説明

多層塗工膜の製造方法及び光学用部材

【課題】相分離を利用した一液型塗工方法の簡易な手段によって、光学用や建材用などとして有用な、例えば表面に帯電防止膜や防汚膜などの機能膜が設けられた多層塗工膜を、密着性良く、且つ効果的に製造する方法を提供する。
【解決手段】溶剤不溶性型化合物に化学的処理を施すことにより溶剤に対して溶解性を示した溶剤溶解性型成分Aと、溶剤に対して溶解性を有する成分Bとを、前記溶剤に溶解させて1液の塗工液を調製し、次いで、この塗工液を基材上に塗布したのち、前記溶剤溶解性型成分Aを再び溶剤不溶性型化合物に戻して、溶剤不溶性型化合物と成分Bとの相分離を生じさせることにより、溶剤不溶性型化合物層と成分B層とを有する塗工膜を形成させることを特徴とする多層塗工膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多層塗工膜の製造方法及び光学用部材に関する。さらに詳しくは、相分離を利用した一液型塗工方法の簡易な手段によって、光学用や建材用などとして有用な、例えば表面に帯電防止膜や防汚膜などの機能膜が設けられた多層塗工膜を、密着性良く、且つ効果的に製造する方法、及びその方法で得られた多層塗工膜を有する光学用部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、多層塗工膜の形成方法としては、(1)複数の塗工液を用いて、塗布と乾燥処理を繰り返すタンデム塗工方式、(2)複数の塗工液を用いて、同時に多層塗布する方法(例えば、特許文献1及び2参照。)及び(3)複数の塗工液を傾斜したスライド面上で予め多層化し、該多層塗工膜を基材上に転移させて多層塗工膜を形成する方法(例えば、特許文献3参照。)などが知られている。
一方、スピノーダル分解により相分離構造を形成し、表面に凹凸を設けてなる防眩性フィルムが知られている。例えば少なくとも1つのポリマーと少なくとも1つの硬化性樹脂前駆体と溶媒とを含む液相から、前記溶媒の蒸発に伴うスピノーダル分解により、相分離構造を形成し、前記樹脂前駆体を硬化させ、少なくとも防眩層を形成する防眩性フィルムの製造方法が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。また、スピノーダル分解による相分離を利用した技術として、(A)活性エネルギー線硬化型重合性化合物、(B)熱可塑性樹脂、(C)前記(A)成分と(B)成分に対する良溶媒及び(D)前記(B)成分に対する貧溶媒を含み、かつ前記(A)成分と(B)成分の含有比率が、重量基準で100:0.3〜100:50であり、(C)成分と(D)成分の含有比率が、重量基準で99:1〜30:70であることを特徴とする防眩性ハードコート層形成用材料、及び基材フィルム上に、上記材料を用いて形成された、活性エネルギー線硬化樹脂層からなる防眩性ハードコート層を有する防眩性ハードコートフィルムが開示されている(例えば、特許文献5参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭62−51670号公報
【特許文献2】特公平2−22711号公報
【特許文献3】特開2003−62517号公報
【特許文献4】特開2004−126495号公報
【特許文献5】特開2006−137835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記(1)の方法は、複数の塗工液を別々に準備しなければならない上、複数回の塗布、乾燥処理が必要であるなど、操作が煩雑で生産性に劣るという問題がある。また、上記(2)、(3)の方法は、塗工方法が改善され、生産性は、上記(1)の方法に比べて改善されているものの、やはり複数の塗工液を別々に準備しなければならないという問題は残る。
さらに、前記(1)〜(3)の方法においては、複数の塗工液の種類によっては、層間密着性が必ずしも充分ではないという問題がある。
また、特許文献4及び5に記載のスピノーダル分解による相分離技術は、表面に不規則な凹凸を形成させる技術であって多層積層塗工膜を形成させる技術には応用し難い。
【0005】
ところで、ディスプレイ分野において用いられる各種の光学部材、例えば反射防止フィルム、防眩フィルム、ハードコートフィルムなどの保護フィルム、あるいは建材分野などにおいては、帯電を防止するための帯電防止膜、塵や埃、指紋などの付着を防止するための防汚膜などの機能膜を光学部材や化粧板などの表面に設けることが要求される。ところが、帯電防止材料や防汚材料などとしてよく用いられる含フッ素化合物は、特殊な溶媒しか溶けなかったり、マトリックス樹脂中に均一分散しにくかったり、あるいは他の塗膜上に塗布する場合、ハジキにより、塗布が困難な場合が多く、例え塗布できたとしても層間密着性が充分ではないなどの問題がある。
【0006】
本発明は、このような状況下になされたものであり、簡易な手段である一液型塗工方法によって、光学用や建材用などとして有用な、例えば表面に帯電防止膜や防汚膜などの機能膜が設けられた多層塗工膜を、密着性良く、且つ効果的に製造する方法、及びその方法で得られた多層塗工膜を有する光学用部材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、溶剤不溶性型化合物に化学的処理を施すことにより溶剤に対して溶解性を示した溶剤溶解性型成分Aと、溶剤に対して溶解性を有する成分Bとを、前記溶剤に溶解させて1液の塗工液を調製し、次いで該塗工液を基材上に塗布したのち、前記溶剤溶解性型成分Aを再び溶剤不溶性型化合物に戻して、溶剤不溶性型化合物と成分Bとの相分離を生じさせることにより、溶剤不溶性型化合物層と成分B層とを有する多層塗工膜を形成させることができることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0008】
すなわち、本発明は、
