説明

多焦点眼科レンズの設計方法

【課題】移植後に少なくとも1つの焦点について眼の収差を低減できる、1つの基本焦点および少なくとも1つの追加焦点を持つ多焦点眼科レンズを設計する方法を提供する。
【解決手段】本方法は、(i)少なくとも1つの角膜表面を数学的モデルとして特徴付けるステップと、(ii)前記数学的モデルを用いて、得られる前記角膜表面の収差を計算するステップと、(iii)前記レンズと前記少なくとも1つの角膜表面とを含む光学系から到来する波面が、少なくとも1つの焦点について低減した収差を得るように、多焦点眼科レンズをモデル化するステップと、を備える。多焦点眼内レンズを選択する方法、患者グループからの角膜データに基づいて、多焦点眼科レンズを設計する方法、および多焦点眼科レンズも開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多焦点眼科(ophthalmic)レンズの設計方法に関し、より詳しくは、低減した収差を持つ多焦点眼内(intraocular)レンズの設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、多焦点レンズは、遠視界については一定のパワーを、中近視界については別々で通常はより大きい(より正の)パワーを提供するために必要となる。中近視界についての追加のパワーは、時々「中視界追加分」「近視界追加分」と称され、これらは、通常、ジオプター(dioptre)で表現される。2つの焦点を持つ多焦点レンズは、二焦点(バイフォーカル)と称される。
【0003】
単焦点眼科レンズと比べて、多焦点眼科レンズは、眼鏡依存性が低くなるという利点を提供するとともに、単焦点レンズを持つ患者は、一般に、読書用眼鏡が必要になる。理想的な状況は、患者が遠近で良好な視界を有することであり、焦点深度は中間での視界を可能にするであろう。この場合、患者は、どんな状況でも眼鏡を必要としない。しかしながら、多焦点レンズは、利用可能な光を2つ又はそれ以上の焦点に分割することから、各焦点での視覚品質はいくらか低下する。遠い物体が網膜上に結像した場合、追加の焦点の存在に起因して、ぼけた像が重なり合い、またその逆も同様であり、このことは像の品質を明らかに低下させる。低下した視覚品質は、低下したコントラスト感度と、迷光および後光(halo)に似た光学現象の出現とに区別できる。さらに、患者は、移植後に学習期間を経験しなければならず、これは初期において網膜上で表示される2つ(又はそれ以上)の同時像が混同するためである。多くの場合、ぼけた像は、人間視覚認識および網膜処理系によって破棄される。
【0004】
通常、多焦点レンズは、下記の光学原理の1つ又はそれ以上に従って設計される。
【0005】
1.回折タイプ:光を2つ又はそれ以上の焦点に分割する回折光学系と組み合わせた従来の屈折レンズ。
2.異なる曲率半径を持つ環状のゾーン/リングを持つ屈折光学系。
【0006】
二焦点および多焦点の眼内レンズの例は、米国特許4642112、米国特許5089024に開示されている。商業的に入手可能な多焦点レンズの例は、モデルCeeOn(登録商標)、モデル811 E、Pharmacia(ファルマシア社)、Kalamazoo(カラマズー社)、MI(ミシガン州)と、SA 40、AMO、Irvine(アーヴィン社)、CA(カリフォルニア州)である。前者は、回折光学系をベースとしており、光は2つの焦点に仕切られて、1つは遠視界用、もう1つは近視界用である。後者は、遠方が支配的で、ゾーン進行性(zonal-progressive)の、3.5ジオプターの近視界追加分を持つ多焦点光学系である。
【0007】
IOL(眼内レンズ)の移植後は、残留するデフォーカス(球面)および非点収差(astigmatism)(円柱)のいずれも、眼鏡やコンタクトレンズによって補正可能である。眼の1次のデフォーカスおよび非点収差と並んで、他の多くの視覚欠陥が存在し得る。例えば、波面が屈折面を通過するとき、別々の次数の収差が生ずる。波面自体は、欠陥を有する光学面を通過するとき、非球面となる。非球面の波面が網膜上に到達すると、視覚欠陥が生ずる。カプセル状の袋にある角膜およびレンズの両方が、完全なもの又は完全に補償する光学要素から逸脱した場合、これらのタイプの視覚欠陥に関与する。用語「非球面」は、本文において非球面性(asphericity)と非対称性(asymmetry)の両方を含む。非球面の表面は、回転対称でも回転非対称な表面でもよく、及び/又は、不規則な表面、即ち、全ての表面が球面でないものでもよい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
最近、古い課題の研究において、球面レンズ面(以下、従来の眼内レンズ(CIOL)と称する)を持つ移植された単焦点IOLを有する眼の視覚品質は、同年齢の人々の正常な眼と同等であることが発見された。その結果、こうしたレンズは、客観的には本来の結晶レンズより光学的に優れたものとみなされていたが、70歳の白内障(cataract)患者は、眼内レンズの外科移植後に、白内障の無い同年齢の人間の視覚品質を得ることが期待できるだけである。この結果は、CIOLが、人間の眼の光学系の欠陥、即ち、光学収差を補償するのに適合していないことによって説明される。
【0009】
移植された眼内レンズの性能を改善するために、こうした収差を少なくとも部分的に補償する移植用眼内レンズを提供する努力が成されていた(収差低減IOLまたはRAIOL)。出願人自身の出願(国際公開WO01/89424)は、眼に低減した収差を付与する持つ眼科レンズ、およびこれを得るための方法を開示する。該方法は、少なくとも1つの角膜表面を数学的モデルとして特徴付けるステップと、前記数学的モデルを用いて、得られる前記角膜表面の収差を計算するステップと、眼内レンズの光学パワーを選択するステップとを備える。この情報から、前記レンズおよび角膜モデルを含む光学系から到来する波面が眼内で低減した収差を得るように、眼科レンズがモデル化される。該方法によって得られる眼科レンズは、眼の収差を低減することができる。
【0010】
現行の多焦点レンズの光学品質は、現行の単焦点レンズより低い。これは、偽水晶体(pseudophakic)の患者へのコントラスト感度測定で示している。単焦点レンズの視覚品質は比較的低いが、光学品質の小さな改善でさえも視覚的改善をもたらすことになる。
【0011】
国際公開WO00/76426および米国特許6457826は、非球面のBIOLを製作する可能性に言及している。国際公開WO00/76426は、レンズでの具体的な非球面特性の使用を何ら開示していないが、非球面と回折パターンを組合せる可能性に言及している。しかしながら、米国特許6457826は、IOL表面を非球面化することによって光学的補正を行うことを記述しているが、これをどのようにして行うかは全く記載していない。
【0012】
上述の見地から、角膜表面など、眼の個々の表面によって生ずる収差を補償するのにより良く適合し、従来の多焦点眼科レンズに存在するような、デフォーカスおよび非点収差とは別の収差をより良く補正できる多焦点眼科レンズが必要となっている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明の要旨
本発明の目的は、先行技術の装置および方法の欠点を克服する、多焦点眼科レンズおよびこれを設計するための設計方法を提供することである。これは、請求項1または2で規定されたような方法によって達成される。
【0014】
本発明に係る多焦点眼内レンズの1つの利点は、改善された視覚品質が得られる点である。
【0015】
本発明の実施形態は、従属請求項で規定される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る二焦点眼内レンズおよび従来の二焦点レンズについて、計算した変調伝達関数(Modulation Transfer Function)を示す。
【図2】本発明に係る二焦点眼内レンズおよび従来の二焦点レンズについて、測定した変調伝達関数(Modulation Transfer Function)を示す。
【図3】近焦点および遠焦点について、波長の関数として縦方向(longitudinal)の色収差を示す。
【図4A】本発明の2つの実施形態および従来の二焦点レンズに係る二焦点眼内レンズについての変調伝達関数を示す。
【図4B】本発明の2つの実施形態および従来の二焦点レンズに係る二焦点眼内レンズについての変調伝達関数を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
好ましい実施形態の詳細な説明
【0018】
本発明は、一般に、少なくとも1つの焦点について眼の収差を低減できる、多焦点眼科レンズおよび前記多焦点眼内レンズを得る方法に関する。本内容での収差とは、波面収差を意味する。これは、集束する波面が完全に球面で、点像を形成するに違いないという理解に基づいており、即ち、もし完全な像が眼の網膜上に形成される場合、眼の光学面、例えば、角膜および生来または人工のレンズ、を通過する波面は、完全に球面でなければならない。波面が球面から逸脱していれば、収差のある像が形成されることになる。本内容において、用語「非球面」とは、回転対称、回転非対称、及び/又は不規則な表面、即ち、全ての表面が球面でないものでもよい。波面収差は、教科書の文献、例えば、M. R. Freeman, Optics, Tenth Edition, 1990等で説明されているように、別々の近似モデルに従って、数学的用語で表現することができる。
