説明

大部分がグリカンで二触角性バイシアリル化され、フコース化されていない形態の遺伝子組み換えプロセス及び形質転換FVIIの組成物

【課題】本発明は、遺伝子組み換えプロセス及び形質転換FVII組成物に関し、組成物を医薬品として利用する一方、組成物の調製を行う方法を実現することを目的としている。
【解決手段】このため、組成物の各FVII分子はNグリコシル化部位に結合されたグリカン形態を有しており、組成物のすべてのFVII分子の中で、二触角性でバイシアリル化されフコース化されていない形態が過半数であることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明において、FVII(「因子VII」ともいう。)はビタミンK依存性糖蛋白質で、その活性化された形態(FVIIa)では、カルシウムと組織因子の存在下で因子X及び因子IXを活性化させる凝固プロセスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
FVIIは分子量が50kDa程度の406個の残基で構成される単一ペプチド鎖の形態で分泌される。
FVIIは4つの明確な構造領域を含んでおり、それはN末端γカルボキシル(Gla)領域、2つの『外皮成長因子(EGF)状』領域、そしてセリン・プロテアーゼ領域である。
FVIIからFVIIaへの活性化は結合Arg152−Ile153 (アルギニン152−イソロイシン153)の断裂で特徴付けられる。
FVIIaは単一のジスルフィド架橋(Cys135 −Cts262 )で結合された分子量が約20kDaの152個のアミノ酸の軽鎖と分子量が約30kDaの254個のアミノ酸の重鎖で構成されている。
【0003】
血漿FVIIa(FVIIa、p)はいくつかの翻訳後修飾を有しており、最初の10個のグルタミン酸はγカルボキシル化されており、Asp63 (アスパラギン酸)は部分的に水酸化されており、Ser52(セリン52)とSer60(セリン60)はO−グリコシル化されており、それぞれグルコース(キシロース)0−2 及びフコース部位を担持しており、Asn145 (アスパラギン145)及びAsn322 (アスパラギン322)はN−グリコシル化されており、主に二触角性のバイシアリル化された複合グリカン形態を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】欧州特許第0、346、241
【特許文献2】欧州特許第0、547、932
【特許文献3】欧州特許第0、200、421
【特許文献2】フランス特許第0604872
【特許文献3】米国特許第5、997、864
【特許文献3】米国特許第6、903、069
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来において、FVIIは因子VIII欠乏症(タイプA血友病)あるいは因子IX欠乏症を示す血友病(タイプB血友病)の患者、あるいはさらに凝血因子欠乏症、例えば先天性FVII欠乏症を示す患者の治療のために用いられる。
FVIIは脳血管損傷の治療のためにも使用が推奨される。
従って、注射用のFVIIa濃縮物を利用できるようにすることが必要である。
【0006】
FVIIa濃縮物を得るための最も古い方法は分留によって得られる血漿蛋白質から得られるFVIIaの精製によって行われていた。
【0007】
この目的のために、文献欧州特許第0、346、241は吸収後に得られるFVIIaを多量に含む画分を調製し、次に、FVIIとFVIIa、さらに因子IX(FIX)、X(FX)、そしてII(FII)などの蛋白質を含む血漿蛋白質の分留副産物、つまり、PPSB(P=プロトロンビンあるいはFVII、P=プロコンベルチンあるいはFVII、S=スチュアート因子あるいはFX、及びB=抗血友病因子BあるいはFIX)の予備溶出液の溶出について述べている。
このプロセスの欠陥は、得られるFVII が依然として微量の凝固因子を含んでいることである。
【0008】
同様に、文献欧州特許第0、547、932はビタミンK依存因子及びFVIIIをほとんど含んでいない高純度FVIIa濃縮物の製造プロセスを開示している。
このプロセスで得られるFVIIはその純度にもかかわらず、残留血栓形成性活性を示す。
【0009】
これらのプロセスの主な欠陥は、生成物の収量が非常に低いことである。
【0010】
さらに、血液提供者から提供される血漿の体積に限界がある。
【0011】
従って、1980年代以後、ヒト因子FVIIをコードするDNAが単離され(ハゲン(Hagen)ら、(1986);Proc. Natl. Acad. Sci. USA; Apr 83(8):2412−6)、哺乳動物BHK細胞(生まれたばかりのハムスターの腎臓)(文献欧州特許0、200、421)で発現された。
【0012】
本出願人によって出願されたフランス特許第0604872も形質転換された動物におけるFVIIaの製造について述べている。
【0013】
これらの製造方法で得られた蛋白質はウイルスあるいはその他の病原性作用因子による汚染の面でより安全なものである。
さらに、こうしたプロセスは一次配列、つまり、ヒトの一次配列と同じ異なったアミノ酸間の連鎖を有する蛋白質を得ることを可能にする。
しかしながら、ヒト血漿性FVIIは複雑な翻訳後修飾を有しており、最初の10個のグルタミン酸はγカルボキシル化されており、Asp63 (アスパラギン酸63)は部分的に水酸化されており、Ser52(セリン52)とSer60(セリン60)はO−グリコシル化されており、それぞれグルコース(キシロース)0−2 及びフコース部位を担持しており、Asn145 (アスパラギン145)及びAsn322 (アスパラギン322)はN−グリコシル化されており、主に二触角性のバイシアリル化された複合グリカン形態を有している。
特に、N−グリカン(アスパラギンに結合されたグリカン)の付加は蛋白質の正しい折り重なり、イン・ビトロ(in vitro、「細胞内で」と換言できる。)及びイン・ビボ(in vivo、「生体内で」と換言できる。)での安定性、生物活性、そして、生成された異質蛋白質の薬力学的特性(例えば、生物学的利用性)などに対して特に重要である。
従って、すべての翻訳後修飾の変差、あるいはその一部は前記蛋白質を一方では不活性化する危険性、他方では免疫源性にする危険性に曝すことになる。
【0014】
さて、現在の遺伝子組み換えプロセス及び形質転換FVIIの組成物は、ヒトの系とは違った系で発現されるので、ヒトの血漿性FVIIのグリコシル化とは異なったグリコシル化を示し、そのことがその遺伝子組み換え蛋白質に向けられた抗体を発生させ、従ってヒトの血漿から生成されたヒトFVIIのものより有効性を低下させてしまう可能性がある。
【0015】
従って、ヒトの血漿から精製されたヒトFVIIに近い機能的特性を有するFVIIaの治療的あるいは予防的組成物と、この蛋白質を大量に提供するというニーズを満たし得るその製造法を開発する必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
そこで、この発明は、上述不都合を除去するために、それぞれの分子はNグリコシル化部位に結合したグリカン形態を含んでいる遺伝子組み換えあるいは形質転換されたFVII(因子VII)の組成物で、前記組成物のFVIIのすべての分子のうちで、二触角性でバイシアリル化されておりフコース化されていないグリカン形態がその組成物のFVIIのNグリコシル化部位に結合したすべてのグリカン形態と比較して多数であることを特徴とする。
また、それぞれの分子はNグリコシル化部位に結合したグリカン形態を含んでいる遺伝子組み換えあるいは形質転換されたFVII(因子VII)の組成物で、前記組成物のFVIIのすべての分子の中で多数が二触角性のバイシリアル化されたグリカン形態であることを特徴とする組成物を調製するプロセスで、シアリルトランスフェラーゼの活性を可能にするために、シアル酸をシアル酸ドナー基質からFVIIに移行すると同時に、前記バイシアリル化された形態が増大して多数になるのに十分な時間と条件下で、適切な反応培養液内で部分的にシアリル化された形質転換された、あるいは遺伝子組み換えFVIIをシアル酸ドナー基質及びシアリルオランスフェラーゼと接触させるステップを含んでいる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
以上詳細に説明した如くこの発明によれば、大部分がグリカンで二触角性バイシアリル化され、フコース化されていない形態の遺伝子組み換えプロセスを実現するとともに、形質転換FVII組成物を提供し、ニーズを満たし得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、実施例1で得られるFVIIの組成物の抽出と精製のプロセスを示す図である。(実施例1)
【図2】図2は、N−グリコシル化部位を担持するペプチドの解析質量分光ESIを示す図である。(実施例3)
【図3】図3は、PNGase PによるFVIIの脱グリコシル化後のエレクトロフェログラムHPCE−LIFを示す図であり、上側はエレクトロフェログラム、FVIIa、p、中央は両方ともエレクトロフェログラム、FVII−Tg、下側はエレクトロフェログラム、FVIIa、rを示す。(実施例4)
【図4】図4は、NP−HPLCによるFVIIの特徴づけを示す図であり、上側はクロマトグラム:FVIIa、p、中央はクロマトグラム:FVII−Tg、下側はクロマトグラム:FVIIa、rを示す。(実施例5)
【図5】図5は、MALDI−TOFMSによる、FVII−Tgの過半数のグリカン形態に関する識別を示す図である。(実施例6)
【図6】図6は、MALDI−TOFMSによる、FVIIa、rの過半数のグリカン形態に関する識別を示す図である。(実施例6)
【図7】図7は、イン・ビトロ(in vitro、「細胞内で」と換言できる。)での再シアリル化のHPCE−LIF分析を示す図であり、上側は再シアリル化後のFVII−Tgのオリゴ糖マップ、下側は天然のFVII−Tgのオリゴ糖マップを示す。(実施例8)
【図8】図8は、二触角性のバイシアリル化されフコース化されていない形態(A2)とフコース化された形態(A2F)の割合の時間変化で示すFVUU−Tgのシアリル化の動態を示す図である。(実施例8)
【図9】図9は、ウサギの形質転換され再シアリル化されていないFVII(FVIITgNRS)と形質転換され再シアリル化されたFVII(FVIITgRS)との間の予備的な薬力学的比較研究の結果:除去の半対数曲線を示す図である。(実施例9)
【発明を実施するための形態】
【0019】
従って、本発明は遺伝子組み換えプロセス及び形質転換FVIIの組成物に関連しており、その組成物のFVIIの各分子はN−グリコシル化部位に結合したグリカン形態を含んでおり、前記組成物の因子VIIのすべての分子の中で、過半数は二触角性のバイシアリル化されフコース化はされていないグリカン形態で、すべてのグリカンはその組成物の因子VIIのN−グリコシル化部位に結合した形態であることを特徴としている。
【0020】
驚くべきことに、本出願人はその過半数が二触角性のバイシアリル化されフコース化はされていないグリカン形態である遺伝子組み換えプロセス及び形質転換FVIIの組成物が、バイシアリル化された形態の割合がより低い遺伝子組み換えプロセス及び形質転換FVIIと比較して、つまりその過半数が二触角性のモノシアリル化されフコース化はされていない形態である遺伝子組み換えあるいは形質転換FVIIの組成物と比較して、生物学的有用性が高く、クリアランスが少なく、そしてより高い安定性を示すことを発見した。
