説明

大形極低温液化ガス貯槽

【課題】充填作業が簡単で、設備が安価で、しかも、流量制御が簡単で、BOGが発生しない大形極低温液化ガス貯槽を提供する。
【解決手段】複数個の内槽2〜5と、これら内槽2〜5を収容する保冷槽1とを備えた大形極低温液化ガス貯槽であって、1個の内槽2が、ローリー6から極低温液化ガスをローリー6と内槽2との運転圧力の差圧を利用して内槽2内に充填する専用の内槽2であり、この専用の内槽2から延ばしたLNG取出管10に、上記専用の内槽2から取り出した極低温液化ガスを上記専用の内槽2以外の貯槽3〜5に送給して充填するための送給ポンプ7を設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LNG(液化天然ガス)等の極低温液化ガスを貯蔵するための大形極低温液化ガス貯槽に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、LNGサテライト設備等に設置した、LNG等の極低温液化ガスを貯蔵する断熱貯槽では、これが空になる等してローリーからLNG等を充填する場合に、ローリーの運転圧力と断熱貯槽の運転圧力との差圧を利用した差圧充填が行われている。また、断熱貯槽に貯蔵するLNG等を工業用として供給する場合には、ローリーの運転圧力(法律の規定により、差圧充填の場合、0.55MPa程度の運転圧力が常用されている)より高い圧力(0.6MPa程度の中圧)で供給する必要がある場合がある。
【0003】
そこで、例えば、図3に示すように、内外二重槽(図示せず)で構成された複数基(図3では、2基)の断熱貯槽21,22を設置し、これら両断熱貯槽21,22の頂部からBOG(ボイルオフガス)排出管23,24を延ばすとともに、底部からLNG取出管25,26を延ばし、これら両LNG取出管25,26を連結管27を介して中圧ガス供給管28および低圧ガス供給管29に連結し、充填時には、まず、空になった断熱貯槽21(22)からBOGを排出して(0.7MPa程度から0.3MPa程度に)脱圧し、つぎに、ローリー30に搭載したLNG収容タンク30aから、充填ライン31により、脱圧した断熱貯槽21(22)へLNGを差圧充填したのち、断熱貯槽21(22)に設けた昇圧手段(図示せず)により断熱貯槽21(22)内を加圧して0.7MPa程度にまで昇圧するようにしている。また、需要者側への供給時には、両LNG取出管25,26に設けた開閉弁25a,26aおよび両ガス供給管28,29に設けた減圧弁28a,29aを操作し、中圧ガス供給管28から0.6MPa程度の中圧LNGを需要者側に供給し、低圧ガス供給管29から0.15MPa程度の低圧LNGを需要者側に供給するようにしている。図において、23a,24aはBOG排出管23,24に設けた開閉弁で、31a,31bは充填ライン31に設けた開閉弁である。
【0004】
また、図4に示すように、LNG取出管25に供給ポンプ33を設け、この供給ポンプ33の下流側部分と断熱貯槽21の頂部とを流量調整弁34a付きバイパス管34で連結し、充填時には、空になった断熱貯槽21にローリー30(運転圧力は0.55MPa程度)から断熱貯槽21(運転圧力は0.3MPa程度)へLNGを差圧充填し、需要者側への供給時には、LNGを供給ポンプ33によりポンプアップして0.7MPa程度にまで加圧したのち、中圧ガス供給管28や低圧ガス供給管29に供給するようにしたものもある。このものでは、供給ポンプ33のミニマムフローを確保するため、LNG取出管25の流量が低下した場合には、これを流量指示調節計35で検出して流量調整弁34aを操作し、LNG取出管25内を通るLNGをバイパス管34を経由して断熱貯槽21に戻すようにしている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、図3に示すものでは、充填時に、脱圧作業・差圧充填作業・加圧作業を行わなければならないため、充填を頻繁に行う場合には、作業が煩雑になる。しかも、脱圧の際に、断熱貯槽21,22からBOGを大気中に排出すると、温暖化を促進するという問題があるため、再利用する必要があり、そのための設備が高価であるうえ、断熱貯槽21,22が大形である場合には、BOGの排出量が大きくなるため、上記設備の規模も大きくする必要があり、一層高価になる。また、図4に示すものでは、需要者の使用量変動やミニマムフローによる流量制限等に対応するため、流量調整弁34aを調整して流量制御しなければならず、その制御が複雑になる。しかも、LNGをバイパス管34を経由して断熱貯槽21に戻す際に、LNGが供給ポンプ33通過時にその機械的エネルギーで加温されたり、バイパス管34通過時に外部からの侵入熱で加温されたりするため、BOGが発生する。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、充填作業が簡単で、設備が安価で、しかも、流量制御が簡単で、BOGが発生しない大形極低温液化ガス貯槽の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明の大形極低温液化ガス貯槽は、極低温液化ガスを充填するための複数個の内槽と、これら複数個の内槽を収容する保冷槽とを備えた大形極低温液化ガス貯槽であって、1個の内槽が、ローリー搭載のタンク内に収容された極低温液化ガスをタンク内圧と内槽内圧との差圧を利用して内槽内に充填する専用の内槽であり、この専用の内槽から極低温液化ガス取出管を上記専用の内槽以外の内槽に延ばし、上記極低温液化ガス取出管に、上記専用の内槽から取り出した極低温液化ガスを上記専用の内槽以外の内槽に送給して充填するための送給ポンプを設けたという構成をとる。
