説明

大型イカのすり身の製造方法及びこれによって製造された大型イカのすり身

【課題】蒲鉾の原料として十分な品質、つまり、残留塩化アンモニウム濃度、破断強度、破断凹み及びゼリー強度を備えた大型イカのすり身を製造するための方法を提供する。
【解決手段】塩化アンモニウムと自己消化を起こすタンパク質分解酵素を含む外洋性大型イカの胴肉を所定の形状に裁断し、裁断した胴肉に1つ以上の有底穴又は貫通孔を設けて凍結温度よりも高く10℃以下の浸漬溶液に6〜12時間浸漬し、水晒しする水晒し工程S1と、水晒しした胴肉と、塩化アンモニウムによって生じる異味をマスキングするためのマスキング剤と、タンパク質分解酵素の働きを阻害する阻害タンパク質を含む卵白、及びタンパク質どうしを架橋結合させるトランスグルタミナーゼのうちの少なくとも一方と、を混合した後、水晒しした胴肉の凍結温度よりも高く10℃以下、且つ陰圧下で水晒しした胴肉をすり潰してすり身にするすり潰し工程S2とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外洋性大型イカを用いた大型イカのすり身の製造方法及びこれによって製造された大型イカのすり身に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、魚肉すり身の原料価格が高騰し、原料供給の困難さから代替品の開発が進められている。このような状況下、非特許文献1には、外洋性大型イカであるアメリカオオアカイカを加工原料として活用し得ることが、塩味やえぐ味(以下、これらを総称して「異味」という。)を呈するという特有の問題点とともに報告されている。このような異味は、外洋性大型イカが浮力を得るために体内に多く含んでいる塩化アンモニウムに起因する。そのため、外洋性大型イカの体内に含まれる塩化アンモニウムを除去して食べ易くするための技術が幾つか開発されている。
【0003】
特許文献1には、アメリカオオアカイカの肉部を食塩および有機酸のナトリウム塩混合物の水溶液で処理することを特徴とするアメリカオオアカイカの異味成分の減少方法が記載されている。
かかる技術によれば、塩化アンモニウムの含有量を、揮発性塩基窒素(VBN)で測定した測定値で119.0mg/100gから11.6mg/100gにまで減少させることができる旨が記載されている(特許文献1の表2参照)。
【0004】
特許文献2には、異味及び異臭が抑制されたイカ切身食品の製造法であって、脱皮及び所望大きさにカットされた、加熱処理していない揮発性窒素値が30mg/100g以上のイカの肉部切身を準備する工程(A)と、所望容器内において、工程(A)で準備した切身に、pH8.0〜13.0で、且つアルカリ剤濃度3.0重量%以上のアルカリ溶液を接触させる工程(B)と、工程(B)終了後のアルカリ溶液及び切身に、最終的に溶液のpHが4.0〜7.9となる酸溶液を添加、混合する工程(C−1)と、工程(C−1)の後、切身を水洗する工程(D)とを含むイカ切身食品の製造法が記載されている。
かかる技術によれば、当該技術によって処理されたイカの切身を用いてボイルした後の味及び臭いと、油ちょうした後の味及び臭いのいずれもが、特許文献1よりもさらに異味を感じない旨が記載されている。
【0005】
また、特許文献3には、内臓を分離し、皮をむく脱皮工程と、脱皮した肉を磨砕する工程と、凍結変性防止剤を磨砕された肉の全体重量比で約5%添加して凍結する工程とを経てすり身を製造することにおいて、前記脱皮した肉は遠洋産大王イカであり、前記遠洋産大王イカは、約2時間周期で交換され且つ約0〜8℃が維持される浸透溶液に約6〜8時間浸漬して蛋白質の変性を防止するとともに、浸透作用により塩化アンモニウム成分を除去することを特徴とする南米遠洋産大王イカ蛋白質を利用したすり身の製造方法が記載されている。
【0006】
【非特許文献1】信太茂春著、「加工シリーズ 登場!新しい水産加工原料!!アメリカオオアカイカの加工技術の開発をめざして」、北水試だより、No.26、p19〜21(1994年)
【特許文献1】特許第3269896号明細書
【特許文献2】国際公開第WO2005/013725号パンフレット
【特許文献3】特開2003−102441号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1には、異味の除去が十分でないために味付けの濃い所謂珍味などの原料としては十分であるかもしれないが、蒲鉾の原料として用いた場合には、味付けが薄いために異味が感じられてしまうという問題があった。
【0008】
また、特許文献2の技術によって処理されたイカの切身は、イカの天ぷら、イカフライ、焼イカ、イカのフリッターの原料として用いることはできても、製造工程の内容が適切でないために、十分な破断強度、破断凹み及びゼリー強度を備えた蒲鉾の原料となるすり身を製造することができないという問題があった。
【0009】
そして、特許文献3の技術には、塩化アンモニウムを除去するための条件、例えば、浸透溶液(蒸留水)での処理時間やゲル形成能の低下を防止するための温度が適切でないため、異味が残るだけでなく、破断強度、破断凹み及びゼリー強度が低くなり、蒲鉾の原料として用いることができないという問題があった。
【0010】
本発明は前記問題点に鑑みてなされたものであり、蒲鉾の原料として十分な品質、つまり、破断強度、破断凹み及びゼリー強度を備えた大型イカのすり身の製造方法及びこれによって製造された大型イカのすり身を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