[1]溶剤不溶性型化合物に化学的処理を施すことにより溶剤に対して溶解性を示した溶剤溶解性型成分Aと、溶剤に対して溶解性を有する成分Bとを、前記溶剤に溶解させて1液の塗工液を調製し、次いで、この塗工液を基材上に塗布したのち、前記溶剤溶解性型成分Aを再び溶剤不溶性型化合物に戻して、溶剤不溶性型化合物と成分Bとの相分離を生じさせることにより、溶剤不溶性型化合物層と成分B層とを有する塗工膜を形成させることを特徴とする多層塗工膜の製造方法、
[2]溶剤溶解性型成分Aが、溶剤不溶性型化合物の極性基の活性水素を、脱離可能な保護基で置換する化学処理が施されたものである、上記[1]に記載の多層塗工膜の製造方法、
[3]活性水素をもつ極性基が、−COOH、−SO3H、−NH2、−CONH2、−OH及び−SHの中から選ばれる少なくとも1種である、上記[2]に記載の多層塗工膜の製造方法、
[4]脱離可能な保護基が、tert−ブトキシカルボニル基である、上記[2]又は[3]に記載の多層塗工膜の製造方法、
[5]溶剤溶解性型成分Aが、含フッ素化合物に化学的処理を施してなるものである、上記[2]〜[4]のいずれか1つに記載の多層塗工膜の製造方法、
[6]含フッ素化合物が、帯電防止材料又は防汚材料である、上記[5]に記載の多層塗工膜の製造方法、
[7]溶剤不溶性型化合物層が、成分B層の表面側に設けられてなる、上記[5]又は[6]に記載の多層塗工膜の製造方法、
[8]成分Bが、熱可塑性樹脂及び/又は活性エネルギー線硬化型化合物である、上記[1]〜[7]のいずれか1つに記載の多層塗工膜の製造方法、
[9]成分Bとして、活性エネルギー線硬化型化合物を用い、かつ活性エネルギー線として紫外線を使用する場合には、溶剤溶解性型成分Aと成分Bとを含む塗工液に光重合開始剤を含有させる、上記[1]〜[8]のいずれか1つに記載の多層塗工膜の製造方法、
[10]加熱処理により溶剤溶解性型成分Aを再び溶剤不溶性型化合物に戻す、上記[1]〜[9]のいずれか1つに記載の多層塗工膜の製造方法。
[11]基材上に、上記[1]〜[10]のいずれか1つに記載の方法で得られた多層塗工膜を有することを特徴とする、光学用部材、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、相分離を利用した簡易な一液型塗工方法によって、光学用や建材用などとして有用な、例えば表面に帯電防止層や防汚層などの機能層が設けられた多層塗工膜を、密着性良く、且つ効果的に製造する方法及びこの方法で得られた多層塗工膜を有する光学用部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1で得られた塗工膜の断面の光学顕微鏡写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の多層塗工膜の製造方法は、溶剤不溶性型化合物に化学的処理を施すことにより溶剤に対して溶解性を示した溶剤溶解性型成分Aと、溶剤に対して溶解性を有する成分Bとを、前記溶剤に溶解させて、1液の塗工液を調製し、次いで、この塗工液を基材上に塗布したのち、前記溶剤溶解性型成分Aを再び溶剤不溶性型化合物に戻して、溶剤不溶性型化合物と成分Bとの相分離を生じさせることにより、溶剤不溶性型化合物層と成分B層とを有する塗工膜を形成させることを特徴とする。なお、本明細書及び特許請求の範囲でいう「溶剤不溶性型化合物」とは、溶剤に不溶性又は難溶性の化合物を指す。
【0012】
[基材]
前記の溶剤不溶性型化合物層と成分B層とを有する多層塗工膜を形成させる基材に特に制限はなく、該多層塗工膜を有する部材の用途、例えば光学用部材や建材用部材などによって適宜選択することができるが、光学用部材の場合は、光学用フィルムの基材として公知であるプラスチックフィルムの中から適宜選択して用いることができる。
このようなプラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、セロファン、ジアセチルセルロースフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、アセチルセルロースブチレートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレン−酢酸ビニル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム、ポリアミドフィルム、アクリル樹脂フィルム、ノルボルネン系樹脂フィルム、シクロオレフィン樹脂フィルムなどを挙げることができる。
これらの基材は、透明、半透明のいずれであってもよく、また、着色されていてもよいし、無着色のものでもよく、用途に応じて適宜選択すればよい。例えば液晶表示体の保護用として用いる場合には、無色透明のフィルムが好適である。
これらの基材の厚さは特に制限はなく、状況に応じて適宜選定されるが、通常、15〜250μm、好ましくは30〜200μmの範囲である。また、この基材は、その表面に設けられる層との密着性を向上させる目的で、所望により片面又は両面に、酸化法や凹凸化法などにより表面処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理などが挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は基材の種類に応じて適宜選ばれるが、一般にはコロナ放電処理法が効果及び操作性などの面から、好ましく用いられる。
【0013】
[塗工液]
本発明においては、溶剤不溶性型化合物に化学的処理を施すことにより溶剤に対して溶解性を示した溶剤溶解性型成分Aと、溶剤に対して溶解性を有する成分Bとを、前記溶剤に溶解させて塗工液を調製する。
(溶剤)
