多結晶固体の材料特性解析システム、多結晶固体の材料特性解析方法、多結晶固体の材料特性解析プログラム、及び記録媒体
【課題】多結晶固体のEBSD測定から得られる前記多結晶固体の結晶方位情報と位置情報とを含む数値データを使用して、実材料を詳細に反映した材料特性の三次元数値解析を、詳細でかつ誤差の少なく実行できるようにする。
【解決手段】多結晶固体を構成する結晶粒に対して、後方散乱電子回折装置を用いて1つの結晶粒について複数の測定点を含むように測定対象の各結晶粒を計測されて得た数値データAiを入力し、入力された数値データAiを有限要素に割り付け、前記有限要素に三次元テンソルで表わされる物性値を与えて有限要素モデルを構築し、該有限要素モデルを用いて前記数値データAiを数値解析する。
【解決手段】多結晶固体を構成する結晶粒に対して、後方散乱電子回折装置を用いて1つの結晶粒について複数の測定点を含むように測定対象の各結晶粒を計測されて得た数値データAiを入力し、入力された数値データAiを有限要素に割り付け、前記有限要素に三次元テンソルで表わされる物性値を与えて有限要素モデルを構築し、該有限要素モデルを用いて前記数値データAiを数値解析する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶固体の材料特性解析システム、多結晶固体の材料特性解析方法、多結晶固体の材料特性解析プログラム、及び記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
有限要素法を始めとする数値解析手法は、力学計算、熱計算、電磁気計算等多方面に利用され、材料や部品等の特性や性能予測に応用されている。通常、数値解析では、解析対象を、計算機上で形状等を要素部分割して離散化し、モデリングされる。これに、弾性定数、応力−歪曲線、熱伝導率、透磁率等の物性値やパラメータと拘束条件等の初期条件を与えて数値解析される(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0003】
金属、セラミックス等の多結晶固体は、方向性を有する微小な結晶粒の集合体として構成され、上記のような数値解析する場合、その物性値は、結晶粒がランダムに集合した平均値を入力して計算する。前記物性値は、多くの場合、多結晶体の実験値が利用される。方向性を有する微小な結晶粒の個々の状態を反映した解析をする場合、個々の結晶の方位データを有限要素モデルに反映する必要がある。要素分割したそれぞれに方位データを与えるのは、非常に手間がかかり、困難であった。また、個々の結晶粒内にも結晶方位の分布がある場合もあり、そのような場合には、要素分割したそれぞれに方位データを与えるのは、益々困難となる。
【0004】
結晶粒の形状に関しては、CAD(Computer Aided Design)ソフト等を使用して人為的に入力、又は画像を通じてモデリング(Image-based Modeling)するという方法がある。また、ボルヌイ分割、第一原理計算等の数学的手法を用いて、直接計算機上に仮想的な多結晶固体を発生する方法もある。しかしながら、これらの方法では、加工、熱処理等のプロセスを踏んだ実際の材料である多結晶固体をモデル化することが難しい。すなわち、実際には結晶粒のアスペクト比、大きさの分布等、形態は複雑であり、現実の組織を代表する多結晶固体モデルを形成することは困難である。そこで、例えば、特許文献3には、被解析物のCT(Computer Tomography)画像を取得可能なX線装置や核磁気共鳴画像法(Magnetic Resonance Imaging、MRI)の撮像装置から得て、数値解析することが開示されている。
【0005】
一方、多結晶固体における個々の結晶粒の向きは、X線ラウエ法、後方散乱電子線回折(Electron Back-Scatter Diffraction、EBSD)、又は後方散乱電子回折像(Electron Backscattering Diffraction Pattern、EBSP)法等により、現実の多結晶固体から得ることができる。EBSD法は、走査型電子顕微鏡(SEM)の鏡筒内にセットした試料に電子線を照射した際に発生する電子線回折線をカメラに結像させ、結像した像を解析して、結晶方位を同定する方法である。前記像の解析は、想定した材料の結晶構造から予想される電子線回折線と、前記像と数学的に照合することによって行われる。結晶粒の僅かな傾きによっても大きく変化するため、得られる後方散乱電子回折像(擬菊池パターン)を解析すると、結晶粒の方位データを精度よく得られる。また、電子線を走査することによって、表面の方位分布を得ることができる。
【0006】
EBSD法は、組み合わせるSEM、カメラ等の能力にもよるが、現行で数十nmのオーダーの小さな点の結晶方位情報をmmのオーダーの領域にまたがって測定可能な方法であり、前記方向から得られるデータを数値解析に利用すれば、一般的に利用されている種々の多結晶固体について、個々の結晶方位、結晶粒内の方位分布を反映した材料特性解析ができる。EBSD法でよって得られたデータを使用して材料特性を数値解析した例としては、特許文献5、非特許文献1及び2に開示されている。
【0007】
特許文献5には、EBSD法によって被解析物から得られた結晶方位に関するデータを使用して、変形前後の三次元塑性ひずみの解析方法が開示されている。また、非特許文献1及び2には、方位電子顕微鏡(Orientation Imaging Microscope(OEM)解析)によって被解析物から得られた結晶方位情報に基づいて、有限要素法によって応力分布解析を行った例が示されている。
【0008】
【特許文献1】特開2003−347301号公報
【特許文献2】特開2007−122242号公報
【特許文献3】特開2006−318223号公報
【特許文献4】特開2002−189760号公報
【特許文献5】特開2004−317482号公報
【非特許文献1】北村隆行、澄川貴志、大石和義、日本機械学会論文集(A編):2001年、67巻663号、p1819
【非特許文献2】北村隆行、澄川貴志、大石和義、日本機械学会論文集(A編):2003年、69巻677号、p203
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、EBSD法で得られる結晶方位データを使用して、応力分布等の材料特性の数値計算することが、これまでにも行われている。しかしながら、特許文献5、非特許文献1及び2では、EBSD法によって得られる結晶方位データは、多結晶固体を構成する結晶粒に関して1つの結晶粒に1つの結晶方位データを与えて、有限要素分割する手法がとられ、数値解析されている。実際には、1つの結晶粒内でも結晶方位は揺らいでいるので、前記数値解析方法では、実際の結晶粒内の角度情報を反映した数値解析結果が得られないという問題がある。
【0010】
また、対象とする多結晶固体によっては、EBSD法で得られる結晶方位データを直接利用して材料特性の数値解析するにあたり、実際のEBSD測定では、対象となる材料が結晶質の緻密体であったとしても、全ての測定点に対して正しい結晶方位データが得られることがない場合がある。この場合、EBSD法で得られるデータには解析不能点のデータが混在し、EBSD法で得られるデータをそのまま使用して数値解析すると大きな計算誤差を与える。
【0011】
ここで、解析不能点には、次のようなものがある。
EBSD法では、電子線を試料表面法線に対して傾けてビームを当て、その後方散乱電子回折像を得るため、試料に凹凸があると凸部により凹部が影になり、凹部の正確な結晶方位データが得られないので、測定試料を平滑に研磨する。前記測定試料の調製において、対象試料によっては研磨で生じる歪みが生じ、前記歪みによって、本来のEBSD像が得られず、正確な結晶方位データが得られない点が生じ、解析不能点となる。
【0012】
また、結晶粒界に電子線のスポットが当たった場合も、解析できないようなEBSD像となるため、正確な結晶方位データが得られない点が生じ、解析不能点となる。さらに、後方散乱電子回折像を解析する想定結晶相以外の結晶相が存在する場合にも、正確な結晶方位データが得られない点となり、解析不能点となる。また、多結晶固体中に非晶質や空隙が存在する場合には、非晶質領域や空隙の部分が擬菊池パターンを用いての指数付けができないため、結晶方位データが得られず、解析不能点となる。
【0013】
一方、特許文献5では、光学顕微鏡による画像から結晶粒の寸法および面積を取得して結晶粒内に入るピクセル数を求め、それぞれの結晶粒に、EBSD法で得られる各結晶粒の代表となる結晶方位データを結晶粒単位でそれぞれ1つずつ割り当てるものである。よって、EBSD法で得られた結晶方位データは、それぞれの結晶粒の代表値を入力することになる。この手法では、上述のような後方散乱電子回折像の解析不能点に関する点を避けることができるが、結晶粒内の微小な方位変化や結晶方位差の小さい小角粒界(結晶粒界と見なされない)による結晶方位変化を数値計算結果に反映されず、精度の高い或いは実材料を反映した数値解析が行えないという問題がある。
【0014】
また、特許文献3では、撮像装置から得た形状に関するデータを入力して数値解析することが開示されている。また、前記数値解析において、均質化法を用いることも開示されている。しかしながら、EBSD法によって結晶方位データを得ること、さらには、多結晶固体中の非晶質や空隙の存在及びその扱いに関しては記載も示唆もなされていない。
【0015】
本発明は前述の問題点に鑑み、多結晶固体のEBSD測定から得られる前記多結晶固体の結晶方位情報と位置情報とを含む数値データを使用して、実材料を詳細に反映した材料特性の三次元数値解析を、詳細でかつ誤差を少なくして実行できる、多結晶固体の材料特性解析システム、材料特性解析方法、材料特性解析プログラム、及び記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記従来技術の問題を解決するために鋭意検討した結果、以下の構成を要旨とする。
(1) 多結晶固体の後方散乱電子回折像から得られる該多結晶固体の測定点に関する位置と結晶方位とを少なくとも含む数値データAを用いて、該多結晶固体の材料特性を解析する解析システムであって、
前記多結晶固体を構成する結晶粒に対して、後方散乱電子回折装置において1つの結晶粒について複数の測定点を含むように測定対象の各結晶粒を計測して得た数値データAiを入力する入力手段と、
前記入力手段によって入力された数値データAiに対して有限要素に割り付ける割り付け手段と、
前記有限要素に三次元テンソルで表わされる物性値を与えて有限要素モデルを構築する構築手段と、
前記有限要素モデルを用いて前記数値データAiを数値解析する解析手段と、
前記解析手段による数値解析結果を出力する出力手段と、
を少なくとも有することを特徴とする多結晶固体の材料特性解析システム。
(2) 前記数値データAiの結晶方位の確からしさを測定評価値で判定する評価手段と、
前記評価手段による判定結果に基づき、前記数値データAiの結晶方位を新たな結晶方位又は解析不能点に修正して数値データBiを付与するデータ修正手段とをさらに有し、
前記割り付け手段は、前記数値データBiを有限要素に割り付けることを特徴とする(1)に記載の多結晶固体の材料特性解析システム。
(3) 前記測定評価値が、信頼性指数、イメージクオリティ、及びフィット値のうち、1種又は2種以上であることを特徴とする(2)に記載の多結晶固体の材料特性解析システム。
(4) 前記データ修正手段は、隣接する測定点の結晶方位のデータへ置き換えて前記新たな結晶方位を付与し、解析不能点を非結晶質又は空隙として関連づける数値データBiを付与することを特徴とする(2)に記載の多結晶固体の材料特性解析システム。
(5) 前記非結晶質又は空隙として関連付ける数値データBiが均質体として取り扱えるデータであることを特徴とする(4)に記載の多結晶固体の材料特性解析システム。
(6) 前記数値データAiから隣接する測定点の数値データAiを用いて補間数値データA'iを生成する手段をさらに有し、
前記割り付け手段は、前記補間数値データA'iに対して有限要素に割り付けることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の多結晶固体の材料特性解析システム。
(7) 前記結晶方位のデータが、オイラー角であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の多結晶固体の材料特性解析システム。
(8) 前記有限要素が、正方形を含む長方形、正六角形、又は直交六面体であることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の多結晶固体の材料特性解析システム。
(9) 前記三次元テンソルが弾性テンソルであることを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載の多結晶固体の材料特性解析システム。
(10) 前記数値解析が、均質化法を用いるものであることを特徴とする(1)〜(9)のいずれかに記載の多結晶固体の材料特性解析システム。
(11) 多結晶固体の後方散乱電子回折像から得られる該多結晶固体の測定点に関する位置と結晶方位とを少なくとも含む数値データAを用いて、該多結晶固体の材料特性を解析する解析方法であって、
前記多結晶固体を構成する結晶粒に対して、後方散乱電子回折装置において1つの結晶粒について複数の測定点を含むように測定対象の各結晶粒を計測して得た数値データAiを入力する入力工程と、
前記入力工程において入力された数値データAiに対して有限要素に割り付ける割り付け工程と、
前記有限要素に三次元テンソルで表わされる物性値を与えて有限要素モデルを構築する構築工程と、
前記有限要素モデルを用いて前記数値データAiを数値解析する解析工程と、
前記解析工程における数値解析結果を出力する出力工程と、
を少なくとも有することを特徴とする多結晶固体の材料特性解析方法。
(12) 前記数値データAiの結晶方位の確からしさを測定評価値で判定する評価工程と、
前記評価工程における判定結果に基づき、前記数値データAiの結晶方位を新たな結晶方位又は解析不能点に修正して数値データBiを付与するデータ修正工程とをさらに有し、
前記割り付け工程においては、前記数値データBiを有限要素に割り付けることを特徴とする(11)に記載の多結晶固体の材料特性解析方法。
(13) 前記測定評価値が、信頼性指数、イメージクオリティ、及びフィット値のうち、1種又は2種以上であることを特徴とする(12)に記載の多結晶固体の材料特性解析方法。
(14) 前記データ修正工程においては、隣接する測定点の結晶方位のデータへ置き換えて前記新たな結晶方位を付与し、解析不能点を非結晶質又は空隙として関連づける数値データBiを付与することを特徴とする(12)に記載の多結晶固体の材料特性解析方法。
(15) 前記非結晶質又は空隙として関連付ける数値データBiが均質体として取り扱えるデータであることを特徴とする(14)に記載の多結晶固体の材料特性解析方法。
(16) 前記数値データAiから隣接する測定点の数値データAiを用いて補間数値データA'iを生成する工程をさらに有し、
前記割り付け工程においては、前記補間数値データA'iに対して有限要素に割り付けることを特徴とする(11)〜(15)のいずれかに記載の多結晶固体の材料特性解析方法。
(17) 前記結晶方位のデータが、オイラー角であることを特徴とする(11)〜(16)のいずれかに記載の多結晶固体の材料特性解析方法。
(18) 前記有限要素が、正方形を含む長方形、正六角形、又は直交六面体であることを特徴とする(11)〜(17)のいずれかに記載の多結晶固体の材料特性解析方法。
(19) 前記三次元テンソルが弾性テンソルであることを特徴とする(11)〜(18)のいずれかに記載の多結晶固体の材料特性解析方法。
(20) 前記数値解析が、均質化法を用いるものであることを特徴とする(11)〜(19)のいずれかに記載の多結晶固体の材料特性解析方法。
(21) 多結晶固体の後方散乱電子回折像から得られる該多結晶固体の測定点に関する位置と結晶方位とを少なくとも含む数値データAを用いて、該多結晶固体の材料特性を解析するようにコンピュータに実行させる解析プログラムであって、
前記多結晶固体を構成する結晶粒に対して、後方散乱電子回折装置において1つの結晶粒について複数の測定点を含むように測定対象の各結晶粒を計測して得た数値データAiを入力する入力ステップと、
前記入力ステップにおいて入力された数値データAiに対して有限要素に割り付ける割り付けステップと、
前記有限要素に三次元テンソルで表わされる物性値を与えて有限要素モデルを構築する構築ステップと、
前記有限要素モデルを用いて前記数値データAiを数値解析する解析ステップと、
前記解析ステップにおける数値解析結果を出力する出力ステップと、
をコンピュータに実行させることを特徴とする多結晶固体の材料特性解析プログラム。
(22) 前記数値データAiの結晶方位の確からしさを測定評価値で判定する評価ステップと、
前記評価ステップにおける判定結果に基づき、前記数値データAiの結晶方位を新たな結晶方位又は解析不能点に修正して数値データBiを付与するデータ修正ステップとをさらにコンピュータに実行させ、
前記割り付けステップにおいては、前記数値データBiを有限要素に割り付けるようにコンピュータに実行させることを特徴とする(21)に記載の多結晶固体の材料特性解析プログラム。
(23) 前記測定評価値が、信頼性指数、イメージクオリティ、及びフィット値のうち、1種又は2種以上であることを特徴とする(22)に記載の多結晶固体の材料特性解析プログラム。
(24) 前記データ修正ステップにおいては、隣接する測定点の結晶方位のデータへ置き換えて前記新たな結晶方位を付与し、解析不能点を非結晶質又は空隙として関連づける数値データBiを付与するようにコンピュータに実行させることを特徴とする(22)に記載の多結晶固体の材料特性解析プログラム。
(25) 前記非結晶質又は空隙として関連付ける数値データBiが均質体として取り扱えるデータであることを特徴とする(24)に記載の多結晶固体の材料特性解析プログラム。
(26) 前記数値データAiから隣接する測定点の数値データAiを用いて補間数値データA'iを生成するステップをさらにコンピュータに実行させ、
前記割り付けステップにおいては、前記補間数値データA'iに対して有限要素に割り付けるようにコンピュータに実行させることを特徴とする(21)〜(25)のいずれかに記載の多結晶固体の材料特性解析プログラム。
(27) 前記結晶方位のデータが、オイラー角であることを特徴とする(21)〜(26)のいずれかに記載の多結晶固体の材料特性解析プログラム。
(28) 前記有限要素が、正方形を含む長方形、正六角形、又は直交六面体であることを特徴とする(21)〜(27)のいずれかに記載の多結晶固体の材料特性解析プログラム。
(29) 前記三次元テンソルが弾性テンソルであることを特徴とする(21)〜(28)のいずれかに記載の多結晶固体の材料特性解析プログラム。
(30) 前記数値解析が、均質化法を用いるものであることを特徴とする(21)〜(29)のいずれかに記載の多結晶固体の材料特性解析プログラム。
