説明

大腿骨頭中心位置特定装置

【課題】安価な構成によって、大腿骨頭中心の位置を術中に正確に特定することができる、大腿骨頭中心位置特定装置を提供する。
【解決手段】大腿骨頭中心位置特定装置10は、人工膝関節置換術の術中に、被施術者Aの大腿骨頭中心Pの位置を前額面に対して平行な面内で特定するものであって、被施術者Aの身体の大腿骨頭中心Pが位置する部位を前額面に対して直交する方向から覆うように配置されるマーキングプレート16と、前額面に対して直交方向に延びて配置される回動軸76を有する回動アーム22と、回動アーム22に取り付けられ、回動アーム22の回動に伴ってマーキングプレートに円弧を記すマーカー24とを備え、回動軸76は、被施術者Aの大腿骨遠位端Dbに配置され、前額面に対して平行方向における回動軸76からマーカー24までの距離は、予め測定された大腿骨遠位端Dbから大腿骨頭中心Pまでの距離と同じである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工膝関節置換術の術中に、大腿骨頭中心の位置を前額面に対して平行な面内で特定する、大腿骨頭中心位置特定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、下肢正面のX線撮影像(前額面像)を見たとき、大腿骨頭中心と膝関節中心とを結ぶ大腿骨正面機能軸と、膝関節中心と距骨中心を結ぶ下腿骨正面機能軸との交差角度(以下、「下肢アライメントアングル」という。)が0度であれば、人体の荷重線が膝関節中央部を通過すると考えられるため、その下肢アライメントは理想的であると言える。
【0003】
そのため、膝関節の少なくとも一部を人工関節に置き換える人工膝関節置換術では、術後の下肢アライメントアングルをできるだけ0度に近づけることが目標とされており、従来より、「至適角度」と評価される±3度以内を目指して、様々な手術法や装置が開発されてきた。
【0004】
たとえば、特許文献1に記載されたナビゲーションシステムは、人工膝関節置換術を正確に行うためにコンピュータによって支援するシステムである。このナビゲーションシステムを用いれば、大腿骨頭中心の位置を術中でもコンピュータによって正確に特定することができるので、大腿骨頭中心の位置を確認しながら大腿骨の適正位置に骨切りブロックを装着することが可能であり、大腿骨遠位端の骨切り作業を高精度に行うことができる。したがって、骨切りされた大腿骨遠位端に人工関節を正確に装着することが可能であり、術後の下肢アライメントアングルを±3度以内にして、優れた下肢アライメントを得ることができる。
【0005】
しかし、このナビゲーションシステムでは、莫大な開発費用がかかるため、手術費用が高くなるという課題があった。また、大腿骨頭中心の位置の特定に用いられる指標部(基準)を大腿骨にピンで固定する必要があったので、このピンによって大腿骨が損傷されるという課題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2008−515601
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、近年では、ナビゲーションシステムを用いない「シェープ・マッチング法」と称される安価な手術法が開発されている。この手術法は、術前にMRI検査またはCT検査によって股関節部および膝関節部の画像データを取得し、当該画像データに基づいて患者固有のカスタムメードの骨切りブロックを作成し、術中には、大腿骨頭中心の位置を確認することなく、骨切りブロックを大腿骨遠位端に装着して骨切りを行うものである。
【0008】
このシェープ・マッチング法によれば、高価なナビゲーションシステムを用いる必要がないので、手術費用を低く抑えることができる。しかし、術中には、大腿骨頭中心の位置を確認することなく、骨切りブロックを大腿骨遠位端に盲目的に装着していたので、骨切りブロックが適正位置にあるか否かを大腿骨頭中心の位置に基づいて判断することができず、骨切り作業の精度を向上することが困難であるという課題があった。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、安価な構成によって、大腿骨頭中心の位置を術中でも正確に特定することができる、大腿骨頭中心位置特定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の大腿骨頭中心位置特定装置は、人工膝関節置換術の術中に、被施術者の大腿骨頭中心の位置を前額面に対して平行な面内で特定する、大腿骨頭中心位置特定装置であって、被施術者の身体の前記大腿骨頭中心が位置する部位を前額面に対して直交する方向から覆うように配置されるマーキングプレートと、前額面に対して直交方向に延びて配置される回動軸を有する回動アームと、前記回動アームに取り付けられ、前記回動アームの回動に伴って前記マーキングプレートに円弧を記すマーカーとを備え、前記回動軸は、被施術者の大腿骨遠位端に配置され、前額面に対して平行方向における前記回動軸から前記マーカーまでの距離は、予め測定された大腿骨遠位端から大腿骨頭中心までの距離と同じである。
