属焼結層の細孔の露出表面に存在する開口の目詰まりを抑えることができる。
【0016】
外側凹部に配された多孔質金属焼結層は、裏金の一方の面に加えて、環状立壁部の環状内壁面及び環状突出部の環状外壁面に接合層を介して一体的に接合されているとよく、同じく、内側凹部に配された多孔質金属焼結層も、裏金の一方の面に加えて、環状突出部の環状内壁面に接合層を介して一体的に接合されているとよい。
【0017】
環状立壁部の頂面、環状突出部の頂面、外側凹部に配された多孔質金属焼結層の露出表面及び内側凹部に配された多孔質金属焼結層の露出表面は、好ましくは、互いに面一に配されるのであるが、斯かる前提において、内側凹部の深さは、外側凹部の深さと同一であっても、外側凹部の深さよりも例えば0.3mm程度若干大きくてもよく、より具体的には、内側凹部に配された多孔質金属焼結層は、外側凹部に配された多孔質金属焼結層の厚みと同一の厚みであっても、外側凹部に配された多孔質金属焼結層の厚みよりも例えば0.3mm程度若干大きな厚みであってよい。
【0018】
各接合層は、一つの例では、ニッケルメッキ層と該ニッケルメッキ層に接合された銅メッキ層との二層のメッキ層を含んでおり、斯かる例では、外側凹部におけるニッケルメッキ層は、外側凹部における裏金本体部の一方の面と環状立壁部の環状内壁面と環状突出部の環状外壁面とに接合されており、外側凹部に配された多孔質金属焼結層は、外側凹部におけるニッケルメッキ層に接合された銅メッキ層に接合されており、内側凹部におけるニッケルメッキ層は、内側凹部における裏金本体部の一方の面と環状突出部の環状内壁面とに接合されており、内側凹部に配された多孔質金属焼結層は、内側凹部におけるニッケルメッキ層に接合された銅メッキ層に接合されているとよい。本例の多孔質静圧気体軸受によれば、裏金と接合層とは強固な接合力をもって並びに裏金に接合された接合層と多孔質金属焼結層とは強固な接合力をもって夫々接合されることになる。
【0019】
本発明による多孔質静圧気体軸受は、スラスト軸受として用いられるのが好ましいが、これに限定されず、例えば、ラジアル軸受として用いられてもよく、スラスト軸受として用いられる場合には、裏金は、円盤状の形状を好ましい例として挙げることができ、ラジアル軸受として用いられる場合には、裏金は、円筒状の形状を好ましい例として挙げることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、軸受剛性及び負荷容量が大きく、自励振動の発生を抑制することのできる多孔質静圧気体軸受を提供し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、本発明の実施の形態の例を、図に示す好ましい例に基づいて更に詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例に何等限定されないのである。
【実施例】
【0022】
図1及び図2において、本例の多孔質静圧気体軸受20は、円盤状の裏金本体部21と、裏金本体部21の一方の円形の面22の外周縁に立設された円形の環状立壁部23と、環状立壁部23と同心状であって環状立壁部23に囲まれて裏金本体部21の一方の面22に立設された円形の環状突出部24とを一体的に備えたステンレス鋼からなる裏金25を具備しており、環状立壁部23の環状内壁面26に囲まれた円形の凹部27は、環状立壁部23の環状内壁面26及び環状突出部24の環状外壁面28に囲まれた円環状の外側凹部29と環状突出部24の環状内壁面30に囲まれた円形の内側凹部31とに二分されて当該外側凹部29と内側凹部31とを含んでいる。
【0023】
環状立壁部23の環状内壁面26と環状突出部24の環状外壁面28との間における裏金本体部21の一方の面22には、少なくとも一つ、本例では一つの円形の環状凹溝35が環状立壁部23と同心状であって当該一方の面22で外側凹部29に開口して形成されており、裏金本体部21には、当該裏金本体部21の円筒状の外周面36で開口すると共に当該外周面36から裏金本体部21の中央部に向けて伸びて環状凹溝35に連通した流通孔37が形成されている。
【0024】
