説明

多結晶シリコンの連続鋳造方法

【課題】モールド内に投入した原料の落下に伴う溶融シリコンの跳ね上げによるプラズマトーチの先端へのシリコンの付着を抑制し、サイドアークの発生を防止することができる多結晶シリコンの連続鋳造方法を提供する。
【解決手段】電磁誘導加熱とプラズマアーク加熱を併用する連続鋳造方法であって、プラズマトーチを、原料3の投入方向に対して垂直の方向に走査させるか、または、モールド2の断面における2本の対角線により形成される4つの角のうちの角度がθの2つの角に含まれるいずれか一の方向もしくは二以上の方向に走査させるとともに、原料のモールド内への投入を、当該投入側のモールド側壁に対して直角の方向で、かつ、投入する原料がモールドの中心にあるプラズマトーチに衝突する(原料の落下点がモールドの中心から外れる)ように、投入角度および高さを調整して行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁誘導による連続鋳造技術を適用して多結晶シリコンインゴットを製造する多結晶シリコンの連続鋳造方法に関し、特に、電磁誘導加熱と共にプラズマアーク加熱を併用する多結晶シリコンの連続鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周方向に分割された無底の冷却モールドが取り付けられた電磁誘導による連続鋳造装置(以下、「電磁鋳造装置」という)を使用すれば、溶解された物質(ここでは、溶融シリコン)とモールドとはほとんど接触しないので、不純物汚染のない鋳塊(シリコンインゴット)を製造することができる。モールドからの汚染がないので、モールドの材質として高純度材料を使用する必要がないという利点もあり、また、連続して鋳造することができるので、製造コストの大幅な低下が可能である。したがって、電磁鋳造装置は、従来から太陽電池の基板材として用いられる多結晶シリコンの製造に適用されてきた。
【0003】
さらに、近年、モールド内に投入されるシリコン原料の溶解に、溶解補助加熱源としてプラズマアーク加熱を併用した溶解方法が実施されている。
【0004】
図7は、多結晶シリコンの製造に使用される電磁鋳造装置の構成例を模式的に示す図である。同図に示すように、加熱用誘導コイル6の内側に、内部を水冷できる縦方向に長い銅製の板状片が、誘導コイル6の巻き軸方向と平行に、かつ誘導コイル6内では相互に絶縁された状態で配列されており、この板状片によって囲まれた空間がモールド(すなわち、側壁部が水冷されている無底の冷却モールド)2を構成する。冷却モールド2には、通常、板状片を銅片とした水冷銅モールド2が用いられる。
【0005】
加熱用誘導コイル6の下側には、凝固したシリコン7を加熱して、急激な冷却を防ぐための保温ヒーター8が設置されている。また、冷却モールド2の上方には、溶解中にシリコン原料3をモールド2内に投入するための原料供給ノズル1が設置され、さらに、昇降可能に構成されたプラズマトーチ4が取り付けられている。
【0006】
上記の電磁鋳造装置を使用して多結晶シリコンインゴットを製造するには、冷却モールド2の底部に相当する位置に支持台(図示せず)が配置された状態でモールド2内にシリコン原料を装入する。続いて、プラズマトーチ4を降下させ、シリコン原料との間にプラズマアークを発生させて原料を溶解する。原料を追加投入すると同時に、誘導コイル6に交流電流を通じると、モールド2を構成する短冊状の各素片は互いに電気的に分割されていることから、各素片内で電流がループを作り、これによりモールド2の内壁側に電流が生じ、モールド2内に磁界が形成され、電磁誘導加熱とプラズマアーク加熱の併用によりシリコン原料が溶解される。モールド2内のシリコン原料は、モールド内壁の電流がつくる磁界と溶融シリコン5表面の電流の相互作用によって溶融シリコン5表面の内側法線方向の力を受け、モールド2と非接触の状態で溶解される。
【0007】