〔1〕前記課題を解決した本発明に係る大型イカのすり身の製造方法は、塩化アンモニウムと自己消化を起こすタンパク質分解酵素を含む外洋性大型イカの胴肉を用いた大型イカのすり身の製造方法であって、前記胴肉を所定の形状に裁断し、裁断した胴肉に1つ以上の有底穴又は貫通孔を設けて凍結温度よりも高く10℃以下の浸漬溶液に6〜12時間浸漬し、水晒しする水晒し工程と、水晒しした胴肉と、前記塩化アンモニウムによって生じる異味をマスキングするためのマスキング剤と、前記タンパク質分解酵素の働きを阻害する阻害タンパク質を含む卵白、及びタンパク質どうしを架橋結合させるトランスグルタミナーゼのうちの少なくとも一方と、を混合した後、水晒しした前記胴肉の凍結温度よりも高く10℃以下、且つ陰圧下で水晒しした胴肉をすり潰してすり身にするすり潰し工程と、を含むことを特徴としている。
【0012】
このようにすれば、水晒し工程によって、外洋性大型イカの胴肉に含まれている、塩化アンモニウムを除去し、又はその含有量を著しく減少させることができる。そして、その後、水晒しした胴肉をすり潰し工程ですり身にする際にマスキング剤を混合するので、胴肉に微量の塩化アンモニウムが残存していたとしても異味を感じなくさせることができる。また、すり潰し工程においては阻害タンパク質を含む卵白を混合しているので、胴肉に内在しているタンパク質分解酵素(自己消化酵素とも呼ばれる)の作用を阻害することができる。また、すり潰し工程の温度条件を特定範囲に規制しているのでタンパク質分解酵素の活性を低下させることができる。そして、トランスグルタミナーゼを混合しているので、ゼリー強度を向上させることができる。さらに、このすり潰し工程においては、陰圧下で胴肉をすり潰すため空気を抱き難くすることができるため、破断強度の低下を防止することが可能となり、食感が柔らかくなるのを防ぐことができる。そのため、かかるすり潰し工程を行うことによって破断強度、破断凹み及びゼリー強度を向上させることができるため、蒲鉾の原料として用いることができる。
【0013】
〔2〕本発明においては、前記浸漬溶液には、当該浸漬溶液100重量部に対して0.05〜2重量部のマスキング剤が添加されているのが好ましい。このようにすれば、浸漬溶液にもマスキング剤を添加しているので、当該マスキング剤によってさらに確実に異味をマスキングすることができる。
【0014】
〔3〕本発明においては、前記浸漬溶液には、当該浸漬溶液100重量部に対して0.1〜1重量部の有機酸塩が添加されているのが好ましい。このように、金属に対してキレート力のある有機酸塩を用いることによってタンパク質分解酵素の作用を阻害することができる。そのため、タンパク質分解酵素によるミオシンの分解を抑制することができる。
【0015】
〔4〕本発明においては、前記浸漬溶液には、当該浸漬溶液100重量部に対して0.1〜1重量部の重合リン酸塩、及び0.1〜1重量部の炭酸塩のうち少なくとも一方が添加されているのが好ましい。このようにすれば、重合リン酸塩及び/又は炭酸塩の作用によって、すり身が加熱された際に水分を排出して固まる(以下、「加熱凝固」という。)のを防ぐことができる。従って、蒲鉾を製造する際の加熱歩留まりを向上させることができる。
【0016】
〔5〕本発明における前記水晒し工程は、前記浸漬溶液と裁断した前記胴肉とをバブリング又は撹拌して行うのが好ましい。胴肉に含まれる塩化アンモニウムは水溶性であるため浸漬溶液に浸漬することによって胴肉中からこれを除去することができるが、バブリング又は撹拌することによって、より確実且つ迅速に塩化アンモニウムを除去することが可能となる。
【0017】
〔6〕本発明においては、前記卵白の添加量が、前記胴肉100重量部に対して1〜10重量部であるのが好ましい。このようにすれば、卵白に含まれる阻害タンパク質によって、胴肉に含まれるタンパク質分解酵素の作用を阻害するため、ゼリー強度が低下するのを抑制することができる。また、卵白を添加することにより、滑らかな食感を得ることができる。
【0018】
〔7〕本発明においては、前記トランスグルタミナーゼの添加量が、前記胴肉100重量部に対して0.05〜5重量部であるのが好ましい。このようにすれば、トランスグルタミナーゼによって、すり身に含まれるグルタミン残基とリジン残基との間にイソペプチド結合を形成させたり、ジスルフィド結合を形成させたりしてタンパク質どうしを架橋結合させることができる。そのため、大型イカのすり身の破断強度、破断凹み及びゼリー強度を魚肉すり身と同程度まで向上させることができる。
【0019】
〔8〕本発明においては、前記すり潰し工程において、前記胴肉100重量部に対して5〜20重量部の糖類を添加するのが好ましい。このようにすれば、冷凍変性を防止することができる。従って、製造したすり身を冷凍し、これを解凍した後のドリップの発生などを防止することができる。
【0020】
〔9〕本発明においては、前記すり潰し工程の後に、前記すり身を包装容器に包装した後に冷凍する包装・冷凍工程を含むのが好ましい。このようにすれば、長期保存が可能となる。
【0021】
〔10〕本発明に係る大型イカのすり身は、前記〔1〕から〔9〕のうちのいずれか1つに記載の大型イカのすり身の製造方法によって製造された大型イカのすり身であって、残留塩化アンモニウム濃度が70mg/100g以下、pHが6.5〜7.0、破断強度が1〜8.5g、破断凹みが8〜20mm、ゼリー強度が10〜120g・cmであることを特徴としている。
このような大型イカのすり身とすれば、破断強度、破断凹み及びゼリー強度が適切であり、残留塩化アンモニウム濃度も十分に低いので蒲鉾の原料として好適に使用することができる。また、pHも中性であるため蒲鉾の原料として使用し易い。
