説明

多段海水淡水化装置及び多段海水淡水化装置の運転制御方法

【課題】高品質な生産水を得ることができる直列形式の多段海水淡水化装置及び多段海水淡水化装置の運転制御方法を提供する。
【解決手段】原水11を所定の高圧力とする高圧ポンプP1と、高圧とされた高圧供給水12中の塩分を濃縮する高圧逆浸透膜13aを備えた高圧逆浸透装置13と、透過水14を後流側に供給する透過水ラインL2に介装され、前記起動初期の透過水14を一時的に排水水ラインL6から排水する第1の排水弁21と、前記第1の排水弁21の下流側の透過水ラインL3に介装され、透過水14を所定の低圧力とする低圧ポンプP2と、前記低圧ポンプP2により低圧とされた低圧供給水15中の塩分を濃縮する低圧逆浸透膜16aを備えた低圧逆浸透装置16と、前記低圧逆浸透装置16の濃縮水側の排出ラインL5に介装され、低圧逆浸透装置16に供給する起動初期の低圧供給水15を一時的に排出する第2の排水弁22とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水から逆浸透法により高品質の生産水を得ることができる多段海水淡水化装置及び多段海水淡水化装置の運転制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より海水から真水を得る方法として、海水を蒸発させる蒸発法と、海水に圧力をかけて逆浸透膜(RO膜:Reverse Osmosis Membrane)と呼ばれる濾過膜の一種に通し、海水の塩分を濃縮して捨て、淡水を漉し出す逆浸透法とがある。
後者の逆浸透法は、蒸発法よりエネルギー効率に優れている反面、RO膜が海水中の微生物や析出物で目詰まりしないよう入念に前処理(原水である海水中の濁質分を除去する「UF膜(限外濾過膜)」又は「MF膜(精密濾過膜)」で処理)する必要があること等、メンテナンス等にコストがかかることが問題とされている。
【0003】
また、逆浸透法は、蒸発法並みの水質を得ることは困難であるので、高純度の水質を得るためには、複数段の逆浸透を組み合わせる必要がある。
ここで、従来の逆浸透法の多段海水淡水化装置の一例を図10に示す。
図10に示すように、従来の多段海水淡水化装置100は、前処理により濁質分を除去した原水(海水)101を所定の高圧力とする高圧ポンプP1と、前記高圧ポンプP1により高圧とされた高圧供給水102中の塩分を濃縮する高圧逆浸透膜103aを備えた高圧逆浸透装置103と、前記高圧逆浸透装置103を透過した透過水104を一時的に貯蔵する中間タンク110と、前記中間タンク110から供給された透過水104を所定の低圧力とする低圧ポンプP2と、前記低圧ポンプP2により低圧とされた低圧供給水105中の塩分を濃縮する低圧逆浸透膜106aを備え、生産水(淡水)107を得る低圧逆浸透装置106とを具備するものである。ここで、中間タンク110では、常圧に戻しているので、大気開放となり、システム停止時においては、pH調整剤を添加して透過水104のpHを調整し、微生物汚染の防止をしている(非特許文献1:「福岡県地区水道企業団:海水淡水化の仕組み」参照)。
ここで、図10中、符号103bは高圧逆浸透装置103からの濃縮水、106bは低圧逆浸透装置106からの濃縮水を図示する。
【0004】
【非特許文献1】「福岡県地区水道企業団:海水淡水化の仕組み」〈URL: http://www.f-suiki.or.jp/seawater/facilities/mechanism.php〉
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来では、複数段の逆浸透装置を組み合わせる場合、図10に示すように、通常間に中間タンク110をおいて運転するが、中間タンク110は微生物汚染の原因になる可能性があるので、常にpH調整剤111の添加が必要となる。
また、このpH調整剤111を添加した透過水は起動に際して、廃棄する必要があるので、廃棄した分、生産水107の転換率の低下となり、問題である。
さらに、この廃棄に伴い、システム起動時にタイムリーに生産水107を供給することができない、という問題もある。
【0006】
