説明

多層容器

【課題】環状オレフィンの特性を生かし、透明性を維持しながら容器として必要な機械的強度を有する多層容器を開発する。
【解決手段】環状オレフィンからなる環状オレフィン系樹脂層3と、ポリプロピレン系樹脂組成物からなるポリプロピレン層2とから多層容器1において、ポリプロピレン層にはスチレン系エラストマーを含有し、環状オレフィン層とポリプロピレン層とが接着剤を介さずに積層されていることを特徴とする多層容器1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性、耐衝撃性、機械的強度に優れた多層容器に関する。
【背景技術】
【0002】
環状オレフィンは、ポリエチレンやポリプロピレンと比べて機械的強度が低く、また、他の樹脂との親和性(接着性)においても不足しているが、透明性に優れていること、また、内容物との反応性(吸着性)が低く、耐酸性、耐アルカリ性等薬品に対して安定であるなど医療用容器として具備すべき多くの特性を有していることから、環状オレフィン層に補強層として別の樹脂層を設けることによって機械的特性の向上を目的とする多くの提案がなされてきている。
【0003】
環状オレフィン層に他の樹脂からなる層を接合する手段として、古くから多くの分野で慣用されている接着面を、薬品による化学的処理、あるいはプラズマ処理などによる粗面化により表面積を大きくして接着力を高める方法が採られているほか、表面に紫外線を照射することによる酸化反応によってケトン基を導入した環状オレフィンと、他方、該ケトン基に反応性の基(例えば、ヒドラジン基)を導入した樹脂を積層して、両官能基の結合により接合した環状オレフィン積層体が提案されている(特許文献1参照)。また、ポリエチレン系樹脂に比べて、ポリプロピレン系樹脂は、耐熱性など容器用素材として優れた特性を有しているが、環状オレフィンとの接着性が弱いために、中間層(接着層)として、シングルサイト系触媒を用いて製造された直鎖状低密度ポリエチレンにポリプロピレン等を添加した接着剤を用いて積層したフィルムが紹介されている(特許文献2参照)。
【0004】
さらに、最近、環状オレフィンと高密度ポリエチレンとを接着剤を用いないで積層した医療用容器が提案されている(特許文献3参照)。
他方、環状オレフィンからなる容器のガスバリア性と共に、耐衝撃性を向上させるために、環状オレフィンからなる中間層に特定の密度をもつポリエチレンからなる内層と、ポリオレフィンからなる外層とからなる積層材の内層面にさらにセラミック薄膜をCVD蒸着法によって形成した多層プラスチック容器が提案されている(特許文献4)。この容器は、ガスバリア性と耐衝撃性の向上を目的としたもので、透明性を有しているものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−25506号公報
【特許文献2】特開2005−335108号公報
【特許文献3】特開2008−18063号公報
【特許文献4】特開2004−203417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のように、環状オレフィンが有している容器用素材としての特性を維持しつつ、機械的強度(脆さの改善)などの向上のための積層化に関する様々な開発がなされている。しかしながら、環状オレフィンの機械的特性については、ポリエチレンあるいはポリプロピレン等の他の樹脂を積層することによって改善することができたとしても、他方で、積層することによる環状オレフィンの特性である透明性が低下することは避けられないことである。また、医療用容器に用いる場合には、収容する薬液への影響を懸念して接着層など不純物層を用いることは好ましくない。このような状況において、本発明の目的は、環状オレフィン系重合体の透明性への影響がより少なく、しかも接着剤を用いないで積層することができる新たな多層容器を見出すことにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意、環状オレフィンに対し多層材料として必要な接着力を有する樹脂の開発を進めた結果、ポリプロピレンにスチレン系エラストマーを添加した樹脂組成物が環状オレフィンに対し、強い接着力があり、透明性に優れていることを見出した。本発明はかかる知見に基づいてなされたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、下記(1)項〜(3)項に記載の新規な多層容器を提供するものである。
(1)環状オレフィンからなる環状オレフィン層と、ポリプロピレン系樹脂組成物からなるポリプロピレン層が隣接して積層された多層容器において、前記ポリプロピレン層は、スチレン系エラストマーを含有し、前記環状オレフィン層と前記ポリプロピレン層とが接着層を介さずに接着されていることを特徴とする多層容器。
(2)前記環状オレフィン層を内層とし、前記ポリプロピレン層を外層とすることを特徴とする(1)項記載の多層容器。
(3)前記スチレン系エラストマーは、水添スチレンブタジエンラバーであることを特徴とする(1)項又は(2)項記載の多層容器。
【発明の効果】
【0009】
