説明

多層抄き耐油板紙及びその製造方法並びにそれを用いた耐油性紙製容器

【課題】本発明は、動物油分を有する食品などを収容する紙製容器の製造に用いられ、製造時において耐油剤のロスが発生せず、耐油剤による設備汚れも生じさせない、動物油分の浸透を防止した多層抄き耐油板紙を提供する。
【解決手段】本発明に係る多層抄き耐油板紙は、表層、裏層、及び1層又は複数層からなる中間層を有する多層抄きの基紙を支持体とし、表層及び裏層はサイズ剤を含有せず、中間層は中間層原料パルプ100質量部に対してサイズ剤を固形分換算で0.05〜0.30質量部の範囲で含有し、基紙の各層の坪量質量比は(中間層の合計質量)/(表層質量+裏層質量)=1/0.2〜1/2の範囲であり、基紙の両面は水溶性高分子と基紙100質量部に対して固形分換算で0.10〜0.50質量部の範囲のフッ素樹脂系耐油剤とがサイズプレスで塗布されて、更にその上にはバインダーとして水溶性高分子を含む塗工層が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層抄き板紙に関し、特に、バター,チーズ,パン,ケーキ,ドーナツ,クッキー,ピザ等の動物由来の油(以下、動物油と表記する。)分を有する食品などを収容する紙製容器に用いられる多層抄き耐油板紙及びその製造方法、並びに、この多層抄き耐油板紙から形成される紙製容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バター,チーズ,パン,ケーキ,クッキー,ピザ等の動物油分を有する食品などを収容する容器としては、プラスチック製のトレーの他に、高級白板紙からなるケースの内側にプラスチック製のトレーを収納したもの、内側にポリエチレン等の樹脂をラミネートした白板紙からなるケース、又は、内側にアクリル樹脂をグラビア塗工機等で塗工した白板紙からなるケース等が用いられているが、いずれも使用材料、製造工程が増えて製造コストが高くなるという問題がある。
【0003】
この課題に対し、表層及び裏層は吸水・吸油性を有し、中間層は少なくとも耐油・耐水性を有するとした技術が提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−007887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1で提案されている技術では、動物油分の浸透性が高い為、接触部分での浸透を抑えることが困難という問題が生じる。また、中間層に配合された耐油剤等が、製造時に使用する水に流出してロスが発生すると共に、その流出によって製造工程における設備の汚れを生じる課題があった。
【0006】
そこで本発明は、多層抄き板紙に関し、特にバター,チーズ,パン,ケーキ,ドーナツ,クッキー,ピザ等の動物油分を有する食品などを収容する紙製容器の製造に用いられ、製造時において耐油剤のロスが発生せず、耐油剤による設備汚れも生じさせない、動物油分の浸透を防止した多層抄き耐油板紙を提供することを目的とする。また、本発明は、この多層抄き耐油板紙について生産効率の高い製造方法を提供することを目的とする。さらに、本発明はこの多層抄き耐油板紙を用いて、前記動物油分を有する食品などを収容するのに好適な紙製容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、動物油分を有する食品などを収容する紙製容器に用いられる多層抄き耐油板紙において、容器の外面となる基紙の表層及び食品と接する容器の内面となる裏層には内添サイズ剤(以下、単にサイズ剤ということもある。)を含有させずに中間層にだけ所定量のサイズ剤を含有させ、基紙の両面にフッ素樹脂系耐油剤を含む液をサイズプレスで塗布し、かつ、最後にその両面にバインダーとして水溶性高分子を含む塗工層を設けることで前記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。