(31) 前記(21)〜(30)のいずれかに記載の多結晶固体の材料特性解析プログラムを格納したことを特徴とするコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、EBSD法で得られる数値データを利用して、多結晶固体における結晶粒間の結晶方位関係や結晶内の方位を反映した、詳細でかつ誤差の少ない材料特性の三次元数値解析が可能になる。また、非晶質点や空隙等を含む多結晶固体であって、後方散乱電子回折像の解析不能点を含む場合でも、EBSD法で得られる数値データを利用して、多結晶固体における結晶粒間の結晶方位関係や結晶内の方位を反映した、詳細でかつ誤差の少ない材料特性の三次元数値解析が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態における最も簡単な材料特性解析システム(数値解析装置)及びEBSD装置の構成例を示すブロック図である。また、図2は、本実施形態に係る数値解析システム、数値解析方法、及び数値解析プログラムによって行われる処理手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態のシステムは、多結晶固体の後方散乱電子回折像から得られる多結晶固体の測定点に関する位置と結晶方位とを含む数値データAを用いて、多結晶固体の材料特性を解析する解析システムであって、例えば、図2に示した手順で材料特性を解析する。
【0019】
まず、ステップS1において、入力部111は、多結晶固体を構成する結晶粒に対して、EBSD装置101において1つの結晶粒について複数の測定点を含むように測定対象の各結晶粒を計測されて得た数値データAiをEBSD装置101から入力する。次に、ステップS2において、演算部116は、入力された数値データAiを有限要素に割り付ける。そして、ステップS3において、前記有限要素に三次元テンソルで表わされる物性値を与えて有限要素モデルを構築する。
【0020】
次に、ステップS4において、演算部116は、前記構築した有限要素モデルを用いて数値データAiを数値解析する。そして、ステップS5において、出力部115は、数値解析結果を出力する。なお、図2に示す各処理の詳細については後述する。
【0021】
また、本実施形態では、前述した処理に加えて更に、図3に示すような処理を行うことも可能である。図3は、本実施形態に係る数値解析システム、数値解析方法、及び数値解析プログラムによって行われる他の処理手順の一例を示すフローチャートである。
まず、図3のステップS1において、図2のステップS1と同様に、入力部111は、多結晶固体を構成する結晶粒に対して、EBSD装置101において1つの結晶粒について複数の測定点を含むように測定対象の各結晶粒を計測されて得た数値データAiをEBSD装置101から入力する。
【0022】
次に、ステップS2aにおいて、演算部116は、数値データAiの結晶方位の確からしさを測定評価値で判定する。そして、ステップS2bにおいて、判定結果に基づき、前記数値データAiの結晶方位を新たな結晶方位又は解析不能点に修正して数値データBiを付与する。次に、ステップS2cにおいて、付与した数値データBを有限要素に割り付ける。なお、ステップS3以降については、図2と同様であるため、説明は省略する。また、図3に示す各処理の詳細については後述する。
【0023】
従来、特許文献5のように、多結晶固体を構成する結晶粒に対して1つの結晶粒に1つの結晶方位データを与えて、有限要素分割する手法がとられているが、本実施形態では、前述したように、1つの結晶粒でも複数の結晶方位データを与えて、有限要素分割するので、実際の結晶粒内の角度情報を反映した数値解析結果が得られることになる。具体的には、次のようである。
【0024】
図4(a)は、従来における、1つの結晶粒に1つの結晶方位データを与えて、有限要素分割する手法を示す図である。EBSD法やSEM画像等により結晶粒1を定義し、結晶粒1を特定の数の要素2に分割し、EBSD法で求めた結晶方位3を代表値として各結晶粒に1つずつ与える。即ち、1つの結晶粒を複数の要素に分割しても、結晶粒内の各要素に与えられる結晶方位は、必ず同じ値である。ここで、同じ物性領域(1つの結晶粒)を、特定の数の要素で分割することは、数値解析のノイズと呼ばれる解析結果の異常値が生じることを防止するためである。
【0025】
一方、図4(b)は、本発明の実施形態の一例であり、図4(a)と同じように、1つの結晶粒を特定の数の要素に分割され、かつ、1つの結晶粒の各要素に異なる結晶方位が与えられている状態を示す図である。結晶方位は、例えば、EBSD法による測定点4の平均値を使用する。
【0026】
また、図4(c)は、本発明の実施形態の典型的な例であり、EBSD法による測定点4が、1つの結晶粒に複数点あり、測定毎に、固定要素5で要素分割した例を示す図である。図4(c)に示す例では、固定要素5に分割することによって、結晶方位を一要素毎に独立して与えても計算負荷が減少し、要素数を大幅に増やすことが可能になる。また、固定要素5の大きさは、EBSD法による測定点4より小さくなってもよく、各固定要素にはEBSD法による測定点4を補間した数値データが与えられる。さらに、立方体を含む直方体要素とすることにより、3次元解析への拡張も容易になる。
【0027】
本発明の実施形態では、詳細については後述するが、数値データAiの結晶方位の確からしさを測定評価値で判定し、判定結果に基づき、前記数値データAiで解析不能点と判定された結晶方位を新たな結晶方位又は解析不能点に修正して数値データBiを付与し、数値データBiを有限要素に割り付けることを行い、前記有限要素に三次元テンソルで表わされる物性値を与えて有限要素モデルを構築し、この有限要素モデルを用いて前記数値データBiを数値解析することがより好ましい。このようにすることにより、非晶質点や空隙を含む多結晶固体であっても、詳細でかつ誤差の少ない材料特性の三次元数値解析が可能になる。
【0028】
ここで、図3のステップS2bにおいて、数値データAiの中で解析不能点と判定された結晶方位を新たな結晶方位に修正する方法としては、図4に示すように、隣接する測定点の結晶方位データへ置き換える。ここで、隣接する測定点は、最隣接距離の点とするのが好ましい。なお、最隣接距離となる点が複数ある場合には、複数点の平均値を採用するのが好ましい。また、データの修正において、解析不能点を非晶質又は空隙として関連づけることができる。さらに、非晶質又は空隙として関連付ける数値データBiを均質体として取り扱えるデータにすることもできる。
【0029】
ここで、多結晶固体とは、例えば、金属やセラミックス等の結晶粒の集合体で構成される固体であり、同じ結晶相の粒の集合体(単相)だけでなく、異なる結晶相の粒の集合体(多相)も含むものである。すなわち、多結晶固体は、EBSD法で結晶方位を反映した解析を行うことができる結晶が1種以上ある固体である。さらに、前記結晶相の粒の集合体に、非晶質や空隙が共存する場合も含むものとする。具体的には、EBSD装置で解析可能な金属やセラミックス等の結晶粒の集合体で構成される固体である。
【0030】
図2及び図3のステップS1において、EBSD装置101から入力される数値データAiは、多結晶固体の複数点のEBSD像から得られる結晶方位と結晶方位の位置とを少なくとも含んでおり、EBSD法を利用して前記多結晶固体を構成する結晶粒に対して1つの結晶粒について複数の測定点を含むように測定対象の各結晶粒を計測して得られたものである。具体的には、EBSD装置101において、SEMの電子線スポットを点状に連続的に多結晶固体上を走査させながら各回折像をカメラ上に結像し、結像した像をコンピュータ106で画像解析を行い、あらかじめ仮定した一つ以上の結晶系を用いたシミュレーションによるパターンとの比較によって結晶方位を決定する。EBSD法による測定時のSEMの電子線スポットを走査する方法としては、例えば、正方格子状に走査するタイプのものと三角格子状に走査するタイプのものとが挙げられるが、どのような走査方法でもよい。
【0031】
以上のようなEBSD法による測定により、少なくとも結晶方位情報と、結晶方位の位置情報と、結晶方位付けの確からしさを表す測定評価値とが得られる。すなわち、本実施形態に係る数値データAiが得られる。ここで、結晶方位の位置情報とは、例えば、座標値の情報である。結晶方位情報と結晶方位の位置情報とに関する数値データをマッピングすると、個々の結晶粒の形態及び方位が分かり、それらの集合組織も分かる。
【0032】
EBSD法によって得られる数値データAiは、前述のように、個々の座標毎にEBSD像の解析で前提とした結晶構造の正しい結晶方位情報が得られた点とそうでない点とが混在する場合がある。すなわち、数値データAiには、解析不適切データや解析不能データが混在する。また、非晶質や空隙が存在する試料では、非晶質領域や空隙の部分が擬菊池パターンを用いての指数付けができないため、結晶方位データが付与されないデータと、カメラの光学素子等のノイズによって、誤って方位付けされた点が数値データAiに混在することになる。
【0033】
EBSD像の解析において想定した結晶相で正しく方位付けされたものだけを含む数値データであれば、その数値データをそのまま数値解析モデルの作成に利用できる。しかしながら、通常は、前述のような数値データとなるので、そのまま使用すると、数値解析で大きな計算誤差をもたらす。
【0034】
そこで本発明者らは、前記通常の数値データAiから、数値データAiに含まれる結晶方位の確からしさを判定する測定評価値に基づいて、後方散乱電子解析像の解析不適切点や解析不能点に関するものを判定し、前記数値データAiで判定された結晶方位を新たな結晶方位又は解析不能点に修正して数値データBiを付与して取り扱うことが、数値解析モデルの作成に利用するためは有効であることを見出した。本実施形態では、図3のステップS2aにおいて、結晶方位の確からしさを判定する測定評価値として、結晶方位と結晶方位の位置との各測定点に付随されている評価値を使用する。
【0035】
以下、図3のステップS2aにおける新たな結晶方位又は解析不能点に修正する方法を示す。
対象とする材料がEBSD像の解析できる結晶相で全て構成される場合、EBSD測定から得られる数値データAiには、EBSDパターンが明瞭でないことによって結晶方位付けできないデータ、及びカメラノイズが加わって誤った結晶方位付けされたデータが、EBSD像の解析不能として本来の結晶方位とは異なる数値データとして含まれる。この原因は、表面に凹凸があって電子線が妨げられたり、研磨歪が残留したりする等の試料調製の問題に因ったり、電子線スポットが結晶粒界に当たったりすることによる。
【0036】
ステップS2aにおいて、数値データAiから前記のようなEBSD像の解析不適切データや解析不能データを選別するには、隣り合う測定点の結晶方位データの角度差とその角度以下で接触している測定点の個数とを閾値とすることにより可能である。このようにして選別された数値データを、EBSD像の解析不能物として、特定の数値に置き換えて、数値データBiとする。
【0037】
さらに、次のようにすることも可能である。隣り合う点の方位差が予め定められた閾値C以上の角度であり、予め定められた閾値Dの個数以下で孤立している点が存在する場合、これをEBSD像の解析不能点(解析不適切点)として扱い、その孤立した周囲の結晶方位の確からしさを表す測定評価値が最も高い点の結晶方位データに置き換える。この処理を、方位差が閾値C以上の角度で、閾値Dの個数以下で孤立している点がなくなるまで続けることによって、全ての点が本来の結晶方位に結晶方位付けされ、数値データBiとして、数値解析モデルに使用できるようになる。
【0038】
このように、数値データBiを数値解析モデルで使用することによって、数値計算上の誤差をなくすことが可能になる。なお、閾値Cの値、及び閾値Dの個数は、結晶粒の大きさや分布に基づいて決められるのが望ましい。閾値C若しくは閾値D、又は閾値C及び閾値Dの決定は、EBSD装置101から得られる数値データを利用したマッピングから行うことができ、さらに、材料特性解析システム、材料特性解析方法、及び材料特性解析プログラムに含ませることもできる。
【0039】
対象とする多結晶固体が、前記と同様なEBSD像の解析ができる結晶相と、EBSD像の解析ができない結晶相、非晶質相、又は空隙とが存在する場合、EBSD法により得られる数値データAiには、前述と同様に、EBSDパターンが明瞭でないことによって結晶方位付けできない点と、カメラノイズが加わって誤った結晶方位付けがなされた点とが含まれる。これらの点はEBSD像の解析不適切点や解析不能点として、本来の結晶方位とは異なる数値データとして含まれる。誤った結晶方位付けがなされる理由としては、EBSD像の解析ができない結晶相、非晶質相、又は空隙であるのにカメラノイズ等によって偶発的に前提結晶質相の方位付けがされるためである。
【0040】
したがって、EBSD像で解析できる結晶相におけるEBSD像の解析不能点と、EBSD像の解析できない結晶相、非晶質相、及び空隙領域とを数値データAiから選別する方法としては、結晶方位の確からしさを判定する測定評価値、EBSD像で解析できる結晶相の結晶粒の大きさ、及び、それ以外の相の大きさと分布で判定するのが好ましい。
【0041】
結晶粒、空隙分布を反映した解析を行う場合、必然的にEBSDの測定間隔、電子線のスポットをこれらの大きさより十分小さくとる。一方、カメラノイズ等によって偶発的に指数付けされる点は孤立してランダムである。したがって、EBSD像の解析できる結晶相におけるEBSD像の解析不能点は、結晶粒に対して極めて小さい。一方、EBSD像の解析できない結晶相による解析不能となる点、非晶質相による点、空隙による点は、前記に比べて大きくなる。したがって、例えば下記のような方法を取ることができる。
【0042】
例えば、隣り合う点の方位差が予め定められた閾値C以上の角度で、予め定められた閾値Dの個数以下で孤立している点が存在する場合、これをEBSD像の解析不能な点として扱い、その孤立した点の周囲の結晶方位の確からしさを判定する測定評価値が最も高い点の結晶方位データに置き換えると共に、結晶方位の確からしさを判定する測定評価値も置き換える。
【0043】
前述の対象とする多結晶固体が、EBSD像が解析できる結晶相で全て構成される場合では、これを孤立点がなくなるまで繰り返せばよい。一方、EBSD像の測定範囲内に、EBSD像の解析できない結晶相、非晶質相、又は空隙が存在する場合は、前記繰り返し回数を予め定めた回数(閾値E)とする。前記の閾値Eを定めなければ、EBSD像が解析できる実際の結晶相以外の領域全てのデータが置き換えられることになる。このようして得られたものを数値データBiとして、数値解析モデルの作成で使用すると、EBSD像の解析できない結晶相、非晶質相、又は空隙もEBSD像が解析できる結晶相として扱われ、数値計算結果に大きな誤差をもたらすことになる。
【0044】
前記繰り返し回数を閾値Eまで行った後は、結晶方位の確からしさの測定評価値が予め定めた値(閾値F)以下の点は、EBSD像の解析できる結晶相以外として、EBSD像の解析できない結晶相、非晶質相、又は空隙として関連づける。
【0045】
前記関連付けは、数値計算を行うための離散化モデルを作成する際、EBSD像が解析できない結晶相、非晶質相、又は空隙として扱える特定の値に数値データを置き換えればよい。例えば、結晶方位データを現実的に取りえないあらかじめ定められた数値に置き換えて関連付けてもよい。また、結晶方位データを変更しなくても、各数値データに特定の符号を付与することで関連付けることもできる。また、閾値C〜Fは、EBSD測定条件、解析対象によって異なるため、処理結果を参照しながら、数値計算誤差が最も少なくなるよう調整可能であることが望ましい。
【0046】
結晶方位を表す形式は、三次元の結晶方位を一意で決定できる形式であれば、どのような形式で表しても構わない。特に、結晶方位を、測定点での試料座標と結晶座標との関係をオイラー角で表現したものとするのが好ましい。オイラー角は、試料に固定された座標系(結晶座標系)の間の回転関係を表すもので、3つの角度で表せられ、これらの数値により、試料座標系と結晶座標系の角度が定義される。オイラー角には幾つかの定義があるが、どれを用いても構わない。
【0047】
結晶方位の確からしさを判定する測定評価値には、例えば、回折パターンのイメージクオリティ(IQ)や信頼性指数、フィット指数(フィット値)、相同定信頼性(Mean angular deviation、MAD)等が挙げられる。このような測定評価値の中で、信頼性、イメージクオリティ(IQ)、フィット指数のいずれか1種以上を利用するのが、前述の数値データBiを適切に選別できる点でより好ましい。
【0048】
IQ値は、回折線の強度を点に変化するHough変換後のピーク強度をあらわすパラメータである。一方、信頼性指数は、例えば、検出された擬菊池パターンのバンドの中から一定の本数のバンドを全ての組み合わせで選び、結晶面間の角度関係の比較をし、許容誤差に入った数を数え(票数)、最も票数の多かった解をこのパターンの結晶方位とし(Voting法)、その票数に対して二番目結晶方位の票数の比で表す指標である。この場合、信頼性指数は、0から1の数値となり、1が最も信頼性が高いと評価される。これ以外にも、Voting法により得られた結晶方位からそれぞれのバンドがどの位置に現れるべきかを計算し、実際に検出されたバンド位置とのずれを指標とする方法等が挙げられる。
【0049】
フィット指数は、結晶系データから計算によって得たパターンと検出したパターンの一致具合を現わすパラメータである。MADとは、実際に検出されたEBSDのバンドと理論上のバンドとの角度差を表しており、MADが小さいほど解析結果の精度が良いことを表す。
【0050】
従来の方法では、光学顕微鏡像やEBSD法で得られたデータから、結晶方位の回転角や回転軸等の人為的な定義に基づいて結晶粒界を定め、結晶粒毎に方位データを入力するが、本発明の実施形態では、結晶粒の境界を人為的に定める必要はなく、最終的に、空隙以外の測定点は、特定の物質で定義づけられる。勿論、共通軸や回転角から結晶粒界を定義して、有限要素分割する際に結晶粒界が滑らかになるよう曲線、あるいは曲面近似するデータ変換を行ってもよい。この処理は、次の数値解析のモデリングを行うプリプロセッサで行われるのが望ましい。
【0051】
本実施形態では、前述のように処理された数値データBiを用いて有限要素としてモデリングを行う。数値データBiは、サーフェースデータ、あるいはボリュームデータとしてレンダリングされる。EBSD法により得られ、上記処理してなる数値データBiは、表面二次元データであるのでそのままでは二次元体としてレタリングされる。
【0052】
そこで、図3のステップS2cでは、研磨や集束イオンビーム(FIB, Focused Ion Beam)装置を利用して一定間隔で試料の表面を削り取りながら同数値データを取得し、同処理をした数値データBiを、三次元体にレンダリングすることができる。そして、レンダリングされた数値データBiを要素分割する。なお、要素分割の方法、及び要素の形状については、特に限定するものではない。
