多層化膜の形成方法および多層化膜、並びに電気光学装置、電子機器
【課題】 異種の機能性材料層間の密着性、接触性に優れた多層化膜の形成方法、および多層化膜、並びに当該多層化膜を有する電気光学装置、電子機器を提供すること。
【解決手段】 バンク9によって区画された階調要素領域58内に、PEDOTを含んでなる固体層63を形成し、さらに固体層63に重ねてPEDOT液61、有機EL液62を液滴吐出法により配置する。この後、素子基板2ごと乾燥させて、PEDOT液61および有機EL液62を一体に固形化し、正孔輸送層52、有機EL層51からなる発光膜50を形成する。有機EL層51と正孔輸送層52との界面は、有機EL材料とPEDOTとが適度に混合、拡散された状態となっており、両層51,52は好適な密着性、接触性を示す。これにより、発光膜50を有する発光素子は、有機EL層51への正孔の注入が効率的に行われるため、優れた発光特性を発揮する。
【解決手段】 バンク9によって区画された階調要素領域58内に、PEDOTを含んでなる固体層63を形成し、さらに固体層63に重ねてPEDOT液61、有機EL液62を液滴吐出法により配置する。この後、素子基板2ごと乾燥させて、PEDOT液61および有機EL液62を一体に固形化し、正孔輸送層52、有機EL層51からなる発光膜50を形成する。有機EL層51と正孔輸送層52との界面は、有機EL材料とPEDOTとが適度に混合、拡散された状態となっており、両層51,52は好適な密着性、接触性を示す。これにより、発光膜50を有する発光素子は、有機EL層51への正孔の注入が効率的に行われるため、優れた発光特性を発揮する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出法を用いた多層化膜の形成方法、および多層化膜、並びに電気光学装置、電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、導電配線や機能性素子の製造において、液滴吐出法(インクジェット法)を用いた成膜技術が利用されている。この成膜技術は、機能性材料を含んだ液状体(機能液)をインクジェットプリンタのような描画装置を用いて基板上にパターン化して配置し、当該配置された機能液を乾燥等させて機能性膜を成膜するものであり、少量多種生産に対応可能であるなど大変有効であるとされている。
【0003】
この成膜技術を利用して機能性素子等を製造する場合、上述の描画、乾燥の工程を順次繰り返すことにより、複数種の機能性膜を積層形成することも可能である。例えば、特許文献1には正孔輸送層と発光層とを含む機能性素子について、特許文献2には下地層と導電層とからなる導電配線について、液滴吐出法を用いて形成する例が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−63138号公報
【特許文献2】特開2003−315813号公報
【特許文献3】特開2002−110352号公報
【特許文献4】特許第2773297号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のような多層化された機能性膜(以下、多層化膜という)においては、その層間の密着性および接触性は、信頼性や特性に大きく影響する場合がある。例えば、上述の二層導電配線の場合、層間の密着性は界面抵抗や層間の剥離耐性に影響する。また、上述の発光素子の場合、発光素子の発光は正孔輸送層と発光層の界面付近で発生するものであり、両層の界面における接触面積と発光効率とは密接な関係がある(例えば、特許文献3、4参照)。
【0006】
ところが、従来の液滴吐出法による多層化の方法では、このような界面の密着性、接触性を向上させる点について、十分に配慮がなされていなかった。
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたもので、異種の機能性材料層間の密着性、接触性に優れた多層化膜の形成方法、および多層化膜、並びに当該多層化膜を有する電気光学装置、電子機器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、少なくとも2種以上の機能性材料が積層されてなる多層化膜を基板上に形成する多層化膜の形成方法であって、液滴吐出法を用いて第1の前記機能性材料を含む第1の機能液を前記基板上に配置する下層吐出工程と、前記基板上における前記第1の機能液を固形化して、前記第1の機能性材料を含む固体層を形成する下層固形化工程と、前記固体層上に、前記第1の機能性材料を含む液状層を形成する液状層形成工程と、前記固体層および前記液状層に重ねて、液滴吐出法を用いて第2の前記機能性材料を含む第2の機能液を配置する上層吐出工程と、前記液状層および前記第2の機能液を固形化する上層固形化工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
この発明の多層化膜の形成方法によれば、第1の機能性材料を含む固体層と第2の機能液とが液状層を介して積層配置され、界面が流動性を有した状態を経て固形化されるため、第1および第2の機能性材料が界面付近で混合、拡散されて、好適な層間の密着性および接触性を有する多層化膜が形成される。
【0010】
また好ましくは、前記多層化膜の形成方法において、前記液状層形成工程は、液滴吐出法を用いて、前記固体層を再液化させるための再液化液を当該固体層上に吐出する工程であることを特徴とする。
さらに好ましくは、前記再液化液は、前記第1の機能液の液体成分からなることを特徴とする。
【0011】
この発明の多層化膜の形成方法によれば、再液化液を液滴吐出法で吐出することにより第1の機能性材料層の表面を液状化して、簡単に液状層を形成することができる。また好ましくは、第1の機能液の液体成分からなる再液化液を用いることで、効果的な再液化を図ることができる。
【0012】
また好ましくは、前記多層化膜の形成方法において、前記液状層形成工程は、液滴吐出法を用いて、前記第1の機能液を前記固体層上に吐出する工程であることを特徴とする。
この発明の多層化膜の形成方法によれば、第1の機能液を液滴吐出法で吐出することにより簡単に液状層を形成することができる。
【0013】
また好ましくは、前記多層化膜の形成方法において、前記下層吐出工程前に、前記基板上に当該下層吐出工程における所定の領域を区画するようにバンクが形成されていることを特徴とする。
ここで、バンクとは、樹脂等で形成された立体構造体のことである。この発明の多層化膜の形成方法によれば、バンクによって基板面内方向の機能液の位置が確実に規定されるので、第1および第2の機能性材料層の良好な積層関係を実現することができる。
【0014】
また好ましくは、前記多層化膜の形成方法において、前記第1および第2の機能性材料が、互いに相補的に作用して所定の機能を発揮する関係にあることを特徴とする。
この発明の多層化膜の形成方法によれば、機能性材料が混合、拡散された界面構造によって、機能性材料層間の接触面積が実質的に増すことになるので、機能性効率に優れた多層化膜を提供することができる。
【0015】
本発明の多層化膜は、基板上に形成された第1の機能性材料を含む固体層上に前記第1の機能性材料を含む液状層が形成され、当該液状層に重ねて液滴吐出法により第2の機能性材料を含む機能液が配置され、当該機能液および前記液状層が固形化されて形成されていることを特徴とする。
この発明の多層化膜は、第1の機能性材料を含む固体層と第2の機能液とが液状層を介して積層配置され、界面が流動性を有した状態を経て固形化されて形成されているので、第1および第2の機能性材料が界面付近で混合、拡散された状態となっている。これにより、好適な層間の密着性および接触性を有する多層化膜となっている。
【0016】
本発明の電気光学装置は、前記多層化膜を備えることを特徴とする。
この発明の電気光学装置は、層間密着性に優れた多層化膜を備えているので、信頼性などに優れている。
【0017】
本発明の電子機器は、前記多層化膜ないし前記電気光学装置を備えることを特徴とする。
この発明の電子機器は、層間密着性に優れた多層化膜を備えているので、信頼性などに優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
尚、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。また、以下の説明で参照する図では、各層や各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各層や各部材の縮尺は実際のものとは異なるように表している。
【0019】
(第1実施形態)
(電気光学装置)
まずは、図1、図2、図3を参照して、本発明に係る電気光学装置について説明する。図1は、本発明に係る電気光学装置の一例を示す要部断面図である。図2は、電気光学装置の駆動回路部を示す平面図である。図3は、駆動素子およびその周辺構造を示す図2のA−A断面図である。