具体的には、本発明に係る多層抄き耐油板紙は、少なくとも表層、裏層、及び前記表層と前記裏層との間に設けられる1層又は複数層からなる中間層を有する多層抄きの基紙を支持体とし、前記表層及び前記裏層はサイズ剤を含有せず、前記中間層は中間層原料パルプ100質量部に対してサイズ剤を固形分換算で0.05〜0.30質量部の範囲で含有し、前記基紙の各層の坪量質量比は(中間層の合計質量)/(表層質量+裏層質量)=1/0.2〜1/2の範囲であり、前記基紙の両面は水溶性高分子と基紙100質量部に対して固形分換算で0.10〜0.50質量部の範囲のフッ素樹脂系耐油剤とがサイズプレスで塗布されて、更にその上にはバインダーとして水溶性高分子を含む塗工層が設けられていることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る多層抄き耐油板紙では、該耐油板紙の耐油剤塗布面の5箇所にバターを5gずつ乗せ、35℃−40%RHの条件に30分間曝し、バター拭き取り後のバターの浸透状態によって評価したバター耐油性の評価試験で染み込み箇所が1箇所以下であり、JIS P 8122:2004「紙及び板紙―サイズ度試験方法―ステキヒト法」に基づいて測定したステキヒト・サイズ度(耐水度)が10秒以上であることが好ましい。
【0009】
本発明に係る多層抄き耐油板紙では、前記塗工層は顔料を更に含有することが好ましい。良好な印刷適性が得られる。
【0010】
本発明に係る多層抄き耐油板紙の製造方法は、サイズ剤を配合していない表層用原料スラリーと、サイズ剤を配合していない裏層用原料スラリーと、原料パルプ100質量部に対してサイズ剤を固形分換算で0.05〜0.30質量部の範囲で含有するように配合した中間層用原料スラリーとを調製し、表層と、裏層と、前記表層と前記裏層との間に設けられる1層又は複数層からなる中間層とを、前記基紙の各層の坪量質量比が(中間層の合計質量)/(表層質量+裏層質量)=1/0.2〜1/2の範囲となるように抄き併せて多層抄き基紙を形成し、該基紙の両面に、水溶性高分子とフッ素樹脂系耐油剤とを配合した液を、フッ素樹脂系耐油剤が基紙100質量部に対して固形分換算で0.10〜0.50質量部の範囲となるようにサイズプレスで塗布した後、更にその両面に、バインダーとして水溶性高分子を配合した塗工液を塗工し、かつ、これらの工程を連続して行うことを特徴とする。
【0011】
本発明に係る耐油性紙製容器は、本発明に係る多層抄き耐油板紙を使用したことを特徴とする。
【0012】
なお、水系高分子とは、水系分散物、すなわち分散剤を加えることで水に分散可能な樹脂(エマルジョン)をいう。一方、水溶性高分子とは、水に常温又は加温によって溶解する樹脂、ポリビニルアルコール(以下、PVAと表記する。),デンプンなどの高分子をいう。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る多層抄き耐油板紙は、製造時において耐油剤のロスが発生せず、耐油剤による設備汚れも生じさせず、かつ、動物油分の浸透を防止できる。また、本発明に係る多層抄き耐油板紙の製造方法は、生産効率が高い。さらに、本発明に係る多層抄き耐油板紙を用いて製造した紙製容器は、特にバター,チーズ,パン,ケーキ,ドーナツ,クッキー,ピザ等の動物油分を有する食品などを収容するのに好適である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下本発明について実施形態を示して詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0015】
本実施形態に係る多層抄き耐油板紙は、少なくとも表層、裏層、及び前記表層と前記裏層との間に設けられる1層又は複数層からなる中間層を有する多層抄きの基紙を支持体する。表層、裏層及び中間層を形成するために使用する原料パルプとしては、叩解によって容易に強度が向上する木材、靱皮、雁皮等からなるパルプである。本発明においては、特に木材パルプが、入手が容易である点で好ましい。木材パルプの具体例としては、針葉樹晒クラフトパルプ(N−BKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(N−UKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(L−BKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(L−UKP)等がある。
【0016】
ここで、所定の効果を得るために、表層及び裏層にはサイズ剤を配合しない。表層及び裏層にサイズ剤を配合すると、フッ素樹脂系耐油剤と水溶性高分子を配合した液をサイズプレスで塗布するときに、浸透が不均一になり、耐油性が発現し難くなる。
【0017】
