説明

多重外部反射赤外分光装置および方法、その基板配置治具

【課題】試料が表面に形成された一対の反射基板での反射回数を簡単に変更することができる多重外部反射赤外分光装置を提供する。
【解決手段】基板保持機構により所定間隔で平行に保持されている第一反射基板110と第二反射基板120とを基板配置機構が表面と直交する方向に変位させて配置する。このため、第一反射基板110と第二反射基板120とを所定間隔で平行に保持したまま変位させるだけで、第一反射基板110と第二反射基板120とで赤外線ILが反射される回数を増減することができる。さらに、第一反射基板110と第二反射基板120との反射方向の全長を変更するとともに変位させることで、基板保持機構による保持の間隔は変更することなく赤外線ILが反射される回数を大幅に増減することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線を多重に反射する平行な一対の反射基板の表面の少なくとも一方に成膜されている試料を赤外線分光法でスペクトル分析する多重外部反射赤外分光装置および方法、その基板配置治具、に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、試料をスペクトル分析する赤外線分光法の一つとして、多重外部反射赤外分光方法がある。多重外部反射赤外分光方法では、平行な一対の反射基板の表面の少なくとも一方に試料を成膜し、その一対の反射基板で赤外線を多重に反射させ、その赤外線をスペクトル分析する。
【0003】
このような多重外部反射赤外分光方法は、膜厚が数〜数十ナノメートルの有機薄膜/金属の界面の官能基評価などに利用できる。多重外部反射赤外分光方法では、反射回数を増加させると、膜厚が光学的に厚くなるため、吸収ピーク強度は大きくなる。一方、反射回数を増加させると検出光自体の強度は減衰するため、S/N(Signal-to-Noise ratio)は低下する。
【0004】
反射回数の増加による吸収ピーク強度の増加とS/Nの低下とはトレードオフの関係にある。このため、試料により反射回数を適正に調節することが重要である。現在、上述のような多重外部反射赤外分光装置として各種の提案がある(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「多重外部反射赤外分光法の開発」倉本他著、長崎大学工学部研究報告Vol.35(64)pp.29−33,2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、多重外部反射赤外分光方法では、良好なS/Nで試料の特性を良好に反映させるためには、反射回数を適正に調節することが重要である。このため、従来の多重外部反射赤外分光方法では、非特許文献1にも記載のように、試料を成膜した一対の反射基板の間隔を調節することにより反射回数を変更している。
【0007】
しかし、このように反射基板の間隔を調節するためには、板厚が相違する複数種類のスペーサが必要となる。さらに、このように複数種類のスペーサの板厚を正確に管理する必要もあり、トライ&エラーで適正な反射回数を特定する作業が極度に煩雑である。
【0008】
本発明は上述のような課題に鑑みてなされたものであり、試料が表面に形成された一対の反射基板での反射回数を簡単に変更することができる多重外部反射赤外分光装置および方法、その基板配置治具、を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の多重外部反射赤外分光装置は、赤外線を多重に反射する平行な一対の反射基板の表面の少なくとも一方に成膜されている試料を赤外線分光法でスペクトル分析する多重外部反射赤外分光装置であって、第一反射基板と第二反射基板とを所定間隔で平行に保持する基板保持機構と、保持された第一反射基板の表面に赤外線を所定角度に傾斜させて入射させる赤外線出射機構と、第一反射基板の表面から所定角度に傾斜して出射される赤外線を検出する赤外線検出機構と、基板保持機構により保持されている第一反射基板と第二反射基板とを表面と直交する方向に変位させて配置する基板配置機構と、を有する。
【0010】
