説明

多層構造体、電子機器および多層構造体の製造方法

【課題】 多層構造体に生じる応力による基板の反りを低減すること。
【解決手段】 多層構造体は、基板20と、基板の第1主面上に形成された多層配線構造(30,40,50)と、多層配線構造における、少なくとも最上層の一部に設けられた空洞部102と、空洞部を含む多層配線構造上に形成される素子構造体(210,200)と、基板の、第1主面とは反対側の第2主面上に形成された、基板の第1主面側に生じる応力を緩和するための、少なくとも一層の応力緩和層10と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層構造体、電子機器および多層構造体の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
熱型検出器の一例である赤外線検出器では、物体から放射された赤外線を、例えば赤外線吸収層によって吸収し、これによって光を熱に変換する。その熱を例えば、ボロメータ薄膜や焦電体に与えることによって、抵抗や電位や電流の変化が生じる。その変化量に基づいて、対象物の温度を測定する。そのため、赤外線検出器では、赤外線吸収層からの熱をボロメータや焦電体に損失なく伝える機構、さらには、熱をボロメータや焦電体から逃がさない機構が必要となる。
【0003】
例えば、特許文献1には、熱分離のための空洞を有する赤外線検出器が開示されている。赤外線を吸収することによって生じる電気信号は微弱であり、その電気信号の変化は極めて微量である。特許文献1に記載される赤外線検出器では、信号読み出しのための回路が、検出部の下に設けられている。例えば、読み出し用のMOS回路と検出部を同一基板上に形成することは、配線における信号損失を低減させる上で有効である。また、例えば、赤外線撮像素子のように、多数の検出セルをマトリクス状に配置する場合には、配線を外部に引き回すことは困難であり、よって、読み出し回路を同一基板上に形成する必要がある。
【0004】
また、特許文献2には、ウエハーレベルCSPとよばれるパッケージ構造を採用する場合に、基板の反りを緩和するために、ダミー層を、基板の裏面に設ける技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−192350号公報
【特許文献2】特開2005−167134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した赤外線検出器では、一般的に赤外線吸収層の厚膜化が必要である。また、上述のように、例えばMOS回路等を具備する構造を採用する場合には、多層配線構造が必要とされ、したがって、素子全体として厚膜化はさらに促進される。多層配線構造を含む熱型検出器の厚膜化に伴って、多層配線構造に大きな応力が生じる。この結果、基板に大きな反りが生じ易くなる。
【0007】
基板の大きな反りは、例えば、各製造装置での搬送トラブル等の原因となる。フォトリソグラフィ工程において、加工対象の基板に反りが生じている場合には、露光時に基板内で焦点ずれ(デフォーカス)となる領域が発生する可能性があり、この場合には、素子の形状バラツキやそれに伴う特性バラツキが生じる。
【0008】
また、上述の特許文献2に記載される技術は、ウエハーレベルCSPを採用する場合の基板の反り対策に限定されており、上述のような多層構造体に関しては、何ら言及されていない。
【0009】
本発明の少なくとも一つの態様によれば、例えば、多層構造体に生じる応力による基板の反りを、低減することができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明の多層構造体の一態様は、基板と、前記基板の第1主面上に形成された多層配線構造と、前記多層配線構造における、少なくとも最上層の一部に設けられた空洞部と、前記空洞部を含む前記多層配線構造上に形成された素子構造体と、前記基板の、前記第1主面とは反対側の第2主面上に形成された、前記基板の前記第1主面側に生じる応力を緩和するための、少なくとも一層の応力緩和層と、を含む。
【0011】
本態様の多層構造体は、基板上に設けられた多層配線構造を有しているため、多層構造体の全体としての厚みが厚くなる傾向にある。さらに、多層配線構造の主面の一部には空洞(中空の凹部)が設けられる。この空洞の存在によって多層配線構造の機械的な強度が弱まるのは否めず、よって、多層配線構造に変形や歪みが生じ易くなるのは否めない。また、空洞を含む多層配線構造上には、素子構造体(例えばMEMS技術を用いて形成される、積層構造をもつMEMS素子構造体)が形成されることから、多層構造体全体としての厚みはさらに厚くなる。したがって、多層配線構造には大きな応力が生じる可能性があり、この大きな応力は、基板全体に大きな反りを生じさせる原因となる。
【0012】
本態様では、基板の第1主面(例えば表面)側に生じる応力を緩和するための、少なくとも一層の応力緩和層が、基板の、第1主面とは反対側の第2主面(例えば裏面)上に設けられる。これによって、基板の反りを効果的に抑制することができる。したがって、多層構造体のハンドリングやフォトリソグラフィ工程において、支障が生じることがない。
【0013】
(2)本発明の多層構造体の他の態様では、前記応力緩和層の応力方向は、前記基板の前記第1主面側に生じる応力方向と同じである。
【0014】
例えば、基板の第1主面上に形成される多層配線構造ならびに素子構造体の全体として、引っ張り応力が生じるのならば、基板の第2主面上に形成される応力緩和層の応力方向も、引っ張り方向になるようにし、多層配線構造ならびに素子構造体の全体として、圧縮応力が生じるのならば、基板の第2主面上に形成される応力緩和層の応力方向も、圧縮方向になるようにする。例えば、基板の第1主面側に生じる応力と、基板の第2主面側に生じる応力とが略均衡すれば、基板の反りは十分に低減される。
【0015】
応力緩和層の応力方向の調整は、例えば、熱膨張係数を考慮した材料の選択、膜構造(単層膜/多層膜等)の選択、層の厚み(膜厚)の調整、製造条件等の調整等によって可能である。
【0016】
(3)本発明の多層構造体の他の態様では、前記空洞部は、前記多層配線構造における、少なくとも最上層の一部がエッチングによって除去された中空の凹部によって構成され、前記凹部の底面上および側面上には、前記凹部を前記エッチングによって形成する際の保護膜として機能するエッチングストッパー膜が形成されており、かつ、前記応力緩和層を構成する少なくとも一層は、前記エッチングストッパー膜の材料と同じ材料の膜である。
【0017】
