説明

多段重合体の製造方法

【課題】 乳化重合法により多段重合体を含むラテックスを得るにあたり、凝集物の発生を良好に抑制しうる多段重合体の製造方法を提供する。
【解決手段】 メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルおよび芳香族ビニル化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を主体とする単量体(A)が重合してなるシード粒子を含むラテックスに、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルおよび芳香族ビニル化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を主体とする単量体(B)を添加し、又は、2種以上の前記単量体(B)を順次添加し、乳化重合させることにより多段重合体を製造する方法であって、少なくとも1種の単量体(B)を前記ラテックスに添加するにあたり、当該単量体(B)を、その液滴径(D50)が100μm未満となった状態で添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、耐衝撃性改質剤、塗料、トナー等の用途において有用な多段重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、粒子状の多段重合体は各種用途において利用されており、例えばメタクリル樹脂等の熱可塑性樹脂に対する耐衝撃性改質剤として有用であることが知られている。
【0003】
このような多段重合体の製造方法としては、一般に、所定の単量体を乳化重合させてシード重合体を含むラテックスを得、次いでこのラテックスに、所定の単量体を順次添加して乳化重合させる方法が採用されている。その際、シード粒子を含むラテックスに単量体を添加するにあたり、単量体を予め分散剤水溶液に乳化させて乳化液としておき添加することが知られており、例えば、特許文献1には、単量体と水性溶媒との混合物を窒素バブリングすることにより乳化液にすることが開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−273266号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような従来の乳化重合法によれば、重合後のラテックス中において多段重合体が凝集した凝集物の発生量が増加することがあった。このように多段重合体を含むラテックス中に凝集物が増加してしまうと、例えば耐衝撃性改質剤として成形材料とする樹脂に添加した場合、成形品の表面にフィッシュアイと呼ばれる凹凸を伴う外観欠陥を招きやすくなるなど、用途によって様々な問題を引き起こすことが懸念される。そのため、従来の乳化重合法による多段重合体の製造方法は、必ずしも十分に満足しうる方法とは言えないのが現状であった。
そこで、本発明は、乳化重合法により多段重合体を含むラテックスを得るにあたり、凝集物の発生を良好に抑制しうる多段重合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記課題を解決するべく鋭意検討を行った。その結果、所定の単量体(A)が重合してなるシード粒子を含有するラテックスに、所定の単量体(B)を添加して乳化重合させるにあたり、単量体(B)を予め水性溶媒中に分散させるなどして液滴径(D50)が100μm未満となるよう制御しておき、その状態で単量体(B)をシード粒子含有ラテックスに添加すると、形成される多段重合体の凝集を良好に抑制することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の多段重合体の製造方法は、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルおよび芳香族ビニル化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を主体とする単量体(A)が重合してなるシード粒子を含むラテックスに、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルおよび芳香族ビニル化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を主体とする単量体(B)を添加し、又は、2種以上の前記単量体(B)を順次添加し、乳化重合させることにより多段重合体を製造する方法であって、少なくとも1種の単量体(B)を前記ラテックスに添加するにあたり、当該単量体(B)を、その液滴径(D50)が100μm未満となった状態で添加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、乳化重合法により多段重合体を含むラテックスを得るにあたり、凝集物の発生を良好に抑制することができる。