説明

多結晶シリコンウェーハ及びその鋳造方法

【課題】本発明の目的は、太陽電池の基板として用いることによって太陽電池の変換効率の低下を抑制することのできる多結晶シリコン及びその鋳造方法を提供することにある。
【解決手段】本発明の多結晶シリコンは、FT−IR法(ASTM F121−79)で測定した格子間酸素濃度が1.0×1017atoms/cm3以下であり、該多結晶シリコンウェーハを基板として用いた太陽電池の変換効率の低下率が3%以下であることを特徴とする。
また、本発明の多結晶シリコンの鋳造方法は、冷却銅モールドの酸素含有率が低く、且つチャンバ内の酸素分圧が低いことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶シリコンウェーハ及びその鋳造方法に関し、特に、格子間酸素濃度が低く、太陽電池の基板として用いることにより、太陽電池の変換効率の低下を抑制できる多結晶シリコンウェーハ及びその鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、太陽電池の製造用の基板としては、主にシリコン結晶が用いられている。
シリコン結晶には単結晶と多結晶とがあり、単結晶シリコンを基板として用いた太陽電池は、多結晶シリコンを基板としたものと比較して、入射した光エネルギーを電気エネルギーにする変換効率が高いという特徴がある。
この単結晶シリコンは、無転位の高品質な結晶を製造するため、一般にチョクラルスキー法によって製造されるが、このチョクラルスキー法による製造は、コストが高くなるという問題がある。また、一般に多結晶の鋳造の場合よりも、単結晶の成長中には、石英坩堝からの酸素の混入が高くなる傾向があり、問題点の1つと考えられている。
【0003】
一方、多結晶シリコンを製造する方法としては、キャスト法が知られている(例えば特許文献1)。
キャスト法による多結晶シリコンの鋳造では、ルツボ内で原料である高純度シリコンを加熱溶解し、ボロン等のドーパントを均一添加して、ルツボの中で凝固させる。ルツボは、耐熱性及び形状安定性が求められるため、一般に石英が用いられる。
このキャスト法に一方向性凝固法を適用することにより、結晶粒の大きい多結晶シリコンを得ることが可能となる。
【0004】
しかし、キャスト法は、溶融したシリコンと石英ルツボとが接触することによって不純物汚染が生じることがあり、また、キャスト法は造塊法であるため、連続した鋳造が困難であることから、生産効率の低下を招くという問題がある。
【0005】
これに対し、溶融シリコンが鋳型にほとんど接触することなく、シリコン結晶を鋳造することのできる電磁鋳造法が知られている(例えば、特許文献2)。
図1は、電磁鋳造法に用いる電磁鋳造装置の一例を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、チャンバ1は、内部の発熱から保護されるように二重壁構造の冷却容器になっており、中央部に冷却モールド2、誘導コイル3、ヒータ4が配置されている。
図示例で、冷却モールド2は、銅の水冷筒体であり、上部を除いて周方向に複数分割され、無底である。
また、図示例で、誘導コイル3は、冷却モールド2の外周側に同芯に周設されて、同軸ケーブル(図示せず)で電源に接続される。
図示例で、ヒータ4は、冷却モールド2の下方に同芯に設けられ、冷却モールド2から引き下げられるインゴット5を加熱して、インゴット5の引き下げ軸方向に所定の温度勾配を与える。
【0006】
図1に示す装置を用いて、多結晶シリコンを鋳造するには、まず、冷却モールド2にシリコン材料6を装入し、次いで、誘導コイル3に交流電流を流す。
冷却モールド2は、周方向に分割され、各素片は互いに電気的に分離されているため、各素片内で電流ループを形成し、該電流が冷却モールド2内に磁界を発生する。
これにより、電磁誘導加熱によってシリコン材料が溶解され、シリコン融液7が溶製される。
【0007】
ここで、冷却モールド2内のシリコン材料は、冷却モールド2の内壁がつくる磁界と溶融シリコン表面の電流との電磁気的相互作用によって、冷却モールド2の径方向内側への力を受けるため、冷却モールド2とは非接触の状態で溶解されることとなり、冷却モールドからの不純物汚染が防止され、またインゴット5の下方への引き下げが容易となる。
【0008】
ここで、溶融シリコンを凝固させるに当たっては、溶融シリコンとインゴットを下部で保持する引き下げ装置8を下方へ移動させる。誘導コイル3の下端から離間するにつれ、誘導磁界が小さくなり、発熱量及び上記の径方向内側への力が小さくなり、冷却モールド2による冷却効果によって、溶融シリコン7が外周側から凝固していき、これを下方へ引き抜いていく。
引き下げ装置の下方への移動に合わせて、冷却モールド2へシリコン材料を連続的に追加装入して、シリコン材料6の溶解及び凝固を継続していくことにより、多結晶シリコンの連続鋳造が可能となる。
なお、多結晶シリコンウェーハの導電性は、ドーパントを添加したシリコン材料6を装入することによって、制御することができる。