【0019】
第1実施形態では、本発明は、1つの基本焦点および少なくとも1つの追加焦点を持つ多焦点眼科レンズを設計する方法であって、移植後に、少なくとも1つの焦点について眼の収差を低減できるものに関する。基本焦点は、遠視野(far field)焦点とも称され、少なくとも1つの追加焦点は、近視野(near field)焦点および中間視野(mid field)焦点と称され.る。該方法は、少なくとも1つの角膜表面を数学的モデルとして特徴付ける第1ステップと、得られる角膜表面の収差を計算するために、数学的モデルを用いる第2ステップとを備える。これにより、角膜収差の表現、即ち、こうした角膜表面を通過した球面波面の波面収差が得られる。選択した数学的モデルに依存して、角膜収差を計算するために異なるルートを採用することができる。角膜表面は、好ましくは、数学的モデルとして特徴付けられ、得られる角膜表面の収差は、数学的モデルおよび光線追跡技術を用いることによって計算される。角膜波面収差の表現、即ち、こうした角膜表面を通過した波面の波面収差が得られる。選択した数学的モデルに依存して、角膜波面収差を計算するために異なるルートを採用することができる。好ましくは、角膜表面は、回転円錐形または多項式またはこれらの組合せで、数学的モデルとして特徴付けられる。より好ましくは、角膜表面は、多項式の一次結合(linear combinations)で特徴付けられる。
【0020】
上記ステップの情報から、前記レンズおよび角膜モデルを含む光学系からの波面が低減した収差を有するように、眼科レンズがモデル化される。レンズをモデル化する場合、光学系は、典型的には角膜および前記レンズを含むが、特別の場合、これは、眼鏡や人工的な補正レンズ、例えば、コンタクトレンズ、角膜インレー移植あるいは、個人の事情に応じて移植可能な補正レンズなど、他の光学要素を含むことがある。
【0021】
さらに、眼科レンズについての遠視界の基本パワー、少なくとも2つの焦点の間の光の分配、追加的焦点の光学パワーが選択されなければならず、これは、眼の光学補正の特定の必要性についての従来の方法、例えば、米国特許第5968095に記載された方法に従って、行われる。
【0022】
多焦点レンズのモデル化は、系での1つ又は幾つかのパラメータの選択を必要とし、これは、予め選択された所定の屈折パワーにレンズ形状を決定することに寄与する。このことは、典型的には、例えば、前側半径と面形状、後側半径と面形状、レンズ厚さ、レンズの屈折率などの従来のレンズパラメータだけでなく、多焦点レンズに特有のパラメータの選択を必要とする。よって、多焦点特有のパラメータは、使用する多焦点設計に依存している。
【0023】
本発明に係る多焦点眼科レンズは、多焦点コンタクトレンズ、無水晶体(aphakic)患者のための多焦点角膜インレーなどの形態で実現可能であるが、多焦点眼内レンズの形態で詳細に説明している。さらに、議論する多焦点特有のパラメータは、異なるタイプの二焦点レンズに応用可能なパラメータに限っているが、本発明に従ってモデル化される多焦点レンズは、いずれの多焦点タイプまたはこれらの組合せとすることが可能であると理解すべきである。二焦点回折レンズは、従来の屈折レンズと回折レンズの組合せであり、前者は無限遠に焦点を結び、後者は近視界用である。回折レンズは、一連の半径リングまたは減少する幅の「ゾーン」から成る。典型的には、二焦点回折レンズの光分配は、約50:50%に設定され、近焦点および遠焦点の両方が調整される。回折レンズは、従来レンズの前側表面または後側表面に形成してもよく、あるいは中間位置に形成してもよい。回折二焦点レンズの光分配は、回折ゾーンの直径によって決定される。理論的には、これは、レンズおよび周囲媒体の屈折率とは独立している。
【0024】
実際には、レンズのモデル化は、従来の二焦点レンズ、例えば、ファルマシア社のCeeOn(登録商標)811 Eレンズ等に基づくデータを用いて実施可能である。レンズの中心半径、その厚さおよび屈折率の値を維持しつつ、前側表面及び/又は後側表面の異なる形状を選択して、これらの表面の一方または両方が非球面形状を有するようにする。
【0025】
本発明の一実施形態によれば、二焦点眼内レンズの前側表面及び/又は後側表面は、適切な非球面成分を選択することによって、モデル化される。好ましくは、レンズは、非球面または他の回転円錐形状として記述される少なくとも1つの表面を有する。レンズの非球面の表面を設計することは、周知の技術であり、異なる原理に従って実施でき、こうした表面の記述は、我々のPCT特許出願WO01/62188でより詳細に説明しており、これを参照することにする。
【0026】
本発明の方法は、レンズおよび平均的角膜モデルを含む光学系の波面収差を平均的角膜の波面収差と比較して、少なくとも1つの焦点について波面収差の充分な低減が得られるているかを評価することによって、さらに発展させることができる。適切な可変パラメータが、上述したレンズの物理的パラメータの中で見つけられ、これらはレンズモデルを見つけるように変更可能であり、球面レンズから充分に逸脱して角膜収差を補償する。
【0027】
少なくとも1つの角膜表面を数学的モデルとして特徴付けして、角膜波面収差を表現する角膜モデルを確立することは、好ましくは、本発明の方法とともに使用可能な定量化可能モデルで角膜の表面欠陥を表現するために動作する、周知のトポグラフ測定方法に従って直接的な角膜表面測定によって実施される。この目的のための角膜測定は、Orbtech(オーブテック社)から入手可能なORBSCAN(登録商標)videokeratograph(ビデオケラトグラフ)、または角膜トポグラフ測定、例えば、Premier Laser Systems(プレミアレーザシステムズ社)のEyeSys(登録商標)によって実施できる。好ましくは、少なくとも前側角膜表面が測定され、より好ましくは、前側および後側の角膜表面の両方が測定され、得られる波面収差の項、例えば、合計の角膜波面収差を表現できる多項式の線形結合などで特徴付けられ表現される。本発明の1つの重要な態様によれば、角膜の特徴付けは、角膜波面収差の平均を表現し、こうした平均化した収差からレンズを設計する目的で、選択された人々に対して行なわれる。人々の平均角膜波面収差の項は、例えば、多項式の平均線形結合として、計算可能であり、レンズ設計方法において用いられる。この態様は、別々の妥当な人々を、例えば、年齢グループで選択することを含み、適切な平均角膜表面を生成する。好都合なことに、IOLや角膜インレー、水晶体IOLの移植などの、白内障手術または屈折補正手術を受けるために選択された個人にとって妥当な人々の平均角膜に適合するようなレンズを提供することができる。これにより患者は、従来の球面レンズと比較して、実質的により少ない収差を眼に付与する二焦点レンズを獲得することになる。
【0028】
好ましくは、上述の角膜測定は、角膜屈折パワーの測定も含んでいる。角膜のパワーおよび軸上の眼長は、典型的には、本発明の設計方法におけるレンズパワーの選択と考えられる。
【0029】
また、好ましくは、ここで波面収差は多項式の線形結合として表現され、角膜モデルおよびモデル化した眼内レンズを含む光学系は、少なくとも1つの焦点、好ましくは各焦点について、1つ又はそれ以上の多項式の項で表現されるように、収差が実質的に低減した波面を付与する。先行技術の光学系では、収差を記述するために幾つかのタイプの多項式が当業者に利用可能である。ふさわしくは、多項式は、ザイデル(Seidel)またはゼルニケ(Zernike)の多項式である。本発明によれば、好ましくは、ゼルニケの多項式を採用している。
【0030】
完全な球面から逸脱した光学表面から由来する波面収差を記述するために、ゼルニケ項を使用する技術は、先行技術の状態であり、例えば、文献:J. Opt. Soc. Am., 1994, Vol. 11 (7), pp. 1949-57.に概説されたハルトマン−シャック(Hartmann-Shack)センサとともに使用することができる。異なるゼルニケ項が、デフォーカス、非点収差、コマ収差、球面収差を含む異なる収差現象をより高次の収差まで表すことは、光学実務家の間で充分に立証されている。本方法の一実施形態において、角膜表面測定により、角膜表面が最初の15個のゼルニケ多項式の第1線形結合として表現されるという結果をもたらす。光線追跡の方法によって、ゼルニケの記述は、得られる波面(式(1)で記述したもの)に変換することができる。ここで、Zはi番目のゼルニケ項であり、aはこの項についての重み付け係数である。ゼルニケの多項式は、単位円で定義された1組の完全直交多項式である。下記の(表1)は、最初の15個のゼルニケ項および各項が意味する収差を示している。
【0031】
【数1】

