説明

大豆酵素製剤の製造方法

【課題】大豆ホエーから、β−アミラーゼとトリプシンインヒビターとを両方含み、食品工業的に利用し易い酵素製剤を効率良く得ることができる方法を提供すること。
【解決手段】本発明の大豆酵素製剤の製造方法は、大豆ホエーを固形分25〜35%となるように濃縮する濃縮工程と、前記濃縮工程にて得られた濃縮大豆ホエー100質量部に対して、塩類を15質量部以上添加する塩析工程と、前記塩析工程にて生じた析出物を濾過により回収する濾過工程と、を有することを特徴とする大豆酵素製剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大豆酵素製剤に関し、詳細には、大豆ホエー由来のβ−アミラーゼとトリプシンインヒビターとを両方含む酵素製剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
β−アミラーゼは、澱粉の非還元末端に作用し、α−1,4グリコシド結合を逐次切断してマルトースを遊離する酵素であり、水飴やマルトースの製造に利用されたり、パンや和菓子等の澱粉老化防止剤として食品に直接利用されたりしている。β−アミラーゼには、大豆、小麦、大麦等の穀類やサツマイモ等の植物起源のものと、微生物起源のものとがあるが、食品工業では、通常、植物起源のものが用いられる。一方、トリプシンインヒビターは、タンパク質分解酵素であるトリプシンの作用を特異的に阻害する物質であり、粉末状大豆たん白及びカルシウムとともに添加することで、塩魚肉すり身や魚肉練り製品の坐りの増強、戻りの抑制、弾力の増強、ゲル剛性の向上等を図るために利用されている(例えば、特許文献1参照)。トリプシンインヒビターは、大豆等の豆類に多く含まれており、大豆由来のトリプシンインヒビターとしては、分子量約20,000、等電点4.5のクニッツ型と、分子量約8,000、等電点4.2のボーマンバーク型との2種類の存在が知られている。このように、β−アミラーゼと、トリプシンインヒビターとは、極めて有用な物質であるため、工業化に結びつくような簡便な分離技術の開発が種々、行なわれている。
【0003】
例えば、特許文献2には、大豆ホエーを原料としてβ−アミラーゼを得る方法として、多段階の限外濾過膜濃縮工程、冷却処理工程と沈殿除去工程及び/又はpH調整工程を行なう方法が開示されている。また、特許文献3には、大豆ホエーを濃縮し、酸性条件下で析出する凝集沈殿物であるトリプシンインヒビターを回収する工程と、得られた上清を高分子画分であるβ−アミラーゼと低分子画分である大豆小糖類とに分画する工程とを含む方法が開示されている。その他、サツマイモの搾汁液を原料としてβ−アミラーゼを得る方法として、特許文献4に、カンショの搾汁液を酸性処理するpH調整工程と、酸性処理液を加熱処理する加熱工程と、加熱処理液を中和処理する中和処理工程とを順に行なう方法が開示されている。
【0004】
また、大豆由来のトリプシンインヒビターを得る方法として、実験室レベルでは、等電点沈殿、塩析、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過等を組み合わせた種々の精製法が提案されている。工業的な方法としては、例えば、特許文献5には、限外濾過膜とイオン交換クロマトグラフィーとを組み合わせた方法が開示されている。さらに、特許文献6には、トリプシンインヒビター抽出法とイオン交換クロマトグラフィーとを組み合わせた高純度のトリプシンインヒビターを得る方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、上記いずれの報告も満足のいく程度にまで簡便化された方法とはいえず、また、β−アミラーゼとトリプシンインヒビターとを両方含む酵素製剤を得ることはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−9929号公報
【特許文献2】特開平7−107974号公報
