説明

多層フィルムおよびその製造方法

【課題】
ガスバリア性、加湿ガスバリア性に優れた多層フィルム及びその製造方法を提供する。
【解決手段】
フィルム状の基材と、基材の少なくとも一方の面に形成されたガスバリア層と、ガスバリア層の基材に接触していない面に形成された耐水層とを有する多層フィルム。ガスバリア層が、鹸化度98モル%以上、重合度300〜3300のポリビニルアルコールからなることが好ましく、耐水層が、ポリ塩化ビニリデン単独または塩化ビニルと酢酸ビニルの共重合体とポリウレタンとの混合物から選択された少なくとも一種であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、ガスバリア性、加湿ガスバリア性に優れた多層フィルム及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内容物の酸化などを防止するための多層フィルムは、食品や医薬品等の包装用として広く用いられている。多層フィルムとしては、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニル共重合体などのガスバリア性が高い樹脂を二軸延伸ポリエステルや二軸延伸ポリプロピレンのような熱可塑性樹脂フィルムの表面にコーティングして得られるものや、これらのフィルムをラミネートして得られるものなどが知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平06−32924号公報
【特許文献2】特開平04−359033号公報
【特許文献3】特開2004−106440号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ガスバリア性、加湿ガスバリア性に優れた多層フィルム及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
フィルム状の基材と、ガスバリア層と、耐水層を有する多層フィルムにより上記の課題を解決できる。
【0006】
すなわち本発明は、フィルム状の基材と、基材の少なくとも一方の面に形成されたガスバリア層と、ガスバリア層の基材に接触していない面に形成された耐水層とを有する多層フィルムである。基材が、高密度ポリエチレンの延伸フィルムまたはポリスチレンの延伸フィルムから選択された少なくとも一種であることが好ましく、ガスバリア層が、鹸化度98モル%以上、重合度300〜3300のポリビニルアルコールからなることが好ましく、耐水層が、ポリ塩化ビニリデン単独または塩化ビニルと酢酸ビニルの共重合体とポリウレタンとの混合物から選択された少なくとも一種からなることが好ましい。
多層フィルムは、全体の厚みが10〜70μm、ガスバリア層の厚みが0.5〜6μm、耐水層の厚みが0.5〜4μmであることが好ましく、さらに、厚みが0.5〜15μmのヒートシール層を、少なくとも一方の最外層に有してもよい。
多層フィルムは、23℃、1気圧で測定したドライ酸素ガス透過度が200cm/m・24hr・MPa以下、90%RH加湿酸素ガス透過度が1000cm/m・24hr・MPa以下であることが好ましい。
多層フィルムを得るには、基材の少なくとも一方の面に、ポリビニルアルコールの5〜30質量%水溶液を塗布、90℃以下の温度で乾燥させてガスバリア層を形成させた後、ポリ塩化ビニリデン単独または塩化ビニルと酢酸ビニルの共重合体とポリウレタンの混合物の少なくとも一種を有機溶媒に溶解させた溶液を塗布、90℃以下の温度で乾燥させて耐水層を形成させればよい。
【発明の効果】
【0007】
ガスバリア性、加湿ガスバリア性に優れた多層フィルムが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
基材は、多層フィルムの剛性や引張強度を発揮するためのものである。基材の材料としては、フィルム化が可能な樹脂であればよく、特に限定されるものではいが、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ−4−メチルペンテン−1およびこれらの共重合体などのオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン610、ナイロン612などのポリアミド樹脂、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン共重合体などのスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどのハロゲン含有樹脂、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリカードネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアクリレート、セロハンなどのセルロース樹脂等がある。基材は、これら樹脂の少なくとも一種をフィルム状に形成して得られるものである。
