説明

多能性の増強方法

体細胞などの細胞で多能性を増強または誘導する方法におけるTbx3(GenBank受託番号:NM 005996.3、NP 005987.3、NM 016569.3、NP 057653.3)の使用を提供する。細胞を再プログラムする方法を記述し、本方法は、細胞内でのTbx3の発現および/または活性をモジュレートすることを含む。細胞は、幹細胞などの多能性細胞になりうる。さらに、体細胞などの細胞が多能性細胞の1つ以上の特徴を示すようにする方法を記述し、本方法は、細胞内でのTbx3の発現および/または活性をモジュレートすることを含む。本方法はさらに、細胞内でのOct4、Sox2およびKlf4の1つ以上、組合せまたはすべての発現および/または活性をモジュレートすることも含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発生、細胞生物学、分子生物学、および遺伝学の分野に関する。より具体的には、本発明は、体細胞の再プログラミング、体細胞からの幹細胞の取得、および体細胞での多能性の誘導を行うための方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ESCは、多能性であり、限りなく自己複製が可能である。こうした性質は、一群のコア因子により付与され、ESCの個性を決定する。
【0003】
成体体細胞は、主要転写因子が導入された場合、ESCに似るように再プログラミングが可能であることが示されている1。誘導多能性幹(iPS)細胞は、規定の因子を体細胞内に導入することにより取得可能である。このことから、互いの細胞の個性の入れ替えは、さまざまな細胞型に存在する特有のレギュレート分子群により主に規定されることが示唆される。
【0004】
多能性幹細胞の誘導は、マウスおよびヒトの細胞の両方でいくつかの遺伝子のウイルス形質導入により達成可能であるが、ただし、低効率である。DNAメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼ、ヒストンメチルトランスフェラーゼ、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ、およびグリコーゲンシンターゼキナーゼ−3に対する阻害剤などの化学化合物を追加すると再プログラミングの効率が改良されることが報告されている2-5
【0005】
最近、iPS細胞の生成は、ウイルスベクターを用いずに達成されている。OSK+c−Myc(OSKC)を過剰発現するプラスミドの反復トランスフェクションにより外因性DNA組込みを伴わずにiPS細胞が得られた6。Oct4、Sox2、およびKlf4の組合せ(OSK)は、マウス胚性線維芽細胞(MEF)からiPS細胞を生成するのに必要な最小限の要件を構成する。
【0006】
誘導多能性幹(iPS)細胞は、網羅的遺伝子発現解析に基づいて胚性幹細胞(ESC)に似ていると考えられる。ESC様iPS細胞は、これらの方法を用いて慣例に従って取得可能であるが、それらの生殖系列寄与および伝播頻度を注意深く調べた研究はきわめて少ない。
【0007】
かくして、iPS細胞は、独特の形態を有し、ESCに非常に類似した分子マーカーを発現するが、キメラへのそれらの寄与能および寄与度は、非常にさまざまであった4,7-9。このことから、iPS細胞は、ESCに完全に似ているわけではなく10、さまざまなiPS細胞株の質に顕著な相違が存在することが示唆される。
【0008】
とくに、キメラ現象、生殖組織への定着、ならびに最も重要なこととして、四倍体相補法を用いて生成されたiPS細胞からの生殖系列伝播および生命誕生への寄与に関して、これらのiPS細胞クローンの能力および効率は、確立されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、高い生殖系列分化能に関するその能力により規定される再プログラムiPS細胞の質を改良するために、OSKの基本要件に加えて他の因子の必要性が当技術分野に存在する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様によれば、体細胞などの細胞で多能性を誘導または増強する方法におけるTbx3(GenBank受託番号:NM 005996.3、NP 005987.3、NM 016569.3、NP 057653.3)の使用を提供する。
【0011】
本発明の第2の態様によれば、細胞を再プログラムする方法を提供する。この方法は、細胞内でのTbx3(GenBank受託番号:NM 005996.3、NP 005987.3、NM 016569.3、NP 057653.3)の発現および/または活性をモジュレートすることを含む。
【0012】
この方法または使用は、細胞が幹細胞などの多能性細胞になるようにしうるものであってもよい。
【0013】
本発明の第3の態様によれば、体細胞などの細胞が多能性細胞の1つ以上の特徴を示すようにする方法を提供する。この方法は、細胞内でのTbx3(GenBank受託番号:NM 005996.3、NP 005987.3、NM 016569.3、NP 057653.3)の発現および/または活性をモジュレートすることを含む。
【0014】
この使用または方法はさらに、細胞内でのOct4、Sox2、およびKlf4の1つ以上、組合せ、またはすべての発現および/または活性を、場合により細胞内へのc−Mycの導入を行わずに、モジュレートすることを含みうる。
【0015】
この方法または使用は、細胞が多能性細胞の1つ以上の特徴(たとえば、Oct4、Nanog、Gdf3、Dppa4、およびTbx3(GenBank受託番号:NM 005996.3、NP 005987.3、NM 016569.3、NP 057653.3)などの1つ以上の多能性マーカーの発現を示すようにしうるものであってもよい。
【0016】
この使用または方法は、細胞が、たとえば、異なる遺伝的背景の胚に導入された場合、キメラ現象に寄与できるようにしうるものであってもよい。
【0017】
この使用または方法は、細胞が生殖腺への生殖細胞寄与などにより生殖組織に定着できるようにしうるものであってもよい。
【0018】
この使用または方法は、細胞が高い生殖系列分化能を有してまたは高い生殖系列伝播頻度で生殖組織に定着できるようにしうるものであってもよい。
【0019】
この使用または方法は、細胞が四倍体胚盤胞相補法を介して正期生産子孫を生成できるようにしうるものであってもよい。
【0020】
本発明の第4の態様として、細胞で多能性を誘導する方法、細胞を再プログラムする方法、または細胞が多能性細胞の1つ以上1つ以上(one or more one or more)の特徴を示すようにする方法で使用するためのTbx3(GenBank受託番号:NM 005996.3、NP 005987.3、NM 016569.3、NP 057653.3)を提供する。この場合、細胞は、たとえば体細胞を含む。
【0021】
この使用または方法は、細胞がマウス細胞やヒト細胞などの哺乳動物細胞を含むようにしうるものであってもよい。
【0022】
本発明の第5の態様によれば、幹細胞株を取得する方法を提供する。この方法は、以上に明記された方法を実施することと、それから細胞株を得ることと、を含む。
【0023】
第6の態様では、本発明は、記載の方法により取得可能な誘導再プログラム多能性細胞もしくは誘導再プログラム多能性幹細胞、または細胞株を提供する。
【0024】
本発明の第7の態様では、細胞の分化を増強しうる分子を同定する方法を提供する。この方法は、以上に明記された方法を候補分子の存在下で実施することと、候補分子の不在下と比較して、細胞による多能性の誘導の低減、細胞の再プログラミングの低減、または細胞による多能性細胞の1つ以上の特徴の出現の低減を検出することと、を含む。
【0025】
本発明の第8の態様によれば、細胞の分化を増強しうる分子を同定する方法を提供する。この方法は、以上に明記された方法により誘導再プログラム多能性細胞または誘導再プログラム多能性幹細胞を取得することと、細胞を候補分子に暴露することと、細胞の分化を検出することと、を含む。
【0026】
本発明の第9の態様によれば、細胞の多能性を増強または誘導しうる分子を同定する方法を提供する。この方法は、以上に明記された方法を候補分子の存在下で実施することと、候補分子の不在下と比較して、細胞による多能性の誘導の増大、細胞の再プログラミングの増大、または細胞による多能性細胞の1つ以上の特徴の出現の増大を検出することと、を含む。
【0027】
本発明を実施する際、とくに指定がないかぎり、当業者の能力の範囲内にある化学、分子生物学、微生物学、組換えDNA、および免疫学の従来技術が利用されるものとする。そのような技術は、文献に説明されている。たとえば、J.Sambrook,E.F.Fritsch,and T.Maniatis,1989,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Edition,Books 1−3,Cold Spring Harbor Laboratory Press、Ausubel,F.M.et al.(1995 and periodic supplements、Current Protocols in Molecular Biology,ch.9,13,and 16,John Wiley & Sons,New York,N.Y.)、B.Roe,J.Crabtree,and A. Kahn,1996,DNA Isolation and Sequencing:Essential Techniques,John Wiley & Sons、J.M.Polak and James O’D.McGee,1990,In Situ Hybridization:Principles and Practice、Oxford University Press、M.J.Gait(Editor),1984,Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,Irl Press、D.M.J.Lilley and J.E.Dahlberg,1992,Methods of Enzymology:DNA Structure Part A:Synthesis and Physical Analysis of DNA Methods in Enzymology,Academic Press、Using Antibodies:A Laboratory Manual:Portable Protocol NO.I by Edward Harlow,David Lane,Ed Harlow(1999,Cold Spring Harbor Laboratory Press,ISBN0−87969−544−7)、Antibodies:A Laboratory Manual by Ed Harlow(Editor),David Lane(Editor)(1988,Cold Spring Harbor Laboratory Press,ISBN0−87969−314−2),1855.Handbook of Drug Screening,edited by Ramakrishna Seethala,Prabhavathi B.Fernandes(2001,New York,NY,Marcel Dekker,ISBN0−8247−0562−9)、およびLab Ref:A Handbook of Recipes,Reagents,and Other Reference Tools for Use at the Bench,Edited Jane Roskams and Linda Rodgers,2002,Cold Spring Harbor Laboratory,ISBN0−87969−630−3を参照されたい。これらの一般的典拠はそれぞれ、参照により本明細書に組み入れられるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1A−1F】Tbx3が細胞融合媒介再プログラミングを支援することが網羅的遺伝子発現プロファイリングにより明らかにされることを示す図である。
【図1A】Nanog過剰発現(OE)またはTcf3 RNAiを有する改変ESCをMEFと融合してネオマイシンおよびピューロマイシンに耐性の四倍体ESC/MEFハイブリッドを生成した。
【図1B】Nanog OE、Tbx3 OE、およびTcf3 RNAiは、MEFの細胞融合媒介再プログラミングを増強した。代表例は、ESC/MEFハイブリッドコロニーの出現を示す。Tcf3 RNAi、Nanog OE、またはTbx3 OEのESCは、融合後、多数のハイブリッドクローンを生成したが、MEFとの対照ESC融合体は、1回の実験あたり平均1個であった。
【図1C】Nanog OE ESCは、MEFの再プログラミングに関して効率的であり、13個のコロニーを生成し、次いで、Tcf3 RNAi(10個)およびTbx3 OE(4.5個)であった。個数は、4回の独立した融合実験の平均値を表す。*は、ベクターと有意差があることを示し、+は、対照shRNAと有意差があることを示す。
【図1D】ヒートマップは、対照と比較して処理ESCで増大されたすべての遺伝子を示している。Tbx3は、Nanog OEおよびTcf3 RNAiのESCで最も高度にアップレギュレートされた遺伝子であった。左端の赤色カラムは、それぞれ、ChIP−PET29およびChIP−chip14データベースに基づいてNanogまたはTcf3の直接遺伝子標的を表している。
【図1E】ESCでのTbx3のRNAiノックダウンは、自己複製の低下を引き起こし、分化を誘導した。
【図1F】ChIP−qPCRにより測定したときのTbx3遺伝子上のTcf3およびNanog占有の富化。
【図2A−2E】Oct4、Sox2、Klf4、およびTbx3レトロウイルス形質導入を用いたiPS細胞の生成を示す図である。
【図2A】OSKCおよびOSKCTは、約300個のESC様コロニー(5×104個のMEFあたり)を誘導し、その約10%は、GFPを発現した。同一の実験条件下で、OSKTは、平均でOSKからの26個のESC様コロニーと比較して38個を誘導し、GFP活性化は、それぞれ、89%および74%であった。16日目にコロニーをアッセイしカウントした。データは、3回の独立した形質導入実験の平均値を表す。*は、OSKと有意差があることを示す(p<0.05)。
【図2B】OSKおよびOSKTのiPS細胞クローンは、密なドーム形ESC様形態およびコロニー全体にわたり均一なGFP発現を示したが、OSKCクローンは、まばらなGFP発現を有する扁平形トランスフォーム細胞として出現した。スケールバー=100μm。
【図2C】OSKTは、感染9〜10日後に初代MEF由来のiPSでOct4−GFPトランスジーンの活性化を誘導したが、OSKおよびOSKCの組合せは、14日間を必要とすることが4回の独立した形質導入実験で観測された。
【図2D】PCR分析では、さまざまな組合せを用いて生成されたiPS細胞で特定因子に対する過剰発現プラスミドのゲノム組込みが確認された。
【図2E】OSKT iPS細胞は、Nanog、Sox2、SSEA1に特異的な抗体によりおよびアルカリ性ホスファターゼ活性により検出される典型的なESCタンパク質を発現した。スケールバー=100μm。
【図3A−3B】iPS細胞クローンのトランスクリプトームが再プログラミング因子のさまざまな組合せで生成したことを示す図である。
【図3A】網羅的発現プロファイリングの階層的クラスタリングでは、OSKTおよびOSKクローンは、OSEよりも野生型ESCに類似しているが、相関係数(R2=0.94)に基づいて互いと区別できないことが示された。R2値は、各組合せですべてのiPSクローンの平均個別遺伝子シグナル強度から得られ、R1 ESCと比較された。クローンが単離された独立した形質導入実験は、A、B、C、およびDとして示されている。
【図3B】個別ESC関連遺伝子プロファイルの分析では、OSKT由来iPS細胞とOSK由来iPS細胞とを識別しうるサブセットが明らかにされた。「識別性」ESC遺伝子は、OSKTとESCとの間では類似したレベルで発現されたが、OSKでは有意に低いレベルで発現された。他のESC関連遺伝子の大部分は、「非識別性」であり、OSKTおよびOSKの両者間で類似したレベルで存在する。*は、OSKTと有意差があることを示し、+は、ESCと有意差があることを示す(p<0.05)。マイクロアレイに基づく遺伝子発現の変化をqPCRにより確認した(図S9)。
【図4A−4G】OSKT iPS細胞が増強された生殖系列寄与および伝播を示すことを示す図である。
【図4A】4〜8細胞桑実胚中へのGFP+iPS細胞の注入(上側パネル)ならびにそれに続く胚盤胞へのin vitro成熟および代理動物中への再留置。GFP+細胞は、とくにICMに局在化する(下側パネル)。
【図4B】キメラE13.5胎仔の生殖腺中におけるさまざまな再プログラミング因子の組合せを用いて生成されたGFP+細胞の量的寄与および空間分布を示す代表的写真。
【図4C】さまざまな組合せの因子を用いたときのキメラ胎仔の生殖腺へのGFP+iPS細胞由来生殖細胞の寄与およびそれらの空間分布を比較した表。OSKT iPS細胞は、OSKおよびOSEのiPS細胞と比較して生殖腺への定着に関して最も効果的であった。*は、OSKと有意差があることを示す(p<0.01)。OSK対OSKTの比較のために11セットの独立したマイクロインジェクションを行った。
【図4D】アルビノマウスと交雑した後のF2子孫のキメラ被毛および誕生へのiPS細胞の寄与を示す代表的写真。黒色子孫は、iPS細胞の生殖系列伝播の指標となる(is indicates)。
【図4E】さまざまな組合せの因子を用いて生成されたiPS細胞の生殖系列伝播頻度をまとめた表。各組合せに対して、2〜6つのiPS細胞株を用いて生存キメラを取得し、各組合せでそのうちの少なくとも1匹の雄をアルビノ雌と交差して黒色F2の頻度を決定した。*は、OSKおよびOSEと有意差があることを示す(それぞれ、p<0.005およびp<0.001)。
【図4F】四倍体相補法から生存動物を生成する能力に関して2つのOSKT iPS細胞株を試験した。OSKT #14では代理雌の子宮退縮の疑いがあったため、四倍体相補法で生成された初期の33個の胚に由来する2匹の胎仔をE19で帝王切開により取得した。OSKT #16では、50個の胚から10匹の生産仔を取得した。8匹は1日目、5匹は2日目、3匹は1週目まで生存した。1匹の過体重出生仔は、2週目前に死亡し、2匹の残りのマウスは、2ヶ月を過ぎて生存した。
【図4G】多重転写因子結合遺伝子座内の転写因子(TF)群の共起。ヒートマップの色は、TFの各対の共局在化頻度を反映する(黄色は、より高頻度で共局在化されることを意味し、赤色は、より少ないことを意味する)。
【図5】ESC/MEFハイブリッド細胞の核型分析を示す図である。初代MEFは、分裂中期に正常二倍体核型を示した(n=40)。Nanog OE ESC/MEFおよびTcf3 RNAi ESC/MEFハイブリッドは、中央値染色体数が80個の四倍体であった。合計20個の分裂中期スプレッドを各条件で分析した。
【図6】Nanog OEおよびTcf3 RNAiのESC/MEFハイブリッドが親ESC系に似ていていることを示す図である。Nanog OEおよびTcf3 RNAiのESCは、野生型ESCが分化するLIFの不在下で増殖可能であった(Tam,W.L.et al.T−cell factor 3 regulates embryonic stem cell pluripotency and self−renewal by the transcriptional control of multiple lineage pathways.Stem Cells 26,2019−31(2008)、Silva,J.,Chambers,I.,Pollard,S.& Smith,A.Nanog promotes transfer of pluripotency after cell fusion.Nature 441,997−1001(2006))。また、これらの細胞に由来する誘導ESC/MEFハイブリッドは、LIFを用いずに増殖可能であったが、対照ハイブリッド細胞は、増殖不能であった。未分化ESCは、アルカリホスファターゼ陽性(赤色)であった。スケールバー=100μm。
【図7】Nanogプロモーターのエピジェネティクス解析を示す図である。MEFのNanog近位プロモーターは、CpG部位で高度にメチル化されていたが、ESCではメチル化されていなかった。細胞融合すると、Nanog OEおよびTcf3 RNAiの両ESCに由来するESC/MEFハイブリッドは、MEF Nanogプロモーターの完全脱メチル化を示し、四倍体細胞の非メチル化CpG部位を生じた。黒丸はメチル化CpG部位を表し、一方、白丸は非メチル化を表している。
【図8】細胞融合事象の頻度のFACS解析。遺伝子操作の結果として再プログラミングの増強が細胞融合事象の増加に起因しうる可能性を排除するために、対照ES細胞と対比して改変ES細胞で細胞融合効率を追跡した。改変されたESC(Nanog OE、Tbx3 OE、またはTcf3 RNAi)およびMEFをそれぞれ蛍光染料(florescent dyes)SNARF−1およびCDFA−SEで標識し、続いて、細胞融合および平板培養を行った。24時間後、標識細胞の割合をFACSにより解析した。MEFと融合された3つの改変ESC系のいずれでも、対照ESCと比較して、二重染料標識パーセントに差がなかった。
【図9A】qPCRにより測定されたTbx3の発現変化を示す図である。ESCでのNanog OEおよびTcf3 RNAiノックダウンは両方とも、Tbx3のレベルをアップレギュレートしたことから、図1Dに示されるマイクロアレイデータが確証された(n=3)。エラーバーは、平均値の標準誤差を表す。
【図9B】ESC/MEFハイブリッドクローンの遺伝子発現プロファイリングを示す図である。Nanog OEまたはTcf3 RNAi ESCとのMEF融合から得られたハイブリッドを対照ESC/MEFハイブリッドと比較した。Nanog OEまたはTcf3 RNAi ESC/MEFハイブリッドでアップレギュレートされたすべての遺伝子のうち、Tbx3は、最も上昇した遺伝子群に属していた。各ヒートマップの左端のカラムの赤色バーは、NanogまたはTcf3の直接標的である遺伝子を示している。
【図10】感染48時間後のHEK293T細胞中のpLenti6−UBCおよびpMXsプラスミドからのTbx3の過剰発現を示すウェスタンブロット解析を示す図である。
【図11】iPS細胞株単離のまとめを示す図である。Oct4−GFPトランスジーンの再活性化を示す合計36のiPS細胞株(形質導入実験セットAおよびBから)を再プログラミング因子の各組合せで単離した。これらを平均6回の継代培養で拡大増殖した後、in vivo発生能のマイクロアレイ解析および検証を行った。組合せOSKおよびOSKTは、約90%の効率で安定なiPS細胞株を生成したが、iPS系を誘導する効率は、OSKCTでは33.3%、OSKCでは50%であった。
【図12】奇形腫へのiPS細胞の分化を示す図である。誘導PS細胞をSCIDマウスに皮下注射した。腫瘍増殖は、すべての場合で観測され、取り出され、固定され、パラフィン包埋され、薄片にされ、そしてヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色された。OSKC、OSK、およびOSKTを用いて誘導されたiPS細胞から得られた奇形腫はすべて、さまざまな細胞型への広範なin vivo分化を示した。
【図13】qPCRによる図3Bのマイクロアレイから得られた遺伝子発現レベルの検証を示す図である。対象の遺伝子の転写レベルを内部対照としてのβ−アクチンに対して規格化し、続いて、R1 ESC−1に対して規格化した。各iPS細胞クローンでn=3の技術反復試験。エラーバーは、平均値の標準誤差を表す。
【図14】iPS細胞の生殖系列伝播能の解析のスキームを示す図である。MEFは、Oct4−GFPトランスジーンを保有するB6マウス[CBA−Tg(Pou5f1−EGFP)2Mnn/J]に由来するものであった。誘導PS細胞をアルビノマウスの4〜8細胞胚に注入し、内部細胞塊中にGFP+細胞を含有する胚盤胞に成熟させ、そして偽妊娠の代理マウスに移植した。E13.5でマウスの半分を屠殺してキメラの生殖腺へのiPS細胞の寄与を評価した。この段階では、Oct4は、生殖細胞内でのみ再活性化されるであろう。生存キメラ(F1)を残りの代理マウスから取得し、続いて、アルビノマウスと交配した。F2子孫は、黒色アルビノマウスおよびヘテロ接合マウスを含む。黒色F2生成は、iPS細胞からの少なくとも1つの対立遺伝子(毛色を特定する)および染色体の伝播の指標となる。
【図15】キメラの生殖腺へのiPS細胞の寄与を示す図である。野生型胚へのiPS細胞の注入により得られたE13.5キメラの精巣および卵巣へのiPS細胞の寄与を評価した。各生殖腺内のGFP+細胞の分布パーセントの任意参照基準を目視評価に基づいて>90%、50〜90%、および<50%に設定した。各組合せでGFP+iPS由来生殖細胞寄与を有する生殖腺のみが示されている。
【図16】iPS細胞での組込みトランスジーンのサイレンシングを示す図である。再プログラミング因子を用いたMEFのレトロウイルス感染の4日後、トランスジーンに特異的なqPCRプライマーを用いて外因性因子の発現を検出することが可能である。十分に再プログラムされたiPS細胞では、トランスジーンの発現は検出できなかった。各iPS細胞クローンにつきn=3の技術反復試験。
