説明

多環式化合物の精製方法、多環式化合物の製造方法、及び多環式化合物の用途

【課題】 本発明は、硫酸などの不純物を実質的に含まない多環式化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】 スルホン化処理をし、−SOM基を有する多環式化合物(ただし、Mは対イオンを表す)を合成する工程、前記合成物を、SO2−又はSOが溶解し且つ前記多環式化合物が難溶な有機溶媒に混合して分散液を得る工程、前記分散液をろ過して多環式化合物を分離する工程、を有することを特徴とする多環式化合物の製造方法。
多環式化合物としては、下記式(I)のキノキサリン誘導体が挙げられる。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫酸イオンなどの不純物が含まれている多環式化合物を精製する方法、及び−SOM基を有する多環式化合物の製造方法、及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置(以下、LCDという場合がある)は、液晶分子の電気光学特性を利用して、文字や画像を表示する素子である。LCDは、携帯電話やノートパソコン、液晶テレビ等に広く普及している。しかし、LCDは、光学異方性を持った液晶分子を利用するため、ある一方向には優れた表示特性を示していても、他の方向では、画面が暗くなったり、不鮮明になったりするといった課題がある。
複屈折性フィルムは、このような課題を解決するために、LCDに広く採用されている。
従来、複屈折性フィルムの一つとして、屈折率楕円体がnx>nz>nyの関係を満足するフィルムが知られている(例えば、特許文献1参照)。この複屈折性フィルムは、高分子フィルムの両側に収縮性フィルムを貼着し、該収縮性フィルムの収縮によって高分子フィルムを厚み方向に膨張するように延伸する方法で作製される。このため、得られる複屈折性フィルムは、分厚くなり易く、薄型軽量化の要請に応えることができない。
【特許文献1】特開2006−072309号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明者らは、薄型軽量化に優れた複屈折性フィルムを得るため、種々の材料を検討したところ、−SOM基を有する多環式化合物が好ましい材料であることを発見した。かかる多環式化合物は、水に溶解させ、該水溶液を基材上に塗工することにより、nx≧nz>nyの関係を満足する複屈折性フィルムを得ることができる。かかる知見の下、多環式化合物を用いた製膜について更に検討していたところ、基材上に塗工する際、多環式化合物の水溶液がほぼ均等に塗工できないことがある。本発明者らは、この原因について更に鋭意研究したところ、多環式化合物の水溶液中にSO2−などが含まれ、この存在が上記水溶液の塗工性を悪くしている原因であることを突き止め、本発明を完成させた。
【0004】
本発明の目的は、多環式化合物から、硫酸などの不純物を簡単に且つ実質的に除去することができる多環式化合物の精製方法を提供することである。
本発明の他の目的は、硫酸などの不純物を実質的に含まない多環式化合物の製造方法を提供することである。
本発明の他の目的は、上記多環式化合物を含有し、基材上に良好に塗工できるコーティング液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の手段は、SO2−及びSOの少なくとも何れか一方を含む不純物と−SOM基を有する多環式化合物(ただし、Mは対イオンを表す)とを含有する混合物から前記多環式化合物を精製する方法であって、前記混合物を、SO2−又はSOが溶解し且つ前記多環式化合物が難溶な有機溶媒に混合して分散液を得る工程、前記分散液をろ過し、多環式化合物を分離する工程、を有することを特徴とする。
【0006】
上記精製方法によれば、多環式化合物中に含有するSO2−又は/及びSOは、有機溶媒と共にろ液として流出し、その結果、残さとして多環式化合物を分離できる。従って、本発明では、ろ過という比較的簡便な方法で、多環式化合物を分離精製することができる。
精製された多環式化合物は、例えば、コーティング液に調製される。該コーティング液は、基材上に良好に塗工でき、厚みが均一なフィルムを作製できる。
【0007】
本発明の好ましい多環式化合物の精製方法は、上記有機溶媒が、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、その他の低級アルコール、及びアセトンから選ばれる少なくとも1種である。
【0008】
本発明の他の好ましい多環式化合物の精製方法は、上記多環式化合物が、下記一般式(I)で表されるキノキサリン誘導体を含む。
【0009】
【化1】

式(I)中、Mは、対イオンを表す。A及びBは、置換基を表し、a及びbは、その置換数(aは0〜4の整数、bは、0〜6の整数)を表す。また、l及びmは、置換数(lは、0〜4の整数、mは、0〜6の整数)を表す。ただし、l及びmは、同時に0でない。
【0010】
さらに、本発明の他の好ましい多環式化合物の精製方法は、上記多環式化合物が、下記一般式(II)で表されるキノキサリン誘導体を含む。
【0011】
【化2】

式(II)中、Mは、対イオンを表す。mは、置換数(1〜6の整数)を表す。
【0012】
本発明の他の好ましい多環式化合物の精製方法は、上記多環式化合物が、波長400nm〜800nmに於いて光吸収スペクトルの最大値を有する。
【0013】
本発明の他の好ましい多環式化合物の精製方法は、上記多環式化合物が、下記一般式(III)または一般式(IV)で表されるペリレン誘導体を含む。
【0014】
【化3】

式(III)及び式(IV)中、Mは対イオンを表す。n1〜n4は、置換基(0〜4の整数)を表す。ただし、n1〜n4の全てが、同時に0でない。
【0015】
また、本発明の他の好ましい多環式化合物の精製方法は、分離後の多環式化合物中の残存不純物量が、100mg/g以下である。
【0016】
さらに、本発明の第2の手段は、多環式化合物の製造方法に係り、スルホン化処理をし、−SOM基を有する多環式化合物(ただし、Mは対イオンを表す)を合成する工程、前記合成物を、SO2−又はSOが溶解し且つ前記多環式化合物が難溶な有機溶媒に混合して分散液を得る工程、前記分散液をろ過して多環式化合物を分離する工程、を有することを特徴とする。
【0017】
本発明の好ましい多環式化合物の製造方法は、上記スルホン化処理として、硫酸、発煙硫酸、及び無機スルホン酸から選ばれる少なくとも1種を用いる。
【0018】
本発明の他の好ましい多環式化合物の製造方法は、上記多環式化合物が、上記一般式(I)で表されるキノキサリン誘導体である。
【0019】
本発明の他の好ましい多環式化合物の製造方法は、上記多環式化合物が、波長400nm〜800nmに於いて光吸収スペクトルの最大値を有する。
【0020】
本発明の他の好ましい多環式化合物の製造方法は、上記多環式化合物が、水に可溶である。
【0021】
また、本発明の第3の手段は、コーティング液に係り、上記何れかの精製方法又は何れかの製造方法により分離された多環式化合物を、水に溶解させることにより得られることを特徴とする。
【0022】
本発明の好ましいコーティング液は、ネマチック液晶相を示す。
本発明の他の好ましいコーティング液は、pH 4〜10に調製されている。
【0023】
本発明の第4の手段は、複屈折性フィルムに係り、上記何れかのコーティング液を基材上に塗工し、乾燥することにより得られ、屈折率楕円体がnx≧nz>nyの関係を満足することを特徴とする。
【0024】
本発明の第5の手段は、偏光フィルムに係り、上記何れかのコーティング液を基材上に塗工し、乾燥することにより得られる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の多環式化合物の精製方法及び多環式化合物の製造方法によれば、不純物を簡易に除去でき、純度の高い多環式化合物を得ることができる。
かかる方法によって得られた多環式化合物は、これを溶液状にすることで、基材に良好に塗工できるコーティング液を得ることができる。
このコーティング液を基材に塗工乾燥して得られた膜は、複屈折性フィルムまたは偏光フィルムとして利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
<多環式化合物の精製方法及び製造方法>
本発明の多環式化合物の精製方法は、SO2−及びSOの少なくとも何れか一方を含む不純物と、−SOM基を有する多環式化合物(ただし、Mは対イオンを表す)と、を含有する混合物から、前記多環式化合物を簡易に精製できる。
なお、以下、本発明の多環式化合物の精製方法について、多環式化合物の製造方法と共に説明する。
【0027】
(多環式化合物)
本発明の方法の対象となる多環式化合物は、−SOM基を有するものであれば、特に限定されず、任意の多環式化合物を対象とすることができる。さらに、該多環式化合物は、−SOM基及び−COOM基を含んでもよい。ただし、Mは、対イオンを表す(以下、特に断らない限り、Mは対イオンを表す)。本発明の方法の対象となる多環式化合物は、1種でも良いし、構造の異なる2種以上でもよい。
上記多環式化合物の基本骨格は、好ましくは芳香環及び/又は複素環を2個以上有し、より好ましくは芳香環及び/又は複素環を3個〜8個有する。また、多環式化合物の基本骨格は、好ましくは少なくとも複素環を有し、該複素環は窒素原子を含むことがより好ましい。具体的には、上記多環式化合物の基本骨格としては、キノキサリン誘導体、又はペリレン誘導体を例示できる。これら多環式化合物は、溶液状態で液晶相(すなわち、リオトロピック液晶)を呈するので好ましい。なお、この液晶相は、配向性に優れるという点で、好ましくは、ネマチック液晶相である。このネマチック液晶相は、超分子を形成し、その形成体がネマチック状態にある場合も含まれる。
上記キノキサリン系の多環式化合物は、好ましくは複屈折性フィルムの形成材料として用いることができる。上記ペリレン系の多環式化合物は、好ましくは偏光フィルムの形成材料として用いることができる。
【0028】
上記キノキサリン系の多環式化合物としては、下記一般式(I)で表されるアセナフト[1,2−b]キノキサリン誘導体を例示できる。式(I)中、A及びBは、置換基を表し、a及びbは、その置換数(aは0〜4の整数、bは、0〜6の整数)を表す。また、l及びmは、置換数(lは、0〜4の整数、mは、0〜6の整数)を表す。ただし、l及びmは、同時に0でなく、少なくとも何れか一方は、1以上である。
上記一般式(I)中のMは、対イオンを表す。前記Mは、好ましくは、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、金属イオン、又は置換若しくは無置換のアンモニウムイオンなどである。該金属イオンとしては、Ni2+、Fe3+、Cu2+、Ag、Zn2+、Al3+、Pd2+、Cd2+、Sn2+、Co2+、Mn2+、Ce3+などを例示できる。
【0029】
【化4】

