説明

多層フィルム、薬液バッグとその製造方法、および薬液バッグの滅菌処理方法

【課題】耐熱性に優れ、高温滅菌処理後に柔軟性や透明性を維持でき、周縁シール部の形成および余剰部分の切断時に、カッターへの溶着を防止できる多層フィルムと、これを用いた薬液バッグおよびその製造方法と、薬液バッグの滅菌処理方法とを提供すること。
【解決手段】第1層(外層)1が、DSC融点120〜125℃、密度0.930〜0.937g/cm3の直鎖状ポリエチレン(PE−L)55〜85重量%と、DSC融点160〜165℃のプロピレンホモポリマー15〜45重量%との混合物などからなり、第2層2から第5層(内層)5がいずれもPE−Lからなり、第2層2と第4層4のDSC融点が120〜125℃、密度が0.910〜0.920g/cm3であり、第3層3のDSC融点が120〜125℃、密度が0.930〜0.937g/cm3である多層フィルムを用い、薬液バッグを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層フィルムと、その多層フィルムを用いた薬液バッグおよびその製造方法と、その薬液バッグを用いた滅菌処理方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、輸液などの薬液を収容するための容器としては、柔軟なプラスチックフィルムからなる薬液バッグが主流である。この薬液バッグは、取扱いやすく、廃棄が容易であるという利点を有している。そして、この薬液バッグは、薬液と直接に接触するものであることから、安全性が確立されているポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンで形成されたものが汎用されている。
【0003】
特許文献1には、密度0.920〜0.930g/cm3のメタロセン触媒を使用して重合される線状低密度ポリエチレンまたはエチレン−α−オレフィン共重合体(これらを、「メタロセンポリエチレン」という。)より形成される外層と、密度0.890〜0.920g/cm3のメタロセンポリエチレンと、密度0.920〜0.930g/cm3のメタロセンポリエチレンと、密度0.910〜0.930g/cm3のチーグラー・ナッタ触媒により重合される線状低密度ポリエチレンまたはエチレン−α−オレフィン共重合体とからなる重合体組成物より形成される内層との積層体からなる医療用容器が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、密度0.928g/cm3以上のメタロセン触媒系直鎖状ポリエチレン45〜75重量%と、高圧法低密度ポリエチレン5〜35重量%と、密度0.91g/cm3以下のメタロセン触媒系直鎖状ポリエチレン15〜45重量%とを含む重合体組成物から形成される耐熱性シートと、この耐熱性シートを用いて形成された輸液バッグとが記載されている。
【0005】
特許文献3には、プロピレン−α−オレフィンランダムコポリマーとプロピレンホモポリマーとの混合物からなるシール層と、このシール層の表面に形成され、プロピレン・α−オレフィンランダムコポリマーなどとエチレン・α−オレフィン共重合体エラストマーとの混合物からなる第1柔軟層と、この第1柔軟層の表面に形成され、プロピレンホモポリマー、ポリ環状オレフィンなどからなる補強層と、この補強層の表面に形成され、上記第1柔軟層と同様の混合物からなる第2柔軟層と、この第2柔軟層の表面に形成され、プロピレンホモポリマー、プロピレン・α−オレフィンランダムコポリマーなどからなる最外層と、を備える5層構造のプラスチックフィルムと、このプラスチックフィルムを用いて形成された容器とが記載されている。
【0006】
また、薬液バッグの製造には、例えば、2枚のプラスチックフィルムを重ね合わせて、その周縁部を溶着金型でプレスし、熱溶着することにより、周縁シール部を形成しつつ、この周縁シール部の外周端縁を、溶着金型に取り付けられているカッターで切断する製造方法が採用されている。この製造方法を採用することにより、周縁シール部の形成と、プラスチックフィルムの余剰部分の切断、除去とを1つの工程ですることができ、生産効率を向上させることができる。
【特許文献1】特開2002−238975号公報
【特許文献2】特開2001−172441号公報
【特許文献3】特開2006−21504号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかるに、輸液などの薬液は、通常、薬液バッグに収容、密封された状態で、高圧蒸気滅菌、熱水シャワー滅菌などの加熱滅菌処理が施される。これら加熱滅菌処理の温度条件は、一般に、105〜110℃程度であるが、薬液の種類、用法などにより、116〜118℃の高温条件下での滅菌処理が必要になる場合もある。
しかしながら、薬液バッグが一般的なポリエチレンで作製されている場合には、薬液バッグの耐熱性が低くなる傾向があり、高温条件下の滅菌処理によって薬液バッグの変形、破損、透明性の低下といった不具合が生じる。
【0008】
しかも、このような不具合は、特許文献1および2に記載の薬液バッグ(医療用容器、輸液バッグ)のように、ポリエチレンとして、メタロセン触媒で重合された直鎖状低密度ポリエチレンを使用した場合であっても、十分な解決を図ることができない。それゆえ、これら特許文献1および2に記載の容器は、116〜118℃での滅菌処理に供することができない。
【0009】
また、薬液バッグが一般的なポリプロピレンで形成されている場合には、薬液バッグの柔軟性が低下する傾向がある。このため、薬液バッグの収容部の膨らみが、薬液の収容量に合わせて変形しにくくなり、例えば、薬液バッグからの薬液排出速度のばらつきや、薬液バッグの表面に付された残量目盛りと実際の残量とのズレが生じるといった不具合が顕著になる。
【0010】
しかも、このような不具合は、特許文献3に記載の容器のように、多層フィルム中に、プロピレン系ポリマーとポリエチレン系ポリマーとの混合物からなる柔軟層を設けた場合であっても、十分に解決することができない。それゆえ、特許文献3に記載の容器は、柔軟性の点で難がある。
このため、薬液バッグの柔軟性、透明性などの基本的な性能を維持しながら、耐熱性を向上させることが求められている。
【0011】
さらに、薬液バッグが、一般的なポリエチレンや、メタロセン触媒で重合された直鎖状低密度ポリエチレンなどの、ポリエチレン系ポリマーで形成されている場合には、1つの工程で周縁シール部の形成と、プラスチックフィルムの余剰部分の切断、除去とをする製造方法を採用した場合に、カッターの刃先にプラスチックフィルムが溶着するという不具合が生じる。このようなカッターへのプラスチックフィルムの溶着は、ライントラブルの原因となり、また、薬液バッグの破損、カッターの切れ味の低下といった各種の不具合の原因にもなる。
【0012】
