説明

大腿骨頭キャップ・インプラント

【課題】電気的に骨組織の成長を刺激し、かつその生命状態を維持するための装置を備える大腿骨キャップ・インプラントを提供する。
【解決手段】カップ状のキャップ部品12とその凹形の内側表面に固定されたピン14とを有する大腿骨頭キャップ・インプラント10において、ピックアップコイル18がピン14の内部に配置され、ピックアップコイル18の末端部18a、18bがそれぞれ一組織電極に接続されている。一方の組織電極がキャップ部品12からなり、他方の組織電極が、キャップ部品から電気的に絶縁された前記ピンまたは前記ピンの少なくとも一部に絶縁されて設けられた電極22からなる。外部コイルによってピックアップコイル18に低周波交流電流を誘導することによって、この低周波交流電流は、2つの組織電極から、インプラントが設けられた大腿骨頭骨を通じて流れ、これにより、その生命力維持が促される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気的に骨組織の成長を刺激し、かつその生命状態を維持するための装置を備える大腿骨頭キャップ・インプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
約8〜20Hzの範囲にわたる周波数の低周波交流電流が、組織の成長、特に骨の成長を促すことができるということが知られている(Kraus-Lechnerによる方法)。交流電流は、植え込まれたコイル(「ピックアップコイル」)の両端に結合された少なくとも2つの組織電極によって印加する。変圧器と同様に、ピックアップコイルにおける交流電流は、外部コイルによって誘導され、この外部コイルには、適当な発生装置によって低周波交流電圧が供給される(独国特許出願公開第3132488号)。本発明も、この方法を利用するものである。
【0003】
骨の成長を刺激し、かつルースニングを防止するために、ピックアップコイルと組織電極とを統合した股関節の骨幹プロステーシスもまた既知である(欧州特許出願公開第0781432号)。
【0004】
Midland Medical Technologies社のパンフレットには、Derek McMinn(王立外科医学院特別研究員(FRCS))と共同して開発されたmetal-on-metal大腿骨頭キャップ・システムが記載されており、これは、大腿頸部全体をプロステーシスで置き換える必要をなくし、かわりに、プロステーシスを受け入れるために適切に切除がなされた股関節頭の骨の頂部に金属キャップを配置するものである。金属キャップは、取り付けられたピンによってその内部に固定され、大腿頸部に植え込まれる。このようなキャップ・プロステーシスは、事実上、大腿骨の形状に認めうる変化を何ら生じさせない点で、骨幹プロステーシスよりも優れている。しかし、1980年代に行われた研究により示されたように、大腿骨頭骨が、しばしば、ほんの3〜4年のうちに金属キャップの下で壊死してしまい、これにより、金属キャップはその支えを失ってしまう。そのためこれを、大腿骨に固定される大腿骨幹プロステーシスに交換しなければならない。
【0005】
異なる構成が必要であることから、上述したタイプの股関節プロステーシスと関連して知られている刺激装置を大腿骨頭キャップ・システムに適用することはできない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、金属キャップによって覆われた骨の壊死を防ぎ、骨組織の生命力を維持する大腿骨頭キャップ・システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、実施形態例を用いて以下で述べるように、それに関する特許請求の範囲が保護するところの方法によって、本発明により達成される。
【0008】
本発明の刺激装置は、大腿骨頭キャップ・システムにおいて、覆われた骨の壊死を防ぎ、骨組織の生命力を維持する電流分布が得られるという点で有利である。これにより本発明は、大腿骨頭キャップ・プロステーシスの長期使用可能性の問題を解決するものである。
【0009】
本発明を、添付の図面と共に代表的な実施形態を参照して、以下で更に詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1に描かれた大腿骨頭キャップ・インプラント10は、カップ状キャップ部品12および棒状シャフトすなわちピン14を備えている。キャップ部品12の内側表面に固着され、ピン14の一端を受け入れる筒状保持装置16によって、ピン14はキャップ部品12に接続されている。ピン14は、対応して用意された股関節頭の表面をキャップ部品12が覆うようにして、大腿頸部骨の穴に挿入する。
