説明

多階調マスクの製造方法およびエッチング装置

【課題】マスク製造段階での基板ダメージの発生が少なく、透光部の露光光透過率が高く、かつ露光光透過率分布の面内均一性の高い多階調マスクの製造方法を提供する。
【解決手段】透光性基板上に、遮光部、透光部及び露光光の一部を透過する半透光部からなる転写パターンを有する多階調マスクの製造方法であって、透光性基板上に金属およびケイ素を含有する材料、またはタンタル等から選ばれる1以上の金属を含有する材料からなる半透光膜と、クロムを含有する材料からなる遮光膜とをこの順に積層したマスクブランクを用意する工程と、遮光膜に透光部のパターンを形成する工程と、遮光膜に形成された透光部のパターンをマスクとして半透光膜を、塩素、臭素、ヨウ素、及びキセノンのうちのいずれかの元素とフッ素との化合物を含む非励起状態の物質によってエッチングする工程と、遮光膜に遮光部のパターンを形成する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置(Liquid Crystal Display:以下、LCDと呼ぶ。)、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイなどのFPD(フラットパネルディスプレイ)デバイス製造に用いられる多階調マスクの製造方法、およびこの多階調マスクの製造方法に使用されるエッチング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、FPDの分野において、なかでもLCDの分野においては、薄膜トランジスタ液晶表示装置(ThinFilm Transistor Liquid Crystal Display:以下、TFT−LCDと呼ぶ。)は、薄型にしやすく消費電力が低いという利点から、現在商品化が急速に進んでいる。TFT−LCDは、マトリックス状に配列された各画素にTFTが配列された構造のTFT基板と、各画素に対応して、レッド、グリーン、及びブルーの画素パターンが配列されたカラーフィルタが液晶相の介在の下に重ね合わされた概略構造を有する。TFT−LCDでは、製造工程数が多く、TFT基板だけでも5〜6枚のフォトマスクを用いて製造されていた。このような状況の下、TFT基板の製造をより少ないフォトマスクを用いて行う方法が提案されている。
【0003】
この方法は、遮光部と透光部と半透光部を有するフォトマスクを用いることにより、使用するマスク枚数を低減するというものである。ここで、半透光部とは、マスクを使用してパターンを被転写体に転写する際、透過する露光光の透過量を所定量低減させ、被転写体上のフォトレジスト膜の現像後の残膜量を制御する部分をいい、そのような半透光部を、遮光部、透光部とともに備えているフォトマスクを一般にグレートーンマスクという。所定の露光光透過率を有する半透光部を、遮光部、透光部とともに備えているグレートーンマスクを用いることにより、被転写体上のフォトレジストに、3階調の残膜値の異なる部分を含む所望の転写パターンを形成することができ、また、露光光透過率の異なる複数の半透光部を、遮光部、透光部とともに備えているグレートーンマスクを用いることにより、さらに多い4階調以上の転写パターンを形成することができるので、このようなグレートーンマスクを本発明では、「多階調マスク」と呼ぶことにする。
【0004】
ところで、多階調マスクにおいて、上記半透光部が、多階調マスクを使用する露光機の解像限界以下の微細パターンで形成されている構造のものが知られている。多階調マスクを使用する露光機の解像限界は、多くの場合、ステッパ方式の露光機で約3μm、ミラープロジェクション方式の露光機で約4μmである。しかし、このような微細パターンタイプの半透光部は、半透光部の設計、具体的には遮光部と透光部の中間的なハーフトーン効果を持たせるための微細パターンをライン・アンド・スペースタイプにするのかドット(網点)タイプにするのか、或いはその他のパターンにするのかの選択があり、さらにライン・アンド・スペースタイプの場合、線幅をどのくらいにするのか、光が透過する部分と遮光される部分の比率をどうするか、全体の透過率をどの程度に設計するかなど、非常に多くのことを考慮して設計がなされなければならない。また、マスクの製造においても、線幅の中心値の管理、マスク内の線幅のばらつき管理など、非常に難しい生産技術が要求されていた。
【0005】
そこで、半透光部を光半透過性の半透光膜で形成することが従来提案されている。この半透光膜を用いることで半透光部での露光量を低減させて露光することが出来る。半透光膜を用いる場合、設計においては全体の透過率がどのくらい必要かを検討し、マスクにおいては半透光膜の膜種(素材)であるとか膜厚を選択することでマスクの生産が可能となる。従って、多階調マスクの製造では半透光膜の膜厚制御を行うだけで足り、比較的管理が容易である。また、例えばTFTのチャンネル部を多階調マスクの半透光部で形成する場合、半透光膜であればフォトリソグラフィー工程により容易にパターニングできるので、複雑なパターン形状のTFTチャンネル部であっても高精度のパターン形成が可能であるという利点もある。
【0006】
多階調マスクの半透光部を半透光膜で形成する場合、半透光膜の材料として例えばモリブデン等の金属のシリサイド化合物が広く知られている。また、金属のシリサイド化合物以外の半透光膜の材料としては、例えばタンタルを主成分とする材料が従来提案されている(特許文献1、特許文献2)。特に、タンタルを主成分とする材料は、膜厚の調整によって露光光透過率の調整が容易であること、FPD用露光機で広く用いられている超高圧水銀ランプを光源とする多色露光の露光波長帯域であるi線〜g線にわたる波長領域において波長変化に対する透過率変化が小さいこと(波長依存性が小さい、フラットな分光特性を有すること)などの利点がある。
【0007】
上記多階調マスクは、たとえば、合成石英ガラス等の透光性基板上に金属シリサイドやタンタルを主成分とする材料からなる半透光膜とクロムを主成分とする材料からなる遮光膜とをこの順に積層したマスクブランクを用いて、上記遮光膜および半透光膜をそれぞれ所望にパターニングし、遮光部、透光部および半透光部からなる転写パターンを形成することによって製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−249950号公報
【特許文献2】特開2002−196473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の多階調マスクの製造方法においては、上記マスクブランクの遮光膜上に形成された透光部のパターンを有するレジスト膜をマスクとして、遮光膜をエッチングすることにより、前記遮光膜に透光部のパターンを形成する工程と、前記遮光膜に形成された透光部のパターンをマスクとして、前記半透光膜をエッチングすることにより透光性基板表面を露出させて透光部を形成する工程と、前記遮光膜上に形成された遮光部のパターンを有するレジスト膜をマスクとして、遮光膜をエッチングすることにより、前記遮光膜に遮光部のパターンを形成する工程とを有する。
【0010】
上記エッチング工程は、いわゆるウェットエッチングあるいはドライエッチングにより行うことができるが、近年のFPDデバイスの大型化の傾向に伴い、そのFPDデバイス製造に用いる多階調マスクについても基板サイズの大型化が進んでいるため、大型のマスク製造の際に、ドライエッチングを行おうとすると、プラズマを発生させる必要があることから、LSI用途に比べて非常に大きなサイズである大型マスクブランクの主表面の全面に対してプラズマを発生させることができるプラズマ発生装置が必要となり、非常に高価なドライエッチング装置を導入しなければならず、生産コストを考えると、ドライエッチングによる方法は現実的ではなくなってきている。
【0011】
一方、ウェットエッチングによればこのような課題は特に生じない。クロムを主成分とする材料からなる遮光膜のエッチング液としては、通常、硝酸第2セリウムアンモニウムと過塩素酸を含むエッチング液が用いられる。また、金属シリサイドを主成分とする材料からなる半透光膜のエッチング液としては、例えば、フッ化水素アンモニウムと過酸化水素を含むエッチング液が用いられる。さらに、タンタルを主成分とする材料からなる半透光膜のエッチング液としては、50℃以上に加熱された水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ水溶液が用いられる。
