説明

多層シート

【課題】 耐熱性、透明性に優れた多層シートを提供する。
【解決手段】 環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位とナフタレン骨格を有するジカルボン酸に由来する単位を含むポリエステル樹脂(A)から成る層の少なくとも1層と、ポリエステル樹脂(A)を除くポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂及びメチルメタクリレート−スチレン共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種の樹脂から成る少なくとも1層を含む多層シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位及びナフタレン骨格を有するジカルボン酸に由来する単位を持つポリエステル樹脂(A)から成る層と、ポリエステル樹脂(A)以外の樹脂からなる層を含む、透明性、耐熱性に優れた多層シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
透明樹脂によるシートはショーケース、屋外看板、カーポート等のエクステリア用途や透明容器、耐熱透明飲料用カップ、惣菜トレー、再加熱を要する容器、蓋材等の食品用途等の用途を有しており、基材としてポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート−スチレン共重合体等の樹脂が用いられてきた。しかし、ポリカーボネートは耐候性に劣ることや剛性、表面硬度が低いこと、またポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート−スチレン共重合体は耐衝撃性に劣るなどの欠点を有するため、いずれの樹脂も用途には制限があった。
【0003】
一方で、ポリエチレンテレフタレート(以下「PET」ということがある)は透明性、機械的性能、耐溶剤性、保香性、耐候性、リサイクル性等にバランスのとれた樹脂であり、近年、PETの透明シートの需要が拡大している。特に環境ホルモンを発生しない、焼却時にダイオキシンを発生しない、リサイクル可能である等の環境適性に優れることから食品用途で需要が拡大している。しかしながらPETは耐熱性が必ずしも良好でないため、高い耐熱性が要求される分野には利用できない。
【0004】
耐熱性のポリエステルとして、特許文献1の実施例9,10には、エチレングリコールと下記構造式(5):
【化1】

で表される3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン及びジメチルテレフタレートをチタン化合物触媒の存在下で重合せしめて180〜220℃で溶融するポリエステル樹脂が得られたことが記載されている。また同公報中には、開示されているポリエステル樹脂は、ガラス転移点が高く耐熱性に優れるとの記載がなされている。
【0005】
本発明者らが、該米国特許で開示されているポリエステル樹脂を重合したところ、重合はゲル化を伴って進行し、押出成形等の成形に適したポリエステル樹脂を得る事ができなかった。
【0006】
本発明者らは特許文献2にて3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカンを共重合したPETを一層以上含む多層シートを開示している。しかしながら、当該公報に開示された多層シートでは耐熱性が必ずしも十分ではなかった。
【特許文献1】米国特許第2,945,008号明細書
【特許文献2】特開2003−182014号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は前記の如き状況に鑑み、耐熱性、透明性に優れた多層シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位とナフタレン骨格を有するジカルボン酸に由来する単位を含むポリエステル樹脂(A)から成る層の少なくとも1層と、ポリエステル樹脂(A)を除くポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂及びメチルメタクリレート−スチレン共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種の樹脂から成る少なくとも1層を含む多層シートが耐熱性、透明性、及び耐衝撃性に優れ、且つ経済性に優れることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明はジオール単位中の1〜80モル%が環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位であり、ジカルボン酸単位中の1〜100モル%がナフタレン骨格を有するジカルボン酸に由来する単位であるポリエステル樹脂(A)から成る層の少なくとも1層と、ポリエステル樹脂(A)以外のポリエステル樹脂(B)、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂及びメチルメタクリレート−スチレン共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種の樹脂から成る層の少なくとも1層を含む多層シートに関するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の多層シートは、耐熱性、透明性に優れており、エクステリア用途や食品用途などの素材として用いることができ、本発明の工業的意義は大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明の多層シートについて詳細に説明する。
