説明

多結晶体の導電性マイエナイト型化合物、およびその製造方法

【課題】本発明は、従来技術が有する上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、高導電特性と低熱伝導特性を両立した多結晶体の導電性マイエナイト型化合物、および該材料の簡便な製造法を提供することである。
【解決手段】空隙群を有する多結晶体の導電性マイエナイト型化合物であって、
空隙群が大きさの異なる複数の独立した空隙で形成され、
空隙の長手方向の長さが0.2〜30μmであって、
空隙群の長手方向の長さが10〜600μmである
多結晶体の導電性マイエナイト型化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶体の導電性マイエナイト型化合物、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、導電性マイエナイト型化合物(以下、マイエナイト相という場合がある。)として組成式12CaO・7Alで表わされるカルシウムアルミネート(以下、C12A7という場合がある。)について、さまざまな元素や、電子、例えばO、H、eを包摂することで(特許文献1、2)、コールド電子エミッター、導電体、有機EL電子注入電極、還元剤、酸化剤、排ガス用触媒、熱電変換材料、熱電子発電材料などの分野への応用展開が期待されている。
【0003】
Kimらは熱電変換材料として導電性C12A7の単結晶体について報告しており、高導電特性と低熱伝導特性とを兼ね備えた熱電変換材料として導電性C12A7の利用が期待されている(非特許文献1)。さらにKimらは、CaCOとγ−Alとの混合物を1300℃で保持し、絶縁性マイエナイト型化合物を製造し、さらに該絶縁性マイエナイト型化合物を還元雰囲気中、1600℃で保持し、溶融する工程を2回繰り返すことで5S/cm程度の電気伝導度を有する多結晶体の導電性マイエナイト型化合物を製造できるという報告をしている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第03/089373号
【特許文献2】国際公開第05/000741号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Sung Wang Kim et al.,Physical Review B.,Vol.80, 075201 (2009)p.1〜6
【非特許文献2】Kim et al.,J.Am.Chem.Soc.,Vol.127,No.5, (2005)p.1370-1371
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、高導電特性と低熱伝導特性の両立は難しく、それらを両立した多結晶体の導電性マイエナイト型化合物は得られていなかった。
【0007】
本発明は、従来技術が有する上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、高導電特性と低熱伝導特性を両立した多結晶体の導電性マイエナイト型化合物、および該材料の簡便な製造法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ね、本発明に至った。
すなわち本発明は、以下の<1>〜<7>である。
<1>空隙群を有する多結晶体の導電性マイエナイト型化合物であって、
空隙群が大きさの異なる複数の独立した空隙で形成され、
空隙の長手方向の長さが0.2〜30μmであって、
空隙群の長手方向の長さが10〜600μmである
多結晶体の導電性マイエナイト型化合物。
<2>多結晶体表面の単位面積当たりに占める空隙群の個数が、5〜50個/mmである<1>に記載の多結晶体の導電性マイエナイト型化合物。
<3><1>および<2>に記載の多結晶体の導電性マイエナイト型化合物の原料混合物であって、
還元剤と、Ca含有物質と、Al含有物質と、
を有し、
還元剤が金属Alおよび金属Caからなる群より選ばれる1種以上の金属であって、
Al含有物質の含水率が4重量%未満である
多結晶体の導電性マイエナイト型化合物の原料混合物。
<4>前記Al含有物質がα−Alである<3>に記載の原料混合物。
<5>炭素容器中に充填された<3>または<4>に記載の原料混合物を、
窒素雰囲気中で焼成し、
前記還元剤の一部が窒化されてなる反応中間体を経由する
多結晶体の導電性マイエナイト型化合物の製造方法。
<6>前記還元剤の窒化を焼成中に中断する工程を有する
<5>に記載の多結晶体の導電性マイエナイト型化合物の製造方法。