【0032】
式(1)において、ρおよびθは、正規化した半径および方位(azimuth)角をそれぞれ表している。
【0033】
【表1】

【0034】
眼内レンズを用いた従来の光学補正は、移植レンズを持つ眼を含む光学系の第4項にのみ従うことになる。非点収差について補正された眼鏡、コンタクトレンズ、ある特殊な眼内レンズは、さらに5個および6個の項に従うことがあり、非点収差を示すゼルニケ多項式を実質的に低減する。
【0035】
本発明の方法は、前記モデル化された二焦点眼内レンズおよび角膜を含む光学系から由来する波面収差を計算して、多項式の線形結合で表現することと、二焦点眼内レンズは1つ又はそれ以上の焦点に関して波面収差が充分に低減化しているか否かを決定することとをさらに含む。もし波面収差の低減化が不充分であれば、レンズは、1つ又は幾つかの多項式の項が充分に減少するまで、再モデル化されることになる。レンズの再モデル化は、1つ又はそれ以上の焦点に影響を与える少なくとも1つのレンズ設計パラメータを変化することを意味する。これらは、前側表面形状および中心半径、後側表面形状および中心半径、レンズの厚さ、その屈折率、回折ゾーンの直径およびステップ高さを含む。典型的には、こうした再モデル化は、レンズ表面の形状を球面から逸脱するように変化させることを含む。レンズ設計において利用可能な幾つかのツールが存在しており、これらは、例えば、光学設計ソフトウエアパッケージOSLOおよびCode-Vなどの設計方法とともに使用するのが便利である。本願に関連したゼルニケ多項式の形式は、(表1)に掲載している。
【0036】
一実施形態によれば、本発明の方法は、少なくとも1つの角膜表面をゼルニケ多項式の線形結合として表現することを含み、これにより、得られる角膜波面のゼルニケ係数、即ち、考慮のために選択された個々のゼルニケ多項式のそれぞれの係数、を決定する。そして、二焦点レンズがモデル化され、前記モデル二焦点レンズおよび角膜を含む光学系は、少なくとも1つの焦点に関して、選択したゼルニケ係数についての充分な低減を有する波面を提供する。該方法は、任意であるが、モデル化された眼内二焦点レンズおよび角膜を含む光学系から由来する波面を表現するゼルニケ多項式のゼルニケ係数を計算するステップと、レンズが、角膜およびレンズの光学系の少なくとも1つの焦点に関して、波面ゼルニケ係数の充分な低減をもたらしているか否かを決定するステップと、任意であるが、少なくとも1つの焦点に関して前記係数が充分に低減するまで、前記二焦点レンズを再モデル化するステップを用いて洗練することが可能である。好ましくは、この態様において、該方法は、ゼルニケ多項式を4次まで考慮して、球面収差及び/又は非点収差の項を指すゼルニケ係数を充分に低減することを目的する。角膜および前記モデル化された多焦点眼内レンズを含む光学系からの波面についての第11ゼルニケ係数を充分に低減させることが特に好ましく、少なくとも1つの焦点に関して、球面収差の充分に無い眼が得られる。
【0037】
代替として、該設計方法は、より高次の収差を低減することも含み、これにより、4次より高いオーダーの収差項についてゼルニケ係数を低減することを目的とする。
【0038】
所望の収差低減化を達成するには、二焦点眼内レンズは、眼の光学系についての無収差の光学的挙動に関して、最適化される。これに関して、光学的挙動は、複数の焦点のうちの1つまたは両方同時に最適化してもよい。レンズが基本焦点について最適化されると、レンズは、遠視野について最良の光学的結果をもたらすことになる。続いて、レンズが近視野について最適化された場合、近視野について最良の性能を達成する。レンズが両方の焦点について同時に最適化された場合、全ての性能に最良のものが達成される。二焦点レンズの回折パターンは、光学系の収差を低減するためにモデル化されたレンズ表面とは独立に形成しても構わないが、同じレンズ表面上に形成することもできる。
【0039】
選択した人々からの角膜特徴に基づいてレンズを設計する場合、好ましくは、各個人の角膜表面は、表面トポグラフを記述するゼルニケ多項式で表現され、そして、波面収差のゼルニケ係数から決定される。これらから、平均のゼルニケ波面収差係数が計算され、該設計に使用され、これは、こうした選択した係数の充分な低減化を目的としている。本発明に係る代替的方法において、表面トポグラフを記述するゼルニケ多項式の平均値が代わりに計算され、設計方法において使用される。多くの人々からの平均値に基づく設計方法から由来したレンズは、全てのユーザにとって視覚品質を実質的に改善する目的を有すると理解される。平均値に基づく波面収差の項の全体的除去を行ったレンズは、結果としてあまり望ましくなく、一定の個人に従来のレンズよりも劣った視覚をもたらすかもしれない。この理由により、選択したゼルニケ係数を一定の程度だけ、あるいは平均値の予め定めた部分まで低減化することが適切となろう。
【0040】
本発明の設計方法の他の手法によれば、選択した人々の角膜特徴および、各個人の角膜収差を表現する、得られる多項式、例えば、ゼルニケ多項式の線形結合は、係数の値に換算して比較することができる。この結果から、係数の適切な値が、適切なレンズのための本発明の設計方法において選択され使用される。同じ符号の収差を持つ選択した人々において、こうした係数の値は、典型的には、選択した人々の範囲で最低の値とすることができ、これにより、この値から設計したレンズは、従来のレンズと比べて、グループ内の全ての個人について改善した視覚品質をもたらすであろう。
【0041】
該方法の一実施形態は、代表的な患者グループを選択することと、グループ内の各主体について角膜トポグラフデータを収集することを含む。該方法は、前記データを、瞳孔直径を表現する所定のアパーチャサイズに関して、各主体の角膜表面形状を表現する項に転換することをさらに含む。その後、前記グループの少なくとも1つの角膜表面形状の項の平均値が計算され、少なくとも1つの平均角膜表面形状の項が得られる。その代替または補足として、角膜波面収差の項に対応した角膜の少なくとも1つの平均値を計算することができる。角膜波面収差の項は、光線追跡法を用いて、対応した角膜表面形状の項を変換することによって得られる。前記少なくとも1つの平均の角膜表面形状の項から、あるいは前記少なくとも1つの平均の角膜波面収差の項から、少なくとも1つの焦点に関して、角膜およびレンズを含む光学系についての前記少なくとも1つの平均の角膜波面収差の項を低減できる二焦点眼内レンズが設計される。
【0042】
本発明の好ましい一実施形態において、該方法は、計算された、少なくとも1つの平均の角膜表面形状の項から、あるいは少なくとも1つの平均の角膜波面収差の項から、人々のグループについて平均の角膜モデルを設計することをさらに備える。それは、設計した眼科レンズが少なくとも1つの平均の収差の項を正しく補償しているかをチェックすることも備える。これは、モデルの平均角膜およびレンズを通過した波面についてのこれら特定の収差の項を測定することによって行われる。少なくとも1つの焦点に関して測定した波面において前記少なくとも1つの収差の項が充分に減少していなければ、レンズは再設計される。
【0043】
好ましくは、1つ又はそれ以上の表面記述(非球面性を記述するもの)定数が二焦点レンズについて計算され、所定の半径について、平均の角膜表面形状の項から、あるいは平均の角膜波面収差の項から設計される。球面半径は、レンズの屈折パワーによって決定される。角膜表面は、好ましくは、数学的モデルとして特徴付けられ、得られる角膜表面の収差は、数学的モデルおよび光線追跡技術を用いることによって計算される。これにより角膜波面収差、即ち、こうした角膜表面を通過した波面の波面収差の表現が得られる。選択した数学的モデルにに依存して、角膜波面収差を計算するための異なるルートを採用することができる。好ましくは、角膜表面は、回転円錐形または多項式またはこれらの組合せで、数学的モデルとして特徴付けられる。より好ましくは、角膜表面は、多項式の一次結合で特徴付けられる。
【0044】
本発明の一実施形態において、二焦点レンズの少なくとも1つの非球面表面は、少なくとも1つの焦点が、眼に関連して、前記患者が分類された、選択した人々のグループの角膜測定から得られた同じ収差の項の平均値と実質的に同じ値で、反対の符号を持つ少なくとも1つの波面収差の項を、通過する波面に対して付与するように設計される。これにより患者の眼の角膜から到来する波面は、前記二焦点レンズを通過した後、角膜によって付与される前記少なくとも1つの収差の項について低減される。使用した表現「眼の状況において」とは、現実の眼および眼のモデルの両方を意味する。
【0045】
本発明の個別の実施形態において、波面は、4次までの回転対称のゼルニケ項で表現された収差の項についての低減が得られる。この目的のため、二焦点眼内レンズの表面は、少なくとも1つの焦点のために通過する波面の正の球面収差の項を低減するように設計される。本文において、正の球面収差は、正のパワーを持つ球面表面が正の球面収差を生成するように定義される。好ましくは、二焦点レンズは、少なくとも1つの焦点について球面収差を補償するように適合しており、より好ましくは、波面の収差を表現するゼルニケ多項式の少なくとも1つの項、好ましくは少なくとも第11ゼルニケ項(表1を参照)を補償するように適合している。
【0046】
選択した人々のグループは、例えば、特定の年齢間隔に属する人々のグループ、白内障外科手術を受ける予定の人々のグループ、あるいはレーシック(LASIK: laser in situ keratomileunsis)、アールケー(RK; radialo keratoectomy)、ピーアールケー(PRK: photorefractive keratoectomy)を非限定的に含む角膜手術を受けた人々のグループとすることができる。グループは、特定の眼の病気を持つ人々、あるいは特定の眼の視覚欠陥を持つ人々のグループとすることもできる。
【0047】
レンズには、光学パワーも適切に付与される。これは、眼の光学補正の個別のニーズのための従来の方法に従って行われる。好ましくは、レンズの基本焦点についての屈折パワーは、34ジオプターと等しいかそれ以下であり、追加焦点については2〜6ジオプターである。収差を補償するためにレンズをモデル化する際に考えられる光学系は、典型的には、平均角膜および前記レンズを含むが、特定の場合には、個別の事情に応じて、眼鏡レンズや、例えば、コンタクトレンズ、角膜インレーまたは移植可能な補正レンズなどの人工補正レンズ、を含む別の光学要素を含むことがある。
【0048】
特に好ましい実施形態において、二焦点眼内レンズは、白内障手術を受ける予定の人々のために設計される。この場合、こうした人々のからの平均角膜が、下記の式のような扁長(prolate)の表面によって表現されることが示されている。
【0049】
【数2】