本態様では、エッチングストッパー膜と同種の材料の層(広義には、エッチングストッパーと同種の材料の層を少なくとも含む層)を、応力緩和層とする。エッチングストッパー膜としては、一般に緻密な構造の膜が選択される。よって、エッチングストッパー膜は、大きな応力を生じさせる。また、多層配線構造の少なくとも最上層の一部が除去されて、中空の凹部が形成される。その凹部の形状を決めるのは、底面と斜面(側壁)である。この斜面(側壁)にもエッチングストッパーが形成されるため、平面視(具体的には、多層構造体の厚み方向から基板の第1主面を見た場合の平面視)における表面積が大きくなる。また、比較的大きな空洞部が存在することによって、上述したとおり、多層配線構造の変形(反りやねじれ等を含む)が生じ易くなる。
【0018】
そこで、本態様では、応力に関して最も影響力のあるエッチングストッパー膜に着目し、エッチングストッパー膜と同種の材料を、応力緩和層の材料とする。これによって、例えば、エッチングストッパー膜と同じ方向の、大きな応力を発生させることができる。また、例えば、エッチングストッパー膜と略同程度の力(引っ張り力あるいは圧縮力)の応力を発生させることもできる。よって、基板の反りを効果的に抑制することができる。
【0019】
また、応力緩和層が、エッチングストッパー膜と同種の成分の層であれば、当然、応力緩和層も、空洞部形成のための犠牲層除去の工程におけるエッチャント(エッチング材)に対して耐性が有る。つまり、応力緩和層は、犠牲層エッチングによって目減りしないことから、応力緩和層自体には、犠牲層エッチングの影響が及ばない。したがって、熱型検出器等の完成後においても、応力緩和層による、基板の反りの防止効果が継続的に得られる。
【0020】
(4)本発明の多層配線構造体の他の態様では、前記応力緩和層における、前記エッチングストッパー膜の材料と同じ材料の膜の膜厚をw1とし、前記エッチングストッパー膜の最も厚い部分の膜厚をw2としたとき、w1≧w2が成立する。
【0021】
エッチングストッパー膜は、上述のとおり、凹部の底面ならびに側面に形成されるが、さらに、他の箇所にも形成される場合があり得る。例えば、犠牲層をエッチングにより除去して凹部を形成する際、熱型検出素子等を支持している支持部材(メンブレン)の一部が除去されるのを防止するために、支持部材(メンブレン)の少なくとも一方の主面にもエッチングストッパー膜(エッチングストッパー膜と同種の成分の膜)が存在する場合があり得る。また、支持部材(メンブレン)自体が、エッチングストッパー膜と同種の成分の単層の膜で構成される場合も有り得る。このような場合には、基板のエッチングを防止する第1エッチングストッパー膜と、支持部材(メンブレン)のエッチングを防止する機能をもつ第2エッチングストッパー膜とが併存する場合があり得る。例えば、各々のエッチングストッパー膜が積層されている場合があり得る。このような場合、各エッチングストッパー膜のトータルの膜厚をw2とし、応力緩和層の膜厚をw1とするとき、w1≧w2に設定するのが好ましい。
【0022】
つまり、エッチングストッパー膜の膜厚が厚くなれば、発生する応力も増大することから、これに対応するべく、応力緩和層の厚みも増大させるのが好ましい。また、基板の第1主面側には、上述のとおり、多層配線構造(多層膜構造)が存在し、エッチングストッパー膜による応力に加えて、その他の多層の膜の応力も加重されると予測される。よって、応力緩和層の厚みw1は、最低でも、エッチングストッパー膜のトータルの膜厚w2以上とし、応力のアンバランスができるだけ生じないようにするのが好ましい。
【0023】
(5)本発明の多層配線構造体の他の態様では、前記空洞部は、前記多層配線構造における、少なくとも最上層の一部が除去された中空の凹部によって構成され、前記空洞部は、前記凹部に埋め込まれていた犠牲層をエッチングによって除去して中空状態とすることによって形成され、前記応力緩和層を構成する少なくとも一層は、前記犠牲層の材料と同じ材料の膜である。
【0024】
応力緩和層に関しては、種々のバリエーションが考えられる。本態様は、そのバリエーションの一つを示す。つまり、本態様では、応力緩和層を構成する少なくとも一層は、犠牲層と同種の成分の層である。本態様では、例えば、犠牲層の除去による基板の第1主面側の応力の変化に対応させて、応力緩和層による応力も変化させることができる(この効果は一例である)。
【0025】
ここで、応力緩和層を構成する層が単層である場合を想定する。この場合、応力緩和層(単層)の厚みは、犠牲層の厚みよりも厚くするのが好ましい。犠牲層がエッチングされるとき、応力緩和層もエッチングされて膜厚が薄くなるが、応力緩和層の厚みの方が厚い場合には、犠牲層のエッチング後も、応力緩和層が残存する。つまり、応力緩和層は、製品の完成後も残存することから、製品の完成後における基板の反りの抑制が実現される。また、犠牲層が除去されて空洞部が形成されると、そのことによって基板の第1主面側の応力が低減される場合もあり得る。このような場合には、基板の第1主面側の応力の低減に対応して、応力緩和層の応力も低減される(応力緩和層の膜厚も薄くなるため)ことから、応力の均衡が維持される。よって、犠牲層のエッチング後においても、基板の反りが生じにくい。
【0026】
また、応力緩和層を、第1材料膜と、第1材料とは異なる第2材料で構成される第2材料膜とが積層されてなる積層膜とすることもできる。ここで、例えば、第1材料膜を犠牲層と同じ材料の膜とし、第2材料膜を、犠牲層のエッチング工程において、第1材料膜のエッチングによる目減りを抑制するためのエッチングストッパー膜として使用することもできる。この例では、犠牲層のエッチング後も、応力緩和層のトータルの厚みには変化がなく、応力緩和層によって生じる応力に変化はない。この例は、犠牲層が除去されて空洞部が形成された場合でも、そのことによって基板の第1主面側の応力に特に変化がみられない場合に有効である。つまり、本例では、犠牲層のエッチング除去後においても、基板の第1主面側の応力と第2主面側の応力との均衡を保つがことができる。
【0027】
(6)本発明の多層配線構造体の他の態様では、前記応力緩和層を構成する少なくとも一層は、ポリシリコン層あるいはアモルファスシリコン層である。
【0028】
ポリシリコン層やアモルファスシリコン層は、電子デバイスで一般的に使用されるSiO膜よりも大きな応力を生じるため、応力緩和層として利用可能である。但し、基板の第1主面側の応力の方向と、ポリシリコン層やアモルファスシリコン層の応力方向が同じとなるように、製造プロセスや製造条件を設定する必要がある。また、空洞部形成のための犠牲層として、ポリシリコン層やアモルファスシリコン層以外の材料(例えば、SiO膜)を使用したとき、応力緩和層を構成するポリシリコン層やアモルファスシリコン層は、犠牲層(例えば、SiO膜)のエッチング用のエッチャントに対して耐性がある。よって、犠牲層をエッチングした後も目減り(膜厚の減少)が生じず、したがって、応力緩和効果(熱サイクル等に起因する基板の反りや変形の防止等)が、製品(熱型検出器等)の完成後も継続する。
【0029】