【0011】
この構成では、前額面に対して平行方向における回動軸からマーカーまでの距離が、予め測定された大腿骨遠位端から大腿骨頭中心までの距離と同じであり、回動軸が大腿骨遠位端に配置されるので、回動アームを回動させてマーキングプレート上にマーカーで円弧を記すと、当該円弧は大腿骨頭中心に対向する点を通過する。したがって、股関節を内転または外転させて大腿骨を互いに離間する第1位置および第2位置に位置決めし、これらの位置でマーキングプレート上に第1円弧および第2円弧を記すと、大腿骨頭中心に対向する点で第1円弧と第2円弧とが交差することになり、その交点によって、大腿骨頭中心の位置を前額面に対して平行な面内で特定することができる。
【0012】
前記回動アームは、前額面に対して平行方向における前記回動軸から前記マーカーまでの距離を調整するマーカー位置調整機構を有していてもよい。
【0013】
この構成では、回動軸からマーカーまでの距離を、大腿骨遠位端から大腿骨頭中心までの距離に合わせて調整することができるので、大腿骨の長さが異なる複数の被施術者に対して共通に用いることができる。
【0014】
前記回動アームは、大腿骨遠位端における顆間部の最深部に固定される筒状のステム部と、前記ステム部に回動自在に挿入されるアーム部とを有していてもよい。
【0015】
一般に、人工膝関節置換術が必要となる被施術者においては、大腿骨遠位端の外側顆および内側顆が損傷しており、損傷の程度に応じて外側顆および内側顆の形状が変化している。一方、大腿骨遠位端における顆間部の最深部は、荷重による摩耗や骨破壊の影響を受けないため、その形状が変化することは考え難い。上記構成では、大腿骨遠位端における顆間部の最深部に筒状のステム部が固定されるので、安定した固定状態を得ることができる。
【0016】
前記ステム部は、大腿骨遠位端における顆間部の最深部に刺入される少なくとも2つのステム固定ピンを有していてもよい。
【0017】
この構成では、少なくとも2つのステム固定ピンが大腿骨遠位端における顆間部の最深部に刺入されることで、当該最深部にステム部が固定される。
【0018】
前記回動アームは、第1ロッドと第2ロッドとを有し、前記マーカー位置調整機構は、前記第1ロッドに設けられた受口部と、前記第2ロッドに設けられた挿口部と、第1ロッドと第2ロッドとを相互に固定する固定部とを有し、前記挿口部が前記受口部に適宜の長さで挿入されてもよい。
【0019】
この構成では、受口部に対する挿口部の挿入長さを調整することで、回動軸からマーカーまでの距離を調整することができる。
【0020】
前記回動アームは、前記回動軸が前額面に対して垂直であることを検知する水準器を有していてもよい。
【0021】
この構成では、回動軸が前額面に対して垂直であることを水準器で確認しながら、回動アームを回動させることができるので、マーキングプレート上に記される円弧は、必ず大腿骨頭中心に対向する位置を通過するようになり、上記2つの円弧を記すことで大腿骨頭中心の位置を正確に特定することができる。
【0022】
被施術者の身体を前額面が水平になるように支持する手術台と、前記手術台に取り付けられ、前記マーキングプレートを着脱可能に支持するプレート支持部とをさらに備えていてもよい。
【0023】
この構成では、大腿骨頭中心の位置を特定した後に、マーキングプレートを取り外すことができるので、マーキングプレートが手術の邪魔になるのを防止することができる。
【0024】
前記手術台に取り付けられ、前記マーカーによって前記マーキングプレートに記された前記大腿骨頭中心に対向する点の位置を指し示す指標部を備えていてもよい。
【0025】
この構成では、マーキングプレートを取り外した後でも、指標部によって大腿骨頭中心の位置を確認することができる。
【0026】
前記人工膝関節置換術は、大腿骨遠位端にブロック固定ピンで骨切りブロックを固定する工程を含み、前記回動アームには、前記ブロック固定ピンを大腿骨遠位端に刺入する際のガイドとなるガイド孔を有するピンガイドが一体的に設けられていてもよい。
【0027】
