説明

多検体試料中における複数のルシフェラーゼを検出する方法

【課題】 発光色の異なる3種以上のルシフェリン/ルシフェラーゼの発光反応によるレポーターアッセイにおいて、発光反応開始から30分間以上の長時間にわたり、発光キネティクスの改良ならび相互の発光強度の制御を実現し、さらには発光色の異なる複数のシグナルを簡便な操作でバックグラウンドを低減して分離定量することにより、多検体試料の連続測定を可能とすること。
【解決手段】細胞溶解成分を含む試薬によって、2検体以上の多検体試料中における3色以上の多色ルシフェラーゼを同時に発光させ、連続的にレポーターアッセイするシステム。このシステムに用いる試薬、発光測定装置なども提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光色に特徴を持つ甲虫ルシフェラーゼの発光反応を安定化させる方法、その利用法、発光試薬および混合光から単色光を分離定量する技術に関する。本発明のシステムは、発光色の異なるルシフェラーゼ酵素をレポーターおよびシグナルとしたあらゆるルシフェラーゼアッセイ系、さらには多色同時発光測定系によるルシフェラーゼアッセイ系や多検体アッセイ系(High-Throughput Screening)に適用できる。
【背景技術】
【0002】
従来より、遺伝子発現(遺伝子からタンパク質に転写翻訳される過程)を数値化してモニタリングするため、発光タンパク質遺伝子が用いられている。通常は、北米産ホタルの発光タンパク質であるルシフェラーゼの遺伝子が用いられている。in vitro で北米産ホタルルシフェリン/ルシフェラーゼによる発光反応を行わせる際、その発光パターンはフラッシュ状に観察されるため、試薬注入の特別な機構を持つ装置を用いなければ発光反応を正確に測定することができなかった。これを改善すべく、ルシフェラーゼの検出方法(ルシフェラーゼアッセイ系)としてCoA などのチオール類を用いる方法により発光の半減期をおよそ5分間と延長し、かつ発光量を増大させ得る手法が発明された(特許文献1参照)。この方法により、ルシフェラーゼによる発光量の正確な測定が試薬の自動注入装置を持たないルミノメーターや液体シンチレーションカウンターによっても可能となり、培養細胞の中でレポーターとして発現されたルシフェラーゼを高感度で測定するレポーターアッセイ法に広く用いられるようになった。
【0003】
一方、上述のルシフェラーゼアッセイ法では、細胞の状態と細胞数を考慮し発光量を補正することのできる内部標準が必要であるとされている (非特許文献1)。このため、基質特異性の異なる別種のルシフェラーゼ遺伝子(例えばウミシイタケルシフェラーゼなど)を内部標準レポーターとして併せて細胞に導入し、二種類のルシフェラーゼ活性を個々に測定することから内部標準レポーターに対する対象レポーター(ホタルルシフェラーゼ)の転写活性効率を決定する。本法は、デュアルルシフェラーゼアッセイ法と呼ばれ、遺伝子発現研究において広く用いられている(非特許文献2)。しかしながら、本法はホタルルシフェリンに比べて極めて高価なセランテラジン(ウミシイタケルシフェリン)を使用し、かつ一方の発光反応(ホタル)を消光させてからもう一方の発光反応(ウミシイタケ)を測定する。すなわち、複数の試薬注入操作を必要とする。また、ウミシイタケルシフェリンの発光反応を長時間安定的に行わせる技術も確立していない。すなわち、多検体の遺伝子発現をモニターするシステムとして、高価な自動化された試薬注入用装置を必須とすることから、HTS(High-Throughput Screening)法など産業用途への適用が進んでいないのが現状である。
【0004】
これに対し、発光甲虫由来で発光色の異なるルシフェラーゼは共通の発光基質で発光反応を行う。そこでウミシイタケルシフェラーゼの代わりに、例えば鉄道虫由来の赤色発光ルシフェラーゼ(非特許文献3)を用い、従来用いられてきた黄緑色の北米産ホタルルシフェラーゼを同時に発光させ、それぞれの色調の差異と発光量を示す発光スペクトルを分光フィルターで分離できれば、それぞれの発光量を一回の測定ステップで定量できる。この操作を産業用途へ応用展開するため、一度の操作で多検体(一回の測定検体数が2検体以上)から発せされる発光色の異なるルシフェラーゼのシグナルを、測定誤差を極力排除して効率よく測定する方法の開発が必要とされていた。このような測定システムが実用化された場合、現在創薬メーカーで盛んに進められている単色光(単一シグナル)ルシフェラーゼによるゲノム創薬開発にむけたHTS法の効率を格段に向上させることが期待される。
【0005】
【特許文献1】特許第3171595号公報
【非特許文献1】細胞工学「脱アイソトープ実戦プロトコール2キット簡単編」、野村慎太郎、渡邉俊樹 監修, 秀潤社 (1998), p.334-346.
【非特許文献2】Grentzmann, G., Ingraman, J.J.A., Kelly, P.J., Gesteland, R.F., and Atkins, J.F. (1998) RNA 4, 479-486.