【0053】
また、結晶粒界、物質界面の平滑化処理を行ってもよい。先に述べたように、電子線は、正方格子状に走査する場合と三角格子状に走査する場合とがある。各点に付随する結晶方位、物質に関する数値データは、前記要素分割の方法に応じて補間処理させる。
【0054】
また、図2のステップS2及び図3のステップS2cにおいて、数値解析モデルとして容易に要素分割する方法として好ましいのは、有限要素が、正方形を含む長方形、正六面体、又は直交六面体(ボクセル:Volume Pixel)として要素分割する方法である。正方格子状に走査される点は、図5に示すように、重心点に測定データを当てる形で、補間しなくても正方形、あるいは立方体、直方体要素として扱える。
【0055】
図5は、有限要素を立方体要素として扱った例を示す図である。直交六面体要素とする利点は、三次元解析への拡張性であり、本実施形態においては、ボクセル要素分割が好ましい。また、この要素分割は、要素数が大きくなっても計算負荷が小さく、結晶粒内の結晶方位の揺らぎを反映した解析には有用である。正三角格子上に測定されたデータの場合、正六面体で補間なしで要素分割可能である。なお、6は要素の重心である。図6のように正六面体に要素分割させることの利点は、結晶粒界を滑らかに表現することが可能な点である。正方形を含む長方形、正六面体、あるいは直交六面体で要素分割する方法は、結晶粒界表現、計算精度向上、計算負荷の軽減等で、補間が必要な場合でも単純な補間で済む。
【0056】
前述したように、図2及び図3のステップS3、S4では、前記有限要素に三次元テンソルを与えて有限要素モデルを構築して数値解析し、多結晶固体の材料特性を解析する。本実施形態では、多結晶固体の三次元空間内の結晶方位を取り込んでこれを解析するものなので、物質定数は多結晶固体の平均的な値ではなく、三次元テンソルを入力する方が良い。例えば、弾性解析や熱伝導解析などでは、有限要素に三次元テンソルを与えて有限要素モデルを構築する。物質定数は、文献等に記載されているものであってもよく、公認されたものであってもよく、測定して得られたものでもよい。また、バンド計算や分子軌道計算等の第一原理計算から求めた物性定数を使用することもできる。
【0057】
数値データBiの中で信頼性指数が閾値以下であり、空隙又は非晶質と判定される領域に対しては、空隙と判断される場合には物質がないものとして実験値等を入力し、非晶質と判断される場合は、等方的な物質として実験値等を入力すればよい。空隙と非晶質との区別に関しては、数値データAiをマッピングして画像化したものを画像解析して判定できる。また、複数の測定評価値を組み合わせても判定できる。
【0058】
以下、例として、多結晶固体の弾性解析の場合の簡単な例について説明する。
各々の結晶粒の弾性係数には異方性があり、弾性歪みは応力が加えられる方向によって異なる。弾性係数は、4階のテンソル量であり、弾性係数テンソルは81個の成分を持つことになるが、対称性と相反定理より最終的に応力成分(σ)と歪成分(ε,γ)の関係は以下の数1に示す式のように表され、弾性係数(E)の独立な成分は21個となる。
【0059】
【数1】
【0060】
弾性係数の独立な成分数は、結晶が対称性を持つことで21個から更に少なくなる。最も対称性の乏しい三斜晶は、21成分が独立のままであるが、斜方晶では9、正方晶では6、立方晶では3となる。銅や鉄などの立方晶のみを扱う場合は3個の独立変数を有限要素モデルデータに与える。より対称性の低い材料を有する材料を扱う場合は、最大21個の独立変数を有限要素モデルデータに与える。なお、弾性計算を行う場合の独立変数としては、前記数1に表記される弾性係数(スティフネス)でもよいし、応力と歪とを入れ替えたコンプライアンスとしてもよい。
【0061】
EBSD像から得る数値データAiに、2種類以上の物質が含まれる場合には、それぞれについて前述した弾性係数が有限要素モデルデータに与えられる。空隙については物質が存在しないものとして扱い、非晶質等の均質体として扱ってもよい部分については、等方的な物質として物質定数を与える。また、物質定数は、結晶体と同様、三次元弾性テンソルの形で与えてもよい。弾性解析では、等方性固体であれば、縦弾性係数、横弾性係数、ポアソン比等の3つの独立変数とすればよい。空隙の弾性係数は、0である固体として扱ってもよい。
【0062】
EBSD法で出力される物質が2種以上ある場合は、EBSD法から得られる物質データに基づいて、前述の弾性係数を物質の数に応じて与える。
【0063】
本実施形態におけるステップS4の数値解析は、EBSD法で測定した領域のみを解析してもよいし、他の材料と組み合わせてもよい。
【0064】
EBSD法で測定した領域のみを解析する場合、例えば、測定した多結晶固体の長方形、あるいは直方体のモデルの一端を拘束して、反対面に一定の変位を与え、ソルバーによって計算し、その結果をポストプロセッサで粒界にかかる応力の大きさを表示して解析できる。また、端部にかかる応力の平均値を計算するサブルーチンをポストプロセッサに設けることによって、変位と応力からヤング率が計算でき、結晶粒分布、結晶粒の配向度を反映した解析ができる。
【0065】
EBSD法で測定した微小領域と、他の巨視的なモデルとを組み合わせて解析させる場合には、組み合わせるモデルは、均質体として扱ってもよいし、EBSD法で測定した結晶方位情報を持った別の不均質体モデルと組み合わせてもよい。大きさが著しく異なるモデルを組み合わせる場合は、重合メッシュ等の手法を用いることもできる。同じ物質で構成するモデルを均質体としてモデリングし、結晶粒の異方性を考慮した詳細な解析をしたい部分のみを、EBSD法から得られる数値データを使ってモデリングした微視的なモデルとし、重合メッシュ法を用いて重ね合わせて、解析することもできる。
【0066】
また、EBSD法から得られる数値データからモデリングされた微視モデルを使って、実部材のような巨視的モデルの解析を行うこともできる。前記解析には、均質化法を使用するのが好ましい。均質化法の使用について、以下に説明する。
【0067】
均質化法では、被解析物の構造体(グローバルモデル)を、それに比べて十分小さなローカルモデルを代表体積要素(RVE)として、周期的に積み重なった集合体として扱い、ローカルモデルの平均化された物性値を用いて構造体の数値解析を行う。本実施形態では、このローカルモデルを、EBSD法で得られる数値データを使用して作成する。モデルの作成方法は、前述した方法と同じである。
【0068】
弾性解析のような線形力学問題では、ローカルモデルの物性値は弾性定数であり、均質化弾性定数(EH)と呼ばれる。均質化弾性定数は、周期境界の下での自己平衡方程式から導出されるが、本実施形態では、EBSD法で得られる結晶方位に関する数値データ、及び構成物質の弾性テンソルと弾性係数から計算される。得られた均質化弾性定数は、弾性テンソルとして、結晶配向性を反映したものとして得られる。
【0069】
均質化解析では、均質化構造体の巨視的な方程式とローカルモデルの微視的な方程式を、ローカルモデルの周期性を入れることによって独立かつ数学的に連成させて解を得る。すなわち、部材の有限要素モデルであるグローバルモデルについて、ロ−カルモデルをRVEとして、RVEの均質化弾性定数を用い、弾性解析を行う。次いで、算出された歪値(グローバル変位)から、ロ−カルモデル内に発生する局所的応力(ローカル応力)を計算する流れとなる。グローバルモデルの作成は、有限要素法と同様にCADを試用してもよいし、イメージベースモデリングの手法を用いてもよい。
【0070】
均質化法の利点は、構造体の力学計算結果からRVEへの逆計算が可能である点である。すなわち、構造体の任意の部分における局所的な応力を求めることが可能である。したがって、本実施形態において、巨視的モデルの解析する場合に、均質化法の使用は、微視的な不均質性を反映した解析を可能にするため、好ましい手法である。
【0071】
図2及び図3のステップS5においては、以上のような手順で解析した結果を出力部115から出力する。出力先としては、ネットワーク等を介して他のコンピュータへ転送してもよく、接続された印刷装置に出力結果をプリントアウトしてもよい。
【0072】
本発明の実施形態において、SEM及びEBSD装置101から取り込んだ回折画像から材料物性を解析するには、材料物性解析プログラムを実行可能な1つ又は2つ以上のコンピュータが使用される。例えば、次のようなコンピュータである。コンピュータは、CPU(Central Processing Unit)によって装置全体が制御されている。CPUには、バスを介してRAM(Random Access Memory)、ハードディスクドライブ(HDD: Hard Disk Drive)、グラフィック処理装置、入力インターフェース、及び通信インターフェースが接続されている。
【0073】
RAMには、CPUを実行させるOS(Operating System)のプログラムやアプリケーションプログラムの少なくとも一部が一時的に格納される。また、RAMには、CPUによる処理に必要な各種データが格納される。HDDには、OSや、本発明の実施形態に係る材料物性解析プログラムなどのアプリケーションプログラムが格納される。
【0074】
グラフィック処理装置には、モニタが接続されている。グラフィック処理装置は、CPUからの命令に従って、画像を表示部113のモニタの画面に表示させる。入力インターフェースには、操作部112のキーボードとマウスとが接続されている。入力インターフェースは、キーボードやマウスから送られてくる信号を、バスを介してCPUに送信する。通信インターフェースは、ネットワークに接続されている。通信インターフェースは、ネットワークを介して、他のコンピュータとの間でデータの送受信を行う。
【0075】
以上のようなハードウェア構成のコンピュータに材料特性解析プログラムを実行させることにより、コンピュータが材料特性解析装置として機能する。また、材料特性解析プログラムをコンピュータに供給するための手段、例えば該プログラムを記録したCD−ROM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体又は該プログラムを伝送するインターネット等の伝送媒体も本発明の実施形態することができる。上記、プログラム、記録媒体、伝送媒体及びプログラムプロダクトは、本発明の範疇に含まれる。
【0076】
以下、本発明の実施形態に係る具体的な例として、EBSD装置101で実際に測定したデータに基づいて説明する。
(例1)
図7は、引抜加工で作製された直径約23μmの金線について、長さ方向の中心軸を通る断面をEBSD法で測定した結果を結晶方位でマッピングしたものを示す写真である。ワイヤ周部の結晶方位を出すために、樹脂で埋め込んで、アルゴンイオンで研磨して表面を出し、測定は樹脂部にまたがって測定した。EBSD測定では、日本電子製FE−SEM(JSM−6500F)に付設したTSL社のEBSD装置を使用して測定した。
【0077】
EBSD測定は、0.05μm間隔で電子線を当てて25μm×20μmの領域について行った。電子線は三角格子状に走査しており、測定点数は約20万点である。図7では、伸線方向(長さ方向)の逆極点で表示しており、それぞれの点の方位データから、材料組織をカラー表示したものを白黒の濃淡に変換して示している。方位付けなされなかった点は黒色の点として表記されている。図7に示すように、この線材は、線材断面法線方向に<111>の方位へ配向しているが、この方位以外にも、<001>の方位が混在し、また結晶粒が微細で様々な方位が複雑に分布している。また、加工組織であって繊維状の結晶粒内で結晶方位が揺らいでいる。このような組織を従来の方法でモデル化、離散化して、数値計算させるのは極めて困難である。
【0078】
金線は緻密であり、数値解析を行うモデルとしては、全てが指数付けされていることが理想であるが、一部方位付けできない点(解析不能点)や明らかに間違って方位付けされている点(解析不適切点)が散在している。
【0079】
データの一部として、EBSD測定領域のうち金以外の物質が含まれない0.4μm×0.4μm角内の測定点数77点データ列(数値データAi)を表1及び表2に示す。左側から第1〜第3列はそれぞれ、オイラー角θ、φ、ψ(ラジアン表記)であり、結晶方位情報を示している。第4、5列は、位置情報であり、それぞれ、X、Y座標で示している。また、第6列はイメージクオリティ値であり、第7列は信頼性指数である。第8列は材料番号であり、今回の測定では、前提とする結晶相が、金だけであるため、全て0である。第9列は、Detector Signal値であり、SEM像に相当する信号データである。また、第10列は、Fit値である。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
図8は、図7の金線部の一部であり、金線長さ方向の逆極点表示を示す拡大図である。図8において、信頼性指数が、0.3以下の点を黒色で示している。信頼性指数が低い点においても、方位付けはなされているが、EBSD像の解析不能点も含まれる。EBSD像の解析不能点は、前述のように、局所的に良質な回折像が得られないため、信頼性指数だけで処理すると本来と異なる方位付けされた点や、方位付けに十分なEBSDパターンが得られず、方位付けできなかった点である。したがって、これらは、結晶粒に比較して小さく散在しており、また信頼性指数が小さい点であるため、この特徴を使用してノイズ点を分離した。
【0083】
閾値として、ここでは、結晶方位差5°、接続点数10を用いた。すなわち、隣接する方位差が5°以下で7点以上つながっている点を判定して、これらの点をその最も信頼性指数の高い値に置き換えた。これにより、金結晶相内の信頼性指数の小さなノイズ点の信頼性指数は置き換えられる。
【0084】
次いで、同じ閾値を、結晶方位差5°、接続点数10を用いて、結晶方位を置き換える修正を実施した。隣接する方位差が5°以下で7点以上つながっていない点を判定して、これに該当する孤立した点、またはその集合のその外層の点を、周囲の信頼性指数の高い点の結晶方位と置き換えた。以上の修正を実施したデータ(数値データBi)を表3及び表4に示す。また、この領域の逆極点を表示した図を図9に示す。
【0085】
【表3】
【0086】
【表4】
【0087】
表3及び表4のデータから分かるように、この領域内では全ての点で信頼性指数が高い値に置き換え、また、下線で示した信頼性指数が低かった点については、ノイズ点として結晶方位データを置き換えた。
【0088】
図10は、数値データBiとして処理された後の全領域の逆極点表示されたものを示す写真である。図7及び図10に示すように、直径2μm程度の金以外の相の部分8が存在する。空隙や周囲の樹脂の部分7は、通常、金の結晶方位の指数付けは行わないが、金の間違った方位データが当てられている点が多い。これらの点を金として数値計算した場合、大きな誤差をもたらすことになる。しかし、金以外の相や周囲の樹脂の部分7は、結晶方位データが付けられていても、付与されている結晶方位データが一点一点ばらばらであるため、信頼性指数が前記の処理で置き換えられることはない。
【0089】
したがって、ここでは、信頼性指数0.3以上の点のみを、金の結晶方位データとして扱って、以降の有限要素モデルの作成に反映させた。それ以外の方法として、信頼性指数が0.3以下の点のオイラー角をオイラー角として取りえない特定の一定値に置換してもよい。第8列の材料情報データを数値データAで使用していない数値に変換することによって、有限要素モデルを作成する際に、金以外の相として、モデルに反映可能なように符号付けをしておけばよい。以上のようにして、EBSD測定から得た数値データAを数値データBiへ修正する処理を実施した。
【0090】
次に、修正した数値データBを用いて、数値解析を行うために離散化を行った。本例の材料組織は複雑であり、結晶粒内の結晶方位の揺らぎまで反映した解析をするには、測定間隔と同じオーダーで離散化する必要がある。この場合、有限要素が、正方形を含む長方形、正六面体、又は直交六面体(ボクセル:Volume Pixel)として、固定要素で要素分割する方法が適している。本例でのEBSD法の測定では、電子線は、三角格子上に走査されたため、三角格子の格子間隔と同じ中心間隔で正六面体要素分割すると補間処理が必要ない。但し、補間処理を実施して、正方形で要素分割してもよい。三次元の数値解析を行う場合は、ボクセル分割してもよい。
【0091】
金は立方晶であるため、弾性数値解析を行う場合、弾性スティフネスとして、数1に示した式のE11〜E66には、E11=E22=E33=182(GPa)、E12=E13=E23=154(GPa)、E44=E55=E66=41(GPa)とそれぞれ与え、E14、E15、E16、E24、E25、E26、E34、E35、E36、E45、E46、E56には0を与えた。
【0092】
なお、図10の試料の部分8が空隙であれば、材料が存在しないものとして扱う。一方、固体であった場合は、その弾性係数を与える。この場合、この部分は等方体として扱えばよく、独立変数は3である。また、縦弾性係数、横弾性係数、ポアソン比の実験値を与えてもよい。また、結晶相と同様にスティフネス等の弾性マトリックスで与えてもよい。一方、周囲の樹脂の部分7は、本来存在しない領域(数値解析しない領域)であるから、材料が存在しないものとして扱い、要素を形成しない。
【0093】
金線の用途の一つである半導体実装用のボンディングワイヤでは、樹脂モールド時の耐ワイヤ流れ特性に対する指針として、長さ方向のヤング率が重要な指標となる。したがって、この離散化モデルを用いて、例えば、図10の下辺に相当するモデルの下辺部を拘束し、ワイヤの上辺の長さ方向に一定の変位を与え、上面の応力を数値計算することによって、複雑な組織を有する結晶配向性を反映したヤング率が得られる。
【0094】
また、図10の下辺に相当するモデルの下辺部を同様に変位拘束し、図10のワイヤ上方側面の一部にワイヤ径方向に応力、または変位を与え、変位、応力解析することにより、ワイヤの力学特性の軸対象性を解析することができ、ボンディング時のワイヤ倒れ等の検証等に利用できる。
【0095】
(例2)
図11は、めっきで作製された銅について、EBSD法で測定した結果を結晶方位でマッピングしたものを示す図であり、紙面法線方向の逆極点で表示している。EBSD測定は、Zeiss社製FE−SEM(Ultra55)に付設したTSL社のEBSD装置を使用して測定した。EBSD測定は、0.05μm間隔で電子線を当てて15μm×15μmの領域について行った。電子線は三角格子状に走査しており、測定点数は約9万点である。
【0096】
図11の黒色で表示された部分の殆どは、結晶方位付けできなかった点(EBSD像の解析不能点)である。この測定試料は表面をコロイダルシリカで研磨して仕上げているが、研磨時の表面歪が十分取りきれていないために、EBSD像の解析不能点が生じている。
【0097】
図12は、解析領域から抽出した一部分の0.5μm×0.5μm角の領域を示す図である。結晶方位付けされなかった点は黒色で表示されている。図12に示すように、EBSD像の解析できなかった部分は、三重点を含む結晶粒界に存在し、電子線スポットが粒界にまたがって当たったため、複数の結晶粒から回折があり、一つの方位付けがなされなかったことが原因として挙げられる。