また、本発明によれば、乳化重合の際の重合速度が速く比較的短時間で反応を完結させることができるので、工業的に有利であるという効果も得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の製造方法で用いられる単量体(A)および1種以上の単量体(B)は、それぞれ、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルおよび芳香族ビニル化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を主体とする。具体的には、各単量体において、その50重量%以上がメタクリル酸エステル、アクリル酸エステルおよび芳香族ビニル化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0010】
メタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシルなどのメタクリル酸アルキルエステルや、メタクリル酸アリル等が挙げられる。アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシルなどのアクリル酸アルキルエステルや、アクリル酸アリル等が挙げられる。芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレンなどの核置換スチレン、ビニルトルエン等が挙げられる。これらメタクリル酸エステル、アクリル酸エステルおよび芳香族ビニル化合物は、それぞれ、単独でもしくは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0011】
前記単量体(A)および前記1種以上の単量体(B)は、それぞれ、50重量%以下の範囲で、前述したメタクリル酸エステル、アクリル酸エステルおよび芳香族ビニル化合物以外の他の単量体を含有していてもよい。他の単量体としては、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルまたは芳香族ビニル化合物と共重合可能な化合物であれば特に制限されないが、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のエステル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、第3級カルボン酸ビニル等のビニルエステル類;ビニルピロリドンの如き複素環式ビニル化合物;塩化ビニル、ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルアミド;アクリロニトリル等のビニルシアン化合物;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン化合物;エチレン、プロピレン等のα−オレフィン類;ブタジエン等のジエン類;等が挙げられる。また、後述する弾性重合体形成原料として用いられる共重合性の架橋性単量体のうち、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルおよび芳香族ビニル化合物以外の単量体も、他の単量体として挙げられる。これら他の単量体は、単独でもしくは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0012】
前記単量体(A)および前記1種以上の単量体(B)は、これらの全てが同じ単量体組成であってもよく、これらのうちの少なくとも2つが互いに異なる単量体組成であってもよい。
【0013】
本発明の製造方法で得られた多段重合体を耐衝撃性改質剤(とりわけメタクリル樹脂に対する耐衝撃性改質剤)として用いる場合には、前記単量体(A)および前記1種以上の単量体(B)のうち、少なくとも1つがアクリル酸エステルを主体とする弾性重合体形成原料であり、少なくとも1つがメタクリル酸エステルを主体とする硬質重合体形成原料であることが好ましい。より好ましくは、前記弾性重合体形成原料は、アクリル酸アルキルエステルを主成分とするのがよく、前記硬質重合体形成原料は、メタクリル酸アルキルエステルを主成分とするのがよい。
【0014】
前記弾性重合体形成原料は、例えば、アクリル酸アルキルエステル50〜99.9重量%と、これに共重合可能な他のビニル単量体0〜49.9重量%と、共重合性の架橋性単量体0.1〜10重量%とからなることが好ましい。
【0015】
前記弾性重合体形成原料として用いられるアクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、アルキル基の炭素数が1〜8のもの等が挙げられ、特に、アクリル酸ブチルやアクリル酸2−エチルヘキシルのように、アルキル基の炭素数が4〜8のものが好ましい。