【図17】サザンハイブリダイゼーション解析によりOSKおよびOSKTクローンの両方でOct4、Sox2、およびKlf4トランスジーンの多重組込みが明らかにされることを示す図である。組込みの頻度は、両組合せを用いて誘導された種々のクローン間で類似して現れた。Tbx3組込みは、さまざまな頻度でOSKTクローンでのみ検出された。
【図18】図である。
【図19】十分な発生能への体細胞ゲノムの再プログラミングの進行を評価するために利用可能な「多能性ランドマーク」のモデルを示す図である。さまざまな因子の組合せを用いることにより、多能性の進行「ランドマーク」を基軸としてかなり異なる発生能を有するiPS集団およびクローンが生成される。既存の再プログラミング因子にTbx3を追加すると、再プログラム細胞の全集団内でESCと等価なまたはそれに最も近い多能性状態を達成したiPS細胞の確率頻度が増加する。
【発明を実施するための形態】
【0029】
Tbx3による多能性の増強
iPS細胞の質を有意に改良する転写因子としてTbx3を同定した。とくに、Tbx3が幹細胞などの細胞の多能性を増強しうることを確証する。
【0030】
実施例で実証されるように、Oct4、Sox2、およびKlf4(OSK)+Tbx3(すなわちOSKT)を用いて生成された誘導PS細胞は、生殖腺への生殖細胞寄与および生殖系列伝播頻度の両方で優れている。とくに、網羅的遺伝子発現プロファイリングではOSK iPS細胞とOSKT iPS細胞とを区別できないことを見いだした。
【0031】
さらに、ESCでのTbx3結合部位のゲノムワイドChIP配列解析から、Tbx3が、多くの共通した下流のレギュレート標的をOct4、Sox2、Nanog、およびSmad1と共有することに加えて、多能性関連因子および再プログラミング因子をレギュレートすることが示唆されることを実施例で示す。
【0032】
したがって、体細胞や幹細胞(誘導多能性幹細胞を含む)などの細胞の多能性を増強または誘導する方法を一般的に記述する。そのような細胞で多能性を誘導する方法を記述する。誘導多能性幹細胞などの幹細胞を調製する方法を記述する。
【0033】
本方法は、Tbx3を含む再プログラミング因子の活性もしくは発現またはその両方のアップレギュレーションに依拠する。とくに、1種以上の再プログラミング因子およびTbx3の存在下で体細胞や幹細胞(誘導多能性幹細胞を含む)などの細胞の多能性の増強または誘導を行う方法を記述する。本方法は、腫瘍原性因子の疑いのあるc−Mycを用いても用いなくても利用可能である。
【0034】
Tbx3の存在下でOctファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子、Soxファミリー遺伝子(または以上の任意の組合せ)などの核再プログラミング誘導遺伝子を体細胞内に導入することにより、細胞の多能性を増大させうることおよび誘導多能性幹細胞を効率的に調製しうることを確認した。
【0035】
したがって、Tbx3の存在下での核再プログラミング因子を用いた核再プログラミングを含む、誘導多能性幹細胞の調製方法および幹細胞の多能性の増強方法を記述する。Tbx3は、Tbx3の存在下でその不在下よりも高い核再プログラミング効率を提供する性質を有しうる。
【0036】
たとえば、本方法は、胚性幹細胞内で体細胞内よりも高レベルでTbx3を発現することを含みうる。本方法は、Tbx3がTbx3の存在下でTbx3の不在下よりも高い核再プログラミング効率を提供する性質を有するという特徴を含みうる。
【0037】
本方法は、核再プログラミング前に体細胞内に存在するレベルと比較して増大されたレベルのTbx3の存在下で核再プログラミングが行われるという特徴を含みうる。
【0038】
本明細書に記載の方法および組成物で使用するのに好適な細胞は、任意の好適な起源に由来するものでありうる。例としては、ヒト、マウス、ラット、ウシ、ヒツジ、ウマ、サル、およびハムスターの細胞、たとえば、ヒトまたはマウスに由来する体細胞または幹細胞、たとえば、ヒトに由来する体細胞または幹細胞が挙げられる。
【0039】
体細胞は、ヒト胚細胞または成人由来体細胞を含みうる。体細胞は、1個体以上に特異的なもの、たとえば、個体群または集団からの体細胞の集まりでありうる。
【0040】
体細胞は、患者から集められた体細胞を含みうる。
【0041】
さらに、本明細書に記載の方法および組成物により作製可能な幹細胞または多能性が増強された細胞(誘導多能性幹細胞を含む)を提供する。さらに、そのような細胞からの分化を誘導することにより得られる体細胞を提供する。さらに、そのような細胞を患者に導入または移植することを含む療法(これは幹細胞療法と呼びうる)を提供する。
【0042】
体細胞が患者に導入または移植される療法も記述する。そのような体細胞は、本明細書に記載の方法に従って得られる誘導多能性幹細胞などの細胞からの分化を誘導することにより取得可能である。体細胞源は、患者から単離および捕集することが可能である。
【0043】
本文書に記載の方法により得られる多能性が増強された細胞(たとえば誘導多能性幹細胞)からの分化を誘導することにより得られる種々の細胞を用いて、化合物、薬剤、または毒性物質の生理学的作用または毒性を評価する方法も記述する。
【0044】
胚性幹細胞内で体細胞内よりも高レベルで発現されかつTbx3の存在下でその不在下よりも高い核再プログラミング効率を提供する性質を有するTbx3を使用する、体細胞や幹細胞(誘導多能性幹細胞を含む)などの細胞の多能性を増強または誘導する方法、たとえば、誘導多能性幹細胞を調製する方法を記述する。
【0045】
胚性幹細胞内で体細胞内よりも高レベルで発現されかつTbx3の存在下でTbx3の不在下よりも高い核再プログラミング効率を提供する性質を有するTbx3を使用する、体細胞の核再プログラミング方法を記述する。
【0046】
本明細書に記載の方法は、体細胞や幹細胞(誘導多能性幹細胞を含む)などの細胞の多能性を増強もしくは誘導するためのまたは誘導多能性幹細胞を調製するための、胚性幹細胞内で体細胞内よりも高レベルで発現され(たとえば、Tbx3は、RT−PCRまたはノーザンブロット解析により決定されるように、ES細胞内で、分化したまたは分化を開始したES細胞と比較してより高いレベルで発現されうる)かつTbx3の存在下でその不在下よりも高い核再プログラミング効率を提供する性質を有するTbx3の使用を含む。
【0047】
体細胞の核再プログラミングのための、胚性幹細胞内で体細胞内よりも高レベルで発現されかつTbx3の存在下でその不在下よりも高い核再プログラミング効率を提供する性質を有するTbx3の使用に関する方法を記述する。言い換えれば、核再プログラミングひいては誘導多能性幹細胞の生成または多能性の増強は、Tbx3の存在下およびTbx3の不在下で実施可能である。
【0048】
核再プログラミングはまた、たとえば、Tbx3のレベルが核再プログラミング前の体細胞内で増大されたときに核再プログラミングの効率が増大されるように、Tbx3の種々の量および/または形態たとえば(sush as)アイソフォーム(本文書中の他の箇所に記載される)の存在下で実施可能である。
【0049】
体細胞や幹細胞(誘導多能性幹細胞を含む)などの細胞の多能性を増強または誘導するための、たとえば、誘導多能性幹細胞を調製するための、Tbx3の存在下でその不在下よりも高い核再プログラミング効率を提供する性質を有するTbx3の使用を含む方法も記述する。
【0050】
たとえば、追加されたTbx3の存在は、Tbx3の不在下での形成不足と比較して誘導多能性幹細胞の形成を提供可能である。また、たとえば、Tbx3を追加しておよび追加せずに同一濃度で同一成分を含有する核再プログラミング因子の存在下で同一数の体細胞を用いて核再プログラミングを行った場合、Tbx3の追加を含むサンプルでTbx3が追加されていないサンプルよりも多数の誘導多能性幹細胞が生成されたとき(またはより多数の細胞が多能性の特徴を示したとき)、効率の増大が観測されうる。
【0051】
他の例では、核再プログラミング前の体細胞内に存在するTbx3量と比較して増大された量のTbx3を用いて、誘導多能性幹細胞の生成の効率の増大が達成されうる。
【0052】
核再プログラミング因子
本方法は、Tbx3の存在下で体細胞、幹細胞、または誘導多能性幹細胞などの細胞を1種以上の核再プログラミング因子(たとえばこれらの組合せ)に暴露することに依拠する。
【0053】
核再プログラミング因子は、核再プログラミング活性を有する単一物質または複数の物質の組合せのいずれかを含みうる。
【0054】
核再プログラミング活性は、当技術分野で公知のいくつかの方法、たとえば、国際公開第2005/80598A1号パンフレットに開示される方法によりアッセイまたは検出することが可能である。本文書はさらに、核再プログラミング因子をスクリーニングする方法を記述する。そのようなスクリーニング方法で検出されるかまたは核再プログラミング活性が陽性と判断される分子はいずれも、幹細胞を調製するためにまたはその多能性を増大させるために本文書に記載の方法および組成物で使用可能である。
【0055】
当業者であれば、以上の公開を参照することにより本明細書に記載の方法および組成物で使用するための核再プログラミング因子をスクリーニングすることが可能である。それに加えて、核再プログラミング因子はまた、以上のスクリーニング方法に適切な修正または変更を加えた方法を用いることにより確認することも可能である。
【0056】
核再プログラミング因子は、単一の遺伝子産物、すなわち、単一の遺伝子の発現産物を含みうる。他の選択肢としてまたは追加として、国際公開第2005/80598A1号パンフレットに開示されるような好適なアッセイにより核再プログラミング因子活性がいずれも陽性とみなしうる複数の遺伝子などのいくつかの遺伝子の遺伝子産物の組合せを含む。
【0057】
本明細書に記載の方法および組成物で記載の核再プログラミングは、以上で決定されるような核再プログラミング活性を有するとアッセイされる適合物質(1種もしくは複数種の遺伝子などの複数の物質を含む)を体細胞など細胞内に導入することによる核再プログラミング因子を用いた核再プログラミングを含みうる。
【0058】
また、1種もしくは複数種の遺伝子または1種もしくは複数種の物質を幹細胞(たとえば誘導多能性幹細胞)などの細胞内に導入することも可能である。そうすることにより、細胞が幹細胞になるように(体細胞である場合)または幹細胞の1つ以上の特徴または活性を示すようにすることが可能である。他の選択肢としてまたは追加として、本方法は、誘導多能性幹細胞などの幹細胞の多能性を増大または増強しうる。
【0059】
核再プログラミング活性を有する物質は、状況に合った任意の手段によりおよび任意の好適な形態で体細胞または幹細胞または誘導多能性幹細胞など細胞内に導入可能である。たとえば、核再プログラミング活性を有する物質は、組換えベクターの形態で導入可能である。
【0060】
たとえば、核再プログラミング活性を有する物質は、遺伝子を含みうる。また、その遺伝子は、体細胞または幹細胞または誘導多能性幹細胞などの細胞内に導入される組換えベクター中に含有されうる。
【0061】
核再プログラミング因子の組合せ
再プログラミング因子をコードする遺伝子の組合せの例は、国際公開第2007/069666A1号パンフレットならびにその対応出願の米国特許出願第12/213,035号明細書および米国特許出願第12/289,873号明細書(「核再プログラミング因子および誘導多能性幹細胞」という名称で2008年11月6日に出願された)(それらの全体が参照により本明細書に組み入れられるものとする)に開示されている。
【0062】
当業者であれば、以上の公開を参照することにより本明細書に記載の方法に使用可能な遺伝子を適切に選択することが可能である。それに加えて、再プログラミング因子をコードする遺伝子の組合せの他の例は、たとえば、Yu et al.,Science 318:1917−20,2007(その全体が参照により本明細書に組み入れられるものとする)に開示されている。
【0063】
したがって、当業者であれば、再プログラミング因子をコードする遺伝子のさまざまな組合せを理解することが可能であり、また、国際公開第2005/80598A1号パンフレットに記載の核再プログラミング因子のスクリーニング方法を用いることにより、国際公開第2007/069666A1号パンフレットやYu et al.,Science 318:1917−20,2007に開示されていない組合せで遺伝子の適切な組合せを本明細書に記載の方法で利用することが可能である。
【0064】
本明細書に記載の方法に使用可能な再プログラミング因子をコードする遺伝子の例としは、Octファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子、Soxファミリー遺伝子、Mycファミリー遺伝子、Linファミリー遺伝子、およびNanog遺伝子から選択される1種以上の遺伝子、たとえば、Mycファミリー遺伝子を除いて、Octファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子、Soxファミリー遺伝子、Linファミリー遺伝子、およびNanog遺伝子から選択される1種以上の遺伝子、たとえば、2種の遺伝子の組合せ、たとえば、3種の遺伝子の組合せ、たとえば、4種の遺伝子の組合せが挙げられうる。
【0065】
Octファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子、Soxファミリー遺伝子、およびMycファミリー遺伝子に関して、これらのファミリー遺伝子の特定例は、国際公開第2007/069666A1号パンフレットに記載されている。Linファミリー遺伝子に関して、当業者であれば、類似の方法でファミリー遺伝子を抽出することが可能である。Linファミリー遺伝子の例としては、たとえば、Lin28およびLin28bが挙げられる。Lin28のNCBI受託番号は、NM 145833(マウス)およびNM 024674(ヒト)である。Lin28bのNCBI受託番号は、NM 001031772(マウス)およびNM 001004317(ヒト)である。
【0066】
低分子量化合物
それに加えて、Octファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子、Soxファミリー遺伝子、Mycファミリー遺伝子、Linファミリー遺伝子、およびNanog遺伝子から選択される1種以上の遺伝子によりコードされる再プログラミング因子は、たとえばサイトカインまたはいくつかの場合には1種以上の他の低分子量化合物で置き換えることが可能である。
【0067】
そのような低分子量化合物の例としては、Octファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子、Soxファミリー遺伝子、Mycファミリー遺伝子、Linファミリー遺伝子、およびNanog遺伝子から選択される1種以上の遺伝子の発現に対して増強作用を有する低分子量化合物が挙げられうる。当業者であれば、そのような低分子量化合物を容易にスクリーニングすることが可能である。
【0068】
遺伝子の特定の組合せは、次のとおりである。すなわち、(a)Octファミリー遺伝子とSoxファミリー遺伝子とを含む2種の遺伝子の組合せ、(b)Octファミリー遺伝子とKlfファミリー遺伝子とSoxファミリー遺伝子とを含む3種の遺伝子の組合せ、(c)Octファミリー遺伝子とSoxファミリー遺伝子とLinファミリー遺伝子とNanog遺伝子とを含む4種の遺伝子の組合せ、(d)Octファミリー遺伝子とKlfファミリー遺伝子とを含む2種の遺伝子の組合せ、および(e)Octファミリー遺伝子とKlfファミリー遺伝子とMycファミリー遺伝子とを含む3種の遺伝子の組合せ。しかしながら、これら組合せは、限定されるとみなされるものではない。
【0069】
これらの遺伝子はすべて、ヒトを含めて哺乳動物に一般に存在する。本明細書に記載の方法および組成物に従って以上の遺伝子を使用するために、任意の哺乳動物に由来する(たとえば、ヒト、マウス、ラット、ウシ、ヒツジ、ウマ、およびサルなどの哺乳動物に由来する)遺伝子を利用することが可能である。
【0070】
それに加えて、野生型遺伝子産物、さらには、いくつかのアミノ酸(たとえば1〜10個のアミノ酸、たとえば1〜6個のアミノ酸、たとえば1〜4個のアミノ酸、たとえば1〜3アミノ酸、たとえば1または2個のアミノ酸)の置換、挿入、および/または欠失がありかつ野生型遺伝子産物に匹敵する等価な機能を有する突然変異遺伝子産物を使用することも可能である。
【0071】
たとえば、c−Myc遺伝子産物に関して、野生型と同様に安定型変異体(たとえば(T58A)など)を使用することも可能である。同一の原理は、他の遺伝子産物にも適用可能である。
【0072】
遺伝子の不死化
以上の遺伝子に加えて、細胞の不死化を誘導する因子をコードする遺伝子を組み合わせることも可能である。国際公開第2007/069666A1号パンフレットに開示されるように、たとえば、TERT遺伝子および次の遺伝子、すなわち、SV40ラージT抗原、HPV16 E6、HPV16 E7、およびBmilから選択される1種以上の遺伝子)を単独で使用するかまたは適切な組合せで一緒に使用することが可能である。
【0073】
特定の他の組合せは、次のとおり、たとえば、(e)Octファミリー遺伝子とKlfファミリー遺伝子とSoxファミリー遺伝子とTERT遺伝子とを含む4種の遺伝子の組合せ、(f)Octファミリー遺伝子とKlfファミリー遺伝子とSoxファミリー遺伝子とSV40ラージT抗原遺伝子とを含む4種の遺伝子の組合せ、および(g)Octファミリー遺伝子とKlfファミリー遺伝子とSoxファミリー遺伝子とTERT遺伝子とSV40ラージT抗原遺伝子とを含む5種の遺伝子の組合せである。Klfファミリー遺伝子は、以上の組合せから削除可能である。
【0074】
他の遺伝子
さらに、以上の遺伝子に加えて、Fbx15、ERas、ECAT15−2、Tell、およびβ−カテニンから選択される1種以上の遺伝子を組み合わせることが可能であり、かつ/またはECAT1、Esg1、Dnmt3L、ECAT8、Gdf3、Sox15、ECAT15−1、Fthl17、Sal14、Rex1、UTF1、Stella、Stat3、およびGrb2から選択される1種以上の遺伝子を組み合わせることが可能である。これらの組合せは、とくに、国際公開第2007/069666A1号パンフレットに記載されている。
【0075】
遺伝子の他の組合せは、次のとおり、すなわち、(1)Oct3/4とSox2とを含む2種の遺伝子の組合せ、(2)Oct3/4とKlf4とSox2とを含む3種の遺伝子の組合せ、(3)Oct3/4とSox2とLin28とNanogとを含む4種の遺伝子の組合せ、(4)Oct3/4とSox2とTERTとSV40ラージT抗原遺伝子とを含む4種の遺伝子の組合せ、(5)Oct3/4とKlf4とSox2とTERTとSV40ラージT抗原遺伝子とを含む5種の遺伝子の組合せ、(6)Oct3/4とKlf4とを含む2種の遺伝子の組合せ、(7)Oct3/4とKlf4とc−Mycとを含む3種の遺伝子の組合せ、および(8)Oct3/4とSox2とKlf4とc−Mycとを含む4種の遺伝子の組合せである。しかしながら、これら組合せは、限定されるとみなされるものではない。
【0076】
以上に挙げた遺伝子産物を含む因子はまた、Fbx15、Nanog、ERas、ECAT15−2、Tell、およびβ−カテニンから選択される遺伝子の1種以上の遺伝子産物と組み合わせることも可能である。さらに、これらの因子はまた、たとえば、ECAT1、Esg1、Dnmt3L、ECAT8、Gdf3、Sox15、ECAT15−1、Fthl17、Sal14、Rex1、UTF1、Stella、Stat3、およびGrb2から選択される遺伝子の1種以上の遺伝子産物と組み合わせることも可能である。
【0077】
これらの遺伝子産物は、国際公開第2007/069666A1号パンフレットに開示されている。しかしながら、本明細書に記載の核再プログラミング因子に含まれうる遺伝子産物は、以上に具体的に記載された遺伝子の遺伝子産物に限定されるものではない。
【0078】
本明細書に記載の核再プログラミング因子は、核再プログラミング因子さらには分化、発生、または増殖に関与する1種以上の因子および他の生理学的活性を有する因子として機能しうる他の遺伝子産物を含みうる。
【0079】
これらの遺伝子のうち、1種以上の遺伝子産物が再プログラムされる体細胞内ですでに発現されている場合、そのような遺伝子産物は、導入される因子から除外可能である。たとえば、すでに発現されている遺伝子以外の1種以上の遺伝子は、適切な遺伝子導入方法たとえば組換えベクターを使用する方法により体細胞内に導入可能である。
【0080】
他の選択肢として、これらの遺伝子のうち、1種以上の遺伝子産物が、HIVウイルス由来TATペプチドおよび/または核移行シグナルの添加による融合タンパク質の形成などの技術、または核マイクロインジェクションなどの技術、または単純に、形質膜を横切って拡散可能な小分子の添加により、核内に導入される場合、他の1種以上の遺伝子は、適切な遺伝子導入方法たとえば組換えベクターを使用する方法により導入可能である。
【0081】
融合産物およびマーカー
それに加えて、核再プログラミング因子として機能する遺伝子産物は、それ自体が以上に挙げた遺伝子から産生されるタンパク質でありうるか、またはそのようなタンパク質と他のタンパク質、ペプチドなどとの融合遺伝子産物の形態をとりうる。
【0082】
たとえば、緑色蛍光タンパク質(GFP)を有する融合タンパク質およびヒスチジンタグなどのペプチドを有する融合遺伝子産物を使用することも可能である。さらに、HIVウイルス由来TATペプチドを有する調製された融合タンパク質を使用すれば、細胞膜を介する核再プログラミング因子のエンドサイトーシスの促進が可能になり、さらには、遺伝子導入などの複雑な操作を回避しつつ培地中に単にそのような融合タンパク質を添加するだけで再プログラミングの誘導が可能になる。
【0083】
以上に挙げた融合遺伝子産物の調製方法は、当業者に周知であり、したがって、当業者であれば、目的に合わせて適切な融合遺伝子産物を容易に設計および調製することが可能である。
【0084】
以上に記載したように、多能性は、Tbx3の追加により増強可能である。
【0085】
TBX3
TBX3はまた、T−box 3としても、UMS、XHL、TBX3−ISO、TBX3としても知られる。TBX3の配列は、NG 008315.1 RefSeqGeneを含む。
【0086】
T−box転写因子TBX3は、ヒトではTBX3遺伝子によりコードされるタンパク質である(Li QY,Newbury−Ecob RA,Terrett JA,Wilson DI,Curtis AR,Yi CH,Gebuhr T,Bullen PJ,Robson SC,Strachan T,Bonnet D,Lyonnet S,Young ID,Raeburn JA,Buckler AJ,Law DJ,Brook JD(Jan 1997).”Holt−Oram syndrome is caused by mutations in TBX5,a member of the Brachyury(T) gene family”.Nat Genet 15(1):21−9)。
【0087】
この遺伝子は、共通のDNA結合ドメインT−boxを共有する系統発生的に保存された遺伝子ファミリーのメンバーである。T−box遺伝子は、発生過程のレギュレーションに関与する転写因子をコードする。このタンパク質は、転写リプレッサーであり、四肢動物の前肢の前後軸で役割を果たすと考えられる。この遺伝子での突然変異は、肢、アポクリン腺、歯、毛髪、および生殖器発育に影響する尺骨・乳房症候群を引き起こす。
【0088】
この遺伝子の選択的スプライシングの結果として、異なるアイソフォームをコードする3つの転写変異体が得られる(以下に記載されるとおり)。
【0089】
Tbx3は、体細胞が再プログラムされる標的動物と同一の動物種に由来するものでありうる。本明細書に記載の方法および組成物で使用するのに好適なTbx3としては、野生型Tbx3、さらには、1〜数個のヌクレオチド(たとえば1〜6個のヌクレオチド、たとえば1〜4個のヌクレオチド、たとえば1〜3個のヌクレオチド、たとえば1または2個のヌクレオチド、たとえば1個のヌクレオチド)の置換、挿入、および/または欠失がありかつin vivoで野生型Tbx3と等価な機能を発揮しうるTbx3が挙げられる。
【0090】
たとえば、使用可能なTbx3としては、1〜数個のヌクレオチドの置換、挿入、および/または欠失がありかつiPS細胞生成の効率を増大させるTbx3が挙げられる。本明細書に記載のTbx3としてはまた、1〜数個のヌクレオチドの置換、挿入、および/または欠失がありかつ核再プログラミングの効率を改良するTbx3が挙げられる。
【0091】
本明細書に記載の方法で使用可能なTbx3の例としては、以下に詳細に明記されるようなTbx3アイソフォームが挙げられうるが、これらに限定されるものではない。
【0092】
TBX3アイソフォーム1
Tbx3のこの変異体(1)は、転写変異体であり、このタンパク質のより短いアイソフォーム(1)をコードする。mRNA配列は、GenBank受託番号NM 005996.3 T−box 3タンパク質アイソフォーム1を有する。タンパク質配列は、GenBank受託番号NP 005987.3 T−box 3タンパク質アイソフォーム1を有する。
