説明

多層すき合わせ紙及びその製造方法

【課題】耐温水性剥離強度が向上する多層すき合わせ紙及びその製造方法の提供。
【解決手段】鞘部が熱融着する芯鞘型熱融着性繊維4と親水性の繊維5を少なくとも混抄して製造した不織布2を、紙料層1繊維とすき合わせることで、不織布層2繊維と紙料層1繊維の繊維間結合により層間剥離強度が向上し、さらに、芯鞘型熱融着性繊維4における鞘部の融点が90℃を超えるものを混抄して不織布2を作製することで、耐温水性剥離強度が向上する多層すき合わせ紙6及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芯鞘型熱融着性繊維と親水性繊維を用いて、湿式により不織布を製造し、長網抄紙機で吐出された紙料層繊維とすき合わせた多層すき合わせ紙及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多層すき合わせ紙の一般的な製造方法としては、水と繊維を含む原料が貯えられた原料槽をすき合わせる層数に応じて用意し、原料槽内にメッシュ状の円網を設け、円網において原料槽内の繊維がすくい上げられて繊維ウェブが形成され、ワイヤ等の網状の搬送帯にウェブを転写し、順次、他の原料槽と円網により形成された繊維ウェブ同士を重ねて多層すき合わせ紙を製造する方法が知られている。
【0003】
前述した方法では、すき合わせる層数分の原料槽と円網が必要となる問題があった。この問題は、単一の長網を用いて長網上に吐出整流するスライスを設置し、順次、複数の原料を長網上で積層することで解決されている。しかしながら、この方法では、原料が長網上で流動性を失うまで搾水され、ウェブを形成した後に積層されるため、層間での繊維同士の水素結合が弱くなり、抄紙後の紙が剥離し易いという層間剥離の問題があった。
【0004】
このような紙の層間剥離を防止する手段として、複数の円網抄紙機で多層すき合わせ紙を製造する場合、円網抄紙機と長網抄紙機を組み合わせて多層すき合わせ紙を製造する場合及び長網抄紙機と長網抄紙機を組み合わせて多層すき合わせ紙を製造する場合において、すき合わせの段階でスプレー装置やロールコータ装置等で各層に対して接着剤を塗布する方法が提案されている。
【0005】
また、単一の長網抄紙機で多層すき合わせ紙を製造する場合は、周回する無端抄紙網の上に、水と繊維とを含む原料を貯留した複数の槽と、無端抄紙網のすき幅以下で任意の幅のシートを繰り出すシート繰り出し部とを少なくとも一つ以上設置した長網抄紙機において、複数の槽のうち無端抄紙網の周回工程に対して先行する位置に配置された槽内の原料を無端抄紙網の上に吐出し、少なくとも一層以上の原料層流を無端抄紙網の上に形成した後、層流の上にシートを走行させ、さらにシートの上に複数の槽のうち、無端抄紙網の周回工程に対して後の位置に配置された槽内の原料を吐出し、無端抄紙網の上でウエットウェブを形成する多層すき合わせ紙が提案されている。この多層すき合わせ紙のシートとは、レーヨン等の天然繊維を用いた不織布であり、このような天然繊維の不織布をすき合わせることで水素結合(繊維間結合)を起こし、層間接着力を得て、層間剥離を防止する手段が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、芯鞘型構造を有し、その鞘部が芯部より低融点の熱融着性樹脂の繊維を含有するスパンボンド不織布と、その不織布面に湿式抄紙によって連続又は不連続に積層形成される抄紙料層とから成り、抄紙料層は抄紙機のウエットパートで形成されたウエットシートの状態で不織布に積層され、抄紙料層と不織布とは、不織布の鞘部の低融点熱溶融性樹脂を介して熱溶融により結合させる多層すき合わせ紙が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
また、ポリエチレン繊維及びポリプロピレン繊維等を用いて作製した不織布を、湿紙と湿紙の間に挟み、熱融着により作製する多層紙も提案されている。
【0008】
【特許文献1】特開2003−13395号公報
【特許文献2】特許第2784292号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述したようなスプレー装置やロールコータ装置で接着剤を塗布する方法では、接着剤が乾燥する前にすき合わせるため、湿紙と不織布表面の接着強度は向上するが、不織布層内の強度が低い場合は不織布層内での剥離が発生する。
【0010】
また、特開2003−13395号公報のような、レーヨン等の天然繊維を用いた不織布を用いる方法は、レーヨン繊維と湿紙繊維の繊維間結合だけでは十分な接着力が得られず、層間剥離が発生してしまう。
【0011】
また、特許第2784292号公報のような、合成樹脂繊維から成るスパンボンド不織布を用いて作製された多層すき合わせ紙は、スパンボンド不織布そのものが地合の均一性に欠けることから、すき合わされた多層すき合わせ紙も均一性に欠け、外観、印刷適正及び用紙特性を悪化させる。
【0012】