【0012】
本発明者の検討によると、タンタルを主成分とする材料からなる半透光膜の場合、アルカリ水溶液に対するエッチングレートがあまり大きくないため、アルカリ水溶液を用いたウェットエッチングによって上記半透光膜を除去すると、露出したガラス基板表面にピット状の凹部が形成されてしまうという多階調マスクとしては大きな問題が発生することが判明した。
【0013】
ガラス基板表面を露出させるウェットエッチングによって多階調マスクの透光部を形成するため、透光部を構成するガラス基板表面にピット状の凹部が発生してしまうと、透過率は大幅に低下してしまう。半透光膜をエッチングするパターン形状のエッチングし易さによってエッチング時間に差が生じることから、エッチング時間を厳密に調整してもピット状の凹部の発生を抑制することは難しい。このような多階調マスクを使用して被転写体のフォトレジスト膜にパターンを露光転写した場合、フォトレジスト膜を現像した後の残膜量制御の精度が低いという問題が発生する。
【0014】
一方、金属シリサイドを主成分とする材料からなる半透光膜の場合、ガラス基板表面にピット状の凹部が発生するような問題は発生していない。しかし、半透光膜に形成するパターンの微細化が進んでおり、レジストパターンや遮光膜パターンの面内の粗密差がより大きくなってきている。半透光膜のエッチング時、疎なパターン部分ではエッチャントが入れ替わりやすくエッチングレートが速くなる傾向が生じ、密なパターン部分ではエッチャントが入れ替わりにくくエッチングレートが遅くなる傾向が生じる。この差は、エッチング後の半透光膜パターンのCD面内均一性に大きく影響する。特に、ウェットエッチングの場合、密なパターンでは、ドライエッチングのエッチングガスに比べてエッチング液の入れ替わりが悪く、半透光膜のCD面内均一性が低くなる傾向があるという問題がある。
【0015】
一方、多階調マスクの半透光膜に適用する金属材料として、タンタル以外にも、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、タングステン(W)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、イットリウム(Y)、ロジウム(Rh)、ニオブ(Nb)、ランタン(La)、パラジウム(Pd)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)などがこれまで検討されている。これらの金属材料の半透光膜をウェットエッチングするエッチング液としては、アルカリ水溶液などが検討されているが、タンタルの場合と同様、透光性基板との間で十分なエッチング選択性が得ることは難しい。また、半透光膜のCD面内均一性も良好とは言い難いという問題もある。
【0016】
近年のFPDデバイスの低価格化競争は厳しくなる一方であり、多階調マスクの製造コストの抑制も重要な課題となっている。このような背景から、マスクブランクを用いて作製された多階調マスクにおいて修正が困難なパターン欠陥が発見された該多階調マスクを不良品としてそのまま廃棄せずに、基板上から薄膜を剥離除去して基板を再生する方法が要望されている。
このような基板表面に発生したダメージを完全に除去して基板を再生するには、再研磨し、しかも研磨取代を多く取る必要がある。成膜前のガラス基板の表面研磨は、通常、粗研磨から精密研磨に至る複数段階の研磨工程を経て行われている。再研磨する場合、上記のように研磨取代を多く取る必要があるため、複数段階の研磨工程のうちの初期段階へ戻す必要が生じ、再研磨加工に長時間を要するので、再研磨の工程負荷が大きく、コストが高くなる。つまり、上記のタンタルを主成分とする材料からなる半透光膜に対してアルカリ水溶液を用いてウェットエッチングする工程を含む製造方法によって多階調マスクを製造する場合、得られたマスクにおいて修正が困難なパターン欠陥が発見された該マスクを不良品としてそのまま廃棄せずに、基板上から遮光膜および半透光膜を前記のエッチング液で剥離除去して基板を再生する場合にコストがかかってしまう。
【0017】
また、金属およびケイ素を主成分とする材料からなる半透光膜を有する多階調マスクから基板を再生する場合においても、前記のエッチング液で剥離した基板の平坦度の悪化は避けられず、平坦度修正のために研磨取り代を多くとる必要が生じるため、基板を再生する場合にコストがかかってしまう。
【0018】
そこで本発明は、このような従来の種々の問題点に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、大がかりで非常に高価なドライエッチング装置を必要とせず、半透光膜にパターンを形成したときのCD面内均一性がウェットエッチングの場合よりも高く、基板を再生する場合の再研磨の工程負荷が少なくなることで基板の再生コストを低減でき、特に、タンタルを主成分とする半透光膜の場合においては、マスク製造段階での基板表面にピット状の凹部が発生することを抑制できる多階調マスクの製造方法、およびこの多階調マスクの製造方法で使用するエッチング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者は、上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、金属およびケイ素を含有する材料、またはタンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、タングステン(W)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、イットリウム(Y)、ロジウム(Rh)、ニオブ(Nb)、ランタン(La)、パラジウム(Pd)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)およびスズ(Sn)から選ばれる1以上の金属を含有する材料からなる半透光膜をエッチングする際、特定のフッ素系化合物、すなわち塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)、およびキセノン(Xe)のうちのいずれかの元素とフッ素(F)との化合物(以下、本発明のフッ素系化合物と呼ぶ。)を含む非励起状態の物質を用いることにより、ウェットエッチングの場合よりもエッチング後の半透光膜パターンのCD面内均一性を高くすることができることを見出した。特に、タンタルを含有する材料からなる半透光膜をエッチングする場合においては、本発明のフッ素系化合物を含む非励起状態の物質を用いることにより、半透光膜がエッチングにより除去された後の基板の表面にピット状の凹欠陥が発生することを抑制できることを見い出した。
【0020】
本発明者は、以上の解明事実に基づき、さらに鋭意研究を続けた結果、本発明を完成したものである。
すなわち、上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
(構成1)
透光性基板上に、遮光部、透光部、および露光光の一部を透過する半透光部からなる転写パターンを有する多階調マスクの製造方法において、透光性基板上に、金属およびケイ素を含有する材料、またはタンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、タングステン(W)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、イットリウム(Y)、ロジウム(Rh)、ニオブ(Nb)、ランタン(La)、パラジウム(Pd)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)およびスズ(Sn)から選ばれる1以上の金属を含有する材料からなる半透光膜と、クロム(Cr)を含有する材料からなる遮光膜とをこの順に積層したマスクブランクを用意する工程と、前記遮光膜に透光部のパターンを形成する工程と、前記遮光膜に形成された透光部のパターンをマスクとして、前記半透光膜を、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)、およびキセノン(Xe)のうちのいずれかの元素とフッ素(F)との化合物を含む非励起状態の物質によってエッチングする工程と、前記遮光膜に遮光部のパターンを形成する工程とを有することを特徴とする多階調マスクの製造方法である。
(構成2)