また、ポリシリコン層やアモルファスシリコン層は、不純物ドープによって応力緩和層を導電層(電極、配線、抵抗体等)として使用することが可能である。よって、応力緩和層としてのポリシリコン層やアモルファスシリコン層を、電極等としても兼用することができる。例えば、シリコン基板の裏面(第2主面)に形成された応力緩和層を、接地電極(ボディコンタクト電極等)としても利用することができる。これによって、基板上に回路を形成することが容易化される。
【0030】
(7)本発明の多層構造体の他の態様では、前記素子構造体は、前記多層配線構造体上に形成される支持部材と、前記支持部材上に形成される熱型検出素子と、を含む。
【0031】
支持部材(メンブレン)は、空洞部上で、熱型検出素子等を安定的に支持する必要があるため、機械的な強度が求められる。このため、支持部材(メンブレン)の膜厚はある程度、厚くする必要がある。また、支持部材(メンブレン)は、複数の厚膜を積層して形成される場合もあり得る。この厚膜の支持部材(メンブレン)上に、さらに、例えば、熱型検出素子としての焦電型赤外線センサーを、MEMS技術を用いて形成する場合には、圧電材料を上部電極と下部電極で挟み込んだ構成をもつ焦電キャパシターを形成し、さらに、例えば焦電キャパシターを覆うように、厚い赤外線吸収膜(光吸収膜)を形成する必要がある。よって、多層構造体全体としての厚みは、従来に例をみないほど厚くなる。また、空洞部(熱分離空洞)が形成されており、また、凹部の底面や側面等にはエッチングストッパー膜が形成されることから、大きな応力が生じやすい。したがって、基板の第2主面上に、第1主面側の大きな応力を緩和するための応力緩和層を設けることは、極めて有効である。応力緩和層は、ある程度の厚みをもち、第1主面側の応力に匹敵する大きさで、かつ方向が同である応力を生じさせ得る層であるのが好ましい。
【0032】
(8)本発明の電子機器の一態様は、上記いずれかの多層構造体を含む。
【0033】
本発明にかかる多層構造体(多層構造の熱型検出器等)は、上述のとおり、基板に生じる反りが抑制されていることから、製造上のバラツキが低減されて、信頼性が高い。よって、その多層構造体を搭載した電子機器も、同様の効果を享受する。
【0034】
(9)本発明の多層構造体の製造方法の一態様は、基板の第1主面上に、多層配線構造の構成要素である層間絶縁膜を形成した後、前記基板の、前記第1主面とは反対側の第2主面上に、前記基板の第1主面側に生じる応力を緩和するための応力緩和層を形成する工程と、前記層間絶縁膜を、平坦化処理によって平坦化した後、前記層間絶縁膜上に、少なくとも一層の導体層を含む層を形成して多層配線構造を形成する工程と、前記多層配線構造の少なくとも最上層の一部を除去して凹部を形成する工程と、前記凹部の内表面上にエッチングストッパー膜を形成した後、前記凹部内に犠牲層を形成する工程と、前記犠牲層を含む前記多層配線構造上に素子構造体を形成する工程と、前記犠牲層を除去して空洞部を形成する工程と、を含む。
【0035】
本態様では、基板の第1主面(例えば表面)上に、多層配線構造の構成要素である層間絶縁膜を形成し、基板の、第1主面とは逆側の第2主面(例えば裏面)上に応力緩和層を形成する。応力緩和層の形成時においては、基板は、例えば、載置台上に載置されるが、この状態では、基板の第1主面(例えば表面)側に設けられている層間絶縁膜の表面は、載置台等の表面に接触する。よって、層間絶縁膜の表面が汚れたり、異物が付着したり、あるいは傷がついたりする場合がある。
【0036】
そこで、本態様では、応力緩和層の形成後に、基板の第1主面側の層間絶縁膜を、例えばCMP(ケミカルメカニカルポリッシング)等による平坦化処理によって平坦化し、このとき、応力緩和層の形成時に付着した異物や汚れの除去も併せて行う。これによって、応力緩和層の形成に伴う異物の付着等の問題が解消される。この後、必要に応じて多層配線構造を完成させ、続いて凹部を形成し、凹部の内表面上にエッチングストッパー膜を形成し、凹部を犠牲層によって埋め込む。さらに、犠牲層上に素子構造体を形成し、その後、犠牲層を除去して空洞部(熱分離空洞等)を形成する。
【0037】
(10)本発明の多層構造体の製造方法の他の態様は、基板の第1主面上に、多層配線構造を形成する工程と、前記多層配線構造の少なくとも最上層の一部を除去して凹部を形成する工程と、前記凹部の内表面上にエッチングストッパー膜を形成した後、前記凹部内および前記多層配線構造の表面を覆う犠牲層を形成する工程と、前記基板の、前記第1主面とは反対側の第2主面上に、前記基板の第1主面側に生じる応力を緩和するための応力緩和層を形成する工程と、前記犠牲層を平坦化処理によって平坦化することによって、前記犠牲層を前記凹部に埋め込む工程と、前記犠牲層を含む前記多層配線構造上に素子構造体を形成する工程と、前記犠牲層を除去して空洞部を形成する工程と、を含む。
【0038】
本態様では、まず、基板の第1主面上において多層配線構造を完成させ、その後、多層配線構造の一部を選択的に除去して凹部を形成する。凹部の内表面上にエッチングストッパー膜を形成し、そして、凹部内および多層配線構造の表面を覆うように犠牲層を形成する。この状態で、基板の、第1主面とは反対側の第2主面上に、応力を緩和するための応力緩和層を形成する。応力緩和層の形成時においては、基板は、例えば、載置台上に載置されるが、このとき、基板の第1主面(例えば表面)側に設けられている犠牲層の表面は、載置台等の表面に接触する。よって、犠牲層の表面が汚れたり、異物が付着したり、あるいは傷がついたりする場合がある。
【0039】
そこで、本態様では、応力緩和層の形成後に、基板の第1主面側の犠牲層を、例えばCMP(ケミカルメカニカルポリッシング)等による平坦化処理によって平坦化し、犠牲層を凹部に埋め込む。このとき、応力緩和層の形成時に付着した異物や汚れの除去も併せて行う。これによって、応力緩和層の形成に伴う異物の付着等の問題が解消される。この後、犠牲層を含む多層配線構造体上に素子構造体を形成し、その後、犠牲層を除去して空洞部(熱分離空洞等)を形成する。
【0040】
このように、本発明の少なくとも一つの態様によれば、例えば、多層構造体に生じる応力による基板の反りを、低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】熱型検出素子を含む多層構造体の構造の一例を示す断面図
【図2】図2(A)〜図2(G)は、応力緩和層の材料ならびに構造の一例を示す図
【図3】応力緩和層を構成する少なくとも一層の材料を、エッチングストッパー膜の材料と同じとした例における、応力緩和層の膜厚の好ましい設定例について説明するための図
【図4】図4(A)〜図4(C)は、多層構造体の製造方法の一例を示すデバイスの断面図
【図5】図5(A),図5(B)は、多層構造体の製造方法の一例を示すデバイスの断面図
【図6】図6(A),図6(B)は、多層構造体の製造方法の他の例を示すデバイスの断面図