外側凹部29には、裏金本体部21の一方の面22と環状立壁部23の環状内壁面26と環状突出部24の環状外壁面28との夫々に接合層41を介して多孔質金属焼結層42が一体に接合されて配されており、内側凹部31には、裏金本体部21の一方の面22と環状突出部24の環状内壁面30との夫々に接合層43を介して多孔質金属焼結層44が一体に接合されて配されている。
【0025】
内側凹部31に配された多孔質金属焼結層44は、裏金本体部21及び接合層43により内側凹部31において裏金本体部21の一方の面22からの圧縮気体の供給を受けないようになっている一方、外側凹部29に開口した環状凹溝35は、流通孔37から外側凹部29に配された多孔質金属焼結層42への圧縮気体の供給通路となっている。
【0026】
多孔質金属焼結層42及び44の夫々は、その全表面の無秩序な多数の部位で開口すると共に無秩序に互いに連通する多数の細孔を内部に有している。
【0027】
外側凹部29に配された多孔質金属焼結層42において支持すべき相手材に対面して露出する露出表面51(細孔の開口面を含む)と内側凹部31に配された多孔質金属焼結層44において支持すべき相手材に対面して露出する露出表面52(細孔の開口面を含む)との表面積比率は、1:0.2〜0.5である。
【0028】
裏金25を形成するステンレス鋼としては、オーステナイト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼又はフェライト系ステンレス鋼が使用される。とくに、クロム(Cr)含有量の少ないマルテンサイト系ステンレス鋼又はフェライト系ステンレス鋼は好ましいものである。
【0029】
接合層41及び43の夫々は、ニッケルメッキ層とこのニッケルメッキ層に接合された銅メッキ層との二層のメッキ層を含んでおり、外側凹部29におけるニッケルメッキ層は、裏金本体部21の一方の面22と環状立壁部23の環状内壁面26と環状突出部24の環状外壁面28とに接合されており、外側凹部29に配された多孔質金属焼結層42は、外側凹部29におけるニッケルメッキ層に接合された銅メッキ層に接合されており、内側凹部31におけるニッケルメッキ層は、裏金本体部21の一方の面22と環状突出部24の環状内壁面30とに接合されており、内側凹部31に配された多孔質金属焼結層44は、内側凹部31におけるニッケルメッキ層に接合された銅メッキ層に接合されている。接合層41及び43を介する裏金25への多孔質金属焼結層42及び44の接合部に剥離等を生じさせないためには、多孔質金属焼結層42及び44を形成する圧粉体のメッキ層への圧接の程度にもよるが、ニッケルメッキ層は、2μm以上20μm以下、好ましくは3μm以上15μm以下の厚さを有しており、銅メッキ層は、10μm以上25μm以下、好ましくは10μm以上20μm以下の厚みを有している。
【0030】
本例では、環状立壁部23の環状の頂面55、環状突出部24の環状の頂面56、多孔質金属焼結層42の露出表面51及び多孔質金属焼結層44の露出表面52は、互いに面一に配されており、内側凹部31の深さは、外側凹部29の深さと同一であり、より具体的には、多孔質金属焼結層42は、多孔質金属焼結層44の厚みと同一の厚みであるが、これに代えて、多孔質金属焼結層44は、多孔質金属焼結層42の厚みよりも大きな厚みをもっていてもよく、更には、内側凹部31に配される多孔質金属焼結層44は、その露出表面52のみを頂面55、頂面56及び露出表面51に対して凹ませて形成されてもよい。
【0031】
多孔質金属焼結層42及び44夫々は、4重量%以上10重量%以下の錫と、10重量%以上40重量%以下のニッケルと、0.1重量%以上0.5重量%未満の燐と、2重量%以上10重量%以下の無機物質粒子と、残部が銅とからなる。成分中の燐成分は、多孔質金属焼結層42及び44の中間素材としての圧粉体の焼結過程において液相のNiPを生成し、焼結を進行させると共に外側凹部29における裏金本体部21の一方の面22と環状立壁部23の環状内壁面26と環状突出部24の環状外壁面28とに形成された接合層41並びに内側凹部31における裏金本体部21の一方の面22と環状突出部24の環状内壁面30とに形成された接合層43へのニッケル成分の拡散を助長し、圧粉体の焼結により得られた多孔質金属焼結層42及び44を接合層41及び43に強固に一体にさせる役割を果たす。