前記遮光膜に透光部のパターンを形成する工程は、前記遮光膜上に形成された透光部のパターンを有するレジスト膜をマスクとしたウェットエッチングによって行うことを特徴とする構成1に記載の多階調マスクの製造方法である。
【0021】
(構成3)
透光性基板上に、遮光部、透光部、および露光光の一部を透過する半透光部からなる転写パターンを有する多階調マスクの製造方法において、透光性基板上に、金属およびケイ素を含有する材料、またはタンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、タングステン(W)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、イットリウム(Y)、ロジウム(Rh)、ニオブ(Nb)、ランタン(La)、パラジウム(Pd)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)およびスズ(Sn)から選ばれる1以上の金属を含有する材料からなる半透光膜と、クロム(Cr)を含有する材料からなる遮光膜とをこの順に積層したマスクブランクを用意する工程と、前記遮光膜に遮光部のパターンを形成する工程と、前記遮光膜および半透光膜上に透光部のパターンを有するレジスト膜を形成する工程と、前記レジスト膜に形成された透光部のパターンをマスクとして、前記半透光膜を、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)、およびキセノン(Xe)のうちのいずれかの元素とフッ素(F)との化合物を含む非励起状態の物質によってエッチングする工程と、を有することを特徴とする多階調マスクの製造方法である。
【0022】
(構成4)
前記遮光膜に遮光部のパターンを形成する工程は、前記遮光膜上に形成された遮光部のパターンを有するレジスト膜をマスクとしたウェットエッチングによって行うことを特徴とする構成1乃至3のいずれか一項に記載の多階調マスクの製造方法である。
【0023】
(構成5)
前記非励起状態の物質は、ClFガスであることを特徴とする構成1乃至4のいずれか一項に記載の多階調マスクの製造方法である。
(構成6)
前記半透光膜中の金属は、モリブデン(Mo)であることを特徴とする構成1乃至5のいずれか一項に記載の多階調マスクの製造方法である。
【0024】
(構成7)
前記遮光膜は、さらに窒素を含有する材料からなることを特徴とする構成1乃至6のいずれか一項に記載の多階調マスクの製造方法である。
(構成8)
前記透光性基板は合成石英ガラスからなることを特徴とする構成1乃至7のいずれか一項に記載の多階調マスクの製造方法である。
(構成9)
構成1乃至8のいずれかに記載の多階調マスクの製造方法で用いられるエッチング装置であって、前記マスクブランクを設置するステージを有するチャンバーと、前記チャンバー内に非励起状態の物質を供給する非励起物質供給機と、前記チャンバー内から気体を排出する気体排出機とからなることを特徴とするエッチング装置である。
【発明の効果】
【0025】
本発明の多階調マスクの製造方法によれば、金属およびケイ素を含有する材料、またはタンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、タングステン(W)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、イットリウム(Y)、ロジウム(Rh)、ニオブ(Nb)、ランタン(La)、パラジウム(Pd)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)およびスズ(Sn)から選ばれる1以上の金属を含有する材料からなる半透光膜は、本発明のフッ素系化合物を含む非励起状態の物質に対してエッチングレートが高く、透光性基板の材料であるガラスは、この非励起状態のフッ素系化合物の物質に対するエッチングレートが大幅に低く、前記金属を含有する材料からなる半透光膜との間で高いエッチング選択性が得られる。これにより、この非励起状態のフッ素系化合物の物質で多階調マスクの透光部となる部分の半透光膜をエッチング除去して多階調マスクを作製した場合、半透光膜パターンのCD面内均一性をウェットエッチングの場合に比べて、向上させることができる。
特に、タンタルを含有する材料からなる半透光膜の場合においては、半透光膜をエッチング除去後、基板表面に発生するピット状の凹欠陥を抑制することができる。これにより、透光部の露光光透過率の面内均一性を高くすることができ、この多階調マスクを用いて被転写体のフォトレジスト膜にパターンを露光転写した場合におけるフォトレジスト膜現像後の残膜量も高い精度で制御することができる。
本発明によれば、フッ素系化合物を含む非励起状態の物質によるエッチングを適用しているため、エッチングを行うチャンバー内はある程度の低圧にできれば十分機能する。このため、ドライエッチング装置のような高真空用の大型チャンバーや、基板主表面全面にプラズマを発生させるための大掛かりなプラズマ発生装置が不要となり、大幅な生産コスト低減を図ることができる。また、高品質の基板を低コストで再生することができるので、特に高付加価値を備えた高価な基材を用いた多階調マスクの基板再生に好適である。
さらに、本発明のエッチング装置を用いることにより、上記の多階調マスクの製造方法を容易に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】多階調マスクを用いたパターン転写方法を説明するための概略断面図である。
【図2】多階調マスクの製造工程を示す概略断面図である。
【図3】多階調マスクの製造工程の別の形態を示す概略断面図である。
【図4】半透光膜のエッチング工程に用いるエッチング装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態を詳述する。
図1は、多階調マスクを用いたパターン転写方法を説明するための概略断面図である。図1に示す本発明の多階調マスク20は、例えば液晶表示装置(LCD)の薄膜トランジスタ(TFT)やカラーフィルタ、またはプラズマディスプレイパネル(PDP)などのFPDデバイスを製造するために用いられるものであり、この多階調マスク20を用いて、図1に示す被転写体30上へパターン転写を行うことにより、膜厚が段階的または連続的に異なるレジストパターン33を形成するものである。なお、図1中において符号32A、32Bは、被転写体30において基板31上に積層された膜を示す。
【0028】
上記多階調マスク20は、具体的には、当該多階調マスク20の使用時に露光光を遮光(透過率が略0%)させる遮光部21と、透光性基板1の表面が露出した露光光を透過させる透光部22と、透光部の露光光透過率を100%としたとき透過率を10〜80%、好ましくは20〜60%程度に低減させる半透光部23とを有して構成される。半透光部23は、ガラス基板等の透光性基板1上に光半透過性の半透光膜2が形成されて構成される。また、遮光部21は、透光性基板1上に上記半透光膜2および遮光膜3が積層されて構成される。なお、図1に示す遮光部21、透光部22、及び半透光部23のパターン形状はあくまでも代表的な一例であって、本発明をこれに限定する趣旨ではないことは勿論である。
【0029】
本発明においては、上記半透光膜2としては、金属およびケイ素(Si)を含有する材料、またはタンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、タングステン(W)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、イットリウム(Y)、ロジウム(Rh)、ニオブ(Nb)、ランタン(La)、パラジウム(Pd)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)およびスズ(Sn)から選ばれる1以上の金属を含有する材料が用いられ、上記遮光膜3としては、クロム(Cr)を含有する材料が用いられる。
上記遮光部21は、遮光膜3および半透光膜2のそれぞれの膜材質と膜厚との選定によって、好ましくは遮光膜3と半透光膜2の積層構造での光学濃度(OD)を2.8以上(露光光に対する透過率が約0.16%以下)に設定される。また、遮光膜3と半透光膜2の積層構造での光学濃度(OD)を3.0以上(露光光に対する透過率が0.1%以下)に設定すると最適である。上記半透光部23の透過率は、半透光膜2の膜材質と膜厚との選定によって設定される。
【0030】