【図7】図7(A),図7(B)は、多層構造体の製造方法の他の例を示すデバイスの断面図
【図8】図8(A),図8(B)は、多層構造体の製造方法の他の例を示すデバイスの断面図
【図9】電子機器の構成の一例を示す図
【図10】電子機器の構成の他の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0043】
(第1の実施形態)
図1は、熱型検出素子を含む多層構造体の構造の一例を示す断面図である。図1に示される多層構造体500は、全体として、熱型検出器(ここでは、熱型光検出器としての赤外線検出器とする)200を構成する。
【0044】
この多層構造体500は、基板(ここではシリコン基板とする)20と、基板20の第1主面(ここでは表面とする)上に形成された多層配線構造150と、多層配線構造150における、最上層50の一部に設けられた空洞部102(熱分離空洞)と、空洞部102を含む多層配線構造150上に形成された支持部材(メンブレン)210と、支持部材(メンブレン)210上に形成された焦電型赤外線検出素子220と、基板20の、第1主面(表面)とは反対側の第2主面(裏面)上に形成された、基板20の第1主面(表面)側に生じる応力を緩和するための、少なくとも一層の応力緩和層10と、を含む。なお、基板20および多層配線構造150によって、素子構造体160を支持する基部(ベース)が構成される。
【0045】
支持部材(メンブレン)210および焦電型赤外線検出素子220によって、素子構造体160が構成される。なお、図1の例では、空洞部102は、多層構造体150の最上層50を選択的に除去して形成されているが、これに限定されるものではない。空洞部102は、最上層50の下に位置する層40に達するように形成してもよい。つまり、空洞部102は、多層構造体150の、少なくとも最上層50の一部に設けられる。
【0046】
空洞部102の内表面(底面および側面)は、エッチングストッパー膜(例えばSi膜)130a,130bが設けられている。このエッチングストッパー膜130a,130bは、空洞部102を形成するために犠牲層(図1では不図示,図5の参照符号135)を除去する工程において、エッチングの対象外の層が除去されるのを防止する役割を果たす。また、多層配線構造150の表面(メンブレン210の裏面)にも、エッチングストッパー膜130cを設けることができる。このエッチングストッパー膜130cは、例えば、犠牲層除去工程における、支持部材(メンブレン)210のエッチングを防止する機能をもつ(但し、メンブレンの材料によっては不要の場合がある)。
【0047】
また、素子構造体160の構成要素である焦電型赤外線検出素子(焦電型光検出素子)220は、同じく素子構造体160の構成要素である支持部材(メンブレン)210によって、空洞部102上において支持されている。支持部材(メンブレン)210は、例えば、窒化シリコン膜(SiN)/酸化シリコン膜(SiO)/窒化シリコン膜(SiN)の3層の積層膜で構成することができる。支持部材(メンブレン)210は、焦電型赤外線検出素子220を安定的に支持する必要があり、よって、支持部材(メンブレン)210のトータルの厚みは、必要な機械強度を満足する厚みを有する。
【0048】
また、焦電型赤外線検出素子220は、焦電キャパシター230を有する。支持部材(メンブレン)210上には、配向膜238が形成されており、この配向膜238上に、焦電キャパシター230が形成されている。焦電キャパシター230は、下部電極(第1電極)234と、下部電極上に形成される焦電材料層(例えば焦電体としてのPZT層:チタン酸ジルコン酸鉛層)232と、焦電材料層232上に形成される上部電極(第2電極)236と、を含む。
【0049】
下部電極(第1電極)234ならびに上部電極(第2電極)236は共に、例えば、3層の金属膜を積層することによって形成することができる。例えば、焦電材料層(PZT層)232から遠い位置から順に、例えばスパッタリングにて形成されるイリジウム(Ir)、イリジウム酸化物(IrOx)及びプラチナ(Pt)の三層構造とすることができる。また、焦電材料層232としては、上述のとおり、例えばPZT(Pb(Zi,Ti)O:チタン酸ジルコン酸鉛)を用いることができる。この焦電材料層232は、例えば、スパッタリング法やMOCVD法等で成膜することができる。下部電極(第1電極)234および上部電極(第2電極)236の膜厚は、例えば0.4μm程度であり、焦電材料層232の膜厚は、例えば0.1μm程度である。
【0050】
焦電キャパシター230は、層間絶縁膜250によって覆われている。この層間絶縁膜250には、第1コンタクトホール252および第2コンタクトホール254が設けられている。第1コンタクトホール252には、第1コンタクトプラグ226が埋め込まれており、この第1コンタクトプラグ226には、第1電極(兼第1配線)222が接続されている。また、第2コンタクトホール254には、第2コンタクトプラグ228が埋め込まれており、この第2コンタクトプラグ228には、第2電極(兼第2配線)224が接続されている。また、第1電極(兼第1配線)222および第2電極(兼第2配線)224は、保護膜260によって覆われている。また、焦電キャパシター230の上部には、赤外線吸収膜(光吸収膜)としてのSiO層270が設けられている。また、赤外線検出素子220の表面には、犠牲層135を除去し空洞部102を形成する際に焦電キャパシターや赤外線吸収膜270を保護するためのエッチング保護層280が形成されている。
【0051】
焦電キャパシター230の上方から入射する光は、赤外線吸収膜(光吸収膜)270によって吸収され、熱に変換される。この熱は、焦電材料層(焦電体)232に伝達され、その結果、焦電効果(パイロ電子効果)によって、焦電材料層(焦電体)232に電気分極量の変化が生じる。この電気分極量の変化に伴う電流を検出することによって、入射した光の強度を検出することができる。
【0052】
また、基板20の、平面視で赤外線検出素子220と重なる領域(つまり、基板20の、赤外線検出素子220の下に位置する領域)には、例えば、信号読み出し用の回路を構成する回路要素(トランジスタ等)が形成されている。基板20には、MOSトランジスターのソース層21と、ドレイン層22が形成されている。基板20の表面にはゲート絶縁膜23が形成されている。ゲート電極24の両サイドには、サイドウオール25が設けられている。ゲート電極24には、例えば配線26が接続される。
【0053】
また、多層配線構造150は、絶縁層30と、層間絶縁膜40と、層間絶縁層50と、金属からなるプラグM1と、第2層目配線M2と、プラグM3と、第3層目配線M4と、プラグM5とを含む。支持部材(メンブレン)210に設けられたコンタクトホールには、金属からなるプラグM6が埋め込まれている。赤外線検出素子220の構成要素である第1電極(兼第1配線)222は、プラグM6およびM5を経由して、多層配線構造150における第3層目配線M4に接続されている。