まず初めに、本発明に用いるポリエステル樹脂(A)について説明する。ポリエステル樹脂(A)は一般式(1):
【化2】

または一般式(2):
【化3】

で表される化合物に由来する単位をジオール単位中1〜80モル%有する。一般式(1)と(2)において、RおよびRはそれぞれ独立して、炭素数が1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数が3〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数が6〜10の芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる炭化水素基を表す。RおよびRは、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、又はこれらの構造異性体が好ましい。これらの構造異性体としては、例えば、イソプロピレン基、イソブチレン基が例示される。Rは炭素数が1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数が3〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数が6〜10の芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる炭化水素基を表す。Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、又はこれらの構造異性体が好ましい。これらの構造異性体としては、例えば、イソプロピル基、イソブチル基が例示される。一般式(1)及び(2)の化合物は1種類を単独で用いても良いし、2種類以上を使用しても良い。一般式(1)及び(2)の化合物としては、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン、5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサン等が特に好ましい。
【0012】
ポリエステル樹脂(A)中の環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位の割合は、ジオール単位中1〜80モル%であり、好ましくは5〜60モル%、更に好ましくは10〜45モル%である。環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位を持つ事でポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度が上昇し、本発明の多層シートの耐熱性が向上する為好ましい。
【0013】
また、ポリエステル樹脂(A)は環状アセタール骨格を有しないジオールに由来する単位をジオール単位中20〜99モル%有する。環状アセタール骨格を有しないジオールに由来する単位としては、特に制限はされないが、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール類;1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,2−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,3−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,4−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,5−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,6−デカヒドロナフタレンジメタノール、2,7−デカヒドロナフタレンジメタノール、テトラリンジメタノール、ノルボルナンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロドデカンジメタノール等の脂環式ジオール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等のポリエーテル化合物類;4,4’−(1−メチルエチリデン)ビスフェノール、メチレンビスフェノール(ビスフェノールF)、4,4’−シクロヘキシリデンビスフェノール(ビスフェノールZ)、4,4’−スルホニルビスフェノール(ビスフェノールS)等のビスフェノール類;前記ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物;ヒドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルベンゾフェノン等の芳香族ジヒドロキシ化合物;及び前記芳香族ジヒドロキシ化合物のアルキレンオキシド付加物等のジオールに由来する単位が例示できる。ポリエステル樹脂(A)の機械強度、耐熱性を考慮するとエチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等に由来する単位が好ましく、エチレングリコールに由来する単位が特に好ましい。なお、ポリエステル樹脂(A)は環状アセタール骨格を有しないジオールに由来する単位を上記したものの中から1種類含んでも、2種類以上含んでも良い。