前記弾性重合体形成原料として必要に応じて用いられる他のビニル単量体としては、アクリル酸アルキルエステルに共重合可能な化合物であればよく、1分子内に重合性炭素−炭素二重結合を1個有する単官能の化合物、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシルのようなメタクリル酸エステル;スチレンのような芳香族ビニル化合物;アクリロニトリルのようなビニルシアン化合物;等が挙げられる。
【0016】
前記弾性重合体形成原料として用いられる共重合性の架橋性単量体は、1分子内に重合性炭素−炭素二重結合を少なくとも2個有するものであればよく、例えば、エチレングリコールジメタクリレート、ブタンジオールジメタクリレートのようなグリコール類の不飽和カルボン酸ジエステル;アクリル酸アリル、メタクリル酸アリル、ケイ皮酸アリルのような不飽和カルボン酸のアルケニルエステル;フタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートのような多塩基酸のポリアルケニルエステル;トリメチロールプロパントリアクリレートのような多価アルコールの不飽和カルボン酸エステル;ジビニルベンゼン;等が挙げられ、特に、不飽和カルボン酸のアルケニルエステルや多塩基酸のポリアルケニルエステル等が好ましい。
【0017】
前記硬質重合体形成原料は、例えば、メタクリル酸アルキルエステル50〜100重量%と、アクリル酸エステル0〜50重量%と、これらに共重合可能な他のビニル単量体0〜49重量%とからなることが好ましい。特に、単量体(A)を硬質重合体形成原料で構成する場合には、メタクリル酸アルキルエステルが70〜100重量%であるのがよい。
【0018】
前記硬質重合体形成原料として用いられるメタクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、炭素数1〜8のアルキル基を有するエステルが好ましく、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。特に、単量体(A)を硬質重合体形成原料で構成する場合には、炭素数1〜4のアルキル基を有するエステルが好ましく挙げられ、メタクリル酸メチルがより好ましい。
【0019】
前記硬質重合体形成原料として必要に応じて用いられるアクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸シクロヘキシルのようなアクリル酸のアルキルエステル等が挙げられる。
前記硬質重合体形成原料として必要に応じて用いられる前記他のビニル単量体としては、メタクリル酸アルキルエステルおよび/またはアクリル酸エステルに共重合可能な化合物であればよく、例えば、スチレンのような芳香族ビニル化合物;アクリロニトリルのようなビニルシアン化合物;等が挙げられる。また、前述した弾性重合体形成原料として用いられる共重合性の架橋性単量体も、他のビニル単量体として挙げられる。
【0020】
なお、以上のように、弾性重合体形成原料と硬質重合体形成原料と用いた場合、得られる多段重合体は、アクリル酸エステル(好ましくはアクリル酸アルキルエステル)を主体とする単量体が重合してなる少なくとも1層の弾性重合体層と、メタクリル酸エステル(好ましくはメタクリル酸アルキルエステル)を主体とする単量体が重合してなる少なくとも1層の硬質重合体層とからなる多段重合体となる。このとき、その層構成は、特に限定されず、例えば、内層(弾性重合体層)/外層(硬質重合体層)からなる2層構造、内層(硬質重合体層)/外層(弾性重合体層)からなる2層構造、内層(硬質重合体層)/中間層(弾性重合体層)/外層(硬質重合体層)からなる3層構造、内層(弾性重合体層)/中間層(硬質重合体層)/外層(弾性重合体層)からなる3層構造、内層(弾性重合体層)/内層側中間層(硬質重合体層)/外層側中間層(弾性重合体層)/外層(硬質重合体層)からなる4層構造等が挙げられる。これら層構造の中でも特に、最外層(外層)が硬質重合体層である層構造が、例えば該多段重合体をメタクリル樹脂に対する耐衝撃性改質剤として用いた際に該樹脂との混和性に優れる点で好ましく、例えば、内層(硬質重合体層)/中間層(弾性重合体層)/外層(硬質重合体層)からなる3層構造が好適である。
【0021】
本発明の製造方法おいては、前記単量体(A)が重合してなるシード粒子を含むラテックス(以下、「シード粒子含有ラテックス」と称することもある)に、1種の単量体(B)を添加し、又は、2種以上の単量体(B)を順次添加し、乳化重合させる。
前記シード粒子含有ラテックスは、前記単量体(A)を公知の乳化重合法で重合することにより得ることができる。ここで、乳化重合の重合率は特に限定されないが、通常、単量体(A)を50〜100%の重合率で乳化重合させた反応液をシード粒子含有ラテックスとして用いることができる。単量体(A)を重合する際の重合反応の条件等については、特に制限はなく、例えば、後述する単量体(B)を乳化重合させる際の条件等を適用することができる。なお、前記シード粒子含有ラテックスは、前記単量体(A)を重合して得られた反応液から一旦単離したシード粒子を、例えば後述する重合開始剤等の成分を含む水性溶媒に再び分散させることにより調製してもよい。