【0011】
キャップ部品12およびピン14は、組織適合性金属、特には、コバルト-クロム-モリブデン合金、またはチタン-アルミ-バナジウム合金からなるものである。この程度まででは、大腿骨頭キャップ・プロステーシスが、上で挙げたパンフレットから既知である。
【0012】
図1に描かれた本発明の実施形態においては、ピン14が自由端で閉じられた筒であり、その中にピックアップコイル18が収容されている。ピックアップコイル18は、棒状の鉄心とそれを取り囲む巻線とを示すものであり、その一方の末端部18aは、ばね20によってピンの内壁に電気的に結合されている。したがって、ピン14とキャップ部品12とが一方の組織電極を形成している。ピン14の外側表面には、キャップ部品12によって囲まれた空間の近くまたはその空間内に、凹部が設けられている。外側電極22が、この中に配置されており、薄い絶縁層24によってピン14から絶縁されている。穴が、ピン14の壁部の前記凹部の位置に設けられている。ピックアップコイル18の他方の末端部18bは、絶縁されてこの穴を貫通しており、外側電極22に接続している。外側電極22の表面と、それを取り囲む絶縁層24の縁とは、ピン14の外側表面が平らになるように、ピン14の表面の前記凹部に隣接する部分と面一である。外側電極22がその中に配置されるところの凹部は、ピン14の周囲の一部にわたって延びていても、またはその全周に及んでいてもよい。電極22は、チタン等の組織適合性金属の真空蒸着層からなるものとしうる。絶縁層は、真空蒸着された二酸化ケイ素または他の組織適合性絶縁材料からなるものとしうる。キャップ部品によって覆われ、そこにピンがはめられるところの骨の成長を刺激し、かつ、その生命力を維持するために、交流電流発生装置に結合された外部コイル(不図示)によって、低周波交流電流をピックアップコイル18に誘導する(Kraus-Lechnerの方法による。上記参照)。
【0013】
図2による実施形態においては、キャップ部品12が一方の組織電極を構成し、ピン14が第2の組織電極を構成している。ピンは、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)からなるものとしうる絶縁スリーブ26によって筒状保持装置16から絶縁されている。絶縁性円筒状円板28が、キャップ部品12の内側表面から、ピン14の正面側を絶縁している。ピックアップコイル18の両端は、それぞれ、圧縮ばね30、32によってキャップ部品12とピン14とに結合されている。
【0014】
図1および図2によるインプラントのピン14の内側は、通常、絶縁性シール剤、特には組織適合性エポキシ樹脂で満たす(図1および図2においては描かれていない)。
【0015】
図3による実施形態においては、ピン14は、互いに電気的に絶縁された2つの部材14a、14bを備えている。ピン部材14a、14bを満たし、それらの間で環状カラー40を形成するシール剤38により部材14a、14bは接続されており、環状カラー40の外側表面は、ピン部材14a、14bの外側表面と面一である。ピックアップコイル18は、ピンの一方の部材14b内に収容されており、ここで、この部材は、キャップ部品から遠い方に面している。ピックアップコイル18の一方の末端部は、ばね42によって部材14bに結合されている。他方の末端部は、ワイヤおよびばね44によって部材14aに結合されている。したがって、ピン部材14bが一方の組織電極を構成し、部材14aが、キャップ部品12と共に他方の組織電極を構成している。描かれているように、一方の組織電極を形成するピン外側部材14bは、キャップ部品12により覆われた部分の大腿頸部骨において好ましい電流分布を確保するように、キャップ部品12によって囲まれた空間の縁の近くで、またはその空間内で終わるのが好ましい。
【0016】
2つのピン部材14a、14bはまた、例えばセラミックまたはPTFEからなる、短い円筒状スペーサーによって接続され、2つのピン部材の間に表面がピン部材と面一のカラーを有していてもよい。そして、ピックアップコイルの一方の接続導線が前記スペーサーを貫通している。そのようなスペーサーは、ピン部材14a、14bの半径方向位置決めピン(radial dowels)によって固定することができる。
【0017】
上述の実施形態のキャップ部品12の内側表面は、図4においてドットで示すように、絶縁材料の層34によって部分的に覆ってもよい。前記絶縁材料層34は、固形骨物質の主成分である水酸燐灰石(Ca[(PO)]OH)を含む、またはそれからなるものである。これはまた、真空蒸着された二酸化ケイ素、または他の組織適合性絶縁材料からなるものでもよい。絶縁コーティングによって、骨に接触する開放電極領域36での電流密度を増加させ、かつ/または電流を特定の範囲に限定することが可能となる。