本発明において用いる溶剤としては、例えばヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、塩化メチレン、塩化エチレンなどのハロゲン化炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、1−メトキシ−2−プロパノールなどのアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロンなどのケトン、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル、エチルセロソルブなどのセロソルブ系溶剤などが挙げられる。本発明においては、これらの溶剤の中から、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0014】
(溶剤不溶性型化合物)
本発明においては、溶剤不溶性型化合物に化学的処理を施すことにより、前記溶剤に溶解性を示す溶剤溶解性型成分Aに誘導する。
この溶剤不溶性型化合物は、活性水素をもつ極性基を有する化合物である。活性水素をもつ極性基としては、特に制限はないが、例えば−COOH、−SO3H、−NH2、−CONH2、−OH及び−SHの中から選ばれる少なくとも1種であると好ましい。
【0015】
また、この溶剤不溶性型化合物としては、特に含フッ素化合物であることが、本発明の効果がより有効に発揮されることから好ましい。この含フッ素化合物は、帯電防止材料又は防汚材料であるものが有利である。
含フッ素化合物は、例えば環境問題の原因ともなるフッ素系溶媒などの特殊な溶媒にしか溶けず、扱い難いという問題や層間密着性が悪いという問題があるが、本発明に従うことにより、その問題は解消する。一方、化学的処理を施さず、従来の様に2液以上で多層塗工膜を形成させようとすると、層間の密着性が低くなるという問題が生じる。ゆえに、本発明において、溶剤不溶性型化合物として含フッ素化合物を使用した場合に、本発明の効果がより顕著に反映される。
【0016】
−COOHを有する含フッ素化合物としては、例えばカルボン酸基を有するパーフルオロアルキル基含有防汚材料である「メガファックF−410」[大日本インキ化学工業株式会社製]などが市販されている。この「メガファックF−410」は、高い防汚性を発現するが、非水系の有機成分に対して相溶性が低く、そのままでは1液として塗布することにより層分離構造をとらせることは困難である。
また、−SO3Hを有する含フッ素化合物としては、例えば帯電防止材料などとして有用なフッ素樹脂系導電性高分子化合物である「Nafion(登録商標)」[シグマアルドリッチ株式会社製]などが市販されている。この「Nafion(登録商標)」は分散性や他の有機材料との相溶性が低く、基本的には水やフッ素系溶媒などに溶解しなければ塗工できない。しかし、本発明の方法に従うことにより、フッ素系溶媒などの特殊な溶媒を使用せずとも、前記溶剤を使用しながら1液にて多層塗工膜を形成することが可能となる。
【0017】
(溶剤溶解性型成分A)
本発明においては、前述した溶剤不溶性型化合物に化学的処理を施して、前記溶剤に対して溶解性を示す溶剤溶解性型成分Aに変換する。
この化学的処理としては、前記溶剤不溶性型化合物の分子内に存在する前述した活性水素をもつ極性基の該活性水素を、脱離可能な保護基で置換する処理が好ましく用いられる。
脱離可能な保護基としては特に制限はなく、従来、例えばペプチド合成分野などで用いられる公知の保護基の中から任意のものを適宜選択して用いることができるが、比較的低温の加熱で容易に脱離して、二酸化炭素と水とに分解し、後に何も残らないtert−ブトキシカルボニル基(BOC)が好適である。
BOC化剤としては、例えば1−t−ブトキシカルボニル−1,2,4−トリアゾール、二炭酸−ジ−t−ブチル、1−(t−ブトキシカルボニル)−2,4,5−トリクロロベンゼン、N−(t−ブトキシカルボニルオキシ)フタルイミドなどが挙げられる。
【0018】
前記BOC化剤以外で用いることができる保護化剤としては、公知の保護化剤が挙げられ、例えばシリル化剤、トリチル化剤などがある。その中でも、比較的低温の加熱により容易に脱離するものが好ましい。
シリル化剤としては、例えばトリメチル(フェニルチオ)シラン、1,2−ビス(クロロジメチルシリル)エタン、1,2−ビス(ジメチルシリル)ベンゼン、1,2−ビス[(ジメチルアミノ)ジメチルシリル]エタン、1,3−ジクロロ−1,1,3,3−テトライソプロピルジシロキサン、1,3−ジクロロ−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1−(t−ブチルジメチルシリル)イミダゾール、1−メトキシ−1−トリメチルシリルオキシプロペン、3−トリメチルシリル−2−オキサゾリジノン、4−トリメチルシリルオキシ−3−ペンテン−2−オン、ベンジルクロロジメチルシラン、ジエチルイソプロピルシリルクロリド、N−(トリメチルシリル)モルホリン、N−メチル−N,O−ビス(トリメチルシリル)ヒドロキシルアミン、t−ブチルジメチルクロロシラン、トリフルオロメタンスルホン酸t−ブチルジメチルシリル、トリフルオロメタンスルホン酸ジエチルイソプロピルシリルなどが挙げられる。
トリチル化剤としては、例えば2−クロロフェニルジフェニルメチルクロリド、4,4’,4’’−トリス(4,5−ジクロロフタルイミド)トリチルブロミド、4,4’,4’’−トリス(ベンゾイルオキシ)トリチルブロミド、4,4’−ジメトキシトリチルクロリド、4−(ジメチルアミノ)−1−(トリフェニルメチル)ピリジニウムクロリド、4−メトキシトリチルクロリド、トリフェニルメタンスルフェニルクロリド、トリフェニルメチルブロミド、トリフェニルメチルクロリドなどが挙げられる。
上記保護基の中でも、40〜150℃、好ましくは50〜120℃、より好ましくは50〜100℃、さらに好ましくは55〜90℃で脱離する保護基が特に好ましい。
【0019】
(成分B)
本発明における塗工液に、前述した溶剤溶解性型成分Aと共に含有させる成分Bは、前記溶剤に対して溶解性を有する化合物であって、例えば熱可塑性樹脂及び/又は活性エネルギー線硬化型化合物などを用いることができる。
