説明

多層塗膜スタックの接着を改善するために開裂可能な界面活性剤により改質された硬化性塗膜組成物

硬化性組成物から得られた第1塗膜および第2塗膜の間の接着特性を前記硬化性組成物内に開裂可能な界面活性剤を取り込みおよび後続するその開裂を通して改善するための処理方法を提供する。
本発明の処理方法は以下の工程を含む:光学物品の基材の上に少なくとも1つの開裂可能な界面活性剤を含む第1硬化性組成物の第1層を堆積する、前記第1硬化性組成物を少なくとも部分的に硬化する、これにより第1塗膜を形成する、前記第1塗膜上に第2塗膜を形成する、ここで基盤上に第1硬化性組成物がすでに堆積された後で、かつ第2塗膜が堆積される前に、前記光学物品は開裂可能な界面活性剤が少なくとも部分的に開裂する結果となる処理過程を受ける。さらに、開裂可能な界面活性剤を含む硬化性組成物および上の処理方法により形成された塗膜のスタックをその上に堆積された光学物品についても記載されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は硬化性組成物から得られた第1塗膜および第2塗膜の間の接着特性を改善する処理方法に関係し、これは前記硬化性組成物に開裂可能な界面活性剤を取り込み引き続きこれを開裂することによる。さらに開裂可能な界面活性剤を含む硬化性組成物および上の処理方法により形成された塗膜スタックを堆積した光学物品についても記述している。
【背景技術】
【0002】
めがねレンズまたはレンズ素材などのレンズ基材の少なくとも1つの主表面に幾つかの塗膜を塗工して完成したレンズに付加的または改善された光学的または機械的特性を与えることは技術的に一般的なことである。これらの塗膜は一般に機能性塗膜と称される。
【0003】
斯くして、通常は有機ガラス材料でできたレンズ基材の少なくとも1つの主表面に連続的に、レンズ基材の表面から始めて耐衝撃塗膜(耐衝撃プライマー)、耐摩耗および/または耐ひっかき塗膜(ハードコート)、反射防止塗膜および随意的に、汚れ防止トップコートを塗工することは常套手段である。さらに偏光塗膜、光互変性塗膜または染色塗膜などの他の塗膜もレンズ基材の一方または両方の面に適用することができる。
【0004】
湿式手段により堆積される塗膜組成物の一般的な調合には塗工される面の濡れ性を高めるためおよびレベリング剤として作用する界面活性剤が含まれる。現に、塗膜組成物が表面を均一に濡らさずにたるみ、これが基材上の厚みの変動を招く場合がある。このことはとりわけ水成のゾル−ゲル組成物の場合に当てはまる。組成物内に界面活性剤を含むことでより均一に堆積された塗膜が得られる。
【0005】
しかしながら、この様な界面活性剤を含有した組成物が塗られ硬化された場合、界面活性剤が塗膜の表面に残留または移行することにより低い表面エネルギーを示す第1塗膜となってしまう。第2塗膜が前記第1塗膜上に塗布された際に、塗布された塗膜組成物は正常に広がらず、および/または硬化後に2つの塗膜間の接着にはつながらない。
【0006】
慣例的にこの問題は第2塗膜を堆積する前に第1塗膜の前処理を行うことにより解決されている。表面の前処理は表面を物理的攻撃および/または化学的改質により結果的に表面エネルギーを増大させる処理である。これはアルカリ溶液による強塩基もしくはイオンまたはラジカルなどのエネルギー種などの高反応種による化学的または物理化学的攻撃から成る。
【0007】
この様な処理は通常最外側の幾つかの分子層の化学的性質を変えることにより光学物品の最外側層の表面を活性化する。2つの塗膜間の良好な接着は通常化学的適合性および/または化学結合による強力な界面力を必要とする。
【0008】
表面の前処理は塗膜の表面にアミン基、カルボニル基、水酸基およびカルボキシル基などの化学的に活性な官能基(極性基)を作り出すことを支援し界面の接着性を改善する。例えば、酸素ガスプラズマを使用することによりヒドロキシル官能価を作り出し、斯くして塗工する表面の濡れ性を増すことができる。
【0009】
表面の前処理段階として、高周波放電プラズマ法、グロー放電プラズマ法、コロナ処理、電子ビーム法、イオンビーム法、酸または塩基処理による濃縮溶液および/またはそのような溶液への浸漬を用いたものを採用することができる。
【0010】
しかしながら、化学的または物理化学的攻撃は調節および界面活性剤層に限定することが難しい。処理した塗膜表面を越えて攻撃してしまう恐れがある。例えば、ポリシロキサン塗膜の場合、アルカリ攻撃が屡々用いられるがこの様な処理は表面下の架橋の減少という化学的帰結になることはよく知られている。加えて、数層のスタックが必要な場合、表面の準備処理は安全上の問題(熱アルカリ溶液、コロナ・・・)および処理方法の費用の増大(表面前処理、操作および基材の費用)およびその複雑さを引き起こす。
【0011】
低表面エネルギー塗膜となってしまうことを避けるもう一つの解決法は界面活性剤を持たない第1塗膜組成物を用いることである。この場合は濡れ性および良好な広がりを可能にするために慎重な溶媒の選択が必要となるが、それは表面の濡れ性が表面材料の化学的性質によって決まり、かつ溶媒の選択は基材および塗膜の表面エネルギーに強く依存するからである。加えて、この代替解決策は水をベースとした塗膜組成物がほとんど使えないために、余りにも窮屈である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上の問題を背景に作られていて、したがって本発明の目的とするところは第2塗膜を光学物品の最外側塗膜の上に、後者の塗膜組成物内に存在する界面活性剤による接着問題を起こすことなく、例え事前に前記塗膜表面の活性化が行われていないかまたは軽度の処理しかなされていなくても、堆積するための処理方法を提供することである。
【0013】
本発明の別の目的は界面活性剤を含む塗膜調合物および界面活性剤を含む塗膜を塗工した光学物品を、両者において前記塗膜および別の塗膜との間の界面で良好な接着が得られることを可能にして提供することである。
【0014】
本発明者達は硬化性塗膜組成物に用いられる伝統的な界面活性剤を特定のタイプの界面活性剤で置き換えた場合、特定の処理をした後ではできた塗膜が他の層との間に良好な層間接着性を保ったまま塗工できるという驚くべきことを見いだした。
【0015】
前述の目的を達成するため、ならびにここに具体的に表現しかつ広く記述した本発明にしたがって、本発明は以下のものを備えた光学物品を作る処理方法について記述する:
(a)剥き出しの面がある基材を備える光学物品を供給する、
(b)基材の前記剥き出し表面上に少なくとも1つの開裂可能な界面活性剤を含む第1硬化性組成物の第1層を堆積する、
(c)前記第1硬化性組成物を少なくとも部分的に硬化し、これにより第1塗膜を形成する、
(d)前記第1塗膜の上に第2塗膜を形成する、および
(e)前記第1塗膜および前記第2塗膜を連続的に塗工され、前記第1塗膜が前記第2塗膜に接着している基材を備える光学物品を得る、
ここに、前記第1硬化性組成物が基材の剥き出しの表面上に堆積されてしまった後で、かつステップ(d)の前に、前記光学物品は開裂可能な界面活性剤が少なくとも部分的に開裂することになる処理過程を受ける。
【0016】
塗膜調合物に用いた開裂可能な界面活性剤は拡がりおよび濡れ特性のために標準品としても使用できる。第1塗膜を拡げかつ少なくとも部分的に硬化した後、界面活性剤は単純な操作により開裂し、これにより前記第1塗膜および第2塗膜の間の接着特性(「結合性」)の改善が可能となる。
【0017】
本処理方法の実施には伝統的な硬化性塗膜組成物を堆積する処理方法の元からある調整を変更する必要がなく、堆積装置の改造が必要なく、さらに通常は種々の追加設備を必要としない。
【0018】
さらに本発明は少なくとも部分的に硬化した塗膜により表面を塗工された基材を有する光学物品にも関係し、ここに前記塗膜は:
− 基材の表面に少なくとも1つの開裂可能な界面活性剤を有する第1硬化性組成物を堆積する、および
− 前記硬化性組成物を少なくとも部分的に硬化する、
ことにより得られているもので、ここに前記光学物品は前記硬化性組成物が基材の表面上に堆積された後に処理過程を受けていて開裂可能な界面活性剤が少なくとも部分的に開裂している。
【0019】
本発明はさらに硬化性組成物にも関係し、これは上の処理方法に用いることが可能で、少なくとも1つの開裂可能な界面活性剤、および次の化学式の化合物:
【化1】

またはその加水分解物を少なくとも1つ含み、ここに R基群は同一または異なりかつ炭素原子を介してシリコン原子に結合した1価の有機基群を表し、X基群は同一または異なり加水分解性基群を表しさらにn は1または2に等しい整数である。
【0020】
最後に、本発明は開裂可能な界面活性剤を硬化性組成物内に使用することに関係し、前記硬化性組成物を硬化したことにより得られた塗膜の他の塗膜に対する接着性を改善する。
【0021】
本発明による他の目的、特徴および利点はこの記述により明らかになってくる。しかしながら、この詳細な説明から当業者には本発明の精神と範囲内で種々の変更および修正が明らかとなるため、詳細な説明および具体的な例は、本発明による具体的な実施態様を示す一方で、例証としてのみ与えられたものであることは当然である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
含む、有するを意味する英語「comprise」(ならびに「comprises」および「comprising」のような全ての comprise の形)、「have」(ならびに「has」および「having」のような全ての haveの形)、「contain」(ならびに「contains」および「containing」のような全ての containの形)、および「include」(ならびに「includes」および「including」のような全ての includeの形)は拡張可能な連結動詞である。したがって、1つ以上の手順または要素を「含む、有する」(「comprises」、「has」、「contains」、または「includes」)方法または方法の手順は1つ以上のこれらの手順または要素を持つが、それら1つ以上の手順または要素のみを持つことに限定はされない。
【0023】
別途表示がない限り、ここに用いた成分、反応条件、その他の量に関する全ての数値または表現は全ての場合において用語「約」により修飾されていると理解されるものとする。
【0024】
光学物品が1つ以上の表面塗膜を持つ場合、「光学物品上に層を堆積する」という用語は光学物品の最外側の塗膜上に層が堆積されることを意味する。
【0025】
本発明による処理方法により準備された光学物品は透明な光学物品で、レンズが好ましく、めがね用レンズまたはレンズ素材であることがより好ましい。本発明の処理方法はその凸状の主面(前面)、凹状の主面(背面)、または両面に塗工された光学物品を製造するために用いることができる。
【0026】
ここに、用語「レンズ」は有機または無機のガラスレンズを意味し、レンズ基材を備えていてそれは1つ以上の種々の性質の塗膜を塗工されている場合もある。
【0027】
基材は無機ガラスまたは有機ガラスで作られている場合があるが、有機ガラスが好ましい。有機ガラスはポリカーボネート類および熱可塑性ポリウレタン類などの熱可塑性材料またはジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)ポリマー類およびコポリマー類(とりわけPPG Industries社 の CR 39TM)、熱硬化ポリウレタン類、ポリチオウレタン類、ポリエポキシド類、ポリエピスルフィド類、ビスフェノール−Aから誘導された(メタ)アクリ酸ポリマー類およびコポリマー類を有する基材のようなポリ(メタ)アクリレート類およびコポリマー類をベースとした基材、ポリチオ(メタ)アクリレート類、同様にそれらのコポリマーおよびそれらのブレンドなどの熱硬化(架橋)性材料であってもよい。レンズ基材に好適な材料はポリカーボネート類およびジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)コポリマー類で、とりわけポリカーボネート製の基材である。
【0028】
ここに用いられる基材を備えた光学物品は同時に第1塗膜および第2塗膜をその上に保管するキャリヤーである場合もある。それらは後にキャリヤーから例えばめがねレンズの基材上に転写することができる。本処理方法にしたがって塗工することができるキャリヤーは随意的に少なくとも1つの機能性塗膜を持つことができる。言うまでもなく、キャリヤーの表面にはレンズ基材上に望まれる塗膜スタックの順とは逆の順で塗膜が塗布される。
【0029】
独創的な第1塗膜が堆積される予定の物品の表面は接着性を向上させることを意図した前処理過程、例えば高周波放電プラズマ処理、グロー放電プラズマ処理、コロナ処理、電子ビーム処理、イオンビーム処理、酸または塩基処理を随意的に受ける場合がある。
【0030】
本発明による第1塗膜は裸の基材上にまたは基材が表面塗膜で塗工されているなら基材の最外側塗膜の上に堆積することができる。
【0031】
本発明によると、光学物品は、これらに限定されないが、耐衝撃塗膜(耐衝撃プライマー)、耐摩耗および/または耐ひっかき塗膜(ハードコート)、偏光塗膜、光互変性塗膜、染色塗膜、またはこれらの幾つかの塗膜、から選ばれた種々の塗膜で塗工された基材を備えることができる。
【0032】
ここに用いた「第1塗膜」とは開裂可能な界面活性剤を含有する硬化性組成物から形成されていて、前記塗膜上に後続の塗膜を堆積する前に少なくとも部分的に硬化されていて、さらにこの開裂可能な界面活性剤が前記後続の塗膜を堆積する前に、少なくとも部分的に開裂していなくてはならない塗膜を意味することを意図している。本硬化性組成物はどの様な材料からできていてもよくさらには架橋性組成物であってもよい。
【0033】
第1塗膜は(メタ)アクリレートをベースとした塗膜にすることができ、これは通常UV硬化性である。(メタ)アクリレートという用語はメタクリルレートまたはアクリレートの何れかを意味する。第1塗膜はとりわけアクリレートおよびエポキシモノマーの混合物から得ることができる。使用することができるポリエポキシモノマー類は例えばUS2007/0275171およびUS6984262に開示され、本願に引用して本明細書とする。
【0034】
(メタ)アクリレートをベースとした硬化性塗膜組成物の主成分は単官能性(メタ)アクリレートおよび、2官能性(メタ)アクリレート;3官能性(メタ)アクリレート;4官能性(メタ)アクリレート;5官能性(メタ)アクリレート;6官能性(メタ)アクリレートなどの多官能性(メタ)アクリレートから選ぶことができる。
【0035】
(メタ)アクリレートをベースとした塗膜組成物の主成分として使用できるモノマー類の例には次のものがある:
− 単官能性(メタ)アクリレート類:メタクリル酸アリル、2−エトキシエチルアクリレート、2−エトキシエチルメタクリレート、カプロラクトンアクリレート、イソボルニルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート。
− 2官能性(メタ)アクリレート類:1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレートなどのポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート類。
− 3官能性(メタ)アクリレート類:トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリトリトールトリアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート。
− 4から6(メタ)アクリレート類:ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタアクリレートエステル類。
【0036】
本発明による1つの実施態様において、第1塗膜はゾル−ゲル塗膜である。「ゾル−ゲル」という用語は加水分解および縮合を含む一連の反応を受けた結果ゾルからゲルへの遷移を経た材料を意味する。通常、金属アルコキシドまたは金属塩などの金属化合物は加水分解して金属水酸化物を形成する。次いで金属水酸化物は溶液内で縮合し有機/無機のハイブリッドポリマーを形成する。特定の条件下で、これらのポリマー類は縮合してネットワークゲルを形成する。
【0037】
好適なゾル−ゲル第1塗膜はシリコンをベースとした塗膜で、これはシランまたはその加水分解物を含む前駆体組成物を硬化して得ることができる。本発明によるシリコンをベースとしたゾル−ゲル塗膜組成物は溶媒、シランおよび/または有機シラン、開裂可能な界面活性剤および随意的に触媒の均質な混合物で光学用途に適した塗膜を形成するように処理される。ここに用いた「均質」という用語はどこでも均一または同様の構造を持つ形態を意味し当業者に知られた通常の意味が与えられている。
【0038】
本発明による好適な実施態様においては、第1硬化性組成物は少なくとも1つの開裂可能な界面活性剤および次の化学式の化合物:
【化2】