前記シード粒子含有ラテックス中のシード粒子の平均粒子径は、得ようとする多段重合体のモノマー組成や粒子径等に応じて適宜設定すればよく、特に制限されないが、通常0.03〜1μm、好ましくは0.05〜0.5μmである。
【0022】
本発明の製造方法おいては、少なくとも1種の単量体(B)を前記ラテックス(シード粒子含有ラテックス)に添加するにあたり、当該単量体(B)を、その液滴径(D50)が100μm未満となった状態で添加する。前記単量体(B)の液滴径(D50)は、好ましくは70μm未満であるのがよい。液滴径(D50)が100μm以上であると、乳化重合で得られるラテックスにおいて凝集物の発生量が増加しやすくなるとともに、重合速度が低下して重合に要する時間が長くなり、工業的に不利となる。一方、前記単量体(B)の液滴径(D50)の下限については、特に制限はないが、一般に、液滴径を1μmより小さくするには、特別な分散装置や噴霧装置が必要になったり、分散処理に長時間を要することになるため、通常1μm以上であるのがよい。なお、例えば後述する重合開始剤や乳化剤等の成分を単量体(B)とともに混合してシード粒子含有ラテックス中に添加する場合には、それら成分と単量体(B)の混合物の液滴径(D50)が前記範囲であればよい。
本発明において、液滴径(D50)は、例えば実施例で後述する方法で測定することができる。
【0023】
少なくとも1種の単量体(B)を、その液滴径(D50)が100μm未満となった状態とする手段は、特に限定されないが、少なくとも1種の単量体(B)を予め水性溶媒中に分散させることにより、その液滴径(D50)が100μm未満となった分散液の状態にする方法が簡便で好ましい。また、単量体(B)を液滴径(D50)が100μm未満となった状態とする手段として、単量体(B)を前記液滴径となるような所定の口径を有するノズルから霧状に噴霧して前記シード粒子含有ラテックス中に添加する方法を採用することもできる。
【0024】
前記単量体(B)を予め水性溶媒中に分散させる場合、例えば、攪拌羽根を備えた混合タンク中で混合する方法、ホモジナイザーやコロイドミルなどを用いる方法、超音波を利用した分散装置などを用いる方法等を採用することができる。この場合、単量体(B)を安定して前記液滴径で分散させるために、単量体(B)とともに乳化剤を水性溶媒中に含有させることが好ましい。
【0025】
このように前記液滴径となった状態で添加する添加方法は、前記シード粒子含有ラテックスに段階的に添加される1種以上の単量体(B)のうち、少なくとも1つの添加時に適用すればよいのであるが、添加する単量体(B)の量が比較的多い場合に適用するのが、凝集物の防止効果がより顕著に現れるので、好ましい。
【0026】
前記単量体(B)を前記シード粒子含有ラテックスに添加する際の単量体(B)の添加速度は、通常、1分あたり、シード粒子含有ラテックス中のシード粒子重量の3〜50重量%とするのがよい。単量体(B)の添加速度が前記範囲よりも遅い場合には、添加に長時間を要することになるため工業的に不利となり、一方、前記範囲よりも速い場合には、乳化重合中に凝集物が発生しやすくなる傾向があるため、いずれも好ましくない。
【0027】
前記単量体(B)を乳化重合させる際に用いられる重合開始剤は、特に制限されないが、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩類;ベンゾイルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物;4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)等のアゾ系化合物類;過硫酸カリウム−チオ硫酸ナトリウム、過酸化水素−アスコルビン酸等のレドックス系開始剤;などの水溶性の重合開始剤が挙げられる。重合開始剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
重合開始剤の使用量(2種以上の単量体(B)を順次添加するときには、各重合段階で用いる総量)は、単量体(B)(2種以上の単量体(B)を用いる場合にはその合計量)100重量部に対して、通常0.01〜5重量部、好ましくは1重量部以下である。重合開始剤は、例えば、単量体(B)または該単量体(B)の分散液に添加しておいてもよいし、シード粒子含有ラテックスに単独もしくは他の添加物(後述する乳化剤等)とともに一括、分割または連続して添加するようにしてもよい。なお、2種以上の単量体(B)を段階的に添加して重合させる場合、重合開始剤は、各単量体(B)をシード粒子含有ラテックスに添加したときに反応系内に存在してさえいればよく、必ずしも各重合段階ごとに添加する必要はない。
【0029】
