説明

多結晶シリコンの製造方法

【課題】初期溶解時に用いるダミーバーに起因して発生する異物の混入を防止して、歩留りを改善することができる多結晶シリコンの製造方法を提供する。
【解決手段】電磁誘導法による多結晶シリコンの製造方法において、モールド2内のシリコン原料を初期溶解する際に当該シリコン原料を支持するためのダミーバー4として、ダミーバー本体4aの上面にシリコン5が結合されたダミーバーを使用する。前記ダミーバーとして、鋳造終了後に、インゴットと結合したダミーバーの当該結合部よりも上のインゴットの部分で切断することにより、ダミーバー本体の上面にシリコンを存在させたダミーバー、さらには、これに酸による洗浄等の処理を施したダミーバーを使用する実施形態を採ることとすれば、従来のカーボンダミーバーを使用した場合における窒化ケイ素の異物の混入を抑制し、歩留りの向上等、種々の改善を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁誘導による連続鋳造法を適用して太陽電池の基板材等に使用される多結晶シリコンを製造する方法に関し、さらに詳しくは、モールド内のシリコン原料の初期溶解時に用いるダミーバーに起因して発生する異物の混入を防止して、歩留りを改善することができる多結晶シリコンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁誘導による連続鋳造法(以下、「電磁鋳造法」という)によれば、溶解された物質(ここでは、溶融シリコン)とモールドとはほとんど接触しないので、不純物汚染のない鋳塊(インゴット)を製造することができる。モールドからの汚染がないので、モールドの材質として高純度材料を使用する必要がないという利点もあり、また、連続して鋳造することができるので、製造コストの大幅な低減が可能である。したがって、電磁鋳造法は、従来から太陽電池の基板材として用いられる多結晶シリコンの製造に適用されてきた。
【0003】
この電磁鋳造法では、高周波誘導コイルの内側に、周方向に相互に電気的に絶縁され、かつ内部が水冷された、電気伝導性と熱伝導性のよい物質(通常は銅)を短冊状に並べた無底の冷却モールド(またはルツボ)を用いる。コイルの形状および無底モールドとして機能する短冊状の物体で囲まれた部分の形状は、円筒状、角筒状のいずれでもよい。また、無底モールドの下部には下方に移動可能な支持台を設ける。
【0004】
溶解容器として構成された銅製のモールドに原料シリコンを装入し、高周波誘導コイルに交流電流を通じると、モールドを構成する短冊状の各素片は互いに電気的に分割されているので、各素片内で電流がループを作り、モールドの内壁側の電流がモールド内に磁界を形成して、モールド内のシリコンを加熱溶解することができる。モールド内の溶融シリコンは、モールド内壁の電流がつくる磁界と溶融シリコン表皮の電流の相互作用によって溶融シリコン表面の内側法線方向の力を受け、モールドと非接触の状態で溶解される。
【0005】
このようにモールド内のシリコンを溶解させながら、溶融シリコンを下部で保持する支持台を下方へ移動させると、高周波誘導コイルの下端から遠ざかるにつれて誘導磁界が小さくなるために、発生電流が低下して発熱量が減少し、溶融シリコンの底部で上方に向けて凝固が進行する。
【0006】
支持台の下方への移動に合わせて、モールドの上方から原料を連続的に投入し、溶解および凝固を継続することにより、一方向に凝固させながら多結晶シリコンインゴットを連続して鋳造することができる。シリコン溶融液を凝固させてインゴットにする際に一方向凝固が採用されるのは、結晶粒を大きく成長させるとともに、凝固に伴う体積膨張による割れを防ぐためである。
【0007】
このような電磁鋳造法により多結晶シリコンを連続鋳造する場合、固体のシリコン原料を最初に溶解(初期溶解)する際に、モールド内に供給されるシリコン原料を支持するため、通常は黒鉛製のダミーバー(カーボンダミーバー)が使用される。
【0008】
図4は、従来の初期溶解時におけるダミーバーの配置状況を模式的に例示する縦断面図である。図示するように、支持台3に保持されたカーボンダミーバー4は、最初無底モールド2の底部近傍の高さレベルに配置される。カーボンダミーバー4は、ダミーバー本体4aと、その上面に凹部を形成するように取り付けられた凹部形成部材4bからなっている。このカーボンダミーバー4には、シリコンの融着を抑制するための離型剤(窒化ケイ素)が塗布されている。
