説明

多方向入力装置

【課題】操作部材の上下に配置される上部部材と下部部材との導通状態を確保して装置内に侵入した静電気に起因する不具合を防止すること。
【解決手段】操作部材12を初期位置に復帰させる弾性部材9と、この弾性部材9を下方側から支持する弾性部材保持板8と、グランドに接触可能に設けられ、弾性部材9に上方側から被せられる取付部材11と、この取付部材11と弾性部材9との間に挟持され、取付部材11と弾性部材保持板8とを導通させる導通部材10とを具備し、取付部材11と弾性部材保持板8との間に弾性部材9及び導通部材10を挟み込んだ状態で取付部材11を装置の筐体2に係合保持させたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多方向入力装置に関し、特に、携帯電話装置やゲーム機用コントローラなどにおける方位入力操作に好適な多方向入力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話装置やゲーム機用コントローラなどにおいて、方位入力操作に好適な多方向入力装置が搭載されているものがある。従来、このような多方向入力装置において、組立作業性を改善するため、操作部材を初期位置に復帰させる弾性部材(復帰部材)を、その下方に配設された下部部材(復帰部材固定板)と、その上方に配設された上部部材(筐体取付板)とにより挟持し、下部部材及び上部部材にそれぞれ設けられた仮止め用係止手段を係合させて一体化して蓋体を形成する多方向入力装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−324083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述したような多方向入力装置においては、方位入力操作を受け付ける操作部材や、この操作部材に接続される部材を金属材料で形成するものが存在する。このような多方向入力装置においては、操作部材を突出させる開口部から方位入力操作に伴って静電気等が侵入して、信号出力に利用される接点部などが損傷する事態が発生し得る。このような事態を回避するため、従来、多方向入力装置においては、静電気に起因する不具合の発生を防止する対策が採用されている。
【0005】
例えば、上述したような従来の多方向入力装置において、下部部材は弾性部材を所定位置に保持し、上部部材は、下部部材とからなる蓋体自体を筐体に取り付けるという重要な役割を果たすことから、その耐久性を考慮して金属材料で形成されている。このため、このような多方向入力装置においては、これらの下部部材及び上部部材を介して装置内に侵入した静電気を外部に放電することが考えられる。この場合には、下部部材と上部部材との導通状態を確保しておく必要がある。
【0006】
しかしながら、上述したような従来の多方向入力装置においては、互いの仮止め用係止手段を介して一体化された下部部材及び上部部材を筐体に取り付ける際、下部部材を介在させた状態で上方に配置された上部部材で筐体を抱え込む構成を採ることから、下部部材が上部部材との係合部から離れる方向に移動することがあり、下部部材と上部部材との導通状態が確保されなくなる事態が発生し得る。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、操作部材を初期位置に復帰させる弾性部材の上下に配置される上部部材と下部部材との導通状態を確実に確保して装置内に侵入した静電気に起因する不具合を防止することができる多方向入力装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の多方向入力装置は、操作部材を初期位置に復帰させる弾性部材と、前記弾性部材を下方側から支持する下部部材と、グランドに接触可能に設けられ、前記弾性部材に上方側から被せられる上部部材と、前記上部部材と前記弾性部材との間に挟持され、前記上部部材と前記下部部材とを導通させる導通部材とを具備し、前記上部部材と前記下部部材との間に前記弾性部材及び導通部材を挟み込んだ状態で前記上部部材を装置の筐体に係合保持させたことを特徴とする。
【0009】
