説明

多管式熱交換器

【課題】熱膨張によって伸縮する伝熱管の支持構造を改善し、簡単な構成で支持部からのガス漏れ等を効果的に防止する。
【解決手段】第1のガスG1が流入及び流出する入口2及び出口3を有する筒状のケーシング4と第2のガスG2が流れるとともに前記ケーシング内4をのびる複数本の伝熱管5とケーシング4の一端側に設けられかつ伝熱管の一端側を支持する第1の管板6とケーシング4の他端側に設けられかつ前記伝熱管5の他端側を支持する第2の管板7とを含み第2のガスG2が第1のガスG1と伝熱管5を介して熱交換される多管式熱交換器1である。第1の管板6と各伝熱管5の一端側とは固着される。各伝熱管5の他端側は第2の管板7にスライド可能かつ他端側にはみ出して支持される。しかも、第2の管板7には伝熱管5のはみ出し部よりも長さが大かつ該はみ出し部の外径に近似した内径を有して該はみ出し部をスライド可能に内挿する誘導管9が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の伝熱管を具えた多管式熱交換器に関し、詳しくは熱膨張によって伸縮する伝熱管の支持構造を改善することにより、簡単な構成で支持部からのガス漏れ等を効果的に防止しうる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、図1に示されるように、例えば自動車工場の塗装ライン等では、被塗装物Wの塗膜を早期に乾燥硬化させるために、熱風を用いた乾燥炉Dが用いられる。
【0003】
前記乾燥炉Wは、例えば両端がエアカーテン又は扉でシールされたトンネル状に構成され、そこには、コンベヤ等で被塗装物Wが順次供給されかつ取り出される。また、乾燥炉Dには、例えば外気を熱交換器aで約200℃程度まで昇温させた熱風が供給される。
【0004】
しかし、乾燥炉D内では、塗料に含まれる有機溶剤や塗料樹脂等の有害物質が揮発した臭気ガスが発生する。このような臭気ガスが大気中にそのまま放出されると、公害を引き起こす問題がある。そこで、従来では、乾燥炉Dから排出される臭気ガス(通常、約150℃程度)は、例えば、熱交換器b及び脱臭炉Mを含むガス脱臭システムSで臭気ないし有害物が除去されて外気に放出される。
【0005】
即ち、臭気ガスは、熱交換器bにて予め約300℃以上に予熱され、しかる後、脱臭炉Mへと送給される。脱臭炉Mでは、臭気ガスが約800℃近くまで加熱される。これにより、臭気ガスから有機物が分解ないし無害化され、非臭気ガスとして排出される。
【0006】
無害化された高温の非臭気ガス(出口温度で約750℃程度)は、再び、前記熱交換器bへと送られ、そこで、臭気ガスを前記予備加熱するための熱エネルギーが取り出される。また、熱交換器bを経由した非臭気ガスは、さらに熱交換器aを経由し、乾燥炉Dへ供給される外気加熱用の熱エネルギーが取り出される。これらの熱交換の後、非臭気ガスは外気へと排出される。
【0007】
ところで、前記熱交換器bには、臭気ガスと非臭気ガスとが混合しないように、多管式熱交換器が多用される。
【0008】
多管式熱交換器は、例えば図8に示されるように、第1のガスG1(この例では臭気ガス)が流入及び流出する入口f及び出口gを有する筒状のケーシングhと、第2のガスG2(この例では非臭気ガス)が流れるとともにケーシングh内をのびる複数本かつパイプ状の伝熱管r…と、ケーシングhの一端側に設けられかつ伝熱管rの一端側を支持する支持孔を有する前後の管板j、kとを含んで構成されている。なお、符号eは、第1のガスG1を入口fから出口g側に案内するとともに伝熱管rの中間部を支持する仕切り板である。従って、伝熱管rを流れる第2のガスG2は、ケーシングh、前後の管板j及びkで囲まれた空間を流れる第1のガスG1と伝熱管を介して熱交換される。関連する文献としては、次のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−53894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、多管式熱交換器では、伝熱管rとケーシングhとの熱膨張による伸びに差が生じる。具体的には、伝熱管rがケーシングhに比して軸方向及び径方向に大きく伸びる。従って、従来の多管式熱交換器では、このような伸びの差を吸収して熱交換器を保護するために、様々な改善が試みがなされている。