【0022】
〔11〕本発明においては、すり身の白度が、色彩色差計で測定されるL値で60以上であるのが好ましい。このようにすれば、すり身の色が白いので高級蒲鉾の原料として使用するのに適している。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る大型イカのすり身の製造方法によれば、水晒し工程の条件、すり潰し工程の条件及びすり潰し工程で添加する添加物の種類等を適切化したので、すり身の破断強度、破断凹み及びゼリー強度を向上させた大型イカのすり身を製造することができる。このようにして製造された大型イカのすり身は、破断強度、破断凹み及びゼリー強度を向上させているので、蒲鉾の原料として用いることができる。
【0024】
本発明に係る大型イカのすり身によれば、破断強度、破断凹み及びゼリー強度を向上させているので、蒲鉾の原料として用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明に係る大型イカのすり身の製造方法及びこれによって製造された大型イカのすり身について詳細に説明する。
まず、本発明に係る大型イカのすり身の製造方法について説明する。図1は、本発明に係る大型イカのすり身の製造方法の工程内容を示したフローチャートである。
図1に示すように、本発明に係る大型イカのすり身の製造方法は、水晒し工程S1と、すり潰し工程S2と、を含んでなる。
【0026】
水晒し工程S1は、胴肉を所定の形状に裁断し、裁断した胴肉に1つ以上の有底穴又は貫通孔を設けて凍結温度よりも高く10℃以下の浸漬溶液に6〜12時間浸漬し、水晒しする工程である。
【0027】
なお、胴肉は、表層(第1層目)から数えて第3層目までの皮を比較的容易に剥ぐことができるので、通常は、第3層目の皮を剥いで殺菌してあるものを使用する。しかし、第3層目の皮を剥いで殺菌していない胴肉を使用する場合は、水晒し工程S1の前に、胴肉の第3層目の皮を剥ぐ工程と、皮を剥いだ胴肉を殺菌剤で殺菌する工程(図示せず)を行う。第3層目までの皮を剥ぐことで、以下の工程で使用する加工装置の不具合等を防止することができる。例えば、かに風味蒲鉾の製造では、すり身をろ過器に通した後に薄いシート状に成形するが、第3層目までの皮を剥いでおかないと第3層目までの皮によって当該ろ過器が目詰まりしてしまい、製造の中断を余儀なくされる。第3層目までの皮を剥いでおくことによってこのような製造の中断を防止することができる。また、第3層目までの皮は硬いのでこれによる食感への悪影響をなくすことができる。
そして、殺菌剤で殺菌することによって一般生菌数や大腸菌群数などの食品微生物規格を確実に満たすことができる。殺菌は、例えば、胴肉を100ppmの次亜塩素酸ナトリウム水溶液に1〜2分浸漬することにより行うことができる。殺菌後は、殺菌した胴肉を流水で1〜2分すすぐか、又は1〜2分間水に浸して次亜塩素酸ナトリウムを除去する。この殺菌処理は、後記する胴肉の裁断や有底穴、貫通孔の形成と順序を入れ替えて行ってもよい。
【0028】
外洋性大型イカの胴肉は、第3層目の皮と第4層目の皮の間に塩化アンモニウムを含有しているため、第3層目の皮と第4層目の皮の間に含有されている塩化アンモニウムを除去するため、少なくともこの第3層目の皮を貫通するようにして有底穴又は貫通孔を1つ以上、好ましくは複数形成する。このようにすることによって、胴肉内に含まれている塩化アンモニウムの除去を確実且つ迅速に行わせることができる。有底穴や貫通孔は、容易に閉じてしまわない大きさで形成するのが好ましい。有底穴や貫通孔は、例えば、直径0.5〜2mm程度の大きさで形成するとよい。このような有底穴や貫通孔は、穿孔機や剣山等を使用することで設けることができる。
【0029】
胴肉は、例えば、一辺が3〜20cm程度の大きさの矩形状に裁断することができるがこれに限定されるものではなく、どのような形状、大きさで裁断してもよい。胴肉の裁断は、作業員が包丁などを使用して行ってもよいが、裁断機などを使用すると生産効率の向上及び低コスト化を図ることができるので好ましい。また、用いる胴肉の厚さが厚すぎる場合は、例えば厚さを1cm程度にカットするなどして調整してもよい。
【0030】
水晒し工程S1で用いる浸漬溶液としては、水、又は中性からアルカリ性に調製された水溶液、好ましくはpH9〜11程度に調製された水溶液を用いることができる。水は、純水、滅菌水、水道水などを用いることができる。また、中性からアルカリ性に調製された水溶液としては、例えば、1〜3w/v%ポリリン酸ナトリウム水溶液、1〜3w/v%ピロリン酸ナトリウム水溶液、0.5〜1.5w/v%炭酸ナトリウム水溶液、0.5〜1.5w/v%炭酸カルシウム水溶液、及び1〜3w/v%クエン酸ナトリウム水溶液のうちの1つ又は2つ以上を混合して用いることができる。このような浸漬溶液を用いれば、塩化アンモニウムは水溶性であるため浸漬溶液と接触させることによって当該塩化アンモニウムを胴肉中から除去することができる。また、浸漬溶液に浸漬する前には酸性である胴肉(pH5程度)をpH6.5〜7.0の範囲に調整することもできる。胴肉のpHを6.5〜7.0とすることで物性強化、つまり、ゼリー強度を向上させることが可能となる。浸漬溶液の液量は、例えば、胴肉の使用量の5倍量などとすることができるがこれに限定されるものではなく、適宜に設定することができる。
【0031】
浸漬溶液の温度は、当該浸漬溶液の凍結温度よりも高く10℃以下、好ましくは5℃以下とする。浸漬溶液の温度が、浸漬溶液の凍結温度以下であると、浸漬溶液が凍結してしまい、塩化アンモニウムの除去を行うことができないおそれがある。一方、浸漬溶液の温度が10℃を超えるとタンパク質分解酵素の活性が高くなってしまうため、ゼリー強度が低下するおそれがある。