従って、本発明の多重外部反射赤外分光装置では、第一反射基板と第二反射基板とを基板保持機構が所定間隔で平行に保持する。保持された第一反射基板の表面に赤外線出射機構が赤外線を所定角度に傾斜させて入射させる。第一反射基板の表面から所定角度に傾斜して出射される赤外線を赤外線検出機構が検出する。ただし、基板保持機構により保持されている第一反射基板と第二反射基板とを基板配置機構が表面と直交する方向に変位させて配置する。このため、第一反射基板と第二反射基板とを所定間隔で平行に保持したまま変位させるだけで、第一反射基板と第二反射基板とで赤外線が反射される回数が増減する。さらに、第一反射基板と第二反射基板との反射方向の全長を変更するとともに変位させることで、基板保持機構による保持の間隔は変更することなく赤外線が反射される回数が大幅に増減する。
【0011】
また、上述のような多重外部反射赤外分光装置において、赤外線出射機構は、保持された第一反射基板の表面に20度〜70度の傾斜で赤外線を入射させ、赤外線検出機構は、第一反射基板の表面から上記傾斜で出射される赤外線を検出してもよい。
【0012】
また、上述のような多重外部反射赤外分光装置において、第一反射基板と第二反射基板とが赤外線を反射する回数に対応した全長に形成されており、基板配置機構は、基板保持機構により保持されている第一反射基板と第二反射基板とを赤外線の反射回数に対応した位置に配置してもよい。
【0013】
また、上述のような多重外部反射赤外分光装置において、基板保持機構は、磁性体で形成されていて第一反射基板を支持する第一支持部材と、第二反射基板を支持する第二支持部材と、所定間隔の板厚に形成されていて第一反射基板と第二反射基板とで挟持されるスペーサ部材と、磁性体で形成されていて第二反射基板とスペーサ部材と第一反射基板とを第一支持部材に磁力で圧接させる基板圧接部材と、を有してもよい。
【0014】
また、上述のような多重外部反射赤外分光装置において、基板保持機構は、磁性体で形成されていて第一反射基板を支持する第一支持部材と、第二反射基板を支持する第二支持部材と、所定間隔の板厚に形成されていて第一反射基板と第二反射基板とで挟持されるスペーサ部材と、第二反射基板に圧接される基板圧接部材と、磁性体で形成されていて基板圧接部材と第二反射基板とスペーサ部材と第一反射基板とを第一支持部材に磁力で圧接させる磁力圧接部材と、を有してもよい。
【0015】
また、上述のような多重外部反射赤外分光装置において、表面に試料が成膜された一枚の基礎基板が分断されて第一反射基板と第二反射基板とが形成されていてもよい。
【0016】
本発明の多重外部反射赤外分光方法は、赤外線を多重に反射する平行な一対の反射基板の表面の少なくとも一方に成膜されている試料を赤外線分光法でスペクトル分析する多重外部反射赤外分光方法であって、第一反射基板と第二反射基板とを基板保持機構により所定間隔で平行に保持し、基板保持機構により保持されている第一反射基板と第二反射基板とを表面と直交する方向に基板配置機構により変位させて配置し、配置された第一反射基板の表面に所定角度に傾斜した赤外線を赤外線出射機構により出射し、第一反射基板の表面から所定角度に傾斜して出射される赤外線を赤外線検出機構により検出する。
【0017】
また、上述のような多重外部反射赤外分光方法において、保持された第一反射基板の表面に20度〜70度の傾斜で赤外線を入射させ、第一反射基板の表面から上記傾斜で出射される赤外線を検出してもよい。
【0018】
また、上述のような多重外部反射赤外分光方法において、第一反射基板と第二反射基板とを赤外線を反射する回数に対応した全長に形成し、基板保持機構により保持する第一反射基板と第二反射基板とを基板配置機構により赤外線の反射回数に対応した位置に配置してもよい。
【0019】
本発明の基板配置治具は、赤外線を多重に反射する平行な一対の反射基板の少なくとも一方の表面に成膜されている試料を赤外線分光法でスペクトル分析する多重外部反射赤外分光装置に利用される基板配置治具であって、第一反射基板と第二反射基板とを所定間隔で平行に保持する基板保持機構と、基板保持機構により保持されている第一反射基板と第二反射基板とを表面と直交する方向に変位させて配置する基板配置機構と、を有する。
【0020】
なお、本発明の各種の構成要素は、必ずしも個々に独立した存在である必要はなく、複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、一つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等でもよい。
【0021】
また、本発明で云う表面に直交する方向に変位するとは、変位の結果として表面に直交する方向に移動していることになることを意味しており、変位の方向そのものが表面に完全に直交している必要はない。
【発明の効果】