中間層は、中間層原料パルプ100質量部に対してサイズ剤を固形分換算で0.05〜0.30質量部の範囲で含有するように配合することが好ましい。より好ましくは0.05〜0.25質量部、更に好ましくは0.05〜0.20質量部である。サイズ剤の含有量が0.05質量部未満であると、サイズ剤のサイズ効果が少なく耐水性への効果が少ない。一方、サイズ剤の含有量が0.30質量部を超えても耐水性改善への効果が乏しくコスト的に損失が大きいからである。なお、サイズ剤としては、酸性又は中性のサイズ剤であれば、公知のものを用いることができる。
【0018】
また、原料パルプスラリーには、品質改善のために、炭酸カルシウム,タルク,カオリンクレーなどを適宜組み合わせて添加してもよい。
【0019】
前記のように配合された各層の原料パルプスラリーを抄紙機で抄紙して、基紙を形成するが、抄紙機は円網式抄合せ抄紙機でも長網式抄合せ抄紙機でも両方を組み合わせたコンビネーション式抄合せ抄紙機でもよい。基紙のパルプスラリーには、必要に応じて従来公知の填料、バインダー、サイズ剤、定着剤、歩留まり向上剤、紙力増強剤等の各種添加剤を1種以上用いてもよい。
【0020】
そして、前記基紙の各層の坪量質量比は、(中間層の合計質量)/(表層質量+裏層質量)=1/0.2〜1/2の範囲とする。基紙を形成する中間層の合計質量を1とした時に、表層質量と裏層質量の合計質量の比が、0.2未満であると所定の耐油性を得ることが困難である。一方、2を超えると、所定の耐水性を得ることが困難である。なお、この条件を満たしながら、各層の坪量は、例示するとすれば次のようにする。表層及び裏層の坪量は、それぞれ30〜100g/m、より好ましくは30〜80g/m、更に好ましくは30〜60g/mとする。なお、表層及び裏層の坪量は、必ずしも同一量とする必要は無く、いずれか一方を多くしてもよい。また、中間層の坪量は、例えば40〜600g/m、より好ましくは50〜600g/m、更に好ましくは60〜600g/mである。
【0021】
前記のように形成した基紙に、フッ素樹脂系耐油剤と水溶性高分子とを配合した液を、フッ素樹脂系耐油剤が基紙100質量部に対して固形分換算で0.10〜0.50質量部の範囲で塗布されるように、オンマシンサイズプレスを使用して、塗布することによって耐油性を付与する。好ましくは0.15〜0.50質量部、より好ましくは、0.20〜0.50質量部の範囲である。なお、用いる耐油剤としては、フッ素樹脂を使用した耐油剤であれば、公知のものをいずれも用いることができる。なお、表層と裏層とが同一組成に形成されていれば、実質、表層と裏層とは同一であるため、便宜上、一方の層を表層とし、他方の層を裏層とする。
【0022】
サイズプレスで塗布する液には、表面強度を付与するためのPVA、デンプンなどの水溶性高分子のバインダー以外に、イソプロピルアコールなどを浸透剤として用いることができる。
【0023】
前記によってサイズプレス処理を行ったあとに、バインダーとして水溶性高分子を配合した塗工液をロッド,エアーナイフ,ブレード方式等の塗工機を用いて、両面に塗工する。
【0024】
こうすることで、基紙の表面は、フッ素樹脂系耐油剤と水溶性高分子とがサイズプレスされて、更にその上にはバインダーとして水溶性高分子を含む塗工層が設けられる。なお、バインダーとして、水溶性高分子に加えて、水溶性高分子以外のバインダー、例えば、スチレン−ブタジエン樹脂ラテックス、アクリル樹脂ラテックスなどを配合してもよい。
【0025】
なお、容器の外面となる表層には印刷が施されることが多いので、顔料を更に配合した塗工液を塗布すれば、より良好な印刷適性を得ることができる。
【0026】
塗工後の乾燥方式としては、熱風乾燥、赤外乾燥、ドラム乾燥などが挙げられるが、本発明においては特に限定されるものではない。
【0027】
抄紙から、塗工層の形成まで、連続して行うことが可能であり、生産効率を高めることができる。
【0028】
本発明に係る多層抄き耐油板紙は、該耐油板紙の耐油剤塗布面の5箇所にバターを5gずつ乗せ、35℃−40%RHの条件に30分間曝し、バター拭き取り後のバターの浸透状態によって評価したバター耐油性の評価試験で染み込み箇所が1箇所以下であり、JIS P 8122:2004「紙及び板紙―サイズ度試験方法―ステキヒト法」に基づいて測定したステキヒト・サイズ度(耐水度)が10秒以上である。
【0029】
本発明に係る多層抄き耐油板紙は、サイズプレスで両面に耐油性が付与されているため、いずれの面を食品と接する内層として耐油性紙製容器を形成してもよい。