また、ポリエチレン繊維及びポリプロピレン繊維等のオレフィン系繊維を用いて作製した不織布を用いる方法では、これらのオレフィン系の素材は濡れ性が低く、撥水性であることから、不織布と上下層のパルプ繊維(湿紙)との親和性が悪く、層間剥離が発生してしまう。さらに、不織布作製の際に低融点のバインダ繊維を混抄している場合には、90℃程度の温水に浸した際に、バインダ繊維が溶融し不織布層内で剥離が発生する。
【0013】
例えば、銀行券等の貴重印刷物の基材に多層すき合わせ紙を使用し、前述した問題点がある場合は、ATMや券売機などの現金処理機内の搬送により、層間剥離が発生する恐れがあることから、大幅な耐久性の向上が望まれていた。
【0014】
本発明は、上記課題の解決を目的とするものであり、具体的には、鞘部が熱融着する芯鞘型熱融着性繊維と親水性の繊維を混抄して製造した不織布を、紙料層繊維とすき合わせることで、不織布層繊維と紙料層繊維の繊維間結合により層間剥離強度が向上し、さらに、芯鞘型熱融着性繊維における鞘部の融点が90℃を超えるものを混抄して不織布を作製することで、耐温水性剥離強度が向上する多層すき合わせ紙及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明における多層すきあわせ紙は、上部紙料層、中間層及び下部紙料層の少なくとも3層が積層されて成る多層紙において、中間層は、少なくとも芯鞘型熱融着性繊維と親水性繊維を混抄した不織布から成り、芯鞘型熱融着性繊維の鞘部の融点が、芯鞘型熱融着性繊維の芯部の融点より低いことを特徴とする。
【0016】
本発明における多層すき合わせ紙は、不織布において、芯鞘型熱融着性繊維と親水性繊維が熱融着により繊維間結合して成り、多層紙において、不織布の不織布層繊維と、上部紙料層及び下部紙料層の紙料層繊維とが、親水化及び熱融着により繊維間結合して成ることを特徴とする。
【0017】
本発明における多層すき合わせ紙の製造方法は、少なくとも芯鞘型熱融着性繊維と親水性繊維を混抄して不織布を作製し、作成した不織布を抄紙機上で上部紙料と下部紙料の間にすき合わせ、上部紙料層、不織布から成る中間層及び下部紙料層を有する多層すき合わせ紙を形成させ、多層すき合わせ紙を芯鞘型熱融着性繊維の鞘部の融点を含む温度範囲内で加熱乾燥させることを特徴とする。
【0018】
本発明における多層すき合わせ紙の製造方法は、芯鞘型熱融着性繊維と親水性繊維を混抄した不織布の少なくとも一方の面にバインダを塗布し、塗布したバインダを乾燥させ、抄紙機上で上部紙料と下部紙料の間にすき合わせ、上部紙料層、不織布から成る中間層及び下部紙料層を有する多層すき合わせ紙を形成させ、抄紙機の乾燥部において、多層すき合わせ紙を芯鞘型熱融着性繊維の鞘部の融点の範囲内で加熱乾燥させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
鞘部が熱融着する特性を持つ芯鞘型熱融着性繊維と親水性繊維を混抄させた不織布であるため、不織布作製時の熱により芯鞘型熱融着性繊維の鞘部が溶融し、溶融による熱接着により繊維間結合が増し、不織布層内の剥離強度が向上する。さらに紙料層と不織布層を抄紙機ですき合わせる際の乾燥部において、芯鞘型熱融着繊維の鞘部の融点が抄紙機の乾燥部とほぼ同じ温度であるため再び鞘部が溶融し、溶融による熱接着により紙料層と不織布層の層間剥離強度が向上する。
【0020】
また、芯鞘型熱融着性繊維の鞘部にカルボキシル基又は水酸基等、紙料層繊維と馴染みの良い成分を有するものを選択することにより、紙料層繊維と不織布層繊維の繊維間結合力が増し、層間剥離強度が向上する。
【0021】
また、芯鞘型熱融着性繊維に親水性繊維を混抄させた不織布であるため、不織布自体が親水化する。そのため、湿式の抄造時においては、紙料層繊維と不織布層繊維の馴染みが良好となり繊維間結合力が増し、層間剥離強度が向上する。
【0022】
また、芯鞘型熱融着性繊維における鞘部の融点が、90℃を超え110℃以下の成分を有するものを使用することにより、90℃の温水に浸しても繊維が溶融することがなく、耐温水性における層間剥離強度が向上する。
【0023】
また、不織布にバインダ繊維を混抄することも可能であり、これにより不織布層内の剥離強度が向上する。温水温度(90℃)以上の融点を持つバインダ繊維を使用することで、耐温水性における剥離強度も更に向上する。
【0024】
また、紙料層と不織層を接着するための接着剤の塗布装置やロールコータ装置を設置する必要がないため、抄紙機の簡素化が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次に、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。図1は、多層すき合わせ紙の断面図を示す。図2(a)は、芯鞘型熱融着性繊維の縦断面図を示し、(b)は、芯鞘型熱融着性繊維の横断面図を示す。図3は、多層すき合わせ紙の製造装置の全体構成を示す。図4は、本発明における一実施例及び比較例の不織布の繊維配合割合を示す。図5は、本発明における一実施例及び比較例の多層すき合わせ紙の剥離強度を示す。
【0026】