本発明の目的は、116〜118℃での滅菌処理に耐え得る優れた耐熱性を備え、かかる滅菌処理後に柔軟性や透明性を維持することができ、しかも、溶着金型による周縁シール部の形成およびその外周端縁の切断時に、カッターへのプラスチックフィルムの溶着を防止できる多層フィルムと、この多層フィルムを用いた薬液バッグと、上記多層フィルムを用いた生産効率の優れた薬液バッグの製造方法と、上記薬液バッグの滅菌処理方法と、を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の多層フィルムは、
第1層と、前記第1層に積層される第2層と、前記第2層に積層される第3層と、前記第3層に積層される第4層と、前記第4層に積層される第5層とを備え、
前記第1層が、DSC融点が120〜125℃、密度が0.930〜0.937g/cm3の直鎖状ポリエチレン55〜85重量%と、DSC融点が160〜165℃のプロピレンホモポリマー15〜45重量%とからなるか、または、DSC融点が130〜132℃、密度が0.955〜0.970g/cm3の高密度ポリエチレンからなり、
前記第2層および第4層が、直鎖状ポリエチレンからなり、かつ、DSC融点が120〜125℃、密度が0.910〜0.920g/cm3であり、
前記第3層が、直鎖状ポリエチレンからなり、かつ、DSC融点が120〜125℃、密度が0.930〜0.937g/cm3であり、
前記第5層が、DSC融点が120〜125℃、密度が0.930〜0.937g/cm3の直鎖状ポリエチレン85〜95重量%と、密度が0.910〜0.930g/cm3の直鎖状ポリエチレン5〜15重量%とからなる、ことを特徴としている。
【0014】
上記多層フィルムでは、第1層で、直鎖状ポリエチレンおよびプロピレンホモポリマーの混合物が用いられるか、あるいは、高密度ポリエチレンが用いられており、第2層から第5層で、直鎖状ポリエチレンが用いられている。さらに、第1層では、滅菌処理による多層フィルムの透明性の低下を抑制し、溶着金型の切断用カッターへの溶着を防止するという観点より、第2層および第4層では、多層フィルムに適度な柔軟性を付与するという観点より、第3層では、多層フィルムの熱変形を抑制するという観点より、ならびに、第5層では、滅菌処理による多層フィルムの透明性の低下を抑制するという観点より、各層のDSC融点と密度とが、それぞれ特定の範囲に設定されている。
【0015】
このため、上記多層フィルムによれば、耐熱性を極めて優れたものとすることができ、この多層フィルムを用いて形成された薬液バッグを116〜118℃での滅菌処理に供することができる。また、上記多層フィルムによれば、その柔軟性や透明性が極めて良好なものとすることができ、116〜118℃での滅菌処理後においても、適度な柔軟性と、優れた透明性とを維持することができる。
【0016】
しかも、上記多層フィルムによれば、この多層フィルムを、その第1層が外層となり、第5層が内層となるように使用し、かつ、周縁シール部の形成とプラスチックフィルムの余剰部分の切断、除去とを1つの工程でする製造方法を採用して、薬液バッグを製造した場合において、溶着金型の切断用カッターへの溶着を防止することができる。それゆえ、上記多層フィルムによれば、薬液バッグの製造に上述の製造方法を採用することができ、薬液バッグの生産効率を向上させることができる。
【0017】
本発明の多層フィルムは、前記第2層および第4層の直鎖状ポリエチレンが、密度が0.900〜0.910g/cm3のシングルサイト触媒で重合されたポリエチレン60〜80重量%と、密度が0.910〜0.930g/cm3のチーグラー触媒で重合された直鎖状ポリエチレン10〜30重量%と、密度が0.950〜0.970g/cm3の高密度ポリエチレン5〜15重量%と、からなっていることが好適である。
【0018】
この好適態様によれば、多層フィルムの柔軟性をさらに向上させることができる。
本発明の多層フィルムは、前記第3層の直鎖状ポリエチレンが、DSC融点が120〜125℃、密度が0.930〜0.937g/cm3のチーグラー触媒で重合された直鎖状ポリエチレンであることが好適である。
この好適態様によれば、116〜118℃での滅菌処理に対する耐熱性をさらに向上させることができる。
【0019】
また、本発明の多層フィルムは、前記第1層および第3層の厚さが10〜30μmであり、前記第2層および第4層の厚さが45〜70μmであり、かつ、前記第5層の厚さが15〜45μmであることが好適である。
第1層から第5層の各層の厚みをそれぞれ上記範囲に設定することにより、多層フィルムや、この多層フィルムを用いて形成される薬液バッグの柔軟性を維持しつつ、十分な機械的強度を付与することができる。
【0020】
また、上記目的を達成するために、本発明の薬液バッグは、本発明の多層フィルムから、前記第1層が外層となり、前記第5層が内層となるように形成されていることを特徴としている。
上記薬液バッグは、本発明の多層フィルムを用いて形成されていることから、耐熱性が極めて優れており、116〜118℃での滅菌処理に供することができる。さらに、柔軟性や透明性が極めて良好なものとなり、116〜118℃での滅菌処理後においても、適度な柔軟性と、優れた透明性とを維持することができる。
【0021】
また、上記目的を達成するために、本発明の薬液バッグの製造方法は、本発明の多層フィルムを、前記第1層が外層となり、前記第5層が内層となるように2枚重ね合わせた後、こうして重ね合わされた多層フィルムの周縁部の各前記第1層側表面を加熱圧着することにより、周縁シール部を形成しつつ、前記周縁シール部の外周端縁で前記多層フィルムを切断することを特徴としている。
【0022】
上記薬液バッグの製造方法では、溶着金型の圧着面やプラスチックフィルム切断用のカッターの刃先が、多層フィルムの第1層と接触することとなる。また、多層フィルムの第1層は、上述のとおり、溶着金型の切断用カッターへの溶着を防止するという観点より、その組成、DSC融点および密度が設定されている。
このため、上記薬液バッグの製造方法によれば、周縁シール部の形成およびその外周端縁の切断時において、上記多層フィルムがカッターに溶着するという不具合の発生を防止することができる。また、このことにより、薬液バッグの生産効率を向上させることができる。
【0023】
本発明の薬液バッグの製造方法においては、前記加熱圧着の条件が、金型温度130〜140℃、圧力0.3〜0.5MPa、加圧時間1〜2秒であることが好適である。
上記条件下で加熱圧着をすることにより、周縁シール部におけるシール不良、しわの発生、多層フィルムの破損、などの不具合を防止し、シール強度や外観の良好な周縁シール部を形成することができる。
【0024】
また、上記目的を達成するために、本発明の薬液バッグの滅菌処理方法は、本発明の薬液バッグに薬液を充填、密閉し、116〜118℃で加熱滅菌することを特徴としている。
