説明

大型搬送車両の走行装置

【課題】簡易な構成でタイヤの操舵角を大きくした大型搬送車両の走行装置を提供すること。
【解決手段】走行モータ26やアクスル25を介して回転可能なタイヤ21を備える走行機構と、アクチュエータ24を使用して走行機構を車体に対して上下動させる昇降機構と、走行機構と昇降機構とを回転可能に支持する回転ブラケット22を回転させる操舵機構とを有するものであって、操舵機構は、回転ブラケット22に外輪311側が固定され、車体側に内輪312側が固定されたベアリング31を有し、ベアリング31の外輪311に対してウォームギヤ32を介して操舵モータの回転を伝達するようにした大型搬送車両の走行装置12。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重量物を運搬するキャリヤなどの大型搬送車両の走行装置に関し、特に、簡易な構成でタイヤの操舵角を大きくした操舵機構を有する走行装置に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁架設などの大型重量物を搬送する作業現場には、キャリヤといった大型搬送車が使用される。そうした大型搬送車は、荷台となる長尺な車体の下部に複輪式の走行装置、即ち、車軸の両端に空気タイヤを備えたアクスルを、スイングアームによって車軸と直交する方向に揺動可能にした走行装置が複数備えられている。例えば下記特許文献1には、そうした走行装置の一例が開示されており、図5は、同文献に記載された走行装置の平面図である。
【0003】
この走行装置100は、車体200に対してベアリング110によって回転可能な回転フレーム120を有し、その回転フレーム120の下部にはディファレンシャルギヤなどが設けられ、それを介して走行モータ130の出力が左右のタイヤ150に伝達されるようになっている。ベアリング110は、内輪111には回転フレーム120が固定され、外輪112には取付板115などを介して車体200側に取り付けられている。その取付板115の反対側には半円形の操舵歯車160が固定され、操舵モータ170の回転出力が伝達歯車175を介して操舵歯車160に伝達されタイヤ150の操舵が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3407430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、こうした大型搬送車両に設けられる走行装置は、狭いスペースの中に様々な構造を有しており、操舵機構を如何に構成するかが課題の一つであった。図5に示す従来の走行装置100は、操舵モータ170の出力軸に固定された伝達歯車175と、ベアリング110に固定された操舵歯車160が平歯車によって構成されている。そのため、伝達歯車175を備えた操舵モータ170は、その回転軸が車体上下方向(図面を貫く方向)であることからタイヤ150と同じ高さの配置となってしまう。
【0006】
そこで、従来の走行装置100では、操舵によってタイヤ150が傾きを生じる場合に、干渉しない空間部に取り付けられているが、こうした操舵機構では、操舵モータ170によってタイヤ150の操舵角が約155°に制限されてしまい、十分ではなかった。例えば、橋梁の架設に使用されるキャリヤは、橋桁を搭載して十分な広さのない道を移送することがあるが、その際、操舵角が小さいために、何度も切り返しを行わなければならない場合がある。このとき、数百トンもの重さの橋桁を搭載して行う据え切りは、道路を傷めてしまい、時には穴をあけてしまうこともあった。
【0007】
一方、タイヤ21に干渉しないようにした操舵機構として、シリンダを駆動現としてリンクによって操舵させる構造や、同じくシリンダを駆動源としてラック・ピニオンを使用して操舵させる構造のものがある。しかし、いずれも構造が複雑になる他、シリンダのストロークによって操舵角が制限されてしまうため、有効なものではなかった。
【0008】
そこで、本発明は、かかる課題を解決すべく、簡易な構成でタイヤの操舵角を大きくした大型搬送車両の走行装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る大型搬送車両の走行装置は、走行モータやアクスルを介して回転可能なタイヤを備える走行機構と、アクチュエータを使用して前記走行機構を車体に対して上下動させる昇降機構と、前記走行機構と前記昇降機構とを回転可能に支持する回転ブラケットを回転させる操舵機構とを有するものであって、前記操舵機構は、前記回転ブラケットに外輪側が固定され、車体側に内輪側が固定されたベアリングを有し、前記ベアリングの外輪に対してウォームギヤを介して操舵モータの回転を伝達するようにしたものであることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る大型搬送車両の走行装置は、前記ベアリングの外輪には、その外周側に前記ウォームギヤの一方をなすウォームホィールの歯が形成され、そのウォームホィールに噛み合う他方のウォームに回転を与える前記操舵モータが油圧モータであることが好ましい。