【0030】
式(I)のA及びBで表す置換基は、同一または異なっていてもよい。A及びBの置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1〜2のアルキル基、炭素数1〜2のアルコキシ基、−OCOCH基、−NH基、−NHCOCH基、−NO基、−CF基、−CN基、−OCN基、−SCN基、−COOM基、−CONH基、−SM基、−OM基などを例示できる(各基に於いて、Mは、式(I)と同様に、対イオンを表す)。好ましくは、A及びBの少なくとも何れか一方は、−COOM基(カルボン酸又はその塩)である。多環式化合物は、A及びBで表される上記置換基を有していても、本発明の方法によって分離することができる。一般式(I)において、好ましくは、置換数a及びbは0〜2であり、より好ましくは、置換数a及びbは0〜1である。一般式(I)のA及びBが無置換又は置換数の少ない多環式化合物は、塗工することにより、良好な配向性を示す。
【0031】
また、上記キノキサリン系の多環式化合物としては、下記一般式(II)で表されるアセナフト[1,2−b]キノキサリン誘導体を例示できる。式(II)中、mは、置換数(1〜6の整数)を表す。上記一般式(II)中のMは、式(I)と同様である。一般式(II)で表されるキノキサリン誘導体の中でも、mが1又は2であるキノキサリン誘導体は、本発明の方法によって高い収率で精製できる。
【0032】
【化5】

【0033】
ペリレン系の多環式化合物としては、下記一般式(III)または一般式(IV)で表されるペリレン系誘導体を例示できる。式(III)及び式(IV)中、n1〜n4は、置換数(0〜4の整数)を表す。ただし、n1〜n4の全てが同時に0ではなく、n1〜n4のうち少なくとも何れか一つは、1〜4の整数である。好ましくは、n1及びn2の少なくとも何れか一方が、1〜4の整数である。上記式(III)及び式(IV)のMは、式(I)と同様である。一般式(III)または一般式(IV)において、n1〜n4は、好ましくは0〜2の整数であり、より好ましくは0〜1の整数である。
【0034】
【化6】

【0035】
また、ペリレン系の多環式化合物としては、下記一般式(V)または一般式(VI)で表されるペリレン系誘導体を例示できる。式(V)及び式(VI)中、n1及びn2は、置換数(0〜4の整数)を表す。ただし、n1及びn2の少なくとも何れか一方は、1〜4の整数である。上記式(V)及び式(VI)のMは、式(I)と同様である。一般式(V)または一般式(VI)において、n1及びn2は、何れも1又は2の整数が好ましい。一般式(V)または(VI)で表される多環式化合物は、長軸方向両端部に−SOM基を有している。かかるペリレン系の多環式化合物は、塗工することにより、良好な配向性を示す。
【0036】
【化7】

【0037】
上記一般式(III)〜(VI)で表されるペリレン系の多環式化合物は、波長400nm〜800nmの範囲内に於いて光吸収スペクトルの最大値を有する。かかる多環式化合物は、特に、偏光フィルムの形成材料として好適である。
【0038】
(−SOM基を有する多環式化合物の合成)
上記多環式化合物は、化合物の基本骨格に−SOM基(スルホン酸又はその塩)を導入することによって得ることができる。前記−SOM基は、例えば、スルホン化処理によって導入できる。
キノキサリン系の多環式化合物の合成は、例えば、a)非置換または置換基を有するキノキサリン誘導体を、発煙硫酸などでスルホン化して、−SOM基の導入されたキノキサリン誘導体を合成する方法、b)非置換または置換基を有する1,2−ベンゼンジアミン、又は/及び、非置換または置換基を有するアセナフトキノンを、発煙硫酸などでスルホン化した後、両化合物を縮合させて−SOM基の導入されたキノキサリン誘導体を得る方法、などが挙げられる。
【0039】
上記a)の具体的方法としては、例えば、下記反応式(a)に示されるアセナフト[1,2−b]キノキサリン又はその置換物を、無機スルホン酸などでスルホン化する。前記無機スルホン酸としては、硫酸、発煙硫酸、又はクロロスルホン酸などを例示できる。かかる方法によって−SOM基を有するキノキサリン誘導体(多環式化合物)を得ることができる。なお、式(a)中、A、a、B、b、l及びmは、式(I)と同様である(但し、l及びmは、同時に0でない)。
【0040】
【化8】

【0041】
また、上記b)の具体的方法としては、例えば、下記式(b)に示される1,2−ベンゼンジアミン若しくはその置換物、または、アセナフトキノン若しくはその置換物の少なくとも何れか一方を、無機スルホン酸などでスルホン化した後、該ベンゼンジアミンとアセナフトキノンを縮合させる。前記無機スルホン酸としては、硫酸、発煙硫酸、又はクロロスルホン酸などを例示できる。かかる方法によって−SOM基を有するキノキサリン誘導体(多環式化合物)を得ることができる。なお、式(b)中、A、a、B、b、l及びmは、式(I)と同様である(但し、l及びmは、同時に0でない)。
【0042】
【化9】

