説明

大気浄化触媒の劣化検知システム及び劣化検知方法

【課題】車両のラジエータに担持された大気浄化触媒全体の平均的な劣化度合いを精度良く検知できる劣化検知システム及び劣化検知方法を提供する。
【解決手段】車両のラジエータ110に広範囲に担持された大気浄化触媒を有する車両用大気浄化システムにおいて、ラジエータ110を通過する前の大気を採取して汚染物質濃度を検出するとともに、ラジエータ110の複数の部位を通過した夫々の大気を採集してその汚染物質濃度を検出することにより、大気浄化触媒全体の平均的な劣化度合いを精度良く検知できる劣化検知システム及び劣化検知方法を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のラジエータに担持された大気浄化触媒の劣化検知システム、及び、劣化検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境に対する関心が高まってきている現在、光化学スモッグ等の原因となる大気汚染物質(例えばオゾン)の浄化触媒を担持させたラジエータを搭載した車両を走行させることにより、大気質の改善を図る手法(大気浄化システム)が検討されている。こうした車両を走らせることにより、周辺の空気が清浄化され、環境が改善される。
【0003】
このような大気浄化システムは、エミッションデバイスであることから、車載故障検知システムが必要であり、例えば、オゾン浄化触媒に対し触媒が担持されていないラジエータが交換されたことを検知する車載故障検知システムが提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
この特許文献1に開示されている車載故障検知システムは、オゾン浄化触媒を担持したラジエータコア部に有線式アンチタンパリングデバイス(不正改造防止デバイス:ATD:Anti Tampering Device(以下、ATDという))を温度センサとともに装着させたものである。
【0005】
このATDは、自動車の特定の構成部品(ラジエータ)に、当該構成部品(ラジエータ)を識別する識別装置を取り付けたものであり、この識別装置とECU(electronic control unit:電子制御ユニット)とは、有線で連結されている。そして、このATDにおいて、ECUはその構成部品に取り付けられている識別装置から提供されたデータに基づいて、その構成部品が適正に組み込まれているか否かを確認する。
【0006】
より具体的に説明すると、このATDは、基本的にはラジエータから外れない構造とされており、識別装置とECUとの通信は有線にて行われる。このATDは温度センサを有し、ラジエータコア表面温度信号をECUに送信する。そして、ECUは、ラジエータ水温とATDから受信したラジエータコア表面温度とを比較し、適切な関係にあることを確認して、特定のラジエータが装着されていることを認識し、これによってラジエータが適正に組み込まれていることを確認する。
【特許文献1】米国特許第6695473号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1で開示されたATDを用いた故障検知システムは、触媒が担持されたラジエータの有無を確認するシステムであり、実際に触媒の劣化を検知するシステムではない。大気浄化システムの浄化性能は不変ではなく、触媒の劣化により経時的に低減することから、正確な故障検知システムとして、触媒の劣化を検知するための劣化検知システムの構築が望まれる。
【0008】
特に、ラジエータのように面積が大きいものに大気浄化触媒を担持させた場合にあっては、担持させた部位によって通過する大気の流量や風速が異なるため浄化触媒の劣化度が異なる。このため、その一部の浄化率を測定するだけでは全体の浄化率を把握できず、浄化触媒の劣化度を誤って判定してしまうおそれがある。
【0009】