【0014】
本発明に用いるポリエステル樹脂(A)はジカルボン酸単位中の1〜100モル%がナフタレン骨格を有するジカルボン酸に由来する単位である。ナフタレン骨格を有するジカルボン酸単位としては特に制限はないが、例えば1,3−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸に由来する単位である事が好ましく、2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する単位である事が特に好ましい。ポリエステル樹脂(A)はナフタレン骨格を有するジカルボン酸に由来する単位を1種類含んでも、2種類以上含んでも良い。ジカルボン酸単位中の1〜100モル%がナフタレン骨格を有するジカルボン酸に由来する単位である事で、ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度が上昇し、本発明の多層シートの耐熱性が向上する為好ましい。
【0015】
本発明に用いるポリエステル樹脂(A)はジカルボン酸単位中の0〜99モル%がナフタレン骨格を有しないジカルボン酸に由来する単位であり、特に制限はされないが、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸、ペンタシクロドデカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2−メチルテレフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸に由来する単位が例示できる。これらの中で、ポリエステル樹脂(A)の熱物性、機械物性等の面から芳香族ジカルボン酸に由来する単位が好ましく、テレフタル酸、イソフタル酸に由来する単位が特に好ましい。ポリエステル樹脂(A)はナフタレン骨格を有しないジカルボン酸に由来する単位を1種類含んでも、2種類以上含んでも良い。
【0016】
本発明のポリエステル樹脂(A)は耐熱性を考慮すると環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位として3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカンに由来する単位を、ナフタレン骨格を有するジカルボン酸に由来する単位として2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する単位を有する事が好ましく、経済性、機械的性能のバランスをも考慮すると環状アセタール骨格を有しないジオールに由来する単位としてエチレングリコールに由来する単位、ナフタレン骨格を有しないジカルボン酸に由来する単位としてテレフタル酸に由来する単位を有する事が好ましい。
【0017】
本発明に用いるポリエステル樹脂(A)を製造する方法は特に制限はなく、従来公知の方法を適用することができる。例えばエステル交換法、直接エステル化法等の溶融重合法、又は溶液重合法等を挙げることができる。エステル交換触媒、エステル化触媒、エーテル化防止剤、熱安定剤、光安定剤等の各種安定剤、重合調整剤等も従来既知のものを用いることが出来る。
【0018】
次に本発明の多層シートについて説明する。本発明の多層シートは、上述のポリエステル樹脂(A)と、ポリエステル樹脂(A)を除くポリエステル樹脂(B)、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、メチルメタクリレート−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、塩化ビニル樹脂、脂環式ポリオレフィン樹脂から選ばれた1種以上の透明樹脂とを、少なくとも2つ以上の層を有する多層シートに成形する事により得られる。ポリエステル樹脂(B)としてはポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート、1,4−シクロヘキサンジメタノール変性ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレートが好ましい。
【0019】
本発明の多層シートの構成は用途により選択すれば良く、例えばポリエステル樹脂(A)層/透明樹脂層の2種2層、透明樹脂層/ポリエステル樹脂(A)層/透明樹脂層又はポリエステル樹脂(A)層/透明樹脂層/ポリエステル樹脂(A)層の2種3層、ポリエステル樹脂(A)層/透明樹脂層/ポリエステル樹脂(A)層/透明樹脂層/ポリエステル樹脂(A)又は透明樹脂層/ポリエステル樹脂(A)層/透明樹脂層/ポリエステル樹脂(A)層/透明樹脂層の2種5層等の構成が挙げられる。例えばスキン層に透明樹脂を用いる構成で透明樹脂としてアクリル樹脂を選択した場合、ポリエステル樹脂(A)の単層シートに対して耐候性、表面硬度が優れた多層シートが得られる。コア層に透明樹脂を用いる構成で透明樹脂としてアクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、メチルメタクリレート−スチレン共重合体等を選択した場合、これらの樹脂の単層シートに対して耐衝撃性に優れた多層シートが得られる。コア層にポリカーボネート樹脂を選択した場合、ポリカーボネート樹脂の単層シートに対して表面硬度の優れた多層シートが得られる。