【0098】
前述した点を実際とは異なるものとして扱うと、正確な数値解析結果が得られない。例えば、解析できなかった点を空隙として扱った場合、弾性解析では、応力集中により異常応力が生じたり、熱伝導解析では、熱が伝わらなかったりする等の支障をきたす。
【0099】
ここで、この領域のデータ(数値データAi)を表5〜表7に示す。データ形式は、例1と同じである。すなわち、左側から第1〜第3列はそれぞれ、オイラー角θ、φ、ψ(ラジアン表記)であり、結晶方位情報を示している。第4、5列は、位置情報であり、それぞれ、X、Y座標で示している。また、第6列はイメージクオリティ値であり、第7列は信頼性指数である。第8列は材料番号であり、今回の測定では、前提とする結晶相が、銅だけであるため、全て0である。第9列は、Detector Signal値であり、SEM像に相当する信号データである。また、第10列は、Fit値である。
【0100】
【表5】
【0101】
【表6】
【0102】
【表7】
【0103】
結晶方位付けされたかった点(EBSD像の解析不能点)は、信頼性指数の列が−1となっており、オイラー角が12.56637と実際とは異なった数値が付与された。また、表7の下線で示した点もEBSD像の解析不能点であり、結晶方位付けなされているが、信頼性指数が0であり、方位も妥当でないと判断した。EBSD像の解析不能点は、結晶粒に比較して小さく散在しており、また信頼性指数が小さい点であるので判別される。
【0104】
閾値として、ここでは、結晶方位差5°、接続点数2を用いた。すなわち、隣接する方位差が5°以下で2点以上つながっている点を判定して、これに該当する孤立した点、またはその集合のその外層の点を、周囲の信頼性指数の高い点の結晶方位と置き換えた。例1では、解析する金以外の相や、物質外の樹脂領域があったことから1回の処理だけを行ったが、今回の試料は緻密な銅単相であるので、隣接する方位差が5°以下で2点以上つながっている点がなくなるまで、前記処理を繰り返した。
【0105】
そして、処理後の図12に相当する領域を図13に示す。また、処理後のこの領域のデータ(数値データBi)を表8〜表10に示す。
【0106】
【表8】
【0107】
【表9】
【0108】
【表10】
【0109】
上記結果、信頼性指数のデータが−1であった方位付けできなかった点の信頼性指数データが0に書き換えられるとともに、オイラー角も周囲の点の方位を基に数値データを書き換えた。また、表10の下線で示した点のオイラー角を書き換えた。また、図13に示すように、EBSD像の解析不能である部分が妥当なデータに書き換えられたことがわかる。
【0110】
以上の数値データBiに基づいたEBSD測定領域全体の組織を図14に示す。方位付けされなかったデータが消失して、全て何らかの結晶方位を有する銅として修正された。
【0111】
めっき銅の用途の一つに携帯電話のヒンジ部の配線に使用されるフレキシブル銅張積層版がある。これは、ポリイミド等の樹脂と銅箔との複合体である。そこで、本例で修正した数値データBiを使用して、測定領域を代表体積要素(RVE)として、この複合体を構成材料の一部として弾性解析を行う、均質化法による解析手順について示す。
【0112】
均質化法では、被解析物の構造体(グローバルモデル)を、それに比べて十分小さなローカルモデルをRVEとして、周期的に積み重なった集合体として扱い、ローカルモデルの平均化された物性値を用いて構造体の数値解析を行う。本例では、このローカルモデルを、数値データBiを使用して作成した。
【0113】
離散化する方法としては、どのような方法を用いてもよいが、本例の材料組織も複雑であり、結晶粒内の結晶方位揺らぎまで反映した数値解析を行うには、測定間隔と同じオーダーで離散化する必要がある。この場合、有限要素が、正方形を含む長方形、正六面体、又は直交六面体(ボクセル:Volume Pixel)として、固定要素で要素分割する。
【0114】
本例でのEBSD法の測定では、電子線は、三角格子上に走査されたため、三角格子の格子間隔と同じ中心間隔で正六面体に要素分割すると補間処理が必要ない。但し、補完処理を実施して、正方形に要素分割してもよい。また、三次元の数値解析を行う場合は、ボクセル分割してもよい。
【0115】
入力する弾性データは、弾性マトリックスであり、銅は立方晶であるから、弾性スティフネスとして、数1に示した式のE11〜E66には、E11=E22=E33=165(GPa)、E12=E13=E23=119(GPa)、E44=E55=E66=74(GPa)と与え、E14、E15、E16、E24、E25、E26、E34、E35、E36、E45、E46、E56には0を与える。
【0116】
均質化法では、この弾性マトリックスのデータとEBSD法で得られる結晶方位に関する数値データ、本例ではオイラー角を用いて、周期境界の下での自己平衡方程式から、均質化弾性定数(EH)と呼ばれる弾性マトリックスが得られた。これは、RVEの結晶配向性を反映したものであり、測定した銅自体の弾性異方性の数値解析結果が得られた。
【0117】
さらに、構造体の巨視的な方程式とローカルモデルの微視的な方程式を、ローカルモデルの周期性を入れることによって独立かつ数学的に連成させて解を得る。図14に示したような組織の、銅とポリイミドで構成される携帯電話ヒンジ部や液晶ドライバ等に用いられるフレキシブル導体部材の屈曲特性を解析する場合、巨視的な有限要素モデル(グローバルモデル)を作成し、構成させる銅のEBSD解析で測定して離散化したローカルモデルをRVEとして、RVEの均質化弾性定数を用い、有限要素法等の手法で弾性解析を行う。この時、ポリイミドは均質体として、弾性係数が与えられる。
【0118】
次いで、算出された歪値(グローバル変位)から、ロ−カルモデル内に発生する局所的応力(ローカル応力)を計算する。図15は、銅とポリイミドの積層板で構成された複合体のグローバルモデルに対して曲げ変形解析をした時の様子を示す図である。
図15において、9は、銅とポリイミドの積層複合体のグローバルモデルにおける銅部であり、10は、銅とポリイミドの積層複合体のグローバルモデルにおけるポリイミド部である。また、11は、結晶方位情報を持っためっき銅のローカルモデル(RVE)である。図15のように部材を曲げた時、結晶内に局所的にかかる応力を結晶の異方性を反映した数値解析結果が得られる。
【0119】
以上のように本実施形態によれば、EBSD法で得られる数値データを利用して、多結晶固体における結晶粒間の結晶方位関係や結晶内の方位を反映した、詳細でかつ誤差の少ない材料特性の三次元数値解析が可能になる。また、非晶質点や空隙等を含む多結晶固体であって、後方散乱電子回折像の解析不能点を含む場合でも、EBSD法で得られる数値データを利用して、多結晶固体における結晶粒間の結晶方位関係や結晶内の方位を反映した、詳細でかつ誤差の少ない材料特性の三次元数値解析が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】本発明の実施形態における材料特性解析システム(数値解析装置)及びEBSD装置の構成例を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係る数値解析システム、数値解析方法、及び数値解析プログラムによって行われる処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施形態に係る数値解析システム、数値解析方法、及び数値解析プログラムによって行われる他の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図4】結晶方位データの入力形態を示す図である。
【図5】本発明の実施形態において、有限要素を立方体要素として扱った例を示す図である。
【図6】本発明の実施形態において、有限要素を正六角形要素として扱った例を示す図である。
【図7】引抜加工で作製された直径約23μmの金線について、長さ方向の中心軸を通る断面をEBSD法で測定した結果を結晶方位でマッピングしたものを示す図である。
【図8】図7の金線部の一部であり、金線長さ方向の逆極点表示を示す拡大図である。
【図9】図8と同じ領域のデータ修正後の金線長さ方向の逆極点表示を示す拡大図である。
【図10】図7と同じ領域のデータ修正後の長さ方向のマッピングしたものを示す図である。
【図11】めっきで作製された銅について、EBSD法で測定した結果を結晶方位でマッピングしたものを示す図である。
【図12】図11の一部の拡大図である。
【図13】図12と同じ領域のデータ修正後の長さ方向の逆極点表示図である。
【図14】図13と同じ領域のデータ修正後の長さ方向の逆極点表示図である。
【図15】本発明の解析システムにおける均質化法による弾性解析のイメージ図であり、銅とポリイミドの積層板で構成された複合体のグローバルモデルに対して曲げ変形解析をした時の様子を示した図である。
【符号の説明】
【0121】
1 結晶粒
2 要素
3 結晶方位
4 測定点
5 固定要素
6 要素の重心
7 樹脂の部分
8 金以外の相の部分
9 銅部
10 ポリイミド部
11 ローカルモデル(RVE)
101 EBSD装置
102 材料特性解析システム
111 入力部
112 操作部
113 表示部
115 出力部
116 演算部
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶固体の材料特性解析システム、多結晶固体の材料特性解析方法、多結晶固体の材料特性解析プログラム、及び記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
有限要素法を始めとする数値解析手法は、力学計算、熱計算、電磁気計算等多方面に利用され、材料や部品等の特性や性能予測に応用されている。通常、数値解析では、解析対象を、計算機上で形状等を要素部分割して離散化し、モデリングされる。これに、弾性定数、応力−歪曲線、熱伝導率、透磁率等の物性値やパラメータと拘束条件等の初期条件を与えて数値解析される(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0003】
金属、セラミックス等の多結晶固体は、方向性を有する微小な結晶粒の集合体として構成され、上記のような数値解析する場合、その物性値は、結晶粒がランダムに集合した平均値を入力して計算する。前記物性値は、多くの場合、多結晶体の実験値が利用される。方向性を有する微小な結晶粒の個々の状態を反映した解析をする場合、個々の結晶の方位データを有限要素モデルに反映する必要がある。要素分割したそれぞれに方位データを与えるのは、非常に手間がかかり、困難であった。また、個々の結晶粒内にも結晶方位の分布がある場合もあり、そのような場合には、要素分割したそれぞれに方位データを与えるのは、益々困難となる。
【0004】
結晶粒の形状に関しては、CAD(Computer Aided Design)ソフト等を使用して人為的に入力、又は画像を通じてモデリング(Image-based Modeling)するという方法がある。また、ボルヌイ分割、第一原理計算等の数学的手法を用いて、直接計算機上に仮想的な多結晶固体を発生する方法もある。しかしながら、これらの方法では、加工、熱処理等のプロセスを踏んだ実際の材料である多結晶固体をモデル化することが難しい。すなわち、実際には結晶粒のアスペクト比、大きさの分布等、形態は複雑であり、現実の組織を代表する多結晶固体モデルを形成することは困難である。そこで、例えば、特許文献3には、被解析物のCT(Computer Tomography)画像を取得可能なX線装置や核磁気共鳴画像法(Magnetic Resonance Imaging、MRI)の撮像装置から得て、数値解析することが開示されている。
【0005】
一方、多結晶固体における個々の結晶粒の向きは、X線ラウエ法、後方散乱電子線回折(Electron Back-Scatter Diffraction、EBSD)、又は後方散乱電子回折像(Electron Backscattering Diffraction Pattern、EBSP)法等により、現実の多結晶固体から得ることができる。EBSD法は、走査型電子顕微鏡(SEM)の鏡筒内にセットした試料に電子線を照射した際に発生する電子線回折線をカメラに結像させ、結像した像を解析して、結晶方位を同定する方法である。前記像の解析は、想定した材料の結晶構造から予想される電子線回折線と、前記像と数学的に照合することによって行われる。結晶粒の僅かな傾きによっても大きく変化するため、得られる後方散乱電子回折像(擬菊池パターン)を解析すると、結晶粒の方位データを精度よく得られる。また、電子線を走査することによって、表面の方位分布を得ることができる。
【0006】
EBSD法は、組み合わせるSEM、カメラ等の能力にもよるが、現行で数十nmのオーダーの小さな点の結晶方位情報をmmのオーダーの領域にまたがって測定可能な方法であり、前記方向から得られるデータを数値解析に利用すれば、一般的に利用されている種々の多結晶固体について、個々の結晶方位、結晶粒内の方位分布を反映した材料特性解析ができる。EBSD法でよって得られたデータを使用して材料特性を数値解析した例としては、特許文献5、非特許文献1及び2に開示されている。
【0007】
特許文献5には、EBSD法によって被解析物から得られた結晶方位に関するデータを使用して、変形前後の三次元塑性ひずみの解析方法が開示されている。また、非特許文献1及び2には、方位電子顕微鏡(Orientation Imaging Microscope(OEM)解析)によって被解析物から得られた結晶方位情報に基づいて、有限要素法によって応力分布解析を行った例が示されている。
【0008】
【特許文献1】特開2003−347301号公報
【特許文献2】特開2007−122242号公報
【特許文献3】特開2006−318223号公報
【特許文献4】特開2002−189760号公報
【特許文献5】特開2004−317482号公報
【非特許文献1】北村隆行、澄川貴志、大石和義、日本機械学会論文集(A編):2001年、67巻663号、p1819
【非特許文献2】北村隆行、澄川貴志、大石和義、日本機械学会論文集(A編):2003年、69巻677号、p203
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、EBSD法で得られる結晶方位データを使用して、応力分布等の材料特性の数値計算することが、これまでにも行われている。しかしながら、特許文献5、非特許文献1及び2では、EBSD法によって得られる結晶方位データは、多結晶固体を構成する結晶粒に関して1つの結晶粒に1つの結晶方位データを与えて、有限要素分割する手法がとられ、数値解析されている。実際には、1つの結晶粒内でも結晶方位は揺らいでいるので、前記数値解析方法では、実際の結晶粒内の角度情報を反映した数値解析結果が得られないという問題がある。
【0010】
また、対象とする多結晶固体によっては、EBSD法で得られる結晶方位データを直接利用して材料特性の数値解析するにあたり、実際のEBSD測定では、対象となる材料が結晶質の緻密体であったとしても、全ての測定点に対して正しい結晶方位データが得られることがない場合がある。この場合、EBSD法で得られるデータには解析不能点のデータが混在し、EBSD法で得られるデータをそのまま使用して数値解析すると大きな計算誤差を与える。
【0011】
ここで、解析不能点には、次のようなものがある。
EBSD法では、電子線を試料表面法線に対して傾けてビームを当て、その後方散乱電子回折像を得るため、試料に凹凸があると凸部により凹部が影になり、凹部の正確な結晶方位データが得られないので、測定試料を平滑に研磨する。前記測定試料の調製において、対象試料によっては研磨で生じる歪みが生じ、前記歪みによって、本来のEBSD像が得られず、正確な結晶方位データが得られない点が生じ、解析不能点となる。
【0012】
また、結晶粒界に電子線のスポットが当たった場合も、解析できないようなEBSD像となるため、正確な結晶方位データが得られない点が生じ、解析不能点となる。さらに、後方散乱電子回折像を解析する想定結晶相以外の結晶相が存在する場合にも、正確な結晶方位データが得られない点となり、解析不能点となる。また、多結晶固体中に非晶質や空隙が存在する場合には、非晶質領域や空隙の部分が擬菊池パターンを用いての指数付けができないため、結晶方位データが得られず、解析不能点となる。
【0013】
一方、特許文献5では、光学顕微鏡による画像から結晶粒の寸法および面積を取得して結晶粒内に入るピクセル数を求め、それぞれの結晶粒に、EBSD法で得られる各結晶粒の代表となる結晶方位データを結晶粒単位でそれぞれ1つずつ割り当てるものである。よって、EBSD法で得られた結晶方位データは、それぞれの結晶粒の代表値を入力することになる。この手法では、上述のような後方散乱電子回折像の解析不能点に関する点を避けることができるが、結晶粒内の微小な方位変化や結晶方位差の小さい小角粒界(結晶粒界と見なされない)による結晶方位変化を数値計算結果に反映されず、精度の高い或いは実材料を反映した数値解析が行えないという問題がある。
【0014】
また、特許文献3では、撮像装置から得た形状に関するデータを入力して数値解析することが開示されている。また、前記数値解析において、均質化法を用いることも開示されている。しかしながら、EBSD法によって結晶方位データを得ること、さらには、多結晶固体中の非晶質や空隙の存在及びその扱いに関しては記載も示唆もなされていない。
【0015】
本発明は前述の問題点に鑑み、多結晶固体のEBSD測定から得られる前記多結晶固体の結晶方位情報と位置情報とを含む数値データを使用して、実材料を詳細に反映した材料特性の三次元数値解析を、詳細でかつ誤差を少なくして実行できる、多結晶固体の材料特性解析システム、材料特性解析方法、材料特性解析プログラム、及び記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記従来技術の問題を解決するために鋭意検討した結果、以下の構成を要旨とする。
(1) 多結晶固体の後方散乱電子回折像から得られる該多結晶固体の測定点に関する位置と結晶方位とを少なくとも含む数値データAを用いて、該多結晶固体の材料特性を解析する解析システムであって、
前記多結晶固体を構成する結晶粒に対して、後方散乱電子回折装置において1つの結晶粒について複数の測定点を含むように測定対象の各結晶粒を計測して得た数値データAiを入力する入力手段と、
前記入力手段によって入力された数値データAiに対して有限要素に割り付ける割り付け手段と、
前記有限要素に三次元テンソルで表わされる物性値を与えて有限要素モデルを構築する構築手段と、
前記有限要素モデルを用いて前記数値データAiを数値解析する解析手段と、
前記解析手段による数値解析結果を出力する出力手段と、
を少なくとも有することを特徴とする多結晶固体の材料特性解析システム。
(2) 前記数値データAiの結晶方位の確からしさを測定評価値で判定する評価手段と、