前記単量体(B)を乳化重合させる際に用いられる乳化剤は、特に制限されるものではなく、通常の乳化重合で用いられている乳化剤を使用することができる。代表的な乳化剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩類(例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等)、アルキル硫酸塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルスルホン酸塩類、ジアルキルスルホサクシネートの塩類等のアニオン乳化剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体等のノニオン乳化剤;などが挙げられる。これら乳化剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
乳化剤の使用量(2種以上の単量体(B)を順次添加するときには、各重合段階で用いる総量)は、単量体(B)(2種以上の単量体(B)を用いる場合にはその合計量)100重量部に対して、通常0.01〜10重量部、好ましくは5重量部以下である。乳化剤は、例えば、単量体(B)または該単量体(B)の分散液に添加しておいてもよいし、シード粒子含有ラテックスに一括、分割または連続して添加するようにしてもよいが、前述したように、単量体(B)を予め分散液にしておく場合には、該分散液に含有させておくことが好ましい。なお、2種以上の単量体(B)を順次添加して重合させる場合、乳化剤は、各単量体(B)をシード粒子含有ラテックスに添加したときに反応系内に存在してさえいればよく、必ずしも各重合段階ごとに添加する必要はない。
【0031】
前記単量体(B)を乳化重合させる際に必要に応じて用いられる水性溶媒としては、例えば、水、水と水混和性溶剤との混合溶媒等の水系媒体が挙げられる。
水性溶媒の使用量(2種以上の単量体(B)を順次添加するときには、各重合段階で用いる総量)は、特に制限されないが、シード粒子含有ラテックスに含まれる溶媒量と合わせて、単量体(A)および単量体(B)(2種以上の単量体(B)を用いる場合にはその合計量)の総量100重量部に対して、通常50〜1500重量部程度の割合となるように用いるのが好ましい。
【0032】
前記単量体(B)を乳化重合させる際には、必要に応じて、例えば、連鎖移動剤、pH調整剤(例えば、炭酸ナトリウム等)、紫外線吸収剤、熱安定剤、着色剤等のその他の添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で用いることもできる。
前記単量体(B)を乳化重合させる際の重合条件等は、少なくとも1つの単量体(B)の添加を前述のように行なうこと以外は、特に制限されるものではなく、公知の乳化重合法に従い行なうことができる。例えば、重合温度は、重合開始剤の種類によって適宜設定することができ、通常は30〜100℃であり、好ましくは50〜100℃である。
【0033】
以上のようにして、単量体(A)および単量体(B)からそれぞれ形成された重合体層からなる粒子状の多段重合体を含むラテックスが、凝集物の少ない状態で得られる。このラテックス中の多段重合体は、多段の重合工程を経て得られる重合体であればよく、1層の多段重合体(すなわち、単量体(A)および1種以上の単量体(B)の全てが同じ単量体組成である場合)であってもよいし、多層の多段重合体(すなわち、単量体(A)および1種以上の単量体(B)のうちの少なくとも2つが互いに異なる単量体組成である場合)であってもよい。例えば、耐衝撃性改質剤として用いる場合は、多層の多段重合体であるのが好ましい。また、このラテックス中の多段重合体の平均粒子径は、用途に応じて適宜設定されるものであり、特に制限されないが、例えば、耐衝撃性改質剤として用いる場合には、通常0.05〜0.40μmの範囲であることが好ましい。多段重合体粒子の粒子径が大きすぎると、耐衝撃性は保たれるものの、加熱によって材料表面に白化不良を生じやすくなり、一方、粒子径が小さすぎると、耐衝撃性が不充分となる傾向がある。
【0034】
なお、前記乳化重合で得られたラテックス中の多段重合体は、必要に応じて、例えば、塩析法、酸析法、噴霧法、凍結法などの公知の方法により、当該ラテックスから単離することができる。例えば、塩析法は、最も簡便で操作性に優れる点で好ましい。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
なお、実施例および比較例における分析および評価は以下の方法で行なった。
【0036】
(1)シード粒子および多段重合体粒子の平均粒子径
動的光散乱法式粒径分布測定装置(「DLS−7000」大塚電子(株)製)を用いて測定した。
(2)分散液の液滴径
レーザー光散乱回折式粒径分布測定装置(「マイクロトラックFRA Leed&amp」Northrup社製)を用いて分散液の液滴の粒度分布を測定し、累積50重量%の径(D50)を求めた。
【0037】
(3)重合率