上記滅菌処理に用いられる薬液バッグは、その薬液バッグが本発明の多層フィルムから形成されているため、耐熱性が極めて優れており、116〜118℃での滅菌処理に耐えることができ、しかも、その適度な柔軟性や良好な透明性を、116〜118℃での滅菌処理後においても維持することができる。
【0025】
それゆえ、上記薬液バッグの滅菌処理方法によれば、薬液バッグの柔軟性や透明性を維持しつつ、薬液バッグに収容されている薬液に高度な滅菌処理を施すことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の多層フィルムによれば、柔軟性や透明性に優れ、高温条件下での滅菌処理に耐え得る本発明の薬液バッグを提供することができる。また、本発明の薬液バッグの製造方法によれば、本発明の薬液バッグを効率よく製造することができる。また、本発明の薬液バッグの滅菌処理方法によれば、輸液バッグの柔軟性や透明性を維持しつつ、高温条件下での滅菌処理をすることができる。
【0027】
それゆえ、本発明は、種類、用途などにより高温条件下での滅菌処理が必要となる薬液を収容、保存する用途への適用に、特に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
図1は、本発明の多層フィルムの層構成を示す概略構成図である。図2は、本発明の薬液バッグの一実施形態を示す正面図であり、図3は、図2のA−A部における多層フィルムの概略断面図である。また、図4は、本発明の薬液バッグの他の実施形態を示す正面図である。また、図5は、本発明の薬液バッグの製造に用いられる溶着金型の一例を概念的に示す斜視図であり、図6は、図5のB−B断面図である。
【0029】
以下、まず、図1を参照しつつ、本発明の多層フィルムについて説明する。なお、以下の説明において、複数の実施形態を通じて、同一または同種の部分に同一の符号を示す。
図1を参照して、この多層フィルムは、第1層1と、第1層1に積層される第2層2と、第2層2に積層される第3層3と、第3層3に積層される第4層4と、第4層4に積層される第5層5とを備えている。
【0030】
第1層1は、多層フィルムの一方側表面に配置される層であって、後述する薬液バッグの外層を形成する層である。
また、第1層1は、
(i)DSC融点が120〜125℃、密度が0.930〜0.937g/cm3の直鎖状ポリエチレン55〜85重量%と、DSC融点が160〜165℃のプロピレンホモポリマー15〜45重量%とからなるか、または、
(ii)DSC融点が130〜132℃、密度が0.955〜0.970g/cm3の高密度ポリエチレンからなる。
【0031】
なお、多層フィルムを形成する各層において、DSC融点とは、示差走査熱量測定(DSC)で得られるDSC曲線の融解ピークの頂点の温度(融解ピーク温度Tpm(℃);JIS K 7121-1987参照)をいう(以下同じ)。また、密度は、米国材料試験協会(ASTM)のD1505に準じて測定した(以下同じ)。
上記多層フィルムは、その第1層1が、上記(i)に示す混合物または上記(ii)に示す高密度ポリエチレンから形成され、かつ、上記(i)に示す混合物や上記(ii)に示す高密度ポリエチレンについて、そのDSC融点や密度が上記範囲を満たしており、さらに、上記(i)に示す混合物について、各成分の混合割合が上記範囲を満たしていることから、耐熱性や透明性が良好である。
【0032】
また、これにより、上記多層フィルムからなる薬液バッグに116〜118℃での滅菌処理(以下、この温度範囲での滅菌処理を「高温滅菌処理」という。)を施したときであっても、透明性の低下、しわの発生といった不具合の発生を防止することができ、さらに、第1層1と、後述する第2層2との間の接着強度(層間強度)を良好なものとすることができる。
【0033】
さらに、上記多層フィルム2枚を第1層1が外層となるように重ね合わせて使用し、1つの工程で周縁シール部の形成と、プラスチックフィルムの余剰部分の切断、除去とをする製造方法を採用して、薬液バッグを作製する場合であっても、カッターの刃先にプラスチックフィルムが溶着するといった不具合の発生を防止することができる。
第1層1が、上記(i)に示す混合物からなる場合において、DSC融点が120〜125℃、密度が0.930〜0.937g/cm3の直鎖状ポリエチレンとしては、例えば、チーグラー触媒で重合されたエチレン−α−オレフィン共重合体が挙げられる。
【0034】
チーグラー触媒としては、ポリエチレンの製造に用いられている各種のチーグラー触媒(チーグラー−ナッタ触媒)が挙げられる(以下、同じ)。
チーグラー触媒で重合されたエチレン−α−オレフィン共重合体におけるα−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセンなどの炭素数3〜12のα−オレフィンが挙げられる。これらα−オレフィンは、単独で用いてもよく、または2種以上を混合して用いてもよい。また、α−オレフィンは、上記例示のなかでも、好ましくは、プロピレン、1−ブテンであり、さらに好ましくは、1−ブテンである。チーグラー触媒エチレン−α−オレフィン共重合体中のα−オレフィンの含有割合は、エチレン−α−オレフィン共重合体に要求される密度に合わせて適宜設定される。
【0035】
また、第1層1が、上記(i)に示す混合物である場合において、DSC融点が160〜165℃のプロピレンホモポリマーとしては、特に限定されないが、例えば、好ましくは、アイソタクチックペンタッド分率が0.97以上のものが挙げられる。アイソタクチックペンタッド分率が0.97以上であるプロピレンホモポリマーは、その立体規則性が極めて高く、DSC融点が高い。一方、アイソタクチックペンタッド分率が0.97を下回ると、一般的に、プロピレンホモポリマーのDSC融点が160℃を下回る。
【0036】
上記プロピレンホモポリマーについて、その分子量、重合度、分子量分布、密度などの範囲は特に限定されず、DSC融点が上記範囲に設定される範囲において、適宜選択することができる。
また、第1層1が、上記(i)に示す混合物である場合において、DSC融点が120〜125℃、密度が0.930〜0.937g/cm3の直鎖状ポリエチレン(ここでは、単に「直鎖状ポリエチレン」という。)と、DSC融点が160〜165℃のプロピレンホモポリマー(ここでは、単に「プロピレンホモポリマー」という。)との含有割合は、第1層1全体に対し、直鎖状ポリエチレンが55〜85重量%、好ましくは、60〜80重量%であり、プロピレンホモポリマーが15〜45重量%、好ましくは、20〜40重量%である。プロピレンホモポリマーの含有割合が上記範囲を上回ると(または、直鎖状ポリエチレンの含有割合が上記範囲を下回ると)、第1層1が硬くなり、耐衝撃性が低下する。逆に、直鎖状ポリエチレンの含有割合が上記範囲を上回ると(または、プロピレンホモポリマーの含有割合が上記範囲を下回ると)、第1層1の耐熱性や透明性が低下し、また、1つの工程で周縁シール部の形成と、プラスチックフィルムの余剰部分の切断、除去とをする製造方法を採用して、薬液バッグを作製する場合に、金型温度を周縁シール部の形成に適した温度まで上昇することにより、カッターの刃先にプラスチックフィルムが溶着する不具合が発生する。