【0009】
窒化ケイ素が塗布されたカーボンダミーバー4の上に、後に詳述する初期原料(リサイクル材7)、および、初期原料(固体シリコン原料)9を供給し、例えば、モールド2の上方に取り付けられたプラズマトーチ(図示せず)により加熱する。初期原料(リサイクル材7)および初期原料(固体シリコン原料)9は溶解して溶融シリコンとなり、カーボンダミーバー4の上面の凹部全体に拡がる。続いて固体のシリコン原料を投入し、溶解させながら、支持台3を下方へ移動させると、高周波誘導コイル1の下端から遠ざかるにつれて誘導磁界が小さくなるために、発生電流が低下して発熱量が減少し、前記凹部全体に拡がった溶融シリコンは凝固して、カーボンダミーバー4とシリコンインゴット(図示せず)が結合される。
【0010】
ところで、この初期溶解工程で、カーボンダミーバーと溶融シリコンとの接触に伴う離型剤(窒化ケイ素)の巻き込みやカーボン濃度の上昇が生じ、最終凝固部位(インゴットのトップ部位)で異物が発生して歩留りが低下するという問題がある。
【0011】
また、鋳造終了後、インゴットからカーボンダミーバーを外す際にダミーバーの大半が破損するため、ダミーバーの交換頻度が高く、製造コスト上昇の一因になっている。
【0012】
さらに、インゴットのボトム部位は結晶品質が悪く、窒化ケイ素が付着しているためシリコン廃材として廃棄せざるをえない。
【0013】
初期溶解時に使用するダミーバーについては、例えば、特許文献1に、電磁誘導による多結晶シリコンの連続鋳造において、ダミーブロック(ダミーバーに同じ)本体の上面に、溶解したシリコン原料が流入し且つその溶融シリコンが凝固した後上方へ抜けないような凹部を複数に分割できる分割片で形成した組立て式のダミーブロックを用いたシリコン鋳造方法が開示されている。この方法によれば、シリコン鋳塊とダミーブロックが結合されるので、安定な引き抜きが可能であり、鋳造後に分割片およびダミー本体を抵抗なく鋳塊から分離でき、離型剤の剥がれも全くないとしている。
【0014】
この特許文献1に記載される、ダミーブロック本体の上面に、溶解したシリコン原料を流入させ凝固した後は上方へ抜けないような凹部を形成する組立て式のダミーブロックは、安定した引き抜きを可能とする上で極めて有効である。しかしながら、実際の操業時には、前述のように、窒化ケイ素の巻き込みが避けられず、結晶品質の悪化による歩留りの低下を余儀なくされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特許第2660477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたもので、モールド内のシリコン原料の初期溶解時に用いるダミーバーに起因して発生する異物の混入を防止して、歩留りを改善することができる多結晶シリコンの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記の課題の解決にあたり、先ず、電磁鋳造法によるシリコンインゴットの製造歩留りを低下させている要因の一つであるインゴットトップ部位で発生する異物の成分を調査した。その結果、異物の主成分は、N、C、Siであり、それらの混入源は炉体シャフトとインゴットを連結するカーボンダミーバー、およびカーボンダミーバーの上に塗布される離型剤(窒化ケイ素)であることが判明した。
【0018】
窒化ケイ素が結晶中に存在すると、その結晶から切り出されたウェーハに窒化ケイ素の異物が含まれることとなる。これら窒化ケイ素の異物は、C、Si系の異物と比較して、太陽電池を構成したときの光特性におけるリークの原因となりやすく、ウェーハ品質を劣化させることとなる。
【0019】
そこで本発明者らは、シリコン原料の初期溶解の際に、シリコン原料と窒化ケイ素の接触を無くすことを前提として、上記課題の解決策を検討した。窒化ケイ素の塗布がカーボンダミーバーとシリコンの融着を抑制するためであることを考えると、この前提は、窒化ケイ素が存在しない状態でカーボンダミーバーと溶融シリコンとの接触を回避してCの溶け出しを抑制することでもある。したがって、この前提を推し進めることにより、窒化ケイ素の異物およびC、Si系の異物の発生を抑制することができ、歩留りを改善できるとともに、インゴット中の炭素濃度の低減にも寄与できることになる。