【0009】
基材は、ガスバリア層との密着性を高めるため、フィルム状に形成した後、表面処理またはアンカーコート剤を塗布することが好ましい。表面処理としてはコロナ放電処理、プラズマ放電処理、グロー放電処理、逆スパッタ処理、火炎処理、クロム酸処理、溶剤処理、粗面化処理などがある。アンカーコート剤としては、例えば熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光線硬化性樹脂、カップリング剤などからなる市販の水系や溶剤系のアンカーコート剤を使用すればよい。
【0010】
ガスバリア層は、多層フィルムのガスバリア性や加湿ガスバリア性を発揮させるためのものである。ガスバリア層の材料としては、フィルム状に形成した状態で酸素を透過しにくい樹脂であればよく、特に限定するものではないが、例えば、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂や、塩化ビニリデン樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコールがある。これらの樹脂のなかでも、ポリビニルアルコールが、ガスバリア層の形成工程における作業性がよいため好ましい。ポリビニルアルコールの鹸化度は、98モル%以上、好ましくは99モル%以上の範囲とすることにより、ガスバリア性が向上するため好ましい。重合度は、300〜3300、好ましくは400〜1800、更に好ましくは450〜700の範囲とすることにより、ガスバリア層を形成する際に、その厚みをコントロールし易くなるため好ましい。
【0011】
耐水層は、多層フィルムの耐水性を発揮させるためのものである。耐水層の材料としては、フィルム状に形成した状態で耐水性が良好なものであればよく、特に限定されるものではないが、ポリ塩化ビニリデン単独または塩化ビニルと酢酸ビニルの共重合体とポリウレタンとの混合物から選択された少なくとも一種とすると、特に加湿ガスバリア性に優れた多層フィルムが得られるため好ましい。
【0012】
多層フィルムは、特に限定するものではないが、全体の厚みが10〜70μm、好ましくは15〜55μmの範囲とすると、取扱性がよくなる。基材の厚みは、特に限定するものではないが、通常10〜50μm程度、好ましくは、15〜35μm、特に好ましくは18〜30μmの範囲である。ガスバリア層の厚みは、特に限定するものではないが、0.5〜6μm、好ましくは1〜3μmの範囲とすると、ガスバリア性を発揮しつつ、多層フィルムの取扱いが良好になる。
耐水層の厚みは、特に限定するものではないが、0.5〜4μm、好ましくは1〜2μmの範囲とすると、加湿ガスの水分がガスバリア層に接触することを防ぐことができるとともに、多層フィルムの取扱いが良好になる。
【0013】
多層フィルムは、ヒートシール性を持たせる理由から、最外層の少なくとも一方の面に、ヒートシール層を形成させても良い。ヒートシール層に用いる樹脂としては、通常のヒートシール性ポリマーを使用でき、特に限定するものではないが、例えば、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−ヘキセン−1共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリレート共重合体、アイオノマー、ポリプロプレン、プロピレン−ブテン−1共重合体、無水マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどの脂肪族ジオール、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6/12などのポリアミド樹脂、ゴム系ポリマーなどがある。ヒートシール層は、これら樹脂の少なくとも一種を多層フィルムの最外層に溶着させたり有機溶媒に溶解させた溶液を塗布乾燥させたりして得られるものである。ヒートシール層の厚みは、0.5〜15μm、好ましくは5〜10μmの範囲とすると、シールリークの発生を防ぎつつ、多層フィルムの取扱いが良好になる。
【0014】
多層フィルムは、ガスバリア性および加湿下でのガスバリア性が高く、23℃、1気圧で測定したドライ酸素ガス透過度が200cm/m・24hr・MPa以下、90%RH加湿酸素ガス透過度が1000cm/m・24hr・MPa以下である。本発明のような積層構造のフィルムにすることでガス透過度はこのような値となり、このようなガス透過度の値であれば包装用に好適なフィルムとなる。
【0015】