【0037】
一方、第1層1が、上記(ii)に示す高密度ポリエチレンからなる場合において、DSC融点が130〜132℃、密度が0.955〜0.970g/cm3の高密度ポリエチレンの高密度ポリエチレンとしては、例えば、チーグラー触媒で重合された高密度のエチレン−α−オレフィン共重合体や、高密度のエチレンホモポリマーが挙げられ、これらは、単独で用いてもよく、または2種以上を混合して用いてもよい。
【0038】
チーグラー触媒で重合された高密度のエチレン−α−オレフィン共重合体は、密度範囲が異なること以外は、上記したチーグラー触媒で重合されたエチレン−α−オレフィン共重合体と同じである。
また、第1層1が、上記(ii)に示す高密度ポリエチレンからなる場合において、その密度は、上記範囲のなかでも特に好ましくは、0.955〜0.965g/cm3である。
【0039】
第1層1の厚みは、多層フィルムや、これを用いて形成される薬液バッグの機械的強度などの観点から適宜設定すればよいが、例えば、多層フィルムの総厚みに対し、好ましくは、約5〜15%である。
また、第1層1の厚みは、例えば、多層フィルムの総厚みが180〜260μmである場合において、好ましくは、10〜30μmであり、さらに好ましくは、15〜25μmである。
【0040】
第2層2は、第1層1と後述する第3層3との間に配置される層であって、後述する薬液バッグの中外層を形成する層である。
また、第2層2は、直鎖状ポリエチレンから形成され、そのDSC融点が120〜125℃であり、その密度が0.910〜0.920g/cm3である。
上記多層フィルムは、その第2層2を形成する直鎖状ポリエチレンのDSC融点や密度が上記範囲を満たしていることから、柔軟性が良好である。また、これにより、上記多層フィルムからなる薬液バッグに高温滅菌処理を施したときであっても、透明性の低下、しわの発生といった不具合の発生を防止することができ、さらに、第2層2と、第1層1および後述する第3層3との間の接着強度(層間強度)を良好なものとすることができる。
【0041】
第2層2を形成する直鎖状ポリエチレンのDSC融点は、上記範囲のなかでも、好ましくは、123〜125℃であり、密度は、上記範囲のなかでも、好ましくは、0.910〜0.915g/cm3である。
第2層2を形成する直鎖状ポリエチレンとしては、そのDSC融点および密度が上記範囲を満たす直鎖状ポリエチレンを単独で用いることができ、また、2種以上の直鎖状ポリエチレンの混合物であって、その混合物のDSC融点と密度とがいずれも上記範囲を満たすように調整されたものを用いることができる。
【0042】
第2層2を形成する直鎖状ポリエチレンが、DSC融点および密度が上記範囲を満たす直鎖状ポリエチレン単独である場合において、このような直鎖状ポリエチレンとしては、例えば、エチレン−α−オレフィン共重合体が挙げられ、好ましくは、シングルサイト触媒で重合されたエチレン−α−オレフィン共重合体が挙げられ、さらに好ましくは、メタロセン触媒で重合されたエチレン−α−オレフィン共重合体が挙げられる。
【0043】
シングルサイト触媒としては、ポリエチレンの製造に用いられている各種のシングルサイト触媒が挙げられ、好ましくは、各種のメタロセン触媒が挙げられる(以下、同じ)。
メタロセン触媒で重合されたエチレン−α−オレフィン共重合体のα−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセンなどの炭素数3〜12のα−オレフィンが挙げられる。これらα−オレフィンは、単独で用いてもよく、または2種以上を混合して用いてもよい。また、α−オレフィンは、上記例示のなかでも、好ましくは、プロピレン、1−ブテンであり、さらに好ましくは、1−ブテンである。α−オレフィンの含有割合は、エチレン−α−オレフィン共重合体に要求される密度に合わせて適宜設定される。
【0044】
第2層2を形成する直鎖状ポリエチレンが、2種以上の直鎖状ポリエチレンの混合物である場合において、この混合物を形成する直鎖状ポリエチレンとしては、例えば、メタロセン触媒で重合されたエチレン−α−オレフィン共重合体、チーグラー触媒で重合されたエチレン−α−オレフィン共重合体、高密度ポリエチレンなどが挙げられ、なかでも好ましくは、メタロセン触媒で重合されたエチレン−α−オレフィン共重合体を主体とし、これにチーグラー触媒で重合されたエチレン−α−オレフィン共重合体と、高密度ポリエチレンとを混合した混合物が挙げられる。
【0045】
また、メタロセン触媒で重合されたエチレン−α−オレフィン共重合体と、チーグラー触媒で重合されたエチレン−α−オレフィン共重合体と、高密度ポリエチレンとを混合する場合において、それぞれの密度や混合割合は、第2層2に要求される密度に合わせて、適宜設定される。
第2層2を形成する直鎖状ポリエチレンの好適態様としては、例えば、密度が0.900〜0.910g/cm3のシングルサイト触媒で重合されたポリエチレン60〜80重量%と、密度が0.910〜0.930g/cm3のチーグラー触媒で重合された直鎖状ポリエチレン10〜30重量%と、密度が0.950〜0.970g/cm3の高密度ポリエチレン5〜15重量%と、からなる混合物が挙げられる。
【0046】
また、第2層2を形成する直鎖状ポリエチレンが、2種以上の直鎖状ポリエチレンを混合する場合においては、直鎖状ポリエチレンとして、例えば、互いにMFRなどが異なる2種以上のエチレン−α−オレフィン共重合体の混合物を用いることもできる。
第2層2の厚みは、多層フィルムや、これを用いて形成される薬液バッグの柔軟性などの観点から適宜設定すればよいが、例えば、多層フィルムの総厚みに対し、好ましくは、約25〜45%である。
【0047】
また、第2層2の厚みは、例えば、多層フィルムの総厚みが180〜260μmである場合において、好ましくは、45〜70μmであり、さらに好ましくは、45〜60μmである。
また、第2層2の厚みは、後述する第4層4の厚みに対し、好ましくは、0.8〜1.25倍であり、特に好ましくは、第4層4の厚みと同じである。
【0048】
第3層3は、第2層2を挟んで、第1層1と対向配置される層であって、後述する薬液バッグの中間層を形成する層である。
また、第3層3は、直鎖状ポリエチレンから形成され、そのDSC融点が120〜125℃であり、その密度が0.930〜0.937g/cm3である。