本発明は以上のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、車両のラジエータに担持された大気浄化触媒全体の平均的な劣化度合いを精度良く検知できる劣化検知システム及び劣化検知方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、車両のラジエータに広範囲に担持された大気浄化触媒を有する車両用大気浄化システムにおいて、ラジエータを通過する前の大気を採取して汚染物質濃度を検出するとともに、ラジエータの複数の部位を通過した夫々の大気を採集してその汚染物質濃度を検出することにより、触媒全体の平均的な劣化度合いを精度良く検知できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0011】
(1) 車両のラジエータに担持された大気浄化触媒の劣化検知システムであって、前記ラジエータの上流側に配置され前記ラジエータを通過する前の大気を採取する採取手段と、前記ラジエータの下流側に配置され前記ラジエータの複数の部位を通過した夫々の大気を採集する採集手段と、前記採取手段により採取された大気中の汚染物質濃度及び前記採集手段により採集された大気中の汚染物質濃度を検出する検出手段と、を備える大気浄化触媒の劣化検知システム。
【0012】
(1)の発明は、ラジエータの下流側に配置された採集手段により、ラジエータの複数の部位を通過した夫々の大気を採集し、採集した大気中の汚染物質濃度を検出することを特徴とする。即ち、本発明によれば、ラジエータの各部位を通過する大気を一箇所に集めてサンプリングし、その汚染物質濃度を検出するため、一点のサンプリングのみでラジエータ全体の浄化触媒の劣化度を検知できる。このため、ラジエータの各部位に担持された浄化触媒全体の劣化度合いを正確に測定するために、複数の汚染物質濃度検出手段を配置する必要がなく、コストの削減や軽量化が期待できる。
【0013】
(2) 前記採集手段は、前記検出手段から前記ラジエータの下流側の複数の部位に通じる分岐された採集管を有する(1)記載の大気浄化触媒の劣化検知システム。
【0014】
(2)の発明は、採集手段として、検出手段からラジエータの下流側の複数の部位に通じる分岐された採集管を採用したことを特徴とする。これにより、複数の部位を通過した夫々の大気のサンプリングが可能となり、触媒全体の劣化度を精度良く検知できる。なお、採集管の分岐数を増やすことによってサンプリング部位も増え、より検知精度を向上させることができる。
【0015】
(3) 前記採集手段は、前記ラジエータの下流側に配置され大気を吸引する第一吸引装置と、この第一吸引装置の下流側に配置された放射型整流板と、を有し、前記第一吸引装置は、ファンと、このファンを囲む導風板と、この導風板に設けられ前記ファンを回転駆動する駆動源と、を備え、前記放射型整流板は、前記ファンの回転軸上に設けられた中央ガイドと、この中央ガイドから放射状に延びる放射状ガイドと、を有し、前記中央ガイドは、前記検出手段に連通する内部空間を有し、前記各放射状ガイドは、前記ラジエータを通過した大気を前記内部空間に導入する連通路を有する(1)記載の大気浄化触媒の劣化検知システム。
【0016】
(3)の発明は、採集手段として、第一吸引装置と、放射型整流板を採用したことを特徴とする。(3)の発明によれば、先ず、車両走行時に生じる走行風あるいは第一吸引装置により、ラジエータを通して吸引された大気が中央ガイド及び放射状ガイドに導入される。より具体的には、駆動源でファンを回転させると、大気がラジエータを通して第一吸引装置に吸引される。この吸引された大気は、各放射状ガイドの連通路に導入され、これら連通路に導入された大気は、中央ガイドの内部空間に集められて、検出手段により検出される。従って、オゾン浄化触媒全体の平均的な劣化度合いを精度良く検知できる。なお、放射状ガイドの数を増やすことによってサンプリング部位も増え、より検知精度を向上させることができる。
【0017】
(4) 前記採集手段は、前記ラジエータの下流側に配置され大気を吸引する第二吸引装置と、この第二吸引装置と前記ラジエータとの間に配置された水平型整流板と、を有し、前記第二吸引装置は、ファンと、このファンを囲む導風板と、この導風板に設けられ前記ファンを回転駆動する駆動源と、を備え、前記水平型整流板は、水平方向に並列に設けられた複数の水平ガイドと、この複数の水平ガイドと直交する垂直ガイドと、を有し、前記垂直ガイドは、前記検出手段に連通する内部空間を有し、前記水平ガイドは、前記ラジエータを通過した大気を前記内部空間に導入する連通路を有する(1)記載の大気浄化触媒の劣化検知システム。