【0054】
図1に示される多層構造体500は、基板20上に設けられた多層配線構造150を有しているため、多層構造体500の全体としての厚みが厚くなる傾向にある。さらに、多層配線構造150の主面の一部には空洞部(中空の凹部)102が設けられている。この空洞部102の存在によって多層配線構造の機械的な強度が弱まるのは否めず、よって、多層配線構造150に変形や歪みが生じ易くなるのは否めない。また、空洞部102を含む多層配線構造150上には、素子構造体(例えばMEMS技術を用いて形成される、積層構造をもつMEMS素子構造体)160が形成されることから、多層構造体500の全体としての厚みはさらに厚くなる。したがって、多層配線構造150には大きな応力が生じる可能性があり、この大きな応力は、基板(シリコン基板)20の全体に大きな反りを生じさせる原因となる。
【0055】
これに対して、図1の例では、基板20の第1主面(例えば表面)側に生じる応力を緩和するための、少なくとも一層の応力緩和層10が、基板20の、第1主面とは反対側の第2主面(例えば裏面)上に設けられている。応力緩和層10の応力方向は、基板20の第1主面側に生じる応力方向と同じであるのが好ましい。
【0056】
例えば、基板20の第1主面上に形成される多層配線構造150ならびに素子構造体160の全体として、引っ張り応力が生じるのならば、基板20の第2主面上に形成される応力緩和層10の応力方向も、引っ張り方向になるようにし、多層配線構造150ならびに素子構造体160の全体として、圧縮応力が生じるのならば、基板20の第2主面上に形成される応力緩和層10の応力方向も、圧縮方向になるようにする。
【0057】
基板20の第1主面側に生じる応力と、基板20の第2主面側に生じる応力とが、例えば略均衡すれば、基板20の反りは十分に低減される。したがって、基板20の反りを効果的に抑制することができる。よって、多層構造体500のハンドリングやフォトリソグラフィ工程において、支障が生じることがない。応力緩和層10の応力方向の調整は、例えば、熱膨張係数(基板20の熱膨張係数との差を含む)を考慮した材料の選択、膜構造(単層膜/多層膜等)の選択、層の厚み(膜厚)の調整、製造条件等の調整等によって可能である。
【0058】
図2(A)〜図2(G)は、応力緩和層の材料ならびに構造の一例を示す図である。応力緩和層10に関しては、種々のバリエーションが考えられる。図2(A)〜図2(G)の各々は、応力緩和層のバリエーションの一例を示している。
【0059】
図2(A)に示される応力緩和層10aは、単層のポリシリコン層で構成される。また、図2(B)に示される応力緩和層10bは、単層のアモルファスシリコン層で構成される。図2(C)に示される応力緩和層10cは、単層の窒化シリコン層(SiN)で構成される。図2(D)に示される応力緩和層10dは、ポリシリコン層10a上に、窒化シリコン層(SiN)10cを積層してなる積層膜である。図2(E)に示される応力緩和層10eは、アモルファスシリコン層10b上に、窒化シリコン層(SiN)10cを積層してなる積層膜である。図2(F)に示される応力緩和層10fは、単層のシリコン酸化層(SiO)で構成される。図2(G)に示される応力緩和層10gは、酸化シリコン層(SiO)10d上に、窒化シリコン層(SiN)10cを積層して構成される積層膜である。
【0060】
図2(A),図2(B),図2(D),図2(E)に示される例では、応力緩和層10を構成する少なくとも一層は、ポリシリコン層あるいはアモルファスシリコン層である。ポリシリコン層やアモルファスシリコン層は、例えば、電子デバイスで一般的に使用されるSiO膜(絶縁膜30〜50の主成分)よりも大きな応力を生じるため、応力緩和層として利用可能である。
【0061】
但し、基板20の第1主面側の応力の方向と、応力緩和層10としてのポリシリコン層やアモルファスシリコン層の応力方向が同じとなるように、製造プロセスや製造条件を設定する必要がある。また、空洞部102形成のための犠牲層として、ポリシリコン層やアモルファスシリコン層以外の材料(例えば、SiO膜)を使用したとき、応力緩和層10を構成するポリシリコン層やアモルファスシリコン層は、犠牲層(例えば、SiO膜)のエッチング用のエッチャントに対して耐性がある。よって、犠牲層をエッチングした後も目減り(膜厚の減少)が生じず、したがって、応力緩和効果(熱サイクル等に起因する基板の反りや変形の防止等)が、製品(熱型赤外線検出器200)の完成後も継続する。よって、製品の信頼性が維持される。
【0062】
また、ポリシリコン層やアモルファスシリコン層は、不純物ドープによって応力緩和層を導電層(電極、配線、抵抗体等)として使用することも可能である。よって、応力緩和層10としてのポリシリコン層やアモルファスシリコン層を、電極等としても兼用することができる。例えば、基板20の裏面(第2主面)に形成された応力緩和層10を、接地電極(ボディコンタクト電極等)としても利用することができる。これによって、基板20上に回路を形成することが容易化される。
【0063】
また、図2(C),図2(D),図2(E),図2(G)の各例では、応力緩和層10を構成する少なくとも一層は、シリコン窒化膜(SiN)である。シリコン窒化膜(SiN)は緻密な膜であることから、エッチングストッパー膜(図1における参照符号130a〜130c)として用いて好適である。先に説明したように、空洞部102は、多層配線構造における、少なくとも最上層の一部が除去された中空の凹部によって構成される。この空洞部102は、凹部に埋め込まれていた犠牲層をエッチングによって除去して中空状態とすることによって形成される。例えば、犠牲層としてシリコン酸化膜(SiO)を使用し、エッチングストッパー膜130a〜130cとしてシリコン窒化膜(SiN)を使用した場合を想定する。この場合、図2(C),図2(D),図2(E),図2(G)の各例では、応力緩和層10を構成する少なくとも一層が、エッチングストッパー膜130a〜130cの材料と同じ材料の膜である。
【0064】
エッチングストッパー膜と同種の材料の層(広義には、エッチングストッパーと同種の材料の層を少なくとも含む層)を、応力緩和層とした場合、以下の利点がある。上述のとおり、エッチングストッパー膜130a〜130cとしては、一般に緻密な構造の膜が選択される。よって、エッチングストッパー膜130a〜130cは、大きな応力を生じさせる。また、多層配線構造の少なくとも最上層には、上述のとおり、中空の凹部が形成される。その凹部の形状を決めるのは、底面と斜面(側壁)である。この斜面(側壁)にもエッチングストッパーが形成されるため、平面視(具体的には、多層構造体500の厚み方向から基板20の第1主面を見た場合の平面視)における表面積が大きくなる。また、比較的大きな空洞部102が存在することによって、上述したとおり、多層配線構造500の変形(反りやねじれ等を含む)が生じ易くなる。