まず、多層すき合わせ紙について図1を参照して説明する。図1は、多層すき合わせ紙の断面図を示す。多層すき合わせ紙(6)は、繊維から成る上部紙料層(1)、不織布(2)から成る中間層及び繊維から成る下部紙料層(3)を有して構成されている。
【0027】
本発明でいう不織布とは、織機を使わずに各種の繊維ウェブを機械的、化学的、熱的又はそれらの組合せによって処理し、接着剤又は繊維自身の融着力によって構成繊維を互いに接合して作った布のことである。
【0028】
上部紙料層(1)及び下部紙料層(3)に使用される繊維は、特に限定されるものではなく、木材や木綿等の植物繊維を原料とするKP、SP等の化学パルプ、GP、TMP、CTMP等の機械パルプ及び古紙再生パルプ等のパルプを適宜選択して使用できる。
【0029】
不織布(2)から成る中間層に使用される繊維は、少なくとも芯鞘型熱融着性繊維(4)と親水性繊維(5)を混抄したものである。芯鞘型熱融着繊維と親水性繊維の割合は、特に限定されるものではなく、芯鞘型熱融着繊維が多ければ多いほど不織布自体の層間剥離強度は増す。しかし、あまり芯鞘型熱融着繊維の割合が多過ぎると不織布が疎水性となってしまい、上部紙料層及び下部紙料層とすき合わせる際の不織布との馴染みが悪くなり、紙料層と不織布間の繊維間結合は低下する。
【0030】
図2に、芯鞘型熱融着性繊維の断面図を示す。(a)が縦断面図、(b)が横断面図である。芯鞘型熱融着性繊維(4)は、芯部(28)と鞘部(29)から構成され、鞘部を構成する成分の融点は、芯部を構成する成分の融点よりも低く、抄紙機の乾燥部で溶融する90℃を超え110℃以下の範囲のものが望ましい。芯鞘型熱融着繊維の鞘部が熱融着性成分を有しており、芯鞘型熱融着繊維の芯部が繊維形成性成分を有していることから、鞘部の融点と芯部の融点の差が大きくなるほど、熱加工する場合の熱収縮率が低く、寸法安定性に優れる。また、鞘部にカルボキシル基又は水酸基等、紙料層繊維と馴染みの良い成分を選択してもよい。
【0031】
融点とは、固体物質が液体に変化する温度であり、2成分以上から成る固体混合物の場合には、熱した時に最初に液体の現れる温度である。本発明でいう熱融着性物質とは、この融点を境に物質が液化及び溶融することにより、接着性を発現するものである。
【0032】
親水性繊維(5)とは、水酸基やカルボキシル基等の親水性基を多く含み、水と親和性がある繊維である。
【0033】
不織布(2)は、芯鞘型熱融着性繊維(4)と親水性繊維(5)を混抄したものに、バインダ繊維を混抄してもよい。バインダ繊維を混抄することにより、不織布作製時の熱によりバインダ繊維が溶融し、溶融による熱接着により繊維間結合が増し不織布層内の剥離強度が向上する。
【0034】
本発明でいうバインダ繊維とは、不織布作製時の熱により溶融し、熱接着性を発現する繊維のことである。バインダ繊維の融点としては、室温〜180℃程度のものが望ましく、90℃を超え180℃以下の物を用いることにより、90℃の温水に浸してもバインダ繊維が溶出することがなく、耐温水性における層間剥離強度が向上する。
【0035】
また、あらかじめ不織布(2)へ液体バインダを塗布しておいてもよい。あらかじめコータ装置等を用いて不織布(2)へバインダを塗布し、熱乾燥することにより不織布(2)の繊維間の結合強度が向上し、さらに紙料層と不織布層を抄紙機ですき合わせる際の乾燥部において、バインダの熱接着により紙料層と不織布層の層間剥離強度が向上する。
【0036】
本発明でいう液体バインダとは、二つの固体を結合させる接着力を発現する接着剤のことであり、ラテックス、エマルジョン、溶液及びサスペンジョン(懸濁液)等のことを指す。バインダのガラス転移点としては、室温〜100℃程度のものが望ましい。ここでいう室温とは、使用するバインダが溶融しない程度の温度のことであり、おおよそ30℃とする。
【0037】
ガラス転移点とは、高分子物質が過冷却液体を経て、凍結された液体ともいえるガラス状態に固化することである。バインダを構成する物質が、ガラス転移点を持つ高分子物質(例えば、ラテックス)である場合には、ガラス転移点はバインダが急激に変形し易くなる温度である。
【0038】
さらに、液体バインダは、不織布(2)を構成する繊維の間に浸透し、不織布の厚さ方向全体に定着していることが望ましい。また、バインダの塗布量は、剥離防止効果を発現し、製造時の搾水に問題を生じない程度の最適な塗布量であることとする。
【0039】
また、液体バインダにラテックス等の熱融着性材料に加えて、あらかじめ有色顔料、無色蛍光顔料、有色蛍光顔料、磁性顔料、赤外吸収又は赤外反射特性を有する顔料、マイクロカプセル等、機能性を有する材料を少なくとも一種類混ぜ込んでから、不織布(2)に塗布することも可能である。
【0040】
また、本発明を実施するための最良の形態における多層すき合わせ紙は、その他の偽造防止技術を施すことが可能である。例えば、有色繊維又は細片、無色蛍光繊維又は細片、有色蛍光繊維又は細片、磁性繊維又は細片、金属細片、アルミ細片、赤外吸収特性を有する繊維又は細片、赤外反射特性を有する繊維又は細片及びサーモクロミック繊維又は細片等を少なくとも一種類混抄することが可能であり、さらに、スレッド及びすき入れ画像等を施すことも可能である。