【0011】
例えば図9(a)に示されるものでは、各伝熱管rは、前後の管板j、kとそれぞれ溶接固着される一方、ケーシングhの前後には、伸縮継手mが前後に設けられている。この実施形態では、伝熱管rとケーシングhとの伸び差(径方向及び軸方向)を、伸縮継手の変形によって吸収することを期待するものである。
【0012】
しかしながら、前管板jと伝熱管rとの溶接部nは、第2のガスG2(高温側)によって常時高温に加熱されるため、該溶接部nが熱疲労によって破損しやすいという問題がある。また、伸縮継手mは、ケーシングh等の重量物を支持する場合や、耐熱性と気密性とが必要であるため、それなりの剛性、耐熱性及び気密性が必要である。このため、伸縮継手mは、十分な柔軟性ないし伸縮性能が発揮できない場合があり、また、この継手部分に伸縮による繰返し応力が集中してクラック等が発生しやすいという欠点があった。
【0013】
このような問題を解決するために、図9(b)に示されるように、例えば、伝熱管rが、前側の管板jに溶接固着される一方、後側の管板kには溶接することなくスライド可能に支持された構造も提案されている(溶接位置を逆としても良い。)。この実施形態では、ケーシングhとは関係なく伝熱管rが伸びることができるため、上述の伸縮継手mを設ける必要が無い。
【0014】
しかしながら、この実施形態では、後側の管板kと伝熱管rとの間に隙間が形成されるので、第1のガスG1(この例では臭気ガス)が第2のガス(この例では非臭気ガス)と共に大気へ放出され、公害を招くおそれがある。
【0015】
なお、伝熱管rと管板kとの前記隙間からのガスの流出を防止するためのパッキン及びパッキン押さえ板等(いずれも図示省略)を設けることも提案されている。しかしながら、このような実施形態においても、パッキンが高温ガスに曝される結果、短期に焼損し易く、十分な効果が発揮されていないのが現状である。
【0016】
本発明は、以上のような問題点に鑑み案出されたもので、熱膨張によって伸縮する伝熱管の支持構造を改善することにより、簡単な構成でガス漏れ等を効果的に抑制しうる多管式熱交換器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のうち請求項1記載の発明は、第1のガスが流入及び流出する入口及び出口を有する筒状のケーシングと、第2のガスが流れるとともに前記ケーシング内をのびる複数本かつパイプ状の伝熱管と、前記ケーシングの一端側に設けられかつ前記伝熱管の一端側を支持する第1の管板と、前記ケーシングの他端側に設けられかつ前記伝熱管の他端側を支持する第2の管板とを含み、前記第2のガスが、前記ケーシング、第1の管板及び第2の管板で囲まれた空間を流れる前記第1のガスと前記伝熱管を介して熱交換される多管式熱交換器であって、前記第1の管板と前記各伝熱管の前記一端側とが固着される一方、前記各伝熱管の他端側は、前記第2の管板にスライド可能かつ他端側にはみ出して支持され、しかも前記第2の管板に、該第2の管板からはみ出した伝熱管のはみ出し部よりも長さが大かつ該はみ出し部の外径に近似した内径を有して該はみ出し部をスライド可能に内挿する誘導管が設けられたことを特徴とする。
【0018】
また請求項2記載の発明は、前記誘導管は、前記第2の管板の他端側の面に突き合わされかつ第2の管板と溶接固着される請求項1記載の多管式熱交換器である。
【0019】
また請求項3記載の発明は、前記誘導管は、前記ケーシングに固定された支持金具によって前記第2の管板の他端側の面に突き合わされて保持される請求項1記載の多管式熱交換器である。