この構成では、大腿骨頭中心に対向する位置にマーカーを位置決めすることによって、ブロック固定ピンの適正位置にガイド孔を位置決めすることができる。したがって、適正位置でガイド孔から大腿骨遠位端にブロック固定ピンを刺入し、このブロック固定ピンで骨切りブロックを固定することで、骨切りブロックを適正位置に正確に配置することができる。
【発明の効果】
【0028】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、人工膝関節置換術の術中に、大腿骨頭中心の位置を前額面に対して平行な面内で正確に特定することができる。また、ナビゲーションシステムを用いる必要がないので、手術費用を低く抑えることができるとともに、大腿骨の損傷(指標部を固定するためのピンによる損傷等)を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、第1実施形態に係る大腿骨頭中心位置特定装置を人工膝関節置換術の術中に使用した状態を示す正面図である。
【図2】図2は、第1実施形態に係る大腿骨頭中心位置特定装置を人工膝関節置換術の術中に使用した状態を示す平面図である。
【図3】図3は、大腿骨および脛骨の構造を示す図である。
【図4】図4は、第1実施形態に係る大腿骨頭中心位置特定装置の全体構成を示す斜視図である。
【図5】図5は、マーキングプレート、プレート支持部および指標部の構成を示す分解斜視図である。
【図6】図6は、回動アーム、マーカーおよびピンガイドの構成を示す分解斜視図である。
【図7】図7は、大腿骨遠位端に回動アームを固定する工程を示す図であり、(A)は、顆間部の最深部にステム固定ピンを刺入するための穴を形成した状態を示す斜視図、(B)は、ステム固定ピンを顆間部の最深部に刺入した状態を示す斜視図である。
【図8】図8は、マーキングプレートに第1円弧を記した状態を示す平面図である。
【図9】図9は、マーキングプレートに第2円弧を記した状態を示す平面図である。
【図10】図10は、マーカーを大腿骨頭中心と対向する位置に位置決めした状態を示す平面図である。
【図11】図11は、ピンガイドのガイド孔から大腿骨にブロック固定ピンを刺入する工程を示す斜視図である。
【図12】図12は、第1実施形態に係る大腿骨頭中心位置特定装置の回動アームを取り外した状態を示す平面図である。
【図13】図13は、第1実施形態に係る大腿骨頭中心位置特定装置のマーキングプレートを取り外し、大腿骨頭中心に対向する位置を指標部で示した状態を示す平面図である。
【図14】図14は、骨切りブロックを大腿骨に固定する工程を示す斜視図である。
【図15】図15は、大腿骨遠位端を骨切りする工程を示す斜視図である。
【図16】図16は、第2実施形態に係る大腿骨頭中心位置特定装置における水準器の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、人工膝関節置換術の概要を簡単に説明し、続いて、本発明に係る実施形態の構成および使用方法を図面を参照しながら説明する。
(人工膝関節置換術の概要)
図1は、人工膝関節置換術を受ける被施術者Aの身体の状態を示す正面図であり、図2は、被施術者Aの身体の状態を示す平面図であり、図3は、被施術者Aの大腿骨Dおよび脛骨Fの構造を示す図である。また、図14は、骨切りブロック12を大腿骨Dに固定する工程を示す斜視図であり、図15は、人工膝関節置換術の術中に大腿骨遠位端Dbを骨切りする工程を示す斜視図である。
【0031】
図3に示すように、大腿骨Dは、骨盤Eと脛骨Fとの間で下肢Gを構成する骨であり、大腿骨近位端Daには、股関節Hを構成する大腿骨頭Iが位置しており、大腿骨遠位端Dbには、膝関節Jを構成する内側顆Mおよび外側顆Nが位置している。また、内側顆Mと外側顆Nとの間に位置する顆間部Qは凹状になっており、内側顆Mおよび外側顆Nが脛骨近位端Faに軟骨を介して当接している。
【0032】
人工膝関節置換術は、変形性膝関節症や関節リウマチ等によって変形した大腿骨遠位端Dbおよび脛骨近位端Faを切除して、その切除した部分を人工関節(図示省略)に置き換える手術であり、大腿骨頭中心位置特定装置10は、人工膝関節置換術の術中に大腿骨頭Iの中心P(すなわち大腿骨頭中心)の位置を前額面に対して平行な面内で特定するために用いられる。そして、骨切り工程では、図14に示すように、特定された大腿骨頭中心P(図3)を基準として、骨切りブロック12が適正位置に固定され、図15に示すように、骨切りブロック12およびボーンソー13を用いて骨切りが行われる。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る大腿骨頭中心位置特定装置10を人工膝関節置換術の術中に使用した状態を示す正面図であり、図2は、当該状態を示す平面図である。また、図4は、大腿骨頭中心位置特定装置10の全体構成を示す斜視図である。