上記多方向入力装置によれば、グランドに接触可能な上部部材と下部部材との間に弾性部材及び導通部材を挟み込むようにしたことから、導通部材を弾性部材で上部部材に押し付けると共に、この導通部材を介して上部部材と下部部材とを導通させることができるので、操作部材を初期位置に復帰させる弾性部材の上下に配置される上部部材と下部部材との導通状態を確実に確保して装置内に侵入した静電気を外部に放電することができ、静電気に起因する不具合を防止することが可能となる。
【0010】
上記多方向入力装置においては、前記筐体が矩形状を有し、前記下部部材は当該筐体の4隅に対応する位置で外側へ露出し、当該露出部分にて前記導通部材を当接させることが好ましい。この場合には、筐体の4隅に対応する位置から外部に露出する下部部材の一部で導通路を形成することができるので、装置本体の外形サイズを大きくすることなく、装置内に侵入した静電気に起因する不具合を防止することが可能となる。
【0011】
また、上記多方向入力装置においては、前記導通部材に前記下部部材と当接する複数の係合腕部を設け、前記係合腕部の間に前記上部部材が有するグランドと導通するための導通腕部を配置することが好ましい。この場合には、下部部材と当接する複数の係合腕部の間の空間を利用して導通腕部を配置することができるので、上部部材の導通腕部を用いた導通路のために装置本体の外形サイズを大きくすることなく、上部部材をグランドと導通させることが可能となる。
【0012】
上記多方向入力装置においては、前記弾性部材及び導通部材にそれぞれ環状部を設け、双方の前記環状部を重ね合わせた状態で配置することが好ましい。この場合には、弾性部材と導通部材とが双方の環状部を重ね合わせた状態で配置されることから、弾性部材による弾性力を均等に配分した状態で導通部材を上部部材に押し付けることが可能となる。
【0013】
上記多方向入力装置においては、前記係合腕部の一部を前記弾性部材で支持した状態で前記下部部材に弾接させることが好ましい。この場合には、係合腕部の一部を弾性腕部で支持しているので、衝撃などが生じた場合においても、上部部材と下部部材との導通状態を確保することができ、確実に装置内に侵入した静電気を外部に放電することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、グランドに接触可能な上部部材と下部部材との間に弾性部材及び導通部材を挟み込むようにしたことから、導通部材を弾性部材で上部部材に押し付けると共に、この導通部材を介して上部部材と下部部材とを導通させることができるので、操作部材を初期位置に復帰させる弾性部材の上下に配置される上部部材と下部部材との導通状態を確実に確保して装置内に侵入した静電気を外部に放電することができ、静電気に起因する不具合を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施の形態に係る多方向入力装置の分解斜視図である。
【図2】上記実施の形態に係る多方向入力装置が有する筐体の平面図である。
【図3】上記実施の形態に係る多方向入力装置における中央可動接点板及び環状可動接点板が配設された筐体の平面図である。
【図4】上記実施の形態に係る多方向入力装置を組み立てた状態の斜視図である。
【図5】上記実施の形態に係る多方向入力装置の側断面図である。
【図6】図4に示す状態の多方向入力装置から取付部材を取り除いた場合の斜視図である。
【図7】上記実施の形態に係る多方向入力装置が有する導通部材の当接部周辺の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明に係る多方向入力装置は、携帯電話装置やゲーム機用コントローラなどにおける方位入力操作に好適されるが、これらに限定されるものではなく、静電気に起因する不具合を防止することが要請される任意の電子機器に搭載することが可能である。
【0017】
図1は、本発明の一実施の形態に係る多方向入力装置の分解斜視図である。図2は、本実施の形態に係る多方向入力装置が有する筐体の平面図である。図1に示すように、本実施の形態に係る多方向入力装置1は、複数の固定接点が設けられた筐体2と、この筐体2に収容される中央可動接点板3及び環状可動接点板4と、中央可動接点板3及び環状可動接点板4を筐体2に固定する粘着シート5とを備えている。また、多方向入力装置1は、粘着シート5の上方に配置される中央押圧部材6と、中央押圧部材6に挿通される環状押圧部材7と、この環状押圧部材7の上方に被せられると共に、後述する弾性部材9を下方側から支持する下部部材としての弾性部材保持板8、後述する操作部材12を初期位置に復帰させる弾性部材9、並びに、弾性部材保持板8と後述する取付部材11とを導通させる導通部材10と、これらの構成部品を筐体2に取り付ける上部部材としての取付部材11と、取付部材11から上方側に突出するように中央押圧部材6の一部に取り付けられる操作部材12とを備えている。