【0020】
また請求項4記載の発明は、前記第2のガスは、前記第1のガスが前記伝熱管と前記誘導管との隙間から漏れ出るのを防ぐ流速で前記第2の管板側から第1の管板側に送給される請求項1記載の多管式熱交換器である。
【0021】
また請求項5記載の発明は、請求項4に記載された多管式熱交換器と、臭気ガスを加熱することにより脱臭する脱臭炉とを含むガス脱臭システムであって、前記第1のガスが臭気ガスであり、前記第2のガスは、前記第1のガスを前記脱臭路を経由させた第1のガスよりも高温の非臭気ガスであることを特徴とするガス脱臭システムである。
【0022】
また請求項6記載の発明は、前記誘導管は、前記第2の管板に設けられた支持孔に挿入されかつ該第2の管板の前記一端側の面に溶接される請求項1記載の多管式熱交換器である。
【0023】
また請求項7記載の発明は、前記誘導管は、前記第2の管板に設けられた支持孔に挿入されかつ該第2の管板の前記他端側の面に溶接される請求項1記載の多管式熱交換器である。
【0024】
また請求項8記載の発明は、前記第2のガスは、該第2のガスが、前記伝熱管と前記誘導管との隙間から、第1の管板と第2の管板との間に漏れ出るのを防ぐ流速で前記第1の管板側から第2の管板側に送給される請求項6又は7に記載の多管式熱交換器である。
【0025】
また請求項9記載の発明は、請求項8に記載された多管式熱交換器と、臭気ガスを加熱することにより脱臭する脱臭炉とを含むガス脱臭システムであって、前記第2のガスが臭気ガスであり、前記第1のガスは、前記第2のガスを前記脱臭路を経由させた第2のガスよりも高温の非臭気ガスであることを特徴とするガス脱臭システムである。
【発明の効果】
【0026】
本発明の多管式熱交換器によれば、第1の管板と前記各伝熱管の一端側とが固着される一方、各伝熱管の他端側は、第2の管板にスライド可能かつ他端側にはみ出して支持さる。しかも、第2の管板に、該第2の管板からはみ出した伝熱管のはみ出し部よりも長さが大かつ該はみ出し部の外径に近似した内径を有して該はみ出し部をスライド可能に内挿する誘導管が設けられる。
【0027】
このような支持構造は、ケーシングとは無関係に伝熱管の伸びを許容させることができる。従って、熱交換時の伝熱管の伸び等により、熱交換器にに大きな内部応力が作用することがない。また、伝熱管の他端側は、管板のみならず誘導管によっても支持されるため、軸方向に長い距離で支持されることになる。これは、ガスが漏れ出す際の経路を長くして流動抵抗を増加させ、ガス漏れを抑制するのに役立つ。また、伝熱管の熱膨張により、誘導管と伝熱管との間の隙間が小さくなり、かつ、接触長さが長くなり、ガスの漏れ出しを更に抑制しうる。
【0028】
また、請求項2記載の発明のように、誘導管が、第2の管板の他端側の面に突き合わされかつ該第2の管板と溶接固着された場合には、この突き合わせ部からのガス漏れを抑制するのに役立つ。
【0029】
また、請求項3記載の発明のように、誘導管は、前記ケーシングに固定された支持金具によって前記第2の管板の他端側の面に突き合わされて保持させても良い。この実施態様では、伝熱管と管板との溶接を不要とし、生産性が向上する。
【0030】
また、請求項4記載の発明のように、前記第2のガスは、前記第1のガスが前記伝熱管と前記誘導管との隙間から漏れ出すのを防ぐ流速で前記第2の管板側から第1の管板側に送給させることができる。つまり、第2のガスの流速を高めることによって、伝熱管と前記誘導管との隙間から第1のガスが漏れ出すのを防止させ得る。
【0031】
また、請求項5記載の発明のように、請求項4に記載された多管式熱交換器と、臭気ガスを加熱することにより脱臭する脱臭炉とを含むガス脱臭システムであって、第1のガスが臭気ガスであり、かつ、第2のガスが、前記第1のガスを前記脱臭路を経由させることにより第1のガスよりも高温の非臭気ガスであるときには、臭気ガスが誘導管側へ漏れ出すのを効果的に抑制しうるシステムを提供できる。