【0020】
図1に示すように、電気光学装置100は、基板としての素子基板2と、素子基板2上に形成された駆動回路部101と、駆動回路部101上に形成された発光素子部102と、素子基板2と対向して駆動回路部101および発光素子部102を封止するための封止基板103と、を備えている。素子基板2には、ガラス基板が好適に用いられる。また、封止基板103によって封止された封止空間104には、不活性ガスが充填されている。
【0021】
発光素子部102は、バンク54で区画された複数の凹部を有しており、当該凹部内に形成された多層化膜としての発光素子56の個々が、画像を形成するための階調要素を成している。また、バンク54と駆動回路部101との間には、階調要素間の干渉を防ぐための遮光膜55が形成されている。尚、バンク54は、例えば、アクリル樹脂やポリイミド樹脂などを素子基板2上にパターン形成したものである。
【0022】
発光素子56は、駆動回路部101の出力端子であるセグメント電極(陽極)8と、共通電極(陰極)53と間に発光膜50が挟持されて構成されている。発光膜50は、正孔輸送層52と、有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELとする)層51とが積層された多層化膜である。
【0023】
セグメント電極8には、インジウム錫酸化物(ITO)などの光透過性の導電材料が、共通電極53には、カルシウム金属層とそれを保護する銀−マグネシウム合金層の三層膜などが用いられている。発光膜50における正孔輸送層52は、有機EL層51に正孔を注入するための機能層であり、ポリチオフェン誘導体のドーピング体(以下、PEDOTとする)などの高分子導電体が用いられる。有機EL層51には、蛍光あるいは燐光を発光することが可能な公知の有機EL材料、例えば、ポリフルオレン誘導体、(ポリ)パラフェニレンビニレン誘導体、ポリフェニレン誘導体などが用いられる。尚、発光素子56の具体的な形成方法については、後述する。
【0024】
上述の構成において、駆動回路部101を介した駆動制御によりセグメント電極8と共通電極53との間に電圧が印加されると、正孔輸送層52から有機EL層51に正孔が注入され、当該正孔が共通電極53側からの電子と結合して発光する。この発光は正孔輸送層52と有機EL層51の界面付近で発生する。
【0025】
図2に示すように、駆動回路部101は、平面構造的には、素子基板2上に縦横に配線された導電配線であるゲート配線3、ソース配線4と、両配線3,4の交差領域付近に形成された駆動素子1とを備えている。駆動素子1は、ゲート配線3からその延在方向に直交して延出されたゲート電極5と、ソース配線4からその延在方向に直交して延出されたソース電極6と、ソース電極6と平面視方向において対向するように配置されたドレイン電極7の3つの電極を有し、ドレイン電極7は上述したセグメント電極8と電気的に接続されている。かくして、駆動回路部101は、ゲート配線3に供給される走査信号とソース配線4に供給される階調信号とにより、階調要素に対応して設けられているセグメント電極8毎の供給電圧制御を行う。
【0026】
図3に示すように、駆動回路部101は、断面構造的には、素子基板2の表面に形成されている下層バンク9と、下層バンク9によって区画された凹部内に形成されたゲート電極5およびゲート配線3(図2参照)と、ゲート電極5および下層バンク9の上面側に形成されたゲート絶縁層13とを備えている。下層バンク9は、上述したバンク54(図1参照)と同様の手法で形成されたものである。ゲート絶縁層13は、窒化シリコン等で形成されており、CVD法などを用いて形成される。
【0027】
ゲート電極5およびゲート配線3(図2参照)は、Mn(マンガン)あるいはMnの合金からなるゲート下地層10aと、Ag(銀)あるいはAgの合金からなるゲート導電層10bと、Ni(ニッケル)あるいはNiの合金からなるゲート被覆層10cと、からなる多層化膜である。これらの各層は、ゲート電極5とゲート配線3(図2参照)とを合わせて一体として、液滴吐出法を用いてパターン形成されており、詳しい工程については後述する。
【0028】
ゲート導電層10bは、導電配線としての導電性を担う層である。ゲート下地層10aは、ゲート導電層10bと素子基板2との間に介在して、素子基板2上におけるゲート導電層10bの定着性を高めるための役割を果たしている。特に、ゲート電極5のように線幅の細い領域(図2参照)においては、ゲート下地層10aにより素子基板2からの剥離が好適に防止される。ゲート被覆層10cは、ゲート導電層10bがAgを含んでいて拡散しやすい特性を有していることから、この拡散を抑えるためのキャップ層としての役割を果たしている。
【0029】
駆動回路部101は、ゲート絶縁層13の上面側に、上層バンク14と、ゲート絶縁層13を介してゲート電極5と対向して形成されているチャネル層15と、チャネル層15の上に所定の隙間をもって形成されている接合層16,17と、接合層16,17と接して形成されているソース電極6(ソース配線4)、ドレイン電極7と、を備えている。
【0030】
チャネル層15および接合層16,17は、それぞれアモルファスシリコン、n+型アモルファスシリコンで形成されている。ソース電極6およびソース配線4は、Ni(ニッケル)あるいはNiの合金からなる下層ソース層18aと、Ag(銀)あるいはAgの合金からなるソース導電層18bと、Ni(ニッケル)あるいはNiの合金からなる上層ソース層18cとからなる多層化膜である。ドレイン電極7もまた、ソース電極6と同様の構成を持つ多層化膜であり、下層ドレイン層19a、ドレイン導電層19b、上層ドレイン層19cを有している。
【0031】
上層バンク層は、ソース配線4や駆動素子1の形成領域(図2参照)を区画するように、上述のバンク54と同様の手法によりパターン形成される。次いで、チャネル層15、接合層16,17が、CVD法とフォトリソグラフィ法を用いて形成され、ソース配線4、ソース電極6、ドレイン電極7が、ゲート電極5およびゲート配線3(図2参照)と同様の手法で液滴吐出法を用いて形成される。この後、上層バンク14によって区画されていた凹部を埋めるように絶縁層20が形成され、さらにドレイン電極7から絶縁層20の上面までを貫通する導電ホール21が形成されて、図示の状態となる。
【0032】
(液滴吐出装置)
次に、図4を参照して、液滴吐出法において用いる液滴吐出装置について説明する。図4は、液滴吐出装置の構成の一例を示す模式図である。
【0033】
図4において、液滴吐出装置200は、一面に複数のノズル212を配した吐出ヘッド201と、吐出ヘッド201と対向する位置に基板202を載置するための載置台203とを備えている。また、吐出ヘッド201を、基板202との距離を保ったまま縦横に移動(走査)させる走査手段204と、吐出ヘッド201に機能液を供給する機能液供給手段205と、吐出ヘッド201の吐出制御を行う吐出制御手段206と、を備えている。
【0034】
吐出ヘッド201には、複数に枝分かれした微細な流路が形成されており、当該流路の端部は、圧力室(キャビティ)211、ノズル212となっている。圧力室211の外郭の一面は、圧電素子210によって変形可能となっており、吐出制御手段206からの駆動信号によって圧力室211内に圧力を発生させることで、ノズル212から液滴213が吐出される。尚、吐出技術としては、この例のような電気機械方式の他に、電気信号を熱に変換して圧力を発生させるいわゆるサーマル方式などもある。
【0035】
上述の構成において、吐出ヘッド201の走査と同期したノズル212毎の吐出制御を行うことにより、基板202上に所望のパターンで機能液を配置することが可能となっている。尚、液滴吐出装置200は、一走査中において複数種の機能液を吐出可能なように構成することもできる。
【0036】
(ゲート配線の形成方法)
次に、図5のフローチャートに沿って、図6、図7を参照してゲート配線(ゲート電極も含む)の形成方法について説明する。図5は、ゲート配線の形成工程を示すフローチャートである。図6(a)〜(d)は、ゲート配線の形成工程の一過程を示す図2のB−B断面図である。図7(e)〜(g)は、ゲート配線の形成工程の一過程を示す図2のB−B断面図である。
【0037】
まず、ゲート配線3(ゲート電極5)の形成に先立って、液滴吐出装置200(図4参照)で吐出させるための機能液が用意される。機能液とは、より具体的には、機能性材料を微粒子化して液体に分散させたものであり、MnないしMn合金(以下、単にMnとする)を機能性材料とするMn分散液、AgないしAg合金(以下、単にAgとする)を機能性材料とするAg分散液、NiないしNi合金(以下、単にNiとする)を機能性材料とするNi分散液が用意される。これらの機能性材料は、微粒子化した上、分散性を向上させるためさらにその表面に有機物(クエン酸など)をコーティングして用いることもできる。
