説明

多段直流高電圧電源装置およびX線装置

【課題】出力が安定で小型の電源を提供する。
【解決手段】変圧器1と整流回路6とで構成されるユニット電源7を多段に積み上げて、整流回路6の出力側を直列接続して直流高電圧出力を得る多段直流高電圧電源装置において、各ユニット電源7の直流出力側の負端子8を、該当ユニット内の変圧器1の鉄心4と電気的に接続した。これによって、高度な絶縁を要する部分を一次巻き線2と、二次巻き線3および鉄心4との間に限定し、その部分を優れた絶縁性能を有する絶縁樹脂5で埋め込むことで絶縁寸法の縮小を達成し、従来比1/2〜1/6まで小型化することができた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流電圧を整流して直流電圧を発生する直流電源で、特に多段の変圧器の2次出力電圧を整流した直流電圧を多段に直列に接続して直流高電圧を発生する多段直流高電圧電源装置とそれを用いたX線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線発生装置に用いられる小電流出力の多段直流高電圧電源は、変圧器を多段に積上げ、各段の一次側巻き線に交流電圧を供給し、二次側の交流を整流して直流に変換し、その出力電圧を直列に接続して積み上げ、直流高電圧を得る構造である。なお、本明細書では、接地電位よりも正の高電圧も負の高電圧も含めて直流高電圧と呼び、正電圧と同様に負電圧の場合も接地電位から離れるに従って電圧が高いと表現する。このような構造とすることで、出力電圧が安定であり、かつ小形の電源を提供できる。
【0003】
このような構造については、例えば、特許文献1などに開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−229599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
変圧器の低電圧側である一次巻き線は、それぞれが、接地電位から各ユニット(単位)電圧分しか離れない、すなわち、ほぼ接地電位に近い電圧である。一方、二次巻き線は、その出力を積み上げて直流高電圧を出力するので、順次出力電圧が高くなり、最終段は接地電位から、はるかに高い直流電圧となる。この直流出力電圧を電気的に絶縁することが重要であり、また、変圧器の二次巻き線も直流的に高電圧となり、一次巻き線との間に大きな電位差が加わるので、ここでも電気的に絶縁する必要がある。これらを十分な絶縁距離を保つように設計すると電源が大きくなる。
【0006】
そこで本発明は、新規な電気絶縁構造を提案し、小形で安定な出力を得られる直流高電圧電源を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はその一面において、交流電圧が供給される一次巻き線と二次巻き線を有する変圧器と、この変圧器の前記二次巻き線に接続された整流回路とを含んで形成された複数のユニット電源を備え、複数の前記ユニット電源を直流側で多段に積上げるように、複数の前記整流回路の直流出力端子を直列に繋いだ多段直流高電圧電源装置において、各ユニット電源内の前記整流回路の直流出力端子の一端を、当該ユニット電源内の前記変圧器の鉄心に電気的に接続したことを特徴とする。
【0008】
本発明の望ましい実施態様においては、直流側で多段に積上げられた複数の前記整流回路の負極端子を、当該ユニット電源内の前記変圧器の鉄心に電気的に接続する。
【0009】
本発明の望ましい実施態様においては、前記変圧器は、鉄心に巻かれた前記一次巻き線と二次巻き線との間に充填された絶縁樹脂を備え、特に、前記一次巻き線を挟み込むように前記二次巻き線を配置して前記樹脂で封止する。さらに、断面コ字状に前記二次巻き線を配置し、その内側に絶縁樹脂層を介して一次巻き線を配置することが望ましい。
【0010】
本発明は他の一面において、複数の前記ユニット電源を直列に積上げ、その側面外周の半分以上を筒状の絶縁体で覆い、各ユニット電源に対応する前記絶縁体の内面位置に分圧金具を配置して、それぞれの前記分圧金具に各ユニット電源の鉄心電位を接続し、前記絶縁体の外表面を接地電位に接続した導体で覆ったことを特徴とする。
【0011】
ここで、隣接するユニット電源間に絶縁基板を備え、これらの絶縁基板の上下面に導体を貼り、各絶縁基板の下面は下側のユニット電源の鉄心電位に接続し、各絶縁基板の上面を上側のユニット電源の鉄心電位に接続することが望ましい。
【0012】