【0021】
従って、本発明のFVIIは、バイシアリル化された形態がより低い、つまり、過半数がモノシアリル化されている形態の遺伝子組み換えプロセス及び形質転換FVIIの組成物と比較して、患者に対する投与頻度はより低く、投与量もより少なくて済むと想定することができる。
【0022】
生物学的有用性とは投与されたFVIIのうち血液循環中に拡散され、特に出血箇所に到達する割合に関している。
【0023】
クリアランスとは完全に精製された理論的体積の画分を意味しており、一定の時間当たりそれ以上のFVIIが含まれないことを意味している。
言い換えると、これは一定の時間間隔の中で前記物質がまったく含まれない流体の仮定量に対応する。
【0024】
安定性とはその有効期間全体の間その化学的、物理的、微生物学的、及び生物薬学的属性を一定の限度以内に保つことができる能力を意味している。
【0025】
『二触角性のバイシアリル化されフコース化はされていない形態』とは、以下の形態を意味している。
【0026】
形態A2(二触角性のバイシアリル化されフコース化はされていない形態)
【0027】
【数1】

【0028】
これらのグリカン形態はアスパラギン145(Asn145)とアスパラギン322(Asn322)で構成されるN−グリコシル化部位に結合されている。
実際、本発明によるFVIIは、ヒトFVIIの場合と同様に、位置145と322の2つのN−グリコシル化部位と、位置52と60の2つのO−グリコシル化部位で構成されている。
1つのN−グリコシル化部位において、オリゴ糖鎖が1つのアスパラギン(N結合)に結合されている。
1つのO−グリコシル化部位において、オリゴ糖鎖はセリンに結合されている。
だから、本発明によるFVIIの各分子は2つのオリゴ糖N結合鎖で構成されている。
しかしながら、前記組成物のFVIIの分子は均一なグリコシル化は示さない。
つまり、すべてのN結合オリゴ糖鎖は同一ではない。
異なったグリカン形態の混合物である。
【0029】
実際、すべてのFVIIは、血漿性、遺伝子組み換えプロセス、及び形質転換のいずれであれ、FVIIのいくつかの蛋白質の混合物の形態で存在しており、これらのたちはそれらのグリコシル化と異なった名前で呼ばれているグリコ形態において違いを示す。
このグリコシル化は異なった細胞成分間のFVII蛋白質の移送に伴って細胞性オルガナイトによって行われる翻訳後修飾によるものである。
この生化学的修飾は蛋白質を非常に深く修飾するので、最終的な蛋白質は完全に構造化されてしまい、従って活性であり、生物によって良く受け入れられるようになっている。
この化学的修飾は蛋白質の活性の調整に関与し、さらに、その局所化にも関与している。
従って、FVIIの組成物全体において、さらにはその組成物のN結合オリゴ糖鎖全体において、そのFVII組成物内に存在している各グリカン形態と各糖の割合は定量とすることができる。
【0030】
O−グリコシル化は本願において、異なったグリカンの割合については考慮しない。
【0031】
『FVIIの組成物』とは、その分子全体だけがFVIIであり、好ましくは活性化されている場合の組成物を意味している。
【0032】
上記組成物のFVIIの各分子は、同じ一次配列を示すが、グリコシル化は分子ごとに異なっている。
従って、『FVIIの組成物』とはそのグリカン形態の含有量によって特徴付けられる同じ一次配列を有する分子の混合物のことを意味する。
本発明においては、『FVII』という表現と『FVIIの組成物』という表現とは同等である。
その結果、本発明においては、『FVII』とはFVIIの分子自体を意味することもあれば、上に述べたような特徴を有するFVII分子の混合物を意味する場合もある。
【0033】
本発明によるFVIIの組成物は主として二触角性の、バイシアリル化され、そしてフコース化されていないグリカン形態を含んでいるFVIIの組成物のことである。
これは、その組成物のすべてのN−結合オリゴ糖類のうちで、つまり、因子FVIIのNグリコシル化部位の結合しているすべてのグリカン形態のうちで、過半数が二触角性の、バイシアリル化され、そしてフコース化されていないグリカン形態であることを意味している。
【0034】
好適に、二触角性の、バイシアリル化され、そしてフコース化されていないグリカン形態の割合は30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%あるいは95%以上である。
特に好適なのは、この二触角性の、バイシアリル化され、そしてフコース化されていないグリカン形態の割合が45%以上の場合である。
さらに好適なのはこの二触角性の、バイシアリル化され、そしてフコース化されていないグリカン形態の割合が45%から65%の、さらに好ましくは50%から60%の間の範囲にある場合である。
【0035】
シアリル化された種の割合はHPCE−LIF(高性能毛細管電気泳動レーザー誘発蛍光)分析、あるいはNP−HPLC(通常相高性能液体クロマトグラフィ)を異なったグリカンに対応するピークの面積を測定するか、あるいは当業者に公知のいずれかの方法を用いた定量を合わせて行うことで測定することができる。
【0036】
本発明によるFVIIの組成物は、少数部分として二触角性の、モノシアリル化された、及び三触角性の、さらにはシアル酸を示さない中性形態を含んでいてもよい。
【0037】
『遺伝子組み換えされた、あるいは形質転換されたFVII』とは、細胞によってつくりだされ、どのDNAが遺伝子組み換えによって修飾され、FVIIの分子を発現すると同時に上に述べたようなグリコシル化の特徴と示すようになった遺伝子工学によって得られるすべてのFVIIを意味している。
【0038】
従って、本発明によるFVIIは細胞宿主内あるいは形質転換された動物の体内でFVIIをコードするDNA分子を転写、翻訳することによって得られる。
本発明によるこの遺伝子組み換えあるいは形質転換FVIIは生物系で蛋白質の発現を可能にする当業者に公知の標準的な技術によって得ることが出来る。
【0039】
より具体的には、『遺伝子組み換えVII』とは遺伝子組み換えによって得られ、培養された細胞株内で発現されたいずれかのFVIIを意味する。
例えば、以下の細胞株を挙げることができる。
BHK(ベビー・ハムスターの腎臓)及び具体的にはBHK tk−ts13 (CRL10314、 Waechter and Baserga、 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 79:1106−1110.1982)、CHO (ATCC CCL、61)、 COS−1(ATCC CRL 1650)、HEK293 (ATCC CRL 1573; Graham et al.、 J. Gen. Virol. 36:59−72、1977)、Rat Hep I (Rat hepatoma; ATCC CRL 1600)、Rat Hep II (Rat hepatoma; ATCC CRL 1548)、TCMK (ATCC CCL、139)、ヒト肺(ATCC HB 8065)、NCTC 1469 (ATCC CCL 9.1)及びDUKX細胞(CHO細胞株)(Urlaub and Chasin、 Pro. Natl. Acad. Sci. USA 77:4216−4220、1980)、3T3細胞、ナマルワ細胞、無血清培養に適合させられたBHK細胞(米国特許No.6、903、069)などである。
【0040】
さらに具体的には、『形質転換されたFVII』とは遺伝子組み換えで得られ、動物あるいは植物の生きた組織で発現されたFVIIを意味している。
【0041】
本発明によるバイシアリル化された形態の割合は、異なった方法で得ることが出来る。
【0042】
1つの具体的な実施の形態で、本発明によるFVIIは上に述べたようなグリコシル化の特徴、つまり、過半数が二触角性の、バイシアリル化されそしてフコース化されていないグリカン形態であるという特徴を有する微生物、あるいは植物又は動物の細胞において発現される。
【0043】
さらに別の1つの実施の形態で、本発明によるFVIIは主として二触角性の、バイシアリル化され、そしてフコース化されていないグリカン形態を示しているFVIIの組成物を獲得できない微生物、植物、あるいは動物において発現され、シアリル化は、その後で望ましいシアリル化が行われるように、つまり、二触角性のバイシアリル化された形態が過半数になって、三触角性の形態がトリシアリル化される脳に、1つ以上の酵素を用いてイン・ビトロ(in vitro、「細胞内で」と換言できる。)で実行される。
【0044】
例えば、望ましいシアリル化を実行できるようにするために、適切な条件下で。その好ましい属性の故に選択したFVIIの組成物上で、シアリルトランスフェラーゼをイン・ビトロ(in vitro、「細胞内で」と換言できる。)で作用させることができる。
従って、本発明によるFVIIの組成物は部分的にシアリル化されたFVIIの組成物(FVIIの開始組成物)上でシアリルトランスフェラーゼの作用で容易に得ることができる。
好適に、FVIIの開始組成物はその過半数がモノシアリル化されたグリカン形態を示す。
好適に、FVIIの開始組成物は、その過半数が二触角性ので、モノシアリル化されたフコース化されていないグリカン形態を示す。
シアリルトランスフェラーゼの作用は、モノシアリル化された形態に付加的にシアル酸を移入して、それらをバイシアリル化された形態に変えることができるようにする。
好適に、これらの二触角性のモノシアリル化された形態はFVIIの開始組成物内に40%以上の高い割合で存在しており、特に好適には50%、あるいは60%以上の割合で存在する。
好適に、前記組成物は、二触角性のモノシアリル化されたフコース化されていないグリカン形態の割合が、20%、あるいは30%、40%、さらには50%以上の高い割合を示す。
【0045】
好適に、FVIIの開始組成物のシアル酸の少なくとも一部はa2−6結合の存在を示す。
特に好適な場合、a2−6結合の存在を示すシアル酸の割合は60%より高く、さらに70%、80%、あるいは90%以上である。
特に、この割合は60%から90%の間の範囲である。
【0046】
好ましくは、FVIIの開始組成物のすべてのシアル酸がa2−6結合の存在を示す。
【0047】
1つの具体的な実施の形態で、FVIIの開始組成物が例えば50%以上、あるいはさらに60%以上と言うような高い割合でフコース化の割合を示す場合は、その組成物の脱フコース化を可能にする1つあるいは複数の酵素を用いて二触角性のバイシアリル化されフコース化されていない形態を得ることができる。
過半数を二触角性のバイシアリル化されフコース化されていないグリカン形態を得る必要がある場合、例えば、フコシダーゼの使用をあげることができる。
【0048】
特に好適な方法においては、FVIIの開始組成物はその免疫源性の低さを目安に選ばれる。
【0049】
好適に、上記開始物質はフランス特許第0604872に述べられているFVIIの組成物である。
なお、上記フランス特許の内容は本明細書に組み入れられるものとする。
【0050】
好適に、本発明によるFVIIはポリペプチドであり、そのペプチド配列は天然のヒトFVIIの配列、つまりFVIIに関して特別の問題を示さないヒトの体内に存在している配列と同様であってもよい。
そうした配列は、例えばフランス特許0、200、421に示されている配列1bによってコード化することができる。
【0051】
好適に、本発明によるFVIIの配列はSEQ ID No.1の配列である。
【0052】