【0033】
図1、図2および図4に示すように、大腿骨頭中心位置特定装置10は、手術台14と、手術台14に対して直接的または間接的に取り付けられるマーキングプレート16、プレート支持部18および指標部20と、被施術者Aの大腿骨Dに直接的または間接的に取り付けられる回動アーム22、マーカー24およびピンガイド26とを備えている。
[手術台の構成]
図1および図2に示すように、手術台14は、被施術者Aの身体を前額面が水平になるように支持するものであり、膝関節Jから頭部Rまでの部位を支持する第1台14aと、膝関節Jから踵Tまでの部位を支持する第2台14bとを有している。また、第1台14aと第2台14bとの連結部には、手動または電動で駆動される角度調整機構(図示省略)が設けられており、第1台14aに対する第2台14bの角度を適宜調整できるようになっている。そして、第1台14aにおける幅方向の一方側面には、レール30が水平に取り付けられており、このレール30によって、マーキングプレート16、プレート支持部18および指標部20が移動可能に支持されている。
[マーキングプレート等の構成]
図5は、マーキングプレート16、プレート支持部18および指標部20の構成を示す分解斜視図である。
【0034】
図1および図2に示すように、マーキングプレート16は、被施術者Aの身体の大腿骨頭中心Pが位置する部位を前額面に対して直交する方向から覆うように配置される板状部材であり、本実施形態では、透明アクリルによって四角形(200mm×200mm)に形成されている。また、図5に示すように、マーキングプレート16の上面16aは、マーカー24(図4)によって2つの円弧S1,S2(図9)を記すことができるように、滑らかな平面に形成されており、当該上面16aが前額面に対して平行(本実施形態では水平)に配置されるようになっている。そして、マーキングプレート16の周縁部の一部は、プレート支持部18の把持部32で把持される被把持部16bとなっており、被把持部16bには、固定ねじ34が挿通される2つの切欠36が形成されている。
【0035】
なお、マーキングプレート16の材質および形状は、特に限定されるものではないが、マーキングプレート16の下方に位置する解剖学的指標(前上腸骨棘、大腿動脈、そけい靭帯等)を視認できることから透明材料が望ましく、加工が容易であることから樹脂材料が望ましい。また、把持部32で確実に把持できることから直線状の辺(端縁)を有する形状(四角形、半円形等)が望ましい。
【0036】
図5に示すように、プレート支持部18は、レール30を介して手術台14に取り付けられるとともに、マーキングプレート16を着脱可能に支持するものであり、摺動部38と、ストッパ40と、支柱42と、把持部32とを有している。
【0037】
摺動部38は、レール30に摺動自在に嵌合される部材であり、摺動部38におけるレール30の側面30aに対向する部分には、ねじ孔38aが形成されている。ストッパ40は、ねじ孔38aに螺合される雄ねじ部40aと、雄ねじ部40aに設けられた棒状のハンドル部40bとを有している。したがって、ハンドル部40bを回して雄ねじ部40aをねじ孔38aにねじ込むと、雄ねじ部40aの先端がレール30の側面30aに押し当てられ、レール30に対する摺動部38の摺動が禁止される。一方、ハンドル部40bを逆方向に回すと、雄ねじ部40aの先端がレール30の側面30aから離間され、レール30に対する摺動部38の摺動が許容される。
【0038】
支柱42は、把持部32を所定の高さで支持する棒状部材であり、支柱42の下端部が摺動部38に接続されており、支柱42の上端部が把持部32に接続されている。把持部32は、支柱42の上端部に固定された基部46と、基部46の下方に配置された把持片48と、2つの固定ねじ34とを有している。そして、基部46には、固定ねじ34が挿通される2つの貫通孔46aが形成されており、把持片48には、固定ねじ34が螺合される2つのねじ孔48aが形成されている。さらに、基部46には、指標部20の固定ねじ50が螺合されるねじ孔46bが形成されている。
【0039】
そして、基部46と把持片48とが固定ねじ34によって接合されており、マーキングプレート16の2つの切欠36に固定ねじ34が挿通された状態で、基部46と把持片48との間でマーキングプレート16が把持されている。したがって、マーキングプレート16を把持部32から取り外す際には、固定ねじ34をわずかに緩めた後に、マーキングプレート16を水平方向に引き抜くことができる。