【0020】
検討の結果、結晶品質が非常に悪く、また窒化ケイ素も付着しているため、再生できずに廃棄していたボトム部位をそのまま使用するという着想を得た。すなわち、従来廃棄していたボトム部位の適切な箇所でインゴットを切断し、ボトム部位のシリコンがダミーバーに結合した状態のまま再度ダミーバーとして使用するという考え方(方法)である。
【0021】
この方法によれば、従来廃棄していたインゴットのボトム部位をリサイクル材として利用することができ、原料コストの削減やシリコン廃材廃棄量の削減に寄与できる。また、後述する初期原料を準備するための切断作業などが省略できるため、後工程の工数削減にも寄与することができる。
【0022】
本発明はこのような検討ならびに着想に基づきなされたもので、下記の多結晶シリコンの製造方法を要旨とする。
【0023】
すなわち、誘導コイル内に、軸方向の一部が周方向で複数に分割された導電性の無底冷却モールドを設置し、当該無底モールド内でシリコン原料を電磁誘導により溶解し、溶融したシリコンを下方に引き下げ凝固させる多結晶シリコンの製造方法において、無底モールド内のシリコン原料を初期溶解する際に当該シリコン原料を支持するためのダミーバーとして、ダミーバー本体の上面にシリコンが結合されたダミーバーを使用することを特徴とする多結晶シリコンの製造方法である。
ここで、「初期溶解」とは、電磁鋳造法により多結晶シリコンを連続鋳造する場合に、最初にモールド内に供給された固体シリコン原料(初期原料)を、例えば、モールドの上方に取り付けられたプラズマトーチにより加熱して溶解する操作をいう。
【0024】
本発明の多結晶シリコンの製造方法において、前記ダミーバーとして、ダミーバー本体の上面に、溶解したシリコン原料が流入し且つそのシリコンが凝固した後上方へ抜けないようにシリコンインゴットとダミーバーが接触する部位の断面積を定常鋳造部位のシリコンインゴットの断面積より小さくした凹部を形成する凹部形成部材が取り付けられたダミーバーであって、初期溶解時に溶解したシリコン原料が当該凹部に流入し、鋳造中に前記凹部に流入したシリコンが凝固してダミーバーとシリコンインゴットが結合し、鋳造終了後に、インゴットと結合したダミーバーの当該結合部よりも上のインゴットの部分で切断することによりダミーバーからシリコンインゴットを分離し、当該シリコンインゴットを分離したダミーバーを使用する実施の形態(以下、「実施形態1」と記す)を採ることとすれば、従来のカーボンダミーバーを使用した場合における窒化ケイ素の異物の混入を抑制し、歩留りを向上させる等、種々の改善を図ることができる。
【0025】
ここで、「定常鋳造部位」とは、シリコンの鋳造が開始される部位(つまり、ダミーバー本体の上面)を指す。したがって、「定常鋳造部位のシリコンインゴットの断面積」とは、ダミーバー本体の上面に形成されるシリコンインゴットの当該上面における断面積(後述する図1中に符号SBを付して表示)をいう。一方、「シリコンインゴットとダミーバーが接触する部位」とは、前記ダミーバー本体の上面に形成されるシリコンインゴットと、ダミーバー本体の上面縁部に取り付けられた、ダミーバーの一部を構成する凹部形成部材とが接する高さ方向部位で、特にその部位における断面積が最小になる部位(図1中に符号Aを付した部位)をいう。したがって、「シリコンインゴットとダミーバーが接触する部位の断面積」とは、前記符号Aを付した部位における断面積(図1中に符号SAを付して表示)である。
【0026】
本発明の多結晶シリコンの製造方法(上記の実施形態1)において、前記シリコンインゴットを分離したダミーバーを使用するに際し、シリコンインゴットを分離した後のダミーバーのモールド壁に対向する面をグラインディング処理し、続いて、酸による洗浄および乾燥処理を施して得られたダミーバーを使用する実施の形態(以下、「実施形態2」と記す)を採用することとすれば、シリコンインゴットを分離したダミーバーを使用するに際しその表面を清浄に維持できるので望ましい。
なお、以下において、特に明示しない限り、「本発明の実施形態」といえば、前記の実施形態1および2を指すものとする。