そこで、中間タンク110を排除することも考えられるが、複数段組み合わせる場合には、後段側(低圧逆浸透装置106)の濃縮水106bは塩濃度が前段側の高圧供給水102の塩濃度より小さいため、後段側の濃縮水106bを前段側の供給水側に戻すようにして循環運転する場合には、高圧供給水102側の塩濃度が小さくなり、浸透圧が小さくなるため、運転圧力が小さくなることとなり、この結果中間タンク110なしで直結することは、起動時の圧力変動が大きく、安定した起動運転が困難である、という問題がある。
【0007】
さらに、前段側に塩素耐性を持つ高圧RO膜を設け、後段側に塩素耐性を持たないRO膜を設けるような組合せのシステムの場合には、後段側の濃縮水106bを前段側の高圧供給水102側に戻す場合、前段の塩素殺菌が困難となるという問題がある。
【0008】
また、海水淡水化装置を設置するような離島や砂漠地帯においては、大量(2000〜5000t/日)にしかも安定して生産水を供給できる淡水化の技術が必要となる。
さらに、砂漠地帯に設置されるような化学プラント等に用いる水質は、飲料水(塩分濃度が250ppm以下)よりも更なる高品質な塩分含有量(例えば5ppm以下の純水)とすることが求められている場合がある。
【0009】
よって、複数段のRO膜を有する逆浸透法において、蒸発法並みの水質を確保できると共に、中間タンクを排除して微生物汚染を回避すると共に、直列での起動及び運転が可能となる多段海水淡水化装置の出現が切望されている。
【0010】
本発明は、前記問題に鑑み、海水から逆浸透法により高品質な生産水を得ることができる直列形式の多段海水淡水化装置及び多段海水淡水化装置の運転制御方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、原水を供給する原水ラインに介装され、原水を所定の高圧力とする高圧ポンプと、前記高圧ポンプにより高圧とされた高圧供給水中の塩分を濃縮する高圧逆浸透膜を備えた高圧逆浸透装置と、前記高圧逆浸透装置を透過した透過水を後流側に供給する透過水ラインに介装され、前記起動初期の透過水を一時的に排水する第1の排水弁と、前記第1の排水弁の下流側の透過水ラインに介装され、透過水を所定の低圧力とする低圧ポンプと、前記低圧ポンプにより低圧とされた低圧供給水中の塩分を濃縮する低圧逆浸透膜を備えた低圧逆浸透装置と、前記低圧逆浸透装置の濃縮水側の排出ラインに介装され、低圧逆浸透装置に供給する起動初期の低圧供給水を一時的に排出する第2の排水弁とを具備することを特徴とする多段海水淡水化装置にある。
【0012】
第2の発明は、第1の発明において、前記低圧逆浸透装置が複数台設置され、各々の低圧逆浸透装置の濃縮水側の排出ラインに介装され、低圧逆浸透装置に供給する起動初期の低圧供給水を一時的に排出する第2の排水弁を具備することを特徴とする多段海水淡水化装置にある。
【0013】
第3の発明は、第1又は2の発明において、前記低圧逆浸透装置からの濃縮水を上流側に返送する返送ラインを有することを特徴とする多段海水淡水化装置にある。
【0014】
第4の発明は、第1乃至3のいずれか一つの発明において、前記高圧逆浸透装置が塩素耐性を有する膜であることを特徴とする多段海水淡水化装置にある。
【0015】
第5の発明は、第1又は2の多段海水淡水化装置を用い、多段海水淡水化装置の起動初期の際に、原水を高圧逆浸透装置に供給する工程と、前記高圧逆浸透装置の高圧逆浸透膜を透過した透過水を一時的に第1の排水弁により排水する工程と、透過水が低圧ポンプの入口圧近傍に達した後に、第1の排水弁を閉じつつ、透過水を低圧逆浸透装置側に全量供給する工程と、前記低圧逆浸透装置に供給された起動初期の低圧供給水を一時的に第2の排水弁により排水する工程と、第2の排水弁を閉めつつ、低圧供給水を低圧逆浸透膜に透過させ、定格の海水淡水化運転に切り換え、生産水を生産する工程と、を有することを特徴とする多段海水淡水化装置の運転制御方法にある。
【0016】