またはその加水分解物を少なくとも1つ含み、ここにR基群は同一または異なりかつ炭素原子を介してシリコン原子に結合した1価の有機基群を表し、X基群は同一または異なりかつ加水分解性基群を表しさらにn は1または2に等しい整数である。
【0039】
化学式Iの有機シラン類はシリコン原子に直接結合した2つまたは3つのX基群を持ち、それぞれは加水分解の際にOH基およびシリコン原子に結合した1つまたは2つの1価のR基となる。SiOH結合が当初から化学式Iの化合物内に存在し、この場合それらは加水分解物と見なされるということは特筆に値する。加水分解物はさらにシロキサン塩を含む。
【0040】
X基群は独立的におよび無制限にアルコキシ基 −O−Rを表すことができ、ここに Rは好ましくは直鎖状または枝分かれした C〜Cアルキル基、アシロキシ基群 −O−C(O)Rが好ましく、ここに Rは好ましくはアルキル基を表し、C〜Cアルキル基が好ましく、さらにはメチルまたはエチル基、Cl および Br などのハロゲン基、随意的にアルキルまたはシラン基のような1つまたは2つの官能基で置換されたアミノ基、例えばNHSiMe基、イソプロペンオキシ基のようなアルキレンオキシ基がより好ましい。
【0041】
X基群はアルコキシ基群、とりわけメトキシ、エトキシ、プロポキシまたはブトキシが好ましく、メトキシまたはエトキシがより好ましい。この場合、化学式Iの化合物はアルコキシシラン類である。
【0042】
本発明による1つの実施態様においては、化学式Iのシラン類は重合性官能基を少なくとも1つ含む R基を少なくとも1つ持つ。この様なシラン類は、これらに限定されないがエポキシシラン類、アリルシラン類などの不飽和有機シラン類、ビニルシラン類アクリル酸シラン類、メタクリル酸シラン類が含まれ、末端エチレン二重結合を有することが好ましい。
【0043】
化学式Iの化合物の中には、次の化学式の化合物の好適な化合物の種類:
【化3】

またはその加水分解物が含まれ、ここに R基群は同一または異なりかつ炭素原子を介してシリコン原子に結合する1価の有機基を表し、Y基群は同一または異なりかつ炭素原子を介してシリコン原子に結合した1価の有機基を表しかつ少なくとも1つのエポキシ官能基を含み、X基群は同一または異なりかつ加水分解性の基を表し、mおよび n’は m が1または2に等しくさらに n’+m=1 または2となる様な整数である。
【0044】
整数 n および m は化合物IIの3種類の化合物:化学式 RYSi(X)の化合物、化学式 YSi(X)の化合物、および化学式 YSi(X)の化合物、を定義する。これらの化合物の中で、化学式YSi(X)を持つエポキシシラン類が好適である。
【0045】
Si−C 結合を介してシリコン原子に結合している1価の R基群は有機基群である。これらの基群には、これらに限定されないが飽和または不飽和いずれかの炭化水素基群でC〜C10 基群が好ましく C〜C基群がさらにより良く、例えばアルキル基で好ましくはメチルまたはエチルなどのC〜Cアルキル基群、アミノアルキル基、ビニル基などのアルケニル基、C〜C10 アリール基で、例えば随意的に置換されたフェニル基、とりわけ1つ以上の C〜C アルキル基群で置換されたフェニル基、ベンジル基、(メタ)アクリロキシアルキル基、もしくは上述した炭化水素基群に相当するフッ化またはペルフッ化基、例えばフッ化アルキルまたはペルフッ化アルキル基、もしくは(ポリ)フッ化またはペルフルオロアルコキシ[(ポリ)アルキロキシ]アルキル基、が含まれる。
【0046】
R基群は第1硬化性組成物内に存在する加水分解したシラン類、とりわけそれらシラン類の存在する可能性のある SiOH および/またはエポキシ基類と反応しがちな官能基を含まないことが好ましい。最も好適なR基群はアルキル基群、とりわけ C〜Cアルキル基群で、さらに理想的にはメチル基群である。
【0047】
Si−C 結合を介してシリコン原子と結合している1価の Y基群は有機官能基であり、それは1つのエポキシ官能基が好ましいが、少なくとも1つのエポキシ官能基を含むからである。エポキシ官能基とは、原子のグループを意味し、そこでは酸素原子が炭素含有鎖または環状炭素含有系に含まれる2つの隣接する炭素原子または隣接しない炭素原子に直接結合している。エポキシ官能基の中で、オキシラン官能基類、すなわち飽和3員環状エーテル基類が好適である。
【0048】
好適なY基群は化学式IIIおよびIVのものである:
【化4】

ここにRはアルキル基、好ましくはメチル基、または水素原子、理想的には水素原子であり、a および cは1から6の範囲の整数、および b は0、1または2である。
【0049】
好適な基で化学式IIIを持つものはγ−グリシドキシプロピル基(R=H,a=3、b=0)および化学式IVの好適な(3,4−エポキシシクロヘキシル)アルキル基は β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基(c=1)である。さらに γ−グリシドキシエトキシプロピル基を用いることもできる(R=H、a=3、b=1)。
【0050】
化学式IIの好適なエポキシシラン類はエポキシアルコキシシラン類で、最も好適なものは1つのY基および3つの X基群を持つものである。とりわけ好適なエポキシトリアルコキシシラン類は化学式VおよびVIのものである:
【化5】

ここに Rは炭素原子を1から6持つアルキル基で、メチルまたはエチル基が好ましく、さらに a、b および cは上で定義した通りである。
【0051】
このようなエポキシシラン類の例には、これらに限定されないがグリシドキシメチルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、グリシドキシメチルトリプロポキシシラン、α−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、α−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリプロポキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリプロポキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリプロポキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリプロポキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシランが含まれる。他の有用なエポキシトリアルコキシシラン類は特許US4294950、US4211823、US5015523、EP0614957およびWO94/10230に記載され、本願に引用して本明細書とする。これらのシラン類の中で、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GLYMO)が好適である。
【0052】
化学式IIの好適なエポキシシラン類で1つのY基および2つの X基群を持つものには、これらに限定されないがγ−グリシドキシプロピル−メチル−ジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルビス(トリメチルシロキシ)メチルシラン、γ−グリシドキシプロピル−メチル−ジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピル−メチル−ジイソプロペノキシシラン、およびγ−グリシドキシエトキシプロピル−メチル−ジメトキシシランなどのエポキシジアルコキシシラン類含まれる。エポキシジアルコキシシラン類が用いられる場合、これらは上に記載したようなエポキシトリアルコキシシラン類と組み合わされることが好ましく、さらに前記エポキシトリアルコキシシラン類より低い量で用いられることが好ましい。
【0053】
化学式Iの他の好ましい化合物で1つのR基および3つのX基群を持つものには、これらに限定されないが メチルトリエトキシシラン(MTEOS)、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルトリス(トリメチルシロキシ)シラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、n−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリスイソブトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリ−tert−ブトキシシラン、ビニルトリフェノキシシラン、ビニルジメトキシエトキシシラン、ビニル−トリアセトキシシラン、ビニルビス(トリメチルシロキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン、3−アクリロキシプロピル−トリメトキシシラン、N−(3−アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピル)−3−アミノプロピル−トリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリス(ビニルジメトキシルシロキシ)シラン、3−メタクリロキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン、3−メタクリロキシプロピルトリス(メトキシエトキシ)シラン、3−メタクリロキシプロピル−トリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロペニル−トリメトキシシラン、ウレイドメチルトリメトキシシラン、ウレイドエチルトリメトキシシラン、ウレイドプロピルトリメトキシシラン、ウレイドメチルトリエトキシシラン、ウレイドエチルトリエトキシシラン、ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、p−アミノフェニルシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノエチルトリエトキシシランが含まれる。
【0054】
他の好適な化学式Iの化合物で2つのR基群および2つのX基群を持つものには、限定されないがジメチルジエトキシシラン(DMDES)、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジアセトキシシラン、3−アクリロキシプロピルメチル−ジメトキシシラン、3−アクリロキシプロピル−メチルビス(トリメチルシロキシ)シラン、3−メタクリロキシプロピル−メチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチル−ジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルビス(トリメチルシロキシ)メチルシラン、メタクリロキシメチルビス(トリメチルシロキシ)メチルシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシランが含まれる。
【0055】
別の実施態様において、第1硬化性組成物は少なくとも1つの開裂可能な界面活性剤および化学式:
【化6】