【0022】
本発明の多重外部反射赤外分光装置では、基板保持機構により所定間隔で平行に保持されている第一反射基板と第二反射基板とを基板配置機構が表面と直交する方向に変位させて配置する。このため、第一反射基板と第二反射基板とを所定間隔で平行に保持したまま変位させるだけで、第一反射基板と第二反射基板とで赤外線が反射される回数を増減することができる。さらに、第一反射基板と第二反射基板との反射方向の全長を変更するとともに変位させることで、基板保持機構による保持の間隔は変更することなく赤外線が反射される回数を大幅に増減することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態の多重外部反射赤外分光装置の構造を示す模式的な平面図である。
【図2】多重外部反射赤外分光装置の基板配置治具の組立構造を示す分解斜視図である。
【図3】基板配置治具の外観を示す斜視図である。
【図4】本発明の第一の実施例の要部の構造を示す模式図である。
【図5】第一の実施例の実験結果を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施の一形態を図面を参照して以下に説明する。なお、本実施の形態では図示するように前後左右上下の方向を規定して説明する。しかし、これは構成要素の相対関係を簡単に説明するために便宜的に規定するものである。従って、本発明を実施する製品の製造時や使用時の方向を限定するものではない。
【0025】
本実施の形態の多重外部反射赤外分光装置は、赤外線ILを多重に反射する平行な一対の反射基板110,120の表面の少なくとも一方に成膜されている試料SPを赤外線分光法でスペクトル分析する。
【0026】
このため、本実施の形態の多重外部反射赤外分光装置は、図1ないし図3に示すように、第一反射基板110と第二反射基板120とを所定間隔で平行に保持する基板保持機構200と、保持された第一反射基板110の表面に赤外線ILを所定角度に傾斜させて入射させる赤外線出射機構130と、第一反射基板110の表面から所定角度に傾斜して出射される赤外線ILを検出する赤外線検出機構140と、基板保持機構200により保持されている第一反射基板110と第二反射基板120とを表面と直交する方向に変位させて配置する基板配置機構150と、を有する。
【0027】
本実施の形態の多重外部反射赤外分光装置では、第一反射基板110と第二反射基板120とは表面が前後方向と直交する状態に基板保持機構200で保持され、前後方向に基板配置機構150で変位される。この基板配置機構150と基板保持機構200とで、多重外部反射赤外分光装置の基板配置治具が形成されている。
【0028】
さらに、本実施の形態の多重外部反射赤外分光装置では、図1に示すように、第一反射基板110と第二反射基板120とが赤外線ILを反射する回数に対応した全長に形成される。
【0029】
そして、本実施の形態の基板配置治具の基板配置機構150は、図3(a)(b)に示すように、基板保持機構200により保持されている第一反射基板110と第二反射基板120とを赤外線ILの反射回数に対応した位置に配置する。
【0030】
また、赤外線出射機構130は、図1に示すように、保持された第一反射基板110の表面に45度の傾斜で赤外線ILを入射させ、赤外線検出機構140は、第一反射基板110の表面から45度の傾斜で出射される赤外線ILを検出する。
【0031】
なお、本実施の形態の多重外部反射赤外分光装置では、図1に示すように、第一反射基板110の表面から赤外線検出機構140への光路上に、赤外線ILを規制するアパーチャ部材141が配置されている。
【0032】
また、基板保持機構200は、図2および図3に示すように、磁性体で形成されていて第一反射基板110を支持する第一支持部材210と、第二反射基板120を支持する第二支持部材220と、所定間隔の板厚に形成されていて第一反射基板110と第二反射基板120とで挟持されるスペーサ部材230と、第二反射基板120に圧接される基板圧接部材240と、磁性体で形成されていて基板圧接部材240と第二反射基板120とスペーサ部材230と第一反射基板110とを第一支持部材210に磁力で圧接させる磁力圧接部材250と、を有する。
【0033】
第一支持部材210は、鉄合金などの磁性体で矩形の平板状の基板支持部211が形成されており、その後面四隅の各々から後方に直方体状の基板保持部212が個々に突設されている。第一支持部材210は、基板支持部211の後面に圧接される第一反射基板110を四本の基板保持部212で左右方向に保持する。
