説明

多色X線発生装置

【課題】 複数(2種または3種以上)の単色硬X線を、血管が動いていないとみなせる程度の短い時間間隔で順次切換えて発生することができ、かつ血管造影等に適用可能な強力なX線を発生させることができる多色X線発生装置を提供する。
【解決手段】 電子ビームを加速してパルス電子ビーム1を発生し所定の直線軌道2を通過させる電子ビーム発生装置10と、波長の異なる複数のパルスレーザー光3a,3bを順次発生する複合レーザー発生装置20と、複数のパルスレーザー光を直線軌道2上にパルス電子ビーム1に対向して導入するレーザー光導入装置30とを備え、複数のパルスレーザー光3a,3bを直線軌道2上でパルス電子ビーム1に順次正面衝突させ、2種以上の単色硬X線4(4a,4b)を発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2種以上の単色硬X線を短い時間間隔で順次切換えて発生する多色X線発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線は波長が約0.1〜100Å(10−11〜10−8m)程度の電磁波であり、このうち波長の短いX線(10〜100keV,λ=1〜0.1Å)を硬X線、波長の長いX線(0.1〜10keV,λ=100〜1Å)を軟X線という。また、物質に電子線などを当てた時に、物質の構成元素固有の波長をもつX線を特性X線という。
【0003】
X線を用いた装置としてX線透過装置、X線CT装置、X線回折装置、X線分光装置等が、医療、生命科学、材料科学など広い分野で利用されている。例えば、心筋梗塞の治療には、50keV程度のX線を用いた冠状動脈血管造影(IVCAG)が一般に行なわれている。また、X線CT装置は、測定する物体に異なる方向からX線を照射してその吸収を測定し、コンピュータによって画像を再構築して物体の二次元断面画像を得る装置である。
【0004】
X線の発生源としては、X線管とシンクロトロン放射光が広く知られている。
X線管は、真空中でフィラメントを加熱して得られる熱電子を高電圧で加速して金属陽極(ターゲット)に衝突させて、X線を発生させる装置である。X線管から発生するX線は、電子の制動放射による連続X線と、輝線スペクトルである特性X線とからなる。連続X線は特定の波長のX線を必要としない用途、例えば医療用や工業用の透過法の光源として用いられる。また特性X線は、特定の波長のX線を必要とする用途、例えばX線回折や蛍光X線分光等に用いられる。
【0005】
一方、シンクロトロン放射光(SR光)は、環状加速器(シンクロトロン)において、光速に近い速度まで加速した電子ビームの軌道を強力な磁石で変化させ、その軌道変化の際に発生するX線である。SR光は、X線管に比べて桁違い(10倍以上)に強力なX線源であり(例えばX線強度(光子数):約1014photons/s、パルス幅:約100ps)、高いX線強度を必要とする分野で用いられる。
【0006】
しかし、シンクロトロンを用いた放射光施設は、シンクロトロンの長径が例えば50m以上、軌道長が100m以上に達する大型設備であるため、研究や医療用であっても容易には導入できない問題がある。そこで、小型の線形加速器を用いた小型X線発生装置が提案されている(例えば非特許文献1)。
【0007】
一方、従来のX線CT装置では、放射光から単色硬X線を得る手段として2枚の結晶板からなるモノクロメータを用いている。また、単色X線CT装置では電子密度の測定精度が低いため、主波と高調波の混合比が異なる2種類のX線を用いる混合2色X線CT装置が提案されている(例えば非特許文献2)。
【0008】
また、その他に2種類のX線を発生させる手段として、特許文献1、2が既に開示されている。
【0009】
非特許文献1の「小型X線発生装置」は、図4に示すように、小型の加速器51(Xバンド加速管)で加速された電子ビーム52をレーザー53と衝突させてX線54を発生させるものである。RF電子銃55(熱RFガン)で生成されたマルチバンチ電子ビーム52はXバンド加速管51で加速され、パルスレーザー光53と衝突する。コンプトン散乱により、時間幅10nsの硬X線54が生成される。
この装置は、一般に線形加速器で用いられるSバンド(2.856GHz)の4倍の周波数にあたるXバンド(11.424GHz)をRFとして用いて小型化を図っており、例えばX線強度(光子数):約1×10photons/s、パルス幅:約10psの強力な硬X線の発生が予測されている。
【0010】