の化合物またはその加水分解物を少なくとも1つの含み、ここに M は金属またはメタロイド、Z基群は同一または異なりかつ加水分解性の基群または水素原子をZ基群の全てが水素原子を表さないという条件の下で表し、およびx は金属またはメタロイドM の原子価である。
【0056】
Z基群は加水分解性基群を表し先にX基群を記述する際に言及している加水分解性基群から独立に選ばれる。M−OH 結合が化学式IIの化合物内に当初から存在していたかもしれないことは特筆の価値があり、この場合はそれらは加水分解物と見なされる。加水分解物はさらに金属またはメタロイド塩も含む。
【0057】
化学式IIの好適な化合物は金属またはメタロイドのアルコキシド類および塩化物類で、理想的にはアルカロイド類M(OR)x でここにR基群は独立的にアルキル基群で、通常はエチル、プロピル、イソプロピル、s−ブチルまたはブチルの様に1〜6の炭素原子を持ち、さらにx は上で定義した通りである。
【0058】
Mは金属またはメタロイドを表し、その原子価 x は2から6の範囲であることが好ましい。化学式IIの化合物は4価の種(x=4)であることが好ましい。M原子には、これに限定されないが Sn、Al、Bなどの金属類、Zr、Hf、Sc、Nb、V、Y、Ba、Cr、Ta、W または Ti などの遷移金属類もしくはシリコンまたはゲルマニウムなどのメタロイド類が含まれる。
【0059】
化学式VIIの最も好ましい化合物で化学式Si(Z) を持つものはそのZ基群が同一または異なる加水分解性の基群のものである。この様な化合物の例にはテトラエトキシシラン Si(OC(TEOS)、テトラメトキシシラン Si(OCH(TMOS)、テトラ(n−プロポキシ)シラン、テトラ(i−プロポキシ)シラン、テトラ(n−ブトキシ)シラン、テトラ(sec−ブトキシ)シランまたはテトラ(t−ブトキシ)シランなどのテトラアルコキシシラン類があり、TEOSが好ましい。
【0060】
化学式VIIの他の化合物で使用できる可能性のあるものの例にはジルコニウムn−プロポキシドなどのジルコニウムアルコキシド類が好ましいジルコニウム化合物、アルミニウム−sec−ブトキシドおよびアルミニウムイソプロポキシドなどのアルミニウムアルコキシド類が好ましいアルミニウム化合物、チタンテトラ−エトキシド、チタンテトラ−イソプロポキシドなどのテトラ−アルキルチタネート類が好ましいチタン化合物、タンタルアルコキシド類、トリメチルボラート、バリウムアセテートおよびこれらの混合物がある。
【0061】
第1硬化性組成物は上述のシラン類の任意の数の混合物、またはそれらシラン類および化学式IIの化合物の混合物を含むことができる。例えば、前記組成物は上に記載した様なシリコン原子を含まない(メタ)アクリレート化合物、および(メタ)アクリロキシシラン類などの(メタ)アクリル酸シラン類の混合物を含むことができる。
【0062】
第1硬化性組成物内に存在するシラン類は、部分的または全体的に加水分解されている場合があるが、全体的に加水分解されているのが好ましい。加水分解物は例えばFR2702486およびUS4211823に開示されているような、周知の方法により準備することができる。塩酸または酢酸のような加水分解触媒を用いて縮合反応時に加水分解反応を促進することができる。
【0063】
ある実施態様において、第1硬化性組成物は硬化塗膜の硬度および/または屈折率を高めるためにフィラー、通常はナノ粒子を含む。ナノ粒子は有機または無機であってもよい。さらに両者の混合物を用いることもできる。好ましくは、無機物のナノ粒子、とりわけ金属またはメタロイドの酸化物、窒化物またはフッ化物のナノ粒子、またはこれらの混合物が用いられる。
【0064】
好適な無機のナノ粒子は例えば酸化アルミニウム Al、酸化ケイ素 SiO、酸化ジルコニウム ZrO、酸化チタン TiO、酸化アンチモン Sb、酸化タンタル Ta、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウム、酸化セリウム、Si、MgF またはこれらの混合物のナノ粒子である。さらに混合酸化物の粒子を用いることも可能である。異なるタイプのナノ粒子を用いることによりヘテロ構造のナノ粒子層を作ることができる。ナノ粒子は酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムまたは酸化ケイ素SiOの粒子が好ましく,SiOナノ粒子がより好ましい。無機物フィラーはコロイド状、すなわちその直径(または最大寸法)が1μm未満、好ましくは150nm未満およびさらにより良くは100nm未満の希薄粒子の形で、水が好ましいが、水、アルコール、ケトン、エステルまたはこれらの混合物などの分散媒中に分散されて用いられることが好ましい。
【0065】
第1硬化性組成物は随意的に触媒量の硬化触媒を少なくとも1つ含み、これにより硬化過程を加速する。硬化触媒の例には紫外線または有機過酸化物の様に熱に曝されるとフリーラジカルを発生する光開始剤、アゾ化合物、キノン類、ニトロソ化合物、ハロゲン化アシル類、ヒドラゾン類、メルカプト化合物、ピリリウム化合物、イミダゾール類、クロロトリアジン類、ベンゾイン、ベンゾインアルキルエーテル類、ジケトン類、フェノン類、およびこれらの混合物がある。
【0066】
シリコン含有組成物、例えばエポキシシランを含む組成物が用いられる場合、アルミニウムアセチルアセトネート、その加水分解物もしくは亜鉛、チタン、ジルコニウム、スズまたはマグネシウムなどの金属のカルボン酸塩などの硬化触媒を用いることができる。さらに縮合触媒の飽和または不飽和の多官能酸類または酸無水物、とりわけマレイン酸、イタコン酸、トリメリット酸または無水トリメリット酸も用いることができる。硬化および/または縮合触媒の多数の例が「エポキシ樹脂の化学と技術(Chemistry and Technology of the Epoxy Resins)」, B.Ellis(Ed.) Chapman Hall,New York,1993 および「エポキシ樹脂の化学と技術第2版(Epoxy Resins Chemistry and Technology 2eme edition)」, C.A.May(Ed.),Marcel Dekker,New York,1988 に与えられている。
【0067】
通常、上に記述した触媒は本発明にしたがって第1硬化性組成物の全重量をベースとして重量で 0.01から10%、好ましくは0.1から5%の範囲の量で用いられる。
【0068】
本発明による第1硬化性組成物はさらに重合性組成物に伝統的に用いられている種々の添加剤を伝統的な割合で含むことができる。これらの添加剤には酸化防止剤などの安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、黄変防止剤、接着促進剤、染料、光発色剤、顔料、レオロジー改変剤、滑剤、架橋剤、光開始剤、芳香剤、および脱臭剤が含まれる。
【0069】
第1硬化性組成物の残りは実質的に溶媒から成っている。ゾル−ゲル組成物の場合、溶媒は水または実質的にはエタノールである水混和性アルコール、または水および水混和性アルコールの混合物である。
【0070】
本発明による第1硬化性組成物が準備され次第、これは光学物品の基材の主表面の少なくとも一部の上、好ましくは前記主表面の上全体に、例えばスプレーコート、スピンコート、フローコート、ブラシコート、ディップコートまたはロールコートなどの塗工技術で用いられる何れかの方法により堆積される。スピンコートが好適な方法である。組成物は基材の上に一連の連続した層または薄膜で塗ることができ希望する厚みを達成する。
【0071】
次いで第1硬化性組成物は第2塗膜の堆積の前に、独創的な処理方法のステップ(c)の間に、少なくとも部分的に硬化される。
【0072】
第1硬化性組成物の性質により、熱硬化、紫外線または可視光線による光硬化、または熱および光硬化の組合せを用いることができる。熱硬化は乾燥によるなど大気条件下で実施することができる。製造工程を速めるため、硬化性組成物は高温下で硬化することができる。熱硬化はヒートガン、オーブン、加熱ランプまたは他の適当な方法により達成することが可能で希望する第1塗膜に到達できる。硬化時間は塗膜の厚みに依存する。
【0073】
独創的な第1塗膜が独創的な処理方法のステップ(c)の後で完全に硬化していない場合、前記塗膜の完全な硬化は基材の上に引き続き堆積される予定の別の塗膜、例えば「第2塗膜」の硬化過程の間、または付加的な硬化過程の間に達成することができる。本発明による処理方法のステップ(c)の後ならいつでもこれを実施することができる。
【0074】
第1塗膜の処方の特定の選択は希望する用途に基づいて決定される。前記第1塗膜は耐摩耗および/または耐ひっかき塗膜または反射防止塗膜の層であることが好ましい。
【0075】
本発明による最初の好適な実施態様において、第1塗膜は耐摩耗および/または耐ひっかき塗膜である。定義として、耐摩耗および/または耐ひっかき塗膜とは完成した光学物品の耐摩耗および/または耐ひっかき性を同じ光学物品ながら耐摩耗および/または耐ひっかき塗膜の無いものに比べて向上させる塗膜である。文献に記載された耐摩耗および/または耐ひっかき塗膜組成物の一般的な処方には界面活性剤が含まれている。本発明によると、すべての周知の耐摩耗および/または耐ひっかき塗膜組成物において都合のよいことに伝統的な界面活性剤を開裂可能な界面活性剤に置き換えることにより改質される。
【0076】
好適な耐摩耗および/または耐ひっかき第1塗膜はシリコン含有塗膜および(メタ)アクリレートベースの塗膜である。この様な塗膜はすでに上に説明されている。
【0077】
とりわけ好適な耐摩耗および/または耐ひっかき塗膜用の第1硬化性組成物は開裂可能な界面活性剤、エポキシトリアルコキシシランおよびジアルキルジアルコキシシランの加水分解物、コロイド状無機物フィラーおよび触媒量のアルミニウムベースの硬化触媒を含有し、組成物の残りは実質的に耐摩耗および/または耐ひっかき組成物を調合するために通常用いられる溶媒類から成る。この様な耐摩耗および/または耐ひっかき塗膜組成物に用いられる開裂可能な界面活性剤以外の通常の成分は、フランスの特許出願FR2702486に開示され、本願に引用して本明細書とする。とりわけ好適なシリコンベースの耐摩耗および/または耐ひっかき塗膜組成物は主成分として開裂可能な界面活性剤、γ−グリシドキシプロピル−トリメトキシシラン(GLYMO)およびジメチル−ジエトキシシラン(DMDES)の加水分解物、コロイド状シリカおよび触媒量のアルミニウムアセチルアセトネートを含有しているものである。
【0078】
本発明による2番目に好適な実施態様においては、第1塗膜は反射防止塗膜の層である。反射防止塗膜はその表面に堆積されると光学物品の反射防止特性を改善する塗膜、と定義されている。これは可視スペクトルの比較的広域帯において物品−空気界面における光の反射を減少させる。反射防止塗膜は周知のもので従来から幾つかの材料の層の1つのスタックを備える。さらに反射防止塗膜は多層塗膜であることが好ましいことも周知で、交互に少なくとも高屈折率層(HI)および低屈折率層(LI)、さらに随意的に、中屈折率層(MI)、高屈折率および低屈折率(LI)層を備える。高屈折率層(HI)は同時に耐摩耗および/または耐ひっかき塗膜であることもできる。
【0079】
本発明はとりわけゾル−ゲル反射防止(AR)層の作成に適し、これはゾル−ゲル法を用いて形成されたAR層である。AR塗膜の層は伝統的にスパッタリングまたは化学蒸気蒸着などの真空処理方法の下で堆積されている。ディップまたはスピンコートなどのAR層の湿式堆積法はより穏やかな状況下の操作を可能にする代替処理方法である。ゾル−ゲル塗膜は米国特許出願No2006275627および米国特許 No5698266、5476717、4361598、4271210および4929278に記載されており、本願に引用して本明細書とする。
【0080】
本発明によると、ゾル−ゲルAR層は少なくとも1つの開裂可能な界面活性剤、高または低屈折率のコロイド状の無機物酸化物(またはカルコゲニド)、すなわち直径(または最長寸法)が1μm未満、好ましくは150nm未満およびなおより良くは100nmである無機酸化物のナノ粒子が、水、アルコール、ケトン、エステルまたはこれらの混合物などの分散媒、好ましくはアルコール、中に分散したもの、を含有する液状硬化性組成物から形成することができる。前記硬化性組成物はさらにバインダーを含む場合もある。有機バインダーの場合、できた層は有機−無機ハイブリッドマトリックス、通常はシランをベースとしたマトリックスを含み、ここではコロイド状の材料が分散していることにより、前記層の屈折率を調節できる。
【0081】
無機酸化物のコロイド状組成物は好ましくは金属または化学式が M(OR)であるメタロイドのアルコキシド類などの化学式VIIの化合物から選定された分子前駆体から合成することができ、ここに M および x は以前に定義されている。
【0082】
さらにゾル−ゲルAR層は化学式VIIの少なくとも1つの化合物および少なくとも1つのバインダー、例えば化学式Iの有機バインダーで、少なくとも1つの開裂可能な界面活性剤を含有する組成物内に含まれるものの混合物の直接加水分解および縮合によっても形成することができる。
【0083】
ゾル−ゲルHI反射防止層の例にはテトラ−アルキルチタネートの加水分解により形成されたTiO 塗膜がある。有機−無機ハイブリッドのマトリックスはさらにエポキシまたは(メタ)アクリロキシ基およびシラノール基群により加水分解可能な少なくとも2つの官能基、例えばγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを含む化合物などの少なくとも1つのバインダー前駆体、および少なくとも1つの高屈折率のTiO などのコロイド状金属酸化物の加水分解および縮合により得ることが可能である。
【0084】
ゾル−ゲルのLI反射防止層の例はUS2006/0275627に開示されている。
【0085】
本発明による処理方法は光学物品を作るために用いることが可能で、これは本発明による1つの「第1塗膜」のみを備えた物品に限定されない。これは開裂可能な界面活性剤を含み前記第1塗膜上に後続する塗膜を堆積する前に開裂されてしまっている硬化性組成物から形成された幾つかの塗膜を備えた物品を生産するために用いることができる。本処理方法は硬化性の組成物から形成された塗膜に後続の塗膜を塗工しなくてはならず、両塗膜が互いに接着していることが問題となる度に用いることができる。
【0086】
とりわけ、本発明による処理方法は多層反射防止塗膜の2つ以上のゾル−ゲルAR層を形成するために採用することができる。前記多層反射防止塗膜の全てのAR層は本発明の教えるところによる修正ゾル−ゲル法により得られることが好ましい。
【0087】
最終光学物品において、硬化状態にある第1塗膜の厚みは通常1nmから30μmの範囲で、5nmから15μmが好ましい。
【0088】
本発明による1つの実施態様において、最終光学物品の前記第1塗膜の厚みは1から15μmの範囲であることが好ましく、1から10μmがより好ましくさらには1から4μmがなおより良い。この実施態様は前記の第1塗膜が、例えば耐摩耗および/または耐ひっかき塗膜である場合に好適である。
【0089】
本発明による別の実施態様において、最終光学物品の前記第1塗膜の厚みは5から250nmの範囲であることが好ましく、20から180nmであることがより好ましくさらには45から160nmがさらに良い。この実施態様は前記第1塗膜が、例えば反射防止塗膜層である場合に好適である。
【0090】
これから第1硬化性組成物に含まれる開裂可能な界面活性剤について記載する。過去10年以上、開裂可能な界面活性剤の開発は界面活性科学において成長分野であった。開裂可能な界面活性剤はとりわけUS7410934、US7351837、US7022861、US7074936、US6429200、US2006/254774、WO02/064945、および McElhanon,J.R.; Zifer,T.; Jamison,G.M.; Rahimian,K.; Long,T.P.; Kline,S.R.; Loy,D.A.; Wheeler,D.R.; Simmons,B.A. Langmuir 2005,21,3259−3266,の「新規の界面活性剤(Novel Surfactants)」、 Holmberg,K.Ed., Marcel Dekker Inc., New York 1998,115−138 および 333−358、「熱および光化学的に開裂可能な界面活性剤(Thermally and Photochemically Cleavable Surfactants)」、 Charney,R.; Thomas,C.; Pollet,P.; Weikel,R.; Jessop,P.; Liotta,C., Eckert,C.A. 231st National ACS Meeting, Atlanta, GA, March 2006、およびその中で引用されている参考文献に記載されてきている。
【0091】
界面活性剤とは極性基(親水性)および非極性基(疎水性)を同一分子内に含み水中の表面張力を減少させる化合物を指し示す。「開裂可能な界面活性剤」、「分解性界面活性剤」、「切替可能界面活性剤」、または「不安定な界面活性剤」という表現はその界面特性(界面活性剤特性および界面活性)を極性および/または非極性基,または両方を結合開裂または化学的改質などの何らかの処理方法により変更、好ましくは破壊できる界面活性剤を指し示す。例えば、界面活性剤の極性基が極性の少ないまたは無い基に変換できる場合がある。
【0092】
開裂可能な界面活性剤の例としては極性基が非極性基から2つの基の間に位置する化学結合を除去されることにより分離するものが挙げられ、これにより界面活性剤の界面特性および界面活性が破壊される。この種の開裂可能な界面活性剤は通常少なくとも1つの弱い化学結合を含み、これが適当な条件、例えば温度および/またはpH、の下で壊れ、通常は元の界面活性剤分子に比べると界面特性および界面活性のない油溶性および水溶性の生成物を作り出す。開裂生成物のいずれも界面活性特性を持たないことが好ましい。
【0093】
さらに開裂の可能な界面活性剤には親分子の断片化を伴わずに表面活性挙動の変化および/または喪失に繋がる様な化学改質を受けるものが含まれる。これは幾つかの化学的改質により達成され、これらに限定されないが、二量体化、異性化、アシル化、アルキル化、脱離、例えばアンモニウム基などの極性頭部基の脱離、アミン(またはその塩)、アルコール、ジオールまたはカルボン酸基群の還元または酸化、または幾つかの化学的改質が実施される多段処理過程が含まれる。
【0094】
開裂可能な界面活性剤は、これに限定されないが、加水分解的に、例えば十分な量の酸または塩基と共に、フッ素イオンと共に、熱的に、光化学的に、例えば紫外線により、またはこれらの方法の幾つかの組合せにより、開裂することができる。
【0095】
界面活性剤の開裂は不可逆的な処理方法であることが好ましい。ここに用いた「不可逆的」とは開裂可能な界面活性剤は特定の処理過程で分解するものであるが、しかし分解後に原位置に再編成または再構築するものではないことを意味する。
【0096】
開裂可能な界面活性剤の好適な種類には一般化学式VIIIを持つものが含まれる:
【化7】