【0018】
(4)の発明は、採集手段として、第二吸引装置と、水平型整流板を採用したことを特徴とする。(4)の発明によれば、先ず、車両走行時に生じる走行風あるいは第二吸引装置により、ラジエータを通して吸引された大気が垂直ガイド及び水平ガイドに導入される。より具体的には、駆動源でファンを回転させると、大気がラジエータを通して各水平ガイドの連通路に導入され、これら連通路に導入された大気は、垂直ガイドの内部空間に集められて、検出手段により検出される。従って、オゾン浄化触媒全体の平均的な劣化度合いを精度良く検知できる。なお、水平ガイドの数を増やすことによってサンプリング部位も増え、より検知精度を向上させることができる。
【0019】
(5) 前記採集手段は、前記ラジエータを通過する大気の流量を調整する流量調整器をさらに有する(1)から(4)いずれか記載の大気浄化触媒の劣化検知システム。
【0020】
(5)の発明は、ラジエータを通過する大気の流量の調整が可能な流量調整器を備えたことを特徴とする。触媒の劣化度は、触媒を通過する大気の流量に大きく影響されるものであり、後述するように、触媒全体の正確な劣化度を検知するためには、ラジエータの各部位を通過する大気の流量を調整することが重要である。本発明では、その調整を可能としたものであり、オゾン浄化触媒全体の平均的な劣化度合いをより精度良く検知できる。
【0021】
(6) 前記車両の速度に応じて前記流量調整器を駆動させ、前記ラジエータを通過する大気の流量を調整する制御手段をさらに備える(5)記載の大気浄化触媒の劣化検知システム。
【0022】
(6)の発明は、車両の速度に応じて流量調整器を駆動させ、ラジエータを通過する大気の流量を調整する制御手段をさらに備えることを特徴とする。このため、(6)の発明では、車速に応じて、流量調整器、例えば調整弁を備えた調整器にあっては、調整弁の開度を調整でき、ラジエータの各部位を通過する大気の流量を制御できる。従って、(6)の発明によれば、車速による影響を受けることなく、オゾン浄化触媒全体の平均的な劣化度合いを精度良く検知できる。
【0023】
(7) 前記採集手段は、前記ラジエータの下流側に配置され前記ラジエータを通過する大気の風速分布を測定する風速分布測定器をさらに有し、前記制御手段は、前記風速分布測定器により測定された前記ラジエータを通過する大気の風速分布データを加味して前記流量調整器を駆動させ、前記ラジエータを通過する大気の流量を調整する(6)記載の大気浄化触媒の劣化検知システム。
【0024】
(7)の発明は、風速分布測定器を有する採集手段を採用し、この風速分布測定器により測定される風速分布データを加味して流量調整器の調整を行うことを特徴とする。即ち、車速情報に加えて、ラジエータの各部位における風速分布に関する情報に基づいて流量調整器の調整を行うため、オゾン浄化触媒全体の平均的な劣化度合いをより精度良く検知できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、車両のラジエータに担持された大気浄化触媒全体の平均的な劣化度合いを精度良く検知できる劣化検知システム及び劣化検知方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、第一実施形態以外の各実施形態の説明において、第一実施形態と共通する構成及び作用効果の説明については省略する。
【0027】
<第一実施形態>
[全体構成]
本実施形態に係る劣化検知システム100の概要図を図1に示す。この劣化検知システム100では、ラジエータ110を構成する冷却管や放熱フィンの外表面に、オゾン浄化触媒(図示せず)が有機バインダ等の接着手段を用いて全体に亘って担持される。ラジエータ110の上流側には、ラジエータ110を通過する前の大気を採取する採取手段として、採取管111を備える。この採取管111は、検出手段のオゾンセンサーユニット114に通じる。ラジエータ110の下流側には、図1に示すように、ラジエータ110の異なる6つの部位を通過した大気を採集可能な採集管112を備える。この採集管112は、オゾンセンサーユニット114に通じる途中に分岐部を有する。6つに分岐された採集管112には、ラジエータ110を通過する大気の流量の調整が可能な流量調整器113が設けられる。