【0093】
配列源としては、AF140240、AK054604、およびBC025258が挙げられる。コンセンサスCDSは、受託番号CCDS9175.1を有する。UniProtKB/Swiss−Prot受託番号は、O15119である。関連するEnsembl配列は、受託番号ENSP00000257567、ENST00000349155を有する。
【0094】
【化1】

【0095】
TBX3アイソフォーム2
Tbx3のこの変異体(2)は、変異型1と比較して代替インフレームエキソンを含有する。得られるアイソフォーム(2)は、アイソフォーム1と比較して同一のN末端およびC末端を有しかつより長い。
【0096】
mRNA配列は、GenBank受託番号NM 016569.3 T−box 3タンパク質アイソフォーム2を有する。タンパク質配列は、GenBank受託番号NP 057653.3 T−box 3タンパク質アイソフォーム2を有する。配列源としては、AF140240、AK054604、およびBC025258が挙げられる。コンセンサスCDSは、受託番号CCDS9176.1を有する。UniProtKB/Swiss−Prot受託番号は、O15119である。関連するEnsembl配列は、受託番号ENSP00000257566、ENST00000257566を有する。
【0097】
【化2】

【0098】
Tbx3アイソフォーム3
【0099】
【化3】

【0100】
TBOX
TBOXとは、転写レギュレーターのT−boxファミリーのT−box DNA結合ドメインを意味する。T−boxファミリーは、すべての動物種で発生に決定的な役割を果たすと思われる古代型である。これらの遺伝子は、このファミリーを決定付ける特徴であるネズミBrachyury(T)遺伝子産物のDNA結合ドメインとの類似性に基づいて明らかにされた。
【0101】
T−boxファミリーメンバーにより共有される共通した特徴は、DNA結合活性および転写レギュレート活性、発生における役割、ならびに保存された発現パターンであり、すべての種において既知の遺伝子のほとんどは、中胚葉または中胚葉前駆体で発現される。
【0102】
Tbx3ポリペプチド
本明細書に記載の方法および組成物では、以下に詳細に記載されるTbx3ポリペプチドを利用する。
【0103】
Tbx3はまた、T−box 3としても、UMS、XHL、TBX3−ISO、TBX3としても知られる。
【0104】
本明細書で用いられる場合、「Tbx3ポリペプチド」という用語は、GenBank受託番号NP 005987.3 T−box 3タンパク質アイソフォーム1またはNP 057653.3 T−box 3タンパク質アイソフォーム2を有する配列を意味するものとする。
【0105】
「Tbx3ポリペプチド」は、ヒトTbx3ポリペプチドを含みうるかまたはそれよりなりうる。
【0106】
これらのポリペプチドのいずれか、いくつか、または全部の相同変異体およびその誘導体もまた含まれる。
【0107】
「ポリペプチド」とは、ペプチド結合または修飾ペプチド結合(すなわちペプチドアイソスター)により互いに連結された2個以上のアミノ酸を含む任意のペプチドまたはタンパク質を意味する。「ポリペプチド」とは、ペプチド、オリゴペプチド、またはオリゴマーとして一般に参照される短鎖と、タンパク質として一般に参照されるより長い鎖と、の両方を意味する。ポリペプチドは、遺伝子によりコードされる20種のアミノ酸以外のアミノ酸を含有しうる。
【0108】
「ポリペプチド」としては、翻訳後プロセシングなどの自然過程によりまたは当技術分野で周知の化学修飾技術により修飾されたアミノ酸配列が挙げられる。そのような修飾については、基本的な教科書およびより詳細な研究書さらには多量の研究文献に詳細に記載されている。ペプチド骨格、アミノ酸側鎖、およびアミノ末端またはカルボキシル末端をはじめとするポリペプチド中の任意の位置で修飾を行うことが可能である。同一タイプの修飾が所与のポリペプチド中のいくつかの部位に同一程度または異なる程度で存在しうることが理解されるであろう。また、所与のポリペプチドは、多くのタイプの修飾を含有しうる。
【0109】
ポリペプチドは、ユビキチン化の結果として分枝状でありうる。また、分枝を含んでまたは含まずに環状でありうる。環状、分枝状、および分枝環状のポリペプチドは、翻訳後の自然過程から生じうるか、または合成法により作製されうる。修飾としては、アセチル化、アシル化、ADPリボシル化、アミド化、フラビンの共有結合、ヘム部分の共有結合、ヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体の共有結合、脂質または脂質誘導体の共有結合、ホスファチジルイノシトール(phosphotidylinositol)の共有結合、架橋(cross−inking)、環化、ジスルフィド結合形成、脱メチル化、共有結合架橋(covalent cross−inks)の形成、シスチンの形成、ピログルタメートの形成、ホルミル化、γ−カルボキシル化、グリコシル化、GPIアンカー形成、ヒドロキシル化、ヨウ素化、メチル化、ミリストイル化、酸化、タンパク質分解プロセシング、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、セレノイル化、硫酸化、タンパク質へのアミノ酸の転移RNA媒介付加たとえばアルギニル化、およびユビキチン化が挙げられる。たとえば、Proteins−Structure and Molecular Properties,2nd Ed.,T.E.Creighton,W.H.Freeman and Company,New York,1993およびWold,F.,Posttranslational Protein Modifications:Perspectives and Prospects,pgs.1−12 in Posttranslational Covalent Modification of Proteins,B.C.Johnson,Ed.,Academic Press,New York,1983、Seifter et al.,”Analysis for protein modifications and nonprotein cofactors”,Meth Enzymol(1990)182:626−646、ならびにRattan et aL,”Protein Synthesis:Posttranslational Modifications and Aging”,Ann NY Acad Sci(1992)663:48−62を参照されたい。
【0110】
「ポリペプチド」という用語は、当技術分野で公知の種々の合成ペプチド変異体、たとえば、レトロインベルソDペプチドを包含する。ペプチドは、抗原決定基および/またはT細胞エピトープでありうる。ペプチドは、in vivoで免疫原性でありうる。ペプチドは、in vivoで中和抗体を誘導可能でありうる。
【0111】
Tbx3に適用される場合、得られるアミノ酸配列は、Tbx3ポリペプチド(たとえばヒトTbx3ポリペプチド)と共通の生物活性などの1つ以上の活性を有しうる。たとえば、Tbx3相同体は、Tbx3に暴露された細胞で暴露されていない細胞と比較して多能性を増強する能力を有しうる。とくに、「相同体」という用語では、得られるアミノ酸配列がTbx3活性を有することを条件として構造および/または機能に関する同一性が考慮される。配列同一性(すなわち類似性)に関しては、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも85%、少なくとも90%の配列同一性が存在しうる。少なくとも95%、たとえば、少なくとも98%の配列同一性が存在しうる。これらの用語はまた、Tbx3核酸配列の対立遺伝子変異であるアミノ酸に由来するポリペプチドを包含する。
【0112】
Tbx3などのポリペプチドの「活性」または「生物学的活性」が参照された場合、類似の活性もしくは改善された活性または望ましくない副作用が低減されたこれらの活性を含めて、これらの用語は、Tbx3の代謝機能または生理学的機能を意味するものとする。また、Tbx3の抗原活性および免疫原活性も包含される。そのような活性ならびにこれらの活性をアッセイよび定量する方法の例は、当技術分野で公知であり、本文書中の他の箇所に詳細に記載されている。
【0113】
他のTbx3ポリペプチド
Tbx3の変異体、相同体、誘導体、および断片もまた、本明細書に記載の方法および組成物に有用である。
【0114】
Tbx3に関連する「変異体」、「相同体」、「誘導体」、または「断片」という用語は、配列からのまたは配列への1個(もしくはそれ以上)のアミノ酸の任意の置換、変異、修飾、交換、欠失、または付加を包含する。文脈上他の意味に解すべき場合を除いて、「Tbx3」の参照対象は、Tbx3のそのような変異体、相同体、誘導体、および断片の参照対象を包含する。
【0115】
本明細書で用いられる場合、「欠失」とは、1個以上のヌクレオチドまたはアミノ酸残基がそれぞれ不在であるヌクレオチド配列またはアミノ酸配列のいずれかの変化として定義されるものである。本明細書で用いられる場合、「挿入」または「付加」とは、天然に存在する物質と比較してそれぞれ1個以上のヌクレオチドまたはアミノ酸残基の追加をもたらすヌクレオチド配列またはアミノ酸配列の変化のことである。本明細書で用いられる場合、「置換」とは、それぞれ異なるヌクレオチドまたはアミノ酸による1個以上のヌクレオチドまたはアミノ酸の交換から生じるものである。
【0116】
本明細書に記載のTbx3ポリペプチドはまた、サイレント変化を起こして機能的に等価なアミノ酸配列を生じるアミノ酸残基の欠失、挿入、または置換を有しうる。意図的なアミノ酸置換は、残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性、および/または両親媒性の類似性に基づいて実施可能である。たとえば、負荷電アミノ酸としては、アスパラギン酸およびグルタミン酸が挙げられ、正荷電アミノ酸としては、リシンおよびアルギニンが挙げられ、類似の親水性値を有する非荷電極性ヘッド基を有するアミノ酸としては、ロイシン、イソロイシン、バリン、グリシン、アラニン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、フェニルアラニン、およびチロシンが挙げられる。
【0117】
保存的置換は、たとえば、以下の表に従って実施可能である。第2の列の同一区画および第3の列の同一行に示されるアミノ酸は、互いに置換可能である。
【0118】
【表1】

【0119】
Tbx3ポリペプチドは、異種アミノ酸配列を典型的にはN末端またはC末端たとえばN末端にさらに含みうる。異種配列は、細胞内または細胞外タンパク質ターゲッティングに影響を及ぼす配列(たとえばリーダー配列)を含みうる。異種配列はまた、Tbx3ポリペプチドの免疫原性を増大させる配列ならびに/またはポリペプチドの同定、抽出、および/もしくは精製を容易にする配列を含みうる。使用可能な他の異種配列は、N末端でありうるポリヒスチジンなどのポリアミノ酸配列である。少なくとも10アミノ酸たとえば少なくとも17アミノ酸ただし50アミノ酸未満のポリヒスチジン配列を利用することが可能である。
【0120】
Tbx3ポリペプチドは、「成熟」タンパク質の形態をとりうるかまたは融合タンパク質などのより大きいタンパク質の一部分でありうる。多くの場合、分泌配列もしくはリーダー配列、プロ配列、多重ヒスチジン残基などの精製に役立つ配列、または組換え産生時の安定性のための追加配列を含有する追加のアミノ酸配列を含有することが有利である。
【0121】
本明細書に記載のTbx3ポリペプチドは、公知の技術を用いて組換え手段により有利に作製される。しかしながら、固相合成などの当業者に周知の技術を用いて合成手段により作製することも可能である。そのようなポリペプチドはまた、たとえば、抽出および精製を支援するために、融合タンパク質として生成することも可能である。融合タンパク質パートナーの例としては、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、6×His、GAL4(DNA結合ドメインおよび/または転写活性化ドメイン)、ならびにβ−ガラクトシダーゼが挙げられる。融合タンパク質パートナーと対象のタンパク質配列との間にトロンビン切断部位などのタンパク質分解切断部位を組み込んで融合タンパク質配列を取り出せるようにすることが便利なこともある。融合タンパク質は、対象配列のタンパク質の機能を妨害しないものでありうる。
【0122】
Tbx3ポリペプチドは、実質的に単離された形態をとりうる。この用語は、人の手を経て天然の状態から変更を加えたことを意味するものとする。「単離された」組成物または物質が天然に存在するものである場合、それは、その元の環境から変化しているかもしくは取り出されているかまたはその両方である。たとえば、生存動物に天然に存在するポリヌクレオチド、核酸、またはポリペプチドは、「単離された」ものではないが、その天然の状態の共存材料から分離された同一のポリヌクレオチド、核酸、またはポリペプチドは、その用語が本明細書で利用される場合、「単離された」ものである。
【0123】
しかしながら、当然のことであろうが、Tbx3ポリペプチドは、タンパク質の所定の目的を妨害しない担体または希釈剤と混合可能であり、それでもなお実質的に単離されているとみなすことが可能である。Tbx3ポリペプチドはまた、実質的に精製された形態をとりうる。その場合、それは、一般的には、調製物中にタンパク質を含み、調製物中のタンパク質の90%超、たとえば、95%、98%、または99%が、Tbx3ポリペプチドである。
【0124】
異なる種に由来するTbx3配列をアライメントすることにより、異なる種間でアミノ酸配列のどの領域が保存されるか(「相同領域」)および異なる種間でどの領域が異なるか(「異種領域」)を決定することが可能である。
【0125】
したがって、Tbx3ポリペプチドは、相同領域の少なくとも一部に対応する配列を含みうる。相同領域は、少なくとも2つの種間で高度の相同性を示す。たとえば、相同領域は、以上に記載の試験を用いてアミノ酸レベルで少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%の同一性を示しうる。相同領域に対応する配列を含むペプチドは、以下でさらに詳細に説明されるように、治療的戦略に使用可能である。他の選択肢として、Tbx3ペプチドは、異種領域の少なくとも一部に対応する配列を含みうる。異種領域は、少なくとも2つの種間で低度の相同性を示す。
【0126】
Tbx3相同体
使用のために開示されるTbx3ポリペプチドとしては、任意の供給源から得られる相同配列、たとえば、関連ウイルス/細菌タンパク質、細胞性相同体、および合成ペプチド、さらにはそれらの変異体または誘導体が挙げられる。したがって、ポリペプチドとしてはまた、動物、たとえば、哺乳動物(たとえば、マウス、ラット、またはウサギ)、具体的には霊長類、より具体的にはヒトをはじめとする他の種に由来するTbx3の相同体をコードするものが挙げられる。より具体的には、相同体はヒト相同体を含む。
【0127】
本文書との関連では、相同配列は、たとえば、少なくとも50、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700個、またはそれ以上のアミノ酸にわたり、適合Tbx3配列の配列に対してアミノ酸レベルで少なくとも15、20、25、30、40、50、60、70、80、または90%の同一性、たとえば、少なくとも95または98%の同一性を有するアミノ酸配列を含むとみなされる。
【0128】
とくに、相同性は、典型的には、非必須隣接配列に関してではなくタンパク質機能に不可欠であることが知られている配列の領域に関して検討しなければならない。これは、遠縁の生物に由来する相同配列を検討する場合、とくに重要である。例としては、T−boxを含むDNA結合のための残基番号107〜220、T−boxを含むDNA結合のための残基番号241〜305の第1部分、および転写抑制のための残基番号544〜695の第2部分が挙げられる。
【0129】
相同性はまた、類似性(すなわち、類似の化学的性質/機能を有するアミノ酸残基)に基づいて検討ことも可能であるが、本文書との関連では、配列同一性により相同性を表すことが可能である。
【0130】
相同性比較は、目測でまたはより一般的には容易に利用可能な配列比較プログラムを用いて実施可能である。これらの公共および市販のコンピュータープログラムを用いて、2つ以上の配列間の同一性%を計算することが可能である。
【0131】
同一性%は、コンティグ配列にわたり計算可能である。すなわち、一方の配列を他方の配列にアライメントし、一方の配列中のそれぞれのアミノ酸を他方の配列中の対応するアミノ酸と1回に1残基ずつ直接比較する。これは、「ギャップ無し」アライメントと呼ばれる。典型的には、そのようなギャップ無しアライメントは、比較的少ない個数の残基(たとえば、50個未満のコンティグアミノ酸)にわたり行われるにすぎない。
【0132】
これは非常に単純かつ一貫性のある方法であるが、たとえば、1つの挿入または欠失があると、それ以外は同一である配列対であっても、それ以降のアミノ酸残基がアライメントできなくなるという点が考慮されていないので、グローバルアライメントを行った場合、相同性%が大幅に減少する可能性がある。したがって、ほとんどの配列比較法は、全相同性スコアに過度のペナルティーを課すことなく可能性のある挿入および欠失を考慮した最適アライメントを生成するようにデザインされる。これは、局所的な同一性または類似性を最大化するように試行して配列アライメント中に「ギャップ」を挿入することにより達成される。
【0133】
しかしながら、これらのより複合的な方法では、同一アミノ酸の個数が同数の場合、できるかぎり少ないギャップを有する配列アライメントが、2つの比較配列間のより高い関連性を反映して、多くのギャップを有するものよりも高いスコアを達成するように、アライメント中に生じるそれぞれのギャップに「ギャップペナルティー」が割り当てられる。典型的には、ギャップの存在に比較的高いコストを課しかつギャップ中のそれぞれの後続残基により小さいペナルティーを課する「アファインギャップコスト」が使用される。これは、最もよく使用されるギャップスコアリングシステムである。当然ながら、ギャップペナルティーが高ければ、より少ないギャップを有する最適化アライメントが生成されるであろう。ほとんどのアライメントプログラムでは、ギャップペナルティーを変更できるようになっている。しかしながら、配列比較のためにそのようなソフトウェアを使用する場合、デフォルト値を用いることが可能である。たとえば、GCG Wisconsin Bestfitパッケージ(下記参照)を使用する場合、アミノ酸配列に対するデフォルトギャップペナルティーは、ギャップ1つにつき−12、各伸長ごとに−4である。
【0134】
したがって、最大相同性%の計算では、最初に、ギャップペナルティーを考慮して最適アライメントを生成することが必要である。そのようなアライメントを行うのに好適なコンピュータープログラムは、GCG Wisconsin Bestfit package(University of Wisconsin,U.S.A;Devereux et al,1984,Nucleic Acids Research 12:387)である。配列比較を行いうる(than can perform sequence comparisons)他のソフトウェアの例としては、BLASTパッケージ(Ausubel et al.,1999 ibid−Chapter 18),FASTA(Altschul et al,1990,J.Mol.Biol.,403−410を参照されたい)およびGENEWORKS比較ツール一式が挙げられるが、これらに限定されるものではない。BLASTおよびFASTAはいずれも、オフライン検索およびオンライン検索で利用可能である(Ausubel et al.,1999 ibid,pages 7−58 to 7−60を参照されたい)。GCG最良あてはめプログラムを使用することが可能である。
【0135】
同一性に基づいて最終相同性%を求めることが可能であるが、アライメント法自体は、典型的には、オールオアナッシング対比較に基づくものではない。その代わりに、化学的類似性または進化距離に基づいてそれぞれのペアワイズ比較にスコアを割り当てるスケール化類似性スコアマトリックスが広く使用される。一般に使用されるそのようなマトリックスの一例は、BLOSUM62マトリックス(一連のBLASTプログラムのデフォルトマトリックス)である。GCG Wisconsinプログラムでは、一般的には、パブリックデフォルト値または供給されるのであればカスタムシンボル比較表のいずれかが使用される(さらに詳しくはユーザーマニュアルを参照されたい)。GCGパッケージではパブリックデフォルト値を、またはBLOSUM62などの他のソフトウェアの場合にはデフォルトマトリックスを、使用することが可能である。
【0136】
ソフトウェアを用いて最適アライメントを生成させた後、相同性%たとえば配列同一性%を計算することが可能である。典型的には、ソフトウェアにより配列比較の一部分としてこれを行い、数値結果を生成させる。
【0137】
アミノ酸配列に関連する「変異体」または「誘導体」という用語は、得られるアミノ酸配列が非修飾型配列と実質的に同一の活性を保持することを条件として、たとえば、少なくともTbx3ポリペプチドと同一の活性を有することを条件として、配列からのまたは配列への1個(またはそれ以上)のアミノ酸の任意の置換、変異、修飾、交換、欠失、または付加を包含する。
【0138】
本明細書に開示されるTbx3アミノ酸配列を有するポリペプチドまたはその断片もしくは相同体は、本明細書中に記載の方法および組成物で使用するために修飾可能である。典型的には、配列の生物活性を保持する修飾が行われる。修飾型配列が非修飾型配列の生物活性を保持することを条件として、アミノ酸置換、たとえば、1、2、または3個から10、20、または30個までの置換を行うことが可能である。他の選択肢として、本明細書に記載のポリペプチドの1つ以上の機能性ドメインを意図的に不活性化するように修飾を行うことが可能である。アミノ酸置換は、たとえば、治療のために投与されるポリペプチドの血漿中半減期を増大させるために、天然に存在しない類似体の使用を含みうる。
【0139】
Tbx3断片
本明細書に記載の方法および組成物で使用するためのポリペプチドはまた、以上に規定したTbx3ポリペプチドのいずれかの全長配列の断片を含む。フラグメントは、少なくとも1つのエピトープを含みうる。エピトープを同定する方法は、当技術分野で周知である。断片は、典型的には、少なくとも6個のアミノ酸、たとえば、少なくとも10、20、30、50、または100個のアミノ酸を含むであろう。
【0140】
包含されるのは、適合Tbx3アミノ酸配列に由来する5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、105、110、1 15、120、125、130、135、140、145、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700個、またはそれ以上の残基を含むかまたはそれらよりなる断片である。
【0141】
さらに、本明細書に記載のTbx3ポリペプチドの一部分を含むペプチド類を記述する。したがって、Tbx3の断片およびその相同体、変異体、または誘導体が包含される。ペプチドは、2〜200アミノ酸残基長たとえば4〜40アミノ酸残基長でありうる。ペプチドは、たとえばトリプシンなどの好適な酵素で消化することにより、本明細書に開示されたTbx3ポリペプチドから誘導可能である。他の選択肢として、ペプチド、断片などは、組換え手段により作製可能であるかまたは合成により合成可能である。
【0142】
そのようなTbx3断片は、たとえば、そのような断片に対して生成された抗体を介して、Tbx3発現を優先的に検出するプローブを生成するために使用可能である。これらの抗体は、Tbx3に特異的に結合すると予想され、本明細書に開示される診断および治療の方法に有用である。
【0143】
Tbx3ならびにその断片、相同体、変異体、および誘導体は、組換え手段により作製可能である。しかしながら、固相合成などの当業者に周知の技術を用いて合成手段により作製することも可能である。タンパク質はまた、たとえば、抽出および精製を支援するために、融合タンパク質として生成することも可能である。融合タンパク質パートナーの例としては、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、6×His、GAL4(DNA結合ドメインおよび/または転写活性化ドメイン)、ならびにβ−ガラクトシダーゼが挙げられる。融合タンパク質パートナーと対象のタンパク質配列との間にタンパク質分解切断部位を組み込んで融合タンパク質配列を取り出せるようにすることが便利なこともある。融合タンパク質は、対象のタンパク質配列の機能を妨害しないものでありうる。タンパク質はまた、動物細胞に由来する細胞抽出物の精製により取得することも可能である。
【0144】
