説明

多機能変換器

【課題】 2枚の支持ばねで磁気回路部を両面懸架し、電気信号で発音または振動させる多機能変換器にて、2枚の支持ばねをそれぞれインサート成形した2個のフレームを接合してケースを作るのでは、両支持ばねの平行が出にくく性能が向上しない問題の解決。
【解決手段】 ケースを1個のフレーム13で構成し、ポールピース3、磁石4、トッププレート5、重り6等からなる磁気回路部を2枚の支持ばねA、B(7、14)で両面懸架するが、支持ばねAはフレームにインサート成形し、支持ばねBはインサートせず、支持ばね外形をフレームの端部外周に設けた短円筒部に嵌め、固定リング15で押さえて接着剤で接合する。短円筒部には切り欠き13bを設け、この切り欠きに支持ばねの張り出し部(15aに類似)を嵌めて支持ばねの腕の方向を決める。これで両支持ばねを平行にし、支持ばねの向きを決めることができて高性能の多機能変換器が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話等の移動体通信機に組み込まれ、電気信号により音響あるいは振動を発生して、使用者に着信を知らせる多機能変換器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記のような携帯機器は、一般に、使用者に着信を知らせるのに、ブザー音やメロディ音を発することと、音は出さずに振動することを切り替えて使えるよう構成されており、以前は小型スピーカーに類する音響発生用の発音体と、偏心重りを小型モータで回転させて振動を発生する振動体の両方を内蔵する構造だったりしたが、近年、1個の変換器で音響と振動の両方を発生するものが用いられるようになった。この種の変換器には、ハンズフリー状態で会話する際の音声出力用にも使用できる多機能なものもある。
【0003】
図2はそのような多機能変換器の一例を示す側面図で、プラスチックのフレームA(1)とフレームB(2)を接合してケースを形成し、上面にプロテクタA(11)、下面にプロテクタB(12)を固定して部品を収容している。図の左側を断面図にして内部の部品構成を示すが、ポールピース3は磁性体で、中央の円柱部の内側に比重の大きな材料の重り6を充填するとともに、鍔部に円環状の磁石4を固定してあり、磁石4の上面に同じく磁性体で円環状のトッププレート5を固定して、磁気回路部を構成している。その上方にプラスチックなどの振動膜9を配置して外周をフレームA(1)に固定してあり、振動膜9の下面に固定したコイル10を、ポールピース3の円柱部の外周とトッププレート5の内周で作る磁気ギャップに位置させている。
【0004】
ポールピース3、磁石4、トッププレート5からなる磁気回路部の上面と下面に、それぞれ支持ばねA(7)と支持ばねB(8)を固定し、両支持ばねの外周をケースに固定して、磁気回路部を弾性的に支持している。両支持ばねは、本願発明を示す図1(B)に見るように、内周と外周の円環部を複数本の腕でほぼ§字状に連結した形状で、点溶接等によって支持ばねA(7)の内周の円環部をトッププレート5の上面に接合し、支持ばねB(8)の内周の円環部をポールピース3の下面に接合してある。
【0005】
一方、両支持ばねの外周の円環部を、それぞれプラスチックのフレームA(1)とフレームB(2)にインサート成形で埋設して固定してある。これにより磁気回路部と両支持ばねで、機械的振動部を構成する。このように2個の支持ばねを用いて上下両面で懸架することで、振動部は傾かずに上下振動し、トッププレート5やポールピース3がコイル10に接触して異音を発したり、部品が破損したりすることがない。2枚の支持ばねはほぼ同様の形状であるが、振動部を安定に支持するよう、腕の方向を例えば90°ずらした組み合わせにする。
【0006】
上記のような両面懸架の例は、例えば下記の特許文献1に見られる。
【特許文献1】特開2000−333282号公報
【0007】