【0020】
本発明の多層シートの構成の中で特に好ましい構成はポリエステル樹脂(A)からなる少なくとも1層とポリエステル樹脂(B)からなる少なくとも1層からなる多層シートであり、ポリエステル樹脂(A)/ポリエステル樹脂(B)の2種2層、ポリエステル樹脂(A)/ポリエステル樹脂(B)/ポリエステル樹脂(A)又はポリエステル樹脂(B)/ポリエステル樹脂(A)/ポリエステル樹脂(B)の2種3層、ポリエステル樹脂(A)/ポリエステル樹脂(B)/ポリエステル樹脂(A)/ポリエステル樹脂(B)/ポリエステル樹脂(A)又はポリエステル樹脂(B)/ポリエステル樹脂(A)/ポリエステル樹脂(B)/ポリエステル樹脂(A)/ポリエステル樹脂(B)の2種5層、ポリエステル樹脂(B)/ポリエステル樹脂(A)/ポリエステル樹脂(B’)/ポリエステル樹脂(A)/ポリエステル樹脂(B)又はポリエステル樹脂(A)/ポリエステル樹脂(B)/ポリエステル樹脂(B’)/ポリエステル樹脂(B)/ポリエステル樹脂(A)の3種5層が例示できる。上記構成の中でポリエステル樹脂(B)がポリエチレンテレフタレートであるものが特に好ましい。ポリエステル樹脂(A)とポリエチレンテレフタレートからなる多層シートはポリエチレンテレフタレートの単層シートに対して耐熱性が向上する。この事から、本発明の多層シートは例えば、殺菌、滅菌が必要とされる透明容器、耐熱透明飲料用カップ、惣菜トレー、再加熱を要する容器、蓋材等の食品用包材や、クリアケース/クリアボックス(折り曲げ加工成形品)、電灯カバー、ブリスター、赤道直下を越えるような輸出製品の包材等に好適に使用できる。
【0021】
本発明の多層シートの製造方法としては共押出法、共押出ラミネート法、押出ラミネート法、ドライラミネート法等の公知の積層化技術を用いることができる。またこれらの積層化のために樹脂間に適した接着剤、あるいは接着性樹脂を用いても良い。
【0022】
本発明の多層シートの全光線透過率は、厚さ1.0mmの多層シートをASTM D1003に基づき測定される値で好ましくは86%以上である。86%未満の場合、厚さが1.0mmを越える多層シートでは透明性が不十分となり好ましくない。
【0023】
また、本発明の多層シートは、1.0mm厚の多層シートから、押出方向を縦、幅方向を横として、縦、横100mmの正方形試験片を切り出し、この試験片を5℃刻みのオーブン内で30分加熱し、加熱後の縦及び横方向の収縮率が5%を越えない最高温度が好ましくは85℃以上、より好ましくは90℃以上である。該最高温度が85℃未満の場合、熱水等に触れた場合に多層シートが変形しやすくなり、好ましくない。
【0024】
本発明の多層シートの各層の厚さは、用途、層を形成する樹脂の種類、層の数などに応じて決められるが、通常は、50μm〜10mmである。また、多層シートの総厚さは用途により異なり、例えば、食品向けシート等では0.1〜3mm、建材、商品ディスプレイ用等の厚物シートでは1〜40mmの厚みで使用される。ポリエステル樹脂(A)層と透明樹脂層の層数の合計は通常6層までである。
【0025】
本発明の多層シートは、建材用途では例えば、自動販売機電照板、ショーケース、屋外看板、カーポート等のエクステリア用途、各種産業機械カバー、風防、間仕切り板等に使用することができる。また、食品用途として、例えば、殺菌、滅菌が必要とされる透明容器、耐熱透明飲料用カップ、惣菜トレー、再加熱を要する容器、蓋材等が挙げられる。その他の分野では、クリアケース/クリアボックス(折り曲げ加工成形品)、電灯カバー、ブリスター、赤道直下を越えるような輸出製品の包材等が挙げられる。
【実施例】
【0026】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によりその範囲を限定されるものではない。
【0027】
〔ポリエステル樹脂(A)の合成〕
充填塔式精留塔、分縮器、全縮器、コールドトラップ、撹拌機、加熱装置、窒素導入管を備えた0.15立方メートルのポリエステル製造装置に表1、2に記載量の原料モノマーを仕込み、ジカルボン酸成分100モルに対し酢酸マンガン四水和物0.03モルの存在下、窒素雰囲気下で215℃迄昇温してエステル交換反応を行った。メタノールの留出量が理論量に対して80%以上に達した後、ジカルボン酸成分100モルに対し、酸化アンチモン(III)0.01モルとリン酸トリエチル0.06モルを加え、昇温と減圧を徐々に行い、最終的に280℃、100Pa以下で重合を行った。適度な溶融粘度になった時点で反応を終了し、ポリエステル樹脂(A)を得た。
【0028】
〔多層シートの作製〕
コア層原料を65mm押出機を用い押出し、一方、スキン層原料は30mm押出機を用いて押出し、フィードブロックタイプのダイを用いて2種3層の多層シート(多層シート厚み:約1.0mm、スキン層厚み:約100μm)を作製した。なお、ポリエチレンテレフタレート(PET)として日本ユニペット(株)製、UNIPET RT553Cを、ポリカーボネートとして三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、ユーピロンE−2000を使用した。
【0029】
〔多層シート成形体の作製〕
多層シートを株式会社浅野研究所製真空圧空成形機で絞り比0.5のカップに成形した。
【0030】
〔ポリエステル樹脂(A)の評価〕
(1)樹脂組成