上記多層フィルムは、その第3層3を形成する直鎖状ポリエチレンのDSC融点や密度が上記範囲を満たしていることから、多層フィルムの耐熱性が良好である。また、これにより、多層フィルムからなる薬液バッグに高温滅菌処理を施した場合であっても、透明性の低下、しわの発生といった不具合の発生を防止することができ、高温滅菌処理後における多層フィルムの変形を抑制することができる。さらに、後述する薬液バッグに対し、衝撃に対する強度などの優れた機械的強度を付与することができ、また、第3層3と、第2層2および後述する第4層4との間の接着強度(層間強度)を良好なものとすることができる。
【0049】
第3層3を形成する直鎖状ポリエチレンのDSC融点は、上記範囲のなかでも、好ましくは、123〜125℃であり、密度は、上記範囲のなかでも、好ましくは、0.933〜0.936g/cm3である。
第3層3を形成する直鎖状ポリエチレンとしては、そのDSC融点および密度が上記範囲を満たす直鎖状ポリエチレンを単独で用いることができ、また、2種以上の直鎖状ポリエチレンの混合物であって、その混合物のDSC融点と密度とがいずれも上記範囲を満たすように調整されたものを用いることができる。
【0050】
第3層3を形成する直鎖状ポリエチレンが、DSC融点および密度が上記範囲を満たす直鎖状ポリエチレン単独である場合において、このような直鎖状ポリエチレンとしては、例えば、チーグラー触媒で重合されたエチレン−α−オレフィン共重合体が挙げられる。
チーグラー触媒で重合されたエチレン−α−オレフィン共重合体としては、上記と同じものが挙げられる。
【0051】
一方、第3層3を形成する直鎖状ポリエチレンが、2種以上の直鎖状ポリエチレンの混合物である場合において、この混合物を形成する直鎖状ポリエチレンとしては、例えば、直鎖状低密度または中密度ポリエチレンと、高密度ポリエチレンとが挙げられ、好ましくは、直鎖状低密度または中密度ポリエチレンを主体とし、これに高密度ポリエチレンを混合した混合物が挙げられる。
【0052】
この場合において、直鎖状低密度または中密度ポリエチレンとしては、例えば、チーグラー触媒で重合されたエチレン−α−オレフィン共重合体が挙げられる。また、高密度ポリエチレンとしては、例えば、チーグラー触媒で重合された高密度のエチレン−α−オレフィン共重合体や、高密度のエチレンホモポリマーが挙げられ、これらは、単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0053】
直鎖状低密度または中密度ポリエチレンと、高密度ポリエチレンとの混合割合は、第1層1に要求されるDSC融点や密度に合わせて、適宜設定される。
第3層3を形成する直鎖状ポリエチレンの好適態様としては、例えば、
(a)DSC融点が120〜125℃、密度が0.930〜0.937g/cm3のチーグラー触媒で重合された直鎖状ポリエチレンのみからなる態様と、
(b)DSC融点が120〜125℃、密度が0.930〜0.937g/cm3のチーグラー触媒で重合された直鎖状ポリエチレン75〜90重量%と、密度が0.950〜0.970g/cm3の高密度ポリエチレン10〜25重量%と、からなる混合物
が挙げられる。
【0054】
また、2種以上の直鎖状ポリエチレンを混合する場合においては、直鎖状ポリエチレンとして、例えば、互いにメルトフローレート(MFR)などが異なる2種以上のエチレン−α−オレフィン共重合体の混合物を用いることもできる。
第3層3の厚みは、多層フィルムや、これを用いて形成される薬液バッグの機械的強度などの観点から適宜設定すればよいが、例えば、多層フィルムの総厚みに対し、好ましくは、約5〜15%である。
【0055】
また、第3層3の厚みは、例えば、多層フィルムの総厚みが180〜260μmである場合において、好ましくは、10〜30μmであり、さらに好ましくは、15〜25μmである。
第4層4は、第3層3を挟んで第2層2と対向配置される層であって、後述する薬液バッグの中内層を形成する層である。
【0056】
また、第4層4は、直鎖状ポリエチレンから形成され、そのDSC融点が120〜125℃であり、その密度が0.910〜0.920g/cm3である。
上記多層フィルムは、その第4層4を形成する直鎖状ポリエチレンのDSC融点や密度が上記範囲を満たしていることから、柔軟性が良好である。また、これにより、上記多層フィルムからなる薬液バッグに高温滅菌処理を施したときであっても、透明性の低下、しわの発生といった不具合の発生を防止することができる。さらに、第4層4と、第3層3および後述する第5層5との間の接着強度(層間強度)を良好なものとすることができる。
【0057】
第4層4を形成する直鎖状ポリエチレンのDSC融点は、上記範囲のなかでも、好ましくは、123〜125℃であり、密度は、上記範囲のなかでも、好ましくは、0.910〜0.915g/cm3である。
第4層4を形成する直鎖状ポリエチレンとしては、そのDSC融点および密度が上記範囲を満たす直鎖状ポリエチレンを単独で用いることができ、また、2種以上の直鎖状ポリエチレンの混合物であって、その混合物のDSC融点と密度とがいずれも上記範囲を満たすように調整されたものを用いることができる。
【0058】
また、これら第4層4を形成する直鎖状ポリエチレンの種類、この直鎖状ポリエチレンが混合物である場合の組み合わせ、混合割合などは、いずれも、上述の第2層2の場合と同じである。
また、第4層4を形成する直鎖状ポリエチレンの好適態様としては、第2層2を形成する直鎖状ポリエチレンの好適態様と同じものが挙げられる。
【0059】
第4層4の厚みは、多層フィルムや、これを用いて形成される薬液バッグの柔軟性などの観点から適宜設定すればよいが、例えば、多層フィルムの総厚みに対し、好ましくは、約30〜60%であり、より好ましくは、約40〜50%である。
また、第4層4の厚みは、例えば、多層フィルムの総厚みが180〜260μmである場合において、好ましくは、70〜110μmであり、さらに好ましくは、45〜60μmである。
【0060】
また、第4層4の厚みは、第2層2の厚みに対し、好ましくは、0.8〜1.25倍であり、特に好ましくは、第2層2の厚みと同じである。
第5層5は、多層フィルムの他方側表面に配置される層であって、後述する薬液バッグの内層を形成する層である。
また、前記第5層は、DSC融点が120〜125℃、密度が0.930〜0.937g/cm3の直鎖状ポリエチレン85〜95重量%と、密度が0.910〜0.930g/cm3の直鎖状ポリエチレン5〜15重量%とからなる。
【0061】
上記多層フィルムは、その第5層5を形成する直鎖状ポリエチレンのDSC融点や密度が上記範囲を満たしていることから、耐熱性や透明性が良好である。また、これにより、多層フィルムからなる薬液バッグに高温滅菌処理を施した場合であっても、透明性の低下、しわの発生といった不具合の発生を防止することができ、さらには、ヘッドスペース部で薬液バッグの内層(第5層5)が白っぽくなる現象(白化現象)の発生や、薬液バッグの周縁シール部などを形成する際のシール不良の発生を防止することができる。また、第5層5と、第4層4との間の接着強度(層間強度)を良好なものとすることができる。