前記評価手段による判定結果に基づき、前記数値データAiの結晶方位を新たな結晶方位又は解析不能点に修正して数値データBiを付与するデータ修正手段とをさらに有し、
前記割り付け手段は、前記数値データBiを有限要素に割り付けることを特徴とする(1)に記載の多結晶固体の材料特性解析システム。
(3) 前記測定評価値が、信頼性指数、イメージクオリティ、及びフィット値のうち、1種又は2種以上であることを特徴とする(2)に記載の多結晶固体の材料特性解析システム。
(4) 前記データ修正手段は、隣接する測定点の結晶方位のデータへ置き換えて前記新たな結晶方位を付与し、解析不能点を非結晶質又は空隙として関連づける数値データBiを付与することを特徴とする(2)に記載の多結晶固体の材料特性解析システム。
(5) 前記非結晶質又は空隙として関連付ける数値データBiが均質体として取り扱えるデータであることを特徴とする(4)に記載の多結晶固体の材料特性解析システム。
(6) 前記数値データAiから隣接する測定点の数値データAiを用いて補間数値データA'iを生成する手段をさらに有し、
前記割り付け手段は、前記補間数値データA'iに対して有限要素に割り付けることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の多結晶固体の材料特性解析システム。
(7) 前記結晶方位のデータが、オイラー角であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の多結晶固体の材料特性解析システム。
(8) 前記有限要素が、正方形を含む長方形、正六角形、又は直交六面体であることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の多結晶固体の材料特性解析システム。
(9) 前記三次元テンソルが弾性テンソルであることを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載の多結晶固体の材料特性解析システム。
(10) 前記数値解析が、均質化法を用いるものであることを特徴とする(1)〜(9)のいずれかに記載の多結晶固体の材料特性解析システム。
(11) 多結晶固体の後方散乱電子回折像から得られる該多結晶固体の測定点に関する位置と結晶方位とを少なくとも含む数値データAを用いて、該多結晶固体の材料特性を解析する解析方法であって、
前記多結晶固体を構成する結晶粒に対して、後方散乱電子回折装置において1つの結晶粒について複数の測定点を含むように測定対象の各結晶粒を計測して得た数値データAiを入力する入力工程と、
前記入力工程において入力された数値データAiに対して有限要素に割り付ける割り付け工程と、
前記有限要素に三次元テンソルで表わされる物性値を与えて有限要素モデルを構築する構築工程と、
前記有限要素モデルを用いて前記数値データAiを数値解析する解析工程と、
前記解析工程における数値解析結果を出力する出力工程と、
を少なくとも有することを特徴とする多結晶固体の材料特性解析方法。
(12) 前記数値データAiの結晶方位の確からしさを測定評価値で判定する評価工程と、
前記評価工程における判定結果に基づき、前記数値データAiの結晶方位を新たな結晶方位又は解析不能点に修正して数値データBiを付与するデータ修正工程とをさらに有し、
前記割り付け工程においては、前記数値データBiを有限要素に割り付けることを特徴とする(11)に記載の多結晶固体の材料特性解析方法。
(13) 前記測定評価値が、信頼性指数、イメージクオリティ、及びフィット値のうち、1種又は2種以上であることを特徴とする(12)に記載の多結晶固体の材料特性解析方法。
(14) 前記データ修正工程においては、隣接する測定点の結晶方位のデータへ置き換えて前記新たな結晶方位を付与し、解析不能点を非結晶質又は空隙として関連づける数値データBiを付与することを特徴とする(12)に記載の多結晶固体の材料特性解析方法。
(15) 前記非結晶質又は空隙として関連付ける数値データBiが均質体として取り扱えるデータであることを特徴とする(14)に記載の多結晶固体の材料特性解析方法。
(16) 前記数値データAiから隣接する測定点の数値データAiを用いて補間数値データA'iを生成する工程をさらに有し、
前記割り付け工程においては、前記補間数値データA'iに対して有限要素に割り付けることを特徴とする(11)〜(15)のいずれかに記載の多結晶固体の材料特性解析方法。
(17) 前記結晶方位のデータが、オイラー角であることを特徴とする(11)〜(16)のいずれかに記載の多結晶固体の材料特性解析方法。
(18) 前記有限要素が、正方形を含む長方形、正六角形、又は直交六面体であることを特徴とする(11)〜(17)のいずれかに記載の多結晶固体の材料特性解析方法。
(19) 前記三次元テンソルが弾性テンソルであることを特徴とする(11)〜(18)のいずれかに記載の多結晶固体の材料特性解析方法。
(20) 前記数値解析が、均質化法を用いるものであることを特徴とする(11)〜(19)のいずれかに記載の多結晶固体の材料特性解析方法。
(21) 多結晶固体の後方散乱電子回折像から得られる該多結晶固体の測定点に関する位置と結晶方位とを少なくとも含む数値データAを用いて、該多結晶固体の材料特性を解析するようにコンピュータに実行させる解析プログラムであって、
前記多結晶固体を構成する結晶粒に対して、後方散乱電子回折装置において1つの結晶粒について複数の測定点を含むように測定対象の各結晶粒を計測して得た数値データAiを入力する入力ステップと、
前記入力ステップにおいて入力された数値データAiに対して有限要素に割り付ける割り付けステップと、
前記有限要素に三次元テンソルで表わされる物性値を与えて有限要素モデルを構築する構築ステップと、
前記有限要素モデルを用いて前記数値データAiを数値解析する解析ステップと、
前記解析ステップにおける数値解析結果を出力する出力ステップと、
をコンピュータに実行させることを特徴とする多結晶固体の材料特性解析プログラム。
(22) 前記数値データAiの結晶方位の確からしさを測定評価値で判定する評価ステップと、
前記評価ステップにおける判定結果に基づき、前記数値データAiの結晶方位を新たな結晶方位又は解析不能点に修正して数値データBiを付与するデータ修正ステップとをさらにコンピュータに実行させ、
前記割り付けステップにおいては、前記数値データBiを有限要素に割り付けるようにコンピュータに実行させることを特徴とする(21)に記載の多結晶固体の材料特性解析プログラム。
(23) 前記測定評価値が、信頼性指数、イメージクオリティ、及びフィット値のうち、1種又は2種以上であることを特徴とする(22)に記載の多結晶固体の材料特性解析プログラム。
(24) 前記データ修正ステップにおいては、隣接する測定点の結晶方位のデータへ置き換えて前記新たな結晶方位を付与し、解析不能点を非結晶質又は空隙として関連づける数値データBiを付与するようにコンピュータに実行させることを特徴とする(22)に記載の多結晶固体の材料特性解析プログラム。
(25) 前記非結晶質又は空隙として関連付ける数値データBiが均質体として取り扱えるデータであることを特徴とする(24)に記載の多結晶固体の材料特性解析プログラム。
(26) 前記数値データAiから隣接する測定点の数値データAiを用いて補間数値データA'iを生成するステップをさらにコンピュータに実行させ、
前記割り付けステップにおいては、前記補間数値データA'iに対して有限要素に割り付けるようにコンピュータに実行させることを特徴とする(21)〜(25)のいずれかに記載の多結晶固体の材料特性解析プログラム。
(27) 前記結晶方位のデータが、オイラー角であることを特徴とする(21)〜(26)のいずれかに記載の多結晶固体の材料特性解析プログラム。
(28) 前記有限要素が、正方形を含む長方形、正六角形、又は直交六面体であることを特徴とする(21)〜(27)のいずれかに記載の多結晶固体の材料特性解析プログラム。
(29) 前記三次元テンソルが弾性テンソルであることを特徴とする(21)〜(28)のいずれかに記載の多結晶固体の材料特性解析プログラム。
(30) 前記数値解析が、均質化法を用いるものであることを特徴とする(21)〜(29)のいずれかに記載の多結晶固体の材料特性解析プログラム。
(31) 前記(21)〜(30)のいずれかに記載の多結晶固体の材料特性解析プログラムを格納したことを特徴とするコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、EBSD法で得られる数値データを利用して、多結晶固体における結晶粒間の結晶方位関係や結晶内の方位を反映した、詳細でかつ誤差の少ない材料特性の三次元数値解析が可能になる。また、非晶質点や空隙等を含む多結晶固体であって、後方散乱電子回折像の解析不能点を含む場合でも、EBSD法で得られる数値データを利用して、多結晶固体における結晶粒間の結晶方位関係や結晶内の方位を反映した、詳細でかつ誤差の少ない材料特性の三次元数値解析が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態における最も簡単な材料特性解析システム(数値解析装置)及びEBSD装置の構成例を示すブロック図である。また、図2は、本実施形態に係る数値解析システム、数値解析方法、及び数値解析プログラムによって行われる処理手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態のシステムは、多結晶固体の後方散乱電子回折像から得られる多結晶固体の測定点に関する位置と結晶方位とを含む数値データAを用いて、多結晶固体の材料特性を解析する解析システムであって、例えば、図2に示した手順で材料特性を解析する。
【0019】
まず、ステップS1において、入力部111は、多結晶固体を構成する結晶粒に対して、EBSD装置101において1つの結晶粒について複数の測定点を含むように測定対象の各結晶粒を計測されて得た数値データAiをEBSD装置101から入力する。次に、ステップS2において、演算部116は、入力された数値データAiを有限要素に割り付ける。そして、ステップS3において、前記有限要素に三次元テンソルで表わされる物性値を与えて有限要素モデルを構築する。
【0020】
次に、ステップS4において、演算部116は、前記構築した有限要素モデルを用いて数値データAiを数値解析する。そして、ステップS5において、出力部115は、数値解析結果を出力する。なお、図2に示す各処理の詳細については後述する。
【0021】
また、本実施形態では、前述した処理に加えて更に、図3に示すような処理を行うことも可能である。図3は、本実施形態に係る数値解析システム、数値解析方法、及び数値解析プログラムによって行われる他の処理手順の一例を示すフローチャートである。
まず、図3のステップS1において、図2のステップS1と同様に、入力部111は、多結晶固体を構成する結晶粒に対して、EBSD装置101において1つの結晶粒について複数の測定点を含むように測定対象の各結晶粒を計測されて得た数値データAiをEBSD装置101から入力する。
【0022】
次に、ステップS2aにおいて、演算部116は、数値データAiの結晶方位の確からしさを測定評価値で判定する。そして、ステップS2bにおいて、判定結果に基づき、前記数値データAiの結晶方位を新たな結晶方位又は解析不能点に修正して数値データBiを付与する。次に、ステップS2cにおいて、付与した数値データBを有限要素に割り付ける。なお、ステップS3以降については、図2と同様であるため、説明は省略する。また、図3に示す各処理の詳細については後述する。
【0023】
従来、特許文献5のように、多結晶固体を構成する結晶粒に対して1つの結晶粒に1つの結晶方位データを与えて、有限要素分割する手法がとられているが、本実施形態では、前述したように、1つの結晶粒でも複数の結晶方位データを与えて、有限要素分割するので、実際の結晶粒内の角度情報を反映した数値解析結果が得られることになる。具体的には、次のようである。
【0024】
図4(a)は、従来における、1つの結晶粒に1つの結晶方位データを与えて、有限要素分割する手法を示す図である。EBSD法やSEM画像等により結晶粒1を定義し、結晶粒1を特定の数の要素2に分割し、EBSD法で求めた結晶方位3を代表値として各結晶粒に1つずつ与える。即ち、1つの結晶粒を複数の要素に分割しても、結晶粒内の各要素に与えられる結晶方位は、必ず同じ値である。ここで、同じ物性領域(1つの結晶粒)を、特定の数の要素で分割することは、数値解析のノイズと呼ばれる解析結果の異常値が生じることを防止するためである。
【0025】
一方、図4(b)は、本発明の実施形態の一例であり、図4(a)と同じように、1つの結晶粒を特定の数の要素に分割され、かつ、1つの結晶粒の各要素に異なる結晶方位が与えられている状態を示す図である。結晶方位は、例えば、EBSD法による測定点4の平均値を使用する。
【0026】
また、図4(c)は、本発明の実施形態の典型的な例であり、EBSD法による測定点4が、1つの結晶粒に複数点あり、測定毎に、固定要素5で要素分割した例を示す図である。図4(c)に示す例では、固定要素5に分割することによって、結晶方位を一要素毎に独立して与えても計算負荷が減少し、要素数を大幅に増やすことが可能になる。また、固定要素5の大きさは、EBSD法による測定点4より小さくなってもよく、各固定要素にはEBSD法による測定点4を補間した数値データが与えられる。さらに、立方体を含む直方体要素とすることにより、3次元解析への拡張も容易になる。
【0027】
本発明の実施形態では、詳細については後述するが、数値データAiの結晶方位の確からしさを測定評価値で判定し、判定結果に基づき、前記数値データAiで解析不能点と判定された結晶方位を新たな結晶方位又は解析不能点に修正して数値データBiを付与し、数値データBiを有限要素に割り付けることを行い、前記有限要素に三次元テンソルで表わされる物性値を与えて有限要素モデルを構築し、この有限要素モデルを用いて前記数値データBiを数値解析することがより好ましい。このようにすることにより、非晶質点や空隙を含む多結晶固体であっても、詳細でかつ誤差の少ない材料特性の三次元数値解析が可能になる。
【0028】
ここで、図3のステップS2bにおいて、数値データAiの中で解析不能点と判定された結晶方位を新たな結晶方位に修正する方法としては、図4に示すように、隣接する測定点の結晶方位データへ置き換える。ここで、隣接する測定点は、最隣接距離の点とするのが好ましい。なお、最隣接距離となる点が複数ある場合には、複数点の平均値を採用するのが好ましい。また、データの修正において、解析不能点を非晶質又は空隙として関連づけることができる。さらに、非晶質又は空隙として関連付ける数値データBiを均質体として取り扱えるデータにすることもできる。
【0029】
ここで、多結晶固体とは、例えば、金属やセラミックス等の結晶粒の集合体で構成される固体であり、同じ結晶相の粒の集合体(単相)だけでなく、異なる結晶相の粒の集合体(多相)も含むものである。すなわち、多結晶固体は、EBSD法で結晶方位を反映した解析を行うことができる結晶が1種以上ある固体である。さらに、前記結晶相の粒の集合体に、非晶質や空隙が共存する場合も含むものとする。具体的には、EBSD装置で解析可能な金属やセラミックス等の結晶粒の集合体で構成される固体である。
【0030】
図2及び図3のステップS1において、EBSD装置101から入力される数値データAiは、多結晶固体の複数点のEBSD像から得られる結晶方位と結晶方位の位置とを少なくとも含んでおり、EBSD法を利用して前記多結晶固体を構成する結晶粒に対して1つの結晶粒について複数の測定点を含むように測定対象の各結晶粒を計測して得られたものである。具体的には、EBSD装置101において、SEMの電子線スポットを点状に連続的に多結晶固体上を走査させながら各回折像をカメラ上に結像し、結像した像をコンピュータ106で画像解析を行い、あらかじめ仮定した一つ以上の結晶系を用いたシミュレーションによるパターンとの比較によって結晶方位を決定する。EBSD法による測定時のSEMの電子線スポットを走査する方法としては、例えば、正方格子状に走査するタイプのものと三角格子状に走査するタイプのものとが挙げられるが、どのような走査方法でもよい。
【0031】
以上のようなEBSD法による測定により、少なくとも結晶方位情報と、結晶方位の位置情報と、結晶方位付けの確からしさを表す測定評価値とが得られる。すなわち、本実施形態に係る数値データAiが得られる。ここで、結晶方位の位置情報とは、例えば、座標値の情報である。結晶方位情報と結晶方位の位置情報とに関する数値データをマッピングすると、個々の結晶粒の形態及び方位が分かり、それらの集合組織も分かる。
【0032】
EBSD法によって得られる数値データAiは、前述のように、個々の座標毎にEBSD像の解析で前提とした結晶構造の正しい結晶方位情報が得られた点とそうでない点とが混在する場合がある。すなわち、数値データAiには、解析不適切データや解析不能データが混在する。また、非晶質や空隙が存在する試料では、非晶質領域や空隙の部分が擬菊池パターンを用いての指数付けができないため、結晶方位データが付与されないデータと、カメラの光学素子等のノイズによって、誤って方位付けされた点が数値データAiに混在することになる。
【0033】
EBSD像の解析において想定した結晶相で正しく方位付けされたものだけを含む数値データであれば、その数値データをそのまま数値解析モデルの作成に利用できる。しかしながら、通常は、前述のような数値データとなるので、そのまま使用すると、数値解析で大きな計算誤差をもたらす。
【0034】
そこで本発明者らは、前記通常の数値データAiから、数値データAiに含まれる結晶方位の確からしさを判定する測定評価値に基づいて、後方散乱電子解析像の解析不適切点や解析不能点に関するものを判定し、前記数値データAiで判定された結晶方位を新たな結晶方位又は解析不能点に修正して数値データBiを付与して取り扱うことが、数値解析モデルの作成に利用するためは有効であることを見出した。本実施形態では、図3のステップS2aにおいて、結晶方位の確からしさを判定する測定評価値として、結晶方位と結晶方位の位置との各測定点に付随されている評価値を使用する。
【0035】
以下、図3のステップS2aにおける新たな結晶方位又は解析不能点に修正する方法を示す。
対象とする材料がEBSD像の解析できる結晶相で全て構成される場合、EBSD測定から得られる数値データAiには、EBSDパターンが明瞭でないことによって結晶方位付けできないデータ、及びカメラノイズが加わって誤った結晶方位付けされたデータが、EBSD像の解析不能として本来の結晶方位とは異なる数値データとして含まれる。この原因は、表面に凹凸があって電子線が妨げられたり、研磨歪が残留したりする等の試料調製の問題に因ったり、電子線スポットが結晶粒界に当たったりすることによる。
【0036】