ここに極性頭部は極性部分、疎水性尾部は疎水性部分、a は好ましくは1から4、より好ましくは1から2の範囲の整数、cは好ましくは1から4、より好ましくは1から2の範囲の整数、および b は好ましくは1から10、より好ましくは1から4、さらにより良くは1から2の範囲の整数である。極性頭部、開裂可能リンカーおよび疎水性尾部は同一分子内でそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。上記の開裂可能な界面活性剤は少なくとも1つの極性頭部、少なくとも1つの開裂可能リンカーおよび少なくとも1つの疎水性尾部を備える。本発明による好適な実施態様においては、a-=b=c=1である。しかしながら、開裂可能な界面活性剤で(a,b,c)=(1,2,1)または(a,b,c)=(2,1,1)または(a,b,c)=(1,1,2)のものも、とりわけ2つ以上の開裂可能リンカーを持つものにおいてまた有用である。
【0097】
上の一般化学式はさらに極性頭部および開裂可能リンカー、または疎水性尾部および開裂可能リンカーがはっきりとは構造的に識別できない場合も包含する。本実施態様によると、開裂可能な界面活性剤は開裂可能な極性頭部および/または開裂可能な疎水性尾部を備える。
【0098】
疎水性尾部および極性頭部は界面活性剤科学では周知の全ての頭部基および尾部基であり、かつこれらは開裂性のリンカーに結合されている点で互換性がある。
【0099】
開裂可能な界面活性剤の極性頭部は通常1つ以上の親水性基を持つ。「親水性基」の意味は技術的に周知のもので通常は水性環境で容易に溶解性があり、かつ水素結合供与体および/または受容体である。親水性基群はプラスに耐電すること、マイナスに耐電すること、両性イオン的または中性の場合があり、それぞれに陽性、陰性、両性または非イオン性界面活性剤を生じさせる。
【0100】
親水性基群には以下の化学成分が含まれる:カルボキシ、亜硫酸塩、硫酸塩、スルホン酸塩、リン酸塩、ホスホン酸塩、チオール塩、フェノール塩、随意的に両性イオン形態の下のアミノ酸、ホスホニウム、四級アンモニウム、スルホサクシネートエステル、アミンオキシド、グリコール、アルカノールアミン、ピロリドン、ケイ皮酸、シナピン酸、ジヒドロキシ安息香酸、脂肪族または芳香族ヒドロキシル、グルコピラノシルヘッド(酸開裂性である)などの炭水化物、ポリエチレングリコール、ペプチド、オリゴヌクレオチド、アルコキシアミド、アミン塩、ピリジニウム。開裂可能な界面活性剤は上記の基群を1つ以上含む場合がある。
【0101】
これらの基群の幾つかはその中性またはイオン型(例えばカルボン酸またはカルボン酸塩)の下で用いられる場合がある。イオン型界面活性剤の場合、可溶性の塩は事前に準備するかまたはその場で第1硬化性組成物内に適当な条件の下で非イオン前駆体を溶解することにより形成できる。陰イオン基は適切な陽イオン、例えばカリウムまたはナトリウムなどのアルカリ金属イオンと共に用いられる。陽イオン基は適切な陰イオン、例えばハロゲン化物、過塩素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、または炭酸塩のイオンと共に用いられる。
【0102】
極性頭部は単量体、オリゴマーまたは重合体の場合がある。親水性の重合性頭部には ポリ(アルキレングリコール類)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(アルコール類)(例えば、ポリ(ビニルアルコール類))、ポリ(酸類)(例えば、ポリ(アクリル酸))、ポリ(アミド類)(例えば、ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド))、ならびにこれらの組合せおよび共重合体が含まれる。この様な重合体極性頭部の他の例はUS2006/254774に開示されている。
【0103】
開裂可能な界面活性剤の疎水性尾部は通常1つ以上の疎水性基を備える。「疎水性基」の意味は技術的に周知のもので一般には水性環境には本質的に不溶で、かつ水素結合を形成しない傾向がある化学基を意味する。
【0104】
疎水性尾部は一般に直鎖状または枝分かれした炭化水素鎖でこれらは完全に飽和または部分的に飽和の何れかである。これはアルキル鎖で枝分かれを伴った、または伴わないものであることが好ましく、好ましくは4から24の炭素原子、さらには6から18の炭素原子を持つことが好ましい。前記アルキル鎖はアルケニルおよび/またはアルキニル基を含む場合もある。ある実施態様においては、疎水性尾部は脂肪族基で4から8炭素を伴うかまたは芳香族基を含む。最も好適な疎水性尾部はアルキル直鎖で、例えばオレイル、エルシルまたはドデシル基である。
【0105】
疎水性尾部は単量体、オリゴマーまたは重合体の場合がある。疎水性尾部の例には ポリエステル、ポリ(カプロラクトン類)、ポリ(ヒドロキシ酪酸塩類)、ポリエーテルエステル類、ポリエステルアミド類、ポリエステルカルボン酸類、ポリエステルウレタン類、ならびにこれらの組合せおよび共重合体が含まれる。この様な重合体疎水性尾部の他の例はUS2006/254774に開示されている。
【0106】
極性頭部および疎水性尾部は少なくとも1つの開裂性のリンカー、すなわちある条件下で開裂することができ、斯くして化合物が界面活性剤として作用する能力を変更、好ましくは破壊するリンカー基により接続されている。開裂性のリンカーの開裂は上述した何れの開裂技法によっても達成できる。開裂性のリンカーの性質により親分子を界面活性特性の無い少なくとも2つの断片への分断に至る場合とそうでない場合がある。
【0107】
開裂性のリンカーは単量体、オリゴマーまたは重合体の場合があり、すなわち一連の開裂性基群の繰り返し単位を含む場合がある。
【0108】
本発明による1つの実施態様において、前記開裂性のリンカーは弱い、壊れやすい化学基または結合または後で壊れがちな基に変換することができる基を含む。
【0109】
当初の界面活性剤の分子を断片化に導く化学的に開裂性のリンカーの例には環状アセタールまたはケタール(例えば、1,3ジオキソラン、1,3−ジオキサン)、非環状アセタールで通常は酸開裂性のUS7074936およびWO02/064945に開示されている様なもの、無水物、エステル基類でWO02/064945に開示されているアルカリ性条件下で開裂されることが好ましい様なもの、天然由来の糖類から誘導されたエステル類、チオエステル、オルトエステル、エステルアミド、エステルエーテル、炭酸エステル、エステルウレタン、アミド基群で、アルカリ性条件下で開裂されることが好ましく、WO02/064945に開示されている様なもの、アゾ、第4級ヒドラゾニウム、エーテル、メチレンジオキシリンカーで酸性媒体内で開裂し2分子のアルコールおよび1分子のホルムアルデヒドを生じるUS7074936に開示されている様なもの、ジスルフィド基で酸、塩基または還元剤(例えば、ジチオトレイトール、β−メルカプトエタノール、硫化水素、硫化水素ナトリウム)でUS6429200および US7074936に開示されている様なもの、などの基を含むもがある。
【0110】
界面活性剤の幾つかは化学試薬を加えずに開裂を受けることが可能で、これは中性のpHが必要とされる用途には非常に有用である。
【0111】
好適な開裂可能な界面活性剤は熱および/または光開裂性で、熱開裂性がより好ましい。
【0112】
好適な界面活性剤の種類には化学式IIIの熱開裂性ものが含まれる。レトロなディールス−アルダー反応により開裂可能な界面活性剤は最も好適なものである。この様な界面活性剤はディールス−アルダー付加化合物で、好ましくは50から150℃、より好ましくは60から120℃の範囲の温度に加熱された際にジエンおよびジエノフィルに解離する。
【0113】
好適なディールス−アルダー付加化合物型の界面活性剤は一般化学式IXおよびXの化合物である:
【化8】

