説明

大入熱溶接の溶接継手

【課 題】 溶接入熱が 100kJ/cm以上の大入熱溶接によって鋼板を溶接して得られる溶接金属と溶接熱影響部の低温靭性を向上した溶接継手を提供する。
【解決手段】 溶接入熱が 100kJ/cm以上の大入熱溶接によって鋼板を溶接して得られる溶接継手であって、溶接継手の溶接金属がCを0.03〜0.12質量%、Siを0.10〜0.80質量%、Mnを0.80〜2.50質量%、Niを0.50〜3.00質量%、Crを0.50質量%以下、Moを0.50質量%以下、Tiを0.01〜0.10質量%、希土類元素を0.0010〜0.0050質量%含有し、かつBの含有量〔B〕(質量%)がf(Q) ≦〔B〕≦ 0.01 (Qは溶接入熱)を満足し、残部が鉄および不可避的不純物からなる組成を有する溶接継手である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、溶接入熱が 100kJ/cm以上の大入熱溶接によって鋼板を溶接して得られる溶接継手に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、鋼構造物や船舶の大型化が進むにつれて、使用する鋼板の高強度化および厚肉化のニーズが高まっている 厚肉鋼板の溶接においては、溶接能力を高めるために、エレクトロガス溶接,エレクトロスラグ溶接,サブマージアーク溶接等の大入熱溶接が採用される しかし溶接入熱が大きくなると、溶接金属および溶接熱影響部の靭性が劣化する。
【0003】特に造船の分野では、コンテナ船の大型化によってシェアストレーキ用の板厚60mmを超える厚肉鋼板を立向きエレクトロガス溶接で1パス溶接を行なう技術が実用化されている。このような板厚60mmを超える厚肉鋼板をエレクトロガス溶接で1パス溶接を行なう場合は、溶接入熱が 500kJ/cm程度まで大きくなるので、溶接金属および溶接熱影響部が長時間高温にさらされて組織の粗大化が起こるその結果、溶接金属および溶接熱影響部の靭性が劣化する。
【0004】一方 建築,橋梁の分野ではサブマージアーク溶接において、鉄粉を添加したフラックスを使用して電極の多電極化を図った結果 大電流,大溶着の溶接が可能となり、1パスで板厚80mm程度まで溶接する技術が実用化されている。また、エレクトロスラグ溶接でも 100mm程度の板厚の鋼板を溶接する技術が実用化されている。このような厚肉鋼板をサブマージアーク溶接およびエレクトロスラグ溶接で1パス溶接を行なう場合は、溶接入熱が 500kJ/cmを超えるので、溶接金属および溶接熱影響部が長時間高温にさらされて組織の粗大化が起こる その結果、溶接金属および溶接熱影響部の靭性が劣化するのである。
【0005】そこで溶接金属や溶接熱影響部の靭性劣化を防止するために、鋼板にTiNを微細に分散させてフェライト変態の核として利用することによって、溶接入熱による組織の粗大化を防止し、かつ微細なフェライトを生成させる技術が知られている しかし大入熱溶接を行なう場合には溶接熱影響部が長時間高温にさらされるので、鋼板に分散させたTiNが分解してNが発生し、その結果、溶接熱影響部の靭性が劣化する。
【0006】特開平6-71447 号公報には、大入熱溶接を行なうにあたって、溶接の前後に溶接部近傍を加熱して溶接熱影響部の冷却速度を制御することによって、組織の粗大化を防止する方法が開示されている。しかしながら実際に大入熱溶接を施工する際に、大型の溶接継手の溶接部を加熱するためには多大な労力と費用が必要であり 溶接現場でこのような加熱処理を行なって冷却速度を制御することは困難である。
【0007】また特開平10-109189 号公報や特開平10-180488 号公報には、溶接金属の低温靭性を改善するために外皮とフラックスの組成を規定したエレクトロガスアーク溶接用フラックス入りワイヤが開示されている。しかしながら大入熱のエレクトロガスアーク溶接(すなわちエレクトロガス溶接)を行なう場合には溶接金属が長時間高温にさらされるので、これらのフラックス入りワイヤを用いても溶接金属の組織の粗大化が起こる。その結果、溶接金属の靭性が劣化する。
