説明

多段遠心圧縮機の容量制御方法

【課題】多段遠心圧縮機の各段吸込部に設けられた入口ガイドベーンを有する多段遠心圧縮機の容量制御方法において、前記入口ガイドベーンを簡単かつ有効に制御することによりサージングを回避し、容量の絞り領域を広げて運転範囲をより広くできる多段遠心圧縮機の容量制御方法を提供する。
【解決手段】多段遠心圧縮機の各段吸込部に設けられた入口ガイドベーンを有する多段遠心圧縮機の容量制御方法において、前記入口ガイドベーン7〜10の角度の各段ごとの相対的な比率が一定比率となる様に制御する。また、前記入口ガイドベーン7〜10の角度の各段ごとの相対的な比率を、下流側の後段に向かうにつれて小さくなる様に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多段遠心圧縮機の各段吸込部に設けられた入口ガイドベーンを有する多段遠心圧縮機の容量制御方法に関し、より詳しくは、前記入口ガイドベーンの簡単な制御により、サージングを回避して運転範囲を拡張し得る多段遠心圧縮機の容量制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
化学プラント等の各種プラントにおいて、原料空気圧縮用や工場空気源或いは各種高圧気体源等多量の高圧気体を製造する用途に、多段遠心圧縮機が用いられている。圧縮機本体の吸込側に気体を吸い込む吸込管を備えた多段遠心圧縮機では、従来から、羽根車の回転数を変化させないで、流量、圧力を変化させる容量制御手段として吸込管入口に入口ガイドベーンが設けられている。
【0003】
ところが、遠心圧縮機には、通常サージング現象があり、そのために容量調整範囲は限られる。従って、より幅の広い容量調整範囲を有することが望まれている。一方、部分負荷における効率は少しでも向上する様に工夫する必要がある。先ず、前者の様な要望に対する従来技術1に係る遠心圧縮機の容量制御方法につき、以下説明する。
【0004】
従来技術1に係る遠心圧縮機の容量制御方法では、入口ガイドベーン及びデイフューザベーンの角度により決まるベーン角度平面上において、サージング領域を規定するサージングラインを予め設定して記憶しておいてから、上記の入口ガイドベーン及びデイフューザベーンの現在角度を測定し、これらの現在角度が上記サージングラインにより規定された上記サージング領域内に入っている場合は、上記サージングラインの法線方向ベクトルであり上記サージング領域外へ向かうもので、サージング領域から出るのに必要な入口ガイドベーン及びデイフューザベーンの角度の操作量を調整したものを、サージング解消用ベーン角度操作量ベクトルとして求める。
【0005】
その一方、測定された上記現在角度が上記サージング領域外における上記サージングライン近傍にあり、且つ目標流量に向かうべく決定されたベーン角度操作量ベクトルが上記サージング領域内に向かう場合は、上記サージングラインに基づいて上記ベーン角度操作量ベクトルから上記サージングラインの法線方向成分を除去して、上記サージングラインに沿う方向のサージング回避用ベーン角度操作量ベクトルを求め、上記のサージング解消用ベーン角度操作量ベクトルまたはサージング回避用ベーン角度操作量ベクトルによって決定される上記の入口ガイドベーン及びデイフューザベーンの角度に基づき、上記遠心圧縮機の流量を制御するものである(特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、上記の様な制御を行うには高級な演算装置と、この演算装置の入力値となる各種計測値を測定するための計測器が多数必要となり、多大な費用がかかる。また、制御に試行錯誤の動作が入るため、安定状態に移行するまでに時間を要する。
【0007】
次に、上述した後者の様な要望に対する従来技術2に係る多段遠心圧縮機の容量制御方法につき、添付図9を参照しながら以下説明する。図9は、従来技術2に係る冷凍機用多段圧縮機の構造例を示す断面図である。
【0008】