【非特許文献3】Viviani, V.R., Bechara, E.J.H, and Ohmiya, Y. Biochemistry (1999) 38, 8271-827.Biochem. Biophys. Res. Com. 280, 1286-1291.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、発光色の異なる3種以上のルシフェリン/ルシフェラーゼの発光反応によるレポーターアッセイにおいて、発光反応開始から30分間以上の長時間にわたり、発光キネティクスの改良ならびに相互の発光強度の制御を実現し、さらには発光色の異なる複数のシグナルを簡便な操作でバックグラウンドを低減して分離定量することにより、多検体試料の連続測定を可能とする1液型の多色発光同時測定用ルシフェラーゼ発光方法および検出システムを供給することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明者らは、ホタル科以外の新規の発光甲虫による発光反応についても実用化を目指すべく検討を行った。検討した発光甲虫として、ホタルモドキ科由来のルシフェラーゼとして鉄道虫Phrixothrix hirtus由来の赤色ルシフェラーゼ(非特許文献3)を中心に、さらにはイリオモテボタル由来のルシフェラーゼとしてRhagophthalmidae Ohbai 由来の緑色ルシフェラーゼ(Sumiya, M., Viviani, V.R., Ohba,N., and Ohmiya,Y. (1998) In Bioluminescence and Chmiluminescence. Proceeding of 10th International Symposium on Bioluminescence and Chemiluminescence (Roda, A., Pazzagli, M., Kricka, L., and Stanley, P.E., Erd.), pp.433-436, Bolona, Italy.)ならびにその部位特異的変異体の橙色ルシフェラーゼ(Viviani, V.R., Uchida, A., Suenaga, N., Ryufuku, M., and Ohmiya, Y. (2001) Biochem. Biophys. Res. Com. 280, 1286-1291.)を用い、それぞれの発光反応を測定可能な発光経時変化(Kinetics)への改良ならびに最適化を行った。また3発光色の発光強度の比率が大きい場合には測定機の制約から正確な発光量測定が困難となることより、安定な発光Kineticsを維持した条件下でそれぞれの発光強度を制御させ発光量比を近接させることから、多色同時発光測定が可能となる発光反応系を開発した。
【0008】
本発明者らはホタル科以外の発光甲虫由来のルシフェリン/ルシフェラーゼの発光反応を用いたシグナル検出方法にコエンザイムA(CoA)とピロリン酸あるいはピロリン酸塩を介在させ、その他のさまざまな成分を最適化することにより、共存可能な細胞溶解成分を含みかつ発光反応開始から30分以上経過した以降でも単位時間において発光強度が一定となる長時間発光持続型の発光反応試薬、さらに各発光色の発光強度を制御可能な発光反応系を構築させることに成功した。
【0009】
さらに、本発明者らは、複数の発光成分が混在する多検体の試料において、高効率で精度良く発光成分を分離定量する技術の成功を加えることにより、3色以上の多色ルシフェラーゼによるレポーターアッセイにおける、多検体試料の連続測定を可能とする1液型の多色発光同時測定用ルシフェラーゼ発光方法および検出システムである本発明を完成させた。
【0010】
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)細胞溶解成分を含む試薬によって、2検体以上の多検体試料中における3色以上の多色ルシフェラーゼを同時に発光させ、連続的にレポーターアッセイするシステム。
(2)赤、緑、オレンジ色のルシフェラーゼ発光の各々の時間変化が、時間の経過に関係なく発光量比が25%以下の範囲内で再現性が得られる(1)記載のシステム。
(3)3色以上の多色ルシフェラーゼの発光半減期30分以上長時間発光を可能にする(1)又は(2)記載のシステムに用いる試薬。
(4)3色以上の多色ルシフェラーゼを発光させる時、物理的な細胞溶解操作が不要な(1)又は(2)記載のシステムに用いる試薬。
(5)細胞溶解と3色以上の多色ルシフェラーゼの各色の発光操作を試薬添加の1回の操作で可能にする(1)又は(2)記載のシステムに用いる試薬。
(6)(3)〜(5)のいずれかに記載の試薬を用いて、2検体以上の多検体を連続的にレポーターアッセイする方法。
(7)(1)又は(2)記載のシステム及び/又は(3)〜(5)のいずれかに記載の試薬を用いたレポーターアッセイにおいて、単色光量を算出するために分光フィルターを使用する分光方法。
(8)(7)記載の方法で単色光量を算出するために用いた分光フィルターによって、ルシフェラーゼ発光波長以外の発光や電気化学的ノイズを排除する方法。
(9)分光フィルターを備えたことを特徴とする(1)又は(2)記載のシステムに用いる発光測定装置。
(10)分光フィルターによって得られた測定値より単色光量を算出する手段をさらに備えた(9)記載の装置。
(11)2検体以上の多検体試料に対する連続的なレポーターアッセイにおいて発光を測定する方法であって、細胞溶解成分を含む試薬によって、検体試料中における3色以上の多色光ルシフェラーゼを同時に発光させる工程、分光フィルターを使用して測定値を得る工程及び得られた測定値より単色光量を算出する工程を含む発光測定方法。
(12)(1)又は(2)記載のシステム及び/又は(3)〜(5)のいずれかに記載の試薬を用いて測定した結果を利用して、2種以上のレポーター若しくは2種以上の誘導因子の組み合わせ間の差異又は単一レポーター使用時との差異を測定する方法。
【0011】