【0040】
図5に示すように、指標部20は、プレート支持部18およびレール30を介して手術台14に取り付けられる位置調整プレート52と、位置調整プレート52の先端部に設けられた支持棒54と、支持棒54の先端部に設けられたポインタ56と、固定ねじ50とを有している。位置調整プレート52は、固定ねじ50が挿通される長孔52aを有しており、長孔52aに挿通された固定ねじ50がねじ孔46bに螺合されることによって、指標部20が基部46に固定されている。したがって、固定ねじ50を緩めたときには、基部46に対する位置調整プレート52の引出し長さや角度を調整することが可能であり、マーキングプレート16に対するポインタ56の位置を調整することができる。
[回動アーム等の構成]
図6は、回動アーム22、マーカー24およびピンガイド26を示す分解斜視図である。
【0041】
図1および図2に示すように、回動アーム22は、被施術者Aの大腿骨Dに直接取り付けられる部材であり、図6に示すように、大腿骨遠位端Dbにおける顆間部Q(図7)の最深部に固定される筒状のステム部60と、ステム部60に挿入されて回動自在に支持されるアーム部62と、マーカー位置調整機構64と、アーム部62の基端部に設けられた水準器66と、アーム部62の先端部に設けられたマーカーホルダ68とを有している。
【0042】
図6に示すように、ステム部60は、筒状のステム本体70と、ステム本体70の上端部に設けられたフランジ部72と、ステム本体70の側面に軸方向に間隔を隔てて設けられた2つのステム固定ピン74a,74bとを有している。
【0043】
ステム本体70は、大腿骨遠位端Dbにおける顆間部Q(図7)の最深部に、大腿骨前後軸に対して平行方向(すなわち前額面に対して垂直方向;以下、同じ。)に延びて配置されるものであり、ステム本体70の外径は、顆間部Qの凹状空間に納まるように、当該凹状空間の深さよりも十分に小さく設計されており、ステム本体70の内径は、アーム部62の基端部に位置する回動軸76を回動自在に支持し得るように、回動軸76の外径よりもやや大きく設計されている。
【0044】
フランジ部72は、ステム本体70に対する回動軸76の挿入長さを規定する部分であり、本実施形態では、ピンガイド26の下面の一部がフランジ部72の上面に当接することによって、ステム本体70に対する回動軸76の挿入長さが制限されている。ステム固定ピン74a,74bは、大腿骨遠位端Dbにステム部60を固定するために、顆間部Q(図7)の最深部に刺入される棒状部分であり、上側に位置するステム固定ピン74aの長さは、下側に位置するステム固定ピン74bの長さよりも短く設計されている。これにより、矢状面内におけるステム部60の傾きが或る程度許容されており、その傾き角度を調整できるようになっている。
【0045】
アーム部62は、基端部側に位置する略L状の第1ロッド80と、先端部側に位置する略L状の第2ロッド82と、第1ロッド80に連続して形成された回動軸76とを有している。
【0046】
第1ロッド80は、大腿骨前後軸に対して平行方向に延びる鉛直部80aと、鉛直部80aの上端部から水平方向に延びる水平部80bとを有しており、鉛直部80aの下端部が回動軸76の上端部に接続されている。そして、鉛直部80aと回動軸76との接続部またはその近傍には、ピンガイド26がアーム部62に対して一体的に設けられており、当該接続部またはその近傍におけるピンガイド26より上方には、水準器66がアーム部62に対して一体的に設けられている。第2ロッド82は、大腿骨前後軸に対して平行方向に延びる鉛直部82aと、鉛直部82aの上端部から水平方向に延びる水平部82bとを有しており、鉛直部82aには、マーカーホルダ68が一体的に設けられている。そして、第1ロッド80と第2ロッド82とが、マーカー位置調整機構64を介して接続されている。
【0047】
マーカー位置調整機構64は、第1ロッド80における水平部80bの先端部に設けられた受口部86と、第2ロッド82における水平部82bの基端部に設けられた挿口部88と、第1ロッド80と第2ロッド82とを相互に固定する固定部90とを有しており、受口部86に対して挿口部88が適宜の長さで挿入されている。固定部90は、受口部86に形成されたねじ孔(図示省略)と、当該ねじ孔に螺合された固定ねじ92とを有しており、当該ねじ孔に固定ねじ92をねじ込むと、固定ねじ92の先端が挿口部88に当接され、これにより受口部86と挿口部88とが相互に固定される。