溶融シリコン5が十分均一化した後、図示しない支持台を少しずつ下方に移動させていくと、誘導コイル6から離れた部分から溶融シリコンの冷却が始まり、モールド断面と同じ形状の断面を有するシリコンインゴットが形成される。支持台の下方への移動分に対応する量のシリコン原料を原料供給ノズル1から供給し、溶融シリコン5の上面が常に同じ高さレベルを保つようにして、加熱溶解、引き抜き、原料供給を継続していくことにより、多結晶シリコンインゴットを連続して製造することができる。
【0008】
ところで、プラズマアーク加熱を長時間行った場合、モールド内に投入した原料の落下に伴う溶融シリコンの跳ね上げにより、プラズマトーチの先端にシリコンが付着する。この付着シリコンは時間の経過と共に肥大化し、モールド側壁との距離が縮まるために、状況によってはアークがモールド側壁へ飛び(サイドアークの発生)、モールドの損傷、穴あきによる水漏れトラブルが発生するという問題がある。
【0009】
図5は、サイドアークが発生する状況を模式的に示す図である。同図に示すように、通常は、プラズマトーチ4(外殻9は内部を循環する冷却水により冷却されている)内に配設されたプラズマ電極10と溶融シリコン5との間にプラズマアーク11が発生し、電極10とプラズマトーチ4の外殻9の間に送通されたプラズマ媒体(Arガス)12が電離して旋回流を形成しつつ陰極面(溶融シリコン5表面)に衝突する。
【0010】
しかし、プラズマトーチ4の先端にシリコン13が付着し、肥大化すると、モールド2側壁との距離が縮まり、プラズマトーチ4の先端とモールド2側壁の間の抵抗R′がプラズマトーチ4の先端と溶融シリコン5の間の抵抗Rより小さくなり、サイドアークが発生してモールド2側壁に損傷を与えることとなる。同図に示した電極10からモールド2側壁を通過して溶融シリコン5表面に達する破線の矢印は、サイドアークが発生したときの電流の経路を表している。
【0011】
プラズマアーク加熱を併用する場合、従来は、モールド内のシリコン原料の溶解を促進するため、プラズマトーチをモールド側壁近傍の溶融シリコン表面上方で走査させていた。例えばモールド断面が矩形の場合であれば、矩形パターンの走査を実施していた(後述する図3(a)参照)。そのため、次の図6に示すように、モールド内への原料の投入に伴う溶融シリコンの跳ね上げにより、プラズマトーチの先端にシリコンが付着する場合があった。
【0012】
図6は、従来のモールド内への原料の投入に伴う溶融シリコンの跳ね上げによるプラズマトーチ先端におけるシリコンの付着を説明する図である。プラズマトーチ4を例えば矩形パターンで走査させるので、同図(a)、(b)に示すように、プラズマトーチ4はモールド2側壁の近傍(側壁寄りの領域)を移動する。一方、原料供給ノズル1から投入されたシリコン原料3は溶融シリコン5表面に落下して溶融シリコン5を跳ね上げる。この跳ね上げ(スプラッシュ)が飛びやすい方向を同図中に黒塗り矢印で示している。
【0013】
図6において、プラズマトーチ4と原料の落下軌道線(同図中に細い実線で表示)の位置関係が(a)に示した状況になった場合、原料供給ノズル1からモールド2内へ投入されたシリコン原料3は直接溶融シリコン5表面に落下し、それによるスプラッシュが黒塗り矢印の方向に飛んでプラズマトーチ4の先端にシリコンを付着させる。一方、原料の落下軌道線がプラズマトーチ4により遮られ、原料の落下状態が(b)に示した状況になった場合は、モールド2内へ投入されたシリコン原料3は、プラズマトーチ4の側面と衝突し、さらにモールド2の側壁に衝突した後、溶融シリコン5表面に落下するので、同じくプラズマトーチ4の先端にシリコンを付着させる。
【0014】
さらに、プラズマトーチを前記のようにモールド側壁の近傍で走査させるので、操業条件そのものもサイドアークが発生しやすいものであった。
【0015】