【0034】
第二支持部材220は、非磁性体で第二反射基板120より薄板の平板状に形成されており、第二反射基板120が係合するとともに赤外線ILが通過する十字状の開口孔221が形成されている。第二支持部材220は、その四隅に直角の凹部222が形成されており、これら四隅の凹部222で第一支持部材210の四隅の基板保持部212に支持される。
【0035】
スペーサ部材230も、四隅に直角の凹部231が形成されており、これら四隅の凹部231で第一支持部材210の四隅の基板保持部212に支持される。スペーサ部材230は、第一反射基板110と第二反射基板120との所定間隔に対応した板厚に非磁性体で形成されており、赤外線ILが通過する矩形の貫通孔232が形成されている。
【0036】
基板圧接部材240は、赤外線ILの光路に干渉することなく第二反射基板120を支持するI字状に非磁性体で形成されており、その四隅241で第一支持部材210の四隅の基板保持部212に左右方向に支持される。
【0037】
磁力圧接部材250は、例えば、基板圧接部材240の上端近傍と下端近傍とに配置される一対の円筒状のネオジムマグネットからなり、基板圧接部材240と第二反射基板120とスペーサ部材230と第一反射基板110とを磁性体からなる第一支持部材210に磁力で圧接させる。
【0038】
基板配置機構150は、前後方向に細長形状のガイドレール151と、このガイドレール151で前後方向に変位自在に支持されているガイド部材152と、を有し、このガイド部材152の後面に、上述の基板保持機構200の第一支持部材210が固定されている。
【0039】
なお、上述のような多重外部反射赤外分光装置は、既存の赤外線分光装置(図示せず)の基板配置治具を、上述の基板保持機構200と基板配置機構150からなる基板配置治具と交換するだけで実現される。
【0040】
このような多重外部反射赤外分光装置は、実際には赤外線ILの光路が複数の反射鏡で複雑に形成されているが(図示せず)、本発明には関係しないため、図1では模式的に単純な光路を例示している。
【0041】
なお、赤外光の乱反射を防ぐために、本実施の形態の多重外部反射赤外分光装置の各部に、黒色塗装やアルミニウム表面における黒色アルマイト処理等の、塗装や表面処理を行っても良い。
【0042】
上述のような構成において、本実施の形態の多重外部反射赤外分光装置による多重外部反射赤外分光方法を以下に説明する。まず、一枚の基礎基板の表面に試料SPが成膜され、この基礎基板を分断することで第一反射基板110と第二反射基板120とが形成される。
【0043】
このとき、第一反射基板110と第二反射基板120とは、左右方向で反射回数に対応した全長に形成される。つぎに、基板配置機構150のガイド部材152に固定されている第一支持部材210に、図2に示すように、第一反射基板110と、スペーサ部材230と、第二反射基板120を支持した第二支持部材220と、基板圧接部材240とが、順番に装着され、最後に磁力圧接部材250で磁力により保持される。
【0044】
このような状態で、基板配置機構150のガイド部材152が所定位置に配置されることで、例えば、図1(a)に示すように、第一反射基板110と第二反射基板120とで赤外線ILが三回反射される。
【0045】
このような状態から、さらに基板配置機構150のガイド部材152を後方に変位させることで、例えば、図1(b)に示すように、第一反射基板110と第二反射基板120とで赤外線ILが五回反射される。
【0046】
つまり、赤外線出射機構130と赤外線検出機構140とを調節することなく、第一反射基板110と第二反射基板120との間隔も調節することなく、その反射回数を簡単に迅速に変更することができる。
【0047】
さらに反射回数を増加させたい場合には、図1(c)に示すように、左右方向で全長を延長した第一反射基板110と第二反射基板120とを形成すればよい。この場合、例えば、反射回数を九回などとすることもできる。
【0048】
ただし、この場合は、基板保持機構200の第一支持部材210と第二支持部材220とスペーサ部材230とは変更する必要がある。しかし、スペーサ部材230の板厚は変更する必要がない。
【0049】
このため、第一反射基板110と第二反射基板120との間隔を正確に管理することができる。なお、上述のように反射回数を増加させるために第一反射基板110と第二反射基板120との左右方向の全長を延長した場合でも、これを前後方向に変位させることで反射回数を多少は増減することができる。