【発明の効果】
【0027】
本発明の多結晶シリコンの製造方法(本発明の実施形態を含む)によれば、シリコン原料を初期溶解する際に、初期原料と窒化ケイ素、さらにはカーボンダミーバーとの接触を無くすことにより、インゴットトップ部での異物の発生を抑制してインゴットの製造歩留りを改善することができ、インゴット中のC濃度の低減にも寄与できる。
【0028】
本発明の実施形態に係る製造方法によれば、さらに、鋳造終了後にインゴットからカーボンダミーバーを取り外す必要がなく、取り外しに伴うダミーバーの破損を回避でき、カーボンダミーバーの寿命延長による製造コスト削減にも寄与できる。また、従来シリコン廃材として廃棄していたインゴットボトム部を、カーボンダミーバーを取り外さずそのまま一体としてダミーバーとして使用するので、原料コストの削減やシリコン廃材の廃棄量削減に寄与できる。加えて、ボトム部近傍のシリコンを後述するように切断(鋳肌切除)などの加工を施し初期原料としてリサイクルしていたが、この切断作業などが省略できるので工数削減にも寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態を適用するに際しての初期溶解時におけるダミーバーの配置状況を模式的に例示する縦断面図である。
【図2】本発明の実施形態で使用するダミーバーの加工手順を、従来の鋳造終了後におけるインゴットボトム部の加工手順と対比して示す図である。
【図3】本発明の実施形態を適用した場合の異物発生領域の縮小の様子を模式的に示す図である。
【図4】従来の初期溶解時におけるダミーバーの配置状況を模式的に例示する縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の多結晶シリコンの製造方法は、誘導コイル内に、軸方向の一部が周方向で複数に分割された導電性の無底冷却モールドを設置し、当該無底モールド内でシリコン原料を電磁誘導により溶解し、溶融したシリコンを下方に引き下げ凝固させる多結晶シリコンの製造方法を前提としている。
【0031】
このような電磁鋳造法を前提とするのは、太陽電池の基板材として用いられる多結晶シリコンを製造するに際し、モールド内で、溶融シリコンとモールドとをほとんど接触させずに鋳造を行い、モールドからの金属汚染がなく、太陽電池の基板材として好適な多結晶シリコンを製造することができるからである。モールドの材質として高純度材料を使用する必要がなく、また、連続して鋳造することができるので、製造コストの大幅な低減も可能である。
【0032】
本発明の多結晶シリコンの製造方法は、無底モールド内のシリコン原料を初期溶解する際に当該シリコン原料を支持するためのダミーバーとして、ダミーバー本体の上面にシリコンが結合されたダミーバーを使用することを特徴とする。
【0033】
ダミーバーとして、ダミーバー本体の上面にシリコンが結合されたダミーバーを使用するのは、前述のように、シリコン原料の初期溶解の際に、窒化ケイ素が存在しない状態でカーボンダミーバーと溶融シリコンとの接触を回避するためである。ダミーバーの上面にシリコンが存在していれば、シリコン原料と窒化ケイ素の接触は無論なく、ダミーバーと溶融シリコンが接触することもない。
【0034】
ダミーバー本体の上面へのシリコンの結合の仕方(結合の状態)について何ら限定はない。シリコンインゴット引き抜きの際に、ダミーバー本体とその上面に結合させたシリコンとが分離せず、安定した引き抜きができる程度の結合強さをもった状態であればよい。例えば、後述する本発明の実施形態で使用するカーボンダミーバーで採用している方法、すなわちダミーバー本体の上面に形成した凹部にシリコンを流入させ凝固させる方法等が好適である。
【0035】
ダミーバー本体の上面に結合されたシリコンとしては、様々な形成履歴のシリコンが適用可能である。ダミーバー本体の上面に結合させるために新たに作製されたシリコンは勿論のこと、例えば、後述する本発明の実施形態で使用するダミーバーのように、インゴットと結合したカーボンダミーバーの当該結合部よりも上のインゴットの部分で切断することによりダミーバー本体上面に存在させた(つまり、結合されている)シリコンであってもよい。
【0036】