【0050】
但し、円錐定数ccは、−1と0の間の値を有し、Rは、中心レンズ半径、adとaeは、円錐定数に追加した多項式係数である。
【0051】
これらの研究において、扁長表面の円錐定数は、4mmのアパーチャサイズ(瞳孔直径)についての約−0.05から、7mmのアパーチャサイズについての約−0.18までの範囲になる。
【0052】
これらの結果によれば、設計すべき二焦点眼内レンズは、同じ式による扁長表面を有するべきである。従って、白内障患者についての少なくとも1つの焦点に関して、平均の角膜の値に基づいて少なくとも球面収差を低減することによって視覚品質を改善するのに適切な二焦点眼内レンズは、同じ式による扁長表面を有することになる。角膜が、一般に、眼内の波面に対して正の球面収差を生成することから、眼内移植用の二焦点眼内レンズは、負の球面収差の項を有することになり、上述の扁長曲線に従う。明細書の例示する部分でより詳細に説明するように、100%の平均球面収差を補正可能な眼内レンズは、0より小さい値を持つ円錐定数(cc)(修正した円錐表面を表現する)を有することが判った。例えば、6mm直径のアパーチャは、20ジオプターのレンズに約−1.02の円錐定数の値を付与することになる。
【0053】
本実施形態において、二焦点眼内レンズは、波面収差の球面収差を表現するゼルニケ多項式の係数を有する角膜の球面収差を、(表1)で表現した多項式を用いて、3mmのアパーチャ半径については0.0000698mmから0.000871mmまでの間の値、2mmのアパーチャ半径については0.0000161mmから0.00020mmまでの間、2.5mmのアパーチャ半径については0.0000465mmから0.000419mmまでの間、3.5mmのアパーチャ半径については0.0000868mmから0.00163mmまでの間で、バランスさせるように設計される。これらの値は、1.3375の角膜の屈折率を持つ2つの表面を有するモデル角膜について計算した。本発明の範囲から逸脱することなく、同等な角膜のモデル形式を任意に使用することが可能である。例えば、1つ又はそれ以上の多重表面角膜、あるいは異なる屈折率を持つ角膜が使用できる。間隔でのより低い値は、ここでは、特定のアパーチャ半径について測定した平均値から1個の標準偏差を引いたものと等しい。
【0054】
より高い値は、特定のアパーチャ半径について測定した平均値に3個の標準偏差を足したものと等しい。1個のSD(標準偏差)だけを引き、3個のSDを足すように選択した理由は、本実施形態では、正の角膜球面収差を補償することがより好都合であり、平均値に対してマイナス1個以上のSDを加えると、負の角膜球面収差を与えるためである。
【0055】
本発明の一実施形態によれば、該方法は、1人の個別患者の角膜についての少なくとも1つの波面収差の項を測定するステップと、この患者に対応する選択したグループが、この個別患者について代表的なものか否かを決定するステップとをさらに備える。その場合であれば、選択したレンズが移植され、そうでない場合は、他のグループからのレンズが移植され、あるいはこの患者用の個別レンズが、この患者の角膜記述を設計角膜として用いて設計される。これらの方法のステップは、角膜について極端な収差の値を持つ患者が特殊な治療を受けることができる点で、好ましい。
【0056】
他の実施形態によれば、本発明は、同じパワーで異なる収差を有する複数のレンズから、患者が必要とする所望の光学補正に適した屈折パワーの二焦点眼内レンズの選択に関する。選択方法は、設計方法で説明したものと類似して実施され、角膜表面の収差を計算する手段によって、少なくとも1つの角膜表面を数学的モデルで特徴付けることを含む。そして、選択したレンズおよび角膜モデルからなる光学系は、こうした系から到来する波面の収差を計算することによって、収差の充分な低減化が少なくとも1つの焦点について達成されているか否かを考慮するようにして評価される。もし不充分な補正であれば、同じパワーで異なる収差を有する新しいレンズが選択される。ここで使用した数学的モデルは、上述したものと類似しており、角膜表面についての同じ特徴付け方法が使用できる。
【0057】
好ましくは、選択の際に決定した収差は、ゼルニケ多項式の線形結合として表現され、モデル角膜および選択したレンズを含む得られた光学系のゼルニケ係数が計算される。系の係数の値から、光学系のゼルニケ係数によって記述したように、二焦点眼内レンズが、少なくとも1つの焦点について角膜収差の項を充分にバランスさせたか否かを決定できる。所望の個別の係数の充分な低減化がなされていないと判れば、これらのステップは、同じパワーで異なる収差の新しいレンズを選択することによって、少なくとも1つの焦点について光学系の収差を充分に低減化できるレンズが見つかるまで、反復して繰り返すことができる。4次のオーダーまでの少なくとも15個のゼルニケ多項式が決定されることが好ましい。球面収差を補正するのに充分であると考えれば、角膜および二焦点眼内レンズの光学系に関してゼルニケ多項式の球面収差の項だけが補正される。二焦点眼内レンズは、これらの項の選択がレンズおよび角膜を含む光学系について少なくとも1つの焦点に関して充分に小さくなるようにして、選択すべきであると理解されよう。本発明に従って、第11ゼルニケ係数a11は、少なくとも1つの焦点に関して、実質的に除去、またはゼロに充分に接近させることができる。これは、少なくとも1つの焦点に関して、眼の球面収差を充分に低減させる二焦点眼内レンズを得るための必要条件である。本発明の方法は、別のゼルニケ係数、例えば、非点収差、コマ収差、およびより高次の収差を示すものを同じ手法で考慮することによって、球面収差以外の別タイプの収差を補正するために用いることができる。より高次の収差もまた、モデル化の一部として選択されたゼルニケ多項式の数に応じて補正することができ、この場合、4次のオーダーより高次の収差を補正できるレンズが選択可能となる。
【0058】
1つの重要な態様によれば、選択方法は、異なる収差を有する遠焦点および近焦点に関して、ある範囲のパワーを持つレンズキットおよび各パワー結合内の複数のレンズからレンズを選択することが必要となる。一例として、各パワー結合内のレンズは、異なる非球面成分を持つ前側表面を有する。
【0059】
もし最初のレンズが、適切なゼルニケ係数で表現するように、少なくとも1つの焦点に関して収差の充分な低減を示さない場合、同じパワー結合で異なる表面(非球面成分)を持つ新しいレンズが選択される。選択方法は、最良のレンズが見つかるまで、あるいは少なくとも1つの焦点に関して研究した収差の項が有意な境界線の値より減少するまで、必要に応じて、反復して繰り返すことができる。実際には、角膜診断から得られるゼルニケ項は、眼科医によって直接に取得されることになり、あるアルゴリズムを用いてキット内のレンズについての既知のゼルニケ項と比較される。この比較から、キット内で最適なレンズを見つけて移植することができる。代替として、該方法は、白内障手術の前に実施可能であり、角膜評価からのデータは、個別注文したレンズの生産のためにレンズ製造者に送られる。