第6の発明は、第4の多段海水淡水化装置を用い、多段海水淡水化装置の高圧逆浸透装置の殺菌運転の際に、塩素(Cl)を添加した原水に対し、第1の還元剤供給部から還元剤を供給せずに高圧逆浸透装置へ供給する工程と、前記高圧逆浸透装置の高圧逆浸透膜を透過した塩素を含む透過水に第2の還元剤供給部から還元剤を添加した後、一時的に第2の排水弁により還元剤を含む低圧供給水を排水する工程と、所定の殺菌運転が終了した後に、原水に第1の還元剤供給部から還元剤を添加し、第2の還元剤供給部からの還元剤の添加を停止し、通常運転に切り換える切替工程と、第2の排水弁を閉めつつ、定格の海水淡水化運転に切り換え、生産水を生産する工程と、を有することを特徴とする多段海水淡水化装置の運転制御方法にある。
【0017】
第7の発明は、第6の発明において、前記殺菌運転が終了した後に、低圧側の濃縮水を返送濃縮水ラインにより上流側に戻すことを特徴とする多段海水淡水化装置の運転制御方法にある。
【0018】
第8の発明は、第4の多段海水淡水化装置を用い、多段海水淡水化装置の高圧逆浸透装置の殺菌運転の際に、塩素(Cl)を添加した原水に対し、第1の還元剤供給部から還元剤を供給せずに高圧逆浸透装置へ供給する工程と、前記高圧逆浸透装置の高圧逆浸透膜を透過した塩素を含む透過水に第2の還元剤供給部から還元剤を中和当量よりも少なく添加した後、酸化還元電位計で酸化還元電位を計測しつつ、中和量の残りの還元剤を低圧供給水に供給する中和工程と、低圧供給水を低圧逆浸透膜に透過させ、生産水を生産する工程と、殺菌運転終了後、定格の海水淡水化運転に切り換え、生産水を生産する工程と、を有することを特徴とする多段海水淡水化装置の運転制御方法にある。
【0019】
第9の発明は、第8の発明において、前記殺菌運転時及び定格運転時に、低圧側の濃縮水を返送濃縮水ラインにより上流側に戻すことを特徴とする多段海水淡水化装置の運転制御方法にある。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、複数段のRO膜を有する逆浸透法において、蒸発法並みの水質を確保できると共に、中間タンクを排除して、停止時の微生物汚染を回避すると共に、直列での起動及び運転が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例1】
【0022】
本発明による実施例1に係る多段海水淡水化装置について、図面を参照して説明する。
図1は、実施例に係る多段海水淡水化装置の概略図である。
図1に示すように、本実施例に係る多段海水淡水化装置10Aは、原水(例えば海水)11を供給する原水ラインL1に介装され、原水11を所定の高圧力とする高圧ポンプP1と、前記高圧ポンプP1により高圧とされた高圧供給水12中の塩分を濃縮する高圧逆浸透膜(高圧RO膜)13aを備えた高圧逆浸透装置13と、前記高圧逆浸透装置13を透過した透過水14を後流側に供給する透過水ラインL2に介装され、前記起動初期の透過水14を一時的に排出ラインL6から排水する第1の排水弁21と、前記第1の排水弁21の下流側の透過水ラインL3に介装され、透過水14を所定の低圧力とする低圧ポンプP2と、前記低圧ポンプP2により低圧とされた低圧供給水15中の塩分を濃縮する低圧逆浸透膜(低圧RO膜)16aを備えた低圧逆浸透装置16と、前記低圧逆浸透装置16の濃縮水側の排出ラインL5に介装され、低圧逆浸透装置16に供給する起動初期の低圧供給水15を一時的に排出する第2の排水弁22とを具備するものである。
なお、原水を濾過する場合には、従来と同様に、海水中の濁質分を除去するUF膜(限外濾過膜)又はMF膜(精密濾過膜)等を用いて前処理するようにすればよい。
ここで、図1中、符号13bは高圧逆浸透装置13からの濃縮水、16bは低圧逆浸透装置16からの濃縮水、18は生産水ラインL7に介装され、規定値以下の生産水17aの場合に流路を切換える切替弁を図示する。
また、本実施例では、第1及び第2の排水弁21、22として三方弁を用いているが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0023】
そして、多段海水淡水化装置10Aを用いて、システムの起動を行う場合には以下の手順により起動するようにしている。
図2はその工程チャートである。