【0062】
第5層5を形成するDSC融点が120〜125℃、密度が0.930〜0.937g/cm3の直鎖状ポリエチレンとしては、第1層1で例示したものと同じものが挙げられる。
また、密度が0.910〜0.930g/cm3の直鎖状ポリエチレンとしては、例えば、チーグラー触媒で重合されたエチレン−α−オレフィン共重合体などが挙げられる。
【0063】
第5層5を形成する、DSC融点が120〜125℃、密度が0.930〜0.937g/cm3の直鎖状ポリエチレン(ここでは、「中密度直鎖状ポリエチレン」という。)と、密度が0.910〜0.930g/cm3の直鎖状ポリエチレン(ここでは、「低密度直鎖状ポリエチレン」という。)との含有割合は、第5層5全体に対し、中密度直鎖状ポリエチレンが85〜95重量%、好ましくは、85〜90重量%であり、低密度直鎖状ポリエチレンが5〜15重量%、好ましくは、10〜15重量%である。中密度直鎖状ポリエチレンの含有割合が上記範囲を上回ると(または、低密度直鎖状ポリエチレンの含有割合が上記範囲を下回ると)、第5層5が硬くなり、強度が低下する。逆に、中密度直鎖状ポリエチレンの含有割合が上記範囲を下回ると(または、低密度直鎖状ポリエチレンの含有割合が上記範囲を上回ると)、第5層5の耐熱性が低下し、滅菌処理後の透明性が低下する。
【0064】
第5層5の厚みは、多層フィルムや、これを用いて形成される薬液バッグの機械的強度などの観点から適宜設定すればよいが、例えば、多層フィルムの総厚みに対し、好ましくは、約5〜25%である。
それゆえ、第5層5の厚みは、例えば、多層フィルムの総厚みが180〜260μmである場合において、好ましくは、15〜45μmであり、さらに好ましくは、20〜40μmである。
【0065】
多層フィルムの総厚みは、特に限定されず、薬液バッグに要求される大きさ(薬液の収容量)などに応じて、すなわち、多層フィルムの用途、使用目的に合わせて、適宜設定することができる。
それゆえ、これに限定されないが、例えば、薬液バッグの収容量が、一般的な輸液などの用途に用いられる、100〜1000mL程度である場合には、多層フィルムの総厚みは、100〜300μmであり、好ましくは、180〜260μmである。
【0066】
上記多層フィルムの製造方法としては、特に限定されず、例えば、水冷式または空冷式共押出しインフレーション法、共押出しTダイ法、ドライラミネーション法、押出しラミネーション法などが挙げられる。なかでも、多層フィルムの特性、とりわけ、透明性や、多層フィルム製造時の経済性、多層フィルムの衛生性などの観点から、好ましくは、水冷共押出しインフレーション法および共押出しTダイ法が挙げられる。
【0067】
上記のいずれの方法においても、多層フィルムの製造は、各層を形成する樹脂が溶融する温度で実施する必要があるが、製造温度が高過ぎると、樹脂の一部が熱分解して、分解生成物による性能の低下を生じるおそれがある。それゆえ、上記多層フィルムの製造温度は、これに限定されないが、好ましくは、150〜250℃、より好ましくは、170〜200℃である。また、各層を構成する樹脂は、多層フィルムの透明性を維持するために、MFRの差ができるだけ小さいことが好ましい。
【0068】
上記の多層フィルムは、透明性、柔軟性、高温滅菌処理に対する耐熱性、機械的強度などの特性に優れている。それゆえ、上記多層フィルムは、例えば、輸液バッグなどの薬液バッグの形成材料として好適である。
次に、図2〜図4を参照しつつ、本発明の薬液バッグについて説明する。
図2および図3を参照して、この薬液バッグ6は、図1に示す多層フィルムの第1層1を外層とし、第5層5を内層として形成されている。また、薬液バッグ6は、2枚の多層フィルム7,8の第5層5同士を重ね合わせ、その周縁部を溶着することによって形成される周縁シール部9を備えている。
【0069】
また、この薬液バッグ6は、2枚の多層フィルム7,8を、それぞれの第1層1が外層となり、第5層5が内層となるように2枚重ね合わせた後、こうして重ね合わされた多層フィルム7,8における周縁部の各第1層1側表面を加熱圧着することにより、周縁シール部9を形成しつつ、周縁シール部9の外周端縁9aで、互いに重ね合わされた2枚の多層フィルム7,8を切断することにより、製造することができる。この製造方法を採用することで、周縁シール部9の形成と、多層フィルム7,8の余剰部分の切断、除去とを1つの工程ですることができ、薬液バッグ6の生産効率を向上させることができる。
【0070】
なお、上記のような製造方法に用いられる溶着金型としては、例えば、国際公開第2006/042710号パンフレット記載された装置や、その他各種の装置が挙げられる。
また、薬液バッグ6の製造において、周縁シール部9を形成する際の加熱圧着の条件としては、これに限定されないが、例えば、総厚み100〜300μmの多層フィルムを用いる場合において、金型温度が、好ましくは、130〜140℃、さらに好ましくは、132〜137℃であり、圧力が、好ましくは、0.3〜0.5MPa、さらに好ましくは、0.35〜0.45MPaであり、加圧時間が、好ましくは、1〜2秒、さらに好ましくは、1.2〜1.8秒である。
【0071】
周縁シール部9は、例えば、多層フィルムを、その第5層5が内側となるように、インフレーション法によって袋状またはチューブ状に形成し、こうして得られた袋状またはチューブ状の多層フィルムの周縁部を溶着することによっても形成することができる。
薬液バッグ6の収容部10は、周縁シール部9によって区画されている。この薬液バッグ6は、内部に1つの収容部10を備える単室バッグである。
【0072】
また、周縁シール部9の一部には、収容部10と薬液バッグ6の外部との間で薬液などを流出入させるための筒部材11が、2枚の多層フィルム7,8で挟み込まれた状態で溶着されている。
筒部材11は、特に限定されず、公知の筒部材を適用できる。例えば、この筒部材11は、薬液バッグ6の収容部10内に収容されている薬液を、薬液バッグ6の外部へ流出させ、または、薬液バッグ6の外部から収容部10内へと薬液を流入させるための部材であって、通常、その内部に、筒部材11を封止するための、中空針などにより穿刺可能な封止体(例えば、ゴム栓など。)が配置されている。
【0073】
図4を参照して、この薬液バッグ12は、図1に示す多層フィルムの第1層1を外層とし、第5層5を内層として形成されている。また、薬液バッグ12は、2枚の多層フィルム7,8の第5層5同士を重ね合わせ、その周縁部を溶着することによって形成される周縁シール部9を備えている。
薬液バッグ12は、薬液を収容するための収容部を2つ備える複室バッグであって、この2つの収容部13,14は、易剥離性を有する弱シール部15によって分離されている。