環状オレフィン樹脂とポリプロピレン系樹脂とは、接着性が弱く、接着剤を使用することなく容器に成型することが困難であったが、ポリプロピレンにスチレン系エラストマーを添加することによって、容器に成型することを可能にしたということは、特に不純物を懸念する医薬品や食品分野においては極めて意義がある。しかも、本発明の多層容器は、ポリプロピレンへのスチレン系エラストマー添加により、ポリプロピレンの透明性を向上させていることから、内容物の確認が必要な容器にとって本発明の意義は非常に大きい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は本発明の一実施形態における医療用輸液バッグの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態における多層容器について図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態におけるブロー成型により作製した医療用輸液バッグの構成図である。医療用輸液バッグ1は、環状オレフィン系樹脂層2に、接着層を介さず隣接してスチレン系エラストマーを添加したポリプロピレン系樹脂層3を設けた多層構成によるものである。なお、環状オレフィン系樹脂層をポリプロピレン系樹脂層より内層、特に最内層とすることで、収容した薬液などによる薬剤吸着を抑えることができる。
【0013】
本発明において使用する環状オレフィンは公知物資であり(特開平4−276253号公報)、環状オレフィンを開環重合によりえられる重合体およびそれを水素添加した構造のものである。なお、これらの環状オレフィンは市場において入手することができる。これらのうち、耐熱性及び滅菌処理の観点から、ガラス転移温度は115℃以上であることが好ましく、より好ましくは120℃以上であることが好ましい。
【0014】
また、本発明で用いるポリプロピレン系樹脂としては、耐熱性及び滅菌処理(121℃、30分)の観点から、融点は121℃以上のものが好ましく、医療用または食品包装用などに用いられている公知の樹脂であれば、特に限定されることはない。
ポリプロピレン系樹脂に添加するスチレン系エラストマーは、ポリスチレンブロック成分とポリブタジエン成分とを逐次重合することによって得られるもので、特に制限はなく、市場で入手することが可能である。スチレン系エラストマーを添加することにより環状オレフィン系樹脂層との接着性が向上するとともに、ポリプロピレン系樹脂の透明性が高くなる。
【0015】
上記スチレン系エラストマーとしては、好ましくは、水添スチレンブタジエンラバー(HSBR)であり、ポリプロピレン系樹脂中に細かく分散するものが良い。そして、スチレン系エラストマーの添加量は、ポリプロピレン樹脂に対して、1〜50%、好ましくは、10〜30%である。50%を超えると、やわらかくなりすぎ、樹脂層の融点が低くなりすぎてしまうため好ましくない。また、1%未満では、接着性および透明性が不足するので好ましくない。
【0016】
本発明のプロピレン系樹脂層には、容器としての特性、特に機械的強度(耐衝撃性)および透明性を損なわない範囲において、酸化防止剤、防曇剤、滑剤など当該分野で使用されている添加剤を含有していてもよい。
なお、透明性の容器は、特に、医薬品、食品分野において需要が多いが、医薬品には、光に不安定な物質があり、そのような医薬品を充填する場合には、着色剤あるいは酸化チタン等の遮光剤を添加することは任意である。
【0017】
これらの多層シートを得るための方法としては、ドライラミネーション、押出コーティング、共押出ラミネーション、ヒートラミネーションなど、あるいはこれらの方法を組み合わせたラミネート法など、各層を積層する公知の方法を用いることができる。また、各樹脂を溶剤に溶解させ、溶液として塗布し乾燥するという方法を用いることもできる。
【0018】
また、上記層構成を有する多層容器を製造する方法としては、真空成形、圧空成形などのシート成形法、多層共押出ブロー成形などのブロー成形法、あるいは所定の形状に切断した多層フィルム同士の周辺部を熱融着または接着剤で接着してバッグなどを作成する方法など各種の成形方法を採用することができる。
【0019】
成形される容器の形状は、ボトル、チューブ、バッグ、セルなど特に限定されるものではない。各層の厚みは、使用目的に応じて適宜選択可能であるが、環状オレフィン層の厚みは、5〜100μm程度であることが好ましい。環状オレフィン層が厚すぎると、剛性が高く割れやすくなってしまい、薄すぎると薬剤低吸着効果を得ることができなくなる虞がある他、水蒸気透過を抑制することができない。また、ポリプロピレン系樹脂層は、100μm以上であることが好ましい。
【実施例】
【0020】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0021】
[実施例1]
多層ブロー成形機を使用した多層ブロー成形法により、成形中の樹脂温度230℃にて最内層に厚さ50μmの環状オレフィン樹脂からなる層、接着層を介さずに隣接する外層に厚さ450μmのスチレン系エラストマーを10%含有するポリプロピレン樹脂からなる層を積層した2層構造のブロー成形容器を作製した。なお、ポリプロピレンとスチレン系エラストマーとは、ドライブレンドにて混合した。環状オレフィン樹脂は、ISO 1133に準拠した280℃におけるメルトフローレイト(MFR)が17g/10分、密度が1.01g/cmである「ゼオネックス(日本ゼオン株式会社製)」を使用した。ポリプロピレンは、JIS K 7210に準拠した230℃におけるMFRが4.3g/10分、MTが1.7g、融点が128℃である「ゼラス(三菱化学株式会社製)」を使用した。また、スチレン系エラストマーには、JIS K 7210に準拠した230℃におけるMFRが3.5g/10分、密度が0.89g/cmであるHSBR「ダイナロン(JSR株式会社製)」を使用した。
