説明

大豆の栽培方法、及びその栽培方法により栽培された大豆を使用した大豆加工食品

【課題】風味の良好な大豆加工食品を得ることができる大豆の栽培方法を開発し、風味の良好な豆乳、豆腐、がんもどき、油揚げ、湯葉等の大豆加工食品を提供すること。
【解決手段】大豆の栽培において、粒肥大始期、粒肥大盛期、及び成熟始期から選ばれる1又は2以上の発育時期に、0.04〜3質量%のグルタミン酸カリウム、及び水を含有する液体肥料を、1回につき10アール当たり30〜500リットルの散布量で、1回又は2回以上葉面散布することを特徴とする大豆の栽培方法、並びに該栽培方法により栽培された大豆を、原料として使用した豆乳、豆腐、がんもどき、油揚げ、湯葉等の大豆加工食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大豆の栽培方法、及びその栽培方法により栽培された大豆を使用した大豆加工食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまで、大豆を原料とする豆乳、豆腐、油揚げ等の大豆加工食品の風味を改善するために、例えば、豆乳の場合、豆乳の製造工程において、グルコース、グルコースオキシターゼ、及びカタラーゼを添加して風味の良い豆乳を製造する(特許文献1)、豆腐の場合、豆腐の製造工程において、片栗粉、トウモロコシ、苦汁、及びグルコノデルタラクトンを添加して風味の良い豆腐を製造する(特許文献2)ということがなされていた。
このように、大豆加工食品の風味改善は、大豆加工食品の製造工程において何らかの物質を添加する方法は多く開発されていたものの、大豆の育成過程で与える肥料を改良して大豆を栽培し、かかる栽培により得られた大豆を使用することで、大豆加工食品の風味を改善するということは、あまり行われていなかった。
一方で、植物の育成過程において各種肥料を与えることで、病気を予防して植物の育成を促進したり、得られる葉や果実等の栄養素を改善するという開発が行われている。具体的には、健全な生育を促進するために、炭酸カルシウム及び/又は炭酸マグネシウム1に対してグルタミン酸を2〜3の割合で混合した植物散布用組成物(特許文献3)や、茶葉中のテアニンの含有量を増加させるために、テアニン、グルタミン、グルタミン酸等のアミノ酸を有効成分として含有する葉面散布剤(特許文献4)や、農作物のアミノ酸類を増加させて味覚を向上させるために、発酵肥料中のグルタミン酸に対してイノシン酸ナトリウム及びグアニル酸ナトリウムを特定量配合した肥料(特許文献5)等が開発されてきた。
しかしながら、これらの文献には、大豆の栽培方法を改良することについては何ら記載されていない。
具体的には、特許文献3においては、グルタミン酸以外に、炭酸カルシウム又は炭酸マグネシウムを必須成分するもので、また、どのような形態のグルタミン酸を使用できるというものではなく、特許文献3の〔0018〕には、グルタミン酸については、溶解度を高くするためにグルタミン酸ナトリウムのようなNa塩の形態で添加することは植物に悪影響を与えるので好ましくなく、グルタミン酸のままで使用すべきであると記載され、グルタミン酸塩の形態での使用を好ましくないものと考えている。また、グルタミン酸は、水への溶解性が低いため液体肥料に使用しにくい。
そして、特許文献4については、茶葉の栄養を改善することを目的とするものであり、大豆の栽培については何ら検討されていない。
また、特許文献5については、グルタミン酸以外に、イノシン酸ナトリウム又はグアニル酸ナトリウムを必須成分とするもので、また、農作物として、大豆については何ら検討がなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平1−309653号公報
【特許文献2】特開平4−121155号公報
【特許文献3】特開2005−272256号公報
【特許文献4】特開2004−168686号公報