【0050】
本実施の形態の多重外部反射赤外分光装置では、上述のように基板保持機構200により所定間隔で平行に保持されている第一反射基板110と第二反射基板120とを基板配置機構150が表面と直交する方向に変位させて配置する。
【0051】
このため、図1(a)(b)に示すように、第一反射基板110と第二反射基板120とを所定間隔で平行に保持したまま変位させるだけで、第一反射基板110と第二反射基板120とで赤外線ILが反射される回数を増減することができる。
【0052】
さらに、図1(c)に示すように、第一反射基板110と第二反射基板120との反射方向の全長を変更するとともに変位させることで、基板保持機構200による保持の間隔は変更することなく赤外線ILが反射される回数を大幅に増減することもできる。
【0053】
さらに、本実施の形態の多重外部反射赤外分光装置では、赤外線出射機構130は、保持された第一反射基板110の表面に45度の傾斜で赤外線ILを入射させ、赤外線検出機構140は、第一反射基板110の表面から45度の傾斜で出射される赤外線ILを検出する。
【0054】
このため、赤外線ILの光路の設計が容易である。しかも、赤外線検出機構140にはアパーチャ部材141が装着されている。このため、多重反射で散乱されたノイズ光が赤外線検出機構140に検出されることを防止できる。
【0055】
さらに、本実施の形態の多重外部反射赤外分光装置では、基板保持機構200の第一支持部材210に、第一反射基板110と、スペーサ部材230と、第二反射基板120を支持した第二支持部材220と、基板圧接部材240とを、順番に装着し、最後に磁力圧接部材250で磁力により保持する。
【0056】
このため、ボルト締結などの煩雑な作業を必要とすることなく、簡単かつ迅速に、第一反射基板110と第二反射基板120とを、平行に所定間隔に配置することができる。
【0057】
しかも、本実施の形態の多重外部反射赤外分光装置では、上述のように一枚の基礎基板を分断することで、第一反射基板110と第二反射基板120とを形成する。このため、第一反射基板110と第二反射基板120との試料SPを正確に同一とすることができ、試料SPの特性を検出結果に良好に反映させることができる。
【0058】
なお、本発明は本実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で各種の変形を許容する。例えば、上記形態では基板保持機構200が、第一支持部材210と第二支持部材220とスペーサ部材230と基板圧接部材240と磁力圧接部材250からなることを例示した。
【0059】
しかし、上述の基板圧接部材240を磁性体で形成して着磁することにより、基板圧接部材240で第二反射基板120とスペーサ部材230と第一反射基板110とを第一支持部材210に圧接させ、磁力圧接部材250を省略することも可能である。
【0060】
さらに、上記形態では第一反射基板110と第二反射基板120との左右方向の全長を変更した場合、それに対応してスペーサ部材230の左右方向の全長も変更することを例示した。
【0061】
しかし、スペーサ部材230の左右方向の全長を事前に最大に形成しておくことにより、この一個のスペーサ部材230で左右方向の全長が相違する複数種類の第一反射基板110と第二反射基板120とに対応することもできる(図示せず)。
【0062】
なお、当然ながら、上述した実施の形態および複数の変形例は、その内容が相反しない範囲で組み合わせることができる。また、上述した実施の形態および変形例では、各部の構造などを具体的に説明したが、その構造などは本願発明を満足する範囲で各種に変更することができる。
【0063】
[実施例1]
ここで本発明者による実験結果を実施例として以下に説明する。まず、図4に示すように、シリコン基板111の表面にアルミニウムの反射膜112が成膜された構造の基礎基板を用意し、その表面にODSA(オクタデシルこはく酸無水物)などの試料SPをLB(Langmuir-Blodgett)法で成膜した。
【0064】
このLB法による作製は、室温にてODSAの1g/Lトルエン溶液を、電気抵抗率18.2MΩ・cm以上の超純水上に展開し、15分静置した後、表面圧を35mN/mに調整し、基礎基板を10mm/分の速度で引き上げる条件で実行した。
【0065】