〈工程1〉 第1の工程では、システムの起動初期において、原水11を高圧逆浸透装置13に高圧ポンプP1を介して供給する(S−1)。この際、濃縮水13bは濃縮水ラインL4から外部に排水される。
〈工程2〉 第2の工程では、前記高圧逆浸透装置13の高圧逆浸透膜13aを透過した透過水14を、一時的に第1の排水弁21を介して排出ラインL6により排水する(S−2:図3−1参照)。
〈工程3〉 第3の工程では、第1の排水弁21を通過する透過水14が低圧ポンプP2の入口圧近傍に達した後に、第1の排水弁21を閉じつつ、所定圧力の透過水14を低圧逆浸透装置16側に低圧ポンプP2を介して全量供給する(S−3:図3−2参照)。
〈工程4〉 第4の工程では、前記低圧逆浸透装置16に供給された起動初期の低圧供給水15を、一時的に第2の排水弁22により排水する(S−4:図3−2参照)。
〈工程5〉 第5の工程では、低圧供給水15の圧力が、低圧逆浸透装置16の低圧RO膜16aの透過圧力に達した後に、第2の排水弁22を閉めつつ、低圧供給水15を低圧逆浸透膜16aに透過させ、定格の海水淡水化運転に切り換え、生産水17を生産する(S−5:図3−3参照)。
【0024】
このように、複数段(本実施例では2段)のRO装置を直結して組合せた場合、先ず第1の排水弁21で透過水14を排水して、低圧ポンプP2の所定の入口圧力となるまで待機し、その後透過水14が低圧ポンプP2の入口圧近傍に達したことを確認してから、第1の排水弁21を閉じつつ、低圧供給水15を低圧逆浸透装置16側に全量供給するようにしている。
次に、前記低圧逆浸透装置16に供給された起動初期の低圧供給水15を一時的に第2の排水弁22により排水して、低圧逆浸透装置16の低圧RO膜16aの透過圧力となるまで待機する。
そして、低圧逆浸透装置16のRO膜16aの透過圧力近傍に達したことを確認してから、第2の排水弁22を閉めつつ、低圧供給水15を低圧逆浸透膜16aに透過させ、定格の海水淡水化運転に切り換え、生産水17を生産するようにしている。
【0025】
これにより、従来のような中間タンクを設置せずとも安定して、起動初期の圧力変動を回避し、常に安定した立ち上げ運転とすることが可能となる。
【実施例2】
【0026】
図4は、実施例2に係る多段海水淡水化装置の概略図である。図1の多段海水淡水化装置の構成と重複する構成については、同一符号を付して重複する説明は省略する。
図4に示すように、本実施例に係る多段海水淡水化装置10Bは、実施例1の多段海水淡水化装置10Aにおいて、低圧逆浸透装置16で濃縮された濃縮水16bを循環ラインL8により、原水ラインL1に戻すものである。
これにより、濃縮水として廃棄していたものからも再度濃縮して生産水を得ることにより、濃縮水の廃棄量の低減と、生産水の生産量の増大を図るようにしている。
【0027】
そして、多段海水淡水化装置10Bを用いて、システムの起動を行う場合には以下の手順により起動するようにしている。
〈工程1〉 第1の工程では、システムの起動初期において、先ず原水11を高圧逆浸透装置13に高圧ポンプP1を介して供給する。この際、濃縮水13bは濃縮水ラインL4から外部に排水される。この濃縮水13bは高圧であるので、タービンTを駆動してエネルギーを回収するようにしている。
〈工程2〉 第2の工程では、前記高圧逆浸透装置13の高圧逆浸透膜13aを透過した透過水14を一時的に第1の排水弁21を介して排出ラインL6により排水する。
〈工程3〉 第3の工程では、透過水14が低圧ポンプP2の入口圧近傍に達した後に、第1の排水弁21を閉じつつ、透過水14を低圧逆浸透装置16側に低圧ポンプP2を介して全量供給する。
〈工程4〉 第4の工程では、前記低圧逆浸透装置16に供給された起動初期の低圧供給水15を一時的に第2の排水弁22により排水する。
〈工程5〉 第5の工程では、低圧供給水15の圧力が、低圧逆浸透装置16の低圧RO膜16aの透過圧力に達した後に、第2の排水弁22を閉めつつ、透過水を低圧逆浸透膜16aに透過させ、定格の海水淡水化運転に切り換え、生産水17を生産する。
〈工程6〉 第6の工程では、低圧逆浸透装置16において、所定の定格の濃縮運転がなされた後に、濃縮された濃縮水16bを返送濃縮水26として、流量計FC及び切替弁25を調節しつつ、排出ラインL8により原水ラインL1に返送する。