ステップS2aにおいて、数値データAiから前記のようなEBSD像の解析不適切データや解析不能データを選別するには、隣り合う測定点の結晶方位データの角度差とその角度以下で接触している測定点の個数とを閾値とすることにより可能である。このようにして選別された数値データを、EBSD像の解析不能物として、特定の数値に置き換えて、数値データBiとする。
【0037】
さらに、次のようにすることも可能である。隣り合う点の方位差が予め定められた閾値C以上の角度であり、予め定められた閾値Dの個数以下で孤立している点が存在する場合、これをEBSD像の解析不能点(解析不適切点)として扱い、その孤立した周囲の結晶方位の確からしさを表す測定評価値が最も高い点の結晶方位データに置き換える。この処理を、方位差が閾値C以上の角度で、閾値Dの個数以下で孤立している点がなくなるまで続けることによって、全ての点が本来の結晶方位に結晶方位付けされ、数値データBiとして、数値解析モデルに使用できるようになる。
【0038】
このように、数値データBiを数値解析モデルで使用することによって、数値計算上の誤差をなくすことが可能になる。なお、閾値Cの値、及び閾値Dの個数は、結晶粒の大きさや分布に基づいて決められるのが望ましい。閾値C若しくは閾値D、又は閾値C及び閾値Dの決定は、EBSD装置101から得られる数値データを利用したマッピングから行うことができ、さらに、材料特性解析システム、材料特性解析方法、及び材料特性解析プログラムに含ませることもできる。
【0039】
対象とする多結晶固体が、前記と同様なEBSD像の解析ができる結晶相と、EBSD像の解析ができない結晶相、非晶質相、又は空隙とが存在する場合、EBSD法により得られる数値データAiには、前述と同様に、EBSDパターンが明瞭でないことによって結晶方位付けできない点と、カメラノイズが加わって誤った結晶方位付けがなされた点とが含まれる。これらの点はEBSD像の解析不適切点や解析不能点として、本来の結晶方位とは異なる数値データとして含まれる。誤った結晶方位付けがなされる理由としては、EBSD像の解析ができない結晶相、非晶質相、又は空隙であるのにカメラノイズ等によって偶発的に前提結晶質相の方位付けがされるためである。
【0040】
したがって、EBSD像で解析できる結晶相におけるEBSD像の解析不能点と、EBSD像の解析できない結晶相、非晶質相、及び空隙領域とを数値データAiから選別する方法としては、結晶方位の確からしさを判定する測定評価値、EBSD像で解析できる結晶相の結晶粒の大きさ、及び、それ以外の相の大きさと分布で判定するのが好ましい。
【0041】
結晶粒、空隙分布を反映した解析を行う場合、必然的にEBSDの測定間隔、電子線のスポットをこれらの大きさより十分小さくとる。一方、カメラノイズ等によって偶発的に指数付けされる点は孤立してランダムである。したがって、EBSD像の解析できる結晶相におけるEBSD像の解析不能点は、結晶粒に対して極めて小さい。一方、EBSD像の解析できない結晶相による解析不能となる点、非晶質相による点、空隙による点は、前記に比べて大きくなる。したがって、例えば下記のような方法を取ることができる。
【0042】
例えば、隣り合う点の方位差が予め定められた閾値C以上の角度で、予め定められた閾値Dの個数以下で孤立している点が存在する場合、これをEBSD像の解析不能な点として扱い、その孤立した点の周囲の結晶方位の確からしさを判定する測定評価値が最も高い点の結晶方位データに置き換えると共に、結晶方位の確からしさを判定する測定評価値も置き換える。
【0043】
前述の対象とする多結晶固体が、EBSD像が解析できる結晶相で全て構成される場合では、これを孤立点がなくなるまで繰り返せばよい。一方、EBSD像の測定範囲内に、EBSD像の解析できない結晶相、非晶質相、又は空隙が存在する場合は、前記繰り返し回数を予め定めた回数(閾値E)とする。前記の閾値Eを定めなければ、EBSD像が解析できる実際の結晶相以外の領域全てのデータが置き換えられることになる。このようして得られたものを数値データBiとして、数値解析モデルの作成で使用すると、EBSD像の解析できない結晶相、非晶質相、又は空隙もEBSD像が解析できる結晶相として扱われ、数値計算結果に大きな誤差をもたらすことになる。
【0044】
前記繰り返し回数を閾値Eまで行った後は、結晶方位の確からしさの測定評価値が予め定めた値(閾値F)以下の点は、EBSD像の解析できる結晶相以外として、EBSD像の解析できない結晶相、非晶質相、又は空隙として関連づける。
【0045】
前記関連付けは、数値計算を行うための離散化モデルを作成する際、EBSD像が解析できない結晶相、非晶質相、又は空隙として扱える特定の値に数値データを置き換えればよい。例えば、結晶方位データを現実的に取りえないあらかじめ定められた数値に置き換えて関連付けてもよい。また、結晶方位データを変更しなくても、各数値データに特定の符号を付与することで関連付けることもできる。また、閾値C〜Fは、EBSD測定条件、解析対象によって異なるため、処理結果を参照しながら、数値計算誤差が最も少なくなるよう調整可能であることが望ましい。
【0046】
結晶方位を表す形式は、三次元の結晶方位を一意で決定できる形式であれば、どのような形式で表しても構わない。特に、結晶方位を、測定点での試料座標と結晶座標との関係をオイラー角で表現したものとするのが好ましい。オイラー角は、試料に固定された座標系(結晶座標系)の間の回転関係を表すもので、3つの角度で表せられ、これらの数値により、試料座標系と結晶座標系の角度が定義される。オイラー角には幾つかの定義があるが、どれを用いても構わない。
【0047】
結晶方位の確からしさを判定する測定評価値には、例えば、回折パターンのイメージクオリティ(IQ)や信頼性指数、フィット指数(フィット値)、相同定信頼性(Mean angular deviation、MAD)等が挙げられる。このような測定評価値の中で、信頼性、イメージクオリティ(IQ)、フィット指数のいずれか1種以上を利用するのが、前述の数値データBiを適切に選別できる点でより好ましい。
【0048】
IQ値は、回折線の強度を点に変化するHough変換後のピーク強度をあらわすパラメータである。一方、信頼性指数は、例えば、検出された擬菊池パターンのバンドの中から一定の本数のバンドを全ての組み合わせで選び、結晶面間の角度関係の比較をし、許容誤差に入った数を数え(票数)、最も票数の多かった解をこのパターンの結晶方位とし(Voting法)、その票数に対して二番目結晶方位の票数の比で表す指標である。この場合、信頼性指数は、0から1の数値となり、1が最も信頼性が高いと評価される。これ以外にも、Voting法により得られた結晶方位からそれぞれのバンドがどの位置に現れるべきかを計算し、実際に検出されたバンド位置とのずれを指標とする方法等が挙げられる。
【0049】
フィット指数は、結晶系データから計算によって得たパターンと検出したパターンの一致具合を現わすパラメータである。MADとは、実際に検出されたEBSDのバンドと理論上のバンドとの角度差を表しており、MADが小さいほど解析結果の精度が良いことを表す。
【0050】
従来の方法では、光学顕微鏡像やEBSD法で得られたデータから、結晶方位の回転角や回転軸等の人為的な定義に基づいて結晶粒界を定め、結晶粒毎に方位データを入力するが、本発明の実施形態では、結晶粒の境界を人為的に定める必要はなく、最終的に、空隙以外の測定点は、特定の物質で定義づけられる。勿論、共通軸や回転角から結晶粒界を定義して、有限要素分割する際に結晶粒界が滑らかになるよう曲線、あるいは曲面近似するデータ変換を行ってもよい。この処理は、次の数値解析のモデリングを行うプリプロセッサで行われるのが望ましい。
【0051】
本実施形態では、前述のように処理された数値データBiを用いて有限要素としてモデリングを行う。数値データBiは、サーフェースデータ、あるいはボリュームデータとしてレンダリングされる。EBSD法により得られ、上記処理してなる数値データBiは、表面二次元データであるのでそのままでは二次元体としてレタリングされる。
【0052】
そこで、図3のステップS2cでは、研磨や集束イオンビーム(FIB, Focused Ion Beam)装置を利用して一定間隔で試料の表面を削り取りながら同数値データを取得し、同処理をした数値データBiを、三次元体にレンダリングすることができる。そして、レンダリングされた数値データBiを要素分割する。なお、要素分割の方法、及び要素の形状については、特に限定するものではない。
【0053】
また、結晶粒界、物質界面の平滑化処理を行ってもよい。先に述べたように、電子線は、正方格子状に走査する場合と三角格子状に走査する場合とがある。各点に付随する結晶方位、物質に関する数値データは、前記要素分割の方法に応じて補間処理させる。
【0054】
また、図2のステップS2及び図3のステップS2cにおいて、数値解析モデルとして容易に要素分割する方法として好ましいのは、有限要素が、正方形を含む長方形、正六面体、又は直交六面体(ボクセル:Volume Pixel)として要素分割する方法である。正方格子状に走査される点は、図5に示すように、重心点に測定データを当てる形で、補間しなくても正方形、あるいは立方体、直方体要素として扱える。
【0055】
図5は、有限要素を立方体要素として扱った例を示す図である。直交六面体要素とする利点は、三次元解析への拡張性であり、本実施形態においては、ボクセル要素分割が好ましい。また、この要素分割は、要素数が大きくなっても計算負荷が小さく、結晶粒内の結晶方位の揺らぎを反映した解析には有用である。正三角格子上に測定されたデータの場合、正六面体で補間なしで要素分割可能である。なお、6は要素の重心である。図6のように正六面体に要素分割させることの利点は、結晶粒界を滑らかに表現することが可能な点である。正方形を含む長方形、正六面体、あるいは直交六面体で要素分割する方法は、結晶粒界表現、計算精度向上、計算負荷の軽減等で、補間が必要な場合でも単純な補間で済む。
【0056】
前述したように、図2及び図3のステップS3、S4では、前記有限要素に三次元テンソルを与えて有限要素モデルを構築して数値解析し、多結晶固体の材料特性を解析する。本実施形態では、多結晶固体の三次元空間内の結晶方位を取り込んでこれを解析するものなので、物質定数は多結晶固体の平均的な値ではなく、三次元テンソルを入力する方が良い。例えば、弾性解析や熱伝導解析などでは、有限要素に三次元テンソルを与えて有限要素モデルを構築する。物質定数は、文献等に記載されているものであってもよく、公認されたものであってもよく、測定して得られたものでもよい。また、バンド計算や分子軌道計算等の第一原理計算から求めた物性定数を使用することもできる。
【0057】
数値データBiの中で信頼性指数が閾値以下であり、空隙又は非晶質と判定される領域に対しては、空隙と判断される場合には物質がないものとして実験値等を入力し、非晶質と判断される場合は、等方的な物質として実験値等を入力すればよい。空隙と非晶質との区別に関しては、数値データAiをマッピングして画像化したものを画像解析して判定できる。また、複数の測定評価値を組み合わせても判定できる。
【0058】
以下、例として、多結晶固体の弾性解析の場合の簡単な例について説明する。
各々の結晶粒の弾性係数には異方性があり、弾性歪みは応力が加えられる方向によって異なる。弾性係数は、4階のテンソル量であり、弾性係数テンソルは81個の成分を持つことになるが、対称性と相反定理より最終的に応力成分(σ)と歪成分(ε,γ)の関係は以下の数1に示す式のように表され、弾性係数(E)の独立な成分は21個となる。
【0059】
【数1】
【0060】
弾性係数の独立な成分数は、結晶が対称性を持つことで21個から更に少なくなる。最も対称性の乏しい三斜晶は、21成分が独立のままであるが、斜方晶では9、正方晶では6、立方晶では3となる。銅や鉄などの立方晶のみを扱う場合は3個の独立変数を有限要素モデルデータに与える。より対称性の低い材料を有する材料を扱う場合は、最大21個の独立変数を有限要素モデルデータに与える。なお、弾性計算を行う場合の独立変数としては、前記数1に表記される弾性係数(スティフネス)でもよいし、応力と歪とを入れ替えたコンプライアンスとしてもよい。
【0061】
EBSD像から得る数値データAiに、2種類以上の物質が含まれる場合には、それぞれについて前述した弾性係数が有限要素モデルデータに与えられる。空隙については物質が存在しないものとして扱い、非晶質等の均質体として扱ってもよい部分については、等方的な物質として物質定数を与える。また、物質定数は、結晶体と同様、三次元弾性テンソルの形で与えてもよい。弾性解析では、等方性固体であれば、縦弾性係数、横弾性係数、ポアソン比等の3つの独立変数とすればよい。空隙の弾性係数は、0である固体として扱ってもよい。
【0062】
EBSD法で出力される物質が2種以上ある場合は、EBSD法から得られる物質データに基づいて、前述の弾性係数を物質の数に応じて与える。
【0063】
本実施形態におけるステップS4の数値解析は、EBSD法で測定した領域のみを解析してもよいし、他の材料と組み合わせてもよい。
【0064】
EBSD法で測定した領域のみを解析する場合、例えば、測定した多結晶固体の長方形、あるいは直方体のモデルの一端を拘束して、反対面に一定の変位を与え、ソルバーによって計算し、その結果をポストプロセッサで粒界にかかる応力の大きさを表示して解析できる。また、端部にかかる応力の平均値を計算するサブルーチンをポストプロセッサに設けることによって、変位と応力からヤング率が計算でき、結晶粒分布、結晶粒の配向度を反映した解析ができる。
【0065】
EBSD法で測定した微小領域と、他の巨視的なモデルとを組み合わせて解析させる場合には、組み合わせるモデルは、均質体として扱ってもよいし、EBSD法で測定した結晶方位情報を持った別の不均質体モデルと組み合わせてもよい。大きさが著しく異なるモデルを組み合わせる場合は、重合メッシュ等の手法を用いることもできる。同じ物質で構成するモデルを均質体としてモデリングし、結晶粒の異方性を考慮した詳細な解析をしたい部分のみを、EBSD法から得られる数値データを使ってモデリングした微視的なモデルとし、重合メッシュ法を用いて重ね合わせて、解析することもできる。
【0066】
また、EBSD法から得られる数値データからモデリングされた微視モデルを使って、実部材のような巨視的モデルの解析を行うこともできる。前記解析には、均質化法を使用するのが好ましい。均質化法の使用について、以下に説明する。
【0067】
均質化法では、被解析物の構造体(グローバルモデル)を、それに比べて十分小さなローカルモデルを代表体積要素(RVE)として、周期的に積み重なった集合体として扱い、ローカルモデルの平均化された物性値を用いて構造体の数値解析を行う。本実施形態では、このローカルモデルを、EBSD法で得られる数値データを使用して作成する。モデルの作成方法は、前述した方法と同じである。
【0068】
弾性解析のような線形力学問題では、ローカルモデルの物性値は弾性定数であり、均質化弾性定数(EH)と呼ばれる。均質化弾性定数は、周期境界の下での自己平衡方程式から導出されるが、本実施形態では、EBSD法で得られる結晶方位に関する数値データ、及び構成物質の弾性テンソルと弾性係数から計算される。得られた均質化弾性定数は、弾性テンソルとして、結晶配向性を反映したものとして得られる。
【0069】
均質化解析では、均質化構造体の巨視的な方程式とローカルモデルの微視的な方程式を、ローカルモデルの周期性を入れることによって独立かつ数学的に連成させて解を得る。すなわち、部材の有限要素モデルであるグローバルモデルについて、ロ−カルモデルをRVEとして、RVEの均質化弾性定数を用い、弾性解析を行う。次いで、算出された歪値(グローバル変位)から、ロ−カルモデル内に発生する局所的応力(ローカル応力)を計算する流れとなる。グローバルモデルの作成は、有限要素法と同様にCADを試用してもよいし、イメージベースモデリングの手法を用いてもよい。
【0070】
均質化法の利点は、構造体の力学計算結果からRVEへの逆計算が可能である点である。すなわち、構造体の任意の部分における局所的な応力を求めることが可能である。したがって、本実施形態において、巨視的モデルの解析する場合に、均質化法の使用は、微視的な不均質性を反映した解析を可能にするため、好ましい手法である。
【0071】
図2及び図3のステップS5においては、以上のような手順で解析した結果を出力部115から出力する。出力先としては、ネットワーク等を介して他のコンピュータへ転送してもよく、接続された印刷装置に出力結果をプリントアウトしてもよい。
【0072】
本発明の実施形態において、SEM及びEBSD装置101から取り込んだ回折画像から材料物性を解析するには、材料物性解析プログラムを実行可能な1つ又は2つ以上のコンピュータが使用される。例えば、次のようなコンピュータである。コンピュータは、CPU(Central Processing Unit)によって装置全体が制御されている。CPUには、バスを介してRAM(Random Access Memory)、ハードディスクドライブ(HDD: Hard Disk Drive)、グラフィック処理装置、入力インターフェース、及び通信インターフェースが接続されている。
【0073】
RAMには、CPUを実行させるOS(Operating System)のプログラムやアプリケーションプログラムの少なくとも一部が一時的に格納される。また、RAMには、CPUによる処理に必要な各種データが格納される。HDDには、OSや、本発明の実施形態に係る材料物性解析プログラムなどのアプリケーションプログラムが格納される。
【0074】
グラフィック処理装置には、モニタが接続されている。グラフィック処理装置は、CPUからの命令に従って、画像を表示部113のモニタの画面に表示させる。入力インターフェースには、操作部112のキーボードとマウスとが接続されている。入力インターフェースは、キーボードやマウスから送られてくる信号を、バスを介してCPUに送信する。通信インターフェースは、ネットワークに接続されている。通信インターフェースは、ネットワークを介して、他のコンピュータとの間でデータの送受信を行う。
【0075】
以上のようなハードウェア構成のコンピュータに材料特性解析プログラムを実行させることにより、コンピュータが材料特性解析装置として機能する。また、材料特性解析プログラムをコンピュータに供給するための手段、例えば該プログラムを記録したCD−ROM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体又は該プログラムを伝送するインターネット等の伝送媒体も本発明の実施形態することができる。上記、プログラム、記録媒体、伝送媒体及びプログラムプロダクトは、本発明の範疇に含まれる。
【0076】
以下、本発明の実施形態に係る具体的な例として、EBSD装置101で実際に測定したデータに基づいて説明する。
(例1)
図7は、引抜加工で作製された直径約23μmの金線について、長さ方向の中心軸を通る断面をEBSD法で測定した結果を結晶方位でマッピングしたものを示す写真である。ワイヤ周部の結晶方位を出すために、樹脂で埋め込んで、アルゴンイオンで研磨して表面を出し、測定は樹脂部にまたがって測定した。EBSD測定では、日本電子製FE−SEM(JSM−6500F)に付設したTSL社のEBSD装置を使用して測定した。