【0028】
[大気浄化触媒]
本実施形態では、大気浄化触媒としてオゾン浄化触媒が用いられている。このオゾン浄化触媒を大気が通過することにより、大気中のオゾンが酸素に分解(浄化)され、大気中のオゾン量が低減される。大気浄化触媒としてはオゾン浄化触媒に限定されず、他の浄化触媒も適用できる。例えば、NOx浄化触媒やCO浄化触媒等についても、加熱装置等を必要に応じて併用することにより用いることができる。
【0029】
[採取手段]
本実施形態における採取手段としては採取管111が用いられるが、ラジエータ110を通過する前の大気をオゾンセンサーユニット114に導入できるものであればよい。また、オゾンセンサーユニット114により、大気中の汚染物質濃度を十分に検出できる量の大気を採取できるものであればよい。目的とする汚染物質の種類等によって適宜選択される。
【0030】
[採集手段]
本実施形態における採集手段としては、オゾンセンサーユニット114から6つに分岐されてラジエータ110の下流側の異なる6つの部位に通じる採集管112が用いられる。この採集管112の分岐数に応じてサンプリングする部位の数が決まるため、分岐数が多ければ多いほど浄化触媒の劣化検知精度が向上する。このため、採集管112の分岐数は、必要とされる劣化検知精度に応じて適宜設定される。
【0031】
[検出手段]
検出手段は大気浄化触媒の種類により選択される。本実施形態では大気浄化触媒としてオゾン浄化触媒を用いているため、検出手段としては、オゾン濃度検出器が用いられる。具体的には、半導体式のオゾンセンサーユニット114が好適に用いられる。このオゾンセンサーユニット114は、インジウム−スズ酸化物(ITO)粒子の焼結体等の半導体粒子から形成される。この半導体粒子にオゾンが接触すると、半導体粒子の結晶中に含まれる自由電子のトラップ層が発生して電気抵抗が増加し、この抵抗値に基づく電圧をオゾン濃度として検出する。
【0032】
[流量調整器]
本実施形態における流量調整器113は、6つに分岐された採集管112の6つの各部位に設けられる。流量調整器113は、例えば採集管112の径を一部細くしたものであってもよい(図2参照)。また、調整ねじを備え、この調整ねじにより採集管112を通る大気の流量を調整するものであってもよい(図3参照)。なお、設置部位は特に限定されず、例えば図4に示すように、流量調整器113を分岐部に設けてもよい。
【0033】
流量調整器113の調整方法について説明する。ラジエータ110を図5に示すようにn分割した場合において、ラジエータ110の大気浄化率は、以下に示す数式(1)で表される。
【数1】

数式(1)において、ηave:劣化を含むラジエータ110の平均浄化率、Q:Area iを通過する大気の流量、Qtotal:全Areaを通過する大気の流量、f(x):流量xの時の触媒の初期の浄化率、S:Area iの面積、DF:Area iの劣化係数(測定領域浄化率/初期測定領域浄化率)である。
【0034】
また、各領域Area iでサンプリングされる大気の浄化率は、以下の数式(2)で表される。従って、これら数式(1)及び(2)から、Area iでのサンプリング量を以下の数式(3)で表される量となるように流量調整器113の流量を調整すればよい。なお、数式(1)及び(3)におけるQtotalは、数式(4)によって表される。即ち、各Areaのサンプリング量が、各Areaを通過する大気の流量比に応じた量となるように流量調整器113を調整する。ただし、車速に対して、ラジエータ110の各Areaを通過する大気の流量比が変化する場合には、浄化率を測定する車速域における平均の流量比を求め、この値を用いて流量調整器113を調整してもよい。
【数2】

【数3】

【数4】

【0035】
[作用効果]