【0038】
機能液を構成する分散媒は、上述の微粒子を分散できるもので、凝集を起こさないものであれば特に限定されない。具体的には、水の他に、メタノール、エタノールなどのアルコール類、n−ヘプタン、トルエンなどの炭化水素系化合物、またエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル系化合物、更にプロピレンカーボネート、N−メチル−2−ピロリドンなどの極性化合物を挙げることができる。これらは、単独でも、あるいは2種以上の混合物としても使用することができる。
【0039】
また、液滴吐出装置200(図4参照)における吐出特性や目詰まり性、分散の安定性、吐出後における基板上での動的物性や乾燥速度などに鑑みて、機能液は、分散媒の蒸気圧、分散質濃度、表面張力、粘度、比重などについて適切な調整がされている。このため、機能液には、界面活性剤や保湿剤、粘度調整剤などを添加することができる。また、成膜後の定着性を良くするために、バインダーを添加することもできる。
【0040】
次に、図6(a)に示すように、ガラス製の素子基板2上に、ゲート配線3(ゲート電極5)の形成領域(図2も参照)を区画するように、下層バンク9をパターン形成する(図5の工程S1)。具体的には、例えば、材料となる高分子樹脂等を含んだ溶液を、スピンコート法等で塗布して一様な厚みの膜を形成し、フォトリソグラフィ法によりパターンエッチングを施す。
【0041】
次に、素子基板2の下層バンク9が形成されている側に対して、酸素プラズマ処理法などにより親液化処理を行う(図5の工程S2)。この親液処理によって素子基板2の露出面は一様に清浄化され、濡れ性のムラが低減されると共に濡れ性そのものも向上する。
【0042】
次に、素子基板2の下層バンク9が形成されている側に対して、テトラフルオロメタン(CF4)プラズマ処理などにより撥液化処理を行う(図5の工程S3)。この処理により、有機材料からなる下層バンク9の表面にはフッ素基が導入されて、撥液性を有するようになる。このとき、無機材料からなる素子基板2の露出面もこのプラズマ処理の影響を多少受けるが、親液性に影響を与えるほどではない。尚、下層バンク9を形成する樹脂材料として、初めから撥液性を有するもの(例えばフッ素基を有する樹脂材料)を用いることにより、上述の撥液処理を省略するようにしても構わない。
【0043】
次に、液滴吐出法により、下層バンク9によって形成されている区画化領域34内にMn分散液(第1の機能液に対応する)を配置する。(図5の下層吐出工程S4)このとき、Mn分散液の一部が区画化領域34から外れて吐出された場合であっても、上述した下層バンク9の撥液処理によって、Mn分散液は好適に区画化領域34内に配置される。
【0044】
次に、素子基板2ごと真空乾燥機に入れて、あるいは放置するなどして乾燥させてMn分散液を固形化する(図5の下層固形化工程S5)。これにより、図6(b)に示すように、ゲート下地層10a(固体層に相当する)が形成される。尚、この下層固形化工程S5においては、分散媒の全てが完全に抜けきれてなくともよく、ゲート下地層10aが実質的に非流動状態となっていれば十分である。
【0045】
次に、区画化領域34内におけるゲート下地層10aに対して、液滴吐出法により再液化液を吐出する(図5の液状層形成工程S6)。ここで、再液化液は、Mn分散液の液体成分(分散媒や添加剤等)からなる液体であって、これにより、ゲート下地層10a中のMn微粒子が再分散し、ゲート下地層10aの表面部分を再液化することができるものである。かくして、図6(c)に示すように、ゲート下地層10a上にMnを含む液状層35が形成される。尚、液状層35は、ゲート下地層10aの表面全体に渡って形成しなければならないということはなく、ゲート下地層10aの表面の一部分に形成されるようになっていてもよい。
【0046】
次に、図6(d)に示すように、区画化領域34内に液滴吐出法によりAg分散液32を配置する(図5の工程S7)。このとき、Ag分散液32の配置領域は、下層バンク9によってゲート下地層10aのパターンと同一となるように規定されるため、Ag分散液32は、ゲート下地層10aおよび液状層35の上に確実に積層されることになる。また、液状層35は、ゲート下地層10aから再分散されたMnとAg分散液32中のAgとが混合、拡散された状態となる。尚、ゲート下地層10aとの関係では、この工程S7は上層吐出工程に対応し、Ag分散液32は第2の機能液に対応する。また、この後ゲート導電層10bの上に形成するゲート被覆層10c(図7(g)参照)との関係では、この工程S7は下層吐出工程に対応し、Ag分散液32は第1の機能液に対応する。
【0047】
次に、素子基板2ごと真空乾燥機に入れて、あるいは放置するなどして乾燥させ、液状層35およびAg分散液32を固形化する(図5の工程S8)。これにより、図7(e)に示すように、Ag分散液32はゲート導電層10bとなり、液状層35はゲート下地層10aとゲート導電層10bとの界面を形成する。かくして、両層10a,10bは、MnとAgとが適度に混合、拡散された状態の界面を有しており、好適な密着性、接触性を示す。尚、この工程S8においては、分散媒の全てが完全に抜けきれてなくともよく、両層10a,10bが実質的に非流動状態となっていれば十分である。この工程S8は、ゲート下地層10aとの関係では上層固形化工程に対応する。また、この後ゲート導電層10bの上に形成するゲート被覆層10c(図7(g)参照)との関係では、この工程S8は下層吐出工程に対応し、ゲート導電層10bは固体層に対応する。
【0048】
次に、図7(f)に示すように、区画化領域34内のゲート導電層10bに対して、液滴吐出法により再液化液を吐出してAgを含む液状層36を形成する(図5の液状層形成工程S9)。そしてさらに液滴吐出法により、区画化領域34内にNi分散液33(第2の機能液に対応する)を配置する(図5の上層吐出工程S10)。このとき液状層36では、ゲート導電層10bから再分散されたAgとNi分散液33中のNiとが混合、拡散された状態となる。
【0049】
次に、素子基板2ごと電熱炉等に入れて、焼成を行う(図5の上層固形化工程S11)。これにより、図7(g)に示すように、Ni分散液33はゲート被覆層10cとなり、液状層36はゲート導電層10bとゲート被覆層10cとの界面を形成する。かくして、両層10b,10cは、AgとNiが適度に混合、拡散された状態の界面を有しており、好適な密着性、接触性を示す。
【0050】
かくして、多層化膜としてのゲート配線3(ゲート電極5)は、層間の密着性に優れているため、剥離耐性に優れ、高い信頼性を有する。また、層間における実質的な接触面積が大きくなって界面抵抗も小さくなるので、電気信号を効率的に駆動素子1(図3参照)に供給することができ、消費電力が小さいという特長も有している。
【0051】
(発光素子の形成方法)
次に、図8のフローチャートに沿って、図9を参照して発光素子の形成方法について説明する。図8は、発光素子の形成工程を示すフローチャートである。図9(a)〜(d)は、発光素子の形成工程の一過程を示す断面図である。尚、図9(a)〜(d)において、駆動回路部の図示は省略している。
【0052】
まず、発光素子の形成に先立って、液滴吐出装置200(図4参照)で吐出させるための機能液が用意される。具体的には、PEDOTの一種であるバイトロン−P(バイエル社製)を機能性材料として含んだ溶液(PEDOT液)が正孔輸送層52用として用意され、有機EL材料を機能性材料として含んだ溶液(有機EL液)が発光層51用として用意される。尚、電気光学装置100(図1参照)がカラー表示タイプの場合には、三原色に対応した組成の有機EL液がそれぞれ用意される。
【0053】
次に、図9(a)に示すように、セグメント電極8が形成されている素子基板2に対して、各セグメント電極8に対応する階調要素領域58を区画するように遮光膜55を形成する(図8の工程S21)。具体的には、例えば、クロム等の金属などを用いて、CVD法とフォトリソグラフィ法により形成する。
【0054】
次に、遮光膜55の上にバンク54を形成し(図8の工程S22)、親液処理(図8の工程S23)、撥液処理(図8の工程S24)を施す。これらの工程は、先に説明したゲート配線の形成工程と同様の方法で行われる。
【0055】
次に、液滴吐出法を用いて、階調要素領域58内にPEDOT液を配置し(図8の下層吐出工程S25)、素子基板2ごと真空乾燥機に入れて、あるいは放置するなどして乾燥させる(図8の下層固形化工程S26)。かくして、図9(b)に示すように、PEDOTを含んでなる固体層63が形成される。尚、固体層63は、図1の正孔輸送層52と構造的には同じものである。
【0056】
次に、図9(c)に示すように、液滴吐出法を用いて、階調要素領域58内の下地層63上に重ねてPEDOT液61を配置する(図8の液状層形成工程S27)。下地層63上に重ねて配置されたPEDOT液61は、本発明の液状層に対応する。