非特許文献2の「混合2色X線CT装置」は、図5に示すように、回転フィルター61、モノクロメータ62、コリメータ63、透過型イオンチェンバー64、散乱体65、スライド・回転テーブル66、NaI検出器67、及びプラスチックシンチレーションカウンター68を備え、シンクロトロン放射光69aからモノクロメータ62により40keVの主波X線と80keVの2倍高調波X線を抽出し、回転フィルター61により40keVX線と80keVX線の混合比を調整し、散乱体65からの散乱X線スペクトルをNaI検出器67で観察して混合比を測定し、コリメータ63で混合2色X線69bのサイズを整形し、透過型イオンチェンバー64および被写体60を透過させ、プラスチックシンチレーションカウンター68で強度を測定するものである。
この装置により、電子密度の測定精度を高めるとともに、電子密度および実効原子番号のイメージ像の作成に成功している。
【0011】
特許文献1の「X線発生装置」は、図6に示すように、一部が相互に共有された複数の周回電子軌道を画定し、該軌道の共有部分に、電子ビーム71のエネルギーを増減させる加速器72が配置されたマイクロトロン73と、前記マイクロトロンの周回電子軌道に電子ビーム71を入射させる電子ビーム源74と、前記マイクロトロンの軌道の共有部分を飛翔する電子に衝突するようにレーザービーム75を出射するレーザー光源76とを有するものである。
【0012】
特許文献2の「X線発生装置」は、図7に示すように、パルス状電子ビーム81を出射する電子ビーム源82と、前記電子ビーム源から出射されたパルス状電子ビームに衝突するように、パルス状電子ビームの出射に同期させて、パルス的に第1及び第2のレーザー光83A,83Bを出射するレーザー光学系85A,85Bとを有するものである。
【0013】
【非特許文献1】土橋克広、他、「Xバンドリニアックを用いた小型硬X線源の開発」、2002
【非特許文献2】佐々木誠、他、「混合2色X線CTシステムの開発」、医学物理 Vol.23 Supplement No.2 April 2003
【0014】
【特許文献1】特開2002−280200号公報、「X線発生装置及び発生方法」
【特許文献2】特開平11−264899号公報、「電子/レーザー衝突型X線発生装置及びX線発生方法」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
差分法による血管造影や2色X線CTでは、X線エネルギーの切換え速度が重要である。例えば、動的血管造影においては血管が動いていないとみなせる程度の短い時間にエネルギーを切換えて像を得る必要がある。また、2色X線CTでは、エネルギーの切換えに時間がかかると、被写体の状態が変化してしまい再構成画像の画質が落ちるという問題がある。
【0016】
放射光からモノクロメータを用いて単色硬X線を得る場合、モノクロメータは非特許文献2に示すように2枚の結晶板からなるため、2種の単色硬X線(2色X線)を得るには2種のモノクロメータを用いる必要がある。しかしモノクロメータは、結晶角度を精密に調整する必要あるため、短時間での高速切換えは非常に困難である。
また、特性X線を単色X線として利用する他のX線源でもターゲットを物理的に切換える必要があり、やはり高速化は困難である。
【0017】
また、非特許文献2のように、シンクロトロン放射光から主波X線と2倍高調波X線が混合した混合2色X線を抽出して用いる場合、X線の波長が高調波に限定され、かつ主波と高調波が分離できない問題がある。
また、特許文献1の「X線発生装置」では、レーザービームの波長を短時間で切換えできない。
さらに、特許文献2の「X線発生装置」では、パルス状電子ビームと第1及び第2のレーザー光との衝突確率が低く、X線の発生出力が低い問題点がある。
【0018】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、複数(2種または3種以上)の単色硬X線を、血管が動いていないとみなせる程度の短い時間間隔で順次切換えて発生することができ、かつ血管造影等に適用可能な強力なX線を発生させることができる多色X線発生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明によれば、パルス電子ビームを加速して所定の直線軌道を通過させる電子ビーム発生装置と、
波長の異なる複数のパルスレーザー光を順次発生する複合レーザー発生装置と、
前記複数のパルスレーザー光を前記直線軌道上にパルス電子ビームに対向して導入するレーザー光導入装置と、を備え、