【特許文献5】特開2004−182498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、特定の栽培方法で栽培をした大豆を原料として使用することで、風味の良好な大豆加工食品を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、大豆の栽培において、特定の時期に、特定量のグルタミン酸カリウムを葉面散布することにより栽培をして得られた大豆を原料として使用することにより、風味の良好な大豆加工食品が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明の第1の発明は、大豆の栽培において、粒肥大始期、粒肥大盛期、及び成熟始期から選ばれる1又は2以上の発育時期に、0.04〜3質量%のグルタミン酸カリウム、及び水を含有する液体肥料を、1回につき10アール当たり30〜500リットルの散布量で、1回又は2回以上葉面散布することを特徴とする大豆の栽培方法である。
また、本発明の第2の発明は、前記発育時期が、粒肥大盛期であることを特徴とする第1の発明に記載の大豆の栽培方法である。
また、本発明の第3の発明は、前記液体肥料が、0.05〜3質量%の尿素及び/又は0.05〜2質量%のグルタミン酸ナトリウムを含有することを特徴とする第1又は第2の発明に記載の大豆の栽培方法である。
【0007】
本発明の第4の発明は、第1〜第3のいずれか1つの発明に記載された大豆の栽培方法により栽培された大豆である。
また、本発明の第5の発明は、第4の発明に記載の大豆を原料として製造された大豆加工食品である。
また、本発明の第6の発明は、前記大豆加工食品が、豆乳、豆腐、がんもどき、油揚げ及び湯葉から選ばれる1種であることを特徴とする第5の発明に記載の大豆加工食品である。
【0008】
本発明の第7の発明は、第4の発明に記載の大豆、及び水を混合したものを磨砕処理して生呉を得た後、該生呉からおからを除去し、該おからを除去する前又は後に加熱処理することを特徴とする豆乳の製造方法である。
また、本発明の第8の発明は、第4の発明に記載の大豆、及び水を混合したものを磨砕処理して生呉を得た後、該生呉からおからを除去し、該おからを除去する前又は後に加熱処理して豆乳を製造し、得られた豆乳に、にがりを添加することを特徴とする豆腐の製造方法である。
また、本発明の第9の発明は、第4の発明に記載の大豆、及び水を混合したものを磨砕処理して生呉を得た後、該生呉からおからを除去し、該おからを除去する前又は後に加熱処理することにより豆乳を製造し、得られた豆乳に、にがりを添加して製造した豆腐を、プレスして脱水した後、具材を混合して生地を作り、該生地を成型後油で揚げることを特徴とするがんもどきの製造方法である。
また、本発明の第10の発明は、第4の発明に記載の大豆、及び水を混合したものを磨砕処理して生呉を得た後、該生呉からおからを除去し、該おからを除去する前又は後に加熱処理して豆乳を製造し、得られた豆乳に、水を加えて冷却した後、にがりを添加して凝固させて型に盛り込み、プレスして油揚げ用の生地を作り、得られた生地を加熱した油で揚げることを特徴とする油揚げの製造方法である。
また、本発明の第11の発明は、第4の発明に記載の大豆、及び水を混合したものを磨砕処理して生呉を得た後、該生呉からおからを除去し、該おからを除去する前又は後に加熱処理して豆乳を製造し、得られた豆乳を容器に入れて加熱処理し、豆乳の表面に生じてくる湯葉を掬い取ることを特徴とする湯葉の製造方法である。
【0009】
また、本発明の第12の発明は、粒肥大始期、粒肥大盛期、及び成熟始期から選ばれる1又は2以上の発育時期に、0.04〜3質量%のグルタミン酸カリウム、及び水を含有する液体肥料を、1回につき10アール当たり30〜500リットルの散布量で、1回又は2回以上葉面散布することにより、栽培された大豆を、原料として使用することを特徴とする大豆加工食品の風味向上方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、特定の条件で栽培をした大豆を原料として使用することで、風味の良好な大豆加工食品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