このような問題に関連して、例えば、特許文献1には、プラズマアーク加熱を併用するシリコン連続鋳造方法において、無底ルツボ内のシリコン融液上でプラズマトーチは、ルツボ内面からトーチ中心位置までの離間距離がルツボ直径の30%以下である外周を、ルツボ内面に沿って走査する方法が記載されている。この連続鋳造方法によれば、無底ルツボ内の固液界面の下方への凹形状が大幅に緩和され、太陽電池としての品質に重大な影響を及ぼす凝固直後の鋳塊半径方向における温度勾配が低減され、高品質なシリコン鋳塊を能率よく低コストで製造することができるとしている。
【0016】
この連続鋳造方法では、ルツボ内面に沿った外周部が主に走査されるので、ルツボ内面との間のサイドアークによるルツボ内面の損傷やシリコンの溶解不能が問題になるが、無底ルツボを電気的に絶縁するとともに、ルツボ内面の上方部分を石英板等の遮蔽板で絶縁し、原料の初期溶解時には、プラズマトーチの先端部をシリコンからなる筒状の遮蔽板で包囲して絶縁性を強化することにより防止できるとしている。しかし、シリコン原料をルツボ内へ投入する際の原料落下時における溶融シリコンの跳ね上がりに起因して生じるサイドアークの防止については何ら言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特許第3646570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたもので、電磁誘導加熱とプラズマアークによるプラズマ加熱を併用してシリコン原料を溶融し、太陽電池の基板材として好適な多結晶シリコンを連続的に鋳造するに際し、モールド内に投入した原料の落下に伴う溶融シリコンの跳ね上げによるプラズマトーチの先端へのシリコンの付着を抑制し、サイドアークの発生を防止することができる多結晶シリコンの連続鋳造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記図6に示したように、原料の落下に伴う溶融シリコンの跳ね上げによるプラズマトーチの先端へのシリコンの付着は、溶融シリコンの上を走査するプラズマトーチの位置と、シリコン原料のモールド内への投入高さおよび角度で決まる溶融シリコンの跳ね上げ(スプラッシュ)の方向により大きく左右される。そこで、本発明者らは、前記図6に示したような状況の出現を回避することができる、プラズマトーチの走査パターンならびにシリコン原料の投入高さおよび角度について検討した。
【0020】
その結果、下記(1)または(2)の条件と、(3)の条件が共に満たされるように、プラズマトーチの走査パターンを定め、シリコン原料の投入高さおよび角度を設定することにより、溶融シリコンの跳ね上げによるプラズマトーチ先端へのシリコンの付着を抑制できることが判明した。
(1)プラズマトーチの走査パターンとして、モールドの中心を基点として、シリコン原料の投入方向に対し垂直の方向へ往復させる走査パターンを採用する。
(2)プラズマトーチの走査パターンとして、前記(1)の条件の代わりに、モールドの中心を基点として、シリコン原料の投入方向と平行となるモールド側壁へ向かう一の方向(但し、前記(1)に記載の原料の投入方向に対し垂直の方向を除く)、または二以上の方向へ交互に往復させる走査パターンを採用する。
(3)シリコン原料の投入方向を投入側モールド側壁に対して直角方向とし、投入角度(俯角)および高さを、プラズマトーチがモールドの中心を通過する場合には、投入する原料の少なくとも一部がプラズマトーチに衝突するように設定する。すなわち、投入する原料の落下点がモールドの中心から外れるように設定する。
【0021】
本発明はこのような知見に基づいてなされたもので、下記の多結晶シリコンの連続鋳造方法を要旨とする。