【0048】
図6および図7(B)に示すように、水準器66は、アーム部62に対して一体的に設けられた基部96と、基部96の上方においてアーム部62に対して一体的に設けられた取付部98と、取付部98に吊下げられた水準器本体100とを有している。水準器本体100は、棒状の軸100aを有しており、軸100aの上端部には、取付部98に引っ掛けられる環状の係止部100bが形成されており、軸100aの下端部には、軸100aを重力方向に引っ張る球状の錘100cが形成されている。また、基部96には、円形の貫通孔96aが形成されている。そして、軸100aが貫通孔96aに挿通されるとともに、係止部100bが取付部98に引っ掛けられており、アーム部62の回動軸76が鉛直方向(すなわち前額面に対して垂直方向)に延びているとき、軸100aは、貫通孔96aの中心に位置するようになっている。したがって、軸100aが貫通孔96aの中心に位置するように回動軸76の傾きを調整することで、回動軸76を前額面に対して垂直に位置決めすることができる。
【0049】
図6に示すように、マーカーホルダ68は、第2ロッド82の鉛直部82aに上下方向に間隔を隔てて設けられた2つの環状保持部68a,68bを有しており、環状保持部68a,68bの内径は、マーカー24の外径よりもやや大きく設計されており、環状保持部68a,68bの少なくとも一方(本実施形態では上側の環状保持部68a)には、ねじ孔(図示省略)が形成されており、当該ねじ孔には、固定ねじ102が螺合されている。したがって、環状保持部68a,68bにマーカー24を挿入した後、当該ねじ孔に固定ねじ102をねじ込むと、固定ねじ102の先端がマーカー24に当接されてマーカー24の脱落が防止される。
【0050】
マーカー24は、マーキングプレート16に円弧S1,S2(図9)を記すものであり、本実施形態では、インク式のペンが用いられている。なお、マーカー24の種類は、特に限定されるものではなく、たとえばマーキングプレート16に円弧S1,S2を刻む刃物が用いられてもよい。
【0051】
図6および図11に示すように、ピンガイド26は、アーム部62に対して一体的に設けられたブロック状のガイド本体112を有しており、ガイド本体112には、骨切りブロック12に設けられた複数のピン孔12a(図14)に対応する複数のガイド孔112aが形成されている。ピンガイド26におけるガイド孔112aの位置は、アーム部62の水平部80b,82bが延びる方向との関係で定められている。つまり、所定のガイド孔112aが大腿骨Dの適正位置に位置決めされたときには、水平部80b,82bは、大腿骨頭中心Pに向かって延びるようになっており、また、前額面に対して平行方向における回動軸76からマーカー24までの距離L(図4)が、予め測定された大腿骨遠位端Dbから大腿骨頭中心Pまでの距離L(図3)と同じであれば、マーカー24は、大腿骨頭中心Pの直上に位置するようになっている。
[大腿骨頭中心位置特定装置の使用方法]
<大腿骨頭中心位置の特定>
図7は、大腿骨遠位端Dbに回動アーム22を固定する工程を示す図であり、(A)は、顆間部Qの最深部にステム固定ピン74a,74bを刺入するための穴120a,120bを形成した状態を示す斜視図、(B)は、ステム固定ピン74a,74bを顆間部Qの最深部に刺入した状態を示す斜視図である。また、図8は、マーキングプレート16に第1円弧S1を記した状態を示す平面図であり、図9は、マーキングプレート16に第2円弧S2を記した状態を示す平面図である。
【0052】
人工膝関節置換術の術前には、図3に示すように、大腿骨Dの画像を、X線撮像装置を用いて取得する。そして、取得した画像の寸法を、X線撮像装置の光学的な倍率に応じて実寸法と一致するように補正し、補正後の寸法に基づいて、大腿骨遠位端Dbから大腿骨頭中心Pまでの距離Lを測定する。続いて、図4に示すように、マーカー位置調整機構64によって、大腿骨頭中心位置特定装置10における回動軸76からマーカー24までの距離Lを、距離Lと等しくなるように調整し、固定ねじ92をねじ込んで、その距離L(=L)の変動を禁止する。
【0053】
人工膝関節置換術の術中には、まず、図7(A)に示すように、大腿骨遠位端Dbにおける顆間部Qの最深部に、上下方向に間隔を隔てて2つの穴120a,120bをドリル等を用いて形成する。続いて、図7(B)に示すように、これらの穴120a,120bにステム部60のステム固定ピン74a,74bを刺入するとともに、ステム本体70の内部にアーム部62の回動軸76を挿入する。また、図4に示すように、マーカーホルダ68に対してマーカー24を装着する。