熱可塑性樹脂としては、前記溶剤に溶解し、かつ被膜形成性を有する樹脂であればよく、特に制限されないが、例えばポリエステル系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、アクリル系樹脂などの中から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
また、多層塗工膜にハードコート性能を付与するために用いられる活性エネルギー線硬化型化合物は、電磁波又は荷電粒子線の中でエネルギー量子を有するもの、すなわち、紫外線又は電子線などを照射することにより、架橋、硬化する化合物である。この活性エネルギー線硬化型化合物としては、活性エネルギー線硬化型オリゴマー及び/又はモノマーを用いることができる。
【0020】
活性エネルギー線硬化型オリゴマーとしては、例えばポリエステルアクリレート系オリゴマー、エポキシアクリレート系オリゴマー、ウレタンアクリレート系オリゴマー、ポリエーテルアクリレート系オリゴマー、ポリブタジエンアクリレート系オリゴマー、シリコーンアクリレート系オリゴマーなどが挙げられる。
ここで、ポリエステルアクリレート系オリゴマーとしては、例えば多価アルコールの縮合によって得られる両末端に水酸基を有するポリエステルオリゴマーの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより、あるいは、多価カルボン酸にアルキレンオキシドを付加して得られるオリゴマーの末端の水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。
エポキシアクリレート系オリゴマーは、例えば、比較的低分子量のビスフェノール型エポキシ樹脂やノボラック型エポキシ樹脂のオキシラン環に、(メタ)アクリル酸を反応させてエステル化することにより得ることができる。また、このエポキシアクリレート系オリゴマーを部分的に二塩基性カルボン酸無水物で変性したカルボキシル変性型のエポキシアクリレートオリゴマーも用いることができる。
ウレタンアクリレート系オリゴマーは、例えば、ポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールとポリイソシアナートの反応によって得られるポリウレタンオリゴマーを、(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができ、ポリオールアクリレート系オリゴマーは、ポリエーテルポリオールの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。
該活性エネルギー線硬化型オリゴマーは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記オリゴマーの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法で測定した標準ポリスチレン換算の値で、好ましくは500〜100,000、より好ましくは1,000〜70,000、さらに好ましくは3,000〜40,000の範囲で選定される。
【0021】
一方、活性エネルギー線硬化型モノマーとしては、例えばジ(メタ)アクリル酸1,4−ブタンジオールエステル、ジ(メタ)アクリル酸1,6−ヘキサンジオールエステル、ジ(メタ)アクリル酸ネオペンチルグリコールエステル、ジ(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールエステル、ジ(メタ)アクリル酸ネオペンチルグリコールアジペートエステル、ジ(メタ)アクリル酸ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステル、ジ(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、ジ(メタ)アクリル酸カプロラクトン変性ジシクロペンテニル、ジ(メタ)アクリル酸エチレンオキシド変性リン酸エステル、ジ(メタ)アクリル酸アリル化シクロヘキシル、ジ(メタ)アクリル酸イソシアヌレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパンエステル、トリ(メタ)アクリル酸ジペンタエリスリトールエステル、トリ(メタ)アクリル酸プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールエステル、トリ(メタ)アクリル酸ペンタエリスリトールエステル、トリ(メタ)アクリル酸プロピオンオキシド変性トリメチロールプロパンエステル、イソシアヌル酸トリス(アクリロキシエチル)、ペンタ(メタ)アクリル酸プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールエステル、ヘキサ(メタ)アクリル酸ジペンタエリスリトールエステル、ヘキサ(メタ)アクリル酸カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールエステルなどが挙げられる。
該活性エネルギー線硬化型モノマーは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
(光重合開始剤)
また、活性エネルギー線として、通常紫外線又は電子線が照射されるが、紫外線を照射する際には、光重合開始剤を用いることができる。
