説明

多層管材

【課題】製造コストが少なくて済み、作業時間が短く、加えて、架橋反応に起因する臭気性の有機成分が管内水に溶出するのを効果的に防止すると共に、外部からの有機成分の管内浸入をも効果的に阻止することができる多層管材を提供する。
【解決手段】多層管材は、架橋ポリエチレン製の管本体の内面に有機成分非透過性の熱可塑性樹脂被覆層が設けられているものである。被覆層を構成する熱可塑性樹脂は、好ましくは、ポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデンおよびポリアミドからなる群より選ばれた少なくとも1つである。好ましい被覆層は熱可塑性樹脂に吸着剤を含有せしめたものであり、吸着剤としてはゼオライト、活性炭のような多孔質体がよく用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋ポリエチレン製の管本体の内面に臭気物質等の有機成分を通さない被覆層を設けてなる、給水、給湯等の多層管材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
架橋ポリエチレンは、ポリエチレンに過酸化物架橋法(エンゲル法)やシラン架橋法などの架橋反応を施して得られるものであって、通常のポリエチレンに比べて、120℃以下での高温クリープ特性に優れており、このような特性に着目して、給湯或いは暖房用の配管材料としてよく用いられている。
【0003】
しかし、架橋ポリエチレンは、上記のような方法で得られるため、架橋反応の際に生成する比較的低分子量の臭気性有機成分を少量含んでおり、これが架橋ポリエチレン管内の水或いは湯に徐々に溶出し、不快な臭気を生じる原因となっている。
【0004】
従来、この問題の解決策として、架橋ポリエチレン管を40〜140℃で1〜150時間加熱処理することによって同管から臭気性の有機成分を除去する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第2535376号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1の方法では、架橋ポリエチレン管を加熱処理するのに多大な製造コストがかかる上に長い処理時間を必要とし、加えて、管を地下に埋めた場合や、露出した管に液がかかった場合などには、土中の有機成分やかかった液中の有機成分が管外面から内部に浸入し管内の水を汚染するという問題があった。
【0006】
本発明は、このような問題を克服すべく工夫されたものであって、製造コストが少なくて済み、作業時間が短く、加えて、架橋反応に起因する臭気性の有機成分が管内水に溶出するのを効果的に防止すると共に、外部からの有機成分の管内浸入をも効果的に阻止することができる多層管材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による多層管材は、架橋ポリエチレン製の管本体の内面に有機成分非透過性の熱可塑性樹脂被覆層が設けられているものである。
【0008】
本発明において多層管材の管本体を構成する架橋ポリエチレンは、エンゲル法やシラン架橋法等の公知の方法で得られ、例えば特公昭45−35658号公報や特公昭48−1711号公報等に記載されている方法が好適に採用できる。架橋ポリエチレンから管本体を成形する方法も公知の手法に従って行うことができる。架橋ポリエチレンからなる管本体は、一般的に使用されている給湯配管等の仕様のものであればどのようなサイズのものであっても良く、通常は、外径:6〜200mm、厚さ:1〜30mm、長さ:4〜100mの製品である。
【0009】
本発明において、被覆層を構成する熱可塑性樹脂は、好ましくは、ポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデンおよびポリアミドからなる群より選ばれた少なくとも1つであり、より好ましくはポリエチレンである。管本体の一般的な径は約2mmであり、この場合被覆層の厚さは0.01〜0.5mm、好ましくは0.05〜0.2mmである。
【0010】
好ましい被覆層は熱可塑性樹脂に吸着剤を含有せしめたものであり、吸着剤としてはゼオライト、活性炭のような多孔質体がよく用いられる。吸着剤の含有量は熱可塑性樹脂100重量部に対し0.1〜120重量部、好ましくは1〜80重量部である。吸着剤の含有量が多すぎると被覆層に割れが生じるなど成形性が悪くなり、少な過ぎると吸着剤の効果が十分発揮されない。
【0011】
架橋ポリエチレン製の管本体の内面に有機成分非透過性の熱可塑性樹脂被覆層が設けられ多層管材は、通常、多層押出し成形によって作製される。
【0012】
管本体と被覆層の間に接着剤層を介装させてもよい。接着剤層を有する多層管材は、内層と外層の接着強度が高くなる点で好ましい。
【0013】
本発明の効果を確認するために、内径13mmのパイプ内面に0.1mmの内層を多層押出成形にて作成し10cmのパイプサンプル内に10ccの水をいれ80℃-24h加熱後官能評価を実施し、パイプ内の臭いがなくなったことを確認した。
【発明の効果】
【0014】
本発明の多層管材によれば、製造コストが少なくて済み、作業時間が短く、加えて、架橋反応に起因する臭気性の有機成分が管内水に溶出するのを効果的に防止すると共に、外部からの有機成分の管内浸入をも効果的に阻止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
つぎに、本発明を具体的に説明するために、本発明の実施例およびこれとの比較を示すための比較例をいくつか挙げる。
【0016】
実施例1
低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製「SF−720」)100重量部とクラレケミカル社製の活性炭「PW−D」5重量部とを、サブ押出機(口径:32mm、L/D28)に供給し、架橋ポリエチレン(三井化学社製「リンクロン HHE740N」)100重量部と触媒マスターバッチ(三井化学社製「HZ082」)を5部を、メイン押出機(口径:40mm、L/D24)に供給し、多層押出成形を行い、厚さ2mmの架橋ポリエチレン製の管本体と、その内面全体を被覆する有機成分非透過性の熱可塑性樹脂被覆層(厚さ0.1mm)とからなる多層管材を成形した。
【0017】
こうして得られた多層管材の長さ10cmのサンプル内に10ccの水を入れ、80℃で24時間加熱した。
【0018】
実施例2
活性炭としてクラレケミカル社製の活性炭「PW−D」を10重量部用いた以外、実施例1と同様の操作を行って多層管材を得、これを同様に加熱処理した。
【0019】
実施例3
低密度ポリエチレンの代わりに高密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製「HY430」)100重量部を用いた以外、実施例1と同様の操作を行って多層管材を得、これを同様に加熱処理した。
【0020】
実施例4
活性炭としてクラレケミカル社製の活性炭「PW−K」を10重量部用いた以外、実施例1と同様の操作を行って多層管材を得、これを同様に加熱処理した。
【0021】
実施例5
活性炭の代わりにゼオライト(巴工業社製「アブセント」)10重量部を用いた以外、実施例1と同様の操作を行って多層管材を得、これを同様に加熱処理した。
【0022】
実施例6
低密度ポリエチレンの代わりに高密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製「HY430」)100重量部を用い、かつ活性炭を用いなかった以外、実施例1と同様の操作を行って多層管材を得、これを同様に加熱処理した。
【0023】
実施例7
低密度ポリエチレンの代わりにポリアミド(エムス昭和電工社製「CF6S」)100重量部を用い、かつ活性炭を用いなかった以外、実施例1と同様の操作を行って多層管材を得、これを同様に加熱処理した。
【0024】
比較例1
比較のために、単層管材として、架橋ポリエチレン製の管を実施例1と同様に加熱処理した。
【0025】
比較例2
比較のために、単層管材として、架橋ポリエチレン製の管を用意した(加熱処理せず)。
【0026】
官能試験
上記多層管剤および単層管材について下記の方法で官能試験を行った。
【0027】
パネラー:10名
評価基準
スコアー 1…臭気を全く感じない
2…臭いの特定はできない
3…微かに臭う
4…臭う
5…強く臭う
各パネラーのスコアーの平均値を求めた。これを表1に示す。
【表1】