この多機能変換器のコイル10に交流の駆動信号を供給すると、コイル10と磁気回路部の間に交番的な電磁力が発生する。駆動信号の周波数がある程度高くて可聴周波数領域であると、コイル10を固定してある振動膜9が振動してブザー音や音声等の音響を発生するが、支持ばねA、B(7、8)で支持された磁気回路部は固有振動数が低いためほとんど振動しない。逆に駆動信号が可聴周波数より低い機械振動領域の周波数であると、振動膜9の振動は微弱になって音が出なくなり、代わりに磁気回路部からなる振動部が振動を始め、振動がフレームを経て変換器を組み込んだ機器に伝わって、音響でなく振動で使用者に着信を知らせる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の多機能変換器にて、フレームA(1)とフレームB(2)には、それぞれ支持ばねA(7)と支持ばねB(8)の外周をインサート成形してあり、両フレームを突き合わせて超音波溶着で接合するが、その際二つのフレームを密着させるのが必ずしも容易でなく、そのためフレームの接合後に両支持ばねが平行にならず、共振周波数のずれを生じて品質が不安定になり、歩留まりも低下するという問題があった。本発明の目的は、完成後の製品において2枚の支持ばねの平行を保ち、高性能の多機能変換器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、ケースを従来のように2体のフレームによるのでなく、単体のフレームで構成する。磁気回路部でもある振動部は、従来と同じく上下2枚の支持ばねでケースに懸架するが、一方の支持ばねは外周をフレームの胴部にインサートし、他方の支持ばねはフレームにインサートせず、接着剤でフレームの段部に固定する。固定リングを用いて接着する方の支持ばねをフレームに押しつけ、支持ばねの落ち着きを確実にすることもある。前述のように2枚の支持ばねは、振動部を安定に支持をするようそれぞれ腕の向きを定めて固定する必要があり、外周をフレームに埋設する方の支持ばねは、インサート成形の際に治具で位置決めするが、フレームに接着する方の支持ばねについては、支持ばねを落とし込む短円筒部をフレームの端部に設け、円筒部内周の形状と支持ばね外形の嵌め合いによって支持ばねの中心出しと腕の方向決めを行う。
【発明の効果】
【0010】
本発明の効果は次のようなものである。
1.2枚の支持ばねの平行が保たれる。
2.フレームの短円筒部内周と支持ばね外形の嵌め合いによって、治具等を用いずに支持ばねの位置決めができる。
3.周波数調整のために支持ばねのばね厚を変えたい場合、フレームにインサートした支持ばねは金型の修正が必要であって手間がかかる。本願の構造にて接着剤で固定する方の支持ばねはそのような制約がなく、ばね厚の変更が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面により本発明の説明を行う。図1は本発明による多機能変換器の実施形態で、(A)は断面図、(B)は下面図であり、(A)は(B)のA−A断面を示す。プラスチックのフレーム13の上面にプロテクタA(11)、下面にプロテクタB(12)を固定してケースを構成し、部品を収容している。図(B)はプロテクタB(12)を取り外して描いてある。多機能変換器としての基本構造は図2の従来例と同様で、重り6を充填したポールピース3の鍔部に円環状の磁石4を固定し、磁石4の上面にトッププレート5を固定して磁気回路部を構成し、その上方に振動膜9を配置して外周をフレーム13に固定してあり、振動膜9の下面に固定したコイル10を、ポールピース3の円柱部の外周とトッププレート5の内周で作る磁気ギャップに位置させている。
【0012】
ポールピース3、磁石4、トッププレート5からなる磁気回路部の上面と下面にそれぞれ支持ばねA(7)と支持ばねB(14)を固定して、磁気回路部をケースに対し弾性的に支持している。両支持ばねは、図1(B)に見るように、内周と外周の円環部を複数本の腕部でほぼ§字状に連結した形状で、内周の円環部を点溶接等で、トッププレート5の上面と、ポールピース3の鍔部の下面にそれぞれ接合してある。
【0013】
本発明の多機能変換器は、ケースの構成と支持ばねの外周の固定方法が図2の従来例と異なる。すなわち、ケースを従来のように2体のフレームで構成するのでなく、図1(A)に見るように、単体のフレーム13の上下両面にプロテクタA(11)とプロテクタB(12)を固定して構成してある。ポールピース3、磁石4、トッププレート5等からなる磁気回路部は、ケースに対し2枚の支持ばねで両面懸架されて、振動部をも構成するが、上側の支持ばねA(7)はインサート成形により外周をフレームA(13)に埋設するのに対し、下側の支持ばねB(14)は外周をフレームにインサートしない。
【0014】