【0041】
上記の多層すき合わせ紙(6)は、上部紙料層(1)、不織布(2)及び下部紙料層(3)の3層構造で説明したが、不織布(2)を挟む上部紙料層(1)及び下部紙料層(3)が含まれていれば、4層又は5層等の構造でも良い。
【0042】
次に、多層すき合わせ紙の製造装置について、図3を参照して説明する。
【0043】
図3は、多層すき合わせ紙の製造装置の全体構成を示す。多層すき合わせ紙の製造装置は、長網抄紙機(8)と言われる網帯から成り、循環するエンドレスな抄紙用のワイヤ(9)を有する。このワイヤ(9)は、従動用プーリ(10)と駆動用プーリ(11)との間に架け渡され、ワイヤ(9)に沿って内側に配置された図示しない複数のロールにより支持され、案内されて循環移動する。
【0044】
ワイヤ(9)の上流部(ワイヤの上面における移動始端部)には、上流側から下流側に向けて、下部紙料供給槽(12)、不織布供給装置(13)及び上部紙料供給槽(14)が間隔をおいて順次配設されている。
【0045】
下部紙料供給槽(12)及び上部紙料供給槽(14)内には、それぞれ下部紙料(15)及び上部紙料(16)が充填され、適宜、図示しない供給源から補給され、所定の液位を維持するように制御されている。下部紙料(15)及び上部紙料(16)は、下部紙料層(3)及び上部紙料層(1)の素材と成る材料であり、主にパルプ繊維、水及び添加剤から成る。
【0046】
下部紙料供給槽(12)及び上部紙料供給槽(14)のそれぞれにおける下流部分には、下部紙料用目止め板(17)及び上部紙料用目止め板(18)がそれぞれ配置されている。下部紙料用目止め板(17)及び上部紙料用目止め板(18)のそれぞれとワイヤ(9)との間の隙間を通して、ワイヤ(9)上に下部紙料及び上部紙料を供給し抄紙を可能とする。
【0047】
不織布供給装置(13)による不織布供給部位は、下部紙料供給槽(12)の下流側であって上部紙料供給槽(14)の上流側に設けられており、ワイヤ(9)上に形成される下部紙料層(下部湿紙)(19)上に向け、不織布(2)を供給する。この不織布供給装置(13)は、不織布供給ドラム(20)及びテンションロール(21)を備えている。
【0048】
不織布供給装置(13)から供給される帯状の不織布(2)の横幅(w)は、下部紙料用目止め板(17)からワイヤ(9)の上面(搬送面)に供給されて形成される下部紙料層(下部湿紙)(19)の横幅とほぼ同じであり、さらに、上部紙料用目止め板(18)から下部紙料層(19)の上面に供給されて形成される上部紙料層(上部湿紙)(22)の横幅ともほぼ同じである。
【0049】
不織布供給ドラム(20)は、その軸心の長手方向(図1において紙面に対して垂直の方向)、すなわち、不織布(2)の幅方向に、巻き付けてある不織布ごと移動して幅方向に位置を調整できるように、図示しない不織布供給ドラム幅方向位置調整装置で調整される構成となっている。
【0050】
ワイヤ(9)の下流部(ワイヤの上面の移動終端部)の下側には、搾水ボックス(23)が配置されている。この搾水ボックス(23)は、抄紙工程におけるワイヤ(9)の下流部において、下部紙料層(19)、不織布(2)及び上部紙料層(22)から成る多層すき合わせ紙(6)内に含まれている水を吸引して搾水するものである。
【0051】
ワイヤ(9)で形成された多層すき合わせ紙(6)は、図示しないガイドロールで案内され最終製品として巻取ロールで巻き取られるが、ワイヤ(9)と巻取ロールの間には、上流側から、プレスロール(24)及び乾燥装置(25)が配設されている。プレスロール(24)は、多層すき合わせ紙にすき入れを付与する場合に用いられる。
【0052】
プレスロール(24)は、多層すき合わせ紙(6)を挟持して下流の巻取ロール側に送る。すき入れは、周知のプレスロール(24)又はタンディロール(26)によって形成される。乾燥装置(25)は、周知の乾燥装置を利用する。
【0053】
次に、本発明における多層すき合わせ紙の製造方法について、図3を参照して説明する。
【0054】
第一に、不織布を作製する。芯鞘型熱融着性繊維(4)、親水性繊維(5)及び必要により、バインダ繊維を希薄濃度で水中に均一分散させ、各繊維の懸濁液を調整する。これらの各懸濁液を所定の配合で混合して均一分散させ、混合した繊維懸濁液をスクリーン上に抄き取ってシート状のウェブを形成する。
【0055】
第二に、抄き取られたウェブは、ローラー間で脱水され、乾燥装置内を通過して加熱乾燥される。芯鞘型熱融着性繊維(4)の鞘部又はバインダ繊維の熱融着により、繊維間を結合し、シート状の不織布(2)が形成される。乾燥された不織布(2)は、リール装置で巻き取られる。
【0056】
あらかじめ不織布(2)へ液体バインダを塗布しておく場合には、コータ装置等を用いて、不織布(2)へバインダを塗布し、加熱乾燥する。これにより、不織布(2)の繊維間の結合強度が向上する。塗布加工部における塗布方式は、グラビア方式、含浸方式又は不織布へ塗布可能な方式とする。乾燥されたバインダ塗布済の不織布(2)は、リール装置で巻き取られる。