サンプリングした反応液を80℃で5時間乾燥して、乾燥に供した反応液の重量に対する乾燥後の残さの重量の比率(百分率)を算出して固形分濃度X(重量%)とし、多段重合工程で用いた原料の仕込み量から、全仕込原料に対する単量体以外の原料の比率(百分率)を算出して固形分濃度Y(重量%)とし、全仕込原料に対する単量体の比率(百分率)を算出して濃度Z(重量%)として、下記式に従って重合率(%)を求めた。
重合率(%)=〔(X−Y)/Z〕×100
(4)ラテックスの凝集物発生率
得られた多段重合体含有ラテックスの全量を目開き106μmの篩に通し、篩上に残存した固形物と篩を通過した重合液とを、それぞれ110℃で24時間乾燥させ、篩上の固形物の乾燥重量x(g)および篩を通過した重合液の乾燥重量y(g)を求め、下記式に従って凝集物発生率(%)を算出した。
凝集物発生率(%)=〔x/(x+y)〕×100
【0038】
(実施例1)
<シード粒子作製工程>
反応容器に、室温(約20℃)のイオン交換水1400gを入れ、さらに炭酸ナトリウム0.7gを入れて溶解させた。次に、単量体(A)としてメタクリル酸メチル98.7g、アクリル酸メチル6.1gおよびメタクリル酸アリル0.2gと、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの12.4重量%水溶液4.5gとを混合した混合物を加え、窒素ガスでバブリングを行いながら、攪拌下で77℃に昇温した。次いで、重合開始剤として過硫酸カリウムの0.25重量%水溶液33.6g(過硫酸カリウム0.084g含有)を5分間で連続添加し、添加終了後、同温度で60分間重合反応を行い、重合率99.5%で、硬質重合体からなるシード粒子を104g含むラテックスを得た。得られたラテックス中のシード粒子の平均粒子径は0.11μmであった。
【0039】
<多段重合工程>
次に、単量体(B)としてアクリル酸ブチル559g、スチレン35gおよびメタクリル酸アリル1.2gと、イオン交換水132gと、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム3.2gと、重合開始剤として過硫酸カリウム0.36gとを、ガラス容器に一括して入れ、ホモジナイザー(特殊機化工業製)を用いて1500rpmの回転数で5分間攪拌することにより、混合、分散させた。このようにして分散した分散液(乳濁液)の液滴径(D50)は50μmであった。
上記で得たシード粒子含有ラテックスを攪拌下85℃に加温した状態としておき、その中に、上記攪拌条件で分散させた上記液滴径の分散液を、1分あたりの単量体(B)の添加量がシード粒子含有ラテックス中のシード粒子重量の18.9重量%となる添加速度(1分あたりの分散液の添加量が24.4gとなる添加速度)で約30分間かけて添加し、重合反応を行った。上記分散液を添加後、さらに、同温度で60分間保持して、重合反応を完結させ、硬質重合体からなるシード粒子の上に弾性体層が形成された2層構造を有する多段重合体粒子を含むラテックスを得た。
得られたラテックスに含まれる多段重合体粒子の平均粒子径と、このラテックスの凝集物発生率を表1に示す。併せて、上記重合反応において反応開始(分散液の添加開始)から重合率99%に達するまでの時間(重合率99%到達時間)を、分散液の添加終了後から5分毎に反応液を5gサンプリングして重合率(%)を算出することにより求め、表1に示す。
【0040】
(実施例2)
多段重合工程において、ホモジナイザーによる攪拌の条件を6000rpmで20分間に変更して、分散した分散液の液滴径(D50)を20μmとしたこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、硬質重合体からなるシード粒子の上に弾性体層が形成された2層構造を有する多段重合体粒子を含むラテックスを得た。
得られたラテックスに含まれる多段重合体粒子の平均粒子径、このラテックスの凝集物発生率、および実施例1と同様にして求めた重合率99%到達時間を表1に示す。
【0041】
(比較例1)
多段重合工程において、ガラス容器に一括して入れた原料をホモジナイザーにより攪拌分散するのではなく、アクリル酸ブチル、スチレンおよびメタクリル酸アリルからなる単量体(B)の混合液(使用量は実施例1と同様)と、イオン交換水、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムおよび過硫酸カリウムからなる単量体以外の混合液(使用量は実施例1と同様)とを、それぞれ別々にラテックスに添加するようにした(添加速度は、単量体(B)の混合液については19.9g/分、単量体以外の混合液については4.5g/分とした)こと以外は、実施例1と同様の操作を行って、硬質重合体からなるシード粒子の上に弾性体層が形成された2層構造を有する多段重合体粒子を含むラテックスを得た。
得られたラテックスに含まれる多段重合体粒子の平均粒子径、このラテックスの凝集物発生率、および実施例1と同様にして求めた重合率99%到達時間を表1に示す。