さらに別の実施の形態で、本発明によるFVIIは天然のFVIIと比較して免疫源性がより高いものでない限り、天然のヒトFVIIの変種であってもよい。
この変種のペプチド配列は、天然のヒトFVIIの配列と少なくとも70%、そして好適には少なくとも80%か90%、そしてより好適には少なくとも99%の同一性を示し、そうした変種は天然のFVIIと実質的に同じ生物学的活性を有している。
【0053】
さらに、本発明によるFVIIはその蛋白質の生物学的活性が天然のヒトFVIIと比較して減少するように集束されたFVIIのいずれかの配列も意味している。
血栓症の治療あるいは予防のために用いられる遺伝子組み換えされた不活性化ヒトFVII:FFR−FVIIa(Holst et al.、 Eur. J. Vasc. ENdovasc. Surg.、 1998 Jun、15(6):515−520)を、例えば、その例として挙げることができる。
こうしたFVIIは1つ以上のアミノ酸が挿入されていたり、欠失されていたり、あるいは置換されていることによって天然のFVIIとは異なったアミノ酸配列を示すポリペプチドである。
【0054】
本発明によるFVIIの生物学的活性は、例えば、米国特許No.5、997、864に述べられるているように、FVII欠乏血漿及びトロンボプラスチンの使用によって血液凝固を誘発するFVIIの組成物の能力を測定することで定量することができる。
米国特許第5、997、864に述べられているテストにおいては、生物学的活性は比較対照サンプルと比較しての凝固にかかる時間によって表現され、血清1mlあたり1単位(1UのFVII活性)を含んでいる標準的なヒト血清(プール)と比較しての『FVII単位』に換算される。
【0055】
本発明によるFVIIの組成物は血漿FVIIのそれに近いグリコシル化の特徴を示す。実際、血漿FVII(あるいは血漿FVIIの組成物)の主要なNグリカン形態は二触角性のバイシリアル化された形態でもある。
【0056】
好適に、本発明による組成物のFVIIの二触角性のバイシリアル化された(フコース化された、あるいはされていない)形態の割合は30%か40%、あるいは50%より高い。
特に好適には、二触角性のバイシリアル化された形態の割合は60%、70%、80%、あるいは90%を上回っている。
【0057】
特に好適な場合、バイシリアル化された(フコース化された、及びフコース化されていない)形態の割合は50%から80%の間、あるいは60%から90%の間、あるいは好ましくは70%と85%の間の範囲である。
【0058】
好適には、本発明によるFVIIの組成物におけるフコースの割合は20%より高く、好適には20%から50%の範囲である。
この割合はその組成物のFVIIのすべてのグリカン形態に対して特製されるフコースの割合に対応している。
【0059】
この特徴は本発明によるFVIIの利点のひとつである。
実際、市販されている遺伝子組み換えFVIIでは100%のフコース化の割合を示すが、血漿FVIIでのフコース化の割合は16%程度である。
従って、本発明によるFVIIのフコース化は血漿FVIIのそれに近く、そのことは非感染性という面で本発明のFVIIに利点をもたらしている。
【0060】
好適に、本発明による因子VIIの組成物のシアル酸のすくなくとも一部はa2−6結合の存在を示す。
特に好適な場合、a2−6結合の存在を示すシアル酸の割合は60%より高く、あるいは70%、80%、あるいは90%より高い。
具体的には、この割合は60%から90%の間の範囲である。
【0061】
従って、本発明によるFVIIの組成物におけるa2−6結合の存在を示すシアル酸の割合はゼロではない。
これは、血漿FVIIには含まれてはいるが、a2−3結合の存在を示すシアル酸だけで構成されている遺伝子組み換えされた市販のFVIIと比較しての利点を示すものである。
【0062】
本発明の1つの特に好ましい実施の形態において、本発明によるFVIIの組成物のすべてのシアル酸はa2−6結合の存在を示唆している。
【0063】
特に好ましい場合、すべてのシアル酸がa2−6結合の存在を示し、つまり、すべてのシアル酸はa2−6結合によってガラクトースと結合しており、特に、FVIIのシアル酸の少なくとも90%はa2−6結合の存在を示唆している。
本発明によるFVIIの組成物はさらにa2−3結合の存在を示唆するシアル酸を含んでいる場合もある。
【0064】
FVII組成物のシアル酸がa2−6分岐の存在を示唆するという事実は、本発明によるFVIIの利点の1つである。
事実、市販の遺伝子組み換えFVIIのシアル酸はa2−3結合の存在を示唆するためである。
血漿FVIIはこれら2つの異性体の混合体である。
こうした血漿FVIIは例えば異性体の40%がa2−3結合の存在を示唆し、異性体の60%がa2−6結合の存在を示唆する。
しかしながら、後者の方がより多くのa2−6結合を含んでおり、このことは本発明のFVIIを血漿FVIIにより近づけている。
【0065】
さらに別の実施の形態で、本発明のFVIIの組成物のシアル酸の一部はa2−3結合の存在を示唆する。
【0066】
従って、本発明の特殊な実施の形態では、その組成物の遺伝子組み換えあるいは形質転換されたFVIIは、因子VIIのNグリコシル化部位に結合している形態とは違って、主として二触角性のバイシリアル化されフコース化されていないグリカン形態を示し、a2−6結合の存在を示唆するシアル酸の割合は90%を上回っている。
【0067】
本発明の特に好ましい実施の形態においては、その組成物の遺伝子組み換え、あるいは形質転換されたFVIIは、因子VIIのNグリコシル化された部位に結合したすべてのグリカン形態とは異なって、主として二触角性のバイシリアル化されフコース化はされていないグリカン形態を示し、a2−6結合の存在を示唆するシアル酸の割合は100%に等しい。
【0068】
本発明の特殊な実施の形態においては、その組成物の遺伝子組み換え、あるいは形質転換されたFVIIは、因子VIIのNグリコシル化された部位に結合したすべてのグリカン形態とは異なって、主として二触角性のバイシリアル化されフコース化はされていないグリカン形態を示し、FVIIの組成物におけるフコースの割合は20%から50%の範囲である。
【0069】
本発明の特殊な実施の形態において、上記組成物の遺伝子組み換え、あるいは形質転換されたFVIIは、因子VIIのNグリコシル化された部位に結合したすべてのグリカン形態とは異なって、主として二触角性のバイシリアル化されフコース化はされていないグリカン形態を示し、すべてのシアル酸がa2−6結合の存在を示唆し、そして、そのFVIIの組成物におけるフコースの割合は、20%から50%の範囲である。
【0070】
好適に、本発明によるFVIIの組成物はヒトでなく、形質転換された哺乳動物によって比較的容易につくりだすことができる。
【0071】
この実施の形態においては、従って、本発明によるFVIIの組成物は『形質転換されている』ものと考えることができる。
形質転換された哺乳動物とはヒト以外の哺乳動物において、外来性の蛋白質を発現するように遺伝子操作されたものを意味しており、例えば、ウサギ、ヤギ、マウス、ラット、仔ウシ、ウマ、ブタ、昆虫、ヒツジなどを意味している。
なお、これらは例示的なものであって、限定的な例ではない。
その外来性たちとはFVII、好ましくはヒトFVIIである。
ヒト以外の形質転換された哺乳動物は、FVIIに加えて、望ましいシリアル化を形質転換されたFVIIに付与するために外来性の酵素を発現することもできる。
この場合、上記の非ヒト形質転換性動物はFVIIをコードする遺伝子とシアリルトランスフェラーゼをコードする遺伝子を同時に発現することができる。
【0072】
本発明の特殊な実施の形態において、本発明による形質転換されたFVIIはそれら形質転換された哺乳動物の乳腺内で発現され、その母乳内でつくりだされる。
この場合、その形質転換遺伝子の発現はその動物の乳腺内でその形質転換された遺伝子を確実につくりださせるようにするプロモータによって、組織に依存した状態で実行される。
WAPプロモータ(乳清酸性蛋白質)、カゼイン・プロモータ、特にβ−カゼインあるいはa−カゼイン・プロモータ、β−乳酸グロブリン、a−乳酸アルブミン・プロモータなどを挙げることができるが、これらは例示的なものであって、限定的なものではない。
【0073】
好適に、本発明のFVIIの組成物は形質転換された雌ウサギによって簡単につくりだすことができ、その組成物はさらにイン・ビトロ(in vitro、「細胞内で」と換言できる。)でシアリル化され、その過半数は二触角性のバイシリアル化された形態である。
【0074】
このウサギは治療用蛋白質の生産には特に好適な種であるが、それはウサギがプリオンに対しては影響を受けにくく、特に公衆衛生上の重大な問題である伝染性の海綿状亜急性脳症の影響を受けないからである。
【0075】
さらに、ウサギとヒトの間の種のバリアも重要な意味を持っている。
逆に、ヒトと市販の遺伝子組み換えFVIIを産出するために使われるハムスターとの間の種の壁は、それほど重要な意味をもっていない。
【0076】
従って、ウサギにおけるFVIIの生産は、プリオン・タイプの従来にはない病原性因子を含む病原因子の伝播に対する安全性という面で好適である。
【0077】
本発明の1つの好ましい実施の形態で、本発明によるFVIIは形質転換された雌のウサギの乳腺でつくられる。
【0078】
形質転換されたほどの母乳への分泌を可能にする乳腺による問題の蛋白質の分泌は遺伝子組み換え蛋白質の組織に依存した態様での発現の制御を可能にする当業者に公知の技術である。
【0079】
この発現の組織制御はその動物の特定の組織に向けられた蛋白質発現を可能にする配列のおかげで実行される。
これらの配列とはプロモータ配列と信号ペプチド配列である。
【0080】
乳腺内で目的の蛋白質の発現を促進するプロモータの例としては、WAPプロモータ(乳清酸性蛋白質)、カゼイン・プロモータ、特にβ−カゼイン、a−カゼイン・プロモータ、β−乳酸グロブリン、a−乳酸アルブミン・プロモータなどを挙げることができるが、これらは発明を限定的するものではない。
特に好適な態様においては、雌ウサギの乳酸の乳腺における発現は、β−カゼイン・プロモータ制御の下で行われる。
【0081】
形質転換した動物の母乳内での遺伝子組み換え蛋白質を生産する方法は以下のステップを含むことができる。
ヒトFVIIをコード化し、母乳内に自然に分泌される蛋白質のプロモータの制御下にある合成DNA分子をヒト以外の哺乳動物の胚に組み込む。
この胚を次に同じ種の雌の体内に入れる。
この胚から得られた哺乳動物が成長したら、その哺乳動物の乳の分泌を起こさせて、その乳を回収する。
そうすると、その母乳は問題の形質転換されたFVIIを含んでいる。
【0082】
ヒト以外の雌の哺乳動物の母乳で形質転換された蛋白質をつくるプロセスの例が欧州特許0、264、166に述べられており、本発明のFVIIを生産するためにその教示を参照することができる。
【0083】
ヒト以外の雌の哺乳動物の母乳で蛋白質をつくるプロセスの別の例は欧州特許第0、527、063に述べられており、本発明のFVIIを生産するためにその教示を参照することができる。
【0084】
雌のウサギの乳腺でつくりだされたFVIIの組成物は、その因子VIIのシアル酸の少なくとも一部がa2−6結合の存在を示唆する。
【0085】
特に好ましい方法では、すべてのシアル酸がa2−6結合の存在を示唆し、FVIIのシアル酸の少なくとも90%がa2−6結合の存在を示唆する。
さらに、本発明によるFVIIの組成物はa2−3結合の存在を示唆するシアル酸を含んでいる場合もある。
【0086】