【0060】
本発明は、少なくとも1つの焦点に関して、眼の角膜を通過した波面を、眼の網膜中心内で実質的に球面の波面に変換可能な、少なくとも1つの非球面表面を有する二焦点眼内レンズに関する。好ましくは、4次までの回転対称のゼルニケ項で表現される収差の項に関して、波面は実質的に球面である。
【0061】
特に好ましい実施形態に従って、本発明は、正規化した形式を用いてゼルニケ多項式の項の線形結合として表現したとき、角膜の対応する正の項とバランスし得るゼルニケ係数a11を持つ4次の負の第11項を有する少なくとも1つの表面を有する二焦点眼内レンズに関するものであり、移植後、眼の少なくとも1つの焦点に関して球面収差の充分な低減化が得られる。本実施形態の一態様では、幾つかの角膜でのゼルニケ係数a11の充分に多数の評価から得られる平均値を補償するように、二焦点レンズのゼルニケ係数a11が決定される。他の態様では、ゼルニケ係数a11は、1人の患者について個別の角膜係数を補償するように決定される。従って、二焦点レンズは、高精度で個人用に注文することができる。
【0062】
本発明はさらに、少なくとも1つの焦点に関して、眼の収差を少なくとも部分的に補償する二焦点眼内レンズを患者に提供する他の方法に関する。この方法は、眼から生来のレンズを除去することを含む。障害のあるレンズを外科的に除去することは、従来の水晶体超音波吸引法(phacoemulsification)を用いて実施できる。該方法はさらに、波面センサを用いることによって、レンズの無い無水晶体患者(aphakic)の眼の収差を測定することを含む。波面測定のための適切な方法は、文献 J. Opt. Soc. Am. , 1994, Vol. 11 (7), pp. 1949-57 by Liang et. al.で見つかる。
【0063】
さらに、該方法は、少なくとも1つの焦点に関して測定した収差を少なくとも部分的に補償するレンズをレンズキットから選択して、前記レンズを眼内に移植することを含む。レンズキットは、異なるパワーで異なる収差のレンズを備え、最適なレンズを見つけることは、先に記載したような手法で実施することができる。
【0064】
代替として、患者用に個別に設計したレンズは、次の移植のために、無水晶体患者の眼の波面解析に基づいて設計することができる。この方法は、角膜のトポグラフ測定が必要でなく、前表面および後表面を含む角膜全体が自動的に考慮されることから、好都合である。
【0065】
本発明の特定の実施形態によれば、レンズおよび角膜からなる系から到来する焦点での波面収差を低減化するように設計された非球面多焦点レンズは、前述した部分で説明したように、レンズ着用者に対してより良い機能的な視覚を提供する目的で、光を複数の焦点間で分配するための手段が設けられる。例えば、瞳孔が最大直径となったとき、非球面二焦点の収差低減IOLの遠焦点に、より多くの光強度を提供することが望ましい。実際には、このことは、暗闇で遠くにある物体についてより良い視覚品質を個人に提供することになり、夜間の運転が簡単になる。レンズ周辺に向かう方向に回折パターンのステップ高さを減少させることによって、多焦点レンズの光分配を変更するための周知の技術が幾つか存在している。米国特許第4881805号は、異なるエシェレット格子(echelette)の深さを用いる別のルートを提案しており、多焦点レンズの別々の焦点間で光強度を変えている。米国特許第5699142号は、エネルギーバランスを近焦点から遠焦点へ徐々にシフトさせるアポディゼーション(apodization)ゾーンを有する回折パターンを持つ多焦点眼内レンズを開示している。アポディゼーションゾーンは、回折パターンのエシェレット格子がレンズ周辺に向かって徐々に減少した深さを有するものと解釈される。ステップ高さ(エシェレット深さ)の適切な調整を行うことによって、二焦点レンズの2つの焦点の間で50−50%分配から所望の偏差が得られる。
【0066】
他の特別の実施形態によれば、明細書の前段部分で概説したような本発明の非球面多焦点レンズは、少なくとも1つの焦点における色収差を低減化するための手段が設けられる。色収差および眼の光学部分によって誘起される他の収差の両方ならびに歪み視覚を補正する能力を持つ非球面単焦点レンズは、国際特許出願WO02/084281に記載されており、これは参照としてここに組み込まれる。本内容において「色収差」とは、眼の光学表面および、結局はレンズ自体によって導入される単色性収差および色収差の両方を意味する。
【0067】
多焦点眼内レンズは、一般に、屈折タイプまたは回折タイプとすることができ、回折タイプは別のところでより詳細に説明した。多焦点IOLの両方の代替として、色収差が、回折表面パターンを持つ回折部分として構成された表面によってもたらされ、全体レンズパワーに追加される屈折パワーを有する。両方の代替において、表面を減少させる色収差は、レンズの屈折部分によって導入される何れの色収差および前記回折表面パターンによって導入される単色性収差を補償するように設計される。WO02/084281で説明されているように、個別の眼の表面(即ち、角膜)から決定される色収差を低減したり、関連した個人グループから収集される平均化した色収差の値(例えば、白内障手術を受けるために選択された患者の角膜からの平均値)を低減するために、レンズを設計することが可能である。
【0068】
色収差および他の収差、例えば、球面収差などの両方を補正可能な非球面多焦点IOLの設計プロセスにおいて、回折パターンによって導入される他の収差、例えば、球面収差などを補償しつつ、回折パターンのパワー分配についての光学的調整を実施することも必要となることがある。
【0069】
非球面性が、例えば、球面収差などの収差の項を補償する例に関して、レンズに多重焦点を提供する特徴が設定され、設計プロセスは、好ましくは、次のステップを含む。
【0070】
(i)所定の屈折パワーと所定量の少なくとも1つの単色性収差の非球面多焦点眼科レンズを持つ眼のモデル、好適にはナバロNavarro (1985)の眼のモデルを選択するステップ。
(ii)眼のモデルの色収差を決定するように、前記眼のモデルのパワーを別々の波長で評価するステップ。
(iii)眼のモデルの前記色収差についての理想的な補償となるように、パワーが波長とともにどのように変化するかを示す補正関数を評価するステップ。