【特許文献3】特開2004−313170号公報
【特許文献4】特開2005−46110号公報
【特許文献5】特開平6−145198号公報
【特許文献6】特開平10−66572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、大豆ホエーから、β−アミラーゼとトリプシンインヒビターとを両方含み、食品工業的に利用し易い酵素製剤を効率良く得ることができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねたところ、大豆ホエーを特定の固形分に濃縮した後、特定の条件で塩析し、濾過することで、β−アミラーゼとトリプシンインヒビターとを両方含む液が得られ、且つ該液を高濃度に濃縮できることを見出し、本発明を完成するに至った。なお、濃縮、塩析、及び濾過の組み合わせにより、大豆ホエーからβ−アミラーゼとトリプシンインヒビターとを効率良く得ることができるという報告はなされていない。
【0009】
具体的には、本発明では以下のようなものを提供する。
【0010】
(1) 大豆ホエーを固形分25〜35%となるように濃縮する濃縮工程と、上記濃縮工程にて得られた濃縮大豆ホエー100質量部に対して、塩類を15質量部以上添加する塩析工程と、上記塩析工程にて生じた析出物を濾過により回収する濾過工程と、を有することを特徴とする大豆酵素製剤の製造方法。
【0011】
(2) 上記濾過工程にて使用する濾過材が濾布である(1)に記載の大豆酵素製剤の製造方法。
【0012】
(3) JIS−L1096に準拠して測定した上記濾布の通気度は、20〜100cc/cm/minである(2)に記載の大豆酵素製剤の製造方法。
【0013】
(4) 上記塩析工程にて添加する塩類が、硫酸アンモニウムである(1)〜(3)いずれかに記載の大豆酵素製剤の製造方法。
【0014】
(5) 上記濾過工程では、上記塩析工程を経た濃縮大豆ホエーに対して、濾過助剤として澱粉を添加する(1)〜(4)いずれかに記載の大豆酵素製剤の製造方法。
【0015】
(6) 上記澱粉が馬鈴薯澱粉である(5)に記載の大豆酵素製剤の製造方法。
【0016】
(7) 上記澱粉の添加量は、上記塩析工程を経た濃縮大豆ホエー100質量部に対して、1〜25質量部である(5)又は(6)に記載の大豆酵素製剤の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、大豆ホエーから、β−アミラーゼとトリプシンインヒビターとを両方含み、食品工業的に利用し易い酵素製剤を効率良く得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜、変更を加えて実施することができる。
【0019】
本発明の大豆酵素製剤の製造方法は、大豆ホエーを固形分25〜35%となるように濃縮する濃縮工程と、上記濃縮工程にて得られた濃縮大豆ホエー100質量部に対して、塩類を15質量部以上添加する塩析工程と、上記塩析工程にて生じた析出物を濾過により回収する濾過工程と、を有することを特徴とする。本発明の大豆酵素製剤の製造方法では、大豆ホエーを特定の固形分に濃縮した後、特定の条件で塩析し、濾過することで、β−アミラーゼとトリプシンインヒビターとを両方含む液が得られ、且つ該液を高濃度に濃縮できることを見出した点に意義を有する。以下、濃縮工程、塩析工程、及び濾過工程について、順に説明する。
【0020】
[濃縮工程]
濃縮工程は、大豆ホエーを固形分25〜35%となるように濃縮する工程である。大豆ホエーとしては、例えば、大豆から分離大豆蛋白や濃縮大豆蛋白を製造する過程で副産物として生じるものや、脱脂大豆等の大豆から直接抽出されたものを使用することができる。脱脂大豆から直接、大豆ホエーを得る方法としては、例えば、脱脂大豆に水を添加した後、水酸化ナトリウム等によりpHを7.5に調整し、デカンタ等の遠心分離機を用いておからを除去し、上澄み液である大豆ホエーを回収する方法が挙げられる。上記中でも、安定した品質のものを多量に得ることができる点において、大豆から分離大豆蛋白や濃縮大豆蛋白を工業的に製造する過程で副産物として生じる大豆ホエーを利用することが好ましい。