【0032】
また、胴肉の浸漬溶液への浸漬時間が6時間未満であると、胴肉中からの塩化アンモニウムの除去が十分に行われない可能性がある。一方、胴肉の浸漬溶液への浸漬時間を12時間を超えて行っても、もはや胴肉中からの塩化アンモニウムの除去が十分に行われているためそれ以上の浸漬は生産効率の点で不利となる。なお、胴肉の水晒しは、前記したように6〜12時間の範囲であれば複数回浸漬溶液を交換して行ってもよい。このようにすると、胴肉に含まれる塩化アンモニウムの除去をより確実に行うことが可能である。
【0033】
かかる浸漬溶液には、当該浸漬溶液100重量部に対して0.05〜2重量部のマスキング剤を添加するのが好ましい。浸漬溶液にマスキング剤を添加して胴肉を浸漬することで、胴肉の異味を感じさせないようにすることが可能となる。かかるマスキング剤としては、例えば、グルタミン酸ナトリウムや海老エキス、昆布エキスなどの糖類を挙げることができる。
【0034】
マスキング剤の添加量が浸漬溶液100重量部に対して0.05重量部未満であると、マスキング剤の添加量が少な過ぎるため異味をマスキングするマスキング効果を期待することができない。つまり、浸漬溶液にマスキング剤を添加する意義がなくなる。なお、浸漬溶液にマスキング剤を添加しない場合や前記したように添加量が0.05重量部未満となってしまったときは、後記するすり潰し工程S2でマスキング剤を多めに添加することにより同様の効果を得ることができる。一方、マスキング剤の添加量が浸漬溶液100重量部に対して2重量部を超えると、マスキング剤の添加量が多過ぎるためマスキング剤の味や香りが強くなり過ぎてしまい、蒲鉾の原料としては適さないものとなるおそれがある。
【0035】
浸漬溶液には、当該浸漬溶液100重量部に対して0.1〜1重量部の有機酸塩を添加するのが好ましい。浸漬溶液に有機酸塩を添加して胴肉を浸漬することで、有機酸塩のもつ金属キレート力により、胴肉中に含まれる金属プロテアーゼなどのタンパク質分解酵素がミオシン重鎖を切断して分解するという作用を阻害することができる。そのため、ゼリー強度の低下を抑制することが可能となる。かかる有機酸塩としては、クエン酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウムなどを挙げることができる。
【0036】
有機酸塩の添加量が浸漬溶液100重量部に対して0.1重量部未満であると、有機酸塩の添加量が少な過ぎるためタンパク質分解酵素の作用を十分に阻害することができない。そのため、すり身にしたときのゼリー強度が低下するおそれがある。なお、浸漬溶液に有機酸塩を添加しない場合や前記したように添加量が0.1重量部未満となってしまったときは、浸漬溶液の温度を低く設定することによりタンパク質分解酵素によるミオシン重鎖の分解を阻害することができる。一方、有機酸塩の添加量が浸漬溶液100重量部に対して1重量部を超えると、胴肉中に浸入し、残存する有機酸塩の量が多くなるので有機酸塩の味や香りが強くなりすぎてしまい、蒲鉾の原料としては適さないものとなるおそれがある。
【0037】
浸漬溶液には、当該浸漬溶液100重量部に対して0.1〜1重量部の重合リン酸塩、及び0.1〜1重量部の炭酸塩のうち少なくとも一方を添加するのが好ましい。浸漬溶液に重合リン酸塩や炭酸塩を添加して胴肉を浸漬することによって胴肉中にこれらを含有させることができるので、加熱凝固、つまり、加熱したときに水分を排出して凝固するのを防止することができる。そのため、加熱歩留まりを向上させることができる。
【0038】
浸漬溶液100重量部に対する重合リン酸塩の添加量が0.1重量部未満となったり、炭酸塩の添加量が0.1重量部未満となったりした場合は、加熱凝固の防止の効果が得られないので、加熱歩留まりが悪くなるおそれがある。一方、浸漬溶液100重量部に対する重合リン酸塩の添加量が1重量部を超えたり、炭酸塩の添加量が1重量部を超えたりしても、もはや保水性を向上させる効果は頭打ちとなるのでコスト的に不利となる。
【0039】
なお、水晒し工程S1は、浸漬溶液と裁断した胴肉とをバブリング又は撹拌して行うのが好ましい。バブリング又は撹拌して浸漬することにより、裁断した胴肉中からより多くの塩化アンモニウムを除去することが可能となる。なお、バブリングや撹拌の条件は、使用するバブリング装置や撹拌装置によって適宜に調節することができるが、あまり激しい条件とすると裁断した胴肉が崩れてタンパク質分解酵素が活性化されてゼリー強度が低下するおそれがあるので好ましくない。
【0040】
次に行うすり潰し工程S2は、水晒しした胴肉と、塩化アンモニウムによって生じる異味をマスキングするためのマスキング剤と、タンパク質分解酵素の働きを阻害する卵白と、トランスグルタミナーゼと、を混合した後、水晒しした胴肉の凍結温度よりも高く10℃以下、且つ陰圧下で水晒しした胴肉をすり潰してすり身にする工程である。
【0041】
すり潰し工程S2における温度が水晒しした胴肉の凍結温度以下であると胴肉が凍結してしまうため添加した卵白、マスキング剤、及びトランスグルタミナーゼが均一に分散したすり身を得ることが困難となる。一方、すり潰し工程S2における温度が10℃を超えるとタンパク質分解酵素が活性化してしまうためゼリー強度が低下するおそれがある。
【0042】