特に好適な態様では、a2−6結合の存在を示唆するシアル酸の割合は60%より高く、70%、80%、あるいは90%より高い場合もある。
具体的には、この割合は60%から90%の範囲である。
【0087】
この雌のウサギの体内で発現されたFVIIの組成物の二触角性のモノシリアル化されたグリカン形態の中で、大部分のグリカン形態はフコース化されていない。
好適に、これらの二触角性のモノシリアル化されフコース化されていないグリカン形態はこの組成物のFVIIにおいては20%を上回る割合で存在している。
好適に、この割合は25%を上回り、40%を上回る場合もある。
【0088】
本発明の1つの実施の形態で、本発明によるこの組成物のFVIIのフコース化の割合は、20%から50%の範囲である。
本発明のさらに別の実施の形態では、この割合は15%を下回る場合もある。
【0089】
雌のウサギから得られる形質転換されたFVIIはいくつかの翻訳後修飾を含んでおり、最初の9ないし10のN末端グルタミン酸はγ−カルボキシル化されており、Ser52(セリン52)とSer60(セリン60)はO−グリコシル化されており、グルコース(キシロース)0−2 とフコース部位をそれぞれ含んでおり、そして、Asn145 とAsn322 は主に二触角性のモノシリアル化されたグリカン複合形態によってグリコシル化されている。
【0090】
上に述べたような雌のウサギの乳腺でつくりだされるFVIIの組成物は フランス特許第06−04872に述べられており、この特許の採用は本明細書の教示に組み込まれる。
【0091】
形質転換された哺乳動物による母乳内でつくりだされるFVIIは当業者に公知の技術を用いることによってその母乳から精製することができる。
【0092】
例えば、米国特許第6、268、487に述べられているような問題の蛋白質の精製方法は以下のようなステップを含むことができる。
a)上記母乳を保留分と透過分を形成するのに十分な孔度を有する膜を通じて接線ろ過にかけて、内因性蛋白質を含む透過分を得るステップと、
b)その透過分をクロマトグラフィ装置にかけて内因性蛋白質を取り出すと同時に、溶出液を得るステップと、
c)上記流出液と保留分を組み合わせるステップと、
d)脂質、カゼイン小球からFVIIを回収して、FVIIが少なくとも75%まで回収されるまでステップa)からc)までを繰り返すステップ。
【0093】
形質転換された哺乳動物の母乳でつくられたFVIIを精製するための別の技術は本出願人が提出したフランス特許出願第06 04864に述べられており、この特許出願の内容は参照により本明細書に組み入れられる。
形質転換された動物の母乳に含まれているFVIIの抽出及び精製プロセス(プロセスA)は以下のステップで構成されている。
a)母乳からFVIIを抽出するステップ。この因子VIIは前記母乳のカルシウムの有機及び/又は無機塩あるいは錯体と結合しており、これをその母乳に可溶性の塩を付加することで得られたカルシウム化合物を沈殿させ、その陰イオンは前記不溶性カルシウム化合物を形成する能力によって選択され、こうして因子VIIを前記塩及び/又は錯体から放出させ、因子VIIが液相で存在させるようにするステップ、
b)カルシウム化合物の沈殿物から蛋白質を大量に含む液相を分離し、さらにその液相を脂質相と前記蛋白質を含む非脂質相とに分離するステップ、
c)前記非脂質相を所定の濃度のリン酸塩に基づく溶出緩衝液を用いて親和性クロマトグラフィにかけるステップ、
及び
d)ステップc)で得られた因子VIIの溶出物を弱塩基性タイプの陰イオン交換カラム上で、そのカラムに捕捉された因子VIIを連続溶出させるのに適した緩衝液を用いて2、3回クロマトグラフィにかけるステップ。
【0094】
実際、本出願人は、驚くべきことに、FVIIは乳清内で自然につくりだされた蛋白質のプロモータ、例えば、WAPプロモータあるいはβ−カゼイン・プロモータの制御下に置かれても、母乳のカルシウム・イオンと結合しやすく、従ってカゼイン小球と結合しやすい傾向がある。
【0095】
形質転換された哺乳動物の母乳でつくられたFVIIの精製の別の技術は本出願人によって出願されたフランス出願第06−11536に述べられており、この内容は参照により、本明細書に組み込まれている。
形質転換された動物の母乳に含まれているFVIIの抽出及び精製のプロセス(プロセスB)は以下のステップで構成されている。
a)前記母乳の上澄みを採取して脱脂するステップ、
b)前記蛋白質を含んでいる脱脂しスキミングされた画分を疎水性とイオン性の両方の正確を示す移植されたリガンドを用いてクロマトグラフィ基質にかけ、前記蛋白質がその基質上に捕捉されるようなpH条件で反応を行わせるステップ、
d)上記蛋白質を溶出させるステップ、
e)前記溶出された画分から母乳蛋白質を除去することによって溶出された画分を精製するステップと、そして
f)前記蛋白質を回収するステップ。
【0096】
FVIIの組成物が形質転換された雌のウサギによってつくりだされる場合、二触角性でバイシリアル化された形状が過半数にあるようにシアリル化の処理にかけられる。
【0097】
本発明の1つの具体的な実施の形態で、このシアリル化はシアリル−トランスフェラーゼ、例えば、a2、6−(N)−シアリル−トランスフェラーゼ(あるいはβ−D−ガラクトシル−β1、4−N−アセチル−β−D−グルコサミン−a2、6−シアリルトランスフェラーゼ)、あるいはGalベータ1、3GalNAcアルファ2、3−シアリルトランスフェラーゼ、あるいはGalベータ1、3(4)GlcNacアルファ2、3シアリルトランスフェラーゼ、あるいはGalNacアルファ−2、6−シアリルトランスフェラーゼIなどを用いて行われ、これらの酵素は市販されている。
【0098】
好ましくは、用いられるシアリルトランスフェラーゼはa2、6結合を介してシアル酸を転換させることができるシアリルトランスフェラーゼである。
実際、本発明によるFVIIの組成物はa2、6結合の存在を示唆するシアル酸を示すが、それはこの異性体が血漿性FVII内により多く存在するからである。
【0099】
このシアリル化は、例えば、シアル酸そのもの、あるいは1つか複数のシアル基を含みそしシアル酸基を放出しやすいいずれかの分子を用いて行うことができる。
【0100】
本発明の1つの実施の形態によれば、酵素がa2、6−(N)−シアリルトランスフェラーゼである場合、シアル酸をシアル酸ドナー基からFVIIに移すのに適した反応培養液で、基質がシチジン−5’−モノホスホ−N−アセチル−ノイラミン酸であれば、二触角性のバイシリアル化された形態が過半数になる。
この反応培養液は、例えば、モルフォルノ−3−プロパノスルホン酸、及び例えばTweenに基づく緩衝液であってもよい。
【0101】
本発明のさらに別の実施の形態によれば、この基質はシチジン−モノホスフェート(CMP)−シアル酸シンセターゼ、シアル酸、CTP(シスチジン・トリホスフェート)及びその反応が起こるのに十分な量の二価金属陽イオンを含んだ反応培養液内でも合成することができる。
この二価金属陽イオンは、例えば、カルシウム・イオン、亜鉛イオン、マグネシウム・イオン、クロム・イオン、銅イオン、鉄イオン、あるいはコバルト・イオンである。
【0102】
FVIIの組成物のシアリル化を実行するために用いられる方法が何であれ、この反応は常にバイシアリル化された形態が十分に増大して、それらが過半数になるような適切な条件化で十分な時間をかけて実行される。
情報のために述べるとすれば、その反応のための時間は、例えば少なくとも0.5時間、そして少なくとも5時間、あるいは7時間、8時間、9時間、さらには10時間の場合もある。
より好ましくは、培養は一昼夜をかけて行われる。
場合によっては、この反応は5−12時間かけて行われる。
【0103】
好適には、本発明によるFVIIの組成物は活性化されている(FVIIa)。
【0104】
この場合、組織因子(TF)との相互作用において、(活性化されていない)FVIIより25−100倍も高い凝集活性を示す場合がある。
FVIIの活性化は、イン・ビボ(in vivo、「生体内で」と換言できる。)では異なったプロテアーゼ(FIXa、 FXa、FVIIa)によってチモーゲンがジスルフィド架橋によって結合された2つの鎖に切断されることによって生じる。
FVIIaだけの場合は、酵素活性は非常に低いが、その共同因子との複合形態においては、FXとFIXを活性化することで、凝固プロセスを開始させる。
FVIIaは例えば循環性の抗体による血友病での止血に関与する凝固因子である。
特に好適な態様においては、本発明によるFVIIは完全に活性化されている。
好適には、本発明によるFVIIaはいくつかの翻訳後修飾を含んでおり、それは、最初の9個あるいは10個の末端グルタミン酸がγ−カルボキシル化されており、Asp63が部分的に水酸化されており、Ser52とSer60がO−グリコシル化されて、それぞれグルコース(キシロース)0−2 とフコースを担持しており、Asn145 とAsn322 はN−グリコシル化されていて、主として、複合的な二触角性のバイシリアル化されており、フコース化されていない形態を示す。
【0105】
FVIIの活性化は、例えば、イン・ビトロ(in vitro、「細胞内で」と換言できる。)で本発明のFVIIの精製を行うことによって実行されるプロセスからも起こり得る(実施例2参照)。
【0106】
従って、本発明によるFVIIaは分子量が約20kDaの152個のアミノ酸の軽鎖と分子量が約30kDaの254個のアミノ酸の重鎖で構成されており、これらの軽鎖と重鎖は単一のジスルフィド架橋(Cys135 −Cys262 )によって結合されている。
【0107】
従って、本発明によるFVIIは血漿性FVIIに近い活性及び構造を有する活性化されたFVIIである。
【0108】
FVIIaは組織因子(TF)との相互作用においては、FVIIと比較して、その凝固活性はFVIIと比較して25倍から100倍高い。
【0109】
本発明の1つの実施の形態で、FVIIは因子Xa、VIIa、IIa、IXa及びXIIaによってイン・ビトロ(in vitro、「細胞内で」と換言できる。)で活性化させることができる。
【0110】
本発明のFVIIはその精製プロセスでも活性化させることができる。
【0111】
本発明のさらに別の目的は医薬品として用いられる本発明のFVIIの組成物である。
【0112】
本発明の別の目的は、血友病患者の治療用の医薬品を調製するための、本発明による因子VIIの組成物の利用である。
【0113】
本発明の別の目的は、複数の血友病性傷害の治療のための医薬品を調製するための本発明による因子VIIの組成物の利用である。
【0114】
本発明のさらに別の目的は、抗凝固剤の過剰投与による出血を治療するための医薬品を調製するための本発明による因子VIIの組成物の利用である。
【0115】
本発明のさらに別の目的は、本発明による因子VIIを含む医薬品と賦形剤及び/又は薬学的に許容される基質である。
【0116】
本発明のさらに別の目的は、遺伝子組み換えあるいは形質転換された因子VIIの組成物を調製するためのプロセスであり、この組成物の因子VIIの各分子はN−グリコシル化部位に結合したグリカン形態で構成されており、前記組成物の因子VIIのすべての分子の中で、二触角性のバイシリアル化されたグリカン形態が過半数であり、さらにこのプロセスは、シアリルトランスフェラーゼを活性化させるのに適した反応培養液中で、シアル酸がシアル酸ドナー基質からFVIIに転換できるのに十分な時間、そしてその目的に即した条件の下で、そしてバイシアリル化された形態が十分に増大するようまで、上に述べたような部分的にシアリル化された形質転換されたあるいは遺伝子組み換えされた因子VIIの組成物をシアル酸ドナー基質及びシアリルトランスフェラーゼと接触させてシアリル化を行い、前記のバイシアリル化された形態が過半数になるようにするステップを含んでいる。