【0057】
次に、液滴吐出法を用いて、階調要素領域58内のPEDOT液61に重ねて有機EL液62を配置する(図8の上層吐出工程S28)。このとき、PEDOT液61と有機EL液62とは、界面付近において互いに混合、拡散するが、固体層63とPEDOT液61との界面を越えて有機EL材料が拡散することはない。すなわち、固体層63は、隣接する機能性材料間の混合、拡散が際限なく進行してしまうのを防ぐために、あらかじめ一方の機能性材料(この場合はPEDOT)について固体領域を設けたものである。
【0058】
次に、素子基板2ごと真空乾燥装置等に入れて乾燥させ、PEDOT液61および有機EL液62を固形化する(図8の上層固形化工程S29)。これにより、図9(d)に示すように、有機EL液62は有機EL層51となり、PEDOT液61は固体層63と共に正孔輸送層52となって、発光膜50が形成される。このとき、有機EL層51と正孔輸送層52とは、有機EL材料とPEDOTとが適度に混合、拡散された状態の界面を有しており、好適な密着性、接触性を示す。
【0059】
最後に、発光膜50の上側に、CVD法等で共通電極53(図1参照)を形成し(図8の工程S30)、発光素子56が完成する。尚、共通電極53は、上述したゲート配線3(図7参照)と同様の手法で、液滴吐出法を用いて形成することも可能である。
【0060】
かくして、多層化膜としての発光膜50を備えた発光素子56(図1参照)は、有機EL層51と正孔輸送層52層との実質的な接触面積が大きいため、有機EL層51への正孔の注入が効率的に行われ、優れた発光特性を発揮することができる。また、この発光膜50を備えた電気光学装置100(図1参照)は、高輝度な画像を表示することができる。
【0061】
(電子機器)
次に、図10を参照して、電子機器の具体例を説明する。図10は、電子機器の一例を示す概略斜視図である。
【0062】
図10に示す電子機器としての携帯型情報処理装置700は、キーボード701と、本体部703と、表示部702と、を備えている。このような携帯型情報処理装置700のより具体的な例は、ワープロ、パソコンである。この携帯型情報処理装置700は、ゲート配線3と同様の方法で形成された導電配線を有する制御回路基板を備え、また、表示部702として上述の電気光学装置100を備えているため、省電力性や信頼性、表示特性などに優れている。
【0063】
(第2実施形態)
次に、図11を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。図11は、燃料電池の概略構成を示す斜視図である。
【0064】
図11に示す燃料電池120は、水素ガスと酸素ガスとを供給し、両ガスの反応により電力を発生させるものである。燃料電池120は、ガス通路121a,122aが形成された一対の基板121,122の間に、電極層128,129、ガス拡散層123,124、触媒層125,126、イオン交換層127が積層されてなる多層化膜130が挟持された構成となっている。電極層128,129には銅などの導電材料が、ガス拡散層123,124には多孔質カーボンなどが、触媒層125,126には白金などが、イオン交換層127にはイオン透過性を有する電解質、例えば、Nafion(デュポン社の登録商標)などが用いられており、これらは液滴吐出法により形成することが可能である。
【0065】
燃料電池120は、ガス通路121aに供給された水素ガスが酸化(イオン化)され、イオン交換層127を経て、ガス通路122aに供給された酸素ガスによって還元されることで電力を発生させる。この酸化還元反応は、ガス拡散層123,124、触媒層125,126、イオン交換層127の各層間における電気的且つ物理的なパスによって行われるため、各層間における実質的な接触面積が大きいほど、その効率は高くなる。
【0066】
そこで、本実施形態の燃料電池においては、ガス拡散層123,124、触媒層125,126、イオン交換層127の形成について、上述したゲート配線3(図7参照)や発光膜50(図9参照)の形成と同様の手法を用いることで各層間の接触性を高めており、これにより高い発電効率を実現している。
【0067】
本発明は上述の実施形態に限定されない。
例えば、本発明に係る電気光学装置として、駆動回路部101の構成はそのままで、液晶表示装置やプラズマディスプレイ装置、電子放出式表示装置を構成することもできる。
また、本発明に係る多層化膜の形成方法は、上述した駆動回路、発光素子、燃料電池以外の構成において含まれる多層化膜についても適用することができる。
また、各実施形態の各構成はこれらを適宜組み合わせたり、省略したり、図示しない他の構成と組み合わせたりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明に係る電気光学装置の一例を示す要部断面図。
【図2】電気光学装置の駆動回路部を示す平面図。
【図3】駆動素子およびその周辺構造を示す図2のA−A断面図。
【図4】液滴吐出装置の構成の一例を示す模式図。
【図5】ゲート配線の形成工程を示すフローチャート。
【図6】(a)〜(d)は、ゲート配線の形成工程の一過程を示す図2のB−B断面図。
【図7】(e)〜(g)は、ゲート配線の形成工程の一過程を示す図2のB−B断面図。
【図8】発光素子の形成工程を示すフローチャート。
【図9】(a)〜(d)は、発光素子の形成工程の一過程を示す断面図。
【図10】電子機器の一例を示す概略斜視図。
【図11】燃料電池の概略構成を示す斜視図。
【符号の説明】
【0069】
1…駆動素子、2…素子基板、3…多層化膜としてのゲート配線、4…多層化膜としてのソース配線、5…多層化膜としてのゲート電極、6…多層化膜としてのソース電極、7…多層化膜としてのドレイン電極、8…セグメント電極、9…バンクとしての下層バンク、10a…第1の機能性材料の層(固体層)としてのゲート下地層、10b…第1(固体層)または第2の機能性材料の層としてのゲート導電層、10c…第2の機能性材料の層としてのゲート被覆層、18a…下層ソース層、18b…ソース導電層、18c…上層ソース層、19a…下層ドレイン層、19b…ドレイン導電層、19c…上層ドレイン層、32…第1または第2の機能液としてのAg分散液、33…第2の機能液としてのNi分散液、35…液状層、36…液状層、50…多層化膜としての発光膜、51…第2の機能性材料の層としての有機EL層、52…第1の機能性材料の層としての正孔輸送層、53…共通電極、54…バンク、55…遮光膜、56…発光素子、61…第1の機能液および液状層としてのPEDOT液、62…第2の機能液としての有機EL液、63…固体層、100…電気光学装置、101…駆動回路部、102…発光素子部、120…燃料電池、121,122…基板、123,124…ガス拡散層、125,126…触媒層、127…イオン交換層、128,129…電極層、130…多層化膜、200…液滴吐出装置、700…電子機器としての携帯型情報処理装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出法を用いた多層化膜の形成方法、および多層化膜、並びに電気光学装置、電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、導電配線や機能性素子の製造において、液滴吐出法(インクジェット法)を用いた成膜技術が利用されている。この成膜技術は、機能性材料を含んだ液状体(機能液)をインクジェットプリンタのような描画装置を用いて基板上にパターン化して配置し、当該配置された機能液を乾燥等させて機能性膜を成膜するものであり、少量多種生産に対応可能であるなど大変有効であるとされている。
【0003】
この成膜技術を利用して機能性素子等を製造する場合、上述の描画、乾燥の工程を順次繰り返すことにより、複数種の機能性膜を積層形成することも可能である。例えば、特許文献1には正孔輸送層と発光層とを含む機能性素子について、特許文献2には下地層と導電層とからなる導電配線について、液滴吐出法を用いて形成する例が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−63138号公報
【特許文献2】特開2003−315813号公報
【特許文献3】特開2002−110352号公報
【特許文献4】特許第2773297号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のような多層化された機能性膜(以下、多層化膜という)においては、その層間の密着性および接触性は、信頼性や特性に大きく影響する場合がある。例えば、上述の二層導電配線の場合、層間の密着性は界面抵抗や層間の剥離耐性に影響する。また、上述の発光素子の場合、発光素子の発光は正孔輸送層と発光層の界面付近で発生するものであり、両層の界面における接触面積と発光効率とは密接な関係がある(例えば、特許文献3、4参照)。