また、イカの肉は空気を抱き易いため、すり身にしたときに気泡が含まれ易い。すり身に気泡が含まれると食感が柔らかくなってしまい、蒲鉾の原料として用いるのに適さないものとなってしまう。従って、陰圧下、例えば13332Pa(100Torr)以下の真空度となる条件下ですり潰すとよい。なお、すり身に気泡が含まれなければよいので、前記した条件に限定されずないことは言うまでもない。例えば、80000〜100000Pa程度の真空度であれば好適に行うことができる。かかるすり潰し工程S2は、市販のボールカッターやミキサーなどを用いることで行うことができる。
【0043】
すり潰し工程S2で用いられるマスキング剤は、水晒し工程S1で用いられるマスキング剤と同じものを用いることができる。すり潰し工程S2で用いられるマスキング剤の含有量は胴肉100重量部に対して0.02〜1重量部とするのが好ましい。
【0044】
すり潰し工程S2で用いられるマスキング剤の含有量が胴肉100重量部に対して0.02重量部未満であると、マスキング剤の添加量が少な過ぎるため、異味をマスキングするマスキング効果を期待することができない。一方、すり潰し工程S2で用いられるマスキング剤の含有量が胴肉100重量部に対して1重量部を超えると、マスキング剤の添加量が多過ぎるためマスキング剤の味や香りが強くなりすぎてしまい、得られたすり身は蒲鉾の原料としては適さないものとなるおそれがある。
【0045】
卵白の添加量は、胴肉100重量部に対して1〜10重量部とするのが好ましい。卵白を添加することによって蒲鉾の原料として滑らかな食感を得ることができる。また、卵白は胴肉中に含まれるタンパク質分解酵素の作用を阻害する働きを有しているため、タンパク質分解酵素の作用を阻害することでゼリー強度が低下するのを防止することができる。
【0046】
卵白の添加量が胴肉100重量部に対して1重量部未満であると、滑らかな食感を得ることができず、また、ゼリー強度が低下するのを十分に防止することができないので、得られたすり身は蒲鉾の原料としては適さないものとなるおそれがある。一方、卵白の添加量が胴肉100重量部に対して10重量部を超えると、食感が滑らかになり過ぎてしまい、蒲鉾の原料、特に高級蒲鉾の原料としては適さないものとなるおそれがある。
【0047】
トランスグルタミナーゼの添加量は、胴肉100重量部に対して0.05〜5重量部とするのが好ましく、胴肉100重量部に対して0.1〜2重量部とするのがより好ましい。トランスグルタミナーゼを混合することによって、すり身に含まれるタンパク質どうしを架橋させる(例えば、グルタミン残基とリジン残基間を架橋させる)ことができるので、ゼリー強度を向上させることができる。
【0048】
トランスグルタミナーゼの添加量が胴肉100重量部に対して0.05重量部未満であると、トランスグルタミナーゼの添加量が少な過ぎるために、ゼリー強度を十分に向上させることができないおそれがある。一方、トランスグルタミナーゼの添加量が胴肉100重量部に対して5重量部を超えると、トランスグルタミナーゼの添加量が多過ぎるためにゼリー強度が高くなり過ぎてしまうために却って蒲鉾の原料としては適さないものとなるおそれがある。
【0049】
なお、このすり潰し工程S2においては、胴肉100重量部に対して5〜20重量部の糖類を添加するのが好ましい。糖類を添加することによって冷凍変性を防止することができるからである。糖類としては、例えば、ソルビトールやトレハロースなどを挙げることができる。
【0050】
糖類の添加量が胴肉100重量部に対して5重量部未満であると、糖類の添加量が少な過ぎるために冷凍変性を防止する効果を望むことができない。そのため、製造したすり身を凍結して解凍したときにドロップが発生し易くなるため好ましくない。一方、糖類の添加量が胴肉100重量部に対して20重量部を超えると、糖類の添加量が多過ぎるために糖類の味や香りが強くなり過ぎてしまい、蒲鉾の原料としては適さないものとなるおそれがある。
なお、マスキング剤、卵白、トランスグルタミナーゼ及び糖類などは市販のものを使用することができる。
【0051】
なお、すり潰し工程S2の後に、すり身を包装容器に包装した後に冷凍する包装・冷凍工程を含むとよい。包装容器は、すり身を包装するために通常用いられるものであればどのようなものでも用いることができる。また、包装容器に包装したすり身の冷凍は、通常行われるように、庫内が−40℃に設定された冷凍機等で行うことができる。なお、冷凍された品温は−20℃程度以下であればよい。
【0052】
以上に説明した大型イカのすり身の製造方法によれば、水晒し工程S1によって異味の原因となる塩化アンモニウムを除去し、又はその含有量を著しく減少させることができるので残留塩化アンモニウム濃度を70mg/100g以下、好ましくは50mg/100g以下、より好ましくは30mg/100g以下とすることができる。また、水晒し工程S1によって胴肉のpHを調整することができるので、胴肉のpHを6.5〜7.0とすることができる。そして、すり潰し工程S2ですり身にする際の温度や気圧といった条件を適切化するとともに、マスキング剤、卵白及びトランスグルタミナーゼを添加することによって、破断強度が1〜8.5g、破断凹みが8〜20mm、ゼリー強度が10〜120g・cm、好ましくはすり身の白度が、色彩色差計で測定されるL値で60以上である大型イカのすり身を製造することができる。
【0053】
ここで、残留塩化アンモニウム濃度は、塩化アンモニウム濃度測定試験により測定することができる。pHは、pH計を用いることにより測定することができる。また、破断強度、破断凹み、及びゼリー強度は、ゼリー強度測定試験により測定することができる。
【0054】