(iv)パワーが波長とともにどのように変化するかを示す、前記補正関数を適切に近似する線形関数を見つけるステップ。
(v)この線形関数に対応する回折プロファイルの暫定ゾーン幅を計算して、この回折プロファイルの回折パワーも計算するステップ。
(vi)レンズの屈折パワーを、回折プロファイル用に計算したパワーの量だけ減少させるステップ。
(vii)ステップiii)の新しい補正関数を評価して、ステップiv)の新しい線形関数を見つけて、この新しい線形関数に対応する新しい回折プロファイルに関して、新しい暫定ゾーン幅および新しい回折パワーを計算するステップ。
(viii)全体パワーが所定のパワーと等しくなるように、レンズの屈折パワーを調整するステップ。
(ix)眼のモデルに所定のパワーおよび適切な色収差の低減を付与するように、ハイブリッド眼科レンズの屈折部分および回折部分の適切な組合せが見つかるまで、ステップvii)からステップviii)を繰り返すステップ。
【0071】
設計プロセスにおいて、回折二焦点レンズは、近焦点および遠焦点の間で色収差をバランスさせることが好ましく、ナバロの眼のモデルで得られるレンズは、同じ値に接近する設定した眼のモデルから50サイクル/mmの色変調伝達関数を得ている(下記の例4を参照)。回折性の非球面多焦点IOLを持つ実施形態に関して、色収差を補正する回折表面パターンは、多くのリングからなる第2の回折パターンになることになる。例えば、第2の回折パターンから由来する2Dパワーを伴う、全体で20Dのパワーを有するレンズは、第1のゾーンが1.5mmの半径幅を有する。この場合、第2の回折表面パターンは、球面表面上で重畳したレンズの前側に配置される。好ましくは、第1の回折パターンはレンズの後側に配置される。屈折二焦点レンズに関しては、色収差は近焦点および遠焦点について(わずかに)異なる。このことは、メリット(merit)関数を用いて、近焦点および遠焦点の性能がバランス可能であることを意味し、50サイクル/mmの変調伝達関数が一例となる。
【0072】
他の特別の実施形態において、レンズとモデル角膜とを備える光学系の少なくとも1つの焦点の収差を低減するようにモデル化された多焦点レンズは、光学系を通過する際に角膜が波面にもたらす収差を考慮することを要しない。このタイプのレンズは、収差を殆ど発生しない角膜を持つ個人にとって、あるいはいずれの角膜収差データへのアクセスがない場合に、適切なものとなろう。これらのレンズは、レンズ自体から発生し、前記レンズを通過する波面での収差を低減するための表面設計を用いて、非球面で設計されることになる。典型的には、こうした収差は球面収差を含む。このタイプの多焦点レンズの適切な例は、複数の焦点を生成可能な、レンズ表面での回折パターンを有する回折タイプのものであり、より好ましくは、近焦点よりも遠焦点により多くの光を分配する二焦点レンズである。任意ではあるが、これに、所望の光分配を生成する上記手段および眼の色収差を補償するための第2の回折パターンを設けることができる。
【0073】
本発明に係るレンズは、従来の方法を用いて製造可能である。一実施形態では、これらは、例えば、シリコーンやヒドロゲルなど、ソフトで弾力性のある材料で製作可能である。折り曲げ可能な眼内レンズに好適なこうした材料の例は、米国特許第5444106号、米国特許第5236970号に示されている。非球面のシリコーンレンズや他の折り曲げ可能なレンズの製造は、米国特許第6007747号に従って実施できる。
【0074】
代替として、本発明に係るレンズは、例えば、ポリ(メチル)メタクリレートなど、より剛性な材料で製作可能である。当業者は、本発明の収差低減レンズを製造するために採用するのに好適である代替の材料および製造方法を容易に見つけることができる。
【0075】
下記の例に示すように、本発明に係る二焦点眼内レンズ(BRAIOL)は、従来のBIOLよりも変調伝達関数特性に関する性能が優れている。より具体的には、BRAIOLは、2つの焦点間での光分配が50:50%となるように設計した場合、両焦点について50サイクル/mmの空間周波数で少なくとも0.2の変調を有することが判明した。測定は、5mmアパーチャを用いて平均的な眼モデルで実施される。驚くべきことに、上述のモデルで測定した場合、光分配とは独立して、2つ又はそれ以上の焦点について50サイクル/mmの変調の合計が0.40より大きく、ある場合には0.50より大きいことが判った。50サイクル/mmの変調の合計が光分配とは独立していることは、単焦点レンズと等価である光分配100:0%という限界値を有する場合について説明される。
【0076】
従来のレンズおよび球面収差補正レンズは、設計し製造し測定した。この場合、従来のレンズは、50サイクル/mmで0.21の変調を有し、一方、球面収差を最適化した設計は0.6の変調を示し、これは、設計した二焦点レンズの合計と等価である。
【0077】
さらに、評価実験は、二焦点レンズの2つの焦点の波面は、幾つかのゼルニケ項に関して独立であるが、幾つかのゼルニケ項は結合したり、あるいは両方について等しいことを明らかにした。この相違の大部分は、「デフォーカス」項に存在し、焦点間で4ジオプターの相違を表す。設計プロセスにおいて、波面の球面収差部分は、2つ波面についてそれほど相違していないことが判った。このことは、デフォーカスは別として、他の全ての収差についても真実である。その結果、本発明は、全ての焦点について本質的に同一のスケールで低減した収差を持つレンズを提供することができる。
【0078】
例:
概論:
角膜の球面収差を補正する二焦点眼内レンズ(BRAIOL)は、従来の二焦点レンズ(BIOL)をベースとして、今回の場合、ポリ(メチルメタクリレート)材料で製作された回折レンズ設計である二焦点モデル811E,ファルマシア社をベースとしてモデル化できる。このレンズのパワー追加は、読書(reading)用で+4ジオプターであり、これは3ジオプターの読書用眼鏡に相当する。この例では、シリコーン材料用に使用するように設計が適合されている。その結果、回折表面プロファイルのステップ高さは、2つの材料の低減した屈折率の比で増加させている。
【0079】
レンズ光学系は、両凸レンズと回折レンズの組合せである。回折表面プロファイルは、光学系の球面の後側表面の上で重なり合う。回折表面プロファイルは、従来のサグ(sag)方程式を用いて記述できる。表面プロファイルについての方程式の例は、文献に記載されている。例えば、文献(Cohen (1993,'Diffractive bifocal lens design', Optom Vis Sci 70 (6): 461: 8))は、下記の方程式を用いて回折プロファイルを記述している。
【0080】
【数3】