このような多段直流高電圧電源装置の直流出力電圧をX線発生装置に供給するようにX線装置を構成する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の望ましい実施態様によれば、多段に積上げられた各変圧器の一次巻き線と二次巻き線の間の絶縁、鉄心および整流回路との絶縁性能を、それらの場所に適した構成とすることで飛躍的に向上させることができる。
【0014】
本発明の具体的な実施態様によれば、一次巻き線と、鉄心および二次巻き線との間に大きな電圧がかかり、鉄心と2次巻き線間にはあまりかからないように、鉄心と直流出力端子の一端とを接続し、大きな電圧がかかる一次巻き線と、鉄心および二次巻き線との間を絶縁性能に優れた樹脂で埋め固めることによって確実な絶縁を実現することができる。
【0015】
本発明のその他の目的と特徴は、以下に述べる実施形態の中で明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施例による多段直流高電圧電源の単位構成要素である直流電源ユニットを構成する変圧器と整流回路を示す。
【図2】本発明の一実施例による多段直流高電圧電源の全体電気回路構成図である。
【図3】本発明の一実施例による多段直流高電圧電源の要部構成拡大図である。
【図4】本発明の他の実施例による多段直流高電圧電源の要部構成拡大図である。
【図5】本発明の一実施例による多段直流高電圧電源の全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施例による多段直流高電圧電源を図面を参照して説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施例による多段直流高電圧電源の単位構成要素である直流電源ユニットを構成する変圧器と整流回路を示す。これが多段直流高電圧電源の一段分になる。
【0019】
変圧器1は、高周波交流低電圧が供給される一次巻き線2、高周波交流電圧を出力する二次巻き線3、鉄心4および絶縁樹脂5で構成される。この変圧器1は、鉄心4に巻かれた一次巻き線2と、この一次巻き線2を覆うように絶縁樹脂5を介して外側に巻かれた二次巻き線3とを備えて構成されている。二次巻き線3に得られた交流は、整流回路6で直流に変換される。これら全体で、直流電源ユニット7を構成する。
【0020】
ここで、図に示すように、鉄心4を、直流出力電圧の片端8と電気的に接続する。これによって、二次巻き線3と鉄心4との電位差は、1ユニット分だけに小さくなり、絶縁寸法は短くて済む。
【0021】
一方、接地電位に近い電圧の一次巻き線2は、鉄心4との電位差が大きくなるので、鉄心4との絶縁距離を長くとる必要がある。また、一次巻き線2は、鉄心4と同じような電位の二次巻き線3との絶縁距離も長くとる必要がある。これらを両立させるために、一次巻き線2の周囲に絶縁距離をとり、その周囲に二次巻き線3を配置し、一次巻き線2と二次巻き線3を絶縁性能の優れた樹脂5で埋め固めて絶縁する。こうすることで、他の絶縁媒体を用いる場合よりも絶縁距離を短くでき、絶縁に要する空間を小さくすることができる。一次巻き線2と二次巻き線3を樹脂で埋め固めた部分が変圧器コイルとなる。
【0022】
本実施例に用いる一次巻き線2と二次巻き線3を埋め固める絶縁性能に優れた樹脂材料は、巻き線に使用されている銅を埋め込むので銅の線膨張係数と同じような線膨張係数を有することが重要である。一般に、樹脂材料は、樹脂のみでは80×10−6(K−1)程度の線膨張係数であり、銅の線膨張係数が15×10−6(K−1)程度である。このため、高温で樹脂が硬化し、常温に戻すと樹脂が急激に収縮し、銅の周りの樹脂に引っ張り応力が発生し、割れることになる。そこで、樹脂中に、線膨張係数が小さい石英粉やアルミナ粒子を混ぜて使用する。重量比で40%から65%もの大量の粒子を混入することで、樹脂の線膨張係数を40×10−6(K−1)から20×10−6(K−1)程度まで小さくでき、銅線を埋め込んで樹脂を硬化しても引っ張り応力のレベルが小さく、樹脂が割れることを防止できる。また、樹脂の耐熱性は、多段直流高電圧電源の運転時の温度上昇に耐えることができれば、低い方が良い。それは、線膨張係数の差から発生する引っ張り応力が、樹脂が高温でのゴム状態から低温でのガラス状態に転移するガラス転移点から室温までの温度差にも比例するからである。従って、ガラス転移点が低い樹脂を使用することが好ましい。しかし、樹脂のガラス転移点を運転時の温度よりも低く設定すると樹脂の機械的強度がガラス転移点で大幅に低下するので、運転時の最高温度よりも下げることはできない。したがって、冷却機能を工夫すると、耐熱区分の最も低いA種80℃とすることもできる。また、冷却機能を最大温度130℃として設計し、樹脂の耐熱区分をB種130℃とすることもできる。