なお、多階調マスク20を用いた露光転写の露光光として超高圧水銀ランプの多色光を光源に使用される場合においては、遮光部21、半透光部23等の光学濃度や透過率は、少なくとも露光光のピーク波長であるi線(波長365nm)、h線(波長405nm)およびg線(波長436nm)のうち少なくとも1つの波長で前記所定の光学濃度や透過率になるように調整する必要がある。また、i線、h線およびg線のいずれの波長においても所定の光学濃度や所定範囲の透過率を満たすように調整することがより望ましい。
【0031】
上述のような多階調マスク20を使用したときに、遮光部21では露光光が実質的に透過せず、半透光部23では露光光が低減されるため、被転写体30上に形成したレジスト膜(例えばポジ型レジスト膜)は、転写後、現像を経たとき遮光部21に対応する部分で膜厚が厚くなり、半透光部23に対応する部分で膜厚がそれよりも薄くなり、透光部22に対応する部分では残膜が実質的に生じない3階調のレジストパターン33を形成する(図1を参照)。このレジストパターン33において、半透光部23に対応する部分で膜厚が薄くなる効果をグレートーン効果という。なお、ネガ型レジストを用いた場合には、遮光部と透光部に対応するレジスト膜厚が逆転することを考慮した設計を行う必要がある。
【0032】
そして、図1に示すレジストパターン33の膜のない部分で、被転写体30における例えば膜32A及び32Bに第1エッチングを実施し、レジストパターン33の膜の薄い部分をアッシング等によって除去しこの部分で、被転写体30における例えば膜32Bに第2エッチングを実施する。このようにして、1枚の多階調マスク20を用いて従来のフォトマスク2枚分の工程が実施されることになり、マスク枚数が削減される。
【0033】
なお、図1に示す多階調マスク20は、透光性基板1上に、遮光部21、透光部22、および所定の露光光透過率を有する1つの半透光部23からなる転写パターンを有する3階調マスクであるが、露光光透過率の異なる複数の半透光部を、遮光部、透光部とともに備えることにより、さらに多い4階調以上のマスクとすることができる。
【0034】
次に、本発明の多階調マスクの製造方法について説明する。
図2は、多階調マスクの製造工程を工程順に示す概略断面図である。
本実施の形態では、上述の図1に示すような遮光部、透光部および半透光部を備えた3階調マスクを例として説明する。
本実施の形態に使用するマスクブランク10は、透光性基板1上に、金属およびケイ素(Si)を含有する材料、またはタンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、タングステン(W)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、イットリウム(Y)、ロジウム(Rh)、ニオブ(Nb)、ランタン(La)、パラジウム(Pd)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)およびスズ(Sn)から選ばれる1以上の金属を含有する材料からなる半透光膜2と、クロム(Cr)を含有する材料からなる遮光膜3がこの順に積層され、その上にレジストを塗布してレジスト膜4が形成されている(図2(a)参照)。本実施の形態においては、製造される3階調マスクにおける遮光部の透過率は、上記遮光膜3と半透光膜2の積層によって決定され、それぞれの膜材質と膜厚との選定によって、総和として光学濃度2.8以上に設定されるのが好ましく、3.0以上に設定すると最適である。また、3階調マスクにおける半透光部の透過率は、上記半透光膜2の膜材質と膜厚との選定によって設定され、要求される設計値にもよるが、通常、透光部の露光光透過率を100%としたとき、透過率は例えば10〜80%、好ましくは20〜60%程度に設定されるのが好適である。
【0035】
上記マスクブランク用の透光性基板1は、使用する露光波長に対して透明性を有するものであれば特に制限されず、合成石英基板、その他各種のガラス基板(例えば、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス等)が用いられるが、この中でも合成石英基板が特に好ましく用いられる。また、多階調マスクブランクで用いられる透光性基板1は、一般的に一辺が500mm以上である。現状では、基板の短辺×長辺が500mm×800mm〜2140mm×2460mmの範囲の様々なサイズがあり、厚さも10mm〜15mmの範囲のサイズがある。
【0036】
上記半透光膜2に、金属およびケイ素(Si)を含有する材料を用いる場合、適用可能な金属としては、Mo、Hf、Zr、Ge、Sn、W、Zn、Ni、Y、Ti、V、Rh、Nb、La、Pd、Fe、Ge、Al等が挙げられる。特に、Mo、Hf、Zr、W、Ti、V、Nb、Alを適用した場合、半透光膜を本発明のフッ素系化合物を含む非励起状態の物質によってエッチングする際のエッチングレートを上げることができ、また半透光膜の露光光透過率の波長依存性(特にi線〜g線の波長領域)を小さくすることができ、好ましい。これらの材料の半透光膜2における金属(M)とケイ素(Si)の比率は、M:Si=1:2〜1:19の範囲が好ましい。上記半透光膜2は、遷移金属およびケイ素を含有する材料であると、遷移金属シリサイドを形成するためより望ましい。特に、遷移金属の中でもモリブデン(Mo)が好適である。半透光膜2に、モリブデン(Mo)とケイ素(Si)を含有する材料の半透光膜2におけるモリブデン(Mo)とケイ素(Si)の比率は、Mo:Si=1:2〜1:19の範囲が好ましい。
【0037】
金属およびケイ素(Si)を含有する材料を用いる半透光膜2は、さらに窒素を含有する材料としてもよい。窒素を含有させることで、膜の結晶粒径が微細化され、膜応力が低減され、透光性基板1との密着性が向上する効果がある。金属およびケイ素(Si)を含有する材料に、窒素や炭素等の元素を含有させる場合、これらの元素の含有量は、40原子%以下、さらには30原子%以下とすることが好ましい。これにより、半透光膜2を本発明のフッ素系化合物を含む非励起状態の物質によってエッチングする際のエッチングレートを上げることができる。
【0038】
上記半透光膜2にタンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、タングステン(W)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、イットリウム(Y)、ロジウム(Rh)、ニオブ(Nb)、ランタン(La)、パラジウム(Pd)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)およびスズ(Sn)から選ばれる1以上の金属を含有する材料を適用する場合、これらの金属単体や合金のほかに、その金属単体や合金の窒化物、酸化物、酸窒化物などが挙げられる。また、前記に示された金属のうち、Ta、Mo、Hf、Zr、W、Ti、V、Nb、Alのいずれかの金属単体やこれらから選ばれる金属の合金を、半透光膜2に含有させる金属として適用した場合、半透光膜2を本発明のフッ素系化合物を含む非励起状態の物質によってエッチングする際のエッチングレートをさらに上げることができ、好ましい。
【0039】
本発明においては、半透光膜2の材料として、タンタル(Ta)を含有する材料が特に好ましい。タンタル単体のほかに、タンタル窒化物(TaN)、タンタル酸化物(TaO)、タンタル酸窒化物(TaNO)などが挙げられる。また、本発明においては、タンタルと、ケイ素およびホウ素から選ばれる1以上の元素を含有する材料も好ましい。具体的には、タンタルとケイ素を含む材料として、TaSi、TaSiN、TaSiO、TaSiONなど、タンタルとホウ素を含む材料として、TaB、TaBN、TaBO、TaBONなど、タンタルとケイ素とホウ素を含む材料として、TaSiB、TaSiBN、TaSiBO、TaSiBONなどが挙げられる。
【0040】
タンタルを含有する材料中に、ホウ素を含有することにより、半透光膜における露光光透過率の波長依存性(とくにi線〜g線の波長領域)が小さくなる。この場合、ホウ素の含有量は、40原子%以下であることが好ましい。
【0041】
また、タンタルを含有する材料中に、さらに窒素や炭素等の元素を含有する場合、これらの元素の含有量は、40原子%以下、さらには30原子%以下とすることが好ましい。これにより、半透光膜2を本発明のフッ素系化合物を含む非励起状態の物質によってエッチングする際のエッチングレートを上げることができる。