まず、本発明の大豆の栽培方法について説明をする。
本発明の大豆の栽培方法は、粒肥大始期、粒肥大盛期、及び成熟始期から選ばれる1又は2以上の発育時期に、0.04〜3質量%のグルタミン酸カリウム、及び水を含有する液体肥料を、1回につき10アール当たり30〜500リットルの散布量で、1回又は2回以上葉面散布することを特徴とするものである。
この発育時期に葉面散布をして栽培された大豆を原料にして大豆加工食品を製造すると、風味の良好な大豆加工食品を得ることができる。そして、葉面散布の時期は、粒肥大盛期であることが最も好ましい。
【0012】
ここで、粒肥大始期、粒肥大盛期、及び成熟始期は、大豆の発育時期中の特定時期のことをいい、具体的には、表1に示す発育時期中の略号R5、R6、R7の時期のことをいう。大豆品種・土壌・その年の気候によって時期が多少ずれるが、北海道で大豆を栽培する場合には、5月中旬から下旬に播種を行うと、開花始は、7月下旬〜8月上旬頃で、粒肥大始期は、8月中旬〜8月末頃で、粒肥大盛期は、9月上旬頃で、成熟始期は、9月上旬〜9月中旬頃となる。
なお、大豆の発育時期の表示には、「大豆の生態と栽培技術」(発行所:社団法人農山漁村文化協会、編著者:斎藤正隆、大久保隆弘、昭和61年4月20日第2刷発行、p66)、「Fehr,W.R.,D.T.Caviness,D.T.Burmood and J.S.Pennington.1971.Stage of development descriptions for soybeans,Glycine max(L)Merrill.Crop Sci.11,929−931.等の書籍に掲載されている生殖生長に関する発育時期の表示が一般に使用されている。参考までに、「大豆の生態と栽培技術」に記載されている生殖生長に関する発育時期の表示を表1に示す。
【0013】
【表1】

【0014】
本発明の大豆の栽培に使用する液体肥料は、グルタミン酸カリウム、及び水を含有し、液体肥料中のグルタミン酸カリウムの含有量は、0.04〜3質量%であり、好ましくは0.1〜1.2質量%であり、より好ましくは0.5〜1質量%である。かかる量より少ないと、本発明の効果が得られにくく、また、かかる量より多いと、葉やけを起こす場合があるので好ましくない。
また、液体肥料には、さらに、尿素及び/又はグルタミン酸ナトリウムを含有させることができる。その場合、液体肥料中の尿素の含有量は、好ましくは0.05〜3質量%であり、より好ましくは0.1〜1.5質量%であり、最も好ましくは0.5〜1質量%である。また、グルタミン酸ナトリウムの含有量は、好ましくは0.05〜2質量%であり、より好ましくは0.1〜1質量%であり、最も好ましくは0.5〜0.8質量%である。
さらに、液体肥料には、農薬を含有させることで、病害防除の目的も兼ねることができる。
【0015】
本発明の大豆の栽培に使用する液体肥料の1回の散布量は、10アール当たり30〜500リットルであり、好ましくは10アール当たり80〜450リットルであり、より好ましくは10アール当たり100〜450リットルである。そして、液体肥料の散布は、粒肥大始期、粒肥大盛期、又は成熟始期に、1回又は2回以上、好ましくは1回〜8回、より好ましくは1回〜5回、最も好ましくは1回又は2回である。特に、粒肥大盛期に1回又は2回行うのが最も好ましい。
【0016】
本発明の大豆の栽培においては、通常の大豆の栽培で行われているような作業、例えば、播種前に硫安等の元肥を施したり、雑草の除去、害虫防除等の適期作業を行い、順調な生育を促すことがなるべく生育を同調させる上でも望ましい。
【0017】
次に、本発明の大豆について説明をする。