該光重合開始剤としては、例えばベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アセトフェノン、ジメチルアミノアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−2(ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、ベンゾフェノン、p−フェニルベンゾフェノン、4,4’−ジエチルアミノベンゾフェノン、ジクロロベンゾフェノン、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−ターシャリーブチルアントラキノン、2−アミノアントラキノン、2−メチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジメチルケタール、p−ジメチルアミン安息香酸エステル、オリゴ(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−プロペニル)フェニル]プロパノン)などが挙げられる。
これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。この光重合開始剤の使用量は、用いる活性エネルギー線硬化型化合物の種類に応じて適宜選定すればよい。
【0023】
[塗工膜の形成]
前記溶剤中に、溶剤溶解性型成分Aと、該溶剤に対して溶解性を有する化合物である成分Bと、必要に応じて用いられる光重合開始剤と、さらには各種添加剤、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、レベリング剤、消泡剤などを任意の割合で加え、均一な塗工液を調製する。
このようにして調製された塗工液の濃度、粘度としては、コーティング可能な濃度、粘度であればよく、特に制限されず、状況に応じて適宜選定することができる。
次に、基材の一方の面に、上記塗工液を、従来公知の方法、例えばバーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法などを用いてコーティングして塗膜を形成させた後、例えば40〜150℃、好ましくは50〜120℃、より好ましくは50〜100℃、さらに好ましくは55〜90℃の温度にて1〜2分間程度加熱・乾燥させる。こうすることにより、溶剤溶解性型成分Aにおける極性基の保護基(好ましくはBOC基)が脱離・分解して、該成分Aは再び溶剤不溶性型化合物に戻り、溶剤不溶性型化合物と成分Bとの相分離が生じ、溶剤不溶性型化合物層と成分B層とを含有する多層塗工膜を形成することができる。
【0024】
この相分離において、溶剤不溶性型化合物層が帯電防止機能や防汚機能を有する場合は、該溶剤不溶性型化合物層が表面側に位置することが肝要である。したがって、溶剤不溶性型化合物層に上記機能を付与する場合には、溶剤不溶性型化合物として、比重の小さい含フッ素化合物を用いるのが有利である。
次いで、成分Bに活性エネルギー線硬化型化合物を用いている場合には、前記塗工膜に活性エネルギー線を照射して、該塗工膜をさらに硬化させてハードコート機能を付与する。
活性エネルギー線としては、例えば紫外線や電子線などが挙げられる。上記紫外線は、高圧水銀ランプ、ヒュージョンHランプ、キセノンランプなどで得られる。一方、電子線は、電子線加速器などによって得られる。この活性エネルギー線の中では、特に紫外線が好適である。なお、電子線を使用する場合は、光重合開始剤を添加することなく、硬化膜を得ることができる。
このようにして形成された塗工膜の厚さは、通常、0.5〜20μm程度、好ましくは1〜10μmであり、かつ溶剤不溶性型化合物層と成分B層とが相分離構造を有している。溶剤不溶性型化合物層の厚さと塗工膜全体の膜厚の比率(溶剤不溶性型化合物層膜厚/全塗工膜厚)は、通常0.05〜0.5μmである。
この層分離構造は、例えばスラブ型光導波路分光法を利用した界面紫外可視分光測定装置を用いて確認することができる。また、断面の走査型電子顕微鏡(SEM)や光学顕微鏡によっても確認することができる。
【0025】
本発明の多層塗工膜の製造方法によれば、相分離を利用した一液型塗工方法の簡易な手段によって、光学用や建材用などとして有用な、例えば表面に帯電防止層や防汚層などの機能層が設けられた多層塗工膜を密着性良く、且つ効果的に製造することができる。
本発明はまた、基材上に、前記の方法で得られた多層塗工膜を有することを特徴とする光学用部材をも提供する。
上記光学用部材としては、例えばディスプレイ分野において用いられる帯電防止機能や防汚機能などが付与された、反射防止フィルム、防眩フィルム、ハードコートフィルムなどの保護フィルムなどを挙げることができる。
【実施例】
【0026】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。
なお、各例で得られた塗工膜の諸物性として、層構造並びに加速耐熱試験(沸騰水中に1分間浸漬後、室温にて乾燥。)前後の表面抵抗率、対水表面接触角及び密着性を、以下に示す方法に従って求めた。
【0027】
(1)層構造
層構造の分析は、スラブ型光導波路分光法を利用した界面紫外可視分光測定装置[システムインスツルメンツ社製、「SIS−50型」]を用いた。石英製光導波路基板[システムインスツルメンツ社製]に、塗工面側、並びに裏面側をそれぞれ完全に密着させ、エバネッセント波吸収特性を調査した。
塗工面側と裏面(基材側)のエバネッセント波吸収特性に大きな差が得られれば、効果的に層分離構造が形成されたと判断される。
(2)表面抵抗率
表面抵抗率(Ω/□)の測定は、高抵抗率計(ハイレスタ・UP、三菱化学(株)製)を用い、印加電圧100V、10秒にて測定を行った。
なお、例えば光学部材や建材などにおいては、帯電防止機能としては、表面抵抗率1010Ω/□以下が要求される。
(3)対水表面接触角
接触角測定は、顕微鏡式接触角計(CA−QI、協和界面科学株式会社製)および純水を用いて測定した。
なお、例えば光学部材・建材などにおいては、防汚性機能としては、対水表面接触角90度以上が要求される。
(4)密着性
JIS K 5600に準拠し、密着性を評価した。剥離後の残りが100%に近いほど、密着性が良好である。
【0028】
<製造例1>スルホン酸基を有する帯電防止材料の一時可溶化(層形成組成物1の作製)
(i)溶剤溶解性型成分(A−1)の調製