【0028】
これにより、単に返送濃縮水として、戻すものではないので、後段側の低圧逆浸透装置16からの濃縮水16bを原水側に戻すことができ、浸透圧が小さくなることによる運転圧力の低下を防止できる。
【0029】
実施例1及び2によれば、蒸発法並みの水質を確保できると共に、中間タンクを排除しているので、微生物汚染を大幅に低減することができる。
【実施例3】
【0030】
図5は、実施例3に係る多段海水淡水化装置の概略図である。図1及び図4の多段海水淡水化装置の構成と重複する構成については、同一符号を付して重複する説明は省略する。
図5に示すように、本実施例に係る多段海水淡水化装置10Cは、実施例2の多段海水淡水化装置10Bにおいて、高圧逆浸透装置13には塩素耐性を有する高圧RO膜13aを配置すると共に、低圧逆浸透装置16には塩素耐性を有しない低圧RO膜16aを配置し、所定期間の運転の後に、原水11中に添加した塩素を中和する還元剤32の添加を停止して、原水中の塩素を用いて殺菌処理を所定時間行うようにして、高品質な生産水を安定して得るものである。
本実施例では、塩素耐性を有する高圧RO膜13aとしては、酢酸セルロース膜を用いている。塩素耐性を有しない膜としては、ポリアミド膜を用いている。
【0031】
図5に示すように、通常運転時においては、第1の還元剤供給部31−1から原水ラインL1に還元剤32を供給して、塩素を中和するようにしている。
この場合には、透過水ラインL2には、第2の還元剤供給部31−2から原水ラインL1への還元剤32の供給は停止している。
ここで、前記還元剤としてはSBSを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
そして、運転初期においては、実施例1のようにして運転を開始し、定格運転を係属している。
【0032】
そして、殺菌処理運転を行う場合の第1の殺菌運転モードについて説明する。
図6−1及び図6−2は殺菌運転モード(その1)である。
図6−1に示すように、第1の工程では、塩素(Cl)を添加した原水11Clに対し、第1の還元剤供給部31−1から還元剤32を供給せずに高圧逆浸透装置13へ供給する(工程1)。
第2の工程では、前記高圧逆浸透装置13の高圧逆浸透膜13aを透過した塩素を含む透過水14Clに第2の還元剤供給部31−2から還元剤(SBS)32を添加して中和した後、低圧逆浸透装置16の低圧RO膜16aを通過させると共に、一時的に第2の排水弁22により還元剤(SBS)を含む低圧供給水15SBSを排水する(工程2)。ここで、この第2の工程においては、還元剤が含まれた低圧供給水15SBSとなっているので、返送ラインL8で原水11側に返送することを、切替弁25の切替操作により停止するようにしている。これは、原水中に還元剤が供給され、殺菌運転を阻害するのを防止するためである。
図6−2に示すように、第3の工程では、所定の殺菌運転が終了した後に、原水11に第1の還元剤供給得31−1から還元剤32を添加し、31−2からの還元剤32の添加を停止し、通常運転に切り換える(工程3)。
第4の工程では、第2の排水弁22を閉めつつ、定格の海水淡水化運転に切り換え、生産水17を生産する。
なお、低圧逆浸透装置16の前後には、酸化還元電位(ORP)計41−1、41−2が介装され、低圧供給水15中の酸化還元電位を計測するようにしている。
殺菌運転処理の時間は、設備及び運転負荷に応じて、適宜変更すれば良いが、一例としては、6〜10時間程度運転した後、1時間程度塩素殺菌をするようにしている。
前記殺菌が終了した後に、低圧側の濃縮水を返送濃縮水ラインL8により返送濃縮水26として上流側に戻すようにしている。
これにより、所定期間の運転毎に塩素殺菌をすることで、膜の殺菌処理を行い、常に一定品質以上の清浄な生産水を連続して生産することができる。
【実施例4】
【0033】
図7は、実施例4に係る多段海水淡水化装置の概略図である。図5の多段海水淡水化装置の構成と重複する構成については、同一符号を付して重複する説明は省略する。
【0034】