【0006】
ところが、従来の液滴吐出法による多層化の方法では、このような界面の密着性、接触性を向上させる点について、十分に配慮がなされていなかった。
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたもので、異種の機能性材料層間の密着性、接触性に優れた多層化膜の形成方法、および多層化膜、並びに当該多層化膜を有する電気光学装置、電子機器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、少なくとも2種以上の機能性材料が積層されてなる多層化膜を基板上に形成する多層化膜の形成方法であって、液滴吐出法を用いて第1の前記機能性材料を含む第1の機能液を前記基板上に配置する下層吐出工程と、前記基板上における前記第1の機能液を固形化して、前記第1の機能性材料を含む固体層を形成する下層固形化工程と、前記固体層上に、前記第1の機能性材料を含む液状層を形成する液状層形成工程と、前記固体層および前記液状層に重ねて、液滴吐出法を用いて第2の前記機能性材料を含む第2の機能液を配置する上層吐出工程と、前記液状層および前記第2の機能液を固形化する上層固形化工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
この発明の多層化膜の形成方法によれば、第1の機能性材料を含む固体層と第2の機能液とが液状層を介して積層配置され、界面が流動性を有した状態を経て固形化されるため、第1および第2の機能性材料が界面付近で混合、拡散されて、好適な層間の密着性および接触性を有する多層化膜が形成される。
【0010】
また好ましくは、前記多層化膜の形成方法において、前記液状層形成工程は、液滴吐出法を用いて、前記固体層を再液化させるための再液化液を当該固体層上に吐出する工程であることを特徴とする。
さらに好ましくは、前記再液化液は、前記第1の機能液の液体成分からなることを特徴とする。
【0011】
この発明の多層化膜の形成方法によれば、再液化液を液滴吐出法で吐出することにより第1の機能性材料層の表面を液状化して、簡単に液状層を形成することができる。また好ましくは、第1の機能液の液体成分からなる再液化液を用いることで、効果的な再液化を図ることができる。
【0012】
また好ましくは、前記多層化膜の形成方法において、前記液状層形成工程は、液滴吐出法を用いて、前記第1の機能液を前記固体層上に吐出する工程であることを特徴とする。
この発明の多層化膜の形成方法によれば、第1の機能液を液滴吐出法で吐出することにより簡単に液状層を形成することができる。
【0013】
また好ましくは、前記多層化膜の形成方法において、前記下層吐出工程前に、前記基板上に当該下層吐出工程における所定の領域を区画するようにバンクが形成されていることを特徴とする。
ここで、バンクとは、樹脂等で形成された立体構造体のことである。この発明の多層化膜の形成方法によれば、バンクによって基板面内方向の機能液の位置が確実に規定されるので、第1および第2の機能性材料層の良好な積層関係を実現することができる。
【0014】
また好ましくは、前記多層化膜の形成方法において、前記第1および第2の機能性材料が、互いに相補的に作用して所定の機能を発揮する関係にあることを特徴とする。
この発明の多層化膜の形成方法によれば、機能性材料が混合、拡散された界面構造によって、機能性材料層間の接触面積が実質的に増すことになるので、機能性効率に優れた多層化膜を提供することができる。
【0015】
本発明の多層化膜は、基板上に形成された第1の機能性材料を含む固体層上に前記第1の機能性材料を含む液状層が形成され、当該液状層に重ねて液滴吐出法により第2の機能性材料を含む機能液が配置され、当該機能液および前記液状層が固形化されて形成されていることを特徴とする。
この発明の多層化膜は、第1の機能性材料を含む固体層と第2の機能液とが液状層を介して積層配置され、界面が流動性を有した状態を経て固形化されて形成されているので、第1および第2の機能性材料が界面付近で混合、拡散された状態となっている。これにより、好適な層間の密着性および接触性を有する多層化膜となっている。
【0016】
本発明の電気光学装置は、前記多層化膜を備えることを特徴とする。
この発明の電気光学装置は、層間密着性に優れた多層化膜を備えているので、信頼性などに優れている。
【0017】
本発明の電子機器は、前記多層化膜ないし前記電気光学装置を備えることを特徴とする。
この発明の電子機器は、層間密着性に優れた多層化膜を備えているので、信頼性などに優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
尚、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。また、以下の説明で参照する図では、各層や各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各層や各部材の縮尺は実際のものとは異なるように表している。
【0019】
(第1実施形態)
(電気光学装置)
まずは、図1、図2、図3を参照して、本発明に係る電気光学装置について説明する。図1は、本発明に係る電気光学装置の一例を示す要部断面図である。図2は、電気光学装置の駆動回路部を示す平面図である。図3は、駆動素子およびその周辺構造を示す図2のA−A断面図である。
【0020】
図1に示すように、電気光学装置100は、基板としての素子基板2と、素子基板2上に形成された駆動回路部101と、駆動回路部101上に形成された発光素子部102と、素子基板2と対向して駆動回路部101および発光素子部102を封止するための封止基板103と、を備えている。素子基板2には、ガラス基板が好適に用いられる。また、封止基板103によって封止された封止空間104には、不活性ガスが充填されている。
【0021】
発光素子部102は、バンク54で区画された複数の凹部を有しており、当該凹部内に形成された多層化膜としての発光素子56の個々が、画像を形成するための階調要素を成している。また、バンク54と駆動回路部101との間には、階調要素間の干渉を防ぐための遮光膜55が形成されている。尚、バンク54は、例えば、アクリル樹脂やポリイミド樹脂などを素子基板2上にパターン形成したものである。
【0022】
発光素子56は、駆動回路部101の出力端子であるセグメント電極(陽極)8と、共通電極(陰極)53と間に発光膜50が挟持されて構成されている。発光膜50は、正孔輸送層52と、有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELとする)層51とが積層された多層化膜である。
【0023】
セグメント電極8には、インジウム錫酸化物(ITO)などの光透過性の導電材料が、共通電極53には、カルシウム金属層とそれを保護する銀−マグネシウム合金層の三層膜などが用いられている。発光膜50における正孔輸送層52は、有機EL層51に正孔を注入するための機能層であり、ポリチオフェン誘導体のドーピング体(以下、PEDOTとする)などの高分子導電体が用いられる。有機EL層51には、蛍光あるいは燐光を発光することが可能な公知の有機EL材料、例えば、ポリフルオレン誘導体、(ポリ)パラフェニレンビニレン誘導体、ポリフェニレン誘導体などが用いられる。尚、発光素子56の具体的な形成方法については、後述する。
【0024】
上述の構成において、駆動回路部101を介した駆動制御によりセグメント電極8と共通電極53との間に電圧が印加されると、正孔輸送層52から有機EL層51に正孔が注入され、当該正孔が共通電極53側からの電子と結合して発光する。この発光は正孔輸送層52と有機EL層51の界面付近で発生する。
【0025】
図2に示すように、駆動回路部101は、平面構造的には、素子基板2上に縦横に配線された導電配線であるゲート配線3、ソース配線4と、両配線3,4の交差領域付近に形成された駆動素子1とを備えている。駆動素子1は、ゲート配線3からその延在方向に直交して延出されたゲート電極5と、ソース配線4からその延在方向に直交して延出されたソース電極6と、ソース電極6と平面視方向において対向するように配置されたドレイン電極7の3つの電極を有し、ドレイン電極7は上述したセグメント電極8と電気的に接続されている。かくして、駆動回路部101は、ゲート配線3に供給される走査信号とソース配線4に供給される階調信号とにより、階調要素に対応して設けられているセグメント電極8毎の供給電圧制御を行う。
【0026】
図3に示すように、駆動回路部101は、断面構造的には、素子基板2の表面に形成されている下層バンク9と、下層バンク9によって区画された凹部内に形成されたゲート電極5およびゲート配線3(図2参照)と、ゲート電極5および下層バンク9の上面側に形成されたゲート絶縁層13とを備えている。下層バンク9は、上述したバンク54(図1参照)と同様の手法で形成されたものである。ゲート絶縁層13は、窒化シリコン等で形成されており、CVD法などを用いて形成される。