【0032】
また、燐成分の配合量を0.1重量%以上0.5重量%未満とすることにより、多孔質金属焼結層42及び44の焼結後冷却時の収縮量を低く抑えることができ、多孔質金属焼結層42及び44の収縮に起因する外側凹部29における裏金本体部21の一方の面22と環状立壁部23の環状内壁面26と環状突出部24の環状外壁面28とに形成された接合層41並びに内側凹部31における裏金本体部21の一方の面22と環状突出部24の環状内壁面30とに形成された接合層43からの多孔質金属焼結層42及び44の剥離等を生じることはない。さらに、燐成分の配合量を少なくして液相のNiPの生成量を少なくすることにより、多孔質金属焼結層42及び44の気孔(細孔)率が高められ、多孔質金属焼結層42の細孔を流通する圧縮気体の圧力損失が低下することによって、多孔質金属焼結層42の露出表面51から噴出する気体圧力が相対的に高まり浮上量を高めることができる上に、多孔質金属焼結層44内の細孔への圧縮気体の出入りを比較的多くできることによって、多孔質金属焼結層44による減衰効果を高めることができる。
【0033】
多孔質金属焼結層42及び44に分散含有される無機物質粒子は、黒鉛、窒化ホウ素、フッ化黒鉛、フッ化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素及び炭化ケイ素のうちの少なくとも一つからなる。これらは、多くの金属材料のように塑性変形することはなく、無機物質である。このような無機物質粒子が多孔質金属焼結層42及び44の錫、ニッケル、燐及び銅からなる素地(粒界)中に分散含有されていると、このもの自体が機械加工によって塑性変形することがなく、加えて、多孔質金属焼結層42及び44の素地の金属部分の塑性変形を分断し軽減する働きがあるため、機械加工における多孔質金属焼結層42及び44の気孔(細孔)の開口での目詰まりを抑えることができる。そして、これら無機物質粒子の配合量は、2重量%以上10重量%以下の割合が適当である。配合量が2重量%未満では多孔質金属焼結層42及び44の素地の金属部分の塑性変形を分断し軽減する働きが充分発揮されず、また配合量が10重量%を超えると、多孔質金属焼結層42及び44の焼結性を阻害する。
【0034】
以上の多孔質静圧気体軸受20では、裏金25の外周面36からその中央部に向けて形成された流通孔37に圧縮気体が供給されると、この圧縮気体は、外側凹部29において裏金本体部21の一方の面22に形成された環状凹溝35に導入され、環状凹溝35に導入された圧縮気体は、多孔質金属焼結層42の細孔に導入され、多孔質金属焼結層42の細孔に導入された圧縮気体は、軸受面となる多孔質金属焼結層42の露出表面51から噴出されて露出表面51と対面した相手材である例えば可動体との間の軸受すきまに気体膜(空気膜)を形成し、可動体を可動に支持する。
【0035】
斯かる多孔質静圧気体軸受20によれば、内側凹部31において裏金本体部21の一方の面22に接合された多孔質金属焼結層44が流通孔37からの直接的な圧縮気体の供給を受けない一方、軸受すきま内に存在する圧縮気体が多孔質金属焼結層44の露出表面52の多数の微小開口を通じて多孔質金属焼結層44の内部の多数の細孔に出入りし、この出入において多孔質金属焼結層44の細孔で圧縮気体に対して流体粘性摩擦が生じることになり、多孔質金属焼結層44が軸受すきま内に存在する圧縮気体に対してダンパのような減衰効果を果たすため、可動体の振動が抑制される。
【0036】
次に、図1及び2に示す本発明の多孔質静圧気体軸受20と図5に示す比較例の多孔質静圧気体軸受20aとについて、自励振動の発生の有無を試験するべく、次の寸法諸元を有する試験体とした。
【0037】
<図1及び図2に示す本発明の多孔質静圧気体軸受20の試験体の寸法諸元>
円盤状の裏金25 :外径48mm、厚さ10.5mm
環状立壁部23 :内径40mm
環状突出部24 :内径22mm、外径24mm
外側凹部29 :幅 8mm、 深さ2.1mm