本明細書において、「単色光量」とは、異なる波長の光を発するルシフェラーゼが複数種類混合状態にある場合、ある1種類のルシフェラーゼより発せられた光の量のことをいう。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、多色発光ルシフェラーゼとして選択されたイリオモテボタル由来の緑色発光ルシフェラーゼおよび橙色ルシフェラーゼ、さらには鉄道虫由来の赤色ルシフェラーゼの発光反応を用いたレポーターアッセイにおいて、反応開始から30分間以上の長時間反応において定量的かつ同時計測に必要とされる、単位時間あたりの発光強度が一定な発光キネティスク、ならびに測定レンジ内に3種の発光強度を近接させる制御系が実現し、1液型発光試薬による連続的な多検体用途多色発光同時測定のルシフェラーゼ発光反応システムの構築が可能となる。さらに発光色の異なる複数のシグナルを、簡便な操作でバックグラウンドを低減して分離定量が可能なレポーターアッセイシステムとその方法および装置の供給が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明で使用されるルシフェラーゼは、甲虫由来のホタルルシフェリン、即ち多複素式有機酸D-(-)-2-(6‘ヒドロキシ-2’−ベンゾチアゾリル)−D2−チアゾリン-4-カルボン酸(以降は特に記載のない限り「ルシフェリン」と表記する)を発光基質とし、これを酸化触媒して光子を発する酵素で、ホタル科以外の、ヒカリコメツキ科、ホタルモドキ科、イリオモテボタル科など発光甲虫由来で発光反応に与る酵素全てを含む。この中には組換えDNA技術や変異技術などにより、酵素タンパク自体の安定性や発光特性などが人為的に改変された酵素も含まれる。
【0014】
ルシフェリン/ルシフェラーゼの発光反応系におけるルシフェラーゼの濃度は、100 femto g / ml〜100 μg / mlが適当であり、好ましくは1 ng / ml〜200 ng / mlである。
【0015】
本発明で使用するルシフェリンは、上記の甲虫ルシフェリンであり、甲虫より直接抽出および精製されたものや、化学合成されたものを含む。さらには甲虫ルシフェリンの誘導体で、ある酵素の消化を受けた後に発光活性を持つ発光基質も含まれる。このような甲虫ルシフェリンの誘導体としては、4-メチル-D-ルシフェリン、D-ルシフェニル-L-メチオニン、6-O-ガラクトピラノシル-ルシフェリン、DEVD-ルシフェリン、ルシフェリン-6’メチルエステル、ルシフェリン6’-クロロエチルエステル、6’-デオキシルシフェリン、ルシフェリン6’ベンジルエステルなどを挙げることができる。ルシフェリンおよびその誘導体は塩の形態であってもよい。塩としては、カリウム塩、ナトリウム塩などを挙げることができる。
【0016】
ルシフェリン/ルシフェラーゼの発光反応系におけるルシフェリンの濃度は、0.001 mM〜100 mMが適当であり、好ましくは0.01 mM〜10 mMである。
本発明で使用するピロリン酸および/またはピロリン酸塩は、水溶性のものが好ましく、溶液のピロリン酸を初め、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、ピロリン酸アンモニウム、ピロリン酸水素ナトリムなどを用いることができる。ピロリン酸および/またはピロリン酸塩の使用濃度は、0.0001 mM〜100 mMが適当であり、好ましくは0.001 mM〜10 mMである。
【0017】
本発明で使用するCoAは、酵母より抽出・精製されたものであり、リチウム塩やナトリウム塩の形態のものを用いることができる。CoAの使用濃度は、0.001 mM〜100 mMが適当であり、好ましくは0.01 mM〜10 mMである。
本発明で使用するα−シクロデキストリンは、0.01%〜1.0%が適当であり、好ましくは0.05%〜0.5%である。
本発明で使用するフッ化ナトリウムは、0.1 mM〜500 mMが適当であり、好ましくは1 mM〜100 mMである。
【0018】
本発明で使用するサポニンは、セッケンボク樹皮由来、大豆由来、茶の実由来で抽出・精製されたものを用いることができる。サポニンの使用濃度は、0.001%から10%が適当であり、好ましくは0.01%から1%である。
本発明で緩衝成分として使用するHEPESやトリスは市販の生化学グレードのものであれば使用することができる。HEPES及びトリスの使用濃度は充分な緩衝能を持つため、通常5 mM〜1 Mの濃度が適当であり、好ましくは10 mM〜250 mMである。またこれら緩衝成分で使用するpHは7.0〜9.0が適当であるが、好ましいpH範囲は7.5〜8.5である。
【0019】
本発明のルシフェリン/ルシフェラーゼの発光反応においては、さらに、還元剤、アデノシン三リン酸、マグネシウムイオンを添加してもよい。
還元剤は、ルシフェラーゼ酵素を保護する作用があると考えられる。還元剤としては、ジチオカルバミン酸塩類、キサントゲン酸塩類、チオりん酸塩、チアゾール類などを挙げることができる。
【0020】
ジチオカルバミン酸塩類としては、ペンタメチレンジチオカルバミン酸ピペリジン、メチルペンタメチルジチオカルバミン酸ピペコリン、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、エチルフェニルジチオカルバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸ソーダ、ジエチルジチオカルバミン酸ソーダ、ジブチルジチオカルバミン酸ソーダ、ジメチルジチオカルバミン酸カリ、ジメチルジチオカルバミン酸銅、ジメチルジチョカルバミン酸鉄、エチルフェニルジチカルバミン酸鉛、ジエチルジチカルバミン酸セレン、ジエチルジチオカルバミン酸テルルなどを挙げることができるが、金属塩はこれに限定されることは無く目的に応じて周期律表に記載の金属塩であれば使用可能である。
【0021】
キサントゲン酸塩類としては、キサントゲン酸カリウム、ブチルキサントゲン酸亜鉛、イソプロピルキサントゲン酸ソーダなどを挙げることができるが、これに限定されることはなく、周期律表に記載の金属と塩が形成可能であれば使用可能である。
チオりん酸塩としては、ピペリジンービスー(o,o-ジステアリルジチオフォスフェート)などを挙げることができる。