【0054】
そして、図8に示すように、股関節Hを内外転中間位からやや内転(5度程度)させた後、アーム部62を回動させ、マーカー24によってマーキングプレート16の上面16aに第1円弧S1を記す。このとき、水準器66を見ながら、回動軸76(図4)を前額面に対して垂直に保持することによって、第1円弧S1が必ず大腿骨頭中心Pの直上を通過するようにする。
【0055】
第1円弧S1の記載が完了すると、図9に示すように、股関節Hを内外転中間位からやや外転(15〜25度程度)させた後、アーム部62を回動させ、マーカー24によってマーキングプレート16の上面16aに第2円弧S2を記す。このときも、回動軸76(図4)を前額面に対して垂直に保持することによって、第2円弧S2が必ず大腿骨頭中心Pの直上を通過するようにする。したがって、第1円弧S1と第2円弧S2とは、大腿骨頭中心Pの直上の点Vで交差することになり、この交点Vを目印として、大腿骨頭中心Pを前額面に対して平行な面内で特定することができる。
<ブロック固定ピンの刺入>
図10は、マーカー24を大腿骨頭中心Pと対向する位置に位置決めした状態を示す平面図であり、図11は、ピンガイド26のガイド孔112aから大腿骨Dにブロック固定ピン130を刺入する工程を示す斜視図である。また、図12は、大腿骨頭中心位置特定装置10の回動アーム22を取り外した状態を示す平面図であり、図13は、大腿骨頭中心位置特定装置10のマーキングプレート16を取り外し、大腿骨頭中心Pに対向する位置を指標部20で示した状態を示す平面図である。
【0056】
大腿骨頭中心Pの位置が交点Vによって特定されると、図10に示すように、交点Vにマーカー24を位置決めすることによって、ピンガイド26のガイド孔112aを、骨切りブロック12(図14)のピン孔12aの適正位置に位置決めする。つまり、大腿骨頭中心Pを基準として、ピン孔12aの適正位置を特定する。
【0057】
続いて、図11に示すように、被施術者Aから見て右側に設けられた3個のガイド孔112aの一つと、左側に設けられた3個のガイド孔112aの一つとにブロック固定ピン130を挿入し、ブロック固定ピン130をこれらのガイド孔112aでガイドしながら大腿骨Dに刺入する。なお、図11では、ピンガイド26を明確に図示するために、アーム部62および水準器66をピンガイド26の近傍で破断している。
【0058】
大腿骨Dに対するブロック固定ピン130の刺入が完了すると、図12に示すように、回動アーム22、マーカー24およびピンガイド26を取り外し、交点Vに指標部20のポインタ56を位置決めする。そして、図13に示すように、プレート支持部18の固定ねじ34を緩めてマーキングプレート16を取り外す。つまり、その後の手術の邪魔になるマーキングプレート16を取り外し、それよりも小型の指標部20によって大腿骨頭中心Pの位置を確認できるようにする。
<骨切り工程>
図14は、骨切りブロック12を大腿骨Dに固定する工程を示す斜視図であり、図15は、大腿骨遠位端Dbを骨切りする工程を示す斜視図である。
【0059】
大腿骨遠位端Dbを骨切りする際には、図14に示すように、大腿骨Dに刺入したブロック固定ピン130を骨切りブロック12の対応するピン孔12aに挿入し、これにより骨切りブロック12を大腿骨Dの適正位置に固定する。続いて、図15に示すように、骨切りブロック12に設けられたスリット12bにボーンソー13の刃13aを挿入し、スリット12bに沿って、大腿骨遠位端Dbを骨切りする。
【0060】
本実施形態では、大腿骨頭中心P(図10)を基準としてブロック固定ピン130を適正位置に刺入することができるので、このブロック固定ピン130によって骨切りブロック12を適正位置に固定することができる。したがって、大腿骨遠位端Dbを正確に骨切りすることが可能であり、大腿骨遠位端Dbに人工関節を装着した後には、優れた下肢アライメントを得ることができる。
(第2実施形態)
図16は、第2実施形態に係る大腿骨頭中心位置特定装置140における水準器142の構成を示す斜視図である。
【0061】
図16に示すように、第2実施形態に係る大腿骨頭中心位置特定装置140では、水準器142が、錘144、糸146、取付部148およびプレート150を有しており、取付部148およびプレート150がアーム部62に対して一体的に設けられている。そして、錘144が、プレート150の上方において、糸146を介して取付部148に吊下げられている。また、プレート150の上面には、十字線150aと、直径の異なる複数の同心円150bとが記されており、回動軸76が鉛直方向(すなわち前額面に対して垂直方向)に延びているときには、錘144が十字線150aおよび複数の同心円150bの中心に位置するようになっている。したがって、錘144が十字線150aに対して何れの方向に位置しているかを見ることで、回動軸76の傾き方向を知ることができ、錘144が複数の同心円150bの何れに位置しているかを見ることで、回動軸76の傾き程度を知ることができる。