内側凹部31 :直径22mm、深さ2.1mm
環状凹溝35 :幅 2mm、 深さ1.5mm
外側凹部29の開口面積と内側凹部31の開口面積の比率は、1:0.47である。
【0038】
そして、外側凹部29における一方の面22、環状立壁部23の環状内壁面26及び環状突出部24の環状外壁面28と、内側凹部31における一方の面22及び環状突出部24の環状内壁面30とに、それぞれ厚さ3μmのニッケルメッキ層と該ニッケルメッキ層の表面に厚さ10μmの銅メッキ層との二層のメッキ層が形成されており、該二層メッキ層を介して銅58.58重量%、錫8重量%、ニッケル28重量%、燐0.42重量%、黒鉛5重量%からなる多孔質金属焼結層42及び44が一体に裏金25に接合されている。
【0039】
<図5に示す比較例の多孔質静圧気体軸受20aの試験体の寸法諸元>
円盤状の裏金25a:外径48mm、厚さ10.5mm
環状立壁部23a :内径40mm
凹部27a :深さ2.1mm
環状凹溝35a :幅2mm、 深さ1.5mm
【0040】
そして、環状立壁部23aの環状内壁面26aと環状内壁面26aに囲まれた円形の凹部27aにおける裏金本体部21aの一方の面22aとに、それぞれ厚さ3μmのニッケルメッキ層と該ニッケルメッキ層の表面に厚さ10μmの銅メッキ層との二層のメッキ層が形成されており、該二層メッキ層を介して銅58.58重量%、錫8重量%、ニッケル28重量%、燐0.42重量%、黒鉛5重量%からなる多孔質金属焼結層42aが一体に接合されている。
【0041】
上記した寸法諸元を有する本発明の多孔質静圧気体軸受20と比較例の多孔質静圧気体軸受20aについて、軸受すきまhと無次元動剛性Kdの関係及び軸受すきまhと無次元減衰係数Bの関係を試験し、自励振動の発生の有無について調査した結果を説明する。ここで、無次元動剛性Kd及び無次元減衰係数Bは、試験結果より、以下に示す計算式によって求めた。
無次元動剛性Kd=kd・h/(Psg・S)
無次元減衰係数B=b・ω・h/(Pa・S)
上式中、kdは測定された動剛性、Psgは給気圧、Sは露出表面51及び52並びに頂面56の合計面積(=π×(40/2))、bは測定された減衰係数、ωは測定された振動角速度であり、Paは大気圧である。
【0042】
図3は、軸受すきまhと無次元動剛性Kdの関係を示すグラフであり、図4は、軸受すきまhと無次元減衰係数Bの関係を示すグラフである。なお、図3及び図4において、「黒丸」が図5に示す比較例の多孔質静圧気体軸受20aの試験結果であり、「白丸」が図1及び図2に示す本発明の多孔質静圧気体軸受20の試験結果である。
【0043】
図4のグラフから分かるように、比較例の多孔質静圧気体軸受20aは、軸受すきまhが8〜15μmの範囲で減衰係数が負となり自励振動が発生しているのに対し、本発明の多孔質静圧気体軸受20は、減衰係数が負の値とならず、自励振動が発生していない。
【0044】
以上の実験結果から、本発明の多孔質静圧気体軸受20は、内側凹部31に配された多孔質金属焼結層44が流通孔37からの直接的な圧縮気体の供給を受けないので、軸受すきま内に存在する気体が多孔質金属焼結層44の多数の開口を通じて多孔質金属焼結層44の内部の細孔に出入りし、この出入りおいて多孔質金属焼結層44の金属組織と無機物質粒子との境界の狭い空間(細孔)で流体粘性摩擦が生じることにより自励振動の発生が効果的に抑制され、多孔質金属焼結層44の細孔がダンパのような減衰効果を果たすことになる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の多孔質静圧気体軸受の平面図である。
【図2】図1に示す多孔質静圧気体軸受のII−II線矢視断面図である。
【図3】多孔質静圧気体軸受の軸受すきまhと無次元動剛性Kdの関係の試験結果を示すグラフである。
【図4】多孔質静圧気体軸受の軸受すきまhと無次元減衰係数Bの関係の試験結果を示すグラフである。
【図5】比較例の多孔質静圧気体軸受を示す断面図である。
【図6】従来の静圧気体軸受を示す底面図である。
【図7】図6の縦断面図である。
【図8】従来の他の静圧気体軸受を示す底面図である。