ダミーバー本体の上面に結合されたシリコンの厚さや純度についても特に限定はない。シリコン原料の初期溶解に際し当該シリコン原料を支持するというダミーバーの本来の目的、ならびに、窒化ケイ素が存在しない状態でカーボンダミーバーと溶融シリコンとの接触を回避してCの溶け出しを抑制するというダミーバー本体の上面にシリコンを存在させる目的に即して適宜判断すればよい。なお、後述する本発明の実施形態では、シリコンの厚さは40mm程度となる。
【0037】
このダミーバーを使用して本発明の多結晶シリコンの製造方法を実施するには、電磁鋳造開始時に、当該ダミーバーをモールドの所定位置に配置し、モールド内に初期原料(固体シリコン原料)を供給する。続いて、例えばプラズマトーチによりモールド内の固体シリコン原料を加熱し、シリコン融液を形成させる。このとき、ダミーバーの上面に存在するシリコンも溶融し、前記原料シリコン融液と融合しつつ凝固が進行するので、ダミーバーとシリコンインゴットが結合し、ダミーバーを保持する支持台を下方へ移動させることにより、ダミーバーと一緒にシリコンインゴットを下方へ引き抜くことができる。
【0038】
なお、このダミーバーを使用するに際し、後述する本発明の実施形態2で採用しているグラインディング処理、酸洗浄処理等の処理を適宜行ってもよい。また、ダミーバーの材質は、従来と同様、黒鉛とするのがよい。
【0039】
本発明の実施形態1は、前記のとおり、鋳造終了後に、インゴットと結合したダミーバーの当該結合部よりも上のインゴットの部分で切断することによりダミーバーからシリコンインゴットを分離した状態のものをダミーバーとして使用する多結晶シリコンの製造方法である。すなわち、鋳造終了後に、再利用できずに廃棄していたボトム部位のシリコンが結合しているダミーバーを再利用する多結晶シリコンの製造方法である。
【0040】
また、本発明の実施形態2は、前記シリコンインゴットを分離したダミーバーを再利用するに際し、簡素な処理(グラインディング処理、ならびに酸による洗浄および乾燥処理)を施した後、ダミーバーとして使用する多結晶シリコンの製造方法である。以下に、図面を参照して説明する。
【0041】
図1は、本発明の実施形態を適用するに際しての初期溶解時におけるダミーバーの配置状況を模式的に例示する縦断面図である。図示するように、誘導コイル1内に設置された無底冷却モールド2の底部に相当する位置に支持台3が配置されている。この支持台3に保持されたダミーバー4は、ダミーバー本体4aの上面に凹部形成部材4bを介してインゴットボトム部位のシリコン5が結合されたダミーバーである。
【0042】
すなわち、このダミーバー4は、ダミーバー本体4aの上面に、溶解したシリコン原料が流入し且つそのシリコンが凝固した後上方へ抜けないように、シリコンインゴットとダミーバーが接触する部位(図1中に符号Aを付した部位)の断面積(符号SAを付して表示)を定常鋳造部位のシリコンインゴットの断面積(符号SBを付して表示)より小さくした凹部(符号Cを付した部分)を形成する凹部形成部材4bが取り付けられたダミーバーであって、初期溶解時に溶解したシリコン原料が当該凹部に流入し、鋳造中に前記凹部に流入したシリコンが凝固することによってダミーバーとシリコンインゴットが結合し、鋳造終了後に、インゴットと結合したダミーバーの当該結合部よりも上のインゴットの部分で切断することによりダミーバーからシリコンインゴットを分離して得られたダミーバーである。
【0043】
図2は、本発明の実施形態2で使用するダミーバーの加工手順を、従来の鋳造終了後におけるインゴットボトム部の加工手順と対比して示す図である。
【0044】
従来は、鋳造終了後、ダミーバー本体4aと凹部形成部材4bを取り外したインゴットを破線a1、a2およびa3で切断する(工程1:リサイクル部材のカット)。定常スクラップ6はインゴットのボトム部位で、結晶品質が悪く、窒化ケイ素が付着しているためシリコン廃材として廃棄される。リサイクル材7(2枚)は加工を施され(次に述べる工程2〜4)、初期原料としてリサイクルされる。定常スクラップ6およびリサイクル材7を除去することにより製品インゴット8が得られる。なお、定常スクラップ6およびリサイクル材7の厚さはいずれも40mmである。
【0045】