従来技術2に係る冷凍機用多段圧縮機における容量制御装置は、効率の低下が著しいホットガスバイパス装置を取り付けることなく、高い省エネルギー性を有しながら幅広い容量制御が可能な冷凍機用多段圧縮機における容量制御装置を提供するために以下の機能を備えている。即ち、この冷凍機用多段圧縮機は、電動機18を中心にその両端に夫々1枚以上の羽根車22,23,32を具備する低段側圧縮ユニット20と、高段側圧縮ユニット30を配置すると共に、該両圧縮ユニット20,30の羽根車の回転軸は該電動機18の回転軸19に直結した構造を有している。
【0009】
そして、従来技術2に係る冷凍機用多段圧縮機における容量制御装置は、低段側圧縮ユニット20の吸込み口21a及び高段側圧縮ユニット30の吸込み口31aに夫々サクションベーン24,33を取り付け、サクションベーン24,33の開閉をコントロールモータ27,36を介して制御盤44からの制御信号で制御する。前記制御盤44内に具備された温度コントローラは、温度検出端からの検出温度により、低段側のコントロールモータ27に開閉信号を出力する。また、低段側のコントロールモータ27内のポテンショメータは、前記制御盤44内に具備された平衡調整機構に開度信号を出力する。前記平衡調整機構は、低段側の開度信号と同じ開度となる様に、高段側のコントロールモータ36へ開閉信号を出力する(特許文献2参照)。
【0010】
上記従来技術2に係る冷凍機用多段圧縮機における容量制御装置は、圧縮機の流量調整を行う際に、低圧段と高圧段のサクションベーン24,33を同一開度となる様に制御しているが、この方法では流量を減らす制御を行おうとする際に、片側の段だけが先にサージング領域に入ってしまい、流量の減少幅が狭くなってしまう場合が発生するという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特公平8−14279号公報
【特許文献2】特開2000−291597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、多段遠心圧縮機の各段吸込部に設けられた入口ガイドベーンを有する多段遠心圧縮機の容量制御方法において、前記入口ガイドベーンを簡単かつ有効に制御することによりサージングを回避し、容量の絞り領域を広げて運転範囲をより広くできる多段遠心圧縮機の容量制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る多段遠心圧縮機の容量制御方法が採用した手段は、多段遠心圧縮機の各段吸込部に設けられた入口ガイドベーンを有する多段遠心圧縮機の容量制御方法において、前記入口ガイドベーンの角度の各段ごとの相対的な比率が一定比率となる様に制御することを特徴とするものである。
【0014】
本発明の請求項2に係る多段遠心圧縮機の容量制御方法が採用した手段は、本発明の請求項1に係る多段遠心圧縮機の容量制御方法において、前記入口ガイドベーンの角度の各段ごとの相対的な比率を、下流側の後段に向かうにつれて小さくなる様に設定することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の請求項1に係る多段遠心圧縮機の容量制御方法によれば、入口ガイドベーンの角度の各段ごとの相対的な比率が一定比率となる様に制御するので、各段共に、サージングラインから同レベルの余裕を持った運転が可能となり、特定の段だけが先にサージングラインに接近することを防止できると共に、容量の絞り領域を増加することが可能となる。
【0016】
また、本発明の請求項2に係る多段遠心圧縮機の容量制御方法によれば、本発明の請求項1に係る多段遠心圧縮機の容量制御方法の構成に加え、入口ガイドベーンの角度の各段ごとの相対的な比率を、下流側の後段に向かうにつれて小さくなる様に設定するので、前記圧縮機の容量制御の設定を行う際に効果的にかつ確実に調整が行える様になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態1または3に係る4段遠心圧縮機の構造を模式的に示す模式的構造図である。
【図2】本発明の実施例に係り、一般的な多段遠心圧縮機においてガイドベーンの角度をパラメータとして流量−圧力特性の変化を示す性能曲線図である。