【0022】
チアゾール類としては2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール亜鉛塩、2-メルカプトベンゾチアゾールナトリウム塩、2-メルカプトベンゾチアゾールシクロヘキシルアミン塩、2-メルカプトベンゾチアゾール銅塩などを挙げることができるが、これに限定されることは無く、周期律表に記載の金属と塩あるいは錯体を形成可能なら使用可能である。
【0023】
この他にも、ジチオスレイトール、ジチオエリトルトール、βメルカプトエタノール、2-メルカプトプロパノール、3-メルカプトプロパノール、2,3-ジチオプロパノール、グルタチオン、コエンザイムAなどのスルフヒドリル化合物を使用してもよい。
【0024】
還元剤は単独で使用することもできるが、混合して使用することも可能である。
還元剤の使用濃度は、0 mM〜50 mMが適当であり、好ましくは0.01 mM〜10 mMであるが、2 mM以下の濃度で使用することが可能である。場合によっては、還元剤を添加しなくてもよい。
【0025】
アデノシン三リン酸は、ルシフェラーゼとの反応により、ルシフェリンからルシフェリル-AMP(アデニレート)を生成し、発光反応に寄与する。アデノシン三リン酸は塩の形態であってもよい。塩としては、2ナトリウム塩、2カリウム塩、マグネシウム塩などを挙げることができる。
【0026】
アデノシン三リン酸の使用濃度は、0.01 pM〜50 mMが適当であり、好ましくは0.01 mM〜10 mMである。
マグネシウムイオンは、発光反応の補因子として考えられている。マグネシウムイオンを含む化合物としては、塩化マグネシウム、炭酸水酸化マグネシウム、硫酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、リン酸水素マグネシムなどを挙げることができる。
【0027】
マグネシウムイオンの使用濃度は、0.001 mM〜200 mMが適当であり、好ましくは0.1 mM〜100 mMである。
発光反応の制御に寄与するのは、上記成分がメインであるが、その他、培養細胞の溶解に必要な界面活性剤やグリセリン、BSA(牛血清アルブミン)、キレート剤など、発光反応の利用法に応じてさまざまな組成を添加することができる。
【0028】
本発明の発光試薬は、各成分を溶解した水溶液状態であってもよいし、凍結乾燥した状態であってもよい。水溶液状態の発光試薬は凍結品として供給し、解凍後十分に室温に戻した後に使用するとよい。また、発光試薬を凍結乾燥する場合には、試薬成分の内、溶液中では比較的不安定な成分(ルシフェリン、アデノシン三リン酸、CoAなど)のみを凍結乾燥し(これを試薬Aとする)、ピロリン酸および/またはピロリン酸塩の他、α−シクロデキストリン、フッ化ナトリウム、還元剤、マグネシウムイオン、サポニン、緩衝成分、その他の成分(例えば、培養細胞の溶解に必要な界面活性剤、グリセリン、BSA、キレート剤など)それぞれを使用時の溶液と同じ濃度となるように水に溶解した水溶液(これを試薬Bとする)とに分けて、凍結乾燥品(試薬A)を冷凍保存、また水溶液(試薬B)を冷蔵または冷凍保存するとよい。この場合、試薬Bを十分に室温に戻した後、試薬Aに加えて溶解し、溶液状態にしてから、使用するとよい。また、上記成分を2種類の培養細胞溶解試薬と発光試薬とに分割し、検体で発光反応を行わせる際に、全ての成分が混合されるような形態を取ることもできる。ルシフェリン/ルシフェラーゼの発光反応は、20℃〜25℃の温度の条件下で行うとよい。
【0029】
次に、多色発光ルシフェラーゼとして選択されたイリオモテボタル科由来の緑色発光ルシフェラーゼ、イリオモテボタル由来の橙色ルシフェラーゼ、さらには鉄道虫由来の赤色ルシフェラーゼが同時に発光している状態の試料より、各ルシフェラーゼ固有の光強度を測定するためには、3枚以上の任意の透過波長および透過率の色分離用のフィルター(分光フィルター)を利用するとよい。
【0030】
発光スペクトルを分析すると、イリオモテボタル科由来の緑色発光ルシフェラーゼは波長550 nm、イリオモテボタル由来の橙色ルシフェラーゼは580nm、さらに鉄道虫由来の赤色ルシフェラーゼは620nmを極大とした曲線を示す。しかしながら、緑色発光ルシフェラーゼの発光が消失する470 nmより短波長側において、温度・磁場などの外的要因でノイズとしてのシグナルが現れる(図1)。デュアルルシフェラーゼシステムなど、単色光の測定においてはそれが問題となることは少ないが、本システムにおける単色分離システムではこのノイズが測定結果に入内な誤差を生じさせる原因になる。そこで、本システムにおける緑色の半値幅がカバーでき、かつ電気化学的ノイズをカットすることが可能である520 nm〜370 nmまでの任意の波長から短波長側の光をカットする分光フィルターを使用することが必須である。この短波長側のシグナルをカットする分光フィルターをF1とする。さらに、520 nmより長波長側での分光フィルター2種を設定する。一例として、560 nmより短波長側の波長シグナルをカットする分光フィルターをF2、600 nmより短波長側の波長シグナルをカットする分光フィルターをF3とした。
【0031】
またF1、F2、F3から得られるシグナル値はそのまま各色の固有値(個々の発光量)を表さない。そこで、これらの分光フィルターを用いた場合の、色成分を分離定量するための計算方法を考案した。
【0032】
3色の発光成分G(イリオモテボタル科由来の緑色発光ルシフェラーゼの発光)・O(イリオモテボタル由来の橙色ルシフェラーゼの発光)・R(鉄道虫由来の赤色ルシフェラーゼの発光)を3枚の分光フィルターで個々に測定する方法を示す。まず、発光成分G O、Rについて、分光フィルターF1使用時において光電子増倍管などの検出器よりシグナル値を取得する。この値は、Gにおいて80%以上のシグナル値、OおよびRにおいては100%の発光スペクトルをカバーしている。故にG・O・Rの全光値とみなすことができる。次に、分光フィルターF2使用時においてのG・O・Rのシグナル値を求め、F1のシグナル値で除算することにより、G・O・Rの分光フィルターF2の透過率fg2・fo2・fr2を求める。分光フィルターF3使用時においても同様に透過率fg3・fo3・fr3を求める。成分Gの発光による検出器のシグナル値をg、成分Oの発光による検出器のシグナル値をo、成分Rの発光による検出器のシグナル値をrをとする実試料において、分光フィルターF1使用時のシグナル値がL1、分光フィルターF2使用時のシグナル値がL2、分光フィルターF3使用時のシグナル値がL3とすると、シグナル値は分光フィルターの透過率に比例するので、