【0008】一方 特開平7-328793号公報や特開2000-107885 号公報には、大入熱サブマージアーク溶接に用いて高靭性の溶接金属が得られるフラックスおよびソリッドワイヤが開示されている。しかしながら溶接入熱が 100kJ/cm以上の大入熱サブマージアーク溶接の場合には、これらのフラックスやソリッドワイヤを用いても、溶接金属の靭性劣化を防止する効果は十分ではない。しかもこれらのフラックスやソリッドワイヤは、溶接ボンド部および溶接熱影響部の靭性の劣化を防止できないので、溶接継手全体の靭性の劣化防止を達成できない。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記のような問題を解消し、溶接入熱が 100kJ/cm以上の大入熱溶接によって鋼板を溶接して得られる溶接金属と溶接熱影響部の低温靭性を向上した溶接継手を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、溶接入熱 100kJ/cm以上の大入熱エレクトロガス溶接あるいは大入熱サブマージアーク溶接等の大入熱溶接によって鋼板を溶接して得られる溶接金属と溶接熱影響部の低温靭性向上について鋭意研究を重ねた結果、下記の知見を得るに至った。
【0011】すなわち溶接金属については、大入熱溶接の場合は冷却速度が遅いので、高温に保持される時間が長くなり、初析フェライトが成長して低温靭性が劣化するしたがって溶接金属の低温靭性を改善するためには、溶接金属の焼入れ性を改善する必要がある。一方、溶接熱影響部については、鋼板に不可避的不純物として含まれるNや組織の微細化を目的として添加したTiNの分解によって発生したNが低温靭性を劣化させる原因になる。したがって溶接熱影響部の低温靭性を改善するためには、溶接熱影響部に存在するNを他の元素と結合させて、窒化物として固定する必要がある。
【0012】そこで本発明者らは、溶接金属と溶接熱影響部が長時間高温に保持される大入熱溶接において、Bが溶接金属から溶接熱影響部に拡散し、その程度は溶接入熱量によることに着目した。すなわち溶接金属にBを含有させて溶接金属の焼入れ性を改善して、溶接金属の低温靭性を向上する。またBが溶接金属から溶接熱影響部に拡散して溶接熱影響部に存在するNをBNとして固定することによって、溶接熱影響部の低温靭性を向上させることができる。しかも溶接熱影響部ではBNが核となって微細フェライトが生成する効果も現れるので、Bは溶接金属と溶接熱影響部の低温靭性を向上する上で有効な元素である。以上の効果を発揮するだけのB量を添加すれば良いことを発明者らは見い出した。
【0013】すなわち本発明は、溶接入熱が 100kJ/cm以上の大入熱溶接によって鋼板を溶接して得られる溶接継手であって、溶接継手の溶接金属がCを0.03〜0.12質量%、Siを0.10〜0.80質量%、Mnを0.80〜2.50質量%、Niを0.50〜3.00質量%、Crを0.50質量%以下、Moを0.50質量%以下、Tiを0.01〜0.10質量%、希土類元素を0.0010〜0.0050質量%含有し、かつBの含有量(質量%)が下記の (1)式を満足し、残部が鉄および不可避的不純物からなる組成を有する溶接継手である。
【0014】
f(Q)≦〔B〕≦ 0.01 ・・・ (1)Q :溶接入熱(kJ/cm)
f(Q):Qの関数〔B〕 :Bの含有量(質量%)
前記した発明においては、第1の好適態様として、溶接継手の溶接金属が、前記した組成に加えてVを0.10質量%以下、Nbを0.10質量%以下含有することが好ましい
【0015】また第2の好適態様として、大入熱溶接が大入熱エレクトロガス溶接であり、f(Q)が下記の (2)式によることが好ましい f(Q)= 0.003×{0.23×Ln(Q)− 0.5} ・・・ (2)Ln(Q):Qの自然対数また第3の好適態様として、大入熱溶接が大入熱サブマージアーク溶接であり、f(Q)が下記の (3)式によることが好ましい