【図3】図2に示す多段遠心圧縮機が供給するプラントにおける圧縮気体の流量−圧力特性の一例を示す図である。
【図4】本発明の比較例に係り、図2の性能を有する多段遠心圧縮機において容量制御を行った場合の各段の運転点を示し、図(a)は第1段圧縮機の運転点、図(b)は第2段圧縮機の運転点を夫々示す。
【図5】本発明の比較例に係り、図2の性能を有する多段遠心圧縮機において容量制御を行った場合の各段の運転点を示し、図(c)は第3段圧縮機の運転点、図(d)は第4段圧縮機の運転点を夫々示す。
【図6】本発明の実施例に係り、図2の性能を有する多段遠心圧縮機において容量制御を行った場合の各段の運転点を示し、図(a)は第1段圧縮機の運転点、図(b)は第2段圧縮機の運転点を夫々示す。
【図7】本発明の実施例に係り、図2の性能を有する多段遠心圧縮機において容量制御を行った場合の各段の運転点を示し、図(c)は第3段圧縮機の運転点、図(d)は第4段圧縮機の運転点を夫々示す。
【図8】本発明の実施の形態2に係る4段遠心圧縮機の構造を模式的に示す模式的構造図である。
【図9】従来技術2に係る冷凍機用多段圧縮機の構造例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
先ず、本発明の実施の形態1に係る多段遠心圧縮機の容量制御方法を、増速機内蔵型の4段遠心圧縮機に適用した例として、添付図1を参照しながら以下説明する。図1は本発明の実施の形態1に係る4段遠心圧縮機の構造を模式的に示す模式的構造図である。
【0019】
本発明の実施の形態1に係る4段遠心圧縮機では、電動機6によって入力軸5が駆動され、増速機16を介して動力が伝達され、第1段圧縮機1、第2段圧縮機2、第3段圧縮機3及び第4段圧縮機4が増速される。前記第1〜第4段圧縮機1〜4の吸込口には、入口ガイドベーン7〜10とこれらを操作するためのガイドベーン操作器11〜14が夫々設けられている。
【0020】
前記第1段圧縮機1の吸込部に設けられた入口ガイドベーン7を介して吸込まれた気体は、前記第1段圧縮機1により圧縮された後、図示しない第1段吐出流路に吐出され、次いで、第2段圧縮機2の吸込部に設けられた入口ガイドベーン8を介して第2段圧縮機2に導入される。そして、前記入口ガイドベーン8を介して吸込まれた気体は、前記第2段圧縮機2により更に圧縮された後、図示しない第2段吐出流路に吐出され、入口ガイドベーン9を介して第3段圧縮機3に導入される。
【0021】
更に、前記第3段圧縮機3及び第4段圧縮機4において、上記同様の圧縮過程を連続的に繰り返して高圧に圧縮された気体は、第4段圧縮機4の図示しない第4段吐出流路に吐出され、この第4段吐出流路に連通された需要先(プラント等)に最終的には供給される。
【0022】
一方、この4段遠心圧縮機には制御器15が備えられ、この制御器15には予め、指令信号に基づき、前記入口ガイドベーン7〜10の角度を演算可能な複数のプログラムパターンからなる演算手段と、この演算手段の演算結果に基づいて、前記ガイドベーン操作器11〜14に夫々制御信号を出力可能な制御手段とが収納されている。
【0023】
そして、プラント側からこの制御器15に、「圧力幾らの気体を幾らの流量送れ」という指令信号が入力されると、この指令信号に基づいて、前記演算手段により入口ガイドベーン7〜10の角度の各段ごとの相対的な比率が、指令信号が変更されない限り、常に一定比率となるプログラムパターンを選択してこのプログラムによる演算を行う。次いで、この演算結果を前記制御手段に入力し、この制御手段が、ガイドベーン操作器11〜14に夫々制御信号を出力して制御する。
【0024】
即ち、本発明の実施の形態1に係る多段遠心圧縮機の容量制御方法では、制御器15内に収納された前記演算手段により、前記入口ガイドベーン7〜10の角度が演算されると共に、この演算結果を基に、前記制御手段からガイドベーン操作器11〜14に夫々制御信号が出力され、この制御信号によって、ガイドベーン操作器11〜14を夫々操作する。
【0025】