【0032】
さらに、請求項6記載の発明のように、前記誘導管は、前記第2の管板に設けられた支持孔に挿入されかつ該第2の管板の前記一端側の面で溶接されても良いし、請求項7記載の発明のように、第2の管板に設けられた支持孔に挿入されかつ該第2の管板の前記他端側の面で溶接されても良い。これにより、誘導管と第2の管板とをより確実に固着することができる。
【0033】
また、請求項8記載の発明のように、請求項6又は7の構造において、伝熱管を通る第2のガスは、該第2のガスが、伝熱管と誘導管との隙間から、第1の管板と第2の管板との間に漏れ出るのを防ぐ流速で前記第1の管板側から第2の管板側に送給させることが望ましい。
【0034】
さらに、請求項9記載の発明のように、請求項8に記載された多管式熱交換器と、臭気ガスを加熱することにより脱臭する脱臭炉とを含むガス脱臭システムであって、前記第2のガスが臭気ガスであり、前記第1のガスは、前記第2のガスを前記脱臭路を経由させた第2のガスよりも高温の非臭気ガスとしたときには、臭気ガスがケーシング側に漏れ出すことを効果的に抑制しうる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本実施形態の多管式熱交換器を用いたガス脱臭システムのレイアウト図である。
【図2】本実施形態の多管式熱交換器の断面図である。
【図3】その平面図である。
【図4】本実施形態の多管式熱交換器の斜視図である。
【図5】本実施形態の伝熱管と管板との支持構造を説明する拡大図である。
【図6】他の実施形態の伝熱管と管板との支持構造を説明する拡大図である。
【図7】他の実施形態の伝熱管と管板との支持構造を説明する拡大図である。
【図8】従来の多管式熱交換器の断面である。
【図9】(a)及び(b)の要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施の一形態が、図1に示したガス脱臭システムの熱交換器bとして好適に用いられる態様を例に挙げて図面に基づき説明される。
【0037】
図2〜4に示されるように、本実施形態の多管式熱交換器1は、第1のガスG1が流入及び流出する入口2及び出口3を有する筒状のケーシング4と、第2のガスG2が流れるとともに前記ケーシング4内をのびる複数本の伝熱管5と、前記ケーシング4の一端4a側(図2において左側)に設けられかつ伝熱管5の一端5a側を支持する第1の管板6と、ケーシング4の他端4b側(図2において右側)に設けられかつ伝熱管5の他端5b側を支持する第2の管板7とを含んで構成される。
【0038】
この実施形態の多管式熱交換器1は、第1のガスG1が有機物等を含んだ臭気ガス(約150℃)であり、第2のガスG2が、図1の脱臭路Lを経由させることにより、第1のガスG1よりも高温(約750℃)かつ無害化された非臭気ガスの場合を示す。
【0039】
前記ケーシング4は、本実施形態では水平方向に長い例えば略直方体状で構成され、ベース材11を介して床面に設置される。また、ケーシング4の外側面は、適宜ロックウール等の断熱材10によって外部保温が図られている。但し、ケーシング4は、円筒状にも形成できる。
【0040】
また、本実施形態のケーシング4には、その上面に、ほぼ矩形状の開口部を有して上向きにのびる入口2及び出口3が左右に並設されている。これらの入口2及び出口3には、第1のガスG1を案内するダクトがパッキン等を介してそれぞれ接続される(いずれも図示省略)。
【0041】
さらに、ケーシング4の水平方向の一端4a側及び他端4b側の開口には、第1の管板6及び第2の管板7により閉塞されている。また、ケーシング4の内部には、仕切板8が設けられる。該仕切板8は、前記入口2と出口3との間でケーシング4の内部を2つの空間に分断するように上下にのびており、かつ、ケーシング4の底面Bに達することなくその手前で終端している。これにより、入口2から送給された第1のガスG1は、ケーシング4内を、仕切板8の下端と底面Bとの間を通って向き変えし前記出口3へと向かう側面視略U字状に流れる。