【0027】
ゲート電極5およびゲート配線3(図2参照)は、Mn(マンガン)あるいはMnの合金からなるゲート下地層10aと、Ag(銀)あるいはAgの合金からなるゲート導電層10bと、Ni(ニッケル)あるいはNiの合金からなるゲート被覆層10cと、からなる多層化膜である。これらの各層は、ゲート電極5とゲート配線3(図2参照)とを合わせて一体として、液滴吐出法を用いてパターン形成されており、詳しい工程については後述する。
【0028】
ゲート導電層10bは、導電配線としての導電性を担う層である。ゲート下地層10aは、ゲート導電層10bと素子基板2との間に介在して、素子基板2上におけるゲート導電層10bの定着性を高めるための役割を果たしている。特に、ゲート電極5のように線幅の細い領域(図2参照)においては、ゲート下地層10aにより素子基板2からの剥離が好適に防止される。ゲート被覆層10cは、ゲート導電層10bがAgを含んでいて拡散しやすい特性を有していることから、この拡散を抑えるためのキャップ層としての役割を果たしている。
【0029】
駆動回路部101は、ゲート絶縁層13の上面側に、上層バンク14と、ゲート絶縁層13を介してゲート電極5と対向して形成されているチャネル層15と、チャネル層15の上に所定の隙間をもって形成されている接合層16,17と、接合層16,17と接して形成されているソース電極6(ソース配線4)、ドレイン電極7と、を備えている。
【0030】
チャネル層15および接合層16,17は、それぞれアモルファスシリコン、n+型アモルファスシリコンで形成されている。ソース電極6およびソース配線4は、Ni(ニッケル)あるいはNiの合金からなる下層ソース層18aと、Ag(銀)あるいはAgの合金からなるソース導電層18bと、Ni(ニッケル)あるいはNiの合金からなる上層ソース層18cとからなる多層化膜である。ドレイン電極7もまた、ソース電極6と同様の構成を持つ多層化膜であり、下層ドレイン層19a、ドレイン導電層19b、上層ドレイン層19cを有している。
【0031】
上層バンク層は、ソース配線4や駆動素子1の形成領域(図2参照)を区画するように、上述のバンク54と同様の手法によりパターン形成される。次いで、チャネル層15、接合層16,17が、CVD法とフォトリソグラフィ法を用いて形成され、ソース配線4、ソース電極6、ドレイン電極7が、ゲート電極5およびゲート配線3(図2参照)と同様の手法で液滴吐出法を用いて形成される。この後、上層バンク14によって区画されていた凹部を埋めるように絶縁層20が形成され、さらにドレイン電極7から絶縁層20の上面までを貫通する導電ホール21が形成されて、図示の状態となる。
【0032】
(液滴吐出装置)
次に、図4を参照して、液滴吐出法において用いる液滴吐出装置について説明する。図4は、液滴吐出装置の構成の一例を示す模式図である。
【0033】
図4において、液滴吐出装置200は、一面に複数のノズル212を配した吐出ヘッド201と、吐出ヘッド201と対向する位置に基板202を載置するための載置台203とを備えている。また、吐出ヘッド201を、基板202との距離を保ったまま縦横に移動(走査)させる走査手段204と、吐出ヘッド201に機能液を供給する機能液供給手段205と、吐出ヘッド201の吐出制御を行う吐出制御手段206と、を備えている。
【0034】
吐出ヘッド201には、複数に枝分かれした微細な流路が形成されており、当該流路の端部は、圧力室(キャビティ)211、ノズル212となっている。圧力室211の外郭の一面は、圧電素子210によって変形可能となっており、吐出制御手段206からの駆動信号によって圧力室211内に圧力を発生させることで、ノズル212から液滴213が吐出される。尚、吐出技術としては、この例のような電気機械方式の他に、電気信号を熱に変換して圧力を発生させるいわゆるサーマル方式などもある。
【0035】
上述の構成において、吐出ヘッド201の走査と同期したノズル212毎の吐出制御を行うことにより、基板202上に所望のパターンで機能液を配置することが可能となっている。尚、液滴吐出装置200は、一走査中において複数種の機能液を吐出可能なように構成することもできる。
【0036】
(ゲート配線の形成方法)
次に、図5のフローチャートに沿って、図6、図7を参照してゲート配線(ゲート電極も含む)の形成方法について説明する。図5は、ゲート配線の形成工程を示すフローチャートである。図6(a)〜(d)は、ゲート配線の形成工程の一過程を示す図2のB−B断面図である。図7(e)〜(g)は、ゲート配線の形成工程の一過程を示す図2のB−B断面図である。
【0037】
まず、ゲート配線3(ゲート電極5)の形成に先立って、液滴吐出装置200(図4参照)で吐出させるための機能液が用意される。機能液とは、より具体的には、機能性材料を微粒子化して液体に分散させたものであり、MnないしMn合金(以下、単にMnとする)を機能性材料とするMn分散液、AgないしAg合金(以下、単にAgとする)を機能性材料とするAg分散液、NiないしNi合金(以下、単にNiとする)を機能性材料とするNi分散液が用意される。これらの機能性材料は、微粒子化した上、分散性を向上させるためさらにその表面に有機物(クエン酸など)をコーティングして用いることもできる。
【0038】
機能液を構成する分散媒は、上述の微粒子を分散できるもので、凝集を起こさないものであれば特に限定されない。具体的には、水の他に、メタノール、エタノールなどのアルコール類、n−ヘプタン、トルエンなどの炭化水素系化合物、またエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル系化合物、更にプロピレンカーボネート、N−メチル−2−ピロリドンなどの極性化合物を挙げることができる。これらは、単独でも、あるいは2種以上の混合物としても使用することができる。
【0039】
また、液滴吐出装置200(図4参照)における吐出特性や目詰まり性、分散の安定性、吐出後における基板上での動的物性や乾燥速度などに鑑みて、機能液は、分散媒の蒸気圧、分散質濃度、表面張力、粘度、比重などについて適切な調整がされている。このため、機能液には、界面活性剤や保湿剤、粘度調整剤などを添加することができる。また、成膜後の定着性を良くするために、バインダーを添加することもできる。
【0040】
次に、図6(a)に示すように、ガラス製の素子基板2上に、ゲート配線3(ゲート電極5)の形成領域(図2も参照)を区画するように、下層バンク9をパターン形成する(図5の工程S1)。具体的には、例えば、材料となる高分子樹脂等を含んだ溶液を、スピンコート法等で塗布して一様な厚みの膜を形成し、フォトリソグラフィ法によりパターンエッチングを施す。
【0041】
次に、素子基板2の下層バンク9が形成されている側に対して、酸素プラズマ処理法などにより親液化処理を行う(図5の工程S2)。この親液処理によって素子基板2の露出面は一様に清浄化され、濡れ性のムラが低減されると共に濡れ性そのものも向上する。
【0042】
次に、素子基板2の下層バンク9が形成されている側に対して、テトラフルオロメタン(CF4)プラズマ処理などにより撥液化処理を行う(図5の工程S3)。この処理により、有機材料からなる下層バンク9の表面にはフッ素基が導入されて、撥液性を有するようになる。このとき、無機材料からなる素子基板2の露出面もこのプラズマ処理の影響を多少受けるが、親液性に影響を与えるほどではない。尚、下層バンク9を形成する樹脂材料として、初めから撥液性を有するもの(例えばフッ素基を有する樹脂材料)を用いることにより、上述の撥液処理を省略するようにしても構わない。
【0043】
次に、液滴吐出法により、下層バンク9によって形成されている区画化領域34内にMn分散液(第1の機能液に対応する)を配置する。(図5の下層吐出工程S4)このとき、Mn分散液の一部が区画化領域34から外れて吐出された場合であっても、上述した下層バンク9の撥液処理によって、Mn分散液は好適に区画化領域34内に配置される。
【0044】
次に、素子基板2ごと真空乾燥機に入れて、あるいは放置するなどして乾燥させてMn分散液を固形化する(図5の下層固形化工程S5)。これにより、図6(b)に示すように、ゲート下地層10a(固体層に相当する)が形成される。尚、この下層固形化工程S5においては、分散媒の全てが完全に抜けきれてなくともよく、ゲート下地層10aが実質的に非流動状態となっていれば十分である。
【0045】