本発明の大豆は、先に説明をした栽培方法により栽培して収穫した大豆は、日持ちを良くするために、通常、水分含量が15質量%以下、好ましくは11〜15質量%、より好ましくは13〜15質量%になるように乾燥させる。乾燥は、通風乾燥、天日干し等の方法を利用することができる。このようにして得られた大豆を原料として大豆加工食品を製造すると、風味の良好な大豆加工食品を得ることができる。
【0018】
次に、本発明の大豆加工食品、及びその製造方法について説明をする。
本発明の大豆加工食品は、先に説明をした栽培方法により栽培された大豆を原料として製造される大豆加工食品で、具体的には、豆乳、豆腐、がんもどき、油揚げ、湯葉等が挙げられる。
そして、豆乳の製造方法としては、例えば、先に説明をした栽培方法で栽培をした大豆、及び水を混合したものを磨砕処理して生呉を得た後、該生呉からおからを除去し、該おからを除去する前又は後に加熱処理するという方法を挙げることができる。加熱処理の条件としては、例えば、80〜145℃で3秒〜15分が挙げられる。加熱処理には、超高温瞬間滅菌装置(UHT)、圧力釜等を使用することができる。ここで、おからを除去する前に加熱処理をして製造した豆乳は、一般に、加熱絞り豆乳と呼ばれ、おからを除去した後に加熱処理をして製造した豆乳は、一般に生絞り豆乳と呼ばれている。
また、豆乳の製造方法としては、先に説明をした栽培方法で栽培をした大豆を一晩水に浸した後、得られた浸漬大豆に水を加えて磨砕し、生呉を得る。得られた生呉からおからを除き、加熱後冷却するという方法も挙げることができる。
【0019】
豆腐の製造方法として、例えば、先に説明をした栽培方法で栽培をした大豆、及び水を混合したものを磨砕処理して生呉を得た後、該生呉からおからを除去し、該おからを除去する前又は後に加熱処理して豆乳を製造し、得られた豆乳に、にがりを添加する、という方法を挙げることができる。加熱処理の条件としては、例えば、80〜145℃で3秒〜15分が挙げられる。加熱処理には、超高温瞬間滅菌装置(UHT)、圧力釜等を使用することができる。
【0020】
がんもどきの製造方法として、例えば、先に説明をした栽培方法で栽培をした大豆、及び水を混合したものを磨砕処理して生呉を得た後、該生呉からおからを除去し、該おからを除去する前又は後に加熱処理することにより豆乳を製造し、得られた豆乳に、にがりを添加して製造した豆腐を、プレスして脱水した後、具材を混合して生地を作り、該生地を成型後油で揚げる、という方法を挙げることができる。ここで、がんもどきに配合する具材としては、肉、魚、野菜等が挙げられる。そして、加熱処理の条件としては、例えば、80〜145℃で3秒〜15分が挙げられる。加熱処理には、超高温瞬間滅菌装置(UHT)、圧力釜等を使用することができる。また、油で揚げる工程は、110〜150℃の低温の油で揚げた後、160〜200℃の高温で挙げるという2度揚げ工程であることが好ましい。
【0021】
油揚げの製造方法として、例えば、先に説明をした栽培方法で栽培をした大豆、及び水を混合したものを磨砕処理して生呉を得た後、該生呉からおからを除去し、該おからを除去する前又は後に加熱処理して豆乳を製造し、得られた豆乳に、水を加えて冷却した後、にがりを添加して凝固させて型に盛り込み、プレスして油揚げ用の生地を作り、得られた生地を加熱した油で揚げるという方法を挙げることができる。ここで、大豆に混合する水の量は、その後磨砕処理して得られる生呉の固形分濃度が、7〜9質量%になる量が好ましい。また、生呉の加熱処理の条件としては、例えば、80〜145℃で3秒〜15分が挙げられる。加熱処理には、超高温瞬間滅菌装置(UHT)、圧力釜等を使用することができる。また、油で揚げる工程は、110〜150℃の低温の油で揚げた後、160〜200℃の高温で挙げるという2度揚げ工程であることが好ましい。
【0022】