塩化アンモニウム濃度測定試験としては、例えば、試料となる胴肉から常法により5%PCA(過塩素酸)抽出液を調製し、アンモニアを微量拡散させた後にネスラー試薬で発色させることにより測定する方法(「外洋性頭足類筋肉エキスの含窒素化合物組成」飯田遥他著、日本水産学会誌、58(12)、p2383〜2390(1992))や、揮発性塩基(VBN)をConway(コンウェイ)の微量拡散法により、アンモニア態窒素はインドフェノール法により測定する方法(「アメリカオオアカイカの利用加工」、中谷肇著、青森県水産物加工研究所、p123〜131)により行うことができる。
【0055】
前者の方法は、アンモニウム塩とネスラー試薬が反応すると黄赤色になることを利用した方法であって、アンモニア態窒素の定量によく用いられる方法である。かかる方法について具体的に説明すると、イカ肉5gを精秤し、10%過塩素酸15mLを加えてホモジナイズし、濾紙で濾過後、濾紙上に残った残渣に5%過塩素酸10mLを加えて良く混ぜ約30秒静置後再び濾過する。濾液は最初に回収したものと一緒にしておく。この5%過塩素酸で残渣を洗浄する操作を合計3回行い、回収した濾液をKOHにて中和し、50mLにメスアップする。なお、予め普通標準濃度の硫酸アンモニウム溶液を用いてネスラー試薬で滴定を行い、標準曲線を作成しておく。そして、50mLにメスアップした試料溶液をネスラー試薬で滴定し、標準曲線の値に当てはめて塩化アンモニウム濃度を算出する(「食品工学実験書」上巻、京都大学農学部食品工学教室編、養賢堂版)。
【0056】
一方、後者の方法(拡散法)は、総窒素含量を求めるケルダール法の水蒸気蒸留の代わりに分解液をコンウェイユニットに入れ、アルカリを加えてアンモニアを発生させ、これを容器中の内室の酸液中に拡散捕集する方法である。なお、コンウェイユニットは実験機器カタログ等に載っており購入可能である。かかる方法について具体的に説明すると、分解液を標準検測器として用いるコンウェイユニットは、小さなペトリ皿に似た厚壁のガラス製容器であり、内部は同心円形のガラス壁によって内室と外室に分かれている。検測器の内室に規定酸液の一定量を入れ、外室には分解した検液を注入し、KOHを加えてアルカリ性にし、すり合わせガラス板で密閉する。25℃の恒温器中に約50分間放置し、発生するアンモニアを酸性液中に完全に吸収させた後、規定酸液を用いて中和滴定し、アンモニア量を測定する(「食品工学実験書」上巻、京都大学農学部食品工学教室編、養賢堂版)。
なお、インドフェノール法とは、2,6−ジクロロフェノールインドフェノール(以下単にインドフェノールという)が酸性溶液中において酸化型となった場合は紅色を呈し、還元型となった場合は無色を呈することを利用して滴定を行い定量する方法である。測定方法は、酸性下でインドフェノール溶液を還元型溶液で滴定する方法と、還元型溶液を力価既知のインドフェノールで滴定する方法の2通りある。
【0057】
ゼリー強度測定試験は以下のようにして行うことができる。例えば、密封できる包材にすり身を充填し、92℃の湯浴中で30分間加熱した後、30分間以上氷冷し、冷蔵庫にて5℃で一晩保管する。そして、冷蔵保管したすり身を恒温槽にて25℃まで昇温させて室温にて維持する。その後、すり身を直径30mm、長さ20mmの大きさに成型し、市販のゼリー強度測定器(プランジャー:No.47φ7mm(球))及び解析ソフトを用いて、破断強度、破断凹み、及びゼリー強度を測定する。なお、ゼリー強度測定器としては、例えば、RHEONERII CREEP METER RE2−3305B(山電社製)を用いることができ、解析ソフトとしては、破断強度解析 Windows(登録商標)Ver.1.2(a)を用いることができる。
【0058】
前記のようにして測定される残留塩化アンモニウム濃度が70mg/100gを超えると、すり身に残留する塩化アンモニウムの濃度が高過ぎるため、マスキング剤などを添加しても異味が感じられてしまう。そのため、蒲鉾の原料としては適さないものとなるおそれがある。なお、残留塩化アンモニウム濃度を50mg/100g以下、より好ましくは30mg/100g以下とすると、高級蒲鉾の原料として用いることができるため、高級蒲鉾の原料として用いる場合には、残留塩化アンモニウム濃度を50mg/100g以下とするのが好ましく、30mg/100g以下とするのがより好ましい。
【0059】
また、すり身のpHが6.5未満であったり、7.0を超えたりするとトランスグルタミナーゼの活性が弱くなったり、卵白に含まれる阻害タンパク質によるタンパク質分解酵素の働きを抑える作用が弱くなるため、破断強度、破断凹み、及びゼリー強度が弱くなるおそれがある。
【0060】
また、前記のようにして測定される破断強度が1g未満であると、食感が豆腐のように柔らか過ぎるため蒲鉾の原料としては不向きである。一方、破断強度が8.5gを超えると、食感が硬過ぎるため蒲鉾の原料としては不向きである。なお、破断強度を5〜8.5gとすると高級蒲鉾の原料として用いることができるため好ましい。
【0061】
前記した破断凹みが8mm未満であると、応力が低過ぎるためクッキーのようにもろい物性となるため蒲鉾の原料としては不向きである。一方、破断凹みが20mmを超えると、ガムやゴムのような弾力を有することとなるため蒲鉾の原料としては不向きである。なお、破断凹みを12〜18mmとすると高級蒲鉾の原料として用いることができるため好ましい。
【0062】
前記したゼリー強度が10g・cm未満であると、柔らかいゼリーやプリンのような食感となってしまうため蒲鉾の原料としては不向きである。一方、ゼリー強度が120g・cmを超えると、硬いゼリーのような食感となってしまうため蒲鉾の原料としては不向きである。なお、ゼリー強度を60〜120g・cmとすると高級蒲鉾の原料として用いることができるため好ましい。