【0057】
第三に、多層すき合わせ紙の製造装置を用いて、不織布を紙料層内にすき合わせる。下部紙料供給槽(12)から下部紙料用目止め板(17)とワイヤ(9)の隙間を通して、下部紙料(15)を循環移動中のワイヤ(9)の上面に供給する。ワイヤ(9)上に供給された下部紙料(15)は、下部紙料層(19)として抄造方向に送られる。
【0058】
この下部紙料層(19)の上面に、不織布供給装置(13)から帯状の不織布(2)を連続的に供給する。帯状の不織布(2)と下部紙料層(19)とは、ワイヤ(9)上で抄造方向に送られながら重なり、下部紙料(15)は不織布(2)の繊維間に入り込み、下部紙料(15)のパルプ繊維と不織布(2)の繊維が絡み合い、両者の強固な結合が生成される。また、芯鞘型熱融着性繊維(4)の鞘部にカルボキシル基又は水酸基等が使用されている場合には、芯鞘型熱融着性繊維(4)のこれらの官能基、また、親水性繊維(5)の水酸基等と、下部紙料層のセルロース繊維のカルボキシル基や水酸基との水素結合により、下部紙料層と不織布層繊維の繊維間結合力が増す。
【0059】
下部紙料(15)のパルプ繊維と重ねられた帯状の不織布(2)の更に上面に、上部紙料供給槽(14)から上部紙料用目止め板(18)とワイヤ(9)の隙間を通して上部紙料(16)を供給する。上部紙料(16)は、ワイヤ(9)上で上部紙料層(22)として抄造方向に送られながら不織布(2)と重なり、上部紙料(16)は、不織布(2)の繊維間に入り込む。このように、長網抄紙機により多層すき合わせ紙を製造することで、上部紙料(16)のパルプ繊維は、不織布(2)の繊維と絡み合うとともに、不織布(2)内にすでに入り込んでいる下部紙料(15)のパルプ繊維とも絡み合い、強固な結合が生成される。また、芯鞘型熱融着性繊維(4)のカルボキシル基及び水酸基等、親水性繊維(5)の水酸基等と、上部紙料層のセルロース繊維のカルボキシル基や水酸基との水素結合により、上部紙料層と不織布層繊維の繊維間結合力が増す。
【0060】
多層にすき合わされた多層すき合わせ紙(6)は、搾水ボックス(23)を通過し、下部紙料(15)、不織布(2)及び上部紙料(16)の各繊維が互いに入り込んで絡み合い、強固な結合層を形成する。また、脱水により、芯鞘型熱融着性繊維(4)及び親水性繊維(5)と上下紙料層のセルロース繊維との水素結合が確固となり、上下紙料層と不織布層繊維の強固な繊維間結合が形成される。
【0061】
第四に、乾燥装置(25)内を通過して乾燥される。この乾燥時に、不織布(2)を構成する芯鞘型熱融着性繊維(4)の鞘部の熱融着効果により、下層紙料層(15)と不織布(2)の層間及び不織布(2)と上層紙料層(22)の層間の結合強度がさらに増し、剥離防止効果が向上する。また、この乾燥装置の温度範囲内(90〜110℃程度)の融点を持つバインダ繊維を用いた場合には、このバインダ繊維による熱融着効果も加わり、剥離防止効果が向上する。不織布へ液体バインダを塗布している場合には、液体バインダの熱融着効果により、紙料層と不織布層の層間剥離強度が更に向上する。
【0062】
第五に、乾燥装置(25)で加熱乾燥された多層すき合わせ紙(6)は、リール装置(27)で巻き取られ、最終製品として完成される。
【0063】
プレスロール(24)により、すき入れを施す場合は、搾水ボックス(23)を通過し、プレスロール(31)によりすき入れが施される。
【0064】
また、芯鞘型熱融着性繊維(4)の鞘部に、融点が90℃を超え110℃以下の成分を有する物を使用することにより、多層すき合わせ紙は、90℃の温水に浸しても繊維が溶融することがなく、耐温水性における剥離強度が向上する。ここでいう耐温水性の剥離強度とは、多層すき合わせ紙を90℃の温水に1時間浸漬し、乾燥させた後に測定した剥離強度である。
【0065】
不織布(2)にコロナ放電処理等の親水化処理を行い、不織布表面を親水化することで紙料層(15)との繊維間結合力を増し、剥離強度を向上させる手法もある。不織布表面にコロナ放電処理を施すことで、不織布表面に親水性基が選択され、これらと紙料層(15)のセルロース繊維間との水素結合により、紙料層と不織布層繊維の繊維間結合力が増す。
【0066】
下部紙料供給槽(12)又は上部紙料供給槽(14)に貯留された原料の紙料特性を異ならせて、色、坪量又は繊維構成の異なる多層すき合わせ紙を作製することも可能である。色の調節については繊維の種類の違い、顔料、染料の混入及び漂白か未漂白か等により可能であり、坪量の調節については原料濃度及び原料吐出部の調整により可能であり、繊維構成の調節については繊維の種類、配合割合、繊維長及び叩解度等を変化させることで可能である。
【実施例1】
【0067】
芯鞘型熱融着性繊維として、鞘成分がエチレンアクリル酸(EAA、アクリル酸含有量約10wt%、融点95℃)、芯成分がポリプロピレン(PP、融点160℃)から成り、繊度2.2dtex、繊維長5mmの物を用いた。親水性繊維として、高融点ポリビニルアルコール(PVA)繊維(融点>100℃、繊度1.2dtex、繊維長3mm)、バインダ繊維として、低融点ポリビニルアルコール(PVA)繊維(融点60℃、繊度1.2dtex、繊維長3mm)を用いた。