【0018】
筐体2は、絶縁性の合成樹脂を用いて略矩形状の薄い箱状に形成されている。筐体2の中央部には、図2に示すように、概して円形状を有する空洞部21が形成されている。空洞部21には、底面部から突出部としての円弧状のガイド壁22が立設されている。このガイド壁22には、図2に示す上下及び左右方向に凹部23が形成されている。また、空洞部21における筐体2の対角線位置には、放射状にそれぞれ凹溝形状を有し、環状可動接点板4を周方向に移動しないように保持する保持部24が一体的に形成されている。ガイド壁22の凹部23は、それぞれ隣接する保持部24の中間の位置に形成されている。凹部23及び保持部24には、ガイド壁22の外側の底面よりも上方位置において環状可動接点板4を支持する支持面23a及び24aが形成されている。
【0019】
ガイド壁22の内側の底面における中央位置は、概して円形状の中央用固定接点25aが設けられている。そして、この中央用固定接点25aの近傍には、一対の中央用共通電極25bが設けられている。これらの中央用固定接点25a及び中央用共通電極25bは、ガイド壁22の内側の底面よりも僅かに上方に突出するように筐体2にインサート成型されている。
【0020】
また、ガイド壁22の外側の底面における凹部23に対応する位置には、第1外部用固定接点26aが設けられている。これらの第1外部用固定接点26aは、空洞部21の底面において、図2に示す上下及び左右の4方向に一定の間隔をもって環状に設けられている。これらの第1外部用固定接点26aの間の位置であって、保持部24に対応する位置には、第2外部用固定接点26bが設けられている。
【0021】
これらの第1外部用固定接点26a及び第2外部用固定接点26bは、ガイド壁22の外側の底面よりも僅かに上方に突出するように筐体2にインサート成型されている。また、第1外部用固定接点26aは、環状可動接点板4との接触安定性を確保するために3つの突起部を有している。一方、第2外部用固定接点26bは、環状可動接点板4との接触安定性を確保するためにガイド壁22の周方向よりも径方向に長い形状を有している。さらに、いくつかの保持部24の支持面24aには、外部用共通電極26cが設けられている。外部用共通電極26cは、保持部24の支持面24aよりも僅かに上方に突出するように筐体2にインサート成型されている。
【0022】
さらに、筐体2の側壁部の角部には、後述する取付部材11の係合片113を収容する凹部27が形成されている。また、側壁部の上面であって、凹部27の近傍には、上方に突出する複数の突出片28が形成されている。突出片28は、保持部24を挟む位置に、それぞれの筐体2の角部に2つずつ形成されている。突出片28の上面には、取付部材11を支持する支持面28aが形成されている。
【0023】
中央可動接点板3は、図1に示すように、上方に向かって突出するドーム状に形成された湾曲部31と、中央用共通電極25bと接触する台座部32とを有している。この中央可動接点3の湾曲部31は、中央用固定接点25aに接離可能に対向配置されている。なお、中央可動接点板3の台座部32の直径は、中央用共通電極25b間の距離と同等と設計されている。
【0024】
環状可動接点板4は、大きな反力を発生させるばね性を有するもので、りん青銅などの金属平板材を用いて平板状に形成されている。また、環状可動接点板4は、筐体2のガイド壁22の外側の底面に対応する環状形状であって、第1外部用固定接点26a及び第2外部用固定接点26bによって形成された環と同等の大きさとなるように所定の径方向の幅を有して形成されており、第1外部用固定接点26a及び第2外部用固定接点26bに接離可能に対向配置されている。
【0025】