このように成膜された試料SPは、ODSAの親水部を形成する無水こはく酸が基板表面の吸着水により開環し、こはく酸となって基板表面に存在し、このこはく酸から、ODSAの疎水部を形成するC18鎖が立設した分子配向状態と想定された。そして、この基礎基板を分断して第一反射基板110と第二反射基板120とを形成した。
【0066】
そして、第一反射基板110で一回だけ反射させた場合と、第一反射基板110と第二反射基板120とで十五回まで反射させた場合とで、赤外線ILをスペクトル分析したところ、図5に示すように、多重反射により試料SPの特性が赤外線ILに良好に反映され、開環したこはく酸を明確にスペクトル分析できることが確認された。
【0067】
なお、上記の実験は、既存の赤外線分光装置の基板配置治具を、本実施の形態の基板保持機構200と基板配置機構150からなる基板配置治具と交換することで実行された。
【0068】
[実施例2]
つぎに、前述した非特許文献1に記載のように、左右方向の全長が30mmの第一反射基板110と第二反射基板120との間隔を可変することで、反射回数を変更させるシミュレーションを実行した。
【0069】
すると、以下の表1に示すように、
【表1】

第一反射基板110と第二反射基板120との間隔を複雑に正確に管理する必要があることが確認された。
【0070】
つぎに、第一反射基板110と第二反射基板120との間隔を1.0mmと規定し、本実施の形態の多重外部反射赤外分光装置で反射回数を変更させるシミュレーションを実行した。
【0071】
すると、以下の表2に示すように、
【表2】

第一反射基板110と第二反射基板120との左右方向の全長は単純でよく、その前後位置も単純に管理できることが確認された。
【0072】
つまり、従来の手法では、複数種類のスペーサ部材を中途半端な板厚に正確に形成しておく必要があることになる。しかし、本発明の手法では、スペーサ部材は一種類の単純な板厚に形成すればよく、第一反射基板110と第二反射基板120との前後位置も単純に管理できることが確認された。
【0073】
[実施例3]
つぎに、本発明者は本実施の形態の多重外部反射赤外分光装置で赤外線ILの入射および出射(反射)の角度を変更するシミュレーションを実行した。
【0074】
すると、以下の表3に示すように、
【表3】

赤外線ILの入射角(および出射角)を変更することで様々なメリットが発生することを確認できた。
【0075】
つまり、第一反射基板110と第二反射基板120との全長の増減により反射回数を調整する場合と比べると、赤外線ILの入射角(および出射角)を変更すると、第一反射基板110と第二反射基板120の全長および間隔を変更することなく、反射回数を大幅に増減可能になる。
【0076】
このため、第一反射基板110と第二反射基板120を作製する回数を少なくすませる事ができる。しかも、反射回数の微調整が、反射基板110,120の全長の増減による場合と比べ、より容易になる。
【0077】
さらに、有機物/金属からなる反射基板110,120の(多重)外部反射赤外測定では、しばしば赤外吸収波長を中心に屈折率の急激な変化が起こり(異常分散)、赤外スペクトルに歪が生じる場合がある。この歪みを、入射/出射角度を調整することにより、抑えられる可能性がある。
【0078】
そして、反射基板110,120の表面に対し入射/出射角を大きくすることで、反射基板110,120の全長が相対的に短いサンプルでも反射回数を大きくすることができる。例:29回反射を実現するためには、45°では基板全長として28mmが必要であるが、これを63.4°にすれば14mmですむことが確認された。
【符号の説明】
【0079】
110 第一反射基板
111 シリコン基板
112 反射膜
120 第二反射基板
130 赤外線出射機構
140 赤外線検出機構
141 アパーチャ部材
150 基板配置機構
151 ガイドレール
152 ガイド部材
200 基板保持機構
210 第一支持部材
211 基板支持部
212 基板保持部
220 第二支持部材
221 開口孔
222 凹部
230 スペーサ部材
231 凹部
232 貫通孔
240 基板圧接部材
241 四隅
250 磁力圧接部材
IL 赤外線
SP 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線を多重に反射する平行な一対の反射基板の表面の少なくとも一方に成膜されている試料を赤外線分光法でスペクトル分析する多重外部反射赤外分光装置であって、
第一反射基板と第二反射基板とを所定間隔で平行に保持する基板保持機構と、