すなわち、シリコン原料を無底の冷却モールドに投入し、電磁誘導加熱とプラズマアークによるプラズマ加熱を併用して溶融し、当該溶融したシリコンを下方に引き下げ凝固させることにより多結晶シリコンを連続的に鋳造する多結晶シリコンの連続鋳造方法であって、方形の無底モールド内の溶融シリコン上で、プラズマトーチを、モールドの中心を基点として、原料の投入方向に対して垂直の方向に走査させるか、または、モールド断面の2本の対角線により形成される4つの角のうち原料の投入方向に対して垂直で、かつモールドの中心を通る方向を含む2つの角に含まれるいずれか一の方向(但し、前記垂直の方向を除く)もしくは二以上の方向に走査させるとともに、シリコン原料のモールド内への投入を、当該投入側のモールド側壁に対して直角の方向で、かつ、プラズマトーチがシリコン原料の落下軌道線上にある場合には、投入する原料の少なくとも一部がプラズマトーチに衝突し、落下軌道線上から外れている場合には、投入する原料の落下点がモールドの中心から外れるように、投入角度および高さを調整して行うことを特徴とする多結晶シリコンの連続鋳造方法である。
【0022】
ここで、「方形の無底モールド」とは、断面形状が正方形または長方形(矩形)の無底モールドをいい、「モールドの中心」とは、モールド内の、プラズマトーチの走査面を含む断面における両対角線の交点をいう。「原料投入側のモールド側壁」とは、モールドを構成する4面の側壁のうちの1面の側壁であって、その上方にシリコン原料を投入するための原料供給ノズルが配設されているモールド側壁をいう。また、「シリコン原料の落下軌道線」とは、シリコン原料をモールド内に投入したときに描く落下軌跡を指す。
【0023】
本発明の多結晶シリコンの連続鋳造方法において、前記プラズマトーチの走査を、プラズマトーチの釣支部を固定点とする振り子運動またはプラズマトーチの水平方向での移動により行わせることとする実施形態を採用することができる。
【0024】
本発明の多結晶シリコンの連続鋳造方法において、前記連続的に鋳造する多結晶シリコンが長尺のインゴットの場合、本発明の連続鋳造方法は特に効果的である。
【発明の効果】
【0025】
本発明の多結晶シリコンの連続鋳造方法によれば、電磁誘導加熱とプラズマアークによるプラズマ加熱を併用してシリコン原料を溶融し、太陽電池の基板材として好適な多結晶シリコンを連続的に鋳造するに際し、モールド内に投入した原料の落下に伴う溶融シリコンの跳ね上げによるプラズマトーチ先端へのシリコンの付着を抑制し、サイドアークの発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の多結晶シリコンの連続鋳造方法で採用されるプラズマトーチの溶融シリコン上での走査パターンの説明図で、(a)はモールドの断面形状が正方形の場合、(b)は矩形の場合である。
【図2】本発明の多結晶シリコンの連続鋳造方法で採用されるプラズマトーチの溶融シリコン上での走査パターンの他の説明図で、(a)はプラズマトーチが原料の落下軌道線上に位置する場合、(b)は原料の落下軌道線から外れている場合である。
【図3】実施例で採用したプラズマトーチの走査パターンの説明図で、(a)は従来の走査パターン(パターン1)、(b)および(c)は本発明の走査パターンで、(b)は走査方向が1方向の場合、(c)は走査方向が2方向の場合である。
【図4】実施例で採用した原料の落下軌道の説明図で、(a)は従来の落下軌道(パターンA)を、(b)は本発明の規定を満たす落下軌道(パターンB)を示す。
【図5】サイドアークが発生する状況を模式的に示す図である。
【図6】従来のモールド内への原料の投入に伴う溶融シリコンの跳ね上げによるプラズマトーチ先端におけるシリコンの付着を説明する図である。
【図7】多結晶シリコンの製造に使用される電磁鋳造装置の構成例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の多結晶シリコンの連続鋳造方法は、シリコン原料を無底の冷却モールドに投入し、電磁誘導加熱とプラズマアークによるプラズマ加熱を併用して溶融し、当該溶融したシリコンを下方に引き下げ凝固させることにより多結晶シリコンを連続的に鋳造することを前提としている。
【0028】