【0043】
ペリレン系の多環式化合物は、例えば、ペリレン誘導体(例えば、ペリレンテトラカルボン酸のジベンゾイミダゾール誘導体など)を発煙硫酸などでスルホン化処理して、−SOM基の導入されたペリレン誘導体を合成することにより、得ることができる。
【0044】
(多環式化合物の精製)
上記合成によって得られた合成物の中には、スルホン化処理に用いた硫酸やその塩、無機スルホン酸等のような、SO2−又はSOを生じ得る不純物が残存している。これらは、不揮発性であるため、乾燥させても合成物中に残存する。本発明者らは、多環式化合物に硫酸等の不純物を多く含む合成物は、これを溶液状にして基材上に塗工しても、良好な塗工膜が形成できないことを見出している。この原因は明らかではないが、溶液状にした際に、残存硫酸等に起因して、SO2−又はSOが生じ、これが塗工膜形成の障害になっていると推定される。
本発明では、合成物中の上記不純物を実質的に且つ簡易に除去するために、下記有機溶媒に合成物(スルホン化処理後に得られる、硫酸などの不純物と−SOM基を有する多環式化合物とを含む混合物)を溶解させた後、ろ過分離によって、前記多環式化合物を精製する。
【0045】
精製の際に用いる有機溶媒は、SO2−又はSO(好ましくはSO2−及びSOの何れも)が溶解し且つ−SOM基を有する多環式化合物が難溶な溶媒を用いる。
ここで、SO2−又はSOが溶解するとは、有機溶媒に対するSO2−又はSOの23℃に於ける溶解度が、10g/100g以上程度であることを言う。また、−SOM基を有する多環式化合物が難溶とは、有機溶媒に対する前記多環式化合物の23℃に於ける溶解度が、0.5g/100g以下程度であることを言う。
上記有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどの低級アルコール(好ましくは炭素数1〜4のアルコール)、アセトンなどを例示できる。これらの中でも、メタノール又は/及びアセトンを用いることが好ましい。本発明では、これら有機溶媒から選ばれる1種又は2種以上を併用して用いることができる。なお、溶媒として水を用いない理由は、上記多環式化合物は、水に対する溶解性が高いからである。
【0046】
上記合成物(硫酸などの不純物と−SOM基を有する多環式化合物とを含む混合物)は、上記有機溶媒に混合される。合成物を有機溶媒に混合した液は、SO2−又は/及びSOが溶解した溶液中に、多環式化合物が分散した分散液となる。
有機溶媒の量は、特に限定されず、合成物に対して十分な量であればよい。もっとも、有機溶媒の量が余りに少ないと、SO2−等が十分溶解しない虞がある。一方、不必要に多いと、有機溶媒の無駄や精製される多環式化合物の量が僅かに減少する場合がある(有機溶媒の種類や多環式化合物の構造によっては、該多環式化合物が有機溶媒に僅かに溶解する場合がある)。このような理由から、有機溶媒は、合成物100質量部に対して、200〜10,000質量部程度が好ましい。
【0047】
有機溶媒に混合した後、十分に攪拌して、SO2−等の溶解を促進させる。
次に、得られた分散液を、ろ過する。ろ過の方法は、重力を利用した自然ろ過、ろ材の下面を減圧する減圧ろ過が好ましい。もっとも、ろ過の方法は、加圧ろ過、遠心ろ過などで行うこともできる。
ろ材としては、自然ろ過などに広く一般に用いられているセルロース系のろ紙が使用できるが、セルロース系以外、例えば、グラスファイバー系などの紙以外のろ材を使用してもよい。
ろ材としては、例えば、0.8μm程度の孔径を有するろ材を用いることが好ましい。該ろ材を用いることにより、確実に且つ比較的短時間でSO2−等と多環式化合物とを分離できる。
ろ材としてろ紙を使用する場合、ろ紙の種類(主として目の細かさ)としては、例えば、定量分析用の5種C、6種(いずれも、JIS P 3801に準拠)などが好ましい。
【0048】
上記分散液は、ろ過することによって、ろ液と残さに分離される。有機溶媒に溶解したSO2−等は、ろ液として除去される。有機溶媒に難溶な多環式化合物は、残さとして取り出される。従って、SO2−等と多環式化合物とを、容易に分離できる。該残さを乾燥することで、多環式化合物を精製できる。
なお、必要に応じて、残さを再び上記有機溶媒に混合し、ろ過を繰り返してもよい。ろ過を数回繰り返すことによって、より純度の高い多環式化合物を得ることができる。
【0049】
上記有機溶媒の混合及びろ過(すなわち、多環式化合物の精製)は、多環式化合物中の残存不純物量(硫酸、硫酸塩などの量)が、多環式化合物1g当たり、100mg以下となるまで行うことが好ましく、更に、20mg以下がより好ましい。残存不純物量を100mg以下の範囲にまで低減することにより、後述するコーティング液中のSO2−等を極少量にでき、塗工性に優れたコーティング液を調製できる。
【0050】
<多環式化合物を含有するコーティング液>
上記製造方法(精製方法)を経て得られた純度の高い多環式化合物は、適宜な用途に使用され得る。精製された多環式化合物の用途は、好ましくは、複屈折性フィルムを形成するためのコーティング液、又は、偏光フィルムを形成するためのコーティング液である。
すなわち、上記製造方法(精製方法)を経て得られた純度の高い多環式化合物は、適当な溶媒に溶解させ、コーティング液とすることができる。上記多環式化合物は、水溶性である。このため、コーティング液を調製する際の溶媒としては、水を用いることができる。
上記溶媒として水を用いる場合、水の電気伝導率は、好ましくは20μS/cm以下(下限値は0μS/cm)、より好ましくは0.001μS/cm〜10μS/cmであり、特に好ましくは0.01μS/cm〜5μS/cmである。水の電気伝導率を上記の範囲とするコーティング液を用いることにより、高い面内の複屈折率を有する複屈折性フィルムを作製できるからである。なお、当該電気伝導度は、下記実施例に記載の方法によって測定できる。
【0051】
上記コーティング液は、上記多環式化合物の1種または構造の異なる2種以上が溶解している。該コーティング液に於ける多環式化合物の濃度は、特に限定されないが、溶液に於いて安定なネマチック液晶相を示すことから、好ましくは5質量%〜35質量%であり、より好ましくは5質量%〜30質量%である。なお、ネマチック液晶相は、偏光顕微鏡で観察される液晶相の光学模様によって、確認、識別することができる。
また、上記コーティング液のpH値が低い場合には、アルカリを添加して、pH4〜10程度、更に、pH6〜8程度に調整することが望ましい。
【0052】
さらに、コーティング液は、添加剤が添加されていてもよい。添加剤としては、可塑剤、熱安定剤、光安定剤、滑剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤、難燃剤、着色剤、帯電防止剤、相溶化剤、架橋剤、増粘剤などを例示できる。これら添加剤の添加量は、好ましくは、コーティング液100質量部に対して、0を超え10質量部以下である。
【0053】
また、コーティング液は、添加剤として界面活性剤が添加されていてもよい。界面活性剤は、多環式化合物の基材表面へのぬれ性や塗工性を向上させるために使用される。界面活性剤は、好ましくは、非イオン界面活性剤である。該界面活性剤の添加量は、好ましくは、コーティング液100質量部に対して、0を超え5質量部以下である。
【0054】
<多環式化合物を含有する複屈折性フィルム及び偏光フィルム>
本発明の複屈折性フィルム又は偏光フィルムは、上記多環式化合物を含む組成物を製膜することにより、得ることができる。
(複屈折性フィルム又は偏光フィルムの製法)
本発明の複屈折性フィルム又は偏光フィルムは、例えば、次の(1)〜(3)の工程を含む方法によって作製できる。
(1)上記コーティング液を調製する工程、
(2)少なくとも一方の表面が、親水化処理された基材を準備する工程、
(3)工程(2)で準備した基材の親水化処理された表面に、上記工程(1)で調製した溶液を塗工し、乾燥させる工程。
このような製法によれば、複屈折性フィルム又は偏光フィルムと、基材と、を少なくとも備える積層フィルムを得ることができる。
なお、工程(1)及び工程(2)を実施する順序は、特に限定されず、工程(1)を先に行った後、工程(2)を行ってもよいし、或いは、工程(2)を先に行った後、工程(1)を行ってもよいし、或いは、工程(1)と工程(2)を並行しても行ってもよい。
【0055】
上記工程(1)で用いられるコーティング液の調製は、上記で説明した通りである。
上記工程(2)における「親水化処理」とは、基材の水の接触角を低下させる処理をいう。上記親水化処理は、多環式化合物を塗工する基材表面のぬれ性、塗工性を向上させるために行われる。上記親水化処理は、基材の23℃における水の接触角を、処理前に比べて、好ましくは10%以上低下させる処理であり、さらに好ましくは15%〜80%低下させる処理であり、特に好ましくは20%〜70%低下させる処理である。なお、この低下させる割合(%)は、式;{(処理前の接触角−処理後の接触角)/処理前の接触角}×100により求められる。なお、当該接触角は、固液界面解析装置[協和界面科学(株)製、製品名「Drop Master300」](液滴0.5μl、滴下後5秒間経過後に静的接触角測定)を用いて測定することができる。
【0056】
さらに、上記親水化処理は、基材の23℃における水の接触角を、処理前に比べて、好ましくは5°以上低下させる処理であり、さらに好ましくは、10°〜65°低下させる処理であり、特に好ましくは20°〜65°低下させる処理である。
【0057】
さらに、上記親水化処理は、基材の23℃における水の接触角を、好ましくは5°〜60°とする処理であり、さらに好ましくは5°〜50°とする処理であり、特に好ましくは5°〜45°とする処理である。基材の水の接触角を上記範囲とすることによって、高い面内の複屈折率を示し、且つ、厚みバラツキの小さい複屈折性フィルムが得られるからである。また、基材の水の接触角を上記範囲とすることによって、偏光特性に優れ、且つ厚みバラツキの小さい偏光フィルムが得られるからである。
【0058】
上記親水化処理としては、任意の適切な方法が採用され得る。上記親水化処理としては、例えば、乾式処理でもよく、湿式処理でもよい。乾式処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、及びグロー放電処理などの放電処理、火炎処理、オゾン処理、UVオゾン処理、紫外線処理および電子線処理などの電離活性線処理などが挙げられる。湿式処理としては、水やアセトンなどの溶媒を用いた超音波処理、アルカリ処理、アンカーコート処理などを例示できる。これらの処理は、1種単独で、又は、2つ以上を組み合せて用いてもよい。
【0059】
好ましくは、上記親水化処理は、コロナ処理、プラズマ処理、アルカリ処理、又はアンカーコート処理である。上記親水化処理であれば、高い配向性を有し、且つ、厚みバラツキの小さい複屈折性フィルム又は偏光フィルムを得ることができる。上記親水化処理の条件、例えば、処理時間や強度などは、基材の水の接触角が上記の範囲となるように、適宜、適切に調整され得る。
【0060】
上記コロナ処理は、代表的には、コロナ放電内へ基材を通過させることによって、基材表面を改質する処理である。コロナ放電は、接地された誘電体ロールと絶縁された電極との間に高周波、高電圧を印加することにより、電極間の空気が絶縁破壊してイオン化して発生する。上記プラズマ処理は、代表的には、低温プラズマ内へ基材を通過させることによって、基材表面を改質する処理である。低温プラズマは、低圧の不活性ガスや酸素、ハロゲンガスなど無機気体中でグロー放電を起こすと、気体分子の一部がイオン化して発生する。上記超音波洗浄処理は、代表的には、水や有機溶媒中に基材を浸漬させて超音波をあてることにより、基材表面の汚染物を除去し、基材のぬれ性を改善する処理である。上記アルカリ処理は、代表的には、塩基性物質を水又は有機溶剤に溶解したアルカリ処理液に、基材を浸漬することによって、基材表面を改質する処理である。上記アンカーコート処理は、代表的には、基材表面にアンカーコート剤を塗工する処理である。
【0061】
コーティング液を塗工する基材は、コーティング液を均一に流延するために用いられる。上記基材は、任意の適切なものが選択され得る。上記基材としては、ガラス基材、石英基材、高分子フィルム、プラスチックス基材、アルミや鉄などの金属板、セラミックス基材、シリコンウエハーなどを例示できる。上記基材は、好ましくは、ガラス基材又は高分子フィルムである。
【0062】
上記ガラス基材としては、任意の適切なものが選択され得る。好ましくは、上記ガラス基材は、液晶セルに用いられるセル基板と同等品を使用できる。該ガラス基材としては、アルカリ成分を含むソーダ石灰(青板)ガラス、又は低アルカリ硼砂酸ガラスを例示できる。上記ガラス基材は、市販のものをそのまま用いてもよい。市販のガラス基材としては、コーニング社製のガラスコード:1737、旭硝子(株)製のガラスコード:AN635、NHテクノグラス(株)製のガラスコード:NA−35などを例示できる。
【0063】
上記高分子フィルムは、可視光の光線透過率に優れ、透明性に優れるフィルムを用いることが好ましい。この高分子フィルムの可視光に於ける光線透過率は、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である。ただし、光線透過率は、フィルム厚100μmで、分光光度計(日立製作所製、製品名:U−4100型)で測定されたスペクトルデータを基に視感度補正を行ったY値をいう。また、高分子フィルムのヘイズ値は、好ましくは3%以下、より好ましくは1%以下である。ただし、ヘイズ値は、JIS−K7105に準じて測定された値をいう。
上記高分子フィルムを形成する樹脂としては、任意の適切なものが選択され得る。好ましくは、上記高分子フィルムは、熱可塑性樹脂を含有する。上記熱可塑性樹脂としては、オレフィン系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、スチレン系樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニリデン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、カーボネート系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、アミドイミド系樹脂、イミド系樹脂などが挙げられる。上記熱可塑性樹脂は、1種単独で、または2種以上を組み合せて用いることができる。また、上記熱可塑性樹脂は、任意の適切なポリマー変性を行った後に用いることもできる。上記ポリマー変性としては、共重合、架橋、分子末端、立体規則性などを例示できる。
【0064】
本発明に用いられる基材は、好ましくは、セルロース系樹脂を含有する高分子フィルムである。かかる基材は、多環式化合物とのぬれ性に優れている。この基材に上記コーティング液を塗工することにより、高い面内の複屈折率を有し、且つ、厚みバラツキの小さい複屈折性フィルムが得られるからである。この基材に上記コーティング液を塗工することにより、偏光特性に優れ、且つ厚みバラツキの小さい偏光フィルムが得られるからである。
【0065】
上記セルロース系樹脂は、任意の適切なものが採用され得る。上記セルロース系樹脂は、好ましくは、セルロースの水酸基の一部または全部が、アセチル基、プロピオニル基及びブチル基の少なくとも何れか1つの基で置換された、セルロース有機酸エステルまたはセルロース混合有機酸エステルである。上記セルロース有機酸エステルとしては、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート等を例示できる。上記セルロース混合有機酸エステルとしては、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等を例示できる。上記セルロース系樹脂は、例えば、特開2001−188128号公報[0040]〜[0041]に記載の方法により得ることができる。
【0066】
本発明に用いられる基材は、市販の高分子フィルムをそのまま用いてもよい。あるいは、市販の高分子フィルムに、延伸処理および/または収縮処理などの2次的加工を施したフィルムを用いてもよい。セルロース系樹脂を含有する市販の高分子フィルムとしては、富士写真フィルム(株)製 フジタックシリーズ(商品名;ZRF80S,TD80UF,TDY−80UL)、コニカミノルタオプト(株)製 商品名「KC8UX2M」などを例示できる。
【0067】
上記基材の厚みは、好ましくは、20μm〜100μmである。基材の厚みを上記の範囲とすることによって、基材のハンドリング性や塗工性が優れる。
【0068】
上記工程(3)において、コーティング液を基材の表面に塗工する方法としては、適宜、適切なコータを用いた塗工方式が採用され得る。上記コータとしては、リバースロールコータ、正回転ロールコータ、グラビアコータ、ロッドコータ、スロットダイコータ、スロットオリフィスコータ、カーテンコータ、ファウンテンコータなどを例示できる。上記のコータを用いた塗工方式であれば、厚みバラツキの小さい複屈折性フィルム又は偏光フィルムを得ることができる。
コーティング液の塗工速度は、好ましくは50mm/秒以上であり、さらに好ましくは100mm/秒以上である。塗工速度を上記の範囲にすることによって、コーティング液に、多環式化合物が配向するのに適したせん断力がかかり、高い面内の複屈折率を有し、且つ、厚みバラツキの小さい複屈折性フィルムが得られるからである。また、塗工速度を上記の範囲にすることによって、 偏光特性に優れ、且つ厚みバラツキの小さい偏光フィルムが得られるからである。
【0069】
塗工後のコーティング液を乾燥させる方法は、適宜、適切な方法が採用され得る。乾燥方法は、例えば、熱風又は冷風が循環する空気循環式恒温オーブン、マイクロ波もしくは遠赤外線などを利用したヒーター、温度調節用に加熱されたロール、ヒートパイプロール又は金属ベルトなどの乾燥手段を用いることができる。
乾燥させる温度は、上記コーティング液の等方相転移温度以下であり、低温から高温へ徐々に昇温して乾燥させることが好ましい。上記乾燥温度は、好ましくは10℃〜80℃であり、さらに好ましくは20℃〜60℃である。上記の温度範囲であれば厚みバラツキの小さい複屈折性フィルムを得ることができる。
乾燥させる時間は、乾燥温度や溶媒の種類によって、適宜、選択され得る。ただし、厚みバラツキの小さい複屈折性フィルム又は偏光フィルムを得るためには、乾燥時間は、例えば1分〜30分であり、好ましくは1分〜10分である。
【0070】
なお、上記工程(1)〜(3)の後に、さらに、下記工程(4)を行ってもよい。
(4)上記工程(3)で得られた複屈折性フィルム又は偏光フィルムに、アルミニウム塩、バリウム塩、鉛塩、クロム塩、ストロンチウム塩、及び分子内に2個以上のアミノ基を有する化合物塩からなる群から選択される少なくとも1種の化合物塩を含む溶液を接触させる工程。
【0071】
上記工程(4)は、得られる複屈折性フィルム又は偏光フィルムを、水に対して、不溶化又は難溶化させるために行われる。上記化合物塩としては、塩化アルミニウム、塩化バリウム、塩化鉛、塩化クロム、塩化ストロンチウム、4,4’−テトラメチルジアミノジフェニルメタン塩酸塩、2,2’−ジピリジル塩酸塩、4,4’−ジピリジル塩酸塩、メラミン塩酸塩、テトラアミノピリミジン塩酸塩などを例示できる。このような化合物塩であれば、耐水性に優れた複屈折性フィルム又は偏光フィルムが得られ得る。
【0072】
上記化合物塩を含む溶液の、化合物塩の濃度は、好ましくは3質量%〜40質量%であり、より好ましくは5質量%〜30質量%である。上記範囲の濃度の化合物塩を含む溶液と接触させることによって、耐久性に優れた複屈折性フィルム又は偏光フィルムを得られるからである。
【0073】
工程(3)で得られた複屈折性フィルム又は偏光フィルムに、上記化合物塩を含む溶液を接触させる方法としては、例えば、当該複屈折性フィルム又は偏光フィルムの表面に上記化合物塩を含む溶液を塗工する方法、当該複屈折性フィルム又は偏光フィルムを上記化合物塩を含む溶液に浸漬する方法など、任意の方法が採用され得る。これらの方法が採用される場合、得られた複屈折性フィルム又は偏光フィルムは、水又は任意の溶剤で洗浄することが好ましい。その後、さらに乾燥することで、基材と複屈折性フィルム又は偏光フィルムとの界面の密着性に優れた積層体を得ることができる。
【0074】
(複屈折性フィルムの性質等)
上記多環式化合物を含む本発明の複屈折性フィルムは、屈折率楕円体がnx≧nz>nyの関係を満足する。
この複屈折性フィルムは、面内及び/又は厚み方向に複屈折を示し、波長590nmにおける面内及び/又は厚み方向の複屈折率が、1×10−4以上となる。
ただし、「nx≧nz>ny」とは、複屈折性フィルムの光学的な異方性を表す。nxは、複屈折性フィルムの面内において屈折率の最大となる方向(すなわち、遅相軸方向)の屈折率を、nyは、面内において遅相軸方向と直交する方向(すなわち、進相軸方向)の屈折率を、nzは、厚み方向の屈折率を、それぞれ表す(以下、同様)。
【0075】
本発明の複屈折性フィルムの形成材料として用いられる多環式化合物は、好ましくは、分子構造中に芳香環及び/又は複素環を2個以上有する化合物であり、より好ましくは、芳香環及び/又は複素環を3個〜8個有する化合物であり、特に好ましくは、芳香環及び/又は複素環を4個〜6個有する化合物である。より具体的には、上記一般式(I)又は(II)で表される多環式化合物である。このような多環式化合物を含むコーティング液を用いれば、可視光の領域で吸収がないか又は小さい、透明な複屈折性フィルムを構成できる。
【0076】
上記複屈折性フィルムは、塗工によって形成できるので、薄型に形成できる。さらに、上記複屈折性フィルムは、屈折率楕円体がnx≧nz>ny(nx>nz>ny又はnx=nz>ny)の関係を満足し、且つ、高い面内の複屈折率を示す。このため、該複屈折性フィルムは、従来の複屈折性フィルムに比べて、格段に薄い厚みで、所望の位相差値を得ることができる。なお、本明細書に於いて、「nx=nz」とは、nxとnzが完全に同一である場合だけでなく、実質的に同一である場合も含まれる。nxとnzが実質的に同一である場合とは、例えば、Rth[590]が−10nm〜10nmを含む。
本発明者等の推定によれば、本発明の複屈折性フィルムが、高い複屈折性を示す理由は、上記−SOM基を含む多環式化合物が、溶液中で、会合体を形成し易く、この会合体を形成した状態の秩序性が高いために、かかる溶液から形成されたフィルムも高い配向性を示すものと考えられる。特に、−SOM基及び−COOM基を有する多環式化合物は、高い配向性を示すものと考える。
【0077】
上記複屈折性フィルムの波長590nmにおける透過率は、好ましくは85%以上であり、より好ましくは90%以上である。
上記複屈折性フィルムの波長590nmにおける面内の位相差値(Re[590])は、目的に応じて、適切な値に設定され得る。上記Re[590]は、10nm以上であり、好ましくは20nm〜1000nmであり、より好ましくは50nm〜500nmであり、特に好ましくは100nm〜400nmである。本明細書において、面内の位相差値(Re[λ])は、23℃で波長λ(nm)における面内の位相差値をいう。Re[λ]は、複屈折性フィルムの厚みをd(nm)としたとき、式:Re[λ]=(nx−ny)×dによって求めることができる。
【0078】
上記複屈折性フィルムのRth[590]は、屈折率楕円体がnx≧nz>nyの関係を満足する範囲で、適切な値に設定され得る。上記複屈折性フィルムの波長590nmにおける面内の位相差値(Re[590])と厚み方向の位相差値(Rth[590])との差は、好ましくは10nm〜800nmであり、さらに好ましくは10nm〜400nmであり、特に好ましくは10nm〜200nmである。本明細書において、厚み方向の位相差値(Rth[λ])は、23℃で波長λ(nm)における厚み方向の位相差値をいう。Rth[λ]は、フィルムの厚みをd(nm)としたとき、式:Rth[λ]=(nx−nz)×dによって求めることができる。
【0079】
上記複屈折性フィルムのNz係数は、好ましくは0を超え1未満であり、さらに好ましくは0.1〜0.8であり、特に好ましくは0.1〜0.7であり、最も好ましくは0.1〜0.6である。Nz係数が上記の範囲であれば、本発明の複屈折性フィルムは、様々な駆動モードの液晶セルの光学補償に利用することができる。本明細書において、Nz係数とは、Rth[590]/Re[590]から算出される値である。
【0080】
本発明の複屈折性フィルムの波長590nmにおける面内の複屈折率(Δn[590]=nx−ny)は、好ましくは0.05以上であり、さらに好ましくは0.1〜0.5であり、特に好ましくは0.2〜0.4である。なお、上記Δn[590]は、多環式化合物の分子構造により、上記範囲に、適宜、調整することができる。
【0081】
上記複屈折性フィルムの厚みは、好ましくは0.05μm〜10μmであり、より好ましくは0.1μm〜8μmであり、特に好ましくは0.1μm〜6μmである。上記範囲の厚みとすることによって、例えば、液晶表示装置に用いた場合に、表示特性の改善に有用な位相差値の範囲を得ることができる。
【0082】
(偏光フィルムの性質等)
上記多環式化合物を含む本発明の偏光フィルムは、その偏光度が、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。また、該偏光フィルムの単体透過率は、好ましくは35%以上、より好ましくは40%以上である。ただし、単体透過率及び偏光度は、23℃で波長550nmを基準とした値である。かかる偏光特性を有する偏光フィルムが得られる理由は、コーティング液を塗工することによって、多環式化合物が高い配向性を示すためと考えられる。
【0083】
本発明の偏光フィルムの形成材料として用いられる多環式化合物は、波長400nm〜800nmの範囲内に於いて光吸収スペクトルの最大値を有する化合物である。該多環式化合物は、好ましくは、波長400nm〜800nmの範囲内に於いて光吸収スペクトルの最大値を有し、且つ分子構造中に芳香環及び/又は複素環を2以上有する化合物であり、より好ましくは、同最大値を有し且つ芳香環及び/又は複素環を3個〜8個有する化合物であり、特に好ましくは、ペリレン系骨格を有する多環化合物である。より具体的には、上記一般式(III)又は(IV)で表される多環式化合物である。このような多環式化合物を含むコーティング液を用いれば、二色性に優れた偏光フィルムを形成できる。
偏光フィルムの厚みは、好ましくは0.05μm〜10μmであり、より好ましくは0.1μm〜5μmである。本発明の偏光フィルムは、塗工によって形成できるので、薄型に形成できる。
【0084】
<複屈折性フィルム又は偏光フィルムの用途>
本発明の複屈折性フィルムの用途は、特に制限はないが、代表的には、液晶表示装置用のλ/4板、λ/2板、視野角拡大フィルム、フラットパネルディスプレイ用反射防止フィルムなどが挙げられる。また、上記複屈折性フィルムは、有機EL表示装置などの画像表示装置などにも用いることができる。1つの実施形態においては、上記複屈折性フィルムは、偏光フィルムと積層して、偏光板として用いてもよい。以下、この偏光板について説明する。
【0085】
本発明の偏光板は、上記複屈折性フィルムと偏光フィルムとを少なくとも備える。この偏光板は、基材と複屈折性フィルムとを少なくとも備える積層フィルムを含んでいてもよいし、他の複屈折性フィルムや、任意の保護層を含んでいてもよい。実用的には、上記偏光板の、構成部材の各層の間には、任意の適切な接着層が設けられ、上記複屈折フィルムと各構成部材とが貼着される。
【0086】
上記偏光板を構成する偏光フィルムは、自然光又は偏光を直線偏光に変換するものであれば、適切なものが採用され得る。該偏光フィルムは、上記多環式化合物を含む偏光フィルムを用いてもよいし、他の偏光フィルムを用いてもよい。前記他の偏光フィルムとしては、好ましくは、ヨウ素又は二色性染料を含有するポリビニルアルコール系樹脂を主成分とする延伸フィルムである。この延伸フィルムから構成される偏光フィルムの厚みは、通常、5μm〜50μmである。
【0087】
上記接着層は、隣り合う部材の面と面とを接合し、実用上十分な接着力と接着時間で、一体化させるものであれば、任意の適切なものが選択され得る。上記接着層を形成する材料としては、例えば、接着剤、粘着剤、アンカーコート剤が挙げられる。上記接着層は、被着体の表面にアンカーコート剤層が形成され、その上に接着剤層または粘着剤層が形成されたような多層構造であってもよいし、肉眼的に認知できないような薄い層(ヘアーラインともいう)であってもよい。偏光フィルムの一方の側に配置された接着層と他方の側に配置された接着層は、それぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0088】
上記偏光板の、偏光フィルムと複屈折性フィルムと貼着する角度は、目的に応じて、適宜、設定され得る。上記偏光板は、例えば、反射防止フィルムとして用いられる場合は、上記偏光フィルムの吸収軸方向と上記複屈折性フィルムの遅相軸方向とのなす角度が、好ましくは25°〜65°であり、さらに好ましくは35°〜55°である。視野角拡大フィルムとして用いられる場合は、上記偏光板は、上記偏光フィルムの吸収軸方向と上記複屈折性フィルムの遅相軸方向とのなす角度が、実質的に平行又は実質的に直交である。本明細書において「実質的に平行」とは、偏光フィルムの吸収軸方向と複屈折性フィルムの遅相軸方向とのなす角度が、0°±10°の範囲を包含し、好ましくは0°±5°である。「実質的に直交」とは、偏光フィルムの吸収軸方向と複屈折性フィルムの遅相軸方向とのなす角度が、90°±10°の範囲を包含し、好ましくは90°±5°である。
【0089】
また、本発明の偏光フィルムの用途は、特に制限はないが、代表的には、液晶表示装置の光学用途である。本発明の偏光フィルムは、基材に塗工することにより形成されるので、該基材を保護フィルムとして利用することもできる。
【実施例】
【0090】
本発明について、以下の実施例および比較例を用いて更に説明する。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例で用いた各分析方法の一部は、以下の通りである。
(1)厚みの測定方法:
基材(ガラス板)表面に形成した塗工膜の一部を剥離し、該基材と塗工膜との段差を、三次元非接触表面形状計測システム[(株)菱化システム製、製品名「Micromap MM5200」]を用いて測定し、これを厚みとした。
(2)屈折率の測定方法:
王子計測機器(株)製 商品名「KOBRA21−ADH」を用いて、23℃で測定した。なお、平均屈折率は、アッベ屈折率計[アタゴ(株)製 製品名「DR−M4」]を用いて測定した値を用いた。
(3)単体透過率及び偏光度の測定方法:
分光光度計[村上色彩技術研究所(株)製、製品名「DOT−3」]を用いて、23℃の条件で測定した。なお、偏光度及び単体透過率の測定値は、波長550nmを基準とした。
単体透過率は、JlS Z 8701−1995の2度視野に基づく、三刺激値のY値である。
偏光度は、平行透過率(H)および直交透過率(H90)を測定し、式:偏光度(%)={(H−H90)/(H+H90)}1/2×100より求めることができる。平行透過率(H)は、測定対象である偏光フィルム2枚を互いの吸収軸が平行となるように重ね合わせて作製した平行型積層体の透過率の値である。直交透過率(H90)は、測定対象である偏光フィルム2枚を互いの吸収軸が直交するように重ね合わせて作製した直交型積層体の透過率の値である。なお、これらの透過率は、JlS Z 8701−1982の2度視野(C光源)により、視感度補正を行ったY値である。
【0091】
[合成例1]
攪拌機を備えた反応容器に、5リットルの氷酢酸と精製した490gのアセナフテンキノンを添加し、窒素バブリング下で15分間攪拌し、アセナフテンキノン溶液を得た。同様に、攪拌機を備えた別の反応容器に7.5リットルの氷酢酸と275gのo−フェニレンジアミンを添加し、窒素バブリング下で15分間攪拌し、o−フェニレンジアミン溶液を得た。その後、窒素雰囲気下で攪拌しながらo−フェニレンジアミン溶液をアセナフテンキノン溶液に1時間かけて徐々に添加し、その後、3時間攪拌を続けることで反応させた。得られた反応液にイオン交換水を添加した後、沈殿物をろ過して、アセナフト[1,2−b]キノキサリンを含む粗生成物を得た。この粗生成物は、熱氷酢酸で再結晶を行い精製した。
【0092】
次に、下記反応経路(c)に示すように、300gの上記アセナフト[1,2−b]キノキサリンを、30%発煙硫酸(2.1リットル)に加えて24時間室温で攪拌後、125℃に加熱し、32時間攪拌して反応させた。得られた溶液を40℃〜50℃に保ちながら、4.5リットルのイオン交換水を加えて希釈し、さらに3時間攪拌した。沈殿物をろ過し、硫酸で再結晶を行い、アセナフト[1,2−b]キノキサリン−2,5−ジスルホン酸(以下、2,5−disulfo−QANと記す)を合成した。
【0093】
【化10】