連立方程式

【0033】
を成立させることが可能である。混合光中の緑色・橙色・赤色のシグナル値はそれぞれg・o・rであるから、この値を求める上記連立方程式を解くことによりそれを得ることが可能である。この連立方程式を解くにあたり、筆算でもその解を得ることができる。加えて、連立方程式の解法はガウス・ザイデル法、ガウスの消去法、トーマス法、変形これスキー法、逆行列を用いた演算方法等、様々な演算方法があるが、数学的に等価な計算方法をとる限り、g・o・rの値を求解できる。
【0034】
上記は3色に限定しているが、発光成分は無限に増やすことができ、発光成分数と同数の分光フィルターを用意すればよい。
【0035】
この方法を実現するための発光測定装置は微弱な発光測定に適した光電子増倍管やCCDを備え、かつ分光フィルターを装着できれば良い。分光フィルターは、一般に市販されている蛍光波長測定用フィルターもしくは長波長透過フィルターを用いることが可能であるが、発光量の少ない成分をより効率良く透過する分光フィルターを選択するのが望ましい。発光量の測定は、所望の期間にわたり、所望の時間間隔で行えばよい。但し、多検体試料の多色発光ルシフェラーゼアッセイにおいては、発光反応開始から8時間までの0.1秒から10秒間あたりのそれぞれの検体からの発光量が測定される。このシステムでは、分光フィルターを切り換えてから測定するために、分光フィルターの枚数が増えるに従って測定に時間差が生じるが、本発明では発光試薬による発光キネティクスの安定化を施しているため、問題とはならない。
発光測定装置の一例の概略図を図9に示す。
【0036】
発光測定装置の一例の概略図を図9に示す。試料台に、複数発光遺伝子が導入された細胞培養用プレートが設置される。検出試薬を試料に混合して発光を得るため、検出試薬が送液ポンプの動力により、送液パイプラインを通じて分注装置に送られる。分注装置は試料に対する検出試薬の液量を調節する。分注量はコンピュータで制御可能である。分注操作は測定前に全ての検体に対して行われる。モーター1が駆動することにより試料台が水平方向に移動することにより、検体に対して等量の検出試薬が混合される。さらに、分注後、モーター1により試料台を水平方向に振動させることも可能であり検体と検出試薬が均等に混じることを可能とする。検体から発せられた光は集光レンズにより分光フィルターに集光される。フィルター装着板は円盤状で、複数枚のフィルターが固定でき、測定者の希望するフィルターを、モーター2を回転させることにより選択可能である。また、分光フィルターの選択をコンピュータ制御し、連続的に異なる分光フィルターの切替を迅速に行わせる。分光フィルターを透過した光は、検出器に導入される。検出器において発光シグナルを電気シグナルに変換し、その値がコンピュータに転送される。コンピュータは、転送されたデータに基づき、各発光成分の値を計算するプログラムも有する。
【0037】
L1の値を分光フィルターF1を使用せずに測定した場合、橙色ルシフェラーゼを単独で発光させ検討した。前述の通り、520 nm以下の波長域で電気的ノイズが特に緑色・橙色ルシフェラーゼを発光させた時顕著に表れる傾向にある。分光フィルターF1を使用しないで単色光値を算出した場合、算出されるべきではない緑色ルシフェラーゼの発光値が算出される。この値は単独で発光させている橙色ルシフェラーゼの発光値の1%程度である(図2)。
【0038】
本発明は、多検体試料における多色発光を行わせた甲虫ルシフェラーゼ量の測定(ルシフェラーゼアッセイ)に利用することができる。ルシフェラーゼアッセイは、レポータージーンにルシフェラーゼ遺伝子を用いてその発光活性を測定することにより、遺伝子の転写活性を調べる方法である。例えば、解析対象のプロモーター下流にルシフェラーゼ遺伝子を結合させたベクターを培養細胞にトランスフェクションし、培養を行う。細胞の増殖過程で、プロモーターの転写活性が強ければ細胞内に多くのルシフェラーゼ酵素が産生され、また、活性が弱ければルシフェラーゼ酵素の産生量が低下する。本発明によるルシフェリン/ルシフェラーゼの発光反応により、ルシフェラーゼ酵素の量を高感度かつ簡便に定量することができる。ルシフェラーゼアッセイは、遺伝子発現の解析(プロモーター、エンハンサーの転写活性解析)、細胞中のmRNAの作用機序の解析、レセプターなど遺伝子調節機能を持つ蛋白質の構造と作用機序の解明、トランスジェニック植物における器官特異的な発現様式の解析などに利用することができる。
【0039】
このルシフェラーゼアッセイを更に高機能化させるべく考案されたのが多色発光同時測定による多色ルシフェラーゼ測定システムである。従来の単一シグナルによるルシフェラーゼアッセイ法では、発光反応自体のバラツキにより、アッセイデータの評価が困難とされてきた。このため、ホタルとは全く異なり互いに相互作用しない別種の発光反応系を導入し、2種類のルシフェラーゼ活性を個々に測定することから内部標準レポーターに対する対象レポーターの転写活性効率を決定する、いわゆる、デュアルルシフェラーゼアッセイ法が導入された。しかしこの方法では、高価な発光基質ならびに2ステップの反応を行う必要性などから、コスト及び操作性において、HTS(High-Throughput Screening)法など産業用途への適用が進んでいなかった。
【0040】