電磁誘導技術の適用を前提とするのは、太陽電池の基板材として用いられる多結晶シリコンを製造するに際し、モールド内で、溶融シリコンとモールドとをほとんど接触させずに鋳造を行い、モールドからの金属汚染がなく、変換効率を良好に維持できる多結晶シリコンを連続して鋳造することができるからである。さらに、プラズマアーク加熱を併用するのは、シリコン原料の迅速かつ均一な溶解を促進して製造コストのより一層の低下を図ると共に、太陽電池としての品質の向上にも寄与することができるからである。
【0029】
本発明の多結晶シリコンの連続鋳造方法においては、方形の無底モールド内の溶融シリコン上でプラズマトーチを走査させるが、その走査方向は、モールドの中心を基点として、原料の投入方向に対して垂直の方向、または、モールド断面の2本の対角線により形成される4つの角のうち原料の投入方向に対して垂直の方向を含む2つの角に含まれるいずれか一の方向(但し、前記垂直の方向を除く)もしくは二以上の方向とする。
【0030】
図1は、本発明の多結晶シリコンの連続鋳造方法で採用されるプラズマトーチの溶融シリコン上での走査パターンの説明図で、(a)はモールドの断面形状が正方形の場合、(b)は矩形の場合である。図1(a)または(b)において、原料供給ノズル1は、原料投入側のモールド2側壁に対してシリコン原料3が直角方向に投入されるように配設されている。なお、後述するように、プラズマトーチがシリコン原料の落下軌道線上にある場合には、投入する原料がプラズマトーチに衝突することと規定しており、プラズマトーチの走査方向の如何にかかわらずこの条件が満たされるためには、図1に示されるように、原料供給ノズル1は、原料投入側のモールド2側壁の水平方向長さの中間位置の上方に、シリコン原料3が直角方向に投入されるように取り付けられることとなる。
【0031】
図1(a)または(b)に示した両端に矢印を付した線分は、それぞれ溶融シリコン上でのプラズマトーチの走査パターンを例示している。これらの走査パターンのうち、符号Rを付した走査パターンは、プラズマトーチを、モールドの中心を基点として、原料の投入方向に対して垂直の方向に走査させる走査パターンである。
【0032】
図1(a)または(b)において、符号Rを付した走査パターンを除いた走査パターンが、モールドの中心を基点として、モールド断面の2本の対角線により形成される4つの角のうち原料の投入方向に対して垂直の方向を含む2つの角(角度θを付した2つの角)に含まれるいずれか一の方向に走査させる走査パターンである。符号aまたは符号dを付した走査パターンは、それぞれ対角線の方向に走査させる走査パターンであるが、これらの走査パターンも含まれる。符号Rを付した走査パターンを除いたのは、前記原料の投入方向に対して垂直の方向に走査させるパターンと同じ走査パターンだからである。
【0033】
走査パターンは、モールドの中心を基点として、モールド断面の2本の対角線により形成される4つの角のうち原料の投入方向に対して垂直の方向を含む2つの角(角度θを付した2つの角)に含まれるいずれか二以上の方向に走査させる走査パターンとしてもよい。
【0034】
この走査パターンは、言い換えれば、モールドの中心を基点として、シリコン原料の投入方向と平行となるモールド側壁(図1に示した例では、側壁Wa、Wbが該当する)へ向かう二以上の方向へ往復させる走査パターンである。この走査パターンの例としては、実施例で採用したパターン3(後述する図3(c)参照)があげられる。すなわち、図1(a)、(b)を参照して説明すると、符号aを付した走査パターン(モールドの中心から側壁Waへ向かい、モールドの中心へ戻った後、側壁Wbへ向かい、再度モールドの中心へ戻るパターン(図3(c)の(i)のパターン))で走査した後、符号dを付した走査パターン(モールドの中心から側壁Waへ向かい、モールドの中心へ戻った後、側壁Wbへ向かい、再度モールドの中心へ戻るパターン(図3(c)の(ii)のパターン))で走査することを繰り返す走査パターンである。
【0035】
それぞれの走査パターンにおける走査の範囲(つまり、モールドの中心(基点)からモールド側壁へ向けての走査範囲)は特に限定しない。サイドアーク発生の危険性のある範囲をあらかじめ把握しておき、その範囲が含まれない安全な範囲内で、モールドの中心を基点として走査すればよい。