【0042】
上記遮光膜3は、クロム(Cr)を含有する材料からなるが、クロム単体のほかに、クロムに窒素、酸素、炭素等の元素を含有する材料、例えば、CrN、CrO、CrC、CrON、CrCN、CrOC、CrOCNなどが挙げられる。とりわけ、クロムを含有する材料中に窒素を含有することが好ましい。窒素を含有することにより遮光膜をウェットエッチングする際に用いられるエッチャントに対するエッチングレートが速くなり、遮光膜上に形成された遮光部のパターンを有するレジスト膜をマスクとして、遮光膜をウェットエッチングする際に、遮光膜と半透光膜とのエッチング選択性をより高められ、遮光膜の下の半透光膜のダメージをより抑制することができる。クロムを含有する遮光膜中に窒素を含有させる場合、窒素の含有量は、15〜60原子%の範囲が好ましい。窒素の含有量が15原子%未満であると、上述の効果が十分に得られない。一方、60原子%を超える含有量であると、超高圧水銀ランプを露光光の光源とする場合、i線からg線にわたる波長帯域で、所定の光学濃度とするには膜厚を厚くする必要が生じ、遮光部のパターンを形成するときのCD精度が低下するという問題が生じる。さらに、この遮光膜をエッチングマスクとして半透光部のパターンを形成するときのCD精度も低下してしまう。
【0043】
次に、上記マスクブランク10を用いた多階調(3階調)マスクの製造工程を説明する。
まず、1度目の描画を行う。描画には、本実施の形態ではレーザー光(例えば400〜450nmの範囲内の所定波長光)を用いる。レジストとしてはポジ型レジストを使用する。遮光膜3上のレジスト膜4に対し、所定のデバイスパターン(透光部のパターン、すなわち遮光部および半透光部に対応する領域にレジストパターンを形成するような描画パターン)を描画し、描画後に現像を行うことにより、透光部のパターンを有するレジストパターン4aを形成する(図2(b)参照)。
【0044】
次に、上記レジストパターン4aをマスクとして、遮光膜3をエッチングすることにより、透光部の領域に対応する半透光膜2を露出させ、遮光膜3に透光部のパターンを形成する(図2(c)参照)。クロムを含有する材料からなる遮光膜3を用いた場合、エッチング手段としては、ドライエッチングもしくはウェットエッチングのどちらでも可能であるが、本実施の形態ではウェットエッチングを用いた。特に大型基板サイズのマスク製造においては、ウェットエッチングが好適である。ウェットエッチングに用いるエッチング液としては、たとえば、硝酸第2セリウムアンモニウムと過塩素酸の混合液などが用いられる。残存するレジストパターン4aは除去する(図2(d)参照)。
【0045】
次いで、上記遮光膜3に形成された透光部のパターンをマスクとして、露出した透光部領域上の半透光膜2をエッチングして、透光部を形成する(図2(e)参照)。
かかる半透光膜2のエッチング工程においては、上記遮光膜3に形成された透光部のパターンをエッチングマスクとして用いるため、半透光膜2のエッチングに用いるエッチャントに対する遮光膜3と半透光膜2との間のエッチング選択性が必要であり、なお且つ、半透光膜2が除去された後の基板(ガラス基板)表面のダメージを少なくするためには、半透光膜2のエッチングに用いるエッチャントに対する半透光膜2と透光性基板1との間のエッチング選択性も必要になってくる。
【0046】
本発明においては、半透光膜2のエッチングに用いるエッチャントとして、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)、およびキセノン(Xe)のうちのいずれかの元素とフッ素(F)との化合物(本発明のフッ素系化合物と呼ぶ。)を含む非励起状態の物質を適用することが特徴である。
非励起状態の本発明のフッ素系化合物の物質に対しては、クロムを含有する材料からなる上記遮光膜3と金属およびケイ素を含有する材料、またはタンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、タングステン(W)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、イットリウム(Y)、ロジウム(Rh)、ニオブ(Nb)、ランタン(La)、パラジウム(Pd)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)およびスズ(Sn)から選ばれる1以上の金属を含有する材料からなる上記半透光膜2との間で高いエッチング選択性を得ることができる。
また、透光性基板1として用いるガラス基板は、ドライエッチングで用いられる励起状態であるフッ素系ガスのプラズマにはエッチングされやすいが、非励起状態の本発明のフッ素系化合物の物質に対してはエッチングされにくい特性を有している。従って、非励起状態の本発明のフッ素系化合物の物質に対しては、ガラス基板と上記半透光膜2との間で高いエッチング選択性を得ることができる。
【0047】
上記本発明のフッ素系化合物としては、例えば、ClF、ClF、BrF、BrF、IF、IF、又はXeF等の化合物を好ましく用いることができる。この中でも、本発明においては特にClFを好ましく用いることができる。
この非励起状態のフッ素系化合物の物質は、流体の状態で接触させるとよく、特にガス状態で接触させることが好ましい。
【0048】
上記半透光膜2のエッチング工程において、半透光膜2を本発明のフッ素系化合物を含む非励起状態の物質に接触させる方法としては、例えばチャンバー内に処理基板(つまり、図2(d)に示す状態の基板を説明の便宜上、「処理基板」と呼ぶことにする。)を設置し、該チャンバー内に本発明のフッ素系化合物を含む物質をガス状態で導入してチャンバー内を該ガスで置換する方法が好ましく挙げられる。
【0049】
本発明において、本発明のフッ素系化合物を含む物質をガス状態で使用する場合、本発明のフッ素系化合物と窒素ガス、あるいはアルゴン(Ar)、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)、ラドン(Rn)等(以下、単にアルゴン(Ar)等という。)の希ガスとの混合ガスを好ましく用いることができる。
処理基板の半透光膜2を、本発明のフッ素系化合物を含む非励起のガス状態の物質に接触させる場合の処理条件、例えばガス流量、ガス圧力、温度、処理時間については特に制約する必要はないが、本発明の作用を好ましく得る観点からは、半透光膜および遮光膜の材料や膜厚によって適宜選定するのが望ましい。
【0050】
ガス流量については、例えば本発明のフッ素系化合物とアルゴン等との混合ガスを用いる場合、本発明のフッ素系化合物が流量比で1%以上混合されていることが好ましい。本発明のフッ素系化合物の流量が上記流量比よりも少ないと、半透光膜2のエッチングの進行が遅くなり、結果として処理時間が長くなり、サイドエッチ量が大きくなる。
【0051】
また、ガス圧力については、例えば、100〜760Torrの範囲で適宜選定することが好ましい。ガス圧力が上記範囲よりも低いと、チャンバー内の本発明のフッ素系化合物のガス量自体が少なすぎて半透光膜2のエッチングの進行が遅くなり、結果として処理時間が長くなり、サイドエッチ量が大きくなる。一方、ガス圧力が上記範囲よりも高い(大気圧以上である)と、ガスがチャンバーの外に流出する恐れがあり、本発明のフッ素系化合物には毒性の高いガスも含まれるため、好ましくない。
【0052】
また、ガスの温度については、例えば、50〜250℃の範囲で適宜選定することが好ましい。温度が上記範囲よりも低いと、半透光膜2のエッチングの進行が遅くなり、結果として処理時間が長くなり、サイドエッチ量が大きくなる。一方、温度が上記範囲よりも高いと、エッチングが早く進行し、処理時間は短縮できるものの、半透光膜と基板との選択性が得られにくくなり、基板ダメージがやや大きくなる恐れがある。
【0053】
さらに、処理時間については、基本的には半透光膜2のエッチングが完了するのに十分な時間であればよい。本発明の場合、上述のガス流量、ガス圧力、温度によっても、或いは半透光膜の材料、膜厚によっても多少異なるが、概ね20秒〜300秒の範囲で本発明の作用が好ましく得られる。
【0054】
図4は、以上の半透光膜のエッチング工程に用いるのに好適なエッチング装置の概略構成図である。