ここに極性頭部は極性部分で(極性頭部は上に定義されている)、疎水性尾部は疎水性部分(疎水性尾部は上に定義されている)、R、RおよびRは独立的に H、アリール、アルキル、ハロゲン、疎水性尾部または極性頭部またはディールスアルダー付加環化反応の条件に適合する全ての他の基を表す。化学式IXおよびXの化合物は加熱した際に、それぞれIXa、IXbおよびXa、Xb 部分へと解離する。
【化9】

【0114】
「ディールスアルダー−反応の条件に適合する基」とはディールスアルダー−反応により界面活性剤IXまたはXの形成が行われることを阻止しない基を意味し、前記の基を持つ置換されたフラン部分IXbまたはXbから開始する。当業者には周知のように、広範囲の官能基群はディールスアルダー−反応に委ねられている。
【0115】
界面活性剤IXおよびXはディールス−アルダー付加化合物を緩やかな化学結合として取り込み、その開裂は簡単な穏やかな加熱、通常は60〜100℃により熱的に誘発され、界面活性作用を示さない別個の親水性および疎水性断片に誘導される。この過程は不可逆的で、それは温度が環境条件まで下げられると界面活性剤分子は再度形成されることはないからである。
【0116】
より好適な化合物IXおよびXは化学式XIの化合物である:
【化10】

ここに R、R、RおよびRは独立的に H、アリール、アルキル、ハロゲン、またはディールスアルダー付加環化反応の条件に適合する全ての基を表すが、R、R、RおよびRの内少なくとも1つは C2m+2化学式のアルキル基であるという条件付で、ここに m は6から24の範囲の整数で、6から18が好ましく、R基群は独立的に親水性基を表し前述した、例えば適当な陽イオンを伴った陰イオン基、適当な陰イオンを伴った陽イオン基、またはポリエチレングリコール基などであり、nは1から5の範囲の整数で1から2が好ましい。化学式XIの最も好適な化合物は R=R=R=H、Rが化学式 C2m+1であるもので、ここに m は6から24の範囲の整数で6から18が好ましく、n=1および Rはメタまたはパラ置換基でパラが好ましく、適当な陽イオンを伴った陰イオン基、好ましくはCO2-、SO3-または O-Mで、ここにM は陽イオンで Naまたは Kなどのアルカリ金属陽イオンが好ましい。界面活性剤XIの具体的な例はexo−4−ドデシル−7−オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2、3−ジカルボキシ−N−(4−ナトリウムスルホネート)イミド(R=R=R=H、R=n−C1225、R=パラ−SONa)、exo−4−ドデシル−7−オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボキシ−N−(4−ナトリウムカルボキシレート)イミド(R=R=R=H、R=n−C1225、R=パラ−CONa)および exo−4−ドデシル−7−オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボキシ−N−(4−ナトリウムフェノレート)イミド(R=R=R=H、R=n−C1225、R=パラ−ONa)である。これらの界面活性剤は水性溶液中において安定でかつ良好な濡れ特性を有す。
【0117】
幾つかの界面活性剤IXおよびXはSandia National Laboratories から入手可能で、または US7022861または US7331837に開示された様な官能化フランおよびマレイミド開始材料(これらもまた開裂性生成物である)から合成できる。2−アルキルフランなどの官能化フランおよびマレイミド開始材料は、それ自体、フラン、無水コハク酸および適切に置換された1級アミン類を含め、当業者は周知の合成経路を用いて直ちに入手できる市販品から得ることができる。
【0118】
熱に敏感な界面活性剤の他の例にはレトロなディールスアルダー反応により開裂されるもので US70228861に開示された方法により得られる「双子座」ディールスアルダー界面活性剤があり、2つの界面活性剤分子からできていてビスマレイミドでUS6825315、US6337384、US6271335およびUS6403753に開示されたものなどまたはビスフランに付加したものがあり、ここに界面活性剤分子は、例えばイオン性極性基に連結した非極性の枝分かれしたまたは枝分かれしていないアルキル基を、第4アンモニウム基などの頭部基として含む。
【0119】
他の熱的に開裂可能な界面活性剤で本発明による第1硬化性塗膜組成物内に有用かもしれないものは極性頭部を持つもので加熱により自発的に分解し、非界面活性の疎水性断片をもたらす。これらの界面活性剤の例は「熱的および光化学的に開裂可能な界面活性剤(Thermally and Photochemically Cleavable Surfactants)」、231st National ACS Meeting,Atlanta,GA,March(上に引用)に記載された様な化合物で、約90〜100℃の温度で熱分解するチイラン酸化物極性頭部、またはスルホレン(ピペリレンスルホン)極性頭部が含まれる。例にはn−オクチルチイランオキシドがあり、これは 1−デセンおよび一酸化硫黄に分解すると全ての界面活性作用を失ってしまう。スルホレン基は分解時に置換された 1,3−ブタジエン誘導体および二酸化硫黄を放出する。
【0120】
他の有用な熱的に開裂可能な界面活性剤にはアミンオキシドを含有した界面活性剤があり、これは100℃を超える温度で分解する(Hayashi,Y.,et al., J.Am.Oil Chemists Soc.1985,62,555参照)。
【0121】
光−開裂性の界面活性剤には、例えば紫外線を照射された場合に光応答する特性があり、結果として界面活性剤の断片化を伴いまたは伴わずに界面活性作用が変化する。
【0122】
UV感光性部分を組み入れた界面活性剤の例には照射により分解するアルキルアリールケトンスルホネート類およびジアゾスルホネート(Epstein,W.W.,et al.,Anal.Biochem.1982,119,304; and Nuyken,O.,et al.,J.Photochem.Photobiol.A Chem.1995,85,291 参照)、または 3−(2−ヒドロキシ−フェニル)−アクリレートまたは 3−(2−アミノ−フェニル)−アクリレート リンカーを含む界面活性剤で WO02/097393に開示されたものがある。さらに酸化チイラン極性頭部を芳香族サイクルに隣接して持つ幾つかの界面活性剤も開裂することが上述した「熱的および光化学的に開裂可能な界面活性剤(Thermally and Photochemically Cleavable Surfactants)」231st National ACS Meeting,Atlanta,GA,March 2006 に報告されている。
【0123】
他の有用な開裂可能な界面活性剤にはドデシル硫酸ナトリウム(以降SDSと称す)
【化11】