【0074】
弱シール部15は、2枚の多層フィルム7,8の第5層5同士を溶着することにより形成されており、弱シール部15のシール強さは、2つの収容部13,14の一方を押圧して、その収容部による液圧を弱シール部15に対して付加したときに、容易に開裂される程度に設定される。
弱シール部15の加熱圧着の条件は、特に限定されないが、例えば、総厚み100〜300μmの多層フィルムを用いる場合において、金型温度が、好ましくは、110〜130℃、さらに好ましくは、115〜125℃、圧力が、好ましくは、0.3〜0.5MPa、さらに好ましくは、0.35〜0.45MPa、加圧時間が、好ましくは、1〜2秒、さらに好ましくは、1.2〜1.8秒である。
【0075】
上記薬液バッグは、本発明の多層フィルムから、第1層1が外層となり、かつ第5層5が内層となるように形成されていることから、優れた透明性、柔軟性、高温滅菌処理に対する耐熱性、機械的強度などの特性を有している。
それゆえ、上記薬液バッグは、例えば、輸液バッグなどの医療用容器として好適である。さらに、上記薬液バッグが複室バッグである場合には、例えば、使用時に混合する2種以上の輸液を分離して収容、保存するための輸液バッグや、例えば、抗生剤とその溶解液とを分離して収容、保存するための抗生剤キットとして好適である。
【0076】
図2に示す薬液バッグ6および図4に示す薬液バッグ12において、各収容部10,13,14内に薬液、その他の収容物を収容し、密閉する方法は、特に限定されず、公知の方法を採用することができる。
また、各収容部10,13,14内に薬液、その他の収容物を収容し、密閉した後に、薬液バッグ6,12には、滅菌処理が施される。
【0077】
滅菌処理方法は、特に限定されず、例えば、高圧蒸気滅菌、熱水シャワー滅菌等の、公知の加熱滅菌方法を採用することができる。
これら加熱滅菌処理における滅菌処理温度は、一般に、105〜110℃程度であるが、薬液の種類、用法などに合わせて、滅菌処理温度を116〜118℃に設定することもできる。
【0078】
上記薬液バッグ6,12は、本発明の多層フィルムから形成されていることから、高温滅菌処理に対する耐熱性が優れている。それゆえ、上記薬液バッグに対し、116〜118℃での滅菌処理(高温滅菌処理)を施した場合であっても、適度な柔軟性や良好な透明性を維持することができる。
【実施例】
【0079】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明を詳細に説明する。
まず、多層フィルムの実施例および比較例で使用したポリマーとその物性とを、ポリマーの略号とともに、表1に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
上記ポリマーは、いずれも、株式会社プライムポリマー製である。
次に、多層フィルムの各層を形成する樹脂材料の組成と物性とを、その略号とともに、表2に示す。
【0082】
【表2】

【0083】
実施例1〜12および比較例1〜9
(1) 多層フィルムの製造
下記表3〜9に示す層構成の多層フィルム(5層フィルム)を、5層共押出しインフレーション成形により製造した。下記表3〜9に示す樹脂材料の略号は、上記のとおりである。
【0084】
また、多層フィルムの各層の厚みは、下記表3〜9に示す値に設定した。具体的には、5層共押出しインフレーション成形により製造後の各層の厚みが、下記表3〜8にそれぞれ示している値となるように、原料となる樹脂材料の厚みを適宜選択した。例えば、実施例1(表3参照)の多層フィルムは、第1層から第5層の順に、樹脂材料として、「1−1」、「2−1」、「3−1」、「2−1」、および「5−1」を使用し、さらに、各層の樹脂材料の厚みを、5層共押出しインフレーション成形法による成形後において、順に、20μm、55μm、20μm、55μm、および30μmとなるものを選択して使用した。
【0085】
(2) 薬液バッグの製造
さらに、得られたフィルムより、図2に記載の薬液バッグ6を製造した。
薬液バッグ6の周縁シール部9は、図4および図5に示す溶着金型16を用いて形成し、2枚の多層フィルム7,8を、上金型17および下金型18の両圧着面19,20で加熱圧着する際に、併せて、周縁シール部9の外周端縁9aをカッター21で切断し、多層フィルムの余剰部分を除去した。
【0086】
周縁シール部9の加熱溶着の条件は、金型温度135℃、圧力0.4MPa、1.5秒の条件とした。また、薬液バッグ6のサイズは、収容部10の収容量を約1000mLとし、収容部10の縦方向の長さ(L)を30.5cm、横方向の幅(W)を21.3cmとした(図2参照)。
(3) 薬液バッグの評価試験
上記実施例1〜12および比較例1〜9で得られた薬液バッグ6の収容部10に、注射用水を1000mL充填、密封し、118℃で30分間蒸気滅菌処理を施した。
【0087】
a) 透明性の評価
蒸気滅菌処理後、薬液バッグ6の収容部10から多層フィルムを切り取って試料片を作製し、この試料片について、450nmでの光線透過度(%)を測定し、その測定結果に基づいて、多層フィルムの透明性を評価した。
多層フィルムの透明性は、上記試料片について、450nmでの光線透過度が75%以上である場合に良好である(A)とし、66%以上75%未満である場合に、やや劣るものの、実用上十分である(B)とし、66%未満の場合に、不合格(C)とした。この評価結果を、下記の表3〜9に示す。
【0088】
b) 白化およびしわの有無の評価
また、蒸気滅菌処理後、薬液バッグ6のヘッドスペース部(収容部10内において、内容液と接していない部分)の白化の有無と、薬液バッグ6のしわ発生の有無とを、目視で観察した。
ヘッドスペース部の白化(表3〜9において、単に「白化」と示す。)については、その有無について評価した。一方、しわの有無については、しわが観察されなかった場合と、薬液バッグ6全体にしわが観察された場合(*1)と、筒部材11の溶着部分(口部)においてしわが観察された場合(*2)と、筒部材11の溶着部分(口部)や、薬液バッグ6の周縁シール部における角部においてしわが観察された場合(*3)と、に分けて評価した。これらの観察結果を、下記の表3〜9に示す。
【0089】
c) 落下強度の評価
また、蒸気滅菌処理後、薬液バッグ6を0℃で48時間保存した。こうして保存された5つの薬液バッグ6を平らに積み重ねた状態で、ポリエチレン製の大きな袋に収容した。次いで、5つの薬液バッグ6が平らに積み重ねられ、ポリエチレン製の大きな袋に収容された状態のままで、高さ1.2mから落下させる処理を繰り返した。
【0090】
落下処理を1回行うごとに、薬液バッグ6に破袋が生じているか否かを目視で観察し、破袋が生じたときの落下回数(積算値)を求めた。落下回数は、5つの薬液バッグ6が収容されたポリエチレン製の大きな袋(落下試験用試料)を3つ用意し、これら3つの試料についての落下回数の算術平均値として示した。