<7><5>および<6>に記載の製造方法で製造される多結晶体の導電性マイエナイト型化合物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の多結晶体の導電性マイエナイト型化合物を用いれば、高導電特性と低熱伝導特性とを両立することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1および2で得た結晶相のX線粉末回折スペクトルである。
【図2】比較例1で得た結晶相のX線粉末回折スペクトルである。
【図3】比較例2で得た結晶相のX線粉末回折スペクトルである。
【図4】実施例1で得た多結晶体の導電性マイエナイト型化合物の断面SEM像(×35倍)である。
【図5】実施例1で得た多結晶体の導電性マイエナイト型化合物の断面SEM像(×1000倍)である。
【図6】実施例2で得た多結晶体の導電性マイエナイト型化合物の断面SEM像(×35倍)である。
【図7】実施例2で得た多結晶体の導電性マイエナイト型化合物の断面SEM像(×1000倍)である。
【図8】比較例1で得た多結晶体の導電性マイエナイト型化合物の断面SEM像(×35倍)である。
【図9】比較例1で得た多結晶体の導電性マイエナイト型化合物の断面SEM像(×1000倍)である。
【図10】比較例2で得た多結晶体の導電性マイエナイト型化合物の断面SEM像(×35倍)である。
【図11】比較例2で得た多結晶体の導電性マイエナイト型化合物の断面SEM像(×1000倍)である。
【図12】実施例1および2並びに比較例1で使用したα−AlのTG−DTA曲線である。
【図13】比較例2で使用したγ−AlのTG−DTA曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施について詳しく説明する。
【0012】
<多結晶体の導電性マイエナイト型化合物>
本発明の多結晶体の導電性マイエナイト型化合物は空隙群を有する。
空隙群は1種以上の大きさの異なる複数の独立した空隙で形成され、
空隙の長手方向の長さが0.2〜30μmであって、
空隙群の長手方向の長さが10〜600μmである。
また、単位面積当たりに締める空隙群の個数は、5〜50個/mmである。
【0013】
・<空隙群>
空隙群とは、独立した空隙の集まりであり、多様な形状を有する。空隙群の長手方向の長さは10〜600μmである。空隙群は多結晶体の導電性マイエナイト型化合物中に3次元に分布しており、導電性マイエナイト型化合物の粒子と粒子の粒界に存在してもよく、粒子中に存在してもよい。空隙群は、同程度の大きさの空隙と比較した場合に、独立した空隙が集まっていることから、導電パスや機械的強度を損なうことなく、空隙の役割である低熱伝導特性を発揮できる。
【0014】
・<空隙>
空隙はそれぞれの大きさが異なって存在してよく、球形、卵型、瓢箪型、棒状で存在してもよい。空隙の長手方向の長さは0.2〜30μmである。
【0015】
[原料混合物]
本発明の多結晶体の導電性マイエナイト型化合物の原料混合物は、還元剤と、Ca含有物質と、Al含有物質と、を少なくとも有する原料混合物であって、Al含有物質の含水率が4重量%未満である。
【0016】
前記原料混合物は、還元剤と、Ca含有物質と、Al含有物質と、を混合して得られる。この際、該混合物のCaとAlとの原子当量比が、1.00:1.10〜1.23の範囲となるように配合して調製される。
【0017】
前記原子当量比は、1.00:1.13〜1.21が好ましく、1.00:1.15〜1.18がさらに好ましい。
【0018】
上記範囲であると、得られる導電性マイエナイト型化合物に12CaO・7Al以外の不純物相を生成することをより確実に防ぐことができる。
【0019】
前記原料混合物の混合方法は、前記還元剤と、Ca含有物質と、Al含有物質と、を混合できるものであればよく、例えば乳鉢、ボールミル、サンドミル、遊星ミル、ジェットミル、ロッキングミル等が挙げられる。
【0020】
混合形式は乾式、湿式のどちらでもよく、混合後に乾燥工程が不要であるために乾式が好ましい。湿式の場合はエタノール等の有機溶媒が使用可能である。
【0021】
原料混合物は粉末をそのまま使用してもよいし、粉末の静水圧プレス成型、一軸プレス成型等で圧縮し圧粉体を得、得られた圧粉体を使用してもよい。
【0022】
・[還元剤]
前記還元剤は、酸化還元反応において、前記Ca含有物質、Al含有物質、該Ca含有物質と該Al含有物質とが反応して得られる化合物、および該化合物が溶融した融液からなる群より選ばれる少なくとも1種の物質を還元させる物質であればよく、例えば金属が好ましいものとして挙げられる。高純度または実質的に不純物相を含まない導電性マイエナイト型化合物を得るためには、前記還元剤として金属Alおよび金属Caからなる群より選ばれる1種以上の金属を用いるとCa含有物質およびAl含有物質としても作用し、還元力が強く、また12CaO・7Alの組成が崩れにくいため好ましい。