環状可動接点板4には、その外周から外側に延びる第1支持腕部41が保持部24に対応して4方向に形成されている。また、その内周かつ各第1支持腕部41の周方向の中間位置から内側に延びる第2支持腕部42が凹部23に対応して4方向に形成されている。第1支持腕部41がその先端部近傍で保持部24の支持面24aに載置される一方、第2支持腕部42がその先端部近傍で凹部23の支持面23aに載置されることで、環状可動接点板4が筐体2に支持される。一対の第2支持腕部42は、他の一対の第2支持腕部42よりも長く形成され、その先端部が僅かに筐体2の底面側に折り曲げられた被接着部43を有している。
【0026】
ここで、これらの中央可動接点板3及び環状可動接点板4が配設された状態の筐体2について図3を用いて説明する。図3は、本実施の形態に係る多方向入力装置1における中央可動接点板3及び環状可動接点板4が配設された筐体2の平面図である。図3に示すように、中央可動接点板3は、中央用共通電極25bに台座部32を載置した状態でガイド壁22の内側に配設される。また、環状可動接点板4は、第1支持腕部41を保持部24に収容すると共に、第2支持腕部42を凹部23に収容した状態でガイド壁22の外側に配設される。この場合において、第1支持腕部41は、筐体2に設けられた第1外部用固定接点26aの間でガイド壁22の径方向の外側に延びている。また、第2支持腕部42の被接着部43は、凹部23を介してガイド壁22よりも内側方向に僅かに延びた状態となっている。なお、第1支持腕部41の下面は、保持部24の支持面24aに載置され、第2支持腕部42の下面は、凹部23の支持面23aに載置されている。また、第2外部用固定接点26bは、環状可動接点板4の第1支持腕部41の基端部近傍(第1支持腕部41の付け根部分の近傍)の下面に対応する位置に配置されている。
【0027】
このように中央可動接点板3及び環状可動接点板4が配設された状態の筐体2に対して、ガイド壁22の内側の底面に対応する部分に粘着シート5が貼付される。粘着シート5は、中央可動接点板3と、環状可動接点板4の被接着部43とを覆うように、ガイド壁22の内側の底面に貼付される。これにより、中央可動接点板3及び環状可動接点板4が筐体2に対して固定された状態となる。
【0028】
図1に戻り、本多方向入力装置1の構成部品について説明する。環状押圧部材7は、環状可動接点板4の内径と同程度の直径を有して円形鍔状に形成されている。この環状押圧部材7は、その外周下方に環状可動接点板4を筐体2の底面部側に押圧する環状押圧部71を有している。また、環状押圧部材7は、その中心部分に概して円形状の中央孔72を有している。
【0029】
中央押圧部材6は、例えば、金属材料で成形され、環状押圧部材7の中央孔72に遊嵌する直径を有して円柱状に形成された挿着部61と、挿着部61及び環状押圧部材7の中央孔72の直径よりも大きな直径を有して円形状に形成された抑止部62と、環状押圧部材7の中央孔72から上方側に突出する突出部63とを有している。突出部63は、操作部材12の下面に形成された円柱状の軸部(不図示)と嵌合する凹部64を有しており、抑止部62は、その下面に、中央可動接点板3を筐体2の底面部側に押圧する凸状の中央押圧部65を有している(図5参照)。そして、中央押圧部材6は、環状押圧部材7の中央孔72に挿着部61を挿通しつつ、操作部材12の軸部と中央押圧部材6の凹部64とを嵌合して筐体2内に配設されている。
【0030】
弾性部材保持板8は、例えば、金属材料で成形され、筐体2の空洞部21よりも僅かに大きな径を有する概して円環形状を有している。弾性部材保持板8は、中央部に環状押圧部材7の中央孔72の直径よりも大きな直径を有する円形の中央孔81が形成された環形状部82を有している。環形状部82は、その外縁側に設けられた平面部82aと、この平面部82aの内側に連接された傾斜面部82bとから構成され、この傾斜面部82bの内側に中央孔81が形成されている。傾斜面部82bは、後述する弾性部材9の弾性ダイヤフラム部92bの下面内壁に当接可能な形状を有しており、操作部材12のスライド操作に伴って弾性ダイヤフラム部92bが変形した場合に弾性部材9の一部を初期位置に保持する役割を有している。
【0031】