またはドデシルベンゼンスルホン酸(以降SDBSと称す)
【化12】

などの長い炭化水素鎖を有する硫酸塩またはスルホン酸塩界面活性剤がある
【0124】
これらの界面活性剤はとりわけアルカリ性条件下で、加熱による加水分解により開裂させることができる。
【0125】
開裂可能な界面活性剤は第1塗膜組成物内に普通の量、通常は前記組成物の全重量に対し重量で0.01から1%、好ましくは0.01から0.5%含まれている。第1硬化性組成物は本発明の意図の下では開裂性ではないとされる界面活性剤を含まないことが好ましい。
【0126】
第1硬化性組成物が基材の剥き出しの表面上に堆積された後で、かつステップ(d)の前に、前記光学物品は開裂可能な界面活性剤が少なくとも部分的に開裂することになる処理過程を受ける。少なくとも界面活性剤を部分的に開裂することにより、第2塗膜に接着する第1塗膜の能力は大いに改善される。界面活性剤の全体が開裂されていることが好ましい。
【0127】
開裂可能な界面活性剤の開裂は文献にこれまでも多く書かれている。実際、開裂可能な界面活性剤の少なくとも部分的な開裂をもたらす処理方法の特徴および本発明による処理を成功裏に実施するために必要な開裂時間の様なパラメータは当業者には容易に決定できる。開裂処理は基材の特性または前記基材上にすでに堆積されている全ての塗膜を著しく変えることのない様に選定されなくてはならない。
【0128】
普通の当業者なら希望する用途に対する適切な開裂可能な界面活性剤を決定することができる。例えば、熱に敏感な材料の場合、光−開裂性の界面活性剤が好適であろう。
【0129】
本処理方法は第2塗膜が塗工されることになる第1塗膜の表面エネルギーを調整するために用いられる。開裂過程は、随意的に洗浄処置がこれに続くが、第1塗膜の表面エネルギーを少なくとも第1硬化性塗膜組成物内に界面活性剤が存在していなかった場合に得られたであろう高さのレベルまで表面エネルギーを増加させることが好ましい。
【0130】
通常、開裂過程の結果による表面エネルギーの増加は少なくとも10mJ/m,より好ましくは少なくとも15mJ/mである。
【0131】
本発明による処理方法は開裂過程の後に第1塗膜が少なくとも50mJ/m、好ましくは少なくとも55mJ/mの表面エネルギーを得られることが好適である。処理時間は、これはとりわけ開裂可能な界面活性剤の性質に依存するため、その様な表面エネルギーに達するために変動する可能性がある。
【0132】
上で言及した表面エネルギーはオーウェンズ−ウェント法にしたがって計算でき、以下の文献に記載されている:Owens,D.K.;Wendt,R.G.「ポリマーの表面力エネルギーの推定(Estimation of the surface force energy of polymers)」, J.Appl.Polym.Sci.1969,51,1741−1747。
【0133】
開裂は本発明による処理方法のステップ(b)の後のいつでも実施できるが、第2塗膜の堆積ステップ(d)の前に実施されなくてはならない。とりわけ、界面活性剤の開裂は第1硬化性組成物の硬化ステップ(c)の間に起こってもよい。界面活性剤の開裂および第1硬化性組成物の硬化は異なる性質の処理を伴うにもかかわらず同時に行わせることができる。独創的な処理のステップ(c)の後で開裂可能な界面活性剤が未だ、または十分には未だ開裂していない場合には、特定の開裂過程が実施されなくてはならない。界面活性剤の開裂過程がさらに第1硬化性組成物の硬化を少なくとも部分的に起こさせることは特筆に値することで、例えば前記界面活性剤が熱−開裂性でかつ前記組成物が熱硬化性の場合である。
【0134】
熱開裂性の界面活性剤は50から150℃の範囲の温度で開裂されることが好ましく、60から130℃がより好ましく、80から120℃がさらにより良くおよび80から110℃がなおより良い。上に開示した加熱方法は熱硬化処置に用いることができる。
【0135】
界面活性剤の少なくとも部分的な開裂が形成ステップ(d)の前に実施されていなかったなら、とりわけ第1塗膜の表面がエネルギー種により処理されていなかった場合に、接着問題に遭遇していたかもしれない
【0136】
通常、第2塗膜の堆積に先立ち、第1塗膜から開裂生成物を除去する処理は行われない。
【0137】
しかしながら、本発明による1つの実施態様によると、ステップ(d)の前に第1塗膜表面の洗浄過程および/または活性化処理の様な接着性改善表面処理が行われ、これは第1塗膜表面から前記開裂生成物を少なくとも部分的に除去する結果になるかもしれない。前記の随意的な洗浄過程または活性化処理は通常脱イオン水、極性溶媒または薄いアルカリ性または酸性溶液による液相処理である。例えば、開裂生成物の1つが酸の場合、それは適当なアルカリ性溶液による洗浄で塗膜の表面から除去できる。揮発性の開裂生成物は容易に加熱により除去または真空下で排気することができる。例えば、ヘキサンなどの脂肪族基はある開裂条件の下でヘキサノールまたはヘキセンを産出しこれらは直ちに除去できる。ある実施態様においては、開裂生成物はガス状であることが有利となる。
【0138】
第1塗膜表面の接着性改善処理はさらに第1塗膜上に接着促進層を堆積する過程を含む場合がある。前記の層は接着促進組成物から形成され、これは第1塗膜上に全ての適切な方法により堆積することができるが、スピンコートまたはディップコートが好ましい。接着促進組成物は以下のポリマー類または共重合体:ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリカーボネート;または以下のモノマー類:グリシジルアクリレートなどのアクリレート類またはメタクリレート類、ブタジエンをベースとしたモノマー類、ハロゲン化ビニル類、無水マレイン酸をベースとしたモノマー類;または少なくとも1つのシランまたはシロキサン、またはこれらの加水分解物;またはこれらの混合物、を含む場合がある。
【0139】
アミノシラン類の接着促進剤はオルガノシラン類で少なくとも1つのアミン基、好ましくは NH または NH を含み、かつこれが第1塗膜と相互に作用できることが好ましい。前記のアミノシランはさらに他の官能基を含む場合もある。
【0140】
接着促進剤は少なくとも1つのアミン基を持つアルコキシシランであることが好ましく、少なくとも1つのアミン基を持つトリアルコキシシランであることがより好ましい。アミノシラン類のこれらに限定されない例には、第一級アミノアルキルシラン類、第二級アミノアルキルシラン類およびビス−シリルアルキルアミン類、とりわけ3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、ビス−トリメトキシシリルプロピルアミン、N−β−(アミノエチル)−a−アミノプロピルトリメトキシシラン(HNCHCHNHCHCHCHSi(OCH)、および化学式が HNCHCHNHCHCHNHCHCHCHSi(OCHであるトリアミノ官能基化合物があり、これらは全て市販されている。もちろん、さらにエトキシ類縁化合物などの、これらシラン類の類縁化合物も使用できる。接着促進組成物内の使用される接着促進剤の量は当業者には最小限の型どおりの実験により容易に決定できる。
【0141】
さらに上述の洗浄、活性化処理、および接着促進剤の堆積の組合せも実施することができる。
【0142】
独創的な処理方法の重要な利点は第2塗膜に対する接着性を増すためのコロナ処理または真空プラズマ処理などの処理を第1塗膜の表面に受けさせる必要がないということである。本発明による非常に好適な実施態様によると、第1塗膜の第2塗膜に対する接着性を増すことを意図したエネルギー種による追加的な表面処理は独創的な処理方法のステップ(d)に進む前に第1塗膜に実施されない。
【0143】
本発明による別の実施態様においては、独創的な処理方法のステップ(d)に進む前に第1塗膜の追加的な表面処理は実施されない。
【0144】
エネルギー種とは、1から150eV、好ましくは10から150eV、およびより好ましくは40から150eVの範囲のエネルギーを持つ種を意味している。エネルギー種はイオン、ラジカルなどの化学種、または光子または電子などの種の場合がある。
【0145】
エネルギー種による処理の例には、これらに限定されないが:真空プラズマ処理、大気圧プラズマ処理、グロー放電プラズマ処理、コロナ放電処理、イオンビーム衝撃、とりわけイオン銃によるもの、または電子ビーム衝撃がある。
【0146】
第1塗膜が少なくとも部分的に硬化していてかつ前記塗膜に含まれる開裂可能な界面活性剤が少なくとも部分的に開裂しているなら、第2塗膜の形成ステップ(d)を実行できる。ここに用いた「第2塗膜」は、少なくとも部分的に硬化し少なくとも部分的に既に開裂している開裂可能な界面活性剤を持つ第1塗膜の上に堆積される塗膜である。
【0147】
前記第2塗膜はその性質により、ディップ、スピン、スプレー、フローまたはブラシコートなどの液相堆積、または蒸発蒸着、イオンビーム支援蒸発蒸着、スパッター蒸着、電子ビームPVD、プラズマ助長CVDを含む、物理蒸気蒸着法(PVD)または化学蒸気蒸着法(CVD)などの気相蒸着により堆積することができる。
【0148】
第1塗膜の上に直接堆積される第2塗膜の性質は特に限定されてはいない。これは光学分野で普通に使用されるどの様な機能性の層、例えば有機または鉱物の層であってもよい。とりわけ、これに限定されないが、汚れ防止トップコート、反射防止塗膜層、偏光塗膜、光互変性塗膜、帯電防止塗膜、または全ての他の機能性塗膜の場合がある。さらにこれは例え第1塗膜が耐摩耗および/または耐ひっかき塗膜であっても、耐摩耗および/または耐ひっかき塗膜の場合もあり、斯くして2層の耐摩耗および/または耐ひっかき塗膜が生じる。
【0149】
ステップ(d)で第1塗膜上に第2塗膜を形成した結果として、前記第1塗膜が前記第2塗膜に接着した光学物品が得られる。独創的な処理方法の連続実施は例えば古典的なクロスハッチテープ剥離接着試験により簡単にチェックできる。実験の部分において、ハードコートした光学物品に対する汚れ防止トップコートの接着性は前記光学物品の表面の疎水性特性を摩擦操作を行った前と後で比較してチェックされた。
【0150】
第2塗膜の上に別の塗膜を塗ることは可能である。実際、レンズ基材の少なくとも1つの主表面に連続して、レンズ基材の表面から始めて、耐衝撃塗膜、耐摩耗および/または耐ひっかき塗膜(ハードコート)、反射防止塗膜および汚れ防止トップコートを塗工することは常套手段である。偏光塗膜、光互変性塗膜、色付き塗膜または接着層、例えば接着性ポリウレタン層などの他の塗膜もまたレンズ基材の一方または両方の表面上に塗布することができる。
【0151】
本発明による1つの実施態様において、本処理方法により得られたレンズ基材の少なくとも1つの主表面には連続的に、レンズ基材の表面から始めて、耐衝撃塗膜、耐摩耗および/または耐ひっかき塗膜、反射防止塗膜および汚れ防止トップコートが塗工され、ここでは耐摩耗および/または耐ひっかき塗膜および反射防止塗膜の少なくとも1つは本発明の教えるところにしたがって形成されている(すなわち、開裂可能な界面活性剤でその後適切な時期に開裂されているものを含む少なくとも1つの硬化性組成物から)。反射防止塗膜は独創的な処理方法にしたがった少なくとも1つの形成されたAR層を備えかつ引き続き塗工されている場合に、本発明の教えるところに従って形成されていると見なされる。
【0152】
本発明による別の実施態様においては、レンズ基材の少なくとも1つの主表面には連続的に、レンズ基材の表面から始めて、耐摩耗および/または耐ひっかき塗膜、反射防止塗膜および汚れ防止トップコートが塗工され、ここでは耐摩耗および/または耐ひっかき塗膜ならびに反射防止塗膜の少なくとも1つは本発明の教えるところにしたがって形成されている。
【0153】
本発明によると、この独創的な処理方法により得られる光学物品は耐衝撃プライマー塗膜を塗工した基材を含む場合がある。
【0154】
本発明に用いることができる耐衝撃塗膜は完成した光学物品の耐衝撃性を向上させるために通常用いられるどの様な塗膜であってもよい。さらに、この塗膜は一般的に、完成した光学物品の基材上に耐摩耗および/または耐ひっかき塗膜が存在するなら、その接着性を高める。定義として、耐衝撃プライマー塗膜とは完成した光学物品と同一の光学物品だが耐衝撃プライマー塗膜がないものと比較して耐衝撃性を向上させる塗膜である。
【0155】
典型的な耐衝撃プライマー塗膜は(メタ)アクリル酸をベースとした塗膜およびポリウレタンをベースとした塗膜である。(メタ)アクリル酸をベースとした耐衝撃塗膜は特に、米国特許5015523号および6503631号に開示され、一方熱可塑性および架橋をベースとしたポリウレタン塗膜はとりわけ、日本国特許63−141001号および63−87223号、ヨーロッパ特許0404111号および米国特許5316791号に開示されている。
【0156】
とりわけ、本発明による耐衝撃プライマー塗膜はポリ(メタ)アクリル酸ラテックス、ポリウレタンラテックスまたはポリエステルラテックスなどのラテックス組成物から作ることができる。
【0157】
(メタ)アクリル酸をベースとした好適な耐衝撃プライマー塗膜組成物の中から、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレートをベースとした組成物、例えば、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコール(200)ジアクリレート、ポリエチレングリコール(400)ジアクリレート、ポリエチレングリコール(600)ジ(メタ)アクリレート、同様にウレタン(メタ)アクリレート類およびこれらの混合物などを引用することができる。
【0158】
耐衝撃プライマー塗膜のガラス転移温度(Tg)は30℃未満であることが好ましい。好適な耐衝撃プライマー塗膜組成物の中でも、Zeneca社からAcrylic latex A−639の名称で商品化されているアクリル酸ラテックスおよび Baxenden Chemicals社からWitcobondTM 240 および WitcobondTM 234の名称で商品化されているポリウレタンラテックスを引用することができる。
【0159】
好適な実施態様において、耐衝撃プライマー塗膜はプライマー塗膜の光学基材および/または耐ひっかき塗膜または他の全ての塗膜に対する接着を向上させるため効果的な量のカップリング剤をさらに含む場合がある。限定されないがカップリング剤の例にはエポキシアルコキシシランの予備縮合溶液および不飽和アルコキシシランがあり、末端エチレン2重結合を有することが好ましい。この様な組成物は本公開に記載されている。
【0160】
耐衝撃プライマー塗膜組成物は下にある塗膜または基材の上にスピン、ディップ、またはフローコートなど、どの様な古典的な方法を用いても塗布することができる。
【0161】
耐衝撃プライマー塗膜組成物は後続の塗膜を塗布する前に単に乾燥されるかまたは随意的に前硬化される。耐衝撃プライマー塗膜組成物の性質によっては、熱硬化、UV硬化または両者の組合せを用いることができる。
【0162】
耐衝撃プライマー塗膜の厚みは、硬化後で、一般に0.05から30μmの範囲で、0.5から20μmが好ましく、0.6から15μmがより特別で、0.6から5μmがより良くさらには0.7から1.2μmがさらにより良い。
【0163】
通常は耐衝撃塗膜の上に堆積され、または第1耐摩耗および/または耐ひっかき塗膜の上に堆積されて2層の耐摩耗および/または耐ひっかき塗膜を形成する耐摩耗および/または耐ひっかき塗膜は、先に記載されてきている実施態様にしたがって形成することもできるし、または出願者の名でUS2006/219347に記載されているものなど、どの様な古典的な耐摩耗および/または耐ひっかき塗膜であってもよい。
【0164】
AR塗膜が存在する場合は、耐摩耗および/または耐ひっかき塗膜の上に形成されることが好ましい。前記AR塗膜は先に記述されている実施態様にしたがって形成することも、または古典的なゾル/ゲルAR塗膜または気相蒸着AR塗膜など技術的に周知のどの様な古典的なAR塗膜であってもよい。後者についてこれから記述する。
【0165】
反射防止塗膜およびそれを作る方法は技術的に周知されている。反射防止塗膜は完成した光学物品の反射防止特性を可視スペクトルの少なくとも1つの部分において改善できるどの様な層または層のスタックであってもよい。反射防止塗膜は単層または多層の反射防止塗膜の場合があり、さらには単層または多層の誘電体材料のフィルムを備えることが好ましい。
【0166】
反射防止塗膜は低屈折率(LI)および高屈折率(HI)層の交互のスタックを備えることが好ましいが、本発明による別の実施態様においては、LIおよびHI層は必ずしもAR塗膜の中で交互していない。
【0167】
ここに用いた、低屈折率層とは屈折率が1.55以下、好ましくは1.50未満でさらにより良くは1.45未満である層を意味することを意図し、および高屈折率層とは屈折率が1.55を超える、好ましくは1.6を超える、より好ましくは1.8を超えるさらにより良くは2を超える層を意味することを意図し、両方とも参照波長は550nmである。特に断りのない限り、本特許出願書に記載されている全ての屈折率は25℃およびλ=550nmにおいて表されている。
【0168】
HI層は古典的な高屈折率層で、これらに限定されないが TiO、PrTiO、LaTiO、ZrO、Ta、Y、Ce、La、Dy、Nd、HfO、Sc、Prまたは Al、または Si 、同様にこれらの混合物などの無機酸化物を1つ以上を含み、TiOまたは PrTiOが好ましい。
【0169】
LI層もまた周知のもので、これらに限定されないが SiO 、MgF 、ZrF、AlF ,チオライト (NaAl14])、クリオライト (Na[AlF])、またはこれらの混合物を含む場合があり、SiOまたは Al をドープした SiOが好ましい。
【0170】
通常、HI層の物理的厚みは10から120nmの範囲、および LI層の物理的厚みは10から100nmの範囲である。
【0171】
反射防止塗膜の全物理的厚みは1ミクロン未満であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましくさらには250nm以下であることがなおより良い。反射防止塗膜の全物理的厚みは通常100nmを超え、150nmを超えることが好ましい。
【0172】
誘電材料の反射防止スタックは次の技法により真空蒸着により塗布することができる:i)蒸発により、随意的にイオンビームにより支援;ii)イオンビームスプレーにより:iii)陰極スパッタリングにより:iv)プラズマにより支援された化学蒸気蒸着により。
【0173】
単層フィルムの場合、その光学的厚みはλ/4に等しいことが好ましく、ここにλは450から650nmの波長である。
【0174】
3層を有する多層フィルムの場合、それぞれの光学的厚みに対応してλ/4、λ/2、λ/4またはλ/4、λ/4、λ/4の組合せを用いることができる。
【0175】
さらに、上の3層の一部である任意の数の層の代わりにより多くの層により形成された等価フィルムを用いることも可能である。
【0176】
反射防止塗膜は交互に高および低屈折率の誘電材料層を3以上備えた多層フィルムであることが好ましい。
【0177】
好適な反射防止塗膜は真空蒸着により形成された4層のスタックを備える場合があり、例えば第1SiO層で光学的厚みが約100から160nmのもの、第2 ZrO層で光学的厚みが約100から190nmのもの、第3 SiO層で光学的厚みが約20から40nmのものおよび第4 ZrO層 で光学的厚みが約35から75nmのものである。
【0178】
本発明において汚れ防止トップコートを用いる場合がある。通常これはAR塗膜上に堆積されるが、さらに耐摩耗および/または耐ひっかき塗膜上に堆積される場合もある。
【0179】
汚れ防止トップコートは疎水性および/または疎油性の表面塗膜と定義づけられ、ここに脱イオン水に対する静止接触角は少なくとも75°で、少なくとも90°が好ましく、さらには100°を超えることがより好ましい。静止接触角は液滴法にしたがって決定されそこでは光学物品の上に直径が2mm未満の水滴が形成され接触角が測定される。これは水滴表面が光学物品の表面に接触する角度に対応する。
【0180】
この発明で好んで用いられるものは低表面エネルギートップコート、すなわち物品の表面エネルギーを20mJ/m未満まで低減するものである。表面エネルギーが14mJ/m未満およびより良くは12mJ/m未満である汚れ防止トップコートを用いる際に本発明は特別に興味がある。
【0181】
本発明による汚れ防止トップコートは有機性のものであることが好ましい。有機性とは、塗膜層の全重量に対し重量で少なくとも40%、好ましくは重量で少なくとも50%が有機材料で構成されていることを意味する。好適な汚れ防止トップコートは少なくとも1つのフッ化化合物を含む液状塗膜素材からできている。
【0182】
疎水性および/または疎油性の表面塗膜はほとんどの場合フッ化基、とりわけペルフルオロカーボンまたはペルフルオロポリエーテル基(群)を持つシランをベースとした化合物を含む。例証として、シラザン、ポリシラザンまたはシリコン化合物が挙げられ、上に述べたものの様なフッ素含有基を1つ以上含む。この様な化合物は従来技術により、例えば特許US4410563、US6183872、US6277485、EP0203730、EP749021、EP844265およびEP933377に広く開示されてきている。
【0183】
汚れ防止トップコートを形成する古典的な方法はフッ化基群および Si−R基群を持つ化合物を堆積することから成り、Rは −OH基またはその前駆体の −Cl、−NH、−NH−または−O−アルキルなどを表し、アルコキシ基が好ましい。これらの化合物はそれが堆積された表面上で、直接または加水分解後に、ペンダント反応基群と重合および/または架橋反応を起こす場合がある。
【0184】
好適なフッ化化合物はシラン類およびシラザン類で フッ化炭化水素類、ペルフルオロカーボン類、フッ化ポリエーテル類のFC−(OC24−O−(CF−(CH−O−CH−Si(OCHおよびペルフルオロポリエーテル類など、から選択された少なくとも1つの基を持つものである。
【0185】
汚れ防止トップコートを作るために市販されている組成物は信越化学から商品化されている組成物 KY130 および KP801M ならびにダイキン工業から商品化されている組成物 OPTOOL DSX(フッ素ベースの樹脂でペルフルオロプロピレン部分を含む)である。OPTOOL DSX は汚れ防止トップコート用に最も好適な塗膜材料である。
【0186】
本発明による汚れ防止トップコートを形成する液状塗膜材料は1つ以上の上述の化合物を含む場合がある。この様な化合物または化合物の混合物は液状または加熱することにより液状になり、斯くして堆積に適切な状態になっていることが好ましい。
【0187】
汚れ防止トップコートの堆積技法は様々で、液相堆積のディップコート、スピンコート、スプレーコートなど、または気相蒸着(真空蒸発)が含まれる。それらの中で、スピンまたはディップコートによる堆積が好適である。
【0188】
本発明はさらに表面を少なくとも部分的に硬化した塗膜を塗工された基材を備えた光学物品に関係し、ここに前記塗膜は次の様にして得られている:
− 基材の表面上に少なくとも1つの開裂可能な界面活性剤を含む第1硬化性組成物を堆積する、および
− 前記硬化性組成物を少なくとも部分的に硬化する、
およびここに前記光学物品は前記硬化性組成物が基材の表面上に堆積された後に開裂可能な界面活性剤が少なくとも部分的に開裂することになる処理過程を受けている。
【0189】
通常、上の表面を改質された光学物品は独創的な処理方法の実行中に得られた中間製品である。通常はこれに少なくとももう1つの塗膜を塗工することを意図している。これは開裂性の無い界面活性剤を用いる従来技術による処理方法で形成された対応する中間製品とは明らかに見分けがつく。その表面特性は最適化されていて後続する塗膜に優れた接着性を先に説明した様な表面準備処理の実施を必要とせずに与える。通常の表面分析手法を用いて前記第1塗膜内およびその表面の開裂した界面活性剤の存在を明らかにできる。
【0190】
通常、開裂過程および極性溶媒による洗浄過程の後、前記第1塗膜の表面エネルギーは先に明らかにした様に、少なくとも50mJ/mのレベルまで増えていることが好ましい。
【0191】
通常、開裂過程の結果による表面エネルギーの増加は少なくとも10mJ/m、より好ましくは少なくとも15mJ/mである。
【0192】
特定の理論に縛られることを望むものではないが、表面エネルギーの増加は界面活性剤の疎水性尾部の除去により生じたものと想像され、これは洗浄過程、または開裂過程によるその破壊により処分されたのかもしれない。
【0193】
本発明はさらに硬化性組成物で、少なくとも1つの開裂可能な界面活性剤、好ましくは化学式IXまたはX、より好ましくは化学式XI、なおより良くは R=R=R=H、R=n−C1225 および R=para−SONa である化学式XIの開裂可能な界面活性剤、および少なくとも1つの化学式Iの化合物、好ましくは少なくとも1つの化学式IIの化合物を含むものに関係する。これらの化合物は先に記述されている。この硬化性塗膜組成物は独創的な処理方法を実行する様に特別に工夫されていて、ここに用いた意味の「第1塗膜」を生じさせることができるかもしれない。しかしながら、これを伝統的な界面活性剤を含む塗膜組成物として用いることもできる。
【0194】
化学式IXまたはX、好ましくは化学式XI、および最も好ましくはR=R=R=H、R=n−C1225および R=para−SONaである化学式XIの開裂可能な界面活性剤を含む組成物を用いることにより、開裂可能な界面活性剤の開裂前に、古典的な界面活性剤を使うつもりの同じ組成物より幾分高い(2から3mJ/m程度)表面エネルギーを持つかもしれない第1塗膜を得ることを可能にする。通常、この様な組成物から形成された第1塗膜の表面エネルギーは開裂過程の前で少なくとも50mJ/mである。
【0195】
最後に、本発明は開裂可能な界面活性剤を硬化性塗膜組成物に用いることによりできた硬化塗膜の他の塗膜への接着性を向上させることに関係する。
【0196】
今までに述べてきた本発明による処理方法の全ての実施態様は、さらに上の光学物品、硬化性組成物および使用にも適用される。
【0197】
これから、本発明はより詳細に以下の実施例を参照しながら説明する。これらの実施例は本発明を説明するためにのみ提供されるもので本発明の範囲および精神を制限するものと解釈されるべきではない。
【実施例】
【0198】
1.試験方法
a)摩擦試験
脱イオン水の接触角はレンズの表面で Kruss 社製の接触角測定装置 DSA100 により測定される。次いでレンズは何回かの摩擦サイクルを受ける。1サイクルは予め決められた加重(500gおよび4000gの間)を伴う湿った布(脱イオン水で濡らす)によるレンズ表面の前進および後退動である。Nサイクルの終了後再度水接触角が測定される。水接触角の減少が大きい程、レンズ表面のトップコート層の接着性が低い。
b)乾式接着性試験
【0199】
転写塗膜群の乾式接着性はクロスハッチ接着性試験を用い ASTM D3359−93 にしたがって測定され、カミソリにより塗膜群に一組の5本の線を1mm間隔で切り通し、次いで第2の組の5本の線を1mm間隔で、最初の組と直交させることにより25の四角を含むパターンを形成した。クロスハッチパターンに空気流を吹きつけ罫書きの際に生じた全てのホコリを除去した後、次いで透明のセロテープ(3M SCOTCHTM No600)をこのクロスハッチパターンの上に貼りつけ、しっかり押さえつけ、それから塗膜面と垂直方向に塗膜からすばやく引き離した。新しいテープの貼りつけ、引き離しがさらに2回繰り返された。接着性は次の様に評価された(0は最高の接着性、1〜4は中間、および5は最低の接着性):
【0200】
【表1】