本明細書に開示されるTbx3ポリペプチド、変異体、相同体、断片、および誘導体は、実質的に単離された形態で存在可能である。当然のことであろうが、そのようなポリペプチドは、タンパク質の所定の目的を妨害しない担体または希釈剤と混合可能であり、それでもなお実質的に単離されているとみなすことが可能である。Tbx3の変異体、相同体、断片、または誘導体はまた、実質的に精製された形態で存在可能であり、その場合、一般的には、調製物中にこのタンパク質を含み、調製物の90%超、たとえば、95%、98%、または99%は、タンパク質である。
【0145】
本明細書に開示されるTbx3ポリペプチド、変異体、相同体、断片、および誘導体は、認識可能な標識を用いて標識可能である。認識可能な標識は、ポリペプチドなどの検出を可能にする任意の好適な標識でありうる。好適な標識としては、放射性同位体たとえば125I、酵素、抗体、ポリヌクレオチド、およびリンカーたとえばビオチンが挙げられる。標識化ポリペプチドは、サンプル中のポリペプチドの量を決定するイムノアッセイのような診断手順で使用可能である。ポリペプチドまたは標識化ポリペプチドはまた、標準的プロトコルを用いて動物およびヒトにおける当該ポリペプチドに対する免疫反応性を検出するための血清学的アッセイまたは細胞媒介免疫アッセイで使用可能である。
【0146】
本明細書に開示されるTbx3ポリペプチド、変異体、相同体、断片、および誘導体(場合により標識されていてもよい)はまた、固相、たとえば、イムノアッセイウェルまたはディップスティックの表面に固定可能である。そのような標識化および/または固定化ポリペプチドは、好適な試薬、対照、説明書などと共に、好適な容器内にキットの形態でパッケージ化可能である。そのようなポリペプチドおよびキットは、イムノアッセイによるポリペプチドに対する抗体およびその対立遺伝子変異体または種変異体の検出の方法で使用可能である。
【0147】
イムノアッセイ法は、当技術分野で周知であり、一般的には、(a)当該タンパク質に対する抗体が結合可能なエピトープを含むポリペプチドを提供することと、(b)抗体−抗原複合体の形成を可能にする条件下で当該ポリペプチドと共に生物学的サンプルをインキュベートすることと、(c)当該ポリペプチドを含む抗体−抗原複合体が形成されたかどうかを決定することと、を含むであろう。
【0148】
本明細書に開示されるTbx3ポリペプチド、変異体、相同体、断片、および誘導体は、疾患におけるそれらの機能を含めて、細胞機能におけるそれらの対応する遺伝子およびその相同体の役割を調べるために、in vitroもしくはin vivoの細胞培養系で使用可能である。たとえば、トランケート型もしくは修飾型のポリペプチドを細胞内に導入して、細胞内で生じる正常機能を破壊することが可能である。組換え発現ベクターからポリペプチドをin situ発現させることにより、ポリペプチドを細胞内に導入することが可能である(下記参照)。発現ベクターは、場合により、ポリペプチドの発現を制御するために誘導プロモーターを保有しうる。
【0149】
昆虫細胞や哺乳動物細胞のような適切な宿主細胞を使用すれば、組換え発現産物に最適生物活性を付与するために必要とされうる翻訳後修飾(たとえば、ミリストイル化、グリコシル化、トランケーション、リピデーション(lapidation)、およびチロシンリン酸化、セリンリン酸化、またはトレオニンリン酸化)が提供されると期待される。本明細書中に開示されるTbx3ポリペプチド、変異体、相同体、フラグメント、および誘導体が発現されるそのような細胞培養系は、細胞内でポリペプチドの機能を阻害または増強する候補物質を同定するアッセイ系で使用可能である。
【0150】
TBX3核酸
本明細書に記載の方法および組成物は、Tbx3の発現レベル、Tbx3ポリヌクレオチド、Tbx3ヌクレオチド、およびTbx3核酸、さらにはこれらのいずれかの変異体、相同体、誘導体、および断片を検出するための手段として利用可能である。それに加えて、本明細書に記載の診断方法に有用な特定のTbx3断片を開示する。Tbx3核酸はまた、記載の治療または予防の方法に使用可能である。
【0151】
「Tbx3ポリヌクレオチド」、「Tbx3ヌクレオチド」、および「Tbx3核酸」という用語は、同義的に使用可能であり、とくに、cDNAおよびゲノムのTbx3配列の両方を包含すると理解しなければならない。これらの用語はまた、Tbx3ポリペプチドおよび/またはこれの断片、誘導体、相同体、もしくは変異体をコードしうる核酸配列を包含するものとする。
【0152】
Tbx3核酸が参照された場合、これは、核酸のTbx3ファミリーの任意のメンバーへの参照とみなさなければならない。とくに興味深いのは、GenBank受託番号NM 005996.3 T−box 3タンパク質アイソフォーム1およびGenBank受託番号NM 016569.3 T−box 3タンパク質アイソフォーム2よりなる群から選択されるTbx3核酸である。
【0153】
また、以下に「他のTbx3核酸配列」として明記された核酸配列のいずれか1つ以上が包含される。
【0154】
たとえば、Tbx3核酸は、GenBank受託番号NM 005996.3 T−box 3タンパク質アイソフォーム1またはGenBank受託番号NM 016569.3 T−box 3タンパク質アイソフォーム2を有するヒトTbx3配列を含みうる。
【0155】
Tbx3核酸は、さまざまな手段に、たとえば、体細胞、幹細胞、および誘導多能性幹細胞などの細胞で多能性を増強または誘導するために、使用可能である。Tbx3核酸はまた、Tbx3ポリペプチドの発現または産生に使用可能である。
【0156】
「ポリヌクレオチド」とは、一般的には、未修飾型のRNAもしくはDNAまたは修飾型のRNAもしくはDNAでありうる任意のポリリボヌクレオチドまたはポリデオキシリボヌクレオチド(polydeoxribonucleotide)を意味する。「ポリヌクレオチド」としては、一本鎖および二本鎖のDNA、一本鎖領域と二本鎖領域との混合物であるDNA、一本鎖および二本鎖のRNA、および一本鎖領域と二本鎖領域との混合物であるRNA、一本鎖、より典型的には二本鎖、または一本鎖領域と二本鎖領域との混合物でありうるDNAとRNAとを含むハイブリッド分子が挙げられるが、これらに限定されるものではない。それに加えて、「ポリヌクレオチド」とは、RNAもしくはDNAまたはRNAおよびDNAの両方を含む三本鎖領域を意味する。ポリヌクレオチドという用語はまた、1個以上の修飾型塩基を含有するDNAまたはRNAおよび安定性のためにまたは他の理由のために修飾された骨格を有するDNAまたはRNAを包含する。「修飾型」塩基としては、たとえば、トリチル化塩基およびイノシンなどの特殊塩基が挙げられる。さまざまな修飾をDNAおよびRNAに行うことが可能であり、したがって、「ポリヌクレオチド」は、典型的には天然に見いだされるように化学的、酵素的、または代謝的に修飾された形態のポリヌクレオチド、さらにはウイルスおよび細胞に特有な化学的形態のDNAおよびRNAを包含する。「ポリヌクレオチド」はまた、オリゴヌクレオチドとして参照されることが多い比較的短いポリヌクレオチドを包含する。
【0157】
多くのヌクレオチド配列が遺伝暗号の縮重の結果として同一のポリペプチドをコードしうることは、当業者であればわかるであろう。
【0158】
本明細書で用いられる場合、「ヌクレオチド配列」という用語は、ヌクレオチド配列、オリゴヌクレオチド配列、ポリヌクレオチド配列、ならびにそれらの変異体、相同体、断片、および誘導体(たとえばそれらの一部分)を意味する。ヌクレオチド配列は、センス鎖もしくはアンチセンス鎖またはそれらの組合せにかかわらず二本鎖または一本鎖でありうるゲノム由来、合成由来、または組換え由来のDNAまたはRNAでありうる。ヌクレオチド配列という用語は、組換えDNA技術を用いて調製されるものであってもよい(たとえば組換えDNA)。
【0159】
「ヌクレオチド配列」という用語は、DNAを意味しうる。
【0160】
他の核酸
Tbx3核酸の断片、相同体、変異体、または誘導体である核酸も提供する。Tbx3核酸に関連する「変異体」、「相同体」、「誘導体」、または「断片」という用語は、Tbx3ヌクレオチド配列の配列からのまたは配列への1個(もしくはそれ以上)の核酸の任意の置換、変異、修飾、交換、欠失、または付加を包含する。文脈上他の意味に解すべき場合を除いて、「Tbx3」の参照対象および「Tbx3」は、Tbx3のそのような変異体、相同体、誘導体、および断片の参照対象を包含する。
【0161】
得られるヌクレオチド配列は、いずれか1つ以上のTbx3活性を有するポリペプチドをコードしうる。「相同体」という用語では、得られるヌクレオチド配列がTbx3活性を有するポリペプチドをコードするように構造および/または機能に関する同一性が考慮されるとみなされうる。たとえば、Tbx3の相同体などは、幹細胞、体細胞、または誘導多能性幹細胞などの細胞で、そのような細胞に暴露された場合、暴露されていない細胞と比較して、多能性を誘導または増強することが可能でありうる(may have be capable of)。
【0162】
配列同一性(すなわち類似性)に関しては、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも85%、または少なくとも90%の配列同一性が存在しうる。適合配列(たとえば、GenBank受託番号NM 005996.3 T−box 3タンパク質アイソフォーム1またはGenBank受託番号NM 016569.3 T−box 3タンパク質アイソフォーム2を有するTbx3配列)に対して少なくとも95%、たとえば少なくとも98%配列同一性が存在しうる。これらの用語はまた、配列の対立遺伝子変異を包含する。
【0163】
変異体、誘導体、および相同体
Tbx3核酸の変異体、断片、誘導体、および相同体は、DNAまたはRNAを含みうる。それらは、一本鎖もしくは二本鎖でありうる。それらはまた、それらの中に合成ヌクレオチドまたは修飾型ヌクレオチドを含むポリヌクレオチドでありうる。オリゴヌクレオチドに対するいくつかの異なるタイプの修飾が当技術分野で公知である。これらとしては、メチルホスホネート骨格およびホスホロチオエート骨格または分子の3’末端および/もしくは5’末端へのアクリジンもしくはポリリシン鎖の付加が挙げられる。本文書の目的では、当然のことながら、ポリヌクレオチドは、当技術分野で利用可能な任意の方法により修飾可能である。そのような修飾は、対象のポリヌクレオチドのin vivo活性または寿命を増強するために実施可能である。
【0164】
ポリヌクレオチドが二本鎖である場合、二本鎖の両方の鎖が、単独または組合せのいずれかで、本明細書中に記載の方法および組成物に包含される。ポリヌクレオチドが一本鎖である場合、当然のことながら、そのポリヌクレオチドの相補的配列もまた包含される。
【0165】
ヌクレオチド配列に関連する「変異体」、「相同体」、または「誘導体」という用語は、配列からのまたは配列への1個(もしくはそれ以上)の核酸の任意の置換、変異、修飾、交換、欠失、または付加を包含する。当該変異体、相同体、または誘導体は、生物学的活性を有するポリペプチドをコードしうる。Tbx3のそのような断片、相同体、変異体、および誘導体は、以上に明記されるモジュレートされた活性を含みうる。
【0166】
以上に述べたように、配列同一性に関して、「相同体」は、適合配列(たとえば、GenBank受託番号NM 005996.3 T−box 3タンパク質アイソフォーム1またはGenBank受託番号NM 016569.3 T−box 3タンパク質アイソフォーム2を有するTbx3配列)に対して、少なくとも5%の同一性、少なくとも10%の同一性、少なくとも15%の同一性、少なくとも20%の同一性、少なくとも25%の同一性、少なくとも30%の同一性、少なくとも35%の同一性、少なくとも40%の同一性、少なくとも45%の同一性、少なくとも50%の同一性、少なくとも55%の同一性、少なくとも60%の同一性、少なくとも65%の同一性、少なくとも70%の同一性、少なくとも75%の同一性、少なくとも80%の同一性、少なくとも85%の同一性、少なくとも90%の同一性、または少なくとも95%の同一性を有しうる。
【0167】
少なくとも95%の同一性、少なくとも96%の同一性、少なくとも97%の同一性、少なくとも98%の同一性、または少なくとも99%の同一性が存在しうる。ヌクレオチド同一性比較は、以上に記載したように実施可能である。使用可能な配列比較プログラムは、以上に記載のGCG Wisconsin最良当てはめプログラムである。デフォルトスコア行列は、各同一ヌクレオチドごとにマッチ値10および各ミスマッチごとに−9を有する。各ヌクレオチドごとに、デフォルトギャップ生成ペナルティーは−50であり、デフォルトギャップ伸長ペナルティーは−3である。
【0168】
ハイブリダイゼーション
さらに、本明細書に提示された配列またはその任意の変異体、断片、もしくは誘導体のいずれかにまたは以上のいずれかの相補体に選択的にハイブリダイズ可能なヌクレオチド配列を記述する。ヌクレオチド配列は、少なくとも15ヌクレオチド長、たとえば、少なくとも20、30、40、もしくは50ヌクレオチド長でありうる。
【0169】
本明細書で用いられる「ハイブリダイゼーション」という用語は、「核酸の鎖が塩基対形成を介して相補鎖と一体化するプロセス」さらにはポリメラーゼ連鎖反応技術中で行われるような増幅のプロセスを含むものとする。
【0170】
本明細書に提示されたヌクレオチド配列にまたはそれらの相補体に選択的にハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドは、本明細書に提示された対応するヌクレオチド配列(たとえば、GenBank受託番号NM 005996.3 T−box 3タンパク質アイソフォーム1またはGenBank受託番号NM 016569.3 T−box 3タンパク質アイソフォーム2を有するTbx3配列)に対して、少なくとも40%の相同、少なくとも45%の相同性、少なくとも50%の相同性、少なくとも55%の相同性、少なくとも60%の相同性、少なくとも65%の相同性、少なくとも70%の相同性、少なくとも75%の相同性、少なくとも80%の相同性、少なくとも85%の相同性、少なくとも90%の相同性、または少なくとも95%の相同性でありうる。そのようなポリヌクレオチドは、一般的には、少なくとも20、たとえば、少なくとも25または30、たとえば少なくとも40、60、もしくは100個、またはそれ以上の連続するヌクレオチドの領域にわたり、対応するヌクレオチド配列に対して、少なくとも70%、少なくとも80もしくは90%、または少なくとも95%もしくは98%の相同性でありうる。
【0171】
「選択的にハイブリダイズ可能」という用語は、バックグラウンドを有意に超えるレベルで標的ポリヌクレオチドがプローブにハイブリダイズすることが見いだされる条件下で、プローブとして使用されるポリヌクレオチドが使用されることを意味する。他のポリヌクレオチドが、たとえば、スクリーニングされるcDNAライブラリー中またはゲノムDNAライブラリー中に存在するので、バックグラウンドハイブリダイゼーションが起こる可能性がある。この場合、バックグラウンドは、プローブとライブラリーの非特異的DNAメンバーとの間の相互作用により生成されるシグナルのレベルを示し、このレベルは、標的DNAを用いたときに観測される特異的相互作用の強度の1/10未満たとえば1/100未満である。相互作用の強度は、たとえば、32Pもしくは33Pを用いてまたは非放射性プローブ(たとえば、蛍光染料、ビオチン、もしくはジゴキシゲニン)を用いて、プローブを放射性標識することにより、測定可能である。
【0172】
ハイブリダイゼーション条件は、Berger and Kimmel (1987,Guide to Molecular Cloning Techniques,Methods in Enzymology,Vol 152,Academic Press,San Diego CA)に教示されているように、核酸結合複合体の融解温度(Tm)に基づき、以下で説明されるように定義される「ストリンジェンシー」を付与する。
【0173】
最大ストリンジェンシーは、典型的には、約Tm−5℃(プローブのTmよりも5℃低い)で生じ、高ストリンジェンシーは、Tmよりも約5℃〜10℃低いところで生じ、中間ストリンジェンシーは、Tmよりも約10℃〜20℃低いところで生じ、そして低ストリンジェンシーは、Tmよりも約20℃〜25℃低いところで生じる。当業者であればわかるであろうが、最大ストリンジェンシーハイブリダイゼーションは、同一のポリヌクレオチド配列を同定または検出するために使用可能であり、一方、中間(または低)ストリンジェンシーハイブリダイゼーションは、類似のもしくは関連のあるポリヌクレオチド配列を同定または検出するために使用可能である。
【0174】
ストリンジェント条件下で(たとえば、65℃および0.1×SSC(1×SSC=0.15M NaCl、0.015M Na3クエン酸塩 pH7.0))、Tbx3核酸、断片、変異体、相同体、または誘導体にハイブリダイズ可能でありうるヌクレオチド配列を提供する。
【0175】
相同体、変異体、および誘導体の生成
適合配列(たとえば、GenBank受託番号NM 005996.3 T−box 3タンパク質アイソフォーム1またはGenBank受託番号NM 016569.3 T−box 3タンパク質アイソフォーム2を有するTbx3配列)に対して100%の同一性ではないが同様に包含されるポリヌクレオチド、さらにはTbx3の相同体、変異体、および誘導体は、いくつかの方法で取得可能である。配列の他の変異体は、たとえば一連の個体、たとえば異なる集団に由来する個体から作製されたDNAライブラリーをプローブすることにより取得可能である。たとえば、Tbx3相同体は、他の個体または他の種から特定可能である。さらなる組換えTbx3核酸およびポリペプチドは、相同体中の対応する位置を特定し、本文書中の他の箇所に記載されるように分子を合成または生成することにより、作製可能である。
【0176】
それに加えて、他のウイルス性/細菌性または細胞性の相同体、具体的には、哺乳動物細胞(たとえば、ラット、マウス、ウシ科動物、および霊長動物の細胞)に見いだされる細胞性相同体を取得することが可能であり、そのような相同体およびその断片は、一般的には、ヒトTbx3に選択的にハイブリダイズ可能であろう。そのような相同体は、非ヒトTbx3核酸、断片、変異体、および相同体を設計するために使用可能である。突然変異誘発は、さらなる変種を生成するために当技術分野で公知の手段により実施可能である。
【0177】
Tbx3相同体の配列は、他の動物種から作製されたcDNAライブラリーまたは他の動物種に由来するゲノムDNAライブラリーをプローブすることにより、ならびにTbx3核酸、断片、変異体、および相同体、またはTbx3の他の断片のいずれかの全部もしくは一部を含むプローブを用いてそのようなライブラリーを中〜高ストリンジェンシーの条件下でプローブすることにより、取得可能である。
【0178】
同様の考慮事項は、本明細書に開示されるポリペプチド配列またはヌクレオチド配列の種相同体および対立遺伝子変異体の取得にもあてはまる。
【0179】
Tbx3核酸の配列内の保存アミノ酸配列をコードする変異体内および相同体内の配列を標的とするよう設計されたプライマーを使用する縮重PCRを用いて、変異体および系統/種相同体を取得することも可能である。保存配列は、たとえば、いくつかの変異体/相同体に由来するアミノ酸配列をアライメントすることにより、予測可能である。配列アライメントは、当技術分野で公知のコンピューターソフトウェアを用いて実施可能である。たとえば、GCG Wisconsin PileUpプログラムは、広く使用されている。
【0180】
縮重PCRで使用されるプライマーは、1つ以上の縮重位置を含有するであろう。また、既知の配列に対する単一配列プライマーを用いて、配列のクローニングに使用されるよりも低いストリンジェンシー条件で使用されるであろう。遠縁の生物に由来する配列間の全体的ヌクレオチド相同性は、おそらく非常に低いと思われるので、これらの状況では、縮重PCRは、Tbx3配列の標識断片を用いてライブラリーをスクリーニングするよりも好ましい方法でありうることは、当業者であればわかるであろう。
【0181】
それに加えて、相同配列は、一連のBLASTプログラムなどの検索アルゴリズムを用いてヌクレオチドおよび/またはタンパク質データベースを検索することにより特定可能である。
【0182】
他の選択肢として、そのようなポリヌクレオチドは、たとえば、Tbx3核酸、または変異体、相同体、誘導体、もしくは断片などの特徴的配列の部位指向性突然変異誘発により、取得可能である。これは、たとえば、ポリヌクレオチド配列が発現される特定の宿主細胞に対してコドン優先性を最適化するためにサイレントコドン変化が配列に必要とされる場合、有用でありうる。他の配列変化は、制限酵素認識部位を導入するためにまたはポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドの性質または機能を改変するために望まれることもある。
【0183】
本明細書に記載のポリヌクレオチドは、プライマー、たとえば、PCRプライマー、他の選択肢の増幅反応用のプライマー、プローブ、たとえば、放射性もしくは非放射性の標識を用いた従来の手段により、認識可能な標識で標識されたプローブを生成するために使用可能であるか、またはポリヌクレオチドは、ベクター中にクローニング可能である。そのようなプライマー、プローブ、および他の断片は、少なくとも8、9、10、または15、たとえば、少なくとも20、たとえば、少なくとも25、30、または40ヌクレオチド長であろう。それらはまた、本明細書で用いられる「ポリヌクレオチド」という用語に包含される。
【0184】
ポリヌクレオチド、たとえば、DNAポリヌクレオチドおよびDNAプローブは、組換えにより、合成により、または当業者の利用可能な任意の手段により、生成可能である。それらはまた、標準的技術によりクローニング可能である。
【0185】
一般的には、プライマーは、1回に1個のヌクレオチドを用いた所望の核酸配列のステップワイズ製造を含む合成手段により生成されるであろう。自動化技術を用いてこれを達成するための技術は、当技術分野で容易に利用可能である。
【0186】
Tbx3の断片を含むプライマーは、Tbx3発現のアップレギュレーションなどのTbx3発現の検出方法にとくに有用である。Tbx3の増幅に好適なプライマーは、Tbx3の任意の好適な鎖から生成可能である。使用可能なプライマーとしては、特異的なTbx3の配列を増幅可能なものが挙げられる。
【0187】
Tbx3プライマーは単独で提供可能であるが、それらは、最も有用には、フォワードプライマーとリバースプライマーとを含むプライマー対として提供される。
【0188】
より長いポリヌクレオチドは、一般的には、組換え手段を用いて、たとえば、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)クローニング技術を用いて生成されるであろう。これは、1対のプライマー(たとえば、約15〜30ヌクレオチドのプライマー)を作製することと、動物細胞またはヒト細胞から得られたmRNAまたはcDNAにプライマーを接触させることと、所望の領域の増幅を引き起こす条件下でポリメラーゼ連鎖反応を行うことと、増幅されたフラグメントを単離することと(たとえば、アガロースゲル上で反応混合物を精製することにより)、増幅されたDNAを回収することと、を含むであろう。増幅されたDNAを好適なクローニングベクター中にクローニングできるように、好適な制限酵素認識部位を含有するプライマーをデザインすることが可能である。
【0189】
ポリヌクレオチドまたはプライマーは、認識可能な標識を有しうる。好適な標識としては、32Pや35Sなどの放射性同位体、ジゴキシゲニン、蛍光染料、酵素標識、またはビオチンなどの他のタンパク質標識が挙げられる。そのような標識は、ポリヌクレオチドまたはプライマーに付加可能であり、それ自体公知の技術を用いて(using by)検出可能である。標識されたまたは標識されていないポリヌクレオチドもしくはプライマーまたはそれらの断片は、人体または動物体でポリヌクレオチドの検出または配列決定のために、核酸に基づく試験で当業者により使用可能である。
【0190】
検出のためのそのような試験は、一般的には、DNAまたはRNAを含有する生物学的サンプルをポリヌクレオチドまたはプライマーを含むプローブにハイブリダイズ条件下で接触させることと、プローブとサンプル中の核酸との間で形成された任意の二本鎖を検出することと、を含む。そのような検出は、PCRなどの技術を用いることにより、またはプローブを固体担体上に固定し、プローブにハイブリダイズされないサンプル中の核酸を除去し、次いで、プローブにハイブリダイズされた核酸を検出することにより、達成可能である。他の選択肢として、サンプル核酸を固体担体上に固定し、そのような担体に結合されたプローブの量を検出することが可能である。この方式および他の方式の好適なアッセイ方法は、たとえば、国際公開第89/03891号パンフレットおよび国際公開第90/13667号パンフレットに見いだしうる。
【0191】
Tbx3核酸などのヌクレオチドの配列決定を行う試験は、標的DNAまたはRNAを含有する生物学的サンプルをポリヌクレオチドまたはプライマーを含むプローブにハイブリダイズ条件下で接触させることと、たとえばSangerジデオキシチェーンターミネーション法(Sambrook et al.を参照されたい)により、配列を決定することと、を含む。
【0192】