p型多結晶シリコンウェーハの鋳造には、ドーパントとしてボロン、ガリウム、アルミニウムなどの溶融原料を用い、n型多結晶シリコンウェーハの鋳造には、ドーパントとしてリン、砒素、アンチモンなど溶融原料を用いることができる。
【0009】
ところで、上記のキャスト法や電磁鋳造法によって製造された多結晶シリコンウェーハを太陽電池用の基板として用いた場合、太陽電池における光エネルギーから電気エネルギーへの変換効率が、時間経過と共に低下するという問題がある。
【0010】
この原因の1つは、非特許文献1に記載のように、基板にボロンと酸素とが含有されていることにより、太陽光の照射時に、ボロンと酸素の複合体からなる欠陥が発生すること(Light Induced Degradation)に起因すると考えられている。
【0011】
図2は、ボロンをドーピングした、抵抗率1.5Ωcmのp型多結晶シリコンウェーハで、FT−IR法(ASTM F121−79)で測定した格子間酸素濃度が異なるものを複数用意し、該多結晶シリコンウェーハを基板に用いた太陽電池の初期変換効率Aと光照射24時間後の変換効率Bとの比((A-B)/A)×100(%)で定義される変換効率の低下率を求める実験を行った結果を示す図である。
なお、ここでいう、「変換効率」は、太陽電池のセル単位面積当たりに照射した光エネルギーE1とセル単位面積当たりから取り出される変換後の電気エネルギーE2との比(E2/E1)×100(%)で定義される。
【0012】
図2に示すように、太陽電池の変換効率は3%以上低下していることがわかる。
また、多結晶シリコンウェーハとして酸素濃度の低いウェーハを用いても、太陽電池の変換効率の低下率を大きく低減することはないこともわかる。
このように、従来、多結晶シリコンウェーハの格子間酸素濃度が微量であっても、その微量の酸素がボロンとの複合体を形成してしまうものであると考えられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平6―64913号公報
【特許文献2】特開2007−019209号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Prog. Photovolt: Res. Appl. 2005, 13, 287-296
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、太陽電池の基板として用いることにより、太陽電池の変換効率の低下を抑制できる多結晶シリコンウェーハ及びその鋳造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
発明者らは前記課題を解決すべく、鋭意究明を重ねた。
その結果、まず発明者は、電磁鋳造法においては、シリコン融液と銅モールドとが非接触状態で鋳造されるにも関らず、酸素含有率の低い銅モールドを用いることにより、多結晶シリコンウェーハの格子間酸素濃度を大幅に低減させることができることを見出した。
さらに、酸素含有率の低い銅モールドを用いるに当たり、チャンバ内の酸素分圧を低減させることも有効であることも知見した。
【0017】
そして、発明者は、これまでの通説に捉われずに、太陽電池用の基板に用いる多結晶シリコンウェーハ中の酸素濃度をさらに極端に小さくしたところ、酸素とボロンが複合体を形成するのを抑制して、該複合体に起因する太陽電池の変換効率の低下を大幅に抑制することができることの新規知見を得た。
【0018】
本発明は、上記の知見に立脚するものであり、その要旨構成は、以下の通りである。
(1)FT−IR法(ASTM F121−79)で測定した格子間酸素濃度が1.0×1017atoms/cm3以下の多結晶シリコンウェーハであり、該多結晶シリコンウェーハを基板として用いた太陽電池の変換効率の低下率が3%以下であることを特徴とする、多結晶シリコンウェーハ。
【0019】
(2)チャンバの誘導コイル内に、軸方向の少なくとも一部が周方向で複数に分割された無底の銅の冷却モールドを配置し、前記誘導コイルによる電磁誘導加熱により、前記冷却銅モールド内にシリコン融液を溶製し、前記シリコン融液を凝固させつつ下方へ引き抜く、多結晶シリコンの鋳造方法において、
前記冷却銅モールドの酸素含有率が低く、且つ前記チャンバ内の酸素分圧が低いことを特徴とする、多結晶シリコンの鋳造方法。
ここで、「銅モールドの酸素含有率が低い」とは、従来用いられていた、酸素含有率100〜500(質量ppm)程度の銅モールドより酸素含有率が低いことをいう。
【0020】
(3)前記冷却銅モールドの酸素含有率が50(質量ppm)以下であり、且つ前記チャンバ内の酸素分圧が0.01kg/cm2以下であることを特徴とする、上記(2)に記載の多結晶シリコンの鋳造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明の方法によれば、FT−IR法(ASTM F121−79)で測定した格子間酸素濃度の低い多結晶シリコンウェーハを鋳造することができる。