このエッチング装置では、ガス充填容器43,44、流量制御器45,46、噴出ノズル47およびこれらの接続配管で、非励起ガス供給機が構成されている。処理基板(マスクブランク)41は、処理装置のチャンバー40内のステージ42上に設置される。そして、例えば2種類のガス充填容器43,44内のガスがそれぞれ流量制御器45,46で流量が調節された後、混合され、噴出ノズル47から噴出されチャンバー40内に導入される。また、チャンバー40内のガスは、排気管48を通って排気ポンプ(気体排出機)49で適宜排気される。
上記2種類のガスは、本発明のフッ素系化合物を含む物質をガス状態で使用する場合、本発明のフッ素系化合物と窒素ガス、あるいはアルゴン(Ar)等の希ガスである。
【0055】
なお、この工程の前の遮光膜3のエッチング工程を終えた段階において、レジストパターン4aを除去したが、残したままで半透光膜2のエッチング工程を行ってもよい。この場合、遮光膜3の表面が非励起状態のフッ素系化合物の物質にさらされることから保護できる。他方、レジストパターン4aを除去する場合においては、非励起状態のフッ素系化合物の物質が主表面内でより均一に供給されるため、パターン精度をより高くすることができる。
【0056】
次に、上述の半透光膜2のエッチング工程を終えた基板全面に前記と同じレジスト膜を形成し(レジストパターン4aを除去しなかった場合は、レジスト膜形成前に除去する)、2度目の描画を行う。2度目の描画では、遮光部領域上にレジストパターンが形成されるように所定のパターンを描画する。描画後、現像を行うことにより、遮光部に対応する領域上にレジストパターン4bを形成する(図2(f)参照)。
【0057】
次いで、上記レジストパターン4bをマスクとして、露出した半透光部領域上の遮光膜3をエッチングして、遮光膜3に遮光部に対応するパターンを形成する。この場合のエッチング手段としては、前と同じくウェットエッチングが好適である。そしてこれにより、半透光部領域上の半透光膜2が露出し、半透光部が形成される(図2(g)参照)。そして、残存するレジストパターン4bは除去する。
こうして、透光性基板1上に、半透光膜2と遮光膜3との積層膜によりなる遮光部21、透光性基板1が露出する透光部22、及び半透光膜2によりなる半透光部23を有する3階調マスク20が出来上がる(図2(h)参照)。
【0058】
以上説明した本発明の多階調マスクの製造方法によれば、金属およびケイ素を含有する材料、またはタンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、タングステン(W)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、イットリウム(Y)、ロジウム(Rh)、ニオブ(Nb)、ランタン(La)、パラジウム(Pd)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)およびスズ(Sn)から選ばれる1以上の金属を含有する材料からなる半透光膜は、本発明のフッ素系化合物を含む非励起状態(好ましくは非励起でガス状態)の物質に対してエッチングレートが高く、透光性基板の材料であるガラスは、この非励起状態のフッ素系化合物の物質に対するエッチングレートが大幅に低く、上記材料からなる半透光膜との間で高いエッチング選択性が得られる。これにより、この非励起状態のフッ素系化合物の物質で多階調マスクの透光部となる部分の半透光膜をエッチング除去して多階調マスクを作製した場合、半透光膜パターンのCD面内均一性をウェットエッチングの場合に比べて、向上させることができる。
特に、タンタルを含有する材料からなる半透光膜の場合においては、半透光膜をエッチング除去後、基板表面に発生するピット状の凹欠陥を抑制することができる。これにより、透光部の露光光透過率の面内均一性を高くすることができ、この多階調マスクを用いて被転写体のフォトレジスト膜にパターンを露光転写した場合におけるフォトレジスト膜現像後の残膜量も高い精度で制御することができる。
【0059】
また、本発明のフッ素系化合物を含む非励起状態の物質によるエッチングを適用しているため、エッチングを行うチャンバー内はある程度の低圧にできれば十分機能する。このため、ドライエッチング装置のような高真空用の大型チャンバーや、基板主表面全面にプラズマを発生させるための大掛かりなプラズマ発生装置が不要となり、大幅な生産コスト低減を図ることができる。
さらに、半透光膜がエッチングにより除去された後の基板のダメージを少なくすることができる。そのため、もし基板を再生する場合にも、再研磨の工程負荷が少なくなることで、基板の再生コストを低減することができる。本発明によれば、高品質の基板を低コストで再生することができるので、特に高付加価値を備えた高価な基材を用いた多階調マスクの基板を再生するのに好適である。
また、前述の本発明のエッチング装置を用いることにより、上記の多階調マスクの製造方法を容易に実現できる。
【0060】
次に、本発明の多階調マスクの製造方法の別の形態について説明する。
図3は、図2で示したものとは異なる工程である多階調マスクの製造工程について、工程順に示している概略断面図である。図2(h)の3階調マスクと図3(f)の3階調マスクとは基本的に同じ構成となっているが、製造プロセスが一部異なっている。
図2の多階調マスクの製造方法と異なる点は、1度目のレジスト膜4への描画および現像で、遮光部のパターンを有するレジストパターン4bを形成すること(図3(b)参照)、そのレジストパターン4bをマスクとして、遮光膜3をエッチングすることによって、遮光部のパターンを形成すること(図3(c)参照)、さらに遮光膜3に遮光部のパターンを形成後、遮光膜3および半透光膜2上にレジスト膜を形成し、2度目の描画および現像で透光部のパターンを有するレジストパターン4aを形成すること(図3(d)参照)、そして、そのレジストパターン4aをマスクとして、半透光膜2をエッチングすることによって、透光部のパターンを形成すること(図3(e)参照)である。
【0061】
この図3に示す多階調マスクの製造工程の場合、遮光膜3を一度エッチングするだけで遮光部を形成することができるというメリットがある。ただし、有機系材料のレジストパターン4aをマスクとして、半透光膜2に透光部のパターンをエッチング形成するため、図2の製造工程のように金属系材料の遮光膜3をマスクとして、半透光膜2に透光部のパターンをエッチング形成する場合に比べて、パターン精度が若干下がる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。併せて、実施例に対する比較例についても説明する。
(実施例1)
合成石英ガラスからなる透光性基板(1220mm×1400mm×13mm)上に、スパッタ装置を用いて、スパッタターゲットにモリブデン(Mo)とケイ素(Si)の混合焼結ターゲット(Mo:Si=20:80,原子%比)を用い、アルゴン(Ar)ガス雰囲気で、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、MoSi半透光膜を成膜した。なお、i線(365nm)の波長において透過率が40%となるように膜厚は5nmとした。
【0063】
次に、上記半透光膜の上に、スパッタターゲットにクロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)と窒素(N)との混合ガス雰囲気で、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、膜厚15nmのCrN層を成膜し、次いで、アルゴン(Ar)とメタン(CH)と窒素(N)との混合ガス雰囲気で、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、膜厚65nmのCrCN層を成膜し、次いで、アルゴン(Ar)と一酸化窒素(NO)との混合ガス雰囲気で、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、膜厚25nmのCrON層を成膜し、合計膜厚105nmのクロム系遮光膜を形成した。この遮光膜は、各層が組成傾斜した構造の膜であり、上記半透光膜との積層構造でi線(365nm)の波長において光学濃度3.0となるように調整されている。
以上のようにして、透光性基板上にモリブデンシリサイド系半透光膜とクロム系遮光膜をこの順に積層したマスクブランクを作製した。
【0064】
次に、前述の図2の工程に従い、このマスクブランクを用いて3階調マスクを作製した。