そのような方法は、一般的には、好適な試薬の存在下で標的DNAまたはRNAに相補的な鎖の合成によりプライマーを伸長させ、A、C、G、またはT/U残基の1つ以上で伸長反応を選択的に停止させることと、鎖伸長反応および停止反応を引き起こすことと、伸長した産物をサイズに従って分離して取り出し、選択的停止が起こったヌクレオチドの配列を決定することと、を含む。好適な試薬としては、DNAポリメラーゼ酵素、デオキシヌクレオチドdATP、dCTP、dGTP、およびdTTP、緩衝液、およびATPが挙げられる。ジデオキシヌクレオチドは、選択的停止に使用される。
【0193】
Tbx3制御領域
いくつかの目的では、Tbx3の制御領域を利用したり調べたりすることが必要なこともある。そのような制御領域としては、プロモーター、エンハンサー、および遺伝子座制御領域が挙げられる。制御領域とは、それに機能しうる形で結合されたコード配列の発現をモジュレートしうる核酸配列または構造体を意味する。
【0194】
たとえば、制御領域は、Tbx3を発現するトランスジェニック動物を作製するのに有用である。さらに、制御領域は、Tbx3の発現構築物を作製するために使用可能である。これについては、以下でさらに詳細に説明する。
【0195】
Tbx3の制御領域の特定は、単純明快であり、いくつかの方式で実施可能である。たとえば、Tbx3のコード配列は、プローブとしてヒトまたはマウスTbx3 cDNA配列を用いてcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、生物から取得可能である。5’配列は、適切なゲノムライブラリーをスクリーニングすることによりまたは当技術分野で公知のプライマー伸長により取得可能である。ゲノムデータベースのデータベース探索を利用することも可能である。とくに興味深いそのような5’配列は、非コード領域を含む。5’領域を目視によりまたはコンピュータープログラムの助けを借りて調べることによって検査し、プロモーターおよび/またはエンハンサー領域の存在の指標となる配列モチーフを特定することが可能である。
【0196】
さらに、2つ以上の生物に由来するTbx3核酸配列の配列アライメントを行うことが可能である。異なる種に由来するTbx3配列をアライメントすることにより、アミノ酸配列のどの領域が異なる種間で保存されているかを決定することが可能である。そのような保存領域は、対象の遺伝子(すなわちTbx3)に対する制御領域を含有するであろう。本明細書に開示されるマウスおよびヒトのゲノム配列、たとえばマウスTbx3ゲノム配列は、この目的に利用可能である。さらに、他の生物に由来するTbx3相同体は、マウスおよびヒトのTbx3配列から生成された適切なプローブを用いてスクリーニングする標準的方法により取得可能である。フグ(トラフグ(Takifugu rubripes))またはゼブラフィッシュのゲノムをスクリーニングしてTbx3相同体を特定することも可能であり、したがって、Tbx3のいくつかのゼブラフィッシュ配列を特定した(上述)。フグまたはゼブラフィッシュのTbx3遺伝子の5’非コード領域とマウスまたはヒトのゲノムTbx3配列との比較を行って、制御領域を含有する保存領域を特定することが可能である。
【0197】
また、欠失試験を行ってTbx3のプロモーターおよび/またはエンハンサー領域を特定することも可能である。
【0198】
推定制御領域の同一性は、候補配列をレポーター遺伝子に結合してレポーターの発現を検出する分子生物学実験により確認可能である。
【0199】
Tbx3への細胞の暴露
Tbx3は、多能性を増強するために1種以上の核再プログラミング因子の存在下で細胞に暴露することが可能である。
【0200】
本明細書に記載の方法および組成物で使用するためのTbx3の産生方法は、とくに限定されるものではないが、産生は、たとえば、化学合成方法または遺伝的組換え技術を用いる方法により、達成可能である。
【0201】
遺伝的組換え技術を用いる方法により産生を行う場合、本明細書に記載の方法および組成物で使用するためのTbx3は、たとえば、DNA鋳型と遺伝子組換えを利用して得られるRNAポリメラーゼとを用いて転写反応を介して産生可能である。使用可能なRNAポリメラーゼの例としては、T7 RNAポリメラーゼ、T3 RNAポリメラーゼ、およびSP6 RNAポリメラーゼが挙げられる。
【0202】
他の選択肢として、Tbx3の発現を可能にする組換えベクターは、適切なベクターの発現制御配列(プロモーター配列およびエンハンサー配列など)の制御下にTbx3コードDNAを挿入することにより産生可能である。ここで用いられるベクターのタイプは、とくに限定されるものではないが、具体的には、DNAベクターを使用することが可能である。例としては、ウイルスベクターおよびプラスミドベクターが挙げられうる。ウイルスベクターは、とくに限定されるものではないが、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターなどを利用することが可能である。それに加えて、以上のプラスミドに関して、当業者に周知である哺乳動物発現プラスミドを利用することが可能である。
【0203】
ベクターとしてレトロウイルスを使用する方法は、国際公開第2007/69666A1号パンフレット、Takahashi et al.,Cell 126:663−676,2006、およびTakahashi et al.,Cell 131:861−872,2007(参照によりその全体が本明細書に組み入れられる(incorportated)ものとする)に開示されている。ベクターとしてレンチウイルスを使用する方法は、Yu et al.,Science 318:1917−1920,2007(参照によりその全体が本明細書に組み入れられるものとする)に開示されている。ベクターとしてアデノウイルスを使用する方法は、Stadtfeld et al.,Science 322:945−949,2008(参照によりその全体が本明細書に組み入れられるものとする)に開示されている。非ウイルスベクターとしてプラスミドを使用する方法は、米国特許仮出願第61/071,508号明細書、米国特許仮出願第61/136,246号明細書、米国特許仮出願第61/136,615号明細書、およびOkita et al.,Science 322:949−953,2008(参照によりその全体が本明細書に組み入れられるものとする)に開示されている。当業者であれば、以上の公知の方法の中からまたは先行技術で利用可能な他の公知の方法またはベクターのいずれかから適切な方法を選択し使用することが可能である。
【0204】
核再プログラミングは、任意の数の方法によりTbx3の存在下で行うことが可能である。Tbx3を提供する方式は、とくに限定されるものではないが、その例としては、Tbx3を体細胞の核に直接注入する方法およびTbx3の発現が可能な適切な組換えベクターを体細胞内に導入する方法が挙げられうる。しかしながら、これら方法は、限定されるとみなされるものではない。
【0205】
組換えベクターを体細胞内に導入する方法は、とく限定されるものではなく、当業者に周知の任意の方法により実施可能である。利用可能な方法の例はとしては、一過性トランスフェクション、マイクロインジェクション、リン酸カルシウム沈殿方法、リポソーム媒介トランスフェクション、DEAE、デキストラン媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、および遺伝子銃の使用を含む方法が挙げられうる。
【0206】
多能性の誘導または増強
本明細書に記載の方法および組成物により処理された細胞は、誘導または増強された多能性を示す。言い換えれば、そのような細胞は、幹細胞(たとえば霊長類またはヒトの幹細胞)の少なくとも1つの特徴を取得または達成することが可能である。そのような細胞は、1回以上の継代培養後、特徴を保持しうる。それらは、複数回の継代培養後もそうである。
【0207】
多能性または幹細胞の特徴は、形態学的特徴、免疫組織化学的特徴、分子生物学的特徴などを含みうる。特徴は、生物学的活性を含みうる。
【0208】
幹細胞の特徴
多能性が増強または誘導された本方法により処理された細胞は、以下の幹細胞の特徴のいずれかを示しうる。
【0209】
幹細胞は、Oct4および/またはSSEA−1の発現の増大を示しうる。Flk−1、Tie−2、およびc−kitのいずれか1つ以上の発現は、低減されうる。自己複製している幹細胞は、自己複製していない幹細胞と比較して短い細胞周期を示しうる。
【0210】
幹細胞は、規定の形態を示しうる。たとえば、二次元の標準的顕微鏡画像では、ヒト胚性幹細胞は、画像平面内での高い核/細胞質比、顕著な核小体、および、識別しにくい細胞間結合を有する緻密コロニー形成を示す。
【0211】
幹細胞はまた、以下にさらに詳細に記載されるように発現される細胞マーカーにより特徴付け可能である。
【0212】
多能性マーカーの発現
保持される生物学的活性は、多能性マーカーの発現を含みうる。
【0213】
ステージ特異的胚抗原(SSEA)は、特定の胚細胞型の特徴である。SSEAマーカー用の抗体は、Developmental Studies Hybridoma Bank(Bethesda Md.)から入手可能である。他の有用なマーカーは、Tra−1−60およびTra−1−81と称される抗体を用いて検出可能である(Andrews et al.,Cell Linesfrom Human Gern Cell Tumors,in E.J.Robertson,1987,supra)。ヒト胚性幹細胞は、典型的には、SSEA−1陰性およびSSEA−4陽性である。hEG細胞は、典型的には、SSEA−1陽性である。in vitroでのpPS細胞の分化は、SSEA−4、Tra−1−60、およびTra−1−81の発現の低下をもたらし、SSEA− 1の発現の増大をもたらす。pPS細胞はまた、アルカリ性ホスファターゼ活性の存在により特徴付け可能であり、これは、4%パラホルムアルデヒドで細胞を固定してから製造業者(Vector Laboratories,Burlingame Calif.)の説明に従って基質としてVector Redを用いて発色させることにより検出可能である。
【0214】
胚性幹細胞はまた、典型的には、テロメラーゼ陽性およびOCT−4陽性である。テロメラーゼ活性は、市販のキット(TRAPeze.RTM.XK Telomerase Detection Kit,Cat.s7707;Intergen Co.,Purchase N.Y.またはTeloTAGGG.TM.Telomerase PCR ELISA plus,Cat.2,013,89、Roche Diagnostics,Indianapolis)を用いてTRAP活性アッセイ(Kim et al.,Science 266:2011,1997)により決定可能である。hTERT発現はまた、RT−PCRによりmRNAレベルで評価可能である。LightCycler TeloTAGGG.TM.hTERT定量キット(Cat.3,012,344;Roche Diagnostics)は、研究目的に市販されている。
【0215】
FOXD3、PODXL、アルカリホスファターゼ、OCT−4、SSEA−4、およびTRA−1−60などをはじめとするこれらの多能性マーカーのいずれか1つ以上を本明細書に記載の方法および組成物により産生された細胞により保持することが可能である。
【0216】
マーカーの検出は、当技術分野で公知の任意の手段により、たとえば免疫学的に、達成可能である。組織化学的染色、フローサイトメトリー(FAC)、ウェスタンブロット、酵素結合イムノアッセイ(ELISA)などを使用することが可能である。
【0217】
細胞表面マーカーを検出するためにフロー免疫細胞化学を使用することが可能であり、細胞内または細胞表面マーカーに対して免疫組織化学(たとえば固定細胞または組織切片で)を使用することが可能である。ウェスタンブロット解析は、細胞抽出物で実施可能である。酵素結合イムノアッセイは、細胞抽出物または培地中に分泌された産物に対して使用可能である。
【0218】
この目的のために、供給業者から入手可能なものとして多能性マーカーに対する抗体を使用することが可能である。
【0219】
ステージ特異的胚抗原1および4(SSEA−1およびSSEA−4)ならびに腫瘍拒絶抗原1−60および1−81(TRA−1−60、TRA−1−81)をはじめとする幹細胞マーカーを同定するための抗体は、たとえば、Chemicon International,Inc(Temecula,CA,USA)からを市販品として入手可能である。モノクローナル抗体を使用するこれらの抗原の免疫学的検出は、多能性幹細胞を特性付けるために広く使用されてきた(Shamblott M.J.et.al.(1998)PNAS 95:13726−13731;Schuldiner M.et.al.(2000).PNAS 97:11307−11312、Thomson J.A.et.al.(1998).Science 282:1145−1147、Reubinoff B.E.et.al.(2000).Nature Biotechnology 18:399−404、Henderson J.K.et.al.(2002).Stem Cells 20:329−337、Pera M.et.al.(2000).J.Cell Science 113:5−10.)。
【0220】
組織特異的遺伝子産物の発現はまた、ノーザンブロット解析、ドットブロットハイブリダイゼーション解析、または標準的増幅方法で配列特異的プライマーを使用して逆転写酵素開始ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)により、mRNAレベルで検出可能である。本開示で列挙された特定のマーカーに関する配列データは、GenBank(URL www.ncbi.nlm.nih.gov:80/entrez)などの公共データベースから取得可能である。さらに詳しい内容については米国特許第5,843,780号明細書を参照されたい。
【0221】
本明細書に記載の方法および組成物により処理された細胞の実質的にすべてまたはそれらの実質的部分は、マーカーを発現しうる。たとえば、1種もしくは複数種のマーカーを発現する細胞のパーセントは、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、97%以上、99%以上、または実質的に100%でありうる。
【0222】
細胞生存率
生物学的活性は、本明細書に記載の方法および組成物による処理の後または処理に続く増殖の後の細胞生存率を含みうる。細胞生存率は、種々の方法により、たとえばトリパンブルー排除により、アッセイすることが可能である。
【0223】
生体染色のプロトコルは次のとおりである。適切なチューブに好適な体積の細胞懸濁液(20〜200μL)を入れ、同体積の0.4%トリパンブルーを添加して穏やかに混合し、室温で5分間放置する。血球計数器に10μlの染色細胞を入れ、生存(無染色)および死滅(染色)の細胞の数をカウントする。各四分区画中の無染色細胞の平均数を計算し、2×104を掛け算して細胞/ml単位にする。生存細胞のパーセントは、生存細胞の数を死滅細胞および生存細胞の数で割り算した値である。
【0224】
細胞の生存率は、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、97%以上、99%以上、または実質的に100%でありうる。
【0225】
核型
本明細書に記載の方法および組成物により処理された細胞(多能性が増強または誘導される)は、増殖時または増殖後、正常核型を保持しうる。「正常」核型とは、繁殖体の由来源の親幹細胞の核型と同等、それと類似、もしくはそれと実質的に類似した核型、またはそれと異なるがなんら実質的に異なるわけではない核型のことである。たとえば、転座、染色体損失、欠失などの大きな異常は、存在してはならない。
【0226】
核型は、いくつかの方法により、たとえば光学顕微鏡観察下で目視により評価可能である。核型は、McWhir et al.(2006)、Hewitt et al.(2007)、およびGallimore and Richardson(1973)に記載されるように準備し分析することが可能である。また、標準的Gバンド技術(Cytogenetics Lab at Oakland Calif.などの日常的核型分析業務を提供する多くの臨床診断機関で利用可能である)を用いて細胞の核型分析を行い、報告されている幹細胞核型と比較することが可能である。
【0227】
本明細書に記載の方法および組成物により処理された細胞のすべてまたは実質的部分は、正常核型を保持しうる。この割合は、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、97%以上、99%以上、または実質的に100%でありうる。
【0228】
多能性
本方法により処理された細胞は、3つすべての細胞株列、すなわち、内胚葉、外胚葉、および中胚葉に分化する能力を保持しうる。これらの各系列に分化するように幹細胞を誘導する方法は、当技術分野で公知であり、細胞の分化能をアッセイするために使用可能である。処理細胞のすべてまたは実質的部分は、この能力を保持すしうる。これは、処理細胞の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、97%以上、99%以上、または実質的に100%でありうる。
【0229】
TBX3による核再プログラミングのアッセイ
Tbx3を用いたときと用いなかったときの核再プログラミング効率の差は、たとえば、次のような形で理解しうる。
【0230】
高感度緑色蛍光タンパク質(EGFP)をコードする配列および抗生物質(たとえばネオマイシンまたはピューロマイシン)耐性遺伝子を、発現がES細胞に特異的である遺伝子プロモーター領域(たとえばNanog)の下流に挿入することにより、トランスジェニックマウスを作製することが可能である。次いで、3種の遺伝子(たとえば、Oct3/4、Sox2、およびKlf4)ならびに種々のTbx3をこれらのトランスジェニックマウスに由来する胚性線維芽細胞内に導入して核再プログラミングを誘導し、続いて、誘導多能性幹細胞の産生効率を確認する。
【0231】
産生効率は、たとえばコロニー数をカウントすることにより、決定可能である。より具体的には、次のようにしてコロニー数を比較することが可能である。すなわち、以上の遺伝子およびTbx3の導入後21日目から薬剤選択を開始し、全コロニー数およびNanog GFP陽性コロニー数(Nanog遺伝子プロモーター領域により発現が誘導されるGFPは、蛍光顕微鏡観察下で観測可能である)を28日目にカウントする。
【0232】
しかしながら、当然のことであるが、核再プログラミング効率の確認は、以上の方法に限定されるものではなく、以上の方法に適切な修正および変更を加えることが可能であり、当業者であれば、任意の適切な方法を利用することが可能である。
【0233】
共培養およびフィーダー
本方法は、共培養の存在下または不在下で幹細胞を培養することを含みうる。「共培養」という用語は、一緒に増殖させる2つ以上の異なる種類の細胞の混合物を意味する(たとえば間質フィーダー細胞)。2つ以上の異なる種類の細胞は、粒子や細胞容器表面などの同一表面上でまたは異なる表面上で増殖させることが可能である。異なる種類の細胞は、異なる粒子上または容器表面上で増殖させることが可能である。
【0234】
フィーダー細胞とは、その用語が本文書で用いられる場合、異なるタイプの細胞の培養に使用されるかまたは必要とされる細胞を意味しうる。幹細胞培養との関連では、フィーダー細胞は、生存、増殖、およびES細胞多能性の維持を確実にする機能を有する。ES細胞多能性は、フィーダー細胞を直接共培養することにより達成可能である。他の選択肢としてまたは追加として、フィーダー細胞は、培地中でそれを馴化するために培養可能である。馴化された培地は、幹細胞を培養するために使用可能である。
【0235】
培養ディッシュなどの容器の内表面は、分裂しないように処理されたマウス胎仔皮膚細胞のフィーダー層で被覆可能である。フィーダー細胞は、ES細胞の増殖に必要とされる栄養素を培養培地中に放出する。幹細胞は、そのような被覆容器内で増殖させることが可能である。
【0236】
フィーダー細胞は、粒子上でそれ自体を増殖させることが可能である。それらは、幹細胞に対して記載したのと同様に粒子上に接種可能である。増殖させる幹細胞は、そのようなフィーダー粒子と一緒にまたはそれとは別に増殖させることが可能である。したがって、幹細胞は、そのようなフィーダー細胞被覆粒子上の層上で増殖させることが可能である。一方、幹細胞は、別の粒子上で増殖させることが可能である。これらの構成のいずれかの任意の組合せ、たとえば、粒子上で増殖させたフィーダー細胞と、フィーダー細胞および幹細胞を有する粒子と、増殖中の幹細胞を有する粒子と、を含む培養物もまた可能である。これらの組合せは、フィーダー層を有するまたは有していない容器中で増殖させることが可能である。
【0237】
フィーダー細胞が不在であるかまたは必要とされない構成もまた、可能である。たとえば、細胞は、フィーダー細胞または幹細胞により馴化された培地中で増殖させることが可能である。
【0238】
培地およびフィーダー細胞
多能性幹細胞の単離および増殖のための培地は、得られる細胞が所望の特徴を有しかつさらなる増殖が可能であるかぎり、いくつかの異なる処方のいずれかを有しうる。
【0239】
好適な供給源は、次のとおりである。Dulbecco改変Eagle培地(DMEM)(Gibco#11965−092)、ノックアウトDulbecco改変Eagle培地(KO DMEM)(Gibco#10829−018)、200mM L−グルタミン(Gibco#15039−027)、非必須アミノ酸溶液(Gibco11140−050)、β−メルカプトエタノール(Sigma#M7522)、ヒト組換え塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)(Gibco#13256−029)。例示的な血清含有胚幹(ES)培地は、80%DMEM(典型的にはKO DMEM)、20%限定ウシ胎仔血清(FBS)非熱不活性化、0.1mM非必須アミノ酸、1mM L−グルタミン、および0.1mMβ−メルカプトエタノールを用いて作製される。培地は、濾過され、4℃で2週間以内貯蔵される。無血清胚幹(ES)培地は、80%KO DMEM、20%血清代替物、0.1mM非必須アミノ酸、1mM L−グルタミン、および0.1mMβ−メルカプトエタノールを用いて作製される。効果的な血清代替物は、Gibco#10828−028である。培地は、濾過され、4℃で2週間以内貯蔵される。使用直前、ヒトbFGFが4ng/mLの最終濃度に添加される(Bodnar et al.,Geron Corp、国際公開第99/20741号パンフレット)。
【0240】
培地は、10%血清代替培地(Invitrogen−Gibco,Grand Island,New York)、5ng/ml FGF2(Invitrogen−Gibco,Grand Island,New York)、および5ng/ml PDGF AB(Peprotech,Rocky Hill,New Jersey)が追加されたノックアウトDMEM培地(Invitrogen−Gibco,Grand Island,New York)を含みうる。
【0241】
フィーダー細胞(使用する場合)は、90%DMEM(Gibco#11965−092)、10%FBS(Hyclone#30071−03)、および2mMグルタミンを含有するmEF培地中で増殖可能である。mEFは、細胞をサブコンフルエント状態に保持しながら1日おきにトリプシンで細胞を1:2に分割してT150フラスコ(Coming#430825)中で増殖させる。フィーダー細胞層を調製するために、増殖は阻害するがヒト胚性幹細胞を支援する重要因子の合成は許容する線量で細胞に照射する(約4000radのγ線照射)。1ウェルあたり1mLの0.5%ゼラチンを用いて37℃で一晩インキュベートすることにより6ウェル培養プレート(たとえばFalcon#304)に被覆を施し、1ウェルあたり375,000照射mEFでプレーティングする。フィーダー細胞層は、典型的には、プレーティング5時間後〜4日後に使用される。培地は、pPS細胞の接種直前に新しいヒト胚幹(hES)培地と入れ替える。
【0242】
他の幹細胞を培養する条件は、公知であり、細胞型に従って適切に最適化可能である。前の節で参照された特定の細胞型のための培地および培養技術は、引用文献に提供される。
【0243】
無血清培地
本明細書に記載の方法および組成物は、幹細胞などの細胞を無血清培地中で培養することを含みうる。
【0244】
「無血清培地」という用語は、ウシ胎仔血清などの血清タンパク質を含まない細胞培養培地を包含しうる。無血清培地は、当技術分野で公知であり、たとえば、米国特許第5,631,159号明細書および同第5,661,034号明細書に記載されている。無血清培地は、たとえば、Gibco−BRL(Invitrogen)から市販されている。
【0245】
無血清培地は、タンパク質、加水分解物、および未知組成の成分が欠如しているという点で無タンパク質でありうる。無血清培地は、すべての成分が既知の化学構造を有する既知組成培地を含みうる。既知組成無血清培地は、バラツキをなくし、改良された再現性およびより一貫性のある性能を可能にし、かつ外来因子による汚染の可能性を低減した、完全に定義された系を提供するので、有利である。
【0246】
無血清培地は、ノックアウトDMEM培地(Invitrogen−Gibco,Grand Island,New York)を含みうる。