溶剤不溶性型化合物であるNafionを20質量%含むプロパノール分散液[シグマアルドリッチ社製、フッ素樹脂分散液]5.0g、塩化メチレン[関東化学(株)製、溶剤]75.0g、BOC化剤である二炭酸−ジ−t−ブチル[関東化学(株)製]3.0gを、50℃で48時間加温攪拌混合し、塩化メチレン層に溶出した成分を、ロータリーエバポレーターにより溶剤除去を行った結果、溶剤溶解性が付与された成分(A−1)を0.3g得た。この工程を繰り返し、塗布実験に必要な一定量の溶剤溶解性型成分(A−1)を調製した。
(ii)層形成組成物1の作製
成分Bとしての多官能光重合性モノマーであるジペンタエリスリトールヘキサアクリレート[関東化学(株)製、ハードコート材料]32.0g、トルエン[関東化学(株)製、溶剤]45.0g、シクロヘキサノン[関東化学(株)製、溶剤]10.0g、光重合開始剤[チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、「Irgacure(登録商標)184」]1.0g及び上記(i)で得られた溶剤溶解性型成分(A−1)10.0gを、室温で攪拌混合し、澄明均一な層形成組成物1を作製した。
【0029】
<製造例2>カルボン酸基を有する防汚材料の一時可溶化(層形成組成物2の作製)
(i)溶剤溶解性型成分(A−2)の調製
溶剤不溶性型化合物である「メガファックF−410」[大日本インキ化学工業(株)製、フッ素系防汚材料]3.5g、塩化メチレン[関東化学(株)製、溶剤]75.0g及びBOC化剤である二炭酸−ジ−t−ブチル[関東化学(株)製]3.0gを、50℃で約40時間加温攪拌混合し、塩化メチレン層に溶出した成分を、ロータリーエバポレーターにより溶剤除去を行った結果、溶剤溶解性が付与された成分(A−2)0.1gを得た。この工程を繰り返し、塗布実験に必要な一定量の溶剤溶解性型成分(A−2)を調製した。
(ii)層形成組成物2の作製
成分Bとしての多官能光重合性モノマーであるジペンタエリスリトールヘキサアクリレート[関東化学(株)製、ハードコート材料]32.0g、トルエン[関東化学(株)製、溶剤]45.0g、シクロヘキサノン[関東化学(株)製、溶剤]10.0g、光重合開始剤[チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、「Irgacure(登録商標)184」]1.0g及び上記(i)で得られた溶剤溶解性型成分(A−2)5.0gを、室温で攪拌混合し、澄明均一な層形成組成物2を作製した。
【0030】
<製造例3>水酸基を有する防汚材料の一時可溶化(層形成組成物3の作製)
(i)溶剤溶解性型成分(A−3)の調製
溶剤不溶性型(水溶性)化合物である2−(パーフルオロブチル)エタノール[東京化成工業(株)製、フッ素系防汚材料]2.8g、塩化メチレン[関東化学(株)製、溶剤]75.0g及びBOC化剤である二炭酸−ジ−t−ブチル[関東化学(株)製]3.0gを、50℃で約12時間加温攪拌混合し、塩化メチレン層に溶出した成分を、ロータリーエバポレーターにより溶剤除去を行った結果、溶剤溶解性が付与された成分(A−3)0.6gを得た。この工程を繰り返し、塗布実験に必要な一定量の溶剤溶解性型成分(A−3)を調製した。
(ii)層形成組成物3の作製
成分Bとしての多官能光重合性モノマーであるジペンタエリスリトールヘキサアクリレート[関東化学(株)製、ハードコート材料]32.0g、トルエン[関東化学(株)製、溶剤]45.0g、シクロヘキサノン[関東化学(株)製、溶剤]10.0g、光重合開始剤[チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、「Irgacure(登録商標)184」]1.0g及び上記(i)で得られた溶剤溶解性型成分(A−3)5.0gを、室温で攪拌混合し、澄明均一な層形成組成物3を作製した。
【0031】
<製造例4>アミノ基を有する防汚材料の一時可溶化(層形成組成物4の作製)
(i)溶剤溶解性型成分(A−4)の調製
溶剤難溶性型化合物である4−n−オクチルアニリン[東京化成工業(株)製、非フッ素系防汚材料]2.2g、塩化メチレン[関東化学(株)製、溶剤]70.0g及びBOC化剤である二炭酸−ジ−t−ブチル[関東化学(株)製]3.2gを、50℃で約1時間加温攪拌混合し、塩化メチレン層に溶出した成分を、ロータリーエバポレーターにより溶剤除去を行った結果、溶剤溶解性が付与された成分(A−4)0.3gを得た。この工程を繰り返し、塗布実験に必要な一定量の溶剤溶解性型成分(A−4)を調製した。
(ii)層形成組成物4の作製
成分Bとしての多官能光重合性モノマーであるジペンタエリスリトールヘキサアクリレート[関東化学(株)製、ハードコート材料]32.0g、トルエン[関東化学(株)製、溶剤]45.0g、シクロヘキサノン[関東化学(株)製、溶剤]10.0g、光重合開始剤[チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、「Irgacure(登録商標)184」]1.0g及び上記(i)で得られた溶剤溶解性型成分(A−4)5.0gを、室温で攪拌混合し、澄明均一な層形成組成物4を作製した。
【0032】
<製造例5>カルボン酸基を有する防汚材料の一時可溶化(層形成組成物5の作製)
(i)溶剤溶解性型成分(A−5)の調製
溶剤難溶性型化合物であるステアリン酸[東京化成工業(株)製、非フッ素系防汚材料]1.5g、トルエン[東京化成工業(株)製、溶剤]50.0g及びBOC化剤である二炭酸−ジ−t−ブチル[関東化学(株)製]3.2gを、50℃で約1時間加温攪拌混合し、トルエン層に溶出した成分を、ロータリーエバポレーターにより溶剤除去を行った結果、溶剤溶解性が付与された成分(A−5)0.4gを得た。この工程を繰り返し、塗布実験に必要な一定量の溶剤溶解性型成分(A−5)を調製した。
(ii)層形成組成物5の作製