【0094】
[実施例1−1]
上記合成例1で得られた合成物(残留硫酸を含む2,5−disulfo−QAN)のウェットケーキ品 2gを、メタノール10gに入れ、十分に攪拌して分散液を得た。この分散液を、ろ紙(アドバンテック社製、商品名:NO.5C)を用いて減圧ろ過し、残さを得た。この残さを、再度、メタノール10gに混合し、同様のろ過を行った。メタノール10gの混合とろ過を、計4回繰り返して行った。最終ろ過で得られた残さを取り出し、60℃で6時間真空乾燥をした後、固形分を得た。
【0095】
[実施例1−2]
メタノールに代えて、アセトン10gを用いたこと以外は、実施例1−1と同様にしてろ過を行い、固形物を得た。
【0096】
[比較例1−1]
メタノールに代えて、トルエン10gを用いたこと以外は、実施例1−1と同様にしてろ過を行い、固形物を得た。
【0097】
[比較例1−2]
メタノールに代えて、シクロヘキサン10gを用いたこと以外は、実施例1−1と同様にしてろ過を行い、固形物を得た。
【0098】
[比較例1−3]
合成例1で得られた合成物(残留硫酸を含む2,5−disulfo−QAN)のウェットケーキ品 1.3kgを、48.7リットルのイオン交換水(電気伝導度:0.1μS/cm)に溶解し、さらに、水酸化ナトリウムの5質量%水溶液を、9.8リットル加えて中和した。得られた水溶液を、供給タンクに入れ、逆浸透膜フィルター(日東電工(株)製、商品名:NTR−7430フィルターエレメント)を備えた高圧ROエレメント試験装置を用いて、液量が一定となるように逆浸透水を加えながら循環ろ過した。そして、廃液の電気伝導度が、13.6μS/cmとなるまで残存硫酸またはその硫酸塩の除去を行ことにより、精製水溶液を得た。
【0099】
[合成例2]
合成例1と同様にして、アセナフト[1,2−b]キノキサリンを得た。
次に、下記反応経路(d)に示すように、300gの上記アセナフト[1,2−b]キノキサリンを、30%発煙硫酸(2.1リットル)に加えて室温で48時間攪拌して反応させた。得られた溶液を40℃〜50℃に保ちながら、4.5リットルのイオン交換水を加えて希釈し、さらに3時間攪拌した。沈殿物をろ過し、アセナフト[1,2−b]キノキサリン−2−スルホン酸(以下、2−sulfo−QANと記す)を合成した。
【0100】
【化11】