複数のパルスレーザー光を前記直線軌道上でパルス電子ビームに順次正面衝突させ、2種以上の単色硬X線を発生させる、ことを特徴とする多色X線発生装置が提供される。
【0020】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記複合レーザー発生装置は、互いに波長が異なる複数のパルスレーザー光を発生する複数のパルスレーザー装置と、
前記複数のパルスレーザー光を同一光路上に合流させるレーザー合流光学系と、
前記複数のパルスレーザー光が互いに時間差を有するように複数のパルスレーザー装置を制御するレーザー制御装置とを有する。
【0021】
また、前記直線軌道上の衝突点におけるパルスレーザー光のビームプロファイルを調整するプロファイル調整光学系を有する、ことが好ましい。
【0022】
前記複合レーザー発生装置は、前記直線軌道を通過したパルスレーザー光を、直線軌道を通過前の光路上に周回させるレーザー周回光学系を有し、これにより同一のパルスレーザー光を周回させてパルス電子ビームに複数回衝突させる、ことが好ましい。
【0023】
前記周回光路上に前記パルスレーザー光を増幅するレーザー増幅器を有する、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
上記本発明の構成によれば、複合レーザー発生装置で発生した複数のパルスレーザー光を、レーザー光導入装置によりパルス電子ビームの直線軌道上に対向して導入するので、電子ビーム発生装置で発生したパルス電子ビームに複数のパルスレーザー光が順次正面衝突し、単色硬X線を順次発生させることができる。
また、パルス電子ビームとパルスレーザー光の衝突により発生するX線の波長は、レーザー光の波長に依存するので、複合レーザー発生装置で波長の異なる複数のパルスレーザー光を発生させることで、2種以上の複数の単色硬X線を短い時間間隔で順次切換えて発生させることができる。
また、パルス電子ビームにパルスレーザー光が直線軌道上で正面衝突して、単色硬X線を発生させるので、衝突効率を最大にできる。
例えば、電子ビームとレーザー光の衝突において、複数種類の波長のレーザー光を交互に発射して電子ビームと衝突させることで、2色のX線を高い衝突効率で交互に発生可能となる。
【0025】
また、パルスレーザー装置は短い周期(例えば10pps以上)でパルスレーザー光を発生できるので、レーザー制御装置で複数のパルスレーザー光を互いに時間差を有するように制御することにより、短い周期で複数のパルスレーザー光をパルス電子ビームに順次正面衝突させ、短い周期(例えば10pps以上)で2種以上の複数の単色硬X線を順次切換えて発生させることができる。
【0026】
従って、装置や部品の物理的な移動なしにX線の波長を順次高速で切換えることができ、波長切換え時間の被写体の変化を小さく抑えることができ、精度の良い撮像が可能となる。
また、X線の波長はレーザー光の波長にリニアに依存するので、どのタイミングでどちらのエネルギーのX線が出ているか特定できる。従ってX線検出器では、2色それぞれのエネルギーによる画像を交互に撮像できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。なお各図において、共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0028】
図1は、本発明による多色X線発生装置の第1実施形態図である。この図に示すように、本発明の多色X線発生装置は、電子ビーム発生装置10、複合レーザー発生装置20およびレーザー光導入装置30を備える。
【0029】
電子ビーム発生装置10は、電子ビームを加速してパルス電子ビーム1を発生し所定の直線軌道2を通過させる機能を有する。
この例において、電子ビーム発生装置10は、RF電子銃11、α‐磁石12、加速管13、ベンディング磁石14、Q−磁石15、減速管16、およびビームダンプ17を備える。
【0030】
RF電子銃11と加速管13は、Xバンド(11.424GHz)の高周波電源18により駆動される。RF電子銃11から引き出された電子ビームは、α‐磁石12により軌道を変えて加速管13に入射する。加速管13は、小型のXバンド加速管であり、電子ビームを加速し、好ましくは約50MeV前後の高エネルギーの電子ビームを形成する。この電子ビームは、例えば約1μs前後のパルス電子ビーム1である。
特にパルス電子ビーム1は、1つの電子の塊に、周回するレーザーを何度も衝突させるため、レーザーの周回時間(約10ns)よりも、大きな電子ビームを発生する必要があるため、マルチバンチパルス電子ビームであるのが良い。