これに対し、発光甲虫由来で発光色の異なるルシフェラーゼは共通の発光基質で発光反応を行う。そこで発光色の異なるルシフェラーゼをそれぞれ同時に発光させ、それぞれの色調の差異と発光量を示す発光スペクトルを分光フィルターで分離できれば、それぞれの発光量を一回の測定ステップで定量できる。多色ルシフェラーゼ発光同時測定システムにより、1回の反応(1ステップ)から複数のシグナルが測定可能となる。このシステムにより、2種類の転写活性を2色の発光量からそれぞれ同時に測定する一方で、残る1色による発光量を内部標準とすることから、測定した2種類の転写活性を補正し、より精度の高い複数の転写活性の評価が可能となる。
【0041】
本発明は、本発明の発光試薬を含む多検体用アッセイキットも提供する。本発明のキットは、本発明の発光試薬の他、取扱説明書、大まかな使用法を示した操作法のフローチャート、混合光から単色光を算出する原理を記載した書類、計算式を含んだプログラムなどを同梱するとよい。
【0042】
取扱説明書には、発光反応の概要や測定原理、製品の特徴、保存条件、試薬の調製法ならびに操作法、関連製品、トラブルシューティングなどが記載されているとよい。本発明のキットは、さらに、用途に応じて、標準品となるルシフェラーゼ酵素(ルシフェラーゼアッセイに用いる場合)などを含んでもよい。
【0043】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0044】
ホタルモドキ科の鉄道虫Phrixothrix hirtus由来の赤色ルシフェラーゼ遺伝子(RED)を発現するpEX-Red、イリオモテボタル科のRhagophthalmidae Ohbai 由来の緑色ルシフェラーゼ(ROL)遺伝子を発現するpEX-ROL、イリオモテボタル科のRhagophthalmidae Ohbai 由来の緑色ルシフェラーゼ(ROL)遺伝子の部位特異的変異体の橙色ルシフェラーゼ(ROLO)遺伝子を発現する pEX-ROLO、の3種類の各ルシフェラーゼ発現ベクターのプラスミドを用意した。それぞれの発現ベクターは、市販のピッカジーンコントロールベクター2(製造番号:PGV-C2:東洋インキ製造(株)製)を用い、ベクター上のluc+遺伝子をそれぞれRED、ROL、ROLO遺伝子と置換して調製した。
37℃、5%のCO2の条件下でHam’s F-12培地(GIBCO社製)/10%ウシ胎児血清(FBS, 日本製薬社製)培地により培養したCHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣細胞)を用いた。96 wellプレート(Corning社製 No.3610)にCHO細胞が2×104 cells/well/100 μlとなるよう培養し、リポフェクトアミンプラス試薬(Invitrogen社製)を用いて200 ngの3種のプラスミドpEX-Red 、pEX-ROL、pEX-ROLO各プラスミドをCHO細胞に導入(トランスフェクション)した。トランスフェクション後24時間培養したCHO細胞培養液に対して、100 μlの1液系多色発光用のルシフェラーゼ発光試薬〔1.06 mM ATP/1.88 mM ルシフェリン/540 μM CoA/4.9 mM DTT(ジチオスレイトール)/5.34 mM MgSO4/7.5%α−シクロデキストリン/0.01% Triton X-100/100 mM トリス−塩酸(pH 7.8)〕を添加した。次に、96 well プレートをプレート振とう器(TAITEC社製TAIYO MICRO MIXER S-5)を用いて5分間96 well プレートの撹拌操作を行った後、ルミノメーター(Berthold社製 LB96V)によって得られる発光反応開始から130分間における3色(緑色、橙色、赤色)の発光強度の経時変化を比較した結果を図3に示した。発光半減期は、緑色、橙色、赤色でそれぞれ4.5時間、2.25時間、2.5時間となる結果を得た。
【実施例2】
【0045】
ホタルモドキ科の鉄道虫Phrixothrix hirtus由来の赤色ルシフェラーゼ遺伝子(RED)、イリオモテボタル科のRhagophthalmidae Ohbai 由来の緑色ルシフェラーゼ(ROL)遺伝子、イリオモテボタル科のRhagophthalmidae Ohbai 由来の緑色ルシフェラーゼ(ROL)遺伝子の部位特異的変異体の橙色ルシフェラーゼ(ROLO)遺伝子を、それぞれバキュロウイルス/カイコによるタンパク発現システム(片倉工業株式会社のSuperworm System)を利用し、それぞれ3種類のカイコ産生ルシフェラーゼ粗酵素標品を得た。
3種類のカイコ産生ルシフェラーゼ粗酵素標品を、以下の比率で混合した。
(1)緑色ルシフェラーゼをコントロールとした系
1.緑色:赤色:橙色=100:100:0
2.緑色:赤色:橙色=100:75:25
3.緑色:赤色:橙色=100:50:50
4.緑色:赤色:橙色=100:25:75
5.緑色:赤色:橙色=100:0:100
(2)赤色ルシフェラーゼをコントロールとした系
緑色:赤色:橙色=100:100:0
緑色:赤色:橙色=75:100:25
緑色:赤色:橙色=50:100:50
緑色:赤色:橙色=25:100:75
緑色:赤色:橙色=0:100:100
混合したライゼート20 μlを96 wellプレート(Corning社製 No.3610)に分注した。多色発光用のルシフェラーゼ発光試薬として、530 μM ATP/470 μM ルシフェリン/2 mM AED/5 mM MgSO4/0.1%α−シクロデキストリン/0.1 mM ピロリン酸カリウム/0.01%サポニン/20 mM NaF/100 mM トリス−リン酸(pH 8.0)を調製した。分光フィルターF1として、370 nm以上の光を透過するフィルターであるシャープカットフィルターL37(HOYA OPTRONICS社製)、分光フィルターF2として、560 nm以上の光を透過するフィルターであるシャープカットフィルターO56(HOYA OPTRONICS社製)、分光フィルターF3として600 nm以上の光を透過するフィルターであるシャープカットフィルターR60(HOYA OPTRONICS社製)をフィルター切り替え機能付きルミノメーター(Berthold社製 Mithras)に装着し、制御プログラムにより自動切替が可能な設定を行った。