【符号の説明】
【0062】
D… 大腿骨
Db… 大腿骨遠位端
P… 大腿骨頭中心
S1,S2… 円弧
10… 大腿骨頭中心位置特定装置
12… 骨切りブロック
14… 手術台
16… マーキングプレート
18… プレート支持部
20… 指標部
22… 回動アーム
24… マーカー
26… ピンガイド
30… レール
32… 把持部
60… ステム部
62… アーム部
64… マーカー位置調整機構
66… 水準器
74a,74b… ステム固定ピン
76… 回動軸
80… 第1ロッド
82… 第2ロッド
86… 受口部
88… 挿口部
130… ブロック固定ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工膝関節置換術の術中に、被施術者の大腿骨頭中心の位置を前額面に対して平行な面内で特定する、大腿骨頭中心位置特定装置であって、
被施術者の身体の前記大腿骨頭中心が位置する部位を前額面に対して直交する方向から覆うように配置されるマーキングプレートと、
前額面に対して直交方向に延びて配置される回動軸を有する回動アームと、
前記回動アームに取り付けられ、前記回動アームの回動に伴って前記マーキングプレートに円弧を記すマーカーとを備え、
前記回動軸は、被施術者の大腿骨遠位端に配置され、
前額面に対して平行方向における前記回動軸から前記マーカーまでの距離は、予め測定された大腿骨遠位端から大腿骨頭中心までの距離と同じである、大腿骨頭中心位置特定装置。
【請求項2】
前記回動アームは、前額面に対して平行方向における前記回動軸から前記マーカーまでの距離を調整するマーカー位置調整機構を有する、請求項1に記載の大腿骨頭中心位置特定装置。
【請求項3】
前記回動アームは、大腿骨遠位端における顆間部の最深部に固定される筒状のステム部と、前記ステム部に回動自在に挿入されるアーム部とを有する、請求項1または2に記載の大腿骨頭中心位置特定装置。
【請求項4】
前記ステム部は、大腿骨遠位端における顆間部の最深部に刺入される少なくとも2つのステム固定ピンを有する、請求項3に記載の大腿骨頭中心位置特定装置。
【請求項5】
前記回動アームは、第1ロッドと第2ロッドとを有し、
前記マーカー位置調整機構は、前記第1ロッドに設けられた受口部と、前記第2ロッドに設けられた挿口部と、第1ロッドと第2ロッドとを相互に固定する固定部とを有し、
前記挿口部が前記受口部に適宜の長さで挿入される、請求項1ないし4のいずれかに記載の大腿骨頭中心位置特定装置。
【請求項6】
前記回動アームは、前記回動軸が前額面に対して垂直であることを検知する水準器を有する、請求項1ないし5のいずれかに記載の大腿骨頭中心位置特定装置。
【請求項7】
被施術者の身体を前額面が水平になるように支持する手術台と、
前記手術台に取り付けられ、前記マーキングプレートを着脱可能に支持するプレート支持部とをさらに備える、請求項1ないし6のいずれかに記載の大腿骨頭中心位置特定装置。
【請求項8】
前記手術台に取り付けられ、前記マーカーによって前記マーキングプレートに記された前記大腿骨頭中心に対向する点の位置を指し示す指標部を備える、請求項1ないし7のいずれかに記載の大腿骨頭中心位置特定装置。
【請求項9】
前記人工膝関節置換術は、大腿骨遠位端にブロック固定ピンで骨切りブロックを固定する工程を含み、
前記回動アームには、前記ブロック固定ピンを大腿骨遠位端に刺入する際のガイドとなるガイド孔を有するピンガイドが一体的に設けられている、請求項1ないし8のいずれかに記載の大腿骨頭中心位置特定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−29769(P2012−29769A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170407(P2010−170407)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【特許番号】特許第4652481号(P4652481)
【特許公報発行日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(510207380)
【Fターム(参考)】