湯葉の製造方法として、例えば、先に説明をした栽培方法で栽培をした大豆、及び水を混合したものを磨砕処理して生呉を得た後、該生呉からおからを除去し、該おからを除去する前又は後に加熱処理して豆乳を製造し、得られた豆乳を容器に入れて加熱処理し、豆乳の表面に生じてくる湯葉を掬い取るという方法を挙げることができる。ここで、大豆に混合する水の量は、その後磨砕処理して得られる生呉の固形分濃度が、7〜9質量%になる量が好ましい。また、生呉の加熱処理の条件としては、例えば、80〜145℃で3秒〜15分が挙げられ、湯葉を作るための豆乳の加熱処理条件としては、例えば、通常用いられる湯葉鍋を使用した場合、豆乳温度を80℃〜100℃にして5分前後加熱する条件が挙げられる。また、湯葉を作る際の容器には、湯葉鍋や湯葉釜等を使用することができる。
【0023】
次に、本発明の大豆加工食品の風味向上方法について説明をする。
本発明の大豆加工食品の風味向上方法は、粒肥大始期、粒肥大盛期、及び成熟始期から選ばれる1又は2以上の発育時期に、0.04〜3質量%のグルタミン酸カリウム、及び水を含有する液体肥料を、1回につき10アール当たり30〜500リットルの散布量で、1回又は2回以上葉面散布することにより、栽培された大豆を、原料として使用することを特徴とする方法である。また、液体肥料は、尿素及び/又はグルタミン酸ナトリウムを含有させたものでも良く、さらに、農薬を含有させたものでも良い。
本発明の大豆加工食品の風味向上方法における液体肥料の散布時期、散布量、散布回数や、液体肥料中のグルタミン酸カリウム、尿素、及びグルタミン酸ナトリウムの含有量等は、先の栽培方法で説明した内容と同じである。
【0024】
次に、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0025】
(1)大豆の栽培試験1〔液体肥料葉面散布1回、栽培実施例1、栽培比較例1〕
北海道の深川市で、大豆の栽培試験を行った。栽培の試験区画(4×3m)には、予め肥料(商品名:苦土入S388、住友化学(株)製)を10アール当たり40kg施した。種子として早生緑を使用し、5月28日に播種を行った。8月3日に開花し(開花始)、その時に硫安を10アール当たり20kg追肥した。粒肥大始期は、8月15日から8月24日までの期間で、粒肥大盛期は、8月25日から9月8日までの期間で、成熟始期は、9月9日から9月13日までの期間であった。そして、水にグルタミン酸カリウム0.5質量%、グルタミン酸ナトリウム0.5質量%を添加して溶解させた液体肥料を、10アール当たり160リットルの散布量で、粒肥大盛期である9月6日に1回葉面散布をした。そして、10月10日に大豆の収穫をした(栽培実施例1)。
大豆の収穫は、試験区画の端で栽培をした大豆の株は取り除き、それ以外の大豆の株を抜いて行った。抜いた大豆の株は、根の部分を切断して網の袋の中に収容し、室内に干して乾燥した。乾燥後脱穀することにより大豆子実の乾燥品(水分含量約13質量%)を得た。
また、液体肥料の葉面散布を行わなかった以外は実施例1と同様の方法で大豆を栽培し、10月10日に収穫をした(栽培比較例1)。大豆の収穫は、試験区画の端で栽培をした大豆の株は取り除き、それ以外の大豆の株を抜いて行った。収穫した大豆の株について、栽培実施例1の後に行った収穫・乾燥処理と同様の処理を行い、大豆子実の乾燥品(水分含量約13質量%)を得た。
【0026】
(2)大豆の栽培試験2〔液体肥料葉面散布2回、栽培実施例2、栽培比較例2〜4〕
北海道の深川地区で、大豆の栽培試験を行った。圃場には、予め肥料(商品名:苦土入S388、住友化学(株)製)を10アール当たり40kg施した。種子として早生緑を使用し、5月28日に播種を行った。8月3日に開花し(開花始)、その時に硫安を10アール当たり20kg追肥した。粒肥大始期は、8月15日から8月24日までの期間で、粒肥大盛期は、8月25日から9月8日までの期間で、成熟始期は、9月9日から9月13日までの期間であった。そして、水にグルタミン酸カリウム0.7質量%、及び尿素を0.3質量%添加して溶解させた液体肥料を、粒肥大盛期に2回葉面散布した。具体的には、1回目の散布は、10アール当たり415リットルの散布量で、8月26日(粒肥大盛期)に、2回目は、10アール当たり160リットルの散布量で9月6日(粒肥大盛期)に行った。そして、10月10日に大豆の収穫をした(栽培実施例2)。