【0031】
ベンディング磁石14は、パルス電子ビーム1の軌道を磁場で曲げて所定の直線軌道2を通過させ、通過後のパルス電子ビーム1をビームダンプ17まで導く。Q−磁石15はパルス電子ビーム1の収束具合を調整する。減速管16は、パルス電子ビーム1を減速する。ビームダンプ17は、直線軌道2を通過した後のパルス電子ビーム1を捕捉して、放射線の漏洩を防止する。
【0032】
同期装置19は、電子ビーム発生装置10と複合レーザー発生装置20の同期をとり、パルス電子ビーム1のタイミングと後述するパルスレーザー光3とのタイミングを合わせ、パルス電子ビーム1とパルスレーザー光3が所定の直線軌道2上の衝突点2aで衝突するように制御する。
【0033】
上述した電子ビーム発生装置10により、例えば、約50MeV前後、約1μs前後のパルス電子ビーム1を発生し、これを所定の直線軌道2を通過させることができる。
【0034】
複合レーザー発生装置20は、波長の異なる複数のパルスレーザー光3を順次発生する機能を有する。
レーザー光導入装置30は、この例では2枚のミラー32、34を有し、第1ミラー32により、複数のパルスレーザー光3を上述した直線軌道2上にパルス電子ビーム1に対向して導入し、第2ミラー34により直線軌道2を通過した後のパルスレーザー光3を複合レーザー発生装置20に戻すようになっている。
【0035】
第1ミラー32と第2ミラー34は、全反射ミラーである。単色硬X線4の放射方向がパルス電子ビーム1と同一方向である場合、第1ミラー32は、好ましくX線透過率の高い材料(例えば石英ガラス)の表面に反射膜をコーティングしたものであり、単色硬X線4が通過できかつその損失が十分小さいように薄く作られているのがよい。
なお、この構成は必須ではなく、単色硬X線4の放射方向がパルス電子ビーム1と異なる場合には、第1ミラー32と第2ミラー34の両方をX線透過率の低い材料(例えば金属)で構成してもよい。
【0036】
図2は、図1の主要部の構成図である。この例において、複合レーザー発生装置20は、複数のパルスレーザー装置22A,22B、レーザー合流光学系23、レーザー制御装置24、およびレーザーダンプ25を有する。
【0037】
複数のパルスレーザー装置22A,22Bは、互いに波長が異なる複数のパルスレーザー光3a,3bを発生する。例えば、パルスレーザー装置22A,22Bとして、波長1064nmのNd−YAGレーザーと、これに波長を半分に変換するKTP結晶を組込んだ波長532nmのNd−YAGレーザーを使用する。
【0038】
レーザー合流光学系23は、この例では全反射ミラー23aとハーフミラー23bからなる。全反射ミラー23aは、パルスレーザー装置22Aのパルスレーザー光3aをレーザー光導入装置30の第1ミラー32に向けて反射する。ハーフミラー23bは、パルスレーザー光3aがそのまま通過できるハーフミラーであり、パルスレーザー光3bをレーザー光導入装置30の第1ミラー32に向けて反射する。
この構成により、複数のパルスレーザー光3a,3bを同一光路上に合流させ、パルスレーザー光3として、第1ミラー32に入射させ、合流した複数のパルスレーザー光を直線軌道2上に導入することができる。
【0039】
レーザー制御装置24は、複数のパルスレーザー光3a,3bが互いに時間差を有するように複数のパルスレーザー装置22A,22Bを制御する。例えば、複数のパルスレーザー光3a,3bのパルス発振数がそれぞれ10ppsであり、パルス幅がそれぞれ10nsである場合、一方のパルス発振時期をずらすことにより、パルス幅10nsの複数のパルスレーザー光3a,3b(波長1064nmと波長532nm)が交互に出力されるパルスレーザー光3として、第1ミラー32に入射させることができる。
【0040】
レーザーダンプ25は、直線軌道2を通過した後のパルスレーザー光3を捕捉して、飛散を防止する。
【0041】
上述した本発明の構成によれば、パルス電子ビーム1とパルスレーザー光3の衝突により発生するX線の波長は、レーザー光3の波長に依存するので、複合レーザー発生装置20で波長の異なる複数のパルスレーザー光3a,3bを発生させることで、2種以上の複数の単色硬X線4(4a,4b)を短い時間間隔で順次切換えて発生させることができる。
また、パルス電子ビーム1にパルスレーザー光3が直線軌道2上で正面衝突して、単色硬X線を発生させるので、衝突効率を最大にできる。
【0042】