本実施形態に係る劣化検知システム100の作用効果について説明する。先ず、車両の走行あるいはラジエータ110の下流側に通常装備される冷却ファン(図示せず)により、ラジエータ110を大気が通過する。そして、ラジエータ110を通過する前の大気が採取管111によりオゾンセンサーユニット114に導入され、オゾン濃度が検出される。また、ラジエータ110の異なる6つの部位を通過した大気が採集管113により採集されてオゾンセンサーユニット114に導入され、オゾン濃度が検出される。ここで、6つの異なる部位におけるサンプリング量は、上述した通り、各部位を通過する大気の流量比に応じた量となるように、流量調整器113を調整する。具体的には、各部位の流量比を予め求めておき、その流量比に応じて各部位に通じる採集管112の径を一部細くしたり、調整ねじの締め具合を調整する。または、浄化率を測定する車速域における流量比が異なったものとなる場合にあっては、浄化率を測定する車速域における平均の流量比を予め求め、一律に採集管112の径や調整ねじの締め具合を調整する。これにより、浄化率を測定する車速域において、ラジエータ110に担持されたオゾン浄化触媒全体の平均的な劣化度合いを精度良く検知できる。
【0036】
<第二実施形態>
本実施形態に係る劣化検知システム200の概要図を図6に示す。本実施形態に係る劣化検知システム200は、第一実施形態に係る劣化検知システム100に対して、車両の速度に応じて流量調整器213を駆動させてラジエータ210を通過する大気の流量を調整する制御手段215をさらに備えたものである。
【0037】
[流量調整器、制御手段]
流量調整器213は、ラジエータ210の各部位に通じる分岐された各採集管212に設けられ、制御手段215によって制御可能な調整弁(図示せず)を備える。ただし、調整弁を備えたものに限定されるわけではなく、ラジエータ210の各部位を通過する大気の流量を制御できる機能を備えたものであればよい。制御手段215は、車速情報に基づいて、流量調整器213を制御するものである。具体的には、車速に応じて、流量調整器213に備えられた調整弁の開度を制御することにより、各部位を通過する大気のサンプリング量を制御する。
【0038】
[作用効果]
本実施形態に係る劣化検知システム200の作用効果に関して、第一実施形態と異なる点は、流量調整器213の調整方法が異なる点である。即ち、制御手段215によって、車速に応じて流量調整器213に備えられた調整弁の開度を調整することにより、ラジエータ210の各部位を通過した夫々の大気の流量を調整する。このため、車速によりラジエータ210の各部位を通過する大気の流量比が変化する場合であっても、車速に応じて流量調整器213の調整弁を正確に制御できる。従って、車速による影響を受けることなく、オゾン浄化触媒全体の平均的な劣化度合いを精度良く検知できる。
【0039】
<第三実施形態>
本実施形態に係る劣化検知システム300の概要図を図7に示す。本実施形態に係る劣化検知システム300は、第二実施形態に係る劣化検知システム200に対して、ラジエータ310を通過する大気の風速分布を測定する風速分布測定器316をさらに備えたものである。また、制御手段315は、測定された風速分布に基づいて、流量調整器313に備えられた調整弁の開度を調整するものである。
【0040】
[風速分布測定器、制御手段]
本実施形態で用いられる風速分布測定器316は、風速分布を正確に測定できるものであれば特に制限されず、例えば、熱線式風速分布測定器等が好適に用いられる。また、制御手段315は、この風速分布測定器316により測定された風速分布データを加味して流量調整器313に備えられた調整弁の開度を調整するものである。
【0041】
[作用効果]
本実施形態に係る劣化検知システム300の作用効果に関して、第二実施形態と異なる点は、第二実施形態では車速に基づいて流量調整器213を調整するのに対して、本実施形態ではさらに風速分布測定器316により測定された風速分布データを加味して流量調整器313を調整する点である。即ち、車両走行時において、ラジエータ310の各部位における風速は厳密には異なるのが通常であるところ、車速情報に加えて、ラジエータ310の各部位における風速分布に関する情報に基づいて流量調整器313を調整する。これにより、オゾン浄化触媒全体の平均的な劣化度合いをより精度良く検知できる。
【0042】
<第四実施形態>