また、弾性部材保持板8における筐体2の4隅部に対応する位置には、外側に延びる複数の係合片83が形成されている。係合片83は、それぞれ筐体2の角部に形成された一対の突出片28の間に配置される。これらの係合片83には、それぞれ挿通孔84が穿設されている。また、これらの係合片83の先端部には、その端部近傍に突出して設けられた一対の突出部85が設けられると共に、これらの突出部85の間に後述する取付部材11の係合片113が配置される凹部86が設けられている。これらの突出部85は、筐体2の外側に露出しており、その先端部に後述する導通部材10の当接部103aが当接するものとなっている。弾性部材保持板8は、環状押圧部材7の上方に配設されており、操作部材12が任意の周方向にスライド操作されると、環状押圧部材7の下面を筐体2のガイド壁22の上面で摺動させると共に、その上面を弾性部材保持板8の下面で摺動させながらスライド移動自在に狭持するように構成されている。
【0032】
弾性部材9は、例えば、ゴム等の弾性材料で構成され、概して円環形状を有して弾性部材保持板8の上方に配置される。この弾性部材9は、中央部に中央押圧部材6の突出部63の外周を覆う大きさの中央孔91が形成された環形状部92を有している。この環形状部92は、弾性部材保持板8の平面部82aに重ねられる平面部92aと、この平面部92aの内側に連接され、スライド操作が解除された操作部材12を初期位置(中心位置)へ復帰させるジグザグ断面を有する弾性ダイヤフラム部92bとを有している。平面部92aにおける弾性部材保持板8の係合片83に対応する位置には、外側に延びる複数の突出片93が形成されている。それぞれの突出片93の下面には弾性部材保持板8の挿通孔84に挿通しながら環状可動接点板4の第1支持腕部41を保持部24の支持面24a及び外部用共通電極26cに押圧して保持する複数の突出部94が形成されている。弾性ダイヤフラム部92bは、平面部92aの内縁部から膨出して設けられており、弾性部材保持板8の傾斜面部82bの上方に被せられる。なお、弾性部材9は、中央孔91を除いて、外部から筐体2の内部に水分や塵などが侵入するおそれのある穴が形成されておらず、筐体2に形成された開口部を密閉して覆うような蓋状に形成されている。
【0033】
導通部材10は、例えば、りん青銅などの金属平板材に打ち抜き加工及びプレス加工を施して形成され、概して円環形状を有している。導通部材10は、中央部に弾性部材9の弾性ダイヤフラム部92bを収容可能な開口部101を有する環形状部102で構成されている。環形状部102における弾性部材9の一対の突出片93に対応する位置には、弾性部材保持板8の係合片83と当接して弾性部材保持板8と取付部材11とを導通させる係合腕部103が設けられている。この係合腕部103は、それぞれの突出片93に対応して一対設けられている。これらの係合腕部103の先端部には、図1に示す下方側に折り曲げられ、弾性部材保持板8の係合片83に設けられた突出部85の外側端面に当接する当接部103aが設けられている。また、環形状部102における弾性部材9の他の一対の突出片93に対応する位置には、当該突出片93の上面に支持される被支持面104が設けられている。
【0034】
取付部材11は、例えば、金属製の平板材に打ち抜き加工及びプレス加工を施して形成され、中央部に円形状の開口部111が形成された矩形状の平面部112と、この平面部112の四隅部から垂下して設けられた導通腕部としての係合片113とを有している。開口部111は、弾性部材9の弾性ダイヤフラム部92bを収容可能な径に設けられており、平面部112は、導通部材10の環形状部102の上面に被せられるものとなっている。係合片113は、多方向入力装置1を組み立てた場合に、弾性部材保持板8の凹部86及び筐体2の凹部27に収容される位置に設けられている。取付部材11は、弾性部材保持板8、弾性部材9及び導通部材10を筐体2に拘束するように、これらの上方から被せられ、筐体2の下面側で係合片113の先端部を内側に折り曲げることで筐体2に取り付けられる。なお、筐体2の下面で内側に折り曲げられた係合片113の一部は、筐体2にインサート成形された不図示のグランド端子に接触可能に構成されている。
【0035】
操作部材12は、例えば、金属材料で成形され、概して下面に軸部が突出して設けられた円盤形状を有している。操作部材12は、下面に設けられた軸部を中央押圧部材6の凹部64に嵌合させ、取付部材11の開口部111から露出した弾性部材9の上方側に配置され、操作者からのスライド操作及び押圧操作を受け付け可能に構成されている。