【0021】
大豆ホエーは、通常、固形分が5%程度であり、その固形分組成は、粗蛋白質が20%程度、灰分が20%程度、糖質が60%程度であり、例えば、脱脂大豆から水抽出する際の倍率が変わっても、大豆ホエーの固形分組成はほとんど変動しない。固形分5%程度の大豆ホエーであれば、β−アミラーゼが活性として300unit/ml程度、トリプシンインヒビターが活性として6unit/ml程度含まれており、本発明の原料として好適に用いることができる。
【0022】
なお、本明細書における大豆ホエー由来のβ−アミラーゼ活性の測定は、Betamyl(p−ニトロフェニル マルトトリオース:PNP−β−G3)溶液を基質として使用し、該基質からβ−アミラーゼによって解離されたp−ニトロフェノールの吸光度を測定する方法(BETAMYL−3)に従って行ない、1分間にPNP−β−G3から1μmolのp−ニトロフェノールが解離する活性を1unitとする。また、大豆ホエー由来のトリプシンインヒビター活性の測定は、A.O.C.Sの公定法に基づいたBAPA法に従って行なう。
【0023】
濃縮工程では、大豆ホエーを固形分25〜35%となるように濃縮する。大豆ホエーを濃縮する方法は、特に限定されないが、例えば、蒸留による濃縮が好適である。具体的には、大豆ホエーをpH5.0〜6.0に調整した後、60℃以下の温度にて濃縮する。ここで、濃縮前の大豆ホエーをpH5.0〜6.0に調整するのは、β−アミラーゼの熱安定性が高いpH域だからである。濃縮の際の温度条件を60℃以下とするのは、60℃を超えるとβ−アミラーゼ活性が低下し得るからである。濃縮は、大豆ホエーの固形分が25〜35%となるように行なう。大豆ホエーの固形分が25%未満であると、次工程の塩析工程における塩類の使用量が多くなるため、原料費や廃棄物処理費がコスト高となる。35%を超えると、大豆ホエーの粘度が高くなるため、取り扱いが困難となり、次工程の塩析工程における作業が煩雑となる。
【0024】
[塩析工程]
塩析工程は、上記濃縮工程にて得られた濃縮大豆ホエー100質量部に対して、塩類を15質量部以上添加する工程である。塩析工程では、上記濃縮工程にて得られた濃縮大豆ホエーに塩類を添加することにより、β−アミラーゼ及びトリプシンインヒビターを不溶化させ、析出させる。そして、大豆ホエーからβ−アミラーゼとトリプシンインヒビターとを選択的にうる。添加する塩類は、特に限定されず、例えば、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸ナトリウム等が挙げられ、これらは単独又は組み合わせて用いることができる。これらの中でも、硫酸アンモニウムは、塩析効果が高いという点において好ましい。
【0025】
塩類の添加量は、上記濃縮工程にて得られた濃縮大豆ホエー100質量部に対して、15質量部以上である。なお、好ましい上限は、上記濃縮工程にて得られた濃縮大豆ホエー100質量部に対して、35質量部以下である。塩類の添加量が、上記濃縮工程にて得られた濃縮大豆ホエー100質量部に対して、15質量部未満であると、塩析効果がほとんど得られない。35質量部を超えると、不要な酵素類も沈殿を起こす可能性がある。
【0026】
塩析工程では、上記濃縮工程にて得られた濃縮大豆ホエーに塩類を添加した後は、塩類が溶解するまで十分に撹拌し、一晩4℃付近の温度条件下で静置する。なお、塩類の添加後に行なう撹拌は、塩析を効率良く進行させるために強撹拌であることが好ましい。
【0027】
[濾過工程]