【0101】
[実施例2−1]
上記合成例2で得られた合成物(残留硫酸を含む2−sulfo−QAN)のウェットケーキ品 2gを、メタノール10gに入れ、十分に攪拌して分散液を得た。これを実施例1−1と同様にして、混合とろ過を計4回行い、固形物を得た。
【0102】
[実施例2−2]
メタノールに代えて、アセトン10gを用いたこと以外は、実施例2−1と同様にしてろ過を行い、固形物を得た。
【0103】
[実施例2−3]
メタノールに代えて、イソプロピルアルコール10gを用いたこと以外は、実施例2−1と同様にしてろ過を行い、固形物を得た。
【0104】
[比較例2−1]
メタノールに代えて、トルエン10gを用いたこと以外は、実施例2−1と同様にしてろ過を行い、固形物を得た。
【0105】
[比較例2−2]
メタノールに代えて、シクロヘキサン10gを用いたこと以外は、実施例2−1と同様にしてろ過を行い、固形物を得た。
【0106】
[比較例2−3]
合成例2で得られた合成物(残留硫酸を含む2−sulfo−QAN)のウェットケーキ品 500gを、35.5リットルのイオン交換水(電気伝導度:0.1μS/cm)に溶解し、さらに、水酸化ナトリウムの5質量%水溶液を、3.5リットル加えて中和した。得られた水溶液を、供給タンクに入れ、逆浸透膜フィルター(日東電工(株)製、商品名:NTR−7430フィルターエレメント)を備えた高圧ROエレメント試験装置を用いて、液量が一定となるように逆浸透水を加えながら循環ろ過した。そして、廃液の電気伝導度が、8.06μS/cmとなるまで残存硫酸またはその硫酸塩の除去を行うことにより、精製水溶液を得た。
【0107】
[合成例3]
<ペリレンテトラカルボン酸のジベンゾイミダゾール誘導体のスルホン化>
攪拌機を備えた反応容器に、30%発煙硫酸 (0.5リットル)を入れ、35℃で攪拌しながらペリレンテトラカルボン酸のジベンゾイミダゾール誘導体(以下、PCDIと記す)100gを徐々に加えてスルホン化を行った。この後、イオン交換水4.5リットルを加えて希釈し、反応を終了させた。沈殿物をろ過し、硫酸で再結晶を行い、PCDIスルホン化物を得た(反応式(e)参照)。
なお、PCDIは、式(e)に示すように、シス型とトランス型が混在しているものを用いた。
このPCDIスルホン化物の0.1mmol/L水溶液を調製し、分光光度計(日立製作所製、製品名:「U−4100分光光度計」)を用いて、光吸収スペクトルを測定したところ、波長600nmにおいて最大吸収を示した。
【0108】
【化12】