また、本発明に係る大型搬送車両の走行装置は、前記操舵モータを回転制御する制御装置に対し、前記ウォームの回転を検出する回転検出手段が前記ウォームの回転軸に設けられたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ベアリングを介してタイヤを操舵させる操舵モータの回転を、2軸が互いに直角をなすウォームギヤを使用して伝達するようにしたので、操舵モータをタイヤに干渉しないベアリングの高さに配置し、簡易な構成でタイヤの操舵角を大きくした大型搬送車両の走行装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】キャリヤを示した平面図である。
【図2】キャリヤを示した側面図である。
【図3】図2に示す一機分の走行装置を示した拡大図である。
【図4】操舵機構の実施形態を概念的に示した平面図である。
【図5】従来の操舵機構で構成された走行装置を示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明にかかる大型搬送車両の走行装置について、その一実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。本実施形態では、キャリヤを構成する走行装置の操舵機構について説明する。図1及び図2は、キャリヤを示した平面図と側面図である。このキャリヤ10には、不図示の運転室やパワーユニットが取り付けられ、複数の走行装置12をコンピュータで連動させることによって、走行及び操舵が可能となる。
【0014】
走行装置12は、それぞれ左右2個ずつ計4個のタイヤ21を有し、タイヤ21を操舵させるサスペンションブラケット22に対し、上下方向に揺動可能なスイングアーム23が設けられ、そのスイングアーム23が油圧シリンダ24で支持された昇降機構が構成されている。また、走行装置12には、その他にも走行モータによって車軸を回転させる走行機構や、操舵モータによってサスペンションブラケット22を介してタイヤ21を操舵させる操舵機構が構成されている。なお、サスペンションブラケット22は、特許請求の範囲に記載する「回転ブラケット」である。
【0015】
図3は、図2に示す一機分の走行装置12を示した拡大図である。走行装置12の昇降機構は、前述したようにサスペンションブラケット22にスイングアーム23が上下方向に揺動可能に連結され、スイングアーム23が油圧シリンダ24の伸縮によってタイヤ21と車体11との距離を調節できるようになっている。そのため、キャリヤ10は、走行路の凹凸に対応してスイングアーム23が上下動し、車体11の高さを一定にした走行が可能となる。また、走行機構では、スイングアーム23の先端にアクスル25が設けられ、走行モータ(油圧モータ)26の回転出力がディファレンシャルギヤを介して車軸に伝達され、キャリヤ10の走行制御が可能となる。
【0016】
そして、本実施形態の走行装置12では、操舵モータの回転出力をウォームギヤを使用してサスペンションブラケット22へ伝達する構成の操舵機構が設けられている。サスペンションブラケット22は、上面の回転プレート22aがベアリング31の外輪311に固定され、ベアリング31の内輪312は、車体フレーム33側に固定されている。従って、サスペンションブラケット22を介して設けられたタイヤ21は、車体11に対してベアリング31を介して操舵可能な構成になっている。
【0017】
ここで図4は、本実施形態の操舵機構を概念的に示した平面図である。ベアリング31の外輪311には、その外周側にウォームギヤ32の一方をなすウォームホィール321の歯が1周分形成されている。そして、ウォームホィール321に対して他方のウォーム322が設けられ、互いの歯が噛み合っている。ウォーム322は回転軸34と一体になり、その回転軸34には回転を出力する操舵モータ(油圧モータ)35が連結されている。そして、操舵モータ35の反対側には、回転を検出するポテンショメータ36が回転軸34に取り付けられている。
【0018】
ウォームギヤ32は、ウォームホィール321とウォーム322とが2軸を直角にして噛み合っている歯車である。従って、ウォーム322は車体11に対して水平方向に配置され、操舵モータ35が、タイヤ21の上方にあるウォームギヤ32と同じ高さに配置されている。且つ、本実施形態では操舵モータ35に油圧モータが使用され、その油圧モータが必要なトルクを出力することができる小型のモータであることから、スペースの限られた走行装置12内にあって、操舵を行うタイヤ21に干渉することなく配置が可能になっている。
【0019】