保持された前記第一反射基板の表面に前記赤外線を所定角度に傾斜させて入射させる赤外線出射機構と、
前記第一反射基板の表面から前記所定角度に傾斜して出射される前記赤外線を検出する赤外線検出機構と、
前記基板保持機構により保持されている前記第一反射基板と前記第二反射基板とを前記表面と直交する方向に変位させて配置する基板配置機構と、
を有する多重外部反射赤外分光装置。
【請求項2】
前記赤外線出射機構は、保持された前記第一反射基板の表面に20度〜70度の傾斜で前記赤外線を入射させ、
前記赤外線検出機構は、前記第一反射基板の表面から前記傾斜で出射される前記赤外線を検出する請求項1に記載の多重外部反射赤外分光装置。
【請求項3】
前記第一反射基板と前記第二反射基板とが前記赤外線を反射する回数に対応した全長に形成されており、
前記基板配置機構は、前記基板保持機構により保持されている前記第一反射基板と前記第二反射基板とを前記赤外線の反射回数に対応した位置に配置する請求項1または2に記載の多重外部反射赤外分光装置。
【請求項4】
前記基板保持機構は、
磁性体で形成されていて前記第一反射基板を支持する第一支持部材と、
前記第二反射基板を支持する第二支持部材と、
前記所定間隔の板厚に形成されていて前記第一反射基板と前記第二反射基板とで挟持されるスペーサ部材と、
磁性体で形成されていて前記第二反射基板と前記スペーサ部材と前記第一反射基板とを前記第一支持部材に磁力で圧接させる基板圧接部材と、
を有する請求項1ないし3の何れか一項に記載の多重外部反射赤外分光装置。
【請求項5】
前記基板保持機構は、
磁性体で形成されていて前記第一反射基板を支持する第一支持部材と、
前記第二反射基板を支持する第二支持部材と、
前記所定間隔の板厚に形成されていて前記第一反射基板と前記第二反射基板とで挟持されるスペーサ部材と、
前記第二反射基板に圧接される基板圧接部材と、
磁性体で形成されていて前記基板圧接部材と前記第二反射基板と前記スペーサ部材と前記第一反射基板とを前記第一支持部材に磁力で圧接させる磁力圧接部材と、
を有する請求項1ないし3の何れか一項に記載の多重外部反射赤外分光装置。
【請求項6】
表面に前記試料が成膜された一枚の基礎基板が分断されて前記第一反射基板と前記第二反射基板とが形成されている請求項1ないし5の何れか一項に記載の多重外部反射赤外分光装置。
【請求項7】
赤外線を多重に反射する平行な一対の反射基板の表面の少なくとも一方に成膜されている試料を赤外線分光法でスペクトル分析する多重外部反射赤外分光方法であって、
第一反射基板と第二反射基板とを基板保持機構により所定間隔で平行に保持し、
前記基板保持機構により保持されている前記第一反射基板と前記第二反射基板とを前記表面と直交する方向に基板配置機構により変位させて配置し、
配置された前記第一反射基板の表面に所定角度に傾斜した前記赤外線を赤外線出射機構により出射し、
前記第一反射基板の表面から前記所定角度に傾斜して出射される前記赤外線を赤外線検出機構により検出する、多重外部反射赤外分光方法。
【請求項8】
保持された前記第一反射基板の表面に20度〜70度の傾斜で前記赤外線を入射させ、
前記第一反射基板の表面から前記傾斜で出射される前記赤外線を検出する請求項7に記載の多重外部反射赤外分光方法。
【請求項9】
前記第一反射基板と前記第二反射基板とを前記赤外線を反射する回数に対応した全長に形成し、
前記基板保持機構により保持する前記第一反射基板と前記第二反射基板とを前記基板配置機構により前記赤外線の反射回数に対応した位置に配置する請求項7または8に記載の多重外部反射赤外分光方法。
【請求項10】
赤外線を多重に反射する平行な一対の反射基板の少なくとも一方の表面に成膜されている試料を赤外線分光法でスペクトル分析する多重外部反射赤外分光装置に利用される基板配置治具であって、
第一反射基板と第二反射基板とを所定間隔で平行に保持する基板保持機構と、
前記基板保持機構により保持されている前記第一反射基板と前記第二反射基板とを前記表面と直交する方向に変位させて配置する基板配置機構と、
を有する基板配置治具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−237246(P2011−237246A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108150(P2010−108150)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】