この反応を行うための条件は上に述べた通りであり、以下の実施例にも述べてある。
【0117】
『部分的にシアリル化された』とは、そのNに結合されたグリカン形態がすべてはバイシアリル化されておらず、一部がモノシアリル化されているFVIIの組成物を意味している。
好適に、これらの二触角性のモノシリアル化された形態は40%以上、特に好適な場合50%、あるいは60%以上の割合で存在している。
好適に、二触角性のモノシリアル化されフコース化されていないグリカン形態は20%を上回っており、さらには30%、40%、場合によっては50%以上である。
【0118】
好適に、シアリルトランスフェラーゼは、a2、6−(N)−シアリルトランスフェラーゼ(あるいはβ−D−ガラクトシル−β1、4−N−アセチル−β−D−グルコサミン−a2、6−シアリルトランスフェラーゼ)、あるいはGalベータ1、3GalNAcアルファ2、3−シアリルトランスフェラーゼ、あるいはGalベータ1、3(4)GlcNacアルファ2、3シアリルトランスフェラーゼ、あるいはGalNacアルファ−2、6−シアリルトランスフェラーゼIである。
【0119】
好適に、シアリルトランスフェラーゼはa2−6結合を解してシアル酸の形質転換を可能にするシアリルトランスフェラーゼである。
実際、本発明による組成物のFVIIはa2−6結合の存在を示唆するシアル酸を示すFVIIであることは好適である。
というのは、この異性体は血漿性FVII内ではより多く存在しているからである。
【0120】
このシアリル化はいずれのシアル酸ドナー基質を用いて行っても良い。
【0121】
1つの実施の形態によれば、酵素がa2−6結−(N)−シアリルトランスフェラーゼである場合、基質はシチジン−5’−モノホスホ−N−アセチルノイラミン酸であり、シアル酸をシアル酸ドナー基からFVIIへの転換を可能にするのに適した反応培養液内で、二触角性のバイシアリル化形態が過半数になる。
【0122】
反応培養液は生物学的に受け入れ許容されるTween(登録商標)80あるいはTriton(登録商標)X−100、あるいはそれらの混合物で濃度が0.01%から0.2%の範囲のもの、あるいは2価の金属陽イオン、好ましくは、例えばCa2+、Mn2+、Mg2+、またはCo2+、Ca2+などで、濃度は5mMから10mMの範囲のものであってもよい。
この反応培養液はさらに、カコジル酸ナトリウム、モルホリノ−3−プロパンスルホン酸、Tris及び塩酸など、その培養液のpHを招請するための1種類あるいは複数の種類のイオン力調整剤を、40mMから60mMの範囲で含んでいても良い。
pH値は通常6から7.5の範囲である。この反応培養液はさらにBSA(仔ウシ血清アルブミン)を0.05から0.15mg/mlの範囲で含んでいてもよい。
【0123】
本発明のさらに別の実施の形態によれば、上記基質はこの培養液内にCMP−シアル酸シンセターゼ、シアル酸、CTP(シチジン・トリホスターゼ)、及び十分な量の上に述べたような2価金属陽イオンを導入することによって合成することができる。
【0124】
FVIIの組成物のシアリル化の方法がどのようなものであれ、この反応は常に、上にも述べたように、バイシリアル化された形態がかなり増大してそれらが過半数になるのに十分な時間とそれに適した条件の下で行われる。
【0125】
このプロセスにおいて固定化された酵素が用いられる場合、反応時間は好ましくは0.5から3時間の間、温度は摂氏4度から摂氏37度の間、より好ましくは摂氏4度から摂氏20度の間である。
【0126】
このプロセスがバッチ反応で行われる場合、反応時間は1−9時間、好ましくは1−6時間の範囲であり、温度は摂氏4度〜摂氏37度、好ましくは摂氏4度〜摂氏20度の範囲であることが好適である。
【0127】
好ましくは、本発明のプロセスは部分的にシアリル化された形質転換あるいは遺伝子組み換えされた因子VIIの生物学的使い捨て性を改善することを目的としたプロセスである。
この生物学的使い捨て性の改善は、上にも述べたように、その組成物をシアル酸ドナー基質及びシアリルトランスフェラーゼと接触させることによって得られる。
【0128】
『生物学的使い捨て性の改善』は、FVIIの組成物の生物学的使い捨て性をそのシアリル化が修飾されていない同じFVIIの組成物と比較して、少なくとも5%、少なくとも10%、あるいは好適には少なくとも30%か50%、そして、好ましくは80%から90%の増大を意味している。
【0129】
さらに別の実施の形態で、シアリル化ステップの前に、ガラクトース化のステップが実行される。
このステップはガラクトースが欠乏している形態、つまり、準ガラクトース化された、およびモノガラクトース化されたFVII形態にガラクトースを移入することを目的としている。
ガラクトースはGlcNAcに固定され、後のシアリル化ステップでシアル酸残基を固定しやすくなる。
このガラクトース化ステップは当業者に公知のUDP−Galウリジン(5’−ジホスホガラクトース)を含む反応培養液内でガラクトシル−トランスフェラーゼを用いて行うことができる。
【0130】
好適に、部分的にシアリル化されたFVII組成物の過半数のグリカン形態は複合的な、二触角性のモノシアリル化されたタイプである。
そうしたグリカン形態を以下に示す。
【0131】
【数2】

【0132】
本発明の1つの特殊な実施の形態で、部分的にシアリル化されたFVIIの組成物は二触角性でシアリル化されていない(フコース化された、あるいはフコース化されていない)、三触覚性でシアリル化されていない(フコース化された、あるいはフコース化されていない)、そしてバイシアリル化された(フコース化された、あるいはフコース化されていない)複合形態も含んでいる。
【0133】
好適に、前記の部分的にシアリル化されたFVIIの組成物の二触角性でモノシアリル化されたグリカン形態のなかで、過半数のグリカン形態がフコース化されていない。
【0134】
好適に、部分的にシアリル化されたFVIIの組成物は、前にも述べたように一部のa2、6結合の存在を示唆するシアル酸の一部を少なくとも示す。
【0135】
好ましくは、このプロセスは、さらに、形質転換された雌のウサギによって部分的にシアリル化された形質転換FVIIの組成物をつくりだすステップを含んでいる。
このステップは上に述べたように実行される。
このステップはガラクトース化ステップの前に行っても良い。
【0136】
好適に、部分的にシアリル化されたFVIIの組成物のFVIIは活性化されている。
【0137】
本発明によるプロセスを用いると、前記組成物の因子VIIのすべての分子のうちで、二触角性でバイシアリル化された形態が過半数になる。
【0138】
好適に、シアル酸ドナー基はシチジン−5’−モノホスホ−N−アセチルノイラミン酸であり、シアリルトランスフェラーゼはa2、6−(N)−シアリル−トランスフェラーゼである。
【0139】
部分的にシアリル化されたFVIIのそうした組成物は、形質転換された雌のウサギの乳腺でつくられた形質転換FVIIの組成物であってよい。
【0140】
特に好適な場合、部分的にシリアル化されたFVIIの組成物はフランス特許第06−04872に述べられている組成物である。
なお、このフランス特許第06−04872の内容は本明細書に組み入れられるべきものとする。
【0141】
本発明のさらなる態様及び利点について以下の実施例で述べるが、これらは例示のためにのみ説明されるものであって、本発明の範囲の限定は意図していない。
【0142】
略語の説明
FVII−Tg=FVIIa−Tg:本発明による活性化された形質転換されたFVII
VFII−r=VFIIa−r:市販されている遺伝子組み換え活性化FVII
FVII−p=FVIIa−p:活性化された血漿性FVII、つまり、ヒトの血漿から精製されたFVII
MALDI−TOF:基質支援レーザ脱着イオン化−飛行時間
HPCE−LIF:高性能毛細管電気泳動−レーザー誘発蛍光
ESI−MS:質量分光−イオン化『電気スプレイ』
LC−ESIMS:液体クロマトグラフィ−質量分光−イオン化『電気スプレイ』
NP−HPLC:正常相高性能液体クロマトグラフィ
PNgase F:ペプチド: N−グリコシダーゼ F
LC−MS:液体クロマトグラフィ−質量分光
【実施例1】
【0143】
実施例1:母乳でヒトFVIIの蛋白質をつくりだす形質転換さえれた雌ウサギの産出
【0144】
先ず、WAP遺伝子(Devinoy et al.、Nuclei Acids Research、 vol.16、no.16、25 aout 1988、 p.8180参照)の配列をベクターp−poly III−I(Lath et al.、Gene(1987)57、193−201参照)のポリリンカーに導入することでプラスミドp1をつくりだす。
【0145】
このプラスミドp1から得られたプラスミドp2はウサギのWAP遺伝子のプロモータとヒトFVIIの遺伝子を含んでいる。
【0146】
この形質転換された雌のウサギは微量注射という古典的な技術によって得られたものであった(Brinster et al.、 Proc. natl. Acad. Sci. USA(1985)82、4438−4442参照)。
この遺伝子を500コピー含んでいる1−2plをウサギの胚の雄性前核に注入した。
遺伝子操作された遺伝子を含むこのベクターのフラグメントを微量注射した。
その後、これらの胚をホルモン的に調整した養子関係の雌の卵管内に移した。
これらの遺伝子操作された胚の約10%が若いウサギを出産し、さらにこれら遺伝子操作された胚の2−5%が形質転換された若いウサギを出産した。
形質転換遺伝子の存在はウサギの尾から抽出されたDNAからのサザーンの移入の技術で明らかにされた。
これらの動物の血液と母乳内でのFVIIの濃度を特殊な放射免疫学的アッセイで評価した。
【0147】
FVIIの生物学的活性は細胞培養液かウサギ乳房外植片培養液に母乳を加えることで評価した。
【実施例2】
【0148】
実施例2:獲得されたFVIIの抽出と精製
【0149】
a)FVIIの抽出
【0150】
9体積分の0.25Mリン酸ナトリウム、pH8.2で希釈した生の脱脂していない母乳500mlを用いた。
室温で30分攪拌した後、水性のFVIIの含量を増やした相を摂氏15度の温度で1時間、10000gで遠心分離にかける。
約835mlの6ポット分が必要となる。
【0151】
遠心分離後、3つの相が存在する。
それは、表面の資質相(クリーム)、水性非脂質でFVIIを多量に含んだ相(過半数の相)、そして、残りの白色の固体相(不溶性カゼイン及びカルシウム化合物の沈殿物)の3相である。
【0152】
水性でFVIIを多量に含んだ非脂質相は蠕動ポンプで上記クリーム相の上側に回収される。
このクリーム相は別個に回収される。
固体相(沈殿物)は廃棄される。
【0153】
しかしながら、非脂質水性相は依然として非常に少ない量ではあるが脂質を含んでいるので、一連のフィルター(Pall SLK7002U010ZP)−孔サイズが1μmのグラス・ファイバー・プレフィルター−Pall SLK7002NXP−孔サイズが0.45myumuのNylon 66)を通じてろ過される。
このろ過ステップが終了した段階で、脂質相はこのろ過配列を通過して、母乳は母乳内に含まれる顆粒が完全に除去されるので、ろ過液は透明である。
【0154】