本実施例は、殺菌処理運転を行う場合の第2の殺菌運転モードである。
図7は殺菌運転モード(その2)である。図7に示すように、本実施例に係る多段海水淡水化装置10Dは、実施例3の多段海水淡水化装置10Cにおいて、酸化還元電位計(ORP)を操作して、殺菌運転処理においても、生産水を生産することができるようにしている。
図7に示すように、多段海水淡水化装置の高圧逆浸透装置の殺菌運転の際に、以下の工程を実施する。
第1の工程は、塩素(Cl)を添加した原水11Clに対し、第1の還元剤供給部31−1から還元剤32を供給せずに高圧逆浸透装置13へ供給する(工程1)。
第2の工程は、前記高圧逆浸透装置13の高圧逆浸透膜13aを透過した塩素を含む透過水14Clに第2の還元剤供給部31−2から還元剤(SBS)32を中和当量よりも少なく添加した後、酸化還元電位(ORP)計41−1で酸化還元電位を計測しつつ、中和量の残りの還元剤32を第3の還元剤供給部31−3から低圧供給水に供給する(工程2)。
このような対策を行う理由は以下の通りである。
高圧逆浸透装置13の透過水14Clからくる塩素を消すため、還元剤32を安全側の見地から第1の還元剤供給部31−1で過剰に供給するようにしている。
ここで、ORP計41−1では、塩素が存在する時はその値が大きいが、塩素が消去されてからは、どの程度還元剤が供給されたか否かを判断するのは困難である。
図8は出口の水において塩素濃度が0.3ppm入っている状態で、還元剤(SBS)を添加したときのORPの変化を示している。
図8に示すように、塩素が多量に存在する時はORP値が高く、塩素が存在しない場合には、ORP値は低くなっている(マイナス)。
このため、塩素が消費された以降は還元剤が過剰に入っても、還元剤の濃度の測定が困難となる。これは、還元剤32が多量に入るので生産水17を生産する場合には、通常の運転の場合の生産水よりも還元剤が多量に含有する生産水17となる。これを防止するために、実施例3では、第2の排水弁22から還元剤を含む低圧供給水15SBSを排水している(実施例3の工程2:図6−1参照)。
【0035】
これに対して、本実施例では、酸化還元電位計41−1で還元剤の供給量をモニタリングし、その値として感度が高い領域(今回の場合200〜400mV)の間で制御し、その後定量ポンプを有する第3の還元剤供給部31−3にて還元剤32を一定量(今回は1ppm程度)入れることにより、塩素を完全に消去すると共に過剰な還元剤の供給を抑制するようにしている。
これより、還元剤の供給を適切に管理できると共に、殺菌運転時においても還元剤の含有が極めて少ない生産水を生産することができることとなる。
【実施例5】
【0036】
図9は、実施例5に係る多段海水淡水化装置の概略図である。図1の多段海水淡水化装置の構成と重複する構成については、同一符号を付して重複する説明は省略する。図9に示すように、本実施例に係る多段海水淡水化装置10Eは、実施例1の多段海水淡水化装置10Aにおいて、低圧逆浸透装置16を2段(低圧逆浸透装置16−1、低圧逆浸透装置16−2)としている。
さらに、第1の低圧逆浸透装置16−1で濃縮された濃縮水を循環ラインL8により、返送濃縮水26−1として原水ラインL1に戻すと共に、第2の低圧逆浸透装置16−2で濃縮された濃縮水を循環ラインL12により、返送濃縮水26−2として透過水ラインL3に戻すようにしている。
なお、図9中、符号15−1、15−2は低圧供給水、22−1,22−2は第2の排出弁、25−1、25−2は切替弁、L9は低圧水透過ライン、L10は排水ライン、L11は排出ラインを各々図示する。
【0037】
システムの起動初期には、第1の低圧逆浸透装置16−1から起動し、第1の排水弁21−1で排水をしつつ、所定圧力となったところで、第2の低圧逆浸透装置16−2に低圧供給水15−2を供給し、第1の排水弁21−2で所定圧力となったところで、第2の低圧逆浸透装置16−2で生産水17を生産するようにしている。
【0038】
さらに、本実施例では、原水11の流量を「100」とした場合、返送濃縮水26−1の戻りにより流量「104」の原水が高圧逆浸透装置13に供給される。