濾過工程は、上記塩析工程にて生じた析出物を濾過により回収する工程である。濾過工程では、上記塩析工程にて生じた析出物、すなわち、β−アミラーゼとトリプシンインヒビターとを両方含む析出物を濾過による固液分離により回収する。濾過方法としては、例えば、濾紙又は濾布をセットしたブフナー濾過器(ヌッチェ)を用いる吸引濾過、フィルタープレス等が挙げられ、上記析出物の含水率の低減が可能であるとの観点からフィルタープレスによる濾過が好ましく、特に、圧搾式のフィルタープレスが好ましい。上記析出物の含水率が低いと、例えば、回収した析出物を乾燥し、β−アミラーゼ及びトリプシンインヒビターを両方含む粉末状の酵素製剤を製造する際に、短時間で乾燥することができるので、乾燥に要するコストを低減することができる。濾過材は、濾紙又は濾布のいずれであってもよいが、耐性が強く、工業的な使用に適している濾布が好ましい。濾布の材質は、特に限定されず、例えば、ポリプロピレンのマルチフィラメント糸が挙げられる。濾過材として濾布を選択する場合には、JIS−L1096に準拠して測定した濾布の通気度が20〜100cc/cm/minの範囲内であることが好ましい。濾布の通気度が20cc/cm/min未満であると、濾布に詰まりが生じる場合があり、100cc/cm/minを超えると、上記析出物のトラップが困難となる。
【0028】
濾過工程では、上記塩析工程を経た濃縮大豆ホエーに対して、濾過助剤として澱粉を添加することが好ましい。ここで、上記塩析工程を経た濃縮大豆ホエーとは、上記濃縮工程にて得られた濃縮大豆ホエーに塩類を添加し、β−アミラーゼとトリプシンインヒビターとを両方含む析出物が生じた状態の濃縮大豆ホエーをいい、具体的には、上記濃縮工程にて得られた濃縮大豆ホエーに塩類を添加した後、塩類が溶解するまで十分に撹拌し、静置(例えば、4℃付近の温度条件下で一晩静置)した後のものをいう。
【0029】
濾過助剤として添加する澱粉は、水不溶性ものであれば特に限定されず、天然澱粉、加工澱粉のいずれであってもよい。例えば、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、小麦澱粉、タピオカ澱粉等の天然澱粉、原料として馬鈴薯、コーン、小麦、タピオカ等を使用し、これらにエステル化処理、エーテル化処理、アルファ化処理等を施したものが挙げられる。これらは単独又は組み合わせて用いることができる。これらの中でも、濾過性をより向上させ、単位時間当たりの処理量を高めることが可能な馬鈴薯澱粉を使用することが好ましい。
【0030】
澱粉の添加量は、上記塩析工程を経た濃縮大豆ホエー100質量部に対して、1〜25質量部であることが好ましく、1〜10質量部であることがより好ましい。澱粉の添加量が上記範囲内であれば、濾過性がより向上する。澱粉の添加量が、上記塩析工程を経た濃縮大豆ホエー100質量部に対して、25質量部を超えると、得られた析出物のβ−アミラーゼ及びトリプシンインヒビターの活性が低くなるため、これら酵素の効果を十分に発揮できる酵素製剤を得ることが困難となる。
【0031】
上記濾過工程にて得られたβ−アミラーゼ及びトリプシンインヒビターを両方含む析出物は、例えば、上記濃縮液を噴霧乾燥機等により乾燥し、β−アミラーゼ及びトリプシンインヒビターを両方含む粉末状の酵素製剤として使用することができる。また、上記析出物を、酵素の安定性を維持できる溶剤に溶解させ、β−アミラーゼ及びトリプシンインヒビターを両方含む液剤としてもよい。
【0032】
本発明の方法により製造される酵素製剤は、力価の高いβ−アミラーゼとトリプシンインヒビターとを両方含むので、食品工業的に利用価値が高く、例えば、水産加工食品、畜肉加工食品、大豆加工食品、乳製品、菓子類、小麦粉加工食品、澱粉加工食品等の使用に好適である。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。
【0034】
[製造例1]大豆ホエーの製造方法