図1(A)、(B)にて、フレーム13の下端外周に丈の低い短円筒部13aを設けてあり、同図(B)のように下側の支持ばねB(14)の外周を短円筒部13に嵌めて内側の段部に当て、接着剤でフレーム13に接合する。この時、金属の固定リング15を設けて支持ばねB(14)を押さえることで、支持ばねB(14)の段部への落ち着きと固定が確実になる。図1(B)では、支持ばねB(14)の外周の円環部は固定リング15の下になっていて見えないが、固定リング15と同じような形状である。
【0015】
図1(B)に見るように、フレーム13の下端外周の短円筒部13aは、左右両側に切り欠き13bを設けてある。円環状の固定リング15は両側に張り出し部15aが設けてあり、円環状の外形がフレーム13の短円筒部13aの内周に嵌まって中心出しされるとともに、張り出し部15aが短円筒部13aの切り欠き13bに嵌って向きが決まる。
【0016】
図1(B)では固定リング15の下に隠れて見えない下側の支持ばねB(14)の外周も、固定リング15と似た円環状であるから、外形がフレーム13の短円筒部13aに嵌まって中心出しされるとともに、固定リング15の張り出し部15aと同様に外周の円環部に設けた張り出し部が、短円筒部13aの切り欠き13bに嵌まって腕の向きが定まる。このように短円筒部13aの内周と支持ばねB(14)の外形を、一定半径の円弧でない箇所のある形状にして、支持ばねB(14)の向きを形状的に拘束するのであり、切り欠き13bと張り出し部(15aに類似)の組み合わせはその一例である。
【0017】
上側の支持ばねA(7)はフレームAへのインサート時に治具で位置決めされ、これによって上下2枚の支持ばねは、例えば互いの腕の向きを90°ずらすなど、定まった関係でフレーム13に固定される。
【0018】
このように、本願発明の多機能変換器は、2枚の支持ばねの一方をフレームにインサートし、他方をフレームの段部に当てて固定リングで押さえて接着する構成により、従来のように支持ばねを2個のフレームA、Bにそれぞれインサートし、これらを重ねて接合する構造に比べて、完成状態で2枚の支持ばねの平行がよりよく保たれる。これによって高性能の多機能変換器が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の多機能変換器で、(A)は断面図、(B)は下面図であり、(A)は(B)のA−A断面である。
【図2】従来の多機能変換器の側面図で、左半分を断面で示す。
【符号の説明】
【0020】
1 フレームA
2 フレームB
3 ポールピース
4 磁石
5 トッププレート
6 重り
7 支持ばねA
8 支持ばねB
9 振動膜
10 コイル
11 プロテクタA
12 プロテクタB
13 フレーム
13a 短円筒部
13b 切り欠き
14 支持ばねB
15 固定リング
15a 張り出し部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気回路部と、コイルを固定した振動板とをケースに納め、磁気回路部を2枚の支持ばねでケースに両面懸架してなる多機能変換器において、
ケースを単一のフレームで構成し、
一方の支持ばねの外周をフレームにインサート成形し、他方の支持ばねの外周をフレームに接着剤で固定することを特徴とする多機能変換器。
【請求項2】
請求項1に記載の多機能変換器において、
支持ばねの外周をケースに接着する部分は、フレームの端部に短円筒部を設けて内周を一定半径の円弧から外れた箇所のある形状にし、支持ばねの外形をこれに対応する形状にして該短円筒部に嵌めることにより、支持ばねの位置と方向を定める構造であることを特徴とする多機能変換器。
【請求項3】
請求項2に記載の多機能変換器において、
短円筒部内周と支持ばね外形が一定半径の円弧から外れた箇所は、短円筒部に設けた切り欠きと、支持ばね外形に前記切り欠きに対応して設けた張り出し部であることを特徴とする多機能変換器。
【請求項4】
請求項1に記載の多機能変換器において、
固定リングを設けて支持ばねを押さえ、フレームに接着することを特徴とする多機能変換器。

【図1】
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【図2】
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