【0063】
また、かかるすり身の白度は、例えば、色彩色差計(ミノルタ製CR−300)で測定されるL値で60以上であるのが好ましい。すり身の白度がL値で60未満であると、すり身の白度が足りない、つまり、白さが足りないので蒲鉾の原料、特に高級蒲鉾の原料としては好ましくない。なお、かかるすり身の白度は、色彩色差計で測定されるL値で70以上であるのが好ましく、80以上であるのがより好ましい。
【実施例】
【0064】
次に、本発明の効果を確認した実施例について説明する。
(実施例1)
原料である外洋性大型イカの胴肉として、冷凍したペルー産のアメリカオオアカイカの胴肉を用いた。なお、用いた複数の胴肉について、胴肉内に含まれている塩化アンモニウム濃度を後記する(1)残留塩化アンモニウム濃度の項目に記載した塩化アンモニウム濃度測定試験に準じて測定したところ、いずれも200〜250mg/100gであった。以下に、実施例1について説明する。
まず、冷凍状態の胴肉を浸漬槽に入れて半解凍し、第3層目までの皮を剥いだ後、胴肉の表面から剣山で叩いて貫通孔を形成した。その後、包丁で一辺が9cm程度となるように裁断した。このとき、胴肉の厚さが20mm以上ある場合は、胴肉の厚さを1/2にカットした。
次いで、所定の大きさに裁断した胴肉を濃度100ppmの次亜塩素酸ナトリウム水溶液に1分間浸漬して殺菌した後、殺菌した胴肉を1分間水に浸して次亜塩素酸ナトリウムを除去した。
【0065】
次いで、殺菌した胴肉の水晒しを行った。水晒しは、当該胴肉の重量の2倍量以上の水量の水に1時間×2回浸漬した。その後、当該胴肉の重量の2倍量以上の水量の水に炭酸ナトリウムとクエン酸ナトリウムをそれぞれ1w/v%ずつ含有するように添加した水溶液を調製し、この水溶液中に、水で2回水晒しした胴肉を4時間×2回浸漬した。なお、このときの水温は常に10℃以下(おおむね4〜8℃であった)となるようにした。水晒しした胴肉をザルに入れ、5分間放置して液きりした。
【0066】
次いで、胴肉100重量部に対して、ソルビトールを8重量部、卵白を8重量部、重合リン酸塩を0.3重量部、グルタミン酸ナトリウムを0.8重量部添加して、真空度93000Pa、10℃以下の条件下、ボールカッター(ヤナギヤ社製BCA250E)を用いて3分間、2000回転/分で混合してアメリカオオアカイカの胴肉のすり身を製造した。
【0067】
ビニールを敷いた成型箱内に製造したすり身を詰めた後ビニールで覆い、庫内温度を−40℃に設定した凍結機にて凍結させた(品温−20℃)。凍結後、凍結させたすり身を保存用の箱に詰め、−18℃にて保管した。
【0068】
このようにして製造し、保管した実施例1に係るアメリカオオアカイカのすり身の残留塩化アンモニウム濃度(mg/100g)、pH、破断強度(g)、破断凹み(mm)、ゼリー強度(g・cm)、及び白度を測定した。測定条件等は以下のとおりである。
【0069】
(1)残留塩化アンモニウム濃度(mg/100g)
残留塩化アンモニウム濃度は、以下のようにして測定した。まず、製造した大型イカのすり身5gを精秤し、10%過塩素酸15mLを加えてホモジナイズした。これを濾紙で濾過した後、濾紙上に残った残渣に5%過塩素酸10mLを加えてよく混ぜ約30秒静置した後再び濾過した。なお、濾液は最初に回収したものと一緒にした。この5%過塩素酸で残渣を洗浄する操作を合計3回行い、回収した濾液をKOHにて中和し、50mLにメスアップした。そして、50mLにメスアップした試料溶液をネスラー試薬で滴定し、標準曲線の値に当てはめて塩化アンモニウム濃度を算出した(「食品工学実験書」上巻、京都大学農学部食品工学教室編、養賢堂版参照)。
【0070】
(2)pH
pHは、ガラス電極式水素イオン濃度指数計(堀場製作所社製D−51)を用いて測定した。
【0071】
(3)破断強度(g)、破断凹み(mm)、ゼリー強度(g・cm)
破断強度、破断凹み、及びゼリー強度は、ゼリー強度測定試験により測定した。すなわち、密封できる包材としてクレハロンシームD−84(45mm×300mm、厚さ40μm)にすり身を充填し、92℃の湯浴中で30分間加熱した後、30分間以上氷冷し、冷蔵庫にて5℃で一晩保管した。そして、冷蔵保管したすり身を恒温槽にて25℃まで昇温させて室温にて維持した後、すり身を直径30mm、長さ20mmの円柱型に成型し、No.47φ7mm(球)のプランジャーを備えたゼリー強度測定器(山電社製RHEONERII CREEP METER RE2−3305B)、及び解析ソフト(破断強度解析 Windows(登録商標)Ver.1.2(a))を用いて、破断強度、破断凹み、及びゼリー強度を測定した。
【0072】
(4)白度
白度は、色彩色差計(ミノルタ製CR−300)で測定した。本願においては、当該色彩色差計によって測定されるL値を用いた。
【0073】
(5)微生物検査
また、前記(1)〜(4)と併せて、アメリカオオアカイカのすり身の微生物検査を常法により行った。微生物検査は、一般生菌数、大腸菌群、サルモネラ菌、腸炎ビブリオ菌について行った。
【0074】
前記(1)〜(5)の試験結果を下記表1に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
表1に示すように、実施例1に係るアメリカオオアカイカのすり身は、胴肉中に含まれる塩化アンモニウムを十分に除去することができたので、残留塩化アンモニウム濃度を十分に低くすることができた。そのため、これを食した場合であっても異味を感じなかった。また、破断強度、破断凹み、及びゼリー強度も適切であった。さらに、白度も十分に高かった。