成分Bとしての多官能光重合性モノマーであるジペンタエリスリトールヘキサアクリレート[関東化学(株)製、ハードコート材料]32.0g、トルエン[関東化学(株)製、溶剤]45.0g、シクロヘキサノン[関東化学(株)製、溶剤]10.0g、光重合開始剤[チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、「Irgacure(登録商標)184」]1.0g及び上記(i)で得られた溶剤溶解性型成分(A−5)5.0gを、室温で攪拌混合し、澄明均一な層形成組成物5を作製した。
【0033】
<製造例6>比較例用層形成組成物6の作製
成分Bとしての多官能光重合性モノマーであるジペンタエリスリトールヘキサアクリレート[関東化学(株)製、ハードコート材料]32.0g、トルエン[関東化学(株)製、溶剤]45.0g、シクロヘキサノン[関東化学(株)製、溶剤]10.0g及び光重合開始剤[チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、「Irgacure(登録商標)184」]1.0gを、室温で攪拌混合し、澄明均一な層形成組成物6を作製した。
【0034】
<実施例1>
厚さ100μmの東洋紡績(株)製ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム「コスモシャインA100」上に、製造例1で作製した層形成組成物1をマイヤーバーコートして、70℃のオーブン中で3分間乾燥させて塗布層を形成させた。次いで、この塗布層に、光量100mJ/cm2にて紫外線を照射して硬化させることにより、PETフィルム上に厚さ約2μmの塗工膜1を作製した。この塗工膜1について、層構造を調べると共に、諸物性を評価した。結果を表1に示す。
また、その塗工膜1の断面の光学顕微鏡写真を図1に示す。かかる光学顕微鏡写真により確認したところ、溶剤不溶性型化合物層の厚さと塗工膜全体の膜厚の比率(溶剤不溶性型化合物層膜厚/全塗工膜厚)は、約0.1(平均して0.12)であった。この結果を表1に併せて示す。
【0035】
<実施例2>
実施例1において、製造例1で得られた層形成組成物1の代わりに、製造例2で得られた層形成組成物2を用いた以外は、実施例1と同様にして、PETフィルム上に塗工膜2を作製した。この塗工膜2について、層構造を調べると共に、諸物性を評価した。結果を表1に示す。
また、その塗工膜2の断面の光学顕微鏡写真により確認したところ、溶剤不溶性型化合物層の厚さと塗工膜全体の膜厚の比率(溶剤不溶性型化合物層膜厚/全塗工膜厚)は、約0.1(平均して0.07)であった。この結果を表1に併せて示す。
【0036】
<実施例3>
実施例1において、製造例1で得られた層形成組成物1の代わりに、製造例3で得られた層形成組成物3を用いた以外は、実施例1と同様にして、PETフィルム上に塗工膜3を作製した。この塗工膜3について、層構造を調べると共に、諸物性を評価した。結果を表1に示す。
また、その塗工膜3の断面の光学顕微鏡写真により確認したところ、溶剤不溶性型化合物層の厚さと塗工膜全体の膜厚の比率(溶剤不溶性型化合物層膜厚/全塗工膜厚)は、約0.1(平均して0.09)であった。この結果を表1に併せて示す。
【0037】
<実施例4>
実施例1において、製造例1で得られた層形成組成物1の代わりに、製造例4で得られた層形成組成物4を用いた以外は、実施例1と同様にして、PETフィルム上に塗工膜4を作製した。この塗工膜4について、層構造を調べると共に、諸物性を評価した。結果を表1に示す。
また、その塗工膜4の断面の光学顕微鏡写真により確認したところ、溶剤不溶性型化合物層の厚さと塗工膜全体の膜厚の比率(溶剤不溶性型化合物層膜厚/全塗工膜厚)は、約0.1(平均して0.07)であった。この結果を表1に併せて示す。
【0038】
<実施例5>
実施例1において、製造例1で得られた層形成組成物1の代わりに、製造例5で得られた層形成組成物5を用いた以外は、実施例1と同様にして、PETフィルム上に塗工膜5を作製した。この塗工膜5について、層構造を調べると共に、諸物性を評価した。結果を表1に示す。
また、その塗工膜5の断面の光学顕微鏡写真により確認したところ、溶剤不溶性型化合物層の厚さと塗工膜全体の膜厚の比率(溶剤不溶性型化合物層膜厚/全塗工膜厚)は、約0.1(平均して0.05)であった。この結果を表1に併せて示す。
【0039】
<比較例1>
実施例1で形成した帯電防止材料/ハードコート材料を、同じ材料組成で、層分離法ではなく、溶剤溶解性型成分Aと成分Bを2液のまま積層させる従来法を試みた。
しかしながら、上記帯電防止材料は有機成分(ハードコート層)との相溶性が極めて低いため、ハードコート層を紫外線照射により形成後、上層に帯電防止層をバーコート塗布により設けようとしても、強いハジキを生じ、積層体を得ることができなかった。
【0040】
<比較例2>
比較例1において、実施例1で形成した帯電防止材料/ハードコート材料の代わりに、実施例2で形成した防汚材料/ハードコート材料を使用したこと以外は、比較例1と同様に実験を行なった。すると、上記防汚材料は有機成分(ハードコート層)との相溶性が極めて低いため、ハードコート層を紫外線照射により形成後、上層に防汚層をバーコート塗布により設けようとしても、強いハジキを生じ、積層体を得ることができなかった。
【0041】
<比較例3>
製造例6で作製した層形成組成物6と、帯電防止材料として「Nafion」を20質量%含むプロパノール分散液[シグマアルドリッチ社製、フッ素樹脂分散液]10.0gを混合し(但し、混合割合は製造例1と同様である。)、超音波分散器により1時間分散させた後、実施例1と同様にして東洋紡績(株)製PETフィルム上に塗布層を形成したところ、特に乾燥時に白化が生じ、透明性が低く、部分的な微小ハジキが生じ、積層フィルムとしては、不完全であった。
フィルム表面の表面抵抗値を測定した結果、1013Ω/□超(測定器検出限界以上)を示し、層構造及び物性ともに所望のものが得られないことが分かった。結果を表2に示す。