【0016】
f(Q)= 0.003×{0.42×Ln(Q)− 1.9} ・・・ (3)
【0017】
【発明の実施の形態】本発明において、溶接入熱が 100kJ/cm以上の大入熱エレクトロガス溶接あるいは大入熱サブマージアーク溶接等の大入熱溶接によって得られる溶接継手の溶接金属の成分を限定した理由を説明するC:0.03〜0.12質量%Cは、溶接金属の強度を確保し、かつ焼入れ性を向上するために必要な元素である。C含有量が0.03質量%未満では、十分な焼入れ性が得られない。一方、0.12質量%を超えると、溶接金属の高温割れが発生するばかりでなく、マルテンサイト相が生成して低温靭性が劣化する。したがって、Cは0.03〜0.12質量%の範囲内を満足する必要がある。
【0018】Si:0.10〜0.80質量%Siは、脱酸作用を有するとともに溶接金属の強度を向上させる元素である。Si含有量が0.10質量%未満では、溶融金属の湯流れ性が劣下して溶接作業の効率が低下する 一方、0.80質量%を超えると、溶接金属の高温割れが発生する。したがって、Siは0.10〜0.80質量%の範囲内を満足する必要がある。
【0019】Mn:0.80〜2.50質量%Mnは、溶接金属の強度を確保し、かつ焼入れ性を向上させる元素である。Mn含有量が0.80質量%未満では、十分な焼入れ性が得られない。一方、2.50質量%を超えると、溶接金属の高温割れが発生するばかりでなく、上部ベイナイトあるいはマルテンサイト相が生成して低温靭性が劣化する。したがって、Mnは0.80〜2.50質量%の範囲内を満足する必要がある。
【0020】Ni:0.50〜3.00質量%Niは、溶接金属の強度と靭性を向上させる元素である。Ni含有量が0.50質量%未満では、十分な強度の溶接継手が得られない。一方、3.00質量%を超えると、溶接金属の高温割れが発生するばかりでなく、上部ベイナイトあるいはマルテンサイト相が生成して低温靭性が劣化する。したがって、Niは0.50〜3.00質量%の範囲内を満足する必要がある。
【0021】Cr:0.50質量%以下Crは、溶接金属の強度と低温靭性を向上させる元素である。Cr含有量が0.50質量%を超えると、溶接金属の高温割れが発生するばかりでなく、上部ベイナイトあるいはマルテンサイト相が生成して低温靭性が劣化する。したがって、Crは0.50質量%以下とする。なお、好ましくは0.02〜0.50質量%である。
【0022】Mo:0.50質量%以下Moは、V,Nbと同様に、大入熱の溶接において溶接金属の強度を向上し、かつ組織を微細化して低温靭性を向上させる元素である。Mo含有量が0.50質量%を超えると、溶接金属の高温割れが発生する。したがって、Moは0.50質量%以下とする。なお、好ましくは0.01〜0.50質量%である。
【0023】V:0.10質量%以下Vは、Mo,Nbと同様に、大入熱の溶接において溶接金属の強度を向上し、かつ組織を微細化して低温靭性を向上させる元素である。V含有量が0.10質量%を超えると、溶接金属の高温割れが発生する。したがって、Vを含有させる場合は0.10質量%以下とすることが好ましい なお、さらに好ましくは0.01〜0.10質量%である。
【0024】Nb:0.10質量%以下Nbは、Mo,Vと同様に、大入熱の溶接において溶接金属の強度を向上し、かつ組織を微細化して低温靭性を向上させる元素である。Nb含有量が0.10質量%を超えると、溶接金属の高温割れが発生する。したがって、Nbを含有させる場合は0.10質量%以下とすることが好ましい。なお、さらに好ましくは0.01〜0.10質量%である。
【0025】Ti:0.01〜0.10質量%Tiは、溶接金属中で酸化物を形成し、その酸化物を核として微細なフェライト相が生成されるので、溶接金属の低温靭性を向上させる効果がある。Ti含有量が0.01質量%未満では、酸化物が十分に生成しないので低温靭性向上の効果が得られない 一方、0.10質量%を超えると、溶接金属が硬化して低温靭性の劣化を招く。したがって、Tiは0.01〜0.10質量%の範囲内を満足する必要がある。