【0036】
プラズマトーチの走査パターンを上記のように規定するのは、次に述べるシリコン原料のモールド内への投入に関する規定を共に満たすことにより、モールド内に投入した原料の落下に伴う溶融シリコンの跳ね上げによるプラズマトーチの先端へのシリコンの付着を抑制し、サイドアークの発生の危険性をなくすためである。
【0037】
本発明の多結晶シリコンの連続鋳造方法においては、シリコン原料のモールド内への投入を、当該投入側のモールド側壁に対して直角の方向で、かつ、プラズマトーチがシリコン原料の落下軌道線上にある場合には、投入する原料の少なくとも一部がプラズマトーチに衝突し、落下軌道線上から外れている場合には、投入する原料の落下点がモールドの中心から外れるように、投入角度および高さを調整して行うこととする。
【0038】
図2は、本発明の多結晶シリコンの連続鋳造方法で採用されるプラズマトーチの溶融シリコン上での走査パターンの他の説明図で、(a)はプラズマトーチが原料の落下軌道線上に位置する場合、(b)は原料の落下軌道線から外れている場合である。
【0039】
図2(a)は、プラズマトーチ4を前述の走査パターンで溶融シリコン5上を走査させたとき、プラズマトーチ4が誘導コイル6の内側に配置されたモールド2の中心を通過する瞬間を示している。つまり、プラズマトーチ4が細い実線で示した原料の落下軌道線上に位置する場合であって、投入したシリコン原料3の少なくとも一部はプラズマトーチ4に衝突し、モールド2の側壁方向に向かって落下する。そのため、溶融シリコンの跳ね上げ(スプラッシュ)は主としてモールド2の側壁方向に向かうが(図中に黒塗り矢印で表示)、その方向にプラズマトーチ4は存在していないので、シリコンのプラズマトーチ4先端への付着は生じにくく、サイドアーク発生が回避される。
【0040】
一方、図2(b)は、プラズマトーチ4が原料の落下軌道線(細い実線)から外れている場合(すなわち、プラズマトーチ4がモールドの中心から離れた部分を走査している場合)で、モールド2内へ投入されたシリコン原料3はモールド中心の上方を通過して直接溶融シリコン5表面に落下する。シリコン原料3がモールド2の側壁方向に向かって落下するので、それによるスプラッシュは主にモールド2の側壁方向に向かうことになる(黒塗り矢印で表示)。この場合も、飛散方向にプラズマトーチ4は存在していないので、プラズマトーチ4先端へのシリコンの付着は起こりにくい。
【0041】
例えば、図2(a)を前記の図1(a)と対比すると、図2(a)は、図1(a)の符号Mcを付したモールドの中心にプラズマトーチが存在し、プラズマトーチがシリコン原料の落下軌道線上にある場合に相当する。プラズマトーチの走査パターンが前記の規定範囲内(すなわち、図1(a)に示した角度θの角内)にある限り、プラズマトーチ4に衝突したシリコン原料3はプラズマトーチ4の存在しない領域に落下し、しかも溶融シリコンの跳ね上げは主としてモールド2の側壁方向に向かうので、プラズマトーチ4先端へのシリコンの付着はほぼ完全に抑制される。
【0042】
一方、図2(b)は、プラズマトーチ4がモールドの中心から外れている場合であるが、これを前記図1(a)と対比すると、モールド2内へ投入されたシリコン原料3は符号Mcを付したモールドの中心の上方を通過するので、シリコン原料3の落下位置は、プラズマトーチ4の走査パターンの規定範囲外(すなわち、図1(a)に示される角度θの角外)にあり、しかも溶融シリコンの跳ね上げは主としてモールド2の側壁方向に向かうので、プラズマトーチ4先端へのシリコンの付着は極めて起こりにくい。
【0043】
プラズマトーチの走査パターンの上限(ここでは、走査パターンの拡がりの限度をいう)を、モールド断面の2本の対角線としたのは、図1および図2から明らかなように、この上限を越える領域まで拡げると、溶融シリコンの跳ね上げが主にモールド2の側壁方向に向かっているとしても、プラズマトーチ4先端へのシリコンの付着が生じる確率が格段に大きくなるかである。