【0077】
EBSD測定は、0.05μm間隔で電子線を当てて25μm×20μmの領域について行った。電子線は三角格子状に走査しており、測定点数は約20万点である。図7では、伸線方向(長さ方向)の逆極点で表示しており、それぞれの点の方位データから、材料組織をカラー表示したものを白黒の濃淡に変換して示している。方位付けなされなかった点は黒色の点として表記されている。図7に示すように、この線材は、線材断面法線方向に<111>の方位へ配向しているが、この方位以外にも、<001>の方位が混在し、また結晶粒が微細で様々な方位が複雑に分布している。また、加工組織であって繊維状の結晶粒内で結晶方位が揺らいでいる。このような組織を従来の方法でモデル化、離散化して、数値計算させるのは極めて困難である。
【0078】
金線は緻密であり、数値解析を行うモデルとしては、全てが指数付けされていることが理想であるが、一部方位付けできない点(解析不能点)や明らかに間違って方位付けされている点(解析不適切点)が散在している。
【0079】
データの一部として、EBSD測定領域のうち金以外の物質が含まれない0.4μm×0.4μm角内の測定点数77点データ列(数値データAi)を表1及び表2に示す。左側から第1〜第3列はそれぞれ、オイラー角θ、φ、ψ(ラジアン表記)であり、結晶方位情報を示している。第4、5列は、位置情報であり、それぞれ、X、Y座標で示している。また、第6列はイメージクオリティ値であり、第7列は信頼性指数である。第8列は材料番号であり、今回の測定では、前提とする結晶相が、金だけであるため、全て0である。第9列は、Detector Signal値であり、SEM像に相当する信号データである。また、第10列は、Fit値である。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
図8は、図7の金線部の一部であり、金線長さ方向の逆極点表示を示す拡大図である。図8において、信頼性指数が、0.3以下の点を黒色で示している。信頼性指数が低い点においても、方位付けはなされているが、EBSD像の解析不能点も含まれる。EBSD像の解析不能点は、前述のように、局所的に良質な回折像が得られないため、信頼性指数だけで処理すると本来と異なる方位付けされた点や、方位付けに十分なEBSDパターンが得られず、方位付けできなかった点である。したがって、これらは、結晶粒に比較して小さく散在しており、また信頼性指数が小さい点であるため、この特徴を使用してノイズ点を分離した。
【0083】
閾値として、ここでは、結晶方位差5°、接続点数10を用いた。すなわち、隣接する方位差が5°以下で7点以上つながっている点を判定して、これらの点をその最も信頼性指数の高い値に置き換えた。これにより、金結晶相内の信頼性指数の小さなノイズ点の信頼性指数は置き換えられる。
【0084】
次いで、同じ閾値を、結晶方位差5°、接続点数10を用いて、結晶方位を置き換える修正を実施した。隣接する方位差が5°以下で7点以上つながっていない点を判定して、これに該当する孤立した点、またはその集合のその外層の点を、周囲の信頼性指数の高い点の結晶方位と置き換えた。以上の修正を実施したデータ(数値データBi)を表3及び表4に示す。また、この領域の逆極点を表示した図を図9に示す。
【0085】
【表3】
【0086】
【表4】
【0087】
表3及び表4のデータから分かるように、この領域内では全ての点で信頼性指数が高い値に置き換え、また、下線で示した信頼性指数が低かった点については、ノイズ点として結晶方位データを置き換えた。
【0088】
図10は、数値データBiとして処理された後の全領域の逆極点表示されたものを示す写真である。図7及び図10に示すように、直径2μm程度の金以外の相の部分8が存在する。空隙や周囲の樹脂の部分7は、通常、金の結晶方位の指数付けは行わないが、金の間違った方位データが当てられている点が多い。これらの点を金として数値計算した場合、大きな誤差をもたらすことになる。しかし、金以外の相や周囲の樹脂の部分7は、結晶方位データが付けられていても、付与されている結晶方位データが一点一点ばらばらであるため、信頼性指数が前記の処理で置き換えられることはない。
【0089】
したがって、ここでは、信頼性指数0.3以上の点のみを、金の結晶方位データとして扱って、以降の有限要素モデルの作成に反映させた。それ以外の方法として、信頼性指数が0.3以下の点のオイラー角をオイラー角として取りえない特定の一定値に置換してもよい。第8列の材料情報データを数値データAで使用していない数値に変換することによって、有限要素モデルを作成する際に、金以外の相として、モデルに反映可能なように符号付けをしておけばよい。以上のようにして、EBSD測定から得た数値データAを数値データBiへ修正する処理を実施した。
【0090】
次に、修正した数値データBを用いて、数値解析を行うために離散化を行った。本例の材料組織は複雑であり、結晶粒内の結晶方位の揺らぎまで反映した解析をするには、測定間隔と同じオーダーで離散化する必要がある。この場合、有限要素が、正方形を含む長方形、正六面体、又は直交六面体(ボクセル:Volume Pixel)として、固定要素で要素分割する方法が適している。本例でのEBSD法の測定では、電子線は、三角格子上に走査されたため、三角格子の格子間隔と同じ中心間隔で正六面体要素分割すると補間処理が必要ない。但し、補間処理を実施して、正方形で要素分割してもよい。三次元の数値解析を行う場合は、ボクセル分割してもよい。
【0091】
金は立方晶であるため、弾性数値解析を行う場合、弾性スティフネスとして、数1に示した式のE11〜E66には、E11=E22=E33=182(GPa)、E12=E13=E23=154(GPa)、E44=E55=E66=41(GPa)とそれぞれ与え、E14、E15、E16、E24、E25、E26、E34、E35、E36、E45、E46、E56には0を与えた。
【0092】
なお、図10の試料の部分8が空隙であれば、材料が存在しないものとして扱う。一方、固体であった場合は、その弾性係数を与える。この場合、この部分は等方体として扱えばよく、独立変数は3である。また、縦弾性係数、横弾性係数、ポアソン比の実験値を与えてもよい。また、結晶相と同様にスティフネス等の弾性マトリックスで与えてもよい。一方、周囲の樹脂の部分7は、本来存在しない領域(数値解析しない領域)であるから、材料が存在しないものとして扱い、要素を形成しない。
【0093】
金線の用途の一つである半導体実装用のボンディングワイヤでは、樹脂モールド時の耐ワイヤ流れ特性に対する指針として、長さ方向のヤング率が重要な指標となる。したがって、この離散化モデルを用いて、例えば、図10の下辺に相当するモデルの下辺部を拘束し、ワイヤの上辺の長さ方向に一定の変位を与え、上面の応力を数値計算することによって、複雑な組織を有する結晶配向性を反映したヤング率が得られる。
【0094】
また、図10の下辺に相当するモデルの下辺部を同様に変位拘束し、図10のワイヤ上方側面の一部にワイヤ径方向に応力、または変位を与え、変位、応力解析することにより、ワイヤの力学特性の軸対象性を解析することができ、ボンディング時のワイヤ倒れ等の検証等に利用できる。
【0095】
(例2)
図11は、めっきで作製された銅について、EBSD法で測定した結果を結晶方位でマッピングしたものを示す図であり、紙面法線方向の逆極点で表示している。EBSD測定は、Zeiss社製FE−SEM(Ultra55)に付設したTSL社のEBSD装置を使用して測定した。EBSD測定は、0.05μm間隔で電子線を当てて15μm×15μmの領域について行った。電子線は三角格子状に走査しており、測定点数は約9万点である。
【0096】
図11の黒色で表示された部分の殆どは、結晶方位付けできなかった点(EBSD像の解析不能点)である。この測定試料は表面をコロイダルシリカで研磨して仕上げているが、研磨時の表面歪が十分取りきれていないために、EBSD像の解析不能点が生じている。
【0097】
図12は、解析領域から抽出した一部分の0.5μm×0.5μm角の領域を示す図である。結晶方位付けされなかった点は黒色で表示されている。図12に示すように、EBSD像の解析できなかった部分は、三重点を含む結晶粒界に存在し、電子線スポットが粒界にまたがって当たったため、複数の結晶粒から回折があり、一つの方位付けがなされなかったことが原因として挙げられる。
【0098】
前述した点を実際とは異なるものとして扱うと、正確な数値解析結果が得られない。例えば、解析できなかった点を空隙として扱った場合、弾性解析では、応力集中により異常応力が生じたり、熱伝導解析では、熱が伝わらなかったりする等の支障をきたす。
【0099】
ここで、この領域のデータ(数値データAi)を表5〜表7に示す。データ形式は、例1と同じである。すなわち、左側から第1〜第3列はそれぞれ、オイラー角θ、φ、ψ(ラジアン表記)であり、結晶方位情報を示している。第4、5列は、位置情報であり、それぞれ、X、Y座標で示している。また、第6列はイメージクオリティ値であり、第7列は信頼性指数である。第8列は材料番号であり、今回の測定では、前提とする結晶相が、銅だけであるため、全て0である。第9列は、Detector Signal値であり、SEM像に相当する信号データである。また、第10列は、Fit値である。
【0100】
【表5】
【0101】
【表6】
【0102】
【表7】
【0103】
結晶方位付けされたかった点(EBSD像の解析不能点)は、信頼性指数の列が−1となっており、オイラー角が12.56637と実際とは異なった数値が付与された。また、表7の下線で示した点もEBSD像の解析不能点であり、結晶方位付けなされているが、信頼性指数が0であり、方位も妥当でないと判断した。EBSD像の解析不能点は、結晶粒に比較して小さく散在しており、また信頼性指数が小さい点であるので判別される。
【0104】
閾値として、ここでは、結晶方位差5°、接続点数2を用いた。すなわち、隣接する方位差が5°以下で2点以上つながっている点を判定して、これに該当する孤立した点、またはその集合のその外層の点を、周囲の信頼性指数の高い点の結晶方位と置き換えた。例1では、解析する金以外の相や、物質外の樹脂領域があったことから1回の処理だけを行ったが、今回の試料は緻密な銅単相であるので、隣接する方位差が5°以下で2点以上つながっている点がなくなるまで、前記処理を繰り返した。
【0105】
そして、処理後の図12に相当する領域を図13に示す。また、処理後のこの領域のデータ(数値データBi)を表8〜表10に示す。
【0106】
【表8】
【0107】
【表9】
【0108】
【表10】
【0109】
上記結果、信頼性指数のデータが−1であった方位付けできなかった点の信頼性指数データが0に書き換えられるとともに、オイラー角も周囲の点の方位を基に数値データを書き換えた。また、表10の下線で示した点のオイラー角を書き換えた。また、図13に示すように、EBSD像の解析不能である部分が妥当なデータに書き換えられたことがわかる。
【0110】
以上の数値データBiに基づいたEBSD測定領域全体の組織を図14に示す。方位付けされなかったデータが消失して、全て何らかの結晶方位を有する銅として修正された。
【0111】
めっき銅の用途の一つに携帯電話のヒンジ部の配線に使用されるフレキシブル銅張積層版がある。これは、ポリイミド等の樹脂と銅箔との複合体である。そこで、本例で修正した数値データBiを使用して、測定領域を代表体積要素(RVE)として、この複合体を構成材料の一部として弾性解析を行う、均質化法による解析手順について示す。
【0112】
均質化法では、被解析物の構造体(グローバルモデル)を、それに比べて十分小さなローカルモデルをRVEとして、周期的に積み重なった集合体として扱い、ローカルモデルの平均化された物性値を用いて構造体の数値解析を行う。本例では、このローカルモデルを、数値データBiを使用して作成した。
【0113】
離散化する方法としては、どのような方法を用いてもよいが、本例の材料組織も複雑であり、結晶粒内の結晶方位揺らぎまで反映した数値解析を行うには、測定間隔と同じオーダーで離散化する必要がある。この場合、有限要素が、正方形を含む長方形、正六面体、又は直交六面体(ボクセル:Volume Pixel)として、固定要素で要素分割する。
【0114】
本例でのEBSD法の測定では、電子線は、三角格子上に走査されたため、三角格子の格子間隔と同じ中心間隔で正六面体に要素分割すると補間処理が必要ない。但し、補完処理を実施して、正方形に要素分割してもよい。また、三次元の数値解析を行う場合は、ボクセル分割してもよい。
【0115】
入力する弾性データは、弾性マトリックスであり、銅は立方晶であるから、弾性スティフネスとして、数1に示した式のE11〜E66には、E11=E22=E33=165(GPa)、E12=E13=E23=119(GPa)、E44=E55=E66=74(GPa)と与え、E14、E15、E16、E24、E25、E26、E34、E35、E36、E45、E46、E56には0を与える。
【0116】
均質化法では、この弾性マトリックスのデータとEBSD法で得られる結晶方位に関する数値データ、本例ではオイラー角を用いて、周期境界の下での自己平衡方程式から、均質化弾性定数(EH)と呼ばれる弾性マトリックスが得られた。これは、RVEの結晶配向性を反映したものであり、測定した銅自体の弾性異方性の数値解析結果が得られた。
【0117】
さらに、構造体の巨視的な方程式とローカルモデルの微視的な方程式を、ローカルモデルの周期性を入れることによって独立かつ数学的に連成させて解を得る。図14に示したような組織の、銅とポリイミドで構成される携帯電話ヒンジ部や液晶ドライバ等に用いられるフレキシブル導体部材の屈曲特性を解析する場合、巨視的な有限要素モデル(グローバルモデル)を作成し、構成させる銅のEBSD解析で測定して離散化したローカルモデルをRVEとして、RVEの均質化弾性定数を用い、有限要素法等の手法で弾性解析を行う。この時、ポリイミドは均質体として、弾性係数が与えられる。
【0118】
次いで、算出された歪値(グローバル変位)から、ロ−カルモデル内に発生する局所的応力(ローカル応力)を計算する。図15は、銅とポリイミドの積層板で構成された複合体のグローバルモデルに対して曲げ変形解析をした時の様子を示す図である。
図15において、9は、銅とポリイミドの積層複合体のグローバルモデルにおける銅部であり、10は、銅とポリイミドの積層複合体のグローバルモデルにおけるポリイミド部である。また、11は、結晶方位情報を持っためっき銅のローカルモデル(RVE)である。図15のように部材を曲げた時、結晶内に局所的にかかる応力を結晶の異方性を反映した数値解析結果が得られる。
【0119】
以上のように本実施形態によれば、EBSD法で得られる数値データを利用して、多結晶固体における結晶粒間の結晶方位関係や結晶内の方位を反映した、詳細でかつ誤差の少ない材料特性の三次元数値解析が可能になる。また、非晶質点や空隙等を含む多結晶固体であって、後方散乱電子回折像の解析不能点を含む場合でも、EBSD法で得られる数値データを利用して、多結晶固体における結晶粒間の結晶方位関係や結晶内の方位を反映した、詳細でかつ誤差の少ない材料特性の三次元数値解析が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】本発明の実施形態における材料特性解析システム(数値解析装置)及びEBSD装置の構成例を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係る数値解析システム、数値解析方法、及び数値解析プログラムによって行われる処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施形態に係る数値解析システム、数値解析方法、及び数値解析プログラムによって行われる他の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図4】結晶方位データの入力形態を示す図である。
【図5】本発明の実施形態において、有限要素を立方体要素として扱った例を示す図である。
【図6】本発明の実施形態において、有限要素を正六角形要素として扱った例を示す図である。
【図7】引抜加工で作製された直径約23μmの金線について、長さ方向の中心軸を通る断面をEBSD法で測定した結果を結晶方位でマッピングしたものを示す図である。
【図8】図7の金線部の一部であり、金線長さ方向の逆極点表示を示す拡大図である。
【図9】図8と同じ領域のデータ修正後の金線長さ方向の逆極点表示を示す拡大図である。
【図10】図7と同じ領域のデータ修正後の長さ方向のマッピングしたものを示す図である。
【図11】めっきで作製された銅について、EBSD法で測定した結果を結晶方位でマッピングしたものを示す図である。
【図12】図11の一部の拡大図である。
【図13】図12と同じ領域のデータ修正後の長さ方向の逆極点表示図である。
【図14】図13と同じ領域のデータ修正後の長さ方向の逆極点表示図である。
【図15】本発明の解析システムにおける均質化法による弾性解析のイメージ図であり、銅とポリイミドの積層板で構成された複合体のグローバルモデルに対して曲げ変形解析をした時の様子を示した図である。
【符号の説明】
【0121】
1 結晶粒
2 要素
3 結晶方位
4 測定点
5 固定要素
6 要素の重心
7 樹脂の部分
8 金以外の相の部分
9 銅部
10 ポリイミド部
11 ローカルモデル(RVE)
101 EBSD装置
102 材料特性解析システム
111 入力部
112 操作部
113 表示部
115 出力部
116 演算部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多結晶固体の後方散乱電子回折像から得られる該多結晶固体の測定点に関する位置と結晶方位とを少なくとも含む数値データAを用いて、該多結晶固体の材料特性を解析する解析システムであって、
前記多結晶固体を構成する結晶粒に対して、後方散乱電子回折装置において1つの結晶粒について複数の測定点を含むように測定対象の各結晶粒を計測して得た数値データAiを入力する入力手段と、
前記入力手段によって入力された数値データAiに対して有限要素に割り付ける割り付け手段と、
前記有限要素に三次元テンソルで表わされる物性値を与えて有限要素モデルを構築する構築手段と、
前記有限要素モデルを用いて前記数値データAiを数値解析する解析手段と、
前記解析手段による数値解析結果を出力する出力手段と、
を少なくとも有することを特徴とする多結晶固体の材料特性解析システム。
【請求項2】
前記数値データAiの結晶方位の確からしさを測定評価値で判定する評価手段と、
前記評価手段による判定結果に基づき、前記数値データAiの結晶方位を新たな結晶方位又は解析不能点に修正して数値データBiを付与するデータ修正手段とをさらに有し、
前記割り付け手段は、前記数値データBiを有限要素に割り付けることを特徴とする請求項1記載の多結晶固体の材料特性解析システム。
【請求項3】