【0026】希土類元素:0.0010〜0.0050質量%希土類元素は、周期表の3族に属する元素の総称であり、溶接金属中のSと結合して硫化物を微細に析出分散させ、Sによる溶接金属の靭性低下を防止する効果がある。希土類元素の含有量が0.0010質量%未満では、硫化物が十分に生成せず、Sの固定が十分ではないので、低温靭性が劣化する。一方、0.0050質量%を超えると、溶接金属が硬化して低温靭性の劣化を招く。したがって、希土類元素は0.0010〜0.0050質量%の範囲内を満足する必要がある。なお本発明においては、希土類元素は特定の元素に限定しないが、Ce,La,Nd等の比較的安価で入手しやすい元素を用いるのが好ましい
【0027】さらに、Bの含有量(質量%)が、Bの拡散距離DB (μm)に対して下記の(1)式を満足する必要がある f(Q)≦〔B〕≦ 0.01 ・・・ (1)Q :溶接入熱(kJ/cm)
f(Q):Qの関数〔B〕 :Bの含有量(質量%)
Bは、溶接金属および溶接熱影響部の強度を向上するとともに低温靭性を向上する効果を有しており、本発明を構成する最も重要な元素である。つまりBは焼入れ性を向上させる元素であるから、溶接金属中に存在するBによって溶接金属の焼入れ性が向上し、その結果、低温靭性が向上する しかもBは、溶接金属中で粗大な初析フェライトの成長を抑制して微細なフェライト相を生成させるので、溶接金属の低温靭性を一層向上する効果も有する
【0028】また、Bは溶接金属から溶接熱影響部に拡散する。こうしてBが溶接金属から溶接熱影響部に拡散することによって、溶接熱影響部の焼入れ性が向上し、その結果、低温靭性が向上する さらに鋼板に不可避的不純物として含まれるNや、組織の微細化を目的として添加したTiNが溶接入熱によって分解して発生したNと結合してBNを形成することによってNを固定し、低温靭性の劣化を防止する しかもBNを核として微細なフェライト相が生成するので、溶接熱影響部の低温靭性を一層向上する効果がある。
【0029】本発明におけるBの主要な機能は 溶接金属から熱影響部に拡散し、溶接金属に近い熱影響部において、固溶NをBNとして固定するということである。なお固溶Nは、鋼中に不可避的不純物として存在していたもの、および鋼中の析出物のTiNが溶解して発生したものである。この機能は、溶接方法に関わらず Bの拡散距離が大であれば、拡散範囲で一定のB濃度を確保するためにはBの含有量を増加させる必要があると考えられる したがって、溶接金属中のBの必要量はBの拡散距離DB (μm)に比例すると仮定できる。
【0030】Bの拡散距離DB (μm)は、溶接時の冷却パターン(すなわち温度履歴)によって決定される 鋼中でのBの拡散は、溶接金属が凝固した直後から生じると考えられるので、1500℃から1100℃への冷却過程について検討すれば良い。すなわち、各溶接方法ごとに板厚と開先形状が決まれば、溶接入熱Q(すなわち単位溶接長さあたりの投入熱量(kJ/cm))がほぼ決定され、この溶接入熱Q(kJ/cm)に応じて熱影響部の冷却パターンが変化する。そこで各溶接方法による実際の溶接継手で温度を実測し、1500℃から1100℃までの冷却時間,冷却速度を求め、さらに拡散方程式からBの拡散距離DB (μm)が算出できる。こうして算出したBの拡散距離D’B (μm)と溶接入熱Q(kJ/cm)には良好な相関関係があり、経験的に得られた関係式で表わされることが分かった ただし溶接方法が異なると、溶接入熱Q(kJ/cm)が同一であっても1500℃から1100℃までの冷却速度が異なるので、Bの算出拡散距離D’B (μm)と溶接入熱Q(kJ/cm)との関係式は、溶接方法ごとに設定する必要がある