このろ過された非脂質相は次に限外ろ過膜(Millipore Biomax 50kDa−0.1m)にかけられて、クロマトグラフィ段階にかけることができるようになる。
分子量が約50kDaのFVIIは母乳に含まれている塩類、糖類、そしてペプチドとは違ってこの膜を透過しない。
初回に、上記溶液(約5000ml)が500mlに濃縮され、次に、限外ろ過によって体積を一定に保ちながら透析を行うことによって、電解汁を除去し、クロマトグラフィ・ステップのための生物素材を調製する。
この透析緩衝液は0.025Mリン酸ナトリウムで、pHは8.2である。
【0155】
このFVIIを含む水性非脂質相はFVII−Tgの含量を増やした乳清に順化させることができる。
この製剤はそのプロセスを続ける前に摂氏−30度の温度で保存される。
【0156】
このステップのFVII回収の総収量は90%と非常に満足の行くものである(リン酸による91%抽出+99%透析/濃度)。
【0157】
この結果から得られるFVIIを含む非支出水性相は完全に透明で、クロマトグラフィ・スタッフで使用することができる。
【0158】
この段階で、約93、000IUのFVII−Tgが抽出される。
この製剤のFVIIの純度は0.2%程度である。
【0159】
b)FVIIの精製
【0160】
1.ヒドロキシアパタイト・ゲル上でのクロマトグラフィ(親和性クロマトグラフィ)
【0161】
Amicon90(直径9cm−断面64cm2 )カラムにBioRad Ceramic ヒドロキシアパタイト・ゲル・タイプI(CHT−I)を充填する。
【0162】
このゲルを0.025Mリン酸ナトリウムと0.04塩化ナトリウムの混合物で構成される水性緩衝液A、pH8.0で均衡化させる。
この製剤全体を摂氏−30度で保存して、氷が完全に溶けるまで摂氏37度の水槽内で解凍し、次に、上記ゲル上に注入する(線形流量100cm/h、つまり105ml/分)。
捕捉されない画分は基線に戻るまで(RBL)、0.25Mリン酸ナトリウムと0.04塩化ナトリウムの混合物、pH8.2に通過させて廃棄される。
【0163】
FVII−Tgを含んでいる画分の溶出は0.025Mリン酸ナトリウム及び0.4M塩化ナトリウムを含む緩衝液B、pH8.0を用いて実行される。
溶出された画分は、基線回帰まで回収される。
これらの化合物はλ=280nmでの吸着測定によって検出する。
【0164】
このクロマトグラフィを行うことで、FVII−Tgの90%以上が回収でき、さらに乳清蛋白質の95%以上は除去できる。
比活性(S.A)は25倍に増幅される。
この段階で、純度4%のFVII−Tgが約85000IUが入手できる。
【0165】
2.100kDa接線ろ過及び50kDa濃縮/透析
【0166】
前のステップから得られた溶出物全体を100kDa限外ろ過膜(Pall OMEGA SC 100K−0.1m2 )を通じてろ過する。
FVIIはこの100kDa膜でろ過され、分子量が100kDa以上の蛋白質はろ過されない。
【0167】
ろ過された画分はさらに約500mlの体積まで濃縮され、その後、上に述べたような50kDa限外ろ過フィルターで透析される。
透析用緩衝液は0.15M塩化ナトリウムである。
【0168】
プロセスのこの段階で、生成物は摂氏−30度の温度で保存され、その後イオン交換クロマトグラフィにかけられる。
【0169】
分子量が100kDaより大きな蛋白質、特に酵素前駆体において減少が認められた。
100kDa膜での処理は約50%の蛋白質の捕捉を可能にし、そのうちのFVII−Tgの95%に相当する高分子量蛋白質、つまり82、000IUのFVII−Tgがろ過される。
【0170】
この処理によって、以下の段階での蛋白質分解性加水分解が起きる可能性を減らすことができる。
【0171】
3.Q−SefaroseRFFゲル(ステップD)でのクロマトグラフィ−プロセスA)
【0172】
イオン交換ゲルQ−Sefarose(登録商標)Fast Flow (QSFF)上で行われるこれら3つの連続的なクロマトグラフィは、活性成分を精製し、をFVII(FVIIa)に活性化させ、最後に、FVIIの組成物を濃縮形成するために行われる。
これらの化合物は波長λ=280nmでの吸収測定で検出される。
【0173】
3.1 Q−SefaroseRFFゲルによるステップ1−『高カルシウム』の溶出
【0174】
2.6cm直径(断面積:5.3cm2 )カラムにQ−Sefarose(登録商標)Fast Flow (Ge Healthcare社)ゲルを100ml充填する。
【0175】
このゲルを0.05M Tris、pH7.5で均衡化させる。
【0176】
摂氏−30度で保存されている画分全体を摂氏37度の水槽で氷が完全になくなるまで解凍する。
この画分をゲルに注入する前に(流量:13ml/分、つかり150cm/時間の線形流量に相当)、均衡化緩衝液で1/2体積パーセントまで希釈し、その後、保持されなかった画分は基線回帰まで緩衝液を通過させて廃棄する。
【0177】
FVIIの含有量が低い最初の蛋白質画分は0.05M Tris及び0.15M塩化ナトリウムで構成される緩衝液(pH:7.5)を用いて、9ml/分(100cm/時間の線形流量)で溶出させ、その後、廃棄する。
【0178】
二回目のFVII含量が増大した画分は0.05M Tris及び0.05M塩化ナトリウム、さらに0.05M塩化カルシウムで構成される緩衝液(pH:7.5)で、9ml/分(100cm/時間の線形流量)で溶出させる。
【0179】
この二回目の画分をすでに上に述べた50kDa限外ろ過フィルターで透析にかける。
この透析用緩衝液は0.15M塩化ナトリウムである。
この画分は、二回目のイオン交換クロマトグラフィにかけられる前に摂氏+4度の温度で保存される。
【0180】
このステップによって、FVIIの73%(つまり、60000IUのFVII−Tg)の回収が可能になると同時に、付随する蛋白質の80%の除去が可能になる。
これによって、FVIIがFVIIaに活性化される。
【0181】
3.2 Q−Sefarose(登録商標)FFゲルによるステップ2−『低カルシウム』の溶出
【0182】
2.5cm直径(断面積:4.9cm2 )カラムにQ−Sefarose(登録商標)Fast Flow (Ge Healthcare社)ゲルを30ml充填する。
【0183】
このゲルを0.05M Tris、pH7.5で均衡化させる。
【0184】
摂氏+4度で保存されている前に溶出された画分(二回目の画分)をゲルに注入する前に(流量:9ml/分、つまり100cm/時間の線形流量に相当)、希釈する。
【0185】
二回目の画分を注入した後、捕捉されていない画分を除去するために、そのゲルを均衡化緩衝液で基線回帰まで洗浄する。
【0186】
非常に高純度のFVIIを含む画分を0.05M Tris、0.05M塩化ナトリウム、及び0.005塩化カルシウムの混合液(pH7.5)で溶出させる。
【0187】
約23、000IU、つまり12mgのFVII−Tgが精製される。
【0188】
このステップによって付随する蛋白質(雌ウサギ母乳蛋白質)の95%以上が除去される。
【0189】
純度が90%以上この溶出物は、ヒトFVIIの天然の分子にほぼ近い構造的及び機能的特徴を示す。
この溶出物を三回目のイオン交換クロマトトグラフィで精製し、調製する。
【0190】
3.3 Q−Sefarose(登録商標)FFゲルによるステップ3−『ナトリウム』の溶出
【0191】
2.5cm直径(断面積:4.9cm2 )カラムにQ−Sefarose(登録商標)Fast Flow(Ge Healthcare社)ゲルを10ml充填する。
【0192】
このゲルを緩衝液である0.05M Tris、pH7.5で均衡化させる。
【0193】
この画分を注入した後、捕捉されていない画分を除去するために、均衡化緩衝液を用いて、このゲルを基線回帰まで洗浄する。
【0194】
前のステップから得られた溶出・精製された画分を注入用純水(PWI)で5回希釈してから、ゲルに注入する(流量:4.5ml/分、50cm/時間の線形流量に相当)。
【0195】
その後、FVII−Tgは0.02MのTris及び0.28M塩化ナトリウムで構成される緩衝液(pH7.0)を用いて流量3ml/分(36cm/時間の線形流量に相当)で溶出させる。
【0196】
FVII−Tgの組成物が純度95%以上の濃度で調製された。
この生成物は静脈注射に用いることができる。
このプロセスの累積収量は22%であり、従って、処理される母乳1リットルあたり少なくとも20mgのFVIIの精製が可能である。
【0197】
以下の表1は精製されたFVIIの組成物を提供するための本発明の好ましい実施の形態によるプロセス・ステップの概要を示すものであり、それぞれのステップであらわれる異なった収量、純度、及び比活性を示している。
【0198】
【表1】

【0199】
その後、FVII−Tgは以下の実施例に述べられているような、さまざまな構造分析にかけられる。
【実施例3】
【0200】
実施例3:グリコシル化部位及びグリコペプチドのMs−ESIによる特徴づけ
【0201】
FVII−Tg、FVIIa、p(血漿性FVII)及びFVIIa、rのNグリコシル化部位をLC−ESIMS(/MS)で識別し、MALDI−TOFMSで確認し、そしてそれぞれの部位に存在する種々のグリカンの代表的な特性をLC−ESIMSで判定した。
【0202】
図2は両方のAsnグリコシル化残基を含むグリコペプチドの解析ESIスペクトルを示している。
グリコシル化部位の局所化はMALDI−TOF(/TOF)及びエドマン配列決定法によって確認した。
【0203】
それぞれAsn145 及びAsn322 のNグリコシル化箇所を示すFVIIa、pのグリコペプチド[D123 −R152 ]と[K31.6−R353 ]の質量スペクトル分析は、二触角性のバイシアリル化されフコース化されていない(A2)(Asn145 を含むグリコペプチドの観察された質量:5563.8Da)及びフコース化された形態(A2F)(Asn145 グリコペプチドの観察された質量:5709.8Da)の存在を示す。
Asn145 に関しても、三触角性のトリシアリル化されフコース化されていない形態(A3)(観察6220.0Da)とフコース化された形態(A3F)(観察された質量:6366.1 Da)の存在に注目。
【0204】
FVIIa、rの場合、Asn145 はA2F、A1Fタイプ及び”A1F”のグリカンで修飾されており、これは他の触角のGalNAc末端位置のモノシアリル化形態に対応している。
グリカンA3F(三触角性、トリシアリル化されフコース化された形態)の存在も認められる。
【0205】
FVII−Tgの場合、それぞれNグリコシル化部位Asn145 とAsn322 を示すグリコペプチド[D123 −R152 ]及び[K31.6−R353 ]の質量スペクトル分析は、二触角性のバイシアリル化されフコース化されていない(A2)(Asn145 を含むグリコペプチドの観察された質量:5563.8Da)とフコース化された形態(A2F)(観察された質量:5709.7 Da)の存在を示している。
Asn145 の過半数を示すオリゴ糖の存在は、二触角性のモノシアリル化されフコース化されていない形態(A1)(観察された質量:5272.3Da)及びフコース化された形態(A1F)(観察された質量:5418.7Da)の存在を示す。
三触角性形態はあまり示されていない。
なお、他方の触角の末端位置にGalNAcを有するモノシアリル化された形態は存在していない。
【0206】
Asn322 の過半数のグリコ形態に関連して、同じグリカン構造が異なった割合で観察される。