【0109】
[実施例3−1]
合成例3で得られた合成物(残留硫酸を含むPCDIスルホン化物)のウェットケーキ品 2gを、メタノール10gに入れ、十分に攪拌して分散液を得た。この分散液を、ろ紙(アドバンテック社製、商品名:NO.5C)を用いて減圧ろ過し、残さ(固形分)を得た。この残さを、再度、メタノール10gに混合し、同様の減圧ろ過を行った。メタノール10gの混合とろ過を、計4回繰り返して行った。最終ろ過で得られた残さを取り出し、60℃で6時間真空乾燥をした後、最終的な固形分を得た。
【0110】
[実施例3−2]
メタノールに代えて、アセトン10gを用いたこと以外は、実施例3−1と同様にしてろ過を行い、固形物を得た。
【0111】
[実施例3−3]
メタノールに代えて、イソプロピルアルコール10gを用いたこと以外は、実施例3−1と同様にしてろ過を行い、固形物を得た。
【0112】
[比較例3−1]
メタノールに代えて、トルエン10gを用いたこと以外は、実施例2−1と同様にしてろ過を行い、固形物を得た。
【0113】
[比較例3−2]
メタノールに代えて、シクロヘキサン10gを用いたこと以外は、実施例2−1と同様にしてろ過を行い、固形物を得た。
【0114】
上記実施例1−1〜3−3で得られた固形物及び比較例1−1〜3−2で得られた水溶液の残存硫酸量を評価するため、中和滴定及び電気伝導度測定を行った。
【0115】
(中和滴定)
中和滴定による残存硫酸量の評価は、次の通りである。上記各実施例及び比較例で得られた固形物をイオン交換水に溶解させ、0.1質量%の水溶液を調製した。この水溶液 75gを、水酸化ナトリウムの0.1質量%水溶液を用いて、pH=7となるように中和滴定を行った。
なお、残存硫酸量は次式に従って求めた。
残存硫酸量(mg)/原料固形分(g)=[{(滴定に用いた水酸化ナトリウム水溶液中の塩基量(mol)−滴定に用いた原料固形分全てが目的のキノキサリンと仮定した場合の酸量(mol))×98.03}/2]×(1000/原材固形分(g))。
ただし、比較例1−3及び比較例2−3については、既に中和された精製水溶液が得られているため、中和滴定を行うことはできなかった。
なお、参考として、合成例1〜合成例3で合成された合成物(ろ過処理前)の残存硫酸量についても、上記と同様の方法にて測定した。
【0116】
(電気伝導度)
電気伝導度(μS/cm)は、溶液電導率計(京都電子工業(株)製、製品名:CM−117)を用いて測定した。測定用の水溶液は、以下のようにして調製した。各実施例及び比較例で得られた固形物を、イオン交換水に溶解させ、0.1質量%水溶液を調製した。この水溶液に0.1質量%水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpH=7となるように中和することにより、測定用の水溶液を得た。
また、比較例1−3及び比較例2−3については、得られた精製水溶液を上記と同濃度となるようにイオン交換水を加えて希釈することにより、測定用の水溶液を得た。
なお、参考として、成例1〜合成例3で合成された合成物(ろ過処理前)の電気伝導度についても、上記と同様の方法にて測定した。
【0117】
残存硫酸量及び電気伝導度の測定結果を表1に示す。表1の通り、各実施例で得られた固形物は、処理前に比べて、多量の硫酸を除去でき、高純度の多環式化合物を精製できた。
【0118】
【表1】