【0065】
ここで、応力に関して大きな影響力のあるエッチングストッパー膜に着目し、エッチングストッパー膜と同種の材料を、応力緩和層10の材料とすることによって、例えば、エッチングストッパー膜と同じ方向の、大きな応力を発生させることができる。また、例えば、エッチングストッパー膜と略同程度の力(引っ張り力あるいは圧縮力)の応力を発生させることもできる。この場合には、基板20の両主面に生じる応力が相殺されて、基板20の反りが十分に抑制される。
【0066】
また、応力緩和層10が、エッチングストッパー膜と同種の成分の層であれば、当然、応力緩和層10も、空洞部102形成のための犠牲層の除去工程におけるエッチャント(エッチング材)に対して耐性が有る。つまり、応力緩和層10は、犠牲層エッチングによって目減りしないことから、応力緩和層10自体には、犠牲層エッチングの影響が及ばない。したがって、熱型赤外線検出器200の完成後においても、応力緩和層10による基板20の反りの防止効果が継続的に得られる。
【0067】
また、図2(F)の例では、応力緩和層10fは、単層のシリコン酸化膜(SiO)で構成される。犠牲層の材料としてもシリコン酸化膜(SiO)が使用されるとすると、図2(F)の例は、応力緩和層10を構成する少なくとも一層が、犠牲層と同種の成分の層である例に該当する。この場合、犠牲層の除去による基板20の第1主面側の応力の変化に対応させて、応力緩和層10による応力も変化させることができる(この効果は一例である)。図2(F)に示される応力緩和層(単層)10fの厚みは、犠牲層の厚みよりも厚くするのが好ましい。犠牲層がエッチングされるとき、応力緩和層10fもエッチングされて膜厚が薄くなるが、応力緩和層10fの厚みの方が厚い場合には、犠牲層のエッチング後も、応力緩和層10fが残存する。つまり、応力緩和層10fは、製品の完成後も残存することから、製品の完成後における基板の反りの抑制が実現される。また、犠牲層が除去されて空洞部102が形成されると、そのことによって基板20の第1主面側の応力が低減される場合もあり得る。このような場合には、基板20の第1主面側の応力の低減に対応して、応力緩和層10fの応力も低減される(応力緩和層の膜厚も薄くなるため)ことから、応力の均衡が維持される。よって、犠牲層のエッチング後においても、基板20の反りが生じにくい。
【0068】
なお、図2(F)の例では、単層の応力緩和層10fを使用しているが、積層膜とすることもできる。例えば、第1材料膜と、第1材料とは異なる第2材料で構成される第2材料膜とが積層されてなる積層膜を応力緩和層として使用することもできる。ここで、例えば、第1材料膜を犠牲層と同じ材料の膜とし、第2材料膜を、犠牲層のエッチング工程において、第1材料膜のエッチングによる目減りを抑制するためのエッチングストッパー膜として使用することができる。この例では、犠牲層のエッチング後も、応力緩和層のトータルの厚みには変化がなく、応力緩和層によって生じる応力に変化はない。この例は、犠牲層が除去されて空洞部が形成された場合でも、そのことによって基板20の第1主面側の応力に特に変化がみられない場合に有効である。つまり、犠牲層のエッチング除去後においても、基板20の第1主面側の応力と第2主面側の応力との均衡を保つがことができる。
【0069】
次に、応力緩和層を構成する少なくとも一層の材料を、エッチングストッパー膜の材料と同じとする例に関して、膜厚の観点から検討する。
【0070】
エッチングストッパー膜は、上述のとおり、凹部の底面ならびに側面に形成されるが、さらに、他の箇所にも形成される場合があり得る。例えば、犠牲層をエッチングにより除去して凹部を形成する際、熱型検出素子等を支持している支持部材(メンブレン)210の一部が除去されるのを防止するために、支持部材(メンブレン)210の少なくとも一方の主面にもエッチングストッパー膜(エッチングストッパー膜と同種の成分の膜)が存在する場合があり得る。また、支持部材(メンブレン)210自体が、エッチングストッパー膜と同種の成分の単層の膜で構成される場合も有り得る。このような場合には、基板20のエッチングを防止する第1エッチングストッパー膜と、支持部材(メンブレン)210のエッチングを防止する機能をもつ第2エッチングストッパー膜とが併存すると見ることができる。例えば、各々のエッチングストッパー膜が積層されている場合があり得る。このような場合、各エッチングストッパー膜のトータルの膜厚をw2とし、応力緩和層の膜厚をw1とするとき、w1≧w2に設定するのが好ましい。
【0071】
つまり、エッチングストッパー膜の膜厚が厚くなれば、発生する応力も増大することから、これに対応するべく、応力緩和層10の厚みも増大させるのが好ましい。また、基板20の第1主面側には、上述のとおり、多層配線構造(多層膜構造)150が存在し、エッチングストッパー膜による応力に加えて、その他の多層の膜の応力も加重されると予測される。よって、応力緩和層10の厚みは、最低でも、エッチングストッパー膜のトータルの膜厚w2以上とし、基板の表面と裏面における応力のアンバランスが、できるだけ生じないようにするのが好ましい。以下、具体的に説明する。
【0072】
図3は、応力緩和層を構成する少なくとも一層の材料を、エッチングストッパー膜の材料と同じとした例における、応力緩和層の膜厚の好ましい設定例について説明するための図である。図3に示される例では、エッチングストッパー膜と同種の材料の単層膜である応力緩和層10の膜厚をw1とし、エッチングストッパー膜の最も厚い部分の膜厚をw2としたとき、w1≧w2が成立する。図3に示される例では、支持部材(メンブレン)210は、3層の膜(SiN膜211a/SiO膜211b/SiN膜211c)が積層されてなる積層膜である。
【0073】
空洞部102の内表面(底面および側面)には、エッチングストッパー膜としてのSiN膜130a,130bが形成されている。また、多層配線構造150の表面にも、SiN膜130cが形成されている。また、支持部材(メンブレン)210を構成する層のうちの最下層のSiN膜211aは、SiO膜211bに対するエッチングストッパー膜として機能する。したがって、図3の例では、エッチングストッパー膜としての機能をもつSiN膜130cとSiN膜211aとが積層されており、この積層部分の厚さが最も厚い。この積層部分の膜厚をw2とする。一方、エッチングストッパー膜と同種の材料(SiN)の単層膜である応力緩和層10の膜厚はw1である。なお、応力緩和層10が、材料の異なる複数の膜からなり、そのうちの一層がSiN膜で構成される場合は、そのSiN膜の膜厚をw1(≧w2)とする。これによって、基板20の表面と裏面における応力のアンバランスが、できるだけ生じないようにすることができる。
【0074】