【0018】
ピンおよび/またはキャップ部品がセラミック等の電気的に非伝導性の材料からなるものであれば、上述の実施形態における組織電極として機能する部品に相当するものとなるように、導電性材料コーティングを施す。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明による電気刺激装置を備えた大腿骨頭キャップ・インプラントの断面図である。
【図2】図1に対応する、本発明の第2実施形態の図である。
【図3】図1に対応する、本発明の第3実施形態の図である。
【図4】本発明のさらなる実施形態による大腿骨頭キャップ部品の内側表面の拡大投影図である。
【符号の説明】
【0020】
10…キャップ・インプラント、12…キャップ部品、14a,14b…ピン部材、16…保持装置、18…ピックアップコイル、22…電極、24…絶縁層、26…絶縁スリーブ、28…絶縁性円筒状円板、34…絶縁材料層、36…開放電極領域、38…シール剤、40…環状カラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
病んだ股関節頭を覆うためのキャップ部品(12)を有し、かつ、前記股関節頭の頂部に前記キャップ部品を固定するために大腿頸部骨に挿入可能なピン(14)を有し、もって前記キャップ部品と前記ピンとが組織適合性金属からなる大腿骨頭キャップ・インプラントにおいて、
2つの末端部を有し、低周波交流電流をその中に誘導することができるピックアップコイル(18)が、前記ピン(14)内に配置され、前記ピックアップコイル(18)の一方の末端部が前記キャップ部品(12)に結合され、他方の末端部が第2の組織電極(22,14,14a)に結合されていることを特徴とする大腿骨頭キャップ・インプラント。
【請求項2】
前記第2の組織電極(22)が、前記ピン(14)の外側の凹部内に絶縁されて配置されており、前記第2の組織電極(22)の外側表面が、前記ピンのくぼんでいない表面と面一であることを特徴とする、請求項1に記載の大腿骨頭キャップ・インプラント。
【請求項3】
前記ピン(14)および前記キャップ部品(12)が、互いに電気的に絶縁されており、それぞれが前記ピックアップコイル(18)のそれぞれの末端部に電気的に結合されていることを特徴とする、請求項1に記載の大腿骨頭キャップ・インプラント。
【請求項4】
前記ピンが、絶縁体によって互いに電気的に絶縁された2つの部材(14a,14b)を備え、前記部材のそれぞれが、前記ピックアップコイルのそれぞれの末端部に結合され、組織電極として作用することを特徴とする、請求項1に記載の大腿骨頭キャップ・インプラント。
【請求項5】
前記絶縁体が、前記ピンの各部材(14a,14b)を満たすシール剤(38)からなることを特徴とする、請求項4に記載の大腿骨頭キャップ・インプラント。
【請求項6】
前記絶縁体には、前記ピン部材の向かい合う各端部内へと延び、前記ピックアップコイルの一方の末端部が貫通する絶縁性スペーサーが含まれることを特徴とする、請求項4に記載の大腿骨頭キャップ・インプラント。
【請求項7】
前記ピンの一方の部材(14a)が、前記キャップ部品に電気的に結合されていることを特徴とする、請求項4〜6のいずれか1項に記載の大腿骨頭キャップ・インプラント。
【請求項8】
前記絶縁体が、表面が前記各ピン部材(14a,14b)と面一である環状カラー(40)を有することを特徴とする、請求項4〜7のいずれか1項に記載の大腿骨頭キャップ・インプラント。
【請求項9】
前記キャップ部品(12)の内側表面の一部に、絶縁層(34)が設けられていることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の大腿骨頭キャップ・インプラント。
【請求項10】
前記絶縁層(34)が水酸燐灰石を含むことを特徴とする、請求項9に記載の大腿骨頭キャップ・インプラント。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−135619(P2007−135619A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−329192(P2005−329192)
【出願日】平成17年11月14日(2005.11.14)
【出願人】(505422590)ノイエ マグネートオーデュン ゲーエムベーハー (6)
【Fターム(参考)】