【0042】
なお、ケーシング4には、例えば開閉可能な蓋体で覆われた点検口30が底部側に設けられる。また、ケーシング4の一端4a側には、下流側の熱交換器a(図1に示す)に接続するための接続部Jが設けられている。
【0043】
前記伝熱管5は、図4に良く表されているように、断面円形のパイプからなり、互いに離間させつつ比較的密なピッチで多段多列に配置されている。これにより、伝熱管5、5間に、第1のガスG1が通る空隙が形成される。
【0044】
図5には、前記第1の管板6及び第2の管板7の要部拡大図が示される。各管板6及び7は、いずれもケーシング4の一端4a側及び他端4b側の開口を閉じる板状をなすとともに、各伝熱管5の端部が挿入される円形の支持孔12、13が多数形成されている。
【0045】
このような多管式熱交換器1は、伝熱管5を流れる高温の第2のガスG2が、ケーシング4、第1の管板6及び第2の管板7で囲まれた空間iを流れる相対的に低温の第1のガスG1と伝熱管5を介して熱交換し第1のガスG1を昇温させる。
【0046】
第1の管板6の支持孔12は、伝熱管5の外径と実質的に同一かこれよりも僅かに大きい径を有している。そして、本実施形態では、第1の管板6の支持孔12に伝熱管5の一端5aが内側から差し込まれるとともに、外側にはみ出す伝熱管5の一端5aが、第1の管板6の前記一端側の面である外側面6oに溶接にて固着されている。これにより、第1の管板6と、伝熱管5とはほぼ気密に固着される。
【0047】
また、第2の管板7にも、第1の管板6の支持孔12と向き合う位置に、伝熱管5の外径と実質的に同一かこれよりも僅かに大きい径を有する支持孔13が形成されている。そして、伝熱管5の他端5bは、この支持孔13にスライド可能に挿入されて支持されている。つまり、伝熱管5の他端側5bは、第2の管板7と溶接固着されていない。
【0048】
このような支持構造においては、伝熱管5が、第2の管板7にてルーズに支持されているため、伝熱管5の熱膨張による伸びが拘束されることがない。従って、管板6、7間ないしケーシング4に対して過度の応力を生じさせることがないので、ケーシング4に伸縮継手を設ける必要が無く、装置を低コストで製造できる。また、伸縮継手を有しないため、該伸縮継手で生じがちであったクラック等の発生を防ぎ、耐久性を向上することもできる。また、伝熱管5は、第2の管板7から抜き取ることができるので、伝熱管5の全部ないし一部を交換や、高温側に曝される第2の管板7の保守等、解体等を容易に行うことができる点でも好ましい。
【0049】
また、第2の管板7には、誘導管9が設けられている。該誘導管9は、第2の管板7からはみ出す伝熱管5のはみ出し部5Hよりも大きい長さL2を有し、かつ、該はみ出し部5Hの外径d1に近似した内径d2(d2≧d1)を有して該はみ出し部5Hをスライド可能に内挿している。また、本実施形態の誘導管9は、第2の管板7の前記他端側の面である外側面7oに溶接にて固着されている。また、伝熱管5の他端5bと誘導管9との重なり長さは符号L1で表されている。
【0050】
このような誘導管9は、伝熱管5と密に装着されるとともに、十分に大きい重なり長さL1を有するため、両者の隙間から第1のガスG1が漏れ出すときの流動抵抗を大きくし、ひいては漏れ量を皆無ないし微量に抑制することができる。特に、伝熱管5が温度上昇により伸びた場合、誘導管9と伝熱管5との接合面積はさらに大きくなる。これは、第1のガスG1が、前記隙間から漏れ出す際の流動抵抗をより大きくし、漏れ量をさらに制限するのに役立つ。
【0051】
前記重なり長さ(この実施形態では、はみ出し部5Hの長さに等しい。)L1や、誘導管9の長さL2(いずれも常温時の長さとする)は、特に限定されるものではないが、小さすぎると、両管の接合面積が低減し、これらの間から第1のガスG1が漏れやすくなる。このような観点より、前記重なり長さL1は、好ましくは20mm以上、より好ましくは30mm以上が望ましい。また、誘導管9の長さL2は、好ましくは、前記重なり長さL1の2倍以上が望ましい。