大豆の収穫は、試験区画の端で栽培をした大豆の株は取り除き、それ以外の大豆の株を抜いて行った。抜いた大豆の株は、根の部分を切断して網の袋の中に収容し、室内に干して乾燥した。乾燥後脱穀することにより大豆子実の乾燥品(水分含量約13質量%)を得た。
また、液体肥料の葉面散布を行わなかった以外は栽培実施例2と同様の方法で、栽培比較例1と違う土地において大豆を栽培し、10月10日に収穫をした(栽培比較例2)。
大豆の収穫は、試験区画の端で栽培をした大豆の株は取り除き、それ以外の大豆の株を抜いて行った。収穫した大豆の株について、栽培実施例2の後に行った収穫・乾燥処理と同様の方法で処理を行い、大豆子実の乾燥品(水分含量約13質量%)を得た。
【0027】
液体肥料として、水に尿素1質量%を添加して溶解させた液体肥料を使用した以外は、栽培実施例2と同様の方法で大豆を栽培し、10月10日に収穫をした(栽培比較例3)。大豆の収穫は、試験区画の端で栽培をした大豆の株は取り除き、それ以外の大豆の株を抜いて行った。収穫した大豆の株について、栽培実施例2の後に行った収穫・乾燥処理と同様の方法で処理を行い、大豆子実の乾燥品(水分含量約13質量%)を得た。
また、液体肥料として、水に尿素0.3質量%、及びグルタミン酸ナトリウム0.7質量%を添加して溶解させた液体肥料を使用した以外は、栽培実施例2と同様の方法で大豆を栽培し、10月10日に収穫をした(栽培比較例4)。大豆の収穫は、試験区画の端で栽培をした大豆の株は取り除き、それ以外の大豆の株を抜いて行った。収穫した大豆の株について、栽培実施例2の後に行った収穫・乾燥処理と同様の方法で処理を行い、大豆子実の乾燥品(水分含量約13質量%)を得た。
【0028】
(3)大豆子実中のアミノ酸組成の分析及び分析結果
大豆に含まれる遊離アミノ酸は、自動アミノ酸分析機(L−8800A形高速アミノ酸分析計、(株)日立製作所製)により測定した。
まず、栽培実施例1及び2、並びに栽培比較例1〜4で得られた大豆子実を、さらに凍結乾燥処理により水分5質量%以下に乾燥した。得られた凍結乾燥後の大豆子実を粉砕し、粉砕品150mgを容器にサンプリングし、16%TCA(トリクロロ酢酸)と50mM燐酸カリウム緩衝液(pH5.6)を各600μl加えて、1時間室温で振とう攪拌をした。その後、遠心分離(10000G)をして上清を取り、得られた上清を0.45μmのフィルターで濾過し、濾液の20μlをアミノ酸分析計で分析し、各種遊離アミノ酸組成を測定した。
測定した遊離アミノ酸組成の結果を、表2に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
表2の結果から、本発明の栽培方法で栽培をした栽培実施例1、2の大豆は、栽培比較例1〜4の大豆に比べ、アルギニン含量が相対的に増加していることがわかった。
【0031】
(4)豆乳(大豆加工食品)の製造〔実施例1、2、比較例1〜4〕
栽培実施例1の栽培で得られた大豆を一晩水に浸した後、浸漬大豆80gに水110mlを加えて、粉砕機(商品名:ミルサー、岩谷産業(株)製)で15秒間2回磨砕し、生呉を得た。得られた生呉を、3枚重ねた不織布(ソフトクロス25、株式会社エフスリィー製)に入れて絞り、豆乳を得た。アタゴ(株)製のデジタル豆乳濃度計を用いて豆乳中の固形分濃度を測定し、豆乳の固形分濃度が9質量%になるように水を添加した。濃度調整をした豆乳を試験管に入れて蓋をし、沸騰水の中で15分間加熱後、室温まで冷却し、実施例1の豆乳を得た。
同じようにして、栽培実施例2、栽培比較例1〜4の各栽培で得られた大豆から、それぞれ実施例2、比較例1〜4の豆乳を製造した。
【0032】
(5)豆乳の風味評価