【0023】
還元剤の形状は特に限定されないが、粉末状が好ましく、焼成工程では液体状になってもよい。
【0024】
また、還元剤として金属Alを使用する場合は、Al含有物質としてα−Alの原子等量比を下げることが可能である。α−Alと金属Alとのモル比は、(6.995:0.01)〜(5.83:2.33)が好ましい。上記範囲であると、得られる導電性マイエナイト型化合物に12CaO・7Al以外の不純物相を生成することをより確実に防ぐことができる。
【0025】
・[Ca含有物質]
前記Ca含有物質は、Caを含む化合物を主成分とするものであればよく、例えば、炭酸カルシウム(CaCO)、水酸化カルシウム(Ca(OH))、酸化カルシウム(CaO)、フッ化カルシウム(CaF)、および塩化カルシウム(CaCl)などが挙げられるが、入手の安易さと取り扱いの容易さから、炭酸カルシウム(CaCO)が好ましい。Ca含有物質の形状は特に限定されないが、ペレット状、粉末状であればよく、焼成工程では液体状になってもよい。
【0026】
・[Al含有物質]
前記Al含有物質は、その含水率が4重量%未満であるものを用いる。高純度または実質的に不純物相を含まない導電性マイエナイト型化合物を得るためである。前記含水率が4.0重量%以上であると、得られる導電性マイエナイト型化合物に不純物が含まれるようになる。前記含水率は少ないほど良く、3.0重量%未満が好ましく、2.0重量%未満がより好ましく、1.0重量%未満がさらに好ましい。
【0027】
本発明の特許請求の範囲および明細書において、「Al含有物質の含水率」とは、{(使用するAl含有物質を加熱する前の室温におけるAl含有物質の重量『10〜20mg程度』)−(該Al含有物質を200℃まで加熱した際のAl含有物質の重量)}÷(該Al含有物質を加熱する前の室温におけるAl含有物質の重量)×100(%)として定義する。
【0028】
前記含水率は、示差熱熱重量同時測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)社製、TG/DTA6300)を用いて測定できる。
【0029】
前記Al含有物質は、例えばα−Al、Al(OH)およびAlNが挙げられる。Al含有物質の形状は特に限定されないが、ペレット状、粉末状であればよく、焼成工程では液体状になってもよい。
【0030】
〔多結晶体の導電性マイエナイト型化合物の製造方法〕
本発明の多結晶体の導電性マイエナイト型化合物の製造方法においては、炭素容器中に充填した前記原料混合物を、窒素雰囲気中で焼成することで、還元剤の一部が窒化されてなる反応中間体が生成し、該反応中間体と前記Ca含有物質、Al含有物質、該Ca含有物質と該Al含有物質とが反応して得られる化合物、および該化合物が溶融した溶融液からなる群より選ばれる少なくとも1種の物質が反応する。さらに、該焼成中に窒素ガスを止めることで該窒化を中断し、反応中間体の生成を途中で止めることもできる。
【0031】
・〔炭素容器〕
前記炭素容器は、充填された前記原料混合物を還元雰囲気に保てる点で好ましく、例えばカーボン坩堝、カーボンボートなどが挙げられる。前記原料混合物を溶融する場合には、カーボン坩堝等に固着し、取り出しが困難になる場合があるので、グラファイトシート等のカーボンシートをカーボン坩堝の内側に敷いておくのが好ましい。
【0032】
原料混合物を充填した炭素容器は、焼成炉の均熱エリア内に静置すればよい。また、良好な還元雰囲気を維持するために、該炭素容器をアルミナ坩堝等の容器で二重に覆ったのち、焼成炉の均熱エリア内に静置することが好ましい。
【0033】
・〔焼成〕
焼成は、前記焼成炉内に窒素ガスを流し、所定の温度まで昇温し、所定の温度で保持し、続いて室温まで降温すればよく、昇温、降温は多段階を経てもよい。
【0034】
・・〔温度〕
温度は、1400〜1600℃の場合は、前記原料混合物が反応して生成したマイエナイト型化合物が溶融して空隙群を有する多結晶体の導電性マイエナイト型化合物が得られる。より緻密なバルク材料を得られるという点で、前記マイエナイト型化合物の融点1415℃〜1600℃が好ましい。
【0035】
・〔反応中間体〕