まず、レーザー光(波長412nm)を用いて1度目の描画を行った。レジストとしてはポジ型レジストを使用した。遮光膜上に塗布したレジスト膜に対し、所定のデバイスパターンを描画し、描画後に現像を行うことにより、透光部のパターンを有するレジストパターンを形成した(図2(b)参照)。
【0065】
次に、上記レジストパターンをマスクとして、遮光膜をウェットエッチングすることにより、透光部の領域に対応する半透光膜を露出させ、遮光膜に透光部のパターンを形成した(図2(c)参照)。エッチング液には、硝酸第2セリウムアンモニウムと過塩素酸を含むエッチング液を常温で使用した。エッチング後、残存するレジストパターン4aを除去した(図2(d)参照)。
【0066】
次いで、上記遮光膜に形成された透光部のパターンをマスクとして、露出した透光部領域上の半透光膜をエッチングして、基板表面が露出した透光部を形成した(図2(e)参照)。
この半透光膜のエッチングは、前述の図4に示すエッチング装置を用いて行った。すなわち、チャンバー内に上記遮光膜に透光部のパターンを形成した状態の基板を設置し、該チャンバー内に、ClFとArの混合ガス(流量比 ClF:Ar=0.2:1.8(SLM))を導入してチャンバー内を該ガスで置換することにより、上記透光部領域上に露出した半透光膜を非励起状態の上記混合ガスに接触させるようにした。この時のガス圧力は488〜502Torr、温度は195〜202℃に調節し、処理時間(エッチング時間)は36秒とした。
【0067】
次に、上述の半透光膜のエッチング工程を終えた基板全面に前記と同じポジ型レジスト膜を形成し、2度目の描画を行った。2度目の描画では、遮光部領域上にレジストパターンが形成されるように所定のパターンを描画し、描画後、現像を行うことにより、遮光部に対応する領域上にレジストパターンを形成した(図2(f)参照)。
【0068】
次いで、上記レジストパターンをマスクとして、露出した半透光部領域上の遮光膜をウェットエッチングして、遮光膜に遮光部に対応するパターンを形成した。この場合のエッチング液は上記と同じエッチング液を用いた。これにより、半透光部領域上の半透光膜が露出し、半透光部が形成された(図2(g)参照)。そして、残存するレジストパターンを前と同じ方法で除去した。
こうして、ガラス基板上に、半透光膜と遮光膜との積層膜によりなる遮光部、ガラス基板が露出する透光部、及び半透光膜によりなる半透光部を有する3階調マスクを作製した(図2(h)参照)。
【0069】
作製した3階調マスクについて、エッチングにより半透光膜を除去した透光部領域のガラス基板の表面を電子顕微鏡にて観察したところ、半透光膜の残渣や、白濁などの変質層の発生は確認されなかった。透光部領域のガラス基板の表面反射率(200〜700nm)を測定したが、成膜前の基板と変化はなく、ピット状の凹欠陥も発見されなかった。基板の表面粗さに起因する露光光透過率の低下も少なく、面内の露光光透過率分布の均一性も高かった。半透光部(半透光膜パターン)のCD面内均一性も良好であることが確認できた。
また、作製した3階調マスクを用いて被転写体のフォトレジスト膜に超高圧水銀ランプを露光光源とし、パターンの露光転写を行ったところ、フォトレジスト膜現像後の残膜量も高い精度で制御することができていることが確認できた。
また、作製した3階調マスクの透光部における基板主表面の表面粗さは、この3階調マスクの基板を再生する場合、基板表面を再精密研磨(通常の研磨工程のうちの最終段階)することによって容易に表面粗さを回復することができるレベルであった。
【0070】
(実施例2)
合成石英ガラスからなる透光性基板(1220mm×1400mm×13mm)上に、スパッタ装置を用いて、スパッタターゲットにタンタル(Ta)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)ガス雰囲気で、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、Ta半透光膜を成膜した。なお、i線(365nm)の波長において透過率が40%となるように膜厚は4nmとした。
【0071】
次に、上記半透光膜の上に、スパッタターゲットにクロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)と窒素(N)との混合ガス雰囲気で、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、膜厚15nmのCrN層を成膜し、次いで、アルゴン(Ar)とメタン(CH)と窒素(N)との混合ガス雰囲気で、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、膜厚65nmのCrCN層を成膜し、次いで、アルゴン(Ar)と一酸化窒素(NO)との混合ガス雰囲気で、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、膜厚25nmのCrON層を成膜し、合計膜厚105nmのクロム系遮光膜を形成した。この遮光膜は、各層が組成傾斜した構造の膜であり、上記半透光膜との積層構造でi線(365nm)の波長において光学濃度3.0となるように調整されている。
以上のようにして、透光性基板上にタンタル系半透光膜とクロム系遮光膜をこの順に積層したマスクブランクを作製した。
【0072】
次に、前述の図2の工程に従い、このマスクブランクを用いて3階調マスクを作製した。
まず、レーザー光(波長412nm)を用いて1度目の描画を行った。レジストとしてはポジ型レジストを使用した。遮光膜上に塗布したレジスト膜に対し、所定のデバイスパターンを描画し、描画後に現像を行うことにより、透光部のパターンを有するレジストパターンを形成した(図2(b)参照)。
【0073】
次に、上記レジストパターンをマスクとして、遮光膜をウェットエッチングすることにより、透光部の領域に対応する半透光膜を露出させ、遮光膜に透光部のパターンを形成した(図2(c)参照)。エッチング液には、硝酸第2セリウムアンモニウムと過塩素酸を含むエッチング液を常温で使用した。エッチング後、残存するレジストパターン4aを除去した(図2(d)参照)。
【0074】
次いで、上記遮光膜に形成された透光部のパターンをマスクとして、露出した透光部領域上の半透光膜をエッチングして、基板表面が露出した透光部を形成した(図2(e)参照)。
この半透光膜のエッチングは、前述の図4に示すエッチング装置を用いて行った。すなわち、チャンバー内に上記遮光膜に透光部のパターンを形成した状態の基板を設置し、該チャンバー内に、ClFとArの混合ガス(流量比 ClF:Ar=0.2:1.8(SLM))を導入してチャンバー内を該ガスで置換することにより、上記透光部領域上に露出した半透光膜を非励起状態の上記混合ガスに接触させるようにした。この時のガス圧力は488〜502Torr、温度は110〜120℃に調節し、処理時間(エッチング時間)は32秒とした。
【0075】
次に、上述の半透光膜のエッチング工程を終えた基板全面に前記と同じポジ型レジスト膜を形成し、2度目の描画を行った。2度目の描画では、遮光部領域上にレジストパターンが形成されるように所定のパターンを描画し、描画後、現像を行うことにより、遮光部に対応する領域上にレジストパターンを形成した(図2(f)参照)。
【0076】
次いで、上記レジストパターンをマスクとして、露出した半透光部領域上の遮光膜をウェットエッチングして、遮光膜に遮光部に対応するパターンを形成した。この場合のエッチング液は上記と同じエッチング液を用いた。これにより、半透光部領域上の半透光膜が露出し、半透光部が形成された(図2(g)参照)。そして、残存するレジストパターンを前と同じ方法で除去した。
こうして、ガラス基板上に、半透光膜と遮光膜との積層膜によりなる遮光部、ガラス基板が露出する透光部、及び半透光膜によりなる半透光部を有する3階調マスクを作製した(図2(h)参照)。
【0077】
作製した3階調マスクについて、エッチングにより半透光膜を除去した透光部領域のガラス基板の表面を電子顕微鏡にて観察したところ、半透光膜の残渣や、白濁などの変質層の発生は確認されなかった。また、透光部領域のガラス基板の表面反射率(200〜700nm)を測定したが、成膜前の基板と変化はなく、ピット状の凹欠陥も発見されなかった。基板の表面粗さに起因する露光光透過率の低下も少なく、面内の露光光透過率分布の均一性も高かった。半透光部(半透光膜パターン)のCD面内均一性も良好であることが確認できた。