従って、実施例1に係るアメリカオオアカイカのすり身は、蒲鉾又は高級蒲鉾の原料として使用できることが分かった。
【0077】
(実施例2)
実施例2では、胴肉100重量部に対して、ソルビトールを8重量部、卵白を8重量部、重合リン酸塩を0.3重量部、グルタミン酸ナトリウムを0.8重量部添加し、さらに、トランスグルタミナーゼ(味の素社製アクティバTG−AK)を1.4重量部添加して、真空度93000Pa、10℃以下の条件下、ボールカッター(ヤナギヤ社製BCA250E)を用いて3分間、2000回転/分で混合する以外は、前記した実施例1と全く同じ条件でアメリカオオアカイカのすり身を製造し、保管した。
【0078】
製造し、保管した実施例2に係るアメリカオオアカイカのすり身の残留塩化アンモニウム濃度(mg/100g)、pH、破断強度(g)、破断凹み(mm)、ゼリー強度(g・cm)、及び白度の測定と、微生物検査とを行った。測定条件等は全て実施例1と同じである。試験結果を下記表2に示す。
【0079】
【表2】

【0080】
表2に示すように、実施例2は、トランスグルタミナーゼを更に添加したので、破断強度、破断凹み、及びゼリー強度が著しく向上した。そのため、実施例2に係るアメリカオオアカイカのすり身は、特に高級蒲鉾の原料として好適であることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明に係る大型イカのすり身の製造方法の工程内容を示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0082】
S1 水晒し工程
S2 すり潰し工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化アンモニウムと自己消化を起こすタンパク質分解酵素を含む外洋性大型イカの胴肉を用いた大型イカのすり身の製造方法であって、
前記胴肉を所定の形状に裁断し、裁断した胴肉に1つ以上の有底穴又は貫通孔を設けて凍結温度よりも高く10℃以下の浸漬溶液に6〜12時間浸漬し、水晒しする水晒し工程と、
水晒しした胴肉と、前記塩化アンモニウムによって生じる異味をマスキングするためのマスキング剤と、前記タンパク質分解酵素の働きを阻害する阻害タンパク質を含む卵白、及びタンパク質どうしを架橋結合させるトランスグルタミナーゼのうちの少なくとも一方と、を混合した後、水晒しした前記胴肉の凍結温度よりも高く10℃以下、且つ陰圧下で水晒しした胴肉をすり潰してすり身にするすり潰し工程と、
を含むことを特徴とする大型イカのすり身の製造方法。
【請求項2】
前記浸漬溶液には、当該浸漬溶液100重量部に対して0.05〜2重量部のマスキング剤が添加されていることを特徴とする請求項1に記載の大型イカのすり身の製造方法。
【請求項3】
前記浸漬溶液には、当該浸漬溶液100重量部に対して0.1〜1重量部の有機酸塩が添加されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の大型イカのすり身の製造方法。
【請求項4】
前記浸漬溶液には、当該浸漬溶液100重量部に対して0.1〜1重量部の重合リン酸塩、及び0.1〜1重量部の炭酸塩のうち少なくとも一方が添加されていることを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれか1項に記載の大型イカのすり身の製造方法。
【請求項5】
前記水晒し工程は、前記浸漬溶液と裁断した前記胴肉とをバブリング又は撹拌して行うことを特徴とする請求項1から請求項4のうちのいずれか1項に記載の大型イカのすり身の製造方法。
【請求項6】
前記卵白の添加量が、前記胴肉100重量部に対して1〜10重量部であることを特徴とする請求項1から請求項5のうちのいずれか1項に記載の大型イカのすり身の製造方法。
【請求項7】
前記トランスグルタミナーゼの添加量が、前記胴肉100重量部に対して0.05〜5重量部であることを特徴とする請求項1から請求項6のうちのいずれか1項に記載の大型イカのすり身の製造方法。
【請求項8】
前記すり潰し工程において、前記胴肉100重量部に対して5〜20重量部の糖類を添加することを特徴とする請求項1から請求項6のうちのいずれか1項に記載の大型イカのすり身の製造方法。
【請求項9】
前記すり潰し工程の後に、前記すり身を包装容器に包装した後に冷凍する包装・冷凍工程を含むことを特徴とする請求項1から請求項8のうちのいずれか1項に記載の大型イカのすり身の製造方法。
【請求項10】
請求項1から請求項9のうちのいずれか1項に記載の大型イカのすり身の製造方法によって製造された大型イカのすり身であって、
残留塩化アンモニウム濃度が70mg/100g以下、
pHが6.5〜7.0、
破断強度が1〜8.5g、
破断凹みが8〜20mm、
ゼリー強度が10〜120g・cm
であることを特徴とする大型イカのすり身。
【請求項11】
すり身の白度が、色彩色差計で測定されるL値で60以上であることを特徴とする請求項10に記載の大型イカのすり身。

【図1】
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【公開番号】特開2010−75074(P2010−75074A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−244938(P2008−244938)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(000125912)株式会社あじかん (12)
【Fターム(参考)】