そして、前記ガイドベーン操作器11〜14の操作により、入口ガイドベーン7〜10を夫々制御して圧縮機各段の容量調整がなされる。この結果、各段共にサージングラインから同レベルの余裕を持った運転が可能となり、特定の段だけが先にサージングラインに接近することを防止できると共に、容量の絞り領域を増加することが可能となる。
【0026】
尚、上記本発明の実施の形態1に係る多段遠心圧縮機の容量制御方法においては、4段の遠心圧縮機の場合について説明したが、2段以上の複数段を有する多段遠心圧縮機であれば、何れも本発明は適用可能である。また、多段遠心圧縮機の全段にガイドベーン及びガイドベーン操作器が設けられた態様例で説明したが、前記ガイドベーン及びガイドベーン操作器は必ずしも全段に設けられなくても良い。
【実施例】
【0027】
次に、入口ガイドベーンを備え、添付図2,3に示す様な圧縮機特性を有する一般的な多段遠心圧縮機において、前述の従来技術2を適用した比較例と本発明を適用した実施例について以下説明する。図2は本発明の実施例に係り、一般的な多段遠心圧縮機においてガイドベーンの角度をパラメータとして流量−圧力特性の変化を示す性能曲線図、図3は図2に示す多段遠心圧縮機が供給するプラントにおける圧縮気体の流量−圧力特性の一例を示す図である。
【0028】
この多段遠心圧縮機の性能は、図2に示す如く、ガイドベーンの角度が−30度から60度に大きくなるに従って、吐出流量、吐出圧力共に低下して行く。また、各ガイドベーン角度において、吐出流量を絞っていくと、図中の一点鎖線で示すサージングラインに至りサージング現象を生じる。また、一般的に、プラントで使用される圧縮気体の流量が減少すると、図3に示す様に、求められる圧縮機の吐出圧力は若干減少する傾向にある。また、定格運転条件の吐出流量Qに対して、部分負荷の運転条件Q,Qで運用する場合がある。
【0029】
<比較例>
先ず、従来技術2を上記多段遠心圧縮機に適用した比較例を、添付図4,5を参照しながら説明する。図4,5は本発明の比較例に係り、図2の性能を有する多段遠心圧縮機において容量制御を行った場合の各段の運転点を示し、図4(a)は第1段圧縮機の運転点、図4(b)は第2段圧縮機の運転点、図5(c)は第3段圧縮機の運転点、図5(d)は第4段圧縮機の運転点を夫々示す。
【0030】
即ち、図4,5は、上記特性を有する多段遠心圧縮機において、ガイドベーンの角度が全段とも30度となる様に制御された場合を示している。第1段圧縮機の運転点は、図4(a)に示す如く、一点鎖線で示すサージライン近傍に位置し、サージラインまでの流量余裕sm1は非常に小さい。つまり、流量Q1より少ない吐出流量ではサージングを生じてしまい、運転できない。
【0031】
他方、第2〜第4段圧縮機では、サージラインまでの各流量余裕sm2〜sm4は、何れも第1段圧縮機の流量余裕sm1よりも大きく、より小流量の運転に対してまだ尤度があることが分かる。即ち、サージラインまでの流量余裕は、後段になるほど大きくなる傾向にあり、第1段圧縮機がサージラインに至る吐出流量においても、第4段圧縮機の流量余裕sm4にはまだ十分余裕があることを示している。
【0032】
<実施例>
次に、本発明を適用した実施例を、添付図6,7を参照しながら説明する。図6,7は本発明の実施例に係り、図2の性能を有する多段遠心圧縮機において容量制御を行った場合の各段の運転点を示し、図6(a)は第1段圧縮機の運転点、図6(b)は第2段圧縮機の運転点、図7(c)は第3段圧縮機の運転点、図7(d)は第4段圧縮機の運転点を夫々示す。
【0033】
即ち、本発明を適用した実施例では、上記特性を有する多段遠心圧縮機において、入口ガイドベーン7〜10の設定角度を、各段ごとの相対的な比率を常に一定比率となる様に、次式(1)〜(4)で示される値に制御する。
f(1st)=a×f(base) (1)
f(2nd)=b×f(base) (2)
f(3rd)=c×f(base) (3)
f(4th)=d×f(base) (4)
【0034】
ここで、
f(base):ガイドベーン基準設定角度
f(1st) :第1段圧縮機ガイドベーン設定角度
f(2nd) :第2段圧縮機ガイドベーン設定角度
f(3rd) :第3段圧縮機ガイドベーン設定角度
f(4th) :第4段圧縮機ガイドベーン設定角度