低温脱脂大豆粉20kgに120kgの水を添加して撹拌した後、1Nの塩酸水溶液を添加してpHを4.5に調整した。30分間撹拌した後、デカンタ型遠心分離機(巴工業株式会社製)によりオカラを除去し、上澄み液(大豆ホエー)を105kg回収した。回収した大豆ホエーは、固形分が4.6質量%、pHが4.5であり、β−アミラーゼ活性を300IU/g、トリプシンインヒビター(TI)活性を6TIU/mg有していた。なお、β−アミラーゼ活性の測定は、Betamyl(p−ニトロフェニル マルトトリオース:PNP−β−G3)溶液を基質として使用し、該基質からβ−アミラーゼによって解離されたp−ニトロフェノールの吸光度を測定する方法(BETAMYL−3)に従って行ない、1分間にPNP−β−G3から1μmolのp−ニトロフェノールが解離する活性を1unitとした。TI活性の測定は、A.O.C.Sの公定法に基づいたBAPA法に従い、行なった。
【0035】
[試験例1]塩析条件の検討
製造例1の方法にて得られた大豆ホエー100kgに、10%水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを5.5に調整した後、50℃の温度条件下で蒸留濃縮を行ない、濃縮大豆ホエー(固形分:30.3質量%、pH:5.1、β−アミラーゼ活性:2200IU/g、トリプシンインヒビター活性:52TIU/mg)を15kg回収した。
次いで、回収した濃縮大豆ホエー1kgに、10%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、再度pHを5.5に調整した後、硫酸アンモニウム(特級、和光純薬工業株式会社製)を、上記濃縮大豆ホエー100質量部に対して、0、10、15、19、24、28質量部添加し、溶解するまで十分に撹拌した。一晩4℃の温度条件下で静置した後、遠心分離(3,000rpm,10分間)し、上清部と沈殿部とに分けた。
そして、沈殿部におけるβ−アミラーゼ活性と、TI活性とを測定し、濃縮大豆ホエーにおけるβ−アミラーゼ活性と、TI活性とに対する割合を求めた。結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1に示すように、濃縮大豆ホエー100質量部に対して、硫酸アンモニウムを15質量部以上添加することで、β−アミラーゼ及びTIの両方を含む析出物を得ることができた。また、硫酸アンモニウムの添加量が増えるにしたがって、β−アミラーゼ及びTIともに回収率が高まることが確認された。
【0038】
<実施例1>
試験例1にて回収した濃縮大豆ホエー1kgに、10%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、pHを5.5に調整した。次いで、硫酸アンモニウム(特級、和光純薬工業株式会社製)を、上記濃縮大豆ホエー100質量部に対して、20質量部添加し、溶解するまで十分に撹拌した後、一晩4℃の温度条件下で静置した。そして、濾布(材質:ポリプロピレンのマルチフィラメント糸、通気度:20cc/cm/min)を半径110mmの円形に切断し、ブフナー濾過器(ヌッチェ)にセットし、上記塩析処理した濃縮大豆ホエー231.5gを20分間吸引濾過した。
【0039】
その結果、塩析により生じた析出物を12.6g回収することができた。また、回収した沈殿物は、固形分が68質量%であり、β−アミラーゼ活性を16,598IU/g、TI活性を273.3TIU/mg有していた。
【0040】
<実施例2>
試験例1にて回収した濃縮大豆ホエー1kgに、10%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、pHを5.5に調整した。次いで、硫酸アンモニウム(特級、和光純薬工業株式会社製)を、上記濃縮大豆ホエー100質量部に対して、20質量部添加し、溶解するまで十分に撹拌した後、一晩4℃の温度条件下で静置した。その後、この塩析処理した濃縮大豆ホエー100質量部に馬鈴薯澱粉(商品名:丸特士幌澱粉、東海澱粉株式会社製)1質量部を添加し、撹拌した。そして、濾布(材質:ポリプロピレンのマルチフィラメント糸、通気度:20cc/cm/min)を半径110mmの円形に切断し、ブフナー濾過器(ヌッチェ)にセットし、上記馬鈴薯澱粉添加後の塩析処理した濃縮大豆ホエー486.2gを20分間吸引濾過した。