【0031】すなわち、溶接入熱が 100kJ/cm以上の大入熱エレクトロガス溶接の場合には、算出拡散距離D’B (μm)は下記の (4)式で表わされる D’B =0.23×Ln(Q)− 0.5 ・・・ (4)また溶接入熱が 100kJ/cm以上の大入熱サブマージアーク溶接の場合には、算出拡散距離D’B (μm)は下記の (5)式で表わされる。
【0032】
D’B =0.42×Ln(Q)− 1.9 ・・・ (5)さらにエレクトロスラグ溶接の場合にも、溶接時の熱サイクルはサブマージアーク溶接と同様であるので、 (5)式と同様の関係が成り立つ。そして、継手の熱影響部の靭性とBの拡散距離との実測値から、比例係数0.003 が経験的に得られる。すなわち溶接金属中のBの含有量(質量%)の下限値は、0.003 ×D’B で与えられる
【0033】すなわちB含有量(質量%)が下記の (6)式で算出される指標αの値未満の場合は、溶接金属および溶接熱影響部の低温靭性を向上する効果は得られない α=0.003 ×D’B ・・・ (6)D’B :Bの算出拡散距離(μm)一方、B含有量が0.01質量%を超えると、溶接金属と溶接熱影響部の焼入れ性が過剰に高められて、溶接金属と溶接熱影響部の高温割れが発生するばかりでなく、マルテンサイト相が生成して低温靭性が劣化する。
【0034】したがって、B含有量(質量%)は下記の (1)式を満足する必要がある。
f(Q)≦〔B〕≦ 0.01 ・・・ (1)Q :溶接入熱(kJ/cm)
f(Q):Qの関数〔B〕 :Bの含有量(質量%)
ここで溶接入熱が 100kJ/cm以上の大入熱エレクトロガス溶接の場合には、算出拡散距離D’B (μm)は前記の (4)式で精度良く算出できるので、 f(Q)= 0.003×{0.23×Ln(Q)− 0.5} ・・・ (2)となる。
【0035】また溶接入熱が 100kJ/cm以上の大入熱サブマージアーク溶接の場合には、算出拡散距離D’B (μm)は前記の (5)式で精度良く算出できるので、 f(Q)= 0.003×{0.42×Ln(Q)− 1.9} ・・・ (3)となる。エレクトロスラグ溶接の場合にも同様の関係が成り立つ。
【0036】このようにして溶接金属中にBを適正に添加することによって、溶接入熱 100kJ/cm以上の大入熱溶接によって鋼板を溶接して得られる溶接継手の溶接金属および溶接熱影響部の低温靭性を向上できる。
【0037】
【実施例】〈実施例1〉溶接入熱 100kJ/cm以上の大入熱エレクトロガス溶接を行なって、鋼板の溶接継手を作製した。鋼板の板厚と成分は、表1に示す通りである また使用したエレクトロガス溶接用フラックス入りワイヤ(以下、ワイヤという)の成分は、表2に示す通りである。なお、表2に示す各元素の含有量(質量%) は、ワイヤの総質量(すなわち鋼製外皮およびフラックスの合計質量)に対する比率を示す。
【0038】
【表1】


【0039】
【表2】


【0040】溶接条件は、表3に示す通りである なお、鋼板B(板40mm)と鋼板C(板60mm)の溶接継手を作製する際には、溶接欠陥を防止するためにワイヤを板厚方向にオシレートさせながら溶接を行なった
【0041】
【表3】


【0042】このようにして鋼板A〜Cとワイヤ1〜31を種々組み合わせて、 100kJ/cm以上の溶接入熱でエレクトロガス溶接を行ない、溶接継手を作製した。各溶接継手を作製する際の溶接入熱(kJ/cm)および得られた溶接金属の成分(質量%)は、表4に示す通りであるまた各溶接継手の表面を1mm研削した後、溶接金属および溶接熱影響部から試験片(JIS4号2mm−Vノッチ試験片)を切り出して、シャルピー衝撃試験を行なった ノッチ位置は、溶接金属中央部および溶接熱影響部とした。−40℃における吸収エネルギー V-40 (J)は、表4に示す通りである なお表4中のα値は、 (2)式および (4)式を用いて算出される値である。
【0043】
【表4】