a,b,c,d:比例定数
【0035】
プラントからの指令信号が制御器15に入力され、この指令信号に基づいて前記制御器15に収納された演算手段によって、上記f(base)が算出され、次いで前式(1)〜(4)から圧縮機各段のガイドベーンの角度が算出され、前記制御器15に収納された制御手段によって、各段のガイドベーン操作器11〜14に制御信号が出力される。
【0036】
図6,7における運転点Qの場合、a=1.15,b=1.05,c=0.95,d=0.85と設定されていたとすれば、f(base)=30[度]のとき、
f(1st)=34.5[度]
f(2nd)=31.5[度]
f(3rd)=28.5[度]
f(4th)=25.5[度]
となる。
【0037】
図6,7に示されている様に、運転点Qの各段におけるサージラインまでの流量余裕sm1〜sm4は同一レベルとなっており、この運転点Qでもサージラインまでまだ余裕があり、更に流量を絞った運転点Qでも運転可能となっている。即ち、本発明により、圧縮機の流量制御範囲の増加が図られていることが分かる。
【0038】
また、本発明に係る多段遠心圧縮機の容量制御方法は、前述した従来技術1に示された様な複雑な制御を用いずとも十分な流量制御を行うことができる。一般的に、図2に示した様な流量−圧力特性が要求される場合は、前記定数a〜dは次式(5)を満足する様に設定した方が、より有効に流量制御することが可能となる。
a>b>c>d (5)
【0039】
一般的に、本発明に係る多段遠心圧縮機では、その第1段圧縮機の入口圧力は、吐出流量が変化しても殆ど変化しない場合が多い。但し、求められる吐出圧力は、図3に示した通り、吐出流量の減少に伴い低下する。従って、プラントで使用される圧縮気体の流量が減少すると、各段の圧縮機の吐出圧力も低下する。その場合の第2段圧縮機の入口側の体積流量の、定格時の体積流量との比の値は、第1段圧縮機のそれよりも大きくなる。上記比の値が前段より後段の方が大きくなるのは、第3段以降の高圧段(下流側の後段)の圧縮機でも同様である。即ち、後段になる程サージングラインから運転点が遠ざかる傾向にあるといえる。以上のことを踏まえると、上記式(5)を満足する様に設定することがより効果的である。
【0040】
次に、本発明の実施の形態2に係る多段遠心圧縮機の容量制御方法を、添付図8を参照しながら説明する。
但し、本発明の実施の形態2が上記実施の形態1と相違するところは、本発明の実施の形態1が増速機内蔵型の多段遠心圧縮機であったのに対し、実施の形態2では1軸型の多段遠心圧縮機であり、また後述する様に、前記実施の形態1が、各段のガイドベーンを全て異なる独立したガイドベーン操作器にて制御する構成を有していたのに対し、実施の形態2では、多段のガイドベーンの一部を共通のガイドベーン操作器にて制御する構成を有するものであり、これらの相違以外は上記実施の形態1と全く同構成であるから、上記実施の形態1と同一のものに同一符号を付して、以下その相違する点について説明する。
【0041】
即ち、上記実施の形態1においては、各段のガイドベーン7〜10が、ガイドベーン操作器11〜14によって独立して制御される構成を有していたのに対し、実施の形態2においては、リンク機構等により、第1,3段圧縮機1,3のガイドベーン7,9が、共通のガイドベーン操作器50によって、第2,4段圧縮機2,4のガイドベーン8,10が、他の共通のガイドベーン操作器51によって操作される様に構成されている。
【0042】
そして、本発明の実施の形態2に係る多段遠心圧縮機の容量制御方法は、この様に連結されたガイドベーン7〜10の角度が、前記リンク機構により同一角度になる様に、次式(6),(7)で示す値に制御するものである。
f(1st)=f(3rd)=a×f(base) (6)
f(2nd)=f(4th)=b×f(base) (7)
従って、本発明の実施の形態2に係る多段遠心圧縮機の容量制御方法によれば、上記実施の形態2以外のより広範囲な多段遠心圧縮機にも、本発明の容量制御方法が適用可能となる。
【0043】
次に、本発明の実施の形態3に係る多段遠心圧縮機の容量制御方法を、前図1を参照しながら説明する。