【0036】
ここで、このような構成を有する多方向入力装置1を組み立てた状態について説明する。図4は、本実施の形態に係る多方向入力装置1を組み立てた状態の斜視図である。図5は、本実施の形態に係る多方向入力装置1の側断面図である。図5においては、中央押圧部材6の中心を通る面であって、筐体2の一側面と平行な面に沿って構成される側断面図を示している。
【0037】
図4及び図5に示すように、多方向入力装置1を組み立てると、中央可動接点板3、環状可動接点板4、中央押圧部材6、環状押圧部材7、弾性部材保持板8、弾性部材9及び導通部材10が組み込まれた状態の筐体2の上方側から取付部材11が取り付けられる。この場合において、取付部材11は、その平面部112の下面を突出片28の支持面28aに支持された状態となっている。弾性部材9の弾性ダイヤフラム部92bは、取付部材11の中央孔111から上方側に露出した状態となっている。弾性部材9の中央孔91からは、中央押圧部材6の突出部63が上方側に突出した状態となっており、この突出部63に形成される凹部64に操作部材12の軸部が嵌め込まれることで、操作部材12が本多方向入力装置1に取り付けられる(図5参照)。
【0038】
このように組み立てられた多方向入力装置1の内部においては、図5に示すように、筐体2の底面に設けられた中央用固定接点25aの上方に一定の空隙を持って中央可動接点板3が配置されている。また、環状可動接点板4が筐体2の凹部23の支持面23a及び保持部24の支持面24a(図5に不図示)に支持されており、中央可動接点板3及び環状可動接点板4の被接着部43に粘着シート5が貼付されている。この場合において、筐体2の底面部に設けられた第1外部用固定接点26a及び第2外部用固定接点26bの上方には、一定の空隙を持って環状可動接点板4が配置されている。
【0039】
また、粘着シート5の上方に中央押圧部材6が配置されている。環状押圧部材7は、中央孔72が中央押圧部材6の挿着部61の外周面に対応する位置に配置され、弾性部材9は、中央孔91が中央押圧部材6の突出部63の外周面に対応する位置に配置されている。操作者による操作が行われていない状態において、中央押圧部材6は、弾性部材9の弾性ダイヤフラム部92bの復元力、並びに、中央可動接点板65の押圧力によって図5に示す初期位置に配置されるように構成されている。
【0040】
このような構成を有する多方向入力装置1において、操作部材12を任意の径方向外側へスライド移動させて入力操作すると、環状押圧部材7が、筐体2のガイド壁22(図55に不図示、図1参照)の上面と弾性部材保持板8の下面と摺動しながら当該スライド操作された方向に移動し、環状押圧部材7の環状押圧部71が環状可動接点板4と当接する。その操作部材12をさらにスライド移動させると、環状押圧部71が環状可動接点板4を変形させて、環状可動接点板4とその下方にある第1外部用固定接点26a又は第2外部用固定接点26bが接触して導通する。これにより、多方向入力装置1は、操作部材12を任意の径方向外側へ入力操作したことを検出することが可能となる。そして、上述した径方向への入力操作を終了すると、弾性部材9の弾性復帰力により中央押圧部材6が初期位置(図5に示す位置)に戻され、これに伴って中央押圧部材6に固定された操作部材12が初期位置に復帰するものとなっている。
【0041】
また、操作部材12を押下して入力操作すると、中央押圧部材6の中央押圧部65が中央可動接点板3を押圧しながら変形させ、中央可動接点板3と中央用固定接点25aとが接触する。これにより、多方向入力装置1は、押下方向(図5に示す下方向)への入力操作を検出することが可能となっている。この場合において、環状押圧部材71は、ガイド壁22の上面によって押下方向への移動が制限されるが、中央押圧部材6の挿通部61は、環状押圧部材7の中央孔72に遊嵌していることから、当該中央孔72を摺動しながら押下方向へ移動することが可能となっている。これにより、ガイド壁22の上面と環状押圧部材7とが接触していても、操作部材12は押下方向への移動が可能となる。よって、径方向外側への入力操作のみならず押下方向への入力操作が可能となっている。そして、上述した押下方向への入力操作を終了すると、中央可動接点板3の弾性復帰力により中央押圧部材6が初期位置(図5に示す位置)に戻され、これに伴って中央押圧部材6に固定された操作部材12が初期位置に復帰するものとなっている。