反応中間体は窒素ガスが、前記還元剤の一部と反応して得られる窒化物と還元剤の混合物である。空隙群を有する多結晶体の導電性マイエナイト型化合物の形成過程は定かではないが、窒素との反応で金属Al表面に生成する窒化物が、前記Ca含有物質と前記金属Alとの直接的な反応を抑制することで、低温時にマイエナイト型化合物以外の不純物相が生成することを抑制し、かつ前記窒化物は前記Ca含有物質と該窒素ガス雰囲気下で徐々に反応する。反応時には窒化物中の窒素分がガスとして抜けることで空隙が形成される。その後、剥き出しになった還元剤は12CaO・7Alを還元すると共に、同時並行的に一部が窒化され上記の反応が繰り返し起こり、消費される。従って、得られた多結晶体の導電性マイエナイト型化合物について12CaO・7Al以外の不純物相を生成することをより確実に防ぎ、電気伝導度が高く、かつ空隙群を形成することができる。
【0036】
また、窒素ガスを焼成中に停止することで、前記還元剤の窒化を中断することが可能であり、還元剤の窒化反応とマイエナイト型化合物への還元反応を制御することが可能である。本発明に関して、窒素ガスを停止する温度は窒化物形成温度から焼成温度未満であればよく、そのタイミングを制御することで、前記還元剤の一部が窒化されてなる反応中間体の量を制御することができ、空隙群の量と電気伝導度を制御することが可能である。
【0037】
窒素ガスを用いた場合、Al含有物質としてのα−Alと還元剤としての金属Alとのモル比は、(6.995:0.01)〜(5.83:2.33)が好ましく、得られる導電性マイエナイト型化合物に12CaO・7Al以外の不純物相を生成することをより確実に防ぐことができる。
【0038】
このように、前記原料混合物と前記多結晶体の導電性マイエナイト型化合物の製造方法を使用すれば、簡単に空隙群を有する多結晶体の導電性マイエナイト型化合物が得られる。
【実施例】
【0039】
前記多結晶体の導電性マイエナイト型化合物は、株式会社リガク製X線回折測定装置RINT2500TTR型を用いて、CuKαを線源とする粉末X線回折法(以下、XRDという場合がある。)により分析した。
【0040】
表におけるXRD結果は次の評価に基づいて示した。
○:C12A7単相の固体が得られた。
△:C12A7相を主成分とし、それ以外の相を含む固体が得られた。
【0041】
前記多結晶体の導電性マイエナイト型化合物の電気伝導度の測定は、焼成後の固体をダイヤモンドカッター等でスライスし、成型した後、端子としてPtワイヤーを導電性ペーストで乾燥接着し、直流四端子法にて評価した。
【0042】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
以下の実施例および比較例で用いた市販の酸化アルミ二ウム粉末(純度99.99%以上)について、その含水率(重量%)は示差熱熱重量同時測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)社製「TG/DTA6300」)を用いて確認した。
【0044】
以下に、実施例または比較例で使用したAlの含水率を求めるために測定したTG−DTA曲線を示す。測定方法は前述の取りである。
【0045】
図12は、市販のα−Al(住友化学(株)社製「AKP−50」)のTG−DTA曲線である。含水率は0.35重量%であった。
【0046】
図13は、市販のγ−Al(住友化学(株)社製「AKP−G15」)のTG−DTA曲線である。含水率は5.0重量%であった。
【0047】
以下の実施例および比較例で用いた導電性マイエナイト型化合物の電気伝導度の測定は、焼成後の固体をダイヤモンドカッターでスライスし、成型した後、端子としてPtワイヤーを導電性ペーストで乾燥接着し、直流四端子法にて評価した。
【0048】
[実施例1、2]
粉末状の炭酸カルシウム(CaCO)(宇部マテリアルズ(株)社製「CS・3N−A」)と、粉末状のα−Al(住友化学(株)社製「AKP−50」)と、粉末状の金属Al((株)高純度化学社製「ALE02PB」)とを12:(7−x/2):xのモル比で秤量(x=0.67、x=1.33)し、これらの粉末を乾式混合した。
【0049】
乾式混合した粉末は黒鉛坩堝中に敷き詰めたグラファイトシート(グラフテック(株)社製「グラフォイルGTA」)中に充填し、黒鉛坩堝で蓋をした後、さらにアルミナ坩堝で覆った。
【0050】
次に、アルミナ坩堝を市販の電気炉に配置して、窒素ガスを流し、1500℃で1時間の焼成を行った後、室温まで冷却した。電気炉の昇温速度および冷却速度は300[℃/h]であった。
【0051】
次に、黒鉛坩堝内より固体試料を取り出し、一部をカットし、成型した。成型した試料片について直流四端子法にて電気伝導度を測定した。
【0052】
また、一部をカット、研磨し、厚さ2mmの円柱ペレットに成型した。成型したペレットについて固体比重計で密度を測定した。
【0053】
さらに、ペレットの片面に熱電対を銀ペーストで熱接着し、ペレットについてレーザーフラッシュ法で比熱と熱拡散率を測定した。