本実施形態に係る劣化検知システム400の概要図を図8に示す。本実施形態に係る劣化検知システム400は、第一実施形態と異なる点として、採集手段である採集管112及び流量調整器113の代わりに第一吸引装置430及び放射型整流板420を備えたものである。より詳しくは、ラジエータ410の下流側に第一吸引装置430が配置され、この第一吸引装置430の下流側に放射型整流板420が配置される。本実施形態では、放射型整流板420にオゾンセンサーユニット414に通じる採集管412が設けられているが、採集管412を省略して、放射型整流板420とオゾンセンサーユニット414を直接連通させてもよい。
【0043】
[第一吸引装置]
本実施形態で用いられる第一吸引装置430は、ファン417と、このファン417を囲う導風板418と、この導風板418に設けられてファン417を回転させる駆動源(図示せず)とからなる。本実施形態では、第一吸引装置430は2つ配置されているが、その数は特に限定されない。また、この第一吸引装置430としては、通常、ラジエータ410の下流側に配置されてラジエータ410を通して大気を吸引する役割を担う冷却用ファンを利用することができる。このような第一吸引装置430によって、ラジエータ410を通して吸引された大気は、さらに下流側に配置された放射型整流板420に導かれる。
【0044】
[放射型整流板]
本実施形態で用いられる放射型整流板420は、第一吸引装置430の下流側に配置される。具体的には、図9及び図10に示すように第一吸引装置430の下流側に直接取り付けられる。ファン417の回転軸上に設けられた中央ガイド415と、この中央ガイド415から放射状に延びる放射状ガイド416とからなる。中央ガイド415は、オゾンセンサーユニット414に連通する内部空間を有する。各放射状ガイド416は、ラジエータ410を通過した大気を、中央ガイド414の内部空間に導入する連通路を有する。放射状ガイド416の数は特に制限されないが、数が増えるほどサンプリング箇所が増えることになるため、触媒の劣化度をより精度良く検知できることになる。また、放射状ガイド416に設けられた連通路の幅を一部細くすることにより、ラジエータ410の各部位を通過した大気のサンプリング量を調整できる。あるいは、連通路内に調整ねじを設けてもよい。さらには、連通路内に調整弁等を設け、車速や風速分布測定器により得られる風速分布に基づいて流量を調整できる流量調整器及びその制御手段を設けてもよい。
【0045】
[作用効果]
本実施形態に係る劣化検知システム400の作用効果に関して、第一実施形態と異なる
点は、採集手段である採集管112及び流量調整器113の代わりに放射型整流板420を用いた点である。この放射型整流板420の作用を図11〜図13を用いて説明する。図11は放射状ガイド416の斜視図であり、図12は放射型整流板420の斜視図である。また、図13は放射型整流板420を横から見た図である。先ず、車両走行時に生じる走行風あるいは第一吸引装置430により、ラジエータ410を通して吸引された大気が中央ガイド415及び放射状ガイド416に導入される。放射状ガイド416は中央ガイド415の内部空間に連通する連通路を有しているため、図11に示すように導入された大気は中央ガイド415の内部空間に導かれる。従って、図12及び図13に示すように、放射型整流板420に導入された大気は全て中央ガイド415の内部空間を経由して、採集管412を通じてオゾンセンサーユニット414に導かれる。従って、オゾン浄化触媒全体の平均的な劣化度合いを精度良く検知できる。また、上述したように流量調整器や制御手段を設けることによって、より精度を向上できる。
【0046】
<第五実施形態>
本実施形態に係る劣化検知システム500の概要図を図14に示す。本実施形態に係る劣化検知システム500は、第四実施形態で用いられる放射型整流板420と構造が異なる水平型整流板520を適用したものである。また、この水平型整流板520は、第四実施形態とは異なり、ラジエータ510と第二吸引装置(図示せず)との間に配置される。第二吸引装置は、第四実施形態と同じものを利用できる。本実施形態では、水平型整流板520にオゾンセンサーユニット514に通じる採集管512が設けられているが、採集管512を省略して、水平型整流板520とオゾンセンサーユニット514を直接連通させてもよい。