図1はAsn145 形態の場合と同様に成熟度が低い形態(二触角性及びシアリル化の程度がより低い形態)の存在を示している。
例えば、血漿生成物の場合、Asn322 ではAsn145 と比較して、三触角性形態はより低い割合で示され、FVIIa、r及びFVII−Tgでは存在していない。
さらに、Asn145 及び322 は100%の割合でグリコシル化されていることも注目すべきである。
準定量的だけではあるが、これらの結果はHPCE−LIF及びNP−HPLCによって得られる提供的データと一致している。
【実施例4】
【0207】
実施例4: HPCE−LIFによるNグリカンの定量
【0208】
N結合オリゴ糖の同定と定量はPNGase Fによる脱グリコシル化の後に、HPCE−LIFによって行われる。
FVIIのサンプルはそれぞれの単離された構造の同定と識別が確実に行えるような方法で、エグゾゴルコキシダーゼ(シアリダーゼ(酵素/基質比:1mIU/10μg)、ガラクトシダーゼ、ヘキシナカーゼ(キット Prozyme)、フコーシダーゼ(E/S比率:1mUI/10μg)を用いて処理される。
得られたグリカンをフルオロクロムでラベルし、その質量と電荷に基づいて分離する。
2つの基準(グルコースのホモポリマー、オリゴ糖性)に基づいて、それらの構造を同定することができる。
定量は定量されたオリゴ糖全体に対する各ピークの減少した割合(%)を積分することで行われる。
【0209】
毛管電気泳動装置であるProteomeLab PA800 (Backman Coulter)を用い、その毛管はN−CHO『被覆』(Backman−Coulter)で、その内径は50cmx50μmである。
分離用緩衝液『ゲル緩衝液N』(Backman Coulter)を用いる。
移行は25kVの電圧を、20分間、摂氏20度の温度でかけることによって行われる。
検出は励起波長λ488nmと励起波長λ520nmで行われる。
【0210】
フコース化の割合は、シアリダーゼ、ガラクトシダーゼ、及びヘキシナカーゼを同時に用いて脱グルコース化の後、『コア』とフコース化された『コア』に対応するピークの表面間の関係によって計算される。
【0211】
FVIIa、pのグリカンは過半数が二触角性でバイシリアル化されておりフコース化されていない(A2)タイプのものと、二触角性でバイシリアル化されておりフコース化されている(A2F)タイプのものである。FVII−Tgのグリカンの特徴は二触角性でモノシリアル化されておりフコース化ているものとされていないもの(A1F、A1)と、二触角性でバイシリアル化されておりフコース化もの、あるいはフコース化されていないもの(A2F、A2)形態の存在を示唆している。
その分布はこれらの種々の形態間で異なっている。
【0212】
FVIIa、rは二触角性でシアリル化され、フコース化されたグリカン形態で、過半数はA2F形態で二触角性のモノシリアル化されフコース化(A1F)形態である。
これらの構造の場合に通常観察される移行時間と比較して、A2F及びA1F形態に関しては種々の移行時間が認められる。
【0213】
FVII−Tgの両方のバッチ(A及びB)のグリカンの特徴(図3、中央の両方の電気泳動図参照)が二触角性のモノシリアル化されフコース化された形態とフコース化されていない形態(A1FとA1)、及び二触角性のバイシリアル化されフコース化された形態とフコース化されていない形態(A2FとA2)を示している。
【0214】
【表2】

【0215】
種々のグリカン形態の定量的分析(表2)は、FVIIa、pの場合、シアリル化形態が優勢で、バイシリアル化されたグリカン(A2及びA2F)が51%、そして、三触角性のシリアル化されフコース化されていない形態とフコース化された形態(それぞれG3とG3F)が30%である(結果は示さず)。
FVII−Tg(バッチA及びB)はFVIIa、pと比較するとシアリル化の程度が低く、二触角性のバイシリアル化された形態が35%、そして三触角性のシリアル化された形態はわずか6%であった(結果は示さず)。
主要な形態はモノシリアル化された形態で、その構造の50%がAとA1Fである。
FVIIa、rもFVIIa、pと比較するとシリアル化の程度が低く、A2F構造が45%、そして三触角性でシリアル化さたグリカンはわずか6%であった(結果は示さず)。FVIIa、rのフコース化されていない形態がないことに注意。
【0216】
【表3】

【0217】
これらの結果はFVIIa、pのフコース化の割合は低く(16%)、FVII−Tgのフコース化の割合は24〜42%、そしてFVIIa、rのフコース化の比率は100%であることを示している。
【実施例5】
【0218】
実施例5:NP−HPLCによるNグリカンの定量
【0219】
FVIIa、p、FVIIa、r及びFVII−Tgの定性及び定量分析をNP−HPLCで行った(図4参照)。
蛋白質を脱塩、乾燥した後、この蛋白質を変性させ、当業者に公知の方法を用いて還元した。
その後、これらのグリカンを酵素反応(エンドグリコシダーゼ PNGase F)にかけて、エタノールで沈殿させて精製した。
このようにして得られたグリカンをフルオロフォア、2−アミノベンズアミド(2−AB)でラベルする。
ラベルされたグリカンその疎水性に基づいて、4.6x250mmのAmide‐80カラム(Tosohaas)を用いて30℃の温度に保って正常相HPLCクロマトグラフィによって分離する。
【0220】
サンプルを注入する前に、このカラムを80%アセトニトリルの緩衝液で均衡化させる。
50mMギ酸アンモニウム、pH4.45の増大勾配で、140分間以上の時間をかけて溶出させる。
検出は波長330nmと波長420nmで蛍光測定で行う。
【0221】
FVIIa、pのクロマトグラフィー的特徴は、グリカンの過半数が二触角性のバイシリアル化されたタイプ(A2)で、その割合は39%であることを示している。
さらに、より少ない量ではあるが、二触角性でバイシアリル化されフコース化されたタイプ(A2F)、モノシアリル化されたタイプ(A1)、トリシアリル化されフコース化されたタイプとフコース化されていない形態(A3F及びA3)が認められる。
【0222】
FVII−Tgに関して行われるNP−HPLCはタイプA1のオリゴ糖の存在を確認し、その割合は27%である。
A1F、A2及びA2F形態の割合はより低く、三触角性の形態は微量である。
このことはFVIIa、pと因子FVII−Tg(バッチB)との間の差、シリアル化の程度がより低いことを示している。
【0223】
同じ分析を因子FVIIa、rで行うと、主な形態がタイプA2Fで、その割合が30%であることを示す。
形態A1Fの量はより少なく、三触角性の形態は微量である。
FVIIa、rの分析もA1F形態とA2F形態の保持時間の間に重要な時間差があることを示しており、これらの形態がFVIIa、p及びFVII−Tgに存在しているものと違っていることを示している。
【0224】
これらの結果はHPCE−LIFで得られた結果と一致している。
【実施例6】
【0225】
実施例6:MALDI−TOFMSによる同定
【0226】
質量分光分析MALDI−TOF MS (基質支援レーザー脱着/イオン化飛行時間質量分光分析)はペプチド、蛋白質、グリカン、オリゴ糖、及びイオン化可能なポリマーの大部分を高度の正確さで測定するための技術である。
【0227】
分析対象のペプチド、蛋白質、及びグリカンを用いられるレーザーの特定の波長で光を吸収する基質と混合と混合する。
主な基質は、ペプチドに対してはα−シアノ−4−水酸化桂皮酸(HCCA)、蛋白質に対してはシナピン酸(SA)、そしてオリゴ糖の分析用には2、5−ジヒドロ安息香酸(DHB)である。
【0228】
この方法はパルス化レーザーによって共結晶基質/検体を照射するステップで構成されており、これによって、基質と検体分子の共脱着が誘発される。
ガス相でイオン化した後、この検体分子を飛行時間中に検出器を通過させる。
質量と飛行時間は直接的な相関関係を有しているので、後者を測定することは、目標の検体の質量判定を可能にしてくれる。
同定は観察された質量を測定して、それを理論値と比較することで行われる。
配列決定は得られた画分イオンに基づいて、MS/MSモードで行うことができる。
用いられる計器はTOF及びTOF/TOFモードで作動するBruker Autoflex2である。
【0229】
FVII−Tg及びFVIIa、r内に存在しているグリカン形態を同定するために、予備的NP−HPLCから得られる溶出画分上で行われる。
【0230】
FVII−TgのMALDI−TOF分析によって、NP−HPLCによって分離されたグリカン、つまり過半数であるモノシアリル化されたA1形態と少数部分のA1F、A2F及びA2タイプの同定が可能になる。
【0231】
この調査は小数部分の形態である三触角性のバイシリアル化、トリシリアル化タイプ、ハイブリッド形態、及びMan5及びMan6−P−HexNAcタイプの同定を可能にしてくれる(図5参照)。
【0232】
FVIIa、rでのMALDI−TOF MS分析は図6に示されているグリカン形態の存在を明らかにする。
因子FVIIa、rは部分的にしかフコース化されないFVII−Tgとは違って、ほぼ完璧にフコース化される。
なお、過半数のグリカン形態はA2Fで、NP−HPLCによって定量された比率は30%である。
二触角性でモノシリアル化され、フコース化された形態 (A1F)で、他方の触角部分の末端位置にGalNAcを含んでいる形態が同定され、一方及び/又は両方のアンテナ上にHex−Nac−HexNAc部位を有する天然の二触角性のフコース化された形態も同定される。
三触角性のトリシリアル化されフコース化された形態も注目される。
フコース化されていない形態は微量存在している。
【実施例7】
【0233】
実施例7:シアル酸−ガラクトース結合のHPCE−LIF分析
【0234】
シアル酸−ガラクトース結合(『分岐』)の研究に関して言えば、実験的手順は実施例4に述べたのと類似している。
PNGaseFによる脱グリコシル化を行った後、オリゴ糖を特殊なエグゾシアリダーゼを用いて、それぞれその結合の同定と各単離された構造の定量が行える方法で処理される。
用いられるシアリダーゼはS.pneumoniae(連鎖球菌感染症病原体)(a2−3結合固有、0.02IU、E/S=0.4 m/m)、C. perfringens(ガス壊疽脱疽菌群)(a2−3−及びa2−6−結合固有、0.04IU、E/S=0.1m/m)及び、A. urefaciens(a2−3、a2−6、a2−8及びa2−9結合を加水分解、0.01IU、E/S=0.05m/m)から得られた遺伝子組み換え酵素である。
【0235】
これらの分析の結果として、FVIIa、rはA2Fを主体とする二触角性のシアリル化されフコース化された形態と二触角性のモノシアリル化されフコース化された形態(A1F)を有していることを示している。
これらのA2F及びA1F構造に関しては、これらの形態に通常認められる移行時間と比較してばらつきのある移行時間が観察されている。
特に、これらのオリゴ糖性ノシアリル化された形態は、HPCE−LIF及びNP−HPLCにおいてFVII−Tgのものと比較してばらつきのある移行時間を示す。
一方、オリゴ糖の組成物の分析においてNeu5Ac以外の特別のシアル酸は認められず、質量分光分析ではバイシアリル化されたタイプの質量を有するグリカンの存在を示す。
最終的に、FVIIa、rのグリカンを脱シアリル化すると、FVII−Tgのオリゴ糖のものと同等のクロマトグラフィ及び電気泳動挙動を見ることが出来る。
【0236】
クロマトグラフィ及び電気泳動挙動におけるこれらの差は、従って、シアル酸の異なった分岐に基づいて説明することができる。