【0052】
なお、前記重なり長さL1や、誘導管9の長さL2が大きすぎると、装置が著しく大型化したり、生産性が悪化するおそれがある。このような観点より、前記重なり長さL1は、好ましくは50mm以下、より好ましくは40mm以下が望ましい。同様に、誘導管9の長さL2は、好ましくは、はみ出し部5Hの長さL1の5倍以下が望ましい。
【0053】
また、誘導管9の内径d2は、はみ出し部5Hの外径d1(即ち、伝熱管5の外径)の例えば105〜110%、より好ましくは106〜109%であるのが望ましい。前記誘導管9の内径d2が、はみ出し部5Hの外径d1の105%未満であると、伝熱管5の熱膨張時に伸びを拘束するおそれがあり、逆に110%を超えると、両者の間の隙間が大きくなって、そこから第1のガスG1が漏れ出るおそれがある。
【0054】
また、本実施形態の多管式熱交換器1では、高温の第2のガスG2により、伝熱管5のはみ出し部5Hは、その回りを囲む誘導管9よりも高温に加熱される。その理由は、高温の第2のガスG2が誘導管9側から送給されるので、伝熱管5のはみ出し部5Hは、他端5b側の端面5b1及び内周面5b2が第2のガスG2で直接加熱されるのに対し、はみ出し部5Hの外側の誘導管9は、該はみ出し部5Hを介して加熱されるためである。この結果、はみ出し部5Hの径方向の伸びが、誘導管9の径方向の伸びよりも大きくなり易く、ひいては両者の間の隙間をさらに減じることができる。従って、本実施形態の多管式熱交換器1では、使用につれて、第1のガスG1が前記隙間から漏れ出す際の流動抵抗をより大きくしてガスの漏れを確実に抑制できる。
【0055】
なお、伝熱管5及び誘導管9は、例えば同一の金属材料で構成することができ、例えば耐熱性を高めたSUS304やSUS310Sなどのステンレス鋼が好適に用いられる。但し、誘導管9には、伝熱管5よりも熱膨張率の小さい金属材料が採用されても良い。
【0056】
また、本実施形態では、第2のガスG2の流速が相対的に高く設定される。これは、伝熱管5のはみ出し部5Hに摩擦熱を生じさせ、該はみ出し部5Hをさらに加熱して誘導管9との接合隙間をさらに小さくするのに役立つ。また、第2のガスG2の高い流速によって、伝熱管5と誘導管9との隙間から第1のガスG1が漏れ出るのを押さえ込むことができる。一例として、本実施形態では、第2のガスG2の流速が約30m/s程度に調節される一方、第1のガスG1の流速は、その半分ないしそれ以下に設定されている。このような流速バランスは、第1のガスG1が伝熱管5と誘導管9との間の接合隙間から誘導管9側に漏れ出すのを効果的に防止しうる。
【0057】
また、伝熱管5と誘導管9と接合隙間から第1のガスG1が誘導管9側に仮に漏れ出た場合でも、その量は甚だ微量であり、かつ、漏れ出た第1のガスG1は、高温加熱された第2のガスG2とともに誘導管9及び伝熱管5のはみ出し部5Hを流動し、その途中で脱臭されて伝熱管5の中を通り他の脱臭ガスと共に大気へ放出され得る。
【0058】
なお、前記伝熱管5は、上述の通り、比較的密なピッチで配列されている。このため、誘導管9と第2の管板7との溶接は、非常に狭いスペースで行わねばならず、生産性においてやや難がある。従って、例えば図6に示されるように、誘導管9の第2の管板7側の端面9aは、該第2の管板7と溶接することなく、第2の管板7とほぼ平行にのびる支持板15で保持させることもできる。
【0059】
前記支持板15には、誘導管9を密に挿入しかつ固着しうる支持孔16が形成される。そして、支持板15の周囲は、ケーシング7の内面に固着される(図示省略)。これにより、誘導管9の端面9aを、第2の管板7の外側の面7oに当接させることができる。なお、誘導管9の支持板15から外側にはみ出す長さを小としたときには、支持板15と誘導管9とをその外側で溶接することもできる。