【0047】
[水平型整流板]
水平型整流板520の平面図を図15に示す。図15に示すように、水平型整流板520は、水平方向に並列に設けられた複数の水平ガイド516と、この複数の水平ガイド516と直交する垂直ガイド515とからなる。垂直ガイド515は、オゾンセンサーユニット514に連通する内部空間を有する。各水平ガイド516は、ラジエータ510を通過した大気を、垂直ガイド514の内部空間に導入する連通路を有する。水平ガイド516の数は特に制限されないが、数が増えるほどサンプリング箇所が増えることになるため、触媒の劣化度をより精度良く検知できることになる。また、水平ガイド516に設けられた連通路の幅を一部細くすることにより、ラジエータ510の各部位を通過した大気のサンプリング量を調整できる。あるいは、連通路内に調整ねじを設けてもよい。さらには、連通路内に調整弁等を設け、車速や風速分布測定器により得られる風速分布に基づいて流量を調整できる流量調整器及びその制御手段を設けてもよい。
【0048】
[作用効果]
本実施形態に係る劣化検知システム500の作用効果に関しては、第四実施形態と整流板の構造が異なる点以外は同様である。本実施形態で用いられる水平型整流板520の作用について、図16を用いて説明する。図16は、水平型整流板520を横から見た図である。車両走行時に生じる走行風あるいは第二吸引装置によって、ラジエータ510を通して吸引された大気は垂直ガイド515及び水性ガイド516に導入される。水平ガイド516は垂直ガイド515の内部空間に連通する連通路を有しているため、図16に示すように導入された大気は垂直ガイド515の内部空間に導かれる。従って、水平型整流板520に導入された大気は全て垂直ガイドの内部空間を経由して、採集管512を通じてオゾンセンサーユニット514に導かれる。従って、オゾン浄化触媒全体の平均的な劣化度合いを精度良く検知できる。また、上述したように流量調整器及びその制御手段を設けることによって、より精度を向上できる。
【実施例】
【0049】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0050】
<実施例1>
実施例1として、上記の第四実施形態に係る劣化検知システムを構築し、上述した数式(1)を用いてオゾン浄化率の測定を行った。結果を図18に示す。
【0051】
<比較例1>
比較例1として、図17に示すラジエータ610のA〜Dの異なる4つの部位を通過した大気を採取し、夫々の大気中のオゾン濃度を測定してオゾン浄化率を求めた結果を図18に示す。また、これら4つの部位におけるオゾン浄化率の平均値を併せて図18に示す。
【0052】
<結果>
図18に示す通り、本実施例に係る劣化検知システムを用いた場合のオゾン浄化率と、比較例のようにラジエータ610の異なる4つの部位におけるオゾン浄化率の平均値とはほぼ同等であった。従って、本実施例に係る劣化検知システムによれば、車両のラジエータに担持されたオゾン浄化触媒全体の平均的な劣化度を精度良く検知できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】第一実施形態に係る劣化検知システムの概要図である。
【図2】流量調整器の一例を示す図である。
【図3】流量調整器の一例を示す図である。
【図4】流量調整器の一例を示す図である。
【図5】流量調整方法を説明するための図である。
【図6】第二実施形態に係る劣化検知システムの概要図である。
【図7】第三実施形態に係る劣化検知システムの概要図である。
【図8】第四実施形態に係る劣化検知システムの概要図である。
【図9】放射型整流板を説明するための図である。
【図10】放射型整流板を説明するための図である。
【図11】放射型整流板の作用を説明するための図である。
【図12】放射型整流板の作用を説明するための図である。
【図13】放射型整流板の作用を説明するための図である。
【図14】第五実施形態に係る劣化検知システムの概要図である。
【図15】水平型整流板を説明するための図である。
【図16】水平型整流板の作用を説明するための図である。
【図17】比較例のサンプリング箇所を説明するための図である。