【発明の効果】
【0008】
すなわち、本発明の大形極低温液化ガス貯槽は、ローリーから供給される極低温液化ガスを充填するために用いられる受け入れ専用の内槽を1個有しており、この専用の内槽にのみ、ローリー搭載のタンク内に収容された極低温液化ガスを、タンク内圧(すなわち、ローリーの運転圧力)と内槽内圧(すなわち、内槽の運転圧力)との差圧を利用して充填するようにしている。この差圧充填では、上記内槽内圧はタンク内圧より低くなる。そこで、上記専用の内槽から延びる極低温液化ガス取出管に送給ポンプを設け、この送給ポンプにより、上記専用の内槽から取り出した極低温液化ガスを上記専用の内槽以外の内槽に送給して充填するようにしている。このように、本発明の大形極低温液化ガス貯槽では、上記専用の内槽の内圧がローリー搭載のタンクの内圧より低く設定されているため、ローリーから極低温液化ガスを上記専用の内槽に充填する場合に、上記専用の内槽に対し、充填前の脱圧作業および充填後の加圧作業を行う必要がなく、上記充填のための作業が簡単化する。しかも、上記脱圧作業を行わないため、BOGが発生せず、BOGを再利用するための設備を設ける必要がなくなり、安価になる。しかも、送給ポンプにより、上記専用の内槽と上記専用の内槽以外の内槽との間で極低温液化ガスを液移送させるだけであるため、送給ポンプ等の流量制御が簡単になる。しかも、上記専用の内槽に多量の極低温液化ガスを充填しておき、上記専用の内槽以外の内槽において極低温液化ガスが所定量減少すると、その都度送給ポンプを駆動させて極低温液化ガスを補給することで、ミニマムフローの心配がなくなり、従来例ではミニマムフロー使用時に生じていた、BOGの発生がなくなる。しかも、上記専用の内槽以外の内槽の内槽内圧を多用な供給条件ごとに設定できるため、供給圧力が数種ある場合にも送給ポンプを数種類持つ必要がない。しかも、上記複数個の内槽が保冷槽に収容されているため、この保冷槽で内部が保冷されており、極低温液化ガスを充填する貯槽として、内槽だけで構成したものを用いることができ(すなわち、各内槽に個別に外槽を設けて内外二重槽とする必要がなく)、その分上記大形極低温液化ガス貯槽の設置スペースを小さくすることができる。しかも、保冷槽で複数個の内槽を覆っているため、全貯蔵量に対する外表面積の比が小さくなり、単位貯蔵量に対する蒸発量が小さくなる。
【0009】
また、上記専用の内槽以外の内槽が、その内圧を昇圧させるための昇圧手段を有していると、この昇圧手段で、上記専用の内槽以外の内槽の内圧を所定の圧力に昇圧,保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
つぎに、本発明を実施の形態にもとづいて詳しく説明する。
【0011】
図1は本発明の大形極低温液化ガス貯槽の一実施の形態を示している。図において、1は内周面に断熱層(図示せず)が形成された真空断熱用の保冷箱(保冷槽)であり、その内部が真空状態に保持されている。2〜5は上記保冷箱1の内部に配設された複数基(この実施の形態では、4基)の内槽であり、それぞれ外槽を備えていない(すなわち、内外二重槽で構成されていない)。上記内槽2〜5のうち、内槽(専用の内槽)2は、ローリー6から供給されるLNGを充填するために設けられた受け入れ専用の内槽であり、その運転圧力(すなわち、内槽内圧)が0.3MPa程度に設定されている。また、内槽3は、その運転圧力が0.3MPa程度に,内槽4は0.7MPa程度に、内槽5は2.2MPa程度にそれぞれ設定されている。また、これら各内槽2〜5は、その内部圧力を上記運転圧力に昇圧,保持するための昇圧手段(図示せず)を有している。これら各昇圧手段は、各内槽2〜5内のLNGを各内槽2〜5の底部から取り出し、気化器で気化したのち各内槽2〜5の頂部に戻すことにより、その内部圧力を上記運転圧力に昇圧,保持するものである。7は送給ポンプであり、上記受け入れ専用の内槽2の底部から延びるLNG取出管(極低温液化ガス取出管)10に設けられている。11〜13は上記LNG取出管10の送給ポンプ7の下流側部分から上記内槽3〜5の底部に延びる入口管で、14〜16は上記内槽3〜5の底部から延びるLNG導出管であり、内槽3の底部から延びるLNG導出管14は減圧弁17a付き低圧LNG供給管17に連結し、内槽4の底部から延びるLNG導出管15は減圧弁18a付き中圧LNG供給管18に連結し、内槽5の底部から延びるLNG導出管16は減圧弁19a付き高圧LNG供給管19に連結している。図において、1aは内槽2〜5の載置台で、11a,12a,13aは入口管11〜13に設けた開閉弁で、20は充填ラインである。