【0119】
[実施例4]
実施例1−2で得られた固形物1.56gと、実施例2−2で得られた固形物0.84gを、50ミリリットルのイオン交換水(電気伝導度:1.7μS/cm)に溶解し、さらに水酸化アンモニウムを加えて、pH=6.9となるように中和した。得られた水溶液を、ロータリーエバポレーターを用いて、水溶液中の多環式化合物の濃度が24質量%となるように調製した。ここで得られた水溶液を、偏光顕微鏡観察すると、23℃でネマチック液晶相を示した。
次に、厚み1.3mmのガラス板(松浪硝子工業社製、商品名:MATSUNAMI SLIDE GLASS)に、上記水溶液を、バーコータ[BUSCHMAN社製、商品名「mayer rot HS1.5」]を用いて塗工し、23℃の恒温室内で自然乾燥させた。塗工膜の表面を目視で観察したところ、ハジキもなく、均一に塗工されていた。
このようにして形成された塗工膜は、屈折率楕円体がnx>nz>nyの関係を満足し、複屈折性フィルムとして利用できる。該塗工膜は、厚み0.6μm、Re[590]=203nm、Nz係数=0.25であった。
【0120】
[比較例4]
合成例1で得られた合成物(ろ過処理前)1.56gと、合成例1で得られた合成物(ろ過処理前)0.84gとを用いたこと以外は、実施例3と同様にして水溶液を調製し、これを塗工して、ガラス板に塗工膜を形成した。
得られた塗工膜の表面を目視で観察したところ、直径0.5mm以上の円形のハジキ跡が多数生じていた。
【0121】
[実施例5]
実施例3−2で得られた固形物(PCDIスルホン化物)2.0gを、50ミリリットルのイオン交換水(電気伝導度:1.7μS/cm)に溶解し、さらに、5質量%の水酸化ナトリウム水溶液を加えて、pH=4.58まで中和した。得られた水溶液を、ロータリーエバポレーターを用いて、水溶液中のPCDIスルホン化物の濃度が11質量%となるまで濃縮した。得られた水溶液を、偏光顕微鏡観察すると、23℃でネマチック液晶相を示した。
次に、厚み1.3mmのガラス板(松浪硝子工業社製、商品名:MATSUNAMI SLIDE GLASS)に、上記水溶液を、バーコータ[BUSCHMAN社製、商品名「mayer rot HS1.5」]を用いて塗工し、23℃の恒温室内で自然乾燥させた。塗工膜の表面を目視で観察したところ、ハジキもなく、均一に塗工されていた。
このようにして形成された塗工膜は、偏光フィルムとして利用できる。該塗工膜は、厚み0.35μm、偏光度=95%、単体透過率=43%であった。
【0122】
[比較例5]
合成例3で得られた合成物(ろ過処理前)2.0gを用いたこと以外は、実施例5と同様にして水溶液を調製し、これを塗工して、ガラス板に塗工膜を形成した。
得られた塗工膜の表面を目視で観察したところ、直径0.3mm以上の円形のハジキ跡が多数生じていた。このような穴開き膜は、フィルムとして使用できない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SO2−及びSOの少なくとも何れか一方を含む不純物と−SOM基を有する多環式化合物(ただし、Mは対イオンを表す)とを含有する混合物を、SO2−又はSOが溶解し且つ前記多環式化合物が難溶な有機溶媒に混合して分散液を得る工程、前記分散液をろ過し、前記多環式化合物を分離する工程、を有することを特徴とする多環式化合物の精製方法。
【請求項2】
前記有機溶媒が、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、その他の低級アルコール、及びアセトンから選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の多環式化合物の精製方法。
【請求項3】
前記多環式化合物が、下記一般式(I)で表されるキノキサリン誘導体を含む請求項1または2に記載の多環式化合物の精製方法。
【化1】