【0044】発明例1〜12は、溶接入熱(kJ/cm)および溶接金属の成分(質量%)が本発明の範囲を満足する例である。比較例1〜6は、B含有量が (1)式の範囲を外れる例である。また比較例7〜8はC含有量が本発明の範囲を外れる例であり、比較例9はSi含有量が本発明の範囲を外れる例であり、比較例10〜11はMn含有量が本発明の範囲を外れる例であり、比較例12〜13はNi含有量が本発明の範囲を外れる例であり、比較例14はCr含有量が本発明の範囲を外れる例であり、比較例15はMo含有量が本発明の範囲を外れる例であり、比較例16はV含有量が本発明の範囲を外れる例であり、比較例17〜18はTi含有量が本発明の範囲を外れる例であり、比較例19〜20は REM含有量が本発明の範囲を外れる例である。
【0045】表4から明らかなように、発明例1〜12では、溶接金属および溶接熱影響部ともに−40℃における吸収エネルギーが80J以上であり、優れた低温靭性を有する溶接継手が得られた一方、比較例1,3,5は、B含有量が (1)式の範囲の下限値を下回っているので、溶接金属中の初析フェライトの抑制および溶接熱影響部のN固定が不十分となり、溶接金属および溶接熱影響部の低温靭性が劣化した。
【0046】比較例2,4は、B含有量が (1)式の範囲の上限値を上回っているので、溶接金属に割れが発生して試験片を採取できなかった また比較例6は、B含有量が(1)式の範囲の上限値を上回っているので、マルテンサイト相が生成して溶接金属および溶接熱影響部の低温靭性が劣化した。比較例7,10,12,17,19は、それぞれC,Mn,Ni,Ti,REM の含有量が本発明の範囲の下限値を下回っているので、溶接金属の低温靭性が劣化した。
【0047】比較例8,13は、それぞれC,Niの含有量が本発明の上限値を上回っているので、溶接金属に割れが発生して試験片を採取できなかった 比較例9,11,14,15,16,18,20は、それぞれSi,Mn,Cr,Mo,V,Ti,REM の含有量が本発明の範囲の上限値を上回っているので、溶接金属の低温靭性が劣化した。
【0048】つまり本発明では、溶接入熱が 100kJ/cm以上の大入熱エレクトロガス溶接によって鋼板を溶接して得られる溶接継手の溶接金属と溶接熱影響部の低温靭性を向上できることが確かめられた〈実施例2〉溶接入熱 100kJ/cm以上の大入熱サブマージアーク溶接を行なって、鋼板の溶接継手を作製した。
【0049】鋼板の板厚と成分は、表5に示す通りである 溶接においては、線径6.4mm のソリッドワイヤと鉄粉入りフラックスを使用し、2電極のサブマージアーク溶接(いわゆるタンデムサブマージアーク溶接)を行なった その溶接条件は、表6に示す通りである。
【0050】
【表5】


【0051】
【表6】


【0052】このようにして 100kJ/cm以上の溶接入熱でサブマージアーク溶接を行ない、鋼板D〜Fの溶接継手を作製した。各溶接継手を作製する際の溶接入熱(kJ/cm)および得られた溶接金属の成分(質量%)は、表7に示す通りであるまた各溶接継手の表面を1mm研削した後、溶接金属および溶接熱影響部から試験片(JIS4号2mm−Vノッチ試験片)を切り出して、シャルピー衝撃試験を行なった ノッチ位置は、溶接金属中央部および溶接熱影響部とした。−40℃における吸収エネルギー V-40 (J)は、表7に示す通りである なお表7中のα値は、 (3)式および (4)式を用いて算出される値である。
【0053】
【表7】


【0054】発明例13〜24は、溶接入熱(kJ/cm)および溶接金属の成分(質量%)が本発明の範囲を満足する例である。比較例21〜26は、B含有量が (1)式の範囲を外れる例である。また比較例27〜28はC含有量が本発明の範囲を外れる例であり、比較例29はSi含有量が本発明の範囲を外れる例であり、比較例30〜31はMn含有量が本発明の範囲を外れる例であり、比較例32〜33はNi含有量が本発明の範囲を外れる例であり、比較例34はCr含有量が本発明の範囲を外れる例であり、比較例35はMo含有量が本発明の範囲を外れる例であり、比較例36はVとNb含有量が本発明の範囲を外れる例であり、比較例37〜38はTi含有量が本発明の範囲を外れる例であり、比較例39〜40は REM含有量が本発明の範囲を外れる例である。