【0247】
無血清培地は、血清代替培地などの1つ以上の成分を、たとえば、5%、10%、15%などの濃度で追加可能である。無血清培地は、Invitrogen−Gibco(Grand Island,New York)製の10%血清代替培地を追加可能である。
【0248】
分離または脱凝集された胚性幹細胞が培養される無血清培地は、1種以上の増殖因子を含みうる。FGF2、IGF−2、ノギン、アクチビンA、TGFβ1、HRG1β、LIF、S1P、PDGF、BAFF、April、SCF、Flt−3リガンド、Wnt3Aなどをはじめとするいくつかの増殖因子は、当技術分野で公知である。増殖因子は、1pg/ml〜500ng/mlなどの任意の好適な濃度で使用可能である。
【0249】
幹細胞
本文書で用いられる場合、「幹細胞」という用語は、分裂時に2つの発生上の選択肢に直面する細胞を意味する。すなわち、娘細胞は、原細胞と同等でありうるか(自己複製)またはそれよりも特殊化した細胞型の前駆体でありうる(分化)。したがって、幹細胞は、いずれか一方の経路を採用しうる(各細胞型の一方を形成しうるさらなる経路が存在する)。したがって、幹細胞は、最終分化されずに他の型の細胞を生成しうる細胞である。
【0250】
本文書で参照される幹細胞は、全能性幹細胞、多能性幹細胞、および複能性幹細胞を包含しうる。また、とくに誘導多能性幹細胞(iPS)を包含する。
【0251】
全能性幹細胞
「全能性」細胞という用語は、成体の体内の任意の細胞型または胚体外膜(たとえば胎盤)の任意の細胞になる能力を有する細胞を意味する。したがって、この無比の全能性細胞は、受精卵およびその卵割により生じた最初の4個程度の細胞である。
【0252】
多能性幹細胞
「多能性幹細胞」とは、体内の任意の分化細胞を作製する能力を有する真の幹細胞のことである。しかしながら、栄養芽細胞に由来する胚体外膜の作製に寄与できない。いくつかの型の多能性幹細胞が見いだされてきた。
【0253】
胚性幹細胞
胚幹(ES)細胞は、着床が起こる胚の発生段階である胚盤胞の内部細胞塊(ICM)から単離可能である。
【0254】
胚性生殖細胞
胚性生殖(EG)細胞は、流産胎児の生殖腺の前駆体から単離可能である。
【0255】
胚性癌腫細胞
胚性癌腫(EC)細胞は、奇形癌腫(胎児の生殖腺に生じることのある腫瘍)から単離可能である。最初の2つとは異なり、通常、異数体である。これらの型の多能性幹細胞は3つともすべて、胚または胎児の組織からのみ単離可能であり、培養下で増殖可能である。これらの多能性細胞の分化を防止する方法は、当技術分野で公知である。
【0256】
成体幹細胞
成体幹細胞は、神経幹細胞、皮膚幹細胞、および骨髄移植の有効成分である造血幹細胞をはじめとする多種多様な型を含む。これらの後者の幹細胞型はまた、臍帯由来幹細胞の主要な特徴である。成体幹細胞は、実験室内および体内の両方で機能性のあるより特殊化した細胞型に成熟可能であるが、細胞型の正確な数は、選択される幹細胞の型により限定される。
【0257】
複能性幹細胞
複能性幹細胞は、真の幹細胞であるが、限られた数の型にのみ分化可能である。たとえば、骨髄は、血液のすべての細胞を生成するが他の型の細胞を生成しない複能性幹細胞を含有する。複能性幹細胞は、成体動物に見られる。体内のすべての器官(脳、肝臓)は、それを含有し、死滅細胞または損傷細胞を置き換えることが可能であると考えられる。
【0258】
幹細胞を特徴付ける方法は、当技術分野で公知であり、クローンアッセイ、フローサイトメトリー、長期培養、および分子生物学的技術(たとえば、PCR、RT−PCR、およびサザンブロッティング)などの標準的アッセイ方法の使用を含む。
【0259】
形態学的差に加えて、ヒトおよびマウスの多能性幹細胞は、いくつかの細胞表面抗原(幹細胞マーカー)の発現が異なる。幹細胞のマーカーおよびその検出方法は、本文書中の他の箇所に記載されている(「幹細胞の特徴の維持」の項)。
【0260】
誘導多能性幹細胞(iPS細胞)
本方法は、増強された多能性を示す細胞(たとえば誘導多能性幹細胞)の調製を包含する。
【0261】
本文書では、「誘導多能性幹細胞(iPS細胞)」という用語は、ES細胞と類似の性質を有する細胞を意味し、より具体的には、この用語は、体細胞から再プログラムされかつ多能性および増殖能を有する未分化細胞を包含する。
【0262】
しかしながら、この用語は、いかなる意味でも限定的とみなされるべきものではなく、その最広義を有するとみなされるべきものである。したがって、たとえば、本明細書に記載の方法により処理されていない細胞と比較して胚性幹細胞の1つ以上の増強された特徴を示すことにより、増強された多能性レベルを示す細胞はいずれも、iPS細胞として認定されうる。
【0263】
核再プログラミング因子を用いる誘導多能性幹細胞の調製方法は、国際公開第2005/80598A1号パンフレット(この出版物では「ES様細胞」という用語が用いられている)に記載されており、誘導多能性幹細胞の単離方法もまた、具体的に記載されている。それに加えて、再プログラミング因子の具体例およびそのような再プログラミング因子を用いる体細胞の再プログラミング方法の具体例は、国際公開第2007/069666号パンフレットに開示されている。
【0264】
本明細書に記載の方法による体細胞からの誘導多能性幹細胞の調製方法は、とくに限定されるものではなく、体細胞および誘導多能性幹細胞が増殖可能な環境中でTbx3の存在下で核再プログラミング因子を用いる体細胞の核再プログラミングを可能にする方法であるかぎり、任意の方法を利用することが可能である。
【0265】
たとえば、核再プログラミング因子を発現可能な遺伝子を含むベクターを用いてそのような遺伝子を体細胞内に導入することが可能であり、同じまたは異なるタイミングで、Tbx3を発現可能な組換えベクターを体細胞内に導入することが可能である。そのようなベクターを使用する場合、体細胞内でそれぞれの遺伝子産物の同時発現を行うように2つ以上の遺伝子をベクター中に組み込むことが可能である。
【0266】
以上の遺伝子を発現可能なベクターを用いて遺伝子および/またはTbx3を体細胞内に導入する場合、フィーダー細胞上で培養された体細胞内に発現ベクターを導入することが可能であるか、または発現ベクターを体細胞内に単独で導入することが可能である。後者の方法は、発現ベクターの導入効率を改良するのにより好適であることもある。
【0267】
フィーダー細胞に関しては、胚性幹細胞の培養で使用するために適切に使用されるフィーダー細胞が存在しうる。その例としては、放射線またはマイトマイシンCなどの薬剤のいずれかを用いて処理された、14または15日齢マウス胚性線維芽細胞の初代培養細胞および線維芽細胞株のSTO細胞が挙げられうる。
【0268】
適切な条件下で核再プログラミング因子が導入された体細胞を培養すると自律的核再プログラミングが起こり、その結果として、誘導多能性幹細胞を体細胞から生成することが可能である。発現ベクターを用いて核再プログラミング因子および/またはTbx3をコードする遺伝子を体細胞内に導入することにより誘導多能性幹細胞を取得するプロセスは、たとえば、レトロウイルスを使用する方法に従って行うことが可能である。
【0269】
そのような方法の例としては、Takahashi et al.,Cell 126:663−76,2006、Takahashi et al.,Cell 131:861−72,2007、Yu et al.,Science 318:1917−20,2007などの出版物に記載の方法が挙げられる。ヒト誘導多能性幹細胞を生成する場合、発現ベクターの導入後、細胞培養物密度を動物細胞培養の通常の場合よりも低く設定することが望ましい。たとえば、1×104〜1×105細胞/10cmディッシュ、たとえば、約5×104細胞/10cmディッシュの密度に培養物を保持することが可能性である。
【0270】
培養で使用するための培地は、とくに限定されるものではなく、当業者であれば適切に選択可能であるが、たとえば、ヒト誘導多能性幹細胞を生成するためにヒトES細胞培養に好適な培地を使用できることもある。培地選択および培養条件については、以上の出版物を参照することが可能である。
【0271】
こうして生成された誘導多能性幹細胞は、未分化細胞に特異的な種々のマーカーを用いて検査することが可能であり、そのための手段は、以上の出版物にとくに詳細に記載されている。たとえば、いくつか多能性細胞マーカーとしては、アルカリホスファターゼ(AP);ABCG2;ステージ特異的胚抗原−1(SSEA−1);SSEA−3;SSEA−4;TRA−1−60;TRA−1−81;Tra−2−49/6E;ERas/ECAT5、E−カドヘリン;βΙΙΙ−チューブリン;α−平滑筋アクチン(α−SMA);線維芽細胞増殖因子4(Fgf4)、Cripto、Daxl;ジンクフィンガータンパク質296(Zfp296);N−アセチルトランスフェラーゼ−1(Natl);(ES細胞関連転写物1(ECAT1);ESG1/DPPA5/ECAT2;ECAT3;ECAT6;ECAT7;ECAT8;ECAT9;ECAT10;ECAT15−1;ECAT15−2;Fthl17;Sal14;未分化胚細胞転写因子(Utf1);Rex1;p53;G3PDH;テロメラーゼ、TERTを含む;サイレントX染色体遺伝子;Dnmt3a;Dnmt3b;TRIM28;F−box含有タンパク質15(Fbx15);Nanog/ECAT4;Oct3/4;Sox2;Klf4;c−Myc;Esrrb;TDGF1;GABRB3;Zfp42、FoxD3;GDF3;CYP25A1;発生多能性関連2(DPPA2);およびT細胞リンパ腫切断点1(Tell);DPPA3/Stella;DPPA4が挙げられる。他のマーカーとしては、Dnmt3L;Soxl5;Stat3;Grb2;SV40ラージT抗原;HPV16 E6;HPV16 E7、13−カテニン、およびBmilが挙げられうる。そのような細胞はまた、iPS細胞が誘導される分化細胞に特徴的なマーカーのダウンレギュレーションにより特徴付け可能である。たとえば、線維芽細胞に由来するiPS細胞は、線維芽細胞マーカーThy1のダウンレギュレーションならびに/またはSSEA−3および4のアップレギュレーションにより特徴付け可能である。説明は、ここに列挙されたマーカーに限定されるものではなく、細胞表面マーカー、抗原などのマーカー、さらにはEST、RNA(マイクロRNAおよびアンチセンスRNAを含む)、DNA(遺伝子およびcDNAを含む)、およびそれらの一部分をはじめとする他の遺伝子産物を包含するとみなされる。
【0272】
多能性を維持するための培地
ES細胞の未分化および多能性を適正に保持しうる種々の媒体ならびにこれらの性質を保持できない種々の媒体は、当技術分野で公知であり、これら培地の適切な組合せにより誘導多能性幹細胞の効率的な単離が可能になる。
【0273】
こうして単離された誘導多能性幹細胞の分化能および増殖能は、当業者であれば、ES細胞に対する一般的な検査手段を用いて容易に検査可能である。それに加えて、誘導多能性幹細胞のコロニーは、こうして生成された誘導多能性幹細胞を適切な条件下で増殖することにより取得可能であり、これらの誘導多能性幹細胞の存在は、それらのコロニーの形状に基づいて特定可能である。
【0274】
たとえば、マウス誘導多能性幹細胞は隆起コロニーを形成するが、ヒト誘導多能性幹細胞は平坦コロニーを形成することが知られている。これらのコロニー形状は、それぞれマウスES細胞およびヒトES細胞のものと非常に類似しており、したがって、当業者であれば、これらの生成された誘導多能性幹細胞をそれらのコロニーの形状に基づいて特定可能である。
【0275】
体細胞源
本明細書に記載の方法により再プログラムされる体細胞の型は、とくに限定されるものではなく、任意の体細胞を使用可能である。たとえば、任意の哺乳動物に由来する(たとえば、ヒト、マウス、ラット、ウシ、ヒツジ、ウマ、およびサルなど哺乳動物に由来する)体細胞を利用することが可能である。
【0276】
胚性体細胞だけでなく新生児体細胞、成熟体細胞、および組織幹細胞を使用することも可能である。それに加えて、皮膚細胞、肝細胞、および胃粘膜細胞などの種々の体細胞を再プログラムすることが可能である。
【0277】
疾患に対する療法で誘導多能性幹細胞を使用するために、患者から単離された体細胞を使用することが望ましいこともある。たとえば、疾患に関与する体細胞および疾患の療法に関連した体細胞を使用することが可能である。
【0278】
使用
本明細書に記載の方法により生成される増強または誘導された多能性を示す細胞(たとえば誘導多能性幹細胞)の可能な使用は、とくに限定されるものではなく、これらの細胞は、ES細胞を用いて行われるすべての検査/試験およびES細胞を利用する任意の疾患療法に使用可能である。
【0279】
たとえば、本明細書に記載の方法により得られる誘導多能性幹細胞は、適切な組織を形成しうるように、レチノイン酸、増殖因子(たとえばEGF)、またはグルココルチコイドで処理することにより、所望の分化細胞(たとえば、神経細胞、心筋細胞、血液細胞、およびインスリン産生細胞)に誘導することが可能である。
【0280】
自己細胞移植を介する幹細胞療法は、以上のようにして得られたこれらの分化細胞または組織を患者に戻すことにより達成可能である。しかしながら、本明細書に記載の誘導多能性幹細胞の適用は、以上に挙げた特定の態様に限定されるものではない。
【0281】
使用
本明細書に記載の方法および組成物は、種々の手段に利用可能である。
【0282】
たとえば、本明細書に記載の方法および組成物により処理された細胞(これは増強または誘導された多能性を示す)は、さまざまな商業上重要な研究、診断、および治療の目的に使用可能である。処理細胞(幹細胞を含む)は、これらの目的に合わせて直接使用可能であるか、または当技術分野で公知の方法を用いて任意の選択された細胞型に分化させることが可能である。前駆細胞はまた、処理細胞(幹細胞を含む)からも誘導可能である。
【0283】
分化細胞もしくは前駆細胞またはその両方は、処理細胞(幹細胞を含む)の代わりにまたはそれと組み合わせて、同一の目的に使用可能である。したがって、処理細胞(幹細胞を含む)に関して本文書に記載された使用はいずれも、前駆細胞および処理細胞(幹細胞を含む)に由来する分化細胞にも同じようにあてはまる。同様に、分化細胞の使用はいずれも、その前駆体または前駆細胞である処理細胞(幹細胞を含む)にも同じようにあてはまるであろう。
【0284】
処理細胞(幹細胞などを含む)の使用は、一般に当技術分野で周知であるが、本明細書に簡潔に記載する。
【0285】
治療的使用
本明細書に記載の方法および組成物は、再生療法のために処理細胞(幹細胞を含む)を増殖すべく使用可能である。そのような細胞を拡大培養して患者に直接投与することが可能である。外傷後の損傷組織の再生に使用可能である。
【0286】
処理細胞(幹細胞を含む)は、直接使用可能であるか、または再生療法のために外胚葉、中胚葉、または内胚葉の前駆細胞集団を生成するために使用可能である。前駆細胞は、ex vivo拡大培養により作製可能であるか、または患者に直接投与可能である。また、外傷後の損傷組織の再生にも使用可能である。
【0287】
したがって、造血前駆細胞は、骨髄置換に使用可能であり、一方、心臓前駆細胞は、心不全患者に使用可能である。皮膚前駆細胞は、患者のための皮膚移植片を増殖すべく利用可能であり、および内皮前駆細胞は、ステントや人工心臓などの人工プロテーゼの内皮化のために利用可能である。
【0288】
処理細胞(幹細胞を含む)は、糖尿病、アルツハイマー病、パーキンソン病などの変性疾患の治療のために外胚葉、中胚葉、または内胚葉の前駆細胞源として使用可能である。処理細胞(幹細胞を含む)は、癌免疫療法のためにNK細胞または樹状細胞に対する中胚葉または内胚葉の前駆体源として使用可能である。
【0289】
本明細書に記載の方法および組成物は、外胚葉、中胚葉、または内胚葉の前駆細胞(これらは、当然ながら、当技術分野で公知の方法を用いて、最終分化細胞型にさらに分化させることが可能である)の産生を可能にする。
【0290】
したがって、最終分化細胞の使用はいずれも、それらの起源である外胚葉、中胚葉、または内胚葉の前駆細胞(または幹細胞)にも同じようにあてはまる。
【0291】
本明細書に記載の方法および組成物により生成される処理細胞(幹細胞を含む)、外胚葉、中胚葉、または内胚葉の前駆細胞、および分化細胞は、疾患の治療のためにまたはそのための医薬組成物の調製のため使用可能である。そのような疾患には、心不全、骨髄疾患、皮膚疾患、火傷、変性疾患、たとえば、糖尿病、アルツハイマー病、パーキンソン病など、および癌をはじめとする、再生療法により治療可能な疾患が含まれうる。
【0292】
ライブラリー
たとえば、未分化細胞および分化細胞の集団は、分化表現型に特異的な抗体およびcDNAライブラリーを作製するために使用可能である。抗体の作製、精製、および修飾、ならびにイムノアッセイおよび免疫隔離法でのそれらの使用で用いられる一般的技術については、Handbook of Experimental Immunology(Weir & Blackwell,eds.)、Current Protocols in Immunology(Coligan et al.,eds.)、およびMethods of Immunological Analysis(Masseyeff et al.,eds.,Weinheim:VCH Verlags GmbH)に記載されている。mRNAおよびcDNAライブラリーの作製に関係する一般的技術については、RNA Methodologies:A Laboratory Guide for Isolation and Characterization(R.E.Farrell,Academic Press,1998)、cDNA Library Protocols(Cowell & Austin,eds.,Humana Press)、およびFunctional Genomics(Hunt & Livesey,eds.,2000)に記載されている。比較的均一な細胞集団は、薬剤スクリーニングおよび治療用途で使用するのにとくに適している。
【0293】
薬剤スクリーニング
処理細胞(幹細胞を含む)および分化細胞はまた、処理細胞(幹細胞を含む)または分化細胞の特徴に影響を及ぼす因子(たとえば、溶媒、小分子薬剤、ペプチド、ポリヌクレオチドなど)または環境条件(たとえば、培養条件または操作)をスクリーニングするために使用可能である。
【0294】
処理細胞(幹細胞を含む)は、多能性または分化を促進する因子をスクリーニングするために使用可能である。いくつかの用途では、分化細胞は、成熟を促進するかまたは長期培養時のそのような細胞の増殖および維持を促進する因子をスクリーニングするために使用可能である。たとえば、候補の成熟因子または増殖因子は、さまざまなウェル中の細胞にそれらを添加してから、細胞のさらなる培養および使用に望ましい基準に従って生じた表現型変化を決定することにより、試験される。
【0295】
特定のスクリーニング用途は、薬剤研究での医薬化合物の試験に関する。読者は、一般的には、標準的教科書“In vitro Methods in Pharmaceutical Research”,Academic Press,1997、および米国特許第5,030,015号明細書)、さらには本文書中の他の箇所の薬剤スクリーニングの一般的説明を参照されたい。候補医薬化合物の活性の評価は、一般的には、処理細胞(幹細胞を含む)または分化細胞を候補化合物と組み合わせることと、化合物に帰属可能な細胞の形態、マーカー表現型、または代謝活性の変化を決定することと(未処置細胞または不活性化合物で処理された細胞と比較して)、次いで、化合物の作用を観測された変化と相関付けることと、を含む。
【0296】
スクリーニングは、たとえば、化合物が特定の細胞型に対して薬理学的作用を有するように設計されるので、または他の箇所で作用を有するように設計された化合物が予期せぬ副作用を有することもありうるので、行われうる。可能性のある薬剤間相互作用を検出するために、2種以上の薬剤を組み合わせて(同時にまたは逐次的に細胞と組み合わせることにより)試験することが可能である。いくつかの用途では、化合物は、初期に、可能性のある毒性に関してスクリーニングされる(Castell et al.,pp.375−410 in “In vitro Methods in Pharmaceutical Research,”Academic Press,1997)。細胞傷害性は、第1の例では、細胞の生存率、生存期間、形態、および特定のマーカー、レセプター、または酵素の発現または放出に及ぼす影響により決定可能である。染色体DNAに及ぼす薬剤の影響は、DNAの合成または修復を測定することにより決定可能である。[3H]チミジンまたはBrdU取込みは、とくに、細胞周期の予定外の時期の場合または細胞複製に必要とされるレベルを超える場合、薬剤作用と一致している。望ましくない作用としては、中期スプレッドにより決定される姉妹染色分体交換の異常な割合も挙げられうる。読者は、さらに詳細には、A.Vickers(PP375−410 in“In vitro Methods in Pharmaceutical Research,”Academic Press,1997)を参照されたい。
【0297】
組織再生
本明細書に記載の方法および組成物に従って生成された処理細胞(幹細胞を含む)(およびそれに由来する分化細胞)は、たとえば、組織の再構成または再生などを必要とする個別の患者での療法に使用可能である。細胞は、意図された組織部位に移植して機能的に欠陥のある領域を再構成または再生するように投与可能である。
【0298】
処理細胞(幹細胞を含む)またはそれに由来する分化細胞は、皮膚移植片の成長などの組織工学的処理に使用可能である。人工臓器もしくは人工組織の生物工学またはステントなどのプロテーゼに使用可能である。
【0299】
分化細胞はまた、それを必要とするヒト患者で組織の再構成または再生に可能である。細胞は、意図された組織部位に移植して機能的に欠陥のある領域を再構成または再生するように投与される。
【0300】
たとえば、本明細書に記載の方法および組成物は、処理細胞(幹細胞を含む)の分化をモジュレートするために使用可能である。分化細胞は、皮膚移植片の成長などの組織工学的処理に使用可能である。処理細胞(幹細胞を含む)の分化のモジュレーションは、人工臓器もしくは人工組織の生物工学またはステントなどのプロテーゼに使用可能である。
【0301】
他の例では、神経幹細胞は、治療される疾患に応じて中枢神経系の実質部位または髄腔内部位に直接に移植される。移植は、25,000〜500,000細胞/μLの密度で単細胞懸濁液または小凝集体を用いて行われる(米国特許第5,968,829号明細書)。神経細胞移植の有効性は、McDonald et al.(Nat.Med.5:1410,1999に記載されるように、ラットモデルで急性脊髄損傷に対して評価可能である。移植がうまく行けば、2〜5週間後、病変に移植由来細胞が存在し、星状細胞、乏突起膠細胞、および/またはニューロンに分化し、病変端から脊髄に沿って移行し、ゲート、協調、および体重負荷が改良されるであろう。
【0302】
特定の神経前駆細胞は、神経系の急性または慢性の損傷を治療すべく設計される。たとえば、興奮毒性は、癲癇、発作、虚血、ハンチントン病、パーキンソン病、およびアルツハイマー病をはじめとするさまざまな病態に関与しているとみなされてきた。本明細書に記載の方法に従って作製された特定の分化細胞はまた、ペリツェウス−メルツバッハー病、多発性硬化症、白質ジストロフィー、神経炎、および神経症などの髄鞘形成障害の治療に適合しうる。これらの目的に適合するのは、再ミエリン形成を促進する乏突起膠細胞または乏突起膠細胞前駆体に富んだ細胞培養物である。
【0303】
本方法を用いて調製された肝細胞および肝細胞前駆体は、肝損傷を修復する能力に関して動物モデルで評価可能である。そのような例の1つは、D−ガラクトサミンの腹腔内注射により引き起こされる損傷である(Dabeva et al.,Am.J.Pathol.143:1606,1993)。治療の有効性は、肝細胞マーカーの免疫組織化学的染色、成長組織中に小管構造を生じるかの顕微鏡判定、および肝臓特異的タンパク質の合成を回復する治療能力により決定可能である。肝細胞は、直接投与により、または被験体の肝臓組織が劇症肝不全の後で再生している間、一時的肝機能を提供するバイオアシストデバイスの一部として、療法に使用可能である。
【0304】
心筋細胞は、Graichen et al(2007)に記載されるように、たとえば、特異的p38 MAPキナーゼ阻害剤SB203580によるMAPキナーゼ経路のモジュレーション(odulation)を行って幹細胞の分化を誘導することにより調製可能である。そのような心筋細胞の有効性は、治療しないと左室壁組織の55%が瘢痕組織になる心臓凍結傷害に関して動物モデルで評価可能である(Li et al.,Ann.Thorac.Surg.25 62:654,1996、Sakai et al.,Ann.Thorac.Surg.8:2074,1999,Sakai et al.,J.Thorac.Cardiovasc.Surg.118:715,1999)。治療がうまく行けばは、瘢痕領域が低減し、瘢痕拡大が抑制され、収縮期、拡張期、および発生圧によりを決定される心臓機能が改良されるであろう。心臓傷害はまた、左前下行動脈の遠位部分で塞栓形成コイルを用いてモデリング可能であり(Watanabe et al.,Cell Transplant.7:239,1998)、治療の有効性は、組織学および心臓機能により評価可能である。心筋細胞調製物は、心筋を再生して不十分な心臓機能を治療すべく療法に使用可能である(米国特許第5,919,449号明細書および国際公開第99/03973号パンフレット)。