式(I)中、Mは、対イオンを表す。A及びBは、置換基を表し、a及びbは、その置換数(aは0〜4の整数、bは、0〜6の整数)を表す。また、l及びmは、置換数(lは、0〜4の整数、mは、0〜6の整数)を表す。ただし、l及びmは、同時に0でない。
【請求項4】
前記多環式化合物が、下記一般式(II)で表されるキノキサリン誘導体を含む請求項3に記載の多環式化合物の精製方法。
【化2】

式(II)中、Mは、対イオンを表す。mは、置換数(1〜6の整数)を表す。
【請求項5】
前記多環式化合物が、波長400nm〜800nmに於いて光吸収スペクトルの最大値を有する請求項1または2に記載の多環式化合物の精製方法。
【請求項6】
前記多環式化合物が、下記一般式(III)または一般式(IV)で表されるペリレン誘導体を含む請求項5に記載の多環式化合物の精製方法。
【化3】

式(III)及び式(IV)中、Mは対イオンを表す。n1〜n4は、置換基(0〜4の整数)を表す。ただし、n1〜n4の全てが、同時に0でない。
【請求項7】
分離後の多環式化合物中の残存不純物量が、100mg/g以下である請求項1〜6のいずれかに記載の多環式化合物の精製方法。
【請求項8】
スルホン化処理をし、−SOM基を有する多環式化合物(ただし、Mは対イオンを表す)を合成して合成物を得る工程、
前記合成物を、SO2−又はSOが溶解し且つ前記多環式化合物が難溶な有機溶媒に混合して分散液を得る工程、
前記分散液をろ過して−SOM基を有する多環式化合物を分離する工程、
を有する多環式化合物の製造方法。
【請求項9】
スルホン化処理として、硫酸、発煙硫酸、及び無機スルホン酸から選ばれる少なくとも1種を用いる請求項8に記載の多環式化合物の製造方法。
【請求項10】
前記多環式化合物が、下記一般式(I)で表されるキノキサリン誘導体を含む請求項8または9に記載の多環式化合物の製造方法。
【化4】

式(I)中、Mは対イオンを表す。A及びBは、置換基を表し、a及びbは、その置換数(aは0〜4の整数、bは、0〜6の整数)を表す。また、l及びmは、置換数(lは、0〜4の整数、mは、0〜6の整数)を表す。ただし、l及びmは、同時に0でない。
【請求項11】
前記多環式化合物が、波長400nm〜800nmに於いて光吸収スペクトルの最大値を有する請求項8または9に記載の多環式化合物の製造方法。
【請求項12】
前記多環式化合物が、水に可溶である請求項8〜11のいずれかに記載の多環式化合物の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜4のいずれかに記載の精製方法又は請求項8〜10のいずれかに記載の製造方法により分離された多環式化合物を、水に溶解させることにより得られる液晶相を示すコーティング液。
【請求項14】
請求項5または6に記載の精製方法又は請求項11に記載の製造方法により分離された多環式化合物を、水に溶解させることにより得られる液晶相を示すコーティング液。
【請求項15】
液晶相が、ネマチック液晶相である請求項13または14に記載のコーティング液。
【請求項16】
pHが4〜10に調製されている請求項13〜15に記載のコーティング液。
【請求項17】
請求項13に記載のコーティング液を基材上に塗工し、乾燥することにより得られるnx≧nz>nyの関係を満足する複屈折性フィルム。
【請求項18】
請求項14に記載のコーティング液を基材上に塗工し、乾燥することにより得られる偏光フィルム。

【公開番号】特開2008−143885(P2008−143885A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−182951(P2007−182951)
【出願日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】