【0081】
ここで、rは光軸からの距離、hは最大プロファイル高さ(ステップ高さ)、Nはゾーン番号、wは最初のゾーンの幅である。
【0082】
他の式も可能である。回折プロファイルのタイプは、作動原理とは関連性がない。回折プロファイルは、通常の球面表面の上で重なり合い、合計のサグ方程式は、次のようになる。
【0083】
【数4】

【0084】
ここで、S(r)は、次のような球面両凸レンズのサグ方程式である。
【0085】
【数5】

【0086】
cv=1/Rはレンズ光学系の曲率で、Rはレンズ光学系の曲率半径である。
【0087】
回折二焦点レンズの曲率半径は、同じパワーを有する単焦点レンズの曲率半径に等しい。
【0088】
この例において、2つの焦点間の光分配は、50%:50%となるように選択し、近視野についての目標パワー追加は+4Dであった。この方法が作動する原理を変えることなく、他の光分配も選択可能である。実際には、70%:30%と30%:70%の間の光分配かつ3ジオプターと4ジオプターの間の近視野追加のものが市場に出た。しかし、これらの範囲外についてもこの方法は適用可能である。
【0089】
この例において、選択した人々について実施された角膜の特徴付けからのデータは、得られる角膜収差を計算するために使用した。71名の白内障患者の前側角膜表面形状は、角膜トポグラフを用いて測定した。表面形状は、ゼルニケ多項式を用いて記述した。各表面形状は、波面収差に変換した。波面収差もまた、ゼルニケ多項式で記述した。
【0090】
この方法は、特許出願国際公開WO01/89424 A1の例4に記載されている。
【0091】
ゼルニケ多項式の項は、550ナノメータ(λ=550nm)の基準波長を用いて、波長(λ)で表現される。
【0092】
この例の目標は、二焦点IOLによって角膜球面収差を補正することである。設計を評価するために、特許出願国際公開WO01/89424 A1の例に記載されたものと類似した理論設計角膜が開発された。単焦点IOLをモデル化する場合、設計角膜は1表面モデルとすることができる。ただし、角膜の屈折率は、1.3375の角膜症(keratometry)屈折率である。回折レンズについては、前側(回折)レンズ表面を包囲する生体での真の屈折率を用いるのが大事である。そこで、1表面モデルと同じ軸上収差を有する2表面モデルが開発された。
【0093】
対称なゼルニケ係数に換算した試作品設計の理論的性能は、20ジオプターの基本パワー(遠視野)を有するIOLについて評価した。このパワーを有するIOLは、大部分の白内障患者にとって適切なものに近い。しかしながら、設計方法および得られるIOLは、別のレンズパワーについて類似している。典型的には、IOLパワーは、4ジオプターから34ジオプターの範囲となり、時には−10ジオプターから+40ジオプターに拡張し、場合によってはこれらの範囲外で製造することがある。
【0094】
例1:
一実施形態において、レンズは、前側表面および後側表面の両方で12.15mmの曲率半径および1.1mmの中心厚さを有する両凸レンズである。前側表面は、非球面化している。反復プロセスにおいて、設計角膜および二焦点IOLの光学系の収差は、遠焦点位置での波面収差、本例では球面収差を表すゼルニケ項Z11、を低減するために最適化される。このプロセスにおいて、前側レンズ表面の非球面性が設計パラメータとして用いられる。前側表面の非球面性は、円錐(conic)定数で記述される。前側表面のサグ方程式は、下記の式である。
【0095】
【数6】

【0096】
ここで、ccは円錐定数である。
【0097】
商業的に入手可能な光学設計ソフトウエアを用いて、変数ccは、遠視野焦点のゼルニケ項Z11を最小化するように最適化できる。変数ccは、5.1mmのアパーチャサイズについて決定した。このBRAIOLの前側表面は、この系(角膜+レンズ)の球面収差がほぼ0に等しくなるように修正した。得られた円錐定数の値は、−29.32であった。眼モデルでの従来のIOLの球面収差を表すZ11係数は3.8λであり、一方、設計したBRAIOLを持つ眼モデルについての同じ係数は0.01λであり、これは380倍の球面収差の減少を表している。上述と同じプロセスは、他のいずれのレンズパワーについても同様に実行できる。
【0098】
例2:
他の実施形態において、レンズは、前側表面および後側表面の両方で12.15mmの曲率半径および1.1mmの中心厚さを有する両凸レンズである。回折後側表面は、非球面化している。反復プロセスにおいて、設計角膜および二焦点IOLの光学系の収差は、波面収差、本例では、球面収差を表すゼルニケ項Z11と対称な高次の項Z22,Z37、を低減するために最適化される。このプロセスにおいて、後側レンズ表面の非球面性が設計パラメータとして用いられる。後側表面の非球面性は、円錐(conic)定数および2次の項で記述される。全体のサグ方程式は、下記の式である。
【0099】
【数7】

【0100】
ここで、ccは円錐定数、adは4次の非球面係数、aeは6次の非球面係数である。
【0101】
商業的に入手可能な光学設計ソフトウエアを用いて、変数cc,ad,aeは、遠焦点のゼルニケ項Z11,Z22,Z37、を同時に最小化するように最適化できる。変数は、5.1mmのアパーチャサイズについて決定した。このBRAIOLの後側表面は、この系(角膜+レンズ)の球面収差および2次の項がほぼ0に等しくなるように修正した。後側表面の非球面係数で得られた最適化は、表2に示す。
【0102】
【表2】

【0103】
光学的結果は、従来のBIOL(cc=ad=ae=0を用いた)と新規に設計したBRAIOLの間でのゼルニケ係数の減少として表現でき、表3に示す。
【0104】
【表3】

【0105】
表3は、係数Z11,Z22および有意な減少が無いZ37で表される収差の大きな減少を示す。上述と同じプロセスは、他のいずれのレンズパワーについても同様に実行できる。
【0106】
例3:両方
他の実施形態において、レンズは、曲率半径12.15mmの前側表面、曲率半径12.59mmの後側表面、および1.1mmの中心厚さを有する両凸レンズである。回折プロファイルは後側表面に配置され、前側表面は非球面化している。反復プロセスにおいて、設計角膜および二焦点IOLの光学系の収差は、波面収差、本例では、球面収差を表すゼルニケ項Z11と対称な高次の項Z22,Z37、を低減するために最適化される。このプロセスにおいて、前側レンズ表面の非球面性が設計パラメータとして用いられる。前側表面の非球面性は、円錐(conic)定数および2次の項で記述される。前側表面のサグ方程式は、下記の式である。
【0107】
【数8】

【0108】
ここで、ccは円錐定数、adは4次の非球面係数、aeは6次の非球面係数である。
【0109】
商業的に入手可能な光学設計ソフトウエアを用いて、変数cc,ad,aeは、ゼルニケ項Z11,Z22,Z37、を同時に最小化するように最適化できる。さらに、本実施形態では、遠焦点および近焦点の両方についてのゼルニケ項を最適化のために考慮した。こうして遠焦点および近焦点の両方を同時に最適化した。特別な指標として、最低次の項が最も急激に減少するのを確保するために、重み因子を追加した。重み因子は、Z11,Z22,Z37についてそれぞれ1,0.1,0.01である。変数は、5.1mmのアパーチャサイズについて決定した。このBRAIOLの後側表面は、この系(角膜+レンズ)の球面収差および2次の項がほぼ0に等しくなるように修正した。後側表面の非球面係数で得られた最適化は、表4に示す。
【0110】
【表4】

【0111】
光学的結果は、従来のBIOL(cc=ad=ae=0を用いた)と新規に設計したBRAIOLの間でのゼルニケ係数の減少として表現できる。遠焦点および近焦点の両方を考慮したため、遠焦点および近焦点のゼルニケ係数のベクトル和を、表5に表示している。
【0112】
【表5】