【0305】

本明細書に記載の方法および組成物に従って生成された処理細胞(幹細胞を含む)およびそれに由来する分化細胞は、癌を治療するために使用可能である。
【0306】
「癌」および「癌性」という用語は、典型的には無制御細胞増殖により特徴付けられる哺乳動物における生理学的状態を意味または記述する。癌の例としては、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、および白血病が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0307】
そのような癌のより具体的な例としては、扁平上皮細胞癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、胃癌、膵臓癌、グリア細胞腫瘍、たとえば膠芽腫および神経繊維腫症、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、肝細胞腫、乳癌、結腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌、唾液腺癌、腎臓癌、腎臓癌、前立腺癌、外陰癌、甲状腺癌、肝臓癌、ならびに種々のタイプの頭頸部癌が可能である。さらなる例は、固形腫瘍癌、たとえば、結腸癌、乳癌、肺癌、および前立腺癌(prostrate cancer)、造血器悪性疾患、たとえば、白血病およびリンパ腫、ホジキン病、再生不良性貧血、皮膚癌、および家族性腺腫性ポリポーシスである。さらなる例としては、脳新生物、結腸直腸新生物、乳房新生物、子宮頸部新生物、眼新生物、肝新生物、肺新生物、膵新生物、卵巣新生物、前立腺新生物、皮膚新生物、精巣新生物、新生物、骨新生物、栄養膜新生物、卵管新生物、直腸新生物、結腸新生物、腎新生物、胃新生物、および副甲状腺新生物が挙げられる。また、乳癌、前立腺癌、膵臓癌、結腸直腸癌、肺癌、悪性黒色腫、白血病、リンパ腫(lympyhoma)、卵巣癌、子宮頸癌、および胆道癌が挙げられる。
【0308】
本明細書に記載の方法および組成物に従って生成され場合により分化させた処理細胞(幹細胞を含む)はまた、抗癌剤(たとえばエンドスタチンおよびアンギオスタチン)または細胞傷害剤または化学療法剤と組み合わせて使用可能である。たとえば、アドリアマイシン、ダウノマイシン、シスプラチナム、エトポシド、タキソール、タキソテールなどなどの(such as such as)薬剤、およびビンクリスチンなどのアルカロイド、およびメトトレキセートなどの抗代謝剤。本明細書で用いられる「細胞傷害剤」という用語は、細胞の機能の阻害もしくは妨害および/または細胞の破壊の誘発を行う物質を意味する。この用語は、放射性同位体(たとえば、I、Y、Pr)、化学療法剤、および毒素(たとえば、細菌、菌類、植物、もしくは動物に由来する酵素活性毒素またはその断片)を包含するものとする。
【0309】
また、この用語は、オンコジーン産物/チロシンキナーゼ阻害剤、たとえば、国際公開第94/22867号パンフレットに開示される二環式アンサマイシン、欧州特許第600832号明細書に開示される1,2−ビス(アリールアミノ)安息香酸誘導体、欧州特許第600831号明細書に開示される6,7−ジアミノフタラジン−1−オン誘導体、欧州特許第516598号明細書に開示される4,5−ビス(アリールアミノ)−フタルイミド誘導体、またはSH2含有基質タンパク質へのチロシンキナーゼの結合を阻害するペプチド(たとえば国際公開第94/07913号パンフレットを参照されたい)を包含する。「化学療法剤」とは、癌の治療に有用な化学化合物のことである。化学療法剤の例としては、アドリアマイシン、ドキソルビシン、5−フルオロウラシル(5−FU)、シトシンアラビノシド(Ara−C)、シクロホスファミド、チオテパ、ブスルファン、シトキシン、タキソール、メトトレキセート、シスプラチン、メルファラン、ビンブラスチン、ブレオマイシン、エトポシド、イホスファミド、マイトマイシンC、ミトキサントロン、ビンクリスチン、VP−16、ビノレルビン、カルボプラチン、テニポシド、ダウノマイシン、カルミノマイシン、アミノプテリン、ダクチノマイシン、マイトマイシン、ニコチンアミド、エスペラミシン(米国特許第4,675,187号明細書を参照されたい)、メルファランおよび他の関連ナイトロジェンマスタード、ならびに内分泌療法剤(たとえば、ジエチルスチルベストロール(DES)、タモキシフェン、LHRH拮抗剤、プロゲスチン、抗プロゲスチンなど)が挙げられる。
【0310】
さらなる態様
次に、本発明のさらなる態様および実施形態を順に以下に明記する。本発明はこれらの態様を包含するとみなされるものとする。
【0311】
誘導多能性幹細胞を効率的に調製する方法を記述する。Tbx3の存在下で誘導多能性幹細胞の効率的な調製を達成する方法を記述する。Tbx3を含む核再プログラミング因子を用いる誘導多能性幹細胞の効率的な調製の方法を記述する。核再プログラミング前の体細胞内に存在するレベルと比較して増大されたTbx3の存在下で核再プログラミング因子を用いる誘導多能性幹細胞の効率的な調製の方法を記述する。核再プログラミング因子がc−Mycを含まない、そのような方法を記述する。
【0312】
核再プログラミング因子およびTbx3を用いて体細胞を核再プログラムすることを含む、誘導多能性幹細胞の調製方法を記述する。この方法では、Tbx3は、Tbx3の不在下で核再プログラミング因子を用いる体細胞の核再プログラミングと比較して体細胞の核再プログラミングの効率を増大させる。
【0313】
Tbx3が胚性幹細胞内で体細胞内よりも高レベルで発現される、そのような方法を記述する。
【0314】
核再プログラミング因子および/またはTbx3をコードする遺伝子が体細胞内に導入される、そのような方法を記述する。
【0315】
当該遺伝子を含むベクターおよび/またはTbx3をコードするベクターが体細胞内に導入される、そのような方法を記述する。
【0316】
当該遺伝子を含むかまたはTbx3をコードするベクターがレトロウイルスベクターである、そのような方法を記述する。
【0317】
当該遺伝子がOctファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子、およびSoxファミリー遺伝子から選択される、そのような方法を記述する。
【0318】
当該遺伝子がOct3/4、Klf4、およびSox2から選択される、そのような方法を記述する。
【0319】
核再プログラミング因子がOct3/4、Klf4、およびSox2を含む、そのような方法を記述する。
【0320】
Tbx3が核酸として体細胞内に導入される、そのような方法を記述する。
【0321】
核再プログラミング因子がc−Mycを含まない、そのような方法を記述する。
【0322】
他の選択肢の実施形態では、核再プログラミング因子は、c−MycなどのMycファミリー遺伝子を含む。
【0323】
核再プログラミング因子がOctファミリー遺伝子メンバー、Soxファミリー遺伝子メンバー、およびKlfファミリー遺伝子メンバーを含む、そのような方法を記述する。
【0324】
核再プログラミング因子がKlfファミリー遺伝子およびOctファミリー遺伝子を含む、そのような方法を記述する。
【0325】
核再プログラミング因子がSoxファミリー遺伝子をさらに含む、そのような方法を記述する。
【0326】
核再プログラミング因子がSoxファミリー遺伝子をさらに含む、そのような方法を記述する。
【0327】
核再プログラミング因子がKLF4およびOCT3/4を含む、そのような方法を記述する。
【0328】
核再プログラミング因子がSoxファミリー遺伝子を除外する、そのような方法を記述する。
【0329】
核再プログラミング因子がMycファミリー遺伝子を除外する、そのような方法を記述する。
【0330】
体細胞が複数の体細胞を含む、そのような方法を記述する。
【0331】
生成される誘導多能性幹細胞の数が追加のTbx3の不在下よりも多くなるように核再プログラミング因子およびTbx3を体細胞に添加することを含む、核再プログラミングの効率の増大方法を記述する。
【0332】
体細胞を再プログラムすることにより誘導される誘導多能性幹細胞を記述する。この場合、再プログラミングは、Tbx3を添加することによりかつ卵、胚、または胚幹(ES)細胞の不在下で行われる。
【0333】
誘導多能性幹細胞がヒト細胞である、そのような誘導多能性幹細胞を記述する。
【0334】
核再プログラミング因子およびTbx3を用いて体細胞を核再プログラムすることを含む誘導多能性幹細胞の調製方法により得られる誘導多能性幹細胞を記述する。この方法では、Tbx3は、Tbx3の不在下で核再プログラミング因子を用いる体細胞の核再プログラミングと比較して体細胞の核再プログラミングの効率を増大させる。
【0335】
生成される誘導多能性幹細胞の数が追加のTbx3の不在下よりも多くなるように核再プログラミング因子およびTbx3を体細胞に添加することを含む核再プログラミングの効率の増大方法により得られる多能性幹細胞を記述する。
【0336】
以上の多能性幹細胞のいずれかの分化の誘導により得られる体細胞を記述する。
【0337】
さらに、核再プログラミング因子およびTbx3を用いて体細胞を核再プログラムすることを含む、体細胞から誘導多能性幹細胞を調製する方法を記述する。この方法では、Tbx3は、Tbx3の不在下で核再プログラミング因子を用いる体細胞の核再プログラミングと比較して体細胞の核再プログラミングの効率を増大させ、かつ核再プログラミング因子は、少なくとも(i)Octファミリー遺伝子、(ii)Octファミリー遺伝子とKlfファミリー遺伝子、(iii)Octファミリー遺伝子とNanog遺伝子、または(iv)Octファミリー遺伝子とKlfファミリー遺伝子とMycファミリー遺伝子を含むが、Soxファミリー遺伝子を含まない。
【0338】
そのほかにさらに、生成される誘導多能性幹細胞の数がTbx3の不在下よりも多くなるようにTbx3の存在下で体細胞を核再プログラミング因子による核再プログラミングに付すことを含む、体細胞から誘導多能性幹細胞を誘導するための核再プログラミングの効率の増大方法を記述する。この方法では、Tbx3は、Tbx3の不在下で核再プログラミング因子を用いる体細胞の核再プログラミングと比較して体細胞の核再プログラミングの効率を増大させ、かつ核再プログラミング因子は、少なくとも(i)Octファミリー遺伝子、(ii)Octファミリー遺伝子とKlfファミリー遺伝子、(iii)Octファミリー遺伝子とNanog遺伝子、または(iv)Octファミリー遺伝子とKlfファミリー遺伝子とMycファミリー遺伝子を含むが、Soxファミリー遺伝子を含まない。
【0339】
Tbx3が胚性幹細胞内で体細胞内よりも高レベルの発現される、そのような方法のそれぞれを記述する。
【0340】
Octファミリー遺伝子がOct3/4遺伝子であるか、Klfファミリー遺伝子がKlf4遺伝子であるか、Mycファミリー遺伝子がc−Myc遺伝子であるか、またはSoxファミリー遺伝子がSox2遺伝子である、そのような方法のそれぞれについて記述する。
【0341】
核再プログラミング因子が(i)Oct3/4遺伝子、(ii)Oct3/4遺伝子とKlf4遺伝子との組合せ、(iii)Oct3/4遺伝子とNonog遺伝子との組合せ、(iv)Oct3/4遺伝子とKlf4遺伝子とc−Myc遺伝子との組合せである、そのよう方法のそれぞれを記述する。
【0342】
核再プログラミング因子をコードするDNAを含むベクターの形態で核再プログラミング因子が体細胞内に導入される、そのような方法のそれぞれについて記述する。
【0343】
Tbx3をコードするDNAを含むベクターの形態でTbx3(Tbx3is)が体細胞内に導入される、そのような方法のそれぞれについて記述する。
【0344】
体細胞は、ヒト体細胞を含みうる。
【実施例】
【0345】
実施例1.材料および方法−細胞培養およびトランスフェクション
すべての細胞培養物を37℃にて、5%CO2で維持した。マウスR1およびD3 ESCの培養については以前に記載した25
【0346】
HEK293T細胞を、10%FBSおよびペニシリン/ストレプトマイシンで補足されたDMEM中に維持した。
【0347】
マウスESCおよびHEK293細胞へのプラスミドのトランスフェクションは、Lipofectamine 2000(Invitrogen)を用いて行った。
【0348】
レトロウイルスの産生に使用したPlat−Eパッケージング細胞(Cell Biolabs,INC)は、製造業者の説明書に従って維持した。
【0349】
実施例2.材料および方法−プラスミド構築、ウイルスパッケージングおよび感染。
Tbx3のコード配列は、RT−PCRによりマウスESCから増幅してpLenti6−UBC(Invitrogen)およびpMXsベクター中にクローニングし、pMX中のOct4、Sox2、Klf4、c−Mycは、Addgeneから入手し、Esrrbは、Fengら7から入手した。
【0350】
レトロウイルスおよびレンチウイルスは、以前に記載したとおり生成した1,26
【0351】
iPS細胞を生成するために、8ng・ml-1のポリブレンを含有する10%FBS DMEM培地で10cm2ディッシュ中にプレーティングされた5×104個のMEFに、さまざまな組合せの因子をコードする等量のウイルスを適用した。24時間後、不活性化されたフィーダー細胞および新しい培地を添加し、次いで、最大21日間まで培養物を維持した。RNA干渉(RNAi)の設計およびshRNA合成用プラスミドの構築のために、Reynoldsら27のアルゴリズムに基づいて19塩基対遺伝子特異的領域を設計した。
【0352】
オリゴヌクレオチドをpSuper.puro(Oligoengine)中にクローニングした。特異性を保証するためにすべての配列をBLASTにより解析した。
【0353】
実施例3.材料および方法−細胞融合
PEG媒介融合のために、各型の細胞(約1×106個)を無血清DMEM中に混合し、ペレット化し、上清を除去した。ペレットを300μlの50%w/vPEG1500中に再懸濁し、ときどき叩いて混合しながら3分間放置した。
【0354】
次いで、2mlの培地を添加し、細胞を遠心沈降し、上清を廃棄した。ペレットをESC培地中に再懸濁し、10cm2ディッシュ上にプレーティングした。ピューロマイシン(1μg・ml-1)およびネオマイシン(300mg・ml-1)を24時間後に添加した。
【0355】
実施例4.材料および方法−遺伝子発現マイクロアレイおよび解析
細胞を氷冷PBS中で2回濯いだ。Trizol(Invitrogen)を用いて全RNAを抽出し、RNeasyキット(Qiagen)を用いてカラム精製した。
【0356】
製造業者の説明書に従ってIllumina MouseRef−8v1.1 BeadArraysを用いてコード遺伝子の発現プロファイリングを行った。全チップデータをパブリックアクセスのためにGEOリポジトリー受託番号(アップデート中)で寄託する。
【0357】
すべてのデータをバックグラウンド強度から引き算し、相互相関法28を用いてチップ全体にわたり規格化した。規格化されたデータを最初にlog2変換し、次いで、2つの群の中央値強度の平均値から引き算した(すなわち、Nanog OEと対照ベクター、Tcf3 RNAiと対照RNAi)。
【0358】
クラスタリング前、データをさらにNanogまたはTcf3の直接標的に基づいて並び替え、続いて、倍率変化の降順に配置した。平均連結法による階層的クラスタリングを用いてクラスタリングツリーを生成した。
【0359】
実施例5.材料および方法−マウス分子遺伝学
Oct4−GFPトランスジェニックマウス(Jackson’s Lab,stock no.004654)をE13.5でMEF単離に使用した。
【0360】
アルビノ胚を2細胞期で単離し、4〜8細胞期まで成熟させ、蛍光顕微鏡(Olympus)下でピエゾのマイクロマニピュレーター(PMAS−CT150、PMM)を用いてiPS細胞をマイクロインジェクトし、キメラを生成した。注入された胚をKSOM培地(Specialty Media)で胚盤胞期まで培養し、次いで、E2.5偽妊娠F1(CBA×C57BL/6J)雌の子宮角に移した。生殖腺中のGFP発現の解析のためにキメラ胚をE13.5で採取した。
【0361】
実施例6.材料および方法−四倍体相補法
電気細胞マニピュレーター(ECM 2001,BTX Har ard Apparatus)による2細胞融合を用いて四倍体(4n)胚を生成し、iPS細胞との凝集前に4〜8細胞期までKSOM中でインキュベートした。酸性Tyrode液への短時間暴露により四倍体4〜8細胞期胚の透明帯を除去した。3個の四倍体胚および約40個のiPS細胞を単一ウェル中で凝集させ、KSOM培地中で24時間インキュベートし、桑実胚または胚盤胞を形成した16、17
【0362】
約10〜14個の胚をCBAB6F1偽妊娠マウスの子宮(胚盤胞の場合)または卵管(桑実胚の場合)に移した。
【0363】
実施例7.材料および方法−ESCの分化
LIFが含まれずかつall−transレチノイン酸(RA;100nM)が添加されたESC培地中でマウスESCを成長させ、0.1%ゼラチン被覆プレート上に維持し、24時間ごとに培養培地を補充した。ESCのin vivo分化はSCIDマウスで行った。
【0364】
実施例8.材料および方法−SCIDマウスでの腫瘍原性
食料および水を適宜与えて12/12時間の明/暗スケジュールで、温度制御室内の無菌条件下で6〜8週齢の雌SCIDマウスを飼育した。
【0365】
動物およびその世話に関与する手順はすべて、国内規則および国際規制に従った。
【0366】
各条件の5×106個の細胞をマウスの腰背部に皮下注射した。各条件につき5匹のマウスを使用した。3週間でマウスを安楽死させ、腫瘍を取り出した。
【0367】
免疫組織化学検査のために、厚さ4μmのパラフィン包埋腫瘍組織切片をヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。
【0368】
実施例9.材料および方法−タンパク質抽出およびウェスタンブロッティング
タンパク質抽出物を取得するために、細胞を培養ディッシュから冷却PBS中に掻き集め、4℃で450×gで4分間遠心分離し、再度PBS中で洗浄し、そして新たに添加されたプロテアーゼ阻害剤(0.5mMフェニルメチルスルホニルフルオライド、10μg・ml-1ロイペプチン、2μg・ml-1アプロトニン)を含有する氷冷溶解緩衝液中で20分間インキュベートした。
【0369】
4℃で12,100×gで10分間遠心分離することにより溶解物を清浄化し、上清を液体窒素中でスナップ凍結した。Bradford染料(Bio−Rad)を用いてタンパク質濃度を決定した。NuPAgeゲル(Invitrogen)上でSDS−PAGEにより10μgの全タンパク質を分離し、Hybond−P PVDF膜(GE Healthcare)に移した。
【0370】
膜を特異的抗体でプローブし、HRPコンジュゲート化抗体およびECL−Plus(Amersham Bioscience)により抗体−タンパク質複合体を検出した。
【0371】
実施例10.材料および方法−RNAiアッセイ
先述したようにshRNA構築物を設計した(Jiang,J.et al.A core Klf circuitry regulates self−renewal of embryonic stem cells.Nat Cell Biol 10,353−60(2008))。Tbx3用のshRNA構築物は、19塩基対(bp)転写物特異的領域を標的とするように設計した。shRNAが標的とする配列は、以下のとおりである。
GAGCCAACGATATCCTGAA
【0372】
対照shRNA配列は、ルシフェラーゼ遺伝子を標的とするGATGAAATGGGTAAGTACAである。これらのオリゴヌクレオチドをpSuperpuro(BglIIおよびHindIII部位;Oligoengine)中にクローニングした。pSuperpuroプラスミドは、選択性マーカーとしてピューロマイシを発現する。製造業者の説明書に従ってLipofectamine 2000(Invitrogen)を用いてshRNAプラスミドのトランスフェクションを行った。
【0373】
簡潔に述べると、2μgのプラスミドを60mmプレート上でES細胞中にトランスフェクトした。1.0μg/mlでトランスフェクトした1日後にピューロマイシ(Sigma)選択を導入し、3日間維持してから採取前した。
【0374】
実施例11.材料および方法−ChIPおよびChIP−seqアッセイ
ChIPアッセイは、先述したように行った(Jiang,J.et al.A core Klf circuitry regulates self−renewal of embryonic stem cells.Nat Cell Biol 10,353−60(2008))。
【0375】
簡潔に述べると、1%(w/v)ホルムアルデヒドを用いて細胞を室温で10分間架橋し、次いで、125mMグリシンの添加によりホルムアルデヒドを不活性化した。500bpの平均サイズを有するDNA断片を含有するクロマチン抽出物を抗Tbx3抗体(sc−31657;Santa Cruz Biotechnology)により免疫沈降させた。
【0376】
次いで、ChIP富化DNAを解架橋し、ABI PRISM 7900配列検出システムおよびSYBRグリーンマスターミックスを用いてリアルタイムPCRにより解析した。ChIP−seqアッセイでは、T4 DNAポリメラーゼおよびキナーゼを用いて10ngのChIP DNAを末端平滑化した。A塩基を平滑化DNA断片に付加し、続いて、Qiaquickカラムで精製した。SolexaアダプターをChIP DNA断片にライゲートし、15サイクルのPCR増幅により富化した。
【0377】
150〜300bpサイズ画分を選択的にゲルから切り出してQiagenゲル抽出キットにより溶出させた。抽出されたDNAをピコグリーンアッセイにより定量し、製造業者の説明書に従ってSolexa配列決定に付した。MACSプログラム4によりマウス参照ゲノムに対するTbx3結合ピークコーリングを行った。
【0378】
ChIP−seqデータを用いてTbx3結合部位と他のTFの部位との共局在化解析を行った(Chen,X.et al.Integration of external signaling pathways with the core transcriptional network in embryonic stem cells.Cell 133,1106−17(2008))。ChIP−seqピーク間の200bp距離を用いてTF共起の事象をカウントした。
【0379】
実施例12.材料および方法−サザンハイブリダイゼーション
iPS細胞クローンから単離されたゲノムDNAまたはESC(WT)を制限酵素で消化し、アガロースゲル上で分離し、ナイロン膜に移し、Oct4、Sox2 Klf4またはTbx3に対するcDNAプローブとハイブリダイズした。Oct4:SalI+EcoRI;フォワードプライマー−AAAGCAACTCAGAGGGAACC;リバースプライマー−GGCAGAGGAAAGGATACAGC
【0380】
Sox2:BamHI+EcoRI;フォワードプライマー−AGAACCCCAAGATGCACAAC;リバースプライマー−AGTGGGAGGAAGAGGTAACCA Klf4:BamHI+HinDIII;フォワードプライマー−TTTGTGCTGAAGGCGTCTCT;リバースプライマー−TGTGTGTTTGCGGTAGTGC
【0381】
Tbx3:ClaI+BamHI;フォワードプライマー−AGAGTGTTTGAGGAGAGGCA;リバースプライマー−TAGGGGTAAGGAAACAGGCT
【0382】
実施例13.結果−Tcf3の低減は体細胞ハイブリッド細胞の融合媒介再プログラミングを増強する
Tcf3の低減が体細胞ハイブリッド細胞の融合媒介再プログラミングを増強すること実証するために、ポリエチレングリコール(PEG)を用いて、ネオマイシン耐性(NeoR)であるNanog過剰発現(OE)ESCまたはTcf3 RNAi ESCと、ピューロマイシン耐性(PuroR)である初代MEFとの間の融合ハイブリッドを生成した。
【0383】
融合後、プレーティングされた細胞をネオマイシンおよびピューロマイシンを用いて二重選択した(図1A)。これらの条件下では、再プログラムESC/MEFハイブリッドのみが生存可能である。
【0384】
前回の観測結果に一致して、Nanog OE ESCは、対照と比較して再プログラミング効率の増強を示した(図1BおよびC)。Tcf3欠損ESC株を用いることにより、同様にハイブリッドクローンの数の顕著な増加が見られた(図1BおよびC)。核型分析により、これらは四倍体であることが確認された(図5)。
【0385】
これらのハイブリッドが、白血病抑制因子(LIF)の欠如およびNanogプロモーターのエピジェネティック再プログラミングに対するそれらの応答を含めて、親改変ESC株に類似した性質を有することを示した(図6および図7)。また、再プログラミング頻度の改良が細胞融合事象の増加に帰属されうる可能性を排除した13(図8)。
【0386】
実施例14.