こうした仮定は、HPCE−LIF及びMSによる異なったアプローチで確認された。
【0237】
これらの結果を以下の表4に示す。
【0238】
【表4】

【0239】
これらの結果は、両方のFVII間でシアル酸レベルでの違いを示している。
実際、FVIIa、rのシアル酸はa2−3結合の存在を示唆しているが、FVII−Tgはa2−6分岐を示している。
【0240】
FVII−Tgと比較してのHPCE−LIF及びNP−HPLC挙動におけるFVIIa、rのグリカンの違いはシアル酸レベルでの異性の違いに関係している。
【実施例8】
【0241】
実施例8:FVII−Tgのイン・ビトロ(in vitro、「細胞内で」と換言できる。)での再シアリル化
【0242】
文献(Zhang X et al、 Biochim. Biophys. Acta 1998、 1425;441−52)は、糖蛋白質をより完全にシアリル化すると、イン・ビトロ(in vitro、「細胞内で」と換言できる。)でもイン・ビボ(in vivo、「生体内で」と換言できる。)でも安定性が改善されると述べている。
この研究の目的は、イン・ビトロ(in vitro、「細胞内で」と換言できる。)でのシアリル化の実行可能性を実証することにある。
【0243】
再シアリル化はa2−6−(N)−シアリルトランスフェラーゼ(ラット、Spodotera frugiperda、比活性=1単位/mg、41kDa、Calbiochem)と基質としてのシチジン−5’−モノホスホ−N−アセチルノイラミン酸(Calbiochem)を用いて行う。
これら2つの試薬は不安定なので摂氏−80度の温度で保存する。
シアリル化基質(シチジン−5’−モノホスホ−N−アセチルノイラミン酸)と酵素a2、6−(N)−シアリルトランスフェラーゼ)を反応緩衝液内で混合して、一昼夜摂氏37度の温度で放置した。
用いられた反応緩衝液は50mMのモルフォリノ−3プロパンスルホン酸、0.1% Tween(登録商標)80、0.1mg/ml BSA(仔ウシ血清アルブミン)の混合物で、pHを7.4に調整したものである(試薬 Sigma)。
【0244】
以下の表5は実験条件を示すものである。
【0245】
【表5】

【0246】
実施例2の精製後に得られたものなどの天然のFVII−Tgの電気泳動図(図7、下側参照)は、二触角性のモノシアリル化A1形態が主体(42%)であり、それより少ない割合でA2、A2F及びA1Fが存在していることを示している。
再シアリル化後(図7、上側参照)、モノシアリル化された形態はわずか6%で、バイシアリル化された形態、特に非フコース化された形態の割合は過半数の52%である。
【0247】
再シアリル化の前と後のグリカンの定量を下の図5に示す。
【0248】
【表6】

【0249】
形質転換されたFVIIのシアリル化の反応速度を図8に示す。
【0250】
この研究はイン・ビトロ(in vitro、「細胞内で」と換言できる。)での再シアリル化の効率を示しており、バイシアリル化された形態の割合は100%以上増大している。
【実施例9】
【0251】
実施例9:ウサギに関する形質転換され再シアリル化されていないFVII(FVII Tg NRS)と、実施例8から得られた形質転換され再シアリル化されたFVII (FVII Tg RS)との比較研究
【0252】
この研究の目的はニュージーランド産雄ウサギ上でのFVII−TgRSとFVII−TgNRSとの薬力学的特徴の比較研究である。
【0253】
テストで用いられた投与量は一匹あたり200μg/kgで、これはヒトに投与される遺伝子組み換えFVIIの2倍の量である。
採血はJ−4(製品を注射する4日前)とJ−1(製品を注射した当日)に、T0.17h(注射当日、注射10分後)、T0.33h(注射当日、注射20分後)、T1h(注射当日、注射1時間後)、T3h(注射当日、注射3時間後)、T6h(注射当日、注射6時間後)、T8h(注射当日、注射8時間後)に行う。
【0254】
FVII:Ag(FVIIの抗原)の投与量はELISA(Asserachromキット)に従って決める。
ウサギの血漿でのFVII:Agの投与量を決めることで、一方では、除去特性、他方では、薬力学的パラメータを判定することができる。
薬量データと実験グループを表7に示す。
【0255】
【表7】

【0256】
除去曲線を図9に示す。結果は表8に示す。
【0257】
【表8】

【0258】
投与された量に基づいて、除去半減期、平均残留時間(MRT)、最大濃度(Cmax)、及び回収比率(『回収』)を両方の実験グループで比較可能である。
【0259】
FVII−TgRSはFVII−TgNRSとは違った反応力学特性を示す。
FVII−Tgを再シリアル化すると、半減期、平均残留時間(MRT)、Cmax及び『回収』が目立たない程度ではあるが向上する。
【0260】
AUCパラメータ・レベル(ピーク・エリア)、C1(間隔)、及び分布体積(Vd)(この体積は投与された、あるいは吸収された用量を血漿濃度で割ることによって得られる)で違いが観察され、このことは、血液循環からFVII−TgRSが多少除去されることを示している。
【0261】
FVII−Tgの再シリアル化は製品の生物学的利用可能性を約30%程度増大させる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれの分子はNグリコシル化部位に結合したグリカン形態を含んでいる遺伝子組み換えあるいは形質転換されたFVII(因子VII)の組成物で、前記組成物のFVIIのすべての分子のうちで、二触角性でバイシアリル化されておりフコース化されていないグリカン形態がその組成物のFVIIのNグリコシル化部位に結合したすべてのグリカン形態と比較して多数であることを特徴とする形質転換FVII組成物。
【請求項2】
二触角性でバイシアリル化されておりフコース化された形態とフコース化されていない形態の比率が50%を上回っていることを特徴とする、請求項1記載の形質転換FVII組成物。
【請求項3】
前記組成物のFVIIのすべての分子の中で、フコースの比率が20%から50%の範囲内であることを特徴とする、請求項1あるいは請求項2記載の形質転換FVII組成物。
【請求項4】
前記組成物のFVIIのシアル酸のうちの少なくとも一部がa2,6結合の存在を示唆していることを特徴とする、請求項1から請求項3までのいずれか1項記載の形質転換FVII組成物。
【請求項5】
前記組成物のFVIIのすべてのシアル酸がa2,6結合の存在を示唆していることを特徴とする、請求項4記載の形質転換FVII組成物。
【請求項6】
前記組成物のFVIIがさらにa2,3結合のシアル酸も含んでいることを特徴とする、請求項4記載の形質転換FVII組成物。
【請求項7】
前記FVIIが活性化されていることを特徴とする、請求項1−6のいずれか1項記載の形質転換FVII組成物。
【請求項8】
医薬品として使用するための、請求項1−7のいずれか1項記載の形質転換FVII組成物。
【請求項9】
血友病患者の治療のための医薬品を調製するための、請求項1−7のいずれか1項記載の形質転換FVII組成物。
【請求項10】
多重出血性トラウマ治療用医薬品を調製するための、請求項1−7のいずれか1項記載の形質転換FVII組成物。
【請求項11】
抗凝結剤の過剰投与による出血治療用の医薬品を調製するための、請求項1−7のいずれか1項記載の形質転換FVII組成物。
【請求項12】
請求項1−7のいずれか1項記載のFVII、賦形剤及び/又は薬学的に許容される基質を含む形質転換FVII組成物。
【請求項13】
それぞれの分子はNグリコシル化部位に結合したグリカン形態を含んでいる遺伝子組み換えあるいは形質転換されたFVII(因子VII)の組成物で、前記組成物のFVIIのすべての分子の中で多数が二触角性のバイシリアル化されたグリカン形態であることを特徴とする組成物を調製するプロセスで、シアリルトランスフェラーゼの活性を可能にするために、シアル酸をシアル酸ドナー基質からFVIIに移行すると同時に、前記バイシアリル化された形態が増大して多数になるのに十分な時間と条件下で、適切な反応培養液内で部分的にシアリル化された形質転換された、あるいは遺伝子組み換えFVIIをシアル酸ドナー基質及びシアリルオランスフェラーゼと接触させるステップを含んでいる、ことを特徴とする大部分がグリカンで二触角性バイシアリル化され、フコース化されていない形態の遺伝子組み換えプロセス。
【請求項14】
前記シアリル化ステップの前に、FVIIのガラクトース化が不十分でモノガラクトース化された状態を含むガラクトース欠乏形態にガラクトースを移植するためにガラクトース化のステップが行われることを特徴とする、請求項13記載の大部分がグリカンで二触角性バイシアリル化され、フコース化されていない形態の遺伝子組み換えプロセス。
【請求項15】
前記の部分的にシアリル化されたFVIIの組成物が主として二触角性のモノシアリル化されたグリカン形態を示すことを特徴とする、請求項13及び14のいずれか1項記載の大部分がグリカンで二触角性バイシアリル化され、フコース化されていない形態の遺伝子組み換えプロセス。
【請求項16】
前記の部分的にシアリル化されたFVIIの組成物の二触角性のモノシアリル化されたグリカン形態のうちで、過半数のグリカン形態がフコース化されていないことを特徴とする、請求項15記載の大部分がグリカンで二触角性バイシアリル化され、フコース化されていない形態の遺伝子組み換えプロセス。
【請求項17】
部分的にシアリル化されたFVIIの前記組成物において、少なくとも一部のシアル酸がa2−6結合の存在を示すことを特徴とする、請求項13−16のいずれか1項記載の大部分がグリカンで二触角性バイシアリル化され、フコース化されていない形態の遺伝子組み換えプロセス。
【請求項18】
上記のシアリル化ステップの前に、形質転換された雌のウサギによって部分的にシアリル化された形質転換FVIIの組成物を精製するステップが含まれていることを特徴とする請求項13−17のいずれか1項記載の大部分がグリカンで二触角性バイシアリル化され、フコース化されていない形態の遺伝子組み換えプロセス。
【請求項19】
前記部分的にシアリル化されたFVIIの組成物のFVIIが活性化されていることを特徴とする、請求項13−18のいずれか1項記載の大部分がグリカンで二触角性バイシアリル化され、フコース化されていない形態の遺伝子組み換えプロセス。
【請求項20】
前記シアリルトランスフェラーゼがa2,6−(N)−シアリルトランスフェラーゼであり、前記シアル酸ドナー基がシチジン−5´−モノホスホ−アセチル−ノイラミン酸であることを特徴とする請求項13−19のいずれか1項記載の大部分がグリカンで二触角性バイシアリル化され、フコース化されていない形態の遺伝子組み換えプロセス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2009−545575(P2009−545575A)
【公表日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−522304(P2009−522304)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【国際出願番号】PCT/FR2007/001324
【国際公開番号】WO2008/015339
【国際公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(508246401)エルエフビー バイオテクノロジーズ (3)
【Fターム(参考)】