(第2実施形態)
本実施形態では、多層構造体の製造方法について説明する。図4(A)〜図4(C)ならびに図5(A),図5(B)は、多層構造体の製造方法の一例を示すデバイスの断面図である。図4および図5では、図1に示される多層構造体における参照符号がそのまま使用されている。
【0075】
図4(A)の工程では、基板20の第1主面上に、多層配線構造150の構成要素である絶縁層30ならびに層間絶縁膜40aが形成される。図4(B)の工程では、基板20の、第1主面とは反対側の第2主面上に、基板20の第1主面側に生じる応力を緩和するための応力緩和層10が形成される。応力緩和層10の形成時においては、基板20は、例えば、載置台上に載置されるが、この状態では、基板の第1主面(例えば表面)側に設けられている層間絶縁膜40aの表面は、載置台等の表面に接触する。よって、層間絶縁膜40aの表面が汚れたり、異物が付着したり、あるいは傷がついたりする場合がある。
【0076】
そこで、図4(C)の工程では、基板20の第1主面側の層間絶縁膜40aを、例えばCMP(ケミカルメカニカルポリッシング)による平坦化処理によって平坦化する。このとき、応力緩和層10の形成時に付着した異物や汚れの除去も併せて行う。これによって、応力緩和層10の形成に伴う異物の付着等の問題が解消される。
【0077】
次に、図5(A)の工程では、層間絶縁層40上に層間絶縁層50を形成し、層間絶縁層50の表面の一部に凹部を形成し、凹部の内表面上にエッチングストッパー膜(SiN)130(130a〜130c)を形成し、凹部に犠牲層(SiO)135を埋め込む。
【0078】
次に、図5(B)に示すように、熱型検出素子(焦電型赤外線検出素子)220を形成する。そして、犠牲層135を除去して空洞部(熱分離空洞)102を形成する。
【0079】
図6(A),図6(B)ならびに図7(A),図7(B),図8(A),図8(B)は、多層構造体の製造方法の他の例を示すデバイスの断面図である。図6〜図8では、図1に示される多層構造体における参照符号がそのまま使用されている。
【0080】
まず、図6(A)に示される工程において、基板20の第1主面上に、絶縁層30ならびに層間絶縁層40aが形成され、図6(B)の工程では、層間絶縁層40aがCMP等によって平坦化される。なお、多層構造体の平坦度が確保できるのであれば、この平坦化工程は必須ではない。次に、図7(A)に示すように、層間絶縁層40上に層間絶縁膜50が形成され、これによって3層構造をもつ多層配線構造が形成される。多層配線構造の少なくとも最上層50の一部を除去することによって凹部が形成され、凹部の内表面上ならびに多層配線構造の表面にエッチングストッパー膜(例えば、Si膜)130a〜130cが形成される。続いて、凹部内および多層配線構造の表面を覆う犠牲層(例えばSiO層)135aが形成される。
【0081】
次に、図7(B)に示されるように、基板20の、第1主面とは反対側の第2主面上に、基板20の第1主面側に生じる応力を緩和するための応力緩和層10が形成される。応力緩和層10の形成時においては、基板20は、例えば、載置台上に載置されるが、このとき、基板20の第1主面(例えば表面)側に設けられている犠牲層135aの表面は、載置台等の表面に接触する。よって、犠牲層135aの表面が汚れたり、異物が付着したり、あるいは傷がついたりする場合がある。
【0082】
そこで、図8(A)に示される工程において、犠牲層135aを、CMP等の平坦化処理によって平坦化して、犠牲層135を凹部に埋め込む。このとき、応力緩和層10の形成時に付着した異物や汚れの除去も併せて行われる。これによって、応力緩和層10の形成に伴う異物の付着等の問題が解消される。そして、図8(B)に示すように、犠牲層135を含む多層配線構造体150上に、素子構造体160としての熱型検出素子(焦電型赤外線検出素子)220を形成する。次に、犠牲層135を除去して空洞部(熱分離空洞)102を形成する。これによって、熱型検出器(センサーデバイス)としての焦電型赤外線検出器200が完成する。
【0083】
(第3実施形態)
図9は、電子機器の構成の一例を示す図である。図9の電子機器は、例えば赤外線カメラである。図示されるように、電子機器は、光学系400と、センサーデバイス(熱型光検出器)410(前掲の実施形態では参照符号220)と、画像処理部420と、処理部430と、記憶部440と、操作部450と、表示部460と、を含む。なお本実施形態の電子機器は図9の構成に限定されず、その構成要素の一部(例えば光学系、操作部、表示部等)を省略したり、他の構成要素を追加したりする等の種々の変形実施が可能である。
【0084】
光学系400は、例えば1または複数のレンズや、これらのレンズを駆動する駆動部などを含む。そしてセンサーデバイス410への物体像の結像などを行う。また必要であればフォーカス調整なども行う。
【0085】
センサーデバイス410は、上述した本実施形態の光検出器を二次元配列させて構成され、複数の行線(走査線(あるいはワード線))と複数の列線(データ線)が設けられる。センサーデバイス410は、二次元配列された光検出器に加えて、行選択回路(行ドライバー)と、列線を介して光検出器からのデータを読み出す読み出し回路と、A/D変換部等を含むことができる。二次元配列された各光検出器からのデータを順次読み出すことで、物体像の撮像処理を行うことができる。
【0086】
画像処理部420は、センサーデバイス410からのデジタルの画像データ(画素データ)に基づいて、画像補正処理などの各種の画像処理を行う。処理部430は、電子機器の全体の制御や電子機器内の各ブロックの制御を行う。この処理部430は、例えばCPU等により実現される。記憶部440は、各種の情報を記憶するものであり、例えば処理部430や画像処理部420のワーク領域として機能する。操作部450は、ユーザが電子機器を操作するためのインターフェースとなるものであり、例えば各種ボタンやGUI(Graphical User Interface)画面などにより実現される。
【0087】
表示部460は、例えばセンサーデバイス410により取得された画像やGUI画面などを表示するものであり、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの各種のディスプレイにより実現される。
【0088】
このように、1セル分の熱型光検出器を赤外線センサー等のセンサーとして用いる他、1セル分の熱型光検出器を直交二軸方向に二次元配置することでセンサーデバイス(熱型光検出装置)410を構成することができ、こうすると熱(光)分布画像を提供することができる。このセンサーデバイス410を用いて、サーモグラフィー、車載用の夜間視認カメラあるいは監視カメラなどの電子機器を構成することができる。
【0089】