結果−Tbx3はNanogおよびTcf3の共通下流メディエーターである
共通下流メディエーターを示唆しうるNanog OEおよびTbx3 RNAiのESCで増強された遺伝子のレパートリーを調べた。
【0387】
これらの2つ細胞株の交差遺伝子発現プロファイルから、両方の条件でアップレギュレートされたDazl、Fzd10、Hal、4930502E18Rik、およびErfなどの1握りの遺伝子が明らかにされた。注目すべき点として、多能性の持続の役割を有することが報告された15ESC関連転写因子Tbx3は、強く増強された(図1Dおよび図9A)。
【0388】
ESCでのTbx3のRNAiノックダウンは、多能性関連遺伝子の付随的ダウンレギュレーションを伴って顕著な分化を誘導した(図1E)、Tbx3はまた、NanogおよびTcf3の両方により直接結合されている(図1F)。再プログラムESC/MEFハイブリッドでは、Tbx3レベルは高度に増強された状態を維持した(図9A)。
【0389】
細胞融合媒介再プログラミングにおけるTbx3の役割を試験するために、安定なNeoR Tbx3過剰発現ESC株を生成し(図10)、続いて、MEFとの融合を行った。実際に、対照(図1BおよびC)と比較してTbx3 OE ESCではハイブリッドの数は増加した。この場合も、機序として細胞融合の増加を排除した(図9)。
【0390】
実施例15.結果−Tbx3はiPS細胞の再プログラミング効率を改良する
OSKCと共にOct4−GFPトランスジーンを有するMEFのレトロウイルス感染は、5×104個の出発細胞あたり約300個のESC様コロニーを誘導した(図2A)。しかしながら、これらのわずか約10%がトランスジーンの活性化を示したにすぎなかった。
【0391】
Tbx3の追加(OSKCT)では、GFP+コロニー数の頻度は増加しなかった(図2A)。3つの因子(OSK)では、ESC様コロニーの全数は、劇的に減少したが、偽陽性iPS細胞もまた有意に排除された。OSKコロニーの74%はGFPを発現した(図2A)。
【0392】
Tbx3の追加(OSKT)では、OSK(約26個)と比較して全コロニー数が改良され(平均で約38個)、GFP+コロニーのパーセントもまた、有意に89%に増加した(図2A)。
【0393】
さまざまな因子の組合せを用いて得られたiPS細胞間に他の定性的な差が観測された。OSKCを用いて得られたiPSコロニーは、散在し、トランスフォームされた細胞とGFP発現を示さなかった部分的に再プログラムされた細胞とを識別するのは困難であった。OSKおよびOSKTのiPS細胞コロニーは、形態学的に類似し、個別のコロニー内で均一なGFP発現を示した(図2B)。
【0394】
しかしながら、Oct4の活性化は、OSKおよびOSKCでは典型的には感染後14日間を必要としたが、OSKTの使用では、9〜10日間を要したことから、Tbx3が再プログラミングプロセスを加速することが示唆された(図2C)。GFP+コロニーからの安定なiPS細胞株の単離効率は、OSKおよびOSKTの形質導入間では類似していたが、OSKCおよびOSKCTのほぼ2倍であった(図11)。得られたすべてのiPS細胞株で、ゲノムDNAに関してPCR解析を行い、それぞれの形質導入された遺伝子プラスミドの組込みを確認した(図2D)。
【0395】
OSKTに由来するiPS細胞の分子的特徴付けから、これらは、アルカリホスファターゼ陽性であり、かつNanog、Sox2、およびSSEA1を発現することを確認した(図2E)。ESCに類似して、それらはまた、SCIDマウス中に異種移植した場合、多数の分化細胞型で構成された奇形腫を形成する(図12)。
【0396】
実施例16.結果−網羅的遺伝子発現プロファイル
次いで、さまざまな因子の組合せを用いて生成されたiPS細胞間の網羅的遺伝子発現プロファイルの差を調べようと試みた。
【0397】
取扱い技術から生じる可能性のあるいかなる変動をも排除するために、また、さまざまな組合せを用いて生成されたiPS細胞株に固有の性質の再現性をさらに保証するために、マイクロアレイプロファイリングのために個別の時間点で行われた2回以上の独立した形質導入実験からクローンを単離した。
【0398】
階層的クラスタリングから、OS+Esrrb(OSE)を用いて生成された最近報告されたiPS細胞7は、0.92の相関係数(R2)で野生型R1およびD3 ESCと最も異なっていることが判明した(図3A)。
【0399】
OSKおよびOSKT iPS細胞は両方とも、ESCにより近い類似性を有していたが、互いと識別不能であった(R2=0.94)。そのため、網羅的発現プロファイリングは、これらのiPS細胞間の差の検出に関して十分な感度ではなかった。しかしながら、特異的遺伝子レベル変化を詳しく調べたところ、主要な差が明らかになった(図3B、図13)。
【0400】
OSK、OSKT iPSおよびES細胞の間で多能性関連遺伝子レベルを比較した。Sall4、Tcf3、Sox2、Zfx、Lin28、Utf1、およびZic3などのこれらの遺伝子の大部分は、それらのレベルが類似していたため、OSKT iPS細胞とOSK iPS細胞との間で非識別性であった。驚くべきことに、小さいサブセットの識別的特徴により、OSKT iPS細胞とOSK iPS細胞とを特定することが可能であった。
【0401】
OSKT iPS細胞中のOct4、Nanog、Gdf3、Dppa4、およびTbx3のレベルは、ESCと同等であったが、OSK iPS細胞では有意に低減された。このことから、外因性Tbx3は、OSK単独では完全には達成できない多能性の誘導に決定的に重要な特定のESC因子の適切なレベルの再構築を支援するのに決定的に重要であることが示唆される。
【0402】
実施例17.結果−Tbx3はiPS細胞の質を改良する
次いで、OSKT iPS細胞がOSKおよびOSEのiPS細胞よりも高い質をもつかを調べた(図18Aおよび図18B)。
【0403】
【表2】

【0404】
各コロニー内でOct4−GFPの均一な活性化を示した各因子の組合せから多数のiPS細胞株を次のとおり選択した。OSKT #1、2、4、6、11、13、14、16〜21;OSK #1〜3、12、13、16、17〜21;OSE #1、2。
【0405】
これらのiPS細胞株は、異なる時間で行われた合計4回の独立した形質導入実験から誘導されたものであり、したがって、個別のクローンの確率的挙動から生じうるクローン選択のいかなる偏りをも排除されることに注目すべきである。次いで、誘導PS細胞を4〜8細胞胚に注入し、in vitroで胚盤胞まで培養した(図4A)。3つのiPS細胞株間で成熟効率(約95%)に差はなかった(データは示されていない)。
【0406】
代理雌マウスに移植されたすべての胚盤胞は、初期に内部細胞塊(ICM)へのGFP+細胞の寄与を示し(図4A)、生存キメラは3つの組合せから得られた。毛色により評価されるように、すべてのOSKTおよびOSK iPSキメラは、iPS細胞寄与を意味するさまざまな密度の黒毛を備えた被毛を示したが、OSE iPSキメラは、明らかに少ない黒毛を有していたことから(図4D、上側パネル)、OSE iPS細胞はキメラ現象に十分に寄与しない傾向がある。
【0407】
更に興味深いことに、生殖組織に定着するそれらの能力では、OSKT iPS細胞とOSK iPS細胞との間に明らかな差を識別しうる。E13.5で、はF1キメラ胚から生殖腺(精巣または卵巣)を得た。OSKT iPS胚からの生殖腺の34.9%は、GFP発現を有してiPS細胞の寄与を示し、これとはきわめて対照的に、OSK iPSからは23.6%およびOSE iPS胚からは12.5%であった(図4B、図15Aおよび図15B、p<0.01)。
【0408】
これらの生殖腺内のGFP分布に基づくさらなる評価から、OSKT iPS細胞による広範な寄与が明らかにされ、キメラ生殖腺の57.5%は>90%のGFP+細胞を含有し、これとは対照的に、OSK iPS胚からは26.2%であった(図4C、p<0.01)。このことから、OSKT iPS細胞は、生殖組織への定着により効果的であり、OSKおよびOSEのiPS細胞は、それほど効率的でないことが示唆される。
【0409】
iPS細胞クローンの質および野生型ESCに対するそれらの類似性を実証する最も厳しい基準の1つを用いて、生殖系列伝播のそれらの頻度および生存可能なF2子孫の生成を試験した。この場合もまた、クローン選択におけるいかなるの確率的なクローン変動および偏りをも排除するために、各組合せからいくつかのiPS株を使用した。OSEを用いて生成された誘導PS細胞は、生殖系列伝播に関して非常に不十分な能力を有していた(図4D、下側パネル、および図4E)。
【0410】
アルビノマウスと交配された2つのiPS細胞株からの5つのキメラを用いて、合計7匹の同腹仔を得た。ただ1匹の同腹仔は、10匹の子孫をうち、iPS細胞誘導黒毛を有する2匹を含んでいた。OSKでは、5つのiPS細胞株からの9つのキメラを交配に使用した。13匹の同腹仔が生成され、そのうち2匹だけは100%黒色の子孫であり、他の4匹は、平均で約33%であった。注目すべき点として、6つのiPS細胞株から得られた9つのOSKTキメラでは、14匹の同腹仔のうち9匹は100%黒色の子孫であり、3匹はそれぞれ41%、50%および28%で、2匹だけゼロであった(図4E、p<0.005)。
【0411】
先に報告したように、不適切なレトロウイルス性サイレンシングがiPS細胞の生成効率およびそれらの得られる性質を変化させる可能性がある。また、体細胞ゲノム中へのレトロウイルス組込みの頻度が、DNA損傷の結果として、iPS細胞の挙動に影響する可能性があることも示唆されている。
【0412】
これらの可能性を排除するために、試験した因子のすべての組合せについてiPS細胞クローンでレトロウイルスプラスミドからの外因性発現がサイレンシングされることを確認した(図16)。サザンブロット解析から、OSKまたはOSKT iPS細胞中へのさまざまなOSK因子のレトロウイルス組込みが同等であることが示された(図17)。
【0413】
重要なこととして、外因性Tbx3の追加の組込みでさえも、iPS細胞は、一貫してより高い質であり、したがって、それらの性質に対するDNA損傷の影響は除外された。
【0414】
実施例18.結果−OSKT由来iPS細胞は生存可能なマウスを生成可能である
次いで、より高い質のOSKT由来iPS細胞を用いれば、四倍体相補法を介して全部が工学操作された細胞で構成された生存可能なマウスを生成しうると推測した16,17
【0415】
このことは、以前には示されていなかった。おそらく、標準的な因子の組合せでは高い質のiPS細胞を生成するのが難しいからであろう。試験した2つの細胞株で、OSKT #14 iPS細胞は、子宮退縮が疑われて帝王切開を行った場合、E19まで2匹の胎仔の胚の成長を支持した。
【0416】
おそらく、この例では生産(live births)が期待されうると思われる(図4F)。OSKT #16では、4匹の代理レシピエントに移された50個の凝集胚からの10匹の生産(20%)を得ることに成功した。これらのうち、8匹は1日目まで、5匹は2日目まで、3匹は1週目まで生存し、2匹は2ヶ月を過ぎて生存して生育を続けた。
【0417】
実施例19.結果−Tbx3のレギュレート標的
Tbx3がiPS細胞の質の改良にどのように寄与するかをよりよく理解するために、ESC中のTbx3の直接的レギュレート標的を明らかにすべくSolexa ChIP配列決定を行った。
【0418】
注目すべき点として、以前にマップされたESC因子を用いたTbx3の階層的クラスタリングにより18、典型的な多能性関連転写因子Oct4、Sox2、Nanog、およびSmad1では多数の共通結合部位を共有することが明らかにされた(図4G)。
【0419】
Tbx3はまた、ESC因子Oct4、Sox2、Sall4、Lefty1/2、Zfp42を標的とし、さらには因子Klf2/4/5およびn/c−Mycを再プログラムすることも見いだされている(図18Aと図18B)。この知見は、NanogおよびTcf3によりレギュレートされるTbx3に焦点をあてた本最初の理由と一致し、LIF非依存性ESC増殖を支持し、Tbx3またはKlf4過剰発現がLIF非依存性を付与するという最近の証拠19によりさらに支持される。
【0420】
実施例20.結果−Tbx3によるヒトiPSの誘導
以上の実施例に記載のマウス細胞に関する実験をヒト細胞を用いて繰り返した。
【0421】
ヒト系では、得られたデータから、OSKCとTbx3との組合せ(OSKCT)は、OSKCと比較した場合、iPS細胞を生成するより高い効率をもたらすことが示される。
【0422】
さらにまた、ヒトiPS細胞のいくつかは、典型的な密でドーム状のコロニーを形成してマウスES細胞によりよく似て見える。
【0423】
最後に、ヒトiPSクローンのいくつかは、FGFのないときでさえも、FCSおよびLIFを備えたES培地に応答して成長増殖する。ヒトES細胞増殖に通常使用される増殖因子はFGFである。従来のヒトES細胞はLIFに応答できない。
【0424】
したがって、Tbx3は、マウスES細胞に類似して多能性の可能性を有する新しい型のヒト多能性細胞を生成する主要因子であるように思われる。マウスES細胞が増殖、培養、および維持がはるかに容易であるので、これは、従来のヒトESまたはヒトiPS細胞よりも優れた顕著な利点を提供するであろう。マウスES細胞は、胚盤葉上層期から誘導されると考えられるヒトES細胞と比較して、より原始胚段階から誘導されると考えられる。
【0425】
したがって、Tbx3は、生殖細胞を含むさまざまな系列を発生させるための、より胚性の、より良好な、かつより汎用性のあるヒトiPS細胞を生成するのに有用でありうる。
【0426】
実施例21.考察
以上をまとめると、本試験は、高効率で生殖系列伝播が可能な高い質のiPS細胞を生成するうえでOSKTの組合せの注目に値する成功が注目すべき点である。
【0427】
従来の試験では、iPS細胞多能性の指標として形態学的評価および網羅的遺伝子発現解析を主に利用した。しかしながら、本発明では、in vitro解析では、真にESC様の性質を有する真正iPS細胞と生殖系列分化能を有しない不十分な質のiPS細胞とを区別するには十分でないことを実証した。OSKT iPS細胞がまた四倍体相補法により高頻度で生産マウスを生成可能であるという本実証は、Tbx3の定性的効果を示す本データをさらに強化する。
【0428】
改良された遺伝子的および化学的方法の出現、およびiPS細胞を誘導する最小限の再プログラミング因子の使用に対する重要性を考慮して、OSKT由来iPS細胞により例示されるいくつかのベンチマークが、iPS細胞の質および生物学的性質を評価するために利用されるべきであることを提案する(図19)。
【0429】
iPS細胞の質を大幅に改良するTbx3の特定の役割についての機序的説明をするには、より詳細な解明が必要である。Tbx3は、ヒト疾患に対して広範な発生上の役割および意味を有する高度に保存されたT−box遺伝子のファミリーに属する20-22。Tbx3はまた、その欠損が分化を引き起こしてESCの多能性を維持することが示唆されている15,23。それは、胚盤胞のICMに局在化される着床前の胚発生時に発現される最初期のT−boxメンバーである24。これらのことと本ChIP−seqデータとを合わせると、Tbx3は、再プログラミングの開始時のESC系の効果的な再確立およびそれに続くその維持に重要であることが示唆される。
【0430】
再プログラミングの開始時の外因性Tbx3の存在は、多能、及びOSKにより最適レベルに再活性化されるさらなる他の未確認の再プログラミング因子の適正量を保証して、真正ESC様iPS細胞のより高い頻度での出現をもたらしうる。したがって、確率の増大する段階的な方式で体細胞状態からの多能性の再確立が達成されるモデルを提案する(図19)。
【0431】
さまざまな因子の組合せの使用により、多能性の発展的「ランドマーク」を基軸としてかなり異なる発生能を有するiPS集団およびクローンが生成される。再プログラミング因子の特定の組合せにTbx3を追加すると、再プログラム細胞の全集団内でESCと等価なまたはそれに最も近い多能性状態を達成しうるiPS細胞の確率頻度が増加する。
【0432】
参考文献



【0433】
出願および特許のそれぞれの審査手続過程中を含め、本文書中に挙げられた出願および特許のそれぞれ、ならびに以上の出願および特許のそれぞれで引用または参照されたそれぞれの文書(「出願で引用された文書」)、さらには出願および特許のそれぞれでならびに出願で引用された文書のいずれかに引用されたまたは挙げられた任意の製品に対する任意の製造業者の使用説明書またはカタログは、参照により本書面をもって本明細書に組み入れられるものとされる。さらにまた、本文中に引用されたすべての文書、および本文中に引用された文書中に引用または参照されたすべての文書、ならびに本文中に引用されたまたは挙げられた任意の製品に対する任意の製造業者の使用説明書またはカタログは、参照により本書面をもって本明細書に組み入れられるものとされる。
【0434】
本発明に係る記載の方法およびシステムの種々の修正形態および変更形態は、本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく当業者に自明なものであろう。特定の好ましい実施形態に関連させて本発明について説明してきたが、当然のことながら、特許請求された本発明は、そのような特定の実施形態になんら限定されるものではない。実際上、本発明を実施するための記載の形態の種々の修正形態のうち分子生物学または関連分野の当業者に自明な修正形態は、特許請求の範囲内に含まれるものとみなされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体細胞などの細胞で多能性を誘導または増強する方法におけるTbx3(GenBank受託番号:NM 005996.3、NP 005987.3、NM 016569.3、NP 057653.3)の使用。
【請求項2】
細胞を再プログラムする方法であって、前記細胞内でのTbx3(GenBank受託番号:NM 005996.3、NP 005987.3、NM 016569.3、NP 057653.3)の発現および/または活性をアップレギュレートするなどモジュレートすることを含む、方法。
【請求項3】
前記細胞が幹細胞などの多能性細胞になる、請求項1または2に記載の方法または使用。
【請求項4】
体細胞などの細胞が多能性細胞の1つ以上の特徴を示すようにする方法であって、前記細胞内でのTbx3(GenBank受託番号:NM 005996.3、NP 005987.3、NM 016569.3、NP 057653.3)の発現および/または活性をモジュレートすることを含む、方法。
【請求項5】
前記方法がさらに、前記細胞内でのOct4、Sox2、およびKlf4の1つ以上、組合せ、またはすべての発現および/または活性を、場合により前記細胞内へのc−Mycの導入を行わずに、モジュレートすることを含む、請求項1、2、または3に記載の使用または方法。
【請求項6】
前記細胞が、多能性細胞の1つ以上の特徴、たとえば、Oct4、Nanog、Gdf3、Dppa4、およびTbx3(GenBank受託番号:NM 005996.3、NP 005987.3、NM 016569.3、NP 057653.3)などの1つ以上の多能性マーカーの発現を示す、請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用または方法。
【請求項7】
前記細胞が、たとえば、異なる遺伝的背景の胚に導入された場合、キメラ現象に寄与しうる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の使用または方法。
【請求項8】
前記細胞が、生殖腺への生殖細胞寄与などにより生殖組織に定着しうる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の使用または方法。
【請求項9】
前記細胞が、高い生殖系列分化能を有して、または高い生殖系列伝播頻度で、生殖組織に定着する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記細胞が、四倍体胚盤胞相補法を介して正期生産の子孫を生成しうる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の使用または方法。
【請求項11】
細胞において多能性を誘導する方法、細胞を再プログラムする方法、または細胞が多能性細胞の1つ以上の特徴を示すようにする方法で使用するためのTbx3(GenBank受託番号:NM 005996.3、NP 005987.3、NM 016569.3、NP 057653.3)であって、前記細胞がたとえば体細胞を含む。
【請求項12】
前記細胞が、マウス細胞またはヒト細胞などの哺乳動物細胞を含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法または使用。
【請求項13】
幹細胞株を取得する方法であって、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法を実施すること、それから細胞株を得ることを含む方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法により取得可能な、誘導再プログラム多能性細胞もしくは誘導再プログラム多能性幹細胞または細胞株。
【請求項15】
細胞の分化を増強しうる分子を特定する方法であって、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法を候補分子の存在下で実施すること、および前記候補分子の不在下と比較して、前記細胞による多能性の誘導の低減、前記細胞の再プログラミングの低減または前記細胞による多能性細胞の1つ以上の特徴の発現の低減を検出することを含む方法。
【請求項16】
細胞の分化を増強しうる分子を特定する方法であって、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法により誘導再プログラム多能性細胞または幹細胞を取得すること、前記細胞を候補分子に暴露すること、および前記細胞の分化を検出することを含む方法。
【請求項17】
細胞の多能性を増強または誘導しうる分子を特定する方法であって、請求項1〜10または12のいずれか一項に記載の方法を候補分子の存在下で実施すること、前記候補分子の不在下と比較して、前記細胞による多能性の誘導の増大、細胞の再プログラミングの増大、または前記細胞による多能性細胞の1つ以上の特徴の発現の増大を検出すること、を含む前記方法。
【請求項18】
添付の図面の図1〜19を参照して本明細書に記載されたものおよびそれらの図に示されたものと実質的に同様である、使用、方法、細胞または細胞株。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図1E】
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【図1F】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図4F】
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【図4G】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15A】
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【図15B】
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【図16】
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【図17】
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【図18A】
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【図18B】
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【図19】
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【公表番号】特表2013−511274(P2013−511274A)
【公表日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−539856(P2012−539856)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際出願番号】PCT/SG2010/000437
【国際公開番号】WO2011/062559
【国際公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(503231882)エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ (179)
【Fターム(参考)】