【0060】
以上のような多管式熱交換器1は、上述のガス脱臭システムSにおいて、好適に利用することができる。
【0061】
本実施形態の多管式熱交換器1では、さらに種々の変更が可能である。
例えば、図2及び図4に示されるように、第2の管板7に近接して補助管板20を設けることができる。これにより、ケーシング4内に、第1のガスG1が、仕切り板8と補助管板20との間から出口3に向かう主流路A1と、補助管板20と第2の管板7との小隙間から出口3に向かう補助流路A1とが区分される。また、ケーシング4には、伝熱管5が設けられた熱交換部よりも底部側、かつ、本実施形態では図2における背面側に、第1のガスG1が流入するバイパス口22が設けられる。さらに、ケーシング4の内部には、このバイパス口22から流入する第1のガスG1を前記補助流路A2に導くダクト部23が設けられている。また、補助管板20は、伝熱管5を補助的に支持して、伝熱管の変形を抑える。これにより、伝熱管5は、誘導管9内をより一層円滑にスライドすることができる。さらに、管板7の放射熱を全面に投影、反射して管板7の温度を低減する役目を果たす。
【0062】
伝熱管5の第2の管板7側には、約750℃と非常に高温の第2のガスG2が供給される。従って、第2の管板7やその近傍の伝熱管5は、比較的早期に熱疲労が進行しやすい。そこで、例えば、伝熱管5と実質的に熱交換がなされていない相対的に低温の第1のガスG1を、前バイパス口22から取り込みかつこれを補助流路A2に直接導くことにより、第2の管板7及びその近傍の伝熱管5を効果的に冷却することができる。これにより、熱交換器の耐久性を向上させることができる。
【0063】
上記実施形態では、第1のガスG1が臭気ガス、第2のガスが脱臭炉Mを経由させた高温の非臭気ガスである態様を示したが、このような態様に限定されるものではなく、ガスを相互に異ならせることができる。即ち、第2のガスG2が臭気ガス、ケーシング4内を通る第1のガスG1が、前記第2のガスG2を脱臭路Mを経由させることにより第2のガスよりも高温とした非臭気ガスとしても良い。図7には、このような態様の好適な実施形態が示される。
【0064】
図7の実施形態では、誘導管9は、第2の管板7に設けられた支持孔13に挿入されかつ該第2の管板と溶接固着されている。具体的に述べると、誘導管9は、支持孔13から小長さで第1の管板6側にはみ出させ、かつ、この部分が第2の管板7の内側面7iと溶接されている。つまり、第2の管板7の支持孔13は、第1の管板6の支持孔13よりも大きく形成されている。このような溶接構造は、第2の管板7と誘導管9との隙間から第1のガスが漏れ出すのを防ぐのに役立つ。ただし、誘導管9と第2の管板7とは、該第2の管板7の外側面7o(他端側の面)で溶接されても良いのは言うまでもない。
【0065】
この実施形態においても、伝熱管5と誘導管9との重なり部の長さL1、誘導管9の長さL2(いずれも常温時の長さとする)、誘導管9の内径d2及びはみ出し部5Hの外径d1(即ち、伝熱管5の外径)については、上述の好ましい範囲として記載された値がそのまま適用できる。
【0066】
また、この実施形態では、第2のガスG2が、第1の管板6側から第2の管板7側へと送給される。第2のガスG2の流速は、少なくとも第1のガスG1の流速よりも大きく設定される。これにより、臭気を含む第2のガスG2が、伝熱管5と誘導管9との間の接合隙間から逆流してケーシング4内に漏れ出す事態を防止できる。好適な実施形態では、第2のガスG2は、第1のガスG1の流速の1.5倍以上、より好ましくは2倍以上に調節されるのが望ましい。
【0067】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の態様に応用して実施することができる。例えば、本発明は、一般の空気予熱器や排ガス冷却器等に応用しうるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0068】