前記測定評価値が、信頼性指数、イメージクオリティ、及びフィット値のうち、1種又は2種以上であることを特徴とする請求項2記載の多結晶固体の材料特性解析システム。
【請求項4】
前記データ修正手段は、隣接する測定点の結晶方位のデータへ置き換えて前記新たな結晶方位を付与し、解析不能点を非結晶質又は空隙として関連づける数値データBiを付与することを特徴とする請求項2記載の多結晶固体の材料特性解析システム。
【請求項5】
前記非結晶質又は空隙として関連付ける数値データBiが均質体として取り扱えるデータであることを特徴とする請求項4記載の多結晶固体の材料特性解析システム。
【請求項6】
前記数値データAiから隣接する測定点の数値データAiを用いて補間数値データA'iを生成する手段をさらに有し、
前記割り付け手段は、前記補間数値データA'iに対して有限要素に割り付けることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の多結晶固体の材料特性解析システム。
【請求項7】
前記結晶方位のデータが、オイラー角であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の多結晶固体の材料特性解析システム。
【請求項8】
前記有限要素が、正方形を含む長方形、正六角形、又は直交六面体であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の多結晶固体の材料特性解析システム。
【請求項9】
前記三次元テンソルが弾性テンソルであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の多結晶固体の材料特性解析システム。
【請求項10】
前記数値解析が、均質化法を用いるものであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の多結晶固体の材料特性解析システム。
【請求項11】
多結晶固体の後方散乱電子回折像から得られる該多結晶固体の測定点に関する位置と結晶方位とを少なくとも含む数値データAを用いて、該多結晶固体の材料特性を解析する解析方法であって、
前記多結晶固体を構成する結晶粒に対して、後方散乱電子回折装置において1つの結晶粒について複数の測定点を含むように測定対象の各結晶粒を計測して得た数値データAiを入力する入力工程と、
前記入力工程において入力された数値データAiに対して有限要素に割り付ける割り付け工程と、
前記有限要素に三次元テンソルで表わされる物性値を与えて有限要素モデルを構築する構築工程と、
前記有限要素モデルを用いて前記数値データAiを数値解析する解析工程と、
前記解析工程における数値解析結果を出力する出力工程と、
を少なくとも有することを特徴とする多結晶固体の材料特性解析方法。
【請求項12】
前記数値データAiの結晶方位の確からしさを測定評価値で判定する評価工程と、
前記評価工程における判定結果に基づき、前記数値データAiの結晶方位を新たな結晶方位又は解析不能点に修正して数値データBiを付与するデータ修正工程とをさらに有し、
前記割り付け工程においては、前記数値データBiを有限要素に割り付けることを特徴とする請求項11記載の多結晶固体の材料特性解析方法。
【請求項13】
前記測定評価値が、信頼性指数、イメージクオリティ、及びフィット値のうち、1種又は2種以上であることを特徴とする請求項12記載の多結晶固体の材料特性解析方法。
【請求項14】
前記データ修正工程においては、隣接する測定点の結晶方位のデータへ置き換えて前記新たな結晶方位を付与し、解析不能点を非結晶質又は空隙として関連づける数値データBiを付与することを特徴とする請求項12記載の多結晶固体の材料特性解析方法。
【請求項15】
前記非結晶質又は空隙として関連付ける数値データBiが均質体として取り扱えるデータであることを特徴とする請求項14記載の多結晶固体の材料特性解析方法。
【請求項16】
前記数値データAiから隣接する測定点の数値データAiを用いて補間数値データA'iを生成する工程をさらに有し、
前記割り付け工程においては、前記補間数値データA'iに対して有限要素に割り付けることを特徴とする請求項11〜15のいずれか1項に記載の多結晶固体の材料特性解析方法。
【請求項17】
前記結晶方位のデータが、オイラー角であることを特徴とする請求項11〜16のいずれか1項に記載の多結晶固体の材料特性解析方法。
【請求項18】
前記有限要素が、正方形を含む長方形、正六角形、又は直交六面体であることを特徴とする請求項11〜17のいずれか1項に記載の多結晶固体の材料特性解析方法。
【請求項19】
前記三次元テンソルが弾性テンソルであることを特徴とする請求項11〜18のいずれか1項に記載の多結晶固体の材料特性解析方法。
【請求項20】
前記数値解析が、均質化法を用いるものであることを特徴とする請求項11〜19のいずれか1項に記載の多結晶固体の材料特性解析方法。
【請求項21】
多結晶固体の後方散乱電子回折像から得られる該多結晶固体の測定点に関する位置と結晶方位とを少なくとも含む数値データAを用いて、該多結晶固体の材料特性を解析するようにコンピュータに実行させる解析プログラムであって、
前記多結晶固体を構成する結晶粒に対して、後方散乱電子回折装置において1つの結晶粒について複数の測定点を含むように測定対象の各結晶粒を計測して得た数値データAiを入力する入力ステップと、
前記入力ステップにおいて入力された数値データAiに対して有限要素に割り付ける割り付けステップと、
前記有限要素に三次元テンソルで表わされる物性値を与えて有限要素モデルを構築する構築ステップと、
前記有限要素モデルを用いて前記数値データAiを数値解析する解析ステップと、
前記解析ステップにおける数値解析結果を出力する出力ステップと、
をコンピュータに実行させることを特徴とする多結晶固体の材料特性解析プログラム。
【請求項22】
前記数値データAiの結晶方位の確からしさを測定評価値で判定する評価ステップと、
前記評価ステップにおける判定結果に基づき、前記数値データAiの結晶方位を新たな結晶方位又は解析不能点に修正して数値データBiを付与するデータ修正ステップとをさらにコンピュータに実行させ、
前記割り付けステップにおいては、前記数値データBiを有限要素に割り付けるようにコンピュータに実行させることを特徴とする請求項21記載の多結晶固体の材料特性解析プログラム。
【請求項23】
前記測定評価値が、信頼性指数、イメージクオリティ、及びフィット値のうち、1種又は2種以上であることを特徴とする請求項22記載の多結晶固体の材料特性解析プログラム。
【請求項24】
前記データ修正ステップにおいては、隣接する測定点の結晶方位のデータへ置き換えて前記新たな結晶方位を付与し、解析不能点を非結晶質又は空隙として関連づける数値データBiを付与するようにコンピュータに実行させることを特徴とする請求項22記載の多結晶固体の材料特性解析プログラム。
【請求項25】
前記非結晶質又は空隙として関連付ける数値データBiが均質体として取り扱えるデータであることを特徴とする請求項24記載の多結晶固体の材料特性解析プログラム。
【請求項26】
前記数値データAiから隣接する測定点の数値データAiを用いて補間数値データA'iを生成するステップをさらにコンピュータに実行させ、
前記割り付けステップにおいては、前記補間数値データA'iに対して有限要素に割り付けるようにコンピュータに実行させることを特徴とする請求項21〜25のいずれか1項に記載の多結晶固体の材料特性解析プログラム。
【請求項27】
前記結晶方位のデータが、オイラー角であることを特徴とする請求項21〜26のいずれか1項に記載の多結晶固体の材料特性解析プログラム。
【請求項28】
前記有限要素が、正方形を含む長方形、正六角形、又は直交六面体であることを特徴とする請求項21〜27のいずれか1項に記載の多結晶固体の材料特性解析プログラム。
【請求項29】
前記三次元テンソルが弾性テンソルであることを特徴とする請求項21〜28のいずれか1項に記載の多結晶固体の材料特性解析プログラム。
【請求項30】
前記数値解析が、均質化法を用いるものであることを特徴とする請求項21〜29のいずれか1項に記載の多結晶固体の材料特性解析プログラム。
【請求項31】
請求項21〜30のいずれか1項に記載の多結晶固体の材料特性解析プログラムを格納したことを特徴とするコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項1】
多結晶固体の後方散乱電子回折像から得られる該多結晶固体の測定点に関する位置と結晶方位とを少なくとも含む数値データAを用いて、該多結晶固体の材料特性を解析する解析システムであって、
前記多結晶固体を構成する結晶粒に対して、後方散乱電子回折装置において1つの結晶粒について複数の測定点を含むように測定対象の各結晶粒を計測して得た数値データAiを入力する入力手段と、
前記入力手段によって入力された数値データAiに対して有限要素に割り付ける割り付け手段と、
前記有限要素に三次元テンソルで表わされる物性値を与えて有限要素モデルを構築する構築手段と、
前記有限要素モデルを用いて前記数値データAiを数値解析する解析手段と、
前記解析手段による数値解析結果を出力する出力手段と、
を少なくとも有することを特徴とする多結晶固体の材料特性解析システム。
【請求項2】
前記数値データAiの結晶方位の確からしさを測定評価値で判定する評価手段と、
前記評価手段による判定結果に基づき、前記数値データAiの結晶方位を新たな結晶方位又は解析不能点に修正して数値データBiを付与するデータ修正手段とをさらに有し、
前記割り付け手段は、前記数値データBiを有限要素に割り付けることを特徴とする請求項1記載の多結晶固体の材料特性解析システム。
【請求項3】
前記測定評価値が、信頼性指数、イメージクオリティ、及びフィット値のうち、1種又は2種以上であることを特徴とする請求項2記載の多結晶固体の材料特性解析システム。
【請求項4】
前記データ修正手段は、隣接する測定点の結晶方位のデータへ置き換えて前記新たな結晶方位を付与し、解析不能点を非結晶質又は空隙として関連づける数値データBiを付与することを特徴とする請求項2記載の多結晶固体の材料特性解析システム。
【請求項5】
前記非結晶質又は空隙として関連付ける数値データBiが均質体として取り扱えるデータであることを特徴とする請求項4記載の多結晶固体の材料特性解析システム。
【請求項6】
前記数値データAiから隣接する測定点の数値データAiを用いて補間数値データA'iを生成する手段をさらに有し、
前記割り付け手段は、前記補間数値データA'iに対して有限要素に割り付けることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の多結晶固体の材料特性解析システム。
【請求項7】
前記結晶方位のデータが、オイラー角であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の多結晶固体の材料特性解析システム。
【請求項8】
前記有限要素が、正方形を含む長方形、正六角形、又は直交六面体であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の多結晶固体の材料特性解析システム。
【請求項9】
前記三次元テンソルが弾性テンソルであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の多結晶固体の材料特性解析システム。
【請求項10】
前記数値解析が、均質化法を用いるものであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の多結晶固体の材料特性解析システム。
【請求項11】
多結晶固体の後方散乱電子回折像から得られる該多結晶固体の測定点に関する位置と結晶方位とを少なくとも含む数値データAを用いて、該多結晶固体の材料特性を解析する解析方法であって、
前記多結晶固体を構成する結晶粒に対して、後方散乱電子回折装置において1つの結晶粒について複数の測定点を含むように測定対象の各結晶粒を計測して得た数値データAiを入力する入力工程と、
前記入力工程において入力された数値データAiに対して有限要素に割り付ける割り付け工程と、
前記有限要素に三次元テンソルで表わされる物性値を与えて有限要素モデルを構築する構築工程と、
前記有限要素モデルを用いて前記数値データAiを数値解析する解析工程と、
前記解析工程における数値解析結果を出力する出力工程と、
を少なくとも有することを特徴とする多結晶固体の材料特性解析方法。
【請求項12】
前記数値データAiの結晶方位の確からしさを測定評価値で判定する評価工程と、
前記評価工程における判定結果に基づき、前記数値データAiの結晶方位を新たな結晶方位又は解析不能点に修正して数値データBiを付与するデータ修正工程とをさらに有し、
前記割り付け工程においては、前記数値データBiを有限要素に割り付けることを特徴とする請求項11記載の多結晶固体の材料特性解析方法。
【請求項13】
前記測定評価値が、信頼性指数、イメージクオリティ、及びフィット値のうち、1種又は2種以上であることを特徴とする請求項12記載の多結晶固体の材料特性解析方法。
【請求項14】
前記データ修正工程においては、隣接する測定点の結晶方位のデータへ置き換えて前記新たな結晶方位を付与し、解析不能点を非結晶質又は空隙として関連づける数値データBiを付与することを特徴とする請求項12記載の多結晶固体の材料特性解析方法。
【請求項15】
前記非結晶質又は空隙として関連付ける数値データBiが均質体として取り扱えるデータであることを特徴とする請求項14記載の多結晶固体の材料特性解析方法。
【請求項16】
前記数値データAiから隣接する測定点の数値データAiを用いて補間数値データA'iを生成する工程をさらに有し、
前記割り付け工程においては、前記補間数値データA'iに対して有限要素に割り付けることを特徴とする請求項11〜15のいずれか1項に記載の多結晶固体の材料特性解析方法。
【請求項17】
前記結晶方位のデータが、オイラー角であることを特徴とする請求項11〜16のいずれか1項に記載の多結晶固体の材料特性解析方法。
【請求項18】
前記有限要素が、正方形を含む長方形、正六角形、又は直交六面体であることを特徴とする請求項11〜17のいずれか1項に記載の多結晶固体の材料特性解析方法。
【請求項19】
前記三次元テンソルが弾性テンソルであることを特徴とする請求項11〜18のいずれか1項に記載の多結晶固体の材料特性解析方法。
【請求項20】
前記数値解析が、均質化法を用いるものであることを特徴とする請求項11〜19のいずれか1項に記載の多結晶固体の材料特性解析方法。
【請求項21】
多結晶固体の後方散乱電子回折像から得られる該多結晶固体の測定点に関する位置と結晶方位とを少なくとも含む数値データAを用いて、該多結晶固体の材料特性を解析するようにコンピュータに実行させる解析プログラムであって、
前記多結晶固体を構成する結晶粒に対して、後方散乱電子回折装置において1つの結晶粒について複数の測定点を含むように測定対象の各結晶粒を計測して得た数値データAiを入力する入力ステップと、
前記入力ステップにおいて入力された数値データAiに対して有限要素に割り付ける割り付けステップと、
前記有限要素に三次元テンソルで表わされる物性値を与えて有限要素モデルを構築する構築ステップと、
前記有限要素モデルを用いて前記数値データAiを数値解析する解析ステップと、
前記解析ステップにおける数値解析結果を出力する出力ステップと、
をコンピュータに実行させることを特徴とする多結晶固体の材料特性解析プログラム。
【請求項22】
前記数値データAiの結晶方位の確からしさを測定評価値で判定する評価ステップと、
前記評価ステップにおける判定結果に基づき、前記数値データAiの結晶方位を新たな結晶方位又は解析不能点に修正して数値データBiを付与するデータ修正ステップとをさらにコンピュータに実行させ、
前記割り付けステップにおいては、前記数値データBiを有限要素に割り付けるようにコンピュータに実行させることを特徴とする請求項21記載の多結晶固体の材料特性解析プログラム。
【請求項23】
前記測定評価値が、信頼性指数、イメージクオリティ、及びフィット値のうち、1種又は2種以上であることを特徴とする請求項22記載の多結晶固体の材料特性解析プログラム。
【請求項24】
前記データ修正ステップにおいては、隣接する測定点の結晶方位のデータへ置き換えて前記新たな結晶方位を付与し、解析不能点を非結晶質又は空隙として関連づける数値データBiを付与するようにコンピュータに実行させることを特徴とする請求項22記載の多結晶固体の材料特性解析プログラム。
【請求項25】
前記非結晶質又は空隙として関連付ける数値データBiが均質体として取り扱えるデータであることを特徴とする請求項24記載の多結晶固体の材料特性解析プログラム。
【請求項26】
前記数値データAiから隣接する測定点の数値データAiを用いて補間数値データA'iを生成するステップをさらにコンピュータに実行させ、
前記割り付けステップにおいては、前記補間数値データA'iに対して有限要素に割り付けるようにコンピュータに実行させることを特徴とする請求項21〜25のいずれか1項に記載の多結晶固体の材料特性解析プログラム。
【請求項27】
前記結晶方位のデータが、オイラー角であることを特徴とする請求項21〜26のいずれか1項に記載の多結晶固体の材料特性解析プログラム。
【請求項28】
前記有限要素が、正方形を含む長方形、正六角形、又は直交六面体であることを特徴とする請求項21〜27のいずれか1項に記載の多結晶固体の材料特性解析プログラム。
【請求項29】
前記三次元テンソルが弾性テンソルであることを特徴とする請求項21〜28のいずれか1項に記載の多結晶固体の材料特性解析プログラム。
【請求項30】
前記数値解析が、均質化法を用いるものであることを特徴とする請求項21〜29のいずれか1項に記載の多結晶固体の材料特性解析プログラム。
【請求項31】
請求項21〜30のいずれか1項に記載の多結晶固体の材料特性解析プログラムを格納したことを特徴とするコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図10】
【図11】
【図14】
【図15】
【図8】
【図9】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図10】
【図11】
【図14】
【図15】
【図8】
【図9】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−264750(P2009−264750A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−110654(P2008−110654)
【出願日】平成20年4月21日(2008.4.21)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月21日(2008.4.21)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
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