【実施例】
【0030】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また、例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り「質量部」及び「質量%」を示す。
【0031】
(実施例1)
(原料スラリー)
表層用,裏層用として、針葉樹晒クラフトパルプ(N−BKP)20部と広葉樹晒クラフトパルプ(L−BKP)80部とを配合した後に、叩解機によってカナダ標準濾水度(CSF)500mlとなるように叩解処理した。この原料パルプ100部に対して固形分換算で、硫酸バンド1部、紙力増強剤(ネオタック40T,カチオンデンプン,日本食品化工株式会社製)を1部添加して原料パルプスラリーを調成した。次に中間層用として、N−BKP20部とL−BKP80部とを配合した後に、叩解機によってCSF500mlとなるように叩解処理した。この中間層用の原料パルプ100部に対して固形分換算で、サイズ剤(AL1200,中性ロジンサイズ剤,星光PMC株式会社製)0.10部、硫酸バンド1部、紙力増強剤(ネオタック40T,カチオンデンプン,日本食品化工株式会社製)1部を含有するように添加して原料パルプスラリーを調成した。
(基紙)
次に、これらの原料パルプスラリーを用いて、長網式3層抄合せ抄紙機にて表層、中間層及び裏層を抄合せて、表層の坪量を75g/m、中間層の坪量を110g/m、裏層の坪量を75g/mとした基紙を得た。
(サイズプレス)
この基紙に、オンマシンサイズプレスを使用して、処方1:「水に固形分換算で、デンプン(MS−3800,酸化デンプン,日本食品化工株式会社製)7.0%、耐油剤(AG E−060,フッ素樹脂系耐油剤,旭硝子株式会社製)1.2%を配合したもの」を固形分で3.5g/m塗布した。フッ素樹脂系耐油剤の塗布量は、基紙100部に対して固形分換算で0.20部とした。
(塗工層)
続いてエアーナイフ方式の塗工機を用いて、表層に処方A(固形分濃度45.0質量%):「カオリンクレー(HYDRAGLOSS−90,日成共益株式会社)20部,重質炭酸カルシウム(カービタル−90,株式会社イメリス ミネラルズ・ジャパン)80部,デンプン(MS−4600,尿素リン酸エステル化デンプン,日本食品化工株式会社製)4部,スチレン−ブタジエン樹脂ラテックス(B−1535,旭化成株式会社製)10部」を固形分で15.5g/m塗工し、裏層に処方B:「デンプン(MS−3800,酸化デンプン,日本食品化工株式会社製)3質量%液」を固形分で1.0g/m塗工して、坪量が280g/mの多層抄き耐油板紙を得た。
【0032】
(実施例2)
中間層用原料スラリーのサイズ剤含有量を0.07部に、オンマシンサイズプレスでの塗布量を固形分で4.1g/mにし、表層に処方Aを固形分で14.9g/m塗工したほかは、実施例1と同様にして坪量が280g/mの多層抄き耐油板紙を得た。なお、フッ素樹脂系耐油剤の塗布量は、基紙100部に対して固形分換算で0.23部とした。
【0033】
(実施例3)
中間層用原料スラリーのサイズ剤含有量を0.25部に、オンマシンサイズプレスでの塗布量を固形分で2.9g/mにし、表層に処方Aを固形分で16.1g/m塗工したほかは、実施例1と同様にして坪量が280g/mの多層抄き耐油板紙を得た。なお、フッ素樹脂系耐油剤の塗布量は、基紙100部に対して固形分換算で0.16部とした。
【0034】
(実施例4)
表層の坪量を85g/m、中間層の坪量を90g/m、裏層の坪量を85g/mに、オンマシンサイズプレスでの塗布量を固形分で4.1g/mにし、表層に処方Aを固形分で14.9g/m塗工したほかは、実施例1と同様にして坪量が280g/mの多層抄き耐油板紙を得た。なお、フッ素樹脂系耐油剤の塗布量は、基紙100部に対して固形分換算で0.23部とした。
【0035】
(実施例5)
表層の坪量を30g/m、中間層の坪量を200g/m、裏層の坪量を30g/mに、オンマシンサイズプレスでの塗布量を固形分で2.5g/mにし、表層に処方Aを固形分で16.5g/m塗工したほかは、実施例1と同様にして坪量が280g/mの多層抄き耐油板紙を得た。なお、フッ素樹脂系耐油剤の塗布量は、基紙100部に対して固形分換算で0.14部とした。
【0036】
(実施例6)