【0068】
まず、不織布を湿式法により作製した。上記芯鞘型熱融着性繊維(4)、親水性繊維(5)及びバインダ繊維を希薄濃度で水中に均一分散させ、各繊維の懸濁液を調整した。これらの各懸濁液を、芯鞘型熱融着性繊維50%、親水性繊維30%及びバインダ繊維20%の割合となるように配合して均一分散させ、混合した繊維懸濁液をスクリーン上に抄き取ってシート状のウェブを形成した。
【0069】
抄き取られたウェブはローラー間で脱水され、乾燥装置内を通過して加熱乾燥される。芯鞘型熱融着性繊維(4)の鞘部及びバインダ繊維の熱融着により、構成繊維間を結合し、シート状の不織布(2)が形成される。乾燥された不織布(2)は、リール装置で巻き取られる。不織布の坪量は、15±3g/mとした。
【0070】
次に、図2に示した長網抄紙機(8)を用いて、多層すき合わせ紙を抄造した。下部紙料供給槽(12)から吐出される下部紙料(15)を、下部紙料用目止め板(17)とワイヤ(9)の隙間を通して、循環移動中のワイヤ(9)の上面に供給する。ワイヤ(9)上に供給された下部紙料(19)は、下部紙料層(下部湿紙)(19)として抄造方向に送られる。
【0071】
上記方法により作製した不織布(2)を、不織布供給ドラム(20)にセットし、下部紙料層(19)の上面に、不織布供給装置(13)から不織布(2)を連続的に供給する。下部紙料(15)のパルプ繊維と重ねられた帯状の不織布(2)の更に上面に、上部紙料供給槽(14)から吐出される上部紙料(16)を、上部紙料用目止め板(18)とワイヤ(9)の隙間を通して供給する。
【0072】
上部紙料(16)は、ワイヤ(9)上で上部紙料層(22)として抄造方向に送られながら不織布(2)と重なり、上部紙料(16)は不織布(2)の繊維間に入り込む。これにより、上部紙料(16)のパルプ繊維は、不織布(2)の繊維と絡み合うとともに、すでに不織布(2)内に入り込んでいる下部紙料(15)のパルプ繊維とも絡み合い生成される。パルプ繊維と不織布(2)の繊維が絡み合い、両者の強固な結合が生成される。また、芯鞘型熱融着性繊維(4)の鞘部のカルボキシル基及び親水性繊維(5)の水酸基等と、紙料層(15)のセルロース繊維のカルボキシル基や水酸基との水素結合により、紙料層と不織布層繊維の繊維間結合力が増す。
【0073】
多層構造にすき合わされた多層すき合わせ紙(6)は、搾水ボックス(23)を通過し、さらに50〜120℃の乾燥ドラム装置(25)を通過して加熱乾燥され、芯鞘型熱融着性繊維(4)の鞘部の熱融着効果により、層間結合強度がさらに増し、剥離防止効果の優れた多層すき合わせ紙が完成する。
【0074】
(比較例1)
ポリビニルアルコール(PVA)繊維のみから成る不織布を用いた。高融点主体繊維(PVA、融点>100℃、繊度1.2dtex、繊維長3mm)70%、低融点バインダ繊維(PVA、融点70℃、繊度1.2dtex、繊維長3mm)30%の割合で配合し、不織布を湿式法により作製した。抄造の方法及び条件は、実施例1記載と同様とする。不織布の坪量は、12±2g/mとした。
【0075】
図2に示した多層すき合わせ紙の製造装置を用いて、多層すき合わせ紙を抄造した。抄造の方法及び条件は、実施例1記載と同様とする。
【0076】
図5に、実施例1及び比較例1で抄造した多層すき合わせ紙についての剥離強度を示す。
【0077】
これらの剥離強度から芯鞘型熱融着性繊維を配合した不織布を用いた多層すき合わせ紙(実施例1)は、芯鞘型熱融着性繊維を配合していない不織布を用いた多層すき合わせ紙(比較例1)と比べて、高い剥離強度を示していることが分かる。芯鞘型熱融着性繊維(4)の鞘部の熱融着効果により、紙料層と不織布層の層間剥離強度が向上した。
【0078】
また、芯鞘型熱融着性繊維における鞘部の融点が95℃の成分を有する物を使用したため、90℃の温水に浸して再度乾燥した後の耐温水性における剥離強度の低下が抑えられた。比較例1では、90℃以下の低融点を持つバインダ繊維のみで熱接着を行っているため、90℃の温水に浸すとこのバインダ繊維が溶融して、耐温水性における剥離強度が著しく低下した。しかし、芯鞘型熱融着性繊維を配合することで、耐温水性における剥離強度の著しい低下が抑えられた。
【実施例2】
【0079】
芯鞘型熱融着性繊維として、鞘成分がエチレンアクリル酸(EAA、アクリル酸含有量約10wt%、融点95℃)、芯成分がポリプロピレン(PP、融点160℃)から成り、繊度2.2dtex、繊維長5mmの物を用いた。親水性繊維として、高融点ポリビニルアルコール(PVA)繊維(融点>100℃、繊度1.2dtex、繊維長3mm)、バインダ繊維として、低融点ポリビニルアルコール(PVA)繊維(融点60℃、繊度1.2dtex、繊維長3mm)を用いた。
【0080】