1 多管式熱交換器
2 入口
3 出口
4 ケーシング内
4a ケーシングの一端
4b ケーシングの他端
5 伝熱管
5a 伝熱管の一端
5b 伝熱管の他端
5H はみ出し部
6 第1の管板
7 第2の管板
7i 内側面
7o 外側面
8 仕切板
12 支持孔
13 支持孔
20 補助管板
G1 第1のガス
G2 第2のガス
M 脱臭炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のガスが流入及び流出する入口及び出口を有する筒状のケーシングと、
第2のガスが流れるとともに前記ケーシング内をのびる複数本かつパイプ状の伝熱管と、
前記ケーシングの一端側に設けられかつ前記伝熱管の一端側を支持する第1の管板と、
前記ケーシングの他端側に設けられかつ前記伝熱管の他端側を支持する第2の管板とを含み、
前記第2のガスが、前記ケーシング、第1の管板及び第2の管板で囲まれた空間を流れる前記第1のガスと前記伝熱管を介して熱交換される多管式熱交換器であって、
前記第1の管板と前記各伝熱管の前記一端側とが固着される一方、
前記各伝熱管の他端側は、前記第2の管板にスライド可能かつ他端側にはみ出して支持され、しかも
前記第2の管板に、該第2の管板からはみ出した伝熱管のはみ出し部よりも長さが大かつ該はみ出し部の外径に近似した内径を有して該はみ出し部をスライド可能に内挿する誘導管が設けられたことを特徴とする多管式熱交換器。
【請求項2】
前記誘導管は、前記第2の管板の他端側の面に突き合わされかつ第2の管板と溶接固着される請求項1記載の多管式熱交換器。
【請求項3】
前記誘導管は、前記ケーシングに固定された支持金具によって前記第2の管板の他端側の面に突き合わされて保持される請求項1記載の多管式熱交換器。
【請求項4】
前記第2のガスは、前記第1のガスが前記伝熱管と前記誘導管との隙間から漏れ出るのを防ぐ流速で前記第2の管板側から第1の管板側に送給される請求項1記載の多管式熱交換器。
【請求項5】
請求項4に記載された多管式熱交換器と、臭気ガスを加熱することにより脱臭する脱臭炉とを含むガス脱臭システムであって、
前記第1のガスが臭気ガスであり、前記第2のガスは、前記第1のガスを前記脱臭路を経由させた第1のガスよりも高温の非臭気ガスであることを特徴とするガス脱臭システム。
【請求項6】
前記誘導管は、前記第2の管板に設けられた支持孔に挿入されかつ該第2の管板の前記一端側の面に溶接される請求項1記載の多管式熱交換器。
【請求項7】
前記誘導管は、前記第2の管板に設けられた支持孔に挿入されかつ該第2の管板の前記他端側の面に溶接される請求項1記載の多管式熱交換器。
【請求項8】
前記第2のガスは、該第2のガスが、前記伝熱管と前記誘導管との隙間から、第1の管板と第2の管板との間に漏れ出るのを防ぐ流速で前記第1の管板側から第2の管板側に送給される請求項6又は7に記載の多管式熱交換器。
【請求項9】
請求項8に記載された多管式熱交換器と、臭気ガスを加熱することにより脱臭する脱臭炉とを含むガス脱臭システムであって、
前記第2のガスが臭気ガスであり、前記第1のガスは、前記第2のガスを前記脱臭路を経由させた第2のガスよりも高温の非臭気ガスであることを特徴とするガス脱臭システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−270931(P2010−270931A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−121225(P2009−121225)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(500005712)熱研産業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】