各構成単位の組成をH−NMR測定にて算出した。測定装置は日本電子(株)製JNM−AL400を用い、400MHzで測定した。溶媒には重クロロホルムを用いた。
(2)ガラス転移温度
ポリエステル樹脂のガラス転移温度は島津製作所製DSC/TA−50WSを使用し、ポリエステル樹脂約10mgをアルミニウム製非密封容器に入れ、窒素ガス(30ml/min)気流中、昇温速度20℃/minで280℃まで加熱、溶融したものを急冷して測定用試料とした。該試料を同条件で測定し、DSC曲線の転移前後における基線の差の1/2だけ変化した温度をガラス転移温度とした。
【0031】
〔多層シートの評価〕
(1)耐熱性
1.0mm厚の多層シートから、押出方向を縦、幅方向を横として、縦、横100mmの正方形試験片を切り出し、この試験片を5℃刻みのオーブン内で30分加熱し、加熱後の縦及び横方向の収縮率が5%を越えない最高温度とした。
(2)全光線透過率
JIS−K−7105、ASTM D1003に準じて1.0mm厚の多層シートを測定した。使用した測定装置は、日本電色工業社製の曇価測定装置(型式:COH−300A)である。
(3)曇価(ヘイズ)
JIS−K−7105、ASTM D1003に準じて、1.0mm厚の多層シートを測定した。使用した測定装置は、日本電色工業社製の曇価測定装置(型式:COH−300A)である。
(4)層構成
ガラスナイフで削って平滑にした多層シートの断面を顕微鏡で観察して、各層の厚みを計測した。
【0032】
〔多層シート成形体の評価〕
(1)耐熱性
多層シート成形体を5℃刻みのオーブン内で30分加熱し、加熱後の容積の保持率が95%以下とならない最高温度とした。なお、容積の保持率は処理前後の容器に充填できる水の重さから算出した。
【0033】
表中の略語を以下に示す。
DMT:ジメチルテレフタレート
EG:エチレングリコール
SPG:3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン
DOG:5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサン
PET:ポリエチレンテレフタレート
PC:ポリカーボネート
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジオール単位中の1〜80モル%が環状アセタール骨格を有するジオールに由来する単位であり、ジカルボン酸単位中の1〜100モル%がナフタレン骨格を有するジカルボン酸に由来する単位であるポリエステル樹脂(A)から成る層の少なくとも1層と、ポリエステル樹脂(A)以外のポリエステル樹脂(B)、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂及びメチルメタクリレート−スチレン共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種の樹脂から成る層の少なくとも1層を含む多層シート。
【請求項2】
ポリエステル樹脂(A)の環状アセタール骨格を有するジオール単位が一般式(1):
【化1】

(式中、RおよびRはそれぞれ独立して、炭素数が1〜10の脂肪族基、炭素数が3〜10の脂環式基、及び炭素数が6〜10の芳香族基からなる群から選ばれる有機基を表す。)
または一般式(2):
【化2】

(式中、Rは前記と同様であり、Rは炭素数が1〜10の脂肪族基、炭素数が3〜10の脂環式基、及び炭素数が6〜10の芳香族基からなる群から選ばれる有機基を表す。)
で表されるジオールに由来する単位である請求項1に記載の多層シート。
【請求項3】
ポリエステル樹脂(A)の環状アセタール骨格を有するジオール単位が3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン、または5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサンに由来する単位である請求項1に記載の多層シート。
【請求項4】
ポリエステル樹脂(A)のジカルボン酸単位中のナフタレン骨格を有するジカルボン酸単位が1,3−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸からなる群から選ばれる1種以上のジカルボン酸に由来する単位である請求項1ないし3のいずれかに記載の多層シート。
【請求項5】
下記の(1)ないし(2)の物性を有する請求項1ないし4のいずれかに記載の多層シート。
(1)厚さ1.0mmの多層シートの全光線透過率が86%以上である。
(2)1.0mm厚の多層シートから、押出方向を縦、幅方向を横として、縦、横100mmの正方形試験片を切り出し、この試験片を5℃刻みのオーブン内で30分加熱したとき、加熱後の縦及び横方向の収縮率が5%を越えない最高温度が85℃以上である。
【請求項6】
ポリエステル樹脂(A)以外の樹脂から成る層がポリエステル樹脂(B)から成る層である請求項1ないし5のいずれかに記載の多層シート。
【請求項7】
ポリエステル樹脂(B)がポリエチレンテレフタレートである請求項1ないし6のいずれかに記載の多層シート。

【公開番号】特開2008−188875(P2008−188875A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−25643(P2007−25643)
【出願日】平成19年2月5日(2007.2.5)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】