インゴットから切り出されたリサイクル材7(2枚)を、鋳肌を除去するため、破線を付した位置で切断する(工程2:鋳肌の切除)。その後、鋳肌が切除されたリサイクル材7を硝酸とフッ酸の混酸で洗浄し(工程3:洗浄)、続いて、洗浄後のリサイクル材7を乾燥する(工程4:乾燥)。乾燥後のリサイクル材7は初期原料としてリサイクルされる(前記図4参照)。
【0046】
これに対し、本発明の実施形態2では、前記のように、鋳造終了後、インゴットと結合したダミーバーの当該結合部よりも上のインゴットの部分で切断してダミーバーからシリコンインゴットを分離する。「結合部よりも上のインゴットの部分」で切断するのは、ダミーバー本体の上面にシリコンを存在させるためである。切断箇所は具体的な数値で規定していないが、実績等を勘案して適宜定めればよい。図2に例示した本発明の実施形態2で使用するダミーバーの加工手順では、ダミーバー本体4aと凹部形成部材4bを取り外さず、従来の初期原料として使用するリサイクル材を含まない定常スクラップの位置(従来例における破線a1の位置)付近で切断している(工程1)。この切断により、ダミーバー本体の上面にシリコン5が結合されたダミーバー4が得られる。
【0047】
なお、従来は、リサイクル材7をダミーバー4に塗布される窒化ケイ素(離型剤)の付着等の影響を多少は受けている部分であるとして製品インゴット8から切り離し、前記のように初期原料としてリサイクルしていたが、本発明の多結晶シリコンの製造方法(実施形態を含む)では窒化ケイ素を使用しないので切り離す必要がなく、リサイクル材の鋳肌切除作業などを省略できる。
【0048】
次に、工程1で得られた、ダミーバー本体4aの上面にインゴットボトム部位のシリコン5が結合しているダミーバー4のモールド壁に対向する面(図中に符号Sを付した破線を沿わせた面、すなわち、シリコン5の側面および凹部形成部材4bの側面)をグラインディング処理する(工程2:鋳肌の切除)。電磁鋳造法では溶融シリコンとモールドとをほとんど接触させずに鋳造を行うことができるが、初期溶解時には接触することもあるので、その影響を除くためである。
【0049】
続いて、酸により洗浄し(工程3:洗浄)、乾燥処理を施す(工程4:乾燥)。洗浄はシリコン5および凹部形成部材4bの表面を清浄にするためで、硝酸とフッ酸の混酸10を用いればよい。乾燥は、洗浄に付随する処理であり、ダミーバー本体4a、凹部形成部材4bおよびシリコン5からなるダミーバーの表面を清浄に維持できる乾燥機を使用して十分に乾燥させる。
【0050】
以上説明した本発明の実施形態、さらには本発明の多結晶シリコンの製造方法で使用したダミーバーは、インゴットと結合したカーボンダミーバーの当該結合部よりも上のインゴットの部分で切断することにより、ダミーバー本体の上面にシリコンが結合されたダミーバーとして、この後の新たなシリコンインゴットの鋳造に再利用することができる。
【0051】
本発明の特に実施形態に係る多結晶シリコンの製造方法の特徴は、シリコン原料を初期溶解する際のダミーバーとして、インゴットボトム部を、カーボンダミーバーを取り外さずそのまま使用することにある。これにより、初期溶解時における初期原料と窒化ケイ素の接触を無くしてインゴットトップ部での異物発生の抑制による歩留りの改善、カーボンダミーバーの取り外しに伴うダミーバーの破損の回避とそれによる製造コストの削減、従来廃棄していたインゴットのボトム部位の再利用など、多くの点での改善が可能になる。
【実施例】
【0052】
前記図2に示した手順で加工を施して得られた、ダミーバー本体の上面にインゴットボトム部位のシリコンが結合されたダミーバーを使用する本発明の実施形態2に係る多結晶シリコンの製造方法(以下、ここでは「本発明の製造方法」という)を、断面が345mm×505mm、長さ7mのシリコンインゴットの製造に適用した。
【0053】
初期溶解時におけるダミーバーの配置状況は前記図1に示したとおりで、初期溶解条件はプラズマを用いる従来の製造方法と同条件とした。その結果、初期溶解工程を問題なく進めることができ、前記所定寸法のインゴットを製造できることが確認できた。
【0054】
インゴットトップ部に発生する異物発生領域は、トップ部肩位置から300mm以下で、従来のダミーバーを用いた場合の500〜600mmと比較すると、大幅に改善された。これにより、インゴット製造歩留りの大幅な改善が期待できる。
【0055】