【0044】
また、シリコン原料のモールド内への投入を、当該投入側のモールド側壁に対して直角の方向とするのは、この方向(直角方向)から外れる場合は、プラズマトーチの走査を前記規定範囲内で行ってもプラズマトーチ4先端へのシリコンの付着が生じる場合が出てくるからである。
【0045】
前記のように、投入する原料の少なくとも一部がプラズマトーチに衝突し、または、投入する原料の落下点がモールドの中心から外れるように行うのは、プラズマトーチがモールドの中心を通過する際に、その先端への溶融シリコンの跳ね上げによるシリコンの付着を回避するためである。図1および図2から類推されるように、例えば、投入する原料をプラズマトーチに衝突させず、モールドの中心付近(例えば、符号Mcを付したモールドの中心の手前)に落下させた場合、プラズマトーチの走査を前記規定範囲内で行っても、溶融シリコンの跳ね上げによるシリコンの付着の確率は著しく増大する。
【0046】
プラズマトーチを走査させる際のトーチ速度は特に限定しない。走査速度が速すぎると原料の溶解が十分に行われず、走査速度が遅すぎると、走査が行われない領域で未溶解の原料が一時的にせよ残存する場合があるので、原料の投入量、モールド内での分散状況等を勘案して、実績を踏まえて適宜調整すればよい。例えば、投入原料がプラズマトーチに接触する時間(すなわち、前記図2(a)の状態にある時間)と前記接触が回避される時間(前記図2(b)の状態にある時間)が同等となるように、速度を変えて走査させることが望ましい。原料の均一分散に有効だからである。
【0047】
本発明の多結晶シリコンの連続鋳造方法において、前記プラズマトーチの走査を、プラズマトーチの釣支部を固定点とする振り子運動またはプラズマトーチの水平方向での移動により行わせることとする実施形態を採用することができる。本発明の鋳造方法では、モールドの中心を基点として直線上を往復移動させるので、振り子運動を利用する走査によってもプラズマトーチの先端への溶融シリコンの跳ね上げによるシリコンの付着防止という目的は十分達成可能である。
【0048】
本発明の多結晶シリコンの連続鋳造方法において、前記連続的に鋳造する多結晶シリコンが長尺のインゴットの場合、本発明の連続鋳造方法は特に効果的である。プラズマトーチ先端へのシリコンの付着は、長尺のインゴットを製造する場合のように、操業が長時間に及ぶことによって顕在化しやすいからである。
【実施例】
【0049】
本発明の連続鋳造方法を適用して、断面の寸法が345mm×345mm、および345mm×505mmの多結晶シリコンのインゴットを鋳造し、本発明の効果を確認した。プラズマの照射時間は連続50時間とした。
【0050】
図3は、本実施例で採用したプラズマトーチの走査パターンの説明図で、(a)は従来の走査パターン(パターン1)、(b)および(c)は本発明の規定を満たす走査パターンで、(b)は走査方向が1方向の場合(パターン2)、(c)は走査方向が2方向の場合(パターン3)である。パターン3では、まず(i)のパターンで、モールド2の中心から両対角方向へ一往復ずつの走査を行った後、(ii)のパターンで同じく一往復ずつの走査を行い、この一連の走査を繰り返す。
【0051】
図4は、原料供給ノズルの角度(俯角)を調整することにより定まる原料の落下軌道の説明図で、(a)は従来の落下軌道(パターンA)を、(b)は本発明の規定を満たす落下軌道(パターンB)を示す。パターンAでは、モールド2内へ投入する原料3をプラズマトーチ4に衝突させず、モールドの中心付近に落下させた。
【0052】
本発明の効果の評価は、プラズマトーチ先端へのシリコンの付着状況およびサイドアーク発生状況を肉眼観察で調査することにより行った。評価基準は下記のとおりである。
〔シリコンの付着状況〕
付着小:シリコンの付着量が少なく、サイドアークの発生が認められなかった。
付着大:シリコンの付着量が多く、サイドアークの発生が認められた。