多層フィルムの製造方法は、以下に示したように行えばよい。基材の少なくとも一方の面に、ガスバリア層を形成する樹脂をメタノール、トルエン、キシレン、アセトンなどの有機溶媒や水に溶解させた溶液を塗布する。塗布は一般のコーティング装置を用いて行うことができ、特に限定するものではないが、例えば、エアドクターコータ、フレキシブルブレードコータ、ロッドコータ、フローティングナイフコータ、ナイフオーバーブランケットコータ、ナイフオーバーロールコータ、スクイズコータ、含浸コータ、三本リバースロールコータ、四本リバースロールコータ、トランスファーロールコータ、グラビアコータ、キスロールコータ、ビードコータ、スプレイコータ、カーテンコータ、ファウンテンコータ、カレンダコータ、コンマコータなどで行うことができる。ガスバリア層を形成する樹脂の溶液を塗布した後は、90℃以下の温度でこれを乾燥する。乾燥温度を90℃以下とすることにより、基材やガスバリア層の熱分解および加熱収縮によるこれらの層間の界面剥離を防止することができる。乾燥方法は特に限定されるものではなく、例えば、基材にガスバリア層を形成する樹脂の溶液を連続で塗布しながら、熱風乾燥機に送り込むなどの方法をとることができる。乾燥時間は特に限定されるものではないが、90℃での乾燥の場合、通常1〜3分で乾燥が完了する。次に、耐水層を形成する樹脂を、特に限定するものではないが、メタノール、トルエン、キシレン、アセトンなどの有機溶媒に溶解させた溶液をガスバリア層の表面に塗布する。塗布はガスバリア層を形成する際に用いたコーティング装置を用いて同様に行えばよい。その後、ガスバリア層を形成する際と同様に90℃以下の温度で乾燥させて完成する。
【実施例】
【0016】
以下、本発明について実施例を挙げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0017】
実施例1
基材として、片面にコロナ処理を施した厚み25μmの高密度ポリエチレンの一軸延伸フィルムを用いた。基材のコロナ処理を施した面に、5質量%ポリビニルアルコール(鹸化度99モル%、重合度600)水溶液をグラビアコータを用いて塗布し、90℃に設定した連続式熱風乾燥機にて2分間で乾燥させてガスバリア層を形成した。得られたガスバリア層の厚みは1.5μmであった。次に、塩化ビニル90質量%と酢酸ビニル10質量%との共重合体80質量%とポリウレタン20質量%との混合物の10%溶液(溶媒組成:トルエン/メチルエチルケトン=50/50)をガスバリア層の上にグラビアコータを用いて塗布し、90℃に設定した連続式熱風乾燥機にて2分間乾燥させて耐水層を形成した。得られた耐水層の厚みは1μmであった。多層フィルム全体の厚みは27.5μmであった。
【0018】
実施例2
基材として、片面にコロナ処理を施した30μmのポリスチレンの延伸フィルムを用いたこと以外は実施例1と同様の方法で多層フィルムを得た。得られた多層フィルムのガスバリア層の厚みは1.5μm、耐水層の厚みは1μmであり、多層フィルム全体の厚みは32.5μmであった。
【0019】
実施例3
ガスバリア層に用いるポリビニルアルコールの重合度を2400としたこと以外は実施例1と同様の方法で多層フィルムを得た。得られた多層フィルムのガスバリア層の厚みは1.5μm、耐水層の厚みは1μmであり、多層フィルム全体の厚みは27.5μmであった。
【0020】
実施例4
耐水層の材料を、10%ポリ塩化ビニリデン溶液(溶媒:酢酸エチル)とし、たこと以外は実施例1と同様の方法で多層フィルムを得た。得られた多層フィルムのガスバリア層の厚みは1.5μm、耐水層の厚みは1μmであり、多層フィルム全体の厚みは27.5μmであった。
【0021】
実施例5
基材として、片面にコロナ処理を施した厚み55μmの高密度ポリエチレンの一軸延伸フィルムを用いた。基材のコロナ処理を施した面に、20質量%ポリビニルアルコール(鹸化度99%、重合度600)水溶液をコンマコータを用いて塗布し、90℃に設定した連続式熱風乾燥機にて2分間乾燥させてガスバリア層を形成した。得られたガスバリア層の厚みは6μmであった。次に塩化ビニルと酢酸ビニルの共重合体とポリウレタンとの混合物の20%溶液(溶媒組成:トルエン/メチルエチルケトン=50/50)をガスバリア層の上にコンマコータを用いて塗布し、90℃に設定した連続式熱風乾燥機にて2分間乾燥させて耐水層を形成した。得られた耐水層の厚みは4μmであった。多層フィルム全体の厚みは65μmであった。
【0022】
実施例6
実施例1の多層フィルムにおいて、基材のガスバリア層および耐水層が形成されていない面に、ヒートシール層として厚み8μmの低密度ポリエチレンフィルムをドライラミネートにより積層し、多層フィルムを得た。多層フィルム全体の厚みは35.5μmであった。