【0023】
図2は、ユニット電源7を多段に積まれた本発明の一実施例による多段直流高電圧電源の電気回路構成の一例を示す。ユニット電源7を4段積み上げ、X線発生装置9に、直流高電圧を供給する例である。
【0024】
ここで重要なことは、各ユニット電源7の直流出力の片端8を、そのユニット電源7の変圧器1の鉄心4と接続していることである。望ましくは、多段積み重ねの全てのユニットが、同一極性の直流出力端を鉄心4と接続する。この実施例では、直流側で多段に積上げられた複数の整流回路6の負極端子8を、当該ユニット電源7内の変圧器1の鉄心4に電気的に接続している。このように接続すれば、積み上げられた上下に隣接する鉄心4同士の電圧差は、各ユニットで発生する出力電圧と同じである。多段直流高電圧電源の設備としての出力電圧は著しく高い電圧となるが、積み上げられた上下に隣接する変圧器の電位差は、その段のユニット電源7が発生する電圧であり、それほど高い電圧ではない。したがって、その絶縁には、筐体と兼用の絶縁基板(図5で後述)で十分であり、電源の絶縁と機械的な支持材として市販のFRP基板を用いることもできる。
【0025】
図3は、本発明の一実施例による多段直流高電圧電源の要部構成拡大図であり、変圧器コイルの一構成例を示す。一次巻き線2と二次巻き線3とを絶縁性能に優れた樹脂5で埋め込んで絶縁を保持する。このとき、一次巻き線2と鉄心4との間の電位差と、一次巻き線2と二次巻き線3との間の電位差はほぼ同じであり、樹脂の優れた絶縁性能を最大限に利用する構造が望ましい。絶縁的に厳しい一次巻き線2を樹脂の中心に置き、その周囲に二次巻き線3を、樹脂の絶縁性能を考慮した絶縁距離を離して配置し、その間に樹脂5を充填する構造が好ましい。また、二次巻き線3と鉄心4との間については、それほどの電位差はないので、空気層10を含んだ絶縁構造で保持できる。11は一次巻き線2のリード線、12は二次巻き線3のリード線である。
【0026】
ここで、一次巻き線2と二次巻き線3との距離であるd1およびd2(mm)はそれぞれ、V1:一次巻き線電位(kV)、V2:二次巻き線電位(kV)、Er:樹脂部の許容電界(kV/mm)であり、Er>=15(kV/mm)とすると、次式となる。
【0027】
d1>(V1−V2)/Er
d2=d1
また、絶縁距離r1(mm)は、ほぼd1と等しいが、二次巻き線3がないので、内径と鉄心4間の空気層10の絶縁を保護する必要があり、次式とすればよい。
【0028】
r1>d1+α
ここで、α=2〜5(mm)である。
【0029】
この実施例は、溝付きのボビンを準備すれば容易に巻くことができるので実現容易である。ただし、内径側の鉄心と1次巻き線2との距離を大きくしなければならない欠点がある。
【0030】
図4は、本発明の他の実施例による多段直流高電圧電源の要部構成拡大図であり、変圧器コイルの他の構成例を示す。内径側にも二次巻き線3があり、断面コ字状に二次巻き線3を配置し、その内側にほぼ等間隔の絶縁樹脂5層を介して一次巻き線2を配置している。この場合、樹脂5で絶縁する境界が明確であるので、次式の寸法とすることができる。
【0031】
r2=d1
d1およびd2は図3の実施例と同じである。
【0032】
なお、各巻き線へのリード線11および12は、1次巻き線リード線11を鉄心4に遠い周上から取り出し、2次巻き線リード線12を、やはり鉄心から離れた位置で取り出している。
【0033】
この実施例は、内径側を短くできる点で、図3の実施例の欠点を解消できるが、巻き線用ボビンが1次と2次用に別々に必要になる欠点がある。
【0034】
図5は、本発明の一実施例による多段直流高電圧電源の全体構成図である。ユニット電源7が絶縁基板13に乗せられ、絶縁基板13の下面は下側のユニット電源の鉄心電位に接続され、その上面は上側のユニット電源7の鉄心4の電位に接続されている。したがって、この絶縁基板13で隣接する上下ユニットの電位差分の電圧を絶縁している。また、多段直流高電圧電源の周囲に円筒状の絶縁体14が配置され、絶縁体14の各ユニット電源7に対応する位置に、それぞれ分圧環15が半分埋め込まれ、ユニット電源7の鉄心4に電気的に接続する。これによって、ユニット電源7の電位と同じ電位になった分圧環15が絶縁体14に対して配置される。絶縁体14の外表面は、接地電位層16で覆われ、ユニット電源7と接地電位層16間の電圧を樹脂層の絶縁体14で絶縁する。絶縁性能に優れた樹脂で絶縁体14を形成すれば、絶縁性能は十分である。
【0035】