【0042】
このように動作する際、本実施の形態に係る多方向入力装置1は、操作者による操作部材12に対する操作に伴って装置内部に侵入する静電気を、弾性部材保持板8をグランド端子に接触している取付部材11に確実に導通させ、この取付部材11を介して外部に放電するように構成されている。ここで、本実施の形態に係る多方向入力装置1における弾性部材保持板8と取付部材11との導通状態について説明する。図6は、図4に示す状態の多方向入力装置1から取付部材11を取り除いた場合の斜視図である。図7は、本実施の形態に係る多方向入力装置1が有する導通部材10の当接部103a周辺の拡大図である。
【0043】
本実施の形態に係る多方向入力装置1においては、上述のように、弾性部材保持板8の上方に弾性部材9が被せられると共に、この弾性部材9の上方に導通部材10を載置した状態で、これらの部材が筐体2に組み込まれるように取付部材11が上方側から取り付けられる。この場合、取付部材11は、一定の力で押し付けられた状態で筐体2に取り付けられていることから、導通部材10は、弾性部材9により取付部材11の下面に押し付けられている。特に、弾性部材9と導通部材10とは、それぞれの平面部92aと環形状部102とが重ね合わされた状態で配置されていることから、弾性部材9による弾性力を均等に配分した状態で導通部材10を取付部材11の下面に押し付けることができるものとなっている。
【0044】
また、導通部材10の係合腕部103は、弾性部材9の一対の突出片93の支持された状態となっている。そして、係合腕部103の当接部103aは、図6及び図7に示すように、突出片93の先端部よりも僅かに外側の位置から下方側に延出しており、その先端部が、筐体2の4隅に対応する位置で外側に露出した、弾性部材保持板8の係合片83に設けられた突出部85の先端に弾接した状態となっている。また、取付部材11の係合片113は、弾性部材保持板8の係合片83に設けられた凹部86に配置され、係合腕部103の間に配置されている。なお、導通部材10の被支持面104は、弾性部材9の他の一対の突出片93の上面に押し付けられた状態となっている。係合腕部103aだけでなく、被支持面104を弾性部材9の突出片93の上面に押し付けることで、導通部材104をバランス良く弾性部材9上に押し付けることができるものとなっている。
【0045】
このように導通部材10が弾性部材9により取付部材11の下面に押し付けられた状態において、その係合腕部103の当接部103aを、確実に弾性部材保持板8の係合片83に設けられた突出部85に弾接するように構成している。そして、上述のように取付部材11は、係合片113を介して筐体2にインサート成形されたグランド端子に接触した状態となっている。これにより、操作部材12に対する操作に伴って装置内部に侵入した静電気は、弾性部材保持部8の係合片83に設けられた突出部85、導通部材10及び取付部材11を導通路として、グランド端子から外部に放電することができるものとなっている。
【0046】
以上説明したように、本実施の形態に係る多方向入力装置1によれば、グランドに接触可能な取付部材11と弾性部材保持板8との間に弾性部材9及び導通部材10を挟み込むようにしたことから、導通部材10を弾性部材9で取付部材11の下面に押し付けると共に、この導通部材10を介して取付部材11と弾性部材保持板8とを導通させることができるので、操作部材12を初期位置に復帰させる弾性部材9の上下に配置される取付部材11と弾性部材保持板8との導通状態を確実に確保して装置内に侵入した静電気を外部に放電することができ、静電気に起因する不具合を防止することが可能となる。
【0047】
また、本実施の形態に係る多方向入力装置1においては、筐体2の4隅に対応する位置で外側に露出した弾性部材保持板8の一部(突出部85)に、導通部材10の係合腕部103を弾接させて導通路を形成していることから、装置本体のデッドスペースを利用して導通路を形成することができるので、装置本体の外形サイズを大きくすることなく、装置内に侵入した静電気に起因する不具合を防止することが可能となる。