この高圧逆浸透装置13の高圧RO膜13aを通過するのは流量「44」、高圧の排水として流量「60」の濃縮水13bがタービンT側に供給され、ここでエネルギー回収を行っている。
次に、第1の低圧逆浸透装置16−1の低圧RO膜16aを通過するのは流量「40」の透過水19であり、排水として流量「4」の濃縮水が返送濃縮水26−1として、原水11に戻され再利用している。
最後に、第2の低圧逆浸透装置16−2の低圧RO膜16aを通過するのは流量「36」の生産水17であり、排水として流量「4」の濃縮水が返送濃縮水26−2として、透過水14に戻され再利用している。
【0039】
殺菌処理の場合には、実施例3及び4のいずれかを実施することで常に品位の高い生産水を製造することができるようにしている。
【0040】
このように、実施例5によれば、低圧逆浸透装置を複数段とすることで、原水中の塩分濃度が220,000ppmの場合、高圧逆浸透装置13で塩分濃度を500ppmとし、第1の低圧逆浸透装置16−1で塩分濃度を100ppm程度とし、第2の低圧逆浸透装置16−2で塩分濃度を5ppm以下とすることができ、飲料水(250ppm程度)以上の純水を安定して製造することができるようにしている。
また、濃縮水の一部も再利用するので、濃縮水の廃棄量の低減と、生産水の生産量の増大を図るようにしている。
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上のように、本発明に係る多段海水淡水化装置の運転制御方法によれば、蒸発法並みの水質を確保できると共に、中間タンクを排除することで微生物汚染を大幅に低減することができ、海水淡水化設備に用いて適している。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施例1に係る多段海水淡水化装置の概略図である。
【図2】実施例1に係る多段海水淡水化装置の工程概略図である。
【図3−1】実施例1に係る多段海水淡水化装置の工程2における作動概略図である。
【図3−2】実施例1に係る多段海水淡水化装置の工程3及び4における作動概略図である。
【図3−3】実施例1に係る多段海水淡水化装置の工程5における作動概略図である。
【図4】実施例2に係る多段海水淡水化装置の概略図である。
【図5】実施例3に係る多段海水淡水化装置の工程概略図である。
【図6−1】実施例3に係る多段海水淡水化装置の工程1及び2における作動概略図である。
【図6−2】実施例3に係る多段海水淡水化装置の工程3における作動概略図である。
【図7】実施例4に係る多段海水淡水化装置の工程概略図である。
【図8】還元剤(SBS)を添加したときのORPの変化図である。
【図9】実施例5に係る多段海水淡水化装置の工程概略図である。
【図10】従来例に係る多段海水淡水化装置の概略図である。
【符号の説明】
【0043】
10A、10B、10C、10D及び10E 多段海水淡水化装置
11 原水(例えば海水)
12 高圧供給水
13a 高圧逆浸透膜
13 高圧逆浸透装置
14 透過水
15 低圧供給水
16a 低圧逆浸透膜
16 低圧逆浸透装置
17 生産水
21 第1の排水弁
22 第2の排水弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水を供給する原水ラインに介装され、原水を所定の高圧力とする高圧ポンプと、
前記高圧ポンプにより高圧とされた高圧供給水中の塩分を濃縮する高圧逆浸透膜を備えた高圧逆浸透装置と、
前記高圧逆浸透装置を透過した透過水を後流側に供給する透過水ラインに介装され、前記起動初期の透過水を一時的に排水する第1の排水弁と、
前記第1の排水弁の下流側の透過水ラインに介装され、透過水を所定の低圧力とする低圧ポンプと、
前記低圧ポンプにより低圧とされた低圧供給水中の塩分を濃縮する低圧逆浸透膜を備えた低圧逆浸透装置と、
前記低圧逆浸透装置の濃縮水側の排出ラインに介装され、低圧逆浸透装置に供給する起動初期の低圧供給水を一時的に排出する第2の排水弁とを具備することを特徴とする多段海水淡水化装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記低圧逆浸透装置が複数台設置され、