【0041】
その結果、塩析により生じた析出物を41.4g回収することができた。また、回収した沈殿物は、固形分が68質量%であり、β−アミラーゼ活性を14,378IU/g、TI活性を252.3TIU/mg有していた。
【0042】
<実施例3>
試験例1にて回収した濃縮大豆ホエー1kgに、10%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、pHを5.5に調整した。次いで、硫酸アンモニウム(特級、和光純薬工業株式会社製)を、上記濃縮大豆ホエー100質量部に対して、20質量部添加し、溶解するまで十分に撹拌した後、一晩4℃の温度条件下で静置した。その後、この塩析処理した濃縮大豆ホエー100質量部にコーンスターチ澱粉(商品名:日食コーンスターチ、日本食品化工株式会社製)1質量部を添加し、撹拌した。そして、濾布(材質:ポリプロピレンのマルチフィラメント糸、通気度:20cc/cm/min)を半径110mmの円形に切断し、ブフナー濾過器(ヌッチェ)にセットし、上記馬鈴薯澱粉添加後の塩析処理した濃縮大豆ホエー353.5gを20分間吸引濾過した。
【0043】
その結果、塩析により生じた析出物を30.1g回収することができた。また、回収した沈殿物は、固形分が67質量%であり、β−アミラーゼ活性を12,345IU/g、TI活性を205.0TIU/mg有していた。
【0044】
<実施例4>
試験例1にて回収した濃縮大豆ホエー7kgに、10%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、pHを5.5に調整した。次いで、硫酸アンモニウム(特級、和光純薬工業株式会社製)を、上記濃縮大豆ホエー100質量部に対して、20質量部添加し、溶解するまで十分に撹拌した後、一晩4℃の温度条件下で静置した。そして、圧搾式フィルタープレス(薮田機械株式会社製、YTO型、圧搾圧力:0.5MPa、濾布:ポリプロピレン製、濾布の通気度:60cc/cm/min)を使用して、上記塩析処理した濃縮大豆ホエー6,100gを固液分離した。
【0045】
その結果、塩析により生じた析出物を290g回収することができた。また、回収した沈殿物は、固形分が60.6質量%であり、β−アミラーゼ活性を28,755IU/g、TI活性を493TIU/mg有していた。
【0046】
<実施例5>
試験例1にて回収した濃縮大豆ホエー2kgに、10%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、pHを5.5に調整した。次いで、硫酸アンモニウム(特級、和光純薬工業株式会社製)を、上記濃縮大豆ホエー100質量部に対して、20質量部添加し、溶解するまで十分に撹拌した後、一晩4℃の温度条件下で静置した。その後、この塩析処理した濃縮大豆ホエー100質量部に馬鈴薯澱粉(商品名:丸特士幌澱粉、東海澱粉株式会社製)3質量部を添加し、撹拌した。そして、圧搾式フィルタープレス(薮田機械株式会社製、YTO型、圧搾圧力:0.5MPa、濾布:ポリプロピレン製、濾布の通気度:30cc/cm/min)を使用して、上記馬鈴薯澱粉添加後の塩析処理した濃縮大豆ホエー1,900gを固液分離した。
【0047】
その結果、塩析により生じた析出物を152g回収することができた。また、回収した沈殿物は、固形分が64.9質量%であり、β−アミラーゼ活性を9,349IU/g、TI活性を153TIU/mg有していた。
【0048】
<実施例6>