【0048】
特に、本実施の形態に係る多方向入力装置1においては、筐体2の4隅に対応する位置で、係合腕部103の間に取付部材11が有するグランド端子と導通するための係合片113を配置している。これにより、係合腕部103の間の空間を利用して係合片113を配置することができるので、取付部材11の係合片113を用いた導通路のために装置本体の外形サイズを大きくすることなく、取付部材11をグランドと導通させることが可能となる。
【0049】
さらに、本実施の形態に係る多方向入力装置1においては、係合腕部103の一部を弾性部材9の突出片93で支持した状態で弾性部材保持板8に弾接させていることから、多方向入力装置1が搭載された機器の落下などによって衝撃等が生じた場合においても、取付部材11と弾性部材保持板8との導通状態を確保することができ、確実に装置内に侵入した静電気を外部に放電することが可能となる。
【0050】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている大きさや形状などについては、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 多方向入力装置
2 筐体
21 空洞部
22 ガイド壁
23 凹部
23a、24a 支持面
24 保持部
25a 中央用固定接点
25b 中央用共通電極
26a 第1外部用固定接点
26b 第2外部用固定接点
26c 外部用共通電極
27 凹部
28 突出片
28a 支持面
3 中央可動接点板
31 湾曲部
32 台座部
4 環状可動接点板
41 第1支持腕部
42 第2支持腕部
43 被接着部
5 粘着シート
6 中央押圧部材
61 挿着部
62 抑止部
63 突出部
64 凹部
65 中央押圧部
7 環状押圧部材
71 環状押圧部
72 中央孔
8 弾性部材保持板
81 中央孔
82 環形状部
82a 平面部
82b 傾斜面部
83 係合片
84 挿通孔
85 突出部
86 凹部
9 弾性部材
91 中央孔
92 環形状部
92a 平面部
92b 弾性ダイヤフラム部
93 突出片
94 突出部
10 導通部材
101 開口部
102 環形状部
103 係合腕部
103a 当接部
104 被支持面
11 取付部材
111 開口部
112 平面部
113 係合片
12 操作部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作部材を初期位置に復帰させる弾性部材と、前記弾性部材を下方側から支持する下部部材と、グランドに接触可能に設けられ、前記弾性部材に上方側から被せられる上部部材と、前記上部部材と前記弾性部材との間に挟持され、前記上部部材と前記下部部材とを導通させる導通部材とを具備し、
前記上部部材と前記下部部材との間に前記弾性部材及び導通部材を挟み込んだ状態で前記上部部材を装置の筐体に係合保持させたことを特徴とする多方向入力装置。
【請求項2】
前記筐体が矩形状を有し、前記下部部材は当該筐体の4隅に対応する位置で外側へ露出し、当該露出部分にて前記導通部材を当接させたことを特徴とする請求項1記載の多方向入力装置。
【請求項3】
前記導通部材に前記下部部材と当接する複数の係合腕部を設け、前記係合腕部の間に前記上部部材が有するグランドと導通するための導通腕部を配置したことを特徴とする請求項2記載の多方向入力装置。
【請求項4】
前記弾性部材及び導通部材にそれぞれ環状部を設け、双方の前記環状部を重ね合わせた状態で配置したことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の多方向入力装置。
【請求項5】
前記係合腕部の一部を前記弾性部材で支持した状態で前記下部部材に弾接させたことを特徴とする請求項3又は請求項4記載の多方向入力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−277898(P2010−277898A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130350(P2009−130350)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】