【0023】
比較例1
ガスバリア層および耐水層を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で多層フィルムを得た。
【0024】
比較例2
ガスバリア層および耐水層を形成しなかったこと以外は、実施例2と同様の方法で多層フィルムを得た。
【0025】
比較例3
耐水層を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で多層フィルムを得た。
【0026】
比較例4
ガスバリア層を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で多層フィルムを得た。
【0027】
実施例1〜6および比較例1〜4を以下の方法で評価した。
〈突き刺し強度〉
直径0.5mmの丸頭を速度50mm/minでフィルムに突き刺し、貫通するときの最大応力値を測定した。
【0028】
〈引き裂き強度〉
JIS K 7128に規定の方法に従って測定した。
【0029】
〈気体透過度〉
JIS K 7126に規定した方法で23℃ドライ酸素の透過度および23℃,90%RHの加湿酸素の透過度を測定した。
【0030】
評価結果を表1に示す。
【表1】

【0031】
表より明らかなように、本発明の積層フィルムは突き刺し力および引き裂き力(手切れ性)は基材フィルムと同等で、機械的には基材と同様の使い方が可能であり、かつ、ドライ,加湿下のガス透過度が低くなっている。特に、加湿下のガスバリア性は比較例のような加工を施したフィルムに比べ優れた値となっている。
【産業上の利用可能性】
【0032】
多層フィルムは、食品、医薬品等の包装用フィルムとして好適に利用できる。また、真空脱気包装などにも有効に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム状の基材と、基材の少なくとも一方の面に形成されたガスバリア層と、ガスバリア層の基材に接触していない面に形成された耐水層とを有する多層フィルム。
【請求項2】
基材が、高密度ポリエチレンの延伸フィルムまたはポリスチレンの延伸フィルムから選択された少なくとも一種であることを特徴とする請求項1記載の多層フィルム。
【請求項3】
ガスバリア層が、鹸化度98モル%以上、重合度300〜3300のポリビニルアルコールからなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載した多層フィルム。
【請求項4】
耐水層が、ポリ塩化ビニリデン単独または塩化ビニルと酢酸ビニルの共重合体とポリウレタンとの混合物から選択された少なくとも一種からなることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載した多層フィルム。
【請求項5】
全体の厚みが10〜70μm、ガスバリア層の厚みが0.5〜6μm、耐水層の厚みが0.5〜4μmであることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載した多層フィルム。
【請求項6】
さらに、厚みが0.5〜15μmのヒートシール層を、少なくとも一方の最外層に有することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載した多層フィルム。
【請求項7】
23℃、1気圧で測定したドライ酸素ガス透過度が200cm/m・24hr・MPa以下、90%RH加湿酸素ガス透過度が1000cm/m・24hr・MPa以下であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載した多層フィルム。
【請求項8】
基材の少なくとも一方の面に、ポリビニルアルコールの5〜30質量%水溶液を塗布、90℃以下の温度で乾燥させてガスバリア層を形成させた後、ポリ塩化ビニリデン単独または塩化ビニルと酢酸ビニルの共重合体とポリウレタンの混合物の少なくとも一種を有機溶媒に溶解させた溶液を塗布、90℃以下の温度で乾燥させて耐水層を形成させることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載した多層フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2008−44260(P2008−44260A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−223012(P2006−223012)
【出願日】平成18年8月18日(2006.8.18)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】