オンマシンサイズプレスを使用して、処方2:「デンプン(MS−3800,酸化デンプン,日本食品化工株式会社製)7.0%、耐油剤(AG E−060,フッ素樹脂系耐油剤,旭硝子株式会社製)3.0%を配合したもの」を固形分で4.2g/m塗布し、表層に処方Aを固形分で15.0g/m塗工したほかは、実施例1と同様にして坪量が280g/mの多層抄き耐油板紙を得た。なお、フッ素樹脂系耐油剤の塗布量は、基紙100部に対して固形分換算で0.48部とした。
【0037】
(実施例7)
オンマシンサイズプレスを使用して、処方3:「水に固形分換算で、デンプン(MS−3800,酸化デンプン,日本食品化工株式会社製)7.0%、耐油剤(AG E−060,フッ素樹脂系耐油剤,旭硝子株式会社製)0.7%を配合したもの」を固形分で3.2g/m塗布し、表層に処方Aを固形分で15.8g/m塗工したほかは、実施例1と同様にして坪量が280g/mの多層抄き耐油板紙を得た。なお、フッ素樹脂系耐油剤の塗布量は、基紙100部に対して固形分換算で0.11部とした。
【0038】
(比較例1)
表層用,裏層用原料スラリーのサイズ剤含有量を0.10部とし、オンマシンサイズプレスでの塗布量を固形分で2.5g/mにし、表層に処方Aを固形分で16.5g/m塗工したほかは、実施例1と同様にして坪量が280g/mの多層抄き耐油板紙を得た。なお、フッ素樹脂系耐油剤の塗布量は、基紙100部に対して固形分換算で0.14部とした。
【0039】
(比較例2)
表層の坪量を90g/m、中間層の坪量を80g/m、裏層の坪量を90g/mに、オンマシンサイズプレスでの塗布量を固形分で4.2g/mにし、表層に処方Aを固形分で15.0g/m塗工したほかは、実施例1と同様にして坪量が280g/mの多層抄き耐油板紙を得た。なお、フッ素樹脂系耐油剤の塗布量は、基紙100部に対して固形分換算で0.24部とした。
【0040】
(比較例3)
表層の坪量を20g/m、中間層の坪量を220g/m、裏層の坪量を20g/mに、オンマシンサイズプレスでの塗布量を固形分で2.3g/mにし、表層に処方Aを固形分で16.7g/m塗工したほかは、実施例1と同様にして坪量が280g/mの多層抄き耐油板紙を得た。なお、フッ素樹脂系耐油剤の塗布量は、基紙100部に対して固形分換算で0.13部とした。
【0041】
(比較例4)
オンマシンサイズプレスを使用して、処方4:「水に固形分換算で、デンプン(MS−3800,酸化デンプン,日本食品化工株式会社製)7.0%、耐油剤(AG E−060,フッ素樹脂系耐油剤,旭硝子株式会社製)0.5%を配合したもの」を固形分で3.2g/m塗布し、表層に処方Aを固形分で15.8g/m塗工したほかは、実施例1と同様にして坪量が280g/mの多層抄き耐油板紙を得た。なお、フッ素樹脂系耐油剤の塗布量は、基紙100部に対して固形分換算で0.08部とした。
【0042】
(比較例5)
オンマシンサイズプレスを使用して、処方5:「水に固形分換算で、デンプン(MS−3800,酸化デンプン,日本食品化工株式会社製)7.0%を配合したもの」を固形分で2.9g/m塗布後、エアーナイフ方式の塗工機を用いて、表層に処方Aを固形分で16.1g/m塗工し、裏層に処方C:「デンプン(MS−3800,酸化デンプン,日本食品化工株式会社製)3%、耐油剤(AG E−060,フッ素樹脂系耐油剤,旭硝子株式会社製)3%を配合したもの」を固形分で1.0g/m塗布したほかは、実施例1と同様にして坪量が280g/mの多層抄き耐油板紙を得た。なお、フッ素樹脂系耐油剤の塗布量は、基紙100部に対して固形分換算で0.19部とした。
【0043】
(バター耐油性の評価)
得られた多層抄き耐油板紙の耐油剤塗布面の5箇所に市販のバターを5gずつ乗せ、35℃−40%RHの条件に30分間曝し、バター拭き取り後のバターの浸透状態を評価した。
○:染み込み箇所が1箇所以下で、実用上問題なし。
×:染み込み箇所が2箇所以上で、実用上問題あり。
【0044】
(接着性の評価)
紙箱加工用接着剤(エスダイン8515D−1,ホットメルト,積水フーラー製)を使用して表面と裏面を接着し、接着力及び剥離状態を評価した。
○:一般的な多層抄き板紙と同等な接着力を有し、破壊が紙層まで達し、実用できる。
△:一般的な多層抄き板紙より接着力がやや劣り、破壊が紙層まで及ばないが、実用できる。
×:接着せず、実用できない。
【0045】
(耐水性の評価)
JIS P 8122:2004「紙及び板紙―サイズ度試験方法―ステキヒト法」に基づいてステキヒト・サイズ度(耐水度)を測定した。