また、パルスレーザー装置は短い周期(例えば10pps以上)でパルスレーザー光を発生できるので、レーザー制御装置で複数のパルスレーザー光を互いに時間差を有するように制御することにより、短い周期で複数のパルスレーザー光をパルス電子ビームに順次正面衝突させ、短い周期(例えば10pps以上)で2種以上の複数の単色硬X線を順次切換えて発生させることができる。
例えば、電子ビームの運動エネルギーを35MeVとし、波長1064nmのNd−YAGレーザーと、これに波長を半分に変換するKTP結晶を組込んだ波長532nmのNd−YAGレーザーを使用する場合、約44.5keVの単色硬X線を放射することができる。
【0043】
発生した複数の単色硬X線4(4a,4b)は、この例では、第1ミラー32を通過してパルス電子ビーム1と同一の方向に放射され外部に取り出される。なお、衝突点2aで発生する単色硬X線4の指向性は少ないので、衝突点2aと被験者6の間に、コリメータを設け、単色硬X線4の放射方向をパルス電子ビーム1と異なる方向(例えば、図1の紙面に直交する方向)に制御してもよい。
取り出した複数の単色硬X線4(4a,4b)は、血管造影や2色X線CTに用いることができる。
【0044】
なお、パルスレーザー装置は、2台に限定されず、3台以上でもよい。またパルスレーザー光は、上述した例に限定されず、エキシマレーザーのArF(波長193nm),KrF(波長248nm),XeCl(波長308nm),XeF(波長351nm),F2(波長157nm)やYAGレーザーの第3高調波(波長355nm)、第4高調波(波長266nm)、第5高調波(波長213nm)、その他を用いてもよい。
【0045】
図2において、本発明の多色X線発生装置は、さらに第1ミラー32とハーフミラー23bの間にプロファイル調整光学系26を有する。このプロファイル調整光学系26は、例えば複合レンズであり、直線軌道2上の衝突点2aにおけるパルスレーザー光3のビームプロファイル(例えば、サイズ、傾き、位置)を調整する。
【0046】
図3は、本発明による多色X線発生装置の第2実施形態図である。この例において、複合レーザー発生装置20は、さらにレーザー周回光学系28を有する。
レーザー周回光学系28は、この例では全反射ミラー28aとハーフミラー28bからなる。全反射ミラー28aは、直線軌道2を通過し第2ミラー34で反射したパルスレーザー光3をハーフミラー28bに向けて反射する。ハーフミラー28bは、パルスレーザー光3がそのまま通過できるハーフミラーであり、全反射ミラー28aからのパルスレーザー光3をレーザー光導入装置30の第1ミラー32に向けて反射する。
この構成により、直線軌道2を通過したパルスレーザー光3を、直線軌道2を通過前の光路上に周回させ、同一のパルスレーザー光3を周回させてパルス電子ビーム1に複数回衝突させることができる。
【0047】
またこの例では、第2ミラー34と全反射ミラー28aの間にプロファイル調整光学系27を有する。このプロファイル調整光学系27は、例えば複合レンズであり、ハーフミラー28bに向けて反射し、後述するレーザー増幅器29に入射するパルスレーザー光3のビームプロファイル(例えば、サイズ、傾き、位置)を調整する。
【0048】
図3において、複合レーザー発生装置20は、さらに全反射ミラー28aとハーフミラー28bの間の周回光路上にレーザー増幅器29を有する。このレーザー増幅器29は、例えばYAGロッドであり、パルスレーザー光3に含まれる複数のパルスレーザー光3a,3bの少なくとも1つ(好ましくは全て)を増幅し、周回による損失を低減又はなくすようになっている。なお、レーザー増幅器29は、単一に限定されず、複数のパルスレーザー光3a,3bに合わせてそれぞれ設けてもよい。
その他の構成は、図1,2の第1実施形態と同様である。
【0049】
上述した本発明の構成によれば、第1実施形態と同様にパルス電子ビーム1とパルスレーザー光3の衝突により発生するX線の波長は、レーザー光3の波長に依存するので、複合レーザー発生装置20で波長の異なる複数のパルスレーザー光3a,3bを発生させることで、2種以上の複数の単色硬X線4(4a,4b)を短い時間間隔で順次切換えて発生させ、血管造影や2色X線CTに用いることができる。
【0050】
また、レーザー周回光学系28により、同一のパルスレーザー光3を周回させてパルス電子ビーム1に複数回衝突させることができるので、衝突効率(確率)を高めることができ、衝突に寄与するレーザーの総エネルギーを周回により例えば10倍程度まで高めることができる。