まず、不織布を湿式法により作製した。抄造の方法及び条件は、実施例1記載と同様とする。各繊維の配合割合は、芯鞘型熱融着性繊維50%、親水性繊維20%及びバインダ繊維30%とした。不織布の坪量は、15±3g/mとした。
【0081】
コータ装置を用いて、不織布へ液体バインダを塗布した。液体バインダは、ガラス転移温度43℃のアクリレート系ラテックスを用いた。含浸方式で塗布し、ドラム乾燥装置を通して乾燥後、紙管に巻き取り、バインダ塗布済みの不織布を作製した。塗布量は、乾燥重量で5±1g/mとした。
【0082】
次に、図2に示した多層すき合わせ紙の製造装置を用いて多層すき合わせ紙を抄造した。抄造の方法及び条件は、実施例1記載と同様とする。
【0083】
多層構造にすき合わされた多層すき合わせ紙(6)は、50〜120℃の乾燥ドラム装置(25)を通過して加熱乾燥される際に、芯鞘型熱融着性繊維(4)の鞘部、バインダ繊維及び塗布された液体バインダの熱融着の相乗効果により、層間結合強度が更に増し、剥離防止効果の優れた多層すき合わせ紙が完成する。
【実施例3】
【0084】
芯鞘型熱融着性繊維は、実施例1記載と同様のものを用いた。親水性繊維として、高融点ポリビニルアルコール(PVA)繊維(融点>100℃、繊度1.2dtex、繊維長3mm)、バインダ繊維として、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維(融点110℃、繊度1.7dtex、繊維長5mm)を用いた。
【0085】
まず、不織布を湿式法により作製し、これに液体バインダを塗布した。抄造の方法及び条件は実施例1記載と、バインダ塗布の方法及び条件は実施例2記載と同様とする。各繊維の配合割合は、芯鞘型熱融着性繊維50%、親水性繊維20%及びバインダ繊維30%とした。不織布の坪量は、15±3g/m、バインダ塗布量は、5±1g/m(乾燥重量)とした。
【0086】
次に、図2に示した多層すき合わせ紙の製造装置を用いて、多層すき合わせ紙を抄造した。抄造の方法及び条件は、実施例1記載と同様とする。
【実施例4】
【0087】
芯鞘型熱融着性繊維は、実施例1記載と同様のものを用いた。親水性繊維としてレーヨン繊維(繊維長2mm)を用いた。
【0088】
まず、不織布を湿式法により作製し、これに液体バインダを塗布した。抄造の方法及び条件は実施例1記載と、バインダ塗布の方法及び条件は実施例2記載と同様とする。各繊維の配合割合は、芯鞘型熱融着性繊維50%及び親水性繊維50%とした。不織布の坪量は、15±3g/m、バインダ塗布量は、5±1g/m(乾燥重量)とした。
【0089】
次に、図2に示した多層すき合わせ紙の製造装置を用いて、多層すき合わせ紙を抄造した。抄造の方法及び条件は、実施例1記載と同様とする。
【実施例5】
【0090】
芯鞘型熱融着性繊維は、実施例1記載と同様のものを用いた。親水性繊維として、レーヨン繊維(繊維長2mm)、バインダ繊維として、低融点ポリビニルアルコール(PVA)繊維(融点60℃、繊度1.2dtex、繊維長3mm)を用いた。
【0091】
まず、不織布を湿式法により作製し、これに液体バインダを塗布した。抄造の方法及び条件は実施例1記載と、バインダ塗布の方法及び条件は実施例2記載と同様とする。各繊維の配合割合は、芯鞘型熱融着性繊維50%、親水性繊維30%及びバインダ繊維20%とした。不織布の坪量は、15±3g/m、バインダ塗布量は、5±1g/m(乾燥重量)とした。
【0092】
次に、図2に示した多層すき合わせ紙の製造装置を用いて、多層すき合わせ紙を抄造した。抄造の方法及び条件は、実施例1記載と同様とする。
【実施例6】
【0093】
芯鞘型熱融着性繊維は、実施例1記載と同様のものを用いた。親水性繊維として、レーヨン繊維(繊維長2mm)、バインダ繊維として、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維(融点110℃、繊度1.7dtex、繊維長5mm)を用いた。
【0094】
まず、不織布を湿式法により作製し、これに液体バインダを塗布した。抄造の方法及び条件は実施例1記載と、バインダ塗布の方法及び条件は実施例2記載と同様とする。各繊維の配合割合は、芯鞘型熱融着性繊維50%、親水性繊維20%及びバインダ繊維30%とした。不織布の坪量は、15±3g/m、バインダ塗布量は、5±1g/m(乾燥重量)とした。
【0095】
次に、図2に示した多層すき合わせ紙の製造装置を用いて、多層すき合わせ紙を抄造した。抄造の方法及び条件は、実施例1記載と同様とする。
【実施例7】
【0096】
芯鞘型熱融着性繊維は、実施例1記載と同様のものを用いた。
【0097】
まず、不織布を湿式法により作製した。抄造の方法及び条件は、実施例1記載と同様とする。芯鞘型熱融着性繊維100%で作製し、坪量は30±3g/mとした。
【0098】
不織布表面に、コロナ放電処理を施した。処理条件は、放電エネルギー6.3×10J/mとした。
【0099】
次に、図2に示した多層すき合わせ紙の製造装置を用いて、多層すき合わせ紙を抄造した。抄造の方法及び条件は、実施例1記載と同様とする。
【0100】
(比較例2)