この多結晶シリコンウェーハを基板として用いることにより、時間経過に伴う変換効率の低下を低減した太陽電池を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】電磁鋳造法に用いる装置の一例を示す断面図である。
【図2】p型多結晶シリコンウェーハの格子間酸素濃度と太陽電池の変換効率の低下率との関係を示す図である。
【図3】p型多結晶シリコンウェーハの格子間酸素濃度と太陽電池の変換効率の低下率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明を導くに至った実験結果について詳述する。
まず、本発明者は、電磁鋳造法がシリコン材料と銅モールドとが非接触状態で鋳造される方法であるにも関らず、銅モールドに、従来用いられていた銅モールドより酸素含有率が低いものを用いることにより、多結晶シリコンウェーハの格子間酸素濃度を低減させ得ることを知見した。また、同時にチャンバ内の酸素分圧を低減させることが有効であることを併せて知見した。
表1は、酸素含有率(質量ppm)の異なる銅モールドを複数用意し、それぞれの銅モールドで電磁鋳造法により、チャンバ内の酸素分圧の様々な条件の下で、ボロンをドーピングした抵抗率1.5Ωcmのp型の多結晶シリコンを鋳造し、多結晶シリコンウェーハの格子間酸素濃度をFT−IR法(ASTM F121−79)で測定した結果を示している。
なお、従来の銅モールドの酸素含有率は100〜500(質量ppm)程度である。
また、チャンバ内の酸素分圧は、チャンバ内のアルゴンガス置換を繰り返し行うことにより低減したものである。
【0024】
【表1】

【0025】
表1に示すように、ウェーハの格子間酸素濃度は、チャンバ内の酸素分圧が、0.01kg/cm3以下で、且つ銅モールドの酸素含有率を50質量ppm以下とすることによって1.0×1017atoms/cm3以下に低減させることができることがわかる。
これは、シリコン中に含まれる酸素は、シリコン融液が高温状態のときの短時間のモールドとの接触による経路と、シリコン融液がその後比較的低温に至るまでの間での、チャンバ内の雰囲気からの経路との、2つの異なる経路から混入すると考えられるからである。
なお、リン等をドーピングした抵抗率3Ωcmのn型多結晶シリコンの場合も上記と同様の条件で試験を行い、同様の条件の下で、多結晶シリコンウェーハの格子間酸素濃度を1.0×1017atoms/cm3以下とすることができた。
【0026】
発明者は、上記の如くして、格子間酸素濃度が1.0×1017atoms/cm3以下の多結晶シリコンウェーハを鋳造できるに至り、これらを基板とする太陽電池を複数製造して、上記の変換効率の低下を評価する実験を行った。その評価結果を図3に示す。
なお、実験に用いた多結晶シリコンウェーハは、ボロンをドーピングした、抵抗率1.5Ωcmのp型ウェーハである。
【0027】
図3に示すように、酸素濃度が1.0×1017atoms/cm3以下の範囲では、酸素濃度が低くなるにつれ、急激に太陽電池の変換効率の低下を抑制することができることがわかる。
本発明によれば、表1に示すように、1.0×1016〜1.0×1017atoms/cm3の範囲の格子間酸素濃度のウェーハを製造することができるため、このウェーハを基板として用いることにより、太陽電池の変換効率の低下率を3%以下まで大幅に低下させることができる。
なお、酸素濃度が1.0×1017atoms/cm3以下のn型多結晶シリコンウェーハでも同様に上述の太陽電池の変換効率の低下率を評価する試験を行い、変換効率の低下率が3%以下となることがわかった。
【符号の説明】
【0028】
1 チャンバ
2 冷却モールド
3 誘導コイル
4 ヒータ
5 インゴット
6 シリコン材料
7 溶融シリコン
8 引き下げ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FT−IR法(ASTM F121−79)で測定した格子間酸素濃度が1.0×1017atoms/cm3以下の多結晶シリコンウェーハであり、該多結晶シリコンウェーハを基板として用いた太陽電池の変換効率の低下率が3%以下であることを特徴とする、多結晶シリコンウェーハ。
【請求項2】
チャンバの誘導コイル内に、軸方向の少なくとも一部が周方向で複数に分割された無底の銅の冷却モールドを配置し、前記誘導コイルによる電磁誘導加熱により、前記冷却銅モールド内にシリコン融液を溶製し、前記シリコン融液を凝固させつつ下方へ引き抜く、多結晶シリコンの鋳造方法において、
前記冷却銅モールドの酸素含有率が低く、且つ前記チャンバ内の酸素分圧が低いことを特徴とする、多結晶シリコンの鋳造方法。
【請求項3】
前記冷却銅モールドの酸素含有率が50(質量ppm)以下であり、且つ前記チャンバ内の酸素分圧が0.01kg/cm2以下であることを特徴とする、請求項2に記載の多結晶シリコンの鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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