【図9】図8の縦断面図である。
【図10】従来の他の静圧気体軸受を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0046】
20 多孔質静圧気体軸受
21 裏金本体部
22 面
23 環状立壁部
24 環状突出部
25 裏金
27 凹部
28 環状外壁面
29 外側凹部
30 環状内壁面
31 内側凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
裏金本体部と、該裏金本体部の一方の面の外周縁に立設された環状立壁部と、該環状立壁部に囲まれて裏金本体部の一方の面に立設された環状突出部とを備えた裏金を具備しており、該環状立壁部の環状内壁面に囲まれた凹部は、該環状立壁部の環状内壁面及び環状突出部の環状外壁面に囲まれた外側凹部と、環状突出部の環状内壁面に囲まれた内側凹部とを含んでおり、環状立壁部の環状内壁面と環状突出部の環状外壁面との間における該裏金本体部の一方の面には、少なくとも一つの環状凹溝が当該一方の面で外側凹部に開口して形成されており、該裏金本体部には、当該裏金本体部の外周面からその中央部に向けて伸びていると共に該環状凹溝に連通した流通孔が形成されており、該外側凹部及び内側凹部の夫々には、多孔質金属焼結層が少なくとも裏金本体部の一方の面に接合層を介して接合されて配されており、内側凹部に配された多孔質金属焼結層は、内側凹部において裏金本体部の一方の面からの圧縮気体の供給を受けないようになっている一方、該環状凹溝は、流通孔から外側凹部に配された多孔質金属焼結層への圧縮気体の供給通路となっていることを特徴とする多孔質静圧気体軸受。
【請求項2】
外側凹部に配された多孔質金属焼結層において支持すべき相手材に対面して露出する露出表面と内側凹部に配された多孔質金属焼結層において支持すべき相手材に対面して露出する露出表面との面積比率は、1:0.2〜0.5である請求項1に記載の多孔質静圧気体軸受。
【請求項3】
内側凹部及び外側凹部のうちの少なくとも一方に配された多孔質金属焼結層は、4重量%以上10重量%以下の錫と、10重量%以上40重量%以下のニッケルと、0.1重量%以上0.5重量%未満の燐と、2重量%以上10重量%以下の無機物質粒子と、残部が銅からなる請求項1又は2に記載の多孔質静圧気体軸受。
【請求項4】
無機物質粒子は、黒鉛、窒化ホウ素、フッ化黒鉛、フッ化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化珪素及び炭化珪素のうちの少なくとも一つからなる請求項3に記載の多孔質静圧気体軸受。
【請求項5】
外側凹部に配された多孔質金属焼結層は、環状立壁部の環状内壁面及び環状突出部の環状外壁面の夫々に接合層を介して一体的に接合されており、内側凹部に配された多孔質金属焼結層は、環状突出部の環状内壁面に接合層を介して一体的に接合されている請求項1から4のいずれか一項に記載の多孔質静圧気体軸受。
【請求項6】
各接合層は、ニッケルメッキ層と該ニッケルメッキ層に接合された銅メッキ層との二層のメッキ層を含んでおり、外側凹部におけるニッケルメッキ層は、外側凹部における裏金本体部の一方の面と環状立壁部の環状内壁面と環状突出部の環状外壁面とに接合されており、外側凹部に配された多孔質金属焼結層は、外側凹部におけるニッケルメッキ層に接合された銅メッキ層に接合されており、内側凹部におけるニッケルメッキ層は、内側凹部における裏金本体部の一方の面と環状突出部の環状内壁面とに接合されており、内側凹部に配された多孔質金属焼結層は、内側凹部におけるニッケルメッキ層に接合された銅メッキ層に接合されている請求項5に記載の多孔質静圧気体軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−223889(P2008−223889A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−63355(P2007−63355)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【Fターム(参考)】