【図18】実施例及び比較例の浄化率測定結果を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
100、200、300、400、500 劣化検知システム
110、210、310、410、510、610 ラジエータ
111、211、311、411、511 採取管
112、212、312 採集管
113、213、313 流量調整器
114、214、314、414、514 オゾンセンサーユニット
215、315 制御手段
316 風速分布測定器
415 中央ガイド
416 放射状ガイド
417 ファン
418 導風板
420 放射型整流板
430 第一吸引装置
515 垂直ガイド
516 水平ガイド
520 水平型整流板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のラジエータに担持された大気浄化触媒の劣化検知システムであって、
前記ラジエータの上流側に配置され前記ラジエータを通過する前の大気を採取する採取手段と、
前記ラジエータの下流側に配置され前記ラジエータの複数の部位を通過した夫々の大気を採集する採集手段と、
前記採取手段により採取された大気中の汚染物質濃度及び前記採集手段により採集された大気中の汚染物質濃度を検出する検出手段と、を備える大気浄化触媒の劣化検知システム。
【請求項2】
前記採集手段は、前記検出手段から前記ラジエータの下流側の複数の部位に通じる分岐された採集管を有する請求項1記載の大気浄化触媒の劣化検知システム。
【請求項3】
前記採集手段は、前記ラジエータの下流側に配置され大気を吸引する第一吸引装置と、この第一吸引装置の下流側に配置された放射型整流板と、を有し、
前記第一吸引装置は、ファンと、このファンを囲む導風板と、この導風板に設けられ前記ファンを回転駆動する駆動源と、を備え、
前記放射型整流板は、前記ファンの回転軸上に設けられた中央ガイドと、この中央ガイドから放射状に延びる放射状ガイドと、を有し、
前記中央ガイドは、前記検出手段に連通する内部空間を有し、
前記各放射状ガイドは、前記ラジエータを通過した大気を前記内部空間に導入する連通路を有する請求項1記載の大気浄化触媒の劣化検知システム。
【請求項4】
前記採集手段は、前記ラジエータの下流側に配置され大気を吸引する第二吸引装置と、この第二吸引装置と前記ラジエータとの間に配置された水平型整流板と、を有し、
前記第二吸引装置は、ファンと、このファンを囲む導風板と、この導風板に設けられ前記ファンを回転駆動する駆動源と、を備え、
前記水平型整流板は、水平方向に並列に設けられた複数の水平ガイドと、この複数の水平ガイドと直交する垂直ガイドと、を有し、
前記垂直ガイドは、前記検出手段に連通する内部空間を有し、
前記水平ガイドは、前記ラジエータを通過した大気を前記内部空間に導入する連通路を有する請求項1記載の大気浄化触媒の劣化検知システム。
【請求項5】
前記採集手段は、前記ラジエータを通過する大気の流量を調整する流量調整器をさらに有する請求項1から4いずれか記載の大気浄化触媒の劣化検知システム。
【請求項6】
前記車両の速度に応じて前記流量調整器を駆動させ、前記ラジエータを通過する大気の流量を調整する制御手段をさらに備える請求項5記載の大気浄化触媒の劣化検知システム。
【請求項7】
前記採集手段は、前記ラジエータの下流側に配置され前記ラジエータを通過する大気の風速分布を測定する風速分布測定器をさらに有し、
前記制御手段は、前記風速分布測定器により測定された前記ラジエータを通過する大気の風速分布データを加味して前記流量調整器を駆動させ、前記ラジエータを通過する大気の流量を調整する請求項6記載の大気浄化触媒の劣化検知システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2007−64683(P2007−64683A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−248143(P2005−248143)
【出願日】平成17年8月29日(2005.8.29)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】