【0201】
この試験は汚れ防止トップコートを塗工されたレンズに対し実施された。
【0202】
汚れ拭きとり性試験は50マイクログラムの汚れを20mm汚れの形でレンズの凸表面に堆積すること(これは人工的な汚れで、ほとんどがオレイン酸である)および750gの加重の下で綿布(Berkshire製)による前進および後退動による再現性のある拭き(1回の前進および後退動は定義により2回の拭きに相当する)を行うことから成る。
【0203】
レンズ上で布が動いた合計振幅は40mm、すなわち汚れを中心にそれぞれの側に20mmであった。各々の拭きサイクルの後、レンズの散乱値を測定した。散乱測定はHazeguard XL211 Plus 装置で実施した。
【0204】
次いでレンズの散乱レベルを0.5%以下にするために要した拭き回数を決定した。拭きサイクルは次の通りであった。
【表2】

【0205】
散乱の測定の後にサイクルn+1を実施する際、サイクルnの場合と同じ布が使われ、同じ様に処理された。
【0206】
散乱値を得る拭き回数は、散乱値約0.5%の拭き回数および得られた実際の散乱値を用いて、計算により決定された。
H0:レンズの初期散乱値; H1:NS1に対応する散乱値;
NS1:0.5%を超える散乱に至る最大拭き数;
NS2:0.5%未満の散乱に至る最大拭き数;
H2:NS2に対応する散乱値:
拭き回数
=NS1+[[(H1−H0)−0.5]x[(NS2−NS1)/((H1−H0)−(H2−H0))]
汚れ拭きとり性の得点は拭き回数:Ln(拭き回数)の自然対数である。得点が低い程、汚れ拭きとり性が良好となる。
d)水による静止接触角の測定
【0207】
この測定は前記レンズの疎水性挙動を評価する目的で平面または曲面レンズ表面に置かれた水滴の接触角を自動取得および画像解析することにより実施された。
【0208】
測定は Windows PC に接続した Kruss社の装置 DSA100(滴形状分析システム)により実施された。形成された滴の容量は4μLであった。水の導電率は25℃で0.3μsおよび1μsの間に含まれていた。室温は23±5℃に維持された。
【0209】
2.実験の詳細
実施例1から6および8から11で用いられた光学物品は度数が −2.00ジオプターおよび直径70mmに表面仕上げされたORMATM 4.50ベースの半完成円形レンズであった。ORMATMは Essilor社の登録商標である。この基材はジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)モノマー、通常 CR−39TM を重合して得られている。
【0210】
実施例7の光学物品はPCレンズである。
【0211】
レンズは其の凹面側にポリシロキサンタイプの耐摩耗および耐ひっかき塗膜(「ハードコート1およびハードコート2」;厚み:1.8μmおよび約3μm)である2種類の異なる塗膜をスピンコートされていた。
【0212】
ハードコート1(HC1)は2つの主成分 GLYMO 加水分解物ならびにコロイド状シリカに触媒としての Al(Acac)および有機溶媒を含有する HC1 液状塗膜組成物を硬化して得られている。
【0213】
HC1 はそのまま(界面活性剤無しで)または今後言及する4つの界面活性剤の1つと共に用いられる(界面活性剤 EFKA3034または化合物XIIについては重量で0.1部もしくは SDSまたは SDBSは重量で0.11%)。
【0214】
ハードコート2(HC2)は GLYMO(重量で224部)、DMDES(重量で120部)、0.1N HCl(重量で80.5部)、コロイド状 SiO(重量で718部、メタノール内に重量で30%のナノ粒子を含む)、硬化触媒として Al(AcAc)(重量で15部)、界面活性剤(下に詳述する様に、重量で0.1%の化合物XIIまたは EFKATM3034、または0.11%の SDS または SDBS)およびエチルセロソルブ(重量で44部)を含むHC2 液状硬化性組成物を硬化して得られている。
【0215】
界面活性剤が用いられた:exo−4−ドデシル−7−オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボキシ−N−(4−ナトリウムスルホナート)イミド(開裂可能な界面活性剤XIIと呼ばれた)、Sandia National Laboratoriesから供給され、化学式XIの熱的に開裂可能な界面活性剤で、ここに R=R=R=H、R=n−C1225 および R=para−SONa であり、EFKATM3034、Ciba Specialty Chemicals社 により、改質したポリシロキサンを含有するフルオロカーボンで比較実施例のみに採用され、開裂性の硫酸塩およびスルホンサン塩界面活性剤 SDS および SDBS は Aldrich社から供給され先に定義されている。
【0216】
界面活性剤を伴った、または伴わない液状 HC1 および HC2 組成物は3時間の間110℃の熱オーブン内で硬化され(実施例1から5)(この過程はさらに開裂可能な界面活性剤XIIが用いられている場合には、界面活性剤の開裂にも寄与する)それから一晩放冷される。次いで堆積されたハードコートの表面は洗浄が行われなかった実施例8〜11を除いて、連続的に石けん、温水および脱イオン水で洗浄された。
【0217】
界面活性剤 SDS および SDBS を含むハードコート組成物に対しては、分子を開裂するために短い苛性アルカリ処理が実施され2つの段階を含む:1°)71℃で3.8Nの水性NaOH 溶液に10秒間浸漬し、2°)石けんで手洗いし、次いで脱イオン水ですすぐ。
【0218】
次いで熱加熱されたハードコートの第1塗膜群または苛性アルカリ処理により開裂した第1塗膜群は次に種々の第2塗膜群で塗工される(塗膜および接着結果は後の表1および4で言及されている)。実施例1〜4および12〜14では、第2塗膜はもう1つの熱硬化されたハードコートで液状硬化性組成物HC1 またはHC2 から形成され界面活性剤無し(HC1/界面活性剤無し)、または界面活性剤EFKATM3034(HC1/EFKATM3034)または界面活性剤XII(HC2/XII)を含むかの何れかで、残りの成分は第1堆積ハードコートのそれと同じである。これらのハードコート群は3時間110℃で硬化される。実施例5では、耐衝撃塗膜はスピンコートによりハードコートHC2/XIIの上に堆積された。前記耐衝撃塗膜はポリエステル部分を含むポリウレタンラテックス(BAXENDEN CHEMICALS社によるWitcobondTM 234)を90℃で1時間硬化して形成された。次いで、基材上に既に堆積されているものと同じハードコートが前記耐衝撃塗膜の上に形成された。実施例6〜11では、第2塗膜はフッ化トップコート(Optool DSXTM)で、これは耐摩耗および耐ひっかき塗膜上にディップコートにより塗布された(速度:22mm/秒)。トップコートは60秒間の赤外線加熱により硬化され、加熱源の温度は150℃である(セラミック表面の実際温度(IRユニット))(レンズの目標温度70℃)。
【0219】
熱加熱の終点において、レンズ表面温度は70℃に達した。
(実施例1〜5)
【0220】
【表3】