【0012】
このような大形極低温液化ガス貯槽に、つぎのようにしてLNGを充填することができる。すなわち、まず、ローリー6に搭載されたLNG収容タンク6a(運転圧力0.55MPa)のLNGを差圧充填により受け入れ専用の内槽2に充填し、ついで、各入口管11〜13の開閉弁11a〜13aを開閉操作し、送給ポンプ7を駆動し、LNG取出管10により内槽2から取り出したLNGを、所定の圧力に保持された内槽3〜5に適時液移送して充填しながら、昇圧手段で所定の運転圧力に昇圧,保持する。そして、0.15MPa程度の低圧LNGを需要者側へ供給する場合には、内槽3のLNGを低圧LNG供給管17により供給し、0.6MPa程度の中圧LNGを需要者側へ供給する場合には、内槽4のLNGを中圧LNG供給管18により供給し、2.1MPa程度の高圧LNGを需要者側へ供給する場合には、内槽5のLNGを高圧LNG供給管19により供給することを行う。
【0013】
上記のように、この実施の形態では、受け入れ専用の内槽2の運転圧力がローリー6の運転圧力より低く設定されているため、充填時に、受け入れ専用の内槽2に対し、充填前の脱圧作業および充填後の加圧作業を行う必要がなく、上記充填のための作業が簡単化する。しかも、上記脱圧作業を行わないため、BOGが発生せず、BOGを再利用するための設備を設ける必要がなくなり、安価になる。しかも、送給ポンプ7により、受け入れ専用の内槽2と内槽3〜5との間でLNGを液移送させるだけであるため、送給ポンプ7等の流量制御が簡単になる。しかも、受け入れ専用の内槽2に多量のLNGを充填しておき、内槽3〜5のLNGが所定量減少すると、その都度送給ポンプ7を駆動してLNGを補給することで、ミニマムフローの心配がなくなり、BOGが発生しなくなる。しかも、内槽3〜5の運転圧力を多用な供給条件ごとに設定できるため、供給圧力が数種ある場合にも送給ポンプ7を数種類持つ必要がない。しかも、各内槽2〜5が保冷箱1に収容されているため、LNGを充填するための貯槽として、内槽2〜5だけで構成したものを用いることができ(すなわち、内外二重槽を用いる必要がなく)、その分上記大形極低温液化ガス貯槽の設置スペースを小さくすることができる。しかも、1つの保冷箱1で4個の内槽2〜5を覆っているため、全貯蔵量に対する外表面積の比が小さくなり、単位貯蔵量に対する蒸発量が小さくなる。
【0014】
図2は本発明の大形極低温液化ガス貯槽の他の実施の形態を示している。この実施の形態では、保冷箱1の内部に、4基の内槽2〜5以外に、LNG取出管10,入口管11〜13,LNG導出管14〜16,充填ライン19が配設されている。また、内槽2〜5を載置するための載置棚1bは、格子状に形成された棚本体上に断熱層を載置,固定したもの(図示せず)で構成されており、載置棚1bの下側空間も断熱真空されている。それ以外の部分は上記実施の形態と同様であり、同様の部分には同じ符号を付している。この実施の形態でも、上記実施の形態と同様の作用・効果を奏する。
【0015】
なお、上記両実施の形態において、保冷箱1の内部にパーライトを充填してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の大形極低温液化ガス貯槽の一実施の形態を示す説明図である。
【図2】本発明の大形極低温液化ガス貯槽の他の実施の形態を示す説明図である。
【図3】従来例を示す説明図である。
【図4】他の従来例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0017】
1 保冷箱
2〜5 内槽
6 ローリー
7 送給ポンプ
10 LNG取出管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極低温液化ガスを充填するための複数個の内槽と、これら複数個の内槽を収容する保冷槽とを備えた大形極低温液化ガス貯槽であって、1個の内槽が、ローリー搭載のタンク内に収容された極低温液化ガスをタンク内圧と内槽内圧との差圧を利用して内槽内に充填する専用の内槽であり、この専用の内槽から極低温液化ガス取出管を上記専用の内槽以外の内槽に延ばし、上記極低温液化ガス取出管に、上記専用の内槽から取り出した極低温液化ガスを上記専用の内槽以外の内槽に送給して充填するための送給ポンプを設けたことを特徴とする大形極低温液化ガス貯槽。
【請求項2】
上記専用の内槽以外の内槽が、その内圧を昇圧させるための昇圧手段を有している請求項1記載の大形極低温液化ガス貯槽。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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