ポリビニルアルコール(PVA)繊維のみから成る不織布を用いた。高融点主体繊維(PVA、融点>100℃、繊度1.2dtex、繊維長3mm)70%、低融点バインダ繊維(PVA、融点70℃、繊度1.2dtex、繊維長3mm)30%の割合で配合し、不織布を湿式法により作製して、これに液体バインダを塗布した。抄造の方法及び条件は実施例1記載と、バインダ塗布の方法及び条件は実施例2記載と同様とする。不織布の坪量は、12±2g/m、バインダ塗布量は、5±1g/m(乾燥重量)とした。
【0101】
図2に示した多層すき合わせ紙の製造装置を用いて、多層すき合わせ紙を抄造した。抄造の方法及び条件は、実施例1記載と同様とする。
【0102】
図6に、実施例2乃至実施例7及び比較例2で抄造した多層すき合わせ紙についての剥離強度を示す。
【0103】
これらの剥離強度から芯鞘型熱融着性繊維を配合した不織布を用いた多層すき合わせ紙(実施例2〜7)は、芯鞘型熱融着性繊維を配合していない不織布を用いた多層すき合わせ紙(比較例2)と比べて、高い剥離強度を示していることが分かる。芯鞘型熱融着性繊維の鞘部の溶融による熱接着効果により、紙料層と不織布層の層間剥離強度が向上した。
【0104】
また、芯鞘型熱融着性繊維における鞘部の融点が95℃の成分を有するものを使用したため、90℃の温水に浸して再度乾燥した後の耐温水性における剥離強度の低下が抑えられた。比較例2では、90℃以下の低融点を持つバインダ繊維と塗布した液体バインダで熱接着を行っているため、90℃の温水に浸すとバインダ繊維が溶融して、耐温水性における剥離強度が低下した。しかし、芯鞘型熱融着性繊維を配合し、さらに液体バインダを塗布することで、低融点のバインダ繊維を配合した水準でも(例えば実施例2及び5)、耐温水性における剥離強度はほとんど低下しなかった。
【0105】
また、芯鞘型熱融着性繊維のみの不織布では、濡れ性が低く撥水性であるため、上下紙料層との馴染みが悪く、地合ムラなどを生じたが、不織布に親水性繊維を配合又はコロナ放電処理を施すことにより、抄造時において上下紙料層との馴染みが良く、地合ムラもなく、剥離強度も高い多層すき合わせ紙が作製できた。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明の一実施例における、多層すき合わせ紙の断面図を示す。
【図2】本発明の一実施例における、芯鞘型熱融着性繊維の断面図を示す。
【図3】本発明の一実施例における、多層すき合わせ紙の製造装置の全体構成を示す。
【図4】本発明における一実施例及び比較例の不織布の繊維配合割合を示す。
【図5】本発明における一実施例及び比較例の多層すき合わせ紙の剥離強度を示す。
【図6】本発明における一実施例及び比較例の多層すき合わせ紙の剥離強度を示す。
【符号の説明】
【0107】
1 上部紙料層
2 不織布
3 下部紙料層
4 芯鞘型熱融着性繊維
5 親水性繊維
6 多層すき合わせ紙
7 熱風乾燥装置
8 長網抄紙機
9 抄紙用のワイヤ
10 従動用プーリ
11 駆動用プーリ
12 下部紙料供給槽
13 不織布供給装置
14 上部紙料供給槽
15 下部紙料
16 上部紙料
17 下部紙料用目止め板
18 上部紙料用目止め板
19 下部紙料層(下部湿紙)
20 不織布供給ドラム
21 テンションロール
22 上部紙料層(上部湿紙)
23 搾水ボックス
24 プレスロール
25 乾燥装置
26 タンディロール
27 リール装置
28 芯部分
29 鞘部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部紙料層、中間層及び下部紙料層の少なくとも3層が積層されて成る多層紙において、
前記中間層は、少なくとも芯鞘型熱融着性繊維と親水性繊維を混抄した不織布から成り、前記芯鞘型熱融着性繊維の鞘部の融点が、前記芯鞘型熱融着性繊維の芯部の融点より低いことを特徴とする多層すき合わせ紙。
【請求項2】
前記不織布において、前記芯鞘型熱融着性繊維と前記親水性繊維が熱融着により繊維間結合して成り、
前記多層紙において、前記不織布の不織布層繊維と、前記上部紙料層及び前記下部紙料層の紙料層繊維とが、親水化及び熱融着により繊維間結合して成ることを特徴とする請求項1記載の多層すき合わせ紙。
【請求項3】
少なくとも芯鞘型熱融着性繊維と親水性繊維を混抄して不織布を作製し、作成した前記不織布を抄紙機上で上部紙料と下部紙料の間にすき合わせ、上部紙料層、前記不織布から成る中間層及び下部紙料層を有する多層すき合わせ紙を形成し、前記多層すき合わせ紙を、前記芯鞘型熱融着性繊維の鞘部の融点を含む温度範囲内で加熱乾燥させることを特徴とする多層すき合わせ紙の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−57668(P2009−57668A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−227565(P2007−227565)
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】