次に、上記発光試薬を96 wellプレートに添加し、96 well プレートをプレート振とう器(TAITEC社製TAIYO MICRO MIXER S-5)を用いて5分間96 well プレートの撹拌操作を行った。それぞれの分光フィルターから透過したシグナルを30秒間ずつ測定し、混合光から単色光を分離し、混合比率100の発光量値を100として、各色の発光量値をプロットした(図4)。また、もう一方の実験系として、分光フィルターF1を440 nm以上の光を透過するフィルターであるシャープカットフィルターY44(HOYA OPTRONICS社製)に変更し、上記と同様にF1、F2、F3を透過したシグナル値を測定し、混合光から単色光を計算により分離し、混合比率100の発光量値を100として、各色の発光量値をプロットした(図5)。分光フィルターF1をL37もしくはY44のいずれを使用した場合でも、同時に発光させた反応系で他の2色による発光量を、色識別が可能であり、酵素の混合比率と同一の値を算出できることが確認された(図6,7)。さらに、緑、赤の各色のルシフェラーゼをコントロールとした場合でも同様に酵素の混合比率と同一の値を得ることが可能であった。
なお、本実施例の実験において、分光フィルターF1として380 nm以上の光を透過するフィルター、390 nm以上の光を透過するフィルター、420 nm以上の光を透過するフィルター、480 nm以上の光を透過するフィルター、500 nm以上の光を透過するフィルター、520 nm以上の光を透過するフィルター、同様の結果が得られる。また、橙色ルシフェラーゼをコントロールとした場合でも単色光値を上記と同様に得られる。
【実施例3】
【0046】
ホタルモドキ科の鉄道虫Phrixothrix hirtus由来の赤色ルシフェラーゼ遺伝子(RED)がSV40プロモーター制御下で恒常的に発現するように設計したpEX-Red-SV40、イリオモテボタル科のRhagophthalmidae Ohbai 由来の緑色ルシフェラーゼ(ROL)遺伝子がフォルスコリンにより発現を誘導する転写因子結合配列CREを結合したpEX-ROL-CRE、イリオモテボタル科のRhagophthalmidae Ohbai 由来の緑色ルシフェラーゼ(ROL)遺伝子の部位特異的変異体の橙色ルシフェラーゼ(ROLO)遺伝子が腫瘍壊死因子−アルファ(TNF-α)により発現を誘導する転写因子結合配列NFκBを結合した pEX-ROLO-NF、の3種類の各ルシフェラーゼ発現ベクターのプラスミドを用意した。
37℃、5%のCO2の条件下でダルベッコ改変イーグル培地(DMEM, SIGMA社製)/10%ウシ胎児血清(FBS, 日本製薬社製)培地により培養したNIH3T3細胞を用いた。96 wellプレート(Corning社製 No.3610)にNIH3T3細胞が2×104 cells/well/100 μl となるよう培養し、リポフェクトアミン2000試薬(Invitrogen社製)を用いてpEX-Red-SV40wo
100 ng、 pEX-ROL-CRE を50 ng、pEX-ROLO-NFを50 ngのプラスミドをNIH3T3内に導入(トランスフェクション)した。24時間培養後、上記遺伝子の発現を誘導するために、10 μM フォルスコリンもしくは10 μg / ml TNF-αを含むダルベッコ改変イーグル培地に置換した。コントロールとして、薬剤を含まないダルベッコ改変イーグル培地に交換する操作のみを行った実験区を設定した。37℃、5%のCO2の条件下で8時間培養し、細胞を培養しているウェルに、多色発光用のルシフェラーゼ発光試薬[530 μM ATP/470 μM ルシフェリン/2 mM AED/5 mM MgSO4/0.1%α−シクロデキストリン/0.1 mM ピロリン酸カリウム/2%シクロデキストリンα/20 mM NaF/100 mM トリス−リン酸(pH 8.0)]を添加した。次に、96 well プレートをプレート振とう器(TAITEC社製TAIYO MICRO MIXER S-5)を用いて5分間96 well プレートの撹拌操作を行った後、分光フィルターF1として、370 nm以上の光を透過するフィルターであるシャープカットフィルターL37(HOYA OPTRONICS社製)、分光フィルターF2として、560 nm以上の光を透過するフィルターであるシャープカットフィルターO56(HOYA OPTRONICS社製)、分光フィルターF3として600 nm以上の光を透過するフィルターであるシャープカットフィルターR60(HOYA OPTRONICS社製)をフィルター切り替え機能付きルミノメーター(Berthold社製 Mithras)に装着し、制御プログラムにより自動切替が可能な設定を行った。各wellにおける、3種の分光フィルターから透過したシグナルを10秒間ずつ測定し、得られた値よりから単色光を分離定量した。緑色・橙色ルシフェラーゼの発光値を赤色ルシフェラーゼの発光値で除算し、コントロール区でのその値を1とした。フォルスコリンもしくはTNF-α誘導区においても緑色・橙色ルシフェラーゼの発光値を赤色ルシフェラーゼの値で除算して、値を得た。それらを比較すると、フォルスコリン誘導区では緑色ルシフェラーゼが、TNF-α誘導区では橙色ルシフェラーゼの発光値が有意に上昇しているのが確認された(図8)。故に、フォルスコリン誘導区ではCREが、TNF-α誘導区ではNFκB配列が遺伝子発現の上昇に関与している既報の実験結果と一致した(Gonzalez GA, Yamamoto KK, Fischer WH, Karr D, Menzel P, Biggs W 3rd, Vale WW, and Montminy MR. Nature (1989) 337, 749-52.およびGhosh S, May MJ and Kopp EB. Annu Rev Immunol. (1998) 16,225-60.)。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の多色発光同時測定用ルシフェラーゼ発光方法・単色光分離定量システムは、発光反応を1回行うだけで発光色の異なる複数のシフェラーゼによる発光量が同時に測定でき、従来の2倍から3倍のシグナルを得る高機能化されたルシフェラーゼアッセイなどに利用できる。従って、本発明の多色発光同時測定用ルシフェラーゼ発光方法を利用することにより、複数遺伝子の転写活性の同時測定を簡便に行うことができ、ゲノム創薬分野等に応用展開の可能性を拡げる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】鉄道虫由来赤色発光ルシフェラーゼ、イリオモテボタル由来緑色発光ルシフェラーゼ、イリオモテボタル由来橙色発光ルシフェラーゼの320 nm〜750 nmまでの発光スペクトルを示す。