【0022】
[実施例2]
ポリプロピレンに、JIS K 7210に準拠した230℃におけるMFRが1.7g/10分、密度が0.90g/cmである「ノバテック(日本ポリプロ株式会社製)」を使用し、スチレン系エラストマーを30%添加した以外は、実施例1に記載の条件に準じて、ブロー成形容器を作製した。
【0023】
[実施例3]
ポリプロピレンに、JIS K 7210に準拠した190℃におけるMFRが0.3g/10分、MTが6.7g、融点が163.8℃である「ノバテック(日本ポリプロ株式会社製)」を使用し、スチレン系エラストマーを30%添加した以外は、実施例1に記載の条件に準じて、ブロー成形容器を作製した。
【0024】
[比較例1]
スチレン系エラストマー無添加のポリプロピレンを使用した以外は、実施例1に記載の条件に準じて、ブロー成形容器を作製した。
【0025】
[比較例2]
ポリプロピレンに、JIS K 7210に準拠した230℃におけるMFRが4.3g/10分、密度が0.89g/cmである「エクセレン(住友化学株式会社製)」を使用した以外は、実施例1に記載の条件に準じて、ブロー成形容器を作製した。
【0026】
[比較例3]
スチレン系エラストマーが無添加のポリプロピレンを使用した以外は、比較例2に記載の条件に準じて、ブロー成形容器を作製した。
【0027】
[比較例4]
スチレン系エラストマーが無添加のポリプロピレンを使用した以外は、実施例2に記載の条件に準じて、ブロー成形容器を作製した。
【0028】
[比較例5]
スチレン系エラストマーの含有量を10%とした以外は、実施例2に記載の条件に準じて、ブロー成形容器を作製した。
【0029】
[比較例6]
スチレン系エラストマーが無添加のポリプロピレンを使用した以外は、実施例3に記載の条件に準じて、ブロー成形容器を作成した。
【0030】
[比較例7]
スチレン系エラストマーの含有量を10%とした以外は、実施例3に記載の条件に準じて、ブロー成形容器を作製した。
【0031】
(評価方法)
1)剥離強度試験
試験は、引張り試験機により以下の方法を用いて行った。作製した容器胴部平面(中央)部から15mm×70mm(長辺)の試験片を5枚切り出し、切り出した試験片短辺端面から5mm位置に深さ0.1mm程度長さ15mmの傷を入れる。傷に沿って試験片を折返し、内層を10mm程度剥離させる。剥離させた外層と内層を水平方向に引張り、剥離強度を測定した。
◎:剥離不可
〇:10以上
×:10未満
なお、数値は本試験機による相対値であり、10以上では外層及び内層を剥離させるのに抵抗が大きく、10未満では容易にはがせる程度の値である。
【0032】
2)透明性試験
試験は、高圧蒸気滅菌前の透過率をJIS K 7136に準拠し、測定を行った。
〇:スチレン系エラストマー添加前後で透過率10%以上向上
×:スチレン系エラストマー添加前後で透過率の変動が10%未満
以上の測定結果を、HSBRの含有量とともに表1に示す。
【0033】
表1

【0034】
以上の結果から、本発明の多層容器は、環状オレフィンの特性を維持しつつ、ポリプロピレンとの接着性に優れ、しかも、市場での要請にこたえ得る透明性を有していることが明らかにされた。
【産業上の利用可能性】
【0035】
以上詳細に説明したように、本発明により、環状オレフィンの特性が維持され、その機械的強度及び透明性においても市場の要求にこたえ得る多層容器が提供されたということは、容器の長期使用を可能にするのみでなく、内容物の変性がなく有効期間あるいは賞味期間が延長され、特に、医薬品業界、食品業界あるいは化粧品業界などにおける利用価値は極めて多大である。
【符号の説明】
【0036】
1 医療用輸液パック
2 環状オレフィン系樹脂層
3 ポリプロピレン系樹脂層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状オレフィンからなる環状オレフィン系樹脂層と、ポリプロピレン系樹脂組成物からなるポリプロピレン層とが隣接して積層される多層容器において、前記ポリプロピレン層は、スチレン系エラストマーを含有し、前記環状オレフィン系樹脂層と前記ポリプロピレン層とが接着層を介さずに接着されていることを特徴とする多層容器。
【請求項2】
前記環状オレフィン系樹脂層を内層に、前記ポリプロピレン層を外層に積層されていることを特徴とする請求項1に記載の多層容器。
【請求項3】
前記スチレン系エラストマーは、水添スチレンブタジエンラバーであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の多層容器。

【図1】
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【公開番号】特開2011−93209(P2011−93209A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249620(P2009−249620)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000104674)キョーラク株式会社 (292)
【Fターム(参考)】