先に説明したように、センサーデバイス410(220)は、基板に生じる反りが抑制されていることから、製造上のバラツキが低減されて、信頼性が高い。よって、そのセンサーデバイスを搭載した電子機器も、同様の効果を享受する。
【0090】
図10は、電子機器の構成の他の例を示す図である。図10の電子機器800は、熱型光検出器220と、加速度検出素子503と、を搭載したセンサーユニット600を有する。センサーユニット600には、さらにジャイロセンサー等を搭載することもできる。センサーユニット600によって、異なる種類の物理量を測定することが可能である。センサーユニット600から出力される各検出信号は、CPU700によって処理される。
【0091】
以上説明したように、本発明の少なくとも一つの実施形態によれば、多層構造体に生じる応力による基板の反りを、効果的に低減することができる。
【0092】
以上、いくつかの実施形態について説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるものである。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。例えば、多層構造体において使用する材料の選択や、多層構造体の形成方法等に関しては種々、変形、応用が可能である。
【符号の説明】
【0093】
10 応力緩和層、20 基板(シリコン基板)、21 ソース層、22 ドレイン層、
23 ゲート絶縁膜、24 ゲート電極、25 サイドウオール、26 配線、
30 絶縁層、40,50 層間絶縁層、102 空洞部、
130(130a〜130c) エッチングストッパー膜、
135(135a) 犠牲層、150 多層配線構造(多層配線構造体)、
160 素子構造体、200 熱型光(赤外線)検出器、
210 支持部材(メンブレン)、
220 焦電型赤外線検出素子(センサーデバイス,熱型光検出器)、
226 第1コンタクトプラグ、228 第2コンタクトプラグ、
230 焦電キャパシター、232 焦電材料層(焦電体,PZT層)、
250 層間絶縁膜、252 第1コンタクトホール、
254 第2コンタクトホール、260 保護膜、280 エッチング保護層、
500 多層構造体、503 加速度検出素子、
M1,M3,M5,M6 プラグ、M2 2層目配線、M4 3層目配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の第1主面上に形成された多層配線構造と、
前記多層配線構造における、少なくとも最上層の一部に設けられた空洞部と、
前記空洞部を含む前記多層配線構造上に形成された素子構造体と、
前記基板の、前記第1主面とは反対側の第2主面上に形成された、前記基板の前記第1主面側に生じる応力を緩和するための、少なくとも一層の応力緩和層と、
を含むことを特徴とする多層構造体。
【請求項2】
請求項1記載の多層構造体であって、
前記応力緩和層の応力方向は、前記基板の前記第1主面側に生じる応力方向と同じであることを特徴とする多層構造体。
【請求項3】
請求項1記載の多層構造体であって、
前記空洞部は、前記多層配線構造における、少なくとも最上層の一部がエッチングによって除去された中空の凹部によって構成され、前記凹部の底面上および側面上には、前記凹部を前記エッチングによって形成する際の保護膜として機能するエッチングストッパー膜が形成されており、
かつ、前記応力緩和層を構成する少なくとも一層は、前記エッチングストッパー膜の材料と同じ材料の膜であることを特徴とする多層構造体。
【請求項4】
請求項3記載の多層配線構造体であって、
前記応力緩和層における、前記エッチングストッパー膜の材料と同じ材料の膜の膜厚をw1とし、前記エッチングストッパー膜の最も厚い部分の膜厚をw2としたとき、w1≧w2が成立することを特徴とする多層構造体。
【請求項5】
請求項1記載の多層配線構造体であって、
前記空洞部は、前記多層配線構造における、少なくとも最上層の一部が除去された中空の凹部によって構成され、前記空洞部は、前記凹部に埋め込まれていた犠牲層をエッチングによって除去して中空状態とすることによって形成され、
前記応力緩和層を構成する少なくとも一層は、前記犠牲層の材料と同じ材料の膜であることを特徴とする多層構造体。
【請求項6】
請求項1記載の多層配線構造体であって、
前記応力緩和層を構成する少なくとも一層は、ポリシリコン層あるいはアモルファスシリコン層であることを特徴とする多層構造体。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれかに記載の多層構造体であって、
前記素子構造体は、
前記多層配線構造体上に形成される支持部材と、
前記支持部材上に形成される熱型検出素子と、
を含むことを特徴とする多層構造体。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれかに記載の多層構造体を有することを特徴とする電子機器。
【請求項9】
基板の第1主面上に、多層配線構造の構成要素である層間絶縁膜を形成した後、前記基板の、前記第1主面とは反対側の第2主面上に、前記基板の第1主面側に生じる応力を緩和するための応力緩和層を形成する工程と、
前記層間絶縁膜を、平坦化処理によって平坦化した後、前記層間絶縁膜上に、少なくとも一層の導体層を含む層を形成して多層配線構造を形成する工程と、
前記多層配線構造の少なくとも最上層の一部を除去して凹部を形成する工程と、
前記凹部の内表面上にエッチングストッパー膜を形成した後、前記凹部内に犠牲層を形成する工程と、
前記犠牲層を含む前記多層配線構造上に素子構造体を形成する工程と、
前記犠牲層を除去して空洞部を形成する工程と、
を含むことを特徴とする多層構造体の製造方法。
【請求項10】
基板の第1主面上に、多層配線構造を形成する工程と、
前記多層配線構造の少なくとも最上層の一部を除去して凹部を形成する工程と、
前記凹部の内表面上にエッチングストッパー膜を形成した後、前記凹部内および前記多層配線構造の表面を覆う犠牲層を形成する工程と、
前記基板の、前記第1主面とは反対側の第2主面上に、前記基板の第1主面側に生じる応力を緩和するための応力緩和層を形成する工程と、
前記犠牲層を平坦化処理によって平坦化することによって、前記犠牲層を前記凹部に埋め込む工程と、
前記犠牲層を含む前記多層配線構造上に素子構造体を形成する工程と、
前記犠牲層を除去して空洞部を形成する工程と、
を含むことを特徴とする多層構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−37406(P2012−37406A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178383(P2010−178383)
【出願日】平成22年8月9日(2010.8.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】