【0113】
表5は、係数Z11および有意な減少が無いZ22,Z37で表される収差の大きな減少を示し、ゼルニケ項Z11は項Z22の代償で最小化されており、一方、項Z37は既に妥当な程度までに低いことを示している。
【0114】
光学品質は、5mmのアパーチャ(図1)を用いて、眼モデルでの変調伝達関数を計算することによって、さらに特徴付けられる。
【0115】
これらの計算結果は、従来のBIOLと比較した場合、BRAIOLの変調伝達関数が少なくとも2倍は増加していることを示す。
【0116】
この設計の試作レンズを製作し、眼モデルでの変調伝達関数を測定した。身体の眼モデルは、71名の白内障患者に基づく設計モデルと同じ波面収差を有するように構成した。焦点は、25,50,100サイクル/mmの空間周波数で焦点を結ばせることによって決定した。図2は、この結果を示す。この結果は、レンズ当たり3回の測定で、8個のBRAIOLレンズおよび10個の従来のBIOLの平均である。図2は、BRAIOLを用いて達成できる光学品質の利得を確認している。
【0117】
この例は、RAIOL設計原理が、二焦点レンズ(又は多焦点レンズ)にうまく応用できることを明確に示す。3つの手法を使用した。即ち、1つの設計は、遠焦点についてのゼルニケ係数Z11を最適化した前側レンズ形状と、回折後側表面とを用いている。代替として、新規な後側レンズ形状は、ゼルニケ係数Z11,Z22,Z37の波面収差を最適化することによって生成した。最後は、新規な前側レンズ形状は、ゼルニケ係数Z11,Z22,Z37を遠焦点および近焦点について最適化することによって生成した。これらの3つのタイプのレンズの性能は、MTF換算で本質的に同等であることを示した。理論計算したように改善した光学性能は、試作レンズの測定によって確認できることも示した。
【0118】
BRAIOLの改善は、BIOL(モデル811E)と比べて、著しい。しかしながら、この改善は、より大きな瞳孔(3mmより大きい)についてより大きくなる。
【0119】
新しいBRAIOL設計のために選ばれた光学形態は、1.458の屈折率を持つシリコーンで製作された等凸(equiconvex)レンズである。平均角膜の球面収差は、球面収差無しの系を生成するBRAIOLレンズによってバランスがとられている。レンズの前側表面は、設計アパーチャの範囲で全ての軸上光線の光路長が焦点を生成するように、修正される。この特性は、多くのレンズ形態を用いて達成可能である。従って、BRAIOLレンズは、正のレンズを生成する、凸平レンズ、平凸レンズ、非等凸レンズあるいは他のいずれの設計について設計可能である。BRAIOLの概念は、眼の屈折エラーを補正するために用いられる負のレンズを包含するように拡張することが可能である。前側表面または後側表面は、球面収差を無力化するのに必要な光路差変化を生成するようにも修正することができる。従って、BRAIOLレンズ設計の目標を達成し得る多くの可能な設計が存在する。
【0120】
例4:
多焦点球面眼内レンズの色補正
【0121】
色収差の補正は、回折レンズによって実施される。回折多焦点レンズは、既に表面で回折プロファイルを有している。二焦点回折レンズについて、この回折プロファイルだけが、焦点のうちの1つ、通常は近焦点に影響を持つ。
【0122】
このことは、近焦点については色収差が既にある程度減少していることを意味するが、当初から意図したものではない。
【0123】
回折レンズによる色補正は、両焦点に対して(ほぼ)等しい量の影響を及ぼす。二焦点回折レンズは、色収差の量が両焦点で同じでないことから、色収差の量は、2つの焦点間でバランスをとる必要がある。
【0124】
レンズの説明:
例示のレンズは、シリコーン材料で製作される。その形状は、等両凸(equi-biconvex)レンズである。レンズの前側表面は、非球面の屈折レンズを備え、その上に回折プロファイルが重なっている。回折プロファイルは2.0ジオプターのレンズパワーを有し、一方、非球面の屈折レンズは18.0ジオプターのレンズパワーを有する。得られるレンズパワー合計は20ジオプターである。
【0125】
回折プロファイルの第1ゾーンの幅(直径)は1.5mmで、全部で6.0mmのIOL光学系を占めるのに必要な16個のリングが存在する。レンズ周辺では、回折リングが互いに94ミクロン離れている。
【0126】
後側表面は、近焦点において4ジオプターのパワー追加を発生する通常の回折プロファイルを含んでいる。
【0127】
眼の寸法、屈折率、眼鏡媒体の分散は、ナバロNavarro (1985)によって説明されたように用いる。この眼モデルは、非球面角膜を含む。眼モデルおよびレンズの表面情報は、表6で与えられる。設計するレンズは、選択した眼モデルに依存している。患者からの実際の生理学データについての別の眼モデルを用いて、レンズを設計することが可能であることに留意しなければならない。
【0128】
【表6】

【0129】
レンズの振る舞い:
屈折性/回折性のIOLを含む眼モデルを評価するために、390nmから760nmの可視スペクトル上で38個の離散した波長(10nmステップ)を使用した。
【0130】
焦点は、ここでは、多色MTF(変調伝達関数)が50サイクル/mmで最大値を有する点で定義される。多色MTFは、使用した全ての波長でのMTF結果の重み付け平均によって決定される。波長の重み付けは、異なる波長について網膜の相対感度を表す、明所視(photopic)の光条件下で眼の標準輝度によって決定した。
【0131】
異なる波長について実際の後方焦点距離(ABFL)の値は、焦点の色差の存在、定義によれば、縦の色収差の量を示す。計算は、3.0mmアパーチャ(瞳孔)で実行する。図3は、焦点変化−波長を示す。遠視野および近視野に関する2つのグラフは、4ジオプターの回折パワー追加によって連結される。特に、550nmより高い波長に関して、本設計例は、遠焦点および近焦点の色収差の間で良好なバランスを示している。
【0132】
表7および図4A、図4Bは、球面レンズの回折性二焦点レンズ、非球面の前側表面を持つ回折性二焦点レンズ、前側表面での2.0D単焦点回折パターンによって補正された色収差を伴う非球面の前側表面を持つ回折性二焦点レンズに関して、50サイクル/mmでの変調を示す。近焦点は、回折性二焦点面により既に(部分的に)補正されていることから、色補正は主に遠焦点に対して影響を与える。
【0133】
【表7】

【0134】
このように多くの実施形態を説明したが、眼システムでの収差を補正する多焦点眼科レンズを提供するという発明から逸脱することなく、設計は変更可能である。
【0135】
従って、本発明は上記の実施形態に限定されるべきでなく、添付した請求の範囲内で変更可能である。例えば、BIOLは、非対称のゼルニケ項を補償するように設計可能である。これは、回転非対称の表面を製作することが必要であろうが、現在市販されている円柱レンズで論証される最新の製造技術の範囲内である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
改善した多焦点眼内レンズを設計する方法であって、
回折パターンが形成された多焦点レンズを用意するステップと、
多焦点レンズおよび角膜モデルを含む光学系を用意するステップと、
光学系から由来する波面単色収差を計算するステップと、
波面単色収差を低減するように選択された非球面成分を有するように、多焦点レンズの表面を再モデル化するステップとを含み、
回折パターンは、エネルギーを多焦点レンズの第1焦点から多焦点レンズの第2焦点へ徐々にシフトさせるように構成されたアポディゼーションゾーンを含むようにした方法。
【請求項2】
移植後に少なくとも1つの焦点について眼の収差を低減できる、1つの基本焦点および少なくとも1つの追加焦点を持つ多焦点眼科レンズを設計する方法であって、
(i)少なくとも1つの角膜表面を数学的モデルとして特徴付けるステップと、
(ii)前記数学的モデルを用いて、得られる前記角膜表面の収差を計算するステップと、
(iii)前記レンズと前記少なくとも1つの角膜表面とを含む光学系から到来する波面が、少なくとも1つの焦点について低減した収差を得るように、多焦点眼科レンズをモデル化するステップと、を含む方法。
【請求項3】
眼科レンズは、多焦点眼内レンズである請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記角膜を通過した波面に換算して、得られる前記角膜表面の収差を決定することを含む請求項2または3記載の方法。
【請求項5】
トポグラフ測定を用いて個人の前側角膜表面を特徴付けることと、角膜収差を多項式の組合せとして表現することを含む請求項2〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
トポグラフ測定を用いて個人の前側角膜表面および後側角膜表面を特徴付けることと、全体の角膜収差を多項式の組合せとして表現することを含む請求項2〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
選択した人々の角膜表面を特徴付けることと、前記人々の平均角膜収差を多項式の組合せとして表現することを含む請求項2〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
(vii)前記モデル化した眼内レンズおよび角膜を備える光学系から由来する収差を計算するステップと、
(iix)モデル化した眼内レンズが充分な収差低減を提供したかを決定し、必要に応じて、充分な低減が得られるまで眼内レンズを再モデル化するステップと、をさらに含む請求項2〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記収差が、多項式の線形結合として表現される請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記多項式は、ザイデル多項式またはゼルニケ多項式である請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記モデル化した多焦点眼内レンズおよび角膜を備える光学系から由来する波面のゼルニケ係数を計算するステップと、
前記眼内レンズがゼルニケ係数の充分な低減を提供したかを決定し、必要に応じて、前記係数の充分な低減が得られるまで前記レンズを再モデル化するステップと、をさらに含む請求項10記載の方法。
【請求項12】
4次を超える収差を示すゼルニケ係数を充分に低減することを含む請求項11記載の方法。
【請求項13】
多焦点眼内レンズのモデル化は、レンズを、回折タイプの多焦点レンズとしてモデル化することを含む請求項2〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
多焦点眼内レンズのモデル化は、二焦点レンズをモデル化することを含む請求項2〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
レンズは、エネルギーバランスを近焦点から遠焦点へ徐々にシフトさせるアポディゼーションゾーンを有する回折パターンを含む請求項2〜14のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【公開番号】特開2010−152388(P2010−152388A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39912(P2010−39912)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【分割の表示】特願2004−556288(P2004−556288)の分割
【原出願日】平成15年11月27日(2003.11.27)
【出願人】(505201191)エイエムオー・フローニンゲン・ベスローテン・フェンノートシャップ (10)
【氏名又は名称原語表記】AMO Groningen B.V.
【Fターム(参考)】