実施例1、2、比較例1〜4で製造した豆乳を飲んで、その風味を確認した。その結果、実施例1の豆乳は比較例1の豆乳に比べて、味に深みと広がりがあり美味であった。また、実施例2の豆乳も比較例2〜4の豆乳に比べて、味に深みがあり美味であった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の栽培方法により栽培された大豆は、大豆加工食品等の食品分野に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大豆の栽培において、粒肥大始期、粒肥大盛期、及び成熟始期から選ばれる1又は2以上の発育時期に、0.04〜3質量%のグルタミン酸カリウム、及び水を含有する液体肥料を、1回につき10アール当たり30〜500リットルの散布量で、1回又は2回以上葉面散布することを特徴とする大豆の栽培方法。
【請求項2】
前記発育時期が、粒肥大盛期であることを特徴とする請求項1に記載の大豆の栽培方法。
【請求項3】
前記液体肥料が、0.05〜3質量%の尿素及び/又は0.05〜2質量%のグルタミン酸ナトリウムを含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の大豆の栽培方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載された大豆の栽培方法により栽培された大豆。
【請求項5】
請求項4に記載の大豆を原料として製造された大豆加工食品。
【請求項6】
前記大豆加工食品が、豆乳、豆腐、がんもどき、油揚げ及び湯葉から選ばれる1種であることを特徴とする請求項5に記載の大豆加工食品。
【請求項7】
請求項4に記載の大豆、及び水を混合したものを磨砕処理して生呉を得た後、該生呉からおからを除去し、該おからを除去する前又は後に加熱処理することを特徴とする豆乳の製造方法。
【請求項8】
請求項4に記載の大豆、及び水を混合したものを磨砕処理して生呉を得た後、該生呉からおからを除去し、該おからを除去する前又は後に加熱処理することにより豆乳を製造し、得られた豆乳に、にがりを添加することを特徴とする豆腐の製造方法。
【請求項9】
請求項4に記載の大豆、及び水を混合したものを磨砕処理して生呉を得た後、該生呉からおからを除去し、該おからを除去する前又は後に加熱処理することにより豆乳を製造し、得られた豆乳に、にがりを添加して製造した豆腐を、プレスして脱水した後、具材を混合して生地を作り、該生地を成型後油で揚げることを特徴とするがんもどきの製造方法。
【請求項10】
請求項4に記載の大豆、及び水を混合したものを磨砕処理して生呉を得た後、該生呉からおからを除去し、該おからを除去する前又は後に加熱処理して豆乳を製造し、得られた豆乳に、水を加えて冷却した後、にがりを添加して凝固させて型に盛り込み、プレスして油揚げ用の生地を作り、得られた生地を加熱した油で揚げることを特徴とする油揚げの製造方法。
【請求項11】
請求項4に記載の大豆、及び水を混合したものを磨砕処理して生呉を得た後、該生呉からおからを除去し、該おからを除去する前又は後に加熱処理して豆乳を製造し、得られた豆乳を容器に入れて加熱処理し、豆乳の表面に生じてくる湯葉を掬い取ることを特徴とする湯葉の製造方法。
【請求項12】
粒肥大始期、粒肥大盛期、及び成熟始期から選ばれる1又は2以上の発育時期に、0.04〜3質量%のグルタミン酸カリウム、及び水を含有する液体肥料を、1回につき10アール当たり30〜500リットルの散布量で、1回又は2回以上葉面散布することにより、栽培された大豆を、原料として使用することを特徴とする大豆加工食品の風味向上方法。

【公開番号】特開2011−200155(P2011−200155A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69879(P2010−69879)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【出願人】(503205724)もぎ豆腐店株式会社 (4)
【Fターム(参考)】