また、作製した3階調マスクを用いて被転写体のフォトレジスト膜に超高圧水銀ランプを露光光源とし、パターンの露光転写を行ったところ、フォトレジスト膜現像後の残膜量も高い精度で制御することができていることが確認できた。
また、作製した3階調マスクの透光部における基板主表面の表面粗さは、この3階調マスクの基板を再生する場合、基板表面を再精密研磨(通常の研磨工程のうちの最終段階)することによって容易に表面粗さを回復することができるレベルであった。
【0078】
(比較例1)
実施例2と同じマスクブランクを用いて3階調マスクを作製した。但し、前述の遮光膜に形成された透光部のパターンをマスクとして、露出した透光部領域上の半透光膜をエッチングする工程においては、水酸化ナトリウム溶液(濃度40wt%、温度70℃)をエッチング液として用いた。処理時間(エッチング時間)は10分であった。
これ以外の工程は実施例1と同様にして行い、3階調マスクを作製した。
【0079】
作製した3階調マスクにおける透光部領域のガラス基板の表面を電子顕微鏡にて観察したところ、半透光膜の残渣はとくに観察されなかった。また、基板の表面反射率(200〜700nm)を測定したが、成膜前の基板と比べると反射率が全体的に若干低下していた。透光部領域の基板の表面粗さを原子間力顕微鏡(AFM)にて観察したところ、透光部の基板表面にピット状の凹部が多数形成されていることが確認された。半透光部(半透光膜パターン)のCD面内均一性は、実施例2よりも低いことが確認できた。
【0080】
また、作製した3階調マスクを用いて被転写体のフォトレジスト膜に超高圧水銀ランプを露光光源とし、パターンの露光転写を行ったところ、特にピット状の凹部が形成されている部分での露光光透過光量の低下が大きく、フォトレジスト膜現像後の残膜量の制御もできているとは言い難い結果であった。
また、この3階調マスクの透光部における基板主表面の表面粗さは、この3階調マスクの基板を再生する場合、基板表面を再研磨によりピット状の凹部を除去し、良好な表面粗さを回復させるためには、通常の成膜前の基板研磨工程のうちの最初の段階から再研磨を行う必要があり、再研磨の工程負荷が大きくなる。
【0081】
なお、実施例1および実施例2で作製した3階調マスクを、前記の図3に示した別の形態の工程を有する製造方法でも作製したところ、実施例1および実施例2で作製した3階調マスクほど半透光部のCD面内均一性は高くはないが、比較例1で作製した3階調マスクに比べると、半透光部のCD面内均一性は高いことが確認できた。また、透光部の基板表面にピット状の凹欠陥も発見されず、基板の表面粗さに起因する露光光透過率の低下も少なく、面内の露光光透過率分布の均一性も高いことが確認された。
【符号の説明】
【0082】
1 透光性基板
2 半透光膜
3 遮光膜
4 レジスト膜
10 マスクブランク
20 多階調マスク
21 遮光部
22 透光部
23 半透光部
30 被転写体
31 基板
32A,32B 膜
33 レジストパターン
40 チャンバー
41 処理基板
42 ステージ
43,44 ガス充填容器
45,46 流量制御器
47 噴出ノズル
48 排気管
49 排気ポンプ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性基板上に、遮光部、透光部、および露光光の一部を透過する半透光部からなる転写パターンを有する多階調マスクの製造方法において、
透光性基板上に、金属およびケイ素を含有する材料、またはタンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、タングステン(W)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、イットリウム(Y)、ロジウム(Rh)、ニオブ(Nb)、ランタン(La)、パラジウム(Pd)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)およびスズ(Sn)から選ばれる1以上の金属を含有する材料からなる半透光膜と、クロム(Cr)を含有する材料からなる遮光膜とをこの順に積層したマスクブランクを用意する工程と、
前記遮光膜に透光部のパターンを形成する工程と、
前記遮光膜に形成された透光部のパターンをマスクとして、前記半透光膜を、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)、およびキセノン(Xe)のうちのいずれかの元素とフッ素(F)との化合物を含む非励起状態の物質によってエッチングする工程と、
前記遮光膜に遮光部のパターンを形成する工程と
を有することを特徴とする多階調マスクの製造方法。
【請求項2】
前記遮光膜に透光部のパターンを形成する工程は、前記遮光膜上に形成された透光部のパターンを有するレジスト膜をマスクとしたウェットエッチングによって行うことを特徴とする請求項1に記載の多階調マスクの製造方法。
【請求項3】
透光性基板上に、遮光部、透光部、および露光光の一部を透過する半透光部からなる転写パターンを有する多階調マスクの製造方法において、
透光性基板上に、金属およびケイ素を含有する材料、またはタンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、タングステン(W)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、イットリウム(Y)、ロジウム(Rh)、ニオブ(Nb)、ランタン(La)、パラジウム(Pd)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)およびスズ(Sn)から選ばれる1以上の金属を含有する材料からなる半透光膜と、クロム(Cr)を含有する材料からなる遮光膜とをこの順に積層したマスクブランクを用意する工程と、
前記遮光膜に遮光部のパターンを形成する工程と、
前記遮光膜および半透光膜上に透光部のパターンを有するレジスト膜を形成する工程と、
前記レジスト膜に形成された透光部のパターンをマスクとして、前記半透光膜を、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)、およびキセノン(Xe)のうちのいずれかの元素とフッ素(F)との化合物を含む非励起状態の物質によってエッチングする工程と
を有することを特徴とする多階調マスクの製造方法。
【請求項4】
前記遮光膜に遮光部のパターンを形成する工程は、前記遮光膜上に形成された遮光部のパターンを有するレジスト膜をマスクとしたウェットエッチングによって行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の多階調マスクの製造方法。
【請求項5】
前記非励起状態の物質は、ClFガスであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の多階調マスクの製造方法。
【請求項6】
前記半透光膜中の金属は、モリブデン(Mo)であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の多階調マスクの製造方法。
【請求項7】
前記遮光膜は、さらに窒素を含有する材料からなることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の多階調マスクの製造方法。
【請求項8】
前記透光性基板は合成石英ガラスからなることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の多階調マスクの製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の多階調マスクの製造方法で用いられるエッチング装置であって、
前記マスクブランクを設置するステージを有するチャンバーと、
前記チャンバー内に非励起状態の物質を供給する非励起物質供給機と、
前記チャンバー内から気体を排出する気体排出機と
からなることを特徴とするエッチング装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−227223(P2011−227223A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95698(P2010−95698)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】