【0055】表7から明らかなように、発明例13〜24では、溶接金属および溶接熱影響部ともに−40℃における吸収エネルギーが80J以上であり、優れた低温靭性を有する溶接継手が得られた一方、比較例21,23,25は、B含有量が (1)式の範囲の下限値を下回っているので、溶接金属中の初析フェライトの抑制および溶接熱影響部のN固定が不十分となり、溶接金属および溶接熱影響部の低温靭性が劣化した。
【0056】比較例22,24は、B含有量が (1)式の範囲の上限値を上回っているので、溶接金属に割れが発生して試験片を採取できなかった また比較例26は、B含有量が(1)式の範囲の上限値を上回っているので、上部ベイナイトおよびマルテンサイト相が生成して溶接金属および溶接熱影響部の低温靭性が劣化した。比較例27,30,32,37,39は、それぞれC,Mn,Ni,Ti,REM の含有量が本発明の範囲の下限値を下回っているので、溶接金属の低温靭性が劣化した。
【0057】比較例28,33は、それぞれC,Niの含有量が本発明の上限値を上回っているので、溶接金属に割れが発生して試験片を採取できなかった 比較例29,31,34,35,36,38,40は、それぞれSi,Mn,Cr,Mo,V,Nb,Ti,REM の含有量が本発明の範囲の上限値を上回っているので、溶接金属の低温靭性が劣化した。
【0058】つまり本発明では、溶接入熱が 100kJ/cm以上の大入熱サブマージアーク溶接によって鋼板を溶接して得られる溶接継手の溶接金属と溶接熱影響部の低温靭性を向上できることが確かめられた
【0059】
【発明の効果】本発明では、溶接入熱が 100kJ/cm以上の大入熱溶接によって鋼板を溶接して得られる溶接継手の溶接金属と溶接熱影響部の低温靭性を向上できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 溶接入熱が 100kJ/cm以上の大入熱溶接によって鋼板を溶接して得られる溶接継手であって、前記溶接継手の溶接金属がCを0.03〜0.12質量%、Siを0.10〜0.80質量%、Mnを0.80〜2.50質量%、Niを0.50〜3.00質量%、Crを0.50質量%以下、Moを0.50質量%以下、Tiを0.01〜0.10質量%、希土類元素を0.0010〜0.0050質量%含有し、かつBの含有量(質量%)が下記の (1)式を満足し、残部が鉄および不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする溶接継手。
f(Q)≦〔B〕≦ 0.01 ・・・ (1)Q :溶接入熱(kJ/cm)
f(Q):Qの関数〔B〕 :Bの含有量(質量%)
【請求項2】 前記溶接継手の溶接金属が、前記組成に加えてVを0.10質量%以下、Nbを0.10質量%以下含有することを特徴とする請求項1に記載の溶接継手。
【請求項3】 前記大入熱溶接が大入熱エレクトロガス溶接であり、前記f(Q)が下記の (2)式によることを特徴とする請求項1または2に記載の溶接継手。
f(Q)= 0.003×{0.23×Ln(Q)− 0.5} ・・・ (2)Ln(Q):Qの自然対数
【請求項4】 前記大入熱溶接が大入熱サブマージアーク溶接であり、前記f(Q)が下記の (3)式によることを特徴とする請求項1または2に記載の溶接継手。
f(Q)= 0.003×{0.42×Ln(Q)− 1.9} ・・・ (3)

【公開番号】特開2003−211268(P2003−211268A)
【公開日】平成15年7月29日(2003.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−381492(P2001−381492)
【出願日】平成13年12月14日(2001.12.14)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】