次に、区画化領域34内におけるゲート下地層10aに対して、液滴吐出法により再液化液を吐出する(図5の液状層形成工程S6)。ここで、再液化液は、Mn分散液の液体成分(分散媒や添加剤等)からなる液体であって、これにより、ゲート下地層10a中のMn微粒子が再分散し、ゲート下地層10aの表面部分を再液化することができるものである。かくして、図6(c)に示すように、ゲート下地層10a上にMnを含む液状層35が形成される。尚、液状層35は、ゲート下地層10aの表面全体に渡って形成しなければならないということはなく、ゲート下地層10aの表面の一部分に形成されるようになっていてもよい。
【0046】
次に、図6(d)に示すように、区画化領域34内に液滴吐出法によりAg分散液32を配置する(図5の工程S7)。このとき、Ag分散液32の配置領域は、下層バンク9によってゲート下地層10aのパターンと同一となるように規定されるため、Ag分散液32は、ゲート下地層10aおよび液状層35の上に確実に積層されることになる。また、液状層35は、ゲート下地層10aから再分散されたMnとAg分散液32中のAgとが混合、拡散された状態となる。尚、ゲート下地層10aとの関係では、この工程S7は上層吐出工程に対応し、Ag分散液32は第2の機能液に対応する。また、この後ゲート導電層10bの上に形成するゲート被覆層10c(図7(g)参照)との関係では、この工程S7は下層吐出工程に対応し、Ag分散液32は第1の機能液に対応する。
【0047】
次に、素子基板2ごと真空乾燥機に入れて、あるいは放置するなどして乾燥させ、液状層35およびAg分散液32を固形化する(図5の工程S8)。これにより、図7(e)に示すように、Ag分散液32はゲート導電層10bとなり、液状層35はゲート下地層10aとゲート導電層10bとの界面を形成する。かくして、両層10a,10bは、MnとAgとが適度に混合、拡散された状態の界面を有しており、好適な密着性、接触性を示す。尚、この工程S8においては、分散媒の全てが完全に抜けきれてなくともよく、両層10a,10bが実質的に非流動状態となっていれば十分である。この工程S8は、ゲート下地層10aとの関係では上層固形化工程に対応する。また、この後ゲート導電層10bの上に形成するゲート被覆層10c(図7(g)参照)との関係では、この工程S8は下層吐出工程に対応し、ゲート導電層10bは固体層に対応する。
【0048】
次に、図7(f)に示すように、区画化領域34内のゲート導電層10bに対して、液滴吐出法により再液化液を吐出してAgを含む液状層36を形成する(図5の液状層形成工程S9)。そしてさらに液滴吐出法により、区画化領域34内にNi分散液33(第2の機能液に対応する)を配置する(図5の上層吐出工程S10)。このとき液状層36では、ゲート導電層10bから再分散されたAgとNi分散液33中のNiとが混合、拡散された状態となる。
【0049】
次に、素子基板2ごと電熱炉等に入れて、焼成を行う(図5の上層固形化工程S11)。これにより、図7(g)に示すように、Ni分散液33はゲート被覆層10cとなり、液状層36はゲート導電層10bとゲート被覆層10cとの界面を形成する。かくして、両層10b,10cは、AgとNiが適度に混合、拡散された状態の界面を有しており、好適な密着性、接触性を示す。
【0050】
かくして、多層化膜としてのゲート配線3(ゲート電極5)は、層間の密着性に優れているため、剥離耐性に優れ、高い信頼性を有する。また、層間における実質的な接触面積が大きくなって界面抵抗も小さくなるので、電気信号を効率的に駆動素子1(図3参照)に供給することができ、消費電力が小さいという特長も有している。
【0051】
(発光素子の形成方法)
次に、図8のフローチャートに沿って、図9を参照して発光素子の形成方法について説明する。図8は、発光素子の形成工程を示すフローチャートである。図9(a)〜(d)は、発光素子の形成工程の一過程を示す断面図である。尚、図9(a)〜(d)において、駆動回路部の図示は省略している。
【0052】
まず、発光素子の形成に先立って、液滴吐出装置200(図4参照)で吐出させるための機能液が用意される。具体的には、PEDOTの一種であるバイトロン−P(バイエル社製)を機能性材料として含んだ溶液(PEDOT液)が正孔輸送層52用として用意され、有機EL材料を機能性材料として含んだ溶液(有機EL液)が発光層51用として用意される。尚、電気光学装置100(図1参照)がカラー表示タイプの場合には、三原色に対応した組成の有機EL液がそれぞれ用意される。
【0053】
次に、図9(a)に示すように、セグメント電極8が形成されている素子基板2に対して、各セグメント電極8に対応する階調要素領域58を区画するように遮光膜55を形成する(図8の工程S21)。具体的には、例えば、クロム等の金属などを用いて、CVD法とフォトリソグラフィ法により形成する。
【0054】
次に、遮光膜55の上にバンク54を形成し(図8の工程S22)、親液処理(図8の工程S23)、撥液処理(図8の工程S24)を施す。これらの工程は、先に説明したゲート配線の形成工程と同様の方法で行われる。
【0055】
次に、液滴吐出法を用いて、階調要素領域58内にPEDOT液を配置し(図8の下層吐出工程S25)、素子基板2ごと真空乾燥機に入れて、あるいは放置するなどして乾燥させる(図8の下層固形化工程S26)。かくして、図9(b)に示すように、PEDOTを含んでなる固体層63が形成される。尚、固体層63は、図1の正孔輸送層52と構造的には同じものである。
【0056】
次に、図9(c)に示すように、液滴吐出法を用いて、階調要素領域58内の下地層63上に重ねてPEDOT液61を配置する(図8の液状層形成工程S27)。下地層63上に重ねて配置されたPEDOT液61は、本発明の液状層に対応する。
【0057】
次に、液滴吐出法を用いて、階調要素領域58内のPEDOT液61に重ねて有機EL液62を配置する(図8の上層吐出工程S28)。このとき、PEDOT液61と有機EL液62とは、界面付近において互いに混合、拡散するが、固体層63とPEDOT液61との界面を越えて有機EL材料が拡散することはない。すなわち、固体層63は、隣接する機能性材料間の混合、拡散が際限なく進行してしまうのを防ぐために、あらかじめ一方の機能性材料(この場合はPEDOT)について固体領域を設けたものである。
【0058】
次に、素子基板2ごと真空乾燥装置等に入れて乾燥させ、PEDOT液61および有機EL液62を固形化する(図8の上層固形化工程S29)。これにより、図9(d)に示すように、有機EL液62は有機EL層51となり、PEDOT液61は固体層63と共に正孔輸送層52となって、発光膜50が形成される。このとき、有機EL層51と正孔輸送層52とは、有機EL材料とPEDOTとが適度に混合、拡散された状態の界面を有しており、好適な密着性、接触性を示す。
【0059】
最後に、発光膜50の上側に、CVD法等で共通電極53(図1参照)を形成し(図8の工程S30)、発光素子56が完成する。尚、共通電極53は、上述したゲート配線3(図7参照)と同様の手法で、液滴吐出法を用いて形成することも可能である。
【0060】
かくして、多層化膜としての発光膜50を備えた発光素子56(図1参照)は、有機EL層51と正孔輸送層52層との実質的な接触面積が大きいため、有機EL層51への正孔の注入が効率的に行われ、優れた発光特性を発揮することができる。また、この発光膜50を備えた電気光学装置100(図1参照)は、高輝度な画像を表示することができる。
【0061】
(電子機器)
次に、図10を参照して、電子機器の具体例を説明する。図10は、電子機器の一例を示す概略斜視図である。
【0062】
図10に示す電子機器としての携帯型情報処理装置700は、キーボード701と、本体部703と、表示部702と、を備えている。このような携帯型情報処理装置700のより具体的な例は、ワープロ、パソコンである。この携帯型情報処理装置700は、ゲート配線3と同様の方法で形成された導電配線を有する制御回路基板を備え、また、表示部702として上述の電気光学装置100を備えているため、省電力性や信頼性、表示特性などに優れている。
【0063】
(第2実施形態)
次に、図11を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。図11は、燃料電池の概略構成を示す斜視図である。
【0064】
図11に示す燃料電池120は、水素ガスと酸素ガスとを供給し、両ガスの反応により電力を発生させるものである。燃料電池120は、ガス通路121a,122aが形成された一対の基板121,122の間に、電極層128,129、ガス拡散層123,124、触媒層125,126、イオン交換層127が積層されてなる多層化膜130が挟持された構成となっている。電極層128,129には銅などの導電材料が、ガス拡散層123,124には多孔質カーボンなどが、触媒層125,126には白金などが、イオン交換層127にはイオン透過性を有する電解質、例えば、Nafion(デュポン社の登録商標)などが用いられており、これらは液滴吐出法により形成することが可能である。
【0065】