また、ウォーム322の回転角を検出するポテンショメータ36には、制御装置41が接続され、その制御装置41は、操舵モータ35などを駆動させる油圧ポンプや切換弁などの流体機器に対し動作制御を行うものであり、その流体機器からなる駆動装置42に接続されている。走行装置12は、ポテンショメータ36からの検出信号をフィードバックしてタイヤ21の操舵角制御を行うように構成されている。
【0020】
こうした走行装置12を有するキャリヤ10は、走行モータ26の駆動によって、その回転出力がディファレンシャルギヤを介して車軸に伝達されタイヤ21を回転させる前進、後退などの移動が行われる。そうした走行中、制御装置41による制御信号を受けて駆動装置42から供給される作動油の油圧エネルギによって操舵モータ35が回転する。そして、回転軸34と一体のウォーム322が回転し、更には噛み合ったウォームホィール321が回転することにより、ベアリング31の外輪311に固定されたサスペンションブラケット22が所定量回転してタイヤ21の操舵が行われる。
【0021】
サスペンションブラケット22の回転角、すなわちタイヤ21の操舵角は、ポテンショメータ36によって検出され、その検出値が制御装置41に送られて演算処理により算出される。こうして得られた操舵角データに基づき制御装置41では、更に駆動装置42へ制御信号を送信し、適切な角度でタイヤ21の操舵が行われる。
【0022】
本実施形態に係る大型搬送車両の走行装置によれば、2軸が互いに直角をなすウォームギヤ32(ウォームホィール321とウォーム322)を使用した簡易な構成にし、操舵モータ35がタイヤ21とは高さ位置が異なるため操舵に際して干渉もしない。また、操舵モータ35の設置位置が高くなったことや、油圧モータを使用して駆動源を小型にしたことで、小スペースの走行装置12に対してコンパクトな操舵機構とすることができる。また、タイヤ21の操舵に操舵モータ35が干渉しないため270°程度もの操舵角を得ることができ、狭い場所でも斜行や旋回などによって移動し、従来のような据え切りを行う必要がなくなり、道路を傷めてしまうなどの問題を解消することができる。更に、ポテンショメータ36を使用したフィードバック制御により、タイヤ21の操舵が正確に行える。
【0023】
以上、本発明に係る大型搬送車両の走行装置について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、操舵モータ35に油圧モータを使用したが電動モータであってもよい。
また、前記実施形態では、ベアリング31の外輪311にウォームギヤ32の一方をなすウォームホィール321の歯が形成されたものが示されているが、外輪311とウォームホィール321は別体であってもよい。
【符号の説明】
【0024】
10 キャリヤ
11 車体
12 走行装置
21 タイヤ
22 サスペンションブラケット
23 スイングアーム
25 アクスル
26 走行モータ
31 ベアリング
32 ウォームギヤ
321 ウォームホィール
322 ウォーム
34 回転軸
35 操舵モータ
36 ポテンショメータ
41 制御装置
42 駆動装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行モータやアクスルを介して回転可能なタイヤを備える走行機構と、アクチュエータを使用して前記走行機構を車体に対して上下動させる昇降機構と、前記走行機構と前記昇降機構とを回転可能に支持する回転ブラケットを回転させる操舵機構とを有する大型搬送車両の走行装置において、
前記操舵機構は、前記回転ブラケットに外輪側が固定され、車体側に内輪側が固定されたベアリングを有し、前記ベアリングの外輪に対してウォームギヤを介して操舵モータの回転を伝達するようにしたものであることを特徴とする大型搬送車両の走行装置。
【請求項2】
請求項1に記載する大型搬送車両の走行装置において、
前記ベアリングの外輪には、その外周側に前記ウォームギヤの一方をなすウォームホィールの歯が形成され、そのウォームホィールに噛み合う他方のウォームに回転を与える前記操舵モータが油圧モータであることを特徴とする大型搬送車両の走行装置。
【請求項3】
請求項2に記載する大型搬送車両の走行装置において、
前記操舵モータを回転制御する制御装置に対し、前記ウォームの回転を検出する回転検出手段が前記ウォームの回転軸に設けられたものであることを特徴とする大型搬送車両の走行装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−148394(P2011−148394A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11065(P2010−11065)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(000004617)日本車輌製造株式会社 (722)
【Fターム(参考)】