図5の絶縁体14および接地電位層16は、円筒状としたが、如何なる形状でもかまわず、また、一部を開口していても良い。すなわち、この実施例においては、複数のユニット電源7を直列に積上げ、その側面外周の半分以上を筒状の絶縁体14で覆い、各ユニット電源7に対応する絶縁体14内面の位置に分圧金具15を配置している。そして、それぞれの分圧金具15に、各ユニット電源7の鉄心4の電位を接続し、絶縁体14の外表面を接地電位に接続した導体(接地電位層)16で覆っている。
【0036】
この実施例による多段直流高電圧電源は、高電圧が加わり、絶縁が難しい変圧器の一次巻き線と二次巻き線の間、筒状の絶縁体14の内表面の分圧環15と外表面の接地電位層16との間に絶縁性能に優れた樹脂を充填し、絶縁を担当している。したがって、優れた絶縁性能を発揮して、短い距離で高い電圧を絶縁することに成功している。
【0037】
空気絶縁を用いた場合と、本実施例とを比較すると、寸法が約1/6となり、本実施例の効果は非常に大きい。また、油浸絶縁と比較しても、寸法が約1/2となり、絶縁寸法の縮小に大きな効果があることが明らかである。
【符号の説明】
【0038】
1…変圧器、2…一次巻き線、3…二次巻き線、4…変圧器鉄心、5…絶縁樹脂、6…整流回路、7…ユニット電源、8…直流出力電圧の片端(一端,負極端子)、9…X線発生装置、10…空気層、11…一次巻き線リード線、12…2次巻き線リード線、13…絶縁基板、14…絶縁体(樹脂層)、15…分圧環、16…接地電位層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電圧が供給される一次巻き線と二次巻き線を有する変圧器と、この変圧器の前記二次巻き線に接続された整流回路とを含んで形成された複数のユニット電源を備え、複数の前記ユニット電源を直流側で多段に積上げるように、複数の前記整流回路の直流出力端子を直列に繋いだ多段直流高電圧電源装置において、各ユニット電源内の前記整流回路の直流出力端子の一端を、当該ユニット電源内の前記変圧器の鉄心に電気的に接続したことを特徴とする多段直流高電圧電源装置。
【請求項2】
請求項1において、直流側で多段に積上げられた複数の前記整流回路の負極端子を、当該ユニット電源内の前記変圧器の鉄心に電気的に接続したことを特徴とする多段直流高電圧電源装置。
【請求項3】
請求項1または2において、前記変圧器は、鉄心に巻かれた前記一次巻き線と二次巻き線との間に充填された絶縁樹脂を備えたことを特徴とする多段直流高電圧電源装置。
【請求項4】
請求項3において、前記一次巻き線を挟み込むように前記二次巻き線を配置して前記樹脂で封止したことを特徴とする多段直流高電圧電源装置。
【請求項5】
請求項1または2において、断面コ字状に前記二次巻き線を配置し、その内側に絶縁樹脂層を介して一次巻き線を配置したことを特徴とする多段直流高電圧電源装置。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれかにおいて、前記絶縁樹脂の線膨張係数を40×10−6(K−1)から20×10−6(K−1)としたことを特徴とする多段直流高電圧電源装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかにおいて、複数の前記ユニット電源を直列に積上げ、その側面外周の半分以上を筒状の絶縁体で覆い、各ユニット電源に対応する前記絶縁体の内面位置に分圧金具を配置して、それぞれの前記分圧金具に各ユニット電源の鉄心電位を接続し、前記絶縁体の外表面を接地電位に接続した導体で覆ったことを特徴とする多段直流高電圧電源装置。
【請求項8】
請求項7において、隣接するユニット電源間に絶縁基板を備え、これらの絶縁基板の上下面には導体が貼られ、各絶縁基板の下面は下側のユニット電源の鉄心電位に接続され、各絶縁基板の上面は上側のユニット電源の鉄心電位に接続されたことを特徴とする多段直流高電圧電源装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかの多段直流高電圧電源の直流出力電圧をX線発生装置に供給するように構成したことを特徴とするX線装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−218856(P2010−218856A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−63707(P2009−63707)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】