図3は、本発明の製造方法を適用した場合の異物発生領域の縮小の様子を模式的に示す図である。凝固の進行に伴い溶融シリコンに異物が濃縮されるので、凝固終了後、その異物がインゴット8のトップ部近傍に濃縮されて異物発生領域となる。従来の製造方法を使用した場合は、異物濃縮領域11aがトップ部肩位置から下方へ深く入り込むが、本発明の製造方法を適用した場合は、異物濃縮領域11bの下方への入り込みが浅くなり(図中に白抜き矢印で表示)、異物発生領域が縮小される。
【0056】
また、異物を分析した結果、C、Siのみであった。すなわち、発生する異物はCの析出物のみで、窒化ケイ素の混入は見られなくなった。なお、異物の分析は、EDX分析(X線分光法)を用いて行った。
【0057】
表1に、本発明の製造方法を適用した場合の効果を従来の製造方法による場合と比較して示す。
【0058】
【表1】

【0059】
表1に示すように、本発明の製造方法を適用した場合の異物発生領域の縮小によるインゴット製造歩留りの改善幅は4%以上であった。さらに、発生する異物の種類がC、Si系異物のみであったので、ウェーハ品質を大幅に改善することができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の多結晶シリコンの製造方法(本発明の実施形態を含む)によれば、インゴットトップ部での異物の発生を抑制し、歩留りを改善することができ、さらに、原料コストの削減やシリコン廃材の廃棄量削減等にも寄与できる。したがって、本発明は、太陽電池の製造分野において有効に利用することができ、自然エネルギー利用技術の進展に大きく寄与することができる。
【符号の説明】
【0061】
1:誘導コイル、 2:モールド、 3:支持台、
4:ダミーバー、 4a:ダミーバー本体、 4b:凹部形成部材、
5:シリコン、 6:定常スクラップ、 7:リサイクル材、
8:インゴット、 9:初期原料(固体シリコン原料)、 10:混酸
11a:従来の製造方法を適用した場合の異物濃縮領域、
11b:本発明の製造方法を適用した場合の異物濃縮領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導コイル内に、軸方向の一部が周方向で複数に分割された導電性の無底冷却モールドを設置し、当該無底モールド内でシリコン原料を電磁誘導により溶解し、溶融したシリコンを下方に引き下げ凝固させる多結晶シリコンの製造方法において、
無底モールド内のシリコン原料を初期溶解する際に当該シリコン原料を支持するためのダミーバーとして、ダミーバー本体の上面にシリコンが結合されたダミーバーを使用することを特徴とする多結晶シリコンの製造方法。
【請求項2】
前記ダミーバーとして、
ダミーバー本体の上面に、溶解したシリコン原料が流入し且つそのシリコンが凝固した後上方へ抜けないようにシリコンインゴットとダミーバーが接触する部位の断面積を定常鋳造部位のシリコンインゴットの断面積より小さくした凹部を形成する凹部形成部材が取り付けられたダミーバーであって、
初期溶解時に溶解したシリコン原料が当該凹部に流入し、鋳造中に前記凹部に流入したシリコンが凝固してダミーバーとシリコンインゴットが結合し、鋳造終了後に、インゴットと結合したダミーバーの当該結合部よりも上のインゴットの部分で切断することによりダミーバーからシリコンインゴットを分離し、
当該シリコンインゴットを分離したダミーバーを使用することを特徴とする請求項1に記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項3】
前記シリコンインゴットを分離したダミーバーを使用するに際し、
シリコンインゴットを分離した後のダミーバーのモールド壁に対向する面をグラインディング処理し、
続いて、酸による洗浄および乾燥処理を施して得られたダミーバーを使用することを特徴とする請求項2に記載の多結晶シリコンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−87023(P2012−87023A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236215(P2010−236215)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】