(*)界面活性剤XIIを含むハードコート HC2 から形成されたハードコートが耐衝撃塗膜の上に形成された。 (**)濡れ性が非常に悪く、不均一な塗膜。
【0221】
これらの結果は本発明の処理方法により形成された塗膜はエネルギー種または濃厚なアルカリ性溶液による表面処理無しでも再塗工することが可能であることを論証しているが、開裂可能な界面活性剤の代わりに非開裂可能な界面活性剤が使用された場合にはそのようにはならない。
【0222】
開裂可能な界面活性剤XIIはハードコート用調合物内で良好な混和性およびハードコート用調合物に対し良好な濡れ特性を示す。その流れ性はEFKATM3034 に匹敵する。比較のための、同じハードコート調合物で界面活性剤のないものは不十分な流れ特性を示す。
(実施例6から7)
【0223】
トップコートの耐久性および接着性は摩擦サイクルおよび表面特性測定を介して検査されている。
【0224】
【表4】

(*)不能:もはやトップコートが存在しない。 (**)1パス、6mm/秒。(***)ハードコートは120℃の代わりに110℃で硬化された。
【0225】
これらの結果は独創的な処理方法のおかげで前記ハードコートのコロナ処理を行わなくともハードコートに対するトップコートの非常に良好な接着が得られることを論証し、非開裂可能な界面活性剤(実施例7)が開裂可能な界面活性剤(実施例6)の代わりに用いられる場合にはこの様にはならない。
【0226】
開裂可能な界面活性剤無し(実施例7)では、8000摩擦後にトップコートはハードコート上に残っていない。
【0227】
これらの結果は第2塗膜を堆積する前の接着促進剤によるハードコートの表面処理は光学物品の汚れ拭きとり性を改善すると共にハードコートに対するトップコートの接着性を幾分改善することを論証している。
(実施例8〜11)
【0228】
【表5】

(*)試験前の時間:24時間。 (**)試験前の時間:1ヶ月。
【0229】
上の表は光学物品の特性が時間と共に改善されていることを示している:光学物品の汚れ拭きとり性およびトップコートのハードコートに対する接着性は24時間後より1ヶ月後の方が良好である。
(実施例12から15)
【0230】
実施例12から14では、第1塗膜が塗布されてから2段階で熱硬化される:最初の前硬化は75℃で15分間および後硬化は100℃で180分間である。
【0231】
SDS または SDBS を含む塗膜については、熱硬化の後に苛性アルカリ処理が続く。
【0232】
それから第2塗膜が塗布され第1塗膜と同じ条件で硬化される。
【0233】
表面エネルギー(mJ/mで)がFTA200 装置により異なる場面で測定された(水およびジヨードメタンを基準液に用いたオーウェンス−ウェント法による尺度)。
− 第1塗膜の表面エネルギーは硬化後および全ての処理の前に測定される;
− 第1塗膜の表面エネルギーは苛性アルカリ処理の後で測定される;
− 第1塗膜の表面エネルギーはステップ2)の苛性アルカリ処理のみに対応する唯一の手洗いの後に測定される。
【0234】
実施例15では、第1塗膜の表面エネルギー測定のみが行われている。第2塗膜は塗布されていない。
【0235】
塗膜および対応する表面エネルギー値は表4に記録されている。
【0236】
【表6】

【0237】
本発明による好適な実施態様を例証目的で開示してきたが、付随する請求項に開示されている本発明の範囲および精神からはずれることなく種々の変更、追加および削除が可能であることは当業者なら理解するであろう。
【0238】
記述中を通して言及した全ての特許、特許出願および出版物はここに明確にそれら全体で参照として組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次のものを含む光学物品の製造方法:
(a)剥き出しの表面がある基材を備える光学物品を準備する、
(b)基材の前記剥き出し表面上に少なくとも1つの開裂可能な界面活性剤を含む第1硬化性組成物の第1層を堆積する、
(c)前記第1硬化性組成物を少なくとも部分的に硬化し、これにより第1塗膜を形成する。
(d)前記第1塗膜の上に第2塗膜を形成する、および
(e)前記第1塗膜および前記第2塗膜を連続的に塗工され、前記第1塗膜が前記第2塗膜に接着している基材を備える光学物品を得る、
ここに、前記第1硬化性組成物が基材の剥き出しの表面上にすでに堆積された後で、かつステップ(d)の前に、前記光学物品は開裂可能な界面活性剤が少なくとも部分的に開裂することになる処理過程を受ける。
【請求項2】
前記第1塗膜がゾル−ゲル塗膜または(メタ)アクリレートをベースとした塗膜から選択される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
第1硬化性組成物がさらに次の化学式の化合物:
【化1】

またはその加水分解物を少なくとも1つ含む、請求項1に記載の製造方法で、ここに R基群は同一または異なりかつ炭素原子群を介してシリコン原子に結合した1価の有機基群を表し、X基群は同一または異なりかつ加水分解性基群を表し、およびn は1または2に等しい整数である。
【請求項4】
第1硬化性組成物がさらに次の化学式の化合物:
【化2】

またはその加水分解物を少なくとも1つ含む、請求項1に記載の製造方法で、ここに R基群は同一または異なりかつ炭素原子を介してシリコン原子に結合する有機基を表し、Y基群は同一または異なりかつ炭素原子を介してシリコン原子に結合した1価の有機基を表しかつ少なくとも1つのエポキシ官能基を含み、X基群は同一または異なりかつ加水分解性の基を表し、m および n’はm が1または2に等しくさらに n’+m=1または2となる様な整数である。
【請求項5】
第1硬化性組成物が非−開裂可能な界面活性剤を全く含まない、請求項1から4の何れかに記載の製造方法。
【請求項6】
第1塗膜の厚みが1から15μm、好ましくは5から250nmの範囲である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
開裂可能な界面活性剤が化学式VIIIの化合物から選ばれる、請求項1に記載の製造方法:
【化3】

ここに極性頭部は極性部分、疎水性尾部は疎水性部分、a は1から4の範囲の整数、cは1から4の範囲の整数、および bは1から10の範囲の整数、極性頭部は同一または異なり、開裂性のリンカーは同一または異なりおよび疎水性尾部は同一または異なる。
【請求項8】
開裂可能な界面活性剤が熱および/または光開裂性である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
開裂可能な界面活性剤が化学式IXおよびXから選ばれる、請求項1に記載の製造方法:
【化4】

ここに極性頭部は極性基、疎水性尾部は疎水性基、R、Rおよび Rは独立的に H、アリール、アルキル、ハロゲン、疎水性尾部または極性頭部またはディールスアルダー付加環化反応の条件に適合する全ての他の基を表し、好ましくは化学式XIの化合物から選ばれる:
【化5】

ここに R、R、RおよびR は独立的に H、アリール、アルキル、ハロゲン、またはディールスアルダー付加環化反応の条件に適合する全ての基を表すが、R、R、Rおよび Rの内少なくとも1つは化学式 C2m+2のアルキル基であるという条件付で、ここに m は6から24の範囲の整数、R基群は独立的に親水性基を表し、n は1から5の範囲の整数である。
【請求項10】
開裂可能な界面活性剤が加水分解により開裂可能となり、かつ好ましくはドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、または両者の混合物である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項11】
少なくとも部分的に硬化した塗膜を塗工された表面を持つ基材を備えた光学物品で、ここに前記塗膜が以下の様にして得られている光学物品:
基材の表面上に少なくとも1つの開裂可能な界面活性剤を含む第1硬化性組成物を堆積する、および
前記硬化性組成物を少なくとも部分的に硬化する、
ここに前記光学物品は前記硬化性組成物が基材の表面上に堆積された後に開裂可能な界面活性剤が少なくとも部分的に開裂することになる処理過程を受けている。
【請求項12】
前記塗膜がゾル−ゲル塗膜または(メタ)アクリレートをベースとした塗膜から選ばれる、請求項11に記載の物品。
【請求項13】
少なくとも1つの開裂可能な界面活性剤、および次の化学式の化合物:
【化6】

またはその加水分解物を少なくとも1つ含む硬化性組成物で、ここに R基群は同一または異なりかつ炭素原子群を介してシリコン原子に結合した1価の有機基群を表し、X基群は同一または異なりかつ加水分解性基群を表し、およびn は1または2に等しい整数である。
【請求項14】
硬化性組成物がさらに次の化学式の化合物:
【化7】

またはその加水分解物を少なくとも1つ含む、請求項13に記載の組成物で、ここに R基群は同一または異なりかつ炭素原子を介してシリコン原子に結合する有機基を表し、Y基群は同一または異なりかつ炭素原子を介してシリコン原子に結合した1価の有機基を表しかつ少なくとも1つのエポキシ官能基を含み、X基群は同一または異なりかつ加水分解性の基を表し、m および n’はm が1または2に等しくさらに n’+m=1または2となる様な整数である。
【請求項15】
開裂可能な界面活性剤が化学式IXおよびXから選ばれる、請求項13または14に記載の組成物:
【化8】

ここに極性頭部は極性部分、疎水性尾部は疎水性部分、R、RおよびRは独立的に H、アリール、アルキル、ハロゲン、疎水性尾部または極性頭部またはディールスアルダー付加環化反応の条件に適合する全ての他の基を表す。
【請求項16】
できた硬化塗膜の別の塗膜に対する接着性を向上させるために硬化性塗膜組成物内における開裂可能な界面活性剤の使用。

【公表番号】特表2012−529663(P2012−529663A)
【公表日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−514487(P2012−514487)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【国際出願番号】PCT/EP2010/058268
【国際公開番号】WO2010/142798
【国際公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.セロテープ
2.WINDOWS
【出願人】(594116183)エシロール アテルナジオナール カンパニー ジェネラーレ デ オプティック (69)
【氏名又は名称原語表記】ESSILOR INTERNATIONAL COMPAGNIE GENERALE D’ OPTIQUE
【Fターム(参考)】