【0028】
表1中、PE1は低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製「SF−720」、PE2は高密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製「HY430」)、PAはポリアミド(エムス昭和電工社製「CF6S」)、PW−Dはクラレケミカル社製の活性炭「PW−D」、PW−Kはクラレケミカル社製の活性炭「PW−K」をそれぞれ意味する。
【0029】
表1から分かるように、本発明による実施例1〜7の多層管材は比較例1〜2のものに比べ優れた臭気除去効果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋ポリエチレン製の管本体の内面に有機成分非透過性の熱可塑性樹脂被覆層が設けられている多層管材。
【請求項2】
上記熱可塑性樹脂がポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデンおよびポリアミドからなる群より選ばれた少なくとも1つである請求項1記載の多層管材。
【請求項3】
上記被覆層が吸着剤を含有した熱可塑性樹脂からなる請求項1記載の多層管材。
【請求項4】
上記吸着剤が多孔質体からなる請求項1〜3のいずれかに記載の多層管材。
【請求項5】
上記多孔質体がゼオライトまたは活性炭である請求項4記載の多層管材。
【請求項6】
上記管本体と上記被覆層とに間に接着剤層が介装されている請求項1〜5のいずれかに記載の多層管材。

【公開番号】特開2008−302622(P2008−302622A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−153071(P2007−153071)
【出願日】平成19年6月8日(2007.6.8)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】