燃料電池120は、ガス通路121aに供給された水素ガスが酸化(イオン化)され、イオン交換層127を経て、ガス通路122aに供給された酸素ガスによって還元されることで電力を発生させる。この酸化還元反応は、ガス拡散層123,124、触媒層125,126、イオン交換層127の各層間における電気的且つ物理的なパスによって行われるため、各層間における実質的な接触面積が大きいほど、その効率は高くなる。
【0066】
そこで、本実施形態の燃料電池においては、ガス拡散層123,124、触媒層125,126、イオン交換層127の形成について、上述したゲート配線3(図7参照)や発光膜50(図9参照)の形成と同様の手法を用いることで各層間の接触性を高めており、これにより高い発電効率を実現している。
【0067】
本発明は上述の実施形態に限定されない。
例えば、本発明に係る電気光学装置として、駆動回路部101の構成はそのままで、液晶表示装置やプラズマディスプレイ装置、電子放出式表示装置を構成することもできる。
また、本発明に係る多層化膜の形成方法は、上述した駆動回路、発光素子、燃料電池以外の構成において含まれる多層化膜についても適用することができる。
また、各実施形態の各構成はこれらを適宜組み合わせたり、省略したり、図示しない他の構成と組み合わせたりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明に係る電気光学装置の一例を示す要部断面図。
【図2】電気光学装置の駆動回路部を示す平面図。
【図3】駆動素子およびその周辺構造を示す図2のA−A断面図。
【図4】液滴吐出装置の構成の一例を示す模式図。
【図5】ゲート配線の形成工程を示すフローチャート。
【図6】(a)〜(d)は、ゲート配線の形成工程の一過程を示す図2のB−B断面図。
【図7】(e)〜(g)は、ゲート配線の形成工程の一過程を示す図2のB−B断面図。
【図8】発光素子の形成工程を示すフローチャート。
【図9】(a)〜(d)は、発光素子の形成工程の一過程を示す断面図。
【図10】電子機器の一例を示す概略斜視図。
【図11】燃料電池の概略構成を示す斜視図。
【符号の説明】
【0069】
1…駆動素子、2…素子基板、3…多層化膜としてのゲート配線、4…多層化膜としてのソース配線、5…多層化膜としてのゲート電極、6…多層化膜としてのソース電極、7…多層化膜としてのドレイン電極、8…セグメント電極、9…バンクとしての下層バンク、10a…第1の機能性材料の層(固体層)としてのゲート下地層、10b…第1(固体層)または第2の機能性材料の層としてのゲート導電層、10c…第2の機能性材料の層としてのゲート被覆層、18a…下層ソース層、18b…ソース導電層、18c…上層ソース層、19a…下層ドレイン層、19b…ドレイン導電層、19c…上層ドレイン層、32…第1または第2の機能液としてのAg分散液、33…第2の機能液としてのNi分散液、35…液状層、36…液状層、50…多層化膜としての発光膜、51…第2の機能性材料の層としての有機EL層、52…第1の機能性材料の層としての正孔輸送層、53…共通電極、54…バンク、55…遮光膜、56…発光素子、61…第1の機能液および液状層としてのPEDOT液、62…第2の機能液としての有機EL液、63…固体層、100…電気光学装置、101…駆動回路部、102…発光素子部、120…燃料電池、121,122…基板、123,124…ガス拡散層、125,126…触媒層、127…イオン交換層、128,129…電極層、130…多層化膜、200…液滴吐出装置、700…電子機器としての携帯型情報処理装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2種以上の機能性材料が積層されてなる多層化膜を基板上に形成する多層化膜の形成方法であって、
液滴吐出法を用いて第1の前記機能性材料を含む第1の機能液を前記基板上に配置する下層吐出工程と、
前記基板上における前記第1の機能液を固形化して、前記第1の機能性材料を含む固体層を形成する下層固形化工程と、
前記固体層上に、前記第1の機能性材料を含む液状層を形成する液状層形成工程と、
前記固体層および前記液状層に重ねて、液滴吐出法を用いて第2の前記機能性材料を含む第2の機能液を配置する上層吐出工程と、
前記液状層および前記第2の機能液を固形化する上層固形化工程と、を有することを特徴とする多層化膜の形成方法。
【請求項2】
前記液状層形成工程は、液滴吐出法を用いて、前記固体層を再液化させるための再液化液を当該固体層上に吐出する工程であることを特徴とする請求項1に記載の多層化膜の形成方法。
【請求項3】
前記再液化液は、前記第1の機能液の液体成分からなることを特徴とする請求項2に記載の多層化膜の形成方法。
【請求項4】
前記液状層形成工程は、液滴吐出法を用いて、前記第1の機能液を前記固体層上に吐出する工程であることを特徴とする請求項1に記載の多層化膜の形成方法。
【請求項5】
前記下層吐出工程前に、前記基板上に当該下層吐出工程における所定の領域を区画するようにバンクが形成されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の多層化膜の形成方法。
【請求項6】
前記第1および第2の機能性材料が、互いに相補的に作用して所定の機能を発揮する関係にあることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の多層化膜の形成方法。
【請求項7】
基板上に形成された第1の機能性材料を含む固体層上に前記第1の機能性材料を含む液状層が形成され、当該液状層に重ねて液滴吐出法により第2の機能性材料を含む機能液が配置され、当該機能液および前記液状層が固形化されて形成された多層化膜。
【請求項8】
請求項7に記載の多層化膜を備える電気光学装置。
【請求項9】
請求項7に記載の多層化膜ないし、請求項8に記載の電気光学装置を備える電子機器。
【請求項1】
少なくとも2種以上の機能性材料が積層されてなる多層化膜を基板上に形成する多層化膜の形成方法であって、
液滴吐出法を用いて第1の前記機能性材料を含む第1の機能液を前記基板上に配置する下層吐出工程と、
前記基板上における前記第1の機能液を固形化して、前記第1の機能性材料を含む固体層を形成する下層固形化工程と、
前記固体層上に、前記第1の機能性材料を含む液状層を形成する液状層形成工程と、
前記固体層および前記液状層に重ねて、液滴吐出法を用いて第2の前記機能性材料を含む第2の機能液を配置する上層吐出工程と、
前記液状層および前記第2の機能液を固形化する上層固形化工程と、を有することを特徴とする多層化膜の形成方法。
【請求項2】
前記液状層形成工程は、液滴吐出法を用いて、前記固体層を再液化させるための再液化液を当該固体層上に吐出する工程であることを特徴とする請求項1に記載の多層化膜の形成方法。
【請求項3】
前記再液化液は、前記第1の機能液の液体成分からなることを特徴とする請求項2に記載の多層化膜の形成方法。
【請求項4】
前記液状層形成工程は、液滴吐出法を用いて、前記第1の機能液を前記固体層上に吐出する工程であることを特徴とする請求項1に記載の多層化膜の形成方法。
【請求項5】
前記下層吐出工程前に、前記基板上に当該下層吐出工程における所定の領域を区画するようにバンクが形成されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の多層化膜の形成方法。
【請求項6】
前記第1および第2の機能性材料が、互いに相補的に作用して所定の機能を発揮する関係にあることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の多層化膜の形成方法。
【請求項7】
基板上に形成された第1の機能性材料を含む固体層上に前記第1の機能性材料を含む液状層が形成され、当該液状層に重ねて液滴吐出法により第2の機能性材料を含む機能液が配置され、当該機能液および前記液状層が固形化されて形成された多層化膜。
【請求項8】
請求項7に記載の多層化膜を備える電気光学装置。
【請求項9】
請求項7に記載の多層化膜ないし、請求項8に記載の電気光学装置を備える電子機器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−318835(P2006−318835A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−142194(P2005−142194)
【出願日】平成17年5月16日(2005.5.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月16日(2005.5.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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