シリコンの付着状況については、「付着小」であれば良好とした。
〔サイドアーク発生状況〕
無し:サイドアークの発生が認められなかった。
有り:サイドアークの発生が認められた(少量の疵発生、または疵が多発)。
サイドアーク発生状況については、「無し」の場合、良好とした。
【0053】
調査結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
表1に示したように、プラズマトーチの走査パターンを本発明の規定を満たすパターン2、またはパターン3とし、かつ、原料供給ノズルの角度(俯角)を調整して原料の落下軌道を本発明の規定を満たすパターンBとしたとき、プラズマトーチ先端へのシリコンの付着量を少なくし、サイドアークの発生を抑えることができた(本発明例1〜4)。
【0056】
プラズマトーチの走査パターンを本発明の規定を満たすパターン2、またはパターン3としても、原料の落下軌道を本発明の規定から外れるパターンAとしたときは(比較例3、4、比較例7、8)、シリコンの付着量が多く、サイドアークの発生が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の多結晶シリコンの連続鋳造方法によれば、モールド内に投入した原料の落下に伴う溶融シリコンの跳ね上げによるプラズマトーチの先端へのシリコンの付着を抑制し、サイドアークの発生を防止することができる。したがって、本発明は、太陽電池の製造分野において有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1:原料供給ノズル、 2:モールド、 3:シリコン原料、
4:プラズマトーチ、 5:溶融シリコン、 6:誘導コイル、
7:凝固したシリコン、 8:保温ヒーター、 9:外殻、
10:電極、 11:プラズマアーク、
12:プラズマ媒体(Arガス)、 13:シリコン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン原料を無底の冷却モールドに投入し、電磁誘導加熱とプラズマアークによるプラズマ加熱を併用して溶融し、当該溶融したシリコンを下方に引き下げ凝固させることにより多結晶シリコンを連続的に鋳造する多結晶シリコンの連続鋳造方法であって、
方形の無底モールド内の溶融シリコン上で、プラズマトーチを、モールドの中心を基点として、原料の投入方向に対して垂直の方向に走査させるか、または、モールド断面の2本の対角線により形成される4つの角のうち原料の投入方向に対して垂直で、かつモールドの中心を通る方向を含む2つの角に含まれるいずれか一の方向(但し、前記垂直の方向を除く)もしくは二以上の方向に走査させるとともに、
シリコン原料のモールド内への投入を、当該投入側のモールド側壁に対して直角の方向で、かつ、プラズマトーチがシリコン原料の落下軌道線上にある場合には、投入する原料の少なくとも一部がプラズマトーチに衝突し、落下軌道線上から外れている場合には、投入する原料の落下点がモールドの中心から外れるように、投入角度および高さを調整して行うことを特徴とする多結晶シリコンの連続鋳造方法。
【請求項2】
前記プラズマトーチの走査を、プラズマトーチの釣支部を固定点とする振り子運動またはプラズマトーチの水平方向での移動により行わせることを特徴とする請求項1に記載の多結晶シリコンの連続鋳造方法。
【請求項3】
前記連続的に鋳造する多結晶シリコンを、長尺のインゴットとすることを特徴とする請求項1または2に記載の多結晶シリコンの連続鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−224502(P2012−224502A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93155(P2011−93155)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】