【図2】イリオモテボタル由来橙色発光ルシフェラーゼによる発光反応において、分光フィルターF1を使用した場合(図2の上図)と、分光フィルター不使用の場合(図2の下図)における複合光から単色光の分離定量した結果を示す。
【図3】1液系で発光半減期2時間以上の多色発光用の発光試薬を用いた場合の、緑色、橙色、赤色の各ルシフェラーゼによる発光強度と時間経過を示す。
【図4】多色発光同時測定用ルミノメーターを用いた3色同時発光時において、緑色発光ルシフェラーゼをコントロールとした場合の、赤色発光ルシフェラーゼならびに橙色発光ルシフェラーゼの希釈系列における発光反応の定量性を示す。分光フィルターF1に370 nm以上の波長を透過するフィルターを用いた。
【図5】多色発光同時測定用ルミノメーターを用いた3色同時発光時において、緑色発光ルシフェラーゼをコントロールとした場合の、赤色発光ルシフェラーゼならびに橙色発光ルシフェラーゼの希釈系列における発光反応の定量性を示す。分光フィルターF1に440 nm以上の波長を透過するフィルターを用いた。
【図6】多色発光同時測定用ルミノメーターを用いた3色同時発光時において、赤色発光ルシフェラーゼをコントロールとした場合の、緑色発光ルシフェラーゼならびに橙色発光ルシフェラーゼの希釈系列における発光反応の定量性を示す。分光フィルターF1に370 nm以上の波長を透過するフィルターを用いた。
【図7】多色発光同時測定用ルミノメーターを用いた3色同時発光時において、赤色発光ルシフェラーゼをコントロールとした場合の、緑色発光ルシフェラーゼならびに橙色発光ルシフェラーゼの希釈系列における発光反応の定量性を示す。分光フィルターF1に440 nm以上の波長を透過するフィルターを用いた。
【図8】緑色ルシフェラーゼにNFκBを結合したプラスミド、橙色ルシフェラーゼにCRE配列を結合したプラスミドおよび赤色ルシフェラーゼを恒常的に発現させるため、SV40プロモーターを結合したプラスミドを同時にHEK293細胞にトランスフェクションし、薬剤誘導後の各分光フィルターからの発光量を算出し、薬剤誘導を行わない実験区の発光量を相対発光量1として、薬剤誘導実験区の発光量を示した。
【図9】本発明の発光測定装置の一例の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞溶解成分を含む試薬によって、2検体以上の多検体試料中における3色以上の多色ルシフェラーゼを同時に発光させ、連続的にレポーターアッセイするシステム。
【請求項2】
赤、緑、オレンジ色のルシフェラーゼ発光の各々の時間変化が、時間の経過に関係なく発光量比が25%以下の範囲内で再現性が得られる請求項1記載のシステム。
【請求項3】
3色以上の多色ルシフェラーゼの発光半減期30分以上長時間発光を可能にする請求項1又は2記載のシステムに用いる試薬。
【請求項4】
3色以上の多色ルシフェラーゼを発光させる時、物理的な細胞溶解操作が不要な請求項1又は2記載のシステムに用いる試薬。
【請求項5】
細胞溶解と3色以上の多色ルシフェラーゼの各色の発光操作を試薬添加の1回の操作で可能にする請求項1又は2記載のシステムに用いる試薬。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれかに記載の試薬を用いて、2検体以上の多検体を連続的にレポーターアッセイする方法。
【請求項7】
請求項1又は2記載のシステム及び/又は請求項3〜5のいずれかに記載の試薬を用いたレポーターアッセイにおいて、単色光量を算出するために分光フィルターを使用する分光方法。
【請求項8】
請求項7記載の方法で単色光量を算出するために用いた分光フィルターによって、ルシフェラーゼ発光波長以外の発光や電気化学的ノイズを排除する方法。
【請求項9】
分光フィルターを備えたことを特徴とする請求項1又は2記載のシステムに用いる発光測定装置。
【請求項10】
分光フィルターによって得られた測定値より単色光量を算出する手段をさらに備えた請求項9記載の装置。
【請求項11】
2検体以上の多検体試料に対する連続的なレポーターアッセイにおいて発光を測定する方法であって、細胞溶解成分を含む試薬によって、検体試料中における3色以上の多色光ルシフェラーゼを同時に発光させる工程、分光フィルターを使用して測定値を得る工程及び得られた測定値より単色光量を算出する工程を含む発光測定方法。
【請求項12】
請求項1又は2記載のシステム及び/又は請求項3〜5のいずれかに記載の試薬を用いて測定した結果を利用して、2種以上のレポーター若しくは2種以上の誘導因子の組み合わせ間の差異又は単一レポーター使用時との差異を測定する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−330185(P2007−330185A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−167121(P2006−167121)
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「健康維持・増進のためのバイオテクノロジー基盤研究プログラム 細胞内ネットワークのダイナミズム解析技術開発/複数種生体分子の細胞内識別技術の開発、細胞内の複数種生体分子同時解析技術の開発、総合調査研究」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(500031629)東洋ビーネット株式会社 (9)
【Fターム(参考)】