但し、本発明の実施の形態3が上記実施の形態1と相違するところは、本発明の実施の形態1が、入口ガイドベーン7〜10の設定角度の算出に前式(1)〜(4)を用いたのに対し、実施の形態3では、次式(8)〜(11)に示す様に角度の値を三角関数tanに変換した後、定数を乗じて、それを逆三角関数atanで再変換して算出する。三角関数としては、tanの外、sinやcosでも良い。
【0044】
f(1st)=atan[a×tan{f(base)}] (8)
f(2nd)=atan[b×tan{f(base)}] (9)
f(3rd)=atan[c×tan{f(base)}] (10)
f(4th)=atan[d×tan{f(base)}] (11)
【0045】
演算はやや複雑になるものの、圧縮機の特性によっては上記実施の形態3に係る容量制御方法の方が、多段遠心圧縮機の流量範囲をより拡張可能な場合がある。この様な圧縮機特性について以下説明する。
先ず、遠心圧縮機のヘッド(吐出圧と密接に関係する)Hは、次式(12)の通り右辺と比例関係にある。
H∝U2・Cu2−U1・Cu1 (12)
【0046】
ここで、U2とU1は、羽根車入口と出口の周速を示し、回転数が一定であればガイドベーンの角度にはよらず同一となる。Cu2は、羽根車出口の気体の絶対速度の周方向成分で、流量条件等により若干変化はあるが余り大きな変化はしない。他方、Cu1は、羽根車入口の気体の絶対速度の周方向成分で、ガイドベーンの角度が0度であれば0となる。ガイドベーンによる流量制御は、このガイドベーンによって前記Cu1の値を制御するもので、Cu1の値が大きくなれば、上式(12)から分かる様にHの値は小さくなり、吐出圧が低下することとなる。このことにより、運転点を変化させて流量調整を行うのがガイドベーン制御である。
【0047】
仮に、流入速度が同一だとすると、周方向成分はtan{f(base)}に比例することとなるが、ガイドベーンの角度が0〜45度程度までは、角度とtan{f(base)}の変化割合は同等であるが、前記角度が60度程度となると、tan{f(base)}の増加量が、角度そのものの増加量に比して大きくなる。この様な角度における、角度の微妙な変化が運転点に大きく影響を与える圧縮機特性を有する多段遠心圧縮機の場合には、上式(8)〜(11)を用いる本発明の実施の形態3に係る容量制御方法が有効になる場合がある。
【0048】
以上説明した様に、本発明に係る多段遠心圧縮機の容量制御方法によれば、入口ガイドベーンの角度の各段ごとの相対的な比率が一定比率となる様に制御するので、各段共に、サージングラインから同レベルの余裕を持った運転が可能となり、特定の段だけが先にサージングラインに接近することを防止できると共に、容量の絞り領域を増加可能となる。また、本発明に係る他の多段遠心圧縮機の容量制御方法によれば、前記角度の各段ごとの相対的な比率を、下流側の後段に向かうにつれて小さくなる様に設定するので、前記圧縮機の容量制御の設定を行う際に効果的にかつ確実に調整が行える様になる。
【符号の説明】
【0049】
1:第1段圧縮機, 2:第2段圧縮機,
3:第3段圧縮機, 4:第4段圧縮機,
5:入力軸, 6:電動機,
7〜10:入口ガイドベーン,
11〜14,50,51:ガイドベーン操作器,
15:制御器,
16:増速機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多段遠心圧縮機の各段吸込部に設けられた入口ガイドベーンを有する多段遠心圧縮機の容量制御方法において、前記入口ガイドベーンの角度の各段ごとの相対的な比率が一定比率となる様に制御することを特徴とする多段遠心圧縮機の容量制御方法。
【請求項2】
前記入口ガイドベーンの角度の各段ごとの相対的な比率を、下流側の後段に向かうにつれて小さくなる様に設定することを特徴とする請求項1に記載の多段遠心圧縮機の容量制御方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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