各々の低圧逆浸透装置の濃縮水側の排出ラインに介装され、低圧逆浸透装置に供給する起動初期の低圧供給水を一時的に排出する第2の排水弁を具備することを特徴とする多段海水淡水化装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記低圧逆浸透装置からの濃縮水を上流側に返送する返送ラインを有することを特徴とする多段海水淡水化装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一つにおいて、
前記高圧逆浸透装置が塩素耐性を有する膜であることを特徴とする多段海水淡水化装置。
【請求項5】
請求項1又は2の多段海水淡水化装置を用い、
多段海水淡水化装置の起動初期の際に、
原水を高圧逆浸透装置に供給する工程と、
前記高圧逆浸透装置の高圧逆浸透膜を透過した透過水を一時的に第1の排水弁により排水する工程と、
透過水が低圧ポンプの入口圧近傍に達した後に、第1の排水弁を閉じつつ、透過水を低圧逆浸透装置側に全量供給する工程と、
前記低圧逆浸透装置に供給された起動初期の低圧供給水を一時的に第2の排水弁により排水する工程と、
第2の排水弁を閉めつつ、低圧供給水を低圧逆浸透膜に透過させ、定格の海水淡水化運転に切り換え、生産水を生産する工程と、
を有することを特徴とする多段海水淡水化装置の運転制御方法。
【請求項6】
請求項4の多段海水淡水化装置を用い、
多段海水淡水化装置の高圧逆浸透装置の殺菌運転の際に、
塩素(Cl)を添加した原水に対し、第1の還元剤供給部から還元剤を供給せずに高圧逆浸透装置へ供給する工程と、
前記高圧逆浸透装置の高圧逆浸透膜を透過した塩素を含む透過水に第2の還元剤供給部から還元剤を添加した後、一時的に第2の排水弁により還元剤を含む低圧供給水を排水する工程と、
所定の殺菌運転が終了した後に、原水に第1の還元剤供給部から還元剤を添加し、第2の還元剤供給部からの還元剤の添加を停止し、通常運転に切り換える切替工程と、
第2の排水弁を閉めつつ、定格の海水淡水化運転に切り換え、生産水を生産する工程と、
を有することを特徴とする多段海水淡水化装置の運転制御方法。
【請求項7】
請求項6において、
前記殺菌運転が終了した後に、低圧側の濃縮水を返送濃縮水ラインにより上流側に戻すことを特徴とする多段海水淡水化装置の運転制御方法。
【請求項8】
請求項4の多段海水淡水化装置を用い、
多段海水淡水化装置の高圧逆浸透装置の殺菌運転の際に、
塩素(Cl)を添加した原水に対し、第1の還元剤供給部から還元剤を供給せずに高圧逆浸透装置へ供給する工程と、
前記高圧逆浸透装置の高圧逆浸透膜を透過した塩素を含む透過水に第2の還元剤供給部から還元剤を中和当量よりも少なく添加した後、酸化還元電位計で酸化還元電位を計測しつつ、中和量の残りの還元剤を低圧供給水に供給する中和工程と、
低圧供給水を低圧逆浸透膜に透過させ、生産水を生産する工程と、
殺菌運転終了後、定格の海水淡水化運転に切り換え、生産水を生産する工程と、
を有することを特徴とする多段海水淡水化装置の運転制御方法。
【請求項9】
請求項8において、
前記殺菌運転時及び定格運転時に、低圧側の濃縮水を返送濃縮水ラインにより上流側に戻すことを特徴とする多段海水淡水化装置の運転制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3−1】
image rotate

【図3−2】
image rotate

【図3−3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6−1】
image rotate

【図6−2】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2010−125395(P2010−125395A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−303218(P2008−303218)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】