落下強度の評価は、落下回数が5回以上である場合に良好である(A)とし、3回以上5回未満である場合に、やや劣るものの、実用上十分である(B)とし、3回未満である場合に、不合格(C)とした。その結果を、下記の表3〜9に示す。
【0091】
d) 多層フィルムの溶着の有無
薬液バッグ6の周縁シール部9の形成および周縁シール部9の外周端縁の切断後において、溶着金型16のカッター21の刃先と、薬液バッグ6の周縁シール部9近傍での表面状態とを目視で観察し、多層フィルムのカッター21への溶着の有無を評価した。
多層フィルムのカッター21への溶着が全く観察されなかった場合に、その評価を良好(A)とし、わずかに溶着が観察されたものの、実用上問題とならない程度であった場合を、可(B)とし、溶着が顕著に観察され、実用上不適当であった場合を不可(C)とした。この評価結果を、下記の表3〜9に示す。
【0092】
【表3】

【0093】
【表4】

【0094】
【表5】

【0095】
【表6】

【0096】
【表7】

【0097】
【表8】

【0098】
【表9】

【0099】
表3〜9に示した評価結果より明らかなように、実施例1〜12の薬液バッグについては、いずれも、多層フィルムの透明性および薬液バッグの落下強度が良好であり、ヘッドスペース部の白化、薬液バッグのしわ、多層フィルムのカッター21(図5参照)への溶着が、いずれも観察されなかった。
一方、比較例1〜9の薬液バッグについては、多層フィルムの透明性、薬液バッグの落下強度、ヘッドスペース部の白化、薬液バッグのしわ、多層フィルムのカッターへの溶着の、少なくともいずれか1つの評価項目が不十分であった。なお、比較例1および3では、多層フィルムのカッターへの溶着が顕著で、多層フィルムがカッターから離れなくなったため、ライントラブル(フィルム送りの不良)が発生した。
【0100】
本発明は、以上の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した事項の範囲において、種々の設計変更を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】図1は、本発明の多層フィルムの層構成を示す概略構成図である。
【図2】図2は、本発明の薬液バッグの一実施形態を示す正面図である。
【図3】図3は、図2のA−A断面を示す概略断面図である。
【図4】図4は、本発明の薬液バッグの他の実施形態を示す正面図である。
【図5】図5は、本発明の薬液バッグの製造に用いられる溶着金型の一例を概念的に示す斜視図である。
【図6】図6は、図5のB−B断面図である。
【符号の説明】
【0102】
1 第1層, 2 第2層, 3 第3層, 4 第4層, 5 第5層, 6 薬液バッグ, 7 多層フィルム, 8 多層フィルム, 9 周縁シール部, 9a 外周端縁, 12 薬液バッグ, 16 溶着金型, 21 カッター.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1層と、前記第1層に積層される第2層と、前記第2層に積層される第3層と、前記第3層に積層される第4層と、前記第4層に積層される第5層とを備え、
前記第1層が、DSC融点が120〜125℃、密度が0.930〜0.937g/cm3の直鎖状ポリエチレン55〜85重量%と、DSC融点が160〜165℃のプロピレンホモポリマー15〜45重量%とからなるか、または、DSC融点が130〜132℃、密度が0.955〜0.970g/cm3の高密度ポリエチレンからなり、
前記第2層および第4層が、直鎖状ポリエチレンからなり、かつ、DSC融点が120〜125℃、密度が0.910〜0.920g/cm3であり、
前記第3層が、直鎖状ポリエチレンからなり、かつ、DSC融点が120〜125℃、密度が0.930〜0.937g/cm3であり、
前記第5層が、DSC融点が120〜125℃、密度が0.930〜0.937g/cm3の直鎖状ポリエチレン85〜95重量%と、密度が0.910〜0.930g/cm3の直鎖状ポリエチレン5〜15重量%とからなる、ことを特徴とする、多層フィルム。
【請求項2】
前記第2層および第4層の直鎖状ポリエチレンが、密度が0.900〜0.910g/cm3のシングルサイト触媒で重合されたポリエチレン60〜80重量%と、密度が0.910〜0.930g/cm3のチーグラー触媒で重合された直鎖状ポリエチレン10〜30重量%と、密度が0.950〜0.970g/cm3の高密度ポリエチレン5〜15重量%と、からなることを特徴とする、請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項3】
前記第3層の直鎖状ポリエチレンが、DSC融点が120〜125℃、密度が0.930〜0.937g/cm3のチーグラー触媒で重合された直鎖状ポリエチレンであることを特徴とする、請求項1または2に記載の多層フィルム。
【請求項4】
前記第1層および第3層の厚さが10〜30μmであり、前記第2層および第4層の厚さが45〜70μmであり、かつ、前記第5層の厚さが15〜45μmであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の多層フィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の多層フィルムから、前記第1層が外層となり、前記第5層が内層となるように形成されていることを特徴とする、薬液バッグ。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の多層フィルムを、前記第1層が外層となり、前記第5層が内層となるように2枚重ね合わせた後、こうして重ね合わされた多層フィルムの周縁部の各前記第1層側表面を加熱圧着することにより、周縁シール部を形成しつつ、前記周縁シール部の外周端縁で前記多層フィルムを切断することを特徴とする、薬液バッグの製造方法。
【請求項7】
前記加熱圧着の条件が、金型温度130〜140℃、圧力0.3〜0.5MPa、加圧時間1〜2秒であることを特徴とする、請求項7に記載の薬液バッグの製造方法。
【請求項8】
請求項5に記載の薬液バッグに薬液を充填、密閉し、116〜118℃で加熱滅菌することを特徴とする、薬液バッグの滅菌処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−248973(P2009−248973A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−95324(P2008−95324)
【出願日】平成20年4月1日(2008.4.1)
【出願人】(000149435)株式会社大塚製薬工場 (154)
【Fターム(参考)】