試験例1にて回収した濃縮大豆ホエー10kgに、10%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、pHを5.5に調整した。次いで、硫酸アンモニウム(特級、和光純薬工業株式会社製)を、上記濃縮大豆ホエー100質量部に対して、20質量部添加し、溶解するまで十分に撹拌した後、一晩4℃の温度条件下で静置した。その後、この塩析処理した濃縮大豆ホエー100質量部に馬鈴薯澱粉(商品名:丸特士幌澱粉、東海澱粉株式会社製)10質量部を添加し、撹拌した。そして、圧搾式フィルタープレス(薮田機械株式会社製、YTO型、圧搾圧力:0.5MPa、濾布:ポリプロピレン製、濾布の通気度:100cc/cm/min)を使用して、上記馬鈴薯澱粉添加後の塩析処理した濃縮大豆ホエー9,400gを固液分離した。
【0049】
その結果、塩析により生じた析出物を1,305g回収することができた。また、回収した沈殿物は、固形分が65.6質量%であり、β−アミラーゼ活性を8,734IU/g、TI活性を134TIU/mg有していた。
【0050】
<実施例7>
試験例1にて回収した濃縮大豆ホエー5kgに、10%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、pHを5.5に調整した。次いで、硫酸アンモニウム(特級、和光純薬工業株式会社製)を、上記濃縮大豆ホエー100質量部に対して、20質量部添加し、溶解するまで十分に撹拌した後、一晩4℃の温度条件下で静置した。その後、この塩析処理した濃縮大豆ホエー100質量部に馬鈴薯澱粉(商品名:丸特士幌澱粉、東海澱粉株式会社製)25質量部を添加し、撹拌した。そして、圧搾式フィルタープレス(薮田機械株式会社製、YTO型、圧搾圧力:0.5MPa、濾布:ポリプロピレン製、濾布の通気度:30cc/cm/min)を使用して、上記馬鈴薯澱粉添加後の塩析処理した濃縮大豆ホエー3,550gを固液分離した。
【0051】
その結果、塩析により生じた析出物を731g回収することができた。また、回収した沈殿物は、固形分が64.8質量%であり、β−アミラーゼ活性を6,066IU/g、TI活性を92TIU/mg有していた。
【0052】
以上の実施例1〜7の結果より、本発明の方法によれば、大豆ホエー由来のβ−アミラーゼとトリプシンインヒビターとを同時に含む酵素製剤を効率良く得ることができることが明らかとなった。
また、塩析処理した濃縮大豆ホエーに濾過助剤として澱粉を添加することで濾過性が向上すること、また、添加する澱粉の種類として、コーンスターチ澱粉よりも馬鈴薯澱粉の方が単位時間当たりの処理量が多いことから、濾過助剤として優れていることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大豆ホエーを固形分25〜35%となるように濃縮する濃縮工程と、
前記濃縮工程にて得られた濃縮大豆ホエー100質量部に対して、塩類を15質量部以上添加する塩析工程と、
前記塩析工程にて生じた析出物を濾過により回収する濾過工程と、を有することを特徴とする大豆酵素製剤の製造方法。
【請求項2】
前記濾過工程にて使用する濾過材が濾布である請求項1に記載の大豆酵素製剤の製造方法。
【請求項3】
JIS−L1096に準拠して測定した前記濾布の通気度は、20〜100cc/cm/minである請求項2に記載の大豆酵素製剤の製造方法。
【請求項4】
前記塩析工程にて添加する塩類が、硫酸アンモニウムである請求項1〜3いずれかに記載の大豆酵素製剤の製造方法。
【請求項5】
前記濾過工程では、前記塩析工程を経た濃縮大豆ホエーに対して、濾過助剤として澱粉を添加する請求項1〜4いずれかに記載の大豆酵素製剤の製造方法。
【請求項6】
前記澱粉が馬鈴薯澱粉である請求項5に記載の大豆酵素製剤の製造方法。
【請求項7】
前記澱粉の添加量は、前記塩析工程を経た濃縮大豆ホエー100質量部に対して、1〜25質量部である請求項5又は6に記載の大豆酵素製剤の製造方法。

【公開番号】特開2012−228234(P2012−228234A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100190(P2011−100190)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【Fターム(参考)】