例えば10TW級のレーザーを用いることにより、周回により1×10photons/s程度のX線を発生することが予測できる。
さらに、レーザー増幅器29を併用することにより、周回のない場合に比べて50倍程度まで衝突に寄与するレーザーの総エネルギーを高めることができる。
【0051】
従って、本発明によれば、装置や部品の物理的な移動なしにX線の波長を順次高速で切換えることができ、波長切換え時間の被写体の変化を小さく抑えることができ、X線画像の解像度を高め、電子密度分布、元素分布を高い精度で求めることができる。
また、X線の波長はレーザー光の波長にリニアに依存するので、どのタイミングでどちらのエネルギーのX線が出ているか特定できる。従ってX線検出器では、2色それぞれのエネルギーによる画像を交互に撮像できる。
【0052】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々に変更することができることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明による多色X線発生装置の第1実施形態図である。
【図2】図1の主要部の構成図である。
【図3】本発明による多色X線発生装置の第2実施形態図である。
【図4】非特許文献1の「小型X線発生装置」の模式図である。
【図5】非特許文献2の「混合2色X線CT装置」の模式図である。
【図6】特許文献1の「X線発生装置」の模式図である。
【図7】特許文献2の「X線発生装置」の模式図である。
【符号の説明】
【0054】
1 パルス電子ビーム、2 直線軌道、2a 衝突点、
3,3a,3b パルスレーザー光、4(4a,4b) 単色硬X線、
10 電子ビーム発生装置、11 RF電子銃、12 α‐磁石、
13 加速管、14 ベンディング磁石、15 Q−磁石、
16 減速管、17 ビームダンプ、18 高周波電源、19 同期装置、
20 複合レーザー発生装置、22A,22B パルスレーザー装置、
23 レーザー合流光学系、23a 全反射ミラー、23b ハーフミラー、
24 レーザー制御装置、25 レーザーダンプ、
26,27 プロファイル調整光学系、
28 レーザー周回光学系、28a 全反射ミラー、
28b ハーフミラー、29 レーザー増幅器、
30 レーザー光導入装置、32 第1ミラー、34 第2ミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス電子ビームを加速して所定の直線軌道を通過させる電子ビーム発生装置と、
波長の異なる複数のパルスレーザー光を順次発生する複合レーザー発生装置と、
前記複数のパルスレーザー光を前記直線軌道上にパルス電子ビームに対向して導入するレーザー光導入装置と、を備え、
複数のパルスレーザー光を前記直線軌道上でパルス電子ビームに順次正面衝突させ、2種以上の単色硬X線を発生させる、ことを特徴とする多色X線発生装置。
【請求項2】
前記複合レーザー発生装置は、互いに波長が異なる複数のパルスレーザー光を発生する複数のパルスレーザー装置と、
前記複数のパルスレーザー光を同一光路上に合流させるレーザー合流光学系と、
前記複数のパルスレーザー光が互いに時間差を有するように複数のパルスレーザー装置を制御するレーザー制御装置とを有する、ことを特徴とする請求項1に記載の多色X線発生装置。
【請求項3】
前記直線軌道上の衝突点におけるパルスレーザー光のビームプロファイルを調整するプロファイル調整光学系を有する、ことを特徴とする請求項2に記載の多色X線発生装置。
【請求項4】
前記複合レーザー発生装置は、前記直線軌道を通過したパルスレーザー光を、直線軌道を通過前の光路上に周回させるレーザー周回光学系を有し、これにより同一のパルスレーザー光を周回させてパルス電子ビームに複数回衝突させる、ことを特徴とする請求項2に記載の多色X線発生装置。
【請求項5】
前記周回光路上に前記パルスレーザー光を増幅するレーザー増幅器を有する、ことを特徴とする請求項3に記載の多色X線発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−318746(P2006−318746A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−139726(P2005−139726)
【出願日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(301032942)独立行政法人放射線医学総合研究所 (149)
【Fターム(参考)】