○:60秒以上で、実用に耐える。
△:10秒以上60秒未満で、実用に耐える。
×:10秒未満で、実用に耐えない。
【0046】
得られた多層抄き耐油板紙の評価結果を表1に示す。実施例1〜実施例7は、いずれもバター耐油性、接着性及び耐水性が良好であった。一方、比較例1は、表層及び裏層にサイズ剤が含有されているため、サイズプレス液の浸透が均一でなく、バター耐油性に劣った。比較例2は、中間層の合計質量を1としたとき表層質量と裏層質量の合計が2よりも大きいため、耐水性に劣った。比較例3は、中間層の合計質量を1としたとき表層質量と裏層質量の合計が0.2未満であるため、バター耐油性に劣った。比較例4は、耐油剤含有量が基紙100部に対して0.1部未満であったため、バター耐油性に劣った。比較例5は、サイズプレスの液に対油剤が含まれておらず、かつ、塗工層を形成するための塗工液に耐油剤を含有させて、エアーナイフ方式の塗工機を用いて塗工したため、バター耐油性及び接着性に劣った。
【0047】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0048】
バター,チーズ,パン,ケーキ,ドーナツ,クッキー,ピザ等の動物油分を有する食品などを収容する紙製容器の製造に用いられる多層抄き耐油板紙として利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表層、裏層、及び前記表層と前記裏層との間に設けられる1層又は複数層からなる中間層を有する多層抄きの基紙を支持体とし、
前記表層及び前記裏層はサイズ剤を含有せず、前記中間層は中間層原料パルプ100質量部に対してサイズ剤を固形分換算で0.05〜0.30質量部の範囲で含有し、前記基紙の各層の坪量質量比は(中間層の合計質量)/(表層質量+裏層質量)=1/0.2〜1/2の範囲であり、
前記基紙の両面は水溶性高分子と基紙100質量部に対して固形分換算で0.10〜0.50質量部の範囲のフッ素樹脂系耐油剤とがサイズプレスで塗布されて、更にその上にはバインダーとして水溶性高分子を含む塗工層が設けられていることを特徴とする多層抄き耐油板紙。
【請求項2】
前記多層抄き耐油板紙の耐油剤塗布面の5箇所にバターを5gずつ乗せ、35℃−40%RHの条件に30分間曝し、バター拭き取り後のバターの浸透状態によって評価したバター耐油性の評価試験で染み込み箇所が1箇所以下であり、JIS P 8122:2004「紙及び板紙―サイズ度試験方法―ステキヒト法」に基づいて測定したステキヒト・サイズ度(耐水度)が10秒以上であることを特徴とする請求項1に記載の多層抄き耐油板紙。
【請求項3】
前記塗工層は顔料を更に含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の多層抄き耐油板紙。
【請求項4】
サイズ剤を配合していない表層用原料スラリーと、サイズ剤を配合していない裏層用原料スラリーと、原料パルプ100質量部に対してサイズ剤を固形分換算で0.05〜0.30質量部の範囲で含有するように配合した中間層用原料スラリーとを調製し、
表層と、裏層と、前記表層と前記裏層との間に設けられる1層又は複数層からなる中間層とを、前記基紙の各層の坪量質量比が(中間層の合計質量)/(表層質量+裏層質量)=1/0.2〜1/2の範囲となるように抄き併せて多層抄き基紙を形成し、
該基紙の両面に、水溶性高分子とフッ素樹脂系耐油剤とを配合した液を、フッ素樹脂系耐油剤が基紙100質量部に対して固形分換算で0.10〜0.50質量部の範囲となるようにサイズプレスで塗布した後、更にその両面に、バインダーとして水溶性高分子を配合した塗工液を塗工し、かつ、
これらの工程を連続して行うことを特徴とする多層抄き耐油板紙の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の多層抄き耐油板紙を使用したことを特徴とする耐油性紙製容器。


【公開番号】特開2011−38204(P2011−38204A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−186012(P2009−186012)
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【出願人】(000241810)北越紀州製紙株式会社 (196)
【Fターム(参考)】