【0054】
ペレットの熱伝導度は、前記密度、比熱、熱拡散率の積で算出した。
【0055】
成型した試料片の一部を破砕、粉砕し、粉末X線回折(XRD)により相の同定を行った。
【0056】
その結果、金属Alの添加量(モル)x=0.67〜1.33の領域で、空隙群を有する多結晶体の導電性マイエナイト型化合物が得られ、粉末X線回折(XRD)によりC12A7単相が得られたことを確認した。また、低い熱伝導度と高い電気伝導度が得られた(表1、図1 参照)。
【0057】
図1中、(A)、(B)はそれぞれ金属Alの添加量(モル)x=0.67、x=1.33の領域で得られた固体の粉末XRDである。
【0058】
【表1】



【0059】
[比較例1]
比較例1は、粉末状の炭酸カルシウム(CaCO)(宇部マテリアルズ(株)社製「CS・3N−A」)と、粉末状のα−Al(住友化学(株)社製「AKP−50」)とを12:7のモル比で秤量し、これらの粉末を乾式混合した以外は、[実施例1、2]と同様の実験条件で行った。
【0060】
その結果、C12A7単相の固体が得られたが、空隙サイズが大きく、その集まりはクラックになった。また、低い熱伝導度を有していたが、電気伝導度が低かった。(表2、図2 参照)。
【0061】
図2は得られた固体の粉末XRDである。
【0062】
【表2】



【0063】
[比較例2]
比較例2は、粉末状の炭酸カルシウム(CaCO)(宇部マテリアルズ(株)社製「CS・3N−A」)と、粉末状のγ−Al(住友化学(株)社製「AKP−G15」)と、粉末状の金属Al((株)高純度化学社製「ALE02PB」)とを12:(7−x/2):xのモル比で秤量(x=0.67)し、これらの粉末を乾式混合した以外は、[実施例1、2]と同様の実験条件で行った。
【0064】
その結果、C12A7相の他に多くの異相C3Aが見られ、空隙サイズが大きかった(表3、図3 参照)。また、電気伝導度が低く、熱伝導度に関してはレーザーフラッシュ法で測定できるようなサンプルは得られなかった。
【0065】
図3は得られた固体の粉末XRDである。図において、「□」は、CaAl相が存在することを示すピークである。
【0066】
【表3】



【0067】
本発明にかかる実施例1、2では、空隙群を有する多結晶体の導電性マイエナイト型化合物が得られ、驚くべきことに高い電気伝導度と低い熱伝導度を兼ね備えていた。
一方、比較例1ではC12A7単相が生成したが、空隙群が大きすぎて高い電気伝導度と低い熱伝導度を両立できなかった。比較例2では多結晶の導電性マイエナイト型化合物の他にC3Aという絶縁性の不純物相が存在し、電気伝導度を大きく低下させた。さらに、熱伝導度測定が実施できるような緻密な固体が得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空隙群を有する多結晶体の導電性マイエナイト型化合物であって、
空隙群が大きさの異なる複数の独立した空隙で形成され、
空隙の長手方向の長さが0.2〜30μmであって、
空隙群の長手方向の長さが10〜600μmである
多結晶体の導電性マイエナイト型化合物。
【請求項2】
多結晶体表面の単位面積当たりに占める空隙群の個数が、5〜50個/mmである請求項1に記載の多結晶体の導電性マイエナイト型化合物。
【請求項3】
請求項1および2に記載の多結晶体の導電性マイエナイト型化合物の原料混合物であって、
還元剤と、Ca含有物質と、Al含有物質と、
を有し、
還元剤が金属Alおよび金属Caからなる群より選ばれる1種以上の金属であって、
Al含有物質の含水率が4重量%未満である
多結晶体の導電性マイエナイト型化合物の原料混合物。
【請求項4】
前記Al含有物質がα−Alである請求項3に記載の原料混合物。
【請求項5】
炭素容器中に充填された請求項3または4に記載の原料混合物を、
窒素雰囲気中で焼成し、
前記還元剤の一部が窒化されてなる反応中間体を経由する
多結晶体の導電性マイエナイト型化合物の製造方法。
【請求項6】
前記還元剤の窒化を焼成中に中断する工程を有する
請求項5に記載の多結晶体の導電性マイエナイト型化合物の製造方法。
【請求項7】
請求項5および6に記載の製造方法で製造される多結晶体の導電性マイエナイト型化合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−201567(P2012−201567A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69445(P2011−69445)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】