【0042】
<比較例4>
製造例6で作製した層形成組成物6と、防汚材料として「メガファックF−410」[大日本インキ化学工業(株)製、フッ素系防汚材料]5.0gを混合し(但し、混合割合は製造例2と同様である。)、超音波分散器により1時間分散させた後、実施例2と同様にして東洋紡績(株)製PETフィルム上に塗布層を形成したところ、特に乾燥時にゲル化、沈降が生じ、積層フィルムとしては、不完全であった。
フィルム表面の対水表面接触角を測定した結果、約67度を示し、層構造及び物性ともに所望のものが得られないことが分かった。結果を表2に示す。
【0043】
<比較例5>
製造例1(ii)において、溶剤溶解性型成分(A−1)を添加しなかったこと以外は製造例1(ii)と同様にして、層形成組成物7(成分B、トルエン及び光重合開始剤からなる組成物。)を作製した。
次いで、この層形成組成物7を用い、実施例1と同様にマイヤーバーコーティング、乾燥、紫外線による硬化処理を施した後、溶剤不溶性型化合物であるNafion(登録商標)を20質量%含むプロパノール分散液[シグマアルドリッチ社製、フッ素樹脂分散液]に極少量のシクロヘキサノンを加えた組成物を、上述の硬化膜上にマイヤーバーコーティングにより、積層させ、90℃のオーブン中で1分間乾燥させ、タンデム式積層塗工膜を作製した。このタンデム式積層塗工膜について、諸物性を評価した結果を表2に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
表1及び表2から分かるように、実施例1〜5で得られた塗工膜1〜5は層分離構造を有し、密着性が良好である。さらに、実施例1及び4で得られた塗工膜1及び4は、表面抵抗率が1010Ω/□未満であり、帯電防止性能に優れている。実施例2〜5で得られた塗工膜2〜5は、対水表面接触角が90度を超えており、防汚性機能に優れている。一方、比較例5で得られたタンデム式積層塗工膜は、加速耐湿熱試験後の密着性に劣っており、実用に耐えない。
特に実施例にて使用しているフッ素樹脂材料は、一般に塗工液の調製や塗布に工夫が必要(フッ素溶剤や高沸点の高極性溶剤の使用を要し、高温での乾燥が必要であり、且つアウトガスの安全性に懸念があるため。)であり、タンデム方式で積層体を作製するのは簡便ではなく、さらに塗工膜の耐久密着性も低くなることから、1液型塗工による本発明の方法が非常に優位であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の多層塗工膜の製造方法は、相分離を利用した一液型塗工方法の簡易な手段によって、光学用や建材用などとして有用な、例えば表面に帯電防止膜や防汚膜などの機能膜が設けられた多層塗工膜を、密着性良く、且つ効果的に製造することができ、特に光学用部材の製造に適用するのが有利である。
【符号の説明】
【0048】
1 溶剤不溶性型化合物層
2 成分B層
3 PET基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶剤不溶性型化合物に化学的処理を施すことにより溶剤に対して溶解性を示した溶剤溶解性型成分Aと、溶剤に対して溶解性を有する成分Bとを、前記溶剤に溶解させて1液の塗工液を調製し、次いで、この塗工液を基材上に塗布したのち、前記溶剤溶解性型成分Aを再び溶剤不溶性型化合物に戻して、溶剤不溶性型化合物と成分Bとの相分離を生じさせることにより、溶剤不溶性型化合物層と成分B層とを有する塗工膜を形成させることを特徴とする多層塗工膜の製造方法。
【請求項2】
溶剤溶解性型成分Aが、溶剤不溶性型化合物の極性基の活性水素を、脱離可能な保護基で置換する化学処理が施されたものである、請求項1に記載の多層塗工膜の製造方法。
【請求項3】
活性水素をもつ極性基が、−COOH、−SO3H、−NH2、−CONH2、−OH及び−SHの中から選ばれる少なくとも1種である、請求項2に記載の多層塗工膜の製造方法。
【請求項4】
脱離可能な保護基が、tert−ブトキシカルボニル基である、請求項2又は3に記載の多層塗工膜の製造方法。
【請求項5】
溶剤溶解性型成分Aが、含フッ素化合物に化学的処理を施してなるものである、請求項2〜4のいずれか1項に記載の多層塗工膜の製造方法。
【請求項6】
含フッ素化合物が、帯電防止材料又は防汚材料である、請求項5に記載の多層塗工膜の製造方法。
【請求項7】
溶剤不溶性型化合物層が、成分B層の表面側に設けられてなる、請求項5又は6に記載の多層塗工膜の製造方法。
【請求項8】
成分Bが、熱可塑性樹脂及び/又は活性エネルギー線硬化型化合物である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の多層塗工膜の製造方法。
【請求項9】
成分Bとして、活性エネルギー線硬化型化合物を用い、かつ活性エネルギー線として紫外線を使用する場合には、溶剤溶解性型成分Aと成分Bとを含む塗工液に光重合開始剤を含有させる、請求項1〜8のいずれか1項に記載の多層塗工膜の製造方法。
【請求項10】
加熱処理により溶剤溶解性型成分Aを再び溶剤不溶性型化合物に戻す、請求項1〜9のいずれか1項に記載の多層塗工膜の製造方法。
【請求項11】
基材上に、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法で得られた多層塗工膜を有することを特徴とする、光学用部材。

【図1】
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【公開番号】特開2009−262149(P2009−262149A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−88142(P2009−88142)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】