【0042】
(比較例2)
多段重合工程において、ホモジナイザーによる攪拌の条件を500rpmで2分間に変更して、分散した分散液の液滴径(D50)を110μmとしたこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、硬質重合体からなるシード粒子の上に弾性体層が形成された2層構造を有する多段重合体粒子を含むラテックスを得た。
得られたラテックスに含まれる多段重合体粒子の平均粒子径、このラテックスの凝集物発生率、および実施例1と同様にして求めた重合率99%到達時間を表1に示す。
【0043】
(比較例3)
多段重合工程において、ガラス容器に一括して入れた原料をホモジナイザーにより攪拌分散するのではなく、窒素ガスを0.3L/分の流量で20分間バブリングすることにより攪拌分散するようにしたこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、硬質重合体からなるシード粒子の上に弾性体層が形成された2層構造を有する多段重合体粒子を含むラテックスを得た。なお、上記窒素ガスのバブリングにより攪拌分散させた分散液の液滴径(D50)は150μmであった。
得られたラテックスに含まれる多段重合体粒子の平均粒子径、このラテックスの凝集物発生率、および実施例1と同様にして求めた重合率99%到達時間を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
(参考例)
窒素ガスのバブリングによる攪拌分散効果を調べるため、バブリング条件(窒素ガスの流量およびバブリング時間)を種々変更し、そのときの分散液の液滴径(D50)を測定した。すなわち、50mLのガラス製スクリュー管に、アクリル酸ブチル23g、スチレン1.4g、メタクリル酸アリル0.048g、イオン交換水5.3g、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.129gおよび過硫酸カリウム0.015gを一括して入れた後、ガス配管(管径0.5cm)をその配管の先端部が上記スクリュー管の底部から約1cmのところになるように配置し、次いで、表2に示す条件(窒素ガス流量およびバブリング時間)でガス配管からスクリュー管内に窒素を供給することにより窒素バブリングを行い、得られた分散液の液滴径(D50)を測定した。結果を表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
表2の結果から、窒素ガスのバブリングによる攪拌分散では、バブリング条件に拘わらず、得られる分散液の液滴径(D50)を充分に小さく(具体的には150μmよりも小さく)することは困難であることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルおよび芳香族ビニル化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を主体とする単量体(A)が重合してなるシード粒子を含むラテックスに、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルおよび芳香族ビニル化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を主体とする単量体(B)を添加し、又は、2種以上の前記単量体(B)を順次添加し、乳化重合させることにより多段重合体を製造する方法であって、
少なくとも1種の単量体(B)を前記ラテックスに添加するにあたり、当該単量体(B)を、その液滴径(D50)が100μm未満となった状態で添加することを特徴とする多段重合体の製造方法。
【請求項2】
前記少なくとも1種の単量体(B)を予め水性溶媒中に分散させることにより、その液滴径(D50)が100μm未満となった状態にする請求項1記載の多段重合体の製造方法。
【請求項3】
前記単量体(A)および前記1種以上の単量体(B)のうち、少なくとも1つがアクリル酸エステルを主体とする弾性重合体形成原料であり、少なくとも1つがメタクリル酸エステルを主体とする硬質重合体形成原料である請求項1または2記載の多段重合体の製造方法。
【請求項4】
多段重合体が、アクリル酸アルキルエステルを主体とする単量体が重合してなる少なくとも1層の弾性重合体層とメタクリル酸アルキルエステルを主体とする単量体が重合してなる少なくとも1層の硬質重合体層とからなる多段重合体である請求項1〜3のいずれかに記載の多段重合体の製造方法。

【公開番号】特開2009−286907(P2009−286907A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−141492(P2008−141492)
【出願日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】